ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『未来戦隊タイムレンジャー』 感想の、総括&構成分析です。
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- ☆総括☆
真ヒロインはアヤセ。
はいここ、教科書に出る所なので、もう一度。
真ヒロインはアヤセ。
以上(おぃ)
……えー、本文でも書きましたが、最後まで見ると、けっこうストレートに“生と死”というのがテーマであったのだなぁ、と。
時間SFやマスコミの存在、公的機関の対応を積極的に絡めるなど、意欲的な要素を色々と取り込んでいるのですが、そういった装飾 部分を剥いでいくと、実は非常にストレートで、故に難しい、“生と死”を正面からテーマに据えていた事が見えてくる。
そしてそれもまた、意欲的。
色々な事情で割と適当に使ってしまいがちな要素なのですが、アヤセとリュウヤ、という二人のキャラクターを軸にして、最初と最後を 繋げて非常にしっかりと物語の中にそれを置いている。
同時にそれが、あくまで“犯人を逮捕する”という作品世界であるからこそ、最終的に重いテーマになりえる。
この辺りの構造は、実にお見事。
またその“生と死”というテーマ性が、ラストにおけるタツヤの4人との別離に繋がり、そこからの“喪失と創造”というもう一つの テーマを浮かび上がらせて、時間SFの要素もただのガジェットにする事なく、物語として成立させているのも、素晴らしい。
非常によく出来た構造の、力作、だと思います。
戦隊ものとしての大きな特徴の一つは、変身してからの個性化がないという事。
ベクターとヴォルユニットは基本的に共通(ヴォルユニットは微妙に形状は違うっぽいですが)で、個人武器や能力の差別化なども無し (ベクター剣の技が違うぐらい?)。
個性は全て、変身前のキャラクターに依存しています。
その上で、変身前の個性をしっかりとつける事で、変身後もキャラクターが立ったままの状態を維持しているのは、お見事。
また、敵組織の目的が金儲けというのも、大きな特徴。
これにより、従来の作品がどうしても陥った、“なんだかんだで、敵組織は負け通し”という、常時戦略的に失敗している状態を緩和 する事に成功しました。最終的に犯罪者が逮捕されても、その過程である程度の金を稼げていれば、ロンダーズ・ ファミリーには部分的勝利がもたらされる。
これは物語上、極めて大きく作用。
最後の最後まで、空元気や根拠のない余裕でなしに、ドルネロが対等以上の存在としてタイムレンジャーの前に立ちはだかり続ける 事に成功し、緊迫感を維持しました。
実際、“大消滅”対策としてドンが自ら店じまいをするまでは、未来犯罪者達は現代社会に深く根付いており、最後まで、組織として 壊滅状態に陥る事の無かった、極めて珍しい悪の組織、と言えます。
好きなエピソード・ベスト3
- CaseFile.9「ドンの憂鬱」
- CaseFile.22「桃色の誘惑」
- CaseFile.35「明日が来ない」
9話は、ネタ話に終わらず、エピソードとしても出来の良かった、ロンダーズ特集回。出来も良かったし、大友龍三郎ファンとして 大満足だしで、一番好き。
22話は、全盛期の井上敏樹節を堪能、という事で。
35話は、ループネタを作品全体のテーマ性と絡めたのが非常に秀逸。本編屈指の好エピソードだと思います。
物語としては、繰り返し書いてきましたが、
タツヤの嫌な部分
にもうちょっと踏み込んで欲しかった、という事だけが不満点。
最終的に滝沢との絡みの中で、「生き残ったら変えるよ」という所で決着つけてしまいましたが、オヤジ憎しに凝り固まった為にシティ・ ガーディアンズとの連携を拒否したタツヤの為に結果として民間の被害が広がって……みたいなエピソードで、一回ガツンと横っ面を 張り飛ばして欲しかったなぁ、とは(笑)
やりすぎると、ヒーロー的に問題になるので、やらなかったのでしょうが。
細かい伏線などでは、結局ギエンがラムダ2000を大量に搭載していた理由(そもそも第三研究所から奪ったラムダ2000の筈で、 それならギエンが奪わなくても充分、危険量だった事にならないか?)など、微妙によくわからない部分もあったのですが、物語全体と しては綺麗にまとまったので、細かい所は、まあいいかなーと。
最後に、時間の流れが容赦なく現代人と未来人を引き離し、それでも心は交わっているし、この世界は、いつか未来へ繋がっていく―― だから明日を創るんだ、というのは好き。
ある意味では綺麗にまとまりすぎて、たとえば『メガレンジャー』みたいな変な思い入れは発生しなかったのですが、水準高くじっくりと 楽しませてくれた、噂に違わぬ名作でした。
- ★構成分析★
- 〔メインキャラ〕は、そのエピソードの中心になったキャラ。選定は筆者の視点に基づきます。
〔評〕は、大雑把な各エピソードの評価。◎……名作、○……それなりに面白かった、−……普通、×……駄目回。
ただし、どこに基準を置くか、を考えるとややこしくなるので、相対的というよりは印象評価だと思ってください。記憶と感想を 読み返してのものなので、微妙にリアルタイムで見た時と、違っている所もあるかもしれません。
※本作は厳密には、戦隊史をプレイバックする最終回特別編として51話が存在しますが、ここでは除外。
話数 監督 脚本 メインキャラ 備考 評 1 諸田敏 小林靖子 ―― 〔ドルネロ一味、2000年に現る〕 − 2 諸田敏 小林靖子 タツヤ 〔緊急システム発動〕 ○ 3 松井昇 小林靖子 アヤセ×タツヤ − 4 松井昇 小林靖子 ドモン×シオン − 5 小中肇 小林靖子 ユウリ − 6 小中肇 小林靖子 タツヤ − 7 諸田敏 小林靖子 ドモン×タツヤ − 8 諸田敏 山口亮太 ユウリ − 9 坂本太郎 小林靖子 ドルネロ ◎ 10 坂本太郎 小林靖子 アヤセ×タツヤ ○ 11 小中肇 小林靖子 ドモン 〔森山ホナミ、タイムレンジャーと接触〕 − 12 小中肇 山口亮太 シオン − 13 諸田敏 小林靖子 タツヤ × 14 諸田敏 井上敏樹 アヤセ − 15 坂本太郎 小林靖子 シオン
ユウリ○ 16 坂本太郎 山口亮太 ドモン − 17 小中肇 山口亮太 タツヤ − 18 小中肇 小林靖子 アヤセ×タツヤ − 19 松井昇 小林靖子 ―― 〔タイムシャドウ登場編〕 − 20 松井昇 小林靖子 ―― 〔〃〕 ○ 21 諸田敏 小林靖子 シオン − 22 諸田敏 井上敏樹 ユウリ ○ 23 小中肇 山口亮太 タツヤ 〔アサルトベクター開発〕 × 24 小中肇 小林靖子 ドモン×アヤセ − 25 松井昇 小林靖子 タツヤ×ユウリ − 26 松井昇 小林靖子 タツヤ×ユウリ ○ 27 諸田敏 小林靖子 シオン × 28 諸田敏 小林靖子 タツヤ×滝沢 〔タイムファイヤー登場編〕 − 29 佛田洋 小林靖子 タツヤ×滝沢 〔〃〕 − 30 佛田洋 小林靖子 タツヤ×滝沢 〔〃〕 − 31 松井昇 小林靖子 ドモン − 32 松井昇 山口亮太 シオン × 33 小中肇 小林靖子 アヤセ × 34 小中肇 小林靖子 ユウリ − 35 諸田敏 山口亮太 滝沢 ◎ 36 諸田敏 小林靖子 ドモン×アヤセ 〔ドモンとホナミの交際始まる〕 − 37 坂本太郎 小林靖子 滝沢 〔滝沢、シティ・ガーディアンズ本部長就任〕 − 38 坂本太郎 小林靖子 シオン − 39 小中肇 小林靖子 アヤセ×タツヤ − 40 小中肇 小林靖子 アヤセ − 41 諸田敏 小林靖子 タツヤ×ユウリ − 42 諸田敏 小林靖子 ドルネロ×ギエン 〔リュウヤ、2000年に現る〕 − 43 諸田敏 小林靖子 ―― 〔Gゾード出現〕 − 44 松井昇 小林靖子 タツヤ 〔Gゾード撃破〕 ○ 45 中澤祥次郎 山口亮太 ―― 〔※総集編〕 − 46 松井昇 小林靖子 シオン×タック ◎ 47 小中肇 小林靖子 ユウリ
ドルネロ〔ドルネロ死亡〕 ○ 48 小中肇 小林靖子 ―― 〔大消滅スタート、滝沢直人更迭〕 ○ 49 坂本太郎 小林靖子 ―― 〔滝沢直人死亡〕 ○ 50 坂本太郎 小林靖子 ―― 〔リュウヤ死亡、ギエン死亡〕 ○
(演出担当/諸田敏:15本 小中肇:14本 松井昇:10本 坂本太郎:8本 佛田洋:2本 中澤祥次郎:1本)
(脚本担当/小林靖子:40本 山口亮太:8本 井上敏樹:2本)
なんといっても、メインライター小林靖子が、全体の8割の脚本を担当しているというのが、最大の特徴。実は80年代にも、曽田博久 が年間に40話近い本数を書いている場合もあるのですが、ストーリー性の強い作品であった事もあり、メインライターの色が強く出た 作風となりました。
また、一人の脚本家が集中して書いた事により、エピソードの中で使ったちょっとした小ネタ(そのまま流しても全く構わないもの)を、 後のエピソードで拾って再利用する、という行為が極めて情熱的に行われたのも特徴。
サブライターの担当話では、タイムループと作品のテーマをうまく結んだ、35話「明日が来ない」(山口亮太)と、突き抜けたギャグ 回であり全盛期の井上節が光る22話「桃色の誘惑」(井上敏樹)が、印象深い。
メイン&準メイン回の配分は
〔赤:17(6) 青:9(3) 黄:7(3) 緑:8(5) 桃:9(4)〕
()内が、単独メイン回。
これに5人以外のキャラクターが
〔炎:5(2) ドルネロ:3(1) ギエン:1 タック:1〕
組み合わせでは、
〔赤×青:4 赤×桃:3 赤×炎:3 黄×青:2〕の他、緑×黄、赤×黄、緑×タック、がそれぞれ1回ずつ。
ラスト3話は、タツヤ回、としてもいいかとは思いますが、基本的に、タツヤの主役度が非常に高いというのが、 シリーズ通しての大きな特徴。“一人の現代人と4人の未来人”という構図の為もありますが、各キャラがタツヤに絡んで展開する、 というエピソードが多く、最初から最後まで、主役らしい主役として描かれています。
そんなタツヤとの組み合わせ最多は、真ヒロイン、さすがの貫禄(笑) まあアヤセは、中盤以降はホナミ絡みでドモンとの 組み合わせが増えたりもしますが。
ドモンは最終的に若干、メイン回が少なかったですが、いい目を見たから仕方がない?
シオンは意外と他のキャラと組み合わせ辛いのか、タツヤを除くメンバーでは、単独回が最多。年少ポジションからの成長を描く エピソードが多く、立派なブラック魔王に育ちました。
色々と心配された孤高の女は、最終的にはタツヤとのカップル化でメイン回を確保。どんくさい絵描きに惚れられたり、女力に完敗 して叩きのめされたり、ストーカーに迫られたり、単独メイン話では意外と不幸度が高い(笑)
各評に関してですが、平均点の高い作品なので、○×の付け方には悩みました。
明確に、これは駄目だ、というのは27話、海岸に住み着いているおじさんの話ぐらいかなー。あれはおじさんが滅茶苦茶すぎました し、滝沢登場編への前振りという事で、シナリオも露骨に詰め足らず、シオンの“故郷”という重要なテーマの話だっただけに、残念だった 回。後はディテールがいい加減すぎる、という点で、13話「バトルカジノ」。
23、32、33話は、やや厳しめの評付けで。
面白かった回は印象に残ったエピソード中心でも結構散らばっていますが、序盤では2話がうまく話を転がしてくれて、一気に物語を 楽しむ事が出来るようになりました。
何より評価するべきは、総集編後のラスト5話、きちっと盛り上げてきた所でしょうか。特に口火を切ったタック編の46話は、非常に 好エピソード。一気に終盤に勢いをつけてくれました。
満足の出来。
(2012年8月14日)
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