■『鳥人戦隊ジェットマン』感想まとめ9■


“こころはタマゴ 小さなタマゴ
あしたまで あたためりゃ
鳥にもなれる 雲にもなれる
もしかあの子が好きならば”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『鳥人戦隊ジェットマン』 感想の、まとめ9(48〜最終話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。 最終話の感想の一部は、タイキさんのコメントから広げさせていただきました。改めて、ありがとうございました。

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◆第48話「死を呼ぶくちづけ」◆ (監督:蓑輪雅夫 脚本:井上敏樹)
 「健気だぞ、マリア」
 戦闘員と訓練を行うマリアに、セクハラをしに姿を見せるラディゲ。
 ベロニカの動力を吸収し、ゴミ捨て場ダイブを経験したラディゲが以前よりも強い力を得ているというのはマリアも認めている所らしく、 冒頭から、前回ラストのトランザをぐりぐり踏むシーンをプレイバック。……何も開始直後からそこを流さなくてもという感じで、 舘大介さんが石を投げられたのは、井上敏樹ではなく蓑輪監督のせいではないのか(笑)
 ……まあ、それ以外だと、調子に乗って突撃したらレッドホークに見事に返り討ちに遭うシーンしか無いので仕方がない。
 「強くなりたいか、マリア」
 「――誰よりも」
 「今の俺なら、おまえの夢を叶えてやる事が出来る。俺の力を得て、おまえは悪の女王として、誰よりも華やかに、輝くだろう」
 力を求めるマリアに、ラディゲは自らの血より生み出したヒトデを貼り付ける……。
 ラディゲが折に触れ自分の血を「聖なる血」と言うのは、ラディゲの駄目な感じが一言に集約された、 今作でも屈指の名表現だと思います(笑)
 その頃、基地でおめかししていた竜は、買い物帰りのアコに囃し立てられる(なおこの際、香がアコと連れ立っているのがポイント)。
 「……パーティなんだ。知り合いの、バースデーパーティ」
 花束とバースデーケーキを用意し、竜が向かったパーティ……それは瀟洒なレストランでの、 葵リエ・エア誕生会であった!!
 そこには居ない恋人に向けて笑顔を向ける竜の姿が、真剣なだけに超怖い。
 もともと竜の抱えていた狂気というのは、リエを失った事を受け止め切れない事による心の防衛反応に基づく、 復讐の原動力としての純粋戦士主義だったのですが、リエ=マリアと知り、 仲間達にも自分達の事情を話した第32話以降はそれが少し変質しています。
 以前は「戦士」にこだわる事で意識を「復讐」(表向きは、 「地球を守る正義の戦い」)にだけ向けてリエを失ったという現実から心をガードしていたのですが、 リエを取り戻すという希望を抱いてからは、「リエを取り戻すのに失敗する」という恐怖から目を逸らす為に戦士の狂気が機能している。
 竜はリエを取り戻す事を誓いつつ、実は取り戻せない事に恐怖しており、しかしレッドホークとしてそれを認められない。その抱える揺らぎが、 リエの墓をそのままにしておく事や、前回その墓に花束を持って訪れている姿に現れているといえます。
 ここで興味深いのは、この竜の抱えているものが、「ヒーローの狂気」から、竜自身も知らない内に「人間の感情」に近づいている事。
 この場合「ヒーローの狂気」というのは、“リエは必ず取り戻せると信じ抜く事”であり、それに対して「人間の感情」とは、 “リエを取り戻せない可能性に恐怖する事”となります。
 これはある意味で当たり前の感情と言えるのですが、いつの間にかヒーロー物がそれを「ヒーロー性」によって無自覚に歪めていたのではないか (逆に言えば、本来それは、自覚的にやるべき描写ではないか)、という所を突いているのが、実に今作らしい部分。
 「リエを取り戻すのに失敗する」と考える事から目を逸らす為に、竜は戦士の狂気にすがらなければならない。 しかし竜は確実に自分の幻想が作り出したともいえる「純粋ヒーロー(の仮面)」から「人間」に近づいており、 竜の恐怖はいわば、第18話の凱における
 「香……怖いんだ。本当はどうしようもなく。死にたくねぇ! 死にたくねぇぇっ!!!」
 にあたるといえます。
 第18話は、形骸化しつつあったヒーロー物において、そのフォーマットを抑えながらも、 結城凱という男を通して“生身の人間”を描き出そう、という『ジェットマン』の野心的試みが一つ実を結んだ記念碑的エピソードなのですが、 それがここで竜に重なってくるという、実に見事な構造。
 改めて、本当に良く出来ているなぁ……。
 「リエ、誕生日おめでとう。……今日で、おまえも22歳」
 妄想リエと会話を始める竜……て、リエ若っ! というか、ふけが(以下検閲)。
 まあ戦隊も、しばしばキャラクター造形よりマイナス5歳ぐらいというファンタジー年齢が設定されている場合がありますが、 今更ながら今作もそうであった事が判明。
 妄想「今日はどうもありがとう。次の誕生日もまた一緒にいられるかな」
 「ああ。それじゃ乾杯しようか」
 妄想「乾杯」
 妄想のリエと会話し、妄想のリエとグラスを合わせる竜――映像的にはリエ役の女優さんを置く事によって、ああ、 竜には“見えている”し“聞こえている”のだなぁ……というのが真に迫っており、東條監督に負けじとばかりに、 蓑輪監督も攻められるだけ攻めてきます。
 (リエ……来年の誕生日は、きっと2人で)
 だがそのリエ=マリアは、ラディゲから得た力の求めるまま、次々と男達を毒牙にかけて血を吸い尽くす赤い薔薇の女と化していた。
 「見るがいい、グレイ。人間の血を吸い続ける事によって、マリアは魔獣へと変貌していく。やがて完全に変貌を遂げた時、 マリアは己の心を失い、俺の操り人形となる」
 「――?!」
 「フッ、永遠に俺のものとなるがいい……マリア」
 マリアを気遣うグレイに向けて、事細かに解説するという嫌がらせを敢行するラディゲ。 グレイは実力者かつ劇中で崩しにくいポジションという事で、これまであまり嫌がらせを受ける事が無かったのですが、 ラディゲの性格の悪さと現在の力への自信が見えると共に、いわゆる説明の為の説明台詞が、きちっと物語の中に入り込んでいるのが巧い。
 「マリア……。もういい。マリア……おまえはラディゲに利用されているだけだ」
 「うるさい!」
 爪と角が生え、醜い魔獣の姿へ近づいていくマリアを止めようとするグレイだが、マリアはグレイにすら攻撃を仕掛けると姿を消す……。
 その頃、凱は後楽園ゆうえんちで面白くなさそうに、香ではなくガールフレンド2人をはべらかしてデートしていた。 先にスカイキャンプで、香がアコと買い物から帰ってくる場面が描かれており、凱と香の関係の変化がそれとなく匂わされています。
 そんな凱の前に現れる、赤い薔薇の女。
 (おおっとぉ……積極的)
 素晴らしい、駄目人間ぶりです(笑)
 だが凱は、すんでの所で怪しい気配に気付いて女を突き放し、女の正体がマリアである事に気付く。 凱の連絡でジェットマンが集合するが、その時、突如ビル街に巨大な怪獣・ラゲムが姿を見せる。
 ベロニカの動力炉から脱出後のラディゲの体の異変が繰り返し挿入されており、明らかに正体はラディゲなのですが、 前回の次回予告がマリアの変貌からこの映像にナレーションで繋げ、この怪獣はまさかマリアの変身?! と含みを持たせていたのが、 かなり秀逸。本編もテンション高くボリューム濃厚で素晴らしいのですが、「帝王トランザの栄光」辺りからの、 次回予告は非常に良い出来。
 「竜、ここは任せた!」
 「すまんみんな」
 マリアを竜に任せ、凱達はジェットイカロスを召喚。ここで凱が素早く竜の気持ちを汲み取って、 手分けしての対応を指揮するのが格好いい。
 「リエ、思い出せ……思い出してくれ、俺達の楽しかった日々を」




しばらく、いちゃいちゃ回想をお楽しみ下さい(※何度目だ))




 だがマリアは竜の言葉に耳を貸さず、半魔獣化。
 「リエぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 絶叫した竜は変身し、銃を構えて覚悟を決める。
 「たとえぶっ倒してでも、おまえを基地に連れていくっ」
 マリアの激しい攻撃に押されながらも、反撃に転じるレッドホーク。
 「愛を取り戻せ! リエ!」
 狂気の執念が奇跡を呼んでしまったのか、その一撃を受けたマリアは、何故かリエの姿に。
 「竜……あたし……あたしはいったい……」
 「……終わったんだ、リエ……。もう二度と、何があってもおまえを離さない」
 竜は変身を解き、枯れ葉の舞い落ちる中、抱擁する2人。――だがその時、マリアの瞳に再び悪意が宿る。
 「愚かな事。だが殺しはしない。私の奴隷となれ、天堂竜!」
 聖なる血のヒトデが竜に張り付き、藻掻き苦しむ竜は爪と犬歯が鋭く伸びた人ならぬ存在へと変貌していく……!
 一方、ジェットイカロスは出現したまま微動だにしないラゲムに攻撃を仕掛けるも、あらゆる攻撃を跳ね返され、 グレートイカロスに合体。だが必殺のバードメーザーもあっさりとかき消され、「昼寝してたのにいてーよ」 みたいな感じで無造作に繰り出されたラゲムの一撃で、あっさり腹を突き破られてしまう!(※通算3度目)
 果たしてラゲムとは何物なのか?! 竜はいったいどうなってしまうのか?! 肉体の異変を感じるラディゲ、 ジェットマンを倒す為に全てを賭けるマリア、それを見つめるグレイ……終局へ向かう戦いの中で、熱情のメロディは今、 最終楽章を奏でようとしていた。
 ――次回、マリア、散る。

◆第49話「マリア…その愛と死」◆ (監督:蓑輪雅夫 脚本:井上敏樹)
 次々と吸血を繰り返すマリアの前に現れるグレイ。
 「以前のおまえに戻るのだマリア。……美しかったおまえに」
 「くだらんっ。今の私に必要なのは、人間どもの真っ赤な血だけ」
 マリアがマリアで無くなる事に耐えられないグレイは、マリアを止めようとするがまたも拒否される。
 グレイのマリアへの思慕というのが、人間の男女の感情に近いのか、芸術/宗教的な賛美に近いのか、 というのは解釈の分かれる所かと思いますが、少なくともこの前後編、 マリアがその辺りの男に抱き付いて首筋に噛みつくシーンを繰り返し中継されるのが非常に腹立たしい、 という要素は入っていると見ていいと思います。
 いっそ自分が噛みつかれて血を吸われるわけにいかない機械の体のやるせなさ、という要素は第42話(G2回)を拾っていると思われ、 むしろ前回・今回を通してグレイがそういった“感情”を自覚したからこその、慣れない説得と、この後の行動か。
 予告だとグレイが草笛を吹くようなシーンがあったけど、カットされてしまったようで、ちょっと残念。
 一方、何やらおかしな様子で基地に戻ってきた竜は、グレートイカロスの修理中に香に襲いかかろうとして長官に見咎められ、 基地内部に拘束されていた。ラディゲ細胞を貼り付けられた竜は異形の姿に変わって吸血衝動に苦しみ、そこへマリアからの通信が届く。
 「これ以上犠牲者は出せねぇ! 竜を……頼むぞ!」
 かけがえのない友を、かつて愛した女に託し、雷太とアコを連れて出撃する凱。
 凱と香の別れというのは劇中でハッキリと明示はされていないのですが、ここでも凱の台詞回しや演技にそれとなく織り込まれており、 また、竜の為に怒り、竜の代わりにチームを先導しようとする凱が描かれています。同時に、恋愛としてはうまくいかなかったけど、 今の竜を託せるのは香しかいない、という凱の無言の思いが溢れているのが、切なくも格好いい。
 後この終盤、以前に長野で撮った集合写真が端々で画面の中に入る(一度どこかの回で強調した以後は、アップにはしない)のは、 ベタな演出ですが、今作の積み重ねゆえに、ここでそういうベタな小道具の使い方をしてくる、というのが非常に効いていて素晴らしい。
 マリアの元へ向かう凱達3人だが、その前にグレイが立ちはだかる。しかし、黒い鎧の騎士は、銃を手にせずに言葉を重ねる……。
 「……マリアを、頼む……」
 「なに?」
 「マリアはおまえ達と同じ人間。傷つけてはならん」
 「は! 何を言ってやがんだ。今のマリアは人間じゃねえ!」
 「私にはわかる。マリアには人間としての心が残っている。人間に戻れる、可能性がある」
 その言葉に、グレイの中の、確かな想いを感じ取る凱。
 「……グレイ、何故だ。何故貴様がそんな事を」
 「マリアを魔獣にしたくない。それならば人間に戻してやりたい」
 「…………覚えとくぜ。おまえの言葉」
 何よりも「人間」であるが故に、敵味方を超えて、グレイの想いを“男”として理解してしまう凱。この場面、 グレイは組織も立場も超えて自分の感情の為に行動しており、対して凱は「ジェットマン」としてリーダーシップを取っているという逆転の構図があった上で、 お互いが根底で通じ合ってしまう。
 また、やり取りの前半を見る限り、どうも凱はマリア(リエ)を殺す覚悟を固めていた節があり、 その上で竜の元には香(何があっても竜を支えてくれるだろうと信じている女)を残し、そしてグレイの想いを受け止めてしまう所に、 結城凱という男の格好良さが滲み出ています。
 だが、魔獣化の進むマリアはますます凶暴になっており、説得に耳を貸さずに3人を叩きのめす。
 その頃、スカイキャンプでは竜が吸血の禁断症状に藻掻き苦しんでいた。
 「血をよこせぇぇぇぇぇーっ!」
 そんな竜の姿に、覚悟のキまった女として、牢屋の中に自ら飛び込む香。
 「勝つのよ竜! 自分の欲望を乗り越えるの!」
 香を押し倒すもギリギリで衝動を抑え込んだ竜は、絶叫しながら何故か、いちゃいちゃ回想モードに入る(笑)
 俺は! リエと! もう一度、いちゃいちゃするんだ!!
 迸る愛のパトスがラディゲ細胞を引きはがし(たようにしか見えない)、 宙を飛ぶ細胞は状況をこっそり監視していた長官が檻の外からシューティングで撃墜。
 理性や使命感で欲望を乗り越えるのではなく、欲望で欲望を乗り越えるというのは、今作らしいか(笑)
 後は久々に、香が振り切れた所を見せたのがポイントです。
 魔獣マリアに苦戦する3人の元へ駆けつける、正気に戻った(?)竜と、香。
 「リエぇぇぇぇぇぇ!!」
 狂気と狂気の相乗効果、ラブパワー全力充填でマリアへ突撃を敢行するも、攻撃を受け、倒れる竜。
 「役立たずめ。貴様の血を一滴残らず吸い取ってやる」
 だが竜は、近づいてきたマリアを不意打ちで抱きしめる!
 「リエ、おまえがどんな姿になっても、おまえへの気持ちは変わらない」
 そして竜は醜く変貌したマリア/リエの唇を奪う!
 角とか何やらで肝心の所は隠れているのですが、熱烈なラブシーンで蓑輪監督が攻めました。
 「自分の心に耳を澄ませリエ。俺達2人の思い出に」
 キスを通じて注ぎ込まれたラブパワーによっていちゃいちゃ回想がマリア/リエに感染し、 もうこんなバカップルの体は勘弁だ! と外れるラディゲ細胞。……いやまあ多分、人間の純粋な愛情に、 邪悪なラディゲの血が拒否反応を起こしたとか、そんな感じの解釈だとは思うのですが。…………ん? あまり違ってない?
 そしてこの影響で、マリアはリエの姿に戻り……という所までがAパート。
 「竜……私……?」
 「元に……元に戻ったんだな」
 見つめ合う恋人同士だが、そこへ実況席から間男が乱入。
 「マリア。おまえは俺のもの。バイラムの幹部として生きるのだ!」
 今作、難を言えばこの、ラディゲのマリアへの執着の理由、というのがいまいち弱く、 劇中の描写を繋ぎ合わせると高度に変態的な性癖という所に着地するのですが、それでいいのか。 まあいいか(確か小説版だと、侵略した先の“美しいもの”をコレクトする趣味がある、みたいに補強されていましたが、 小説版はあくまで小説版)。
 基本的には、弱い生き物を玩具にしたい、というような所なのでしょうが、もう少しわかりやすく見せてしまっても良かった気はします (その辺り、ラディゲの感情面はわざとわかりにくくして解釈の幅を持たせた方が良い、という判断があったのでしょうけれども)。
 「リエ!」
 「寄るなぁ!」
 ラディゲの姿と言葉に、何かを思いつき、そして思い詰めた表情になったリエは、竜を拒絶し、ラディゲの側に立つ。
 「リエ……」
 ここの竜の、歓喜から絶望へと一転し、呆然とした表情は非常に良く、今回後半、竜の剥き出しの感情の熱演が素晴らしいです。
 「竜、確かに昔、私はおまえと愛しあった。だが今はバイラムの幹部! これからもずっと」
 「なに言ってんだよリエ!」
 「よく言ったマリア。それでいい。それがお前の定めなのだ。そして貴様達の定めは!」
 手から怪光線で5人を吹き飛ばし、高笑いする間男。
 「ふふふふふふふ、はははははは、あはははははははは――――?!」

 得意の絶頂で、後 ろ か ら 刺 さ れ た!!(笑)

 最高だ、最高だよラディゲ!!

 ラディゲ屈指の名シーンです(笑)
 「貴様ぁ……はかったな……マリア!!」
 「せめて、せめて一太刀! おまえに浴びせたかった、ラディゲ!」
 マリアであった時も含めて全ての記憶を取り戻したリエは、自分を弄び続けたラディゲの背中を、 落ちていたレッドホークの剣で突き刺すも、ラディゲの剣で袈裟懸けに切り裂かれてしまう。
 「マリア……おまえは俺のもの……レッドホークには渡さん! ふふははは、あははははは……」
 ラディゲは退くが、リエは近づこうとする竜に剣の切っ先を向ける。
 「竜! 来ないで! ……これで、これで良かったのよ、竜。私の手は、血で汚れてしまった。……もう、昔には戻れない。 あなたの腕に抱かれる資格は、私にはない」
 それでも駆け寄ろうとする竜だが、そこにグレイが現れてリエの横に寄り添う。
 「もう、助からない……最後にお願いよ竜。忘れて。私の事を」
 「やめろ……」
 「あなたの胸から、私の記憶を、ぬぐいさって……」
 「やめろぉぉぉぉぉ!!」
 グレイは致命傷を負ったリエを連れて姿を消し、後には竜の慟哭だけが響き渡る……。
 基本、リエが死ぬのは決め打ちではあるのでしょうが、マリアの時の悪事だと怪人を用いたり間接的なので、 この前後編で徹底して直接の殺害行為を描写しているのが容赦ない。
 グレイはリエをお姫様抱っこで海岸へと運び、その腕の中で弱っていくリエ/マリア。
 「マリア……」
 「…………ありがとう……グレイ」
 「これで良かったのか? マリア」
 「ほんとは……死にたくない」
 キラキラした光のエフェクトの中で、息絶えようとするリエと、取り残されて崩れ落ちる竜のシーンがしばらく交互に。
 「もう一度…………もう一度……一から、竜と、やり直したい……竜……」
 ただ、竜の名を呼び続けるリエ……慟哭する竜……そして――
 「竜…………」
 「マリア……!」
 グレイに看取られる形で、葵リエ、死亡。
 グレイはリエ/マリアを抱えたまま海辺へと歩み、その目から流れ落ちた涙のようなものがリエ/マリアに降りかかると、 リエ/マリアの体は光の粒子となって飛散し、海へと溶けて還っていくのであった。
 悪の幹部であるものの、悲劇のヒロインポジションという事で、美しい散り際で、マリア退場。
 「リエ……なぜ……くあぁっ!!」
 「見るんじゃねぇ。そっとしておいてやれ……!」
 凱の促しで4人はその場を後にし、竜はただ、絶叫する。
 「リエぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 竜の心の中で、白いワンピースで手を振りながら走ってくる妄想リエの姿が途切れ途切れになり、そして消えて――……つづく。

 Bパート! ほぼ修羅場だけ!

 地球を守る為の正義と悪の戦いというよりは、完全に、男と女の痴情のもつれです。挙げ句、 背後から腰だめにぶしゅっっっと刺される間男(笑) 演出も脚本も役者陣も、やり切りました。会心の高笑いから刺される(切られる、 ではない所のポイントの高さよ!)ラディゲが最高です。
 加えて凄いのが、この期に及んで、各々の想いのすれ違いが盛り込まれている所。
 マリアとして犯した罪を自覚したリエは、何より自分自身がそれを許す事が出来ずに、愛する竜の重荷にならないよう、竜を救う為に、 マリアとして死ぬ事を決意する。
 一方の竜は、リエがマリアとして犯した罪を含めてリエを愛し続けると伝えているのだけど、リエがそれを受け入れなかった事で、 取り残されてしまう。
 そしてリエは、マリアとして死ぬ為に利用したグレイの前では、リエとして死んでいく。
 もしリエが竜の腕の中でリエとして死んでいたら……、或いは、リエがグレイの腕の中でマリアとして死んでいたら……、 それぞれに別の道があったかもしれない(しかしそれは結局、両立はしない)、と、考えさせられる所です。
 シンプルに作れば、リエが竜の腕の中で息絶える形になってそれで充分といえるのですが、そこであくまでリエはリエとしてあり続け、 物語の道具にならない最期を迎える、というのは今作の凄味。
 リエの最後の愛は、果たして竜を救えるのか。マリアが去り、残されたラディゲとグレイは何を思うのか。いよいよ、決着の時迫る――。

◆第50話「それぞれの死闘」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:井上敏樹)
 リエを永遠に失った悲劇から数日……異常にはしゃぐ竜。
 「良かった……竜すっかり立ち直ったみたいね。リエさんを失った悲しみから」
 「そう思うか?」
 「え?」
 「……気に入らねぇな、どうも」
 香達は竜が傷を乗り越えたと思って喜ぶが、凱だけがそんな竜の姿に違和感を覚えていた……。
 深夜、1人ジェットストライカーに手を加えながら、変身ブレスの中のリエの写真を目にして、涙をこぼし、 頭をかきむしって慟哭する竜。
 その頃、すっかり寂しくなったバイラム本拠地でこっそり玉座に座っていたラディゲも、白い百合の花を手に、 前回マリアに刺された時の事を回想していた。
 筋金入りの病気です。
 スカイキャンプでは、アコちゃんが特製コーヒーを振る舞ってブレイクタイム。
 「凱は自分で取ってね」
 「ああ」
 「一杯千円」
 「あん?」
 という、アコと凱のやり取りに、同席している香も微笑んでおり、この2人の恋愛は終わったけれど、 人間として関係が悪いわけではない(そういう点では、凱がとても成長している)というのは、殺伐とした最終章において、 少々ホッとする所。
 だが、雷太が竜の置き手紙を発見した事で、スカイキャンプに激震が走る。

長官、みんな、俺はリエの仇を取りに行きます。
これは、個人的な行動です。
俺は今、地球の為、平和の為に、戦う事ができません。
明らかに、俺は戦士として失格です。
従って、今日限りで、鳥人戦隊を脱退します。
すまない、長官、みんな。

 ……丸文字だな、竜。
 「く! あの野郎ぉぉぉぉぉ!!」
 凱を先頭に4人は竜を追って外へ飛び出していき、凱の投げ捨てた手紙を手にする長官。
 (焦っちゃ駄目、竜……! 個人的な感情に流されては、バイラムには勝てない)
 手紙を折りたたむのではなく、ぐしゃっと握り潰す辺り、割とマジ怒りです。
 長官はホント、狂気の向こう側で完成されているので、とことんブレない(笑)
 「感じる……レッドホークの波動を。決着の時だ、レッドホーク!」
 竜の闘気に応えてラディゲは立ち上がり、一方、竜を探して走る4人の前にはグレイが現れる。
 なおこの時、ジープが吹き飛ばした段ボールが荷台に立つアコちゃんに直撃(ギリギリでかわしているかも)しているのが、 何度見ても気になります(^^;
 「グレイ!」
 足を組み、葉巻をくゆらせて待ち構えていたグレイの前で、車を降りる4人。だが凱が、仲間達を押しとどめる。
 「――行け!」
 「「「え?!」」」
 「ここは俺に任せろ! 今の竜には助けが必要だ! 行け!」
 「でも凱!」
 「馬鹿野郎! 俺を信じろ!」
 「……わかった! 行こう!」
 この終盤の凱は、名台詞連発。しかも、取り立てて特徴的なわけでもない言い回しが、 積み重ねられてきた凱の描写と変化により名台詞になっている、というのが素晴らしい。
 グレイは3人のジープを見逃し、対峙する2人。
 「いよいよサシで勝負だな、グレイ。しかしよ、不思議なもんだ。何故だかわからねえが、おまえとは戦いたくねぇ」
 「言うな。ブラックコンドル。いや、結城凱。私は戦士。戦う事が定めなのだ」
 ジェットマンの1人ではなく、戦士として男として、凱個人を認めるグレイ。ここで戦隊のコードネームと本名の関係が、 敵と味方の境界を超える機能を果たす、というのは戦隊シリーズそのものの本歌取りとして、秀逸。
 そして竜の前にはラディゲが現れ、始まる二つの決闘。
 「もはや言葉は要るまい。レッドホーク……!」
 「リエの仇。おまえだけは、おまえだけは許さぁん!」
 グレイと凱の戦いはとりあえず殴り合う所から始まるのが熱く、ラディゲとレッドホークは互いの剣を撃ち合わせる。 激しい攻撃の応酬、互角の切り合いの中、レッドは一瞬の交錯の内にラディゲに背後から組み付くと、ジェットストライカーを召喚。 竜が深夜に行っていた作業……それは、ファイヤーバズーカをオートで発射可能にするという改造であった!
 と、ここでこういう形で合体武器を拾ってくれたのは嬉しい。
 本心を押し隠す孤独な竜の姿が伏線として機能し、対ラディゲの切り札としても必殺武器が納得できる役割を持ち、 戦隊の団結の象徴の一つでもある合体武器を竜が1人で用いるようにしてしまう、という劇中での意味合いも重く、お見事。
 「俺と一緒に地獄に墜ちろ、ラディゲ!」
 リエを失い、これまで掲げていた「地球を守る為に戦う正義の戦士」という建前をかなぐり捨て、 狂戦士であり純粋な復讐者と化した竜は、もはや死をも厭わずラディゲと諸共に打ち果てようとするが、 ラディゲは口から怪光線でファイヤーバズーカの砲撃を上回ると、ジェットストライカーを破壊。反撃を受けたレッドは変身が解け、 逆に追い詰められてしまう。
 「今の俺の力は、以前の比ではない! フッ、最後だな」
 だがその時、銃撃がラディゲの足を止め、香、雷太、アコが竜を助けに駆けつける。
 「「「「竜ー!」」」
 思えばバードニックウェーブの事故の為に、竜の狂気に引きずり込まれて絶望的な闘争に駆り出されていた被害者とも言える3人が、 ここで竜を助けにやってくるというのは、確かに竜の得ていた絆を示すものであり、ベタだけど熱い。
 「来るなぁ! これは俺の戦いだ! リエの仇は、俺の力で取る!!」
 しかし、自らその絆を自ら振り捨てようとする竜。
 「ふん、健気な。今すぐ、愛しい愛しいリエの元に送ってやる!」
 ラディゲの放った波動が竜に迫るが、咄嗟に飛び込んだ香が竜の代わりにそれを受けて負傷し、香を連れた竜は一時退却。一方、 ブラックコンドルとグレイの死闘も続き、ブラックは二丁拳銃でグレイの左腕とショルダーキャノンを吹っ飛ばすが、 反撃を受けてメット割れ。治療を受ける香は、座り込む竜を立ち直らせようと言葉をかける。
 「今の竜を見たら……きっとリエさん、悲しむわ」
 「なに?」
 「今の竜は、戦士じゃない。ただ闇雲に突っ走ってるだけ。リエさんは、戦士としての竜を、愛した筈よ」
 「…………」
 「私達はジェットマンなのよ! 地球の為、平和の為に、5人の力を合わせなければ、バイラムには勝てない!」
 「!!」
 今まで自身が掲げてきたお題目を、そう思いこむ事で正気を保ってきた目的意識を、巡り巡って香から突き付けられて動揺する竜。
 「どこに行くの、竜!?」
 「……リエの仇を……リエの仇を、この手で……」
 これまで、正気と狂気の境目をやや踏み越えつつも、どんな相手にも真っ正面から向かってきた竜が、 香と目を合わせる事ができないというのが、竜の状態を表していて、非常に象徴的。
 そう、ここで、1話前半以来――ほぼ劇中で初めて――、誰かの前で、天堂竜がその地金をさらけ出す。 剥き出しの狂気の赴くがままに復讐に逸る生身の天堂竜が姿を見せる。
 「駄目! 思い出すのよ竜! リエさんの、最後の言葉を! 思い出して、竜……リエさんが、あなたに言った、最後の言葉を……」
 何とか竜を踏みとどまらせようと、言葉を重ねる香。
 ここでカメラが竜の後ろ側に回り込み、竜から見て左側に居た香がカメラの移動で竜の影に隠れ、右側から出てくる所で、 白いワンピース姿のリエの姿と声に。
 「竜、忘れて、私の事を。あなたの胸から、私の記憶をぬぐい去って」
 「……!」
 リエの言葉と声に顔を上げた竜は、そこに、リエの姿を見る。
 「あなたに、憎しみの為に戦ってほしくない。平和の為に、正義の戦士として生きて欲しい」
 「リエ!」
 リエに見える香を、思わず抱きしめる竜。
 実際に前回のリエが口にしたのは、
 「あなたの胸から、私の記憶を、ぬぐい去って……」
 までなので、その後の台詞は、香がリエの言いそうな事を代弁したとも、竜がリエの言葉の続きを感じ取ったとも取れるのですが、 ここでこれは、リエにとっては、(1話で宇宙空間に吸い出された時に)“伝えられなかった遺言”であったという事が見えてくる。
 もともとリエの
 「竜、忘れて、私の事を。あなたの胸から、私の記憶をぬぐい去って」
 というのは、言われる方からすれば、そんな事無理、という内容でありまして、竜への愛ゆえに竜を慮った言葉でありながら、 竜の気持ちとは大きくズレている、というものでした。リエの最後の言葉はリエの想いとは裏腹に、 竜を救う事なくむしろ取り残してしまうという、愛でありながら――いやむしろ愛ゆえに、エゴである、という残酷さが貫かれています。
 ところがそこに、一度は竜に愛を向けながら、その想いを断ち切った香が媒介として入ってくる事で、リエの言葉が再び竜に届く。
 ここで本編では、凱とグレイの戦いが合間に入るのですが(この二つが同時進行なのは、時系列の調整以上に、 大きな意味を持っているのですが後述)、先に竜と香のやり取りを最後まで進めてしまおうと思います。
 「竜……目を醒まして。戦士としての、あなたに戻って」
 ここで非常に複雑なのは、香が思い描く「戦士」というのはバイラム侵略以後の竜が掲げていた戦士像であり、 リエが口にする「戦士」とはバイラム侵略以前のスカイフォースとして働いていた竜、である事。
 香が口にしているのは前者ながら、それがリエの言葉になる事で後者になり、リエの遺言の代弁者になる事で、 香はそれと全く知らず、竜を1話以前にリセットする役目を果たす。
 そしてこれにより、竜の中で「戦士」という在り方の意味が、一つに繋がる。
 戦士とは何か?
 戦士とは、人を愛せない存在なのか?
 否。
 人を愛するからこそ、地球を愛せるのではないか?
 個人の感情だけではなく、しかし私を捨てた大義の為だけでもなく――その二つを共に抱え守れる強さこそが、真の戦士ではないか。
 ……今作において「戦士」という言葉は長らく、「竜の狂気のシンボル」という意味合いが強く、 あまり良い意味で用いられてはいなかったのですが、ここで、なんと、苦節50話、竜の呪いであった筈の「戦士」が、 竜の呪縛を解く鍵となる!
 細かく覚えていなかったのと、先日、大介さん(仮)が嫌な感じに使っていたので、 てっきり今作は「戦士」から脱皮をする所に着地するのだと思っていたのですが、甘かった。
 ここで「戦士」という言葉を肯定した上で、『ジェットマン』における、「ヒーローとは何か?」が示される。
 それは、個でも全でもなく、その二つのバランスを取った上で、個も全も守る為に戦えるもの。
 思えば今作は、そのどちらかに偏った歪みを延々と描いてきたのでありました。
 そしてこの場面においてその二つ(個と全)は、リエが竜に向けた愛情がエロス(男女の個人的な愛情)であり、 香が竜を踏みとどまらせようとする言葉がアガペー(無償の愛)として、なぞらえられている。
 故に、そのどちらかが竜を救うのではなく、香とリエの2人の女が、融合する事でようやく竜は救われる。
 前回ラストのリエの選択により、非常に構造が複雑になってどうしてここまで、と思ったのですが、最終的に、 リエと香が作品の両輪になる、というのは納得です。どちらかが竜を救うのではなく、2人は重なり合って竜を救わなければならない。
 「リエ……」
 寄り添うリエをおずおずとかき抱きながら、竜はこぼれそうになる涙を必死にこらえて飲み込み、飲み尽くし、 そこで抱きしめていたのがリエではなく、香である事に気付く。
 「お願い竜……リエさんの気持ちを、無駄にしないで」
 「香……」
 そして遂に、竜は自ら歪めてしまった「戦士」から解き放たれ、弱さを認め、脆さを乗り越えた先にある真の戦士となる。
 なお、わかりやすく、リエをエロス、香をアガペーと置きましたが、これに、仲間達のフィリア(友愛)も加わっており、 第1話でばっちり狂わせてしまった竜に対して、非常に真摯に責任を取って救済を描こうとしたというのが、この3段構えに窺えます。
 逆に言えば、そこまでしてやっと、「愛による狂気」から「愛による救済」に至る物語に、 説得力を持たせられると考えたのだろうと思えます。
 正直さすがにちょっとやりすぎたのではなかろうか、とも思うのですが、「愛と戦士」というテーマに真っ正面から決着をつけたのは、 作品として筋を通しきった所。
 竜が長い暗闇から抜け出そうとしていた頃、ブラックコンドルはグレイに追い詰められていた。
 「これまでだ結城凱……」
 ブラックが取り落としたブリンガーソードを手に、迫るグレイ。その斬撃をすんでの所でかわしたブラックは、 地面に落ちていたグレイのショルダーキャノンを手にして反撃に転じる。
 「勝負は終わってねえぞ、グレイ!」
 連続の射撃にグレイは爆炎に包まれ、その手を離れたソードを空中でキャッチしたブラックは、 渾身の力を込めてそれをグレイの腹部に突き刺す! その一撃が致命傷となり、ギリギリの死闘の末、遂に倒れるグレイ。
 「見事だ、結城凱。……ゆけ」
 「グレイ」
 「私は戦士。最後の姿を見られたくない」
 グレイは震える手で葉巻を取り出し、凱はグレイの肩を抱き起こすと、ライターの火を貸す。
 アダルトな小道具を活かして、2人の男が一瞬だけ通じる、渋いシーン。
 ライターを握りしめながら、何とも言えない苦い表情で凱は背を向け、グレイの心には、マリアの記憶が浮かび上がる。
 「マリア……」
 その奏でる熱情のメロディが響き渡る中、グレイ、眠る――。
 先に、凱とグレイの戦いと、竜と香の会話が同時進行なのは大きな意味を持っていると書きましたが、それはこの50話において、 グレイが竜の鏡面になっているという点にあります。
 これまで、バイラムとジェットマンの基本的な因縁関係は、竜とマリア、竜とラディゲ、凱とグレイ、の間で構築されていたのですが、 今回のエピソードでは、マリア/リエに取り残された男として、グレイと竜が対比されている(この伏線が第42話であり、 それを踏まえての第49話)。
 実は前回、「マリアが魔獣になるぐらいなら人間に戻った方がいい」と言った時点でグレイは実質的にバイラムを脱けており (マリアが人間に戻った表次元に対して侵略活動を続けるとは思えない)、もはやバイラムの一員として戦う意味を失っているのですが、 そんなグレイはマリアに取り残されてしまったが故に、己の本分を戦士と置き、その名の下に戦うしかない。
 「何故だかわからねえが、おまえとは戦いたくねぇ」
 「言うな。ブラックコンドル。いや、結城凱。私は戦士。戦う事が定めなのだ」
 ここでグレイが口にする「戦士」はもはや空虚なものであると共に、それは有り得たかもしれない竜の姿に重ねられている。
 凱にとってグレイは、わかり合えたかもしれない男であると同時に親友の影であり、 それを本能のどこかで捉えてしまったが故に、凱はグレイの戦いを受けて立って止めなければならないし、 勝利の後に残るのは喜びよりも苦みとなる。
 自らの死もいとわず復讐に猛った竜には駆けつけてくれる仲間が居てその絆によって救われるが、グレイは孤独な戦士として死んでいく。 凱とグレイの戦いと、竜と香の会話が同時進行なのは、クライマックスにおける幹部の退場劇に、竜とグレイ、 2人の男の分岐点としての意味を重ねている(それは竜が転がり落ちていたかもしれない場所である)、というのが非常に凝った所。
 例えばリエが、グレイの腕の中でマリアとして死ねば、グレイがラディゲに単独でカチコミをかけて満足して散る、 という可能性もあったかとは思うのですが、グレイにそれが許されなかったというのは、全編通して贔屓されてはいるものの、 あくまでグレイは「悪」である、というのが貫かれた所でもあります(そういう点では今作は、正義と悪を相対化しようとはしていない)。
 二つの戦いに決着がついた頃、居残った雷太とアコは、ラディゲに追い詰められていた。……ちょっぴり可哀想な扱いです。
 「地獄へ行け、ブルースワロー、イエローオウル」
 「そこまでだラディゲ!」
 だがその時、ヒーロー音楽で、香をお姫様抱っこして、天堂竜が帰還する!
 ここの竜の表情が、まさに、ヒーロー登場、という顔で素晴らしい。
 「大丈夫か、香」
 「足が折れたって、戦うわ!」
 加えて香にとっての戦士の原点といえる、第5話を拾うのも細かい。
 「4人揃った所で、何も変わらんぞジェットマン」
 「4人じゃねぇ、5人だ!」
 グレイとの決着をつけ、決戦の場に辿り着く凱。
 「本当の戦いはこれからだラディゲ! 俺達5人、ジェットマンの全ての力を見せてやる! みんな、行くぞ!!」

「「「「「おう! クロス・チェンジャー!!」」」」
「レッドホーク!」
「ブラックコンドル!」
「イエローオウル!」
「ホワイトスワン!」
「ブルースワロー!」
「鳥人戦隊」
「「「「「ジェットマン!!」」」」」

 戦士として成長した仲間達、そして、個人の復讐を超えて、真の戦士となった竜――今、本当のジェットマンが揃い立つ!
 主題歌2番の歌詞で、ジェットマンは5人合体バードニック忍法・火の鳥を発動し、ラディゲを撃破。
 「見たか! ジェットマンの真の力を!」
 「くっ……ジェットマンの真の力、確かに見たっ。次は、俺の真の力を見せてやる!」
 こういう所で付き合いがいいのが、ラディゲの素敵な所です(笑)
 そしてラディゲは巨大怪獣ラゲムに変貌し……次回、完結。
 テクニカルを通り越してもはや混線すれすれ、『ジェットマン』1年間の集大成として「竜の救済」 を描く為に非常に複雑かつ面倒くさい構造を押し通しているのですが、そんな中で、軸となっている竜と香とリエの話だけではなく、 凱とグレイはただ格好いいから一騎打ちをするわけではないし、雷太とアコの存在にもしっかりと意味があるし、 と「戦隊」としてしっかりまとまっているのは物凄い。
 キャラクターと物語に責任を取る、という意味において、スタッフ渾身の1本であり、 同時に“真のジェットマン”が卑劣な邪悪を打ち破るという着地に綺麗に繋がっているのも、お見事。

◆第51話「はばたけ! 鳥人よ」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:井上敏樹)
 「見たか、これが俺の真の姿だ。貴様達が何をしようと、この俺を倒す事は出来んのだ。フハハハハハ」
 夕陽をバックに立つラゲムに対し、ジェットマンはジェットイカロスを召喚し、最終決戦は夜戦で展開。 イカロスの攻撃はラゲムに通じず、久々のイカロスハーケンから火の鳥を当てるが、やはり無効。
 最後のイカロスバードアタックは、ジャンプからそのまま変形、ラゲムに弾き返されてバラバラに吹き飛んだパーツ(CG) が空中でまたロボット形態に戻る(スーツに)、と格好いい映像。
 クローが開閉するギミックの格好いいラゲムの繰り出す攻撃の連続でイカロスはあっという間に苦境に陥り、 5人の変身も解けてしまうが、そこへ修理を終えたジェットガルーダが飛来する!
 「「長官!」」
 「合体よ、みんな」
 ……普通に、長官が乗って(笑)
 どうも以前から仕込んでいたらしく、合体したグレートイカロスのコックピットでは、竜の後ろに補助席が展開し、 ちゃっかりとセンター後方に陣取る小田切長官。最終決戦に自ら参加する長官 ……は戦隊だけに探せば他にも居そうな気もしますが、歴代でもかなり珍しくはあるか。
 だが勝負付けは既に済んでおり、さしものグレートイカロスもラゲムの前に手も足も出ない。しかしその時、 長官が召喚したテトラボーイの不意打ちパンチが、想像以上のダメージをラゲムに与える。
 「リエが……リエがラディゲにつけた傷だ!」
 全てが取り戻され、そして終わったあの時……リエ/マリアが命がけでラディゲに浴びせた最後の一太刀が、巨大化の影響で開き、 無敵のラゲムの唯一の弱点となったのだ!
 敗因:得意の絶頂時に女に背中から刺された傷とか、素晴らしすぎますラディゲ(笑)
 話の流れとして単純に面白いのですが、リエをただ“悲劇のヒロイン”としてだけ終わらせるのではなく、 最後の最後で“地球を守る戦士”としての役割を与えている、というのはお見事。退場したからそれで終わり、ではなく、 物語の中でもう一押し、存在に意味が出た、というのも素晴らしい。
 グレートイカロスとテトラボーイの連携による、こっち向いたら後ろから殴っちゃうぜ? ほらほらどーした裏次元伯爵様よー?  攻撃によりラゲムに有効打を浴びせるジェットマンだが、ラディゲはなんとバイロック(バイラム本拠地)を召喚して合体、 フルアーマーラゲムへと更なる進化を遂げる。
 「墓穴を掘ったようだな、ジェットマン。これで我が聖なる体は、完全無欠のものとなった」
 最強テトラボーイも八つ裂き光輪で両腕を切断されて倒れ、バードメーザーも無効。 決定打を与えられずに再び追い詰められてしまうジェットマン。
 「一か八か……みんな、合体を解除するぞ」
 竜は単身ジェットガルーダを操り、残りのメンバーがイカロスに。 長官が平然とイカロスのセンターに座ったらどうしようと思いましたが、さすがに凱の席と交代でした(笑)
 ラゲムの攻撃を受けてイカロスの左腕が吹き飛び、最終決戦で各ロボットも満身創痍。 攻撃後の硬直を突いてラゲムに躍りかかったガルーダはアーマーの破壊に成功すると、ラゲムに組み付いてその動きを止める。 ラゲムの背中の弱点をイカロスに向け、ガルーダもろとも貫くように決死の指示を出す竜。
 「俺に構うな! みんな! 頼む! ――やるんだ凱! 全人類の……いや、 俺達の未来がかかってるんだ!」
 地球の為――、人類の平和の為――、正義と大義と名の下に己を殺すのではなく、その中に己を見いだし、 その上でなお命を懸ける事。
 それは死を厭わない覚悟ではなく、生きる為の戦いであり、未来を掴む為の覚悟である。
 前回、竜が辿り着いた真の「戦士」としての姿を、我が身を犠牲にするような行動と、それを支える信念の台詞を重ねる事で、 『ジェットマン』のヒーロー像として、見事に活写。
 今作の歩んできた道のりが凝縮されたシーンです。
 で、この『ジェットマン』におけるヒーロー論というのは、小難しいわけでも特別に衝撃的なわけでもなくて、むしろシンプル。
 非常に大雑把にまとめてしまえば、
 「人間」である事を忘れるな!
 「人間」として他者を慈しみ愛せるからこそ、「ヒーロー」は悪に打ち勝ち、平和を守る事が出来るのだ!
 とでもいうものになります。
 これを見つめ直そうとしたのが『ジェットマン』であり、色々とスパイスをふりかけつつも、 「ヒーローとは?」「正義とは?」という命題に対して1年間をかけて真っ正面から丁寧に組み立てていったのが、 今作の真髄と言えます。
 ゼロではないが、無意識に塗りつぶされがちになっていたものを、もう一度見つめ、組み立て直し、そこに立つ意味を問う事。
 少しメタ的な視点も含めて言えば、天堂竜という男を通して、 “忘れていたものを思い出す”物語というのが、今作の真の構造なのだと思います。
 そして辿り着いた竜の叫びがあるからこそ、『鳥人戦隊ジェットマン』は戦隊史におけるエポックメイキングとなり、 一つの金字塔としてその後の東映ヒーローに大きな影響を与える作品になったのでしょう。
 恐らく戦隊史上最も「ヒーローとは何か?」(同時に「人間とは何か?」)を突き詰めた作品であり、 根源的すぎるが故に再現の困難な、様々なタイミングや事情が重なった末の時代が生んだ傑作。
 「……おまえの命、俺が預かった! バードニックセイバー!!」
 竜の決意に覚悟を固めた凱がジェットイカロスを操り、右腕一本で放った渾身の一撃がラゲムの傷口をガルーダごと貫き、 血を吐くラディゲ。
 「ぶぁぁ、くぁぁ……っ! これで、このラディゲを倒したつもりだろうが、俺の魂は、裏次元から永遠に貴様達を呪い続けるだろぉぉっ!!」
 呪いの言葉を残し、ラゲム、大爆死。
 ラディゲは変身の都合で、ラスト、顔だけの芝居になってしまったのはちょっと残念でしたが、最期まで、とことん潔くない、 素晴らしい悪役でした(笑)
 爆発の瞬間、竜はレッドホークに変身して辛うじて脱出した所を、朝焼けの海岸で皆に発見される。
 「勝ったのか……俺達……?」
 「ああ!」
 物音に視線を向けると、ラディゲのヘルメットだけが岩肌に引っかかっており、虚しく転がり落ちる、というのは、トランザ、 グレイに続き、どこか虚無感の漂うバイラム幹部の最期が繋がっていて、好演出。
 「終わったのよ、竜。何もかも」
 「違うわ。これから――始まるのよ。私達の、いえ、人類の……平和な日々が」
 海岸で並ぶ6人が、ここでボロボロのロボット3体に視線を向けるのが、“戦友”感が出てとても良かった所。 ご臨終のテトラボーイとガルーダに挟まれて、片腕にバードニックセイバーを握りしめたイカロスが仁王立ちしているというカットも素敵で、 前後編などの場合さくさくロボット戦がキャンセルされがちだった今作ですが、決して添え物では無しに、 ロボットをしっかり使い切ったと思います。特にグレートスクラムは、歴史的名合体。
 かくて裏次元からの侵略者は滅び、新しい一日の始まりを見つめる鳥人達と長官……ラストバトルが夜戦というのは珍しいかなと思ったら、 夕焼けに始まり、朝焼けで閉じ、そしてまた始まる、と見事に流れが決まった所で物語はBパートのエンディングへ。
 ――3年後。
 雷太はまさかの再登場を果たしたサっちゃんとよろしくやっており、アコは何とアイドルに。 アコのマネージャー役は東條昭平監督の特別出演なのですが、OPで丁寧に「東条庄兵」名義でクレジットされていた(笑)
 香が結婚する事になり結婚式に集う仲間達……その結婚相手は、天堂竜。
 「今日はめでたい日なんだ。親友が結婚する」
 式に遅れて薔薇の花束を買い求めていた凱は、花屋の店先で起きた引ったくりを捕まえてハンドバッグを取り返すが、 逆恨みしたチンピラに刺されてしまう、「なんじゃこりゃぁぁ」案件。
 竜と香が結婚の誓いを交わしている頃、教会のオルガンが鳴り響く中、腹を押さえてよろけながら教会へ向かう長い階段を独り上っていく凱。 その姿が切なくも美しく、改めて通して見て“ラストで凱を殺す必要はあったのか”について、どう思うのか自分の事ながら興味があったのですが、 この映像で吹き飛びました(^^;
 参列者による胴上げが終わり(体育会系)、外のベンチに座っていた凱に気付く竜。
 「……どうした? 顔色悪いぞ。ちょっと待ってろ」
 たぶん香を呼ばれたくなかったのか、竜の腕をがしっと掴んで引き留め、平気な顔で男の格好つけを貫く凱。
 「……なぁに、例によって二日酔いさ。……ああ、空が目にしみやがる。綺麗な空だ」
 「ああ、俺達が守ってきた、青空だ」
 アコがそんな2人にカメラを向け、凱は竜をぐっと寄せて写真に収まる。
 「ありがとう……竜」
 集合写真を撮る事になるが、それには参加しない凱。
 「あれ、凱は?」
 「疲れてるみたいだな。少しそっとしておいてやろう」
 心配そうな香に向けて凱は笑顔で手を振り、幸せそうな仲間達を見つめながら煙草をふかし、そして、ゆっくりと崩れ落ち……
 ここで音楽が途切れて竜のアップになり、竜がそれに気付くのかと思いきや、竜は微笑むリエの姿を目にする。 そこでED「こころはタマゴ」の前奏が流れ出し、消えていったリエの姿に、忘れるのではなく、受け入れて、 前へ進む事が出来た竜は笑顔で頷き返す。
 はしゃぐ竜達の姿からカメラが上に動いて青空を映し、EDの歌が始まってスタッフロール&名場面集に。
 竜→凱→雷太→香→アコと来て長官がワンカット入った後、5人揃って変身ポーズ→変身ブレスのアップ→青空
 ↓
 ……からカメラを降ろすと、Bパートアイキャッチ(変身後)
 ↓
 に重なる形で、Aパートアイキャッチ、すなわち変身前の姿に
 ↓
 凱とアコが立ち上がり、並んだ5人が微笑み合って――おわり。
 EDスタッフロールへの入りから、青空をキーに繋げ、アイキャッチを活用したラストカットまで、 戦隊最終回のエンディング演出としては、完璧なものの一つ。
 特に通常、Aパート(変身前)→Bパート(変身後)と使っていたアイキャッチを逆に用いる事で、戦いの終わりと、 若者達の旅立ちが示されるというのは、実にお見事。
 また、やや異彩を放つバラード調のED「こころはタマゴ」が、ここで完全に作品とシンクロ。実のところ、 かつて最初に今作を見た時はこのEDがずっと馴染めなかったのですが、最終回を見た後に、むしろこれしかない!  とあっさり転向した過去があります(笑) 通常のED映像がそれぞれの「夢」を描いているのと合わせ、ぴたっと収まりました。
 さて本編エピローグ、上述したように、“凱を殺す必要はあったのか”という点について、 改めて通しで見る事でロジカルな組み立てが見えてくるか、何か他に思う事があるか、自分なりに書く事が出来るかな、 と思っていたのですが……是非はさておき、一つ一つの台詞や表情などが、ドラマとして美しすぎて、言葉を失うとはこういう事だな、と(^^;
 これはもう、意味を求めるのではなく、こういう物語なのだな、と。
 一応補助線を引いておくと、第18話で結晶化寸前の凱に、
 「へっ。まあそうマジになりなさんな……俺が死んでも、空は青い。地球は回る」
 という台詞があり、今作の計算を考えると、100%やり切れるかはともかく、恐らくある程度狙っていた仕込みだとは思うのですが、 ここでは地球の事など何も関係ないとうそぶいていた凱が、最終回において竜の
 「俺達が守ってきた、青空だ」
 に頷いており、充足を得る。決して死にたいわけではなく、同じ「死にたくねぇ!」でも、やる事をやった男の死として描かれており、 それは刹那的に生きてきた凱がヒーローになって得たものであり、
 「ありがとう……竜」
 という一言に万感を込めて集約される。
 今作は竜にとっては“救済”の物語であり、凱にとっては“充足”の物語であったのかな、と。 そして凱に向けられた「疲れてるみたいだな」という台詞には、そんな凱が仲間達の分も含めてヒーローの業を背負って羽ばたいていったのかな、 とそんな事を思うわけであります。
 ……て、結局なんか書いてますが、とにかく美しい。
 で、この美しさとはなんだろう、というのがなかなか言語化できなかったのですが、それは、 基本的に自分の欲望に忠実で我が儘勝手だった結城凱という男が、“幸せな仲間達の姿に満足げになる”所にあるのだろうな、と。
 ラストの、集合写真を皆で撮る事になり、「疲れてるみたいだな。少しそっとしておいてやろう」 の後でBGMが入ってメンバーそれぞれを映す所はベンチの凱の視点だと思っているのですが、その眼差しは優しく暖かい。
 確かに凱は、最後まで竜以外の誰かとは同じフレームに収まらなかったかもしれない。
 けれど、彼等の幸いを喜んでいる。
 集合写真の輪に加わらず、ベンチに座る凱と彼等の距離感は、縮まりきらなかった距離であるかもしれないが、同時に人は、 その距離を超えて他者の幸いを祝福できるのだと、そんな絶妙な距離感を表しているようにも思えます。
 そしてそれこそが、「俺達が守ってきた青空」である。
 ここで実に今作らしく、“漠然とした守るべきもの”と“具体的な幸い”が重なり合い、それにより受け手もまた、その喜びに共感し、 その美しさを知る事ができる。
 ――空が目にしみやがる。綺麗な空だ
 それは、遠いけれど目に届く、澄んだ青空のような美しさである。
 だからスタッフロールに入る前の、本編ラストは、画面一杯の青空で終わる。
 それは多分、結城凱が最後に目にしたものだから――。
 ……あーそうか、結城凱の物語には確かに「充足」という要素があるのですが、 かといって“満足した男の死”というのをここまで肯定的に描いて良いものだろうか、というのが長らく何となく引っかかっていたのですが、 ここで重要なのは、凱が最期の時に、
 「死にたくねぇ!」よりも、(あいつらが幸せそうで良かったじゃねえか)という思いを抱いている事
 なのか。
 最期にその感情を得るという事が結城凱の着地点であり、作品として肯定しているのは“結城凱の死”ではなく“その感情”である。
 人間は確かに愚かで身勝手で地球を汚す存在かもしれないけれど、そんな風に思える時もある。
 その先に、青空があるのではないか。
 それは選ばれたヒーローのヒロイズムではなく、どこにでも居る人間が抱ける思いであり、だから皆の心の中で、 その思いを暖めて欲しい……。

こころはタマゴ 小さなタマゴ
あしたまで あたためりゃ
鳥にもなれる 雲にもなれる
もしかあの子が好きならば

 誰かを愛する心が、やがて世界へ広がっていくように。
 なお最後に竜が凱の異変に気付かないのって割と酷い感じあるのですけど、あそこで気付かれると凱が格好つけきれないので、 物語が終わるまでは、凱が格好つけきったという、凱の勝利なのです。
 いっそ凱は、力尽きた筈なのに式が終わってみたらどこにも見当たらない、ぐらいの勢い (最後を濁すのを含めてそういう意図がある演出でありましょうが、それによって同時にエターナルなヒーローへの昇華、 という要素も含んでいる)。
 ああ、後、竜と香が結婚するというのは、前回における救済もあるけど、香が今作の「社会性」のシンボルなので、 竜が香と結ばれる事で、竜が狂気から日常への着地を果たす、という意味合いが補強されているのだと思われ、 ここは今作のロジカルなところ。
 前回のBパートクライマックスを通常戦闘にあて、最終話Aパートをロボ戦、Bパートは全てエピローグにする、 という2話に渡った構成にする事で、エピローグにしっかりと時間を割いたのが良く、最後まで濃厚な、素晴らしい最終回でした。
 “ここまでやれた”事には、当時の戦隊シリーズが置かれていた状況など、時代性と切っても切り離せない部分があるかと思いますが、 非常に計算された、完成度の高い名作。
 とにかく物語の繋がりが1年物の特撮作品としては群を抜いて良く出来ているのですが、 尺が伸びドラマ性のウェイト増加も受け入れられている一方で、年間の商業的スケジューリングの厳しくなっている昨今のシリーズ作品の方が、 かえって物語における計算を貫きにくかったりもするのだろうか、などと、考えさせられる所でもあります(^^;
 色々な発見もあり、改めて腹を据えて再見して非常に良かった作品でした。
 その他諸々はまた、総括で。

(2016年6月18日)
(2019年12月16日 改訂)
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