■『鳥人戦隊ジェットマン』感想まとめ8■


“もしか淋しくなったなら
夢で約束すればいい”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『鳥人戦隊ジェットマン』 感想の、まとめ8(43〜47話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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〔まとめ5〕 ・ 〔まとめ6〕 ・  〔まとめ7〕 ・ 〔まとめ9〕


◆第43話「長官の体に潜入せよ」◆ (監督:蓑輪雅夫 脚本:井上敏樹)
 「もうすぐだ……やがて史上最強のロボットが完成する。グレートイカロス以上のロボットが」
 ジェットマン抹殺の為にトランザは最強の力を作り出そうとし、物語はいよいよ佳境へ。
 スカイキャンプでは、香が両親に凱を紹介する為に2人がトレーニングを休んでいる事について、 竜がそこはかとなく言葉を選びながら長官に告げていたが、空気を読まずに雷太が虎の尾を踏んでしまう。
 「香さんと凱はともかく、長官はどうなんですか?」
 「は?」
 「いや、ま、前から……気にはなっていたんですけど、長官もまだお若いのに、全然男っ気がな……」
 「おい!」
 「あたしと、結婚したいという男の人は、やっまほどぉぉぉ、居ます!」
 そこへ長官宛てに薔薇の花束が贈られてきて、満足げにその香りを嗅ぐ長官だが不意にふらつき、その後、その様子がおかしくなる。
  • 会食を終えてスカイキャンプに戻ってきた凱と香に「何度言ったらわかるの、凱、香! あなた達には、戦士としての自覚が足りない。 そんな事では、バイラムには、勝てないわ」と最初期の竜のような事を言いだし、平手打ちをして水をかける。
  • 強化プログラムを行うと告げて各自の剣と銃を提出させて手を加えるが、何故か剣は曲がり、銃は暴発。
  • スーツの強度テストと称して5人を十字架に貼り付けると、ビークスマッシャーで銃撃。更に「いいざまだな、 ジェットマン! 十字架を背負ったまま、あの世へ行け!」とそこをラディゲが強襲するも無視。
  • 何とかそれを切り抜けた5人の抗議を封殺してブレスレットを提出させると、それを破壊しようとする。
 事ここに至って様子があまりにおかしいと長官を止めた5人は、長官の血管内部にバイオ次元獣・ヒルドリルが潜んでいるのを発見する。 ベロニカ起動の前にジェットマンを自分の手で倒そうと焦るラディゲが、細胞縮小光線によって小型化した次元獣を薔薇の花束から長官の体内に潜入させていたのである!
 あれだけメカ嫌いをアピールしていた香が、すっかりハイテク機器を使いこなして長官の体内からヒルドリルを発見したり、 凱も謎のエネルギーの送信を読み取ったり、皆の成長を感じる所です(笑)
 バイラム本拠から細胞縮小エネルギーを送り込まれ続けているヒルドリルを排除するには、直接、長官の体内に入り込むしかない。 ジェットマンは香をサポートに残すと、縮小エネルギーを増幅して利用し、ジェットイカロスを縮小して長官の体へと入り込む、 という『ミクロの決死圏』展開。
 縮小エネルギーの増幅には限度があり、3分の制限時間でヒルを倒そうとするイカロスだが、ヒルの装甲に苦戦し、 血管や胃液の中を行ったり来たり。最終的には時間ギリギリにヒルともども、長官の涙により体外に排出され、 機転を利かせた香がそれを外に持ち出した所で、ヒルと一緒に巨大化。
 ……て、イカロスが全く役に立たないので、長官が自力で追い出した!?
 胃液でジェットイカロスの装甲を溶かしたり、長官の超人ぶりが光速に近づいていきます。
 動脈では赤いフィルター、胃の中では緑のフィルターをかけ、体内の戦いを映像的に面白く演出しようと頑張ってはいるのですが、 ジェットマンが頭を使ってヒルを外に出そうとするわけでもなく、時間ギリギリ(3分以上経過すると長官の体内でイカロスが巨大化し、 大変スプラッターな事態になる)に成り行きで何とかなる、という非常に雑な展開で、 ジェットマンが対策を閃く部分がカットされたのではないか、というぐらい不自然(^^;
 外で取っ組み合うもヒルドリルに全エネルギーを吸われてしまい、倒れるジェットイカロス。だがその時、 救援に飛んでくるジェットガルーダ……! を操るのは、小田切長官!!
 「今まで完璧な人生を送ってきた私に、よくもよくも恥をかかせてくれたわね!」
 全体的にやや雑な回なのですが、ギャグとしてお約束だからと、ただ安易に、強くて出来すぎる女はモテない、 という描写で済ませるのではなく、小田切長官の人格にも問題がある事を窺わせるこの台詞を入れたのは、 秀逸。
 素手でビール瓶割り+この性格だと、それは周囲の男が引いても仕方がありません。
 今更ながら、一条元総司令があそこまでねじれてしまった原因は小田切長官にもちょっぴりあったのだな、と判明し、戦慄(笑)
 小田切長官の操縦により、挿入歌をバックにフルスペックを発揮するガルーダは、ジェットマンが唖然として見守る中、 打撃戦から投げ飛ばし、ガルーダバースト、そしてジャンプからのクローで完全勝利。
 「女の怒りは、怖いのよ〜」
 変身しないまま、無邪気に外から喝采を送る香は、何をしているのか(笑)
 「はははははははは!! しょせん貴様はその程度! 後はこのトランザに任せておけ」
 率直な所、体内に忍び込ませたヒルドリルを巨大化させ、 長官抹殺とスカイキャンプ壊滅を狙った方が圧倒的に好手だったラディゲは例の如く例のようにトランザに嘲笑われてぐぬぬし、 謎の巨大ロボのシルエットが示された所で、つづく。
 長官がやりすぎたジェットマン側の後始末フォローが一切されませんでしたが、それでいいのか(笑) いっそ潔いのか。
 基本的に小田切長官は「黒い猫でも白い猫でもネズミを捕るのが良い猫だ」の人なので兵士の個人事情に首を突っ込まない為、 メンバー間の揉め事がメインになるエピソードでは存在感が薄くなってしまうのですが、スタッフもそれを少し気にしていたのか、 ここに来て続けての長官フィーチャーエピソード。まあ今回はほとんど、ギャグ回と受け止めるべきでしょうが(笑)
 結果、ネオジェットマンと共に華々しく再起不能になった一条元総司令が、ただの下劣な男ではなく、 割と人生の被害者だった可能性が僅かに浮上し、若干の同情ポイントを稼ぐという、予想外の副作用が発生。まあ凄く、どうでもいいですが。
 一応繋ぎ回としての機能は持たせてあり、ベロニカの他、鹿鳴館家で香の両親と会った凱が、 まず職業や学歴を問いかけてくる香の両親に不満を抱いて途中で退席、と広がる凱と香の亀裂。
 「おまえには悪いが、俺には我慢ならねぇ! 人をレッテルでしか判断できねぇ連中だぜ!」
 まあでも、娘が恋人を家に連れてきたら普通はそうなるよね……という辺りは、次回以降の要素と合わせてまとめて。
 ――次回、魔人ロボ、登場。

◆第44話「魔人ロボ!ベロニカ」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:井上敏樹)
 クレジットに並ぶ、凱のガールフレンドという不吉な文字(笑)
 本編は、バイラム本拠を斜め見下ろしの構図で取る、というちょっと面白いカットからスタート。いよいよ最強のロボが誕生し、 トランザはジェットマンを葬り去る為にそれを起動しようとする。
 その頃、香は凱と最近うまく行っていない事をアコに相談していた。
 「ま、なんだね、私としては駄目になると思ってたよ」
 女子高生は、凄く、ストレートだった(笑)
 一方の凱は、ブーメランビキニパンツを装備して、プールサイドで女をはべらせていた。
 揺らぐ水面に映る香の笑顔――数話に渡って描かれてきた、離れつつある凱と香の心の距離ですが、 前回今回である程度ハッキリしたのは、「凱は香個人は愛しているけど、香に付随している要素は愛していない」という事。
 まあ、よくある話ではあるのですが、劇中で成立したメンバー間カップルに対して、男女関係におけるそういうリアルを投げ込んできた、 というのが今作の淀みのない所。
 凱は香を愛しているけど、香の生きてきた環境や香の持っている物を受け入れる事が出来ない……今のところ 「俺の事を本当に愛しているなら全てを捨てられる筈だ」と言い出していないだけマシですが、凱のこれは明確に、 凱の身勝手さといえます。
 で、どうして諸々の人間関係が丸く収まっていた流れからこの終盤でその身勝手さによる亀裂を描かなければならなかったというと、 凱がそういう身勝手で我が儘な男だから、と言う他ありません。
 そしてそれは今作において、外せない部分である。
 凱って、その立ち位置と人気から、実際以上に美化されたイメージが広がっているキャラクターではないかと思っているのですが、 基本的に非常に自分勝手で我が儘な男としてその描写は一貫しており、そこから生じる格好悪さというのもしっかりと描かれています。
 いっけん悪ぶっているけど情のわかるいい男……かというと、実はそういった“おいしい”キャラクターというよりも、 こいつは駄目な男だ、という描写が多い。
 にも関わらず、凱には確かに“格好良さ”がある。
 それが何かといえば、凱が常に「自分」を貫き、“譲れない一線”を持っているという所にあります。
 凱の身勝手さも我が儘さも「自分」であろうとしている故であり、そしてそんな「自分」に胸を張って生きようとするが故に、 凱はその譲れない一線で必ず命を張る。
 純粋「ヒーロー」である(たらんと望む)天堂竜に対し、己の為に生きる「人間」の象徴として置かれているのが凱ですが、 アンチヒーローであると同時にそんな自分勝手で我が儘な男がギリギリの所で誰かを守る為に命を賭ける事で、 より鮮烈にもう一つの「ヒーロー」の姿が浮かび上がる、というのが、今作のベースにある構造。
 そして凡百の作品なら、そこで凱を単純に「ヒーロー」にして後は綺麗に均してしまう所を、今作はそこで手を緩めない。 「人間」結城凱を描く事が今作における「ヒーロー」の対比としての「人間」を描く事であるがゆえに、 凱の持つ身勝手さという負の部分を、簡単に消してしまわない。
 変化や成長は確かにあっても、凱は自分が自分である事にこだわり続け、“譲れない一線”を引く……何故ならばそれは、 凱にとって命を張るに値する事だから。
 結城凱は結城凱であるが故にジェットマンとして戦い、結城凱であるが故に己に忠実であろうとする――良い面も悪い面も全てひっくるめて、 結城凱とはすなわち、己が己自身である事に誇り高い男、と言えます。
 だから凱は、自分にお仕着せの衣装をまとわせようとする香に不満を抱くし、 香の両親に対して「人をレッテルでしか判断できねぇ」と強く反発する。
 個を捨てて大義に生きようとする竜の姿にいびつさを感じて苛立ち、しかし同時に、 一廉の男と思わざるをえない竜に自分を認めさせたい。
 普通に生きていれば出会う筈がなかった鹿鳴館香という女の心を自分に向けたい。
 「俺を見てくれ! 俺を見ろ!」
 第13話で香に向けて放ったこの言葉こそ、恋愛感情の吐露だけではなく、結城凱という男の在り方なのでしょう。
 ここで興味深いのは、今作において「ヒーロー性」の対極に置かれている「人間」結城凱が、「社会性」の欠落、 というヒーロー要素を抱えている事。
 「ヒーロー性」と対比する形で「人間性」を描く時に、社会との連結、を用いるのはスタンダードな手法ですが、むしろ凱は、 社会にコミットしていない。社会に埋没しない「自分」をこそ、他者に認めさせようとしている。
 …………あーそうか、実は長らく、なぜ鹿鳴館香は今作のヒロインなのか? というのが今ひとつ掴めていなかったのですが、 今やっと、腑に落ちた気がします。
 鹿鳴館香は今作における「社会性」のシンボルである。
 香は一応、第4話で婚約者を袖にして生まれ育った上流社会に背を向ける事で「ヒーロー」としての解脱を果たしているのですが、 第8話では社交界の付き合いでダイヤのお披露目パーティに出席していますし、その後もしばしば、鹿鳴館家での生活が描かれています。 シンプルに“お嬢様”キャラという特性を見せる為だと思っていたのですが(勿論、その要素はあるでしょうが)、 繰り返し登場した爺やの存在も合わせ、香と社会の連結が織り込まれていたのか。
 言ってみれば、ヒーロー作品における、「ヒーロー性」「人間性」「社会性」という要素が、
 「ヒーロー」=竜
 「人間」=凱
 「社会」=香
 に振り分けられていた、と。
 香にとっては個人は所属する社会の中に存在しているものであり、 自分を愛するという事は自分を構成している周辺要素を含めて受け入れるのが当然。
 第22話において竜に連れ出された香が、「会わせたい人がいる」 と言われて、すわ竜の両親?! と大興奮するのですが、 あれは香の都合の良すぎる乙女妄想ではなく、香の中では、恋愛のステップとして比較的早い内にお互いの社会的背景といえる両親に挨拶するのはごく当たり前であり、 てっきりギャグだと思っていたのですが、ギャグでは無かった……!
 かくして凱と香の恋愛関係は、凱が「自分」を捨てるか、香が「社会」を捨てるか、の選択を迫る所に行き着いてしまっており、 必然的な亀裂に帰結する。
 こう見ると、辿り着いた時に改めて書こうと思いますが、竜の存在を含めて最終回へ凄くロジカルに繋がっているのだなぁ……。
 あと同時に、個人的に香に関していまいちピンと来ない理由がわかったのですが、社会に対する帰属性の強さというのが、 特撮ヒロインとしては一種の“つまらなさ”に見えているのかも。
 香と凱の心の揺らぎを描くこの二つのシーンでは、気付かない内に市民がバイラムにさらわれている光景が挟まり、 そして市街地の真ん中に、巨大な黒いモノリスが出現する。バイラムは更に次々と市民をさらっていき、その生体エネルギーにより、 モノリスの中から最強のロボが起動する!
 「魔人ロボ・ベロニカ、出陣」
 出現したベロニカは雨宮慶太デザインで、ここまでと大きく変わったラインが、存在感を際立たせます(ある程度、 セミマルを汲んでいるのかな、という感じはありますが)。
 トランザの嫌がらせ(或いは不在の本拠で変な工作をされない為か)によりベロニカにはラディゲ、マリア、グレイも乗り込み、 トランザに不満たらたらの割に、背後で真面目にパネルを操作しているマリアは、根の真面目さが窺えます(笑) マリア、 記憶は無いし人格も改造されているっぽいのですが、多分、3割ぐらいリエの素が残っている。
 出撃したジェットイカロスはロケットパンチやアックスを浴びせるが、ベロニカは敢えてそれを受けて倒れてから、余裕の反撃。 ハンマーを両断してイカロスを蹴散らし、応援に来たガルーダを口からビームで撃墜すると尻尾アンカーでぶん回し、 合体グレートスクラムも掟破りの妨害、とかなり気合いの入ったミニチュア市街地バトル。
 戦隊でここまでずらりとミニチュアのビルを並べたロボ戦もちょっと珍しい気はするのですが、ベロニカが全方位ビーム放っても、 ロボが激突しても、火薬は飛ぶけど周囲のビルが壊れないのですが……映画とか、別の作品のセットでも借りたのか。或いは、次回、 派手に壊れるのか。
 「貴様達の悲鳴ほど、心地よい音楽はない。最後だ、ジェットマン。ふふふふふふふ、ははははははは」
 いよいよジェットマンが追い詰められたその時、ラディゲの脳裏に走馬燈のように浮かぶ、 屈辱と友情のめもりぃ。
 「ジェットマンは俺の獲物! どけぇ! トドメはこの手で刺してやる!」
 ラディゲはトランザを殴り飛ばし、おいしい所だけいただこうとするが、すかさずトランザに殴り返される(笑)
 「ラディゲ、貴様ぁ……!」
 この局面で、芸術点が大量に加算されそうな華麗な内輪揉めによりベロニカが動きを止めた隙に窮地のイカロスは反撃し、 損傷したベロニカは退却。
 まあ、嫌がらせで横に座らせたのが悪い。
 ラディゲとトランザの足の引っ張り合いは、端から見ていると実に最低なのですが、本人達はプライドを賭けて争っているつもりなのが、 実に素晴らしい(笑)
 バイラム本拠で修繕を終えたベロニカが再出撃し、イカロス修理中だったジェットマンはテトラボーイを時間稼ぎに送り込むが、 これまで最強レベルの戦力だったテトラボーイすら、ベロニカにあっさり踏みつぶされてしまう。 修理が終わって出撃したグレートイカロスのバードメーザーも通じず、ベロニカの胸から伸びた触手が、 遂ににグレートイカロスの装甲を突き破る!
 巨大ロボの胸のど真ん中に大きな穴、というのはなかなか衝撃的なカット。
 やむなくグレートイカロスを放棄するジェットマンだが、脱出中に分断され、香、雷太、アコがトランザに囚われてしまう。 トランザは3人の生体エネルギーをベロニカの動力に用いると言い残して姿を消し、ジェットマン完敗、 残されたのは竜と凱の2人……という絶体絶命の局面でつづく。
 いよいよ最終盤ですが、ここでバイラムの繰り出してくるのが巨大ロボットで、しかも幹部4人が乗って操る、というのは、 定期的にバイラム幹部が嫌な上司打倒の為に一致団結する姿を見せてきただけに、妙なおかしみを与えています。 もちろん絆の力が発動するわけはなく、むしろ絶好機に仲間割れを誘発するのですが、 恐怖と猜疑心による統制は身内の暗闘しか生まないという所も含め、今作らしいスパイスの利いた所。 ベロニカの強さを見せつつ一時退却させる理由付けとしても、ここまでの物語の蓄積が効いており、ご都合部分を巧く和らげています。
 次回――男の友情パワーは果たしてどちらに微笑むのか。竜、凱、トランザ、ラディゲ、男達の意地と誇りがぶつかり合う!

◆第45話「勝利のホットミルク」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:井上敏樹)
 「凱……どんなに強い相手でも、俺達に出来るのは戦う事だけだ! 修理を急ごう」
 3人の仲間をさらわれ、グレートイカロスは損傷、窮地に追い込まれるジェットマンだが、 竜と凱は諦める事なくグレートイカロスの修復を急ぎ、小田切長官はベロニカを打ち破る為の方法をシミュレートする。
 その頃、ベロニカのコックピットではラディゲがこそこそしていた。
 「トランザ……このままで済むと思うな」
 翌日、ベロニカが姿を現し、応急修理で出撃するグレートイカロス。
 「正義とは悲しいものよ。負けるとわかっていても、戦わねばならぬとはな」
 分の悪い戦いを強いられるグレートイカロスは、戦闘中に応急処置のエネルギーチューブが外れるアクシデントにも見舞われ絶体絶命に。 凱が腕力で回路を強引に繋いで何とかその危機を脱出するも、再び、触手攻撃で土手っ腹に風穴を開けられてしまう。だがその時、 ラディゲが嫌がらせの仕掛けを発動させ、トランザが吹き飛ばされて機能停止。竜はその隙に、 触手を辿ってベロニカ内部へ突入する事を決断する。
 「凱! 今度は俺が行く。後は頼んだぞ」
 「竜! …………この戦いが終わったら、一杯おごるぜ」
 「ああ。ホットミルクを頼む」
 「砂糖抜きのな」
 戦場で絆を結んだ男同士のベタなやり取りなのですが、凱がいつの間にか、竜の好みを把握している所がおいしい。
 トランザとラディゲが醜い内輪揉めに盛り上がっている間に、仲間達を救い出すべくベロニカの中へと入り込む竜。
 とことんまで足を引っ張り合うバイラム幹部ですが、結局、 悪はその精神性ゆえに負けるという点は物語を通して徹底されています。
 悪は弱いのでも間抜けなのでもなく、他者を見下し認める事が出来ないという、悪の本質ゆえに負けるのだ、 というのはいっけん善悪を単純に割り振っているようですが、「悪」とは何かを真っ正面から描く事で、 一歩間違えると自分達が簡単にそちら側へ転がっていってしまうという鏡像を見せる事であり、大事な部分であると思います。
 特に今作ではジェットマンが団結するまでに長い時間がかかった事から、その部分がより鮮烈に物語を貫く形で描写されており、 色々な仕掛けの張り巡らされた中、物語の芯にはかなりストレートに、「善」と「悪」とは何か、 というテーマが織り込まれているというのは面白い所。色々と眩惑しながらも『ジェットマン』の本質が決して奇をてらった問題作、 ではない事が窺えます。
 「ラディゲ、貴様の命……ベロニカに捧げるがいい!」
 今日も一騎打ちでトランザにのされたラディゲ、とうとう養分にされる。
 グレイとマリアはとりあえず2人の泥試合を放置し、グレートイカロスを仕留めようとベロニカを操り、 1人コックピットに残った凱はその猛攻を必死に凌ぐ。
 「死んでもこの手を離さねぇ! 頼むぞ、竜ぅぅぅぅぅぅぅ!!」
 ラディゲを動力炉に叩き込んだトランザはレッドホークの前に立ちふさがるが、ここで、死の間際で何かに目覚めたのか、 思わぬ力を発揮する裏ミントン伯爵。
 「俺は死なん! トランザぁぁぁ!!」
 何とラディゲはベロニカのエネルギーを逆に吸収すると、戒めを脱出し、急な動力停止に困るグレイとマリア(笑)
 「ジェットマン、お前達は俺の獲物。トランザの手にかかってはならん!」
 満身創痍のラディゲは嫌がらせに雷太を解放し、ようやく自由を取り戻した3人はトランザに追い詰められていた赤のピンチを救うと、 揃って脱出。トランザもコックピットに戻り、いよいよ、グレートイカロスvsベロニカ、最後の戦いがスタート。 長官が修理していたテトラボーイが復帰し、バードメーザーに乗せてテトラボーイを打ち込むという、 シャイニングテトラアタックによって、ベロニカを撃破するのであった。
 バイラムの内輪揉めを挟みつつ、凱の献身、竜の突撃、竜を救う雷太達3人、長官が新必殺技を発案、 とそれぞれの見せ場がしっかりと盛り込まれての大逆転。
 バイラム幹部は何とか本拠に戻り、額から流れ落ちる自らの血に愕然とし、次いで嗤い出すトランザ。そしてラディゲの姿は、 そこには無いのであった……。
 (ラディゲ……いったい、どこへ……)
 明らかに嫌いそうなのに、マリアがなんだかんだ随所でラディゲを気にするのは、洗脳のついでに条件付けでもされているのかしら。
 ジェットマンの方は、祝勝会。
 「凱、ごめんね。心配かけて」
 「ああ、心配したさ。俺達は仲間だ」
 後半の台詞をアコと雷太に向けてかけると、凱は背後のカウンターに座り、マスターに注文。
 「ホットミルク、砂糖抜きでな」
 「こっちはマッカランのストレート」
 私服の長官が入ってきて香達のテーブルに近づき、2人の男の背中を微笑ましく見守る中、 お互いの飲み物を交換した竜と凱が約束の乾杯をして大団円……なのですが、このシーン、非常に意味深い要素が盛り込まれています。
 それは、香が明らかに凱に向けてアピールしているのに対し、これまでなら間違いなく香にアピールを返した筈の凱が、 台詞の後半を「仲間」に向けている事。他のメンバーの事も本音では心配しても、 そんな事は口に出さなかったであろう凱がそれをストレートに口にしている、というだけならただのいいシーンなのですが、 ここでは香が他のメンバーとフラットに扱われている。
 そしてその後、香の表情が一度も明確に映されません。
 凱はテーブルに背を向けてカウンターに座り、後から来た長官がテーブルに近づくも香の表情は見えず、そこから一度、 長官にズームアップした後、カット変わるとカウンターに座る竜と凱を手前に、その間に奥の長官が見える、という構図。
長官
雷太 〔机〕 香
アコ 〔机〕  
竜   凱
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(カウンター)

カメラ
 ここで周到なのは、“男達の背中を見守る長官”に焦点を合わせる(物語上の意味を与える)事で、ごく自然に、竜と凱の背中に、 香達3人を隠してしまっている事(カット上は、竜・凱・長官、の3人しか映らない)。
 普通にやるとこのシーン、普段の扱いから考えて長官が出てくる必要性はほぼ無いのですが、そこに長官を出す事によって、 極めて違和感なく凱の背景に香を消してしまう事に成功しており、(恐らく)長官が珍しい私服姿なのも含め、 かなり計算されたシーンになっています。
 恋人達の遠ざかる距離をちらつかせながら、物語はいよいよ終幕へ……の前に、トマト大王がやってくる。

◆第46話「トマト畑の大魔王」◆ (監督:東條昭平 脚本:荒木憲一)
 前回頭を打った影響か、トランザは唐突にバイオ次元獣ではなく、人間の想像力をエネルギー源に変身する異次元生命体メタモルを街へと放つ。 人間の心に潜む恐怖を引き出し、増幅するメタモルの作用により、幼時のトラウマを呼び起こされた雷太は人間の頭がトマトに見えるようになってしまうという、 シュールなサイコホラー展開。
 更に子供の頃にトマトが嫌いだった雷太の夢が生んだトマト大王が具現化し、街の人々を次々とトマト頭に変えていく。 増幅された恐怖のエネルギーで活動するトマト大王はビークスマッシャーの一斉射ですら倒す事が出来ず、 それを打ち破るには雷太が自らトラウマを乗り越えるしかない。アコの励ましでトマトへの恐怖を克服した雷太はひたすらトマトを食べ続け、 それによりトマト大王は力を失うのであった……と、終章を前に、軽めの1本。
 近年なら総集編があてられるのでしょうが、脚本家(井上敏樹)にスケジュール的余裕を作りつつ、 緑タイツにトマト頭という大王の造形で、予算も少し節約(というかベロニカに食われた?)した感じ。とはいえ、 エキストラ多めな上に、トマト頭が用意されたり、大王の顔も最後に芯だけになるヘッドが別にあったり、 大量のトマトが雷太に降り注いだりと、細かい所では割合かかっているような気も。
 終章の前にという事でか、脇に行きがちな雷太とアコのエピソードとなっており、トラウマに苦しむ雷太を前に、 アコが母性を発揮する、というのは今作通してなかなか珍しいシチュエーション。年下キャラのアコですが、1年通して、 少しは大人になりました、という姿を描いておきたかった、というのもあるかもしれません。
 周りが修羅場だらけで、欲しくもない経験値をたくさん獲得しましたしね!(笑)
 引きとしては、バイラムを出奔したラディゲが、とうとうゴミ捨て場ダイブを敢行し、 再び大介さん(仮)の姿に。ベロニカのエネルギーを吸収した影響からか、行く先々で機会仕掛けの物が暴走する、という描写あり。
 果たして、愛と、狂気と、怨念と、復讐の行き着く先は、誰が為の栄光か――いよいよ最後の戦いの幕が開く!
 次回、「帝王トランザの栄光」!

◆第47話「帝王トランザの栄光」◆ (監督:東條昭平 脚本:井上敏樹)
 頭を打った影響で、日本トマト化計画を進行するも失敗に終わったトランザは、巨大な銃を手に、 いよいよ自らジェットマンとの決戦に挑む。
 「短い間だったが、ジェットマン。貴様達とのお遊び、なかなか楽しかった。だが俺も飽きっぽい性格でな。 今日こそ全ての片を付けてやる。チェックメイトだ」
 暴力と恐怖による支配が限界を迎えながらも、虚勢を張り続ける帝王トランザの姿には、 くしくも自ら口にした「正義とは悲しいものよ。負けるとわかっていても、戦わねばならぬとはな」とは逆の、悪の悲壮さも見える所。
 また、トランザが支配したバイラムというのは、バイラムが支配した地球のいわばミニマムな未来予想図ともなっており、 たとえ悪がどんな栄華を得ようとも、悪は悪の性質ゆえにいずれ崩れ去るのだ、というオーバーラップになっているのも地味に巧い所。
 それがまた、ではそれに打ち勝てる「正義」とは何か? という今作の問いを引き立たせています。
 白いスーツにバラの花束を持って竜の前に現れたトランザは、レッドホークを捕らえると何故かブランコに乗って高笑いという、 テンション高い演出。
 これは、玉座→揺れるブランコ→×××、とトランザの座る場所が変わるという、三段活用なのか。
 仲間が駆けつけてレッドを助け出し、本気のトランザと5人のジェットマンがぶつかり合う、力の入ったアクションシーン。 トランザはイエローに投げ飛ばされるが、木の幹を蹴って脱出すると反動きりもみキックを浴びせ、 倒れたイエローを巨大な銃――バイオガンでシューティング。すると何と、イエローが石版に変わってしまう!
 「狩人は獲物を剥製にする。この彫刻こそ、貴様達の剥製」
 続けての攻撃で竜が谷底に落下し、散り散りに逃げる残り3人を、トランザは余裕の笑みで追いかける。
 「俺の手で1人1人、片付けてやる。ふふふふふふ」
 一方、気絶した竜に近づく1人の男――それはゴミ捨て場ダイブを経て男としてのレベルをまた一つ上げ、 地上を徘徊していた大介さん(仮)であった。大介さん(仮)は甲斐甲斐しく竜の傷を手当てすると、肩を貸して立ち上がらせる。
 「俺もトランザを憎む者。俺の事はどうでもいい。急がないとおまえの仲間達が危ない。俺達2人の力を合わせれば、 或いはトランザに勝てるかもしれない」
 ここでまさかの、かりそめの友情リベンジャータッグ結成(笑)
 内心(誰だこいつ……?)と思っている竜ですが、思えば過去にも異次元の戦士がバイラムとの戦いに協力してきた事があるので、 シリーズ通しては受け入れる説得力が生じています。
 2人は山道を進み、足を滑らせた竜に必死に手を伸ばす大介さん(仮)。
 「駄目だ、このままじゃ2人とも……手を、手を離してくれぇぇ!」
 「諦めるな! 貴様は戦士、俺も戦士だっ」
 前々回の感想で書きましたが、今作は基本構造として、お互いを信じ合う事を学んでいく「正義」と、 他者を見下し利用する事しかできない「悪」の対比というのが重視されているのですが、それを一つまとめてきた直後に、 表向き「正義」と「悪」が壁を乗り越えて手を組む(竜は自覚ないけど)、そして友情プレイで盛り上がるという、 掟破りが衝撃的で、

 煽れば煽るほど、面白い(笑)

 加えてここで、竜の魂のワードである「戦士」を悪の象徴であるラディゲが持ち出しており、非常に悪辣。
 一話から長らく振りかざされてきた「戦士」という言葉が遂にここで、“それは一番大事な事ではないんだよ”と暗に示されます (もともと、竜の掲げる「戦士」は、竜の精神を防衛する為の逃げ道ではあったけれど、その重要性が物語の中でも明確に揺らがされる)。
 一方、トランザはわざわざジャケットに着替えたりエレベーターボーイにコスプレしたりしながら、 アコと香を次々とバイオガンの餌食とする。竜と大介さん(仮)の友情の歩みの合間に挟まれる追跡シーンは、街中の人混みの中、 というのが日常の中に紛れ込んだ異質を強調し、緊迫感を高めました。
 残った凱もバイクでのチェイスの末に石版にされてしまうが、そこへやってくる友情リベンジャーズ。
 「貴様の剣に、2人のエネルギーを籠めるんだ」
 孤独な悪の帝王に見せてやる!
 受けてみろ!
 俺達の!
 篤い友情!!
 レッドホークと大介さん(仮)は友情の力でバイオガンの弾丸を跳ね返し、壊れる銃。
 「今だ! ――飛べ、レッドホーク!」
 ジャンプの踏み台になる大介さん(仮)、ノリノリ。
 レッドホークは空中からトランザに会心の一撃を浴びせるが、しぶといトランザはレッドホークに組み付いてその自由を奪う。
 「おのれ!」
 「動くな! レッドホークの命はないぞ!」
 大介さん(仮)をレッドと篤い友情で結ばれたお友達だと思いこむトランザは、人質作戦で正義の味方の足を止めようとする、が……
 「……ふふふふふふふ。トランザ、しょせん貴様は流れ星! いかに輝こうと、墜ちる運命にあったのだ!」
 急に様子の変わる大介さん(仮)、最高に楽しそうです。
 「なに!? 貴様、いったいっ」
 「ふふふ、はぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
 「ら、ラディゲ……」
 「馬鹿な!」
 「レッドホーク、もはや貴様にも用は無い。2人揃ってあの世へ行け!」
 友情をあっさりドブ川に放り捨てたラディゲが怪光線を放ち、レッドは咄嗟に体を入れ替えて、トランザでそれをガード。 ダメージを負ったトランザを投げ飛ばすと、突撃してきたラディゲに振り向きざまのカウンターを浴びせ、返す刀でトランザを刺突。 再び振り返ってジャンプからラディゲを銃撃すると、続けてトランザも銃撃、 とシンプルながら赤の鮮やかな立ち回りが非常に格好いい戦闘シーン。
 直前までラディゲが全て持っていっていたのですが、ここできちっとヒーロー側に主導権を取り返しました。
 ……そしてラディゲ、あんなに盛り上がっていたのに、あっさりとレッドに撃退されているよラディゲ……(笑)
 バードブラスターの一撃でパワーグローブが壊れた事により、石版と化していた4人が復活し、 復活したジェットマンはファイヤーバズーカーで帝王トランザをシュート。直撃を受けたトランザは重傷を負って崖下へと吹き飛ばされる。
 「馬鹿な……この俺が、帝王トランザが……」
 その落下地点に待ち受けていたのは、手段を選ばず復讐を成し遂げたラディゲ!  ゴミ捨て場から這い上がったラディゲはその剣を倒れたトランザの手に突き立てると、愉悦の嘲笑を浮かべる。
 「トランザ。俺の名を言ってみろ」
 「ぁぁぁぁ、うぁぁ、ら、ラディゲぇ」
 「なぁにぃ? ――トランザ、俺の名を言ってみろ」
 「ら……でぃげぇ」
 「なに? 「ラディゲ」だとぉ?」
 最高にいい笑顔で、ラディゲはトランザの心身と尊厳をぐりぐりと踏みにじり、上から白い歯を剥き出しにするラディゲと、 愕然とした表情で何とか抜けだそうと藻掻くも絶望していくトランザとの対比が、実に素晴らしい。顔出しの悪役同士の絡みとして、 非常に良いシーンになりました。
 そして――――
 「ラディゲ様ぁぁぁぁぁぁ!!」
 帝王トランザ、職務上のストレスで、遂に崩壊。
 「そうだ! ――だが殺しはせん。人間として生きながら、一生俺の名を恐れるんだ! はははははははっ」
 意趣返しを完遂したラディゲは高笑いしながら去って行き…………後日、城東脳神経外科病院。
 「あの患者、まだ身元が分からないのか?」
 「ああ。酷いもんだよ。脳神経がズタズタにやられてる。一生あのまんまだそうだ」
 虚ろな表情でヨダレを垂れ流す車椅子の患者、その男の顔は……
 車椅子の男は閉鎖病棟に運び込まれていき、鉄格子の扉が閉じ、絶叫する男が取り押さえられる所でホワイトアウトして、つづく。
 衝撃の廃人エンドで、「もしかあの子が好きならば」どころではない!(笑)
 ジェットマン側に視点を戻して大団円、というのをやらず、衝撃のシーンのままエンド、というのを何度かやっている今作ですが、 その中でもとびきりの1本。
 トランザ廃人に、というのは、役者さんのアイデアだそうですが、役者さんの発案も凄いけど、 それを真っ正面から撮った東條監督も凄いし、プロデューサーサイドもよくOK出しました。
 で、こんな回のサブタイトルが「帝王トランザの栄光」で、それは車椅子の上の虚無である、というえげつなさ。
 トランザ退場編という事で、派手な立ち回りや各種コスプレを見せつつ、精神的には劇中随一のタフネスを誇るラディゲが再浮上し、 その邪悪さを強調する事で巧くトランザと入れ替わる、という構造。
 暴れるトランザ! 友情パワー! 愉しそうなラディゲ! レッド奮戦! 壊れるトランザ! と、 役者陣の熱演も重なって見所たくさん、『ジェットマン』最終章のスタートを飾るにふさわしい名編でした。

→〔その9へ続く〕

(2016年6月18日)
(2019年12月16日 改訂)
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