- ◆第13話「愛の迷路」◆ (監督:蓑輪雅夫 脚本:井上敏樹)
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何事も、エキセントリックな部分だけを抽出してさも本質のように取り上げるのはあまり宜しくないとは思うものの、
実に『ジェットマン』の『ジェットマン』たる要素が濃縮された凄い回。
竜が26歳の誕生日を迎え、スカイキャンプではささやかな誕生パーティが行われる。香が手作り料理を並べ、
その様子にジェラシーを見せる凱は不満げ。
純粋培養のお嬢様である香に料理なんて出来るのか? と思ったのですが、アコによると一ヶ月ほど料理教室に通っていたそうで、
ちょうど立ち上げ展開が終わった辺り(6話まで)で香の気持ちが明確に竜に向いた、というのが改めて裏打ち。
「おまえ、香の事、どう思ってんだ?」
成人男子として香の感情に気付かない筈はないだろうに、あくまで無頓着を装う竜に正面から豪速球を投げつける凱だが、
竜はいつもの決まり文句でそれをかわそうとする。
「俺たちは戦士だ! 俺も香も戦士なんだ……ただそれだけだ!」
「ふざけるな。てめぇはいつもそうだ。なぜ本音を吐かねえ。俺たちは戦士である前に人間だ! 男と女だ!
それとも何か……おまえ、一度も女に惚れた事がねぇってのか」
凱は知らず、竜の狂気の根っこをつついてしまい、亡きリエの事を思いだして無言になる竜に掴みかかる。
「これだけは言っておく。俺は香に惚れてる。必ず香をおとしてみせる。誰にも邪魔させねぇ。お前にもな!」
(凱、おまえにはわかるまい。俺だって……)
・・・しばらくバカップルの回想シーンをお楽しみ下さい・・・
リエの弾いていたピアノ――ピアノソナタ第23番ヘ短調OP.57「熱情」(ベートーベン)、の響きを思い出す竜。
(なぜ死んだんだリエ……もう一度、もう一度おまえのピアノが聞きたい……)
竜は「戦士である自分」という虚像を作る事で自己防衛しているので、「戦士である前に人間」という事を認める事が出来ない。
そして極めて純粋に“人間”である凱は、その歪みにどこか気持ち悪さを感じている。
凱は竜の虚飾に本能的に気付いているけど、それこそが戦いの原動力である為に、竜はその指摘を受け入れる事が出来ないというのが、
物語の土台に組み込まれていて、改めて良く出来た構造です。
その頃街では、マリアが作り出したカメラジゲンによって、人々が次々と写真の中に吸い込まれ、消失していた。
自信満々の経過報告会ではラディゲがまたもマリアにセクハラし、そんな事はどこ吹く風で、人差し指一本で拙くピアノを弾くグレイ。
「変なやつだよな……ロボットのくせに音楽を愛するなんてさ!」
引き込まれるようにピアノに近づいたマリアはそれを華麗に奏で、そんな自分に困惑する。
そのメロディは――「熱情」。
スカイキャンプでは、香が手編みの真っ赤なベストを竜にプレゼントする。が……
「受け取れないな」
「え?」
「すまない。でも、どうしても受け取れないんだ」
凄いなぁ。
軽快で楽しげなBGMが一転、一気に悲しいメロディに変わり、走り去る香、それを追いかける凱。
「どういうつもりなんだ竜! 香さんを傷つける奴は、僕が許さない!」
(すまない香……俺は、俺はリエの事が……)
「前にも言った筈だ! 惚れるんなら俺に惚れろってな! 俺を見てくれ! 俺を見ろ! おまえに惚れてる男は、ここにいる!」
香を抱きしめた凱は、強引にキスをしようとして、平手打ちを浴びる。
……凄いなぁ(笑)
「何故だ……なぜ俺の気持ちがわからねぇ!」
そこへ雑魚兵士を引き連れ、姿を現すマリア。
「ははは、お邪魔だったかしら、ジェットマン」
一方、スカイキャンプでは竜にくってかかった雷太が、なぜか香に押しつけられてしまったベストを見つめてうなだれていた。
「つらいもんですね、アコさん」
「何が?」
「自分の好きな人が……他の誰かを好きだなんて」
香、モテすぎ……はまあヒロイン特権として仕方ないとして、女子高生に恋愛相談するな。
バイラムではグレイがマリアを真似てピアノを奏で、それをBGMにカメラジゲンが香と凱を襲撃。
誕生日を祝われる→一方的恋敵に突っかかられる→死んだ女が忘れられない→プレゼントを突っ返す→
暴走気味に言い寄った男がはたかれる→もっさい第三の男も恋心を告白
と泥沼ジェットコースター展開の一方で、今回も充実の生アクション。激しい戦闘の末に追い詰められる2人だが、
3人が救援に駆けつける。しかしカメラジゲンのレンズビームを浴び、香が写真の中に閉じ込められてしまう!
「私の思い出となれ、ジェットマン」
マリアは香を幽閉したアルバムを見せつけて高笑いし、ひたすらピアノを弾いているグレイの背中で、つづく。
……凄いなぁ(笑)
サブタイトル通りに愛と(隠れた)狂気が複雑に絡み合い、それを蓑輪監督も腰を引かずに演出し、お見事。
- ◆第14話「愛の必殺砲(バズーカ)」◆ (監督:蓑輪雅夫 脚本:井上敏樹)
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次々と人々を写真の中に閉じ込めていくカメラジゲン……水着モデル、若い女の子達、新婦(この時は新郎も込みだったけど)、
お嬢様、ウェイトレス、テニス少女、という偏ったラインナップには、明らかに趣味を感じます。
凱は高笑いするマリアに土下座を敢行し、香を助けてくれるように懇願するが、蹴られ、踏まれる。
「まだまだ頭が高いわ。おまえに礼儀というものを教えてやる!」
前回今回のマリアはSっ気たっぷりで、如何にもな女幹部、という描写。
更にマリアは「面白い。香を元に戻したければ、レッドホークの首を差し出せ!」と凱をけしかけ、一度は竜に掴みかかる凱だが、
さすがにそれは思いとどまる。香を欠き、凱は動揺が激しく、ただでさえ基準値の低いチームワークがますます低下するジェットマンだが、
小田切長官は1人冷静に、カメラジゲンの弱点を分析していた。
カメラジゲンはその構造上、レンズビームを放つ時にシャッターが開き、内部が丸出しになる……そろそろ面倒くさくなってきたのか、
街を大胆に破壊するカメラジゲンの前に立ちはだかった4人は、その弱点をついてビームを一斉射撃するが、
そこへ現れたグレイがビームを弾き、雷太とアコまで写真にされてしまう。
「なぜ……なぜ私に手を貸した? グレイ!」
「マリア……おまえのピアノは素晴らしかった」
と、これまでバイラム幹部陣の中では一歩引いた立場だったグレイがマリアに急接近し、敵幹部の関係にも変化が。
「残された手段は、これしかない。グレイを弾き飛ばし、なおかつ、カメラジゲンを粉砕できる必殺武器を作る!」
小田切長官の指示でバギーを改造する竜と凱だが、通信ジャックによるマリアの挑発に乗った凱が途中で飛び出してしまう。
バイクで走っている所に攻撃を受け、今日も凄い勢いで横回転して吹っ飛ぶ凱。
飛んでいる時はスタントだと思われますが、凱(とブラックコンドル)は実によく、回ります。
孤軍奮闘の凱は遂にカメラジゲンによって撮影されてしまい、そこに改造を終えたバギーで駆けつけるレッドホーク。
レッドホークはバギーを変形させて必殺兵器・ファイヤーバズーカを構えるが、
マリアはジェットマン達を捕らえたアルバムを人質に突き出す。
(香、凱、雷太、アコ、みんなの命、俺が預かった! 一か八か……俺1人で、ファイアーバズーカの衝撃に耐えられるか)
だが、キチガイに人質は通用しない!
「レンズビーム!」
「ファイヤー!」
二つのビームがぶつかり合い、再び助っ人に駆けつけるグレイ……本人の意図はさておき、
映像的にはカメラをかばっています(笑)
ファイヤーバズーカの一撃はグレイの防御をも突き破り、カメラジゲンの内部機構を破壊。写真にされた人々は解放され、
ジェットマンの反撃開始。バズーカの砲撃で右腕を失ったグレイvs赤、というのはなかなか面白い戦闘。
マリアは白と青の連続攻撃で吹き飛び、カメラジゲンに対しては、「コンドル」「オウル」「「タワーリングアタック!」」という、
珍しい黒と黄の連携攻撃が炸裂。
弱った所をファイヤーバズーカでトドメを刺されたカメラは巨大化するが、イカロスハーケン火の鳥で瞬殺。
戦闘シーンより、合体バンクの方が長かったぞ(笑)
こうして新兵器により窮地を脱したジェットマンだが、概ね役立たずだった凱、池に石を投げてたそがれる。そんな凱をフォローする竜。
「大丈夫か、傷の方は」
男にハンカチ出されても、凱でなくても嬉しくない!
「竜、私、あなたが、私の事をどう思おうと……私はやっぱり、あなたが好きです」
そして改めて、香は竜にストレートに自分の気持ちを放り投げ、凱はノーヘルでバイク爆走から、転倒スタント。
倒れたバイクのオイル漏れの描写など、凱の心情を巧く表しているのですが、今は出来ない映像だろうなぁ、これ。
「香……なぜだ、なぜ、俺の気持ちが通じねぇ!」
……まあ、勝手な男ではあります(笑)
基本的にジェットマンって香と凱がもう少し自制すると表向き丸く収まるわけですが、敢えてそこを丸く収めない所に「ヒーロー性」
のアンチテーゼとしての「人間性」を置いているというのが意欲的であり、一方、肝心の「ヒーロー性」が「狂気」
と連動して描かれているというのが、今見てもなかなか刺激的な所であります。
グレイは右腕とマリアを拾うと、「熱情」をバックにお姫様抱っこして歩み去り、急上昇するマリアのヒロイン度と、
グレイの格好良さ!
なおグレイの右腕はがしっとはめたら、すぐに再結合しました。マリアは白と青の連係攻撃でばっちり気絶しており、
割とピンチだった、バイラム。
という事で、イベントとしては合体武器登場編なのですが、1〜6話までの第1章→単発エピソード集、と来て、
再びメインライター井上敏樹の筆により『ジェットマン』はこういう方向性ですというのを、
力強く宣言したエピソード。
- ◆第15話「高校生戦士」◆ (監督:新井清 脚本:渡辺麻実)
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あまり厳密に触れるとややこしい事になるので、これまで避けてきたアコの学生生活にスポット。普段は脳天気に見えるアコだが、
ジェットマンである事は親友にも言えず、スカイキャンプからの呼び出しがあればクラスメイトを誤魔化して……
となかなかややこしい日常生活を送っていた。
そんな中、女のお喋りのエネルギーを奪い、破壊超音波に変えるボイスジゲンが出現。
親友キョウコが声を奪われそうになりそれを助けるアコだが、ジェットマンへの変身を躊躇っている内に結局親友の声を奪われてしまう。
怒りに燃えるアコはボイスジゲンに再び立ち向かうが、変身をキョウコに見られてしまい、動揺。
4人が駆けつけてボイスジゲンは逃走するがアコもまた親友の前から走り去り、そして親友の元には、小田切長官がやってくる。
…………あれ、秘密を知った親友、消される?(笑)
どうすればボイスジゲンを倒し、親友の声を取り戻せるのか……ボイスジゲンが女性の声ばかり集めている事に気付いた雷太が一計を案じ、
女装して囮になった上で近づいてきたボイスジゲンに至近距離で大声を浴びせる事で、弱体化に成功。
そして、長官から事情を聞いたキョウコが、元に戻った声でアコに声援を送る。
「ジェットマンでも、アコはアコじゃない! 私達は親友よ!」
何か色々、契約書にサインさせられたんですね。
一、乙はジェットマンの秘密を決して口外しない事を誓約する。
一、仮にジェットマンの秘密が世間に漏れた場合、乙は即刻軍法会議にかけられるものとする。
一、・・・
みたいな。
ところで何故か、長官が出番はあるけど不自然に一言も喋らないのですが、なにか事情があってアフレコに参加出来なかったりでもしたのか。
ボイスジゲンは、親友の声援で力を得たブルースワローの攻撃から、ファイヤーバズーカで爆殺。
ロボ戦では超音波に苦戦するもロケットパンチで拡声器を破壊し、バードニックセイバーで斬殺。ちょっと尺がありました。
後日、声を取り戻した親友と無事に合唱コンクールに出場するアコだが、途中でスカイキャンプから呼び出しを受け、
さりげなく親友のフォローで退場。親友の理解と声援を背に、アコは今日もブルースワローとして戦いに赴くのであった……でオチ。
脚本は初めて聞く名前だったのでちょっと調べてみたら、主にアニメ畑、東映特撮/戦隊シリーズには『ターボレンジャー』
『ファイブマン』から連続参加でした。内容は、可も無く不可も無く、という出来。
- ◆第16話「紙々の叛乱」◆ (監督:新井清 脚本:荒木憲一)
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どうも五文字縛りでやっているらしい今作としては、割と凝ったサブタイトル。
(※サブタイトルの文字数は、新聞のTV欄の関係との事)
そして今回は、長官、喋った!
トランの作り出したカミジゲンの能力により、絵や写真からその一部が抜けだして実体化、世間を騒がせる。
著名な画家である間吹の絵から実体化した亡き娘・静子は、絵に込められた画伯の想いにより凶暴化する事なく、
そのオカリナの音色が危篤状態の間吹を救うのであった……と怪人の能力に絡めつつファンタジックなエピソード。
この手のエピソードはどこでひねってくるか次第な所があるのですが、全くひねらず、非常にストレート。今作、
井上敏樹パートが色々エキセントリックなので、1話完結エピソードはあまり捻らないように、というオーダーでも出ていたのでしょうか。
映像的には、漫画家の描いた絵からドーベルマンが飛び出したり、料理本の写真から実体化したスパゲティが人を襲ったり、
映画のポスターから怪物が出現したりと、なかなかバラエティに富ませて、面白かったです。
折り紙のやっこんさみたいなデザインなのに、割と強力だったカミジゲンは、巨大戦でも幻影攻撃でジェットイカロスを翻弄し、
ロボが少しずつ苦戦するようになってきました。バードニックセイバーの輝きで本体を炙り出されて一刀両断され、
ダメージは与えてないんですが!(笑)
(静子さん、お父さんは元気になったよ、良かったね)
ラスト、肖像画に話しかける竜が、間吹家の思い出のオカリナを懐に収めて帰るのは謎(笑) 返せ。
次回――いきなりですが予告復活。
そして遊びほうけていたバイラム4幹部の前に、まさかの上司復活。更にラディゲ、
度重なるセクハラ訴訟でいきなりのリストラ。裏次元伯爵の明日はどっちだ!
- ◆第17話「復活の女帝」◆ (監督:坂本太郎 脚本:井上敏樹)
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女性陣の買い物に付き合わされていたジェットマン男衆。ここ2話ほど真面目に地球の平和の為に戦っていた凱は、
アコと水着を選びながらきゃっきゃうふふしている香を見ている内に何やらゲージが溜まってしまったらしく、突然、
香の手を引くと二人きりでエレベーターに乗り込んでしまう。
「ただ突然、二人っきりになりたくなった。それだけの事だ」
慌てて後を追った3人は隣のエレベーターに乗り込み、香を心配する雷太を煽るアコ(笑)
エレベーターの箱の中、という限定空間を切り取り、2人の乗った箱と3人の乗った箱を交互に映すというのが、
なかなか面白い雰囲気の映像になりました。
そんな時、地表に隕石が落下し、首都圏広域で機械類の故障とそれにともなう停電が発生。5人もまた、
エレベーターの中に閉じ込められてしまう。
凱はおもむろにマッチで火をつけ、その明かりにほっとする香だが、凱はあっさりと火を消してしまい、
その表情にちょっと後ずさる香……とアダルティ(笑)
「ガキの頃ママに習わなかったか? 男は狼ってな」
自分で言うと、かなり恥ずかしいぞ、それ!
「俺の気持ちはわかっている筈だ。答えてくれ。俺の事が好きか! ……嫌いか」
凱が懲りずに香に言い寄る一方、隣のエレベーターではアコがひたすら雷太を煽っていた(笑)
凱への批難が口を突く雷太をたしなめる竜だが、雷太はそれに反発する。
「竜なんかに僕の気持ちがわかるもんか! 香さんに好かれようとは思わない。僕なんか、ださいし、
格好悪いし…………だから決めたんだ。せめて、香さんを守ってあげよう、って」
「雷太、おまえ……」
ひたすらモテる香、蚊帳の外で可哀想な女子高生。
メンバーの恋愛事情からは一歩引いた位置に居る未成年ですが、なんだかんだ停電中に竜の腕を掴んでおり、
この局面で頼りになる男をしっかり判断しているのが、侮れない所です。
まあアコはアコで無差別に煽りまくるので、実は割と無駄な火種を生んでいたりするんですが(笑)
竜が雷太の気持ちを知った頃、隣のエレベーターでは凱が香に、「好きとか嫌いとか考えた事もないからごめんなさい」されていた。
竜を「強い人」と言う香に対し、凱は「頭が固いだけのつまらない男」とくさして、香から「仲間の悪口を言う最低の男」宣告を受けるが、
それはむしろ、凱の望んだ反応であった。
「そうだ、それでいい」
「……え?」
「好きでも嫌いでもねぇって言われるより、いっそのこと嫌われた方がすっきりするぜ! もっと嫌え!
もっともっと思いっきり嫌ってくれ!」
“好きの反対は嫌いではなく無関心”という言い回しがありますが、面白い、面白すぎるよ凱。
……しかしなんなのだろう、この番組(笑)
当時、子供に付き合って見ていた親御さんはどんな感想を抱いていたのか。
この年はメタルヒーローはメタルヒーローで、駄目な方向にやりすぎてしまった『特救指令ソルブレイン』だしなぁ……(^^;
『ジェットマン』と比べると『ソルブレイン』の方が一見真っ当なヒーロー物に見えますが、
『ソルブレイン』は作品の縛りにこだわりすぎて“ヒーロー性”を投げ飛ばしてしまった作品なので、
実のところ『ジェットマン』の方がヒーローを正面から描こうとしている、というなかなか歪んだ組み合わせでもあります。
「香さん、無事でしたか?! 何か、変な事されませんでしたか?!」
停電が復旧してエレベーターが一階に辿り着き、再会するや凱に詰め寄る雷太。
「なんだこの野郎! 人を痴漢みたいに言いやがって!」
だが割と、事実である。
そして2人の間に割って入る竜(キチガイ)が、段々と頼りがいのある男に見えてくるという恐ろしい構造(笑) 竜は竜で、
感情の一部が死んでいるだけなんですが。
長官から連絡を受けて、落下した隕石の調査に向かうジェットマンだが、そこには一足早くラディゲの姿があった。
《我は、母なり。万物の創造と破壊を司るもの。我は、母なり》
「この声は、まさか……まさか、ジューザ。女帝ジューザ」
そこへジェットマンがやってくるが、隕石が割れて謎の女が姿を現し、とりあえず吹っ飛ばされる5人。女はバイラムの玉座に座り、
ラディゲ、グレイ、トランの3人は跪いて傅くが、そこへ現れたマリアは「何この人、
わけわかんないわよ?!」という視聴者と同じ反応を見せ、他の幹部と差別化される。
「この御方は女帝ジューザ様。我がバイラムの、頂点に立つ御方だ!」
バイラムの支配者の権利を賭けて地球でゲームを楽しんでいた4人だが、そう……実はバイラムには不在の最高権力者が居たのである。
と、悪の組織の手抜きの理由付けと、作品世界の背景設定を噛み合わせつつ、新キャラ登場。
裏次元侵略戦争の激戦の中で姿を消し、死んだものと思われた女帝ジューザだが、
実は幾つもの次元世界を征服した後に自ら長い眠りに入り、新しい力を得て復活したのであった。
(こ、これは……まさか、まさか……)
ジューザの身につける、明滅する卵のようなものに目を留めるラディゲ。
「ラディゲ。見てなさい。私はこの世界を地獄の底に叩き落とす。今の私には、人間どもの苦しみや悲しみが必要なのよ!」
こうして帰って来た女社長だが、営業のノルマがきつかったりしたのか、凄く、不評。
グレイこそ無反応ではあるものの、いつもの休憩室で堂々と悪口を言い合う幹部達(笑)
「このラディゲ、今更ジューザのもとで働くつもりはない。必ずこの手で奴を倒す。奴がセミマルを生み落とす前に」
ジューザが身につけていたのは、一瞬で大地を割り天を焦がすという、究極の魔獣・セミマルの卵。
セミマルは人間の苦しみや悲しみを吸収する事で成長し、受胎する。その為にジューザは地上に幻影を飛ばすと、そこからビームを放ち、
それを浴びた人間が激痛に藻掻き苦しむとその体から透明な結晶体が生じるのであった。
肌を突き破って出てくる結晶は、血糊も用いて、なかなかのグロ演出。子供が地面でのたうち回ったり、かなりハードめの描写で、
苦痛がよく表現されています。
卵を成長させながら高笑いするジューザの前に立ちはだかるジェットマンだが、またもあっさりと蹴散らされ、
香をかばった凱が結晶ビームを浴びてしまう。更に突然現れたラディゲがジェットマンを叩きのめすが、その真意は、
ジューザに変わらぬ忠誠を捧げていると油断させ、不意を打って襲いかかる事にあった。
だが、圧倒的な強さを見せるジューザはラディゲを翻弄。更に本性である魔獣の姿に変身すると赤色光線を浴びせ、
空中で回る回る超回るラディゲ。
ひたすら空中で縦回転を続けるラディゲですが、どうやって撮っているのだろう……? 吊って横回転している所を、
縦に見せているのかぁ……景気良く回転していて結構凄い(笑)
「おまえには最も屈辱的な罰を与えよう。人間の姿になり、虫けらのように生きるのだ」
ジューザの力によりバイラムから追放されたラディゲは、白いジャンパー姿で海岸に転がると、
エフェクトのかかった美少女に拾われる……。
一方、結晶ビームの作用により激痛に苦しむ凱の体からも結晶が突き出し、凱はスカイキャンプを飛び出していくのであった……と、
かなり盛り上がって次回へ続く。
- ◆第18話「凱、死す!」◆ (監督:坂本太郎 脚本:井上敏樹)
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かなり掟破りの5文字(笑)
「けっ! 同情か!? 責任感か!? そんなんで優しくされるのは真っ平だぜ!」
追いかけてきた香を振り払う凱は、身勝手だけど誇り高く、気ままに生きたいけど負け犬にはなりたくない、
と実に男の面倒くささが凝縮されています。
ジューザの持つセミマルの卵は順調に成長していき、凱も含めてそれを止めようとするジェットマンだが、
全身から結晶の突き出た男が巨大な結晶体に変わるのを目撃した凱が、走り去って姿を消してしまう。
その頃、人間の姿にされた上に記憶を失ったラディゲ――大介(仮名)――は、早紀という少女に拾われ、
ときめきエフェクトのかかった世界で、記憶も無いのにバイクでツーリングしたり、海でたわむれたりと、なんだか休暇を楽しんでいた。
大介(仮名)の記憶が戻りますように、とスミレガイに祈る早紀だが、突然、倒れてしまう。実は早紀は不治の病により、
余命半年を宣告されている体だったのだ。
「何故、俺の為に祈った……何故、自分の為に祈らなかった」
「私の願いは……かないそうにないから」
「死ぬな。生きてくれ。君は、君は死んではならない人間だ。死ぬな、早紀!」
大介(仮名)が人間の為に祈ると、早紀の体を不思議な光が包み込む……。
一方、手分けして凱を探していたジェットマンでは、木の根元に横たわる凱を香が発見。
「寄るな! 死ぬ時は……独りで死にたい」
「なにを言ってるの! 死ぬなんて……諦めちゃ駄目!」
「へっ。まあそうマジになりなさんな……俺が死んでも、空は青い。地球は回る」
改めて見ると、この時点から仕込んでいたのか、恐るべし。
軽口を叩いてみせる凱だが、結晶化した男の姿を見たその内心は恐怖に満ちており、香を前にその感情が噴き出す。
「香……怖いんだ。本当はどうしようもなく。死にたくねぇ! 死にたくねぇぇっ!!!」
顔を歪めて絶叫する若松さんの演技も素晴らしいし、惚れた女の前で格好つけたいけど、同時に惚れた女には甘えたい、
という男という生き物の姿が短いやり取りの中に凝縮されていて、非常に良いシーン。
形骸化しつつあったヒーロー物において、そのフォーマットを抑えながらも、結城凱という男を通して“生身の人間”を描き出そう、
という『ジェットマン』の野心的試みが一つ実を結んだ、記念碑的瞬間。
放映後20年以上経っても、今なお『ジェットマン』が語り継がれる理由の一端がここにあるのだと思います。
香に抱きしめられた凱はやがてふらふらと立ち上がり、フレームの外に出ると、画面外で絶叫。
香の見つめる先には――ただ巨大な結晶体が立つだけだった……。
その頃、バイラムでは幹部達が困っていた。
「どうするつもりだお前達、このまま一生、ジューザに従っていくつもりか!」
「辛いよなぁ、それは……」
トランだけではなくグレイも嫌そうで、女帝様はなんでこんなに嫌われているのか(笑)
根本的に、仕事したくないのか。
バイラムがどんどん、自由に遊びたい駄目人間の巣窟になっているその頃、イケメン化した裏次元伯爵は、
奇跡の快復を遂げたお嬢様と海の見える別荘でイチャイチャしていた。
「貴男はきっと、素晴らしい人生を送ってきたのよ。でなきゃ、神様があんな力を与えてくださるわけないもの」
見つめ合い、抱きしめ合う二人。
「もう、過去の事はどうでもいい……」
青春のときめきに流され、このままヒモとして生きる道を選ぼうとする大介(仮名)だが、
順調にセミマルの卵を成長させるジューザの高笑いに共鳴するかのように、頭痛に襲われる。
まるで呼ばれるようにジューザとジェットマンの戦場に辿り着いた大介(仮名)は、ジューザ、そしてレッドホークの姿を見て、
記憶を取り戻す。
「我が名はラディゲ! バイラムの、幹部」
偉い人に逆らおうとしている割には、何故か配下根性が染みついた「幹部」発言に、バイラムの上下関係の厳しさが見て取れます。
女帝ジューザはこれ、組織のボスというより、嫌な部活の先輩みたいな扱いか(笑)
引退した筈の嫌な先輩が帰ってきて顎で使われるようになった、という状況だと考えると、バイラム4幹部の態度が腑に落ちます。
記憶を取り戻したラディゲは、凱ばりのバイクアタックでジューザを不意打ちすると、いつもの姿に戻り、戦闘開始。
その姿を早紀に目撃される。
「ジェットマン撃て! ジューザの額の結晶を狙うんだ!」
ジェットマンはつい、言われた通りに一斉射撃(笑)
「今よ! 凱、私に力を貸して!」
よろめいたジューザにホワイトスワンの一撃が炸裂して結晶が両断されると、結晶化された人々が回復。怒りのジューザは魔獣化し、
ブラックコンドルの代わりにジェットマンと一緒に吹っ飛ばされるラディゲ(笑) 倒れた5人に迫る魔獣ジューザだが、その時、
不意の砲撃がその足を止める。
全日本もう仕事したくない連合もといバイラム3幹部が、好機とばかり駆けつけたのだ!
マリア、トラン、グレイがそれぞれ格好良くポーズを取り、なんだこの面白すぎる絵面(笑)
18話にして、敵味方が私利私欲の為に共闘するという、凄まじい飛び道具。
「貴様達まで……!」
更に復活した凱がジェットマシンから降り立ち、ブラックコンドルに変身して怒濤の連続攻撃を浴びせると、5人揃ったジェットマン、
トドメのファイヤーバズーカで、女帝滅殺。まさかの前後編で仕留められて短い栄華でした……と思ったら、
ぼろぼろになりながらもどこかの海岸に辿り着くジューザ。
「生まれる……生まれる、セミマルが……」
体から落ちた卵を手にするジューザだが、粘りはそこまで。現れたラディゲの剣がその喉を貫いてトドメを刺し、
とうとう嫌な先輩を片付けたラディゲは、セミマルの卵を手に入れる。
が……そこへ姿を見せる早紀。
顔を見て驚いたので、休暇中の青いメモリーは覚えているらしい(笑)
「お願い! 人間に、人間に戻って! 私は知ってる……貴男は戦いなんか出来る人じゃない。貴男は優しい人。……愛を知っている人」
早紀の言葉を聞くラディゲが、鎧兜の扮装はそのまま、表に出て青く塗っている部分だけ化粧をしないで人間の肌色になる、
というのは面白い心理描写。
だが……
「愛だと?! 馬鹿な。このラディゲが、そんな愚劣な感情を持つと思うのか」
ラディゲは剣を一閃し、早紀は青白い炎に包まれて消滅するのであった――。
「早く大きくなるがいい。破壊の王、究極の破壊獣よ!」
セミマルの卵からは、見た目大きめの芋虫という、セミマルの幼虫が誕生。ラディゲは密かに、恐るべき力を手に入れるのであった……。
敵キャラ増強かと思いきや、布石(セミマル)だけ置いて早々に退場という、予想外の展開。それにしてもどうして、
名前は「セミマル」なのか。
ラディゲは徹底的に落ちぶれるのかと思ったら意外なイケメンパワーを発揮し、その上で、人間的感情による甘さを見せたり、
いい人化のフラグが立つのではなく、交流のあった少女を惨殺する、という衝撃の展開。
ちょっと気になるのは少女が不治の病で、どのみちラディゲと会ってなければ半年の命であった事。
そういう点ではラディゲの謎パワーという裏技で助けた命をラディゲが自ら処理する事で、
運命は変わらないという精算をした事になっているのですが、基本的に不治の病というのは“ズルい設定”なので、
作劇としてはキャラクターに「どうせ死ぬ運命」を先に与えておく事で、受け手に言い訳をしているようにも見えます。
不治の病が治ったけど結局殺されてしまう、というのも確かに悲劇性は増しますが、ズルをしてまで付加するほどの効果はなく、
本当はもっと残酷な事をしたかった(病気の設定はなく単純に仲良くなった少女を殺害する)のだけど止められて、
残酷さを和らげるクッションの為の設定を足したのかなーとはちょっと勘ぐってしまう所。
その上で、与えた命を取るに足らないものと見逃すのではなく、敢えて断ち切る所には、存外ラディゲの余裕のなさが覗けて、
複雑な余韻を生んでもおりますが。
あと一つ注目したいのは、これまで実は、格好つけているほど格好良いシーンのなかった凱に、ラストの戦闘で大きな見せ場がある事。
どちらかというと身勝手で空回りしていた凱が、死の恐怖に怯える本音を吐き出してこれ以上無く“人間”の面を見せた上で、
クライマックスを戦士として格好良く締める。ヒーロー性と人間性の並立が計算して描写され、結城凱、
というキャラクターが一気に成立した傑作回でした。
次回……じいやはほんと、地味に出番多いなぁ。全然記憶に無かったけど。そして予告が安定して入るようになったのは、
信じていいのでしょうか。
→〔その4へ続く〕
(2015年4月22日/7月21日)
(2019年12月16日 改訂)
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