■『激走戦隊カーレンジャー』感想まとめ7■


“くるくるくるくる クリスマス
ますますますます ハッピータイム”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『激走戦隊カーレンジャー』 感想の、まとめ7(37話〜42話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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◆第37話「恐怖の大宇宙ハイウェイ計画」◆ (監督:田崎竜太 脚本:浦沢義雄)
 連戦連勝に浮かれ、スポーツ新聞の特集記事に喜んだり、赤と桃に変身した状態でペガサスカーで買い出しに行くなど、 なんだか緩み気味のカーレンジャーに、冬眠を終えて一皮剥けたダップはちょっとおかんむり。
 「なんだか、とんでもない事が起きそうな気がするんダップ」
 「カーレンジャーは、“なんだかんだ”いって、今日までずーっとボーゾックに勝ってきたじゃない」
 「これからも、“なんだかんだ”いって、ボーゾックに勝っていくでございます」
 メンバー間の雰囲気が良いカーレンジャーなので、相手の言葉をからかってもギャグになっていますが、下手な戦隊でやると、 戦争ですね……!
 ダップの回想にチュースポの見出しが重なり、
 「ボーゾックボロ負け記録更新!!」
 「宇宙一弱い暴走族」
 「総長ガイナモの作戦全部大はずれ!」
 これまでの敗北を噛みしめるボーゾックの戦績、1勝34敗2引き分け。
 なお1勝は今は亡き(いい加減、あれでリタイアと認めざるを得ないようです……) リッチリッチハイカー教授がブレーキングであげたものであり、ボーゾックはまさに暗黒時代。
 「あーあ……ボーゾックやめて真面目になっちゃおうか?」
 「そうだなぁ……土星でおでん屋でもするか」
 「暴走族が落ち込んでどうする」
 弱気になって就職を考え始める上層部だったが、その時、暗く重い声が響き渡る。
 「暴走魂を失った暴走族に、勝利は訪れない」
 声の主は、宇宙に浮かび上がる爆竹ローブの巨大な金色頭。その正体は――
 「余は全宇宙に君臨する、悪の支配者、暴走皇帝エグゾス」
 シグナルマン事件の影で暗躍していた存在がその姿を現し、「暴走皇帝」という通り名は凄く格好いいのですが、 とても頭が悪そうです(笑) 自称っぽいのがまた。
 「宇宙暴走族ボーゾックよ、悪の自信を取り戻せ。誇りある、暴走魂を忘れてはならぬ」
 割といきなり出てきたエグゾス(CV:小林修)ですが、やたら渋い声で、しごく真面目に、 どこかズレた台詞を次々と繰り出してくるのが面白い(笑)
 「お前達が負け続けた事は無意味ではない。ヒーローも人の子。勝ち続ければ必ず油断し、いい気になるもの。 そこを一気に叩けば」
 悪の組織は基本ヒーローに負け続けざるを得ない、という物語の構造上の必然を逆手に取る発想でエグゾスはボーゾックへとエールを送り、 じゃーーーん、と『ツァラトゥストラかく語りき』ばりの壮大な音楽が鳴り響いた所で、宇宙の彼方から飛んでくる……

 巨大な幼・年・誌(笑)

 「全宇宙の悪者に、余が毎月一回配っている、『宇宙ランド』の12月号と、 その付録の組み立て式ロボットだ。そのロボットで、カーレンジャーを倒すがよい」
 浦沢ぁぁぁぁぁ!! というか、高寺ぁぁぁぁぁ!!
 なんとなく浦沢先生というよりは、高寺さんが好みそうなネタな気がするんですが(笑)
 関連書籍も含めて切っても切り離せない関係にある幼年誌ブランドを悪に巻き込み、かくしてグラッチによって組み立てられる、 付録ロボ、ノリシロン−12。
 両腕に付いたそこはかとなくサイバトロンぽいマークと、胸に輝く12の文字が大鉄人ぽいのが気になります(笑)
 ノリシロン−12はグラッチが使い忘れた部品を一つ残したまま、ゼルモダをパイロットに地球へ向けて発進し、 それを見つめる暴走皇帝。
 (宇宙暴走族ボーゾックを使って、私の夢を完成させるのだ。どんなにスピード違反しても捕まることのない、 交通事故も起こし放題の、恐怖の大宇宙ハイウェイ。それを完成させる為には、邪魔なチーキュを、ボーゾックに爆破させるのが、一番)
 「恐怖の大宇宙ハイウェイ計画」ってサブタイトル時点では割と格好いい名称だと思ったのですが、 内容は割とセコいというか男の子の夢いっぱいというか、やはりこの宇宙で一番恐ろしいのは、 ロマンで生きている悪だなと改めて(笑)
 そしてハイウェイ建設の為に地上げならぬ地球を爆破というのは、今作は『銀河ヒッチハイク・ガイド』(というSF小説がある) だったの……?!
 もはや根っからの極悪人ではなくヒーローとのロマンス要素もありという立ち位置にシフトしたゾンネットが、 「チーキュを花火にしたい」と言い出したそもそもの元凶である、という事から目を逸らす為に巨悪の目的を設定している感じはありますが(^^;
 地球に降り立ったノリシロンにサイレンダーがいち早く戦いを挑み、見た目の割に警戒に動くノリシロンはミドルキックも披露。 口の中を光らせながら加速装置を発動してサイレンダーを倒したノリシロンの前に、ダップの心配をよそに調子に乗ったままのカーレンジャーがVRVロボで登場。
 「熱くなってはいかん。相手を思いっきり油断させるのだ。いい気になったヒーローは弱いものだ」
 エグゾス監督の指示を受けたゼルモダはVRVロボの攻撃をわざと受け、まんまと策にはまったカーレンジャーは勝利を確信。
 「手応えなさすぎって感じ」
 「そろそろ決めちゃうでございますか」
 「よっしゃ! ビクトリーツイスター!」
 ……まあ確かに、VRVロボの入手後、ほぼ全ての敵をVツイスターで瞬殺しているので、 力に溺れてしまうのはわからないでもありません。
 「今だ!」
 「加速装置!」
 全宇宙の悪者に毎月一回『宇宙ランド』を配っているだけあり、割と小まめに飛んでくる監督の指示で、 ノリシロンは華麗にツイスターを回避。敵が隠密能力で姿を消したと早合点したカーレンジャーはナビを発動して位置を見極めるが、 振り向きざま安易に放ったVツイスターが盾にされたサイレンダーを直撃。狼狽した隙にノリシロン暴走斬りの直撃を浴びてしまう!
 自分たちの慢心を思い知るもトドメの一撃を受けそうになるカーレンジャーだが、グラッチが割りピンを一つ使い忘れていた事で、 絶体絶命の危機にノリシロンが故障。奮起の反撃によりなんとか撤退させる事に成功する。
 「エグゾスに失敗を許す心は無い!」
 グラッチは監督からお仕置きビームを浴び、嫌な上司が登場してボーゾックちょっと殺伐。某次元船団なら、 一時的に友情パワーに目覚めた幹部達が一致団結して全力で排除しようとする展開です(笑)
 地球では、ノリシロンの腕についていたサイバトロン、ではなく暴走皇帝のシンボルマークに気付いたダップが、 悪の星座伝説の力を受け継ぐ者として、暴走皇帝エグゾスについて説明。
 「調子に乗りやすいというカーレンジャーの弱点をついてきた、恐ろしい敵ダップ」
 反省を見せる5人だが、パトロールをしてから帰還した青緑黄がついでにジュースを買ってきてダップ激怒。 反省はするし行動でも示すけど張り詰めすぎず、5人はあくまでカーレンジャー、という姿で、つづく。
 最終章へ向け、悪玉サイドがまさしくモデルチェンジしてきたのですが、 星座伝説と繋げて宿命の敵という要素を強調するなど悪意の根源としてそれとなく責任を押しつけつつ、 攻撃の緊張度を上げると共に正義のヒーローの慢心も描き、それを乗り越えながらも根幹で重苦しくなりすぎない(けれど使命感は強い) カーレンジャーを描くという、善悪両サイドをきちっと対応させて物凄く盛り沢山に詰め込んできた見事なエピソード。
 途中で特大のギャグもぶち込み、田崎監督も巧くまとめましたが、“戦隊らしい圧縮”に慣れてきた浦沢先生がさすがの筆力。
 次回――「狭い道では……通行の邪魔すんなぁ!」。

◆第38話「バックオーライ!? イモヨーカン人生」◆ (監督:田崎竜太 脚本:曽田博久)
 洋子のロマンス(?)回という予告からてっきり荒川さんかと思ったら、第18話(りんどう湖で産業スパイ)以来となる曽田さん。
 冒頭、男のロマンを達成する為にボーゾックの後援についた暴走皇帝エグゾスが、 相変わらず酒場でうだっているガイナモ達にお仕置きビームを放つ姿が描かれ、一方、その存在を察知した地球では……
 「ボーゾックには、暴走皇帝エグゼスという凄いスポンサーがついた」
 暴走皇帝エグゾス=口うるさいスポンサー、といういきなりのドロップキック。
 今作の参加がラスト戦隊になる曽田さん(この年、杉村升らとフラグシップを設立)ですが、 何やらリミッターが道ばたに投げ捨てられています(笑) 『特捜ロボジャンパーソン』での東映特撮復帰後、 メインライターの軛を外した曽田さんは、色々と凄い。
 これからも頑張るぞ、と円陣を組むカーレンジャーだったが、理想の男性と運命的出会いをするという占いを見て妄想の翼を羽ばたかせる洋子が、 結婚してカーレンジャー辞めるかもと宣言し、早くも乱れる足並み(笑)
 だがボーゾックでも、思わぬ問題が発生していた。芋羊羹作りに疲れた芋長の主人が引退を宣言して店を休業し、 貴重な巨大化成分である、芋長の芋羊羹が手に入らなくなってしまったのである!
 チーキュ侵攻を始めて半年以上になるのに、未だに必要に応じて買い出しに行っていたというのが凄いですが、職人の味は、 グラッチをもってしても再現不可能なのです。
 焦るボーゾックに対してエグゾス監督は、流れ星を原材料にした悪の若返りパックを提供。芋長の主人にやる気を取り戻させる為に、 ボーゾック一のメイクアップアーティスト・PPチープリが地球へと向かう。
 チープリは割れ顎に青ヒゲが目立つオカマキャラで顔のインパクトが強いのですが、ほぼ人間の顔で怪人感が極めて薄く、 デザイン上の苦闘が窺えます(^^; そして声が飯塚昭三という飛び道具。
 プリが使用した顔パックにより芋長の主人は50年前に若返り、それを見た奥さんは気絶。混乱してその場を逃げ出した主人は、 雑誌に書かれた運命の場所で張り込んでいた洋子と衝突してしまう。
 「タイプ……!」
 洋子から熱烈なアタックを受けた芋長は、自分が若返る事になったのはもしかして運命なのかも……! と若い女の子に目がくらみ、 気絶した奥さんを家に放置したまま、イモタクを名乗ってデートに突入(おぃ)
 とにかく戦隊に限っても執筆本数がとんでもないので偶然かとは思いますが、『科学戦隊ダイナマン』の曽田脚本に、 戦時中に軍の命令で毒ガス兵器を作るのを拒否して逃亡した事から青春時代を失っていた老科学者が悪の組織の陰謀で若返ってしまい、 その効果が切れるまでの1時間少しを、お互い事情を知った上でダイナピンクと束の間のデートで過ごす、という渋い佳作があるのですが、 プロットが近いのに、全く真逆の台無し感(笑)
 「洋子さん、僕と一緒に、ケーキ屋さんをやりませんか?」
 若い頃の夢を思い出した芋長はハイウェイを暴走し始め、計画の狂いに慌てて止めに入ったプリを相手に腕っ節の強さも見せる大活躍。 カーレンジャーが駆けつけてプリは一時撤退するが、そこに意識を取り戻した芋長の奥さんもやってきて……
 「その人が私の、亭主なんです」
 「は?!」
 「変な宇宙人が、うちの人を若返らせたんです」
 大変ややこしい修羅場に(笑)
 カーレンジャーは気絶した洋子をそそくさと連れ去るが、それを追いかけてくるイモタク。
 「洋子さん、あの、僕たちもう一度、冷静に話しあいませんか?!」
 「そんな……あなたには奥さんが居るじゃ」
 「そうですよ」
 「あ、婆さん!」
 「お爺さん……あんまりじゃありませんか! 私達の50年の人生はなんだったんですか……」
 都合良く奥さんは気絶したままかと思ったらガッチリ話に絡んできて、もはや魔球……!
 落涙する奥さんと、突然の若返りに混乱状態と座り込む芋長の二人をなだめていた恭介達は、 そもそも一体どうしてこんな事になったのか、とボーゾックの行動に疑問を抱く。
 「ドキ! 一般市民までが疑問を持ち始めたプリ。芋羊羹でボーゾックが巨大化する秘密に気付かれたら、大変プリぃ!」
 果てしなく頓珍漢な方向へ転がっていくのかと思いきや、善玉サイドの基地バレ・正体バレ的な危機意識を悪玉サイドが抱く、 という絶妙な話運びで、『カーレン』ワールドを汲み取りつつも、曽田さんはどこか“戦隊”である事に真面目なのが、 個人的にしっくり来ます。
 ボーゾック怪人にしては頭の回るプリは、真の目的から目を逸らす為に自らカーレンジャーの前に飛び出すと、 芋長の主人が被害にあったのはたまたまで、無作為に人類を若返らせて地球を混乱に陥れる作戦なのだ、と5人を騙す事に成功。
 今作の作風と曽田さんの経歴を考え合わせると、ヒーローに向かって計画をベラベラ喋る悪の怪人、を逆手に取った熟練のメタギャグ、 という要素もあったのかもしれません。
 何故か無人の競馬場をパトロールしていたシグナルマン(80〜90年代作品にはしばしば登場しますが、 近年あまり競馬場で撮影しなくなったのは何故なのか)は、カーレンジャーを引きつけて逃げるプリと遭遇。
 「ボーゾック! 本官の許可なくそんな不細工な顔で走り回ってはいかぁん!」
 誰もが思ってはいたけど言ってはいけない事を情け容赦なく突きつけた本官は、 人権侵害のお返しに若返りパックを浴びせられてまさかのシグナルボーイになってしまい……着ぐるみがちょっと可愛い(笑)
 そこにカーレンジャーが追いついてきて、英語主題歌をバックに戦闘開始。
 『メガレンジャー』『ゴーゴーファイブ』でも英語主題歌が劇中で使用された記憶がありますが、この時期の流行りだったのでしょうか (『パワーレンジャー』絡み?)。
 シグナルボーイと怒れるカーピンクの活躍もありプリを追い詰めるカーレンジャーだったが、そこに修理されたノリシロンが出現。 VRVロボで立ち向かうが、ノリシロンの強力な放電攻撃が街を破壊していき、逃げ惑う人々の中、落とした芋羊羹を拾い集める芋長夫人。
 「これは昨日、私とお爺さんが造った最後の芋羊羹。これが無くなってしまったら、お爺さんと私の絆が、本当に切れてしまうような気がして」
 妻の言葉に考え込んだ芋長は妻をかばって身を隠すが、その芋羊羹を拾い食いして、プリが巨大化。 シグナルボーイがサイレンダーで強引に参戦して2vs2の激戦のさなか、巨大プリの放った若返りパックがノリシロンを直撃して、 なんとノリシロンは付録に戻ってしまう(笑)
 残ったプリはVツイスターで木っ葉微塵にされ、爆発時に発生した煙を浴びて元に戻る本官と芋長。
 「婆さん……もう一度、おいしい芋羊羹作るの、手伝ってくれるかい?」
 大切なものに気付いた夫婦は無事に復縁、初心を取り戻した芋長の芋羊羹は、ますます美味しくなったと大評判に。 店を訪れた洋子達5人は「イモタクー!」と声をかけ、妻の視線を気にしながらもちょっと格好つけて手を振り返す、 そんな芋長主人と奥さんが目を合わせて微笑み合う、というラストカットは秀逸。
 そして結果的に、ボーゾックも当初の目論見が成功(笑) 代わりにノリシロンを失ってしまったので、 プラスマイナスはマイナスな気はしますが。
 久々の曽田脚本でしたが、今回も佳作。また、80年代戦隊の柱石だった曽田さんが50歳を迎えてのシナリオだと思うと、 何やら感慨深い内容でもあります。80年代曽田戦隊も補完していきたいなぁ。
 次回――終章前にキャラエピソード期間のようで、土門×不思議生物。「どんなに急いでいても、横断歩道では一旦止まりましょうね!」。

◆第39話「道路好き好き!! 宇宙ペット」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:曽田博久)
 ロマン系の悪役としてコレクター趣味もあったエグゾスは、チーキュのハイウェイは素晴らしいと、 大宇宙ハイウェイの一部に転用する事を計画。過去にも同様に様々な惑星のハイウェイを強奪して大宇宙ハイウェイに組み込んでいるようで、 この極めて趣味的な姿勢は割と好きです(笑)
 エグゾスはチーキュのハイウェイ入手の為に、コンクリートを食料とする宇宙生物ビーガーを宅配便で地球へ送るが、 ボーゾックはその回収に失敗。ペガサスの軒先にぶら下がっていた箱の中から飛び出した、 微妙に可愛くないビーガーに保護欲をかき立てられた土門は、同僚達の反対を押し切ってビーガーを飼おうとする……。
 「わたくしは君の味方です! 何があっても君を守ってみせます! 信じて下さい!」
 一方、エグゾスがチーキュに直接ビーガーを送ったのは、こき使いすぎて最後の一匹になってしまったビーガーをチーキュの環境を利用して増殖させる為であり、 ビーガー捕獲の為にボーゾック一の調教師CCパッチョーネがグラッチと共に地球へ。
 最近割とグラッチが動くのは、中盤しばらく出番がほとんど無かったりした関係でしょうか。今回は珍しく、 謎のブレスによる直接攻撃も披露。
 調教怪人にさらわれて、細胞分裂による増殖の為に宇宙モロヘイヤ水を飲まされていたビーガーを助け出した土門は、 弱ったビーガーを助ける為に、ボロボロになった歯を治療。実質的に歯医者を占拠して、 自家製の入れ歯を作り上げるちょっとアブない人に。
 基本的にはギャグで処理しているのですが、「一般市民」としては踏み外し気味(^^;  5人の中の1人としては良いアクセントになっているものの、個人としてはキャラが弱い土門という短所が出てしまい、 「暴発」させるしか無かった感じ。
 土門謹製の入れ歯をはめたビーガーは喋れるようになり、コンクリートを食べて回復。 自分たちがエグゾスによる徴用と制裁で絶滅寸前の生物である事を土門へ教える。
 「エグゾスは、何故そんな酷い事を?」
 「俺にもわからねぇ。でも、宇宙にやたらと道路を造っている事は、確かだビガ」
 「道路?」
 今後の展開に役に立つのかはさておき、予想外のルートから黒幕の情報が(笑)
 生身でパッチョーネに立ち向かう土門は、爆発の中で変身。土門達を逃がす為に時間を稼いでいた仲間達もそこに駆けつけ、 戦う交通安全、目撃者は抹殺だ!!
 青回という事で、怪人との戦闘に続いて、巨大戦ではポリスファイターが活躍。 チェーン攻撃からの電ショックを浴びるもビーガーがその鎖を食いちぎって支援する事で絆をアピールし、 反撃から必勝合体即Vツイスターで、目撃者は消えた。
 「直樹の優しい心が地球を救った」とまとめて一件落着するのですが、その生き物は、今後も地球で飼っていて大丈夫なのでしょーか(^^;  とりあえずコンクリートに限らず石でも食べられるようですが、何かの拍子に細胞分裂で増殖して文明崩壊の危機になるのでは。
 不思議生物との交流テーマに私の興味が薄いというのもあって可も無く不可も無いという印象でしたが、 宇宙生物の後処理が全く描かれずに投げっぱなしにされたのは気になりました。今作の世界観でいうと、 最終的にはシグナルマンのコネクションで何とかしてもらえそうではありますが。
 次回――2年連続シーズン最下位に終わった阪神タイガースに希望の火は灯るのか。「とにかく車に、注意や!」。

◆第40話「浪速ともあれスクランブル交差ロボ!?」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:荒川稔久)
 「余がアイデアと資金と材料まで提供した作戦だ。きちんとやれば必ずカーレンジャーは倒せる」
 あくまでボーゾックを矢面に立てて夢へ向けて邁進する暴走皇帝エグゾス、監督も楽ではありません。
 「ちょっとちょっとあんた! いっつもいっつも偉そうな事ばっか言ってるけど、あたし達をなんだと思ってんのよー!」
 「まあまあ、ゾンネットー。見ててくれー。今度こそ奴らを十字架にかけてみせるぜー」
 スポンサーがついて気が大きくなっているのか、珍しく洒落た台詞を口にするガイナモ(笑)
 一方地球では、恭介が出社すると、実は神社で必勝祈願中…………阪神タイガースの。
 「神様、今年もまたタイガースは駄目でした」
 こてこての関西人を突き進む実ですが、1996年当時の阪神タイガースは、85年を最後にリーグ優勝から遠ざかり、 87年から続く暗黒時代の真っ最中。この年は前年に続いて最下位でシーズンを終え、再びリーグ優勝(どころかAクラス入り) を果たすのは、2003年だよ実!
 他人事ながら辛い。
 そこにボーゾック発生の警報が鳴り響くが、カーレンジャーが目にしたのは、 ボーゾックから足抜けしようとしてゼルモダに追われるOOバットン。5人はとりあえずバットを助けてゼルモダを追い払い、 緑は戦闘中に自分をかばってくれたバットに心を許す……という、いい怪人?との交友エピソードなのですが、正体は秘密の関係で、 終始変身後の姿のまま怪人とやり取りする、というのは珍しいような。
 交友エピソードとしては、予告および「ボーゾックは普通に引退できる」という過去の事例から、 裏切りは偽装工作でありエグゾスの作戦の一貫、というのがわかった上でというパターン。
 バットが関西風タコ焼きを気に入ったのを喜ぶ緑は、頭に締めていたタイガース必勝ハチマキをプレゼントし、
 「なんか、俺ら固い友情で、結ばれそうやのぉ」
 この台詞と共に、ハチマキを結ぶ、というのが巧い。
 バットはいかにもカーレンジャーの優しさに打たれた様子で、ボーゾックが地球を花火にする為に地下秘密基地に大量の爆薬を集めている事を密告。 ……偽装作戦とはいえ、カーレンジャーがボーゾックの元来の活動目的を知ったの、初めてのような(笑)
 「信じない方がいいダップ」
 ほだされ気味のメンバーに対して、相談を受けたダップの対応は超クール。
 「どうしてだ?」
 「このボーゾックサイレンは、改心したボーゾックには、反応しない筈ダップ」
 恐らくクルマジックアイテムである便利なサイレン、これまで何度かボーゾックに反応しない事があったのを、 悪意を持っていないボーゾック(普通に買い物に来たり)には反応しない、ならば逆に……とエピソードの内容に沿いつつ 見事に設定の穴を埋めてきたのはウルトラC。
 タイガースグッズの溢れる部屋にバットを匿っていた実(自宅でもグリーンレーサー)は基地に呼び出され、 ダップから向けられる疑いに対してバットを擁護。
 「どうって……あいつな、ほんまええ奴やねん!」
 星の海の垣根を越えて、猛虎魂で結ばれる実とバットであったが、他のメンバーは対応を決めかねて無言。その反応を見て、 俯いた実がちょっと間を置くのがまた秀逸です。
 「……あんなぁダップ、俺なぁ……あいつの事信じてみたいねん!」
 地下秘密基地は1人で探す、と飛び出していく実。
 「……ダップ悪い! 俺もあいつを信じてみたいんだ!」
 恭介達も次々と実を追いかけて飛び出していき、ここで「実を」と「バットンを」を、「あいつを」 にまとめている台詞の妙がお見事で、単純かつ頭使わずに全面的に怪人を信じ込んでいるのではなく、ダップの疑念も理解した上で (他人を信じない冷たい奴だと一方的に非難しない上で)、まず何より「実を」信じようとしている。そしてその姿勢が、 ヒーローのお約束としてではなく、お人好しで気持ちのいい連中であるカーレンジャー、という蓄積の上にしっかり成り立っています。
 タイミング的には偶然ぽいですが、前回、ビーガーを飼おうとする土門に否定的なスタンスながらも何も言わずにそんな土門を助けた姿とも、 綺麗に繋がりました。
 またここで実を追いかけるのが、恭介→土門→洋子→菜摘、という順番で、同じ「信じてみたい」 でも信:疑の割合が信寄りなキャラ順(事前の会話でも、菜摘が最も慎重派)に動いており、 演出・脚本ともにバランスの取れたテクニカルなシーン。
 4人は実に追いつき、
 「馬鹿たれ。俺たちはいつも一緒だろ」
 「みんな来てくれるんか?」
 「ただ……信じるって事を、してみたくなっただけさ」
 照れくさくなったのか、恭介、謎の格好つけ(笑)
 5人は変身してVRVマシンに乗り込むが……その頃ゼルモダから電話を受けたバットンが態度を豹変させ、 ハチマキをほどいて踏みにじっていた。
 「へっ、くだらねぇ」
 そして地下秘密基地を探っていたVRVロボは、爆薬の罠にはまり、皇帝印の十字架に拘束されてしまう。
 「まんまとかかったな、カーレンジャー」
 「楽勝だったぜ、グリーンレーサーさんよぉ」
 バットは芋羊羹を食べて巨大化すると行動不能となったVRVロボを攻撃。自分が騙されていた事を突きつけられた緑は落ち込むが、 そこに基地から声援を送ったのはダップ。
 「グリーンレーサー、信じた事を悔やんではいけないダップ! 大切なのはそれよりも、今を頑張る事ダップ!」
 思えばダップと5人の関係も「信じる」事からはじ…………えーと……あ、あれ?  ……ダップと5人の関係は、「強制」と「拘束」と「死んだフリ」から始まり、始まったけど、その後、 信頼関係が育まれたんですよ!!
 ……荒川さんが凄く美しくまとめ直そうとしたのですが、落ち着いて考えると大変無理がありました。
 無理はあったのですが、定番のプロットをベースにして、『カーレンジャー』的なるものを終盤前に整理しようというのは、 実に荒川さんらしい仕事。
 ダップがレンジャービークルを出撃させて5人は乗り換え、熱心に取り戻した割にはその後放置されていたRVロボを拾ったのもお見事 (修理していた、と発言)。
 久々登場のRVロボだったが、熱い展開の勢いも戦力差を覆すには至らず、両手両足を潰される絶体絶命の危機に陥ってしまう。 迫り来るバットドリルに対して、緑の叫びがバットンの良心を一瞬呼び覚ますが、監督による制裁の恐怖からバットンはそれを振り払う。
 「バラバラにされる前にぃ……バラバラにしてやるバットン!」
 だがその叫びに、勝機を閃く緑。
 「そうや……みんなバラバラや!」
 カーレンジャーはRVマシンとVRVマシンの、それぞれ無事な車に乗り込み、RV赤青+VRV緑黄桃が、スーパー緊急合体して、 天下の浪速ロボスペシャルが誕生。哀しみをこらえて自ら引き金を引いた緑により、驚愕するバットンを、Vツイスターで葬り去るのであった。
 「ボーゾックにも、きっとおるよなぁ……ええ奴」
 信じた事を裏切られたが、それでも信じる事を諦めたくはない……実の呟きに、恭介は無言になってはいけないのでは(笑)
 交換日記事件は、そこまでショックだったのか。
 タイガース必勝ハチマキを巻いた実は空元気を振り絞り、六甲おろしを唄いながら去って行き、 その背中を無言で見守る仲間達……と今作にしては非常に珍しく、しみじみとしたまま、阪神エンドでつづく。
 ボーゾックを信じられるかどうかを、タイガースを信じられるかどうかに掛けていると捉えると実に悪辣な脚本ですが (なお脚本の荒川さんは中日ドラゴンズファン)、この後、4年連続最下位とかもあるけど、 2003年まで力強く生きろ実!
 実の関西弁キャラをフル活用した戦隊史上空前かと思われる阪神タイガース回で、ポイントポイントは非常に面白かったのですが、 ギャグゆえに無神経に他者の命を奪えるボーゾック怪人を、良心と命令の間で揺れ惑う存在として描いたのはやや違和感があり、 従来の戦隊フォーマットに強引にあてはめてしまった感があります。
 エグゾスがスポンサーについてからのボーゾックの体制の変化を、従来的な悪の組織に近づいている、 という形で象徴的に盛り込む意図もあったのかとは思われますが、悪い意味で紋切り型になってしまい、 クライマックス〜オチのまとまりが悪く感じてしまいました。オチからギャグを外した事自体は、 年に1本ぐらい違う味わいを混ぜたかったのかとは思われ、悪くはなかったのですが。
 助走から踏み切りまで素晴らしかったのに、ジャンプ中に体勢を崩して記録を伸ばせなかったという感じで、惜しい。
 次回――順番的に黄色回かと思ったら、最近存在感を増しているダップに、暴走皇帝の魔手が迫る?!「どんな時でも、 赤信号では止まるんダップよ」。

◆第41話「暴走皇帝戦慄の燃料チェック」◆ (監督:田崎竜太 脚本:荒川稔久)
 微妙にズレているのに謎の説得力がある、エグゾスらしいサブタイトル。
 エグゾスから浪漫の結晶・大宇宙ハイウェイ計画の完成図を見せられ、 カーレンジャー抹殺というミッション成功の暁には永久無料パスを与えるという餌で焚き付けられたボーゾックは、 クリスマスの近づく地球に、カーレンジャー宛のクリスマスプレゼントとして強化Gちゃんを送り込む。
 「こいつ……前にも来たな」
 買い出し中だった恭介達5人は、一応はボーゾック怪人の入っていた段ボール箱を思い切り蹴りつけ、冷たい視線で取り囲むと、 目を逸らしている間に変身。Gちゃんが装備したエネルギー吸収唇によってエネルギーを吸われて思わぬピンチに陥るも、 ダップの祈りに応えるかのようにエネルギーが回復して勝利を得るが、それを見ていたエグゾスは、 クルマジックパワーの供給源が居るに違いない、とカーレンジャーの背後関係に目を付ける。
 「奴らにエネルギーを与えている仲間が居るに違いない。奴らを支援する、いわば、6人目のカーレンジャーが」
 ボーゾックは初回で大暴れしたダップの存在を覚えており、ハザード星人の名に反応する監督。
 「ハザード星人が生き残っていたとは……だが、そやつさえ捕まえれば、カーレンジャー抹殺など、いともたやすい」
 エグゾスがダップに狙いを定める中、そんな事は知らぬ当の本人はカーレンジャー達と過ごすクリスマスの計画を練っていたが、 5人全員がクリスマス休暇で実家に戻る予定だと聞いてショックを受ける。
 「そんなの駄目ダップ! ヒーローは、クリスマスは、一緒に過ごさなくちゃいけないんダップ〜」
 「なにそれ? そんなの誰が決めたの?」
 ……それはですね菜摘さん、5年ほど前に、
 「○○○○(←好きな悪の組織の名前を記入して下さい)と戦う為には、個人的な感情は捨てなければならないんだっ。 いつまでも○○○(←好きな身分を記入して下さい)気分じゃ戦士とはいえない!」
 と宣った方がいらっしゃるので、そちらの窓口でご確認下さい。
 そしてそういえば、『鳥人戦隊ジェットマン』にはクリスマス回が無かったよーな。
 『ジェットマン』は、敢えて“ヒーローの狂気”を明示する事で、「ヒーロー性」「人間性」「社会性」の衝突を克明に炙り出して、 そこから「ヒーローとは何か? 人間とは何か?」を徹底してテーマに据えた作品でしたが、 ポスト『ジェットマン』の作品として今作が、「一般市民」と「ヒーロー」の間を軽やかに行き来する主人公達を描いているのは興味深い点です。
 くしくも同期の『超光戦士シャンゼリオン』では、『ジェットマン』のメインライターだった井上敏樹が、 「ヒーローとしての戦い」を「日常」に還元してしまうのですが、異色のコメディ作品と位置づけられる今作と『シャンゼリオン』が、 後に東映特撮ヒーロー史において巨大なブレイクスルーとなる『仮面ライダークウガ』へと繋がる、確かな中継地点となっているのは非常に面白い所。
 「ダップだって楽しみにしていたのに……みんなで一緒にする、たのしーいクリスマスパーティ」
 母は死に、父は消息不明、生まれ故郷も今はない、というダップの抱えていた深い孤独と、 当然5人が一緒に居てくれると思い込んでいた子供らしさ、そしてハザード星を花火にしたボーゾックの非道さが改めて強調。 大量のギャグでデコレートされていましたが、もともとダップは今作における「狂気」担当であり、 今作の根幹に「復讐者であるダップをカーレンジャー5人が救う物語」という構造が存在している事が浮き上がってきます。
 エグゾスはカーレンジャー抹殺の為に陸海空の覇者たる3体の巨大ロボをボーゾックへ預け、 何やら思うところのあるらしいゾンネットが、交換日記を手に地球行きを志願。 微妙に火の玉アタックを思い出す名前の鳥形ロボ・スカイギュギューンへと乗り込んで地球に向かう。
 「ゾンネッカー・オン」
 で愛車がロボの頭部にドッキングし、小ネタが既に仕込まれていた(笑) ……まあこれぐらいはもはや、 パブリックなネタとはいえるでしょうが。
 自分たちの休暇を優先して孤独を理解してくれない恭介達の態度にやさぐれたダップ(一般家庭における、 仕事に忙しい親と子供の関係性を暗示しているのが秀逸)は指名手配犯みたいな変装で街をふらつき、 ダップを探していた恭介は投げ捨てられたダップのクリスマス計画ノートに気付くが、中身を見る前に超神ギュギューンが来襲してしまう。
 「まずはその赤いボタンを押してみよ」
 生まれた星が違えばVRVマスターと朝まで語り明かせそうなエグゾスの指示に従うと地上に大量の号外がばらまかれ、それを手に取るダップ。
 「ハザード星人の、生き残り……チーキュで、大、集……会? え、ええーーっ?!」
 ギュギューンは富士の裾野でVRVロボと遭遇するが、ゾンネットはすぐに車を分離して地表に降り立ち、 その姿にレッドーレーサーの背中を押して外へと送り出す仲間達が微笑ましい(笑)
 「カーレンジャー、暴かせてもらうぞ、お前達の弱点を」
 赤はゾンネットから交換日記を受け取るが、エグゾスの遠隔操作によりゾンネッカーがギュギューンと強制ドッキングすると制御不能で暴れ出し、 ゾンネットは気絶。
 このたった数十秒でゾンネットを立派な人質ヒロインのように見せてしまう荒川さんの手管、恐るべし(笑)
 「うぁ、ゾンネット!」
 「まったく、また喧嘩したわけ?!」
 コックピットに戻るやどやされ、男女のお付き合いに関してとことん信用がないレッドレーサーであった。
 東京から引き離されたVRVロボがギュギューンと戦闘している間に、グラッチの乗る海の覇者マリンザブーンが地球へ出撃すると、 まんまと号外に誘き出されたダップを捕獲。宇宙のどこかではパチンコ帰りのVRVマスターが、 景品を詰めた袋が破れた事で不吉な予感に襲われていた。
 ……今回諸々の露骨な伏線でマスターの正体が行方不明のダップ父とほぼ確定した事を考えると、息子が寂しさから仲間と喧嘩し、 息子が家族のぬくもりを求め、息子が大ピンチの時にパチンコに興じていた事になり、凄く最低な感じです(笑)
 VRVロボもギュギューンの空からの攻撃に大苦戦し、ロボのクルマジックエネルギーが減少している事を確認した皇帝は、 ギュギューンを宇宙へと帰還させる。カーレンジャーは交換日記に書かれていたゾンネットのメッセージにより、 エグゾスがクルマジックパワーを狙っている事を知るが、一足遅くダップはエグゾスに囚われてしまうのであった……で、つづく。
 ここ数話、エグゾスが後援についてからのボーゾックの体制の変化が少しずつ描かれてきましたが、 レッドレーサーへの淡い恋心にエグゾスへの反発心、将来への不安なども入り交じったゾンネットが、 とうとう明確にカーレンジャーに肩入れ。
 思えば最初はレッドレーサーの顔に惚れるというギャグだったものが、地道にラブコメすること30話あまり、 遂にここまで来てしまいました(笑)
 地球を花火にしたいと言い出した悪女系ヤンキー娘が、いつの間にやら家出中のプリンセスヒロインと化しており、 げに煩悩とは恐ろしい。
 次回――「急に道路に飛び出すと、車に、轢かれるぜ」。

◆第42話「全車エンスト! 巨大ロボ絶体絶命!!」◆ (監督:田崎竜太 脚本:荒川稔久)
 「落ち込んで問題が解決するなら、弁護士はいらない」
 基地に戻ってこないダップを探す5人の前に姿を見せたVRVマスターは、ダップは恐らくエグゾスの手に落ちている、と指摘。
 一方バリバリアンでは、ダップの処刑を止めたエグゾスがザブーンを地球へと出撃させる。ザブーンは湾内でタンカーを吹っ飛ばし、 ここに来てかなり明確な破壊と被害描写。爆破されるタンカーの船員のやり取りを描くなど、今作としてはやや珍しい演出なのですが、 これもエグゾス登場後の、“従来作の悪らしい描写”の一貫でしょうか。
 ボーゾック警報を受けた5人は、マスターの制止を聞かずにカーレンジャーへと変身。
 「本当の戦士なら、人の話は最後まで聞くものだ!」
 重ねての制止に足を止めて振り返り、
 「VRVマスター。ボーゾックを倒して、ダップを取り返してくる!」
 とサムズアップを決めるのは格好いいのですが、話は聞いていなかった(笑)
 ザブーンを相手に海中戦へと引きずり込まれたVRVロボはエネルギーが急速に減少し、放水車のポンプを使う機転で、緊急退避。
 「本官の許可無く、カーレンジャーをやっつける事は許さん!」
 そこへ久々に、シグナルマンがサイレンダーで駆けつける。
 「すまないカーレンジャー諸君、名古屋のシャチホコ交通安全センターで、講演会をして、ふふふん、 ついさっき戻ったところだったのだ」
 ここ数話、話の都合もあってシグナルマン不在だったのですが、一ヶ月ほど名古屋に出張していたようで、 癒着、どろどろした癒着の匂いがしますよ?!
 囚われのダップは、倉庫に押し込まれていたガイナモ宛ての年賀状の山の中から、占い師スゾグエから届いたラッキー占いを発見。
 〔今年のあなたは、あちこちの星を襲うとラッキーでしょう。特に、『は』のつく星を徹底的に壊滅させると良いでしょう〕
 そう、その年賀状こそが、ボーゾックにハザード星を襲撃させるきっかけとなったのだ!
 「占い師スゾグエ……スゾグエ……逆さから読むとエグゾス! エグゾスが裏で糸を引いていたんダップ〜」
 事件の黒幕として暴走皇帝が最初からボーゾックを誘導していた事が明るみとなり、本当に地道。 こうなると年に一回ボーゾックが摂取していた“宇宙の邪悪なエネルギー”は、エグゾス由来のものだったのでは、 という疑惑が深まりますが、直撃を受けたリッチハイカー教授の頭が金色になったのも、何やらエグゾスの頭の色と繋がりますし。
 まあ、どう責任の所在をすり替えても、実行犯としてのボーゾックの非道さは、いささかも揺らぐものではありませんが(^^;
 「こんな所で泣いていても、始まらないダップ」
 真の敵を見定めたダップが涙をぬぐって立ち上がる一方、なんとか基地へと戻ったカーレンジャーは、 VRVマスターからエネルギー切れの原因について聞かされていた。
 「クルマジックパワーは、夢の魔法。カーレンジャーとダップの心の絆が、生み出す力なのだ」
 「どういう事やねん?」
 実と同じ気持ちになったので、過去の感想を読み返してみたのですが、そもそも第1話においてクルマジックパワーが宿ったのは 「5人が作った夢の車の模型」だったので、最初からそういう事でした!
 クルマジックパワーとは何か、という話は全くしてこなかったので唐突な印象に変わりはないのですが、 スタート地点はしっかり踏まえられていて、その辺りはぬかりなし。
 クリスマスをきっかけに5人とダップの間に生じてしまった心の溝、それが原因でクルマジックパワーがロボットに届いていない、 と説明され、ノートの存在を思い出す恭介。中を見た5人はダップの想いに気付き、恭介はダップの救出をマスターに頼み込んで頭を下げる。
 「VRVマスター、あんた確か、宇宙の一匹狼だよな。頼む! ダップを助け出してくれないか。宇宙に居るダップを助け出す事は、 俺たちには出来ない。だから、頼む!」
 「マスター、俺からも頼むわ!」
 「お願いします!」
 「VRVマスター!」
 「お願い!」
 そもそもマスターは都合の良いジョーカーキャラなのですが、恭介が「自分たちには出来ない」 という限界を認めた上で正面から頼み込むという形を取る事で、ひょっこり出てきて万事解決してしまうという都合の良さを和らげるクッションとして機能。
 また「一般市民」としての恭介達のダップに対する真摯な想いを見せると同時に、 「ヒーロー」としてカーレンジャーが頭を使わないパワープレイで事態を突破してしまう事も回避しており、良く出来ています。
 「……虫のいい話だな。ダップの救出を人任せにして、自分たちは何をするというんだ」
 「俺たちは……俺たちに出来る事をやる!」
 出来ない事を他人に頼んだ以上、出来る事としてザブーンをRVロボで倒す、と「ヒーロー」としてカーレンジャーは宣言。
 「――良かろう。悪くない答だ」
 ここで盛り上げ音楽が入るタイミングが格好良く、出撃する5人を見送って指を振るマスター。
 「ちょっと見ない間に、少しは戦士らしくなった」
 BGMの勢いを借り、マスターは宇宙刑事ばりに金色の光球となると、宇宙へと飛翔。
 「激走合体!」
 カーレンジャーもその流れに乗り、RVロボでザブーンへと立ち向かう。
 「ダップ、俺たち頑張るからな!」
 一方ダップも救出を待つばかりではなく自力での脱出を図っており、皆が皆、 それぞれの「出来る事」をやる事で状況を塗り替えようとしていく、というバランスが秀逸。
 ワンパーを相手にまさかの立ち回りを見せるもゼルモダに追い詰められてしまうダップだが、 そこへ飛んできたコーヒー牛乳のキャップがピンチを救い、暗闇の中からテーマ曲と共にVRVマスターが姿を見せる。
 「てめぇ、何者だ?!」
 「敵か味方か――宇宙の一匹狼、VRVマスター」
 「俺が一時期住み込みで働いていたチーキュのパチンコ屋で、ドロップばかり交換していったおかしな宇宙人!」
 「ドロップ?! 地球のドロップはハザード星の匂い!」
 まさかの連鎖伏線(笑)
 「ダップ……しゅらしゅしゅしゅだ」
 マスターはワンパーを軽く蹴散らし、ダップの援護もあって2人はバリバリアンからの脱出に成功。 「しゅらしゅしゅしゅ」という言葉からVRVマスターが父である事を確信するダップだが、その背後に迫り来る暴走皇帝エグゾス!
 エグゾスの光線を受けて絶体絶命の逃走を続けながらマスターはダップに問いかける。
 「ダップ、正義が好きか?」
 「好きです!」
 ここでVRVマスター(父)はダップ(息子)の「正義」の内容を問わず、ダップが胸に抱く正義を信じている。 そう信じられるぐらい、カーレンジャーがダップを支えていてくれた事も信じている。
 或いはそんな事を全く考えもせず、父から子への問いかけは純粋に無邪気ともいえるもので、けれどそれは、 子供の「正義」は無邪気でいい、と伝えている。そして、その無邪気な正義が正しくあるように子供達が育つ世界であってほしいと信じている。
 父と子という関係性を用いて、正義とは何か?を語るのではなく、「正義が好き」なあらゆる人々に、その意味をシンプルに自問させる、 今回の非常に好きな台詞。
 この一瞬、あらゆる理屈を超えて「正義」という言葉が良き心の在り方を示す“象徴”として機能し―― それをなしえるフィクションとして、改めて私は、ヒーロー物が好きで仕方がありません。
 色々なものを笑いにしてきた今作が、夢見る正義を――夢見る君がときめく君が明日のヒーローである事を――笑い飛ばさないのは、 とても素敵な事だと思うのです。
 前回のいい年した5人が揃いも揃ってクリスマスを実家で過ごすというのは少々強引なのですが (年末年始という帰省にふさわしいイベントが近くにあるという無理を承知で、放映時期の関係でこうなったのでしょうが、 一方で家庭人としてのペガサス社長の顔が見えるともいえます)、ダップの根幹にあるテーマ性を「家族」と置き、 シグナルマン一家という要素も拾いつつ、『カーレンジャー』全体として「父と子」の物語を綺麗に意味づけてみせたのは、お見事。
 「どんな辛い時でも、夢を見る自信はあるか?」
 「夢?」
 「仲間と一緒に見る夢さえあれば、クルマジックパワーに、限界は無い! 忘れるな!」
 そして「どういう事やねん?」と唐突さのあったクルマジックパワーの秘密を、 一般市民としての恭介達の原動力に重ねて作品初期のテーゼと繋ぎ直し、「一般市民の意志」と「ヒーローのエネルギー源」を結合。
 更にその根本原理を、復讐というネガから、仲間と一緒に見る夢というポジへと変換。
 仲間と一緒に見る夢があれば、人はどんな苦境も乗り越える事ができ、その力が具現化されたものこそがクルマジックパワーである―― だから胸に愛を抱いて車を飛ばしたら、クルマジックパワーに限界は無い! とギャグとギャグの隙間を縫って、 『カーレンジャー』の力の源について見事にまとめてみせた上に、お茶の間向けの綺麗なラッピングまでしてみせる、 圧倒的芸術点。
 小林清志のパワーもありますが、カーレンジャー独特の台詞の勢いにしっかりと説得力を乗せて、 荒川さんが持てるテクニックを存分に発揮してきました。
 かくして逆転勝利への布石は揃うも、ダップにクルマジックパワーの根源を伝えたマスターはエグゾスに特攻を仕掛けて宇宙の藻屑となってしまい、 RVロボとサイレンダーも超神ザブーンに苦戦。2大ロボはミサイルの爆発に巻き込まれ、2話続けての深刻な引きで、つづく。 ……阪神回も含めると、3話連続でギャグ抜きのオチという異常事態(笑)
 せっかく助けに来たシグナルマンが、その後なんの台詞もなくザブーンにやられているだけというのは残念でしたが、 次回ここまでの流れが美しく着地してくれる事に期待。
 次回――聖夜に勝利は舞い降りるのか?! 「雪の降る日は道路が滑りやすいから!」「気をつけてねー!」。

→〔その8へ続く〕

(2019年9月16日)

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