■『激走戦隊カーレンジャー』感想まとめ4■


“5つある情熱が ひとつになる時
起きる奇蹟 激走合体!! RVロボ”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『激走戦隊カーレンジャー』 感想の、まとめ4(19話〜24話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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◆第19話「恋のあて逃げ娘!」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:荒川稔久)
 野球×ラブコメ回なので、社長夫人が登場して唄うのかと思ってドキドキしていたのですが、 引き続き社員旅行中でりんどう湖ファミリー牧場からお届けの為、社長夫人は登場しませんでした。
 「レッドレーサーの馬鹿! めっためたのぎったぎたにしてやるんだから!」
 チーキュを花火にする事よりも、フラれた腹いせにレッドレーサーへの個人的怨恨を晴らしたいと考えるゾンネットは、 教授がチーキュに派遣したボーゾック一のピッチャー、HHデーオに同行。てっきり『タッ○』だとばかり思っていたら『巨○の星』 パロディが展開し、燃える瞳のデーオは爆弾ボールでカーレンジャーを襲撃する。
 「フォークの神様、杉下茂さんもビックリだ!」
 でも、中日ネタも入れてくる。
 「みんな、ボールから、目を離すな」
 「そうか、球筋を見切るのね!」
 的確な指示により爆弾フォークを打ち返すカーレンジャーだったが、失恋の恨みに燃えるゾンネットが、金だらい地獄落としで乱入。
 「俺はな、おまえと友達から始めようって、あん時からずーっと思ってたんだぞ」
 「嘘言わないでよ!」
 「嘘じゃないって!」
 そしてズレ始める、正義と悪の戦い(笑)
 周囲の男性キャラクターに対して、常時<魅惑><眩惑><知力低下↓>その他バッドステータス山盛りという超凶悪なパッシブスキル持ちのゾンネットですが、 狂狂クルマジック汚染によりマッドヒーローへの道をひた走り、つい先日まで、ボーゾックは悪だ!  悪とは対話の余地など無い!!とガチガチの主義者であった恭介の思考に柔軟性が出てきたのは、 もしかしてゾンネット粒子はクルマジックパワーに対する抗体作用があるのか。
 ゾンネットのレッドレーサーへの感情というのが知らずゾンネットのストッパーになりつつあり、これ自体は一種の定番なのですが、 それが相互作用を持って正義のヒーローにも影響を及ぼし、 悪の組織の女幹部が正義のヒーローのストッパーになっているというのは面白い構造です。
 「じゃ、勝ったら考えてあげてもいいわ。友達から始めるってね」
 「ふん! 勝ってみせるぜ! 別に考えてほしいわけじゃねぇけどな」
 赤とゾンネットは売り言葉に買い言葉をぶつけ合い、ゾンネットは<魔性のキス>のスキル発動により、 HHデーオのステータスを超強化。次々と炸裂する火の玉一号により追い詰められるカーレンジャーを見たゾンネットは思わず止めに入ってしまい、 連投で肩が壊れてしまう、と言い訳して一旦撤収。
 「……負けちゃえばいいじゃん、あんなやつ」
 レッドレーサーへの想いに揺れるゾンネットは花占いを始め、一方のカーレンジャーは火の玉ボールを打ち返す為の特訓を開始。
 (ゾンネット、俺は勝つ。だからどうだってのはよくわかんないけど、勝ってみせるぜ)
 火の玉ボールを打撃可能な見えないスイングを身につけた花形“レッドレーサー”満は決闘に臨み、 星“ゾンネット”明子が木の陰から見つめる中、HHデーオの火の玉ボールを会心のスイングで地球場外へと叩き込み、阪神優勝や!
 ……相変わらず、ジャイアンツに厳しい戦隊野球回であった。
 決闘に敗れたデーオは芋羊羹を食べて巨大化するが、RVロボが分身魔球を秘打・激走返しで打ち破り、激走斬りで粉砕。 ダップを荷物と一緒に車の後部に詰め込んだ一行は、社員旅行を終えて那須高原を後にし、ゾンネットは夕陽に向けて叫ぶのであった。
 「夕陽の馬鹿……なんでそんなに赤いのよーーー!」
 ……本格的に引っ張り出したぞ(笑)  野球×ラブコメ×コスプレもあるよ、で例の如く荒川さんが煩悩を垂れ流す一方、 バロム・1の悲劇の再来を防ぐ可能性としてゾンネット粒子に光が当たり、宇宙を救うのは女王主義だ!  つまりバリバリアンはエンジェル・ハイロウだったんだ!!(キラキラした瞳)
 エピソードとしてはあまりテンポの良くない微妙な出来でしたが、女の涙による困惑状態を引きずりつつも、 改めて相手と真っ直ぐ向き合う為に目の前の困難を打ち破ろうとする恭介の姿が、どんどん格好良く見えてくるのはとても良かったです。 恭介は概ね直情径行で単細胞気味なのですが、“社会人戦隊”という事もあってそれが直接的に“若さ”としては描かれていないので、 馬鹿だけど凜々しい、的な。
 次回――「車の周りで遊ぶと」「あかんでー!」。

◆第20話「試乗最高の名車!!」◆ (監督:田崎竜太 脚本:浦沢義雄)
 前回格好良くなった恭介は……テストドライバーの練習をすると言って公園で子供用ゴーカートを乗り回していた。
 それを目にした土門は本気で呆れ、あいつ本当に運転うまいのか……? 実はただの口だけサボリ魔じゃないのか……?  と第20話にして皆の胸に灯る、恭介の存在意義を揺るがす疑念の炎。
 「今更神様にお願いするって事は、やっぱり大したテストドライバーじゃないんじゃないでしょうか?」
 恭介が書いた七夕の短冊についてズバッと切り込み、真面目な性格でサボりが許せないという事なのか、今日は土門が凄くきつい(笑)
 一方、リッチハイカー教授は天の川伝説に記された、隕石に閉じ込められた二台の野生の車の物語に目を付け、 ボーゾック一の発掘野郎WWワリッチョがそれを解放。後部座席にナチュラルに砲門が見えたり、 そこはかとなくレスキューポリスの香りを感じさせる二台は地球へと降下し、その光を目撃する恭介と土門だが、 土門と青い車がボーゾックによって拉致されてしまう。
 ボーゾックの狙いは野生の車を改造して支配下に置く事であり、恭介は土門と青い車を助ける為、赤い車を乗りこなそうと奮闘。
 英雄が神獣を乗りこなすシチュエーションを、ヒーローと車という形に置き換えているのですが、恭介や土門の自動車への愛情、 暴れ馬ならぬ暴れ自動車という表現が秀逸。また、自動車という主要ギミックとの接続に加えて、 人間が無機物だと考えるものに自然に意識があるというのも、『カーレンジャー』の世界観にふさわしくなっています。
 タイヤで足を踏まれたりドアではたかれたり激しく振り落とされそうになりながらも、 土壇場で見せた根性で赤い車の心を掴んだ恭介はドライバーとして認められ、翼を広げて宙を駆ける車。
 一人と一台は囚われの土門と青い車の元へ急ぎ、今日も空しく交番の前に立っていたシグナルマンはそれを目撃する。
 「な……なんだあれは?! 本官の許可なく空を飛んでいる! ……ん? ……チーキュの空は本官の管轄外だったか……はは、 いかんいかん、本官とした事が」
 2話ぶりの出番がこれっきりという凄い扱いですが、しっかりと管轄を守る姿勢には感動しました(笑) 越権行為で月から来た女王様と戦ったりするの、ヨクナイ。
 ボーゾックは青い車を改造して強制的に手なずけようとしていたが、土門が必死にそれを阻止しようと奮戦、 その姿に打たれた青い車は土門を認め、赤い車の救援で脱出に成功。 両車と心を通い合わせたレッドレーサーとブルーレーサーはそれぞれ赤い車と青い車に乗り込むと、 激しいドライビングテクニックでボーゾックを蹴散らし、最後はペガサスファイナルバーニングでワリッチョを木っ端微塵に吹き飛ばすのであった。
 普段、必殺攻撃をしても敵に芋羊羹を食べる余裕がある作品なので、跡形もなく消し飛ぶと凄く殺伐(笑)  ついでに、背中の飛行ユニットだけが転がってくる、というのが相変わらず地味にエグい描写です。
 カーアクションに尺を割いてロボ戦は無し、てっきり一発ネタかと思っていた二台の車はテーマソングまで流れる扱いで、 赤い車はペガサスサンダー、青い車はドラゴンクルーザーと名付けられ、地球を守る新戦力となるのであった。
 発端は天の川伝説とか神様の封印とか怪しげながら、存外真っ当に強化ギミック登場が描かれて驚いたのですが、 フォーミュラーノヴァすらほとんど使われない戦隊なので、今後の扱いが心配です(笑) 正確にカウントしているわけではないですが、 基本の合体武器の割に出番少ないですよねフォーミュラノヴァ……。
 次回――「曲がり角では、車に注意してね」。

◆第21話「カーナビを超えたカーナビ」◆ (監督:田崎竜太 脚本:浦沢義雄)
 修理した八百屋のトラックを届けがてら洋子を銀行まで乗せていく恭介だが、 方向音痴の洋子のしっちゃかめっちゃかな道案内に振り回されている内に、トラックは交番ベースに衝突。
 「君が壊した物はなにかな、一般市民」
 気がつくと宇宙人から地球人への呼称が「一般市民」で統一されていますが、 「チーキュ人」だと発音しにくい上にわかりづらいですし、繰り返しギャグとしてもセンスの良いチョイスとなっているのはさすが。
 その頃、ボーゾックでは、ゾンネット歌謡ショーが行われていた。
 この歌謡ショー、本当に歌謡ショー以外の意味が全くないのですが、しっかり歌謡ショーらしく演出されていて、 宇宙でも歌謡ショーは歌謡ショー。
 「ボーゾックとしては、割とたかーい給料を払って雇っている、宇宙の悪のコンサルタント、リぃーッチハイカー教授、 呑気にゾンネットのわけのわかんない歌を、聴いている場合かーーー」
 総長、割と酷い事を言った。
 ガイナモにせっつかれ、歌謡ショーを呑気に楽しんでいたのではなくボーゾックがカーレンジャーに勝てない理由をじっくりと考えていたと言い訳した教授は、 理由を問われて苦し紛れに
 「宇宙の疫病神に取り憑かれているから」
 と発言(笑)
 「お祓いをするべきです。そして、カーレンジャーを捕まえ、生け贄にして、お供えすれば、疫病神も、満足して去って行くでしょうよ」
 「そんな事できりゃ、苦労しねぇだろうが!」
 「ボーーーゾックに、出来ない事があるのでしょうか!」
 勢いだけの会話に乗せられたガイナモは、ボーゾック一の祈祷師・AAアバンバをチーキュへと送り込み、なんだか、 浦沢脚本の執筆過程を見せられているような気になってきます(笑)
 ボーゾック警報にさっそく赤と青の車で出撃するカーレンジャーだが、透明化能力を持つ怪人に苦戦し、 男性陣が生け贄として魔法の檻に捕まってしまう。自分のナビゲーションミスがまたもピンチを招いたと落ち込む洋子だったが、 残った3人で武器になるようなカーナビを作ろう、と突飛な発想に辿り着き、洋子、菜摘、ダップの3人は、 ボーゾックが生け贄の儀式を行っている間に新装備を開発。
 菜摘の技術力とダップのクルマジックと洋子のアイデアとサポートにより完成する新装備だったが思うように動いてくれず…… しかし洋子の流した涙によって起動するのであった!
 物凄く適当なのですが、そもそもクルマジックパワー、星座伝説的な力なので、乙女の涙でマジックアイテムが起動するのは宇宙の真理なのか。 カーナビに向けてすがるように叫ぶ洋子を下から大写しにしたカットは、正直可愛く撮れていませんでしが(笑)
 赤青緑がくくりつけられたロケットに火が入り、発射までカウントダウン、 いざ大気圏突破で灰になるというかつてない絶体絶命のその時、導火線を切り裂くバイブレード。 駆けつけた桃と黄はカーナビアイテムで怪人の透明化を見破り、最初に放つ攻撃がカウンターの鳩尾パンチというのが、 カーレンの肉弾攻撃、ホント容赦ありません。
 カーナビは銃型に変形すると標的をどこまでも追い詰める凶悪なホーミングバレットを放ち、 オートパニッシャーと組み合わせて放つ強力なビームで怪人をシュート。巨大化した怪人は透明化能力でサイレンダーを蹴散らすが、 カーナビ搭載のRVロボの前に敗れ去るのであった。
 前回に続いてのアイテム追加回でしたが、かなり大雑把な出来(^^; カーレンジャーが新装備を開発する事になる大苦戦が、 リッチハイカー教授の「周到な作戦」ではなく「苦し紛れの言い訳」に端を発するというのは今作らしいですが、 あまりにも正攻法を避けよう避けようとしすぎて面白くなくなってしまった感があります。
 それにしても菜摘の技術力が回を追うごとに凄くなっていきますが、仮にチーキュが花火になっても、菜摘はボーゾックに移籍して、 ボーゾック一のメカニック・SS(スパスパ)ナツミとしてやっていけそう。
 次回――(違反者を、倒せ……交通違反者を倒せ……。邪悪な信号無視を許すのか。完全破壊しろ。 部品一個この世に存在させるな)「歩道の無い道は、端っこの方を歩こう」。

◆第22話「悲劇の交通ルール体質」◆ (監督:坂本太郎 脚本:浦沢義雄)
 最近少し気になっているのですが……実、少し痩せた??
 太めキャラのアイデンティティが問われる中、スイカを皮から丸ごと食べてダップがダウン……て、 前回ラストの八百屋からのプレゼントが拾われた?!
 割と存在感薄めなものの、一応カーレンジャーの司令兼マスコットポジションが戦線離脱する一方、ボーゾックでは最近、 構成員の相次ぐ足抜けが問題になっていた。
 「家業を継ぐため田舎に帰る」という理由で離脱者が出るのが凄いですが、その理由が認められる悪の組織なのがまた凄い(笑)
 悪のコンサルタントを雇うぐらいなので社会悪という認識はあるようですが、あくまでも宇宙の暴走族である、 というアイデンティティが貫かれており、その緩さと活動目的のギャップのズレから生じる怖さが、想像力に欠けた悪役として、 独特の味付けになっています。
 この問題の解決案として、ボーゾックの養殖を閃く副長ゼルモダ。
 どうせなら頭脳優秀なボーゾックが良いと総長の妄想は膨らみ……ビニールハウス内部のプランターに世界各国の子供達が並んで植えられ、 頭から水をかけるとその顔がボーゾックのマスクに変貌していく、というのが画面構成はギャグな一方、 状況は極めて残虐非道。
 「ばっちぐー! 大量生産成功!」
 軽いノリのまま地球人の子供を作物感覚で品種改造してしまう姿には、ボーゾックの邪悪さが、強烈に滲み出ています。
 頭がいいといえば日本の子供だ、と教授が口をはさみ、昆虫採集をやらせたらボーゾック一のCCチャッコーが子供をさらいに地球へと向かう。
 今回の怪人がまた、麦わら帽子の下に虫カゴと潰れたスイカを組み合わせたような顔をしていて、胸部は昆虫の標本箱、 暴走族なのに手にしているのが虫取り網、というのが狂気丸出しで実に怖いデザイン。
 その頃、地球――
 「誰も通らない……」
 公園で立ち尽くすシグナルマンが蚊にくわれていた所、塾から逃げようとする市太郎に助けを求められていた。 だがシグナルマンも夏休みに塾に通っていた過去を持ち、むしろ子供は夏休みも真面目に勉強するべきだと市太郎を捕縛。
 「いやいやいやいや、いや、どーもすいません」
 「お父さん、このお子さんは本官が責任を持って、塾に行かせます」
 そして市太郎を追いかけてきた社長と、物凄くナチュラルに接触、更に意気投合(笑)
 塾で交通ルールを熱心に学ぶ小学生時代のシグナルマンの姿など、2週続いた販促展開を抜けて浦沢先生の肩が軽くなったのか、 解き放たれた獣のごときナンセンスな展開の連発に坂本監督の演出も噛み合って、今回はキレキレ。
 ところが市太郎の通う塾にCCチャッコーが乱入し、養殖計画のサンプルとして市太郎が捕まってしまう。 これを目撃して駆け寄ろうとした恭介だが、赤信号、更にそこを通りすがったシグナルマンが立ちはだかる。
 「一般市民、赤信号だぞ。信号無視で逮捕する!」
 「市太郎はどうなる!!」
 知り合った地球の少年が今まさに目の前でさらわれようとしているという事態に動揺しつつも、 交通ルールを守らずにはいられないシグナルマン。
 (違反者を、倒せ……交通違反者を倒せ……。邪悪な信号無視を許すのか。完全破壊しろ。 部品一個この世に存在させるな)
 ……じゃなかった、
 (本官は、心では市太郎くんの事を心配しているが、子供の頃から、 夏休みも塾に通って交通ルールを勉強したこの体が、赤信号で渡る事を許せないのだ。渡らせたいが、渡らす事ができないのだぁ!)
 これ自体がギャグなのですが、悪を前にしても法に縛られる本官の苦悩は、 悪を倒す為なら時に超法規的手段をいとわないヒーロー像を裏返して皮肉っているともいえ、ヒーロー物に対するメタなブラックジョークとしても機能。
 そこでルールを突破するブレイクスルーがフィクションのヒーローの役割の一つではあるのですが、本官の四角四面な対応は、 民間ヒーローであるカーレンジャーと官憲ヒーローであるシグナルマンとの対比にもなっていて、虚構として二つの正義をぶつけつつ、 現実の風刺も匂わせているというのが、手の込んだ構造です。
 信号が青に変わり、2人は怪人を追いかけるがゼルモダの妨害が入って逃げられてしまう。恭介は本官に怒りをぶつけ、 妙に盛り上がるBGMで激しく落ち込むシグナルマン。
 「夏休みに塾に通って勉強しすぎたばかりに……本官は……融通の効かない体になって、市太郎くんを助ける事が出来なかった……!」
 「子供にとって夏休みは遊ぶ為にあるんだ! 夏休みまで塾に行って勉強しすぎるから、こんな体になっちまうんだよぉ!!」
 同じ言い回しを執拗に繰り返す、というのは今作の定番ギャグですが、繰り返す箇所が箇所だけに、 なんだか凄い事になってきました(笑) 時に世相を抉りすぎる風刺ネタは浦沢先生の十八番ですが、今作ここまでで一番笑ったかも。
 ……それにしても、夏休みの塾で交通ルールを教え込み、法に逆らえない体にされてしまうシグナルマンの母星は とんだディストピアなのでは。シグナルマンが極端な例だと思いたい。
 「本官は、自分自身が情けない……」
 シグナルマンは自分の頭をぽかぽかと殴り続け、止めに入った恭介を振り払って大暴走。
 「本官が、馬鹿だったぁ……!」
 連続頭突きで、公園の木を折る(笑)
 「夏休みに、塾に通って、勉強しなければ良かったぁ……」
 更に、自分を責めながら寺の鐘の中でも連続頭突き。
 ややしつこめのギャグなのですが、シグナルマンに対して本気で怒っている恭介が、 それでも見るに見かねてシグナルマンを止めようとこれに付き合っており、恭介の人の好さを表すシーンにもなっているのが良い所。
 「本官は、大馬鹿者だった……!」
 とにかく頑丈なシグナルマンは頭突きを繰り返して順調に始末書の枚数を増やしていくが、 たまたま突き破った壁の向こうにボーゾックのアジトを発見。
 「一般市民は危険だ。ここからは本官に任せなさい。なんとしてでも、市太郎くんを助けてみせる!」
 中では、鉢植えから頭だけ出した市太郎ら誘拐された3人の子供達が、じょうろで養殖ボーゾック液をかけられてボーゾックに変貌しつつあり、 生命の尊厳を容赦なく踏みつけにするこの作戦、実に外道です。
 バイクで勇躍乗り込んだシグナルマンだが、どうやらシグナルマン対策を練っていたらしいゼルモダにより、 交通ルールを守らずにはいられない体質を利用され、次々と設置される道路標識の指示に従ってしまう。
 「は?! 直進禁止! 一方通行! お、高さ制限1.2m。ん? Uターン禁止! 行くしかない。お、横断歩道。歩行者あり」
 アジトの外へ誘導されて罠にはまるまでの一連の流れが極めて滑らかに進行し、 テンポが良いかつキャラクターと繋げた今作の個性が強く出て、非常に面白いシーンでした。
 「やはり、体がどうしても交通ルールを守ってしまって、ボーゾックと戦えない! うーん…………!  本官も夏休みにはもー少し遊んでおけば良かったぁ……」
 虫ピンで標本にされそうになる本官だが、恭介の連絡によりカーレンジャーが揃って到着し、救出。6人はワンパーを蹴散らし、 巨大化した怪人はサイレンダーによって鮮やかに撃破される。しかし……アジトの中で6人が目にしたのは、 半ボーゾック化した3人の子供達だった。対応に迷う5人だが、進み出たシグナルマンが子供達へと銃を向ける。
 「今必要なのはルールではなく、勇気と決断なのだ!」
 つまり、「今楽にしてやる」。
 たとえ半分といえどボーゾックは消毒……かと思われましたが、シグナルマンが植木鉢を破壊すると無事に元に戻る子供達。
 交通ルールを守らずにはいられない体質により陥った本官のピンチはカーレンジャーに救われ、 本官は何も乗り越えていないような……と思ったら本官の決断力が子供達を救うのですが、 植木鉢を撃つ/撃たないは本官の体質とは全く関係ないので、法に縛られたシグナルマンの変化にテーマ性を見るならば、 完全に論点のズレた着地(^^;
 なのですが、とりあえず怪しいマシンは撃ってみる、というのをヒーロー物の定番だと考えると、 「勇気と決断」を根拠にとりあえず撃ってみる、という姿をもってメタなブラックジョークは成立しているというのが、 なんとも複雑な構造です。
 『カーレン』的には、むしろ後者の方が重視されていそう。
 「あ、シグナルマン! シグナルマン!」
 「はははは、夏休みは思い切り遊ぼう!」
 「うん!」
 事件を通して本官と市太郎が仲良くなり、ペガサスの一般市民達ともやや距離が接近。ここまで日常キャラ以上の存在感は出せず、 物語のスパイスとしてはあまり効いていなかった市太郎が思わぬ形で絡んできて、今後本官と一般市民達のやり取りも増えるようなら、 どう転がっていくか楽しみです。
 一方、クルマジックの使徒は森に隠れて蚊帳の外のままなのであった……。
 次回――「自転車に乗るときは、ブレーキの効きを確認しましょうね!」。

◆第23話「王女様にオーバーヒート!」◆ (監督:坂本太郎 脚本:荒川稔久)
 「信頼ある伝説筋」っていったい。
 荒川さんによる浦沢ワールド的表現として実に秀逸ですが、どこかで使いたくなるフレーズです(笑)
 「宇宙スポーツ」(通称:宙スポ)の記事から、伝説のパワーストーンが遙か昔に地球に落ちたらしいという情報を入手するガイナモ。 教授がそれを使ってチーキュを花火にする超兵器を作ろうと提案し、伝説筋によると代々それを受け継いでいるという王女を狙って、 頭に聖火を乗せ月桂樹を被った五輪怪人・VVゴリーンが地球へと派遣される。
 アトランタ五輪合わせだったのでしょうが、人体筋肉図がタンクトップを着ているようなインパクトのあるデザインに、 王女追跡と戦闘で見せる多彩なスポーツ攻撃が面白く、秀逸な怪人でした。
 そして以前に、折り込みチラシが入っていたという新聞はいったい誰が読んでいるのか? という疑問を持ちましたが、 1面から如何にも怪しげなスポーツ新聞を、総長が購読。またボーゾックは、スポーツ新聞で1面トップのネタにされる程には知名度がある模様です。 ……第2話でバリバリアンにビーム撃ち込んできたUFO、劇中トップクラスの戦闘種族だったのでは(笑)
 その頃、万国宝石博覧会の開催に向け、世界各国から様々な宝石とそれを所持するVIPが日本に集まっていたが、 そんな雲の上の出来事とは無縁な一般市民達は
 「仕事さぼって食べるアイスクリームって、なんでこんな美味いんだろうねー」
 と5人揃って、小市民的幸福に浸っていた。
 通りすがりの王女様に道を教えた5人は、その後どういうわけか竹下通りに繰り出すのですが、さすがに社長、 5人全員即日解雇しても許される案件では(笑)
 そこにダップからボーゾック反応ありの通信が入り、五輪怪人にダッシュで追われる王女のピンチに駆けつけるカーレンジャー。 可愛い女の子が近づくと緊張して行動不能になってしまう(黄と桃相手にも最初はそうだった、とフォロー)、 という土門の言葉を真面目に聞いていなかったらしい赤が王女様を青に託し、赤面オーバーヒートで変身解除してしまう土門。
 とにもかくにも土門は王女と車で逃走し、定番の秘密の逃避行を、後楽園ゆうえんち回に強制接続。 更に、怪人の変幻自在のオリンピックパワーの源は胸のメダルに違いない、と怪人の隙を突く謎のコスプレ作戦を仕掛け、 夏休み中という意識もあってか、バラエティ豊かなドタバタ劇で展開。
 ……助けを求める町娘(土門)と、それを追う浪人(王女)、という組み合わせに、脚本なのか監督なのか、 浦沢ワールドへの意識を強く感じます(笑)
 一度はメダルを奪い取る2人だが再び取り返されてしまい、王女に対する緊張のあまり変身不能の土門が人質になってしまう。 模造刀とはいえ自ら怪人に切りつけたり、土門を救う為に観覧車から飛び降りたり、 見た目と違ってかなりアクティブな王女は土門と引き替えにパワーストーンを渡そうとし、 メキメキと上昇していく土門のダメヒロイン力。
 そのままヒロインレースに乱入してしまうかと思われた土門だったが、王女の姿に一念発起すると極度の緊張を克服。 ブルーレーサーに変身し、落下した王女のお姫様キャッチに成功する。
 「待てーい! お待たせぇー!!」
 青が問題を克服した所で、主題歌のイントロに合わせてそれぞれ遊園地のアトラクションに乗りながら4人が駆けつけるのは、 これぞ様式美の格好良さ。
 ジェットコースターの先頭に腰に手をあてて立っている緑が一番格好良くて、 垂直降下型のアトラクションに座って降りてくるだけの赤が一番間抜けなのがちょっと謎でしたが、 ここのところ緑にこれといったスポットが当たっていなかったので、その辺りの配慮でしょうか。
 「「「「「戦う交通安全! 激走戦隊・カーーーレンジャー!」」」」」
 集合した5人はゴリーンを撃破し、巨大化後は砲丸投げ攻撃を受けるも、シールド円盤投げから激走斬りでフィニッシュ。
 その後いきなりの激走音頭ENDとなり、シグナルマンとサイレンダーはここだけ登場。シグナルマンが堂々と盆踊りに参加する一方、 ダップはほおかむりをして顔を隠しているので、その存在はまだ秘密の模様。これだけ宇宙人が跳梁跋扈して平然と流されている世界では、 もはやダップが身を隠している理由は限りなく薄い気はするのですが…………あれか、ペガサス社屋の不法占拠と違法改造シグナルマンにバレると逮捕されるので、身から出たサビか。
 盆踊りの最中、奮闘した土門が王女様からお礼に頬にキスされて昏倒、でオチ。
 次回――赤と緑の漫才予告で、サボり魔恭介、リーダー解雇の危機?!「「夏休みは、車に気をつけて、元気よく遊ぼう!」」。

◆第24話「急発進?!ニューリーダー」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:浦沢義雄)
 猛虎魂の篭もった扇子片手に営業から帰社した実と、昼食に用意してあったそうめんを実の分まで平らげてしまった恭介が揉めている所にボーゾックが発生。 現場に急いだ2人が目撃したのは、ボーゾック一偏差値の高いTTテルリンが、子供達の夏休みの宿題を行っているという目を疑う光景であった。
 「感心なボーゾックもおるもんやな〜」
 困惑しつつもテルリンを排除しようとする赤と緑だが、子供達から投石を受ける。
 大衆は移ろいやすいなぁ……(笑)
 物凄くさらっと描かれているのですが、その基本にして最大の支持基盤である子供達から石もて追われるヒーロー、 の図は戦隊史上ではかなり際どいような。
 (いっけん)善良な怪人が子供達と仲良くなり、それを疑うヒーロー側と関係がこじれる、 というのはしばしば見るシチュエーションですが、マジ投石まで発展した例は、なかなか思いつきません(^^;
 テルリンは宿題をやる見返りにスイカを要求し、リッチハイカー教授はそれを使ってボーゾックスイカ割り大会を行おうと提案、 ゾンネットのビキニ姿を妄想していた。
 「考えたな! このスケベオヤジが」
 「許す〜。ゾンちゃんも嬉しい、俺たちも嬉しい」
 ……教授の知力も、ゾンネット粒子の影響で既に低下しているのでは。
 子供達から投石を受けて一時退却した恭介と実は、自分たちよりもボーゾックが頼りにされた事にショックを受けるが、 正義のヒーローとして夏休みの宿題とどう向き合うべきかを巡って対立。
 「夏休みの宿題は自分でやるもんだ」
 人気取りといういやらしい動機も含めて宿題を手伝ってもいいのではと考える実に対し、 反ボーゾックで多少依怙地になっている様子も見える恭介はそれをきっぱり否定し、夏休みの宿題という卑近なモチーフから、 ヒーローの“正義”とはどうあるべきかが問われる、物凄い展開(笑)
 「恭介おまえ手伝ってもらった事ないんか?」
 「んー…………ない!」
 「いーー? わからんとこどうした?」
 「わかる所もある。わからない所もある。それが、夏休みの宿題だ」
 自分でやってこそ意味があるという正論の一方で、そうかといって多少の抜け道は許されていいし身に覚えもあるのでは? という実の感情論にも一定の説得力はあり、まるっきり他人任せにしてしまう事をヒーローとして否定しつつも、 同じヒーローから反論させる事でそれを100%押しつけない余地の作り方が物語として絶妙な案配です。
 「恭介、おまえ、ちょっと思いやりがないんとちゃうか?」
 恭介の堅い正義感に対して、昼間のそうめんの事も持ち出して、不満を見せる実。
 「夏休みの宿題手伝ってやる事が思いやりか?」
 「カーレンジャーのリーダーやったらそれぐらいの思いやりないとあかんのちゃうかー?」
 「それとは関係ないだろ!」
 「関係あるやろ」
 夏休みの宿題にまつわる倫理観からすれ違った2人は本格的に口論に発展し、派手に崩壊する、 ちゃきちゃきの江戸っ子とこてこての関西人の友情(笑)
 物凄くどうでもいいやり取りの背景にヒーローの思想性が折り畳まれているのが見事ですが、 男衆の中では土門が年下ポジションなのに対して、恭介と実が気の置けない友人という関係性が出来上がったも良かった所。
 こじれにこじれた恭介は、通りすがったプール帰りの3人の前で「今日からおまえがカーレンジャーのリーダーやれ」と実に突きつけ、 引くに引けなくなった実もそれを承諾。リーダーの座を失うやいなやチンピラと化した恭介は実を突き飛ばし、 いい年した大人2人が路上で殴り合いを開始。マウントを取るやすかさず顔面を潰しにいくのが、 凄くカーレンジャーです。
 殺意高いよチーキュの一般市民!
 ニューリーダーとなった実は早速、正義の夏休みの宿題を手伝おう作戦を呼びかけるが、 話の成り行きがわからない3名からはスルーを決め込まれるという、可哀想な扱い。
 一方恭介は川を見ながら黄昏れており、やたらと攻撃的だったのは、実の「こんな思いやりのない奴にカーレンジャーのリーダーやらしておいたら、 地球の平和は危険やからな!」という言葉がマッドヒーローの魂にぐっさり突き刺さっていたからだと判明。 クルマジックパワーの汚染が深刻です。
 勉強道具を満載したリヤカーを一人寂しく引きずっていた緑は、テルリンがばらまいていたチラシを発見して廃倉庫へ向かうが、 そこでは子供達が持ってきたのが一玉ではなく“切ったスイカ”であった事に激怒したテルリンが子供達を拘束していた。
 テルリンは子供達をスイカに変えてスイカ割りに使うと宣言し、今回ここまである種の正統な取引であり、 チーキュ花火化とも関係なかったので、ちゃんと悪になって一安心(笑) 同時に、スイカに変えた子供達でスイカ割りをする、 という無造作な残虐さが、実にボーゾックらしい。
 切ったスイカで夏休みの宿題を片付けてもらおうとした子供達の、
 「みんな、怖い時は泣こう!」
 「「「うん!」」」
 「へへへへ、泣いたって無駄だテルリン」
 「無駄だって!」
 (一斉に泣き止む)
 というのも、大概ひどいですが(笑)
 ペガサスの3人に連絡するも、「子供達が大変」という言葉を誤解されて通信を切られた実はピンチになるが、 そこに同じチラシを拾った恭介が訪れ、一時逃走に成功。
 「俺の事、心配して来てくれたんやな?! 喧嘩してても心配してくれるなんて、ごっつ立派な思いやりや!」
 偶然を美しく誤解した実は恭介の手を握りしめ、若干引きながらも勢いに呑まれる恭介と二人で反撃を開始。 物陰に隠れた実がロープトラップでワンパーの足を引っかけ、
 「恭介ぇ!」
 「うおぉりゃぁ!!」
 高所から炸裂する恭介のジャンピングボディプレス!
 「実、今だぁぁ!」
 「よっしゃぁ!」
 身動きできなくなったワンパーに、実が次々とバケツアタック!
 普通に変身できる状況だったのでブービートラップや不意打ちの必要性は全くなかったのですが、 実のテンション高い喋りが存分に活かされ、勢いは凄く面白い(笑)
 「やっぱりリーダーは恭介や! 恭介しか、おらへん!」
 「なんだかよくわかんねぇけど、まあいっか!」
 「これで、仲直りやぁ!」
 ノリだけの生身バトルで二人のテンションは最高潮に達し、がっちり手を握り合った恭介と実の、友情・復活。
 「よし、子供達を助けに行くでぇ!」
 「よし!」
 「「激走・アクセルチェンジャー!!」」
 変身した赤と緑はドラゴンカーで倉庫を強襲し、恭介からの連絡で駆けつけた残り3人とも合流。
 「おまえ達も、俺たちの事、ずーっと心配してくれてたのか!」
 感極まった言葉に、会社でかき氷を食べていた3人は動揺し、どこまでも全部いい話にはしてくれません(笑)
 「うん、やっぱ仲間ってええね」
 「よしみんな、行くぞ」
 それはそれとして、主題歌インストで格好良くバトルがスタートし、友情復活した赤と緑の見事なコンビ攻撃がテルリンに炸裂。
 「俺らの友情を壊そうとしやがってぇ!」
 「許すわけにはいかないぜぇ!」
 赤緑は久々に個人武器を持ち出すと、派手に論点をすり替えながら怪人を撃破(笑)
 ……余談になりますが、浦沢義雄の弟子にあたる下山健人の脚本回で、 しばしばエピソードのテーマと論点の大きくズレた着地という名の転倒が見られるのは、師匠のこの手法を意識しているのかも、 と思ってみたり。浦沢脚本が論点のズレ自体をギャグにしているのに対して、下山脚本ではギャグになっていなかったり、 ズラしてはいけない所がズレている場合が多々見られるわけですが(^^;
 巨大戦では、勢いだけの一発技かと思っていたRV浪速蹴りが再び炸裂し、RV回転スイカ割り(ジャンピング縦回転斬り)から、 激走斬りでフィニッシュ。
 5人+市太郎+本官はスイカを楽しみ、最後に残った一切れを譲り合っている内にまたも雰囲気がおかしくなっていく恭介と実……が、 座っている→立ち上がる→椅子の上に乗る、と相手を挑発しながら目線のマウントを取ろうとする動きの入った演出が秀逸。
 最後は横から市太郎がいただいて、二人揃って「「あ、俺のスイカ!」」でエンド。
 “夏休みの宿題”という身近なネタからカーレンジャーの正義を間接的に問い、実のメリハリのある台詞回しが全編に活かされて、 会話もアクションもスピード感に溢れた、テンポの良い秀逸回でした。
 浦沢脚本には苦手意識が先行しているのですが、ここに来て、シグナルマン回−今回と、面白かったです。
 次回――カーレンジャーに妹登場?!「手放し運転は危ないぞー!」。

→〔その5へ続く〕

(2018年2月23日)

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