ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『激走戦隊カーレンジャー』 感想の、まとめ1(1話〜6話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。
- ◆第1話「戦う交通安全」◆ (監督:小林義明 脚本:浦沢義雄)
- 「この宇宙が邪悪に襲われた時、車を象った五つの星座が、輝きを持つ5人の若者にクルマジックパワーを与えて、 激走戦隊カーレンジャーに変身させる」
宇宙幕府……ではなく宇宙暴走族ボーゾックの襲撃を受け壊滅し、花火にされてしまう惑星ハザード。 一仕事終えたボーゾックは宇宙酒場で乱痴気騒ぎに明け暮れ、どうしてもヨーダを思わせるダップといい、 かなり『スター・ウォーズ』のイメージが浮かぶのですが、小林監督は以前に『巨獣特捜ジャスピオン』第1話でも猥雑な宇宙酒場のシーンを描いており、 様々な人や物が混じり合った宇宙世界のイメージなのかも。
話が地球に移ってからはかなりコミカルになるのですが、冒頭、無惨に破壊される惑星ハザード、陰影を強調した映像、 肌色を振りまくボーゾックの姫ゾンネット、と酒場のシーンまではかなり退廃的なムードが画面を支配し、 そのものが喋っているかのようにブラウン管に大写しになる女の唇、などは凄く小林義明。
「お前達に花火にされた惑星ハザードの戦士、ダップ!」
この酒場に潜入していたハザードの生き残りダップは、ボーゾックが次の標的に定めた惑星チーキュに輝く光を目にし、 激走戦隊カーレンジャー誕生の予兆を見ると、クルマジックパワーによりワープ。
ペガサス、という会社で働く5人の若者達が作った夢の車……の模型に宿ったクルマジックパワーに導かれて地球に降り立ったダップは、 整備工場内部に勝手に秘密基地を作成(笑)
伝説の実現だ、とテンション高い宇宙生物に引きずられるペガサス社員の5人は腕にアクセルチェンジャーをはめられてしまい、 なんだろうこの、リアル手枷感。問答無用でマジックにより取り付けられたのですが、 自由意思で外せるのでしょうか、これ。
当時ダップの見た目が凄く苦手だった事を思い出したのですが、今見てもやはり苦手だったので、 この感想はダップには厳しい方向になると思います!
その頃、一足遅れでボーゾックも地球に到達し、色とりどりの宇宙暴走族達が地球侵攻を開始。全身タイツの戦闘員ポジションが3色に、 幹部以外で個別デザインが数体、と混ざり合っているのが雑然とした雰囲気を出しています。
「人間達に飼い慣らされ、戦う事を忘れたチーキュの車達。今こそ目覚めよ、お前達は、兵器だ。兵器となって、人間達を支配せよ!」
総長ガイナモの言葉により、乗用車に消防車、果ては三輪車までが好き勝手に暴走を始め、 これを見たダップは「激走戦隊カーレンジャー、出動!」と高らかに声をあげるが、こそこそと物陰に隠れる5人。 ダップは5人をマジックでいぶり出すと、縄をかけてボーゾックの元へと連行する。
「ご紹介しまーす! 宇宙の平和を守る、激走戦隊カーレンジャーです!」
酷い(笑)
人間は死んだら直らないんですよ?!
前年がバリバリの職業軍人戦隊(オーレ!)だった事との対比もあってか、巻き込まれた一般人として当然の、 肚が座らない様子は繰り返し描写。
「じょ、冗談じゃないっていうの! どうして俺たちがあんな会社で働きながら、激走戦隊カーレンジャーにならなきゃいけないんだよ! 給料税込みで19万3000円で、どうして宇宙の平和まで守らなきゃいけないわけ?!」
ここで赤一人だけだと通り一遍のギャグにしかならないのですが、4人が次々と給料を自己申告していく、というのが秀逸(笑)
なお一番安いのは、緑。
夢も浪漫も失い給料という名の数字に踊らされる5人に見切りを付けて一人でボーゾックに立ち向かうダップだったが、 副長との対決に敗れてしまい、駆け寄ってきた5人に母を失った悲しい過去を語る。
――「惑星ハザードが、滅びても……宇宙の平和は、星座伝説の、激走戦隊、カーレンジャーが、守ってくれるでしょう……」――
ダップが身につけていたペンダントは母から託された物だが、そのダップも今ここに力尽きようとしていた……。
「私は、しんじ、る……君たちが、ハザードに伝わる、星座伝説の……激走戦隊、カーレンジャーで、ある、事を……」
「ダップぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
力尽きるダップの為に嘆く5人、出会ったばかりの変な生き物相手に、基本的にいい人達。
――この時、俺たちの心の何かが変わった。
ここまでなし崩しで振り回されてきた5人が、重大な決断を迫られる土壇場の局面に立った時、 逃げ出さずに前を向いて選び取る事が出来る者達、という形でヒーローである事を明示。
使命感や正義感の前に「人と人の交流」をステップとして置く事で5人の心情を納得させやすくしつつ、 ハザード星人の容姿を第一印象で感情移入しやすいものにしなかった事で、 そのハードルを軽々と乗り越えていく5人のヒーロー性を補強しているのが巧妙です。
「激走!」
「「「「「アクセル・チェンジャー!!」」」」」
ダップが握りしめていた鍵をそれぞれ掴んだ5人はカーレンジャーへと変身し……その姿を見て、ニヤリと笑うダップ。
「だぷー? やったー!!」
倒れたダップが目を閉じたのは、5人の同情を誘い決断を後押しする為の、死んだフリだった!
「最初から素直に変身してくれれば、こんなお芝居しなくてすんだのに」
最低だ、この生き物。
ヒーローとしての5人の在り方は明確にした上で、そう素直に格好いい話には持っていかないという強固な意志を感じますが、 ヒーローへの導き手が導入エピソードで死亡する、というパターンは過去に幾つか例があるので、一種のオマージュなのか。
第1話で死亡する導き手が結構な確率で無責任で最低である事を考えると、 芝居を隠しもしないダップの堂々とした姿はいっそ清々しい……のか?
「君たちの戦う相手は私じゃない。宇宙の暴走族、ボーゾックだ!」
5人に詰め寄られたダップはうまく責任の所在をすり替え、街でバカ騒ぎするボーゾックの元へ専用ゴーカートで駆けつけるカーレンジャー。
「レッドレーサー!」 キャッチコピーは到着までの道すがら、みんなで相談したものと思われますが、「カーーーーーーーー」と伸ばす名乗りが、 真似をしたくなる独特の強いインパクト。
「ブルーレーサー!」
「グリーンレーサー!」
「イエローレーサー!」
「ピンクレーサー!」
「「「「「戦う交通安全! 激走戦隊、カーーーーーーレンジャー!」」」」」
カーレンジャーは剣と銃を使って構成員と戦い、総長が作り出した巨大消防車メカも、銃の強化モードで撃破。 同じく強化モードの剣で総長に一太刀浴びせ、基本装備を一通り見せた所で、ボーゾックは一時撤退。
「君たち〜、なかなかやるダップ」
全く悪びれないダップに呆れつつも、ついついサムズアップとか向けてしまうレッドであった、でつづく。
第1話の印象は、ダップ酷いに尽きるのですが、民間人戦隊におけるメンバー拉致はそこまで特異な事例とはいえず、 乗り込んできて引きずり出す、はその裏返しと見れば正しく伝統的な作法に則ったともいえます。
その上でダップが悪質に見えるのは、星座伝説の名の下に他人の人生を踏み荒らす事に一切の躊躇も痛痒も見えないその姿勢なのですが、 ハザード星人の倫理観は地球人とは少々異なるとも取れますし、 そもそも惑星丸ごと一つを花火にされた復讐鬼だと思えばむしろ戦隊のDNAに満ち溢れているといえ、これは、 戦隊のDNAが一般人の精神を冒していく物語なのかもしれない。
復讐は時に人を狂わせるが、そうではなくては心が守れない時もあるのだ!
次回――「道路に飛び出すと、危ないぞ!」。
- ◆第2話「踊る騒音公害」◆ (監督:小林義明 脚本:浦沢義雄)
- クラシックカーで出勤するペガサス社長が登場し、金の大事さを繰り返す社長の長い朝礼に5人がダレていた所 (いつもの光景という演出)、勝手に作った秘密基地から出てきたダップ、社長を車マジックで眠らせて開発中の武装ギガフォーミュラーについて語りだし、 今回も傍若無人。
……早くこの生き物、段ボールに詰めて宇宙の果てに送り返した方がいいのでは。
ダップの長い話にメンバーが次々と逃げ出す流れで、
赤:陣内恭介はテストドライバー
青:土門直樹はデザイナー
桃:八神洋子は経理事務
緑:上杉実は営業
黄:志乃原菜摘はメカニック
と、それぞれの業務が判明。
……ペガサス自体が何をしている会社なのかいまいち不明瞭なのですが、 テストドライバーが居るという事は、自動車整備や新車の開発のみならず、レーシングチームも運営しているのか。 会社の前に積んであった大量の角材は、いったい何に使われるのか。
OPでも気になるど派手な赤いジャケット姿で、基礎体力作りの為にランニングしていた恭介は、 巨大なリーゼントを持ったボーゾック怪人、BBドンパと遭遇。
「おたく、何してんの?」
平然と話しかけ、基本的にメンタル強いな、恭介(笑)
宇宙のベートーベンと呼ばれるBBドンパが指揮棒を振ると、クラクションを鳴らしながら自動車が空を舞い始め、 基本的にこの世界では、車に意志がある模様ですが、無機物に意識があるのは浦沢時空だと思えば当然なのか。
そしてドンパの目論見とは……
「自分たちを優れた歌手だと勘違いした車達が、チーキュの大空でクラクションを鳴らす。するとその音は宇宙の騒音となり、 怒った宇宙人達がチーキュを攻撃する」
まさかの人任せ(笑)
第2話にして、悪の組織(暴走族ですが)が他の戦力をアテにする、という危険球。そしてこの世界の平均的宇宙人は、音がうるさい、 と問答無用で星間戦争を仕掛けてくるのが当たり前なのか。早くも見ている側の正気の基準が激しく揺さぶられます。
「いくら激走戦隊カーレンジャーが強くても、全宇宙の宇宙人を相手にしては戦えまい」
「おまえもしかして、ボーゾック?」
そして今気付く恭介は、派手なコスプレだと思っていたのか、このぐらいの変態は幾らでも居る世界なのか、 物差しをどこに置けばいいのか凄く悩みます!
雑魚構成員が出現して恭介はレッドレーサーに変身し、ボーゾック発生、のシグナルサインでメンバーに連絡。
「車達よー! 歌えやー、踊れやー!」
「このままでは、クラクションの騒音を出しまくる地球が、宇宙の敵になってしまう!」
第2話にしてかなり踏み絵っぽいネタなのですが、今になって見ると素直に面白い。リアルタイムでこれを見せられたら、 物凄く人を選びそうだなぁ、と思いますが(^^;
ドンパの指揮でクラシック調のメロディに合わせて舞い踊る車、単身で敵に囲まれて苦戦する赤、ゴーカートで急ぐ仲間達、 が音楽ぶつ切れの細かいシーン切り替えで描かれて映像的にも混沌を呼びつつ、十字路の中央で膝をついたレッドの周りに、 構成員を蹴散らして四方から走り込んできた仲間達のゴーカートが、ハンドル切って急ブレーキでスピンも決めて集う、 というのが地味に格好いい。
「戦う交通安全! 激走戦隊、カーーーーーレンジャー!」
空飛ぶ車で直接物理攻撃してくるドンパに苦戦するカーレンジャーを目にして、 ギガフォーミュラーを完成させようとペガサスに戻るダップ。会社では目を覚ました社長のキックでギガフォーミュラーが偶然完成、 とわざと雑にしている所が目立ちますが、宙を舞う車の攻撃を受けるアクションの方は、かなり派手かつシリアス。
そこへダップの乗ったギガフォーミュラーが突っ込んできて、説明書を読むというギャグが入るのですが、今見ると、 ファイズギア(『仮面ライダー555』)にも説明書入ってたしな!とあまりギャグっぽく感じなくなっているのは、 それはそれで駄目なのではないか自分。
なお戦隊的には、スーツの電子頭脳などにマニュアル同梱というパターンが存在するので、 これも定番崩しのギャグの一種なのかと思われます。
ギガフォーミュラーは個別武器のフォーミュラーウェポン、そして組み替えにより合体武器のフォーミュラーノヴァとなり、 逃走するドンパを後ろから狙撃。なんとか宇宙酒場まで逃げ延びるドンパであったが、その体から発する大音量が宇宙の騒音公害認定され、 通りすがりの宇宙船が撃ち込んできた破壊光線により木っ端微塵に消し飛んでしまうのだった(笑) ギャグめいた描写なのですが、爆発四散したドンパの右腕の先だけが残る、という最期の映像はけっこうエグく、 因果応報といえば因果応報ながら、いきなり他人の家に破壊光線ぶち込んでくる通りすがりの宇宙人が怖すぎて、宇宙は今、世紀末。 MAY DAY! MAY DAY!
戦い終わって平和な会社、目を覚まして電話を受けた社長は何やら奥さんに頭が上がらない様子で、 勝手に間借りしているハザード星人は、完成したギガフォーミュラーを磨きながらほくそ笑むのであった……で、つづく。
ところでカーレンジャーのスーツ、女性も含めて全体的に肩幅拾いマッチョ体型に見えるのですが、同期のビーファイターといい、 この時期の流行りだったのでしょうか。或いはアメコミ調イメージの一環なのかもですが。
次回――「横断歩道は、左右よく見て渡れよ!」。
- ◆第3話「正義の初心者印(マーク)」◆ (監督:坂本太郎 脚本:浦沢義雄)
- ボーゾックの根性直し屋RRリーが地球に飛来。
「俺の怖い顔を見て悲鳴をあげ逃げるとは、常識のあるおばさんだ。根性をたたき直して、非常識にしてやるぜ」
という台詞には唸らされます。
どこまで計算しているのやらわかりませんが、第2話で恭介が見るからに怪人相手にそれと気付かず「おたく、 何してんの?」と普通に話しかける事が伏線になっていて、「俺の怖い顔を見て悲鳴をあげ逃げるとは、 常識のあるおばさんだ」自体がギャグになっていて凄い。
その上で、「根性をたたき直して、非常識にしてやる」という摩訶不思議な理屈がこれまたギャグになっており、 この一つの台詞の中に二重三重のギャグが仕込まれているというセンスは圧巻。
RRリーは根性たたき直しハンマーで不真面目にしてやろうと中年女性を追いかけるが、この女性はなんとペガサス社長夫人 (演じるは岩崎良美)。息子の市太郎がペガサスに助けを求めに言っている間、リーのハンマーは掃除機に当たり、 夫人は不真面目になった掃除機に襲われるという、何やらそこはかとなく倒錯したエロスが漂うのも浦沢脚本というか。
これはボーゾックの仕業に違いない、とカーレンジャーは出撃するが、修理中の社長のクラシックカーに乗りたい恭介は 「4人で大丈夫でしょ」と出動を拒否。やむなくカーレンジャーは4人で社長宅へと向かうが、 社長一家は不真面目になった家具の集団に襲撃されていた。
「あの野郎! 面白がってうちの電化製品や家具の根性を! 勝手にたたき直しやがって!」
逃げ回りながらも割と状況を受け入れている社長の、行動そのものと台詞が二重のギャグになっていて、これも鮮やか。
民間人が率先して常識と非常識の境界をかき乱し、家族に焦点が当たり、やたら無機物にこだわる、 と第3話にして浦沢時空が一気に加速。
そこに駆けつけたカーレンジャーは次々と肉弾攻撃を披露し、地面にうつぶせになった状態でダッシュ体当たりをするグリーンの攻撃が、 まるっきりバイクル(笑)
打撃戦でもなかなかの強さを見せるカーレンジャーだったが、副長ゼルモダが増援の構成員を送り込んできて一転ピンチとなり…… そうとは知らぬ恭介は、修理完了した車でドライブを満喫していた。
「まったく……おまえってやつは、可愛い車だぜ」
某餃子職人みたいな事になっていた。
「おまえみたいな車を運転するのが、俺の夢だったんだ〜。……でも、おまえよりもずっと凄い車を俺は、作ってみせるぜ、 いつかきっと」
ところがそこに仲間達が吹っ飛んできて、あろう事か社長の車が不真面目にされてしまう。
「俺が心を込めて愛して修理した車が、こんな下品な姿に!」
更に、殴られたり蹴られたりする仲間の姿を見て、恭介、反省。
「俺が……自分の事しか考えなかったから……みんなが苦しい戦いをしている。……俺は、 俺が激走戦隊カーレンジャーである事を忘れていた! 俺は、俺の夢も大切にしたかったんだ。でも俺は、激走戦隊カーレンジャーだ。 何よりも先に地球の平和を守る為に、ボーゾックと戦う事が、俺の使命なんだ!」
クルクルクルマジック!
一応、個人の夢と英雄の使命を引き比べるのですが、思った以上に恭介があっさりかつどっぷりと激走戦隊カーレンジャーである事に染まっており、 英雄の使命をさっくり選択。
思えば第1話において、一度は拒否したカーレンジャーに変身した時に、恭介の中では「何よりも先に地球の平和を守る為に、 ボーゾックと戦う事」が“もう選ばれている”のであり、人間なので少しぐらつく時もあるけど、 基本的には一度した選択を取り消すつもりも曲げるつもりもない、という非常に根の真っ直ぐな青年として描かれます。
逆説的には、恭介をはじめそういった心根の持ち主達だからこそ星座伝説に選ばれたといえ、ヒーローの核となるその部分は、 混ぜっ返さない作り。
恐らく他のメンバーにもそれぞれの葛藤はあるのでしょうが(今後描かれる事もあるのかもしれません)、 そういった揺らぎを抱える“人間”である事を描きつつ、でも“ヒーロー”を選んだ奴等、の物語である事が恭介を代表として示されます。
振り返ればその選択を後押ししたのが、あの宇宙生物の死んだフリなわけですが、その件について遡って蒸し返す気も無さそうですし、 基本的に気のいい連中として、メンバー全員の基本好感度をまとめて上げているのは、巧い。
また、手枷……じゃなかった、アクセルチェンジャー填められた時点でヒーローの覚悟を得てしまうと、 クルクルクルマジックを注入されたのではないかと不安になるのですが、一度拒否させた後でそれとは別のきっかけを与え、
――この時、俺たちの心の何かが変わった。
と念押しした作劇も効いています。
ハイそこ、遅効性だったのでは……? とか言わない。
反省はいいけど、それでおまえはいつまで浸っているんだ、とダップにツッコまれた恭介は、改めて変身。レッドーレーサーが参戦し、 スクラムを組み直した5人はフォーミュラーウェポンを用いて主題歌バトル。 自分たちが殴られたり蹴られたりしている間にドライブを満喫していた赤を皆で盾代わりに使うとかそんな事は一切なく、 すんなり受け入れる4人、基本的にいい人達。
まだロボ戦が無しという事で個人武器を強調してかなり長めの戦闘で、武闘派の副長は途中で退散、 ビルを不真面目にしようとしていたリーを今回も後ろから狙撃して消し飛ばし、 不真面目になった物は元に戻るのであった。
次回――「信号は青でも注意して渡らなきゃ駄目よ」。
- ◆第4話「巨大化に赤信号」◆ (監督:坂本太郎 脚本:浦沢義雄)
- ガイナモに怒られたグラッチは地球へ逃亡し、下校中の市太郎と遭遇。
「あ〜、あの子供さんに、チーキュの美味しいものを聞こう」
おい侵略者!
緊張感の無い宇宙暴走族が市太郎から地球の美味しい物として、タコ焼き・フライドチキン・いなり寿司・芋ようかんを聞き出して次々と平らげると、 何故か巨大化。出撃したカーレンジャーの攻撃が一切通用しない強さを見せるグラッチはしばらくして元の大きさに戻ってしまうが、 これならカーレンジャーを倒せる、と怪人MMモグーをともなって、再び地球へ。
一方カーレンジャーは巨大ボーゾックをどうやって倒すか頭を悩ませた末、夢の車の模型にイメージを伝える事で、 星座伝説の力が宿り、5台の車がハイパー化。
ところが再び市太郎をさらって地球の食べ物を要求したMMモグーは巨大化どころか何故か小さくなってしまい……そのまま、つづく。
当時の尺の都合もあって、第4話は前振りに徹して次回にピークを合わせるという事だったのでしょうが、話のテンポが悪く、 アリバイ的な巨大グラッチとの戦闘も緊張感に欠ける為に盛り上がらない、と残念回。残念という以前にほとんど内容がなく…… この割り切りが凄いといえば凄いですが。
それにしてもゾンネットは、チーキュを花火にしてほしいと言っている張本人だし、機嫌が悪くなるとすぐ酒瓶でガイナモを殴りつけるし、 ジニス様ばりの極悪人ではなかろうか(笑)
次回――「車のすぐ後ろで遊んじゃ、危ないよ」。
- ◆第5話「この先激走合体」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:浦沢義雄)
- ボーゾックでは前回の巨大化騒動を振り返り、巨大化の原因は芋ようかん――それも、「芋長」の芋ようかんでこそ――と判明。
「怪人が芋ようかんを食べて巨大化する」という設定を文字だけ読むと実に頭おかしいのですが、物語の中においては、 〔偶然による発見→実証実験〕というプロセスが描かれているのが、妙なバランス感覚で若干の説得力を付加しています。
一方地球では、用意した巨大メカを操縦して合体してみたい、とカーレンジャーがボーゾックの攻撃をむしろ心待ちにしていた(笑)
闘争本能を拡大させ、戦いに用いずにはいられない、地球人、怖い。
血反吐を吐きながら続ける終わりのないマラソン一直線のカーレンジャーですが、説明書を読みながら、 会社の車を利用して合体変形のイメージトレーニングをしている、という描写は遊び心と今作の特徴が噛み合って秀逸。 リアリズムのようでギャグにも、ギャグのようでリアリズムにも、どちらにも取れるのが非常にいい味を出しています。
血に飢えた激走戦隊が手ぐすね引いて舌なめずりしているとも知らず、地球に出向いたグラッチは普通に芋長の芋ようかんを購入し、 これを食べたMMモグーが巨大化。カーレンジャーは巨大マシン・レンジャービークルを出動させ、既に地球の公道も、 クルマジックで改造済みだ!
いよいよ合体しようとする5台のレンジャービークルだが、ゼルモダ率いるボーゾックの部隊が妨害に入り、 しばらくマッドマックス的なボーゾックマシンとレンジャービークルによるミニチュア特撮での激しいカーチェイスとアクションが展開。 スピード感のある映像で、数々の妨害をくぐりぬけて2台、3台、4台、とレンジャービークルが合体していき、 最後はレッドビークルが頭部にダイビング。
「激走合体!」と口にしてから実際にロボットが立ち上がるまで、約5分20秒。
恐らく戦隊ロボ史上最長の合体シークエンスの末、遂に完成したRVロボはRVソードを構えてアクセル全開、 街で暴れる巨大モグーに迫ると高速回転し、「RVソード激走斬り!」で文字通りに一刀両断するのであった。
車モチーフを活かし、高速ダッシュからの回転斬り、という必殺剣はかなりの格好良さ。
Bパートの約半分を力の入った特撮による合体シークエンス(OPにも流用)に用いるという大胆な構成で、 印象的なロボ登場編となりました。
総長ガイナモはかなり真剣に怒りを燃やし、5人はビークルにワックスがけするのであった、でつづく。
次回――「遠回りでも、歩道橋を渡らないと、危ないよ」。
- ◆第6話「私達…一方通行」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:浦沢義雄)
- 整備士の菜摘と経理事務の洋子が仕事上の問題で衝突し、お仕事要素もしっかり取り込むが、売り言葉に買い言葉であっという間に喧嘩は別の方向へ。
「それだからいつまでたっても彼氏ができないのよ!」
「そういう菜摘だって彼氏にフられたんでしょ」
少なくとも過去に彼氏が居た、と明言されるのは戦隊メンバーとしては割と珍しいでしょうか。
ランニング中にこの喧嘩を目撃し、黙って回れ右するのではなく仲裁に入る恭介は、 底抜けのいい奴なのか底なしの恐れ知らずなのか。
或いはもう、後戻りできないほど狂っているのか。
意外と恭介、フラッシュマン→天堂竜(『ジェットマン』)と、遠藤耕一郎(『メガレンジャー』)の間に挟まる、 マッドヒーローの素養を感じて、心配になります。
ゾンネットの求めるネックレスを探してボーゾック一の捜し物名人・QQキュータンが地球に現れ、 だいぶ血反吐を吐きながら走り続ける事に慣れてきたのか、緑のアクセル拳法や、黄の走行中ダッシュ解体など、 殺意の高い戦闘手段を見せるカーレンジャー。ところが戦闘中に黄と桃の喧嘩が再燃し、 アドレナリン全開の二人は互いに刃を向け合って慌てた男衆に止められる。
「ワンパー達に笑われるぞ!」
で本当に座り込んでゲラゲラ笑っているのが、いかにもカーレンジャー。
「こら! 楽しそうに笑うな!」
逃亡した怪人に今回も背後からギガフォーミュラを撃つが避けられ、怪人は芋ようかんで巨大化。 RVロボを起動するカーレンジャーだがロボットの中でも黄と桃は揉め続け、 登場2回目にして挙動不審のRVロボはキュータンの攻撃を一方的に受けてしまう。まずは目の前の敵に集中……どころか、 どちらが悪いかでますますこじれた二人は、
「「「二人とも悪い!!!」」」
「「もう、知らない!!」」
で、戦闘中にロボから離脱(笑)
哀れ男3人が取り残されたRVロボは大苦戦し、被害が拡大していく市街。燃える街をこのままにしていいのか……けれど、 頭を下げて協力して戦うのも腹立たしい、と気まずい思いで立ちすくむ二人の元へ、ロボを青と緑に任せた赤が掛けてくる。
「俺たちは激走戦隊カーレンジャーなんだぞ?!」
「そんな事わかってる!」
「わかってない! 俺たちには地球の平和を守るという重大な任務があるんだ! 助けを求める人達を放っておいて、 心は痛まないのか!」
第3話に続き、カーレンジャーとは如何なるヒーローなのか、というのが恭介の口から語られるのですが、 自分の内側から生まれる正義というよりも、他者に対する反応としての正義(それは一つの裏表ではあるのですが)、 が強調されている事に特徴を感じます。
「なによ! 私たちの気持ちも知らないくせに! 偉そうな事言わないで!」
「そうよ!」
「え? お前達の気持ちって……?」
二人の間を取り持つ為に説得しようとしていた筈が、気がつくと肩を並べた洋子と菜摘に向き合う体勢となり、 何やら不穏な気配に気付く恭介。
(まさか……俺を殴って、スッキリしようと……?)
そう、共通の敵を前にした時、人類は心を一つに出来るのです。
「洋子、ごめん」
「ううん、あたしも悪かった」
恭介に友情ダブルパンチを炸裂せ、心を一つにスッキリした菜摘と洋子はアクセルチェンジすると、 ひっくり返った恭介を冷たく見下ろす。
「恭介、なにしてんの!」
「あたし達には、地球を守るという、重要な任務があるのよ?」
手を繋いで二人は走り去り、なんとか体を起こして追いかける恭介。
「仲直りしたかったお前達の気持ち、痛いほどわかったぜ……」
恭介が地球の平和を守る為にその身を犠牲にした頃、可哀想な青と緑はRVロボの中で息絶えようとしていた。だが、 ライトアップされたレインボーブリッジこそゾンネットが求めていたネックレスだと気付いたキュータンが戦闘を中断し、 その間に3人が再合流。
こんなに酷い展開だったのに、ここで主題歌が流れだし、レインボーブリッジをめぐっての夜戦はやたら格好良くて困ります(笑) 友情のパワー全開の桃と黄がRVロボで華麗に打撃を繰り出し、最後は激走斬りでフィニッシュ。
女戦士二人が喧嘩して……というのは定番ですが、その結果として街に甚大な被害がもたらされる(&仲間二人が危うく死にかける) という天秤の片側の重さが凄い上で、すべからくコミカルに処理されてしまい、ギャグの為に人を殺せる恐ろしい戦隊。
そしてボーゾック酒場では、気怠いブルースをBGMに、事の顛末を見届けたゾンネットが溜息をついていた。
「なぁんだ馬鹿らしい。あたしが欲しかったのはネックレスじゃなくて、ただの橋だったのね。ガイナモ、お酒ちょうだい」
「はいな、愛しのゾンネットちゃん、お飲み」
「は〜ぁ、QQキュータンの死は一体なんだったんだい」
「グラッチ、そんな事俺たちが考えてもしょうがねぇだろ」
「そうだな、ゼルモダ! 俺たちも飲もうや」
部下の死が、「考えてもしょうがない」流れのままの出来事で済まされるボーゾックの描写により、 ギャグの為に失われる命の軽さは全て意図通りである事が裏打ちされ、 いっけんボーゾックの邪悪さを示しているようで、カーレンジャー側(ダップ含む)も巻き込んでいるという構造がかなり凶悪。
笑いというのが価値観の転覆という要素を持つ関係上、既存の常識をひっくり返すというのはスタンダードな手法の一つであり、 命に対する突き放した視線そのものがギャグの一部になっているのですが、そういった常識や倫理に対するドライさが作風として色濃く出ています。
地球では、すっかり仲直りした女性陣を見ながら、男衆がベンチにぐったり座り込んでいた。
「彼氏なんか出来んのかいな、あいつらに」
「あの二人、とっても怖いですからね……」
「俺はあえて何も言わんぞ」
次回――「横断歩道は、手を上げて渡りましょうね!」。
(2017年11月6日)
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