■『侍戦隊シンケンジャー』感想・劇場版■


“一筆奏上!!”


 ブログ「ものかきの繰り言」に書いた、『侍戦隊シンケンジャー』感想、 劇場版その他のHTML版まとめ。

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◆『侍戦隊シンケンジャー 銀幕版 −天下分け目の戦−』◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:小林靖子)
 超高速で展開する夏の劇場版。

 「時は、平成21年――夏。外道衆の中の外道衆、腐れ外道衆の大軍が、此の世に侵攻。その数、およそ1万。率いるは、 腐れ外道衆の頭目、脂目マンプク。此の世を守らんとするシンケンジャーは、総力を挙げて、これを迎え撃つ。天下分け目の戦いである。 戦いは既に三日目。岩を削る波のように押し寄せるマンプクの大軍の前にシンケンジャーの疲れは色濃く……今や、 水切れによる撤収だけが、彼らの休息となっている」

 TV1.5話分の尺で劇場版的な事をしなくてはいけない……どころか、OP省いてもTV本編より気持ち短い尺(20分) しかない……という事で、冒頭から天下分け目の大ピンチ! 腐れ外道衆に追い詰められたシンケンジャー! というところからスタート。
 ……ただなんだか、「水切れ」の設定に関しては、全編通して最も劇的に使われた気がします(笑)
 屋敷に戻り、休息と治療を行うシンケンジャーの元に、300年前、マンプク(CV:渥美格之進)を封じた初代シンケンレッド (オーブルーにして渥美格之進)が残したと伝わる、秘伝ディスクの所在が判明した、という吉報が爺(やっぱり渥美格之進)よりもたらされる。
 「ただ、体力温存で行きたい。流ノ介、ことは、何か思いつかないか?」
 何故その二人? と思ったら……
 「こういうのは、少しズレた発想の方がいい」
 「え? いや、私は、それほどズレている方では」
 「うち……流さんには敵わへんけど、頑張ります」
 「そう?」
 のくだりが、この映画で一番面白かったです(笑)
 ぽくぽくぽくぽくちーん……まさかのナナシなりきり作戦で敵陣をくぐり抜けたシンケンジャーは、遂に初代秘伝ディスクを発見。 勇んで秘伝ディスクをロードしてみるが……残されていたのは役に立たないビデオメッセージだけで、こんな所まで、 東映の伝統に則らなくていいんですよ?!と落胆する侍達だが、神社にお祈りに来た姉弟の願いを耳にして、 此の世を守る為にくじけるわけにはいかない、と改めて決意。
 「いいか、侍の本分は、討ち死にに非ず。狙うは脂目マンプクの首一つ」
 獲るぞ大将首、と腐れナナシ軍団に挑むシンケンジャーは馬を召喚し、個人武器が馬上戦闘で活用されたのは、 劇場版らしい見応えのあるアクションで良かったです。特に本編でほとんど記憶の無いブルーの弓が大活躍。
 冒頭ではロボ担当だった寿司屋はふらっと出てきた十臓の足止めを担うが、本陣に乗り込んだレッドはマンプクに苦戦。 逆に大将首を奪われかけたその時、初代が残したメッセージの真実に気付くと、 初代がマンプクの体に刻み込んでいたモヂカラを発動する事で初代秘伝ディスクの力を目覚めさせ、恐竜丸を解放。
 もう5分ぐらい尺があれば、初代から脈々と続く戦い、という部分を掘り下げられたのでしょうが、 あっさり塩味風味で香り付けに留まり、残りは劇場版フィーバータイムで腐れ外道衆を成敗して一件落着!
 勝利の三本締めからエンディングは、いつものエンディング曲に各自ボーカル部分を加え、源太も乱入。 最初のところで源太が姐さんの肩に手を置いてナチュラルに払われるのですが、恐らくこの時期、 まだ方向性が固まっていなかったであろう源太は、“綺麗な女性に弱い”的な要素をキャラ付けに使う予定があったのかどうか (その後の本編で、たまーにそういう雰囲気を見せるが、結局、キャラ付けというほどにはならず)。
 とにかく時間が無いので、劇場版スペシャル要素とアクション以外の部分は切り詰めるだけ切り詰めました、という一作。

◆『侍戦隊シンケンジャーvsゴーオンジャー銀幕BANG!!』◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:小林靖子)
 『炎神戦隊ゴーオンジャー』コラボの冬の劇場版。

 見所は、ノースリーブだったりサラし巻きだったり、やたら肌色をアピールする源太。……源太、 何と戦っているのだ、源太。姐さんの稀少なスカート姿が霞む勢いだよ源太!
 どだい約1時間で13人を動かすのは無理があるので、『ゴーオンジャー』の世界設定を活かして各自をバラバラの世界に分け、 殿と走輔を中心に進行するのですが、何故か最初から最後まで目立ち続ける流ノ介。……つくづく便利だ、流ノ介。
 そしてボンパーさんの出番が多い。
 前作のラストより1年弱――ガンマンワールドにおいて蛮鬼族の害統領バッチードを追い詰めていたゴーオンジャーだが、決闘に敗れ、 様々な次元にバラバラに飛ばされてしまう……と、策略によるとはいえ最強無敵の磨り潰しロボ・炎神王G12敗北、 でバッチードの強さを見せる所からスタート。
 そこから焦点はシンケンジャーへと移り、人々の悲鳴に出陣したシンケンジャー、ウガッツと遭遇してとりあえず戦っていると、 そこへ現れる見たことの無い真っ赤なヒーロー。
 「おまえ、なんなんだ」
 「正義の味方さ! 俺は、マッハ全開! ゴーオンレッド! の江角走輔だ。よろしくな」
 同じ“戦隊”ではあるものの、片や 悪魔 炎神と契約した、庶民派正義の味方、片や先祖代々の使命に生きる侍達、 とスタンスの違いから両者の間に流れる冷たい空気。そこへボンパーさんが飛んできて、とりあえず屋敷に戻って事情を聞く事に……と、 こういう時、マスコット型は存在そのものが説得力になって便利。
 あらゆる世界を汚染しようとするバッチードの存在と、仲間達がバラバラになってしまった事を説明するボンパーと走輔。
 「正義の味方同士一緒に戦って、マッハで解決しようぜぇ!」
 「……一緒に戦うつもりはない」
 だが殿は、この、事あるごとにバン! バン! うるさい生き物と一緒に動くのが面倒くさくなっていた。
 「素人と一緒に戦うのは、どっちにとっても危険だ」
 派手で目立つ動きばかりで連携のれの字もない走輔を「素人」と断じる殿。この物言いに、走輔も高い所でふんぞり返っている殿を批判し、 2人は喧嘩別れ。走輔はボンパーを連れて屋敷を出て行くが、シンケンジャーはシンケンジャーでバッチードの動きを気にする事に。
 「ま、それもそうだな……」
 「なんだ」
 「なんであーいう言い方するかね〜」
 「ホント。初めての人ほどそうなんだよね〜。悪い癖っていうか」
 そして家臣団から、一斉にただの人見知り扱いを受ける殿。
 ……久々に見ると、ホント面倒くさいな殿!
 「プロ/素人」という『ゴーオンジャー』本編でも用いた言葉をキーワードにしつつ、 『シンケンジャー』見ていると慣れてきがちだけど、「殿っておかしいよね殿って!」と改めてゴーオン側からツッコませ、 二つの戦隊の特性を対比しながら展開。この辺り、ド正道を行ったゴーオンと、獣道を行くシンケンという、 二つの戦隊のスタイルの差を上手く盛り込みました。
 その頃、三途の川を訪れていたバッチードが、あらゆるワールドを汚染するバッチリウムプラントのエネルギー源として三途の川を使いたいと持ちかけ、 外道衆と同盟を締結。手駒としてアヤカシ・ホムラコギを配下に借りると、更に三途の川の底に居る筈の“もう3人”を部下にしようとする……。
 ガイアークに関係する3人といえば……そう、ヨゴシュタイン・キタネイダス・ケガレシア、の3大臣、 復活……そして飲酒!
 「冗談ではないゾヨ。いまさらバッチードの手伝いとは」
 「全くナリ。せっかく三途の川で汚く気持ち良く暮らしていたというのに。ねえケガちゃん」
 「そうじゃそうじゃ、行く必要ないでおじゃるよ」
 感動の最期を台無しに、三途の川から甦った3大臣は、さっそくゴールド寿司でぐだっていた。
 もはや、活動家としての志も失ったのか(笑)
 そこへバッチードとウガッツがやってくるが、
 「なんだか知らねえが、うちの客に手出しはさせねぇ!」
 とゴールドが変身し、3大臣はその間に、逃亡(笑)
 酷い、酷すぎるけど、確かに3大臣だ……!
 そこへゴーオンレッドとシンケンジャーも駆けつけるが、強敵バッチードに7人は苦戦。 レッド2人をかばって5人が別の次元に飛ばされてしまい、レッド2人は海落ち。そして彦馬とボンパーが、 ホムラコギによって捕らえられてしまうのであった。
 「おまえかなり信用されてるんだな。あいつら、一瞬も迷わずに、おまえの事……。 ただふんぞり返って偉そうにしてるだけの殿様だったら、ああはならねぇ。おまえがそうじゃねえんだって事、よくわかったぜ」
 「俺もわかった」
 「お!?」
 「おまえはやっぱり素人だ」
 「おまえな、そこは、見直したって言うべきとこだぞ。空気読めよ」
 「ただ――この世を護るのに、侍も素人もない。おまえの気持ちは本物だし、本物は……強い」
 先に出た「プロ/素人」が『ゴーオン』の一つのキーだとすると(まあ、走輔は、“それを気にしない男”なのですが)、 この「本物」というのは『シンケンジャー』における大きなキーワードで、殿が走輔を「偽物(素人)だけど本物」と認めるというのは、 本編を考えると、重い言葉。
 ヒューマンワールドに残ったレッド2人がここでお互いを認め合い、その頃、各ワールドに飛ばされた仲間達は……
 〔クリスマスワールド:茉子、源太、大翔、美羽〕
 〔サムライワールド:千明、ことは、連、軍兵〕
 〔ジャンクワールド:流ノ介、早輝、範人〕
 という割り振りで、それぞれ出会って、トラブルに巻き込まれて、とドタバタ展開。細かくやっていられないので、とにかく出会う、 ドタバタで楽しませる、という事に割り切っており、ギャグ要員とヒロインパワーが活躍。その為、 ギャグ要員でもヒロインでもない面々(大翔、連、早輝、範人)の存在感が微妙ですが、これはもう、致し方ない所か。
 ……早輝よりも流ノ介の方がヒロイン力が高かったのは事故です。
 というか早輝と範人は他の面々より1シーン少ないのですが、スケジュールの問題でもあったのか。その分、 合流後の戦闘シーンではやや台詞が多いですが。
 なお、茉子と美羽が凄いスピードで意気投合しているのは、何か、深く頷ける所です。
 仲間達が3つの世界でドタバタしている頃、彦馬とボンパーを人質に取られた赤2人は、呼び出しの場所へと向かう。 人質を盾に無抵抗を要求されるが、さくっと剣を抜く殿。
 「やめろ! 丈瑠、今はあいつらの言う通りにするんだ!」
 「だからおまえは素人なんだ」
 黙って殺されても人質は助からないし、世界は汚染されるだけ……と刀を振るう殿だが走輔はそれを止めようとして遂に変身。
 「俺は人質を助ける。ボンパー達の命も救えねえのに、世界を救う事なんて出来ねえからな!」
 2人の対立は遂にレッド対決へと発展し、激しい戦いの末にまさかの相打ち! ……と思われたが、それは2人の作戦通りであった。 油断した敵の目が逸れた隙に獅子折神が人質を救い出し、彦馬が格闘を披露してボンパーと共に脱出に成功。
 まあ仕込みだろうな……とわかってはいつつも、走輔ならそのぐらいの本末転倒はやりかねないかもしれない、という辺りは、 直情径行型の走輔と、割とクールで万能型(一部に致命的な不具合あり)の丈瑠、の違いで上手く話を組みました。 相打ち偽装のトリックが、冒頭のバッチードの策略の意趣返しだったり、走輔のコインを小道具に使っていたりというのは丁寧。
 ……そして、凄く雑に、炎神に助けられてヒューマンワールドに帰還する仲間達!
 一応、炎神達が手分けして様々な次元に飛ばされたメンバーを探している、というシーンは挟まれているのですが、 各ワールドでのドタバタをどう処理するのかと思ったら、炎神によって救出された事になり省略されるという、まさかの裏技。
 各ワールドでのトラブルはそもそも解決シーンを描くつもりが無かった(撮影段階では、 炎神に拾われるシーンぐらいはあったのかもしれませんが)、というのは作りとしては好みではありませんが、 尺の問題と炎神の存在意義を、まとめて解決しました(笑)
 かくして決戦の場に集った総勢13名が、お約束の名乗りで揃い踏み。
 本編に無かったから仕方がないのですが、この期に及んで、「ゴーオンジャー!」と「ゴーオンウィングス!」が別々な事に、 世間の冷たい格差を感じずにはいられません。
 シンケンジャー&ゴーオンジャー&ゴーオンウィングスvsバッチード軍団&レンタル外道衆の大クライマックスバトルは、 各ワールドでの振り分けに基づいて分割戦闘。
 戦闘は一画面に人数多すぎてもあまり面白くならないので分割は妥当なのですが、 もしかしたらそもそも各ワールドでのキャラクターの組み合わせは、戦闘における中の人の都合を考慮していたりもしたのでしょうか。
 ここまで出番の無かったアルバイトコンビ(十臓・太夫)は潔く出てこないのかと思ったら、 アクマロと一緒に戦いに乱入しようとして天装戦隊ゴセイジャーに阻まれるという、ゲストの踏み台要員。 ゴセイジャーにゲスト補正があるとはいえ、3人まとめて正面から力負けして撤退しており、酷い役回り(^^; こういうのはまあ、 割り切るしかない所でありましょうが。
 ダブルレッドはウガッツバイクにナナシがまたがったアパッチ軍団に立ち向かい、 モヂカラで作り出した車をゴーオンレッドが操るというのは、走輔のスキル《運転》が活かされました。…………が、 よくよく考えると“殿と運転手”という構図になっている所に、世間の冷たい格差を感じずにはいられません。
 主な栄養源が卵の戦隊と、寿司とか普通の戦隊の間に横たわる、 暗くて深い断絶を改めて感じます。
 運転手の操る車に乗りながらシンケンレッドはアパッチ軍団を切り払い、 バイク変形に失敗してナナシを背負って運ぶというギャグ要員の騎馬隊も、逃げようとした背中から容赦なく斬るのが、凄く殿。
 爆走モードに変形したホムラコギは、殿がゴーオン銃を借りて撃ち、恐竜ゴーオンレッドとスーパーシンケンレッドの協力攻撃の後、 13人一斉攻撃で撃破。ホムラコギは二の目で巨大化し、バッチードも産業革命で自ら巨大化すると、 月に設置してあったバッチリウムプラントへと向かい、それを追って炎神と折神、まさかの宇宙へ。
 道中、一斉エネルギー弾でホムラコギを撃破した両戦隊は、月面で炎神王G12とサムライハオーに変形合体。 1体でさえ凶悪な下駄・下駄・そしてバックバック、という馬鹿デカいロボが2体並ぶというとんでもない絵で、 なるほどこれは宇宙にでも飛び出さないと並べられないなぁ、と納得しつつ、もはやどちらがラスボスなのかよくわからなくなってきます(笑)
 対してバッチードはバッチリウムプラントと合体して最終形態に……てまあ、ケーブルが巻き付くぐらいなのですが(^^;  せっかく忘れかけていたプラントを持ち出したのだから、もう一段階、バッチードの外見を強化して欲しかった所で、これは残念。特に、 戦隊ロボ2体が凶悪すぎるので(^^;
 強烈な汚染エネルギーを前に苦戦する2大ロボだったが、流ノ介発案の合体フォーメーション、侍炎神スーパー大海砲により、 バッチードを滅殺。もう、何が何だかよくわからない絵になっていますが、戦争は物量と火力です。
 かくして害統領バッチードは倒れ、ゴーオンジャーとウイングスは炎神達と新たな旅へ。
 「なんだよ、また他の世界にいっちまうのか」
 「俺たちは全てのワールドを守る」
 「バタバタ〜。それが俺っち達の務めだからね」
 綺麗にまとめる為に、いつの間にか、時空戦士と化しているジャー&ウイングス。
 丈瑠と走輔は拳を打ち合わせ、殿に……殿に、殿に、お友達ができました!
 「ゴーオンジャー。まさに、気持ちの良いヒーロー達でしたなぁ」
 「ああ」
 旅立つゴーオンジャーを見送り、夕陽でエンド。EDはゴーオンとシンケンをミックスし、シンケンジャーがゴーオンのED(侍Ver.) で踊り、間にシンケンED風ゴーオンジャーが入るというのが、なかなか洒落ていました。
 お祭り映画としては、こんなものかなという出来で、『ゴーオン』『シンケン』共に好きな戦隊という事もあり、 それなりに楽しめました。後10分ぐらいあって、各ワールドでのやり取りにもう少しキャラの絡みが増えて綺麗に脱出まで描けていれば文句なかったのですが、 そこは致し方ない所か(^^; 勢揃いした後で範人が姐さん&ことはに粉かけている辺りは、よく拾ったと思います。
 ……しかし改めて、後の『ゴーカイジャーvsギャバン』は奇跡的な出来だったのだなぁと再認識。まあやはり、 基本的に世界観の違う戦隊二つ(しかも片方は完結済みで片方はクライマックス目前)を合わせて総勢10人以上を約1時間で動かすというのは条件悪すぎて、 割り切って造らざるを得ない、という事なのでしょうが(^^;
 この映画で一番凄いと思ったのは、甦ったガイアーク3大臣が、本当に寿司屋で飲んだくれていただけだった事(笑)  一応ケガレシアの台詞が、プラントが月にあると気付くヒントになるのですが、かつてこんな酷い、 しかし納得できてしまう扱いの幹部復活劇があったであろうか。ちょっとだけ、御大将も参加してのダメな飲み会が見たかったです(笑)
 以上これにて、一件落着。

◆『帰ってきた侍戦隊シンケンジャー−特別幕−』◆ (監督:柴崎貴行 脚本:小林靖子)
 「私とした事が……。危うく格好良く死ぬとこだった」
 本編放映終了後の、番外編Vシネマ。基本、キャラクターショーに徹した作りで、 アヤカシの妖術にはまったシンケンジャーが様々なシチュエーションで様々なコスプレをして大騒ぎ、という内容なのですが、 本編メインライターの小林靖子脚本な上で
・各シチュエーションはだれる前に早め早めに切り替える
・どのシチュエーションでも基本的に全員登場
・潔くお楽しみと割り切って変に本編と繋げない
・その上でとある要素がラストへしっかり連動する
 という作りが統一したテンポの良さを生んでおり、特に「早め早めに切り替え」と「全員登場」という形式にしたのは大正解。 1シチュエーション1人をシーン切り替えで繋いでいくとキャラ間の落差がストレスを生む可能性が出ますがそれを排除し、 馬鹿馬鹿しいネタでも全員登場なら諦めがつく上で、一つ一つのシチュエーションにこだわりすぎない事で飽きさせず、 アトラクション的な面白さを前面に出せました。
 ……まあ、一つ一つのシチュエーションは概ねくだらないギャグ寄りなので、早め早めとはいっても好みによってはどうしてもだれるとは思いますが、 私はギリギリ、面白いに転がってくれました(そういう点では尻上がりに面白くなった)。
 シチュエーション切り替えごとにタイトルが盛られていくのですが、
 〔殿様評判記 → 殿様評判記荒野の握り → 殿様評判記荒野の握り情熱系 → ……〕
 という、やや迷走を始めた映画シリーズのタイトルっぽさが、東映的に妙なリアリティ(笑)
 個人的に特に面白かったシチュエーションは、動物戦隊シンケンジャー世界と、茉子アイドル世界。
 動物戦隊は、シンケンジャーのスーツに各折神モチーフの耳などがつき、外見お遊び(と、あるプラスアルファ)なのですが、 折り返しのアクションシーンになっており、動物の特性を取り込んだアクションが割と見応えあり。勢いで「ドラゴンファイヤー!」 とか放ってしまうブルーが妙に格好いい(笑) そして、全身から触手を伸ばすイカゴールドは、どう見ても怪人であった。
 茉子アイドル世界は、ぶりぶりのアイドル衣装の姐さんが一曲歌い、唯一、生身登場は茉子だけという例外的なシチュエーションなのですが、 ステージで無表情に踊るシンケンバックダンサーズが、想像を絶する面白さ。
 バックダンサーズ(赤青緑黄金)はスーツ姿なので当然表情は無いのですが、普段、 戦隊のドラマとして無表情な仮面に感情を投影する見方に慣れていると、ドラマが無いので感情の投影しようがないスーツ姿の無表情がより強烈な印象になり、 ムーディなイントロに合わせて如何にもな振り付けですっと立ち上がるダンサーズの動きで大爆笑。
 戦隊ドラマの文法を逆手にとって、ドラマを排除する事で強調した無表情を笑いに変える、 というのはこれは“ひっくり返しの戦隊”である本編の要素を汲み取ったといえるのか(笑)
 ところでこのシーン、メンバーの線が妙に細いというか、ダンス本職の方に入って貰ったのか、 スーツアクターさんがいつもと違うように見えるのは気のせいでしょうか。でも、ゴールドだけ凄く太めというか、 普段より太い気がして凄く謎(次郎さんがゴセイナイト使用でウェイト増してた……?)なのですが、これは照明か、照明の影響なのか。
 なお今作で、オール男性陣の女装がありました。
 まあ、性別逆転学園物世界だったので、厳密にいうとこれは女体化……なのか?
 ドタバタ劇で進行しつつ、最後はヒーロー物としてしっかり締め、これやっておけば大体収まる、 というというのはスーパー戦隊の「型」の強さを感じますが、それを補強する仕掛けもバッチリはまり、柴崎監督の演出も良かったです。
 あと、幻覚の中で苦しむシンケンジャーの姿を愉しむアヤカシの声を演じた陶山章央さんの、吃音多用の下卑た演技も印象的。 本編では個々のアヤカシの存在感の弱さというのは短所の一つでしたが、尺の余裕もあって出番も確保され、面白い怪人となりました。
 お楽しみ主体という事もあって時制は劇中で明確にはされないのですが、サムライハオーへの言及と6人の距離感を考えると、 本編第35−38話の間ぐらいのエピソードでしょうか。
 キャラクター強度を活かした割り切った作りが良い方向に転がって、ボーナストラックとして楽しい1本でした。

◆『天装戦隊ゴセイジャーvsシンケンジャー エピックON銀幕』◆ (監督:竹本昇 脚本:下山健人)
 『ゴセイジャー』冬映画への、コラボ出演。

 殿が、殿が、微笑んで名乗ってアラタを受け入れて握手したーーーーーー!
 一年前は、事あるごとにバン! バン! うるさい生き物を「……一緒に戦うつもりはない」と一刀の元に切り捨てていた殿は、 アラタにより天知家に招かれると、上座を設置しようとしていた黒子をたしなめてソファに座るなど、順調に人格改造が進んでいます。
 「彼らは天装戦隊ゴセイジャー。地球を守る護星天使だ」
 突如復活した外道衆、買い出し途中にこれと戦っていたゴセイレッド・アラタを助けたシンケンレッド・志葉丈瑠は、此の世を、 そしてこの星を護る為、互いに協力を約束し、殿が真顔で「天使」と口にするだけでちょっと面白くてズルい(笑)
 丈瑠は血祭ドウコクとの因縁の決着後、それぞれの道を歩んでいる家臣達を再び招集し、ハイテンションで真っ先に駆け付けた流ノ介は 「天使はないでしょ天使は」と居候の五人組に絡んで一悶着を起こし、相変わらず便利。
 ゴセイジャーは天装術を倍返しする能力を持ったタコアヤカシに苦しめられ、モヂカラも無効に違いないと攻めあぐねる侍赤と青だが、 そこに侍緑が参戦。
 「だったらよぉ……俺達得意の、力尽くでいきゃいいじゃねぇか!」
 かたや天使! かたや侍! の異文化衝突に続き、侍戦隊=ヒャッハー武闘派軍団である事を自ら宣言し、全体的に、 物語の方からどんどんツッコんでくるスタイル。
 タコアヤカシを物理で袋だたきにしようとするシンケンジャーだが、三途の川で甦ったチュパカブラ改め血祭のブレドランが登場し、 中身ブレドランでシルエットがドウコク、というデザインは割と格好いいのですが、なにぶん中身ブレドランで前身はチュパカブラな上、 ゴセイジャー側のリアクションも“顔見知りの嫌な奴”程度なので色々とインパクト不足で反応に困ります。 ゴセイジャー側からもう少し、悪としての存在感を煽ってくれても良かったかな、とは。
 だが、スーパー化した侍赤はその罠にはまって虫にたかられさらわれてしまい、 秘めたヒロイン力を要らぬところで発揮する殿、殿ーーー!
 丈瑠という支柱を失った流ノ介と千明はゴセイジャーと決裂し、殿不在による動揺を理由の補強にはしているのですが、 流ノ介も千明もそこまで頭が固かったか? という点は強引になってしまった感。
 シンケンジャーの持つ、殿−家臣の強固な絆を描こうとする余り、“外”へ向けて強く排斥的になってしまったのは、 らしからぬ姿になってしまいました(コラボ劇場版の事情で仕方ない面はありますが、本編はむしろ、 そういったクローズドな価値観からの脱皮をこそ志向していたわけですし)。
 シンケンジャーとの共同戦線を望むアラタは、茉子とことはに接触して強引にシンケンジャーとゴセイジャーを集めるが、 そこに姿を見せたのは、いつもより3倍ほど目の死んだ丈瑠。
 まんまと敵の術中に落ちた丈瑠は黒地に金の縁取りの羽織をまとった外道シンケンレッドに変身するとゴセイジャー、 ついでシンケンジャーに襲いかかり、シンケンジャー全滅寸前、身を挺して4人をかばうアラタ。 更にゴセイナイトとシンケンゴールドが駆け付けて一同は撤収に成功し、相変わらず、ゴセイナイトは格好良くて最高です!
 アラタの「諦めない限り、必ず何とかなる」が口だけでない事を身を以て知った侍達は、丈瑠を取り戻すべく天使達との共闘を決め、 天使と侍の食い合わせの悪さを敢えて積極的に取り込んだところから、「天装術」と「モヂカラ」に共通点を見出すのは、 vs物として上手い流れ。
 操られたシンケンレッドを敵に回す事で字義通りのvs要素も確保しており、対立の成り行きには不満があったものの、 各種要素の取り込み方、という点では悪くない出来で、アラタに力を貸すべく姫が登場したのも嬉しかったです。
 ゴセイレッドは、姫のモヂカラを込めて生み出した火炎トルネードカードの一撃により、立ちはだかる外道レッドを洗脳から解放。 満を持しての12人揃い踏みとなり、W戦隊は、護星界に三途の川をぶちこんで壊滅させようとする血祭ブレドランに決戦を挑む!
 「ここからは、私たちのターンだ」
 横槍を入れようとした骨のシタリは、先行登場のゴーカイジャーに蹴散らされ、 現行戦隊の強敵が踏み台にされがちな先行登場の問題点を、前作の生き残り幹部に当てた事で解消したのも、 上手い形になりました。……その代償として、シタリは外伝的作品で消し飛ぶ事になりましたが(笑)
 なおゴーカイジャーはEDダンスにも侵食し、企画としての力の入り方が垣間見えるところです。
 この後の戦いは正直割とどうでもいいというか、今作最大の短所は仇役がブレドランという事で、 リアルタイムで見ていたらまた違う印象になったかもしれませんが、 とにかく最初から最後までブレドランをどんな顔で見ればいいのかわからず、 「あー、はいはい」という感情を覆す事ができませんでした……。
 巨大ブレドランに対して新たな地球パワーをDLしたゴセイジャーは、ミラクルコンバイン。 グランドハイパーもとい生首一杯ゴセイグレートが誕生し、さすがのブレドランも
 「なんだ?! あの、化け物は?!」
 と、おののくグロテスク。ゴセイジャーの強化の流れをすっかり忘れていたので自分の感想を読み返したところ、 本編第12話でハイパーゴセイグレート初登場時に敵のカマキリが「なんだこの化け物はぁ?!」と反応しており、 そのセルフパロディかと思われますが、今見ても、どうしてこのアイデアに着地してしまったのか……。
 グランドハイパーゴセイグレートにはライオンヘッダー経由でシンケンジャーも乗り込み、総勢12人がモヂカラビクトリーチャージ。
 「「「「「星を傷付け、汚す魂に!」」」」」
 「護星の使命が――」
 「「「「「天罰を下す!」」」」」
 「「「「「「モヂカラ!」」」」」」
 「「「「「ヘッダー!」」」」」
 「「ストライク!!」」
 「成敗!」「はっ!」
 融合エネルギーを叩き込まれブレドランは怨嗟の声を残して消し飛び、勝利の一本締めで一件落着。
 「侍とは違うけど、天使の絆もなかなかいいもんでしょ?」
 「のようだ」
 最初は水と油(まあ対立していたのは流ノ介&千明だけですが)だった侍と天使は互いの関係を認め合い、 再びそれぞれの道を歩み出すのであった……でEDに入り、色々と条件の厳しいコラボ映画としては、 双方のギミックをほとんど使い切って、程々まとまっていたかなと。
 難点としては上述したブレドラン、それと、戦隊の枠を越えたキャラクター同士の繋がりがこれといって面白くならなかった事。 術属性の都合もありますが、同色の組み合わせにこだわりすぎたのではという気がします。
 個人的に、茉子とエリはそれほど相性が良いとは思いませんし、流ノ介を絡めるべきはハイドではなかったのではないか……など、 シンケンサイドも生身キャストの出番がかなりあったにも関わらず、組み合わせの面白さ、 みたいなものがこれといって出てこなかったのは、残念。
 ただ、そういったハードルを上げなければ、両作のエッセンスが上手く組み合わされてはおり、 シンケン勢の掘り下げの甘さは不参加作品なのでやむをえないとすれば、下山脚本の良い面の出た一作ではあったかな、と。
 個人的には、ゴセイナイト成分がかなり満たされて良かったです(笑)

(2019年8月24日/2020年5月19日 追補)
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