■『侍戦隊シンケンジャー』感想まとめ10■


“一件落着 日本晴れ
 四六時夢中 未来へ走りだす”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『侍戦隊シンケンジャー』 感想の、まとめ10(46〜最終話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

戻る

〔まとめ1〕 ・  〔まとめ2〕 ・ 〔まとめ3〕 ・  〔まとめ4〕 ・ 〔まとめ5〕
〔まとめ6〕 ・ 〔まとめ7〕 ・  〔まとめ8〕 ・ 〔まとめ9〕 ・  〔総括〕 ・ 〔劇場版他〕


◆第四十六幕「激突大勝負」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:小林靖子)
 真ヒロイン争いを通り越し、真の主人公争いが勃発している事など知らず、十臓と向かい合う丈瑠。
 「これだ……存在するのは、ただ、剣のみ。するべき事は、ただ戦いのみ。あとは一切の無。おまえならここまで来ると思っていた」
 シンケンレッドのイメージ植物ともいえるモミジの葉の舞い落ちる中、十臓は喜色と共に刀を振り上げる。
 (裏正、喜べ……これから味わうものこそ、最高の!)
 2人の死闘は森の中に移り、落ち葉を投げつけたり拳や蹴りを放ったりと、文字通りの全力を尽くした戦いが展開し、十臓は変身。 応じて丈瑠もシンケンレッドへ変身する……やっぱり、返却していなかった書道フォン。
 源太から連絡を受け、丈瑠の行方を捜しに出ようとする彦馬は、戦いから帰ってきた4人に改めて頭を下げる。
 「すまん。……外道衆を倒す為にも、おまえ達を欺き通せと殿を叱咤してきたのは儂だ。詫びて済む事ではない。しかしここは、 殿の言うように……」
 「日下部ぇ、いつまで殿、殿と言っておる」
 またも見事な憎まれ役として登場する丹波さん。やりきってくれている所が、実に清々しい(笑)
 「この日下部彦馬、殿をお預かりした時より17年、まことの殿と、心に決めて、お育てお仕えして参りました。そう決めなければ、 私も、殿も……」
 前回今回と、長い台詞で伊吹吾郎が、さすがの貫禄。「まことの殿と、心に決めて、お育てお仕えして参りました」 と淀みなく言えるのはさすがです。
 「まことの殿とは、何事?!」
 立ち去る彦馬の背中に憤りをぶつける丹波、の後頭部に直撃する扇子。
 わざわざ扇子が飛んでくるワンカットが別にあるのは、時代劇『八百八町夢日記』(主演:里見浩太朗)を思い出してしまいました(笑)
 自分が今日まであったのは影武者のお陰、と遂に丹波に明確に反論する姫だが、丹波は悪びれない。
 「しかし、影も、役目を終えて、ホッとしているのでは。偽りの暮らしも楽ではございますまい。何もかもぜーんぶ、 嘘ですからなぁ。ははははは」
 「全部、嘘……」
 「丹波、おまえはしばらく口を閉じろ」
 丈瑠への侮蔑を隠さない丹波は、黒子に取り押さえられくつわを噛まされて物理的に口を封じられるという酷い扱いになり、 後々立場にフォローあるかと思いましたが、ギャグ風味に処理されたので下手するとこのままフェードアウトかもしれない……(笑)
 一方、激闘を続ける丈瑠と十臓。
 (存在するのは、ただ、剣のみ。するべき事は、ただ、戦いのみ)
 (確かに、これだけは本物だ。いっさい嘘が無い)
 人と人との関わりではなく、虚実なき命のやり取り……生か死か、ただそれだけの、修羅の世界の淵を覗き込む丈瑠。
 その頃、シタリは自分の生命力を注ぎ込む事でアヤカシを強化していた。
 「あたしゃ、生きていたいんだよぉ……その為なら、命を半分ぐらいなくすのも、しょ、しょうがないさ!」
 これまで延々と穀潰しの面倒を見、知恵袋的存在として特権的立場にあるも、いまひとつスタンスのわからなかったシタリですが、 ここでその目的、執念が「生きていたい」という所にあったというのが明かされたのは、なかなか面白い。 特に立派な信念や大きなもくろみがあるわけでなく、純粋にいぎたない、というのは凄くシタリにふさわしいと納得です。
 「ったく、丈瑠も爺さんも、この世を守る為、て言えば、俺たちが動けないと思って!」
 「実際その通りだ! 我々は、その一点だけはどうあっても揺るがせるわけにはいかない」
 「丈瑠はさ……ずっとこうやって、抱えてきたんだよね。私達に嘘ついてるから、わざと距離置こうとして。……もっと早く気づけてたら」
 「言ってくれりゃあ良かったんだよ……」
 「殿様……しんどかったやろな。うちが殿様殿様、て言うたんびに……辛い思いしてはったんかな」
 一斉に、それぞれの立場からヒロイン度を稼ぎに来る4人。
 なお仮に丈瑠がこっそり真相を告白していた場合、真っ先に情報漏洩やらかすのは千明だと思います!
 寺に向かった彦馬は、地面に落ちた包帯と剣戟の音に気付き、体力の限界を超えて戦う丈瑠と十臓の間に割って入る。この辺り、 敢えて綺麗な殺陣にしていないのが、今回良い所。
 「殿、お止めください。このような戦い、まるで外道衆のような」
 空虚の中で、戦いそのものに囚われようとしている丈瑠を止めようと、十臓の前に立ちはだかる爺。 十臓は彦馬もろとも丈瑠を斬ろうとし、彦馬をもぎ離そうとする丈瑠の姿が微妙に、彦馬を人質に取っているように見えます(笑)
 間一髪、丈瑠は十臓の斬撃から彦馬を守り、反撃を浴びせるも相討ち。十臓は斜面を転がり、丈瑠と彦馬は崖から落ちてしまう……。
 「嘘があったら、全部嘘なんかな……。今までの事、殿様と一緒に居た間の事、全部……」
 「ことは……」
 ことはの手をぎゅっと握りしめる姐さん、さすが男前その2!(おぃ)
 「嘘かもしれないな…………。そう思えば、迷う事はない」
 「流ノ介……」
 前半のおんぶイベントとか全く活用できない息子の姿に、千明父はホットケーキを食べながら涙が止まらない事でしょう……。
 千々に乱れる4人だが、またもタイミング悪く隙間センサーが反応。シタリの生命力で強化されたアヤカシが、 人間の苦しみや悲しみで三途の川の水を増し、ドウコクのスキンケアを促進させる為に地上で暴れ出す。
 「皆思う所はあるだろうが……私と一緒に戦ってほしい、頼む」
 奥から出てきた姫を加え、シンケンジャー出陣。
 色々考えていくと、姫は表に出てきた後も影武者の協力を得られる予定で動いたのではという気がしてきたのですが (そこで立場からくる丈瑠の心情を量りきれず、やや性急に動いてしまったのは若さである)、奥に引きこもっている間は、
 (どうしてこうなった……?! あの、へたれめ……!)
 みたいな感じで、畳のヘリに握り拳をぶつけているのかもしれない。
 ダイゴヨウに引きずられながら丈瑠を探していた源太はアヤカシに遭遇し、変身して戦うも苦戦。そこへシンケンジャーが到着する。
 改めて、4人が姫と一緒に戦う光景を目の当たりにし、納得しきれない思いを噛みしめる源太。
 「なあ……おまえら……本当に、あのお姫様と一緒に」
 「もっと憎たらしいお姫様なら、簡単だったのにな……」
 5人もシタリの力を得たアヤカシに苦しむも、最後は姫のスーパー化から猛牛バズーカで外道伏滅し、アヤカシ巨大化。 ……あまり三途の川を増やせてない気がするが、大丈夫か、
 「天空シンケンオーで行く」
 そして姫は姫で、全バージョン乗ってみたくなっていませんか(笑)
 アヤカシの毛針攻撃を華麗に飛び上がって回避した天空シンケンオーは唐竹割りで一刀両断、 と思いきやシタリの生命力を得ていたアヤカシは三の目に転じてCGの暗黒竜が出現し、シンケンジャーはサムライハオーを降臨させる (シタリの言っていた命の半分、というのは二の目を与えたという事か)。
 その頃、崖から落ちて負傷するも何とか無事だった彦馬は、丈瑠を育ててきた日々の事を語っていた。
 「全ては、あの日の約束を守る為に……」
 回想シーンで、丈瑠父から丈瑠を預かる彦馬。
 「日下部どの、この子はまだこんなに小さいが……きっと!」
 「安心してくれ。今日より、命を賭けて支え続ける。……落ちぬように。――我が殿として」
 そして丈瑠父は、外道衆との戦いの中で還らぬ人となる。

――決して逃げるな。外道衆から、此の世を守れ……!

 血の滲む覚悟で、次代に未来を託した侍達の1人として。
 丈瑠父が先代シンケンジャーと一緒に討ち死にする必然性が実はハッキリしないのですが、外道衆に対する偽装工作の一環なのか、 17代目に対する一種の殉死なのか。
 襲撃現場に残ってまで、ここでわざわざ丈瑠に父の死ぬシーンを見せつける理由を考えると、辿り着く結論は、 影武者作戦の真実を知る人間を減らした上で丈瑠の退路をバッサリ断って強烈なトラウマにより縛り付けるしかないのですが、 ちょっと引くレベルの徹底ぶりで、外道すぎるぞ志葉家。
 彦馬も多分、当時は志葉家イズムにどっぷり浸かっていたのが、この17年で丈瑠に情が移ったのでしょうが、 「そう決めなければ、私も、殿も……」という台詞から窺えるのは、丈瑠の父同様、彦馬自身も、 大きな意味で自分が捨て駒である事を理解していたわけで、捨て駒が捨て駒を育てている内に情が生まれて引け目を感じつつもお家の使命の為に鬼になる、 とか、侍戦隊としてのハードな背景を貫いた結果、志葉家がブラック通り越してダークに突入していて凄まじい。
 「殿は、当主としては完璧に成長された。しかしそれが、このような局面で徒となるとは……!」
 此の世を守る為、お家の為、一方では丈瑠自身の命を守る為……様々な事情はあれど、 1人の幼い子供を一個のモンスターとして育て上げた事を、今更ながらに悔いる爺。彦馬は丈瑠に何かを伝えようとするが、 そこへいびつなモンスターの匂いを嗅ぎつけた男、人の身で外道に堕ちきった人斬り、腑破十臓が再び現れる。
 「来い! おまえがするべき事は、戦いのみ。あるのは……剣のみだ」
 「なりません! 殿には、それだけではない筈」
 第43話で、十臓と裏正の設定を用いて、「どこからどこまでが人間なのか?」というテーマに少し踏み込みましたが、 やはりそちらは主要テーマではなく、今作の主要テーマはそこから裏返した、「如何にして人間は人間であるのか」だった、 という構造が見えてきました。
 一種の人工ヒーローだった事が判明した丈瑠ですが、その「ヒーロー」という役割を失った時、そこに「人間」は残っているのか?
 世界と向き合った時、「人間」は何をもって「人間」なのか?
 それを浮き彫りにする為にこそ、腑破十臓という「闘争だけを求める男」を丹念に描き、 43話において真の外道として昇華させる事でその鏡とする、という仕込みは実に小林靖子らしい手法。
 丈瑠が刀を構えた時、暗黒竜とハオーの戦いが目に入り、ハオーは何とか、今日も忙しいモヂカラ大団円で暗黒竜を消滅させる。 そして……。
 「なあ、おまえら、頼む! 丈ちゃんが……何もないって……何もないって言うんだよ。そんな事ねえよな?」
 屋敷に運び込まれて治療を受けていた源太は、戻ってきた4人にすがりつく。ここの源太の演技はとても良かった。更にそこへ、 黒子の救助を受けて担がれてくる彦馬。
 「殿が、殿がぁ!」
 その殿は……何故か馬で戦っていた。 
 しかも、わざわざ森の中という無駄難度。
 無言で十臓と剣をぶつけ合う丈瑠の胸に、彦馬の残した言葉が響く。
 「殿! 爺はずうっと、嬉しく思っておりましたぞ……。偽りの殿と家臣であっても、流ノ介達と心を通じ合っていく様子が。 それは……嘘だけではない筈。嘘だけでは」
 絆とは、“殿と家臣”だから生まれたものなのか、それとも――。
 彦馬に代わり丈瑠の元へ向かおうとする茉子、千明、ことはだが、流ノ介だけはその場を動かない……動けない。
 「私は、侍として……!」
 屋敷に残る事を選ぶ流ノ介の肩に手を置く姐さん、相変わらずおいしい。
 丈瑠と十臓は馬上で変身すると、ますます激しくぶつかり合う。
 嘘偽りのない、剣だけの世界。
 人の世の絆を失い、ただ生死のやり取りのみを己の実感とし、戦いに戦いを求める修羅道で、丈瑠は剣鬼と成り果ててしまうのか。
 そして、侍達の心は再び一つになれるのか。
 「殿ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 床を叩いて絶叫する流ノ介が、物凄い勢いでヒロイン度稼ぎにきた!(笑)
 外道衆なりアヤカシなりというのは、設定が小出しだった事もあり今ひとつ掴めなかったのですが、ここに来て成る程、 『無敵鋼人ダイターン3』(アニメ)で言えばメガノイド、『ダブルクロス』(TRPGルール)で言えばジャームだったのだな、と。
 一つの欲望や衝動しか見えなくなり、世界との関わりがそれに塗りつぶされている存在。
 『ダブルクロス』は、ヒーロー物的なストーリーをTRPGに落とし込みやすいというかそういう志向のルールですが、 「ロイス(他者との繋がり)を軒並み失った丈瑠の元へ完全にジャーム化している事が判明した十臓がやってきて、 おまえも衝動に身を任せてジャーム化しないか? と戦っている内に丈瑠の侵食率がガンガン上がりまくり、 固定ロイスのNPC・彦馬が、丈瑠が失ったと思っているロイスはまだ残っている筈と必死の説得をするが、果たしてどうなる?!」と、 今回の『シンケンジャー』がルールに則って言語化できてしまう辺り、良く出来ていると思います(笑)
 後こうなってみると、丈瑠と彦馬がことはの侍への傾倒を割と気にしていた、ことはの危うさを感じていたというのも、頷けます。
 物語としてはベタな方向に向かっておりますが、丹念な布石が綺麗に繋がり、非常に盛り上がってきた所で、残すは3話。 白熱のヒロイン争奪戦の行方や如何に、次回、サブタイトルも豪速球!
 ところで今作、企画段階から前年の『ゴーオンジャー』の対だったのかなぁ、なんて事もここ数話の展開を見ると改めて思います。 『ゴーオン』が00年代戦隊の集大成としてド王道を突っ走っりきったのに対して、 「これだけやっておけば次の10年でまた色々出来るだろう」みたいな。

◆第四十七幕「絆」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:小林靖子)
 ひたすら剣を交える丈瑠と十臓。
 ――嘘だけでは、決して嘘だけではない筈……
 (それでも、嘘は嘘だ。俺には、これが……)
 爺の言葉を振り払うように剣を打ち合わせ続ける丈瑠の元へ走る、茉子、千明、ことは……からOP。明けて、 サブタイトルの音楽が普段のものではなく、切ない系のBGMでそのまま物語へ、というのが如何にも最終盤で盛り上げてきます。
 「結局私は……答も出せずこのまま……」
 日が落ちた後も屋敷で、悩み座り続ける流ノ介。
 「今行かなければ、後悔の苦しさは、今以上のもの」
 その背に声をかける1人の黒子……それは、第7話に登場した、先代に仕えて死んだ侍の友人、を名乗っていた謎の漁師であった。
 随分と懐かしい人物がここで再登場しましたが、この人、あまりに「友人」をアピールするので、実は引退した先代シンケンブルー本人、 という可能性を考えていたのですが、どうやら違う模様。その辺りは今回も特に触れられませんでしたが、 侍の在り方に疑問を呈していた辺り、志葉家の暗黒面に呑み込まれて命を落とした丈瑠父の友人とかだったのかなぁ。
 「侍として守るべきは姫です! これは間違ってない! ただ、ただ私は……」
 「あの殿なら命を預けて一緒に戦える! ……あんたが言ったんだ。あんたが命を預けた殿というのは、志葉家当主という器か!  それとも中身か! ……勿論、姫は守らなければならない、当然だ。が、人は犬じゃない。主は自分で決められる。――どうか、 侍として、悔いのなきように」
 割と直接的に「このまま黙って姫に付き従うなら犬だ!」と言っていて、この会話を耳にする姫が、超、可哀想(^^;
 というか黒子の隠密能力なら姫の接近に気付いている気はするので、わざと姫にも聞かせている節もあり、まあ、 一度は志葉家を離れたという、スタンスゆえでありましょうが。
 その頃、苛烈を極める丈瑠と十臓の戦いも、宵闇の中で終焉を迎えようとしていた。
 ……中澤監督はなんとなく、夜戦が好きなイメージ。
 「最高だな、いや、これこそ、究極の、快楽……! 剣のみに、生きる者だけが、味わえる!」
 (剣、のみ――――剣のみ!)
 十臓の打ち下ろしを受け止めて切り返した丈瑠は、裏正を弾き飛ばすと、十臓を真っ向唐竹割りに両断する!  十臓は火花を散らして爆発し、変身が解けた状態で炎の中に倒れ込む。精も根も尽き果て、同じく変身が解けて座り込む丈瑠。
 「やった……」
 「それこそが、快楽」
 確かに手応えがあった筈なのに、ゆらりと半身を起こす十臓。
 「なかなか死ねない体でな。手でなくば、足。でなくば、口。剣を持てるかぎり、この快楽は続く。所詮、人の世の事は全て、 命さえも幻。が……この手応えだけは真実! お前も感じた筈。何が、おまえの真実か!」
 十臓の狂気が隙間の向こう側から丈瑠を手招きし、丈瑠を深淵の底へ引きずり込む朱い光が両者の間で揺らぐ。
 「真実……」
 刀の柄を握り、魅入られたように見つめる丈瑠。
 「俺の……」
 「駄目ぇぇぇぇぇ!」
 その時、響く声。
 「丈瑠!!」「そんな話聞いたらあかん!」「おまえには、剣だけじゃないだろ!」
 「お前達、どうして……」
 「よそ見をするな! まだ……終わっていない」
 地面に突き立つ裏正を支えに立ち上がり、丈瑠に迫らんとする十臓、が、一瞬、BGMが途切れ、十臓の足を止める着物の手。
 驚く十臓が目にしたのは――その足に絡みつく亡き妻の姿。
 おおお、凄い。
 何が凄いって、もっとファンタジックで綺麗に演出しようと思えばいくらでも綺麗に撮れるのに、 敢えて地面近くで伸びた手が十臓の足を掴む、というどこか薄暗い情念を感じる絵にしている事。
 これは勿論、丈瑠の弾き飛ばした裏正がたまたま十臓の足先を地面に縫い止める事になったのが、十臓にはそう見えた、 という解釈を可能にするなぞらえという面もあるのですが、同時に裏正の材料となった妻の魂は魂で、 奥底において「十臓を止める」という事にのみ執着する存在になっていた……という事も思わせる、凄みのある映像です。
 時制に若干無理が出るのを承知で、丈瑠vs十臓のクライマックスバトルを夜戦にしたのは、炎を引き立てる為というのが第一でしょうが、 このシーンは、夜の闇あってこそ嘘っぽくならず、お見事。
 「裏正……」
 十臓は裏正を引き抜こうとする(妻の手を振りほどこうとする)が、どんなに力を込めても、それは引き抜く事が出来ない。
 「ここに来て! ……いや、この時を待ってか! ……裏正ぁぁぁぁぁぁ!!」
 「それは……おまえの……真実なんじゃないのか」
 「いいや! 全て幻だ! この、快楽こそぉぉぉ」
 絶叫する十臓の体を、縦に割る赤い線が走る――。
 「おまえの、剣……骨の、髄まで……うぁぁぁぁぁぁ!!」
 十臓の体が弾け飛び、ますます荒れ狂う炎を、駆けつけた流ノ介が水の剣で切り裂き、茉子達は何とか炎の中から丈瑠を救出。 そして十臓は灰となって崩れ落ち、今度こそ完全に最期を遂げる。
 俺ルール系バトルジャンキーないし俺美学系ライバルキャラは、俺ルールと組織の兼ね合い、俺ルールと物語の事情、 などにより話を都合良く引っかき回す為の道具になりがちなのですが(十臓も第11話辺りはそういう感じだった)、 途中から完全にフリーランスに移行し、俺の俺の為の俺ルールを貫ききる事で、独立した己の道を全うしきりました。
 そしてその俺の俺の為の俺ルールが、志葉家のルールを守り誰かの代わりを演じ誰かの為に生きてきた丈瑠が全てを失った (と思いこんだ)時の誘惑になる……というのは良く出来た構造で、秀逸。
 マッド人斬り愛好家としてはもっと弾けてくれていても良かったですが、まあ、対象年齢の問題もあるか(^^;
 「死んだよ、腑破十臓……」
 「そうか。200年の欲望、満たされたのかどうか」
 「さあね。そういう、お前さんはどうなんだい。せっかくドウコクが直した三味線、ちっとも弾かないじゃないか」
 「ああ……どうしてだか」
 「おまえさんの三味の音なら、きっとドウコクが回復する決め手になると思うんだがねえ」
 「この、音色か……」
 三途の川では、迫るドウコクの復帰に呼応するかのように、次々とナナシ軍団が生まれていく……。
 夜が白み、再び集うも、黙りこくる5人。
 意を決して口を開くことはだが、
 「殿様!」
 自分の言葉にハッと固まってしまう。
 「俺のせいで悪かった。早く帰って――」
 それをきっかけに立ち上がる丈瑠だが、ことはが続けて言葉を紡ぎ出す。
 「嘘じゃないと思います! ……ずっと一緒に戦ってきた事も、お屋敷で楽しかった事も全部、 ほんまの事やから。せやから……」
 「俺が騙してた事も本当だ。……ただの嘘じゃない。俺を守る為に、おまえ達が無駄に死ぬかもしれなかったんだ。 そんな嘘の上で何をしたって、本当にはならない。……早く姫の元へ帰れ」
 「丈瑠」
 「たく……」
 茉子の声も空振りに終わる中、立ち上がった千明は歩み去ろうとした丈瑠をふん捕まえると殴……り飛ばそうとしてかわされる。
 「よけんなよ馬鹿ぁ!」
 今度こそ千明は丈瑠を殴り、座り込む丈瑠に、駆け寄ることは。後ろの姐さんが、 “男の子の解決法”にすかさず笑顔になる辺り、いいなぁ(笑)
 「今ので、嘘はちゃらにしてやる。……だからもう言うなよ、何も無いなんて言うなよ! 何も無かったら、 俺たちがここに来るわけねえだろ!」
 自責の念にかられる丈瑠には、どんな言葉も理屈で否定されてしまう。そんな丈瑠に対して、 物理的な殴打で片を付けて責任を取らせる……という、千明らしくて素晴らしい解決。
 そして更に、ずっと背中を向けていた流ノ介が近づいてくると、初めて、丈瑠を上から見下ろす。
 「志葉……丈瑠。私が命を預けたのは貴方だ。それをどう使われようと文句はない! 姫を守れというなら守る! ただし!  侍として一旦預けた命、責任を取ってもらう! この池波流ノ介、殿と見込んだのはただ一人! これからもずっと!」
 ――そして、改めて膝を付く。
 自分を許せない丈瑠の感情に千明が物理的手段で片を付けた所に、流ノ介が流ノ介理論により「侍として」丈瑠を認める、 という見事な男の友情コンボが炸裂! 2人の立ち位置の違いも、上手く盛り込まれました。
 「……俺も、同じくってとこ。まだ……前に立っててもらわなきゃ、困んだよ」
 「うちも……うちも同じくです。それに、源さんや彦馬さんも」
 「黒子の皆さんもだ」
 ことはは流ノ介と並んで膝を付き、そして1人、丈瑠と同じ目線に膝を詰める茉子(片膝付きで臣下の礼を取るのではなく、 膝を揃えて腰を落としている)。
 「丈瑠……志葉家の当主じゃなくても、丈瑠自身に積み重なってきたものは……ちゃっんとあるよ」
 「俺に……」
 これまでの日々、志葉家での出来事を思い返す丈瑠。
 「俺にも……」
 「うん」
 丈瑠の問いに、笑顔を返す茉子。

 正室、圧倒的貫禄。

 それぞれの顔を見つめて丈瑠は涙をこぼし、その肩に手を置く茉子。そして再び心を繋げた5人の背後では、 裏正が人知れず消滅する……。
 丈瑠が失ったものを取り戻し、それを信じる(←ここが重要)、という今作の物語の一つの総決算として脚本も力が入っているのですが、 4人それぞれの丈瑠との距離感や関係性が立ち位置などでも表現されていて、演出面でも非常に計算された名シーン。
 まずは地面に突き立つ裏正が映り、バラバラに離れた5人の遠景で、ずっと丈瑠に背を向けている流ノ介。ことはと丈瑠の会話の最中に、 丈瑠の背中と流ノ介のアップ(顔はぼやけて見えない)が入り、遠ざかっていく丈瑠を強引に捕まえて殴り飛ばす千明。 ことはが咄嗟に丈瑠に駆け寄り、茉子は後から近づいていき、最後にやってきた流ノ介が、丈瑠を見下ろし、そして改めて膝を付く。
 ここで流ノ介が一度、殿と家臣ではない関係性を丈瑠に提示してリセットをかけた上で、改めて殿と家臣になる。
 千明は照れ隠しに歩きながら喋って少し距離を離し、流ノ介の後ろに。
 丈瑠に最接近していたことはは距離を取り直し、流ノ介と並んで膝を付き、ここで流ノ介・ちあき・ことはが、一緒に映るカット。 ……て、ことは結局そちらか(笑) まあ、ことははまだ精神的に幼い、という扱いなのでしょうが、 それ故の思い切りのよさと勢いで最接近する大胆さも盛り込まれています。
 そしてカメラ位置変わって、丈瑠と茉子、の2人が映るカット。丈瑠に距離を詰めて目線を合わせる茉子。
 茉子の言葉を受け、丈瑠とそれぞれの顔アップを交互に映し、丈瑠が涙を流した所で、再び遠景、今度は一つの輪になった5人。 泣く丈瑠に茉子はもう少し距離を詰め、千明は流ノ介の肩を叩く……そして消滅する裏正(このシーンが裏正に始まり、 裏正で終わっている――外道への誘惑の象徴という所か)。
 場面変わると、独り座る姫、という絵。
 中澤監督はやっぱり上手いなぁ。
 それにしても、姐さんは演出的に明らかに別格で扱われており、この終盤に来て、非常に良い扱いになりました。 初期から丈瑠に対して最も独特な距離感ではありましたが、ここまでクロースアップされるとは、正直思わず。
 かといって、ことはが消えているかといえばそういうわけでもなく、ことはらしい言葉がちゃんとあり、 4人それぞれの考え方と良さが出ているのがいい所であります。構造的に、“赤と他者の関係”、 というのを軸にしてきた作品でありますが(00年代戦隊の幕開けといえる『未来戦隊タイムレンジャー』 と鏡写しのコンセプトなのは恐らく意図的)、この最終盤において、4人それぞれの丈瑠との関わり方が表現されているのが素晴らしい。
 かくして、丈瑠が失ったと思い込んだ絆を取り戻し、嘘の人生という呪縛から遂に解き放たれた頃、屋敷では丹波が復活していた。
 「けしからん!」
 その怒声を耳にして足を止める、通りすがりの源太と彦馬。
 「姫! これはもはや謀反。謀反でございますぞ!」
 「馬鹿を申すな! 影とはいえ、家臣との絆は結ばれているのだ。私は自分の使命だけに夢中で…………私が出る事で、 彼等を苦しめる事にまでは、思い至らなかった」
 「何をおっしゃいます。姫は、血の滲む努力で封印の文字を、修得されたのです。有り難がりこそすれ、苦しむなどと。これはやはり、 力尽くでも連れ戻さねば」
 「よせ!」
 丹波を止めようと扇子を投げつける姫だが、丹波はそれをひらりとかわす。
 「はははは、丹波もまだまだ、衰えてはおりませんぞぉ。誰か、誰かある! 至急、侍たちを!」
 姫、すすっと歩み寄った黒子から大型のハリセンを受け取り、ハッスルする丹波に背後から一撃。
 「うん……これはいい」
 変な武器スキルを修得する(笑)
 ここで丹波も姫への愛情を見せつつ大幅に崩し、徹底した憎まれ役から大団円に向けて憎みきれない憎まれ役にシフトチェンジ。 「はははは」以降、テンション高く大袈裟な身振りをしながら、動きに合わせて姫のハリセンに叩かれるリズムは絶妙の演技(笑)
 「お姫様もやるねぇ」
 そして源太は姫の心を知るが、その時、隙間センサーが反応。オオナナシ軍団が港町に出現する。
 「侍達に連絡を。私は先に出る」
 ここで定例の格好いいBGMが入り、独り出陣しようとする姫の前に立ち、ニヤリと笑う寿司屋一匹。
 「寿司屋で良ければ、お伴するぜ」
 「おまえは侍では!」
 甦った丹波の後頭部に再び炸裂するハリセン。
 「頼む」
 丈瑠と4人が絆を取り戻す一方で、孤独な姫の本心を知る者も少しずつ増えていく……特に感情的なしこりのあった源太をここに配し、 鮮やかに丸く収まったのは良かったです。源太も貴重な男前ポイントを獲得。
 また、仮に源太が侍であった場合、姫からは結局「侍の使命を取った」と見えてしまいかねないのですが、 “侍ではない”源太であればこそ、立場に縛られない個人と個人の関係が成立する事で姫もまた救われる。 一度は十臓の踏み台にされて終わるかと思われた源太の立ち位置も隅から隅まで使い尽くされ、実にお見事。
 姫はゴールドと大海真剣王に乗り込み(後は猛牛大王でコンプリート(笑))、オオナナシ軍団と激突。 連絡を受けた4人も駆けつけてナナシ軍団と戦い、黒子が誘導した避難経路では、フォローに回った丈瑠がナナシ達に立ち向かう。
 視聴者の混乱を避ける為にかシンケンレッドに変身こそしないものの、これがまあ、丈瑠の正しい運用方法ではないでしょうか(笑)
 あと姫様がお昼寝したい時とか、「影、ちょっと行ってこい」て、スカート履かせて(待て)
 ナナシが暴れ回る中、此の世に現れた薄皮太夫は、海辺で三味線を弾き始める。
 (わちきはずっと目を逸らしていたのだ……何があったか、何をしたのか。そして……わちきが何者なのか)
 なるほど、太夫がアヤカシとそりが合わなかった理由は、はぐれである事に加え、太夫自身が外道である事を認めたくなかった、と。 ……まあ、あんなヒャッハーな連中ばかり見ていたら、そう主張したくなる気持ちもわかります。
 (ドウコク……おまえが最初から言っていた通り……わちきは)
 ナナシと戦っていた桃は太夫に気付き、剣を向ける。
 「ここで何を」
 「外道であれば知れた事。此の世を苦しみ嘆きで満たす」
 「だとしたら……私はあなたを斬る!」
 「望むところ。……少しは知った者の方がいい」
 本格的な絡みにまでは発展しませんでしたが、一応この2人の因縁関係も最後まで拾ってくれました。 背中を合わせて回りながらお互いの隙を窺う、というシーンは太夫の初戦闘シーンを思い出す殺陣。 そこから太夫の攻撃をかわしたピンクは空中からの斬撃を浴びせ、太夫はわざと、その剣に三味線と自分を斬らせる。
 「いつか、わちきが此の世の価値を手放したと言ったな。ようやく……人であった過去も、手放せる」
 取り落とした三味線が裂け、そこから噴出する数百年の苦悶。それに反応し、一気に三途の川が増水する……と、 以前にアクマロが三味線を楔に使おうとしていた、というのが伏線として機能し、 遅々として進んでいなかった行くぜ人間界!三途の川増水プロジェクトがここで一気に進行。
 そして――極上の嘆きと苦しみによりお肌の手入れが行き届いたドウコクが、完全復活を遂げる。
 「戻ったぜ、太夫」
 いきなり人間界に現れる外道衆御大将・血祭ドウコク。侍達はこの宿敵に、打ち勝つ事が出来るのか! 次回――いよいよ最終決戦。

◆第四十八幕「最後大決戦」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:小林靖子)
 遂に働いたと思ったら、反動でしばらく回想シーンしか出番がありませんでしたが、 いよいよ御大将ふっかぁーーーーーーーつ!
 というわけで今回も、サブタイトルの所から劇へ繋がるBGM。
 「てめえが三味線を手放すとはな……。最後の音色、聞いたぜ」
 「そうか……」
 「だが、昔みてぇな腹に沁みる音じゃなかった。ちっとも響いてこねぇ」
 「あれが……本当の三味だよ……ドウコク。わちきは、初めてうまく弾けた。これほど気が晴れたのは、数百年ぶりだ」
 太夫にとっての三味線は、外道になった執着そのものであり、同時に外道ではなかった頃の自分への未練でもある。 太夫が三味線を弾くのは“かつて人間だったから”であり、しかし三味線を弾く限り、太夫は外道である。
 人間であった頃のよすがそのものが外道である事の証明、という現実をようやく認めた太夫は、その決着として、 “外道である事を認めた”上で、“外道である事を捨てる”。
 と、何とも複雑な二律背反。
 人間ではないドウコクが聞いていたのは太夫(薄雪)の三味線に込められた人の世の怨念であって、 人間としての太夫が弾きたかった本当の三味線の音色ではなかった、という「あれが……本当の三味だよ……ドウコク」は凄く好きな台詞。
 シンケンピンクに斬られ、よろめきながら立ち上がった太夫を片腕抱きにするドウコク。
 「もう、俺が欲しかったてめぇじゃねえな」
 「昔のようには弾けん。……二度とな」
 「……だったら――終わるか」
 「ああ……それもいいな」
 素っ気なく突き放すようでいながら、どこか惜別と諦観の篭もった、血祭ドウコクの戦鬼ではなく、 男としてのダンディズムが溢れていて、この「終わるか」は最高でした。
 一方の薄皮太夫は、外道としての執着を手放しながらも、人としての情の深さからドウコクに報い、けれどそれは同時に、 ドウコクの手に届かないものになることを、知っている。
 情はあるが愛はない。
 未練はあるが戻れない。
 執着はあるが手に入らない。
 外道とは――求め、飢え続けるものであるがゆえに。
 満たされれば消える他ない。
 「じゃあな、太夫」
 まるで骨の髄まで握りしめるような抱擁によってドウコクは太夫を吸収し、その名残のように肩にかかる白い打掛。
 ドウコクの赤黒いボディに白地の着物が映えて、このまま戦ったら滅茶苦茶格好良さそうと思ったのですが、さすがにそれは無し。
 ドウコクは咆吼し、その復活に離れた場所で戦う丈瑠も気付く。名乗りをあげる志葉薫/シンケンレッドの元に5人が集い、 姫が封印の文字を使うまでの時間稼ぎとしてドウコクに挑む事に。青には印籠が渡され、緑は恐竜ディスクを受け取ってパワーアップ。 恐竜緑は予想外でしたが、ここで使ってくれたのは良かったです。……正直、忘れていました。
 凶悪無比のドウコクに5人が立ち向かい、わざわざ高い所に立って堂々と封印の文字を書き始める姫。
 敢えて敵の目に触れる位置に仁王立ちする事により、集中力が30%増し(当社比)するのです! まさに死中に活あり、 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。
 実際姫、丹波曰く「血の滲む」(ような、ではない)努力の末に封印の文字を修得したとの事なので、 素足で日本刀の上に立って字を書いたり、地雷原を走り抜けながら字を書いたり、次々と丸太が流れてくる激流の中で字を書いたり、 ぐらいしておられるのです。
 (絶対……成功させる。この日の為にこそ……父上)
 前回、男前ポイントを獲得したのがフラグだったのか、ドウコクに真っ先に首ちょんぱされそうになるゴールドだが、間一髪、 ダイゴヨウに助けられる。懸命に戦うも、あまりにも桁違いのドウコクの力に、倒れ伏す5人……しかし、 ドウコクの歩みが姫に向いたその時、封印の文字(門構えに悪っぽい字を書いて火が三つ?みたいな)が完成する!
 「外道封印!」
 姫の放った封印の文字はドウコクに直撃し、吹き飛んだドウコクはそのまま崖に叩きつけられ、大爆発。
 封印の文字を放った姫の残心と、画面奥の大爆発、のカットは凄まじく格好良く、文字を書き終わった後のポーズ、 としては歴史的な格好良さではないでしょうか。
 その後の、気力を使い果たして座り込んだ姫を手前に、駆けつけた丈瑠が奥に、という構図も格好いい。
 「父上……ようやく、ドウコクを……」
 恐怖と殺戮、圧倒的暴力の権化、血祭ドウコク。三途の川に生まれ、此の世を憎む底抜けの怒りと苛立ちの塊は、 数百年に及ぶ死闘の末、遂に滅びたのか……
 「残念だが終わってねえぜ」
 志葉家が生み出した対ドウコク必殺奥義――火のモヂカラの結晶・封印の文字。
 その直撃を受けたにも関わらず、血祭ドウコク、未だ健在。
 「太夫、てめえの体、役に立ったぜ」
 封印の文字は確かに力を発動した……が、はぐれ外道である太夫を取り込んだ事によりドウコクの性質に変化が生じ、 狙い通りの完全な効果をあげるのに至らなかったのである。
 「全員死ね!」
 ドウコクの反撃により大ダメージを受けた姫は高台から落下して変身解除。 丈瑠と黒子が煙幕を張って戦闘不能の6人は退却する……のですが、
 丈瑠には、姫が落ちる前に、拾ってほしかった(重要)。

 つまりそこで、お姫様だっこが欲しかったんですよ丈瑠!

 男前ポイントを稼ぐ大チャンスだったのに丈瑠!!
 このへたれめ!(理不尽)
 「ちっ、とどめはお預けか」
 ドウコクも無理にそれを追わず、太夫の名残の着物を拾って一旦退き、 とにかく着物を肩にかけたドウコクが格好良すぎます。
 なお、太夫が愛でていた毛玉が、ここで踏まれて消滅(^^;
 戦隊怪人デザイン大鑑『百化繚乱』によると、「六門船の中が暗いという意見があるので何かマスコット的なキャラを出せないか」 という事で追加されたというスス木霊ですが、初期はただの賑やかしだったのが、 太夫の三味線代行をするようになってからちょっとしたキャラクター化し、思わぬ作品の彩りになりました。
 特にキャスト表記されてないけど「べん べん べべべん」はかなり可愛げがあっていい味出ていたのですが、誰が声をあてていたのかしら。
 切り札であった筈の封印の文字がドウコクに通じず、打ちひしがれるシンケンジャー。
 「お姫様、辛いやろうなぁ……お父さんから受け継いで、一生懸命稽古してきはったのに」
 ここで、ことはが姫に寄り添う台詞を口にする事で、姫とシンケンジャーの関係性の前向きな変化が描かれ、また改めて、 今作にとって大事な「受け継いだもの」というテーマが入れられています。
 右腕に重傷を負い、床に伏せる姫は丈瑠を呼ぶと、2人だけで話したい、と丹波らに退席を命じる。さんざん抵抗した丹波は、 出て行ったフリをしてふすまに耳を当てているのを姫に気付かれて部屋の中に倒れ込み、改めて引きずられていくなど、 素晴らしすぎる芝居(笑)
 「許せ。丹波は、私の事しか頭にないのだ」
 「……当然です」
 「……ずっと、自分の影がどういう人間なのかと思っていた。……私より時代錯誤ではないな。私は、丹波のせいでこの通りだ」
 姫の自虐ネタにより微笑みをかわす2人、とここでようやく、やや打ち解ける丈瑠と薫。
 「でも……会わなくても、一つだけわかっていた。きっと……私と同じように独りぼっちだろうと。 幾ら丹波や日下部が居てくれてもな。……自分を偽れば、人は独りになるしかない」
 なんだこの、可愛い生き物。
 影武者である丈瑠は元より、薫もまた「志波家十八代目当主」という役割に自分を封じ込めていた、という吐露には、 今作における「ヒーロー」の位置づけが窺えます。今作における「ヒーロー」はあくまで「人間性」を殺した所に存在している。
 ゆえに外道と表裏一体。
 その点で今作は、東映ヒーローの本歌取り(孤高の改造人間)、という構造を背骨に隠し持っていた事が判明。ゆえに、 丈瑠と十臓の対比も必然であった、と綺麗に繋がりました。
 もう一つ付け加えると、外道へのカウンターとして登場したヒーローが、戦いを重ねる内に外道へ近づいていく、 という作りになっているのは、なかなかえぐい構成(これを踏まえると後に『烈車戦隊トッキュウジャー』終盤でやろうとしていた事、 そして踏み間違えた部分が何となく見えます)。
 だがそんなヒーローを此の世に繋ぎ止めるのは……
 「それでも、一緒に居てくれる者がいます」
 「あの侍たちだろ。私もここへ来てわかった。自分だけで志葉家を守り、封印までなど、間違いだった。独りでは駄目だ」
 「俺も、やっとそう思えるように……」
 「――丈瑠。考えがある」
 一方、三途の川では大増水にシタリが興奮していた。
 「もうすぐ川が溢れるよ!」
 太夫を取り込んだ事により、水切れも無ければ封印の文字も無効になったパーフェクトドウコクは、 太夫の着物を三途の川の朱い水の中に投げ入れる。
 「なんていうんだろうね……外道衆のあたし達に念仏もないだろうし。ドウコク、おまえさんも、因果だねぇ」
 「――行くぜ」
 外道衆総大将は己の手でその底抜けの苛立ち、生まれた時からぽっかりと空いた穴を埋めるべく、 六門船を人間界へと向ける――ただただ、殺戮の為に。
 翌日、負傷をおし、広間に一同を集めた薫は、封印の文字が通用しなかった事を理由に突然の隠居を宣言。そして、 新たなシンケンレッドとして、丈瑠を呼ぶ。
 「私の養子にした」
 姫、驚愕の裏技を発動し、影武者であった志波丈瑠が、志波家十九代目当主――正式な「殿」になる事に。
 殿が影武者だと思ったら影武者が殿に、という再度の大逆転。
 姫本人が言うように大名家が跡継ぎとして養子を迎えるのは珍しい話ではなく、 先代が健在な内に隠居して後継者に家督を譲るというのもよくある話で、いっけん掟破りのようで、 むしろモチーフに基づいて理に適っているとも言えるのが美しいひっくり返し。
 民法?
 「俺たちが守るべきは法律じゃない。此の世と愛だ!」
 (byジャン○ーソン)
 もちろん猛反対し、丈瑠を高い座布団から引きずり降ろそうとする丹波だが、母がそれを止める。
 「無礼者! 年上であろうと、血が繋がってなかろうと、丈瑠は私の息子! 志葉家十九代目当主である。 頭が高い! 一同控えろ!」
 「「「「「ははーーーーー」」」」」
 薫の見事な口上に、一同は揃って嬉しそうに頭を下げ、丹波もしぶしぶそれにならう事に。
 “主君と家臣”という関係性、今作の特徴にして戦隊としての異質さであったその身分差を、 ことさらに強調する台詞を敢えて再びここで持ち出す事で、それを障壁の象徴ではなく、 逆に結束の象徴として用いる。実に鮮やかに、 “ひっくり返しの戦隊”である『シンケンジャー』の、構造的な美がここに集約されました。
 丈瑠が絆を取り戻して後は最終決戦、という所でもう一押し、このネタを入れてきたのは素晴らしい。
 そして、つい数分前までヒロイン力全開放出していた姫の、この男前ぶり。 姫は格好良すぎます(笑)
 姫は最終盤のみの登場という事で、ギミックの為のギミック、おまけキャラみたいになりかねない所を、 むしろヒーローとしてもヒロインとしても全力で既存の6人を食う勢いで描いた事により、非常に良いキャラになりました。これが、 ヒーローとしてだけ描くと丈瑠との関係性しか生じないのですが、ヒロイン力をフルバーストさせる事により、 家臣5人に対しても脅威になった、というのが素晴らしい判断。
 そしてそこまでやっても、既存6人が簡単に食われないだろう、という脚本、演出、役者それぞれの信頼感もお見事です。
 丈瑠はまだともかく、家臣5人は台本読んだ時点で、うかうかしていると姫に持って行かれる――!  という演技に対する刺激は結構あったのではなかろうか、などと思います(笑)
 かくして志葉薫の養子として、志葉家十九代目当主となった丈瑠だが、封印の文字が通用しない今、 超弩級のトンデモ生命体である血祭ドウコクを倒す策はあるのか。皆が聞きたかった質問を、勇気を持って問いかける丹波。
 「策ならある。――力尽くだ」
 快刀乱麻を断つ姫のウルトラCと、丈瑠が殿の座に復帰して面倒くさい事を考えないで済むようになった作用により、 何やら変なテンションになっている皆、これに賛同(笑) ……基本、侍はヒャッハーな生き物です。
 封印の文字は完全な効果を発揮しなかったとはいえ、ドウコクにダメージは与えた。丈瑠は姫に託された、 志葉家のモヂカラを込めた「火火火ディスク」(アイ・アイ・アイ・ライク・演歌)を手に、 今なら弱っているドウコクを倒す事も可能かもしれない、と告げる。
 そう、勝てるかどうかではない、この世を守る為には、勝たなくてはならないのだ。
 全員が覚悟を固め直したその時、隙間センサーが反応すると同時に、場所を示すクジが装置から溢れ出す。
 「三途の川が溢れた……」
 未曾有の事態、というのを示すのに、このクジが溢れるというのが実に格好いい演出。
 「呑み込めぇ! 人間どもを好きなだけ苦しめろ! 此の世は外道衆のもんだ!」
 遂に六文船は人間界へと繰り出し、街に溢れるナナシ軍団の襲撃で、ここに来て結構ざっくりとした殺害描写。
 「殿の御出陣!」
 ナナシの大軍団の前に並ぶ6人。
 姫が負傷リタイアしてしまった為に姫殿レッドによる7人並びは実現しませんでしたが、見たかったなぁ。……まあ、 最後は6人で締めるべき、という判断も正しいとは思いますが。
 「どうあっても外道衆は倒す。俺たちが負ければ、この世は終わりだ。――お前達の命、改めて預かる!」
 「元より」
 「当然でしょ」
 「何度でも預けるよ」
 「うちは何個でも」
 「じゃ、俺たちは2人合わせて、更に倍だ!」
 「持ってけ泥棒!」
 6人+ダイゴヨウは変身し、揃い踏み。

「天下御免の侍戦隊――」
「「「「「「「シンケンジャー、参る!」」」」」」」


◆最終幕「侍戦隊永遠」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:小林靖子)
 「昔からシンケンジャーってのは、あたし達外道衆より命を大切にしない奴等だったよ」
 「だから気に入らねぇ。人間なら人間らしく命乞いして、泣き喚けばいいもんを。が、今日あげさせてやろうじゃねえか。 命乞いじゃねえ。早く殺してくれ、て悲鳴をな」
 ナナシの大軍団を蹴散らしていくシンケンジャーだが、そこへ突っ込んできた六文船から、血祭ドウコクが降り立つ。
 志葉家のモヂカラを込めたファイヤーディスクは、そのあまりの破壊力にディスク自体が耐えられず、使えるのは一回限りの切り札。 その一撃を、ドウコクの負傷箇所に確実に叩き込む為、シンケンジャーは陣形を組んで突撃。
 「狙うは血祭ドウコク! 行くぞ!」
 陣形を組んでナナシ軍団を切り開きながら、大将首をひたすら目指す、というのはただの集団戦ではなく、 侍の戦場っぽくなって良かった所。
 「来い――絶望ってのを――教えてやる」
 「志葉家十九代目当主! 志葉丈瑠! 参る!!」
 仲間達の奮戦が道を作り、ドウコクと一騎打ちに持ち込んだレッドの刀はドウコクの傷跡、左胸を貫く。が……
 「なるほどぉ。ちったぁ考えてきたらしいな。が、こんな程度じゃ俺は倒せねえぜ」
 渾身の一撃もドウコクを倒すには至らず、吹き飛ばされる6人。ドウコクの衝撃波を受け、ダイゴヨウ、リタイア。
 初期は途中退場の気配すら濃厚に漂っていた暴れん坊穀潰しのドウコクですが、人間大かつ肉弾系では、 歴代最強クラスではないだろうか(^^;
 「あー? 聞こえねえなぁ、命乞いなら、もっとでけぇ声で言え!」
 6人を蹂躙するドウコクだが、侍達は決してくじけない、諦めない。
 「それだ……その目。どうして泣き喚かねぇ。助けてくれと言わねえ。さっさと絶望してみせろぉ!」
 怒れるドウコクは、6人の前に薫の首を持ってきてやると歩み去り、第2ラウンドもドウコク圧勝のまま終了。
 ドウコクは見た目といい声といい過去のダメな人達を思い出す要素満載で本当にどうなる事かと思ったのですが、 最終章に入って圧倒的に格好いい。太夫との絡みに深みが出てきてからの、西凛太朗さんの声のはまり具合も素晴らしい。
 その頃、姫は丹波の制止を振り切り、慣れぬ左手と負傷した体で、負担の激しいファイヤーディスクをもう一枚作り出そうとしていた。 シンケンジャーが敗れた今、打つ手は無いと姫を逃がそうとする丹波だが、
 「生きているならもう一度立つ」
 「いや、それは……」
 「立つ! 丈瑠は、絶対に戦いをやめない。丈瑠が影と知っても、側を離れなかった侍達も同じだ。私はそう見込んだから、 彼等に託した。だから私も、今出来る事を」
 「しかし、姫は志葉家の……」
 「丹波なぜわからぬ! ……志葉家だけが残っても意味はないのだ。……此の世を、守らなければ。その思いは皆同じ筈。 皆の力を合わせれば、きっと」
 此の世を守る為に志葉家を守っている筈が、いつの間にか志葉家を守る事が一番大事になり、手段と目的を見失っていた丹波は、 姫の言葉に目を見開く。
 またここで、戦闘面でリタイアしてしまった姫がフェードアウトせず、今回も見せ場があったのはとても良かったです。
 今作、中盤ちょっともたついた所はあったのですが、クライマックスに来て、全てのキャラクターが活きているのは本当に素晴らしい。
 そして、丹波(松澤一之)さんは凄いなぁ。丹波に関しては後でまとめて書こうと思いますが、演技面での今作陰のMVP(表のMVPは、 薄皮太夫の朴さん&蜂須賀さん)。
 皆の力、皆の想い――そう、シンケンジャーだけが、外道衆と戦っているわけではない。シンケンジャーを支える者達もまた、 この世を守る為、志を一つに戦いに身を投じているのだった。
 「殿ぉ!」
 6人の元に駆けつけ、槍でナナシを薙ぎ払う彦馬。その姿が、意識を失いかけていた6人を、奮い立たせる。
 「お前達……立てるよな!」
 ここで2話の、「おまえ達、立てるよな。まだ生きているなら、立て。言ったろう。外道衆を倒すか、負けて死ぬかだって」という、 殿と家臣の最初の亀裂にして、同時に、戦いへの信念を告げた台詞が引かれ、その言葉に応じたシンケンジャーは再起し、 ナナシ達を生身で蹴散らす。
 損傷したダイゴヨウを彦馬に預け、帰ったらご馳走を約束した6人は、破壊の繰り広げられた街をドウコクの元へと急ぐ。その前に、 膝をついて待っていた丹波が、薫の作った執念のファイヤーディスクを丈瑠へと差し出す。そして、本当に守るべきものは何なのか、 侍の正道に立ち返った丹波は懐からもう一枚のディスクを取り出す。
 「それからこれは……不肖、丹波が得意とする、モヂカラ。――ご武運を」
 終盤ここまでさしかかって、丹波のような役割のキャラクターにこれほど時間を割くのは結構珍しいかと思うのですが、 この相当詰め込んだと思われる脚本で、凄い尺が割かれ、劇中で丹波が果たした役割に対して、 丹波をきちっと描き切りたかったというのが伝わるし頷けます。
 丹波から2枚のディスクを受け取った丈瑠達はドウコクに追いつき、ドウコクの足を止める陣太鼓の音。
 「てめえら……待ってろと言った筈だぜ」
 「わりいな。俺たちはせっかちでよ」
 「その先へは行かせない。おまえを倒し、必ず此の世を守る。――シンケンレッド、志葉丈瑠!」
 「同じくブルー、池波流ノ介!」
 「同じくピンク、白石茉子!」
 「同じくグリーン、谷千明!」
 「同じくイエロー、花織ことは!」
 「同じくゴールド、梅森源太!」
 「天下御免の侍戦隊!」
 「「「「「「シンケンジャー、参る!!!」」」」」」
 生身での名乗りから、ナナシとの生身の殺陣に突入。
 周囲のナナシを全滅させると、変身したシンケンジャーはすかさず5人のモヂカラを合わせ、ドウコクを「縛」る。ここで、 結局第13話以来となった合体モヂカラを使ってくれたのは、好きなアイデアだったので良かったところ。 携帯入力のゴールドはどうしたのかと思ってよくよく確認したら、「、」一文字でした(笑)
 動きの止まったドウコク目がけて突っ込むのは、丹波の「双」ディスクにより生まれた、驚異の烈火大斬刀・二刀流!  二振りの巨大刀によるレッドの攻撃はドウコクに大ダメージを与えるも弾き飛ばされるが、直後、丈瑠の号令でドウコクを包み斬る4人。 そしてもう一枚のファイヤーディスクを用いてドウコクに渾身の一撃を叩き込んだのは、まさかのブルー、池波流ノ介だぁぁぁぁぁぁ!!

知らざあ言って聞かせやしょう
滑り続けて49話 二枚目枠だと思ってみれば 何の因果かコメディリリーフ
脱いで斬られてくっついて ファザコンマザコン小便小僧 剣は達者も空気は読めず 殿への思いは空回り
ヒロインレースも脱落したが 太夫・裏正・茉子・姫・ことは これは相手が悪すぎた
面倒くさくて暑苦しい されど忠義は誰にも負けぬ 3馬鹿トリオの筆頭の ここが男の晴れ舞台
池波流ノ介たぁ 俺がことだ!

 シンケンブルー必殺の一太刀はドウコクを貫き、そして切り裂く。
 なんとビックリ、まさかまさかの流ノ介。
 ここまで常に戦闘の中核であった丈瑠を囮にし、家臣がトドメの一撃を放つという、驚天動地のひっくり返し。 思えば流ノ介の侍としての高いスペック描写は、ここに至る長い長い伏線だったのか……?!
 基本、レッドが頭1つ抜けた戦闘力でメンバーを引っ張るという構造だったので、最後に、皆の力、を強調する意図もあっての今作らしい展開。 まあ個人的には、最後はやはり、丈瑠が決着を付けてくれた方が盛り上がりましたが(^^;
 咆吼で6人を吹き飛ばすも、今度こそ大爆死したドウコクは、二の目により巨大化。変身の解けたシンケンジャーは最後の力を振り絞り、 生身のままでシンケンハオーに乗り込むと、巨大ドウコクに立ち向かう。
 二の目になってもやはり強大なドウコクを倒す為、モヂカラを小出しにせず、至近距離での一撃に全てを籠めようとするシンケンジャーは、 肉弾特攻。ドウコクの攻撃で折神が剥がれていき、ハオー→天空→シンケンオー、となっていくというのは、ギミックを活かして面白い。 またここでも、ひっくり返しが発生しています。
 「この……何でてめぇらは諦めるって事を知らねえ」
 盾も吹き飛ばされるが、ドウコクまで後一歩に迫るシンケンオー。
 「今の内に言っておく。おまえ達と……一緒に戦えて良かった。感謝してる」
 皆が超ビックリしているのですが、丈瑠がお礼言ったの、初めてでしたっけ?(笑)
 そういう意図だったのかもしれませんが、さすがにちょっと、そこまで記憶にない。
 「殿……私の方こそ」
 「うちもです」
 「6人一緒だから、戦ってこれたんだし」
 「丈ちゃん、巻き込んでくれてありがとな」(源太のこの台詞が、とてもいい)
 「…………しゃぁ! 行こうぜ、最後の一発だ!」
 前進するシンケンオーはドウコクの剣に胴体を貫かれながら必殺必中の間合いに入り、全員のモヂカラを結集したダイシンケンの一振りが、 ドウコクを斬る!
 殿が丁寧に死亡フラグを口にするので、最後は獅子折神一つになって将棋の駒アタックまで大爆発するのかと思ったのですが、 そこまでは行きませんでした。……まあ落ち着いて考えると、それだと6人のモヂカラ感が出ないか(笑)
 「シンケンジャーぁぁぁ…………俺がいなくなっても……いつかてめぇらも泣く時が来る。……三途の川の隙間は、開いてるぜぇ」
 シンケンオーの顔をがしっと掴んで断末魔を残す、と最後の最後まで恐怖と脅威を見せつけ、外道衆御大将・血祭ドウコク、爆散。
 当初はデザイン負けを心配していたのですが(働かないし)、ダンディズム溢れる、素晴らしい悪役でした。
 ドウコクの消滅により人間界から三途の川が急速に退き、残りのナナシ軍団ごと六門船も引き戻され、此の世から姿を消す。
 「ドウコク、太夫、悪いがあたしゃ、生きるよぉ! 三途の川だって、泥の中だってへへへ、生きる事があたしの、外道さねぇぇぇぇぇ、ほぁぁ!」
 物語の設定上、外道衆が根絶不可能と思われる為、そのわかりやすいシンボルとして、シタリは生存(?)。チョーさんの名演もあり、 最後の最後までおいしい役でした、シタリ。
 ・
 ・
 ・
 こうしてひとまず、外道衆との戦いは決着を迎えた。だが、血祭ドウコクを倒しても三途の川が消えてなくなるわけではなく、 いずれまた、人の世に仇をなすものがそこから生じるだろう。その日の為に、侍は侍としてあり続けなければならず、 薫は丈瑠に志葉家を任せ、丹波らと共に屋敷を去っていく。
 当主の座は見事に丈瑠に押しつける格好になったので、しばらく楽しい乙女ライフです(笑)
 すかさず丹波がお見合い写真を持ち出すが、ハリセンを一閃、と新たな武器スキルの熟練度が凄い勢いで上がっていきます。
 そして、5人の侍達もそれぞれの旅立ちを迎え、茉子はハワイの両親の元へ。
 「しばらく、両親と暮らして、また、戻ってきます」
 ……戻ってくる!
 戻ってくるって言った!
 というわけで、正室妄想としてはこれで満足しておこうと思います(笑)
 千明は改めて大学受験に挑み(高校の卒業式前にシンケンジャーに拉致され、 1年経って受験シーズンたけなわの時期だと思われるので…………更に来年の受験か)、ことはは田舎へ帰り、 流ノ介は歌舞伎の世界に復帰を目指し、そして源太はおフランスに修行へ。
 丈瑠が奥から出てきて皆でその前に正座し……
 「殿! ……お別れの舞を一差し」
 「「「「「「は?」」」」」」
 流ノ介が舞い、画面下にスタッフロールが流れる中、順々に仲間達が去って行く、という凄いシュールなエンディング(笑)  なんだ、どうしてこうなったんだ?!(笑)
 「丈ちゃん、おフランスの土産、楽しみにしてろよ」「行って参りヤス!」
 「殿様……ほんまに、ほんまに、ありがとうございました!」
 「ま……追い越すのは、次に会った時だ。忘れんなよ」
 「外道衆が現れたら、いつでも飛んでくるし。あ、でも人見知りは直した方がいいかも」
 ……姐さん、いったい誰を、連れてくる気なのか。
 「ああ……じゃあな」
 舞を終えた流ノ介は無言で一礼し、5人はそれぞれの道へ戻り、進んでいく。
 「行ってしまいましたなぁ……ここがこんなに広いとは」
 「…………なんだ、爺も孫のところへ行くんじゃないのか」
 「なんの。孫にはいつでも」
 色々反省した爺は、殿に社会勉強の手始めとして、カルチャースクールを薦め、逃げ出す殿。
 ナレーション――「皆で掴んだこの世の平和。その中への旅立ちは、嬉しいながらも、少し寂しい。それでも、 いつかまた会う日もある。侍たちの心は晴れ渡り、侍戦隊シンケンジャー、これにて、一件落着!」
 丈瑠は清々しい気持ちで青空を見上げ、邸内を掃除する黒子達、でエンド。
 別離、というのは小林靖子のこだわりのあるテーマらしく今作の大団円でも旅立ちと別れが明確に描かれるのですが、実は後半、 流ノ介と源太以外は社会との接点が薄くなってしまっていたのは、ちょっと勿体なかった点。
 物語の基本構造としては明確に“日常への帰還”を志向してはいたのですが、千明はこだわりが日常より丈瑠に寄ってしまいましたし、 ことはは元より。で、前半最も社会と繋がりを保っていた茉子は、 第34話で欠落が埋まった事によりむしろシンケンジャーとして純化してしまっている。
 「贈言葉」回を契機にことはがシンケンジャーでない自分について考えたり、せめて千明には後半1回、 戦いが終わった後の事を考える、ようなエピソードは欲しかったところ。
 とりあえず大学を目指す、というのも納得はできるのですが、物語としては、仕込んでいる時間が無かった、 という印象になってしまいました。
 牛折神編〜終章スタートまでの間が、“受け継いだもの”を軸に各人の内面に踏み込むエピソードが続いていて、 入れるとすればそこだったのですが、千明は…………流ノ介とくっついていた(笑)
 最終章前の一休みでサブライター回だった都合もあったかと思いますが、基本サブライター回では踏み込んだ話はやらない、 という毎度ながら小林靖子メインライター作品の良し悪しが出てしまった感あり(^^;  第37話自体はJAE超絶アクション祭として面白い事は面白かったのですが、もう少し思い切って踏み込んでも良かったような。
 割とさらっとしたエンディングでしたが、この頃になるとVシネマとか来年の劇場版とか再会の予定があるというメタな事情もあったのでしょうし、 逆にさっぱりとやる事で、ハード路線だった今作ここまでの雰囲気と違う、すっきりした清々しさが出たのは良かったと思います。 …………流ノ介の舞は謎でしたが!(笑)
 思った以上に長くなってそろそろ頭が煮えてきたのでまとめに入ろうと思いますが、えーと、その前に、姫と丹波について。
 姫は役柄としても現場としても難しいキャスティングだったと思うのですが(当時、弱冠14歳だそうで)、 登場当初はややドキドキする不安定さはあったものの、その固さの残る部分を脚本と演出の方で巧く役柄に取り込んで、 ラスト3話は見事に、姫はこれで姫、というキャラクターになりました。
 しばしば書きますが、キャリアの浅い役者を使うのが前提の作品においては、キャリアを積むまでの間は、役者の演技が悪いのではなく、 脚本や演出が役者を巧く使いこなせないのが悪いのですが(このわかりやすい失敗例が『仮面ライダーブレイド』前半戦)、 その時間をかけられない状況で、役者をうまく役に同化させた、(もちろん役者さんの努力も含めて)見事なスタッフワーク。
 そしてここで欠かせない役割を果たしたのが、丹波歳三(松澤一之)。
 丹波の物語における役割は大きく二つあって、まずは殿の殿たるゆえんを彦馬が担保しているのと同じく、姫の姫たる所以を担保する、 記号としての存在。
 もう一つが、丈瑠家出による視聴者の困惑や怒りを引き受けるわかりやすい憎まれ役としての役目。
 脚本の小林靖子は丹波について「『アルプスの少女ハイジ』におけるロッテンマイヤー」と言ったそうですが、 最終盤の登場という事もあって丹波は敢えて類型的な、狭量で自尊心が強く高慢なキャラクターとして描かれ、 最後に正道に立ち返る所も含めて、そのステレオタイプをこそ見事に演じています。
 その上でもう一つ、劇中の要素とは別に、丹波には極めて重要な役割が与えられています。
 それは、志葉薫と主に話す役である事。
 ベテランの役者が若い役者を引っ張るというのは演技の世界では珍しくない構図だとは思われますが、 それをほぼワンツーマンでやる事により、丹波が芝居の間合いを作り、そこに姫を呼び込んでいる。
 姫の芝居は丹波の合いの手により成立しており、それによって志葉薫という難役を、物語の中に落とし込んでいる、という、 この構造を作り上げたスタッフワーク含め、それを見事に汲み取った素晴らしい仕事。
 単純な憎まれ役かと思わせて、今作の最終盤は丹波(松澤一之)なしでは成立しなかったであろう、という素敵な芝居でありました。 丹波、凄かった。
 特に好きだったキャラクターは、ドウコク、太夫、シタリ、茉子、薫。5人あげると十臓がもれるのですが(殿も(^^;)、 十臓とシタリとどちらが好きかと聞かれたらシタリ、と答える程度にはシタリが好きです(笑)  珍しく?女子メンバーを素直にセレクトしておりますが、姐さんは前半は<天使センサー>が感想書きとして便利で有り難かったのですが、 第34話で背景が腑に落ちてからは、割と普通に好きです。歴代戦隊女子の中でも、かなり好きかも。
 ……で、真ヒロイン決定戦ですが………………決められません(笑)
 いやー、これだけクライマックスで全ヒロイン(人外含む)がヒロインとしてきっちり見せ場のあった戦隊って、 歴史的ではないでしょうか。ちょっと思いつきません。というわけで、裏正・薄皮太夫・白石茉子・志波薫、 同着という事で(^^;
 ……あ、誤解されないように書いておきますが、別にことはが嫌いなわけではありません。ことははことはで結構好きですが、 やはり、おしるこがね……。
 今作、序盤からメンバーになるべく好感を持って貰おう、という作りになっているというのもありますが、 戦隊全体への好感度はかなり高いです。
 基本的に、1年の物語で綺麗に完結するのが好きなので、劇場版やVシネマ番外編などに普段全く興味ないのですが、珍しく、 “その後”の物語が気になる、というぐらい。
 どうしてだろうなぁ……と考えて思い至ったのは、通常、1年間描いてきたメンバーの関係がある程度収まってクライマックスを迎えるわけですが、 今作は丈瑠との絆を再確認する事で一つの集約を見るも、それはまた、“新たな始まり”ともなっているのだな、と。
 嘘でも積み重ねてきたものがあり、そしてその先の本当が始まる――というのは色々と展開を拡大している00年代後半の戦隊として、 結果的にメタ的にも巧い構造になったと思いますし、無理な付け足しになっていないので、素直に受け止める事ができます。
 1作完結主義の私には珍しく、必ずしも外道衆との戦いに限らずに、その先の物語、というのを楽しく思い描ける、 個人的にはそんなラストでありました。
 作品総合としては、とにかく「丈瑠は影武者だった」という大ネタを実行する為に、それ以外の部分は多少ブレても構わない、 という節が見られ、追加ギミックと物語の摺り合わせ方が割と適当など、完成度に劣る点もありましたが (特に前年の『ゴーオンジャー』がそこにこだわっていた作品だけに、どうしても目立つ)、 銃火器なのはともかく猛牛バズーカの格好良さは後半に割とポイントを稼ぎました。
 その上で、肝心の大ネタをただのインパクトで終わらせるのではなく、様々な“ひっくり返し”が連なって、 作品の全体像と描きたかった事が綺麗に繋がる、というのはお見事でした。特に、姫と丹波含め、 最終盤に全てのメインキャラが活きた、というのは本当に素晴らしい。
 海老の辺りの処理とか、アクマロの使い方とか、全体として勿体ないなーと思う点は幾つかあるのですが、 前半と終盤は非常に盛り上がり、特にラスト5話は文句なく面白かったです。愛されている理由がわかりました。名品。
 00年代戦隊の総決算として、『ゴーオン』と絡めて語りたいなーなどというのもあるのですが、まあこれは、 自分の中で勢いが盛り上がったら。見果てぬ予定稿という事で、毎度のように、何か思いついたらまたまとめの際か、 突発的に追記するかと思います。
 『侍戦隊シンケンジャー』感想、まずはこれまで。
 長々とお付き合い、ありがとうございました。

→〔総括&構成分析へ続く〕

(2017年9月10日)

戻る