■『侍戦隊シンケンジャー』感想まとめ8■


“天に弓引く者 容赦なく粉砕
 天下御免の侍戦隊シンケンジャー 参る!”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『侍戦隊シンケンジャー』 感想の、まとめ8(36〜40話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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◆第三十六幕「加哩侍」◆ (監督:竹本昇 脚本:大和屋暁)
 シンケンジャーの5人がゴールド寿司を訪れ、注文を悩むことはに、お兄ちゃん風を吹かせてみる源太。
 「何が食べたい? なんだって作ってやるから、言ってみな」
 「なんでも?」
 「あ〜、なんでもだ」
 「うち、カレーライスが食べたい」
 怖いよこの子は相変わらず!
 過去、様々な爆弾を投げつけて周囲のステータスを大きく変動させてきたことはのスーパーダイナマイトが源太に直撃!
 「うち……なんか悪い事言った?」
 「…………いいだろう……! 男に二言はねぇ!」

 源太、魔道へ。

 「寿司屋にカレー、なかなかシュールな光景だな」
 残りのメンバーの注文を無視し、生まれて初めて作ったカレーだが、これがことはに大好評。
 「そんな馬鹿な! 源太の料理は“普通”と相場が決まって」
 何やら、特殊能力みたいな扱いに(笑)
 だが源太のカレーはことはのみならず他のメンバーの舌も唸らせ、更にその香りが通りすがりのサラリーマン達を続々と屋台に引き寄せる。
 何やら、危ない薬みたいに(笑)
 本当にハッピーパウダーでも振りかけてあったのか、翌日、カレーが大人気でゴールド寿司はかつてない大盛況になるが、 そこへ外道衆が出現する。久々にシタリが派遣してきたそのアヤカシは、大回転で高層ビルも粉微塵に吹っ飛ばす凄まじい攻撃力の持ち主。 ……相変わらず血祭団は、ヒャッハーなのばかりです(笑)
 サメの歯の化石?をモチーフに取り込んだようなちょっと面白いデザインのアヤカシの攻撃で、 緑のシンケン丸が折れるなどシンケンジャーは大苦戦するも、アヤカシは乾燥肌で撤退。
 一方、カレーが大人気のゴールド寿司はとうとうTVで取り上げられ、源太はプロモーターから「店を出さないか」 と持ちかけられる……カレーの。父親が店を畳んで夜逃げしてから早ン年……あくまで寿司屋にこだわるのか、 客が喜び、父から受け継いだ暖簾で店を出せるなら、カレーでもいいのか。
 「これは、源さんのほんまの夢と違うんとちゃうの?」
 悩める源太の元を訪れる、事の元凶。
 「うち、こんな源さん嫌や。源さんの夢はカレー屋さんと違う。お寿司屋さんやろ?」
 そこへプロモーターがやってくるが、見せられた店の完成予想図が完全に寿司を捨てた「ゴールドカレー」になっていた事と (なんだか微妙に、商標登録とかに引っかかりそうでもある)、ことはの言葉で源太は迷いを振り切り、自分の夢を見つめ直す。
 「ことはちゃん、ありがとな。ようやく目が覚めたぜ。おいあんた、一つ、言っておくぜ。俺は、寿司屋だぁぁぁぁぁ!!」
 源太、闇から光へ。
 「源さんごめんな。元はといえば、うちがカレー食べたいなんて言ったから」
 ハイ、そうですね(笑)
 『シンケンジャー』女性陣の、このボスキャラ度の高さは何なのか。
 そこへ再び回転アヤカシが出現し、6人揃い踏み。ブルーの名乗りポーズが少し変わって、 歌舞伎への気持ちの整理が付いた事で歌舞伎の見得が大胆に入った? と思ったのですが、緑も微妙に変わっている気がして、 深読みする程の事では無かったかもしれません(^^;
 スーパー化した黄色は真・猿回しにより自ら高速回転。回転スピードをアヤカシと合わせる事で敵の急所を一突きし、 弱った所に金が魚丸・千枚おろし。トドメは真・土煙の舞いで成敗。
 巨大化したアヤカシの大回転攻撃に大海真剣王も苦戦するが、久々に登場したダイゴヨウが食らいついて回転を止めている間に、 全・折神合体し、シンケンハオー降臨。
 ……何でしょうこの、こんな敵に、そこまでしなくても感(笑)
 アヤカシはモヂカラ大団円により光に還元され、ゴールド寿司はカレーを終了。屋台の賑わいは消えて無くなるが、 源太は光の寿司屋として、真っ直ぐに歩み続ける事を誓い直すのであった。
 34、35話の流れを組んだ、個人の背景(源太の夢)に迫るエピソードなのですが、今作本来の構造で言えば、 「父親から受け継いだ夢」か「友と戦う約束と覚悟」か、の選択になるべき所が、カレーか寿司か、 それが問題だ、となってしまい、大和屋脚本回はネタ的には面白いけど、 『シンケンジャー』からはズレてしまっている感がどうもあります(^^;
 せめて混雑する屋台をダイゴヨウに任せるという場面が無ければまだ良かったのですが、あれをやってしまった為に、 「店なんて持ったらシンケンジャーどころでは無くなるような」という要素が入ってしまったのは、失敗でした。

◆第三十七幕「接着大作戦」◆ (監督:竹本昇 脚本:石橋大助)
 関西弁のアヤカシが街で大暴れし、出陣するシンケンジャーだが、アヤカシの妖術・モチツブテにより、青と緑の両手が繋がってしまう。
 「わいを倒さな、おまえら一生そのまんまやでぇ」
 金色の奇襲でアヤカシは撤退するが、青と緑の両手はしっかり繋がったまま…………てなんだこの、嬉しくない密着プレイ。
 魔法だったり手錠だったりで片手が離れなくなる、というのは割とあるシチュエーションかと思いますが、 両手(厳密には両手首)が繋がっている、というのはなかなか珍しいでしょうか(脚本段階では片手設定だったのが、 JAE側が「片手だと余裕すぎるんで」という事で両手になったそう)。
 妖術の輪は殿の剣技をもってしても斬る事が出来ず、とても戦えない状態になる流ノ介と千明だが、 役立たずは御免だと妙に意地になった流ノ介がその状態のまま刀やモヂカラを強引に扱おうとし、かえって千明と険悪になってしまう。
 戦いが駄目ならせめて……と、いい年した男2人ががっちり両手を組んで近距離で見つめ合いながら、カゴを抱えて買い物に。
 完全に、通報案件です。
 と、ドタバタギャグ風味で展開。冒頭で意外と気の合う流ノ介と千明の姿を見せてから、 アヤカシの妖術を受けた流ノ介の無茶で険悪になるという流れなのですが、 個人的にはむしろ流ノ介と千明の息が合っている方が違和感があったので、最初のシーンは特に要らなかったような気は。 その方がクライマックスに説得力が生まれると考えたのかと思うのですが、無くても充分に成立した気はします。
 再びアヤカシが出現し、戦力外二人を除いて立ち向かう4人だが、見事に粘着トラップに引っかかってしまう。 買い物帰りにその光景を目にした二人は、自分達が戦うしかないと覚悟を決め、千明は殿の言葉を思い出す。
 ――「息が合わないんじゃない、息を合わせようとしないだけだ」。
 自分の剣技では流ノ介の動きについていけないので、レベルを下げて自分に合わせて欲しい、と流ノ介に頭を下げる千明。 一方の流ノ介も、今は千明の柔軟な発想力が必要だ、と指示を委ねて頭を下げる。互いに認め合い、譲り合った二人は、ぴったりシンクロ。
 「「そこまでだ外道衆!」」
 さあ、おまえの罪を以下略
 両手首が繋がったままでの書道による変身から、緑と青の名乗りは凝っていて実に素晴らしく、そしてここから、

 中の人凄い祭。

 アクロバティックな動きでアヤカシの攻撃をかわし、翻弄し、互いが向かい合った相手の腰の刀を抜く、 というのもとても格好良くなりました。刀を抜いた青と緑は、見事な斬撃の円舞を見せる!
 「どうやら俺たちの場合、1+1は2じゃねえみてぇだな!」
 「ああ。恐らく――無限大!」
 うん君たち、ずっとこのままでいいのでは(笑)
 最後はウッドスピアで突き刺した所を放り上げ、ウォーターアローを撃ち込んで撃破。巨大化したアヤカシには、猛牛大王、 烏賊大海王、ダイゴヨウが立ち向かい、猛牛大回転で爆殺成敗するのであった。
 石橋脚本回にしては悪くありませんでしたが、話がどうこうというよりも、変身前と後それぞれの役者と、アクション監督が大奮闘、 というエピソード。素晴らしいアクション回でした。
 最後はゴールド寿司で全く同じ調子で寿司を食べる2人……と、流ノ介と千明の息があいすぎて、正直、ちょっと気持ち悪い事に(笑)  私が何も得しないよ?!(身勝手)

◆第三十八幕「対決鉄砲隊」◆ (監督:加藤弘之 脚本:小林靖子)
 年に一度、妻の命日に休みを取り、墓参りに行く彦馬。その際に、外道衆の戦いに巻き込まないようにと、 丈瑠を育てる事になってから離れて暮らしている娘夫婦と孫に、それとなく顔を合わせるのが彦馬と家族の貴重な接点となっていた。
 「ただ……爺が行くかどうかだ」
 外道衆達との戦いが激化している現在、彦馬が素直に休みを取って家族と会う時間を作るかを心配した殿は、 何としても爺を休ませたいと、家臣達に協力を要請。6人は隙間センサーを偽物とすり替え、本物を流ノ介の部屋に隠す事で、 外道衆の攻撃があっても彦馬が気付かないようにと細工をする。
 一方、三途の川ではシタリが、薩摩弁のアヤカシにナナシ鉄砲隊を教練させていた。
 「しかし鉄砲とは、少々、野蛮ではございませぬか」
 「おまえさんだって、口から空鉄砲ばかりじゃないか。これからは飛び道具の時代だよ」
 「ふん、何一つ変わりばえしねぇ今のありさまに、風穴開けてもらいてぇな」
 妙に凝った物言いで、ギスギスする3人(笑)
 職場に、潤いが、足りない!
 ……そういえば、今作、女性型のアヤカシって一度も出てきていないような。
 彦馬が休みのその日、ナナシ鉄砲隊が地上に出現。彦馬に秘密で出陣した6人は、 遠距離攻撃で千明と源太が負傷しつつも何とか鉄砲隊を退け、誤魔化し誤魔化し、彦馬を墓参りに送り出す事に成功する。
 「殿様……ほんまに優しいんですね」
 「え?!」
 殿、超狼狽。
 「親孝行ってやつですか」
 「そんないいもんじゃない」
 これまでも、彦馬が妻の命日に休みを取れず、墓参りに行けない事は度々あった。そして丈瑠も今まで、 それに対して何かを思う事はなかった。
 「侍なんだから仕方ないし、当然だってな。でも、この間の、茉子の家族とか……色々、お前達の、そういう…………つまり、 爺にも、お前達みたいに、持ってなきゃいけないものがある。そう思った。……それだけだ!」
 殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ(涙)
 苦節38話、地道に余ったスキルポイントを割り振り続けた結果、殿は《思いやり》:LV1を手に入れた!
 〔《思いやり》:1シナリオにLV回、任意のシーンで使用できる。同一シーンに登場しているキャラクターからの好感度が1上昇する。〕
 ここ数話の流れを汲む形で、“家族”や“夢”といったものを、人の持つべきものとして認識する殿。思えば殿自身、 真っ当にそういったものを与えられずに育てられた一種の被害者なわけですが、最終クールを前に、ここで一つ、 大きな心の変化が描かれました。
 一方で、「そんないいもんじゃない」や「お前達みたいに」という台詞からは、 そういった真っ当な世界からまだ自分を除外しているようにも聞こえ、再び焦点の当たってきた丈瑠の“いびつさ”というのが、最終盤、 どんな風に描かれていくのか楽しみです。
 「正直、協力してくれって言っただけで驚きだったけど」
 そんな殿に、凍結弾をぶつける姐さん、基準値が氷点下すぎて酷い。
 6人はアヤカシの記録や黒子の手配、勘定方に提出する書類の処理など、普段は爺が一手に引き受けている事務仕事を分担。 そこへ再び外道衆が出現するが、黒子のシフト調整に失敗し、陣幕が1人分しか無いなど、軽いギャグ。
 今更ながら、さりげなく爺の仕事ぶりと有能さが描かれているのですが、シンケンジャーの活動に予算委員会があった事が判明。 志波家の収入源はきっと財テクで、相場の動向とか延々と議論していそう。
 株価が下がると、おかずが一皿減る。
 シンケンジャーはナナシ鉄砲隊に狙いをつける間を与えず、接近しての乱戦に持ち込んで壊滅させる。……と思ったその時、 ゴールドが複数の狙撃を受け、変身解除する程のダメージを受けて倒れてしまう。正面に現れた鉄砲隊は囮で、 左右の崖から出現した伏兵の銃撃がシンケンジャーを襲うという、まさかの釣り野伏!
 もしかしてそれで、今回のアヤカシは薩摩言葉だったのか?
 「無駄でごわす。撃てぇ!」
 十字砲火の標的となり絶体絶命となるシンケンジャーだがしかし、いつの間にやら配備されていた黒子の支援部隊が手投げ弾でナナシ鉄砲隊を攪乱。 そしてそこに、鋼鉄の騎馬が突っ込んでくる! 鉄馬にまたがり見参した彦馬は素手でナナシを叩き伏せると、 背中に背負った新兵器を殿へと渡す。その名を――
 「牛折神の力を秘めた武器――猛牛バズーカ」
 目には目を、歯には歯を、飛び道具には飛び道具を、火力にはそれを超える火力を、 血を吐きながら続ける終わりの無いマラソンの生み出した掟破りの近代火器で、 殿はナナシ鉄砲隊を殲滅。
 それは、モヂカラの修行を続けていた榊原ヒロが作った新兵器であった。
 ……と、マッドサイエンティストの道をひた走る天才少年が、伝統とか侘び寂びとかもののあはれとか無視して空気読まずに作ったみたいな事にされていますが、 多分これ、事なかれ主義の頑固な老人の仮面を捨て、 儂も牛折神を自在に使いたかったんじゃーーーーーとカミングアウトしたヒロ祖父が基本設計を組んだ可能性が濃厚だと思います。
 あの老人は絶対、あまり表に出せない秘密兵器の設計書を溜め込んでいる。
 実はそもそも、彦馬はヒロから手紙を貰って(前半に、榊原家から野菜が届いたという伏線あり)、 墓参りではなくこの新兵器の受け取りに外出していたのであった。彦馬は源太と千明の負傷が稽古によるものではない事、 隙間センサーがすり替わっている事にも気付いており、念の為の黒子も配備していたのである。と、爺、一枚上手の年の功。
 元より事情を知らないとはいえ、殿、渾身の気遣いを無効化したヒロには、
 「ヒロ、空気読め」
 という怒りの手紙が届きそう。毎日。積み重なるぐらいに。
 「殿や、皆の気持ちは、有り難く。が、今は外道衆を倒す事こそ先決。それに、殿や皆の事こそ、この爺にとって何より……」
 「爺……」
 「三文芝居は、そこまででごわす」
 立ち直った薩摩アヤカシに、向き直るスーパーシンケンレッド。
 「――参る」
 ここの「参る」の言い方は、非常に格好良かったです。
 主従の絆はより強く、シンケンレッド、右手に刀、左手にバズーカで、派手に行くぜ。
 後のゴーカイジャーへの発展を思わせる剣と銃の変則二刀流で、見応えのある格好いいアクション。 そして猛牛バズーカにスーパーシンケン丸をセットし、最終奥義ディスクを発動。
 「スーパー猛牛バズーカ――外道伏滅!!」
 侍の最終奥義がバズーカでいいのかについては後で予算委員会で審議するとして、前年の反省を踏まえた感じの、 見栄えのする年末追加武装となりました。特に、刀との合わせ技で、アクション的に作品の中に格好良く取り込んだのは良かったです。
 源太負傷の為、巨大化したアヤカシには、猛牛大王とシンケンダイゴヨウが相対。とても露骨ですが、ここ数話で、 巨大ロボの大体のバリエーションを使い尽くしてきました(笑) ナナシ大筒隊に対し、猛牛大王はバズーカを巨大化させると、 右手にバルカン、左手にバズーカによる猛牛フルバーストで蹴散らし、最後は猛牛大回転砲で成敗。
 締めは爺を連れて屋敷とは違う方向に寄り道した殿が、本当は会える筈だった娘夫婦と爺をすれ違わせて、一件落着。今作の、 映像的統一イメージの一つである、帰り道エンドの亜種として収めた事で、綺麗なラストになりました。
 最終クールを前に、爺にスポットを当てつつ、ここ数話の流れを汲んで殿の心理的変化も描き、 新ギミック登場回としてはかなり濃いドラマが展開。その上でギミックはアクションでしっかりと見せ、面白いエピソードでした。 しかしこの流れだとやっぱり、ことははカレー回とかやってないで、お姉さん絡みの話をねじ込めなかったのか(^^;  ことはのお姉さん話は序盤に触れられただけで、意外やスポットが当たらないのですが、如何にも使えそうなネタだけに、ちょっと謎。

◆第三十九幕「救急緊急大至急」◆ (監督:加藤弘之 脚本:小林靖子)
 アクマロが謎の儀式を行うと黒い灰が降り注ぎ、それを浴びた人々は突然、異常なまでの猜疑心に心を支配されてしまい、 相争うようになってしまう。
 「ふふふふふ。我が術もこれでなった。後は、この炎を燃やし続けるだけ。どうか、消さぬよう頼みまする――お二方」
 アクマロは十臓と太夫に祭壇の警護を指示し、かくして連絡の途絶した島を不審に思い、乗り込む事になるシンケンジャー……と、 少々珍しいシチュエーションでスタート。
 島という限定空間が舞台として設定され、ミッションスタート、とでもいった感じでなかなか盛り上がります。
 バリケードが張り巡らされたり、突然の投石を受けたり、不穏な空気の漂う島内を、殿&茉子、流ノ介&ことは、千明&源太、 という3つのコンビに分かれて捜索するが、赤桃の前には十臓、青黄の前には太夫、緑金の前にはアクマロ、がそれぞれ立ちはだかる。
 「人が人との繋がりを無くし、ただ争うのみの、人として最下層な世界。これこそ、三途の川の水を呼び込むのにふさわしい」
 此の世に修羅の巷を生み出すアクマロの妖術のこもった灰を浴び、千明と源太はお互いを疑って同士討ちをスタート。 青と黄は太夫に敗れて川落ちし、赤と桃も十臓に苦戦を強いられる。
 「シンケンレッド……おまえ、なぜ、弱くなった?」
 「なに?」
 「おまえは自分を惜しむようになった」
 「……!」
 赤は十臓の攻撃で変身解除レベルのダメージを受けるが、十臓は「つまらん」と言い残して立ち去り、殿は気絶。
 一方、千明と源太は血走った目で周囲を警戒していた。
 「源太のやつ……源太だけじゃない。みんな敵だ」
 「敵ばかりだ……みんな俺を狙ってやがる」
 石を投げられたりトラックに追いかけられたり、今回コミカルパート担当の2人ですが、なかなか楽しい偏執狂演技。 源太が何もない所で魚丸を抜き身で振り回したり、かなりいい感じにキてます。
 「おまえ……シンケンレッドにとどめもささずに来たようだが」
 「あれはもう、面白くない。裏正が戻ってきたところで、あのまさに、骨の髄までバラバラになるほどの戦い、望むべくもないとはな」
 十臓は殿を、ポイ捨て宣言。
 一方的にアプローチをしてきた挙げ句の、なんかもう冷めちゃったーみたいな身勝手極まりない事を言われているとは知らず、 茉子に応急手当を受けた丈瑠は、十臓の言葉に思い悩んでいた。
 「気になってるの? 十臓が言った事。……前の戦いで勝ったのは、丈瑠の方じゃない。弱くなったとも思わないし」
 「腕じゃない。十臓が言ってた通りだ」
 ――おまえは自分を惜しむようになった
 「悪い事とは、思えないけど」
 「少なくとも、1人で戦ってた時とは違う」
 「うん、確かに。最初の頃の丈瑠とは、違うよね。特に最近は。どんどん、なんていうか……」
 「お前達と戦うのが普通になってる」
 「ていうか、みんなと一緒に居るのが、普通、て感じかな。私もそんな感じかな。流ノ介達も、そうだと思う。それって、 いい事じゃない? 昔の殿様と家臣とは違うかもしれないけど、私達は、これが」
 「違う!」
 「え? ……丈瑠?」
 「俺は……違う!」
 茉子を振り払い、飛び出す丈瑠。
 (俺はいつから――いや、わかってて目を逸らしたんだ)
 「よりによって、あいつに……見透かされた」
 (俺に許される筈なかった……もっと、強く!)
 前回、ここまでの物語の積み重ねによる丈瑠の変化に焦点が当たりましたが、そこから一転、何やら怪しい雲行きに。 源太加入からここしばらくは、周囲の変化に徐々に馴染んでいく……という形で丈瑠はある意味では話の中心に居るけど中心ではない、 というような描かれ方だったのですが、最終クールに入って再び、丈瑠が物語の中央にやってきました。
 丈瑠の(わかってて目を逸らしていた)という独白が、そのまま、じんわりと丈瑠をぬるま湯につけ込んでいた作品構造と重なっているという、 なかなか構成の妙。
 (丈瑠、どうしたの? 何を言おうとして……)
 果たして、丈瑠の「違う」という言葉の意味は何なのか……再び歪な修羅たらんとする丈瑠は独り儀式の祭壇へ向かう。 そこで太夫の攻撃を受けた丈瑠は負傷から回避動作が遅れるが、飛び込んできた茉子が丈瑠をかばって斬られる。
 「茉子……。馬鹿、俺の事はいいから」
 「忘れたの? 約束でしょ。命を預けるし、命を預かるって。その約束が丈瑠を弱くするとは思わない。 一緒に居て、一緒に戦って、この世を守る。丈瑠……私が今言えるのは、それぐらい」
 茉子は変身して太夫と切り結び、丈瑠はその言葉を噛みしめる。
 「今は……この世を……守る為に――一筆奏上」
 スーパー化したシンケンレッドは、右手に刀、左手にバズーカを構え、スローモーションでナナシ軍団を斬って撃って今回も派手に蹂躙。
 基本、スピード感で見せていく戦隊のバトル演出では、早回しは小刻みに用いられますが、スローモーションというのはかなり珍しいか。 今作はかなり、時代劇っぽさと戦隊らしさを融合しようと殺陣に凝っていますが、その虐殺っぷりと合わせて、 かなり印象深い戦闘になりました。猛牛バズーカの描写は力入っていて、おいしい。
 「此の世を守るか。それほどの価値があるとも思えんな」
 「それは、価値を自分で手放したからでしょ!」
 太夫と姐さんの絡みが継続されているのも、いい所。
 「撃っていいぞ。もうやりあってもつまらん」
 丈瑠に興味を失った十臓は自ら猛牛バズーカの銃口の前に立つが、スーパーシンケンレッドの射撃は十臓をかすめ、 その背後の祭壇を破壊する。
 「僅かだが残っているらしい。俺の肌を粟立たせるものが」
 妖術は破れて島の人々は元に戻り、アクマロが来て十臓と太夫は撤退。置き土産の式神との戦闘では、 青の進言を無視して殿がサムライハオーに変形し、さくさく大団円。
 「これにて、一件落着」
 一本締めも無く片付ける丈瑠の姿に、違和感を覚えて気にする女性陣、その背後では馬鹿をやっている男3人……と、なんだろうこの、 悲しいほどの温度差(笑)
 割と大胆に青、黄、緑、金をリタイアさせ、姐さんがいい役貰うというエピソード。家臣4人の中では、スタンスとしては姐さんが一番、 丈瑠に対してフラットな物言いが出来るのですが、このまま終盤そういう役回りになっていくのか。個人的には、もうちょっと、 イチャイチャしても良かったですが!(笑)
 そして――
 「太夫……」
 下は川だが心は砂漠、乾ききった三途の川に潤いを取り戻すべく、遂に、穀潰し・出陣。
 働かない男が真剣を見せる時――次回、激震。

◆第四十幕「御大将出陣」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:小林靖子)
 稽古中、千明の変則的な動きにこれまでになく追い込まれた丈瑠は、荒い剣技で千明を退けるが、その様子に違和感を強く持つことは。
 「茉子ちゃん、やっぱり殿様、この間からなんか……」
 そして茉子は、丈瑠の言葉と態度に、再び固い壁の存在を感じていた。
 「立ち入り禁止か……」
 その頃、三途の川ではドウコクが、潤いを求めていた。
 「シタリよ。そろそろこいつらの口三味線にも飽きた。そう思わねえか」
 「そうかい……太夫を連れ戻すんだね」
 ドウコクはアクマロに太夫の三味線の返還を命じ、アクマロが地上に隠してあるというその回収に、シタリも付き合う事に。
 ……骨のシタリ、かつてここまで、駄目人間に対する面倒見が良い悪の幹部が居ただろうか(笑)
 「ドウコクさんはよほど太夫さんが大切と見えまする。わざわざ太夫さんの三味線を取り戻そうとは」
 「ふん、人間みたいな事言うじゃないか。あたしら外道衆がどういうものか、わかってるんだろ」
 ここで第40話にして、外道衆とは、三途の川に生まれ、生きて此岸に行く事も、死んで彼岸に行く事も出来ない存在というのが、 初めて明確に。以前に「生きも死にも出来ない」という言及はありましたが、出自が明かされたのは初。
 そして外道衆は、その存在のもどかしさゆえに、人間の苦しみや悲しみに惹かれるのであった。
 「思えば、これほど長く三味を弾かなかったのは、初めてだ」
 山中をぶらつきながら、毛玉を愛でる薄皮太夫。
 太夫はこの仕草で女性らしい可愛さを付加するというメソッドなのですが……今更気付いたけどこれ、 殿が獅子折神と戯れて可愛げをアピールするのと同じ手法であり、つまり、

 殿=乙女、というロジックが!

 「俺は十臓に後れを取った」
 「で、その原因が、流ノ介達と近づき過ぎた事にあると? ――爺はそうは思いませんな。家臣と心を通じ一致団結せねば、 今日まで外道衆と戦ってはこれなかった筈」
 「でも俺は!」
 「志波家18代目を背負うとは、その全てを呑み込んでこそ」
 そんな乙女粒子全開散布中の殿を諭す爺だが、そこへ、ゴールド寿司がグルメ雑誌に掲載された源太がテンション高く乗り込んで来る。 源太は爺にあしらわれるが、源太を止めようとついてきた姐さんが、殿を気にして前回に続いてやや距離を詰めたポジション。
 茉子だけだと距離感のバランスが偏ると思ったのか、ことはも殿の様子を気にしてはいるのですが、やや差別化が図られ、 隊内ヒロイン争いも、終盤戦に激しくなって参りました。
 天使センサーVSけなげ爆弾、勝つのはどっちだ!
 アクマロが隠し金庫のパスワードを入れている間、ドウコクと太夫の馴れ初めを思い返すシタリ。
 「苦しみや悲しみねぇ……そんな言葉じゃ到底言い表せないものがあったねぇ、昔聞いたあの三味には。 ドウコクの生まれ持った底抜けの苛立ち、そいつが紛れるぐらい、人の世の涙をかき集めたような音色だった」
 それは――隙間から三途の川に届いた薄雪の三味線の響き。
 「あと……どれほど待てば…………いや、もう少し……きっと……明日にも」
 前回の太夫回想シーンに続き、朴ロ美さんが薄雪として出演。
 「毎日毎日、一年、二年、三年……ドウコクが耳を傾けない日は無かった。そして――」
 まさしく、慟哭の詰まった、薄雪の三味線の音色を酒の肴にドウコクは自堕落な日々を満喫し、 そして――惨劇を起こした薄雪は炎の中で外道に堕ちる。
 「てめえは外道に堕ちた。もう二度と戻れねぇ。待ってたぜ、太夫」
 ドウコクは三途の川で太夫に骨の三味線を渡し、それ以来、薄皮太夫は六門船で三味を弾き、 そこに積もった苦悶の音色がドウコクの欠かせぬ慰めとなったのであった。
 「あれは、人で言うなら……“執着”かねぇ」
 先にアクマロと「ふん、人間みたいな事言うじゃないか」というやり取りを置く事で外道の物の捉え方を強調し、 甘さや柔らかさを取り除いた上で、しかしそこに“情”という物が皆無ではない、という複雑さを、 “執着”という言葉で巧く着地させました。
 ドウコクと太夫の大人の関係としては、凄くしっくり来て、素敵。
 しばし物思いにふけっていたシタリは、突如、三味線を取り出したアクマロに背後から攻撃を受ける。
 「先程からこれを渡さぬ言い訳を考えましたが、思いつきませぬゆえ、ドウコクさん達を欺くのもこれまでと」
 面倒くさくなったーーー(笑)
 出てきた時から怪しさ全開だったアクマロですが、いよいよ本性を現し、太夫の三味線を使って「どうしてもしたい事がある」と宣言。 それにしてもアクマロは、隠し場所の封印を解きながら、(んー、どうしよう……腹痛? 発熱? 親戚の法事? それとも、 封印解除するパスワード忘れちゃった、てへ☆ とか可愛くやってみる? 或いは、3歳になる孫の為とか泣き落とし路線に行くか……) とか、ずっと考えていたのか。
 シタリは三途の川へ退き、その際に隙間センサーに引っかかった事でシンケンジャー出陣。そして太夫は三味線の呻きに気付き、 怒りの声と共にアクマロの元へと急ぐ。
 「おまえの苦痛、ここに吐き出して、楔となってもらいましょう」
 呪具を用いて何かの地点を見つけたアクマロだが、そこへやってくるシンケンジャー。 アクマロはナナシを召喚してシンケンジャーの相手をさせるが、太夫が現れ、アクマロに斬りつける。
 「実は吾が欲しかったのは、十臓さんと、極上の苦しみが詰まったこの三味だけでござります。あんたさんのお陰で、 うまくいきました。ありがとう」
 どうやら数百年物のビンテージ三味線を何かの儀式に使うようですが、十臓も同じような理屈か?  そもそも裏正を十臓に渡して外道へ堕ちる事をそそのかしたのがアクマロのようなので、いよいよ、 過去からの因縁が色々と繋がって参りました。父祖の因縁、というのがキーワードの作品ですので、折神と切神、モヂカラと志波家、 など含め、数百年単位の因縁がどこまで繋がってくるのか、楽しみ。
 アクマロはミラージュ蹴鞠ショットなどで太夫に実力の差を見せつけ、容赦なくトドメを刺そうとする。
 「わちきが馬鹿だ……また、裏切られるとは」
 ――だがその時。
 「おおぉ、アクマロてめぇぇぇ!!!」
 震える大気、漂う黒雲。
 そう、男には、立たなきゃならない時がある。
 止めるシタリを振り払い、違いの分かる男・血祭ドウコク、遂に出陣。
 ドウコクの登場シーンは、わざわざ石が集まった後、それが爆発しながら出てくるという、無駄なハッタリが効いていて物凄く格好いい。 また地上に出たドウコクは封印の術の影響による酷い肌荒れで、次々と体が石化していく、と、これまで働かなかった理由が克明に描写。
 「血祭……ドウコク」
 「アクマロ……シンケンジャー!」
 ドウコクの刀の一振りで大爆発が起こり、吹き飛ぶシンケンジャー。三味線を取り落とすもアクマロはドウコクの縛りから何とか逃亡し、 その隙を突いてドウコクに切りかかるシンケンレッドだが、その斬撃は全く通用しない。
 「シンケンレッド……志波の、当主めがぁ!!」
 一太刀で赤はシンケン丸を折られて壮絶に吹っ飛び、家臣5人は連携属性攻撃を放つもドウコクに弾かれ、反撃で一蹴されてしまう。
 「志波の……てめえら一族には、返しきれねぇ借りがある」
 赤は黄の刀を拾い、スーパー化すると猛牛バズーカ外道伏滅を放つが、それすらもドウコクには無効。空中戦の果てに赤は一刀両断され、 更にトドメの一撃を浴びて、派手な大爆発の中で倒れてしまう。
 2話連続で新規着ぐるみを用いなかった分の予算でも回したのか、ど派手な大火薬祭の中、 圧倒的な力を見せるドウコクが超格好いいぃぃぃぃぃ!!
 今回の戦闘一つで、39話に渡って底値だった株価がストップ高に転じました(笑)
 働いたら負けじゃない! 働くと勝つから働かないんだ!!
 ドウコクって人間大ですが、扱いとしては置物系ボスキャラなのだな、 とその強さとこれまでの生活態度の相関関係に、深く納得。
 シンケンレッドを蹴散らしたドウコクは、三味線を拾うと太夫の元へジャンプ。
 「てめえは外道に堕ちた。他に行く場所はねえ」
 そして自分の体の一部を三味線にはめる事で修理する。
 「ドウコク……おまえ……」
 画面手前にぼやけるぐらい大きく野草を置き(太夫のサイドは花っぽく、ドウコクのサイドは草だけっぽい)、 その奥でドウコクが無言で太夫に三味線を渡すというカットは、2人のなぞらえも含め、ちょっと長石多可男っぽい絵作り。 長石監督スペシャル回とか、監督補として参加とかあったので、渡辺監督がかなり意識的にやった絵ではないか、と妄想。
 ドウコクのダンディズムが良く出たシーンなのですが、よく考えると三味線壊したのはドウコクなので、 酷いマッチポンプな気もするけど、外道衆だから仕方ない。
 太夫は三味線をかき抱き、シタリが乾燥肌の酷いドウコクを強引に三途の川へ連れ戻すと、大筒ナナシ隊を置いていく。
 重傷の殿をことはに任せた4人は大海シンケンオーで挑むも苦戦するが、寿司屋が猛牛大王を呼び出して側面攻撃をしかけて反撃。
 そう、大筒は、2方向に攻撃出来なかった!
 最後は烏賊天空バスターと猛牛大回転のダブルビームで成敗するが、ドウコクの猛攻を受けた丈瑠が、 重傷を負ってしまうのであった……。
 一方、強引に地上で暴れたドウコクも乾燥肌による反動が酷く、しばらく三途の川に沈んでスキンケアせざるを得なくなる。 そんなドウコク不在の間に、しれっと船に戻ってくるアクマロ。
 「吾を追い出す力はござりますまい」
 裏切り宣言した後、ここまで堂々と本拠地に帰ってくる悪の幹部は初めて見たかもしれない(笑)
 三味線を手に海を見つめ、超・急上昇する太夫のヒロイン力!  アクマロに利用されようとしている事をまだ知らず、それを見つめる腑破十臓、 そして次回から床磨き係になっているかもしれない骨のシタリ……外道衆の明日はどっちだ?!
 終わってみると、前回から引っ張った殿の煩悶はどうでも良くなり、御大将格好いいぃぃぃぃぃ!!祭でした(笑)  外道衆の正体、ドウコクの心情の一部なども明かされ、一気に外道衆方面の話が盛り上がってきたのは好材料。 アクマロ……は割とどうでもいいので、ドウコクに頑張っていただきたい。

→〔まとめ9へ続く〕

(2016年11月30日,2017年9月3日)

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