ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた 『魔法戦隊マジレンジャー』感想の、総括&構成分析。
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- ☆総括☆
- あーかーい まじあかいー せいぎのほのおー
あーつーい まじあついー おーもいこめー
おぅおぅおぅ おぅおぅおぅ きめるぜー
マジレンジャーが僕たちに教えてくれた事。
1・戦隊メンバー(特に主人公格である赤)には意識して早めに好感を持てる要素を付けよう。
2・物語の中心となるキーワードは、劇中でしっかりと定義付けよう。
3・この戦隊にクールは必要なのか? 立ち止まってよく考えよう。
『地球戦隊ファイブマン』(1990)、『救急戦隊ゴーゴーファイブ』(1999)、以来となる、戦隊シリーズ3作目の、 兄妹戦隊。同時に、父、母、(最終的に)次女の夫、が全員変身するという、2015年現在、究極の家族戦隊。
父の不在、母の消滅に始まり、欠けたピースを取り戻す物語……として構成されていますが、全体の雰囲気は陽性で、 明るく派手な戦隊というのが基調。楽しげな魔法、手を変え品を変え炸裂する必殺技、秘めた力を持った主人公(赤)の逆転劇…… とわかりやすい作劇とアクセントの付け方が重視されており、それ自体が悪いわけではないのですが、 その根幹に持ってきたキーワード「勇気」を劇中でしっかり定義付けしなかった為に、 そこから伸びた全ての要素がいびつに傾いてしまいました。
そもそも、「勇気」・「愛」・「希望」などは、曖昧模糊としていながら舌触りが良く、 安易に奇跡の理由付けに使えてしまう便利ワードであり、物語において慎重な使用を求められる非常に危険な代物なのですが、 その曖昧なものを曖昧なまま、1から10までの理由付けにしてしまった為、全てがふわふわと定まらなくなってしまいました。
最初のつまづきは、1−2話の出来が非常に悪かった事。ここで指導者役である母・美雪が、若い戦士達に「勇気とは何か」を伝えて、 視聴者に対する「勇気」の定義付けも行う筈だったのですが、この母親が行動も言動も支離滅裂で破綻していた為、この導入でまず大失敗。
「魁、勇気と無茶とは違うの。恐れを知らない者に、本当の勇気はわからない。そして、本当の勇気が無ければ、魔法は使えない」
↓
ウルザードに対して恐怖を覚えるが、兄が殺されそうになったので飛び出す
↓
「大事な人を守りたい。一途な気持ちで恐れを超える。――それが勇気」
……と、“勇気と無茶”の違いを語って「勇気とは何か」に持っていく意図が、全く同じ行動をしても、
相手に恐怖を感じないで飛び出す→無茶
相手に恐怖を感じた上でなお飛び出す→勇気
という認定基準になってしまい、加えて本来はその「なお」の部分、「どうして飛び出せたのか?」を物語として描いていくべきだったのに、 何故か「飛び出す」の方を重視してしまい、むしろ、無茶と勇気が合体、というか、怖いけど根拠なく飛び出すのが勇気 という困ったロジックが成立(1話時点ではそこまでおかしくないのだが、以降、行為の部分だけが抽出されてしまった)。
更にそこを修正しないまま、続く2話で「あなた達の武器は勇気」で全てを片付けてしまった為、壮絶なボタンの掛け違いが発生。
結果として、局面局面と全く関係無く、無理・無茶・無策こそが勇気と認定され、「勇気があれば大丈夫」なので、 何の根拠もないけど勇気があるから勝ってしまう、という史上屈指のパワープレイ戦隊が誕生してしまいました。
また、この第1歩で間違えただけならともかく、毎エピソードにおける「今回はこれが勇気」というのもさっぱりよくわからない為、 話が進めば進むほど勇気というものが曖昧になっていき、あやふやな勝利の原動力に……という、 やってはいけないマジックワードの使い方、の悪い見本市。
なお悪い事に、新魔法の配信理由や、ピンチからの大逆転理由を何でもかんでも「勇気」にしてしまった為、 1年通して延々と困難に対する解決方法が常に「勇気は勝つ」以外になく、シチュエーションに応じた盛り上がりというのものも薄く、 逆転劇そのものが安っぽくなってしまいました。
ひたすら、マジックワードの危険性というものを体現している作品。
とどめに、5人が欠けた勇気を身につけていく話ならまだしも、5人は「勇気」を最初から所持していて(持っていないと魔法使えないので) 定期的にそれを思い出すという構成の為、成長要素もほとんど描けなくなってしまいました。
明るく派手な戦隊であるからこそ、根っこの所で悩まない、一つのキーワードで常に勝利を収められる、 というわかりやすさを意図したのかとは思われますが、“中身のあるわかりやすさ”ではなく、 “中身のないわかりやすさ”になってしまったのは、非常に残念です。
それは、劇中における“勇気”の定義づけを作品のテーマとして真摯に行えるかどうかで大きく変わった所だと思うのですが、 肝心要のその1点を曖昧に濁してしまい、一点突破なら一点突破で、そこをしっかりと突き詰めて欲しかったです。
……一応、ヒカル先生の登場後、先生と生徒、という構造を組み込みながら勇気の再定義付けを行って軌道修正をはかるのですが、 冥獣人四底王の登場からレジェンドマジレンジャー誕生編で一周回って勇気の定義づけが第1話に戻ってしまい、挙げ句に
「それでも俺たちを信じてくれ。俺たちは絶対大丈夫だ。だから!」
「なぜそう言い切れる」
「俺たちには……俺たちには、無限の勇気があるからだ!」
と、結局、小津兄妹の誰も自分達が口にする「勇気とは何か」について一言も述べないまま「勇気があるから大丈夫」 で解決してしまうという、そこまでの積み重ねを全て台無しにした大惨事が発生。
結局、この問題は最終話直前の第48話、ブレイジェルの台詞
「勇気とは、己を知り、信じる事。俺はそう考えている。その究極の境地に達した時、フェイタルブレードは、きっと奇跡を呼ぶ。 おまえは、おまえの勇気を見つけろ。その時、おまえは本当に強くなれる」
でギリギリまとめるまで、都合良く放置されたままでした。
これが、物語中で何度か繰り返された問いかけに最後で集約された答が出る、という構成なら良いのですが、 今作全くそういう構成にはなっていないので、とにかく作品の根幹に、テーマでは無く便利ワードを置き、 それをテーマにする事なく物語として逃げ続けた、というのが今作の一番の問題点。
これに比べれば、ウルザードがおかしい、ぐらい些細な事です。
本編感想からだいぶ間が空いてしまったので、最初に問題点を整理しましたが、
「勇気とは何か、について考えない」
というのがことごとく負の方向に転がったのが今作かな、と。
物語として「勇気とは何か、について考えない」というのは一つの手法として有りだと思うのですが、 その「考えない」事そのものを「わかりやすい」と誤解してしまい、劇中における「考えない」をどうやって物語の軸にするのか、 つまり、「考えない」という事に物語の中で意味を持たせる作業、が不足していたように思えます。
ゆえに、ただ「考えない」まま話が進んでしまった。
そしてそれは主人公格である魁の造形にも悪影響を及ぼしており、その「考えない」の象徴である魁は
〔勇気とは何かについて考えない→(女の問題以外で)悩まない→反省しない→けど強い〕
という、最初から最後までほぼ何も考えていないのだけど、世界は彼を中心に回っているので何故かなんとかなってしまう、 という身も蓋もない存在に。更に「わかりやすさ」を重視するあまりに、「考えない」物語と、「考えない」魁が一体化。
結果、小津魁というキャラクターは『マジレンジャー』そのものとなり、作品を正当化する為に魁は何をやっても作り手に全肯定され、 第42話に至って、作品そのものが“皆が魁になる”事を推奨しているような流れになるという、正直、ちょっと気持ち悪い事に。
要するに、物語の軸がしっかりしていないので、「主人公(魁)の正当化」と「作品の正当化」がイコールで結ばれてしまい、 作り手としては当然その方が気持ちいいし楽なので、どんどんそちらへ流れていってしまう。そこで、 キャラ造形と劇の構造的問題を同時に生んでしまったといえます。
好きなキャラは、兄者(緑)とヒカル先生。
軸の部分を曖昧にして逃げているのが今作の問題点と書いてきましたが、その点において5人の中で唯一しっかり「弟妹への想いと責任感」 という個人の軸を持っているのが兄者で、それもあって基本、兄者回は安心して見られる、というのは大きかったです。
ヒカル先生は最初はどうなる事かと思いましたが、自分のやる事に対しては真摯で、謝罪も出来る、 という今作ではまれに見る人格者で、登場後しばらくは作品が締まって秀逸な回が続いた所もポイント。……それだけに、 結局作品に呑み込まれてしまったのは実に残念でしたが(^^;
責任感の無い人達(魁、芳香、クズ母、ウルザード……)が目立つ作品なので、責任感の強い二人が、 凄く真っ当に見えるという要素は、多分あります(笑)
ネタキャラとしてはウルさんも好きですが、使い方に誉める所が無いのがなぁ…………(^^;
個人的な好みが大きいですが、便利ワードを如何に用いるのか、というのは作り手の腕の見せ所だと思うので、 明るく派手でわかりやすい、を求めるあまり、最初から便利ワードを放り投げてしまった、というのが最も引っかかる点。 もう少し、その部分に向き合って欲しい作品でした。
- ★構成分析★
- 〔評〕は、大雑把な各エピソードの評価。◎……名作、○……それなりに面白かった、−……普通、×……駄目回。
ただし、どこに基準を置くか、を考えるとややこしくなるので、相対的というよりは印象評価だと思ってください。 記憶と感想を読み返してのものなので、微妙にリアルタイムで見た時と、違っている所もあるかもしれません。
話数 監督 脚本 メインキャラ 備考 評 1 渡辺勝也 前川淳 ―― 〔地底冥府インフェルシア復活〕 × 2 渡辺勝也 前川淳 赤×黄 〔マジマザー、消滅〕 × 3 中澤祥次郎 前川淳 赤×緑 〔マンドラ坊や、登場/魔法110番設置〕 − 4 中澤祥次郎 前川淳 赤×青 ○ 5 竹本昇 前川淳 赤×桃 〔山崎由佳、登場〕 − 6 竹本昇 前川淳 赤 − 7 渡辺勝也 荒川稔久 黄 − 8 渡辺勝也 横手美智子 青×桃 − 9 中澤祥次郎 前川淳 赤 〔ファイヤーカイザー、登場〕 × 10 中澤祥次郎 前川淳 緑 ○ 11 竹本昇 横手美智子 黄×桃 − 12 竹本昇 横手美智子 黄 − 13 渡辺勝也 前川淳 青 − 14 渡辺勝也 荒川稔久 赤×黄 〔マジパンチ、DL〕 − 15 鈴村展弘 横手美智子 桃×緑 × 16 鈴村展弘 前川淳 赤 〔リン(ルナジェル)、登場〕 − 17 竹本昇 荒川稔久 ―― − 18 竹本昇 荒川稔久 ―― 〔ブランケン、死亡〕 − 19 中澤祥次郎 横手美智子 ―― 〔魔法猫スモーキー、登場/魔導神官メーミィ、復活〕 − 20 中澤祥次郎 前川淳 青 〔ヒカル先生(マジシャイン)、登場/敵戦力、冥獣人に〕 − 21 渡辺勝也 横手美智子 先生×緑 〔トラベリオン、登場〕 ○ 22 渡辺勝也 荒川稔久 先生×桃 〔太秦回〕 ○ 23 鈴村展弘 荒川稔久 先生×黄 − 24 鈴村展弘 荒川稔久 先生 ◎ 25 中澤祥次郎 横手美智子 先生×赤 − 26 中澤祥次郎 横手美智子 先生×青×スモーキー ○ 27 渡辺勝也 荒川稔久 緑 〔冥獣人四底王、登場〕 ○ 28 渡辺勝也 前川淳 黄 × 29 鈴村展弘 横手美智子 桃 × 30 鈴村展弘 横手美智子 ―― 〔スノウジェル、登場/レジェンドマジレンジャー、誕生〕 × 31 竹本昇 荒川稔久 ―― 〔マジレジェンド、登場〕 × 32 竹本昇 大和屋暁 緑 − 33 中澤祥次郎 横手美智子 ―― 〔ウルザード(ブレイジェル)、記憶を取り戻す〕 − 34 中澤祥次郎 横手美智子 ―― 〔ン・マ、メーミィ、死亡/ブレイジェル、消滅〕 − 35 鈴村展弘 前川淳 ―― 〔冥府神、復活〕 − 36 鈴村展弘 前川淳 先生 − 37 竹本昇 大和屋暁 黄×緑 − 38 竹本昇 大和屋暁 赤×黄×緑 − 39 中澤祥次郎 横手美智子 赤×桃 − 40 中澤祥次郎 横手美智子 赤×桃 〔ウルザード(ブレイジェル)、復活〕 − 41 渡辺勝也 前川淳 先生×赤 × 42 渡辺勝也 前川淳 先生 × 43 竹本昇 荒川稔久 青×黄 − 44 竹本昇 荒川稔久 黄 〔小津美雪、復活〕 − 45 中澤祥次郎 大和屋暁 桃×緑 − 46 中澤祥次郎 大和屋暁 桃×緑 〔ウルザードファイヤー、爆誕/絶対神ン・マ、転生〕 − 47 渡辺勝也 横手美智子 青×先生 〔麗とヒカル、結婚/天空聖界マジトピア壊滅〕 − 48 渡辺勝也 横手美智子 赤 ○ 49 渡辺勝也 前川淳 ―― 〔絶対神ン・マ、消滅〕 −
(演出担当/渡辺勝也:15本 中澤祥次郎:14本 竹本昇:12本 鈴村展弘:8本)
(脚本担当/前川淳:17本 横手美智子:16本 荒川稔久:11本 大和屋暁:5本)
パイロット版と最終回を担当した渡辺勝也が最多演出。劇場版担当の竹本監督の穴を埋める形で鈴村監督を途中で加えつつ、 年間通して安定したローテ。
脚本は、パイロット版から立ち上がり6話までと、最終話を担当した前川淳が最多。ただし大きな区切りの回を必ず書いているというわけではなく、 前作『デカレンジャー』に参加した横手美智子と、ベテラン荒川稔久とを加えた実質的なトロイカ体制。これは、 同じく戦隊シリーズ経験の少ない武上純希をメインに抜擢した『電磁戦隊メガレンジャー』(1997)の時と似た構造と言えます。
後半参加の大和屋暁は、シリーズとしての先も見据えた起用と思われ、この後、複数の戦隊にサブライターとして参加。
メイン回配分は、
〔赤:14(4) 黄:11(4) 青:7(2) 桃:10(1) 緑:10(2) 先生:10(3) スモーキー:1〕
()内は、単独メイン回。
改めてカウントしてみると、予想外の結果で、翼が大健闘。思わず3回ほど確認しましたが、間違いないようです。 麗が少ないのも意外ですが、日常パートとアドベンチャーパートで確実に活躍できる為、案外と個別のスポットが無いのかも。
あまりバランスの良くないイメージだったのですが、魁もそれほど突出しておらず、麗が少ない以外は、ほぼ横並び。 イメージよりもバランスは取れていました。
構成としては、1〜18話が《ブランケン編》、19〜34話が《メーミィ編》、36〜最終話が《冥府神編》、 と明確な3部構成になっているの特徴で、怪人ポジションも冥獣→冥獣人→冥府神、とパワーアップ。
声優をあてない冥獣から、人語を解して喋る冥獣人へ、という敵の強化アイデアは面白かったです。
この敵の強化に合わせ、追加戦士としてマジシャインが加入。ある種の修行編を経た後、冥獣人四底王が登場し、 マジレンジャーがパワーアップして四底王と中ボスを倒すも、真の敵が復活する……と、 少年マンガ的なアプローチへの意識が強いと思われる今作ですが、この辺りの構成は実に少年マンガといえます。
……しかし表にして今更気付きましたが、メーミィはシャインが倒したし、ン・マはブレイジェルが倒したし、 レジェンドマジレンジャーは実は中ボスを倒していなかった(笑) これは割と大胆な作劇だったのかもしれません。 ……レジェンドマジレンジャー誕生が大惨事で、その後なし崩し的にウルザードが記憶を取り戻したりで、 それどころでは無かったんですが。
クライマックスとなる《冥府神編》は、基本的に前後編2話セットで進行していった、というのが特徴的。 幹部クラスの強力な敵がどんどん出てくる、という雰囲気はよく出たと思います。
評点に関して正直、アベレージ高くないので○も×も甘めですが、秀逸回としたのは、
話はどうという事ないけど“有明の月”の演出が素晴らしかった4話、兄者のストーカー気質が露わになる10話、 兄者がマルデヨーナ世界でダイノガッツに目覚める21話、秀逸なニンジャ祭りの太秦回22話、 スモーキーが熱い26話、兄者が弟妹との絆を失い崖っぷちに立つ27話、『マジレンジャー』の集約として綺麗にまとめた48話。
傑作回は、禁呪をめぐってヒカル先生が格好いい所を見せ本編で初めてウルザードが巧く使われる24話。
結局、ウルザードが巧く使われたのはこの24話だけでした(笑)
そして、作品としてのピークもここでした(^^;
この後、ヒカル先生による立て直しを台無しにして無に返すレジェンドマジレンジャー編という大惨事が発生。 ○と×の付け方がわかりやすいです(笑) 先生は、終盤にもう一度立ち上がりましたが(41−42話)、 やはり大惨事に。
ラスト2話はよく、大惨事から復興の道筋をつけてまとめたと思います(^^; 前半、散々さぼりと迷走を繰り返していたウルザードが、 ブレイジェルとしてテーマをまとめたのかと思うと、物凄いマッチポンプですが(笑)
(2015年5月6日)
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