■『炎神戦隊ゴーオンジャー』感想・劇場版■


“生まれた世界は違っても
見た目や言葉が違っても
願いは繋ぎ合える”


 ブログ「ものかきの繰り言」に書いた、『炎神戦隊ゴーオンジャー』感想、 劇場版その他のHTML版まとめ。

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◆『炎神戦隊ゴーオンジャー BUNBUN! BANBAN! 劇場BANG!』◆ (監督:竹本昇 脚本:會川昇)
 夏の劇場版。

 「卵には、炎神にも大切な、鉄分や、ミネラルが豊富に入ってるっス」
 卵は物価の優等生!!  (※TV本編の大変重要なテーマ)
 ガイアーク三大臣が巨大バンドーマにより次元の壁を破壊し、 ヒューマンワールドと他のワールドを混ぜる事でしっちゃかめっちゃかに世界を汚そうとする計画を発動。 それを阻止しようとするゴーオンジャーの前には再生蛮鬼獣軍団が立ちはだかるが、ウィングス、 そしてアリゲーターとホエールが駆けつけ、キャラ紹介(ヒューマンと炎神をセットで紹介するのが、 まさにゴーオンジャー)も兼ねつつ疾走感のある突撃シーンで冒頭から炎神が大集合。
 「みんなの力を、一つにするぜ!」
 そのまま勢いに乗せて一切の出し惜しみなく炎神王G9を放り込んでくる怒濤の劇場版作劇により、 再生軍団を巨大バンドーマともども粉砕するG9だが、次元の亀裂の向こうからやってきた謎の3人組が光球と化してG9と衝突すると、 G9が強制合体解除。
 「弱い者に、炎神を手にする資格はない」
 「なんだと……?!」
 炎衆、を名乗った、猫舌・忍者・小さい、の過去ヒーローキャスト3人組は赤青黄の炎神キャストを奪うと次元の向こうに姿を消し、 走輔達は、アリゲーターとホエールが身を挺して亀裂のつっかえ棒になっている内に3人組を追って別の次元へとダッシュ全開飛び込んでいく事に……。
 そして辿り着いたのは、太秦、ならぬ、サムライワールド。
 「ズバリ、サムライワールドって?」
 「誰もが戦い、殺し合う世界だ」
 派手なやられ芝居を見せてくれる福本清三のゲスト出演、ナンパ設定がまだ生きていた範人、 人間から闘争心以外を消し去ってしまう狛犬怪人コンビ(CV:デンジグリーン&メガブルー) の登場などノンストップで目まぐるしく展開し、修羅の国と化したサムライワールドの住人達に取り囲まれる走輔達を助けてくれたのは、 どういうわけか炎衆。
 走輔は3人に、スピードル達のキャストを返して欲しいと訴えるが……
 「相棒?」
 「そうだ。俺達は、炎神を相棒に戦う、正義の味方なんだ!」
 「……正義などない。この世に必要なのは、強さだけだ」
 炎衆のリーダー・烈鷹ことたっくんの反応は冷たく、Vの字ハチマキとか巻いてはいますが、 劇場版の圧縮作劇にファンサービスも加えて、たっくんは8割方たっくん(同一化を避けたいなら全然別の性格を用意するでしょうし、 理由はあるとはいえネーミングも意図的でしょうし)。
 そこに軍平と範人を捕らえた狛犬怪人コンビ(バイクに変形するのが面白い)が出現し、それに対抗するべく「炎神・入魂!」により、 赤青黄のキャストと一体化しようとする炎衆だが、拒絶反応により失敗。結局、赤青黄緑黒、5つの炎神キャストが、 サムライワールドを支配する魔姫の元へと、奪い去られてしまう……。
 一息ついて情報の整理が行われ、炎衆は、強くなる事だけを求めて次元から次元を旅していた流れ炎神の素性を明かす。 だが3人はサムライワールドで魔姫の奸計にはまって肉体を奪われ、魂だけが人型となって分離。 魔姫を倒して自分たちの体を取り戻そうとスピードル達のキャストを利用しようとするが、敢えなく失敗に終わったのであった。
 「おまえたちは、辛くないのか? 心と体に分かれて」
 「たとえ辛くても、相棒が居れば、耐えられる」
 「相棒……」
 早輝は炎衆の境遇に涙を流し、連はオムレツを差し出し、そういえばこの人、深く静かに狂っているのでした……。
 「魔姫を倒して、おまえ達のキャストも取り返す。それで、この次元のみんなも、幸せに暮らせる筈だ」
 「余計な事を」
 「そうでなきゃ、ヒューマンワールドに戻っても、ぐっすり眠れねぇんだよ」
 走輔は、おでこつんを発動した!
 「言ったろ? 俺達は、正義の味方なんだ」
 「……我らは正義ではない。正義はここにない」
 「あるさ! ――ここに」
 走輔は、両肩をがしっと掴むと、たっくんの胸に拳を当てた!
 ……後にこの劇場版の内容がTV本編の第39−40話に接続され、劇場版未見の状態で見た第40話の感想において、
 −−−
 「あれは走輔にとって、大切な烈鷹の……」
 で早輝の発言がルート確定済みみたいな言い回しなのですが、何があったんだ劇場版。
 今作のヒロインは、知らない所で既に決まっていたのか?!
 −−−
 と書いていたのですが、そうか、やはりここで、『ゴーオンジャー』真ヒロインのフラグは立っていたのか……。
 一夜明け、走輔達5人が魔姫の城に乗り込むと、魔姫の傘下に入ったフリをしていた金銀兄妹が奪われたキャストをいつの間にやら取り戻しており、 色々と好き放題の金兄が歌い出しそうな勢い。
 「みんな! 見せてやろうぜ! 心がどれだけ、強いのか!!」
 ジャーとウィングスは勢揃いでフル名乗りを決め、金銀の背後で舞うキラキラの量が、劇場版仕様でなんか凄い。
 「……正義、か」
 「……なあ、俺達なぜ強くなろうと思ったのかな?」
 「……忘れちゃってたけど、私たちも、最初はなりたかった気がする。誰かの為に、戦える――」
 「……正義の、味方か」
 洞穴で体を休めていた炎衆は頷き合い、その頃ゴーオンレッドは、単身天守へと突入。
 「感じる。脅えているな。その心がお前を弱くする」
 魔姫(サムライワールドの理からも外れた存在という事か、中国風デザイン)役のソニンは、 いかにも戦隊劇場版的なキャストでありますが、抑えた低めの声は、なかなか雰囲気が出ていて良い感じ。
 「なんと脆い心よ」
 「ああ! 俺は迷う! 脅える事もある! だけど、その心を一度も捨てたいと思った事は、ねぇぜ!」
 心を捨てるのではなく、心があるからこそ強くなれる、と抗うゴーオンジャーだが、魔姫&狛犬怪人に揃って苦戦。
 「我が秘術で心を消してやろう」
 「おまえも、自分の心を消したのか」
 「そうだ。強くなる為に」
 「へへっ……違うな。おまえは弱い!」
 一つ前の「事は、ねぇぜ!」の区切り方や、この笑い方が如何にも走輔らしい台詞回しで、格好いい切り返し。 タイプとしてはストレートな単細胞系レッドの走輔ですが、勢いのある言い回しが特徴付けになっていて、改めて上手いキャラ造形。
 「……なんだと」
 「自分の中の恐れや苦しみと戦わず、逃げただけだ!」
 威勢良く啖呵を切るもずんばらりん寸前、駆けつけた炎衆によってレッドは助けられ、ここで主題歌イントロがかかりだすのが、 絶妙なタイミング。
 やはり私は“この瞬間”が大好きで、しかし“この瞬間”だけでは物語は成り立ち得ないからこそ、 如何に“この瞬間”を劇的にするかの為に凝らされる技巧が大好きです。
 「来ると思ってたぜ、烈鷹」
 「走輔の言う通りだ。おまえは弱い!」
 「私たちも弱かったよ。でも今は、違う!
 「たとえ体はなくとも戦う。心の力でな!」
 ここから主題歌に乗ってヒーロー反撃のターンとなり、青をスケートボード扱いする銀と、 チェーンの上を走る金が色々凄いのですが、TV本編とのタイミング的に、翼兄妹はまだブースト期間中であったのでしょうか。
 狛犬コンビを痛めつけた青黄緑黒金銀は、揃って満タンガンに炎神ソウルをセット。
 「今、この武器に、炎神達のソウルが入った!」
 「俺達が心を込めて、引き金を引く!」
 「人間と炎神の心の力が、一つになるんだ!」
 「心の無いあなた達には、わからないでしょうね」
 「これが人と炎神の、心の絆!」
 「見せてやろう、絆の力」
 …………えーつまり……殺意×殺意?
 ヒューマンワールドやマシンワールドとは別の戦いなので、ここで一つになる心ってそれしか思いつかないわけですが、 狛犬コンビは一斉射撃により爆死。天守では炎衆と魔姫による殺陣を挟んで、たっくんと赤の連携攻撃が炸裂し、勢いで、 見た目人間を回転斬りするゴーオンレッド、劇場版の思い切りって怖い。
 獅子之進と月之輪のキャストは狛犬コンビの体内から取り戻されるが、烈鷹のキャストを取り込んでいた魔姫は、 その力によって巨大なムカデギドラに変貌。ゴーオンジャーは炎神王で挑むも合体解除に追い込まれてしまうが、 一人ゴーオンレッドだけがムカデの頭部に食らい付き、ダメージで変身解除や一部損傷ではなく、 戦闘中にメット部分だけが弾き飛ばされた状態でそのまま戦う、というのは戦隊史上でもかなり珍しいでしょうか。
 ゴーオン走輔はスピードルのソウルを供にそのまま掟破りの突撃を敢行すると、たっくんの炎神キャストを取り戻し、 命がけで約束を果たしたその姿に心震える烈鷹ルートがダッシュ全開!
 炎神キャストを失った魔姫は炎魔大僧正モードに変貌し、炎衆は取り戻したキャストを手に、巨大化を決意。
 「獅子之進! 月之輪! ……参るぞ!」
 「しかし今の俺達じゃ、元の姿では長くは戦えない」
 「それどころか、傷ついた私たちでは、これが最後……」
 「思い出したのではなかったのか。誰かの為に、戦うという事を」
 「……そうね」
 「俺達の正義は――ここにある!」
 たっくんは自らの胸の内側を指し示し、要所要所に置いた台詞と散りばめたテーゼを鮮やかにまとめ、 ゴーオンジャーのヒーロー性のみならず、ゲストが“ヒーローになる”瞬間を描き出してみせたのが、実にお見事。 「思い出したのではなかったのか。誰かの為に、戦うという事を」は、今作の中で一番好きな台詞です。
 入魂し元の姿を取り戻した炎衆は、走輔を運転席に迎える事で炎神合体を成し遂げ、ここに炎神大将軍、堂々出陣!
 本編の核となるキーワードとはいえ、TVシリーズを前提とした劇場版としては、前半、 あまりにも「相棒」「相棒」と繰り返されるのを少々くどく感じていたのですが、炎衆の正体が明かされ、 3人が炎神合体という人と炎神の心の繋がりを目の当たりにし(ここで目を瞠る烈鷹たちの反応を抑えているのが手堅い)、 失っていた肉体と、見失っていた“本当の魂”を取り戻したその時、走輔という「相棒」を迎えて炎神合体を成し遂げる、 というのは綺麗にピースがはまり美しいクライマックス。

――「俺とおまえが出会って、相棒になった。それが最高のキセキだ」――

 大刀を振るうも炎魔大僧正の火力に押し負ける大将軍だが、ゴーオンソードを拾って二刀流を発動。
 「ゴーオンソードは、スピードル達の心と繋がっている! 心の力、見せてやるぜ!」
 二本の剣で大僧正の矛と盾を叩き落とした大将軍は、スピードル達の殺意もとい心を乗せたゴーオンソードの投擲で大僧正を魔姫城に串刺しにすると、 ゴーオン紅蓮斬りで一刀両断! 大将軍は翌年を先取りする納刀を披露し、
 「「「「チェッカーーーフラッグ!」」」」
 魔姫の消滅によりサムライワールドの人々も元に戻り、歓声に包まれる炎神大将軍。だが、無理な変身により、 炎衆の存在は限界を迎えていた……。
 「悲しむな、走輔」
 「俺達はここでサムライワールドを見守るよ」
 「ヒューマンワールドにも、私たちにそっくりの人間が居るかもよ。そこでは、正義の味方とかやってたりしてね」
 誰かの為に、戦うという事を取り戻した炎衆の3人は満足げに走輔に語りかけ、石と化していく大将軍……。
 「これでゆっくり眠れるか? 走輔」
 「おまえ達……」
 実に心憎い台詞の拾い方で力を失った炎衆は眠りにつき……完っ璧に、 たっくんが走輔の心の中で永遠になっているーーー!!
 ヒーローとヒーローの魂の共鳴がストレートに描かれていたと思ったら、 いつの間にやら黄色も銀色もぶっちぎって完全なる真ヒロイン誕生の瞬間に辿り着いてしまい、會川さんはもしかして、 ヒロインを描こうとするよりも、“もう一人のヒーロー”を描こうとした時の方が、強力なヒロインを生んでしまうのでは(笑)
 「走輔、俺達にはガイアークとの戦いが待っている」
 哀しみに立ち尽くすゴーオンジャーの元に、ボンパーさんから次元の亀裂の保持が限界に達しているという緊急通信が入り、 涙をぬぐった走輔は、帰還を決意。
 「……そうだよな。俺達、正義の味方なんだ!」
 第1話のサブタイトルに始まり、コアなテーマとはしていないものの、作品全体を貫く通奏低音として折に触れ「ヒーローとは何か」 をキャラクター個々の視点から持ち込むのは本編の特徴の一つですが、そこに少し切ないニュアンスを加えているのは、 この劇場版独自の色づけ。
 「あばよ、烈鷹……よーし、マッハでヒューマンワールドに帰るぜ!」
 哀しみを振り切り、ダッシュ全開で走り出すゴーオンジャー、の姿からEDに突入し、劇場版オールキャストのスペシャルダンスEDで、完。
 TV本編で序盤の傑作第8話をものにした會川昇が脚本を担当し、基本的にナチュラルヒーローである走輔達と、 それを見失ってしまった炎衆を対比させていく中で「ヒーロー」の姿を本編とは少し違う角度から描き出し、 後に會川さんとのコンビで本編屈指の名作回である第30話「友情ノパンチ」を担当する竹本監督が、 密度の濃い會川脚本をテンポ良くまとめ上げ、劇場版らしいサービスとスピード感の融合が、お見事でした。
 特に、最初にG9を見せる → 理由をつけてアリゲーターとホエールを別行動に → 炎衆に物語の焦点を合わせていく、事により、 既存ロボの見せ場を確保しつつ、劇場版恒例となっているスペシャルロボの登場に無理なく繋げ、 物語として劇的なクライマックスに仕立ててみせた構成は、素晴らしかったです。
 一方で、TV換算にして約1話半のボリュームで物語をまとめるに当たり、かなり割り切ったレッド偏重の作りになっており、 赤を除くと炎神含めたレギュラーメンバーで見せ場があるのがせいぜい青と金ぐらい、というのは好みの分かれるところでしょうが、 最終的に辿り着く「走輔と烈鷹の物語」としては、完成度を高める良い思い切りであったと思います。
 満足の一本でした。

◆『劇場版 炎神戦隊ゴーオンジャーvs獣拳戦隊ゲキレンジャー』◆ (監督:諸田敏 脚本:香村純子/荒川稔久)
 前作『ゲキレンジャー』コラボの冬の劇場版。

 見所は、なんかすっかり激気を出せるようになっている、なつめ。
 あと、ゲキバズーカの横でなんかもう全くよくわからないけどポーズを取る前座ーズ。
 なつめの誕生日を祝う為に集まったゲキレントライアングルだが、ヌンチャクバンキに襲われ、臨獣トータス拳によって異世界へ飛ばさされてしまう。 遅れて駆けつけたゴーオンジャーも見た事のないヌンチャクの拳法に苦戦している内に逃げられた末、 トライアングルを襲ったと勘違いしたゲキレン前座ーズに殴りかかられる羽目に。
 「……なんか、違くね?」
 「んー……」
 「「参ったぜ」」
 誤解が解けた一行は状況の整理の為にスクラッチに招かれ、
 「若いおなごのほっぺも、やわっこくて良いの〜」
 早輝に肉球を触られた猫は、劇場版でも安定して最低だった。
 ケンが早輝にちょっかいをかければ、範人にはかつて既婚者と知らず美希をナンパして玉砕した過去が付け加えられ、 両戦隊の女好きキャラをフォーカスする事で親和性を強める狙いだったと思われるのですが、 範人のナンパキャラは本編途中で実質的に消滅しているので、もうひとつ効果的にならず。
 またその流れで白(ケン)が黄(ラン)にやたらと抱きつきボディタッチを繰り返そうとするのがやりすぎ感あって、 つくづくハラスメントから逃げられない戦隊です。
 敵の狙いはジャンの守る慟哭丸にある……ボンパーと猫の協力により7人はトライアングルの閉じ込められた異世界に突入し、 正義のパワーが半減する空間で、10人は合流。
 「どんな世界でも、こっちは正義10人分!」
 突撃からOPに入ってウガッツとの戦いにキャラ紹介を重ねていき、見事にヌンチャクを撃退する10人であったが、 臨獣殿残党の亀の不意打ちを受け、炎神ソウル、そして慟哭丸を奪われてしまう。
 ガイアークと亀が慟哭ソウルを作って無幻龍の力をほしいままにしようとする一方、 獣拳への弟子入りを志願したゴーオンジャーは次々と変態的な修行を見せつけられ……どうして、 「説得力の薄いインスタントな修行」と「おまえが修行している間に俺達が戦うぞ!」という、 『ゲキレン』本編の悪いところを踏襲してしまったのか。
 ゴーオンジャーが修行を通して激気を身につけ、相棒をオーラとして放つ炎神拳を修得する、というアイデアも、 コラボ戦隊のギミックを利用するのはともかく、コラボ戦隊と同質の能力を身につける、というのは個人的にあまり面白く感じず。
 また、修行よりも「仲間を助ける」事を優先した走輔と、修行をこなした他の4人が共に激気を身につけてしまうのは、 だいぶちぐはぐ。4人の修行も統一感が無いですし、突き詰めると暗に「本当に大切なのは「修行の内容」そのものではない」 という事を描いてしまっているのですが、『ゲキレン』本編とは齟齬を来す為にひどく宙ぶらりんな表現となり…… 重要なキーワードである「修行」そのものが作劇のネックになる『ゲキレン』の悪い部分をそのまま取り込んでしまう事に。
 即席師弟コンビはそれぞれ炎神ソウルを取り返し、W赤はヌンチャクバンキを撃破。慟哭丸の事を完全に忘却しているけど大丈夫……?  と思ったら案の定甦ってしまったロンは、ビリヤードの球扱いで小突かれた恨みで、物凄く、怒っていた。
 復讐するなら、まずゾウから!!
 一方、あぶれて川に倒れていた須塔兄妹が、理央メレの声を聞く、というのは上手い展開。
 ……とはいうものの、“夢の共演”というよりは、色々台無しというのが正直な感想で、 個人的にノりにくい番外編のタイプ、にドンピシャではまってしまいました。
 それはそれとして、『ゲキレンジャー』の主題歌は、ホント好き。人間大バトルを『ゲキレン』主題歌、巨大戦を『ゴーオン』主題歌、 というのは綺麗に締まりました。
 ロンバンキは二大戦隊の最強ロボット一斉攻撃で再び封印され、なつめの誕生パーティでほのぼのEND。
 巨大戦の実況でバエが登場したのは嬉しかったですし、両戦隊の要素を丁寧に拾ってはいるのですが、 丁寧に拾いすぎて全体的に淡々としてしまい、そう持ってくるのかという意外性の驚きや、 ぐいぐい引きずり込まれるようなスピード感に欠けていたのが残念。
 当時の香村さんの引き出しの問題もあるでしょうし、『VS』シリーズの条件の悪さもありますが、なんというか、 入れた方が良さそうな要素を生真面目にみんな投入した結果、のっぺりとペースト状になってしまっており、この映画に必要だったのは、 どこかを削ってどこかを尖らせる事だったのではないか、という、そんな一作(ファンサービス的には、 これはこれで正解だったのかもですが)。

◆『侍戦隊シンケンジャーvsゴーオンジャー銀幕BANG!!』◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:小林靖子)
 『侍戦隊シンケンジャー』冬の劇場版へのコラボ出演。

 見所は、ノースリーブだったりサラし巻きだったり、やたら肌色をアピールする源太。……源太、 何と戦っているのだ、源太。姐さんの稀少なスカート姿が霞む勢いだよ源太!
 どだい約1時間で13人を動かすのは無理があるので、『ゴーオンジャー』の世界設定を活かして各自をバラバラの世界に分け、 殿と走輔を中心に進行するのですが、何故か最初から最後まで目立ち続ける流ノ介。……つくづく便利だ、流ノ介。
 そしてボンパーさんの出番が多い。
 前作のラストより1年弱――ガンマンワールドにおいて蛮鬼族の害統領バッチードを追い詰めていたゴーオンジャーだが、決闘に敗れ、 様々な次元にバラバラに飛ばされてしまう……と、策略によるとはいえ最強無敵の磨り潰しロボ・炎神王G12敗北、 でバッチードの強さを見せる所からスタート。
 そこから焦点はシンケンジャーへと移り、人々の悲鳴に出陣したシンケンジャー、ウガッツと遭遇してとりあえず戦っていると、 そこへ現れる見たことの無い真っ赤なヒーロー。
 「おまえ、なんなんだ」
 「正義の味方さ! 俺は、マッハ全開! ゴーオンレッド! の江角走輔だ。よろしくな」
 同じ“戦隊”ではあるものの、片や 悪魔 炎神と契約した、庶民派正義の味方、片や先祖代々の使命に生きる侍達、 とスタンスの違いから両者の間に流れる冷たい空気。そこへボンパーさんが飛んできて、とりあえず屋敷に戻って事情を聞く事に……と、 こういう時、マスコット型は存在そのものが説得力になって便利。
 あらゆる世界を汚染しようとするバッチードの存在と、仲間達がバラバラになってしまった事を説明するボンパーと走輔。
 「正義の味方同士一緒に戦って、マッハで解決しようぜぇ!」
 「……一緒に戦うつもりはない」
 だが殿は、この、事あるごとにバン! バン! うるさい生き物と一緒に動くのが面倒くさくなっていた。
 「素人と一緒に戦うのは、どっちにとっても危険だ」
 派手で目立つ動きばかりで連携のれの字もない走輔を「素人」と断じる殿。この物言いに、走輔も高い所でふんぞり返っている殿を批判し、 2人は喧嘩別れ。走輔はボンパーを連れて屋敷を出て行くが、シンケンジャーはシンケンジャーでバッチードの動きを気にする事に。
 「ま、それもそうだな……」
 「なんだ」
 「なんであーいう言い方するかね〜」
 「ホント。初めての人ほどそうなんだよね〜。悪い癖っていうか」
 そして家臣団から、一斉にただの人見知り扱いを受ける殿。
 ……久々に見ると、ホント面倒くさいな殿!
 「プロ/素人」という『ゴーオンジャー』本編でも用いた言葉をキーワードにしつつ、 『シンケンジャー』見ていると慣れてきがちだけど、「殿っておかしいよね殿って!」と改めてゴーオン側からツッコませ、 二つの戦隊の特性を対比しながら展開。この辺り、ド正道を行ったゴーオンと、獣道を行くシンケンという、 二つの戦隊のスタイルの差を上手く盛り込みました。
 その頃、三途の川を訪れていたバッチードが、あらゆるワールドを汚染するバッチリウムプラントのエネルギー源として三途の川を使いたいと持ちかけ、 外道衆と同盟を締結。手駒としてアヤカシ・ホムラコギを配下に借りると、更に三途の川の底に居る筈の“もう3人”を部下にしようとする……。
 ガイアークに関係する3人といえば……そう、ヨゴシュタイン・キタネイダス・ケガレシア、の3大臣、 復活……そして飲酒!
 「冗談ではないゾヨ。いまさらバッチードの手伝いとは」
 「全くナリ。せっかく三途の川で汚く気持ち良く暮らしていたというのに。ねえケガちゃん」
 「そうじゃそうじゃ、行く必要ないでおじゃるよ」
 感動の最期を台無しに、三途の川から甦った3大臣は、さっそくゴールド寿司でぐだっていた。
 もはや、活動家としての志も失ったのか(笑)
 そこへバッチードとウガッツがやってくるが、
 「なんだか知らねえが、うちの客に手出しはさせねぇ!」
 とゴールドが変身し、3大臣はその間に、逃亡(笑)
 酷い、酷すぎるけど、確かに3大臣だ……!
 そこへゴーオンレッドとシンケンジャーも駆けつけるが、強敵バッチードに7人は苦戦。 レッド2人をかばって5人が別の次元に飛ばされてしまい、レッド2人は海落ち。そして彦馬とボンパーが、 ホムラコギによって捕らえられてしまうのであった。
 「おまえかなり信用されてるんだな。あいつら、一瞬も迷わずに、おまえの事……。 ただふんぞり返って偉そうにしてるだけの殿様だったら、ああはならねぇ。おまえがそうじゃねえんだって事、よくわかったぜ」
 「俺もわかった」
 「お!?」
 「おまえはやっぱり素人だ」
 「おまえな、そこは、見直したって言うべきとこだぞ。空気読めよ」
 「ただ――この世を護るのに、侍も素人もない。おまえの気持ちは本物だし、本物は……強い」
 先に出た「プロ/素人」が『ゴーオン』の一つのキーだとすると(まあ、走輔は、“それを気にしない男”なのですが)、 この「本物」というのは『シンケンジャー』における大きなキーワードで、殿が走輔を「偽物(素人)だけど本物」と認めるというのは、 本編を考えると、重い言葉。
 ヒューマンワールドに残ったレッド2人がここでお互いを認め合い、その頃、各ワールドに飛ばされた仲間達は……
 〔クリスマスワールド:茉子、源太、大翔、美羽〕
 〔サムライワールド:千明、ことは、連、軍兵〕
 〔ジャンクワールド:流ノ介、早輝、範人〕
 という割り振りで、それぞれ出会って、トラブルに巻き込まれて、とドタバタ展開。細かくやっていられないので、とにかく出会う、 ドタバタで楽しませる、という事に割り切っており、ギャグ要員とヒロインパワーが活躍。その為、 ギャグ要員でもヒロインでもない面々(大翔、連、早輝、範人)の存在感が微妙ですが、これはもう、致し方ない所か。
 ……早輝よりも流ノ介の方がヒロイン力が高かったのは事故です。
 というか早輝と範人は他の面々より1シーン少ないのですが、スケジュールの問題でもあったのか。その分、 合流後の戦闘シーンではやや台詞が多いですが。
 なお、茉子と美羽が凄いスピードで意気投合しているのは、何か、深く頷ける所です。
 仲間達が3つの世界でドタバタしている頃、彦馬とボンパーを人質に取られた赤2人は、呼び出しの場所へと向かう。 人質を盾に無抵抗を要求されるが、さくっと剣を抜く殿。
 「やめろ! 丈瑠、今はあいつらの言う通りにするんだ!」
 「だからおまえは素人なんだ」
 黙って殺されても人質は助からないし、世界は汚染されるだけ……と刀を振るう殿だが走輔はそれを止めようとして遂に変身。
 「俺は人質を助ける。ボンパー達の命も救えねえのに、世界を救う事なんて出来ねえからな!」
 2人の対立は遂にレッド対決へと発展し、激しい戦いの末にまさかの相打ち! ……と思われたが、それは2人の作戦通りであった。 油断した敵の目が逸れた隙に獅子折神が人質を救い出し、彦馬が格闘を披露してボンパーと共に脱出に成功。
 まあ仕込みだろうな……とわかってはいつつも、走輔ならそのぐらいの本末転倒はやりかねないかもしれない、という辺りは、 直情径行型の走輔と、割とクールで万能型(一部に致命的な不具合あり)の丈瑠、の違いで上手く話を組みました。 相打ち偽装のトリックが、冒頭のバッチードの策略の意趣返しだったり、走輔のコインを小道具に使っていたりというのは丁寧。
 ……そして、凄く雑に、炎神に助けられてヒューマンワールドに帰還する仲間達!
 一応、炎神達が手分けして様々な次元に飛ばされたメンバーを探している、というシーンは挟まれているのですが、 各ワールドでのドタバタをどう処理するのかと思ったら、炎神によって救出された事になり省略されるという、まさかの裏技。
 各ワールドでのトラブルはそもそも解決シーンを描くつもりが無かった(撮影段階では、 炎神に拾われるシーンぐらいはあったのかもしれませんが)、というのは作りとしては好みではありませんが、 尺の問題と炎神の存在意義を、まとめて解決しました(笑)
 かくして決戦の場に集った総勢13名が、お約束の名乗りで揃い踏み。
 本編に無かったから仕方がないのですが、この期に及んで、「ゴーオンジャー!」と「ゴーオンウィングス!」が別々な事に、 世間の冷たい格差を感じずにはいられません。
 シンケンジャー&ゴーオンジャー&ゴーオンウィングスvsバッチード軍団&レンタル外道衆の大クライマックスバトルは、 各ワールドでの振り分けに基づいて分割戦闘。
 戦闘は一画面に人数多すぎてもあまり面白くならないので分割は妥当なのですが、 もしかしたらそもそも各ワールドでのキャラクターの組み合わせは、戦闘における中の人の都合を考慮していたりもしたのでしょうか。
 ここまで出番の無かったアルバイトコンビ(十臓・太夫)は潔く出てこないのかと思ったら、 アクマロと一緒に戦いに乱入しようとして天装戦隊ゴセイジャーに阻まれるという、ゲストの踏み台要員。 ゴセイジャーにゲスト補正があるとはいえ、3人まとめて正面から力負けして撤退しており、酷い役回り(^^; こういうのはまあ、 割り切るしかない所でありましょうが。
 ダブルレッドはウガッツバイクにナナシがまたがったアパッチ軍団に立ち向かい、 モヂカラで作り出した車をゴーオンレッドが操るというのは、走輔のスキル《運転》が活かされました。…………が、 よくよく考えると“殿と運転手”という構図になっている所に、世間の冷たい格差を感じずにはいられません。
 主な栄養源が卵の戦隊と、寿司とか普通の戦隊の間に横たわる、 暗くて深い断絶を改めて感じます。
 運転手の操る車に乗りながらシンケンレッドはアパッチ軍団を切り払い、 バイク変形に失敗してナナシを背負って運ぶというギャグ要員の騎馬隊も、逃げようとした背中から容赦なく斬るのが、凄く殿。
 爆走モードに変形したホムラコギは、殿がゴーオン銃を借りて撃ち、恐竜ゴーオンレッドとスーパーシンケンレッドの協力攻撃の後、 13人一斉攻撃で撃破。ホムラコギは二の目で巨大化し、バッチードも産業革命で自ら巨大化すると、 月に設置してあったバッチリウムプラントへと向かい、それを追って炎神と折神、まさかの宇宙へ。
 道中、一斉エネルギー弾でホムラコギを撃破した両戦隊は、月面で炎神王G12とサムライハオーに変形合体。 1体でさえ凶悪な下駄・下駄・そしてバックバック、という馬鹿デカいロボが2体並ぶというとんでもない絵で、 なるほどこれは宇宙にでも飛び出さないと並べられないなぁ、と納得しつつ、もはやどちらがラスボスなのかよくわからなくなってきます(笑)
 対してバッチードはバッチリウムプラントと合体して最終形態に……てまあ、ケーブルが巻き付くぐらいなのですが(^^;  せっかく忘れかけていたプラントを持ち出したのだから、もう一段階、バッチードの外見を強化して欲しかった所で、これは残念。特に、 戦隊ロボ2体が凶悪すぎるので(^^;
 強烈な汚染エネルギーを前に苦戦する2大ロボだったが、流ノ介発案の合体フォーメーション、侍炎神スーパー大海砲により、 バッチードを滅殺。もう、何が何だかよくわからない絵になっていますが、戦争は物量と火力です。
 かくして害統領バッチードは倒れ、ゴーオンジャーとウイングスは炎神達と新たな旅へ。
 「なんだよ、また他の世界にいっちまうのか」
 「俺たちは全てのワールドを守る」
 「バタバタ〜。それが俺っち達の務めだからね」
 綺麗にまとめる為に、いつの間にか、時空戦士と化しているジャー&ウイングス。
 丈瑠と走輔は拳を打ち合わせ、殿に……殿に、殿に、お友達ができました!
 「ゴーオンジャー。まさに、気持ちの良いヒーロー達でしたなぁ」
 「ああ」
 旅立つゴーオンジャーを見送り、夕陽でエンド。EDはゴーオンとシンケンをミックスし、シンケンジャーがゴーオンのED(侍Ver.) で踊り、間にシンケンED風ゴーオンジャーが入るというのが、なかなか洒落ていました。
 お祭り映画としては、こんなものかなという出来で、『ゴーオン』『シンケン』共に好きな戦隊という事もあり、 それなりに楽しめました。後10分ぐらいあって、各ワールドでのやり取りにもう少しキャラの絡みが増えて綺麗に脱出まで描けていれば文句なかったのですが、 そこは致し方ない所か(^^; 勢揃いした後で範人が姐さん&ことはに粉かけている辺りは、よく拾ったと思います。
 ……しかし改めて、後の『ゴーカイジャーvsギャバン』は奇跡的な出来だったのだなぁと再認識。まあやはり、 基本的に世界観の違う戦隊二つ(しかも片方は完結済みで片方はクライマックス目前)を合わせて総勢10人以上を約1時間で動かすというのは条件悪すぎて、 割り切って造らざるを得ない、という事なのでしょうが(^^;
 この映画で一番凄いと思ったのは、甦ったガイアーク3大臣が、本当に寿司屋で飲んだくれていただけだった事(笑)  一応ケガレシアの台詞が、プラントが月にあると気付くヒントになるのですが、かつてこんな酷い、 しかし納得できてしまう扱いの幹部復活劇があったであろうか。ちょっとだけ、御大将も参加してのダメな飲み会が見たかったです(笑)
 以上これにて、一件落着。

(2020年5月19日)
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