ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『轟轟戦隊ボウケンジャー』 感想の、まとめ1(1話〜5話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。
- ◆Task.1「魔神の心臓」◆ (監督:諸田敏 脚本:會川昇)
- 冒頭からナレーションでがつっと背景が語られ、古代文明の遺物から絶滅寸前の希少動物まで、 世界中の貴重な宝を集める民間団体・サージェス財団について説明。
「中でも、現代の科学水準を遙かに超えた、危険な力を持つ秘宝を、プレシャスと呼ぶ。サージェスは、 プレシャスを見つけ出し守り抜く、秘密チームを組織した」
このサージェス財団はどれぐらい信用していいのか(笑)
私の中では凄く、黄色信号が明滅しているのですが。
財団に関する不審は今後の重要な議案として、秘密チームは海底探査中。潜水艦メカに乗り込んだ、丁寧語で真面目そうなピンク、 やや斜に構えた感じのブラック、無邪気でノリの軽いイエロー、の3人がそこで謎の文明ゴードムの巨大な海底遺跡を発見する。
桃「ミッション中はコードネームです、ブラック」
と、キャラの性格を見せつつ、色呼びに劇中の理由を設定してくるのがまず手堅い。
テスト隊員である黒と黄が遺跡探索に先行して隠し通路を発見するが、如何にもお宝へ繋がりそうなパズルを解くと遺跡が浮上し、 更に棺の中から謎の老人が甦るという、いきなりのやっちまった案件(笑)
「我らの時が、再び動き出した」
地上待機組だった赤はダンプマシンで遺跡に飛び込むと、マシンを華麗に操って二人を救出。
赤「ブラック、イエロー、楽しい冒険だったか?」
黒「だから色で呼ぶなって!」
青「トラップに引っかかるのが、元泥棒のテクニックかい?」
黒「泥棒じゃない! トレジャーハンターだ」
改めて遺跡に乗り込む5人だが、それを見つめる老神官と、それに従うモノトーンの雑兵。
「この時代にも、ゴードムの心臓を狙う者が居たか」
明らかに言い訳の効かない遺跡荒らしなので、どんどんやらかしが悪化していきます!
先行した黒と黄は崩落する橋の罠にまたも引っかかるが、その横を軽々と追い越していく赤青桃。
青「落とし穴は落ちる前に駆け抜ける」
桃「基本です」
赤「何してる。さっさと来い」
先輩と後輩の経験値の差を見せつつ、かなり突き抜けた人達である事を明示。 5人は遺跡の奥で財団計測ハザードレベル86のプレシャス、ゴードムの心臓を入手するが、手にした心臓は本物と無数のダミーに分裂。 ダミーは触れると爆発する強力な爆弾だったが、ここでイエローが本人も自覚していない予知能力のようなものを見せ、爆発を回避。
そしてレッドがダミーをまとめて誘爆させるという力技で、本物を炙り出す。
「海底に封印されていたという事は、壊す方法が無かったという事だ。これしきの爆発で、壊れるもんか」
ここでようやく変身を解除して中の人物が顔を見せ、ここまで約10分、というのはかなり珍しい作劇でしょうか。実際、 OPで見せているとはいえ変身前の顔が見えないとキャラクターとして捉えにくいという所はあるのですが、それを損ねても、 OPからここまで怒濤のスピード感により、アドベンチャー映画のような雰囲気を作りたかったのかなと思われます。
ただ、下が溶岩湖になっている洞穴で変身解除する理由がよくわからないので、結局、いい加減顔を見せないわけにはいかない、 みたいな成り行きになってしまい、変身解除の顔見せ自体が劇のタイミングとして効果的にならなかったのは残念でしたが。
「どうだい、元泥棒さん? これがボウケンジャーのやり方」
ところが新入りの黒は軽い調子で声をかけてきた青を殴り飛ばすと、黄色と共にプレシャスを回収して、アンカーロープで対岸へと逃走。 赤へと奪った心臓を突きつける。
「プレシャスはこの伊能真墨がいただいた! わかったか、俺があんたを超えるトレジャーハンターだと。明石暁……いや、不滅の牙!」
「「不滅の牙?」」
部下の前で、若さゆえの過ちをバラされたーーー?!
ボウケンレッド、チーフ、こと明石暁は、かつて世界最高のトレジャーハンターと謳われ、 狙った獲物を決して逃さないその牙の鋭さから、“不滅の牙”と呼ばれていたのだった。 そんなギラギラした男が今では資本主義の走狗に身をやつしている事が我慢ならず、対向意識を燃やしていた真墨は、 明石に自分の力を証明すると同時に今の職場に恥ずかしい過去をバラす嫌がらせを行うと満足し、 変身ブレスを投げ捨てていきなりの退職宣言。
ところがそのまま格好良く立ち去る予定だった真墨は、黄に呼び止められてしまう。
「またトレジャーハンターに戻るの?」
「……なんだよ。まさかおまえ、あいつらの方がいいなんて」
収入が安定して、保険入れるからね……休暇の時は多分、 財団の保養施設でバカンスできるし。
そこに神官達が現れ、真墨はさくっと心臓を奪われた上に崖下にはたき落とされる大ピンチ。明石は青と桃、 そして黄に神官達を追うように指示を出し、反駁する青を制する。
「ボウケンブルー! ボウケンピンク。俺は既に命令した! このボウケンレッドが!」
チーフの強いリーダーシップを示すシーンなのですが、
「このボウケン(びしっ)レッドが!」
と効果音が入る事で、凄く面白いシーンに。
キてる、キてるな、不滅の牙。
3人を先行させた明石は、崖の出っ張りに掴まっている真墨の元まで降りていくと、胸ぐら掴んでどやしつける。
「もう一度選べ。このアクセルラーを受け取るか、このままマグマに焼かれるか!」
「なんだと?!」
「おまえが言ったんだ……俺の牙から逃れられる獲物はいない。その獲物は――お前だ」
てっきり恥ずかしい過去をバラした若造を念入りに抹殺するのではないかと危惧されたのですが、 むしろ攻めてきた。
キてる、キてるよチーフ……正直、女子に言ったらパワハラ&セクハラで降格+減給処分ですよチーフ。
「初めらわかっていたのか、俺が裏切ると」
「わかっていたが……見事に出し抜かれた。そう来なくちゃ部下にする価値はない」
ボウケンレッドは、80年代型の強いリーダーシップを持った完璧超人型レッドを再来させたい意図があった、 みたいな話は以前に聞いた記憶があるのですが、確かにこう、「あちゃあ! ほあちゃあ! 超力ライザー!!」 の人を彷彿とさせる人間的圧力を感じます。
地上では、心臓を手に何やら儀式を始める神官に先行した3人が見つかり、雑兵部隊と戦闘に。 プレシャス確保を目的としたチームなので戦闘向きではないという設定なのか、雑兵に苦戦する青桃黄だったが、 そこに赤が駆けつけて反撃開始。
「偉大なる神ゴードムに逆らうとは、何者だ」
「ふ……ボウケンレッド!」
「ボウケンピンク!」
「ボウケンブルー!」
「ボウケンイエロー!」
反撃しながら順番に名乗り、遅れてやってきた黒も飛んできた雑兵を一刀両断。
「ボウケンブラック!」
「あ、生きていたのか」
「今、ブラックって言いましたね?」
色のコードネームを「戦隊である事」の象徴とし、冒頭の基本設定を示すやり取りをそれだけで終わらせず、 ひとまずのチームアップに集約してきたのはお見事。戦隊とは何か、というのをメタ要素も含めて足場を叩く所から始めよう、 というのは會川さんらしい感じですが、メタ要素抜きでも成立する連結の仕方が鮮やか。
「我ら、轟轟戦隊!」
「「「「「ボウケンジャー!」」」」」
初回はやや変則で名乗りを決めるボウケンジャーだが、如何にもそれらしかった遺跡が、心臓をエネルギーに巨神ゴードムとして復活。 魔神の力を恐れた人類によって封印されていたと語る(という事は現生人類とは違う種族?)神官は、 復讐するは我にありと沿岸の街を襲撃しようとするが、それを食い止める五台のボウケンマシン。
「プレシャスは素晴らしい力を持っている。だけど悪用されれば、地球の一つや二つ……ボーンさ」
「だからこそ、安全に管理されなければなりません」
「プレシャスを悪から守り抜く。それがボウケンジャーだ!」
ボウケンジャーはともかく、財団は本当に信用していいのか。
「全車、轟轟合体だ!」
「しかし、新人の二人は合体訓練を終了していません!」
「ちょっとした冒険だなぁ」
ここの口調が物凄くいやらしくて、チーフはいつか、胃を痛めたピンクに刺されるエンドを迎えそうで心配です。
ダンプ・フォーミュラ・ジャイロ・ドーザー・マリン、5台のマシンがボウケンフォーメーションを組んで変形合体し、 飛行メカのジャイロを除いては実物ミニチュア路線。変身アイテムも含めて車が走る感じを押し出しているのは、 どこか『カーレンジャー』を彷彿とさせます(現在進行形で見ている、というのはありますが)。
煽ったものの特にトラブルはなく合体完了し、ショベルを構えたドデカブタック……じゃなかった、ダイボウケンが誕生。
エキサイトのあまりゴードムの上に乗っていたら振り落とされていた神官は、魔神と互角の巨体を誇るダイボウケンの姿を見上げ、 ちょっと眠っていた間に人類ヤバい……と戦慄。
ショベルとツルハシの二刀流、という誰が見てもヤバい設計思想のダイボウケンはゴードムを穴掘り天地返しで弱らせると、 ショベルとツルハシを合体させて放つ必殺剣で一刀両断。爆発の跡から無事に心臓も回収するが、そこへ怒りの攻撃を仕掛けてくる神官。
「ゴードムの秘宝は一つではない。この大神官ガジャある限り、巨神ゴードムは何度でも甦るのだ」
ボウケンジャーに宣戦布告する大神官だが、いきなり海面から顔を出した巨大な竜にぱくっと食われて海中に引きずり込まれてしまい、 5人そっちのけの衝撃の展開で、つづく。
冒頭から約10分ほど変身した状態で進行・既に戦隊であるメンバーが敵を叩き起こす偶発的やっちまった案件からスタート・ 別の勢力が乱入して続く、と、かなり新機軸を意識したと思われる導入。第1話にしては情報量が多すぎる感じが気になりましたが、
「このボウケン(びしっ)レッドが!」
が凄く面白かったので満足です(え)
ボウケンレッド、劇中のキャラクターの位置づけに対する役者さんの演技の拙さが全て面白い方向に行っていて、 奇跡の逸材かもしれない。
- ◆Task.2「竜の略奪者」◆ (監督:諸田敏 脚本:會川昇)
- ――命がけの冒険に、今日も旅立つ者がいる。密かに眠る危険な秘宝を守り抜く為に、あらゆる困難を乗り越え進む、冒険者達――
ちょっとひねったイントロから入る主題歌と、冒険家のイラストにメンバーを重ねていくという演出のOPは、けっこう好き。
ゴードムの心臓を入手したボウケンジャーの目の前で大神官ガジャを連れ去ったのは、 プレシャスを悪用しようとするネガティブシンジケートの巨大兵器。赤い鎧(表皮)の恐竜人類的な竜王様一味にいきなり拉致監禁を受け、 大神官ガジャは120HP(ヒロインポイント)を手に入れた!
大神官ガジャはヒロインランクが上がった! 〔何故か放っておけないあいつ〕になった!
5人はひとまず表向きは博物館である財団の日本支部へと戻り、プレシャスの研究管理を担当する?中年男性・牧野、 ボウケンジャーに指令を下すCGのミスター・ボイスが登場。また、 ネガティブシンジケートとは組織名ではなくプレシャスを悪用しようとする存在への総称であり、世界ネガティブ図鑑の中から、 ガジャをさらったのは恐竜遺伝子を持つジャリュウ一族と推定される。
青の手にしたネガティブ図鑑の中に随分多くの名前があるのですが、競争相手を全てひっくるめて「ネガティブ」 呼ばわりするサージェス財団の姿勢には、やはり不信感が募ります(笑)
ガジャを連れ去った竜王一味の狙いは、ゴードム文明のもう一つの秘宝に違いない、とボウケンジャーは囚われのガジャを追って、 もとい新たなプレシャスを求めて一路北米へ飛び、いきなりの大邪竜ロボvsダイボウケン。
ダイボウケンは今回も盛大にスコップで土壌を巻き上げ、貴重なプレシャスの入手の為には躊躇無く環境を破壊するその姿勢はいっそ清々しい。
アドベンチャードライブで一刀両断するも立ち上がった大邪竜ロボの自爆攻撃を受けそうになるダイボウケンだったが、 フルパワーで蹴り飛ばして何とかこれを回避。
「部下を平然と見殺しにし、自分だけが宝を手に入れる。ネガティブであろうとなかろうと、許せん!」
赤・黒と青・桃・黄の二組に分かれて先行する竜王一味を追い、好奇心旺盛で場の空気を読まないイエローの菜月は、 2年前に真墨が遺跡の中で発見した記憶喪失の少女である事が明かされ……ぐちぐち言いながら面倒を見ていたと思われる真墨、 すっごくいい奴なのでは(笑)
あと、履歴書にどう書いて提出したのかわかりませんが、こんな人材(黒含む)をテストメンバーに選んで超アイテムをがつがつ使わせてしまう 財団上層部、マジ不安。
そしてよくよく考えると、その前歴から菜月がネガティブのスパイではないかと疑うさくらも、未だ真墨に不審の目を向ける青も、 財団上層部を信用していない(笑)
色々大丈夫かボウケンジャー!
菜月が竜王一味のトカゲ人と話しているのを目にしたさくらはスパイ疑惑を強めるが、 菜月は発見時に唯一身につけていたブレスレットについて聞きだそうとしていたと判明。
「菜月には、プレシャスより大切な、ものがある……」
ボウケンジャーになった理由は、なによりも自分が何者なのかを知りたい事であった菜月は、 自らボウケンジャー失格であると退職しようとするが、それを止める不滅の牙。
「誰にでも、たった一つ、大切な宝がある。俺たちはみんな、そんな宝を見つける為に、このチームに集まった。誰のものでもない、 自分だけの宝を見つける為に。違うか?」
爽やかに諭す不滅の牙ですが、この人、部下に裏切り者が居てもそれはそれで楽しい冒険だなぁ……! の人なので、大変危険です。
というかもしかして、サージェス財団上層部もそういうノリなのかもしれない。
チーフの必殺《俺は既にいい事を言った! このボウケンレッドが!(びしっ)》が発動して、 自分というプレシャスを探す菜月の気持ちを認めたさくら達は、改めて菜月をボウケンイエローとして迎え入れるが、 そこへ一時的に協力したトカゲ人とゴードム兵(ガジャが岩石から作成)が襲来し、5人はスタートアップ。
「熱き冒険者! ボウケンレッド!」
「迅き冒険者! ボウケンブラック!」
「高き冒険者! ボウケンブルー!」
「強き冒険者! ボウケンイエロー!」
「深き冒険者! ボウケンピンク!」
「果て無きボウケンスピリッツ!」
「「「「「轟轟戦隊――ボウケンジャー!」」」」」
ラストはOPの最後に使われている顔アップのカットに繋げるフル名乗りから、主題歌をバックに個人武器で戦闘開始。 赤は棒&槍(可変武器)、黒はハンマー、青は扇風機付きナックル、黄はショベルハンド、桃は巨大ハンドガン、をそれぞれ振り回し、 赤はボウケンジャーのシンボルマークである方位磁石を速度計に見立ててのダッシュ攻撃・レッドゾーンクラッシュで複数のトカゲ人を撃破。
全面には押し出さないものの、ところどころで車輌モチーフを重視しているのですが(ダイボウケンの合体時にハンドルを持って移動したり)、 企画的には冒険と車の合わせ技、という感じだったのでしょうか。長年謎だった「轟轟」の謎がようやく解けました(笑)
お陰でマリンが凄く普通に地上を走行していますが……まあ、スーパーメカだから。
ジャリュウ×ゴードム連合の雑兵を撃破するボウケンジャーだったが、一足早くガジャは<ゴードムの脳髄>の元に辿り着いていた。 竜王陛下を罠にはめて拘束するガジャだったが、赤い鎧の竜王は力ずくで戒めを破壊。怒りの竜王にぶった切られてガジャは逃亡し、 脳髄に手を伸ばす竜王だったが、間一髪そこに飛んでくる不滅の牙は狙った獲物を逃さない!
「ジャリュウ一族の長か。どんな気持ちだ? 多くの部下を犠牲にし、プレシャスを見つけるのは!」
葬り去ったの、君らだけどな……。
「部下など幾らでも作れるわ! 奴らはこのプレシャスに比べたら、なんの価値も無い!」
「部下の命を使い捨てにする貴様は、俺には勝てない!」
「なにぃ?!」
「俺には仲間が居る。そのパワーがある!」
今作における“悪”を、「プレシャスを悪用する」だけではなく、「命を粗末にする者」と置き、 それにチーフのスタンスをぶつける事で対比を成立させ、“ヒーロー”とは何か、を丁寧に組み立て。同時に、チーフの言葉を通して、 幾ら“自分だけの宝”を見つける為でも他者を蔑ろにしてはいけない、という一線を描く事で、ボウケンジャーのヒーロー像を提示。
良し悪しや好き嫌いとはまた別の話として、分解していてつくづく思ったのですが、現在見ている作品の中では、 やはり會川脚本はダントツに理屈っぽい(笑) 特に、初の戦隊メインでのパイロット版という事で、 そういう面が強く出ているというのもあるでしょうが。
不滅の牙の槍剣ダブル攻撃の直撃を受けた陛下は崖から転落していき、ボウケンジャーはハザードレベル130 (あっさり100を突破!)の<ゴードムの脳髄>を確保。さくらは菜月にプレシャスの回収を任せ、青も真墨が手を出す事を認め、 ボウケンジャーは今度こそ5人で一つのチームとなるのであった。
「一人一人、探す宝は違っても、同じボウケンジャーだ。行くぞ、新しい冒険が待ってる」
チーフが必殺《俺は既にいい事を言った! このボウケン(びしっ)レッドが!》で締めて、つづく。
前回残った不協和音を拾って二段構えのチームアップを中継地点に、前回やらなかったいかにも戦隊第1話なバトルを展開。 ドSなスリルジャンキー疑惑のあるチーフのリーダーとしての姿勢を描くと同時にそれを今回のネガティブと対比させる事で、 ヒーローと悪の双方を劇中で位置づけし、おまけに菜月の過去にも触れるという、第1話以上にぎゅうぎゅう詰めの第2話。
これだけの内容をしっかり連動させて繋げてくる會川脚本×諸田監督(2年前には『仮面ライダーブレイド』で活躍したコンビ) の手腕は見事でしたが、さすがに詰め込みすぎて、菜月の素性うんぬんに関しては弁当箱からはみ出した感あり。 菜月とさくらの和解のくだりは、やや雑になってしまった印象です。
ややネジの飛びがちな菜月の背景としては納得できましたし、メンバーそのものに明確な伏線要素を与えるというのは意外と珍しい気がするので、 さくらとの関係含めて上手く転がってほしいところ。
豪華なデザインの割にざくっと撃破されてしまった竜王陛下ですが、もしかしてこのノリで、 毎回ネガティブシンジケートが一つずつ壊滅していくのでしょうか(笑) まあ、大爆発ではなく崖から転落だった上に、 それを目撃するガジャのシーンまで描かれたので、生きていそうですが。
ガジャといえば、竜王の転落を目撃してボウケンジャーに恨み言を呟いた後、 崩れそうな足下のアップという意味深なカットがあるも滑落などは描かれなかったのですが……これはもしかして、 よろけて崖から落下、竜王様と空中で「バロぉム!」「クロス!」して邪竜神官ガジャオーンになって帰ってくるのか?!
次回――たぶん1−2話で一度も名前を呼ばれていない青回では無かったらどうしようかと思ってドキドキしていたのですが、 青回で良かった!
- ◆Task.3「覇者の剣」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:會川昇)
- ブログ掲載時にコメント欄で、第1話冒頭の「そうそう蒼太」が青の名乗りになっている、というのを教えていただいて成る程納得したのですが、 初見ではまず名前を名乗っているとは思わないし名前だとわかった上で聞いても意味が不明だよ……!というそんな青回の見所は、 やたらとタキシードが似合う不滅の牙。
ところで今作の話数単位「Task」は「業務・仕事」の事なのでしょうが、
「Tusk」=「牙」
がかかっていると考えると、とても面白いという、気付かなくていい事に気付いてしまいました。
毎回、「牙.1」とか「牙.2」だと思うと、痛い、痛いけどキてるよチーフ……!(熱い風評被害)
とある神社に収められていた、諸葛孔明が作ったという伝説の武器、 三本の三国覇剣の内の一振りを検証あるいは回収あるいは強奪に向かった青黒桃だが、巫女に化けていたミニスカ女忍者、 風のシズカにより横からかっさらわれてしまう。
「美人にそういうの、似合わないよ。話し合おうよ、ね?」
前回、さくらと違って菜月に対して態度の柔らかかった青は、香水をつける伊達男で、女性に甘いと明確に。
「甘ちゃんねぇ、ボウケンジャー」
シズカは強奪した三国覇剣と、既に入手していたもう一振りを合体させた力でボウケンジャーを蹴散らし、 忍者の末裔・ダークシャドウの本拠に帰還、モビルスーツ顔にヤクザ声の先輩忍者に出迎えられる。
「一人前になった……と言いたいが、まだまだだ、風のシズカ」
「えらそーーーに……3本目だって、すぐ手に入れてくるからね」
「そんな甘い考えだから」
「え?」
「妙な奴に後をつけられる」
振り返ると、いつの間にかガジャ様ーーー。
凄い勢いでヒロインだけでは飽き足らずに面白ポジションを確立してしまったのですが、なにしてるんですかガジャ様(笑)
ガジャ様は小石から兵隊を作り出すと打倒ボウケンジャーの為に手を組まないかと売り込みを図り、どうやら、 貨幣経済という物質文明の巨大な敵にぶつかり、空腹が限界に達しているようです……!
だが見た目は青いフクロウの姿をした、ダークシャドウの頭領・幻のゲッコウは錠前とLDから付喪神変化の術により第3話にして初の怪人相当を作りだし、 ゴードム兵を瞬殺。売り込みに失敗したガジャ様は捨て台詞を残して退散し、シズカと錠前怪人は三国覇剣最後の一振りを入手する為に動き出す。
幻のゲッコウは抱えられるサイズの造形物なのですが、目が赤く光ったり声が銀河万丈だったりで、かなり貫禄あり。 大ボス声のぬいぐるみ、ヤクザ声のMS、おきゃんな女忍者、と色が青い以外の統一感がまるでなく、 なかなか謎の組織ですダークシャドウ(笑)
敵対するネガティブとしては3つ目になりますが、敵組織ごとにパーソナルカラーを割り当てていると考えると、後、 黄色と桃色の組織も出てくるのでしょうか。桃色の敵組織、見たいような、見たくないような……。
その頃、女には甘いが独自の情報ルートを持つ蒼太の手引きにより、ボウケンジャーはとある会社社長のパーティに潜入していた。
黒「なんで俺たちはボーイなんだよ」
黄「タキシード似合わないからじゃない?」
というやり取りが面白かったのですが、さくらさんのドレス姿はちょっと水商売気味だ!!
三國志マニアである社長が手に入れたという、三国覇剣の巻物がお披露目され、5人はハザードレベル測定によりそれを本物と確認 (脅威度を数値で示すという遊びの要素に加え、一発真贋判定が可能というのは秀逸な設定)。
黒「じゃ、早速いただくとするか」
←自由
桃「個人の財産を勝手に奪う事はできません」
←良識
赤「プレシャスの存在を公にするわけにもいかない」
←大義を振りかざして大量虐殺できるタイプ
青「ネガティブの手に、渡らないようにするだけさ」
←外敵を設定して理論武装
基本的に、自分を中心に地球が回っている人が多そうでドキドキします。
蒼太が香水の残り香から風のシズカの変装に気付いて撃退に成功するも、その騒動で身分を明かす事になった5人は、 社長と正面から交渉するが決裂。その夜、「あの人は、昔の僕に似てるんだ」と改めて社長の下へ向かう蒼太とそれに同行する真墨だが、 それを待っていた社長は、蒼太の前歴が世界を股にかけたフリーランスのスパイであったと突きつける。
「あなたは、企業や国の秘密を奪う時、他人の事など考えましたか?」
「考えなかった。獲物を手に入れる時のスリル、ドキドキ、その為ならなんでもやった」
前歴とはいえ、戦隊メンバーの一人がここまで堂々と、イリーガルで身勝手な存在であった事を明言するというのは、なかなか刺激的。
「おんなじですねぇ。私もこの巻物を手に入れる為だったら、どんな事でもしました」
「同じじゃない。――あんたはまだ間に合う」
「間に合う……?」
眉をひそめた社長に対し、自分の欲望だけに従って生きてきた事で多くの人々を不幸せにした過去を反省した、 と語る蒼太は巻物の秘めた危険性を伝えるが、そこへあらゆるセキュリティを破り操作する能力を持った錠前怪人と共にシズカが現れ、 巻物を強奪。怪人がセキュリティシステムを操った事で、社長室の壁からにょっきり出てきたレーザーに、 撃たれそうになる真墨(笑)
侵入者の即時抹殺は、東映では当然のセキュリティ☆
社長室が突然《レスキューポリス》時空に飲み込まれる一方、外ではシズカと怪人の前に、チーフ達3人が立ちはだかっていた。
…………あなた方、最初からこの手はず〔青が再交渉のポーズを取る→ダークシャドウに巻物を奪わせる→ 待ち受けていた別働隊が力尽くで奪い取って知らんぷりを決め込む〕だったのか。
セキュリティレーザーで大ピンチの3人は元スパイのテクニックで脱出に成功し、ピンチを笑顔で楽しむ蒼太がいい壊れ方を見せる一方、 元泥棒は特に役に立っていなかった。多分、古代遺跡専門なのです。現代文明のセキュリティは専門外なのです。
「楽しいですよ、この冒険」
「冒険?」
「あなたを助け、人々を救えるんだから。自分だけのドキドキやスリルなど、本当は何の価値もない。 みんなが幸せに笑える冒険に比べたら。……そう気付いた。だから」
このやり取りを微笑ましく見つめてしまう真墨からダダ漏れる、いい人感(笑)
「……こんな時代に、冒険か」
蒼太の言葉に心を開いていく社長だが、そこに迫る、壁からレーーーザーーーーー(笑) まあここが本当の世紀末TOKYOディストピアだった場合、確実にビルごと自爆装置が作動しているので、 2006年の地球は割と平和です。
蒼太は社長を助けて窓から飛び出し、スタートアップ。ボウケンブルーとブラックの姿を目にして、変な奴らのテンションに、 今更ながら逆らったらまずいのではないか、という顔になる社長。
青と黒はシズカと怪人を足止めしていた3人と合流し、夜間という事で、スーツのヘッドライトを付けながらの名乗り。 ボウケンスーツの特色を見せつつ、中澤監督の夜戦趣味(割と多い気がする)も窺えます。
なんとなく意気投合した青と黒の華麗なコンビ攻撃から、5人の一斉射撃で怪人を撃破するも、それを感知したゲッコウの目が光り、 追加の忍法で巨大化。立ち向かうダイボウケンは怪人が振るう三国覇剣の威力に苦戦し、 更に3本目を合体させて真・三国覇剣を完成させようとするシズカだったが、開いた巻物は、 社長の巨大ブロマイドが挟み込まれた真っ赤な偽物。
なんと変態マニアの鑑として本物の巻物を腹に巻き付けていた社長は、これ以上逆らったら躊躇無く消される蒼太の冒険魂に心を打たれ、3本目の巻物を大遠投でパス。
博士「こちらもプレシャスの力を使いましょう」
え
博士「ダイボウケンのパラレルエンジンは、プレシャスの力を取り出す事が出来るんです」
え
赤「面白そうだ。やってみる」
え
……凄いぞサージェス財団、第3話にして、コールタールよりどす黒いぞ!!
悪(?)の巨大怪人をぶった切るという名目があるにしても、建前上、「プレシャスを見つけ出し守り抜く」団体の実働部隊の隊長が 「面白そう」でプレシャスの力を用いてしまう致命的に酷い展開なのですが、 そもそも「プレシャスの力を取り出す事が出来る」システムが組み込まれている時点で、表向き健全な組織を装ってさえいなくて、 世界征服する気満々すぎるのですが。
クールの節目ぐらいに、「他に手段が無いのでやむを得ない!」でプレシャスの力を借りるぐらいならまだ頷けましたが、 3話めでこれはあまりに早まった感……。
3本目の覇剣には封印の力が秘められており、怪人の手にする三国覇剣が2本の巻物に戻った隙に、 アドベンチャードライブで一刀両断。やる気をなくしたシズカは退散し、巻物を拾った社長はそれをボウケンジャーへと渡す。
「これは……サージェスで、大切に保管しておいてください。二度と、私のような馬鹿の手に渡らぬよう」
……ええとそもそも、その内2本、社長の所有物ではないのですが(笑)
「私もしてみたいなぁ……自分の為じゃない、みんなが、幸せな笑顔になれるような……」
「出来ますよ。その時は、必ず一緒に」
「ああ。冒険しよう」
かくして社長は、ネガティブ認定を免れた!!
“自分の欲望の為に手段を選ばず他者を顧みない事からの転換”をエピソードの軸としており、 ゲストとヒーローの前歴を重ねるというアイデアは悪くなかったのですが、根本的な所で、 三國志マニアと国際的スパイを同列に扱うのに無理がありました。
しかも社長の場合プレシャスの秘める危険性を知らずに所有していたわけで、当初ほぼボウケンジャー側の言いがかりとなっており、 天秤の釣り合いが全く取れていません。
まあ社長、社内に見敵必殺のセキュリティレーザーを搭載したり、国家機密の入手と「私もこの巻物を手に入れる為だったら、 どんな事でもしました」を同レベルに語る人なので、巻物を手に入れる為、 傭兵部隊を送り込んだり要人を暗殺したり村1つ住人ごとダムに沈めるぐらいの事はしていたのかもしれませんが。
ぎゅうぎゅう詰めのパイロット版の完成前に作っている3−4話、中澤監督と會川脚本の相性、など影響あったのかもしれませんが、 1−2話に比べるとかなり粗い内容。その一方で、チーフの「面白そうだ」という某首領Sばりの問題発言をピークに、 サージェス財団の暗黒ぶりがネタ的に破綻を突き抜けて面白くなってしまっており、 それと社長のバランスを取ろうとすると世界中が真っ黒に塗りつぶされて別の意味で面白くなってしまうという、 大変困ったエピソード。『特警ウインスペクター』知らずに見ていたら、呼吸困難に陥っていたかもしれません。
MAY DAY! MAY DAY! SOS!
(※筆者は『特警ウインスペクター』が大好きな為、自爆装置やセキュリティシステムに過剰な反応を示す事がありますが、 持病の発作の様なものなので冷静に放置して下さい)
- ◆Task.4「失われたビークル」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:會川昇)
- 「限界です明石くん! 君の体が!」
ボウケンジャーの纏うアクセルスーツは各ビークルのパラレルエンジンからパワーを受けており、 強力なビークルを操縦しようとするとスーツを通してパイロットの肉体に負担がかかるという酷い仕様が判明。 どういうわけだか、前回今回とやたらに『特警ウインスペクター』風味です(笑)
(※『ウインスペクター』の主人公・香川竜馬が装着するクラステクターは、5分以上着用すると装着者が死ぬ、公権力による実験装備)
「ナンバー6以降のゴーゴービークルはなんと、今までよりも更に強力なんだ。でもそのパワーがあなた達に…… ダメージを与えてしまう可能性も」
自分以外が6号機ドリルビークルのテストをする事を許可しない、明石の高圧的な態度に反発した真墨は、 ドリル疲れの明石が寝ている内に、ビン底メガネをかけた恥ずかしい写真を撮影。
……小さい、小さいな(笑)
「あまり感心しない悪戯ですね」
そこをさくらに凄く真っ当に注意され、辛い……。
悪夢にうなされる明石は、キョウコとマサキ、“不滅の牙”の通り名でぶいぶい言わせていた頃に失ったかつての仲間の名前を呼び、 そんなチーフにジャケットをそっとかけて部屋を出て行くさくら。「三角関係?」 とかニヤニヤしていた真墨の人間としてのレベルががマイナスに突入しそうなので、多少は手加減してあげて下さい。
「見捨てたのか仲間を」
「そう思われても仕方ないな」
目覚めた明石に厭味を飛ばしてみるもストレートに返され、狼狽える真墨の人間としてのレベルが(以下略)。
そんな時、自然現象とは思えない局地的な天候異常が観測され、出撃したボウケンジャーは、しれっと出てきた竜王様と再会。
「ジャリュウ一族はひ弱な人間とは、違う」
自慢げに落下時の回想を挟むので、どれだけ華麗に逆境を生き延びたのかと思ったら、崖下で凄く普通に死んでた(笑)
「甦ったのだ」
自慢はそっちでいいのか。
古代の気象兵器・マッドネスウェザーを手に入れた竜王様は、地球全土の気候をジャリュウ一族の素敵生活に適した常夏の熱帯に変えてしまおうとするが、 肝心のお宝が暴走。熱帯どころか、辺り一面が酷寒のブリザードに覆われてしまう。
「マッドネスウェザーは太古にも大暴走し、緑だった南極を、氷の世界に変えた! 愚かな真似をしたな、リュウオーン!」
ここで、プレシャスそのものは善でも悪でもなく、使う者/使わない者次第の「道具」であり、 それ故に人知の制御を超えてしまう事がある、というプレシャスの持つ本質的な危険性を描き、 故にプレシャスに関わるという一点においてボウケンジャー(サージェス財団)とネガティブシンジケートは表裏一体の存在である という今作の世界観が物語として明示されたのは良かったです。
寒冷に弱い爬虫人類達は一目散に逃げ去り、暴走状態で謎の円盤よろしく飛んでいったプレシャスをビークルで追う5人だが、 猛烈な吹雪と雪崩により、青を皮切りに次々とメンバーが脱落。チーフだけがなんとか車外に脱出するも、 5台のビークルは全て氷に覆われた谷底に埋もれて行動不能に陥ってしまう。
「俺は……また……」
仲間を失った過去を思い出してがっくりと膝をついた赤は竜王様の奇襲を受け、竜王二刀流に追い詰められるも、 相討ちスレスレで何とか撃退。チーフは基地に戻るとドリルビークルで部下の救出に向かおうとするが、 財団上層部は日本列島を氷の大地に変えつつあるプレシャスの破壊を決定。移動を停止したプレシャスの近傍に埋まっている5台のビークルのパラレルエンジンを、 遠隔操作で爆破する事によりプレシャスを消滅させるという非情な決断を下す。
「プレシャスから世界を救うのが君たちの任務だ。他に方法は無い。いいね」
険しい表情のミスターボイスにより“財団の優先順位”が明確にされ、日本列島の危機とボウケンジャー4名の命+装備だったら、 ハッキリ前者を取る、というのが中途半端にせずに描かれたのは、好印象。1−2話はあまりにも「情報」が先行していましたが、 それが「物語」として組み立てられてきて、スムーズな見せ方に。
「……まだ、方法はあります」
上層部の命令に背いても4人を助けようとする明石は、牧野博士にゴーゴードリルの出撃を頼み込み、 回想シーンでかつての仲間2人の死が描かれる、重い背景描写(蒼太も菜月も重い過去が示されているので、 割と強くハード路線が打ち出されています)。
それはそれとしてなんだかこの2人、メカマサキ・メカキョウコになって戻ってきそうな気がして仕方ありませんが(笑)
「その時俺はやっと気付いた。狙って逃した獲物はない。そんなの嘘だ。俺は、大切な物を何一つ手にしていなかった。 二度と仲間を失うものか!」
チーフは必殺《俺は既にいい事を言った! このボウケン(びしっ)レッドが!》により牧野博士の説得に成功。
「無事に、帰ってきなさい。これは、命令ですよ?」
平坦な口調でさらりと人体実験に手を染めている為、もう1つスタンスの見えなかった牧野博士が現場のメンバー寄りの姿勢を見せ、 もうこれ以上失わない為に、不滅の牙はゴーゴードリルで出撃。
「伊能真墨……最上蒼太……間宮菜月……西堀さくら……おまえ達を死なせはなしない!」
苦しみながらもドリルビークルを制御したチーフは氷河の壁を突破。いきなりお助けメカを出すのではなく、 アバンタイトルの人体実験をしっかりと布石にした上で過去のトラウマをバネにするという物語の流れにより、 仲間の為に限界を超える力を出す事にきっちり説得力を与えており、新装備への気持ちの乗せ方が絶妙。
“劇中ギミックにいかなる物語上の意味づけを与えるのか”というのは會川さんが割と重視している点かと思いますが、 癒やせない傷を抱えながらも前を向いて壁を突き破るドリル、というのもはまり、戦隊でメカを重視しながらドラマをやる、 という点においてお手本のような構成。
氷河の中を突き進むドリルビークルの特撮も格好良く、新装備のお披露目エピソードとしては、実に鮮やかな出来となりました。
「みんな! 返事をしろ! 無事か?!」
4人の元に辿り着いた不滅の牙が耳にした声、それは……
「か、『からす』」
「す……『すきやき』!」
「え?」
「き、『きん』! じゃない、『きんのしゃちほこ』!」
「こ……?」
「そんなのあり?」
「……『コルト45』」
「おお」
「――チーフ!」
この間の抜き方の巧さは中澤監督の持ち味かなと思いますが、ここまでメンバーの中の良識派ポジションだったさくらが、 「こ」から「コルト45」が飛び出すというのが、凄く秀逸(笑) その上でチーフに真っ先に気付く、というのもポイント高いです。
「おまえら……なんで、しりとりなんか?」
そして、もしかしたら凍死寸前だろうかとか、俺の愚痴大会が始まっているのではないかとか、熱い感謝の嵐の可能性も、 と色々ドキドキしていたチーフは、予想を遙かに上回る状況に、ここまでで最大の動揺(笑)
「それが、さくら……ピンクが」
「あんたは必ず俺たちを助けにくる。……だから、安心しろってな」
「そしたら真墨も、だったらしりとりでもするかって」
「いいんだよ俺は」
人間としてのレベルが下がっていくのと反比例して、凄い勢いで萌えキャラになっていく真墨。
「信じてたのか……俺が……助けに来ると」
「当たり前です! だからチーフ……私たちの事も」
「もうちょっと信頼してくれてもいいぜ、て、事だよ」
失った絆と、新たに得た絆……今も、そしてきっとあの時も、心は一方通行でない事を不滅の牙は噛みしめる。
「……ふ、最後は『コルト45』だったな」
「え?」
「“ご”か…………『ゴーゴービークル、脱出!』 さっさとしろ!」
「「「「了解!」」」」
いや、お見事。
しりとりのシーンは、「きん」から「きんのしゃちほこ」に魔改造する菜月、意外と素っ頓狂な単語が出てくるさくら、 で十分面白かったのですが、そこから更に繋げてきたのは脱帽で、前回の粗さは本当に何だったのか(笑)
無事に脱出した5人だが、気象兵器プレシャスがいきなり巨大ロボットに変形し、 立ち向かうダイボウケンのショベルとツルハシを分厚い装甲で跳ね返す。
「ダイボウケンにはまだまだ無限の力がある! 人が新たな冒険を求め続ける限り! 轟轟武装!!」
だがその時、意外と部下に慕われていた自分に胸一杯でテンションMAXなチーフの必殺《俺は既にいい事を言った! このボウケン(びしっ)レッドが!》と共に、ゴーゴードリルがダイボウケンの右腕に接続される、ダイボウケンドリル合体完了。 5人全員がスーツに多大な負担を受けながらも、全員の力を合わせたドリルアタックでプレシャスの破壊に成功するのであった。
後日――秘密基地では、ボウケンブルーがゴーゴードリルに乗せられ、死にそうな目に遭っていた。
「明石くん……そろそろ限界ですよ?」
「いえ、もっと回転数を上げてください」
「え?」
「お前達ならこの特訓に耐えて、新たなゴーゴービークルを乗りこなせるようになる。信頼してるぞ」
ドSのチーフにみんなどん引き、折角溜めた絆ゲージはぎゅんぎゅんと消費されてしまうのであった……で、オチ。
追加武装に明石の過去を絡め、ボウケンジャーの背景を固めていきつつ第三のチームアップを新装備に集約する、 という非常に完成度の高いエピソード。キャラクターの掘り下げを過去回想に頼りすぎると悪い形でパターン化してしまう場合はありますが、 今作の場合はそもそも「プレシャス」という古代の宝を追う物語なので、過去との繋がり、を重視するのが全体の作風、 という事で許容範囲でしょうか。
冒頭ではクラステクターを彷彿とさせる着用者への負担が不安を呼んだアクセルスーツとゴーゴービークルの関係ですが、 追加武装は既に用意されているが使いこなすにはパイロットの成長が必要、という点が明確なのは良い設定だと思います。 スーツがビークルからパワーを受けているという事は、ビークルによるスーツの強化、 というフィードバックが後々あっても説得力が出ますし。
また、スーツとビークルが影響し合う関係にあるので、ボウケンジャーそのものがビークルのセキュリティとして機能している、 というのも納得。……仮にボウケンジャーが裏切った場合は、遠隔操作でエンジンを爆破できるので、大・丈・夫。
新たな心配は、プレシャスはろくに使いこなせず、戦闘では一騎打ちで赤に連敗してしまう竜王様(一味)の役立たずぶりですが、 今回は二刀流を披露して前回のマッチアップよりは善戦したので、竜王陛下の次回の新必殺技にご期待下さい!!
次回――さくらさんの《綺麗なお姉さん》スキルの有無が、今問われる!
- ◆Task.5「帝国の真珠」◆ (監督:竹本昇 脚本:會川昇)
- 真墨は精神的に子供っぽいポジションという話を聞き、そうか、真墨のOPの変なポーズは、 いわゆる「お、俺の右手に眠る闇の力が解放されてしまう……鎮まれ!」なのか と今日も気付かなくていい事に気付いてしまう。
そしたら本編では、事あるごとにビシバシと手を広げてチーフが俺格好いい不滅の牙アクションを連発しており、 溢れ出す冒険魂に遠い目になるそんな第5話。
「あなたが取引しようとしていたのは、危険なプレシャスです。我々が保護し、厳重に管理します」
(訳:命は助けてやるけど、お宝は我々がおいしくいただく)
ボウケンジャーは、黒服の白人と風のシズカの取引に割って入り、桃が大砲怪人の弾丸を銃撃で弾き落とす技術を披露。
「さっすが元オリンピック候補」
戦闘中に問題のプレシャス――帝国の真珠――が建物の外へと飛び出してしまい、チーフの指示で確保に向かったピンクだが、 その前で通りすがりの少年が真珠を手にしてしまう。怪しいスーツ姿のまま少年へ呼びかける桃だったが、そこにシズカが現れ、 少年を逃がす事を優先。
「もしかして、貴方ってヒーロー?」
「逃げて!」
ゲッコウの指示でシズカと怪人は撤退し、安心して少年に声をかけるさくらだったが、少年からは不審者扱いを受けてしまう………… 変身を解除していたので。
慌てて物陰で変身し直すもその間に少年は姿を消してしまい……
「これじゃボウケンピンクじゃなくて、ボケピンクじゃないですか!」
と、立ち上がりのベリーハードモードから一転、今回はかなりコミカルに展開。 ギャグ回という程ではないものの早めに作品世界の幅を広げておこうという意図でしょうが、 そのメインに如何にもお堅いさくらを配置してきたのは、面白いアプローチ。
チーフ達には「すぐに回収できます」と連絡したさくらは、ガジェットを駆使して大人げなく少年を追いかけ、
「石を渡して! 子供の玩具じゃないんです!」
と段々、本末転倒。
鯛焼きで懐柔しようとするも、
「悪いヤツってよくそういう手を使うんだよね。先生が言ってた。それに、お礼が欲しくてやってんじゃないよ!」
正論で鮮やかにカウンターを受け、轟沈。
「目が笑ってない! 作り笑いなんかじゃ騙されないよ!」
少年は逃亡し、メンタルにダメージを蓄積していくさくらは、博物館で迷子をうまく相手できなかった時の事を思い出す……
「子供が不安になっている時は、笑ってやればいい」
「おかしくもないのに笑う事はできません」
「真面目すぎるんだよおまえは」
(いらっ)
「たまには子供のように笑ってみろよ」
(いらっいらっ)
「冒険を楽しむには、子供のようになる事も必要だぞ」
「私は、冒険を楽しむつもりはありませんから」
順調に、いつかこの男の不正を報告書にまとめてシベリア送りにしてやろうかゲージを蓄積させていくさくらは、 菜月の鮮やかな子供への対応に引け目を感じるが、菜月は菜月でちょっと特殊(精神年齢が子供に近い)なので、 参考にならないと思います!
「だけどやっぱり……笑えませんこんな時に」
チーフからの連絡に鯛焼きを頬張り、どんどん墓穴を掘っていくさくらは通信を切断し、 その様子におかしなものを感じたチーフは1人で外出。その後、なんやかやで少年に話を聞いてもらえるようになるまで近づくさくらだが、 そこにシズカが再登場。
(笑え……笑うんだ)
少年を勇気づけようとするさくらは笑顔を浮かべて判定に成功するが、どちらかというその直前の、 両手で顔タッチがクリティカルしたものと思われます!(笑)
さくらはシズカに立ち向かい、その間に逃げる少年だったが、大砲怪人に掴まり帝国の真珠を奪われてしまう。 怪人は真珠の中に隠された超巨大戦車の設計図を読み込み、その特殊能力によって瞬く間に製造。ダークシャドウの目論見通り、 何故か主砲が糸鋸の超巨大戦車が誕生してしまう。
「こうなったら、私はどうなろうと……」
「ピンク!」
自分のミスを誤魔化している内に都市壊滅レベルに傷口を広げるという、 降格してシベリア支部送りレベルのやらかしをしたさくらの元へ、やってくるチーフ。
「チーフ、申し訳ありません。実は……」
不滅の牙は手をあげてさくらの言葉を制し、気絶した少年の姿と無事を確認。
「自分のミスは自分だけで解決するか。……そういう真面目すぎる奴もまた、面白い。ヤツと戦えるのはゴーゴーショベルだけだ。 最後まで一人でやってみろ!」
組織としては大変駄目なのですが、ミスをなぁなぁにしてしまうのではなく、 部下のミスさえ冒険魂で飲み込んでしまうチーフの姿に集約してきたのは、チーフも格好良くなって、 うまい解決。
また、チーフの被害者街道を驀進しそうだったさくらが、チーフの冒険ジャンキーぶりに救われる、 というのも良いバランスになりました。
ピンクはゴーゴービークルナンバー7、ゴーゴーショベルに乗り込み、ショベルvs丸鋸戦車のメカ対決。 戦いの余波で少年が危機に陥るもゴーゴーダンプが助けに入り、最後は上手出し投げでショベルの勝利。 指を鳴らして「グッジョブ!」とかやってしまう不滅の牙が大変ノリノリです。
超巨大戦車は破壊され、ゲッコウ様は改めて怪人を遠隔巨大化。遠隔トンズラの術も使えるし、ゲッコウ様は色々と便利です。 一方ヤクザ先輩は座ってシズカに小言を言うだけで今のところ何の役にも立っていないのですが、 組織の資金源としてキャバクラでも経営しているのか(それは違う黒田崇矢です)。
さくらの帰りを待っていたら、チーフが1人で格好つけに行った事を知らされた青黒黄が合流し、 ダイボウケンショベルで巨大怪人はざっくり撲殺。第4話に続いて投入された新武装のショベルですが、 顎と牙を思わせるブレード部分のデザインに加え、水色のカラーリングも格好良く、かなり良い感じ。 「盾」・「拳」・「掴んで投げる」と、3つの機能を持っているのも優秀です。
戦い終わり、どこかへ飛んでいったままの真珠を探し回る5人の元へ、真珠を手に現れる少年。
「君……ずっとそれを守ってくれていたんですね」
「うん、約束したから」
物陰でピンクに変身してこようとするさくらだが、少年はそれを止めて真珠を渡す。
「お姉ちゃん知り合いなんでしょ? 渡しておいて」
「いいの?」
「うん。それと、ごめんなさい」
さくらは今度こそ心からの笑みを浮かべ、微笑みを交わした少年は走り去って行き、一件落着。中盤の笑顔がだいぶ怪しげだったので、 最後にもう一度、「笑顔」という要素を拾ってくれたのは良かったです。
なにぶん會川脚本なので、「もしかして、貴方ってヒーロー?」という台詞から、 少年視点の「ヒーローとは何か」というテーマへ進んでくれるのかと思っていたら、その点はあまり掘り下げられずに少々肩すかし。 ラストのやり取りなどからも、“さくらが少年にヒーローとして認められる”構造ではあったと思うのですが、 さくらの真面目さが一周回って少年の心を溶かすくだりの唐突さや、結局敵(シズカ)が出てこないとヒーローになれない、など、 「笑顔」という要素との接続がもう一つ上手く行かなかった印象。
(2020年5月3日)
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