ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『動物戦隊ジュウオウジャー』 感想の、まとめ8(43話〜48話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。
- ◆第43話「クリスマスの目撃者」◆ (監督:加藤弘之 脚本:香村純子)
- 年末に炸裂する、脈絡無く鎧武者とピエロと虚無僧が襲いかかってくる東映イズム。
クバルが自爆炎上したのでブラッドゲームの勝者は自分だとふんぞり返っていたアザルドだが、オーナより、 チームリーダーの反逆から2分30秒で悲鳴をあげて逃げ出して翌日には全力で高速土下座より面白いものを見せないと駄目だ、 とハードルを凄まじく上げられ、ゲームを続行する事に。
森家では、退院したさわおがマリオへのクリスマスプレゼントを届けに現れ、クリスマスに興味を持ったジューマンズは、 マリオにクリスマスプレゼントを贈ろうと考える。
「みんな、お小遣い幾ら持ってる?」
4人が自由になる現地通貨を持っている事が判明しましたが、言い回し(「お小遣い」)からすると、これ、 大和くんがポケットマネーを配っているのでは(笑) 洗濯したら100円、とか。
「え? ちょっと?! 全然足りないじゃん……」
そういうセラも1000円札1枚なのですが、他のメンバーは、力強く、小銭。 タスクは「バイト代は欲しかった本に使ってしまった」との事ですが、例の古本屋でアルバイトを続行しているのか……? そしてそのお金は、古本屋に吸収されているのか(やりがい搾取)。
「セラちゃん達は……家帰んなくていいの?」
「……色々あって」
「まあなんかわけありだろうとは思ってたけどよ。あ、もしかして、みんな、おまえと似たもの同士か? だからうちに?」
「違うよ。俺は、帰りたくないだけ。でも、セラ達は帰れないんだ」
即座に返す所には大和くんのこだわりと引っかかりを見る所ですが、大和自身も本来ならば、人には帰るべき家がある、 と思っているのかも。第11話で印象的だった「家に帰る時間が来たんだ」という言葉には、 大和自身の強い想いも篭もっていたのかもしれません。
街ではチームアザルドの落書き怪人が暴れて色々なものを好き勝手に上書きしてしまい、それを迎撃したジューマンズは、 店内にケーキを並べている文房具屋、という不思議な店を発見。それは、 落書き怪人によって店構えを上書きされてしまって困っているケーキ屋だった……というのは、 怪人の能力とエピソードの内容を巧く繋げてきました。
4人はアムの発案で、ケーキの街頭販売を請け負う代わりにバイト代をいただく事に。 人目を惹くためのジューマンヘッドが客寄せ大成功し、ニュースでそれを知って駆けつける大和とさわお。
「本当は……ああいうのが理想だよなって。ジューマンと人間の」
人々と素顔で楽しそうに触れ合う4人を見た大和は、ニンゲン界とジューランド、二つの世界の在り方について考える……。
最終的に、大和のフレンド攻撃で消費税という名のレイドボスを撃破したジューマンズだが、 マリオはアーティスト仲間からの誘いで、急遽カナダへ木材の買い付けに向かおうとしていた。 今日中にプレゼントを渡したいと急ぐ面々だが、タイミング悪くその前に落書き怪人が現れ、4人をマリオの元へ向かわせる為に、 イーグルとサワオが怪人を食い止める。
前半のシーンで、基本ギャグ調の怪人ながら、道の真ん中に出現した大仏に2台の車がぶつかって大爆発、 どう見ても死傷者が出ている……というのがむしろ今作の積み重ねてきたリアリティラインなので、 ここで怪人よりもプレゼントを優先してしまったのは、少々疑問を感じた所。
イーグルとサワオが受け持っているので、戦力比を考えると致命的ではありませんし、 それだけ4人の中でマリオの存在が大きいという意図ではあるのでしょうが、 ブラッドゲームの被害描写とはやや噛み合わなくなってしまった気がします。
ところが4人は、ゲームを盛り上げようと乱入してきたアザルドと遭遇してしまい、結局まとめて戦う事に。そして、 カナダへ向かう途中だったマリオが、この戦いに気付いて物陰から様子を窺う。
「なにがスーパーアートよ!」
「町中、嘘の絵で塗り固めやがって!」
「嘘?!」
「へっ、よく言うぜ。おまえらだって、嘘の姿で暮らしてるんだろ? なんだっけ……へへへ、ホントはジューマンだっけ」
ショックを受けた怪人を即座にフォローするアザルド、相変わらずいい上司(笑)
しかしこの売り言葉に買い言葉により、マリオがジューマンズ4人の素顔、そして6人がジュウオウジャーである事を目撃してしまう。
ジューマンズは野生解放コンボで怪人を撃破し、サワオを加えてトウサイジュウオーでロボ戦に。 だが怪人が次々と描き出すメーバ軍団に苦戦、それを助けようとキューブホエールを召喚する番長だが、ホエールは突然、 アザルドに激しい敵意を向ける!
至近距離からミサイルの雨を喰らったアザルドは退却。改めてホエール参戦で作った隙にオクトパスが落書きを無効化し、 番長合流から全合体で怪人を撃破。もう捨て置かれるものかと思ったタコに、納得できる出番があったのは良かったです。
「なんなんだいったい……? どうなってんだ大和は……?」
混乱しながらもマリオはそのままカナダへ向かい、プレゼントを渡しそびれたジューマンズに、帰ってきたら渡せばいい、 と前向きに励ますさわおは、前回を受けての変化が見える部分。
どうやら原初の戦いに関わりがあるらしいとアザルドとホエールの因縁が急浮上、そしてジューマンとニンゲンの関係は、 どうなっていくのか……次回、ジュウオウヒューマン誕生?!
大きな山場で盛り上げまくった次の回というのは難しいものですが、残り話数の都合かクリスマスお祭り回というわけでなく、 年明けクライマックスに向けて入れておかないといけない要素を詰め込む事を優先した結果、 今作のアベレージからすると雑な造りになった印象。
二つの世界の関係を考えた時、マリオおじさんはかなり例外の部類に入りそうですが、 そこから如何にしてマクロな関係性へと転がしてくるのか、楽しみに待ちたいと思います。
- ◆第44話「人類の王者」◆ (監督:杉原輝昭 脚本:香村純子)
- 「人類の王者、ジュウオーーーーーウヒューマン!!」
クリスマス以来で帰ってきたマリオ叔父さんは、2週間のカナダ滞在中にピンクのスーツを自作し、戦士として戦う覚悟を固めていた!!
そんな叔父さんにこれまでの経緯を説明する、という趣向で、ジューマン、ジューマンパワー、王者の資格、サワオ、ゴリラ、 ホエール、バード、キューブアニマル、各種ロボ、と綺麗な流れで説明していき、6人とマリオ叔父さんの関係を改めて組み直す、 というまとまりのいい総集編でした。
「一人じゃない! 俺達は、繋がってる……!」
ラリーやバドの存在までしっかり抑えてテーマ部分も拾い、全体的に、バングレイ大活躍(笑)
「やぁ……こんな強い味方が居るんなら、ただのおじさんにしてやれる事はないか〜」
「そんな事ないよ。帰ってきたら、叔父さんが笑って迎えてくれる。それだけで、俺達、すっごくホッとするんだ」
叔父さん、最終回寸前にヒロイン昇格。
「おいしいご飯作ってくれて」
「動物の真似で笑わせてくれてよー」
「こんな素性の知れない僕たちを、置いてくれただけで、本当に有り難かったんです」
「ジューランドに帰れない、あたし達にとって、ここはもう、人間界のおうちだから」
「俺にとっては、初めて出来た、友達の家です」
「だから、叔父さんには今まで通り、普通にしててほしいんだ。甘えちゃって、申し訳ないんだけど」
「……なに言ってんだぁ! 甘えろ甘えろ、どんどん甘えろ! おいしいご飯でもなんでも、 いくらでも作ってやっから!」
揃っていい年ではあるのですが、家を無くした子供達に、“良き大人”の姿を見せるマリオ叔父さんが素敵。
また、事情を知った上で普通にしていてほしい、というのが甘えだとわかっている大和くんと、その上で、甘えてこい、 という叔父さんとのやり取りも良かったです。
「おまえたちの、日常を守る。それが、人類の王者――ジュウオーーーーーウヒューマンの! 役目だ」
掴みのギャグめいた冒頭の変身が、エピソードの決め台詞へと繋がってヒーローと支援者の関係を鮮やかにまとめ、 最終章手前の総集編という事で、メインライター自ら筆を執って手抜かりなく巧い。新規撮影分が少ないという事もありますが、 杉原監督も今回はギリギリ節度が保たれた演出でした。
叔父さんは世界標準でも奇特で器が広い部類でしょうし、この7人のミニマムな関係から、 ニンゲンとジューマンのマクロな関係に広がってくれる事も期待……というかそこを描いてこそになると思いますが、 残り話数でどこまで踏み込めるのかは、若干、心配になりますが。
……ところで、冒頭、さわおとレオがメンコで白熱しているシーンで、残り4人がひたすら餅を頬張って正月気分を出していたのですが、 もしかして叔父さん不在の間、ずっと餅を食べて生きていたのでは。
そんな食生活がやや心配になりますが、説明途中で、6人がこれまでの秘密を一斉に謝るというのも、嘘は嘘、 という扱いで良かったです。
「マリオさん、秘密にしてて、すみませんでした!」
「「「「「ごめんなさい」」」」」
「大和……いい仲間を持ったなぁ」
一方、バドはラリーの元を訪れ、拾ったアザルドの欠片を見せていた。
「ノー! こいつの代わりに、ジュウオウキューブがアザルドのボディーに?!」
そこから、かつてジニスがサワオを作り出した時に、この性質が利用されていたのでは……? と思い至る2人。
果たして、アザルドとは、なにものなのか?
「そういやオーナー、俺ぁ地球の生物なのか?」
実はアザルドには過去の記憶が無く、宇宙でジニスに拾われてからの付き合いである事が判明。
「よくわかんねぇが、てめぇが俺を助けたのか?」
「気まぐれだよ。遊び相手が欲しくてね」
「遊び相手だぁ?」
「そう、ブラッドゲームのね」
君の過去とか全く興味ない、というジニスと、そうだよなぁ俺も基本的にはどうでもいい、と呑気な2人だが、 体に異変を感じるアザルド。
「またか……」
「どうかしましたか?」
「ここんとこ、体の調子がおかしくてよ……なんかムズムズすんだよなぁ」
飲み過ぎで、心臓に来てしまった人みたいな事に(笑)
人間ドックもといナリア検診を受けたアザルドは体内の異物混入に気付くと、バードとの戦いに思い至り、地上へとメーバを放つ。
そして地上では、再び姿を消そうとしていたバドに、ラリーが不穏な問いを投げかけていた。
「大事な事を一つ聞き忘れてね。ユーの覚醒した、王者の資格。大和達と違うのは何故だ? ユーの減少したジューマンパワーで、 ジュウオウジャーになる事に耐えられるのかい?」
さらっと二つ。
だがそこへメーバ軍団が襲来し、バドはアザルドの欠片をラリーに託すと、ジュウオウバードに変身してメーバ軍団を切り伏せていく……! でつづく。次回――ラストスパートに入る物語は、一気に大和とアザルドの過去に迫る! 残り恐らく4話、 とにかく綺麗に畳みきってほしいです。
- ◆第45話「解けた封印」◆ (監督:杉原輝昭 脚本:香村純子)
- 「お礼に……生ものはやめたほうがいいよ」
タスクにレシピを教わったマリオおじさんがジューランドの料理であるジャングルライスを作り、 前回を受けての互いの関係の変化を別の角度から念押ししてくるという、こういう所が本当に巧い。
久方ぶりにデスガリアンの戦闘機部隊が襲来し、迎撃に出るジュウオウキングオクトパスとジュウオウワイルド。 何とか出番を作られているオクトパスですが、タコ焼きミサイルによる対空攻撃には納得感がありました(笑) ところがその戦闘機部隊を指揮していたアザルドが、オクトパスのコックピットに掟破りのダイレクトカチコミ。 ジュウオウバードを探していると言いながらコックピット内部で暴れ回り、オクトパスは墜落。合流した5人は、 二手に分かれてバドを探す事に。
一方、治療のお礼に病院に持っていこうと釣りに励んでいたさわおはラリーと接触。……さわお、魚は釣れて当然、 みたいな態度ですが、やはり山でずっとテント生活していて、《釣り》を中心に生産系サブスキルのレベルだけ極端に上がっているのか。
「バドさんが簡単に見つかるなら、今頃みんなジューランドに帰れてるか……一旦もどろ」
出撃前、さわおがお世話になった病院の先生、というワードに表情が固くなった大和を気にしていたアムは、 その背中に眉を寄せてしばし考え込み、いったん笑顔を作ってから、努めて軽い調子で声をかける。
「ねえ! 大和くんは、帰らないの?」
ここで意図的に表情を作るアム、そしてそれを映像として見せるのが、“コミュニケーションの物語”を貫く、今作の凄み。
「え? だから、今から、アトリエに」
特に何も気にしてないですよー、話の成り行きですよー、というポーズの打ち込みで、 お互いの雑談という事にしてするっと話してしまった方が楽かもしれないよと促してきたアムに対し、 恐らくは質問の真意を悟って少々動揺しながらも 受け流して逃げようとする大和だが、
「マリオさんちじゃなくて……本当のおうち」
その反応に覚悟を決め、踏み込んで切りつけるアム。
「………………なんで?」
「あのお医者さん……大和くんのお父さんだよね」
これまでの大和の言動や病院での態度から、大和父子の問のわだかまりに気付いたと告げるアムに、 ベンチに腰を下ろした大和は口ごもりながらも父との確執を少しずつ口にし始める……。
「大した話じゃないよ。……父親と、仲が悪いってだけ。ホント……よくあるやつ」
仕事が忙しくて家に居ない事が多かった父と、ほとんど会話の記憶もなく、距離感を掴めずにいた少年期の頃を語る大和。
「色々あったんだけど……。…………許せなかったんだ……あの時」
その決定的な亀裂は、父が母の死に目に間に合わなかった事であった。
「母さんずっと待ってた……なんで来なかったんだよ!」
「…………急患が入ったんだ」
「嘘だ! おまえなんか父さんじゃない!! 父さんじゃない!! 出てけ! 出てけよ!!」
大和父子の問題は、ストレートな所に落とし込んできましたが、父をなじった「父さんじゃない!」という言葉自体も、 大和の心に突き刺さったトゲになっていそう。
「……許せないんだ」
「…………そっくりなんじゃない?」
アムは柔らかい微笑を浮かべ、何を言われているかわからない表情で振り返る大和。
「大和くんとお父さん」
「…………どこが?」
「大事なこと全然話さない。周りがどう思ってるかわかってない」
大和の、抑制された大人の対応の一方で、自分の事には案外と不器用な姿を指摘するアム。
「……一度ちゃんと、話してみたら?」
「……無理だよ今更」
「なんで?」
この素朴な問いかけが、今回凄く良かったです。
本質的に他者の感情や個人の心の領域に無頓着なキャラクターが、自分ルールを振りかざして他人の気持ちをズカズカ土足で踏み荒らしていき、 結果的に事態が好転したのでOK、という作劇(まあこれも、やり方次第ではあるのですが)が凄く苦手な私としては、 他者の心情に敏感なアムが、その心の内側に踏み込む行為だと自覚した上で敢えて、 もつれた糸をほぐす為に自分が傷つく可能性も承知で率直な一言を選んだ、というのが痺れました。
相撲回とかハロウィン回とか、後半微妙なスポットになっていたアムですが、ここで、真骨頂を発揮。
「同じ世界に居るのに? いつでも会いにいけるのに? たった2人の親子でしょ」
母一人子一人、というアムの家庭の事情を思い出す大和。
アムだから言える理由、というも見事に繋げてきましたが、この台詞にはもう一つ意味があると思っていて、 デスガリアンとの戦いが佳境という意識に加え、この先、ジューランドとニンゲン界――自分たちの関係――も、どうなるかわからない。 「同じ世界」で「いつでも会える」関係が続くとは限らないからこそ、アムとしては今どうしても、 大和にアドバイスを送らずにはいられなかった。
洞察力に長け、人間関係で器用に立ち回り、他者との距離感を慎重に扱う(悪く言えば利用する)アムが、 他人の心の傷に踏み込むというのは相当な覚悟をしているわけで、ここにはそんなニュアンスも感じました。
1年間の物語(関係性)が積み重ねられてきたからこそのやり取りで、「敢えて」踏み込んでいったアムの姿がとても良かったです。
……一方、父親ネタという事で関与の期待されたタスクの出番は、まったく無かった(涙)
マリオハウスに先に戻っていたセラ達の元にはさわお&ラリーが訪れ、アザルドのキューブとサワオアイテムの関係性について検討。 ジュウオウキューブの代用品としてアザルドキューブが使われているとするならば、いったいそのアザルドとは何者なのか……。
そのアザルドは、ようやく見つけたバドを襲撃していた。
「俺の体……返してもらうぞぉ!」
アザルド、あまり物事に執着しない感じだったので、自分のパーツにこだわっているのは、意外と言えば意外。……いや、 普通かもしれませんが、なにぶん、体質が体質なので。
ジューマン達が戦闘の気配に気付き、アザルドの攻撃を受けて変身の解けたバドの元に全員集合。
「バド……今は協力するべきだ。吸収されたジュウオウキューブを、助ける為にも」
アザルドキューブの検討会など、今回ややタスクに効果的な台詞が多めの気がするのは、微妙にアムと比較しての配慮を感じます(笑)
相変わらずジューマンズとは馴染む気配は見せないものの、大和が一緒なのでバドも同意し、 ここで7人並んでの変身を遠め固定ではなく、←右から、→左から、とカメラを動かして撮ったのはパターン化も外してきて面白かったです。
杉原監督、不信感は拭いきれませんし、今回も緩めるシーンでのバランス感覚にはどうも危うい印象を受けるのですが、 シナリオが詰まっている事もあってか今回は悪くなかったです。
「どいつもこいつも、まったく、イライラさせる星だぜ!」
「この星を、舐めるなよ!」
メーバも交えて戦闘が始まり、それを観戦しながら「今度こそ、面白いものが見られるかもしれない」と嘯くジニス様。
ゴリラのマッスルパンチがアザルドの胸部を砕いてジュウオウキューブの回収に成功するジュウオウジャーだが、 「邪魔もんが消えて動きやすくなったぜ」とむしろ体調が良くなったアザルドの猛攻は止まらない。赤の番長への変身も阻止され、 転がった番長キャノンを手にするバード。
「太古の大王よ……俺にも、力をかせぇ!」
制御に苦しみながらも放たれたバードニック番長キャノンの閃光がアザルドを呑み込み、急速にフリーズカーボン。 ジュウオウジャーはその光景が、かつて大王者の資格に見せられた、クジラ大王の儂の大勝利記念思い出ムービーと酷似している事に気付く。
アバンタイトルの戦いでメーバ軍団を蹴散らした後に、うずくまるように膝を付いていたジュウオウバードは、 この砲撃後に完全に倒れ込んで変身が解けてしまい、ジューマンパワーの不足からなのか、変身により何らかの負担がかかっている様子で不穏。
そして――番長キャノンの一撃によるショック療法で記憶を取り戻し、 古代の戦いとは違ってクジラに大気圏外まで吹き飛ばされて考えるのを止めずに済んだアザルドは、なんと自らの力で封印を内側から破壊。 ひび割れた外装をキャストオフすると、まさしく大勝利記念思い出ムービーで姿を見せた、太古の怪物そのものが姿を見せる!
「二度もこんなもん喰らっちまうとはな。だが! お陰で思い出したぜ。ありがとうよ、ジュウオウジャー」
「まさか、あいつは……」
そう、アザルドの体を構成していたキューブとは、真のアザルドを封印していた地球パワーそのものだったのだ!! キューブアニマルがまるっきりアザルドキューブの代用品になる事、 それを取り返した事で結果的にキューブが不足して封印が弱まった事、 今までのアザルドの復活は「再生」ではなく「再封印」であった事……という諸々の点が線で繋がり、今ここに、甦る脅威。
「ジニス様!」
ナリア、今までで一番驚く。
「ふふふふふ、ようやく封印が解けたようだ」
「懐かしい姿だ。フッ、おかげで取り戻せたぜ。忘れてた記憶も、真の力もなぁ」
なお、ご本人のツイートによると、思い出ムービー登場の古代の怪物のバトルボイスは、 クレジット無しでアザルド役の中田譲治さんが入れていたとの事。
割れて出てきたターンアザルドは、足踏み一つで大爆発を引き起こすと、戦いを挑んできたジュウオウジャーを、 ほぼ一歩も動かずに圧倒。
「どうだ……これが俺、宇宙の破壊神、不死身のアザルド様よ」
6人一斉の野生解放ラッシュも全て無造作に弾き飛ばされ、範囲攻撃で全員変身解除。
…………えー…………ラスボスに勝てる目処も全くついていないのに、ラスボス手前にも勝てる気のしない相手が出てきたのですが、 どうするジュウオウジャー。戦力ヒエラルキー描写は割と丁寧に積み重ねてきた作品だけに、この最終盤でトンデモ2連発をどう片付けるのか。 一応、光があるとすれば取り返した4つのジュウオウキューブですが、ここまで来てしらける「奇跡」は持ち出さないと信じているので、 どう転がしてくれるのか実に見物。逆に、真の最終局面では、ここまで積み上げてきたものを活かした、 鮮やかな「奇跡」を期待しております。
「くくくくふふふふふははははははははは。…………いい準備運動だったぜ。あっちにも用があるからな」
「フフフフフハハハハハ」
ジュウオウジャーにトドメを刺さず、弓矢基地を見上げるアザルド、その姿を見下ろし楽しそうに嗤うジニス様。
……てあれ、もしかして、ジニス様のブラッドゲームの本当の目的って、真の力を取り戻したアザルドと戦う事?
この局面で、戦隊そっちのけでボス級キャラ2人が笑い合っているという凄い展開で、つづく。
次回――予告の内容からすると、大和父が妻の死に目に間に合わなかったのはバドを助けた為で、とすると、 大和父がバドの治療を選んだからこそ、大和はジューマン達と繋がれた……という大和くんにとって凄まじく重い一撃が炸裂しそうですが、 サワオ回・今回と父親との絡みで浮き彫りにされた、大和もそこまで大人なわけじゃない、という要素が物語してどう跳ねるのか、 楽しみにしたいと思います。
- ◆第46話「不死身の破壊神」◆ (監督:杉原輝昭 脚本:香村純子)
- 強大無比の戦闘力でジュウオウジャーを一方的に蹂躙した破壊神アザルドは、ジニスの元へ。
「私の気まぐれがなければ、君は今でも宇宙をさまよい続けていた。たまたま地球に来て、封印が解ける事もなかった」
宇宙を漂うカーボンアザルドの図がまるっきりカーズ(『ジョジョの奇妙な冒険』)なのですが、 そういえば井上和彦はカーズを演じた事があるので、これは何か遠回しな中の人ネタなのでしょうか(笑)
「だから服従しろと?」
「私は期待しているだけさ。君がこれまで以上に、楽しませてくれる事を」
「いいぜ。ただしおまえの機嫌を取るゲームじゃねぇ。俺とおまえ、どっちが地球を噛み尽くすか、対等の勝負だ」
「対等……?」
「確かに恩人だからな。楽しませてやるよ。だからおまえも俺を楽しませろ。ジニス」
「ほぅ」
前回の流れから、ジニスのブラッドゲームの真の目的は、歯ごたえのある遊び相手になりうる破壊神アザルドの復活だった? と推測したのですが、ジニス様の反応を見るにどうやら見当外れだったようで…… そうだジニス様に長期的な目的意識なんてあるわけなかった!!
地球の巨大生物に吹っ飛ばされた、という噂は知っていた癖に、地球に来たのは偶然というのも恐らく本気で、この人たぶん、 ダーツとかサイコロで行き先決めてる!!
「少し前までは、宇宙ローカル路線バス縛りで移動していたものさ……」
その頃、なんとかマリオハウスに帰り着いた6人は、アザルドへの対策会議。
「なんか、方法あると思うんだ。死なない生き物なんて、いないんだから」
つまり、脳に対する執拗な打撃ですね?!
……はさておき、破壊神アザルドもあくまで生き物として捉える、というのは今作らしいスタンスです。
だが話がまとまりきらない内に地球へ降り立ったアザルドが破壊神ビームで大暴れを始めてしまい、とにかく迎撃に出る6人だが、 その途中、大和父の勤める病院の方面が攻撃を受けている事に気付く。
「大和くん、こっちは任せてお父さんのとこ行きなよ!」
促すアムだが、躊躇う大和。
「………………いや、今はアザルドを」
「それを言い訳にしないで!」
大和が、“戦う為”ではなく“逃げる為”に選んでいる事をアムがはっきりと指摘してきたのは、痛烈な展開。
面白い物語には「葛藤」と「選択」が付き物で、ここで大和はいっけん、大義と個人の事情を天秤にかけた末に、 大義を選択しているように見えるのですが、それは実は、個人の事情から目を逸らす為の消極的な選択に過ぎない。
「二度と会えなくなってもいいの? 私達の前でそれを選ぶの?!」
そして、第11話において、ジューマン達が王者の資格を優先してジューランドに帰るのではなく、 自分達をうちに帰そうとした大和を助けて残る道を選んでいるからこそ、戦う為に選んだジューマン達の前で、逃げる為に選ぶのなら、 それは誇りと友情を裏切る行為だという、両者の関係性の芯になる所が踏まえられていて、とても良い台詞でした。
基本的に大和は極めて出来のいい主人公であるのですが、そんな大和を最初から最後まで皆を引っ張る出来のいい主人公としてだけ終わらせるのではなく、 大和には大和の問題点がある、というのを炙り出した上で殴りに行く、という姿勢は今作の素敵な所です。
また大和は、言ってみれば物わかりのいい長男キャラなのですが、常識人のリーダーとして丁寧に好感度を積み重ねてきた主人公に敢えて “ひずみ”を与え、大人びて真面目な人間が幼少期から抱え込んでいた鬱屈が、思わぬ形でこじれていって重症になる事がある、 というのを描いてみせたのは、TVの前に対する、今作の優しさと誠実さであろうな、と。
「………………わかった」
番長キャノンをアムに預け、病院へ向かって走る大和。
「……何か、あったの?」
「大和くん、おうちに帰れる方がいいじゃない」
基本構造として、異世界から来たジューマン達がいつか故郷へ帰る(帰らせる為の)物語なわけですが、 これまで大和がジューマン達を家に帰そうとしていたのに対し、そのジューマン達が大和を家に帰らせようとする、 と形で一回転したのもお見事。
第11話は今作最初の山場で、ジュウオウジャーが一つの群れになるエピソードだったのですが、そこでとても印象深かった
「家に帰る時間が来たんだ」
という台詞が物語の核としてここまで繋がってきたのも、個人的に凄く嬉しかったです。
「大和、僕たちはもう、帰れないからここに居るわけじゃない。僕たちの意志で、ここに居るんだ」そう言ってくれた仲間達の為に、父の元へ駆ける大和。
一方で割としれっと無事だったバドもこの攻撃に気付いており、患者の応急処置と避難誘導を行っていた大和父が崩れてきた瓦礫に押し潰されそうになった寸前、 間一髪で父を守るイーグルとバド。そして、バドと大和父が旧知であった事が明かされる。
「俺の……命の恩人だ」
――15年ほど前、二つの世界を切り離した後、ニンゲン界に隠れ住んでいたバドは、ニンゲンに襲われ負傷していた。
「ジューランドもニンゲン界も同じだ」
以前にジューランドが決して理想郷というわけでない事を示した今作ですが、返す刀でニンゲン界の汚い部分も明示。
「何もかもどうでも良くなった俺は、死を覚悟した」
ところが、力尽きかけ道路に倒れていたバドはそこを大和父に拾われ、治療を受ける。
「なぜ……俺を助ける」
「生き物は皆、どこかで誰かと、繋がっているものだ。……君は独りじゃない」
くしくも母親が亡くなったその晩、自分が母親に告げられたのと同じ言葉を父親がバドに告げていた事、 父親が母親の死に目に間に合わなかったのは、よりにもよってバドの命を助けていたから、と二つの真実に打ちのめされる大和。
そしてバドはこの恩義に報いる為に、密かに大和を守り続けていたのだった。
(俺が、今、生きてるのは……父さんがバドさんを助けたから)
父は看護師に呼ばれてその場を離れてしまっており、一切の整理ができないまま、響いてきた爆音の方へと駆け出す大和。
――この星の生き物は、みんな……どこかで繋がってる……だから大和は、一人じゃない。
「本能覚醒!!」
(俺は、俺はぁぁぁ!!)
大和が父の元へと向かい、バドが隠されていた因縁を明かし、父子の問題がスッキリ解決していざ決戦へと繋がるのかと思いきや、 明かされた真実は大和のアイデンティティをズタズタに切り裂き、しかし状況は立ち止まって考える事を許してくれない、 という凶悪な展開。
前回、大和はかつて父にぶつけた厳しい言葉が心に刺さったトゲになっているのかもしれない……と書きましたが、 どうやらもっと深刻で、大和は恐らく、父を憎む事で母との死別から心を守り、同時に、出来るだけ早く大人になろうとしていた。 人間には何かを憎む事で心を守る機能があるわけですが、その、憎まないとやっていられない相手―― 下手をするとこの世で一番憎んでいる相手――の行為が無ければしかし、今自分が最も大事にしている繋がりが存在しなかった、 というのは実にえげつない構造です。
その上更に、“父との違い”として大事に抱えて行動指針にしてきた母の言葉を、実は父も実践していた、 というのが大和には何よりの大ダメージ。
大和くんにとっては、ラスボスから「私はおまえの父だ」と言われたぐらいのコペルニクス的転回であり、 そこでああそうかと納得して和解するのではなく、それをすんなり飲み込める筈がない、と描いてくる事によって、 最後の最後まで攻めに攻めます。
私まだまだ『ジュウオウジャー』を侮っていました。
一方、果敢にアザルドに立ち向かっていた5人だが力の差を見せつけられ、故意に弾け飛んでみせるなどアザルドに弄ばれていたが、 アザルドが再生する際に中心となるコアのような部分を発見。
「大和が言っていた通り……死なない生き物なんて居ないんだ!」
サワオが突撃して弾き飛ばされるも、ジューマンズ4人は改めて変身して4人名乗りを決め、サワオ……ちょっと可哀想(笑)
「「「「ジューマンを、舐めるなよ!!」」」」
ここでアザルドが、クジラ大王が倒しきれなかった負の遺産としてジューマンズと因縁付けられ、 サワオとクバルの対比に比べると美しさには欠けるものの、物語としては綺麗に収まりました。流れとしては、大和×バングレイ、 サワオ×クバル、ジューマンズ×アザルドと来て、地球の群れ×ジニス、という事になるのか。
ジューマンズが力を振り絞る中、そこへ降臨するイーグル。
(俺は! 俺はぁ!!)
憎んでいた父が母と同じ言葉を口にしていた事、父の救ったバドに命を懸けて救われていた事、 そうでなければジューマン達とも出会えなかった事……気持ちの整理がつかないまま、猛然と“戦いに逃げる”大和。
「言い訳にしない」為に父の元へ向かった筈の大和が、事実を受け入れられずに目の前の戦いを「言い訳にして」 思考から目を逸らしており、ここに来て徹底的に大和を追い詰めてきます。
「貴様等、気迫だけで、勝てると思うなよ!」
「気迫だけじゃねぇ!」
「ジューマンパワーがみなぎってんのよ!」
それは、気迫と何か違うのか(笑)
いや、自己申告なので、何か違うのでしょうが。破壊神アザルドの描写が描写なだけに、ここはいっそ、 前回取り返したキューブアニマルから何やら追加パワーが供給されているなど、露骨に理由付けしても良かったのではと思った所。
主観映像などを適宜交えての戦闘シーンは、新鮮さがあって面白かったですが。
ジューマンズ4人が動きを封じた所で、画面外でずっと死んだふりしていたサワオが強襲を仕掛け、 クリティカルヒットした所にキューブ銃の一斉射撃で再びアザルドを破壊。しかし不死身のアザルドの崩壊したボディはコアに集まっていく…… という光景をカメラを回しながら見せていき、だがそこに番長が! というのは格好いいカットでした。
しかし必殺の番長キャノンがコア部分に直撃する寸前、横から飛んできたコンティニューメダルがいち早く吸収されてしまい、 破壊神アザルドは驚きの巨大化。
「ジニス様の細胞から抽出したエネルギーです。ふん、意思も記憶も失って、思う存分、暴れなさい。 ブラッドゲームからは、絶対に逃れられません」
これまでブラッドゲームから逃げられないのは、ゲームの舞台に選ばれた惑星及びその住人だけだと思っていたのですが、ここに来て、 プレイヤーどころかチームリーダーさえも、究極的には同じ扱いの“ジニスの玩具”に過ぎない、 というブラッドゲームの真の本質が明らかになり、ジニス様、とことん邪悪。
「ジィニィスゥゥゥ……!!」
「私と対等の遊び相手など、必要ないのだよ。アザルド」
溜めに溜めて前回あそこまで大暴れを見せ、ラスボス級の強さかと思われた破壊神アザルドさえ、 ジニスという邪悪を引き立てる為の踏み台でしかなかったというのは、やってくれました。
今作に対する評価の基本軸って、手堅い・完成度が高い、というもので、後はどこまで綺麗に畳めるか、 という意識で見ていたのですが、第11話&第24話というこれまでの大きな山場の稜線を綺麗に繋げてきた上で、 大和とジニスをそれぞれ更に肉付けし、積み重ねてきたコインによる賭け金をこの土壇場で更にレイズしてきたのは驚き。
巨大アザルドの肉体の限界を超えた力に苦戦するワイルド(以下略)だが、バドが集めていたEXキューブアニマル達が声をあげ、 カモノハシ、ヒョウ、フクロウ、シマウマが次々と出撃。
「今だ! ケタスさんのやり残した事、僕たちがやり遂げてみせる!」
4体が攪乱している間に放たれた百獣乱舞が直撃し、粉々に吹き飛ぶアザルド。4キューブの使い方といい、 これで倒すと呆気ないなと思ったのですが、レオが半ば虚脱状態の番長からキャノンを奪い取り、ジューマンズが外に飛び出してワイ (中略)キングの腕の上からキャノンを発射。カーボンフリーズした所で更に、 4人がコンクリートジャングルを立体的に駆け抜けながら突撃し、
「「「「ジューマン舐めんなよ!!」」」」
と一斉攻撃で粉砕したのは、中盤何かと割を食い気味になっていた4人の派手な見せ場として良かったです。
「やった! やったなみんな!!」
「うぉぉ!! くぅ……!」
「……大和?」
そしてこの構造ゆえに、大和がなんの心の整理もつけられないまま戦いに決着が付いてしまい、父への感情と向かい合わなければ、 ジューマン達との関係に向き合えなくなってしまった大和が、ある意味で取り残されたまま次回へ続いてしまうのが、物凄い。
作品の要請(ジューマンズにも見せ場を)と、物語の要請(簡単に解決しえない大和の苦悩)が、見事に噛み合いました。
なにぶん10年以上分のトラウマとわだかまり、そこから生じたアイデンティティの揺らぎなので、劇的にきれいさっぱり解決しない、 という可能性はありそうですし、ここまでやったらそれもまた一つの誠実さになりうるとは思いますが、 果たして大和がここからどう向き合い、どんな答を出すのか、『動物戦隊ジュウオウジャー』の真髄が集約されそうで、期待です。
弓矢基地では、ジニス様は小揺るぎもせずいつも通り。
「フン……記憶が戻らなければ、いつまでも私の元で楽しく遊んでいられたものを」
「ジニス様、チームリーダーが居なくなった以上、地球でのブラッドゲームは、ドローという事でよろしいでしょうか」
従来作品なら、幹部が2人リタイアしていよいよ追い詰められるデスガリアン……という所なのですが、 この期に及んで全く違う価値観が見せつけられ、未だに同じ舞台に上がっていない、というのが、また強烈。
「いや、最後に何か、大きなゲームを仕掛けて終わろうか。折角だから」
そして最終回直前にも関わらず、ついでノリ、という、ジニス様さいてーが徹底的に強調されて、つづく。
……ええとこれ、精神的にズタボロの大和君が選択肢を間違えて、地球壊滅、というバッドエンドルートなのでは?!(おぃ)
そのぐらい未だまるで糸口の見えないターンジニス様攻略に関しては、以前の
「あんなものは侮辱の内に入らんよ。……本当の侮辱というのは――」
というのがキーになってきそうですが、一体全体どうなる事やら、皆目見当がつきません。この台詞は拾ってほしい台詞なのですが、 納得のいく形で収まってほしいもので、ラスト2話、楽しみにしたいと思います。
ここまで来たので公式サイトで監督を確認してみたら、次回は加藤監督になっていたので、 ラスト2話は加藤監督で締める事になる模様…………て、4クール目、加藤監督と杉原監督しか入ってないゾ。 ちょっと心配になりますが、今作では山場で非常にいい仕事を見せてきた加藤監督、ラストを飾るのにふさわしいと思うので、最終2話、 本当に楽しみです。
3連投になった杉原監督は、総集編クイズや百貫デブ回での踏み外しが気になりましたが、今回はしっかりとした演出で、 次作からはスッキリとした気持ちで見られそう。
ところで今回アザルドとジューマンズがやや強引に因縁づけられましたが、 クジラ大王の思い出ムービーだと外来種だという事になっていたアザルド、 本当は古代ジューマン達の地球エネルギー濫用によって誕生してしまった公害モンスターだったのでは。
そう考えると、先祖の不始末を自分達で処理するという形になって、より納得いく形で因縁が決着するのですが、 大王、こっそり歴史改ざんしていないか。
そして、臭い物に蓋をして宇宙に飛ばした古代ジューマン達は、自然エネルギーの枯渇した地球を離れて別次元(ジューランド) へと移り住み、いつか地球が自然エネルギーを取り戻した時に再移住を果たそうと考えていたが、 長い時間の中でその歴史は忘れ去られてしまう。その間に地球には新たな支配種族としてニンゲンが誕生し、ジューランドは、 既に当初の目的(再移住)が忘れられたゲートを残したまま、ニンゲン界との交流をタブー視するという矛盾した状況になっていた…… と考えると私の中で結構しっくり来るのですが、さすがにジューランドについてこれ以上踏み込まれるのは望み薄な気がするので、 適当に妄想を(笑)
まあ、バドがキューブアニマルを探していた理由は、繋がってきてほしい所ですが。
どこまで風呂敷に収められるのかも、楽しみな所です。
次回――最後のゲームで開く手札はいかなる役か、『動物戦隊ジュウオウジャー』、いよいよ、Show down!!
- ◆第47話「最後のゲーム」◆ (監督:加藤弘之 脚本:香村純子)
- 前回生まれた問題はOPのナレーションでも追い打ちされ、さわおがコックピットの中で見た光景をジューマンズに伝え、 ようやく温度差が共有される、というのが今作らしい作り。
「あたし余計な事しちゃったかな……」
「いや、背中押してくれて良かったよ。僕は、小さい大和の避難所だったから。あいつが踏み出すには、 なにか他のきっかけが必要だったんだ」
そんなタイミングでジニス様、地球全土に最後のゲームをプレゼント宣言し、 弓矢基地から地球に向けて矢を打ち込むというまさかのギミック(笑)
「今から地球に、私の細胞を注ぎ込む。果たして地球は、耐えきれるかな」
巨大化エネルギーの元なので過負荷をかけるという事なのか、地球崩壊の危機に力技で矢を引き抜きに向かう5人だが、 その前にギフト軍団が立ちはだかる!
母の墓参りをしていた大和も空に浮かんだジニスの告知を目にし、戦いに向かおうとした所で父と再会。
「バドから聞いた。戦いに行くつもりか」
無言で横をすり抜けようとした大和だが、父に引き留められる。
「もう危ない真似はよせ。母さんが悲しむ」
「あんたに言われたくない!」
……お父さんもお父さんで、自分からは言えないけどバドが喋ってくれたお陰でしこりが取れたぞこれ幸いと、 急に父親やろうとして距離を詰めてしまうので、それは大和くんもキレます(笑)
だが、花をはたき落としてしまった事で大和は少し冷静さを取り戻し、墓前で改めて話し合う父子。
「なんで黙ってたんだよ。バドさん助けてた事」
「バドを護るためだ」
「嘘だ」
「……嘘じゃない」
「父さんはいっつもなんも言わないだろ! 母さんが元気だった頃から、いつも……いっつもずっと! 仕事仕事で家に居なくて、 たまに帰ってきたと思ったら、黙って怖い顔してるだけで」
「……母さんはわかってくれていたよ」
お父さん、典型的な仕事は出来るけど家庭で駄目な人だーーー!(笑)
コミュニケーションをテーマの核にしてきた今作ですが、最後に“不器用な親子の断絶”を中心にしたのは近年の東映ヒーロー作品らしい所ですし、 そこに“いい子が抱えた欠落”を絡めてきたのは、わかりやすい問題点を改善する構造の方が圧倒的にやりやすい中で、 やりにくい故にやりたかったテーマなのだろうな、と思います。
出来のいい大和くんを殴った体勢から振り向きざまにお父さんまで殴りつける所が、まさに『ジュウオウジャー』の面目躍如。
「俺にはわかんなかったよ!」
「幼いおまえに話したところで、わからなかっただろう?」
「それでも……聞きたかったんだ! もっと知りたかった……そしたら……あの日もきっと、怖くなかったのに」
母が死んだあの日、大和が感じた怖さは、母を失う事だけではなく、父との繋がりを信じられなかったからこそだった、 というのは巧くまとめ、そして自分の本当の過ちを知る大和父。
「大和……」
「……ごめん父さん。母さんはちゃんと言ってくれてたのに。あんなに繋がりが大事だと思ってた癖に、一番身近な繋がりを、俺は……」
「いや、母さんに叱られるのは、俺の方だ」
何故なら、大和父も、生き物はどこかでみな繋がっていると、信じているからこそ。
「大和……すまなかった」
「……母さん、今頃呆れてるよ。「あんた達、似たもの同士ね」って」
互いの素直な気持ちを吐き出して父子は和解し、仲間達との関係を含めて前回かなり深刻に描いた割には、 大和の混乱については思ったよりさっくり円く収まって解決。やや物足りなく感じましたが、 きっかけこそフィクションらしく派手な救命イベントだったものの、そこから先は消化期間を経て、 現実に可能なアプローチで解決に至る、というのは、物語としては多少地味になったものの、 『ジュウオウジャー』としての誠実さであったように思えます。
それは対話であり、“向き合う事でお互いが理解しあえるように努力し続けていく”事。だから、この父子の関係も、 まだまだこれからなのでしょう。
「じゃあ俺行くから」
「大和!」
「……一人じゃない。この星の生き物はみんな、どこかで繋がっている。父さんがバドさんを助けたから、俺は仲間と出会えて、 戦う力を持てた。だから今度は、俺がみんなを護る番なんだ」
「わかった。必ず戻ってこいよ」
「ああ。今度ジューマンの友達を、連れて帰る。そん時は、ちゃんと家にいろよな」
過去の呪いを解き一歩成長して“大人”になった大和が、この台詞一つで示されていて、実にお見事。
「……本当に、つまらんとこばかり俺に似てきた」
光り輝く王者の資格に呼ばれたセラ達は、ギフト軍団との戦いを中断して、リンクキューブの元へ。そこでラリーとバドから、 王者の資格を用いてリンクキューブを起動し、かつてジューランドを生み出した時の応用で、 地球を他の世界から切り離した安全な空間に隔離するという策を提案される。
だがそれを実行に移せば、ニンゲン界とジューランドの繋がりは完全に切れてしまう。4人とラリーを先にジューランドに帰し、 後に残ろうとするバド。
「王者の資格を渡せ」
だが、ジューマン達はその提案に頷く事が出来ず、一つの答を出す。
「……渡せません」
「このまま大人しくジューランドに引きこもってろって?! 冗談じゃねぇぞ!」
「外の世界との繋がりが切れたジューランドになんて、帰りたくない!」
「せっかくニンゲンと繋がったんだもん。これで終わりなんて絶対嫌!」
「これから僕たちが築くんです。ニンゲンとジューマンの新しい関係を。だからこれは、渡せません」
バドの過去が明かされたエピソードで、バドが行った世界の切断は逃避であって、それ以外の解答が欲しいと書きましたが、 ここで若者達が、閉じこもるでも切り離すのでもない、未来志向の関係を望む。
「おまえ達、二度と戻らないつもりか」
「違う! いつでも帰れる世界を作るんだ」
そこへ遅れてやってくる大和。
「これからもぶつかる事はあると思う。理不尽な目に遭うかもしれない。でも! 繋がっていればまたやり直す事も出来る。 ……だからこれ以上、世界を閉じる事はしたくない。未来の地球と宇宙の為にも、俺達はデスガリアンと戦い抜きます! この星を、 護ってみせます!!」
大和父子の関係と、ニンゲン界とジューランドの関係、繋がっているから帰れる、繋がっているからやり直せる、 とミクロとマクロが綺麗に重なり合って着地。
そして、理想郷も、一足飛びの相互理解も否定しながら、それでもみんなどこかで繋がっている事を信じたい、 世界はそうやって、良くもなれば悪くもなる、けれど閉ざしてしまえばその可能性すら無くなってしまう、 だから自分と、そして他者と向き合い、高め合い変わっていくんだという、 『ジュウオウジャー』のテーゼを貫きました。
映像的にちょっと、大和の台詞がバドに対する選手宣誓みたいになって、若干間抜けになってしまいましたが(^^;
この辺り、バドが、二つの世界を繋げたくない存在、としてそこまでジュウオウジャーに敵対していたわけではない (逃げ回っていただけ)ので、ジュウオウジャー側から見て、意志をひっくり返す存在(精神的敵対者)、 とまでならなかったのが惜しかった所。
もう少し余裕があったら、バドはもっと強硬手段を使ってくるようなキャラクターになっていたのかも。
ラリーとバドは大和達に地球の運命を託すことを決め、送り出された6人は再び矢へと向かうが、立ちはだかるナリアとギフト軍団。
「俺達はこの星の力を預かった、王者の群れだ!」
揃い踏みして名乗りを決めるジュウオウジャーを嘲笑するナリアですが、様子を見にと理由はつけたものの、 わざわざ前線に戦いに出てくる必要は薄く、一番強引なしわ寄せが来る事に。
「ジニス様の前では、しょせん下等生物です」
「俺達を、舐めるなよ!!」
鬼畜大和くん、いきなりの動物全合体でワイルド(以下略)を召喚し、ギフト軍団を無視の暴挙(笑)
ワイ(中略)キングはケーブルに直接攻撃を仕掛けるが通用せず、ナリアはギフト軍団と自らを巨大化。 背後からの攻撃で一度は撃墜される(前略)デカキングだが、ギフト軍団を圧倒すると、再びケーブルに攻撃。
「大和! 切れない管なら」
「……そうか!」
発想を逆転させたジュウオウジャーは、ケーブルを切断するのではなく、それを引っ張る事で、 デスガリアンの本拠地を直接叩くという荒技に打って出る!
慌てて背後からヌンチャクを振るったナリアはカウンターの百獣乱舞で爆散し、 これならレオと因縁作らなくても良かったのではないかレベルで雑にリタイア…… もうちょっと何とかしたかったのかもしれませんが、残念な最期となりました。ジニス様のリアクションすら無かったですが、 最終回で言及はあるやらないやら(あったらあったで雑そうですが)。
コックピットで野生解放したジュウオウジャーは全力全開で弓矢基地を地上に引きずり降ろす事に成功し、 「なんだと……?!」と初めて若干の焦りを滲ませるジニス様。
「「「「「「この星を、舐めるなよ!!」」」」」」
遂に地表に叩きつけられ、弓矢基地は大爆発。ジニスのゲームは阻止され、そしてジニスも倒れた……と思いきや、 迸る閃光がジュウオウジャーを襲う!
「悪いね。ゲームのクリアは、まだお預けだ」
再びジュウオウジャーの前に姿を見せるターンジニス! 未来の地球と宇宙の為に、次回、命の繋がりをかけた最終決戦!!
これまで長らく手の届かない高みから見下ろし続けていたジニスが、地球と“繋がって”しまった事で足下をすくわれる、 というのは鮮やかな展開で、「帰る」「繋がり」を中心に、本編の主要なテーマやキーワードを織り上げて、非常に綺麗な最終回1話前。
前回が波乱の予感を残しながらの引きだったのに対し、あまりに綺麗にまとまりすぎて既にジニス様に負ける気がしなくなっており、 最終回1話前としては落ち着きすぎてしまった感もありますが、今回、地球サイドのテーマは大体まとまったので、 次回これをどういう形でジニス様にぶつけるのか、楽しみです。
- ◆最終話「地球は我が家さ」◆ (監督:加藤弘之 脚本:香村純子)
- 衝撃の、最終回まで「レッツ!どうぶつかくれんぼ」。
宇宙に浮かんでいた弓矢基地を、凶器は地球で木っ端微塵に粉砕するジュウオウジャーだったが、それでもなおジニスは健在。
「ここは地球! 俺達の庭だぁ!!」
「おや? 私にとっても庭同然だよ。私はキューブホエールのデータを利用し、地球のパワーを取り込む事が出来るのだよ。 ジュウオウジャー、この星を――舐めるなよ」
決め台詞まで持っていき、とことんいやらしいジニス様。
「……これが、最後の戦いだ。行くぞぉ!!」
多くの生命が生きる星、地球。 クバルと愉快な仲間達戦に続き、今回もしっかり動くターンジニスは格闘戦を披露すると、 6人を軽くあしらって謎のジニス空間の中へと取り込む。ジニスの攻撃を受けながら、 突破口を見出そうとジューマン視力を発動したイーグルは、その空間を構成しているのが、無数の細かいメーバである事に気付く。
人間とジューマン――異なる種族が出会い、
一つの群れが生まれた。
この星を守る為に!
……つまりナノマシンなので、ジニス様はやっぱりターンタイプだったんだ!!
「見たな……!」
怒りのジニスはジュウオウジャーに絨毯爆撃を浴びせ、空間解除。そしてそこに、傷ついた体を引きずってナリアがやってくる……。
「私の……私だけの秘密! 見てしまったのかぁ!!」
「……ジニス様?!」
「メーバの集合体……」
「あれがジニスの、本当の姿だったんだ」
「ちがぁう! あんな醜く、卑しい姿は本当の私ではない! 私は何よりも美しく、気高く、最強で最上の生物に生まれ変わったのだぁ!」
ジニスの正体判明はやや急激になりましたが、初期の特徴付けであったジューマン能力を最終回まで活用してきたのは、 非常に今作らしいところ。
「そうか……俺が選ばれた理由が、やっとわかった」
かつてジニスがさわおを改造した際の悪魔の囁き――それは必ずしもさわおの心を縛る為だけの甘い言葉だけではく、ジニスに関する少なからぬ真実を含んでいたのだった。
「自分の事が大嫌いで、辛くて……俺が、ジニスと似ていたから」
「似てない!! 全っ然、似てない」
「君は人の痛みがわかるヤツだ」
「自分の事しか見ていないジニスなんかとは全然違う」
自己を否定する卑屈な魂……だが、他者と触れ合い、自分と向き合う事で、人は変わっていく事が出来る。
「おい、操。わかってんだろ?」「ジニス……どんな理由があろうと、他の生き物を弄んでいい事にはならない!!」
「わかってるくせに。いつまで座ってんだ?」
「変わりたい、じゃ、いつまでたっても変わらない。だろ?」
「……うん!! 変わりたいじゃない……」
「「「うん」」」
「変わるんだっ!!」
「黙りなさい!!」
再び立ち上がるジュウオウジャーだったが、そこにナリアがひねりを入れながら華麗に乱入。
「ジニス様を侮辱する者は、この私が許しません」
ナリアはジニスの正体を知ってもなお忠誠を示し、秘密を共有した上で今のジニスの偉大さを認めると、 ジュウオウジャーに銃口を向ける――が、その背中を貫くジニスの刃。
「私にとって最大の侮辱は……同情だ」
「私は、ただ、あなたを……!」
ジニスの正体が明かされてからここまで怒濤の展開で、何故、ジニスが他者を見下し玩具として扱うのか、というと、 実はジニスは“そうでなくては自己を保てない存在”であった、と判明。自己の正体を誰よりも嫌悪し卑下するジニスにとって、 他人に理解されてしまう事こそが最大の恥辱であり、故にジニスは、自分を決して他者と同じ舞台に置こうとしない。
他者との関わりを否定し、自分自身と向き合う事に恐怖する。
すなわち誰よりも尊大で誰よりも強大なジニスの本質とは――“己自身から目を逸らす脆弱な魂”であり、 故にジニスは、最も忠誠を誓っていたナリアから最大の侮辱を受ける事になる。
と、ここで、戦闘力ではない、ジニスの本質的な弱さが露呈し、前回尺の都合で雑にリタイアしたものとばかり思われたナリアが、 ウルトラCの良い仕事。……まあやはり、レオとの絡みはあまり活きませんでしたが、 ナリアの自己犠牲→私にはどうでもいい事だ→ジュウオウジャー激怒、みたいな定番を避けた上で、 キーワードであった「侮辱」を非常に意外な形で拾ってきたのはお見事、さすがの『ジュウオウジャー』でした。
「おまえはそうやって、寄り添ってくれる人も全部踏みにじってきたんだな!」
「私の秘密を知る者は、この世でただ一人、私だけだ。貴様等は、存在してはいかんのだよ!」
王者の資格が損傷し、生身の6人を激しく襲うジニスの攻撃。
「さらばだジュウオウジャー! 今度生まれ変わる時は、もっと強い生物に生まれてくる事だ」
非常に皮肉な言葉を口にするジニスですが、もう一つ、ジニスの正体の大きなポイントは、 ジニスがメーバの集合体――すなわち“弱者の群れ”である事で、ジニスとは生き抜くために群体として強くなった結果、 あらゆる他者との関係を切り離してしまった存在、つまりは“道を間違ったジュウオウジャーの成れの果て”といえます。
中盤、繋がりを否定するバングレイがネガ風切大和として立ちはだかりましたが、真のラスボスであるジニスとは何かというと、 全身それネガジュウオウジャーであり、どこまでも微に入り細に入り徹底した設定で、極めて几帳面に風呂敷を折りたたむ着地。
そして今作における「王者」とは何か、というと、ジュウオウジャーとジニスの存在が対であり、 ジュウオウジャーが前回自分たちを「王者の群れ」であると啖呵を切った事から辿り着けるのは、“自分自身を見つめられる強さ”こそが、 王者の資格、であるのかなと。
王者であろうとしなかった邪悪なる群れ――他者という鏡に自分を映す事を受け入れられない卑小な魂と、 悪夢のごとき絶大な力を併せ持つ、最低最悪の生物であるジニスは勝利を確信するが、その攻撃に耐え抜く6人。
「勝手に人の来世語ってんじゃないわよ!!」
総合的にやや不遇だったセラですが、最終回にして、この台詞が妙にツボに入りました(笑) セラの名台詞といえば第24話の「笑ってんじゃないわよ!!」もありましたが、もっと思い切って、 若干はすっぱな口調のスケバン路線にした方が良かったのかも……そういう台詞回し自体が、使いにくい御時世なのかもしれませんが。
「俺達の世界は、まだ終わってない」
「私たち、あんたを倒した後で、やる事いっぱいあるの!」
「異なる種族を繋げたり、歴史を調べ直したり、盛り沢山だ!」
歴史を見つめ直す、というのもまた自分(達)と向き合う事であり、やや踏み込み不足に終わったジューランド関係、 不自然に隠されていた薄暗そうな過去についてなどの要素をうまく拾えて良かったです。
後ホント、この最終盤、タスクにキーになる台詞がたくさん回ってくるのですが、愛か、愛なのか。
「こんなとこでてめぇと遊んでる暇なんかねぇんだよ!」
そんなタスクと、終盤に存在感を増したアムに押されて活躍の比率としてはやや扱いの下がったレオですが、 取り立てて特徴のない台詞のようで、しっかり「遊ぶ」というキーが痛烈なジニスの否定になっているのが、今作らしい台詞の巧さ。
「王者の資格が無くなっても、絶対守る!」
マリオおじさん、バド&ラリー、大和父の姿が挟まれ、これがアニメだったらこれまでの関係者が大挙顔出しする所でしょうが、 一挙登場、といかないのは実写の難しいところで、ここはやや、アニメ的な文法が入りすぎたか。前回で解決したから出番終了とせず、 最終回も大和父を出してきたのは嬉しかったですが。
「みんなが生きる、みんなの星を!!」
果敢に生身で突撃する6人に地球の力が集まっていき、逆に地球から拒絶されて変調をきたしたジニスに真っ正面からのパンチが炸裂。 地球パワーにより変身アイテムが復活し、サワオも公式から正式な王者の一人と認められ、恒例の顔出し変身で揃い踏み。
「「「「「動物戦隊・ジュウオウジャー!!」」」」」」
顔出しだと、サワオの変身ポーズの格好良さが映えます。
「この私を舐めるなよ……」
「おまえこそ……」
「「「「「「この星を、舐めるなよ!!」」」」」」
本日3度目の突撃からの最終決戦、開幕にイーグルが、受け身取れないの覚悟みたいな物凄い体当たり。
ジュウオウジャーは野生解放による連続攻撃を仕掛けるが、この期に及んでも押し負けないジニス様が、 ラスボスとして恐るべき粘り腰を発揮。
「例え地球のパワーがなくとも、貴様等ごときに!」
だがその時、イーグルに集まっていく地球パワー。
「野生大解放!!」
『イーグル! ゴリラ! ホエール!』
イーゴ〜エール〜〜〜
最終回にしてまさかの隠し弾で、ウィング×マッスル×ヒラヒラを併せ持つ、陸海空の王者・ジュウオウイゴエルが誕生。
強大なパワーを示してか、やや前傾姿勢が別格の雰囲気を出すイゴエルは、主題歌2番をバックに、ターンジニスと凄絶な空中戦を展開。
きみは知ってるかい? 遠いむかしにはニンゲンと、ジューマンを繋ぐ象徴として、今、太陽の鳥が舞う!
人も動物も 助け合い生きた
陸海空制覇 ジュウオウジャーおのーーーれーーー!
強さと優しさ持つ
心が 王者の資格だ
イゴエルの攻撃を受けて叩き落とされたジニスはみんなで番長キャノンの直撃を受けて大爆発するが、しぶとく巨大化。
「私はジニス。この世で最上最高の生物である」
あくまで驕慢を貫くたった独りであろうとする群れだったが、繋がり続けようとする地球を守る群れは、その力を上回る――
「今のあたし達はジューマンパワーと!」
「地球のパワーと!」
「人間のパワーと!」
「キューブくん達のパワーと!」
「熱い熱い友情パワーと!」
「沢山の力を繋げて戦ってるんだ! 全てを踏みにじってきたお前なんかに、負ける筈ない!!」
最大最強ジュウオウドデカグランドファイナルフィニッシュを受け、ジニス、完全消滅。
(前略)デカキングは切り札系置物カテゴリでない事を考えると、アザルドに多少苦戦した以外は(それにしても超必殺一撃でしたし)、 最後まで実に強いロボットだった印象。
ジニスの正体をネガジュウオウジャー/ネガ地球として極めて綺麗に収め、 その本質的な弱さを露わにする事でジュウオウジャーの勝利にしっかりと説得力を持たせた最終決戦でしたが、 全体の印象がどうにも地球パワーごり押しになってしまったのは少々勿体なかった所。
物語の積み重ねも、各要素も綺麗に拾っているのですが、綺麗であるがゆえに、爆発の為の最後のピースが何か1枚足りなかった感じで…… 敢えて不足をいえばやはり、ジューランド側の事情、という事になるでしょうか。中盤以降、 テーマ性がサワオを中心に回っていく中でどうしても、ジューマンズを中心とした異文化交流の要素が薄くなってしまったのですが、 その為に、そもそもジュウオウジャーに力を与えている地球パワーとは何か、という所が描ききれなかったように思えます。
最終的に地球パワーが、なんか凄い、という以上のものにならなくて、そこはふわふわしたスーパーパワーという事でも成立する要素ではあるのですが、 今作の完成度ならば、その一歩先へ踏み込んで地球パワーとジュウオウジャーの繋がり(ロボットの謎含む) に説得力を積んでほしかったかな、と(これはかなり贅沢な要求ですが)。
一方でサワオを軸にしたテーマは非常に良い形で描き上げられたので、限られた話数の中で、 どちらかを優先せざるを得ないトレードオフの関係であったならば、虻蜂取らずになるよりはこれで良かった、とは思えますが。
また、大和のテーマ的成長を非常に地に足をつけた形で描いた関係でこの最終決戦との連動性がやや弱くなってしまい、 イゴエル発動が物語の集約として美しくなりきれなかったのも惜しく感じた部分。若干のレッド偏重はやむを得ない所なのかもしれませんが、 個人的にはもう少し、皆の力を合わせる形を見たかったです(ファイナル番長キャノンはいつもとあまり変わらないですし)。
そういう点で、変わる事を選んだサワオが駆けつけて大逆転に繋がる、 というテーマとバトルの融合が完璧だったvsクバル決戦回が全体の盛り上がりのピークになってしまった感はあり、ラスト2話は、 とにかく“風呂敷を綺麗に畳むラスト2話”になったという印象。ただそれが悪かったのかといえば、凄かった! というのはやや弱いものの、ジワジワと美しさが心に染みてくる、そんな最終回になったとは思います。特にジニス様を、 絞れるだけ油を搾り取るかのように、今作テーマのネガ存在として使い切ったのはお見事でした。
「俺達、守り抜けたんだな……」
「……まだだよ。これからもずっと守っていくんだ。この星に生きる、俺達みんなで」
戦い終わり、ジューマン達は一度ジューランドへ帰る事になり、湿っぽい空気になった所で、後ろからレオが皆の背中を押して輪を作る、 とキャラクターの動かし方に違和感のないバランスは最後まで非常に秀逸。
大王者の資格と6つの王者の資格がはめこまれ、起動するリンクキューブ。ジューランドへのゲートが開く……筈が突然、 ニンゲン界とジューランド、二つの世界が融合してしまう!
「どうなってんだ、これは……」
「いや、世界を繋げようとは言ったけど、こういう意味じゃ……てか、むしろこれ、重なってない?」
大和くん、最終話にして地球パワーにさえ真人間ツッコミ。
「全ての王者の資格が覚醒した事で、二つに分かれた世界を、再び一つにする事を望んだのかもな――この星が」
「ま、いいんじゃない? 繋がっちゃったものはしょうがないし」
「え?」
そして、いざ尋常ではない事態になると、最後まで軽く引く(笑)
「どんな理不尽な事が起きても、繋がっている事を、僕たちは望んだんじゃないのか、大和」
傷つきたくないから関わりを否定するのも一つの生き方かもしれない――でもそれでは、変われないから。
「……そうだね。それが俺達の、新しい未来だ」
二つの世界にに関しては、俺達の未来はこれからだ! みたいなオチにするのかと思っていたら、 大胆にパラダイムシフトしてきてビックリ。大人視点では色々と大変そうですが、子供視点では、融合した世界の未来を考える、 というのが夢があって面白いのかも。新たな姿となった世界で、ジューマンズそれぞれの家族との再会が描かれたのはとても良かったです。
「俺達は……きっと、共存できます」
妄想フレンズの励ましを受けたさわおは力強く聴衆に語り、ブタの少年の手を引いた大和が、仲間達と合流しに走る姿から、 ジュウオウダンスに繋がってエンド。ここで、ジューマンズが素顔である筈のジューマン顔ではなく、ニンゲンの顔なのは、 最後に役者の顔を隠すわけにもいかない、という事情がちょっと難しくなってしまった感。
ラストのダンスは大和父やクジラ大王まで参戦の特別バージョンではあるのですが、近年の戦隊で、 最終話スタッフロールの尺が物語部分に使われない、というのは珍しいでしょうか。 最後のジュウオウダンスは二つの世界の融和の象徴として機能しているのですが、もしかしたら融合エンド自体が、 諸般の都合で最終回もダンスを外せない事からの逆算であったのかもしれません。
……最後がクイズの解答なので、どうしてもメタな感じになってしまいましたが。
そこは何とかならなかったのかとは思いましたが、とにかく、今作のテーマを如何にまとめるか、に極めて誠実な最終回でした。
自分を見つめ、他者と向き合い、良い方向に変わっていく事で、みんながきっと明日のヒーローになれる――。
もちろん現実には、むしろ断ち切った方が良い関係性、というのも存在はするわけですが、他者との関係性、 それによる変化を肯定的に捉える、今作としての一つのテーマを貫き切る形で良かったと思います。
また、部分部分で言葉をうまく掛けて用いている作品ですが、全体としてはヒーローの「変身」と、個人の「変化」を掛けており、 変身ヒーローというギミックを非常に巧く、作品テーマの象徴とする事に成功。
そして個人の関係性の変化の先には、世界そのものの変身がある――。
「変わりたいじゃない……変わるんだっ!!」
というのが、ヒーローの魂を背景として、極めて前向きなメッセージにまとまりました。
この、ギミックとテーマの相互補完は非常にお見事で、それが一つの台詞に綺麗に繋がっていくという構造は、実に香村脚本。
あまりに綺麗に畳みすぎた為に、もっとあれもこれもと欲張りたくなる、という贅沢な問題点も生じましたが、 美しい最終回だったと思います。1年間、非常に楽しい作品でした。
難を言えばやはりジューマンズ関係でこぼれてしまった部分かなぁ……と思う所ですが、この辺りはいずれ、追記か総括で。
大和くんの役者さんには、売れてほしいなぁ。
以上、『動物戦隊ジュウオウジャー』感想、長々お付き合いありがとうございました。
(2019年12月3日)
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