■『特警ウインスペクター』感想・総括■




“着化!”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『特警ウインスペクター』 感想の、総括&構成分析。

戻る

〔まとめ1〕 ・ 〔まとめ2〕 ・ 〔まとめ3〕 ・  〔まとめ4〕
〔まとめ5〕 ・ 〔まとめ6〕 ・ 〔まとめ7〕 ・  〔まとめ8〕


☆総括☆
 何はなくとも、香川竜馬バンザイ。
 素晴らしい主人公、見事なヒーローでした。
 あまりに格好いいので、感想の中で途中からほぼ、ナチュラルにさん付けですよ!
 特定の悪の組織が存在せず、様々な犯罪者とその背景を描く社会派路線の今作で、シリーズ全体に1本の芯を通したのは、 やたらにハイリスクハイリターンな実験装備に身を包み、どんな時でも決して諦めずに悪に立ち向かい人の命を救い続ける、 香川竜馬の姿でありました。
 運動能力特化型のテンプレ熱血主人公かと思いきや、推理力や判断力にも優れた、まさかの完璧超人。 やりすぎて少々マルチすぎる感じになってしまい、同僚刑事の存在意義を過剰に貶めましたが、その上で必要以上に嫌味にならず (たまにナチュラルに上から目線ですが!)、爽やかさを貫き通したのも素晴らしい。
 惜しむらくはもう少し、妹との関係や家族の物語を通して、人間的な部分が描かれればなお良かったとは思いますが、 難しいシリーズの主役を張るにふさわしい、素晴らしいヒーロー像でした。

 一方で、竜馬さんがマルチすぎた結果として、周辺のキャラクターが薄くなってしまったのは惜しいところ。
 特に純子は、基本的には華やぎ要員とはいえ、もう一歩、個性化が欲しかった所です。特技であった筈の拳銃は特警の基本技能で全く目立たず、 むしろ切れのあるアクションの方が目立ったので、そういう特化でも良かったような。
 ロボット刑事のバイクル、ウォルターはともかくとして、野々山辺りも1エピソードぐらいスポット当たっても良かった気はします。
 バイクルとウォルターに関しては、ロボットすぎてもいけないし、人間らしすぎてもいけない、 そして主題がずれるので成長物語としてスポットを当てすぎでもいけない、と使い方が少々難しかった感じ。
 これも出来れば一本ぐらい、竜馬とロボット刑事の部下の繋がり、みたいなエピソードは本当なら欲しかった所ではあります。
 結局竜馬さんは、最後までロボットには厳しい人でしたし(笑)
 そんなこんなで周辺キャラの深めには若干の不満があるものの、バラエティ豊か、かつ意欲的なエピソードが多く並び、 シリーズの水準としてはかなりレベルの高いものとなりました。
 特撮ヒーロー+刑事ドラマ+レスキュー、というコンセプトで1年持つのか、 当初は非常に心配したのですが、製作陣の気合いと意地が、非常にいい方向に出たシリーズだったと言えるでしょう。
 終盤にギガストリーマー乱舞がシナリオに悪影響を与えたというのはありますが、思ったほど酷いテコ入れと路線変更、 みたいな事にはなりませんでしたし。
 惜しまれるのは、終盤のギガストリーマー乱舞と息切れ、そして次作『ソルブレイン』に繋げる為に、ラスト2話がウインスペクターよりも、 正木と次の組織、にスポットが当たってしまったところ。特に最終回が非常に残念な出来で、これは本当に勿体なかった。 せめて劇中のテーマ性が竜馬の葛藤に繋がれば良かったのですが、なぜか正木が持っていくし(笑)
 ここだけ違えば、まだましだったのですけど。
 ラスト2話、やりすぎだ、本部長。
 後まあ、予算とか役者さんの都合とか色々あったのでしょうが、前半はちらちらと顔出しぐらいの出演もしていた久子さんが、 独自性が出てきた後半になってむしろ、出番が激減してしまった事。その分、出てきたエピソードでは基本メイン扱いで目立っていましたが、 キャラクターとして成長していただけに、残念でした。
 純子さんは最後まで個性が今ひとつでしたし(^^;

好きなエピソード・ベスト3
  • 第2話「笑うラジコン弾!」
  • 第33話「目覚めた浦島太郎」
  • 第6話「子供に戻った両親」

 2話は、シナリオとレスキューアクションと演出が見事に噛み合った、会心のパイロット版。
 今作のコンセプトと格好良さが完璧に表現された1本。
 これが念頭にあったので、終盤に1本ぐらい、このランクの話がなかったのは残念でしたが(つまるところ最終回なのですが、 要するに四国ロケが問題だったのか?)。
 33話は、特撮刑事ドラマとしての完成形といっていい1本。正義のヒーローの説教が悪を改心させるのではなく、 駄目なヤツが駄目なヤツを励まして、やっぱり駄目だったけど、それでも、もう一回やり直そう、 という非常に好きなシナリオ……人の心を救うとは、こういう事だ!
 6話は、悪の科学者を逮捕した所から、かつての同僚がそれを殴りに現れる、というラストが秀逸な1本。社会派路線の名編。
 他、不満点もあるけれど印象深いエピソードとしては、第7話「幸せ祈る聖少女」。 中田譲治さん演じる駄目オヤジがひたすら激しく駄目オヤジという、衝撃すぎるエピソード(笑)  容赦のない脚本と演出が非常に素晴らしかったです。あと、本部長に「村田の歪んだ心を救い、 元通りにするのもウィンスペクターの仕事ってわけだ」という台詞があって、 『ソルブレイン』に繋がるテーマ性は、ここから来ているかと思われます。
 それから、31話「哀しみの最強ロボ」32話「警視庁を占拠せよ」のギガストリーマー登場の前後編は、 感想書きとしては非常に面白かった(笑)

 前作『機動刑事ジバン』を経て、80年代的なものから、意欲的に革新を試みたと思われる今作、見事にそれを成し遂げた、 歴史的名作だと思われます。ラストを盛り上げ損ねたのは本当に惜しかったのですが、世界観を継承した『ソルブレイン』が、 その辺りの責任は取ってくれる事に期待。
 大当たりの、シリーズでした。

★構成分析★
〔メインキャラ〕は、そのエピソードの中心になったキャラ。選定は筆者の視点に基づきます。
〔評〕は、大雑把な各エピソードの評価。◎……名作、○……それなりに面白かった、−……普通、×……駄目回。
ただし、どこに基準を置くか、を考えるとややこしくなるので、相対的というよりは印象評価だと思ってください。 記憶と感想を読み返してのものなので、微妙にリアルタイムで見た時と、違っている所もあるかもしれません。

話数監督脚本メインキャラ犯罪者など
東條昭平杉村升―― 〔黒田鬼吉博士、月探査ロボR24改〕
東條昭平杉村升―― 〔爆弾魔と改造ラジコン〕
小笠原猛宮下隼一良太 〔産業スパイ、攻撃力の高いアジト〕
小笠原猛宮下隼一―― 〔ハイテク金庫破り、過剰防衛金庫室〕
三ツ村鐵治高久進―― 〔スーパー怪鳥〕×
三ツ村鐵治扇澤延男―― 〔ストレス解消装置〕
東條昭平藤井邦夫―― 〔殺し屋、バズーカ、ロボット探知機つきピストル〕
東條昭平扇澤延男―― 〔ギャング団、ドラムマシンガン〕
小西通雄高久進正木×久子 〔爆弾魔〕×
10小西通雄杉村升―― 〔地上げ屋、超振動波発生装置〕
11小笠原猛宮下隼一良太 〔死の商人、対戦車ロケットランチャー〕
12小笠原猛鷺山京子―― 〔ロボオ〕
13三ツ村鐵治高久進―― 〔死神モスの犯罪組織、スーパーカー〕
14三ツ村鐵治高久進―― 〔〃〕×
15小西通雄宮下隼一―― 〔殺し屋〕×
16小西通雄杉村升ウォルター 〔謎の光線銃〕
17小笠原猛杉村升―― 〔宇宙生物〕
18小笠原猛鷺山京子―― 〔超能力開発装置〕
19三ツ村鐵治宮下隼一―― 〔連続押し込み強盗〕
20三ツ村鐵治扇澤延男久子 〔電磁バリア発生装置〕
21小西通雄山田隆司純子 〔純子への復讐を目論む女〕
22小西通雄杉村升六角 〔指からビームを出すサイボーグ〕×
23小笠原猛鷺山京子―― 〔バイオ産業廃棄物〕
24小笠原猛高久進純子 〔世紀末不良軍団〕
25三ツ村鐵治扇澤延男バイクル 〔新型爆弾〕
26三ツ村鐵治山田隆司久子 〔麻薬密輸組織、香港マフィア、対戦車ロケットランチャー〕
27小西通雄鷺山京子―― 〔秘密結社Q、念動力〕
28小西通雄杉村升優子 〔素粒子エネルギー〕
29小笠原猛高久進―― 〔環境テロリスト、巨大人面コウモリ、ロボット催眠電波〕×
30小笠原猛荒木憲一久子 〔電磁細胞活性化装置〕
31三ツ村鐵治杉村升―― 〔広崎博士、ロボット刑事ブライアン〕
32三ツ村鐵治杉村升―― 〔広崎博士、スーパーコンピュータ、警視庁の防衛システム〕
33新井清扇澤延男―― 〔金庫破り、特殊溶解液〕
34新井清山田隆司バイクル×ウォルター 〔誘拐犯、手製地雷〕
35小笠原猛宮下隼一―― 〔轢き逃げ犯、時限爆弾〕×
36小笠原猛鷺山京子バイクル 〔バイクル誘導電波〕
37三ツ村鐵治増田貴彦―― 〔盗掘犯、アマゾネス軍団〕
38三ツ村鐵治扇澤延男久子 〔闇のフィクサー・青木東洋、組織〕×
39新井清新藤義親
宮下隼一
―― 〔忍びの赤六、黒マントの怪人〕
40小西通雄杉村升―― 〔恐喝犯、TX−3〕×
41小西通雄杉村升―― 〔クローン村田軍団〕
42小笠原猛高久進―― 〔国際テロリスト、携帯型核爆弾〕×
43小笠原猛宮下隼一―― 〔金庫破り、腹マイト少年〕
44新井清扇澤延男バイクル 〔女装空き巣、爆破予告犯〕
45新井清山田隆司―― 〔テロリスト、誘導ミサイル〕
46小西通雄扇澤延男―― 〔ブラック団、超磁力装置、ギガストリーマーマキシムモード〕×
47小西通雄鷺山京子―― 〔産業スパイ、ネオマンション〕×
48小笠原猛杉村升―― 〔謎の男〕
49小笠原猛杉村升―― 〔黒田鬼吉、月探査ロボットR24、人類凶暴化電波〕×

(演出担当/小笠原猛:16本 小西通雄:12本 三ツ村鐵治:12本 新井清:5本 東條昭平:4本)
(脚本担当/杉村升:13本 扇澤延男:8本 宮下隼一:8本 高久進:7本 鷺山京子:6本 山田隆司:4本  藤井邦夫:1本 増田貴彦:1本 荒木憲一:1本 新藤義親:1本)

 統一した悪の組織が無く、一話一話のエピソードに重点が置かれているという構造の為か、数多くの脚本家が参加しているのが最大の特徴。 バラエティ豊かなエピソードで構成されました。
 基本的には重要エピソードを杉村升と、なぜか高久進が担当。前半の重要エピソードを高久進が担当したのは、本当に謎。そして残念。
 光ったのは、序盤〜中盤にかけて、『ウインスペクター』色、とでもいうべき好エピソードを書いた扇澤延男。 個人的に最も今作を通して株の上がった脚本家。
 こうして見ると、中盤は少し各キャラクターを補強しようとはしていた模様。あまりうまく行きませんでしたが(^^;
 そしてラスト1クールの出来が、やはり良くない。
 思ったほど中盤の中だるみが無かった割に、後半、全員が一斉に息切れしたのは残念でしたが、 全体としては非常にアベレージの高い作品でした。

(2012年8月6日)

戻る