■『ビーファイターカブト』感想まとめ7■


“幾千の光集め そのボディ輝く
みなぎるカブトパワーは
無限大 You are the Guardian!”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『ビーファイターカブト』 感想の、まとめ7(第37〜42話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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〔まとめ5〕 ・  〔まとめ6〕 ・ 〔まとめ8〕 ・ 〔まとめ9〕

◆第37話「倒せ不死身の新怪人」◆ (監督:石田秀範 脚本:鷺山京子)
 見所は、すっかりカップルと化している蘭&フリオ。
 スーツアクター兼任なので使いやすかったというのはあるのでしょうが、 フリオがごく自然に4人目のメンバーとして出ずっぱりで、最初にそれらしく出てきたマック・ウィンディとは何だったのか。
 前世の仲違いをすっかり忘れたライジャとデズルは、絆の力メルザードクロスにより、合体怪人メルザード・1、じゃなかった、 アラジビレイを誕生させる。
 ヤマアラシとシビレエイ?の合体怪人のパワーを見たBFが初めての事のように驚くのですが、以前に合体怪人が居たの、 忘れているのか(^^; 強力怪人のインパクトとしても、ここは思い切って4体ぐらい混ぜるべきだったのでは。それともしれっと、 ムササビとカレイも混ざっているのか、これ。
 BF怒濤の連続攻撃により意外やあっさり粉微塵になるアラジビレイだったが、なんと即座に復活。 甲平を謎の繭に包み込むと絶滅兄弟達は余裕で姿を消し、甲平は繭の中で危篤状態になってしまうのだった……。
 悲嘆にくれる3人を、前回の負傷を何するものぞと現場復帰した博士が叱咤して非常に珍しく長官ポジションの仕事をするのですが、 なにぶん前作の向井博士よりも更に積み重ねが薄いので、3クール終了目前に覚醒されても、もはや別のキャラクターに見えてしまいます。 ……頭を打った際に、切れていた配線が繋がったのか。
 メルザードでは、復活した絶滅兄弟をマザーが猫なで声で迎えており、絶好のチャンスに兄者一味が帰還したのは “いい所を見せたのでマザーに誉めて欲しかったから”というのが、死の淵から甦ってもなお兄弟を突き動かす根本的動機である事には、 どこかもの悲しさも漂います。
 だが、二人を褒めそやして地上へ再出撃させたマザーの態度は、兄弟が退出した途端に激変。
 「ライジャめ、デズルめ。私を差し置いて兄弟を産み出すほどの力を得るとは、二人を甦らせたあの黒い力、 やはり思った通り……なんとしても手に入れなければならん」
 マザーメルザードは置物系ボスにしては表情を細かく動かせるようにしている工夫が面白いのですが、母性と峻厳さ、 恐らくメソポタミア神話の女神ティアマトなどがモチーフに入っているのではと思われる、 地母神的存在の象徴する生と死の二面性を演じ分ける山崎和佳奈さんも実に秀逸。前半から好演でしたが、 マザーの出番が増えてくると共に、作品内でのウェイトが良い形で増してきました。
 そんな時、えらく格好いいBGMと演出で復活する、ラッキークラッシャー4人衆。
 「ビークラッシャー、遂に復活したか」
 「この日を、待ちかねておりました」
 台詞で強引に誤魔化しているのですが、カブト神の生け贄に捧げられたと思ったら、 帰ってきた絶滅兄弟について掘り下げもしない内に復活してしまい、とにかく敵も味方も忙しすぎてタメがなく、 この復活によりカブト神と絶滅兄弟の株まで連鎖的に下がってしまう、という玉突き衝突。
 マザーはBC4人に、次元の潮流を流れる黒い力の入手を指示し、次元の裂け目へと向かわせる。
 「これで巨大なパワーが手に入る。地球など一気に滅ぼしてしまえる程の。はっはっはっはっは」
 一方、博士の叱咤を受けた健吾・蘭・フリオは絆怪人メルザード1のデータを分析し、 怪人は溶岩や海流のエネルギーを吸収して復活していると判明。 ビートスキャンでもエネルギー吸収ポイントを見つけられずに一度は追い詰められるが、 電磁波に反応する鉱石を用いる事でそれが外部にある事を暴き、その破壊により復活の阻止に成功。
 「地球のエネルギーを悪に使おうとしたおまえ達、地球自体が反撃したんだ!」
 という決めの台詞は格好良かったのですが、逆転の鍵になるマジックアイテムが(前半に丁寧に説明したとはいえ) 特に話の中心に無かった事、異次元から来たメダルで大騒ぎしたり、超古代に光の力が生んだ禁断の最終兵器でジェノサイドしたり、 現在の物語の中心から“地球の力”が外れている上に、再三書いているように今作としての積み重ねも弱い事、 が重なってもう一つ盛り上がらず。
 シダの王様回のように、鷺山さんは前作から引き継いだテーマとして“地球と命”というものを意識的に描いていると思われるのですが、 それが『ビーファイターカブト』からズレてしまっているのは、不幸という他ありません。
 怪人の撃破によりカブトンも復帰し、メルザードクロスの発動でエネルギーを消費してしまったのか、 連続攻撃とインプットライフルを浴びた兄弟、いつものノリに戻って退却。
 「やはりライジャ、デズルでは手に余ったか。だがもうすぐあれが、黒い力が我がものに。ふははははははは」
 絶滅兄弟はあっという間に没落し、スクラム組んで次元を旅していたBCは、超あっさり“黒い力”を入手。 もはや最終回までがっちり予定が詰まっているのか、とにかく展開が早いのですが、それが物語としての面白さよりも、 一つ一つのギミックの扱いの軽さになってしまっているのが厳しい。
 次回――ジースタッグ&クワガー大ショック。

◆第38話「悪夢のオオクワガタ」◆ (監督:三ツ村鐵治 脚本:宮下隼一)
 「このパワー、この破壊力。勝てる……今度こそ虫けらどもに。ビーファイターに!」
 「そうだ!」「間違いなく」「勝てる」
 ビークラッシャーは“黒い力”ガイストアックスを入手して帰還。キャラクターとしての掘り下げもなければ、 個々の役割分担も上手く描けていないので、誰が言っても変わらない相づちを単調に分ける形になっており、 引き続き4人のやり取りがまるで面白くなりません。
 エネルギーの異常反応を感知して出撃した甲平達は、山の中腹に突き刺さる一振りの斧――ガイストアックスを発見するが、 そこに立ちはだかるムカデ、ハチ、カマキリ。
 ここでも3人が揃って復活と復讐を強調してしまい、2話前の絶滅兄弟と丸被りで、どうしてそうなった。
 「ふざけやがって!」
 前回は甲平途中リタイアの都合で参戦していたフリオが一切説明なく不在で3vs3のマッチアップとなり、、ちょっと殴られた腹いせに、 あっさりカブト神を呼び出すカブトン(笑)
 ハリウッド映画における米軍の核ミサイルばりに軽い扱いで世界を滅ぼしかねない最終兵器が召喚され、 引き金を引く事への恐れ、とか1ミリも存在していないのですが、どうしてこうなった。
 いいも悪いもセイバー次第の大巨神は力に溺れるカブトンに命じられるまま、目からビームでビークラッシャーを吹き飛ばす。
 「やった!」
 「さすがカブテリオス!」
 町内の草野球大会に現役バリバリのメジャーリーガーが参加してコールド勝ち、みたいな状況に喝采をあげるクワガーとテントウも、 随分と切ない役回り。
 ……いやまあ、ビークラッシャー、人類にかなりの被害をもたらしていますし、ビーファイターも命がけの戦いなので、 圧倒的戦力で速やかに叩き潰す、というのは戦略としては正しいのですが、あまりに非対称すぎて面白くなりません。これが、 人間大の最強キャラが人間大の敵をばったばたっと叩き潰していくというなら、話は違うのですが、どうしてここまで来てしまった。
 「ちょろいぜ!」
 だがそれは、カブトンにカブト神を呼び出させる為の誘いに過ぎなかった。 姿を隠していたサソリが悠々とアックスを手にして天に向かって掲げると、唖然とするほど一切のタメがなく、新たな巨大メカが出現。
 ――その名を、邪甲神・クワガタイタン。
 カブトムシのライバルはクワガタ、というのは発想としてはわかりますし、ジャイアントロボ的な重厚感溢れるフォルムで、 カブテリオス同様デザインは悪くないのですが……敵の究極メカが緑色のクワガタというのは、ビーファイター的にいいのか(笑)
 「行くぞ! 究極の黒い力を、クワガタイタンのパワーを見せてやる!」
 二体の巨神が激突し、互いの必殺剣、ビッグフレアとタイタニックフレアがぶつかりあって相殺。だが、 クワガタ神が続けて放った奥の手タイタニックサンダーが直撃し、倒れたカブト神は消滅。 意趣返しの目からビームを受けたビーファイターはなんとか撤退する。
 「素晴らしい……素晴らしいパワーだクワガタイタン。我らメルザードが地上を制する日は近い!」
 つい先日、もう田舎帰ってトマトでも育てようかなという勢いだったマザー、大はしゃぎ。
 「まさか……まさかカブテリオスが敗れるなんて!」
 「未だに、信じられない」
 「私も……」
 一方ブラックアカデミアでは、登場3回目のマシンに身も心もズブズブな甲平達が打ちひしがれており、 敵も味方もテンションのアップダウンが激しすぎて感情の波についていきにくく、どうにも物語に入れなくなってきてしまいました。 登場人物の激情に視聴者の感情を同調させる為に様々な段取りを汲んだり仕込みをしていくわけですが、この1クールあまりの今作は、 あまりにもその過程が雑で、キャラクターの感情がイベントの都合で上下に振り切れすぎています。
 アストラルおじいちゃんの昔話が始まり、クワガタ神も元々、光の意志が作り出した決戦兵器であったと判明。だが最終決戦の際、 戦いに敗れた闇の意志はタイタンを次元の裂け目に引きずり込み、 死と引き替えにその魂を闇に染めるとオリジナルには無いタイタニックサンダーの追加能力を与えたのだった。
 「けど、カブテリオスには、俺たちには仲間が居る。ビーファイターヤンマが、ゲンジ、ミン、アゲハが、地球の生命全てが、 光の意志の戦いを受け継ぐ、同志なんだ」
 クワガタイタンに追加スキルがあるならば、こちらには仲間の力がある、 とメダルの戦士達を含めてここまでの展開を台詞の上では一つまとめたのですが……凄く根本的な所で、 大昔に光と闇の戦いがあったというのは、今の甲平の戦いとは別の事であり、 “ビーファイターもメルザードも遡ると光と闇の陣営だった”から、という理由で光の陣営として戦っている事にされてしまうのですが、 実は甲平ら登場人物が、光の意志の戦いを受け継ぐという事、に劇中で一度も向き合っていない為に、非常に空疎。
 前作なら昆虫魂の汚染で片付く所ですが(第1話からずっと貫かれているので)、今作においては、 戦う事を見つめ直して大きすぎる力を振るう意味を考える絶好のタイミングなのに、完全にすっ飛ばされてしまっています。
 この後、限りなく産業廃棄物に近い存在となっていたネオビートマシンが支援攻撃を行い、 仲間の力を結集する事でタイタニックサンダーを阻止する、という展開自体はギミックの使い方としても好みなのですが、
 「ああ?! タイタニックサンダーが封じられた!」
 ダメージ2発で必殺技を阻止される闇の最終兵器とは……。
 カブト神とクワガタ神は互いを剣で貫いて両者壮絶な相打ちとなり、共に封印の中で石化。
 このパワー、この破壊力。勝てる → さすがカブテリオス! → タイタニックサンダー! → まさかカブテリオスが敗れるなんて! → タイタニックサンダーが封じられた!
 はせめて前後編に出来なかったのでしょうか……。
 何が今作をここまで慌てた展開にさせているのか。最終回までに、後5体ぐらいロボットを出さなくてはいけないのか。
 「クワガタイタンを倒したのに、カブテリオスまで……!」
 「これからどうなるんだ、俺たちの戦いは」
 「カブテリオス……カブテリオス……カブテリオス! カブテリオス!!」
 もはや「カブテリオスの力は最高なんだ。融合すればわかる。あの力は、全てを支配できる力なんだ」 みたいな事になっているビーファイターの明日はどっちだ!?
 一方、何かを感じて眠りに入り、宇宙の混沌へとその意識を飛ばしたマザーは……
 「おぉぉぉぉぉ……闇の意志よ、遙かいにしえ黄泉へと旅だった、闇の意志よ。お告げを、勝利を! 勝利へのお導きを……闇の意志よ!」
 神頼みを始めていた。

◆第39話「無惨!! BF(ビーファイター)が溶ける」◆ (監督:三ツ村鐵治 脚本:扇澤延男)

「おまえとこうして手を組む日がこようとはな」
「不本意は俺も同じ。しかし、今は力を一つに」
「いくぞ、デズル」
「兄者!」
「メルザーーード!」 「クロォス!」

 絶滅兄弟は再び合体怪人を作り出し、これはこれで面白いのですが、 復活したと思ったら急に仲良くなっている心境の変化がどうにも掘り下げ不足。
 また今回明確に、絶滅兄弟&侍従二人vsビークローバー4人衆、というメルザード内部の対立構造が描かれるのですが、 前半のライジャvsデズルの対立を、そのまま兄弟vsBCにスライドさせただけなので、終盤に入ってからの新たな状況、 という面白みがほとんど生まれていません。
 そして繰り返しになりますが、とにかく無駄に人数が多いので、敵が身内同士で4vs4で睨み合っても、 各キャラクターが希釈されて薄まっていくばかりです。
 絶滅兄弟がBCを「虫けら兄弟」呼ばわりして、今更ながらBCの力がヒーローと根を同じくする「昆虫の力」 である事が強調されるのですが、どうにも遅きに失した感じ。そして兄者、あなたの忠実な臣下は、カマキリです。
 メルザードクロスによって生み出された暗黒合成獣トカスズラの吐き出す泡を浴びたカブトンとテントウは、 インセクトアーマーが腐食してその機能が低下してしまう。食虫植物の能力を持ったトカスズラ (なお見た目以外に魚類要素は全く生かされず)は、対インセクトアーマー、 そして昆虫魂を吸い取る能力を持っておりビーファイターは危機に陥るが、 その力を自分たちにも向けられるのではと危惧したBCの横槍により、一次退却に成功。
 再び現れたトカスズラに挑むBFは、3人を元気づけに得意の料理を振る舞いにやってきたリーの「医食同源」「腹八分目」 などの言葉を思い出すと、敢えて昆虫エネルギーを怪人に吸わせる作戦を決行。調子に乗ってエネルギーを吸い上げた怪人は、 昆虫魂の過剰摂取で腹を壊してしまう!
 戦闘と戦闘の合間の、
 「食べ過ぎるの良くないって甲平」
 「だってうまいんだもん、これ」
 「お腹痛くするよ〜、ホントにもう」
 というシンプルな伏線に、昆虫魂は体に入れすぎると毒という扇澤脚本らしい皮肉めいた要素は悪くなかったのですが、 怪人が地面をのたうち回っている間に、セミッションマガジンの力でブライトポインターを強化してアーマーをメンテナンスする、 というのが、そのタイミングでやる必要性皆無で極めて間抜けな事に(^^;
 もういっそ、昆虫魂により内部から爆裂!!
 で良かったと思うんですが(いや待て)。
 ギミック追加ラッシュが一旦収まり、ここに来て実質的なメダルの戦士の掘り下げ回だったのですが……本当にどうして、 こんなシリーズ構成になったのか。

◆第40話「駆け抜けろ恋の迷宮」◆ (監督:東條昭平 脚本:小林靖子)
 フリオから貰ったケーナで蘭がチャリティコンサートに出演する事になり、意外やいい感じネタが継続されていた。 第36話でも二人のデートが描かれましたが、こういったキャラクターの継続性を拾うのは小林靖子らしいですし、この時期はやはり、 扇澤さんの影響があるのかな、と思うところ。
 そこにやってきて、女の子の一途な想いが技術を超える、とか言い出す世界的バイオリニストの筈の花の戦士。 蘭と同じコンサート出演にやってきたソフィーは甲平にそれとなく視線を送るが、当の甲平は「女なんてどうせロマンスより食い気だろ」 と残念な反応。そんな折、付近で異常なエネルギー反応が検知され調査に向かった4人は、ビークラッシャーの罠にはまってしまう。
 地下洞穴に引きずり込まれたカブトンを待ち受けていたのは、ムカデとカマキリ。 カブトンを追うも洞穴の仕掛けに翻弄されるクワガーは十字架に磔にされたカブトンを発見し、 その首がぽろっともげる映像はかなりショッキング。
 正体は偽物の人形なのですが、落ちた首を拾ったクワガーが、
 「爆弾だ!」
 とヒーローの頭を投げ飛ばす映像は、多分意図していないところでショッキング(笑)
 爆発に巻き込まれて重傷を負った健吾はテントウとアゲハに発見されるが、 カブトンを心配するアゲハが暴走気味でそのまま置き去りにされ、今回はひたすら酷い扱い(^^;  現在地が明らかに敵の手中である事を考えると、敵陣の真ん中に無力な状態で放置されている事になり、 生き残れたら退職届を出しても受理されるレベル。
 こういう時こそ、アバンかオチでゆいちゃん出して健吾のナチュラルモテ描写でフォロー入れる所だと思うのですが、 特にそんな事も無いのでひたすら不遇。別にここ最近で良い個人回があってその反動というわけでもないので、 溜まっている有給休暇を申請して河童を探す旅に出ても許されるレベル。
 地下空間に閉じ込められてムカデ&カマキリと戦うカブトンだが、ガスの配管が損壊し、大量のガスが噴き出してしまう。 このままでは大規模なガス爆発で地上の建物が吹き飛んでしまう、とカブトンは必死にガス漏れを食い止めようとし、 大爆発の危機・カブトン自身の危機、という二重のスペクタクルになるのですが、 ガス漏れを手で押さえようとする無防備なカブトンを背後から攻撃しているのに、 ちっとも倒せないムカデとカマキリの株価が奈落の底まで落ちる事に。
 ここで、ビークラッシャーをこれ以上落として、どうするのか(^^;
 その頃、カブトンを探す蘭とソフィーは洞穴内部で炎にまかれてしまい、絶望するソフィーを励ます蘭。
 「ソフィー、あなたのパワー、甲平を想う気持ちでしょ?! それって、そんな弱いものだったの?!」
 「そうよ、そんな力なんにも出来ない。そんな力じゃ、なんにも出来ないんだわ」
 つまり必要なのは、ロマンスでなく筋肉。
 「ソフィー、あなたが信じたいと思う力を信じてよ! たった一人の為に戦う力が、地球や、平和の為に戦う力を、 超える事だってあるわ!」
 個人の信念と英雄の大義を掛け合わせていて、面白い台詞ではあるのですが、 毎度の事ながら『ビーファイターカブト』という物語の積み重ねとはあまり関係なく、 むしろ「挺身」と「特攻」の戦士であるビーファイターにとってはネガティブなテーゼともいえ、フラフラと定まりません。
 決して諦めない蘭の姿、その蘭がフリオとの約束を胸に秘めている事を知ったソフィーも発奮、 二人はムカデとカマキリを撃破してカブトンを助け出し、チャリティーコンサートは無事に開催されるが、 残念ながら甲平の感想は「女は怖い」なのであった。
 前回に続いての閑話休題キャラエピソードでしたが、改めて、BCは最低でも一人一回ずつ作戦担当回をやるべきだったし、 メダルの4人もそれぞれ掘り下げエピソードを合間にねじこむべきだったな、と。
 まあメダルの戦士は設定が設定なので、何しに日本に来たのか、というのが難しくなりますが。 前回今回とキャラ回を入れられたのは良かったのですが、色々と手遅れ気味。しかも、 絶滅兄弟と虫けら兄弟を交互に目立たせる都合により、敵サイドの印象はこれといって濃くならないままなのが辛い。
 次回――あっさり再起動。

◆第41話「ルール無用頂上決戦」◆ (監督:東條昭平 脚本:浅香晶)
 どうしてビーファイターカブトは、第41話にして最強兵器の自己修復待ちのヒーローチームになってしまったのか……。
 最近帰りの遅いゆいを心配して急に兄貴風を吹かす甲平は、ゆいが黙ってアルバイトしている事を知り「非行のはじまりだ!」 と騒ぎだすが、それはアカデミアの皆にクリスマスプレゼントを用意する為であった。だがプレゼントの中に自分宛のものが見つからなかった事で、 ショックを受けて拗ねた甲平は甲平のブランコで一人黄昏れ、物凄く情緒不安定なのですが、これはまた、 冬になって昆虫魂の供給が減少しているのか……。
 放置気味だった兄妹愛要素を拾ってきたのはわかるのですが、なにぶん放置気味だったのにあまりにやり方がストレートすぎて、 甲平の言行がすべからく唐突。どうして浅香さんは、二速とか三速抜きに、いきなりトップギアから始めてしまうのか(^^;
 「どうした、元気がないな」
 そこに現れた兄者は、俺も弟には苦労しているんだ……と長兄の悩みを甲平としみじみ語り合う、わけもなく、 その弟に貰った呪いの腕輪を用いて、甲平にチェーンデスマッチを挑む。
 「もはやマザーの時代ではない」
 いつまで経っても目覚めないマザーに代わり、カブトンを倒す事でメルザードの新たな支配者となる、とライジャは剣を振るい、 救援に駆けつけるクワガーとテントウだが、呪いの腕輪の効力によりお邪魔虫の乱入は阻止されてしまう。 ところがそこにデズルから追加の腕輪を貰ったサソリが参戦し、三つ巴のチェーンデスマッチがスタート。
 知能と策略に長けたと自己申告するデズルは漁夫の利を狙い、ようやくカブトンと一騎打ちで力を見せるサソリですが、 あまりにも遅すぎます。
 戦闘の合間には、実は甲平には手編みのセーターを準備中だったゆいの姿が挟まれるのですが、率直に今になって兄妹愛ネタをやるなら、 個人的にはゆい×健吾のラブコメが見たかったです。なにぶん最近、健吾があまりにも不憫すぎるので……3人パーティなのに、 良識人の参謀役ポジションが、ここまで没個性化するとは、夢にも思いませんでした。やはり、空手の道を突き進み、 筋肉推しで行くべきだったのでは。
 (俺には、俺には可愛い妹が……俺は負けない!)
 苦戦するカブトンは1ミリの前振りもない心の叫びで奮起し、前回(「たった一人の為に戦う力が、地球や、平和の為に戦う力を、 超える事だってあるわ!」)の今回で考えると、
 地球や、平和の為に戦う力  シスコン魂
 という事に。
 「俺たちの、ビーファイターの戦いは違う! 信ずる者の笑顔を、自由を守る為に戦うんだ!」
 その上で、“信ずる者の笑顔を、自由を守る為に戦う”とは何か、 という背景を描いてきてこそ言葉に中身が宿るわけなのですが、とにかくそういったテーゼの積み重ねが薄いので、 40話過ぎにも関わらず、その場の勢いでそれらしい事を言わせているだけになってしまっているのが、本当に残念。
 カブトンはシスコン魂で呪いの腕輪を破壊し、呪縛の解けたクワガーとテントウが現場復帰。 インプットライフルで兄者とサソリを吹っ飛ばすが、そこに姿を見せるクワガタイタン――そしてその巨体からは、 マザーメルザードの声が響く。
 「どけ、愚かな子供達よ」
 眠りから醒めて早々、「俺にとって全ては邪魔者。兄者も、デスコーピオンも、今はマザーでさえも」 と口を滑らせたデズルをお仕置きし、自らクワガタ神を操って降臨したマザーに、 とりあえずネオビートマシンを繰り出してみるビーファイター。
 「みんな、頑張ってくれ」
 これといって対策を検討するわけでなく、超兵器の自己修復をひたすら待つだけの小山内博士は、 個人的な好き嫌いを抜きにしてもビックリするほど役に立たない置き去りぶり。 某機動刑事だったら最終回直前にコスモアカデミアごと始末されそう。
 この後、クワガタ神の強大さを現す為に、ミニチュアのネオビートマシンが果敢に挑むも紙細工のように吹き飛ばされる、 というのは対比もハッキリして面白かったのですが、やるならタイタン初登場の時にやるネタで、何もかも遅すぎます。
 「俺たちは諦めないぞ! 俺たちは逃げない! 負けないぞ!!」
 ネオビートマシンから叩き出されるもカブトンが不屈の闘志で吠えると、自己修復を完了してアストラルセイバーが目覚め、 今回のエピソードの軸であった兄妹愛テーマと何の関係もないのが、凄く浅香脚本です。
 ……まあ、今作に関しては、作品全体がこうなので、浅香さんだけが特別悪いわけではない (むしろ前半のアイデアストーリーでは健闘していた)のですが、特に一貫性の無いアイデアストーリー→ それまでの積み重ねのないテーゼがいきなり振りかざされる→と思ったら更に別のテーゼで問題が解決する、 とくしくも今作の歩みを凝縮したような展開になってしまいました。
 「決着はこの次だ!」
 復活したカブテリオスとしばらく殴り合ったクワガタイタンはなんとなく撤退。家に戻った甲平は、 ゆいがセーターを準備していてくれた事を知り、博士のナレーションが「甲平とゆい、兄と妹の、熱くて深い絆は、 悪の策略を見事跳ね返した」と“そういう話だった”事にするのですが、実際の劇中ではゆいがセーターを編んでいる事とは一切関係なく、 これといって何のきっかけもなく甲平が妹への愛を叫び出すだけなので、 個々の要素が連動しない・物語の積み重ねも特に無い・ゆえにクライマックスが劇的に機能しない と掛け算が崩壊している見本のようなエピソードとなり、そしてそれが『ビーファイターカブト』そのものを体現しているというのが辛い。

◆第42話「カブトの月世界旅行」◆ (監督:石田秀範 脚本:宮下隼一)
 深い眠りに入って闇の意志の亡霊の声を聞いた、と主張するマザーメルザードは
 「第二の闇の意志となり、君臨せよ」
 と言われたので
 「これよりメルザードは闇の意志の軍団となる。役立たずに用はない!」
 と、ジャンル変更を宣言し、とりあえずの露払いとしてライジャとデズルの親衛隊を焼却。
 絶滅兄弟と虫けら兄弟は改めて忠誠を誓ってマザーの指揮下で出撃し、6人並んで、物凄い十把一絡げ感。 あまりに間抜けな絵になると判断したのか、さすがにミオーラとドードは一緒に並べませんでしたが、 敵サイドのあまりの魅力の薄さとそれを加速するセット販売にクラクラしてきます。
 「地獄の罠よ、今こそ口を開けよ!」
 5年前の昆虫メダル到来の影響で発生していた第三の磁場のエネルギーをマザーが利用し、 次元の裂け目に吸い込まれてしまうクワガタタンクとテントウジェット。
 「なんとかならないのか、ビット! もう駄目だ!」
 「助けて、博士! 博士!」
 このヒーローチームはどうしてこんなに、人任せの集団になってしまったのでしょうか……。
 2台のネオビートマシンは月面に投擲され、マザーから挑発された甲平は二人を助ける為に、超重甲すると次元の裂け目へとダイブ。
 「カブト……頼んだぞ」
 懸命に救出作戦を練るような事もなく、ただただカブトに基地から声をかけるだけの小山内博士は、 小山内応援団長に肩書きを変えた方がいいのでは。
 ここまで物語に影響を及ぼさない「博士」ポジションというのは東映ヒーロー史上でも希少な気がするのですが、 今の地位まで上り詰めたのは、上層部の弱みでも握っているのか、はたまた拓也との太いコネクションがあるのか。
 次元の裂け目を超えて月面に辿り着いたカブトンの前にはマザー操るクワガタ神が迫り、カブトンはカブト神を召喚。
 月面の巨神対決はシチュエーションのアイデアとしては面白かったのですが、突然マザーが操っているクワガタ神も、 カブトンが気軽に召喚しすぎたカブト神も、一次退場の影響もあって既に安いメッキの玩具のようになってしまっている為、 物語としては特に面白くならず。
 カブテリオスvsクワガタイタン、という戦いそのものにドラマ性を与えなくてはいけないのですが、 クワガタ神が元々は光の陣営だった事を掘り下げるわけでもなく、クワガタの中身が誰だろうとカブトンの反応も変わらず、 ただ表向き派手にドンパチしているだけなので、見た目以上の盛り上がりが生じず、ひたすら空虚。
 「番組の途中ですが、ニュースをお伝えします。月でビーファイターが! カブテリオスが戦っています!」
 そして突然の、月面バトル生中継。
 ビーファイターは公認ヒーローなのでニュースになってもおかしくはないのです、 クワガーとテントウが隔絶された死の世界のように反応していた月面の戦闘がいきなりお茶の間に接続されるのは不自然極まりなく、 この世界は既に、新帝国ビートルによって征服済みなのでは。
 しかし激闘の末、タイタニックサンダーの直撃を受けて倒れるカブテリオス。
 「これまでか……!」
 カブトンは敗北をあっさり受け入れ、ここ最近の昆虫戦士達の「諦める/諦めない」が、 某バイクロボが救援に「来る/来ない」ばりにダイス目次第で一定しないのですが、 やはり冬なので昆虫魂の供給が不足しているのか。
 前作主人公もこの時期に越冬不可能な体質になりかけていましたが、つまり昆虫魂もシスコン魂もあまりに揺らぎやすく、 唯一絶対である筋肉さえ鍛えていれば雑事に心乱される事なく空も飛べる筈である事こそが、此の世でたった一つの真理。
 讃えよマッスル! ジーク・マッスル!!
 筋肉不足で力尽きかけるカブトンだが、そこに届く、クワガー、テントウの「頑張れ」の叫び。
 ……扱いがゆいちゃんと同じで、現場の戦士の描写としては、流れる涙が止まりません。
 「あと10分……頑張れカブト!」
 人事は尽くさず天命だけ待つ応援団長。
 ついでにニュース報道でお茶の間の人々から声援が届くのですが、“ビーファイターと一般市民との関わり” というのが今作においてさして積み重ねられていないので、その声援が力になると描かれても実に白々しく、悲しいほど劇的になりません。
 特に後半戦に入って、イベント・イベント・イベントで転がしてきて、ゲストキャラを助けて問題を解消する、 というような展開から遠ざかっていた事も裏目に出て、今作の構成上の問題点がまたも悪い形で噴出。
 本当にこう、経験を積んだスタッフが揃っている筈なのに、悪い方向に崩れる時はどうしてこうまで悪い方向に雪崩を打ってしまうのか(^^;
 「負けるもんか! 俺は、マザーメルザード、おまえみたいに一人じゃない。みんなと、仲間と一緒に戦ってるんだ!」
 力を取り戻すカブトンと、子供達の助力を撥ね付けるマザーが対比されるのですが、 そもそもメルザード側でカブトンと対比関係になるだけの積み重ねが存在しているのはライジャなので、ここも上滑り。 カブトンがテーゼをぶつける相手が間違っています。
 そこから特に映像的な盛り上げもハッタリもなく、カブテリオスの新技・グローリアスフレアが炸裂し、 力を失って次元の彼方へ飛んでいってしまうクワガタタイタン。マザーは捨て台詞を残して撤退し、 ビーファイターは次元の裂け目を通って地球への帰還に成功するのであった……。
 最後、カブテリオスが間に合わない?! みたいな盛り上がりを付け足すのですが、出自とスペック考えると、 月〜地球間とか軽々とひとっ飛びのような気がしてならず、何もかも噛み合いません。 クワガタタイタンも適当にまた戻ってきそうな描写で誤魔化されるのですが、ひたすら雑な扱い。
 最後は鳥羽家で謎のコスプレクリスマスパーティが開かれ、狩衣姿の甲平、ナポレオン風の健吾、カウボーイスタイルの蘭、 貴婦人風のゆい、原始人の博士、とホント謎。
 甲平には両親から、アメリカで集めたビーファイターに関するスクラップブックがプレゼントに届き、 実は博士が甲平がカブトンである事を伝えていました、両親はずっと影からカブトンを応援して見守っていました、良かった良かった、 と甲平が両親の態度に感じている寂しさを丸く収めて一応回収。
 ……するのですが、息子が命がけでヒーローやらされて高校も中退一歩手前まで追い詰められているのに帰国の素振りをまるで見せない両親、 って博士はいったいどんな嘘で丸め込んだのか。
 絶対、大嘘のレポートを送っている。
 博士はプロトマシン作成秘話を頭脳のピークにして、作戦や開発関係では実質無能な代わりに皆を暖かく見守る人情家、 という描写にそれとなく移行しているのですが、間違いなく自分に都合のいい話しかしていないので、 どこに人情が存在しているのか電子顕微鏡が必要なレベル。
 小山内博士の壊れぶりを見ていると、翌年の戦隊『電磁戦隊メガレンジャー』において、 高校生戦士達の指導者となる久保田博士も序盤は色々危うかったのですが、途中から5人への罪悪感を背負っているという描写がしっかり入ってくるのは、 小山内博士を踏まえた所はあったのかな、と思う所。色々な意味で、久保田博士を失敗すると小山内博士になるし、 小山内博士が反省すると久保田博士になるというか。
 個人的に『メガレンジャー』を偏愛しており、久保田博士と5人の距離感が凄く好きなので、私の小山内博士への視点が厳しいのは、 無意識に比べている所があるのかもしれません。『メガレン』の場合、高校生を命がけの戦いに巻き込んだ博士達もまたロボの中で命がけ、 という設定によるエクスキューズも巧かったですが(改めてここが、『メガレン』の肝)。
 次回――ぽんこつトリオ結成の予感。

→〔その8へ続く〕

(2019年4月16日)
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