ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた 『ウルトラマンオーブ』感想の、総括&構成分析。
- ☆総括☆
- かれこれ、いつ以来になるのだろう、という《ウルトラ》シリーズ完走でしたが、最終回を中心に幾つか不満点はあるものの、 なかなか楽しく見る事ができました。
個人的に大きかったポイントは、ウルトラマンの観測者となる物語の主観ポジションに防衛隊ではなく市井の変人集団を置き、 怪獣・宇宙人からの地球防衛、という任務から切り離された、横に並ぶのではなくウルトラマンを見上げる人々の物語……という基本構造。
この構造の生んだ緩さ、どこか無責任なざっくばらんさと同居する全体的な軽妙さというのが世界観として割と好みで、 怪獣エンタメとして楽しめました。
一方で、そこに何らかのテーマ性を持ち込んだ時にいつまで経ってもSSPがそのテーマと向き合わず、 ゲストに全部放り投げてしまい、にも関わらず、最終回直前になると「近頃は少しはマシなサイトになった」扱いを受ける、 という大きな歯車のズレが生じてしまったのは実に残念。
ウルトラマンを見上げる人々の視点はスタートとして面白かったのですが、そこからの上昇や拡大を上手く描く事が出来ず、 かといって見上げる視点の物語を貫けるわけでもない、と中途半端な事をしてしまったように思えます。
今作のテーマの散りばめ方からすれば、SSPの視点の上昇をもっと丁寧に積み上げていくべきではなかったかと思いますし、 それが出来ないのならば、もっと徹底的に軽妙である事を貫けなかったのか。ビートル隊(防衛隊ポジション)の扱いなど、 ブランドタイトルとして何を残して何を新しくするかの試行錯誤は色々とあったようですが、そういった思惑のまとまりきらなさが、 テーマ性をつまみ食いしては放り捨てる、という部分において悪い形で出てしまい、 後半に行くほどSSPの位置づけと含めてちぐはぐになってしまった気がします。
変わらないSSPを描きたいのか、変わっていくSSPを描きたいのか、そこが物語として貫かれていれば、 また少し違ったと思うのですが……シリーズ構成2人が要所を抑えた上で多数の脚本家が参加するという形式の結果、 そういった軸線が曖昧になってしまったという印象です。
そもそもSSPは軸では無かった、という見方もあるかもしれませんが、それなら何故、主観視点の立場に置いたのかという話になりますし。 ガイ(オーブ)を観測する狂言回しなら狂言回しとして、それに徹する事が出来なかったのは失敗であったと思います。
……と、最終回の感想本文で書いた話と被ってきてしまいましたが、長所と短所は裏表、というのが非常にハッキリ出た作品だったかな、と。 軽妙さが長所である一方で、その軽妙さが主観視点のリアクションをどう描くかのハンドル捌きにおいて曖昧になり、 後半に行くほど蛇行運転になってしまったのかなと。
逆にもう一つ、今作における軽妙さが良い方向に出たのは“過去シリーズからの解放”で、これは私の偏見もあるのですが、 いつの頃からか妙にシリーズファン向けの空気とハードルを感じるようになっていた《ウルトラ》シリーズの持つ背景の重さが今作にはあまり感じられず、 非常にすんなりと世界観に入る事ができました。
特に第1話における、既存の約束事ではなく、この世界における怪獣の脅威を一から描こうとする見せ方は非常に好みで、 そこに先輩達の力を借りて戦う一風変わったウルトラマンと謎の変態が絡む、というのは非常にワクワク感がありました。 出来ればそういう、怪獣が初めて現れた世界の物語という路線を見てみたかったのですが、これは果たせず(^^;
まあ考えてみれば主人公はそもそも過去のウルトラマンの力を借りて戦っているわけなので、先輩達は何と戦っていたんだ、 という話になって成立しないわけなのですが、とにかく第1話の怪獣の見せ方は特に好き。
内輪めいたネタが無いわけではありませんが気になるほどではありませんでしたし、ベリアル先輩の位置づけは若干わかりにくいものの、 先輩達のキャラクター性を知らずとも問題なく見る事が出来ましたし、観測者ポジションが民間人、ウルトラマンは残念風来坊、 と従来作からの切り離しを図った『ウルトラマン』としては、魅力を出せた作品だったと思います。
その『オーブ』としての魅力が、『オーブ』としての物語に収束しえなかったのは、残念でしたが。
これもブランドタイトルとしての試行錯誤の末だったようですが、私は『オーブ』として王道の主題をどう描くのか、 を見たかったですし、そこに繋がる布石は色々と散りばめており、それこそ第23話はド王道だっただけに、 “ガイとジャグラー”の物語とは別に、“オーブと人間と地球”の物語を描く……少なくとも、チャレンジはして欲しかったです。
折角の面白い切り口だったのに、そこから積み上げて統合した、物語としての飛躍に繋がらなかったのが、 最も勿体なく感じました。
好きなフォームは、感想本文でも書きましたが、バーンマイトとサンダーブレスター。……考えてみると、 両方とも武器や光線技ではなく打撃主体で、つまるところ肉弾戦が好きな模様です。サンダーブレスターの残虐レッドファイトは、 徹底したラフファイトの描写が素晴らしかったです。光線技も、八つ裂き光輪の工夫など面白かったですが、 だいたい、通用しない前振りだったのが残念(^^; バーンマイトにも活躍の場がもっと欲しかったですが、 各種フォームの見せ場の物足りなさは、話数の問題もあって仕方のない所か。
好きなキャラは…………実は、特に居ません(^^;
ガイさんは面白かったけど、好き、とはちょっと違うしなぁ……(笑) 嫌いなわけではないのですが、何か思い入れがあるのか、 と問われると首を左右に振ります。残念ヒーロー回の超新星としては素晴らしかったですが!
ジャグラーは物語の着地点が見えない内は話を引っかき回すトリックスターとして面白かったのですが、 後半あまりにもジャグラーにおんぶにだっこになりすぎたのは、正直少々引き気味になってしまいました。また今作の構造上、 ジャグラーというキャラクターに説得力を持たせるには、ナターシャの現し身であるナオミを魅力的に描く必要があったのですが、 ジャグラーが熱心に肉付けされるのに比べるとナオミの扱いはおざなりかつ場当たり的になってしまい、 バランス感と統一性の不足から来る完成度の低さを助長する形に。
ナオミはもしかしたら、バリバリ仕事をして駄目男の1人や2人ぐらい養う甲斐性持ち、みたいなイメージだったのかもしれませんが、 それにしては諸々の反応が小娘すぎますし、感想本文でも書きましたが、特にファッション面において最初から最後までキャラクターとしての統一感がなかったのは致命的。
過去と現在を繋ぎ、ガイの心の傷を癒やす、という劇中のポジションは非常に良いのに、 夢野ナオミという個人としてはひどくぼんやりした存在になってしまいました。
なんというかナオミがもっと魅力的なキャラクターであれば、ジャグラーはもっと魅惑的な変態になれたと思うので、 そこはとても惜しかったと思うのです。
まあジャグラーというキャラクターに説得力を与える背景に関してはTV本編以外で描くつもりだったのかもしれませんが、 その結果としてガイ−ジャグラー−ナオミ(SSP)という、物語の構造に安定感を与える役割の三角構図がいびつになってしまい、 片側が常に不安定な三角形が置かれた事で、その軸線も真っ直ぐに引けなくなってしまいました。
繰り返しになりますが、こういった諸々の要因により物語を貫く軸線を取れなかった為に、 最も太い辺であったガイ−ジャグラー間の直線を軸の代わりにして物語をまとめるしかなかった、 というのが今作の最終的な着地点への不満に繋がります。
いっそキャップはラストシーンで、「これはひいひいお祖母ちゃんの分! これは私が作ったスープの分!」 とガイの顔面と鳩尾に握り拳を叩き込めば良かったのではないか。
「ナオミ……いいパンチだったぜ」と笑顔でサムズアップしながら地面にひっくり返るクレナイ・ガイ、 というラストはそれはそれで見たかった(おぃ)
というわけで誰か1人好きなキャラを挙げるなら、エピソードの力も加えて、馬場先輩という事になりますでしょうか。 馬場先輩は良かった。
ガイもジャグラーも神話世界の住人であり、人間くさい神様のモラトリアムに巻き込まれた地球人の物語、 という面が今作にはあると思うのですが、その神様の視点と人間の視点が鮮やかにクロスする瞬間というのが、 到達点として見たかったなぁ……と、今作を振り返るとどうもこんな感じで、 もう少しで凄く好きな作品になっていたのではないかと、期待とズレてしまった点が気になるのが如何ともしがたい(^^;
最終的に求めていたものとは違ってしまいましたが、久方ぶりに《ウルトラ》シリーズに振り向かせてくれた作品として、 印象深い一作となりました。
- ★構成分析★
- 〔評〕は、大雑把な各エピソードの5段階評価。高〔◎>○>−>△>×〕低。
ただし、どこに基準を置くか、を考えるとややこしくなるので、相対的というよりは印象評価だと思ってください。 記憶と感想を読み返してのものなので、微妙にリアルタイムで見た時と、違っている所もあるかもしれません。
話数 サブタイトル 監督 脚本 備考 評 1 「夕陽の風来坊」 田口清隆 中野貴雄 ○ 2 「土塊の魔王」 田口清隆 小林雄次 △ 3 「怪獣水域」 田口清隆 林壮太郎 〔バーンマイト発動〕 − 4 「真夏の空に火の用心」 アベユーイチ 三好昭央 ○ 5 「逃げない心」 アベユーイチ 小林弘利 〔ハリケーンスラッシュ発動/ガイ、餌付けされる〕 ○ 6 「入らずの森」 アベユーイチ 中野貴雄 △ 7 「霧の中の明日」 市野龍一 小林雄次 − 8 「都会の半魚人」 市野龍一 小林弘利 × 9 「ニセモノのブルース」 冨田卓 中野貴雄 ◎ 10 「ジャグラー死す!」 冨田卓 小林雄次 − 11 「大変!ママが来た!」 田口清隆 黒沢久子 △ 12 「黒き王の祝福」 田口清隆 黒沢久子 〔サンダーブレスター発動〕 ○ 13 「心の大掃除」 武居正能 足木淳一郎 〔総集編〕 − 14 「暴走する正義」 アベユーイチ 林壮太郎 − 15 「ネバー・セイ・ネバー」 アベユーイチ 小林弘利 〔キャップ入院/ガイ、傷心旅行へ〕 △ 16 「忘れられない場所」 市野龍一 三浦有為子 〔ガイ、傷心旅行〕 − 17 「復活の聖剣」 市野龍一 小林雄次 〔ガイ帰国/オーブ:オリジン覚醒/ジャグラーリング消滅〕 − 18 「ハードボイルド・リバー」 武居正能 瀬戸大希 ◎ 19 「私の中の鬼」 武居正能 三浦有為子 × 20 「復讐の引き金」 冨田卓 内田裕基 × 21 「青いリボンの少女」 冨田卓 柳井示羊緒 × 22 「地図にないカフェ」 市野龍一 勝冶京子 △ 23 「闇の刃」 市野龍一 幸修司 − 24 「逆襲の超大魔王獣」 田口清隆 小林雄次 ○ 25 「さすらいの太陽」 田口清隆 中野貴雄 〔ガイ、さすらいの旅へ〕 ×
(演出担当/田口清隆:7本 市野龍一:6本 アベユーイチ:5本 冨田卓:4本 武居正能:3本)
(脚本担当/小林雄次:5本 中野貴雄:4本 小林弘利:3本 黒沢久子:2本 三浦有為子:2本 林壮太郎:2本 三好昭央:1本 足木淳一郎:1本 瀬戸大希:1本 内田裕基:1本 柳井示羊緒:1本 勝治京子:1本 幸修司:1本)
脚本は、小林雄次と中野貴雄の2人がシリーズ構成を務めて要所を担当し、その他11人、 合計13人が参加するという非常にバラエティに富んだ陣容。
ガイとジャグラーを中心に魔王獣を絡めた本筋となるストーリーを散りばめつつ、一話完結エピソードに振り幅を持たせる、 という両取りを狙った体制かと思われますが、感想本文で何度か触れたように、『ウルトラマンオーブ』として何をしたいのか、 という軸の弱さが生じてしまい、そのデメリットを最後まで解消する事が出来ませんでした。
どういった製作環境なのかは伺い知れませんが、参加脚本家の数の多さが、テーマだけを投げ込んでおいて、 それに対して『オーブ』全体としてどう向き合うのかは不明瞭、という今作の短所を増幅してしまったようには思えます。
勿論これに演出陣が絡みますので全て脚本家に帰するわけではないですし、 シリーズ知識が無いのでこの体制が標準的なのか特徴的なのかの比較検討はできないのですが、 2クール25話とこの体制の噛み合わない部分もあったのでは、と思うところ。
逆に、歯車が噛み合った時に出来の良い単発エピソードが飛び出すというメリットはあって、 私が今作でベストにあげる2話はどちらも単発エピソードであったりはするのですが(^^;
近年は東映特撮に偏ってどっぷりだったので、演出・脚本ともに馴染みのない名前ばかりだったのは、 新鮮な体験で面白かったです。
全体の構成は、
〔魔王獣編(先輩カードとフォーム入手)→単発エピソード→サンダーブレスター〜オーブ:オリジン編→単発エピソード→最終決戦〕
2クールという事もあって明解な5部構成。
出来れば物語中におけるオーブの位置づけやSSPの立ち位置を明確にしてから魔王獣を出せれば良かったのでしょうが、 フォームチェンジの関係もあり最初に勢いよく魔王獣と戦う事になり、結果としてその二つが後手後手に回った事が、 ボディブローのようにジワジワと最後まで効いてしまう事に。
レギュラー少なめなので各エピソードで特徴を出しつつ、SSPの各キャラ回といえるのが、 「ニセモノのブルース」(ジェッタ)、 「暴走する正義」&「ネバー・セイ・ネバー」(シン)、「私の中の鬼」(キャップ)、ですが、 どれもキーワードになっているのが“夢”になっているのは、一つ特徴。「霧の中の明日」には予知夢少女が出てきましたし、 人間側のキーワードが“夢”ともいえますが(「地図にないカフェ」は宇宙人の“夢”の話とはいえる)、 ではそれがガイ×ジャグラーという、最終的な話の本流と繋がるのかというと、全く繋がってこないのが、 今作の困った所です。
もしかしたら最初から意図的に、ガイとSSPの交点は作らなかったのかもしれませんが、 それはそれでどうかと思いますし(^^;
○以上を付けたのは、1・4・5・9・12・18・24話。
1・4・5・24話は、怪獣バトルエンタメとして、出来が良くて好き。12話は少々複雑で、 前後編の話の作りとしてはガッタガタだけど、とにかくサンダーブレスターが素晴らしかった票(笑) 話がもう少しまともなら◎だったし、逆にサンダーブレスターが良くなかったら、×だったかもしれません(^^; 11−12話は今作で唯一、前後編的なエピソードを同一の脚本家が書いているにも関わらず、 後編のテーゼがほぼ前振りなく突然出現する、という不思議な回。単に脚本家の技量的問題かもしれませんが。
で、ベストな2本が、9話と18話。
△以下を付けたのは、2・6・8・11・15・19・20・21・22・25話。
この中で、単純に話の出来が悪く感じたのが、2・11・19・20話。メタネタにノれなかったのが、6・22話。 テーマの描き方或いはそれと関わるSSPの扱いに疑問というのが、8・15・21話。そして期待していた集約が見られなかった事について、 厳しめに25話。
後半ちょっと辛めになっているのは、私の求める物語性と、今作の最終的な着地点のズレが要因といえます。
派生作品を見るとまたちょっと変わってくる所もあるかもしれませんが、現在のところは、予定なし。
以上、『ウルトラマンオーブ』感想でした。
「紅に燃えるぜ!!」
(2017年6月17日)
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