■『ウルトラマン80』感想まとめ5■


“ウルトラマン ウルトラマン
頑張れみんなの ウルトラマン”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『ウルトラマン80』 感想の、まとめ5(33話〜40話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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◆第33話「少年が作ってしまった怪獣」◆ (監督:湯浅憲明 脚本:阿井文瓶)
 OP映像が大幅に変更されて、花の咲き誇る公園を駆けたり花を見つめてニヤニヤする矢的先生の姿にえらく尺を割き、 いったいどこを目指して……と思ったら、後半はひたすら、津波、爆発、暴風、の怪獣災害が大写しにされ、 『80』のウリといえばウリですが、肝心の80の姿が見当たりません。
 ……あ、ラストは、光線銃を構える矢的先生3連発で、僕が! モテモテの! 主人公です! と、なんかそれらしく締めました。
 病院近くの夜空に巨大な怪獣が浮かび上がるが、UGMのレーダーなどには全くその存在は検知されない。 城野と共に病院を訪れた矢的は、難手術を控えるも健気に振る舞う少年が、 内に抱えた強い恐怖心から怪獣騒ぎを起こして手術日を引き延ばしている事に気付くと、その病室を訪れる。
 「怖くないものに向かっていく。それは当然のことじゃないかな。怖いものに向かっていく。それが本当に勇気のある事じゃないかな」
 「ウルトラマン80なんかも、怪獣が怖いのかな? 怖くても、向かっていくのかな?」
 「そうだと思うよ」
 大変心配していたのですが、美人ナースに鼻の下を伸ばす事もなく、矢的先生にしては極めて真っ当な説諭が飛び出し、 何故、学園で、それが出来なかったのか。
 本当の勇気を諭され、手術に立ち向かう事を決意した少年だが、病室で手慰みに作っていた自作の怪獣に謎の光が入り込むと巨大化してしまい、 ぼくのかんがえたさいきょうのかいじゅうは、攻撃を受けるほどに設定通り強化されていく!
 防衛軍の戦闘機が次々と撃墜され、火炎放射を浴びた矢的は、海中に転落から80へと変身。
 設定通りの倍返しを受けまくって危機に陥る80だが、胸のパーツが外れやすい、 と自作ゆえの作りの甘さも怪獣にそのまま継承されており、少年のアドバイスで胸部を攻撃する事で、逆転勝利。少年の手術も、 無事に成功するのであった。
 ……なにぶん阿井脚本なので、80がぱーっと奇跡を起こして少年を救ったらどうしようかと身構えていたのですが、 それが無くて一安心。
 ただ、怪獣撃破→手術開始→謎の光の正体は「怪獣の魂」だったと説明される→手術成功! は物凄くリズムが悪く、 怪獣の原因となった謎の光が正体不明のままなのも確かに据わりが悪いのですが、何故そこに説明を挟んでしまったのか。
 時々出現しては物などに入り込んで怪獣化する「怪獣の魂」とやらも強引にひねり出した感が凄いのですが、『80』初期設定ならば、 手術を控えた少年の脅えやストレスがマイナスエネルギーを生んで玩具に乗り移った、で成立しそうなところを、 その設定は消滅したので……と、途中から強引に軌道修正したような印象。
 そんなわけで、どうも最後まで締まりきらないのはいつものパターンながら、自作系怪獣のグロテスクな造形は印象的で、 悪くないエピソードでした。
 お花畑回はノーブレーキで岸壁からダイブしましたが、第31話以降の基本構造(子供ゲストと矢的が関わる事から話が広がっていく) は、特に矢的先生の好感度という部分で、物語に入りやすくなっているのは嬉しい改善点。
 そしてそんな矢的の行動を、黙って頷いて認めるだけでぐんぐんカリスマ性の上がっていくキャップ に痺れます(笑)
 次回――またも予告でほとんど喋っている系ですが、今作に、予告40秒は真剣に長すぎるのでは。

◆第34話「ヘンテコリンな魚を釣ったぞ!」◆ (監督:湯浅憲明 脚本:石堂淑朗)
 「おい、離せ! 竿を離すんだ!」
 「一万円もしたんだい!」
 「おまえの命は一万円か! 離せ!」
 ちょっと困った感じもありつつ、手応えを見て危険を察知するや子供を助ける釣りおじさんが、いい味を出しているエピソードでした。
 ナレーション「この少年の釣った、あの魚は、果たして怪獣なのだろうか。――まさかそんな事は」
 物語の方は、前回今回と妙にナレーションさんがスリラーを煽り、少年の釣った魚はアンコウ怪獣の子供であり、 それを探して沿岸に巨大アンコウ怪獣が出現するが、てんやわんやの末に子供怪獣を返して大団円となる、 最初から最後まで次回予告から想像される通りの内容。
 まあ、てんやわんやの部分こそが作品の見所とはいえますが、そこに至るまでのサスペンスも楽しみの一つですし、 あまりにも予告から想像された展開そのまますぎて、てんやわんやに辿り着くまで氷点下の気温が続き、 幾ら何でも次回予告が真っ正直に過ぎます……。
 「よし、怪獣を釣り上げるんだ!」
 「「え?!」」
 「釣り上げるんだ!」
 「……了解」
 突拍子もないキャップの命令にさすがのチーフも不満そうな表情を見せるが、巨大アンコウ怪獣が重すぎて、釣り上げ作戦は失敗。 怪獣親子の事情が判明する中、子供を守る為に海に飛び込んだ矢的は80へと変身。
 「エイティー!」
 「き、君! 君の気持ちは、ウルトラマンに通じたんだよ!」
 全然そんな事はないのですが、綺麗な解釈を投げ込んで、釣りおじさんが非常に効果的な存在になっています(笑)
 80の1.5倍はあろうかというアンコウ怪獣との海面での取っ組み合いは大迫力で、80が時間稼ぎをしている内に子供怪獣が到着し、 妙に重々しいBGMで怪獣親子は再会。BGMからはこのまま人類への報復が始まりそうでしたが、 80のハンドサインに従って怪獣は深海へと帰っていき、ラストは皆で釣竿を並べて大団円。
 珍しく80のカラータイマーが鳴らないまま事態が解決するなど、最初から変化球を意図した内容だったのか、 或いは『帰ってきたウルトラマン』などに参加していた石堂淑朗さんの作風なのか、
 ・ホームドラマ風の家庭のやり取り
 ・善良な一般市民(釣りおじさん)がいい味を出して活躍
 ・子供の無神経な残酷さと衝突が描かれる
 ・キャップが愚痴をこぼす
 ・UGM隊員のコミカルな描写が増加
 と、全体的にこれまでとかなり違ったテイスト。面白いか面白くないかで言うと、 全体の7割ほどが刺激の無い状態で進むので評価不能になってしまい、もう少し、次回予告を手加減してほしい……。
 ところで、矢的×子供ゲスト構造の長所は、「UGMへの憧れのまなざし」をスムーズに組み込める事で、これにより、 怪獣電話相談室の激務の結果、一般市民に対する態度の悪い事には定評のあるUGMのヒーロー性も無理なく確保されるのですが、 つくづく、学園編で矢的のUGM参加を秘密にしてしまったのは失策でありました。
 次回――なんだかまた東映特撮風味で、快傑する人とかが出てきそう。

◆第35話「99年目の竜神祭」◆ (監督:合月勇 脚本:若槻文三)
 「三つ首竜の青男。日本じゃあ……二番目の頭突き使い」
 「二番目だと? じゃあ、日本一は誰だ」
 「ひゅう〜♪ ちっちっちちちち、(矢的猛、自分を指さす)はっはっはは」
 イケダ隊員の叔父が神主を務めるやまなみ神社には、人里を脅かした三つ首竜の伝説と、 それを倒した時に胴体から見つかったとされる竜玉が伝わっており、矢的とイケダは、99年に一度行われる竜神祭の見物に訪れる事に。
 部下に連休を取らせるべく「休暇」ではなく「研修」扱いなのが、キャップの泣ける気遣いです。
 盛り上がる竜神祭には大道芸人たちも参加していたが、どこかの世界では犯罪組織の用心棒をやっていそうな見た目をした、 火を噴く赤づくめの男と、怪力自慢の青づくめの男が、天外孤独の身の上で神社に拾われて育てられていた少年・ミツオと何やら不審な視線を交わしあい…… なんとこの3人は、遙か昔に首を切られてこの地から逃げ出した、三つの竜の首それぞれの化身だったのである!
 力の源である竜玉を奪い取る機会を伺い神社に潜り込んでいたミツオは、いつしか人間の世界に愛着を持つようになっていたが、 赤と青は嫌がるミツオを脅しつけ、それを目撃してしまったばかりに成り行きで焼き殺される村人Aが割と酷い扱い。 ミツオは咄嗟に残された幼児を火炎放射から救い、不審な失踪事件という事で、チーフとフジモリも密かに祭の警備に参加する事に。
 だがいよいよ、御神体である竜玉が御開帳される日、それを磨く役目を任されたミツオは竜玉を奪って逃走し、 アカ・アオ・シロ・ギョク――CLIMAXフォーム! により、 3人は巨大な三つ首竜の怪獣・ファイヤードラコへと変貌を遂げる!
 悩めるミツオ少年を目撃した矢的が、もつれ合っている内に二人で崖から転落、そこを青男に襲われて頭突きの一撃で気絶、 そのまま放置される……といったやり取りがあったのですが、怪獣出現したと思ったら、 既にUGMの制服を着込んだ矢的が合流している色々と台無しの展開で、実に『80』。
 矢的は青首竜の頭突きを景気良く受け続け、矢的が凄いのか、怪獣の実力に問題があるのか……人間体の特徴を怪獣体でも用いる (本来の順序は逆ですが)アイデア自体は悪くなかったのですが、怪獣が変身前の矢的にダイレクトアタックを繰り返す事そのものは、 描写上の問題点の方が増えてしまう事に。
 ナレーション「矢的の力は、もう尽きようとしていた」
 から、地面に落としたカプセルを何事もなく拾って変身。吹き付ける強風(操演の糸を見えにくくする工夫?) により土埃が巻き上がる中での取っ組み合いは大迫力で、3色の首を持ったドラゴン怪獣(下半身は二本脚で歩行) は見栄えのするデザインでした。
 頭突きと火炎放射に苦しむ80だったが、ミツオの本性である白首竜が赤首竜に噛みついた隙を突き、 ウルトラ打点の高い飛び蹴りを二連発。額からのビーム、そして必殺光線二連発で赤と青の首を吹き飛ばすと、 最終的には人間に与することを選んだミツオを、竜体の中から取り出すのであった。
 ミツオは竜玉を残して姿を消し、きっと今度は人間として幸せに生きていけるだろう、とその背を見送る矢的……で、つづく。
 ミツオ少年の責任を問うほどの事ではないのですが、こういうエピソードはどうしても、 「幼い子供を遺して景気づけに焼き殺されてしまった村人A」「実の子供のように育てていた孤児に手ひどい裏切りと謎の失踪をされた神主夫婦」 の方が気になってしまい、ミツオ少年が幸せになりそうだからいいよね! と素直に大団円の空気を出されるのは、反応に困るのでありました。
 また演出上は、ラストで神主夫婦の寂しげな表情を捉えていてビターエンド風なのですが、 人外の二人はにこやかハッピーエンドにまとめようとしていて、脚本と演出にところどころ齟齬が見える辺り、 監督は初登板なものの『80』通常営業。
 次回――予告ナレーションさんが妙にフレンドリーな語りかけ口調になったのですが、 あらすじ喋りすぎ問題への祈りが制作サイドに届いたのか。

◆第36話「がんばれ!クワガタ越冬隊」◆ (監督:合月勇 脚本:石堂淑朗)
 「やっぱり5年生にもなると、カブトムシよりクワガタの方がいいもんなー」
 クワガタの越冬を巡る小学生のやり取りを中心に展開し、途中で登場する『電話こども相談室』は、 実在の番組とのコラボ案件でしょうか……?(『全国こども電話相談室』というラジオ番組は当時存在していたが、 劇中では『電話こども相談室』と呼称されている)
 アンコウ回と同じ石堂脚本の方向性なのか、小学生コミュニティにフォーカスしつつUGM隊員のコミカル度が増しているのですが、 コミカル=状況と立場にそぐわない間の抜けた言行・突拍子も無い命令と無責任なリアクションという最悪のパターンで、 よりにもよってキャップが雑に崩されているのが、大変辛い……。
 また、急激な寒気団の到来で逆転現象が生じるかも…… → 去年も逆転現象があった → 80が虚像のビルを持ち上げようとする大失敗、 が笑い話として語られて、去年から80が居た事にされているのですが、「チーフはそれについて知らない」時空のねじれが発生しており、 やはりここは、ハラダとタジマの犠牲によって生まれた新世界Cなのでは……。
 これが、チーフも既知の出来事なら、2クール目〜3クール目の間に何年か経っていてハラダとタジマの異動後に新人二人が加入した、 と解釈できる範囲なのですが、チーフよりUGM加入の遅い若手隊員の方がチーフに説明している為、 ちょっとしたコメディ要素が世界観にニードロップを決めていて困惑します(防衛隊時代の思い出を、 さもUGMで体験したかのように語っている、とも取れますが、そもそも『80』世界に怪獣が甦ったのが、 矢的のUGM参加前後なので…………1クール目と2クール目の間に数年経っている(その間に矢的が教師を辞めている) と考えればいいのか……?)。
 横暴な上級生に愛するクワガタを殺された少年の憎しみが土に埋めたクワガタを怪獣として甦らせ、前年の経験と前夜のドーム事件から、 逆転現象による虚像に違いない、と決めてかかるUGMが大変お粗末な対応を見せ、今作世界においては「巨大クワガタの蜃気楼」よりも 「本物の巨大クワガタ怪獣」の方が遙かに合理性が高いので、激しくとんちんかん。
 また、前夜のドーム事件においてはレーダーで確認してから突撃していたのに、今回は何も確認せずに突撃して大破する大失態で、 部隊の練度が物語序盤に戻っているのですが、第34話前後で、新たな次元の扉が開いてしまったのでしょうか……。
 激務の続きで体が休暇を求めているのか、クワガタ怪獣の頭部のハサミの交差部分にピンポイントで突撃して撃墜された矢的は、 80に変身。
 肩をすくめるなどユーモラスな仕草を交えながら肉弾戦を展開するもマウントからの連打を浴びると、 クワガタ怪獣の生みの親ともいえる少年に助けを求める視線を向ける役者ぶりを見せ(カラータイマーも鳴っていないので明らかに芝居)、 自らの憎悪が怪獣を生み出した事を認める少年。
 ここでUGM隊員が上級生に誠実な謝罪を促して少年もそれを受け入れ、 80とUGMが介入する事で怪獣出現の根本を解決していくのは悪くない流れだったのですが、そこに至るまでの経緯 (主にUGMの対応)が酷すぎたのが、とにかく残念でした。
 怨念のパワーを失ったクワガタは80逆襲の打点の高い飛び蹴りを受けて地底へと戻っていき、クワガタの墓を掘り返す少年たち。 仲直りした少年たちへのサービスとして、矢的はウルトラ奇跡でこっそりクワガタを生き返らせ、 皆で仲良くクワガタの越冬を目指すんだ、と大団円気分を出すのですが…………矢的先生はそういうノリで、 人の命も甦らせたりしそうなのが、ちょっと怖い。
 次回――メタ発言を連発する予告で、バルタン星人登場。

◆第37話「怖れていたバルタン星人の動物園作戦」◆ (監督:外山徹 脚本:石堂淑朗)
 サブタイトルが、三行に、なった!!
 UGMは世間向けの広報戦略として、抽選で選んだ子供記者(少年少女1名ずつ)に基地内部や訓練風景を紹介し、 爆風の中に前転で突っ込んでいく事で、怪獣野郎に対する恐怖心を徐々に麻痺させていく効果があります!
 子供記者からの質問に対して答えに詰まり、部下に振って誤魔化そうとする石堂脚本回のキャップが引き続き辛く、 「どうしてUGMがピンチになってからではないと80はやってこないのか?」という禁断の問いに対しては、 チーフが「人事を尽くして天命を待つ」の「人事」がUGMで「天命」が80なのだと捻りだし、 アバン2分+OP挟んでAパート約6分、予告であれだけ煽ったバルタン星人のバの字も出ないまま、 子供と触れ合うほのぼの路線で進行。
 掘り下げの薄いUGMメンバーをコミカルに描いて愛嬌をつけようとする狙いは悪くないのですが、 (どんな事情があったのかはわかりませんが)そもそもハラダとタジマをリセットしなければ……と思うところですし、 “コミカルな表現”の幅が狭い(概ね、すっとぼけた反応をするか、悪態をつくか)ので却ってキャラの濃淡が失われてしまい、 新人二人はむしろ区別がつかなくなってくる事に。
 また、崩されるのがキャップ・チーフ・新人二人に偏っていて、矢的と城野は露骨に巻き込もうとしない為、 作劇の不平等感も目立ちます(これなら、誰か1人をコメディリリーフに決め打ちした方が、色々とスムーズ)。
 子供記者の抽選に外れてやさぐれる少年にようやく悪魔の囁きが接触……したと思ったらその少年がいきなりUGMの基地内部に居る、 謎展開。
 そこから2分以上も経ってから、少年は記者の少年に「お母さんが事故に遭ったと伝えに来た」事が判明するのですが、 スペースマミー体験飛行から戻ってきた少年少女に極めて冷静に「普段と声が違う」と指摘されると露骨に動揺し、あまりにも雑。 なんの確認作業もせずに全方位素通しのUGMの対応も前回に続いて煮すぎた春雨のようで、 UGMのレッドマフラー隊化が、さすがに辛い……!
 あれこれあって少年が偽物らしいと判明するも、チーフの命令を振り切り、 敢えて一対一で対峙する道を選んだ矢的の前で少年が現した正体は、バルタン星人。その目的は、80をバルタン星に連れ帰り、 下等動物としてバルタン動物園で見世物にする事であった……つまり、地球はどうでもいいまさかすぎる展開(笑)
 矢的(今回も敵性宇宙人に正体バレバレ)と二人きりになるだけなら何もUGMに潜入しなくても良さそうなものですが、 恐らく「シルバーガルも必ずセットでお願いします」とクライアントから無茶を言われて、泣く泣く高難度ミッションに挑む事になりました。
 余裕かましていたらバルタン母船にキャプチャーの危機に陥った矢的は、(人間として、ギリギリの限界まで努力するんだ) とすぐに変身しない理由を自分に納得させて機体の脱出装置を作動させ…… それ自体は《ウルトラ》シリーズのぶつかりやすい命題への解答として納得のいくものなのですが、 矢的の場合は当人が人間(地球人)なわけではないので、敢えて擬態である人間として努力する必然性は薄く(序盤だったら、 生徒への手本とか意味づけできましたが)、高度に闘争本能の発達した先進種族として「人間の自助努力を妨げないようにする」 視点とも違うので、こだわる場所が明らかにズレています。
 そもそも、胡散臭いとわかっている少年の正体を「人間として」UGMの仲間に伝えようとするのではなく、 正体を暴く為に命令を無視して一対一の状況を作り出している時点で「80として」行動しているわけで、序盤からの欠陥ですが、 どうにも地球人格とウルトラ人格が統合ミスで錯乱気味。
 パラシュートを切断されて結局80に変身した矢的(努力の成果を活かして「人間として」一撃入れる前に努力を無に帰されるので、 どうにも締まらない展開)は、巨大化したバルタン星人の瞬間移動をウルトラアイによって見切るもハサミと蹴りで猛攻を受けるが、 激しい空中戦に持ち込むと、ジャイアントスイングからバルタン母船に叩き込み、完全勝利。
 UGMは子供達に大人気! をアピールしつつバルタン星人を登場させ、更にシリーズの命題を盛り込んだ結果、 そもそも矢的先生のアイデンティティが不透明という今作2クール目以降の抱える問題に正面から激突してしまい、 やはり学園設定の消滅後、「矢的猛の地球人へのスタンス」が再設定されていないのは物語としては厳しいところです。

◆第38話「大空にひびけ ウルトラの父の声」◆ (監督:外山徹 脚本:若槻文三)
 トラック事故で死亡した運転手が言い残した通り、事故の原因は怪獣なのか? だが、警察やUGMの調査でも怪獣の痕跡は認められず、 責任逃れの為に苦し紛れの嘘をついたに違いないと、白眼視され責められる遺族の姿が繰り返し描かれて辛い……。
 父が嘘つきでない事を示す為にも、父の言葉通りに強くあろうとする少年は、父の作った凧で大会に参加し、 大空高く浮かび上がる80凧の画は格好いいのですが、劇中の問題はまだ何も解決していないので壮快な映像とどんよりした心象の温度差が大きく、 気持ちの持っていき場に困る展開。
 少年の80凧とガキ大将の怪獣凧の激戦で大会が白熱する中、やにわに黒雲がわき起こると鳴り響く雷鳴に打たれた怪獣凧のイラストが、 巨大怪獣として実体化!
 ナレーション「ナカツ山の、頂上上空に、いつも漂う、怪しい黒雲の中に潜み、乗り移るものを探して彷徨い続けていた怪獣の悪霊は、 凧に描かれた怪獣の絵に乗り移り、魔の神霊怪獣・ゴースドンとなって、その姿を現したのだ」
 凄い勢いでナレーションが説明を付けるのですが、怪獣がここに現れても運転手の証言の真実性には繋がらないような……と思うも、 その辺りの軋轢はマッハで解決した事にされ、UGM出動。
 一番乗りで撃墜された矢的は緊急脱出したところに生身でゴースドンサンダー(放電攻撃の特撮は格好いい)の直撃を受け、 地面に転がって戦闘不能に。
 (……体が動かない。俺は、俺は死ぬのか?)
 さすがのウルトラ戦士も大ピンチのその時、矢的の脳内に突如としてウルトラの父の姿が浮かび上がる!
 「ウルトラマン80、おまえの勇気は死んだのか。肉体よりも早く、おまえの精神は、死に果てたのか。 ウルトラマン80よ、立て! 立って戦え!  おまえの勇気を、正義の矢として、悪を倒すのだ!」
 今回はここだけで、凄く面白かったです(笑)
 有無を言わさぬ迫力で、組長から闘魂を注入された矢的――恐らく、 ウルトラ戦士が瀕死のダメージを受けた時の緊急セキュリティシステムとして、細胞に刻まれたウルトラスピリットが 「四の五の言わずにくされ怪獣どものタマ取らんかいっ!」と全身に命令を送り、一時的に肉体を活性化するのだと思われます―― は闘争本能の命ずるままに立ち上がり、80へと変身。
 本日も得意の飛び蹴りを一発ぶちこむ80だが、またも放電攻撃を受けて大ピンチに陥った上、怪獣の背中のやたら四角い翼(伏線) による暴風攻撃に苦しめられる。怪獣は更に物凄い勢いで飛び蹴りを連発し、意外性とスピード感が重なって、強烈なインパクト。
 苦戦する80は光線技で角を破壊する事に成功すると、 ウルトラ凧紐を巻き付けて自由を奪った怪獣に向けてウルトラ突風を呼び起こす事によって凧揚げの要領で宙に持ち上げ、 凧から生まれた怪獣をそのまま凧扱いしてしまうのは、ここまでくると突き抜けた出鱈目加減で面白かったです(笑)
 目には目を歯には歯を屈辱には屈辱を、とウルトラ渦巻きで怪獣を空中で高速回転させて弄んだ80は、 そのまま地面に叩きつけるウルトラ三倍返し。これが大宇宙において血で血を洗う抗争を繰り返してきたウルトラ族の力だ、 と全身から迸るウルトラオーラを突き刺して逆転勝利を納めるのであった。
 矢的先生は少年に80凧を渡し、怪獣被害の遺族たちは、それぞれが新しい一歩を踏み出し始める……。
 ナレーション「亡き父の願い通り、フトシは、激しい風の中をぐんぐん上がって凧のような強い子になるだろう」
 物語の転機となった凧揚げにかけて、世間の冷たい風に負けず、むしろその中を高く舞い上がっていく強さを少年は身につけていくのだ、 と綺麗にまとめ、ここで止めておけば良かったのに……
 ナレーション「――ウルトラの父の励ましを受けて、悪の心霊怪獣・ゴースドンを倒した、ウルトラマン80の姿を目の当たりに見た、 少年フトシは」
 それもこれも80とウルトラの父のお陰だね! と因果を無理矢理に逆転させた為に、 ウルトラ族のプロパガンダみたいになってしまいました。
 ウルトラの父を出す、というオーダーありきの話だったのかなとは思うのですが、「ウルトラの父を出す」から「ゲスト父子の話にする」が、 “両者の間に特に繋がりはない”ので「唐突に出てきたウルトラの父と80の関係を、全く関係ない少年の心情に一方的に重ねて何か関係があった気分にさせる」 というアクロバットすぎる着地で、潔いといえば物凄い潔さ。
 メインライターだった阿井さんがこの時期に降板されたという事で、石堂さん参加後の路線が更に進められた結果、 家族ドラマとSF要素の結合をナレーションさんに丸投げしているのですが、UGMを無理矢理コミカルに描こうとしない分、 石堂脚本回よりは見やすかった、というのが正直。
 序盤の陰鬱な展開は見ていて辛かったですが、ウルトラ闘魂注入・怪獣の華麗なる空中殺法・ウルトラ凧揚げ、の三点セットで、 最終的には妙な満足感に(笑)

◆第39話「ボクは怪獣だ〜い」◆ (監督:湯浅憲明 脚本:平野靖司)
 少年少女の草野球の最中、グラウンドに落下した小型の空飛ぶ円盤。それは脆くも砂のように崩れ去るが後には小さな球体が残り、 子供たちの醜い奪い合いの末、テツオ少年がそれを呑み込んでしまう。
 急速な眠気に襲われた少年が目を覚ますと、ブースカとカネゴンを掛け合わせたような奇妙な怪獣の姿になってしまって一騒動、 のほのぼのコミカル展開。
 怪獣化した少年は、超能力を操り、高い運動能力を発揮し、頭脳も大学生以上。 みそっかすな自分にコンプレックスを抱いていたテツオ少年は、たとえ奇怪な姿形になろうとも、怪獣である自分の能力に心を奪われる。
 「ボクやだよ! ボクこのままがいいよ〜。だって、ボクここのままの方が、なんでも出来ちゃうんだもん」
 からいきなり、おまえの教育が間違っていたんだ、と父が母をなじりはじめるのが、凄く80年というか『80』というか(笑)
 母は母で、毎晩飲んで帰ってきやがってこの兵六玉、と息子の前で父にやり返し、 検査の為に連れてきたUGMから意気揚々と出て行くテツオ怪獣を野放しでどうなる事かと思われましたが、 一時は持て囃してくれた友達からも冷たく扱われ、その姿ゆえに方々で悲鳴をあげられ、 どこにも居場所が無い事を思い知った少年の前に現れた矢的は「努力せずになんでも出来るようになるのは果たしていい事なのか?」 と問いかけ……や、矢的先生が、マトモだ。
 「なんでも、出来るようになった代わりに、友達を失っちゃ、つまんないだろう?」
 苦節3クール、ここまで大変長かったですが、生徒達の年齢を思春期ダイレクトにしてしまった事でその抱える「(家庭の)問題」 の難度を引き上げてしまい結果として矢的先生の手に負えなくなってしまった序盤の問題点を解決する為には 「矢的先生を小学校の教師にすれば良かった」という解が導き出され、その場合“学園ドラマ”にはならなかったかもしれませんが、 良くも悪くも収まるところに収まった感。
 基本的に、劣等感から“大きすぎる力”に手を伸ばしてしまった人間の暴走と孤立、を描いているのですが、 それを小学生スケールに落とし込むに際して、欲望の趣くままに力を振るう行為を「食欲が抑えられない」 で表現したのが軟着陸への導線として上手く、自分を見捨てたと思った両親が、商店街の人などに謝っている光景を見たテツオ少年は、 力よりも、繋がりを選ぶ。
 悔い改めた少年を確認した矢的は物陰で変身するとミクロ化して少年怪獣の体内に飛び込み、80の活躍シーンもばっちり確保。 少年を怪獣化していた宇宙植物の種子を撃破すると少年は無事に元に戻り、 30話台の『80』スタイルにきっちり合わせた上でまとまりの良い、平野さんの技量の確かさを感じる一本でした。
 ラスト、どういうわけか城野隊員と一緒に少年野球を見学しに来た矢的は、宇宙植物の種子は宇宙人からのプレゼントだったのかも…… とロマンチックなポーズを見せて残念ポイントを稼ぎ……体内で戦っていた種子、物凄く邪悪な感じで、 どちらかというと侵略寄生植物感満載でしたよね!(相手に悪意がなくとも、浅はかに力を求めると大変な事に成りかねない、 というエピソードの主旨から、善悪の判定を濁したのでしょうが)
 結論:安易に外来植物を受け入れるの、良くない。

◆第40話「山からすもう小僧がやって来た」◆ (監督:湯浅憲明 脚本:水沢又三郎)
 主題歌が、主題歌が、変わってしまった……! けっこう好きだったので、残念。
 「セラ先輩! 来てくれてたんスか!」
 「やっと休暇が取れたんでな。今日から、俺がビシビシしごくぞ!」
 UGMでは気弱な丁稚ポジションの広報セラも、かつて所属していた相撲部に顔を出すと 面倒くさいOBに早変わりなのが凄く80年ですが、 「やっと休暇が取れた」の言葉に漂う社会人というかUGMのブラック体質が一抹の哀愁を漂わせます。
 相撲部が合宿所を構えている村にはすもう小僧の伝説があったが、その正体はなんと、地響き怪獣。人間の童子の姿で現れて、 相撲さえ取っていれば満足し、 100番取って気が済むと10年でも20年でも眠っているというすもう小僧の存在はUGMの古強者たちには常識として処理されていくのが、 冒頭かなりエキサイティング(笑)
 「相撲取ろうよ!」
 そんなすもう小僧が目を覚まし、たまたま居合わせた泥棒コンビ(わかりやすく抜けたところのあるコメディリリーフ) に利用されて街に降りてしまった事で起こる珍騒動が描かれ、「山の怪異」と「人の欲望」を軸とした昔話調の物語がコミカルな味付けで展開するのですが、 「部下を矢面に立たせて逃げ腰のチーフ」とか「素人に毛が生えたような小悪党にあっさり人質にされる城野隊員」とか 「急に癇癪を起こすキャップ」とか、コミカル=「UGMがポンコツになる」のが、引き続き辛い。
 すもう小僧を利用して一儲けを目論む泥棒2人組だが、小僧は電気ショックで怪獣ジヒビキランに巨大化してしまい、 矢的は80としてジヒビキランと100番目の相撲を取る事に。基本、巨大戦の余波における周辺被害はノーカウントではありますが、 家一軒潰した後に、「よし、場所を変えよう」とか爽やかに言われるのはさすがに困惑します(笑)
 終始明るくまとまって割り切った変化球と思えばこれはこれで……の内容でしたが、 現在『80』のストライクゾーンが行方不明の真っ最中なので、どこへ行くのかウルトラマーン。
 EDテーマも変更となり、OP・EDともに映像は全くそのままなので、違和感が凄い(その内慣れるかもですが)。

→〔まとめ6へ続く〕

(2021年2月21日)

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