■『ウルトラマン80』感想まとめ3■


“レッツゴーU・G・M! U・G・M!”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『ウルトラマン80』 感想の、まとめ3(17話〜24話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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◆第17話「魔の怪獣島へ飛べ!!(前編)」◆ (監督:湯浅憲明 脚本:阿井文瓶)
 たぶん本邦初公開! UGMの基地ビルの形は、上から見るとU・G・M!
 東京南方・潮風島で観測されたデータに不審を抱くキャップだが、上層部の横槍により、 休暇の名目でイトウチーフが単独調査に向かう事に(相変わらず、長官とキャップの厚い信頼関係が描かれ、 かつての戦いをくぐり抜けた同志感)。
 とりあえずハワイアンショーが挿入されると、東映特撮と勘違いしそうになりますが……て、 ステージに思いきり「行川アイランド」って書いてあるーーー!!(笑)
 ……房総か、ここ(行川アイランドは、この当時の特撮作品にしばしば出てくるロケ地)。
 ところが、調査中のチーフが「あれは!」の言葉を残して消息不明になり、増援として派遣された、矢的・ハラダ・タジマの3人は、 海岸で切ないキャンプ生活を送る事に。
 訪れた島は何故か無人で、姿を見せた怪獣は謎めいた美女――ゲストヒロインの美人ぶりは今回ポイント高い―― を手掴みにしたまま海中へと姿を消し、ふと気がつくとレジャー施設には人々の姿が戻っているが、その首筋にいずれも、 まるで吸血鬼に噛まれたかのような傷跡が……ロケ×タイアップ×前後編という事でか、 通信の途絶・不自然な街の様子・謎の女・不審な人々、とスリラーの定石を丁寧に散りばめていくミステリアスな展開。
 ……まあその中で、オレンジの制服でドタバタと動き回る矢的らの姿がやや間抜けになっていますが、UGMの基本スタンスといえば、 基本スタンス(笑)
 夜を迎えた島には謎の霧が発生し、スペクトル分析の結果、思考力をマヒさせる作用がある事が判明。霧に操られた人々は、 洞穴から伸びる触手に生き血を吸われ、更には丸太を手に矢的たちへと襲いかかり、 とりあえず撃とうとするな、ハラダ。
 謎の美女に助けられた3人は、朝になって平穏を取り戻した島で女を捜すが、再び怪獣が出現。
 「あれは……イトウさんよ。イトウさんなのよ!」
 女は怪獣の正体はイトウであると主張し、矢的がウルトラアイを使うと、それが真実どころか女の名前までわかってしまって、 凄いぞウルトラアイ。
 事態はだいぶ深刻なようなのですが、怪獣に重なる妙にしょんぼりしたイトウの姿が、笑いを誘って困ります。
 発光現象と共に巨大タコ怪獣が出現し、触腕の一撃を叩きつけられたハラダとタジマが気絶したのをいい事に80に変身する矢的だが、 タコ怪獣とイトウ怪獣に挟まれて大ピンチ。どうやら両者は、洞穴から響く不気味な咆哮に操られているらしい、 とナレーションさんが煽りまくって、80絶体絶命のまま、つづく。

◆第18話「魔の怪獣島へ飛べ!!(後編)」◆ (監督:湯浅憲明 脚本:阿井文瓶)
 ナレーション「が、その瞬間、ラブラスはダロンの首を一撃した!」
 80の首を刎ねるかと思われたイトウ怪獣のハサミハンドがタコ怪獣の顔に画面一杯で突き刺さるのは、インパクトのある絵。
 ナレーション「怪獣ラブラスにされたイトウ隊員は、その精神力で、彼を、操ろうとする咆哮と必死に戦い、遂に打ち勝ったのだ!」
 これが、先の怪獣大戦(仮)の生き残りの力だ!
 ナレーションさん怒濤の説明のどさくさに紛れ、80はウルトラ投げやりでタコ怪獣を撃破するが、エネルギー切れで一時撤退。 イトウ怪獣は島のいずこかに姿を消し、ハラダとタジマは、なんとか生きていた。
 本部では霧の分析が進められ、キャップの話し相手が居なくて困ったのか、広報のセラが再登場。
 「霧の分解は無理です! ……あれは宇宙のカオスなんです! とても薬品分解はできません!」
 分析の報告を持ち帰った城野、意味はわかりませんが、勢いはある台詞(笑)
 「そんな〜。チーフが怪獣のままだなんて、キャップ、なんとかして下さい!」
 「……よし爆破だ」
 考え込んだ末に物凄く即物的な内容を渋い声で口にするので、いったい何事かと思いましたよキャップ!!
 キャップはイトウ怪獣の、じゃなかった、洞穴の入り口を爆破する事で霧の噴出を押さえ込むよう現地組に指示を出すが、 謎の女によって霧の中に侵入するのに必須の防毒マスクが破壊された上に工作用の爆薬を奪われてしまい、 果てしなく杜撰なテント。
 爆薬抱えた女を追う内に霧に巻かれてタジマが意識を失い、止めるハラダを殴り飛ばして気絶させた矢的は、目を覚ましたタジマに (霧が原因と思い込ませて)ハラダの介抱を頼むと自らは霧の中に突入していき、この辺りから加速をつけて雑になっていくのは、 凄く『80』(笑)
 「あなたはどうして、この霧の中で平気でいられるの?」
 「……君も宇宙人なのか」
 ウルトラ体質により霧の中に踏み込んだ猛は女に追いつき、女――ホシ・サワコが、20年前、 怪獣に宇宙船を襲われて地球に不時着した宇宙人であり、イトウの婚約者である事を知る。 親切な夫婦に拾われて地球人として育てられていたサワコだが、サワコと同じく地球に辿り着いていた怪獣が20年ぶりに活動を再開。 イトウの怪獣化の顛末を語ったサワコは、逸る復讐心のまま、怪獣の潜む洞穴を破壊するが、 それによって大怪獣ギマイラが地上へと姿を現してしまう!
 事ここにいたって防衛隊の戦闘機が出撃するが次々と撃墜されていき、矢的が、 怪獣の角から放たれた怪光線を80カプセルで弾き返しながら変身するのは、格好いいシーン。
 だがギマイラの戦闘力は80を凌駕しており、物凄い勢いで蹴り転がされる80の姿に後のガイアを思い出すところですが、 今回の特撮監督である佐川和夫さんが、好きなのでしょうか、これ(笑)
 80の危機に、背後からギマイラへと不意打ちを仕掛けるラブラス。
 ナレーション「しかし、果たしてラブラスの力で、ギマイラを倒す事ができるのだろうか。……それは無理だ! ラブラスが危ない!  イトウチーフにもしもの事があったら」
 いや、既に、もしもでは……と思っているに内に、一本角で胸をぐさっと突き刺されたラブラスは倒れ、 サワコの言った通りに死によって人間の姿に戻ったイトウの体が海岸に転がると…… 空気を読まずに軽快なテンポで流れ出す逆転テーマ(主題歌インストアレンジ)。
 この10年に見た中でも屈指の気がするBGMカタストロフの巻き起こる中、80渾身の必殺キックにより、 大怪獣は内部から木っ葉微塵の大爆発!
 だが……
 ナレーション「怪獣ラブラスにされたイトウ隊員は死んだ」
 もともとナレーションを多用する作風ですが、今回は特に大暴れ。
 ナレーション「猛は、イトウチーフの死を知って、愕然とした。もし代われるものなら代わりたいと、思い続けた」
 イトウの遺体と、それにすがりついて泣き崩れるサワコの姿を目にした矢的は悲嘆にくれ、 わかりやすさ優先にも度があるメタな心情説明により、風情のない事この上ありません。
 「怪獣でもいい。なんでもいい。生きていて欲しかった……」
 イトウを心から愛するサワコは、矢的が空を見上げて悲しみにくれている間に自らの命を捧げてイトウを蘇生させ、 悲劇を回避する為にラスト1分で別の悲劇が唐突に発生するという、唖然とする展開。
 成り行きとしては「突然の奇跡で復活」と全く変わらない上で、「突然の奇跡で復活するが代わりにゲストが死ぬ」という、 レギュラーメンバーの危機を煽った上で退場させない為だけの悲劇の付け替えが堂々と行われていて、 もはやなんの為の悲劇だったのかさえわかりません。
 気を遣ったキャップはイトウに5日間の特別休暇を与えて本部へと帰投するが、なにこの、生き残った方の生き地獄……。
 「サワコはなにも言わなかったが、俺は彼女が宇宙人だと知っていた。宇宙人でも地球人でもいい。みんなで力を合わせて、 平和な世界を……そう思っていた。……しかし……。……サワコは俺の中にいる。……サワコの為にも、俺は戦うぞ」
 一人の修羅の誕生に、声をかけることも出来ない矢的であった……で、つづく。
 デビル城野回と比べると、分業体制によりイトウを元に戻す方法を検証している分マシでしたが、 それが駄目となるこれといった手段のないままイトウが死亡→ゲストヒロインが身代わりになって死亡、 となり結局は前後編かけて主人公とこれといって関係性のないゲストヒロインが死亡するのを見せられる、 なんとも言いがたいエピソードに。
 テーマ的には最後にイトウがまとめるように、星を越えた愛の存在みたいなものだっと思われ、 当時の物語作法ではあったのかもしれませんが、それは「死ぬ」以外の形で見せて欲しかったと思うところです。

◆第19話「はぐれ星爆破命令」◆ (監督:野長瀬三摩地 脚本:若槻文三)
 本来の軌道を外れ、地球との衝突コースを取る巨大なはぐれ星・レッドローズ。地球滅亡回避の為に残された手段は、 レッドローズの破壊であり、全地球の総力を結集した命がけの作戦遂行を課せられた日本支部。だが、 爆破作戦に巻き込まれる事になる4つの惑星の一つに、生物が存在する事を、矢的猛/ウルトラマン80は知っているのだった……。
 ナレーション「ガウス星には、生物が居る事を、矢的は知っていた。しかしその事を話せば、自分が、ウルトラマン80である事が、 わかってしまうのだ」
 矢的は、他の手段がないかとイトウに訴え(キャップは、対策会議に出席するため本部に出張中の名目でお休み)、 ウルトラマンゆえの葛藤がならではの面白さとはなりましたが、矢的の場合、「生徒を守る」事にはこだわっても「地球(人)を守る」 事にはいまひとつ強い動機付けが感じられなかった為(部分的にイコールではあるのですが、前者の要素が現在、 物語から切除されてしまっているので……)、「地球も救う、ガウス星の生命も救う」という選択肢の可能性を広げる事よりも、 「正体判明を防ぐ」方が重要な扱いになってしまったのは、なにやら本末転倒の感。
 ここで、「地球(人)を守る」「地球に居続けたい」事への強いこだわりが物語の積み重ねで明示されていれば、 葛藤しながらも地球優先の行動を取る事にスムーズに繋がるのですが、 学園要素+初期の動機付けが物語に反映されないのが、つくづく辛い。
 別に劇中に直接登場しなくても、(僕はそれでも生徒達を守りたい……)と独白させるぐらいはあって良かったのでは?  と思うのですが、学園要素を匂わせもしたくない様子に、1クール目への強烈な反動は感じます。
 「我々の任務は地球を守る事だ。その為の犠牲はやむを得ない」
 イトウ・ハラダ・タジマがこの任務に向かう事になるが、思いあぐねた矢的はハラダを気絶させてメンバーに加わり、 ここまでシリアスな雰囲気で展開していたのに、急な貧血扱いからミッション直前にかるーいノリでメンバー交代が発生するのが凄く『80』。
 レッドローズは破壊されるが、その余波で消滅したガウス星から飛来した未確認物体が地球に到達し、ここまで約19分、 振り返れば予告のあらすじがエピソードの8割を説明していました!
 撃墜された矢的はやむなく80に変身、怪獣ガウスの動きを止めると、 ウルトラテレポーテーションにより惑星ガウスとよく似た環境の星へと連れて行く事で新た住処を与え、地球に帰還。人類の叡知が、 同じような悲劇を繰り返さない事を祈るのであった……。
 予告から、『ウルトラセブン』第6話「ダーク・ゾーン」(監督:満田かずほ 脚本:若槻文三)のオマージュ? と思っていたら、 オリジナルの脚本である若槻さんの登板に加えて『セブン』に参加していた野長瀬監督が入り、 「ダーク・ゾーン」+同26話「超兵器R1号」(監督:鈴木俊継 脚本:若槻文三)+『80』風シロップがけといった内容。
 良く言えば再演、悪く言えば焼き直し、10年の時を経て、テーマの再利用そのものには一定の意味を感じるものの (今のように気軽に過去の作品を見られる時代でもないですし)、あまりにもプロットがそのままなので、 「ダーク・ゾーン」大好き人間としては、どうにも落ち着かないエピソードでした。
 80は神様ではないのですが、ではヒーローとして何をしたかというと、 どちらも選びきれないまま課題を自分ではなく地球人に放り投げて終わり、80の持つ能力の大きさと未成熟な部分も、 悪い形で出てしまった印象。

◆第20話「襲来!! 吸血ボール軍団」◆ (監督:野長瀬三摩地 脚本:土筆勉)
 どことなく東映ノリのサブタイトルですが、ボイラー室に神経ガス噴射装置がセットしてあるのも、 東映時空だと思えば納得。
 ムーンベースから地球へ帰還する50名の隊員を乗せた宇宙船が、未確認飛行物体の襲撃を受け、レーダーから消滅。 そのまま地球に飛来した飛行物体の正体は無数の吸血ボール軍団で、全身の血を吸い尽くされた死体がかなりグロ映像。
 チーフと矢的の不始末からボールがUGM基地内部に入り込んでしまい、その犠牲となるタジマ。
 レッドローズ破壊・神経ガス噴射・タジマの冷凍処置、とシビアな決断を連発しまくるチーフですが、責任者としての果断というよりも、 潮風島の一件以来、人間として壊れているのでは。
 UGM内部の吸血ボールは処理されるが、我が物顔で飛び回り、人間の血を吸って増殖を繰り返す殺人ボール軍団の前に、 かつてなく壊滅の危機に陥る日本。だが遂にその司令塔となっているコア部分が発見されて攻撃を仕掛けると、 無数のボールが合体して怪獣オコリンボールが誕生する!
 描写といい被害規模といいこれまで屈指のシリアスな展開から徹夜明けに思いついたような怪獣の名前が飛び出してきましたが、 突然の襲来といい容赦のない殺戮といい、これ、惑星ガウスの生命体なのでは……。
 撃墜された矢的は80に変身するも怒りん坊のマシュマロボディに苦戦するが、なんか頭部へのビーム攻撃で唐突に大勝利 (いやホント唐突で……)。
 散々盛り上げたタジマはさっくり蘇生するが、病室に飛び込んできたのは吸血ボールの生き残り?! で一同大騒ぎとなるも、 それは野球のボールでしたでオチとなり、この手のオチは割と好きです。
 次回、東京またも大ピンチ。

◆第21話「永遠に輝け!!宇宙Gメン85」◆ (監督:湯浅憲明 脚本:山浦弘靖)
 注目は、
 「この星人は、友好的で平和を愛する高等生物です。無益な破壊や殺戮をする筈がありませんよ」
 からの、
 「貴様あの怪獣の仲間だな!」
 ……それはまあ、怪我の手当をした異星人が怪獣との戦闘中にテレパシーによる攪乱で死ぬような目に遭わせてきた上に、 様子を見に行ったら悠長に川で喉を潤そうとしていたら、戦闘民族ウルトラ人としては飛び蹴りから木の棒による撲殺も図りたくなります。
 世界各地で街や村が消滅しては住人が大量虐殺される事件が続発し、その犯人探しに躍起になるUGM。 現場で目撃されたシーズー犬似の宇宙人が嫌疑をかけられるが、その正体は凶悪な宇宙怪獣ガモスを復讐の為に追ってきた、 怪獣専門捜査官・宇宙Gメンの一因なのであった。
 家族をガモスに殺されて20年、 Gメンとしての任期切れを2日後に控えるシーズー星人が自らガモスを倒したい執念ゆえに80の邪魔をしたと理由付けがされるのですが、 星から星へ飛び回る宇宙Gメンなのに「現地人への変身能力を持たない」(為にUGMに疑われる)のが不自然極まりなく、 物語としても別にGメン要素が活かされるわけではないので(せいぜい矢的=80と知っている事ぐらいですが、この辺り、 基本的に適当ですし……)これといってGメンである意味が感じられず、 当時放映中だった『Gメン’75』に乗っかってみただけなのやらなんなのやら。
 また、物語冒頭では大々的な破壊規模の割に原因不明が強調される(為にシーズー星人が疑われる事になった)のですが、 事件の真犯人・怪獣ガモスが、物凄く堂々と大暴れするので、どうして原因不明だったのかが、意味不明。
 全てが「地球人から誤解を受けた悲しき復讐宇宙人の真実」を組み立てる為に強引に設計されており、 これなら「特殊な立場も有為な能力も無いが、執念でガモスを追い続けてきた宇宙人(が怪獣を操っていると誤解される)」 で良かったと思うのですが、Gメン要素を接続して色々とおかしくなったのでは感が漂います。
 シーズー星人の目出し(人間の目の利用)も、個人的には異星人感が薄れてしまって、逆効果。
 事情を聞いた矢的がシーズー星人の負傷を気遣って仇討ち代行を買って出るのですが、 誤解された原因は当人にあったと描かれているとはいえ、その傷を負わせたのは同僚なので 怪我を強調される度に複雑な気分にもなります。
 矢的を気絶させて巨大化したシーズー星人が、自分が知る怪獣の弱点を使わないまま瀕死となり、 助けに入った80が危機に陥ったところでテレパシーで弱点を伝えて80が逆転勝利を収めるのも支離滅裂な成り行きで、 「やりたい事」はハッキリしている一方で、それを成立させる為の骨組みがスカスカ、という残念なエピソードでした。
 今回もナレーションと映像で人的被害が強調されるのですが、 冒頭の惨劇において焼け野原で手を繋いで泣きじゃくる子供2人の映像などはだいぶん露骨で(そしてそれが、 その後の物語と繋がっていくわけでもなく)、戦後35年、時代の要請やスタッフの意識があったのかもしれず、 当時と今ではまた受け止め方の変わるところかもしれませんが……怪獣バトルエンタメとしては寓意が枠を飛び出して、 どうもやり過ぎになっている印象。
 なお、学園においてノンちゃん役だった白坂紀子さんが、「気象班のユリ子」として再登場し、 瓜二つの姿に矢的が「ノンちゃん!」と思わず呼びかけるシーンがあって、教師時代の記憶が消滅しているわけではない模様。

◆第22話「惑星が並ぶ日 なにかが起こる」◆ (監督:湯浅憲明 脚本:阿井文瓶)
 惑星直列! そして地底空洞説! のオカルト合わせ技(多分)。
 かつて氷河期を逃れて地球の地下に移り住んだ人々は、今もまだ地底に40億人が暮らす文明を維持し続けていた。 だが地上の文明活動の影響で地盤に問題が発生し、このままでは2年後に迫る惑星直列の影響で、地底王国は崩壊してしまう。 進退窮まった地底人は、太陽の光を遮る事で地上を自分たちが生存可能な環境へ変えようとして巨大衛星を打ち上げ、 火山噴火の調査に向かった先でイトウらと共に地底王国に囚われの身となった矢的は、地上人との交渉のパイプ役を買って出る……。
 地震兵器で大都市を直接攻撃とか、火山兵器で地上を焦土に、とかしなかっただけマシかもしれませんが、 自分たちの存在を知らせずに問答無用で太陽の光を遮蔽しようとする実質的な先制攻撃を仕掛けてきた人達を、 「平和を愛する貴方たち」と評するのに無理がありすぎて、矢的先生だけに本気でそう思っているのか、交渉術としての方便なのか、 さっぱり判断がつかなくて困ります。
 自分たちの生存が脅かされているから他者の生存領域を奪い取ろうとする身勝手さを、 遠い昔に分かたれたといえ同じ“地球人”である、と考えると、かなり強烈な皮肉ですが。
 UGMに戻り、地底王国の存在を報告する矢的だが、既に防衛隊は衛星破壊の為のミサイル攻撃を決断しており、タカ派将校と衝突。
 衛星への攻撃は地上人と地底人の全面戦争を招くと必死に訴える矢的は地底王国へと取って返し、 その危惧に頷いたキャップは国家最高会議へと乗り込んでいき……なんなのキャップ(笑)
 粘り強い交渉の末、キャップは一度は決まったミサイル発射命令の撤回を勝ち取り……ホントなんなのキャップ(笑)
 ミサイル発射中止の報は地底王国に戻った矢的の元にも届けられるが、地底人、というか、オオヤマくんのイケメン交渉力が怖すぎる!  と錯乱したタカ派将校が、留守番に残った長官(キャップ派)を撃ってミサイル発射と地底王国への全面攻撃を指示。 その混乱の中で地底に眠っていた怪獣ゴモラが覚醒してしまい、崩れゆく地底宮殿の中で矢的は80へと変身。
 首の後ろ辺りからも突起が突き出し、初代登場のものよりも凶悪さの増したゴモラ二代目(地底の古代生物として、 同種の別個体は納得のいきやすい範囲)は、戦闘機部隊を次々と撃墜すると80と激突し、腕から火線に始まり、角からビーム、 拘束光線、角からサンダー、とやたら多彩な飛び道具を操り、強い。
 苦戦する80だが、格闘戦からジャイアントスイングに持ち込むと弱ったところに必殺光線を叩き込み、爆発こそしなかったものの、 白目を剥いて大地に倒れたゴモラがそのまま地割れに呑み込まれていく映像が、大迫力。
 非常に気合の入った立ち回りで、満足度の高い怪獣バトルでした。
 先史文明との衝突、という『セブン』寄りの重いテーマであった地上と地底の関係については、 惑星直列が起きる2年後までになんとかしたいね! と宿題にして、つづく。
 ……今作、明確なテーマ性を持ち込んだ時ほど、矢的が主体性を持った主人公ではなく、 ギミックとしての狂言回しになってしまうのが今見ると話に入りにくい点なのですが、 物語開始当初に掲げられていた矢的の信念・行動原理が、学園の消滅と共にあぶくとなって消えた後に、 どういうわけか再構築されていないのが重ねて辛い。
 序盤は序盤で、矢的人格と80人格の混線が発生してはいたのですが、そこの線引きが明確にならないまま度々 「おまえ宇宙人だから」と別枠扱いを受けるものの、それをアイデンティティとするにはどうも立ち位置が曖昧な為、 好意を持ちにくい主人公になっています。
 今回も通りすがりに天気予報を告げる為だけに出てきたユリ子に話しかけられて、お、モテ期来た?!  とかにやついているのが駄目だと思うんですよ矢的!
 なお、キャップはキャップなので、大概の無茶は許します。

◆第23話「SOS!! 宇宙アメーバの大侵略」◆ (監督:外山徹 脚本:山浦弘靖)
 地球へ帰還する宇宙探査船……といえば先日も吸血ボールに襲われて乗組員が全滅していましたが、 今度は宇宙アメーバに襲われて全滅し、いいことないな……。
 宇宙アメーバに襲われながらも最後の力で送ったSOS信号をキャッチしたUGMから、チーフ・矢的・タジマが出動し、 今日もユリ子が通りすがりに天気予報を告げ、作り手の側も色々と大変そうではあります。
 母艦スペースマミーの出撃シーンは格好良く、探査船に外から近付いた矢的は、船内で増殖する宇宙アメーバを確認。 探査船は既に地球の重力圏内に入っており、このままでは地球上に宇宙アメーバがばらまかれてしまう……。 ミサイルで爆破するには既に時間がなく、取れる手段は探査船に直接乗り込んで地球の重力圏から離れるように操縦する事のみ。 だが乗り込んだ隊員はアメーバにやられて生きて帰れないけどな! と犠牲前提の作戦が即座に提案されて「他に方法はない」 と断言されてしまうのが実に『80』ですが、発案者のチーフは、例の事件以来、明らかに死ぬチャンスを窺っている人なのが、 物凄いタチの悪さ。
 一人っ子だとか兄弟が沢山居るとかそれを言うなら僕には悲しむ家族が居ないので、といった月並みなやり取りの後、 イトウとタジマを気絶させた矢的は自らの犠牲を厭わず探査船に乗り込んでいき……いやなんかもう、そこまで完全に気絶させられるなら、 80! で解決しても良いのではないでしょうか。
 これはシリーズの厄介なポイントではありますし、安易に変身しない事の理由付けを物語に組み込んでいた『ガイア』 後に見ているから余計に気になるのもありそうですが、生粋のウルトラ人である80の場合、 命を捨ててまで地球人として藻掻く事の必然性が非常に薄いので、どうにもこうにも矢的先生の変身基準の雑さが目立ちます
 変身して解決しようとしたらトラブルで変身できなくなってしまった、 といったような状況をもう一つ組み込まないと状況が説得力を持ちにくいわけですが、 「(基本的には)最終的に80に変身して立ち回りを行わなければならない」縛りも同時にあるので、 それを成立させやすくする為のキャラクター性を、矢的が失っているのが、つくづく辛い。
 矢的は調査船を地球から離れる針路へ向けて発進させ、目を覚ましたイトウはキャップに事態を報告し、 犠牲前提の作戦を勝手に実行しようとしたらこんなトラブルが起きました! と後から連絡されるキャップの方も大変です。
 矢的と連絡を取ったキャップは、地上から爆破用のミサイルを発射した上で矢的には脱出を命じるが、 コックピット内部に入り込んでいたアメーバ退治の際にヘルメットに穴が空いてしまい、 脱出が不可能になりましたと律儀に報告する矢的……もしかして、80になれるのを忘れている??
 矢的をミサイルで木っ葉微塵にするわけにはいかない、と今度はミサイルを自爆させようとするキャップだが、 運悪く隕石にぶつかったミサイルの装置が故障。仕方が無いのでスペースマミーに連絡してミサイルを撃墜させ、 宇宙空間を舞台に、宇宙船だのミサイルだの隕石群だのを見せていく映像面では面白いのですが、 そんな特撮映像の為に無用のトラブルを発生させるのがあまりに露骨で、ストーリーはがったがた。
 究極的にはウルトラ能力で解決できてしまうシリーズにおいては、SFサスペンスの賭け金が矢的の命というのは致命的な相性の悪さ。
 (美しい星、地球……僕はもう二度と、あの星へは帰れないのだろうか)
 そして矢的は、悲壮感れる現状に酔い痴れて、なんだか、完全に、出来上がっていた(笑)
 (だがそれでもいい。僕は地球を守る為に、M78星雲からやってきた男だ。地球の為に戦って死んでいけるなら、それで本望だ)
 どさくさに紛れて地球来訪の目的をリライトする矢的ですが、やはり、80になれるのを忘れている??
 ……いやまあ、ウルトラマン80としては生き延びても、「矢的猛」としては死ぬ、という事なのかもですが、なんだか、 矢的猛として美しく死にたいという、80の抱える謎の暗黒面が噴出しており、地球に来たのはそもそも、 失恋による傷心旅行だったのでは疑惑が浮上します。
 動力室で増殖をし続けるアメーバが操縦席に入り込もうとする事で、 他に生存者の居ない筈の船内においてドアに激しいノックのような音が響く! なんて演出は良かったのですが、 追い詰められているパイロットが、80に変身すればすぐに脱出できるけど何故か地球人として死ぬ気満々の矢的猛、なのが大変困ります。
 「俺たちUGMはな、地球という一つの大きな家族を守る為に戦っている。死ぬのも地球の為なら、生きるのも地球の為だ。 どんな事があっても死んではいかん。決して死ぬな! いいか!」
 前方に近付いてきた小惑星に着陸して、スペースマミーに救助させる窮余の一策に望みを繋ぐキャップがメンバーと共に矢的を叱咤激励し、 2クール目の問題点だった「UGM隊員としての矢的猛のアイデンティティ問題」がようやく掘り下げを図られるのですが、 操縦席へのアメーバの侵入を許した矢的は、小惑星に墜落して激突死の寸前に思わず80!し、 巨大怪獣と化したアメーバと取っ組み合いが始まる、何もかも台無しの茶番劇。
 80十八番の打点の高いキックを、遅回しで見せる事で低重力を表現するのは格好いい演出で、 とにもかくにも80は巨大アメーバ怪獣を撃破。
 矢的はわざとらしくヘルメット無しで倒れているところをチーフとハラダに救出され、なんだこの話……。
 地球に無事に帰還した後、矢的先生の鳩尾を殴り飛ばす癖に対し、殴られた二人からお返しがあったのは、良かったです(笑)

◆第24話「裏切ったアンドロイドの星」◆ (監督:外山徹 脚本:平野靖司)
 突如として東京上空に巨大UFOが出現。UFOは、地球に銀河大連邦への参加を求める使者・ファンタス星人を名乗るとその科学力を見せつけ、 宇宙に平和な楽園を築いてきた連邦の一員になってほしいと資料を残して去って行く。
 資料の分析を進めるUGMは宇宙人の意図に裏があるのではと疑うが、ウルトラ知識でファンタス星人が平和的な種族と知る矢的は擁護派に立ち、 やがて資料は、地球上でも実現可能な、理想都市の設計図である事が判明する。地球が銀河大連邦に加盟すれば、 争いのない理想的な社会が実現する……沸き立つ隊員たちだが、ひとりキャップは懐疑的な意見を口にし、 台詞の配分でキャラを肉付けしていく巧さは、平野脚本回で目立つ長所。
 「俺はね……ユートピアなどというものは、他人から与えられるんじゃなくて、自分たちの手で作り出すもんだと思ってたがな」
 「キャップ、人類が幸福になれるんだったら、与えられようが、与えられまいが、関係ないんじゃないですか?」
 提供された資料の元、国際首脳会議は全会一致で銀河大連邦への参加を決定。再びファンタス星人の使者が地球に現れ、 宇宙服+土人間、といった、露骨に可愛い寄りではないが、人間的な知性を感じさせる風貌が、なかなか秀逸なデザイン。
 前夜、謎のドローンに監視されてアンドロイドの刺客を受けていた矢的は、握手をかわしたファンタス星人の手が冷たい事に疑問を抱き、 広報のセラにくっついて会議場に同席すると、外道照身霊波光線ならぬウルトラ透視能力で、 地球に現れたファンタス星人が精巧に作られたアンドロイドである事に気付くが、会議場で「汝の正体見たり!」と大騒ぎした事により、 逮・捕。
 ナレーション「猛は迷った。今、ここで、ウルトラマン80になれば、脱出できる。しかしそうすれば、 自分がウルトラマン80である事を人間に知られてしまう」
 囚われの身となった矢的の陥る、地球人に正体がバレてもこの危難を乗り越えるべきかどうか、 の葛藤がようやくナレーションで補足されたのは、遅まきながらホッとしました。
 “言わなくても常にこれが大前提である”とする見方もあるでしょうが、『80』作劇としての問題点が二つあって、一つは、 変身をすると「バレる」「バレない」の基準が基本的に曖昧(そうでないと逆にクライマックスで困る事情がある)なので、 状況如何で、物語側から「今のタイミングで変身するとバレます」という提示が無いと、物語の緊張感が維持できない事。
 もう一つは、1クール目に存在していた「目の前の危機」と「教師を続けたい」という葛藤の基準が一度リセットされているので、 矢的にとってどの程度の葛藤があるかどうかそのものが、長らく曖昧になってしまっていた事で、 その葛藤の存在が改めて明示されたのは大きなポイントとなりました。
 ……本来は、2クール目早々にやっておいて欲しかった要素でありますが。
 苦悩する矢的の前にショットガンを構えたファンタスアンドロイドが現れ、 地球侵略の脅威となるウルトラマン80の抹殺を目論む本性と、本物のファンタス星人が既に滅亡している事を明かす。
 「彼らは滅んだのだ」
 「滅んだ……?」
 「そう、我々は彼らが作り出したアンドロイドだ。彼らは我々に全ての仕事を任せて、自分たちは遊びほうけていた。つまり、 自分たちの科学力に溺れすぎていたのだ。だから滅んだのだ」
 前半のキャップの台詞が効いて、ユートピアの作り手が、怠惰に陥って滅亡していたという皮肉な展開。
 「違う! おまえたちが滅ぼしたんだ!」
 「我々を奴隷のように扱った報いだ」
 「我々は生物、特に人間という動物を軽蔑しておる。これからは我々アンドロイドの世界。ロボットが宇宙を支配する」
 滅亡迅雷ネットに接続……済みのファンタスアンドロイドは矢的を消そうとするが、間一髪チーフが助けに来て、久々に真っ当な活躍。
 「奴隷作戦は中止だ。地球人を皆殺しにしろ!」
 巨大円盤は戦闘円盤ロボフォー(「ファンタス」星人で、戦闘円盤ロボ「フォー」はつまり「ファンタスティック・フォー」で、 ファンタス星人のデザインの元ネタは、ザ・シング?)へと変形して、戦車部隊を次々と撃破。 街も景気良く大爆発する派手な戦闘シーンが続き、撃墜された矢的は80に変身すると、 苦しみながらも怒濤の光線技ラッシュで円盤を撃墜し、勝利を収めるのであった。
 最後は、どんなに時間がかかっても、争いの無い理想の世界は自分たちの手で作り出さなくてはいけない、と綺麗に落着。 矢的のウルトラ知識を引っかけに使ったのも良かったですし、その上で矢的が、相手が偽物だったから考えを改めるのではなく、 キャップ(地球人)の言葉を聞いて“与えられるユートピア”について自分で考える、のも主人公として能動的になり、 これまでの『80』の問題点を巧く改善し、ここまででベスト級の一本でした。
 ……難を言えば、サブタイトルの時点で終盤までネタ割れしている事(笑)

→〔その4へ続く〕

(2021年2月14日)

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