■『電光超人グリッドマン』感想まとめ4■


“ENJOY つまずいたら ALRIGHT つかまるのさ
僕の この腕に”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『電光超人グリッドマン』 感想の、まとめ4(31話〜最終話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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◆第31話「怪獣ママは女子大生」◆ (監督:北村義樹 脚本:神戸一彦)
 冒頭、2018年にサービス終了が発表されたポケベルを女子大生が駆使していて、隔世の感。
 その女子大生・キララが電話ボックスの前で拾ったのは、1枚のフロッピーディスク。どこかの企業秘密でも入っていたらラッキー、 と軽い気持ちでディスクを自宅に持ち帰ったキララがPCで読み込むと、モニターの中に現れたのは黒ずくめの怪しすぎる人影。
 「武史よ。フロッピーなど使わずとも、儂は自由自在に動けるのだ。…………誰だおまえは」
 「あなたこそ誰よ? そんな変な恰好しちゃってさ」
 「なに? 儂の名は、カーンデジファーだ」
 衝撃の輸送をされていたカーンデジファー様ですが、5インチフロッピーディスクにもはやアーティファクトの趣きが漂う為、 一周回って魔王様が入っていてもおかしくない気がしてくるのは、たぶん気のせい。
 「カーンデジファー? ……どこかで聞いた事あるわね」
 「お前達の救い主だ。ふっふふふふふふ」
 「救い主? それじゃ、私の願いかなえてくれるの?」
 「ぬっ?!」
 女子大生のキラキラした視線にカーンデジファー様がひるんでいた頃、武史は落としたフロッピーを必死に探し回り、 話の要領を得ない上に色々面倒くさい武史に、ブツブツ言いながらも付き合う尼崎巡査が、いい人ポイントを獲得。
 なお途中でジャンクトリオと出くわし、武史がゆかに手紙を渡そうとした場合を除き、 3人と武史が会話可能圏内で互いを視認するのは第31話にしてなんと初だったのですが……
 「君たちも、手伝ってくれないか? どうやら、落とし物をしたらしいんだが……」
 「「うるさい」なんて言われて手伝う気にはなれないよ」
 「そーだそーだ。行こうぜ」
 「あの性格じゃ、友達も出来ないわよね」
 「どんな大人なんだかこえぇぜ」
 物凄く辛辣だった。
 ヒーローポジションとしてのジャンクトリオが、武史に対して知らず善意の歩み寄りを見せるのかと思ったら全くそんな事はなく、 100%武史が悪いにしても、ごく普通の中学生の反応をして通り過ぎていくのが随分と痛烈なのですが、果たしてこの接点は広がっていくのかいかないのか。
 武史というキャラクターの面白い所は、プラスでもマイナスでも目立つ事なく“存在が空気”という点であり、 だからこそよく人や物ににぶつかるし、何度頑張ってもゆかに存在を認識されない(ので好感度上昇の手段が無い)のですが、 そんな藤堂武史にジャンクトリオが向かい合う事があるのか、というのは後半に向けて気になる要素。
 一方カーンデジファー様は、「願いをかなえる」というフレーズに食いついてきた女子大生に世間に対する不満を問い、 悪戯電話をやり返したい、という願いに辿り着く。
 「よし、それでは怪獣を造るのだ」
 「怪獣?」
 「その怪獣がおまえの望みをかなえてくれる」
 今回、陽性の女子大生に振り回されるカーンデジファー様、というのが要点なのですが、同時に、 武史から離れた事でカーンデジファー様の本質が再確認され、カーンデジファー様は力の媒介として、 人間の憎念を「怪獣」という形に抽出してもらわなくてはならない、というのが見て取れるのが面白い所。
 今ひとつ現状を把握しきれていないキララによってお気楽に生み出されたいたずら怪獣は電話局のシステムを改竄し、 あらゆる電話のやり取りが、悪口へと変換されてしまう。
 「突然カナちゃんが僕のこと大嫌いだって。それに二度と電話しないでって」
 「カナちゃんがそんな事言うわけないだろ」
 ……大地になら言うのではないか。
 弟の泣きべそに直人は一平に確認の電話をかけるが、2人の会話は悪口に変換されてしまい仲違い。 こうなったら白黒つけてやるあの盗撮魔め! とジャンク部屋へ走る日記覗き未遂犯だが、道中でGコールが鳴り響き、 既にグリッドマンから事情を聞いていた一平が直人をすんなり迎え入れてあっさり解決。
 少々拍子抜けではありましたが、ここで2人の罵り合いを挟んでもテンポが悪くなる、という判断だったのでしょうか。この後、 何故かグリッドマンが出撃できず、どんな緊急事態かと思えば「GRIDMAN」のスペルが間違っていた(後から来たゆかが解決)、 という前にも後ろにも一切繋がらないなぜ今頃という驚愕の一発ネタが差し込まれるのは、 結果的に尺が余ったりしたのではと邪推したくなりますが(笑)
 グリッドマン出馬を目にしたカーンデジファー様は電線を辿って武史宅へと帰還し、 尼崎を引きずりながらフロッピーを探していた武史は、その光を見てダッシュで帰宅。
 「よかった……」
 「二度とフロッピーで移動しようなどと考えん事だ!」
 ホント仲いいな、あなたがた……(笑)
 一方、珍妙な怪獣の動きに振り回されていたグリッドマンだが、そこにキララの制止の声が響き、とりあえず電話局のシステムを修復。 ところが再びタッグを組んだ逆恨み同盟により、怪獣が文字通りの魔改造を施されてしまう。
 「口からは毒ガスを吐き、強靱な腕の力を持つ、凶暴で恐ろしい怪獣に変えてやったぞ」
 以前から、武史は理想の怪獣をオリジナルで制作する割に、「ぼくのかんがえたさいきょうのかいじゅう」 的な夢スペックは持ち出さないな、と思っていたのですが、今回カーンデジファー様が女子大生の「気は優しくて力持ち、 悪戯好きが玉に瑕」という“設定”にひっくり返り、その改造に独力ではなく武史というより強大な憎悪と想像力を必要とした事で、 怪獣には整合性の取れたある種の“設定”が必要なのであり、例えば「グリッドマンを一撃で倒す強力なビーム」を実装する為には、 それに見合った怪獣全体のバランス――ひいてはそれを想像しうるエネルギーが要求されるのだな、と納得。
 これが今作における共通認識なのか、今回スタッフによる解釈なのかは何ともですが、憎悪や怨念そのものが怪獣なのではなく、 怨念の依り代として求められる具体的な「形状」こそが怪獣なのであるというのは今作における点と点を綺麗に繋ぎ、 名と形を与える事で力を得るというのは魔術的でもありますが、Cワールドで暴れ回った怪獣が敗北した後で悔しそうな武史の姿が意外と描かれないのは、 外部に抽出された憎悪が消滅する事で、実は武史自身は精神的に浄化されているのかもしれない、などとも飛躍してみたり。
 人相変わった怪獣の奇襲を受けたグリッドマンは、またも毒ガスを吹きかけられて苦戦。 その戦いを見つめる女子大生が自分の間違いを認めて反省、というのは良い落としどころでした。
 「さよなら……テレボーズ」
 毒ガス対策に竜帝合体したキンググリッドマンは、女子大生から教えられた怪獣の弱点を破壊し、滅殺。悪戯電話騒動は収まり、 直人達とキララはそれと知らずに街角で擦れ違うのであった……とオチも綺麗で割と秀逸回。
 それにしても武史は、いったいカーンデジファー様をどこへ運ぶつもりだったのか(笑)  ディスクの中に収まってみるカーンデジファー様もカーンデジファー様ですが。

◆第32話「人間掃除機の襲撃!」◆ (監督:北村義樹 脚本:静谷伊佐夫)
 道にガムを吐き捨てた男に注意したところ、逆に痛めつけられた武史は、復讐を決意。
 「公衆道徳を守らないような人間のクズを、始末してやるんです」
 「馬鹿な。そのようなクズ人間が多い方が、支配しやすいではないか」
 今さらりと、逃亡者であるカーンデジファー様が桜ヶ丘に引きつけられた理由が明かされた!
 「クズは所詮クズだ。そんな奴らをのさばらせておいても、役には立たない」
 「なるほど。おまえの言う通りかもしれない。おまえの作戦に手を貸してやろう」
 武史は巨大な口で何でも吸い込む吸引怪獣を作り出すと、最新型リモコン掃除機のCワールドへと送り込み、改造された掃除機は、 公衆道徳を守らない人間を小型化して吸い込む、悪魔の掃除機へと変貌する!
 「行けギュルンバ! 公衆道徳を守らないやつは吸い込んじまえ!」
 名前は恐らく擬音(「ぎゅるん」)からなので全くの偶然でしょうが、ロボット掃除機の代表格・ルンバの発売が2002年であり、 くしくも約10年の時代を先取りにする事に。
 「ふふふふふふ、ざまぁみろ。おまえのようなクズ人間は、掃除機に吸い込まれるのがお似合いだ」
 悪魔の掃除機は早速ガム吐き男を小型化吸引し、道ばたに隠れ潜む掃除機が次々と人間に襲いかかるテクノロジーホラー…… というよりは、だいぶん<不思議コメディ>寄りのシュールギャグな世界に。
 裏を返すと浦沢義雄脚本の持つ文明への批評性や風刺性が見えたり見えなかったりするわけですが、 それはともかく掃除機は獲物を求めて街中を這い回り……
 車の灰皿の中身を道路に捨てた馬場父、犠牲に。
 空き缶を道ばたに置き捨てた尼崎、犠牲に。
 ゴミを収集日の前日に出した井上母、犠牲に。
 店の前のゴミを集めるも道路にばらまいた馬場母、犠牲に。
 「地球にとって人類とはガン細胞だよ! 増殖し続け、地球を汚し続けるだけの存在」
 考えてみると武史(設定年齢15歳)、放映年と劇中年が同一であると仮定した場合、 どんぴしゃでアルケミースターズと同年代という気付かなくても良い事に気付いてしまうわけですが、 藤堂武史と藤宮博也(『ウルトラマンガイア』)にはところどころ親和性があって、並行して見ているとついつい重ねて見てしまいます(笑)  まあ藤宮はテロリストに転向する前はハムスターを愛する爽やかな男という過去が明かされたので、もはや
 「許さない……僕と同じ根暗野郎だと思っていたのに、女子アナや、同僚とイチャイチャするなんて許してなるものか」
 と逆恨み対象確定ですが、つまり、武史に必要なのは筋肉。
 そう、筋肉さえあれば、PCだって素手で破壊できる!
 話は戻って、姿を消した一平両親を探していた直人達は、鼻紙をポイ捨てした実演販売員が掃除機に吸い込まれる現場を目撃。 カーンデジファー案件である事を把握し、走り回る掃除機にアクセスする為に一平が囮となってゴミをちらかし、 電源コードでトラップを仕掛けると充電の隙を突いてアクセスフラッシュ。
 グリッドマンがCワールドで怪獣に立ち向かう一方、吸引された犠牲者達には真空パック処理の危機が迫り、 街中を走り回る掃除機の合成にはやや無理があったのですが(演出的にもそのまま見せようとしすぎた感)、この、 ゴミパックの中の人達の映像は、新鮮で面白みがあって良かったです。
 掃除機のカタログから真空処理の事を知り、内と外で危機感が共有されるのも『グリッドマン』ここまでの問題点をきっちり潰し、 苦戦するグリッドマンの応援に送り込まれるサンダージェット。放たれたミサイルが怪獣の口を破壊し、 内部構造のバネのようなものが幾つも剥き出しになる、というのは面白い造形。
 吸引攻撃という最大の武器を失った怪獣に対してグリッドマンは超人合体し、久方ぶりのサンダーグリッドビームでフィニッシュ。 被害者達は真空パックの危機を逃れて元の大きさに戻り、それぞれちょっぴり反省。唯一人、 ガム吐き男だけは相変わらずのふてぶてしい態度で去って行き、再びガムを吐き捨てるが、その前に現れる武史。
 「また掃除機に吸い込ませるぞ」
 凄まれてもニヤニヤと笑い続ける武史の言葉に男は怯えて逃げ出し、武史は高笑い。悠々と歩み去る武史の姿にナレーションが被さってオチとなり …………ええと、武史の行動理由に時折、頷ける部分があるのは確かではあるのですが、 時に義憤とはいえ過剰な報復テロに走る武史の行為を肯定してはいけないのは今作の基本事項だと思っていたので、大ファール。
 トンデモアイデア回としてはなかなかの面白さだっただけに、チキンレースでブレーキを踏み損ねて海へ転落、みたいなオチは、残念でした。

◆第33話「もうひとりの武史」◆ (監督:高野敏幸 脚本:右田昌万)
 武史はある日、自分が見て見ぬ振りをした子供の危機を、自分そっくりの少年が救うのを目撃する……その名は、タケオ。 タケオは引ったくりにあったゆかの鞄を取り戻した事で、直人達とも意気投合。3人はタケオが誰かに似ていると思いを巡らし……
 「わかった! ほら、いつも紺ブレ着てる……前髪の、これだろ?」
 「あー、あの、じめじめしたナメクジ野郎か」
 「でも、全然イメージ違うって」
 客観的な武史に対する周囲の感想としては頷けるのですが、悪意がストレートすぎて君らホント酷いな!  今作中盤以降、正統派ヒーローとしての直人像を描き直している一方で、ジャンクトリオの家族達を含め、 3人の行動理念の背景における素朴な正義の部分の積み重ねがややおざなりになっているのは、 物語としてのウェイトの変更ではあるのでしょうが、少々気になるところ。
 見た目そっくりの少年を武史とは「全然イメージ違う」健康的な存在と描く事で、問題の本質は歪められた魂にある、 という事を強調してはいるのですが。
 「許せない……絶対許せない」
 武史……ハイパー武史……じゃなかった、自分そっくりの少年が、ゆかとバスケをしたり、 ゆかとちょっとお肌が触れ合ったり、あまつさえゆかを助け起こしたりゆかとゆかとゆかと◆&¥☆☆;*?!  と脳の許容量をオーバーした武史は、勢いでゆかと二言以上の会話を交わした事にも気付かず、逃走。
 「僕にも、愛してくれた人はいたんだ……ばあや……ばあや……」
 幼年期、自分の面倒を見てくれたばあやとの記憶に逃げる武史だが、両親によって武史はばあやから引き離されてしまい、 回想シーンながら、武史両親が画面に初登場。
 「15年間の僕の不幸は、全部そいつが原因だったんだ」
 歪んだ魂のままタケオを尾行するも自宅の前で見失ってしまった武史は、市役所のコンピューターをハッキング。 住民票を調べて回るがタケオを発見できず、カーンデジファー様のアドバイスにより、シーボーズ的な怨念鬼獣を作り出すと、 最新型腕時計を制御する電波塔へと送り込む。
 これにより、タケオもはめていた最新型腕時計のマイクロチップに同時アクセスした武史は、 腕時計を巻いた人間の腕を操って街を大混乱に陥れ、ゆかの尻を撫でる直人。
 「わざとじゃないんだ! 右手が勝手に!」
 「エッチ! どうも最近目つきがいやらしいと思ったら!」
 ばちぃん!
 「ほ、ほんとにわざとじゃないんだ……右手がこう、時計に引っ張られるように」
 「馬鹿!」
 ばちぃん!
 「下手な言い訳けはやめて! 私のあげた時計が気に入らないなら、そう言えばいいでしょ!」
 ばちぃん!
 この女、3発入れたぞ(笑)
 3発目は明らかに余分な気がしてならないのですが、直人も直人で、お尻に向かう手を止めようとした形跡がなく、 おもむろに立ち上がって「右手が……!」とか言い出す最っ低ぶりなので、因果応報という気はしてなりません。
 怒りのゆかが振り返ると、背後では一平が自分の顔を無茶苦茶に掴んでおり、変な顔で迫られたゆか、 必殺の往復ビンタ。
 「二人してあたしのこと馬鹿にして!」
 そこにタケオがやってきて、なんとか二人の時計を外した所で、Gコール。 電波塔のCワールドで暴れる怪獣に立ち向かうグリッドマンは火球攻撃に接近を阻まれ、Hワールドでは、尼崎が発砲していた。
 ……これは……さすがに……「全部カーンデジファーのせい」で通せるのか。次回から、小金村が帰ってくる布石なのか。
 一方のグリッドマンは怪獣の猛攻にバリアシールドを弾き飛ばされ、自棄になって腹筋で火球を跳ね返そうとするが…… 勿論無理だった。
 正直、グリッドマンが自身の腹筋で何をできるつもりだったのか、正気を疑うシーン(笑)
 見かねたサポート組はステロイドもといゴッドタンクを送り込み、グリッドマンは超人合体でパンプアップ。 怪獣を正面から殴り倒すと撃ち込まれた骨ミサイルも分厚い胸板で全て防ぎ、見たか! これが、筋肉?の力だ!  勢いに乗るグリッドマンは、溜め時間の長い新技「サンダーグリッドファイヤー!」で怪獣を撃破してCワールドを修復。 完全にマッドコップと化して市民相手に拳銃を振り回すも、タケオに必死に阻止されていた尼崎は時計の呪縛を逃れ、 辛くも殺人警官への転落を踏みとどまるのであった。
 事件は解決し、後日――遊びの待ち合わせにやってこないタケオに電話をかけるゆかだがそれは繋がらず、 電話のベルが鳴り響く無人の部屋は、どこかで見た調度……そして。
 「僕の手で、あいつを殺してやるんだ」
 タケオに対し、制御しきれない憎悪を募らせる武史は遂にナイフを握って物陰に潜み、あわや刺殺直前、 刺されかけたタケオは何故か武史に微笑みかけ、その姿が、幼年期の武史の姿に変わる。 ばあやとの思い出の紙飛行機を武史に差し出して少年の姿はかき消え、自らを省みず他者を救い、友人達と笑顔で遊ぶタケオが 「幼い武史の思い描いた理想の自分であったのかもしれない」のならば、その姿が、 真っ直ぐに空を飛べずに両親に踏みにじられた紙飛行機に象徴されるというのが、大変えぐい。
 あと紙飛行機ネタは、某戦隊を思い出すので辛さ3割増しです!
 タケオは消滅し、武史はがっくりと座り込み、何も知らない直人達はタケオを待ちながらバスケットボールに興じるのであった…… と一抹の寂寥感を漂わせ、世界に対して物理的に干渉しているタケオ(つまり武史の幻覚ではない)とは何者だったのか、 という解釈は視聴者に委ねられるファンタジックな形で、つづく。
 仮にカーンデジファー様抜きでも、立派に逮捕レベルと思われる犯罪行為に手を染めている武史なのですが (証拠は残していないかもですが……)、未成年という事もあり あくまで問題の本質は「環境」にある(これもまた直人達との対比)という今作初期から貫かれている部分が再確認され、 今作の目指すところはカーンデジファーの打破と同時に「藤堂武史の救済」にある、という事を念押し。
 その上で、例え悪の保護者でも、現在の武史に“生きる意味と力”を与えているのがカーンデジファー様である(利用し、 されるだけの関係ではない)、というのが今作の構造上の妙味なのですが、果たしてどんな着地点を見出すのか、楽しみです。
 正直、対岸に立つのが直人達というのが凄く不安なのですが、歩み寄りの日は来るのか。やはりここは、 直人と武史を命の危機に追い込んで、今までの事を水に流して自発的にバ○ムクロスさせるのが正解なのかっ?!
 「段々思い出したぞ……グリッドマンは正義!」
 「カーンデジファーは悪。そして俺達に戦えって」
 次回――時空を超えてやってきた武蔵坊弁慶!

◆第34話「ボディガード弁慶参上!」◆ (監督:村石宏實 脚本:神戸一彦)
 尼崎、懲戒免職になっていなかった。
 ……特に嬉しくもないのが悩ましいところですが。
 不良からかつあげにあって困っている武史を救う為にカーンデジファー様が送り込んだボディガード、それは、武蔵坊弁慶!!
 「ところでここは、どこでござる」
 レベルで事態を把握していないのに、武史のボディガードとしての任務は誠実に果たす弁慶、カーンデジファー様は一体全体なにをどう言い含めて連れてきたのか。
 色々と疑問はあるが、武史が家に帰ると、カーンデジファー様は大変楽しそうだった。
 「ははははははははっ!」
 その種は、武史の作り出した時空魔人・亜武丸を、桜が丘大学のスーパーコンピューターに送り込み、 瞬間物質移動の実験システムを組み替えてタイムスリップを起こさせたのだ! というトンデモに、さすがに引く武史(笑)
 一方、武史に置いていかれて現代世界に戸惑う弁慶は、一平を見て「義経様」と勘違いし、ここで直人ではなく一平、 というのは軽いひねりで面白い展開なのですが、その余波により今回の直人がほぼ口を半分開いて棒立ち状態だったのは、 最近の直人押しに対するカウンターだったのか。
 若干以上に変質者の香りが漂うが、悪い人では無さそうと子供達に囲まれていた弁慶だが、 逆恨み同盟は怪獣を暴れさせることで弁慶を操り、人相の変わった弁慶は長刀を振り回して突如、大暴れ。
 「瞬間物質移動の実験装置」を改造した「タイムマシン」を使って行う事が、「中年男性一人を操って暴れさせる」という、 今作史上でも屈指の、テクノロジーの無駄遣い(笑)
 警官隊を薙ぎ払う弁慶への一平義経の《説得》も失敗したところでGコールが鳴り響き、歴史改竄を阻むべく、直人はアクセスフラッシュ。
 時空魔人・亜武丸は、頭部に一つ目で首から胸部にかけて複数の瞳の意匠が懲らされている、というデザインがなかなか格好良く、 両手に棍棒を濁ってのアクションもキレがあって良い感じ。交互に挟み込まれる弁慶vs警官隊のバトルも頑張っていて割と面白くはあるのですが、 やはりどうにも、ヒーローvs怪獣と、警官vs弁慶をクライマックスで同列に並べるのは温度差が大きく、 せっかく面白いグリッドマン側のバトルをぶつ切れにしてしまっているデメリットの方が目立ってしまっています。
 これを成立させる為には、弁慶に立ち向かう警官側にグリッドマンばりのドラマ性が必要なわけですが、 ゲストキャラのドラマが盛り込まれるわけでなく、セミレギュラーといえる尼崎は真っ先に逃げ出すので好感度も上がらず。
 Cワールドでの破壊行為がHワールドに影響を与える、という相互の関係性をビジュアル的に繋げる意図もわかるのですが、 かといってグリッドマンvs怪獣の戦闘シーンで起きた事象がHワールドの戦いに随時イベントを発生させるというような劇的な連動性は皆無であり、 結局ほとんどの場合、最後の「ギリギリで落ち着いて助かりました」にしかならないというのは、大変残念。
 何度も触れてきた問題点ですが、並行展開をやるならやるで、グリッドマンの戦闘がHワールドに何らかの影響を及ぼして危険を回避、 といった事を随時織り込んでいかないと、単に戦闘を引き延ばしてテンポを悪くしているだけにしかならず、 更に生グリッドマンもオプション無しではろくに戦えない貧弱なもやし君化が進んでしまうというのは、 メリットの薄い悪循環になったと思います。
 「この実験が成功したら、次は恐竜をこの世に送り込んでやる。ふはははははは!」
 目に痛いビームを受けて苦しむグリッドマンの姿に高笑いするカーンデジファー様、このシステムを有効活用する気があって良かった(笑)
 だがサポート組がダイナドラゴンを送り込むと、グリッドマンは竜帝合体。瞬間移動攻撃に対してカウンターのキンググリッドファイヤー (胸から火炎放射)を炸裂させ、勝利を掴み取るのであった。
 歴史の改変を防ぐべく過去に送り返さなくてはならない、と強調されていた弁慶が、 システム修復と共に光に包まれて元の時代に帰還する、という雑な解決は『グリッドマン』平常運行として、ゆかが弁慶に 「頼朝に気をつけろ」と伝えてドサクサ紛れに歴史を修正しようとするが失敗、というオチを判官贔屓の乙女心で流すのは、 自分たちの存在すら危うくなるかもしれないから歴史を改変してはいけない、と主張していたのが当のゆかだけに、第32話に続いて、 大変困惑するオチ。
 3クール目に入り、各脚本家が世界観を掴んできた・強化ギミックが落ち着いた、 などあって比較的楽しく見られるエピソードが続いているのですが、もう一歩二歩詰め切れないのが、惜しい。  次回――またも侵食する不思議コメディ時空。

◆第35話「ぎくっ!スケバンゆか!?」◆ (監督:村石宏實 脚本:静谷伊佐夫)
 「ゆかって本当に優しいよな……」
 うん、まあ、うん……異論は無いでもないですが、ハッキングによる日記の盗み読み未遂を許してくれたの一事で、 菩薩のような存在といえましょう。
 だがそんなゆかに対して、僕に向けられぬ優しさなど不要! と逆恨みを燃やした武史は不良怪獣を作り出し、 井上家のドライヤーへと送り込む。そのドライヤーの風を浴びた人間は、性格が豹変して不良になってしまうのだ!
 「行け、ゴロマキング。井上ゆかの心を変えに」
 と呟く武史の表情は大変良く、長ランとリーゼントの意匠を上手く取り込んだ不良怪獣のデザインもなかなか面白いのですが、 今回に限って説明もなく怪獣が喋り出すのは唐突ですし、徹頭徹尾「ゆかが金髪でレザーファッションに身を包み乱暴な言葉遣いの不良になる」 というワンアイデアのみのストーリーなので、そのアイデアを楽しめるかどうかに左右されるところが大きく、個人的には苦手な部類のネタ。
 紆余曲折あってドライヤーが翔家に移動し、それを使った直人母が、網タイツにレザーファッションで鞭を握った女王様に変貌するのを面白がるのも、 私にはハードルが高すぎました……。
 ラスト、自業自得とはいえ武史が不良に一発殴られて地面に伸びる、というオチも見せられて気持ちのよい画面ではないですし、 フィクションとはいえ大地くんがドライヤーを自分で修理(分解)しようとする展開は避けた方が無難だったのではと思いますし、 面白く見せようとしている部分が、私個人の「快不快」の部分に引っかかりすぎて楽しめない、というエピソードでした。

◆第36話「やったぜ! ベイビィ」◆ (監督:北村義樹 脚本:新藤義親)
 新築ショッピングビル・マックス桜が丘の管理システムのセキュリティに対抗意識を燃やした武史、 さっそく 筋トレしながら ハッキング。
 だが最新のセキュリティシステムは堅牢で打ち破る事ができず……言行も人間性も最悪だがコンピューター技術は自称通りに天才的、 というのが武史のアイデンティティだと思っていたのですが、こんなあっさりポイ捨てしてしまって、それでいいのか。
 カーンデジファー様のアドバイスを受けて暴君超獣デビルフェイザーを作り出した武史は、怪獣の電磁波でセキュリティを打ち破り、 強引にハッキング。ビル管理システムを好きにいじり回すが、そこには直人・一平・ゆか・ゆか従姉が訪れており、ゆかと、 臨月間近のゆか従姉が、エレベーターの中に閉じ込められてしまう!
 <レスキューポリス>だったら、この後、地下駐車場で爆発が起きてエレベーターが炎に包まれるところですが、 これは『グリッドマン』なので火災は発生せず警備員が雁首揃えて右往左往しているだけであり、武史とカーンデジファー様は、 今回これから、何をすれば世界征服に繋がったのか。
 結果的に人命の危機には繋がっていますし、今回の行為も暴君超獣の実験でであり、これでどんなセキュリティも破れれば…… など発言があれば良いのですが、怪獣を送り込んだ後に逆恨み同盟サイドに一切カメラが向けられないので、 視聴者への危機感は煽られているけど、物語としては逆恨み同盟側の中身が何もない、と粗雑な事態に。
 二人と分かれて行動していた直人&一平はゆか達の危機を知り、Gコールを受けてジャンクに戻るとアクセスフラッシュ。ここも、 警備室に入り込んでエレベーター内部の映像を目にするくだりが都合が良すぎるのはまだしも、以前に恐竜の化石回で、 ジャンクと現場が離れているので遠隔アクセスフラッシュというエピソードがあったにも関わらず、 ショッピングビルからジャンクまでの距離が完全に無視されるというのは、あまりにも大雑把。
 その癖、ショッピングビルをうろうろとする4人の尺が割と長いのですが、 従姉と遊びに行くのを妙に秘密めかした上に最終的に直人と一平を誘うのが割と意味不明なゆかに始まり (嫉妬を煽って手の上で転がそうと思ったら予想外に激しく食いついてきたので誤魔化したようにしか見えないのですが、 ゆかのこれまでのキャラとはそぐわない)、ほいほいとそれについていった上で、妊婦を気にせずダッシュする男2人、 初対面の相手におごってもらう前提でお代わりを繰り返す一平、CDショップで値切る予告する一平、といずれも、 「馬鹿っぽくて微笑ましい」というよりは「率直に感じ悪い」事になっており、面白くもなければ好感度も上昇せず、話の軸も目標も、 揃って行方不明(総合的には、ゆかヒロイン推し回なのですが)。
 「どうしたグリッドマン!? 二人、三人の命がかかってんだぞ!」
 という台詞は良かったですが、どうしたもこうしたも、グリッドマン平常運行なのが……(笑)
 一平はゴッドゼノンを送り込むが、電磁波による干渉でゴッドパンチを跳ね返され、流れ弾の直撃を受けるグリッドマン(笑)
 (負ける訳にはいかない! ここで、私が倒れてしまったら……!)
 珍しく戦闘中に独白で気合いを入れ直すグリッドマンですが、おもむろにやる事が、 怪獣の背中に乗って動きを封じている内にゴッドゼノンに殴らせるなので、どうにも盛り上がりません。
 最終的には一平が分析した弱点をスパークビームで破壊し、ゴッドゼノンのアッパーで吹き飛んだところをグリッドビームで粉砕。 ゆかと従姉は助け出され、赤ん坊も無事に生まれるのであった。
 次回――カーンデジファー様、憲法をつくる。

◆第37話「えっ! パパが死刑?」◆ (監督:北村義樹 脚本:右田昌万)
 ナレーション「その日は、宗一郎の誕生日だった。そして、命日にもなろうとしていた」
 このフレーズの破壊力は、素晴らしい(笑)
 「制限速度」通り走っていた直人父は、高圧的な警官に「スピード違反」で手錠をかけられてしまう。更に「免許証所持」、そして、 無事故無違反の優良ドライバーであった事から、更に罪が重くなる事に。
 「死刑だな。死刑は免れんぞ」
 家では家族が誕生日のお祝いを準備して帰りを待っていたが、そこにかかってくる一本の電話。
 「ママ、刑務所から電話で、パパが今日処刑されるんだって」
 囚人服を着せられた直人父は、怪しすぎる刑務官達によって電気椅子に座らされ、死刑執行は午後6時…… 処刑室のシーンを演劇的にやや過剰な装飾とライティングで描く事により、全体をブラックコメディ色の強い不条理劇の趣で成立させ、 うん、今回は、面白いぞ!
 翔家を揺るがす処刑通告……事の起こりは、武史が立ち小便を咎められた出来事にあった。
 「法律法律って、法律がそんなに偉いのか?」
 「偉いんや。法律を守らん人間はみんな逮捕や、みんな罪人や。おまえかてそうや」
 武史に指を突きつけ、親と学校に連絡すると告げる尼崎、以前に喧嘩の仲裁に入った時、 突き飛ばされるや「公務執行妨害だ!」と警棒を振り上げたりしている人なので割と洒落にならないのですが、 前任の小金村と違い好感度を上げるような積み重ねがほぼ皆無な為、間違ってはいないけど度が過ぎている印象が悪目立ち。
 どういう事情があったのか、3クール目からの途中登場でスタッフも掘り下げを諦めている節はあるのですが、完全に嫌な奴、 というわけでもない中途半端な扱いが、色々と残念。
 自転車を蹴り倒して逃走した武史が、帰宅してカーンデジファー様に愚痴ると、どくさいスイッチーーー! じゃなかった、 魔王精神に火が点いたのか、大変エキサイトするカーンデジファー様。
 「儂が法だ、儂が掟だ。儂たちが守るべきは法律じゃない。命と愛だ!」
 じゃなかった、すみません、やり直します。
 「儂が法だ、儂が掟だ。儂以外に法律など、必要ないのだ。よし、こうなったら儂が憲法を作ってやる」
 「え?」
 「カーンデジファー憲法を作って、人間共を服従させるのだ」
 かくして司法省のコンピューターに毒蜘蛛怪獣が送り込まれ、日本中にカーンデジファー憲法が広まる事になり、 今回は台詞の切れ味があちこち鋭い(笑)
 「掃除は法律で禁じられとるやろ。住みにくい地球、汚い環境、掃きだめの街を一人一人が、心がけて作るよう、法律で定められとるやろ」
 日本警察はトランシーバーの無線を通してカーンデジファー憲法に支配されてしまい、 尼崎はゴミ箱を蹴り飛ばすと掃除していた馬場母に罰金を命じ、警察署の署長は万引き犯に表彰状を授与。
 「凄い……これは凄いですよ。カーンデジファー様が法律を変えた」
 「ふふふふふふ、そうか。元がぐらついておるから、楽な仕事であった」
 カーンデジファー様は褒められて満更でもなさそうな様子を見せ、逆恨み同盟が盛り上がる一方で、 重苦しい雰囲気に包まれた翔家はタクシーで刑務所へと向かっていた。だが空気を読まないGコールが鳴り響き、母親の叱責を受ける直人。
 「母さん、僕は……僕はね!」
 これまでも家族を救ってきたという自負から、危うく背景をキラキラさせそうになる直人だが、 すんでのところでタクシーは刑務所へ到着。しかし直人はそこで降りる事なくそのままタクシーに乗ってジャンクの元へと急ぐ。
 「一刻も早く、君のお父さんを救いたい」
 グリッドマンの熱いエールを受けるとアクセスフラッシュし、毒蜘蛛怪獣に果敢に肉弾戦を仕掛けるグリッドマンだったが、 蜘蛛の糸攻撃に絡め取られて本日も大ピンチ。だが応援のドラゴンが火炎放射で糸を焼き払うと、 竜帝合体からキンググリッドファイヤーで勝利を収め、父は刑務所から解放されて命日を回避するのであった。
 ……ところが、父の最期かもしれない場所に駆けつけなかった事で、誕生パーティから追い出されてしまう直人。寒空の下、 座り込んでいる所に一平とゆかがやってくる。
 「父さんが無事に帰ってきたんだ。それだけで十分俺は嬉しいよ」
 「直人もグリッドマンで苦労して、随分大人になったな」
 「あれ……あの星座、グリッドマンみたい」
 天にグリッドマン座が描かれ、父子も和解。秘密のヒーローの一抹の寂しさと、その中で守られた親子の愛が描かれ、 トンデモ展開が上手く演出されて面白かったです。
 次回――急展開! 同盟決裂で地球に迫る危機!!

◆第38話「危うし地球!」◆ (監督:村石宏實 脚本:平野美枝)
 逆恨み同盟は、グリッドマンに気付かれないよう隠密機能を持たせた悪臭怪獣を作り出すと、 システム上のバグに偽装して焼却炉を使用不能に陥らせ、ゴミを収集不能に。街の至る所にゴミの山がうず高く積まれて異臭を放ち、 じわじわと社会機構を蝕む事に成功する中、武史がゆかに防臭マスクをプレゼントすると、意外な好感触(笑)
 だがそれはすぐに、横の直人といちゃいちゃする材料になってしまい、歯がみする武史に、同情の眼差しを向ける一平。
 「マスクあげた僕の立場はどうなんの。わかってるって。俺もいつもひとりぼっちよ」
 逆恨み同盟に、新戦力の予感!
 「わかるもんか! 君なんかに、僕の気持ちが!」
 だが固く手を握り合う代わりに脇目も振らずに逃走した武史は、怪獣のステルスを解いて思い切り暴れさせ、 それによりグリッドマンに察知されてしまう事に。……まあ「怪獣」が武史の抱える憎悪の具象化である以上、暴れずにはいられない、 というのは今作の怪獣観の根本ではあります。
 本日は絶好調のハイパーエージェントは、急降下爆弾パンチで先制すると、膝蹴りを顔面に叩き込み、振り回してから中段蹴り、 飛び回し蹴りからハイキックへのコンボ、とキレキレの蹴り技で猛襲。先日の「グリッドーーー腹・筋」 失敗を気に病んで密かに筋トレをしていたのか、怪獣の前蹴りにも腹筋をプルプルさせながら耐え抜くと、反撃の足払い。
 うろたえる武史の横から、カーンデジファー様もモニターに顔を出し、この光景に大激怒。
 「計画が台無しではないか! どうせまた、一時の怒りに我を忘れたな、うつけ者が!!」
 ゆかの態度に責任転嫁する武史だがカーンデジファー様が納得してくれるわけもなく、 Cワールドではスタミナの切れてきたグリッドマンが竜帝合体。まさかのキンググリッドマンでの後ろ回し蹴りからキンググリッドビームへと繋いで悪臭怪獣は消滅し、 逆恨み同盟の作戦は無惨な失敗に終わってしまう。
 「ぬ〜〜〜、今度という今度は愛想が尽きたぞ! この能無し!!」
 そして同盟に、激震走る!
 「貴様の顔など二度と見たくない。出て行け!」
 え。
 出て行くのはカーンデジファー様の方では、と思ったのですが、先日の女子大生の一件がトラウマだったのか、 カーンデジファー様はパソコンから衝撃波を放ち、家出の代わりに武史の部屋を乗っ取ってしまう。
 「おまえなどもういらん!」
 「ど、どうかお側に置いて下さい! 僕を見捨てないで!」
 哀願虚しく武史は自宅を追い出され、マルチモニターに分身するカーンデジファー様。
 「もはやあんな能無しの手を借りずとも、コンピュータ操作など、儂一人で出来るのだ」
 平穏の戻った街をブラブラしていた直人達は、カーンデジファーに見切りをつけられた武史が公園で黄昏れているのを発見し、 マスクのお礼を言おうと近づくゆかだが、武史は涙を流して頭をかきむしりながら逃げ出してしまう。
 武史と直人達の距離感については、ゆかの「優しさ」で強行突破を計るのですが、これまでのゆか、 武史に対する一平達の悪口をたしなめるような事も特になかったので、強引になったのが否めないのは残念です。 冒頭のガスマスクもてっきり「やだ、気持ち悪い」とポイ捨てするとばかり思ったのですが…………つまり、 ガスマスクで物凄く好感度が上がったという事に。
 思えばグリッドマンの最強合体も実質ガスマスクですし、そう、『グリッドマン』世界では、 ガスマスクはレアアイテム。
 Q:得意先の役員を怒らせてしまいました。どうすればいいでしょうか?
 A:誠意を持って先方へ謝罪に窺いましょう。その時は、お詫びの気持ちを込めたガスマスクを持っていく事を忘れずに!
 そういえば顔のデザインモチーフにガスマスクが組み込まれている気がするカーンデジファー様は、 自らの魔力でキーボードをかちゃかちゃ。
 「人間どもの世界など、既に熟知しておる」
 武史とカーンデジファー様の決裂は、例えば感情的軋轢の蓄積のようなこれといった布石はなく、突然といえば非常に突然なのですが、 かつては「電子レンジ」が何かを知らなかったカーンデジファー様が、3クールかけて人間世界の事をお勉強し、 コンピューターの操作もマスターして独り立ちしたのだ、というのが一応の説得力がないこともない力技(笑)
 逃げた武史を追いかけた3人は、錯乱寸前の武史の「次こそ最強の怪獣を、カーンデジファー様ぁ!」 という叫びを聞いた事でカーンデジファーとの関係を問い質すが、Cワールドで巨大化したカーンデジファー様は、 空を覆い尽くす黒雲と共に、人類へと改めてその存在を誇示。
 これまでの学習を元にCワールド全域に魔手を伸ばすと、水道局や鉄道などのシステムを次々と乗っ取り、 人類社会のインフラを総ざらえで一挙大混乱に陥れる!
 「僕こそ天才、藤堂武史が、魔王カーンデジファー様の頭脳だったんだ!」
 その姿に立ち直った武史は得意満面で直人達にカーンデジファーとの繋がりを自白し、 武史にとって精神安定剤の役割を持っていたカーンデジファー様と切り離された事により、ひたすら情緒不安定。
 Gコールが鳴り響いて直人とゆかはジャンクに急ぎ、一平は武史の身柄を抑えると、事態の中心にある武史のPCの電源を切ってやる、 と藤堂家へ向かう。
 「遂にカーンデジファーのアジトを突き止めたよ、グリッドマン!」
 「やったな直人、行くぞ!」
 「よし。――アクセーーース・フラッシュ!」
 溜めを効かせた変身で、カーンデジファーの元へと跳ぶ、グリッドマン。
 「対決の時が来たなグリッドマン!」
 「カーンデジファー、逮捕する!」
 「逮捕? 出来ると思うのか、ハイパーエージェント!」
 「それが、私の使命だ!」
 グリッドマンに変身すると直人人格が9割9分消えてしまう問題と同様、 戦闘中は基本的に喋らない・そもそもグリッドマン自身がCGモデルを借りた仮の姿・《ウルトラ》オマージュ的な作劇上の要請、 などからグリッドマン個人の掘り下げ、というのはほとんど行われていなかったのですが(物語の取捨としては、 一つの選択としてブレなかったのが良かったと思います)、いよいよ直接対決に臨む所で、 最後の最後にグリッドマン個人が強く顔を見せる、このやり取りが大変格好良かったです。
 てっきり光線技や逆恨み念動力など主体だと思っていたカーンデジファー様は、意外や格闘戦でグリッドマンと互角に渡り合い、 Cワールドで死闘が繰り広げられる中、武史の部屋に乗り込む一平。だが、武史のパソコンは膨張・変形して触手を生やし、 もはや異界の法則に支配された、名状しがたきパソコンならぬものと化していた。
 「ふふふふ、グリッドマン、貴様をこの世から、抹殺してやる!」
 カーンデジファー様の放った渾身の大技・魔王タイフーンの直撃によりグリッドマンは藻掻き苦しみ、見たかハイパーエージェント!  これが、武史の帰りを待ちながら日々の筋トレを欠かさなかった、真の魔王の力だ!
 そして藤堂家から撤収した一平によりジャンクルームまで引きずられてきた武史は、逆恨み同盟の対として、 グリッドマンをサポートしていたのが直人たちだと知る。
 「こ、これが……これが、僕の敵だったというのか? こんな、こんなボロいコンピューターが……」
 「ジャンクに触るな! 俺達の命だぜ!」
 互いのここまでの立場を知る決定的瞬間において、ジャンクに触れる武史の驚愕と失意が入り交じった表情、 ジャンクへの強い思い入れ(と、今戦っている直人への友情)を感じさせる一平の姿と言葉、のどちらも秀逸。
 「……ふん、グリッドマンはカーンデジファー様に負けるさ」
 躁と鬱を凄い勢いで行き来する武史は直人達の奮闘を鼻で笑ってみせるが、そんな武史に炸裂する、 必殺の雷光平手打ち。
 「目を覚ますのよ武史くん!」
 このラスト2話、予想外のものも含めて今作ここまでの要素を色々と拾い、まさに集大成、という作りになっているのですが、 時計回のやや過剰な平手打ちは、この為の布石だったの……?! と思わず納得してしまいそうになる鮮やかな一撃(笑)
 「やっぱり、君は僕の事を」
 「私が……なんなのよ?!」
 「君のビンタに、愛を感じた」
 そして武史は、新しい世界に目覚めた!
 この期に及んで凄く駄目そうな反応を見せる武史だが、そう、ここは桜が丘……人間のクズ達が集う場所…… 地獄の底でも反省しない最低墓場の亡者の群れは……不思議コメディよりはマシさとせせら笑う……そう、ここは桜が丘…… 魔王の愛した吹きだまり――
 親の愛が欠落している武史にとっての「親父にもぶたれた事ないのに?!」というニュアンスはわかるのですが、 なにぶん武史の変態属性の積み重ねが強烈だったので、病状が悪化したようにしか見えなくて困ります。
 ゆかと一平は魔王様の筋肉に苦戦する一方のグリッドマンを強制退避させ、消耗しきった直人が帰還。一平は、 そんな状況でゆかへの変質的執着を見せ続ける武史を殴り飛ばし、部屋の隅で卑屈モードに入って泣きじゃくる武史。 宿敵に正面から殴り勝ったカーンデジファー様は高笑いし、地球に迫る最大の危機! で、つづく。
 逆恨み同盟の決裂から両陣営の関係判明と急展開の中で、前半のグリッドマンVS怪獣、後半のグリッドマンVS魔王、 とアクション的に見応えたっぷりだったのは大変良く、次回――「直人、ゆか、一平! ……そして武史。地球の運命は、 君たちにかかっている!」
 武史の名前を加える、というのがお約束ですが、熱い。
 ……武史のお小遣いでジャンクのメモリを増設しまくって勝つ!とかではないといいなぁ(笑)(リアルではある)

◆第39話「さらばグリッドマン」◆ (監督:村石宏實 脚本:平野靖士)
 カーンデジファーの腹筋に敗れて一時帰宅した直人は武史に逆恨み同盟の関係を問い、 「それから、僕の友達になってくれた」という武史の認識が改めて辛い。
 悪の組織において、〔上司−(駒扱い)→部下 部下−(敬愛や崇拝など)→上司〕という非対称の関係性はオーソドックスなものですが、 家庭に問題を抱える武史にとって、カーンデジファー様の存在は庇護者と同時に唯一心を許せる存在であり、 その存在感のファンタジーさゆえに怪獣と同様のイマジナリーフレンドの延長線上であったというのは今作の特徴的な部分。
 そして最小単位の「世界」としての「家族」が機能不全を起こしていた為に、外の「世界」と上手く繋がる事が出来ず「友達は魔王様」 という世界に逃げ込んでいた武史には、直人たちが当たり前に持っているものが欠落していた、 という対比が最終話で改めて鮮明に打ち出されます。
 「僕を頼りにしてくれたし、力を合わせて戦ってくれた」
 「その為に、世界中の人たちがどうなっても良かったのか?」
 またここで、武史が軽はずみに社会システムを破壊したり大惨事の引き金を引けたのは、世界にとって武史の存在感が限りなく薄い (と武史が認識していた)ように――以前も書きましたが、武史がよく人や物にぶつかる、というのは恐らくこの象徴――、 武史にとっても「外の世界」の存在感が限りなく薄かったから、と着地。
 この「世界中の人たち」をどう認識しているのかが、直人たちと武史の決定的な差といえます。
 「僕は……僕だって怖かったさ! だけど……どうしようもなかったんだ! ……僕のせいなんだ……僕が全部悪いんだ」
 一方、そんな武史の中に存在する良心の部分についてはこれまで、一部作戦への多少の狼狽程度しか描かれていなかった為、 不安定な情緒の勢いで吐露する、という形にしか出来なかったのは苦しく、掘り下げの不足が惜しまれる部分。 タケオ回があったのでなんとか、武史には武史なりの善良で健康的で他者を思いやる理想の自分が存在していた、という事はわかりますが。
 「自分が悪いと思うんなら、責任を取ったらどうだ」
 「…………責任?」
 「そうや。丁度ここに、こんな事もあろうかと準備しておいたダイナマイトが150屯あるけん。これ巻いて、 カーンデジファー野郎のタマとってみぃ! そいたら、今までの事は全部水に流しちゃる。グリッドマンのオジキもそう言ってるけんのう。 どうや? それが出来たら、わいやは友達や。な?」
  「と、友達……」
 ケジメをつけろ、と迫られる武史だったが、他者に責任を転嫁する心根は一朝一夕では変わらず、これを拒絶。やむなく3人は、 武史を捨て置いてそのPCへのアクセスを試みるが、セキュリティを突破できずにいる内にグリッドマンが復帰。
 「グリッドマン、こうなりゃもう一度!」
 「直人、無理すんな。どうやってカーンデジファーに勝つつもりなんだよ?」
 「そうよ。作戦が必要よ」
 どんな強大な敵にもくじけず立ち向かう姿の中には「ヒーロー性」がある一方、最終的な勝利を度外視すればそれは力ある者の 「無責任」になりかねない面を孕んでおり(例えば現行『ルパパト』は、このジレンマを上手く警察サイドの物語に取り込んでいる)、 “戦わなければヒーローではないが、守り抜けなければヒーローである事を全うできない”という命題に対し、 キャラクターの役割分担によって、直人/グリッドマンのヒーロー性を損ねる事なく、 勝利への道筋をつけて物語的な面白さと根拠も加える、というエッセンスが無理なく収められていて、 幼なじみチームで戦う『グリッドマン』らしさ、の象徴の一つとして好きなシーン。
 一計を案じた一平は、全人類へ向けてマイクアピール中のカーンデジファーを虚仮にした挑戦状を叩きつけ、 ここで子供のノリが入ると共に、モニター越しに聞こえてくる聞き覚えのある声に家族が気付く、という展開が素晴らしい。
 「誰だ! 儂を愚弄するたわけ者は! 発信地などすぐにわかる。息の根、止めてくれるわ!」
 武史と意気投合するだけあり、案の定カッとしやすいカーンデジファー様はCワールドを移動してジャンクへと迫る。
 「――奴が来る!」
 その気配を察知し、前回今回と、グリッドマンが格好いいのも良いところ。
 「グリッドマン、合体だ!」
 「よし!」
 「直人……頼むぜ」
 一平の激励に頷いた直人はブレスを構え――
 「アクセーース・フラッシュ!」
 魔王城と化した武史PCに居座り手出し不能のカーンデジファーを、リスク承知でジャンク内部に引きずり出して迎え撃つ、 という乾坤一擲の大勝負を仕掛ける事で、定例の変身シーンもしっかり劇的となり、直人はグリッドマンと合体。 更にそれを武史に見せつける、という物語的意味も与えられていて、渾身のラスト変身に、 武史がグリッドマンの真実を知る劇的な瞬間が重ねられる、という流れが非常に上手い。
 この一連のシーンは、『グリッドマン』全39話の集約かつ集大成として、実にお見事でした。
 かくしてジャンクに乗り込んできたカーンデジファーに、今日もダッシュで奇襲を仕掛けるグリッドマン。だが、 作戦と手駒の制作を武史に任せ、筋トレに励んでいた魔王様はがっぷり四つでそれを受け止め、 全身を覆うマント姿で上段回し蹴りするカーンデジファー様が格好良すぎるのですが。
 「ここが貴様のアジトだったのか!」
 「ゆか、今だ!」
 「監禁プログラム、発射!」
 戦慄のネーミングセンスによるプログラムが投入されてカーンデジファーの動きを封じ、ゆかと一平は拘束したカーンデジファー様を、 ドラッグ&ドロップでまさかのフロッピーディスクへ!(笑)
 収めてしまおうとするが間一髪、監禁プログラムを打ち破りカーンデジファー様はこれを回避。
 いくらCワールドとHワールド、ヒーローと魔王と子供達が密接に影響し合う世界観とはいえ、 ラスボスの最期が圧縮されてフロッピーに収められて焼却されるはあんまりだったので、正直、回避されてホッとしました(笑)
 作戦失敗したゆかと一平はバリアシールドを転送するが、対するカーンデジファー様は魔王剣を取り出し、あの、ここに来て、 カーンデジファー様がアクション的に滅茶苦茶格好いいのですが?! という大変嬉しいサービスぶり。ラスト2話、 グリッドマンがキャラ的に、カーンデジファー様がアクション的に、それぞれ格好良さを付加される事で、 最終決戦が非常に魅力的なヒーローと魔王の激突になっています。
 基本、グリッドマンのバトルは跳んだり跳ねたり回ったりという路線なのですが、カーンデジファー戦でもそれを貫いてくれたのは、 嬉しい予想外。
 両者は剣を振り回しながら激しい打撃を応酬し、カーンデジファー様のマントの下は、割とプロレスラースタイル (※マグマ星人のアトラクションスーツとの事)。魔王光線によりバリアシールドを吹き飛ばし、 余裕のカーンデジファー様はモニター越しにHワールドを覗くと武史の存在を発見。家から追い出した事は棚に上げ、 グリッドマンの手先に成り下がったのかとお仕置きビームを放ち、倒れた武史を助けたゆかと一平は、荷物の陰に揃って避難する。
 「な、なんで僕の為に?」
 「私たちはあなたを救いたいのよ! いいえ、あなただけじゃない。世界中の人を助けたいの」
 「おまえだって、カーンデジファーにこのまま好き勝手やらせていいと思ってないだろ?!」
 重ねて、武史の《説得》フェーズがスキップ気味になってしまったのはラスト2話の残念な部分ですが、自身の卑屈な思い込みも含め 「誰にも顧みられない」事(視線が向くのは嘲笑される時だけ)が最大のコンプレックスであった武史にとって、「誰かに助けられる」 事が大きな転機であった事は窺え、出来れば数話をかけて、互いの立場を知らぬまま歩み寄りのきっかけが醸成されていくフェーズが描かれていれば…… というのは全体の中で惜しまれるところ(今作、30話台は割とのんびり単発エピソードをやっていたのですが、 1年やる予定だったのかどうなのか)。 (※4クール→3クール短縮らしいとの事)
 「はははははは! 儂は貴様達の世界に更なる恐怖を巻き起こしてやる。ふはははははは……!」
 グリッドマンを蹴散らしたカーンデジファーは、ジャンクのCワールドで暴れ回ってアシストウェポンのプログラムを次々と消滅させ、 火を噴くジャンクと共にグリッドマンに迫る消滅の危機。
 Hワールドの藤堂邸からは巨大な触手が突き出して市民がパニックに陥り、カーンデジファーは、 いよいよCワールドから外へ顕現しようとしていた! と序盤の仕掛けもしっかり回収。
 「カーンデジファー、貴様の思い通りには、させん!」
 死力を振り絞って立ち上がったグリッドマンはジャンク内部から通路を開くと、 カーンデジファーがやってきた道を逆に利用して武史のPCへと侵入。 キラキラミストで本丸を正常化するという起死回生の一手を放とうとするが、後を追ってきた魔王様にねじ伏せられてしまう。
 だがその時、ゆかを押しのけてキーボードの前に座った武史が、カーンデジファーごと自らのPCのデータ全てを抹消する、 という手段を決意。
 「カーンデジファーは、僕の心の醜さに引き寄せられてきた怪物なんだ。奴を倒さない限り、僕は立ち直る事ができない」
 延々と他者への責任転嫁を続けてきた武史が、遂に己自身の醜さを認め、 しかし一方ではそんな自分を一時的とはいえ救ってくれたカーンデジファー――そして「我が良き友等」――との決別に、 どこか悲しげな表情で涙を流す、というのは大変秀逸でした。
 ここではカーンデジファーは武史の内面から生まれた「怪獣の一種」という様相も与えられており、 武史にとってPCデータとカーンデジファーの抹殺は、ある意味で「父殺し」であり、コンピューターという「揺り籠」を破壊する事で、 自ら生きる力を得る、という新生の象徴にもなっています。
 馬場家や井上家が集う藤堂邸周囲の上空ではCワールドとHワールドの境界が崩れ始め、 カーンデジファーとグリッドマンの死闘が虚空に浮かび上がる。
 「貴様の首、表の世界の土産にしてやろう」
 人々の送るエールが力に……という程ハッキリとした扱いにならなかったのは好みとしてはちょっと残念でしたが (武史の改心からスポットが外れてしまうのを避けたか)、グリッドマンは魔王剣を咄嗟の白羽取りで受け止め、 ジャンクでは武史が破壊プログラムを完成させる。だが魔王城のCワールドを破壊してしまえば、 グリッドマン/直人も巻き込まれてしまうかもしれない……それでも、やるしかない、と決断してエンターキーを押す役割はゆか、 というのも関係性をしっかり収めて格好良かったです。
 「直人……」
 道中、物凄い勢いでヒロイン推しされていたゆかは、ラスト2話では控え目になるのですが、 むしろ幾つかのエピソードでやりすぎな感じがあったので、バランスとしては良かったと思います。
 取っ組み合いしながら現界化しかけていたグリッドマンとカーンデジファーであったが、 飛来した破壊プログラムをグリッドマンがキャッチすると、その効果により武史PCのCワールドが消滅していき…… これにて、悪事の証拠隠滅!
 つまるところやはり、宇宙最強のセキュリティは、自・爆!!
 「おのれグリッドマン……こうなれば貴様も地獄へ、道連れにしてやるぅぅぅ!」
 セキュリティ対決に敗れた魔王は最後の力でグリッドマンに迫るが、
 「グリッドーーー・ハイパー・ビーム!」
 破壊プログラムを直接叩き込む青白い閃光が突き刺さってバラバラに砕け散り…………た、逮捕は?  前回の「逮捕する!」が格好良かっただけに腰砕けではありましたが、犯人の射殺やむなしの状況ではありましたし、 カタルシスとしてはそれはこうなる、というのは納得の展開。戻ったら膨大な始末書と下手すると降格処分が待っているかもしれないが、 強く生きろ、ハイパーエージェント!
 ケジメの腹マイトもとい自爆プログラムによりカーンデジファーは消滅するが、崩壊の光に飲み込まれてしまうグリッドマン…… 果たしてグリッドマンは、直人は、死んでしまったのか!? これでライバルが減っ……じゃなかった、 直人の死に打ちひしがれるジャンクトリオだったが、グリッドマンは生きていた!
 藤堂邸の異変も収まり、グリッドマン万歳の大合唱がわき起こる中、グリッドマンと直人は無事にジャンクへと戻り、 4人は勢いでスクラム。そして使命を終えたグリッドマンは、ハイパーワールドへの帰還を告げる。
 「私の使命は終わったのだ。……
 一平くんの天才的な閃きと勇気は、いつまでも失わないでほしい。
 ゆかちゃん、君の優しさと、冷静な判断には随分助けられたよ。
 武史くん、もう君は独りじゃない。これからは、みんなと力を合わせ、未来を切り拓いていくんだ。
 直人、本当によく戦ってくれた。君がいなかったら、私は任務を成し遂げる事が出来なかっただろう。
 ありがとう。私は君たちから教えられた。それは、本当に信頼できる友達を持つ事が、最強の武器だという事を。それじゃみんな、 元気で!」
 感謝のエールを4人に送り、爽やか敬礼を決めるハイパーエージェント。
 「「さよなら」」
 何故か、台詞を同時にまとめられる武史と一平(笑)
 「グリッドマン、さよなら」
 「さよなら」
 ジャンクを離れてグリッドマンは飛び去っていき、それを追いかけて外へ出た4人は夕暮れの空を見上げる……そして武史は、 後生大事にポケットに入れていたゆか宛てのラブレターを破り捨てる。
 「なんだいそれは?」
 「もういいんだ。……君たちが……友達になってくれるなら」

 「え? なんで?」

 とか言われたらどうしようかと思いましたが、
 「もう、友達じゃない」
 で良かった(笑)
 殻に篭もっていたこれまでの武史の一方的な視線による人間関係の終結、の象徴としてラブレターも機能し、 笑顔で西の空を見上げる4人。そこでは、ハイパーエージェントの星が光り輝くのであった。
 「ありがとう!」
 「「「「グリッドマーーン」」」」
 で、完結。
 この後、ビデオカメラ事件の真相にゆかが思い至り、頭を丸めた武史が土下座を繰り返す 一件があったりなかったりしそうですが、男衆は割と最っ低繋がりで仲良くなれそうなので、 後々まとめてゆかに捨てられないかは心配です(笑)
 武史に関しては、逆恨み同盟として引き起こした件の実害が大きすぎる為、責任の取らせようが逮捕・裁判しかなくなってしまった結果、 PC破壊による脱皮と再生という内面的な問題解決を重視したマイルドめの決着となりましたが、 「武史を救済する」事自体は本作序盤から物語の着地点として明確に示されていましたし、武史の蹉跌を「心の擦りむき」とし、 「もう君は独りじゃない」から、「誰もが皆ヒーローになれるよ」というのは、OP歌詞を本編に象徴的に取り込みつつ、 『グリッドマン』の寓話的側面からは、納得の行く決着でした。
 これが成人済みだったら、車椅子で(中略)されていたかもですが。
 武史の家庭の問題や、Cワールドの妖精など幾つか掘り下げ切れない要素はあったものの、今作これまでの積み重ねを大体において拾い、 迫力の肉弾ラストバトル・それぞれの役割分担・勢い任せだけではない決戦、などなど予想を遙かに超えて面白い最終回でした。
 また、少年少女のある時期に寄り添い、転んだ時に側に居てくれて、そして「使命を終えて」去って行く―― だけどいつだって見守っているし、次は君の元へ行くかもしれない、というのは凄く好みのヒーローテーゼで、 メタ的な意味合いも含めてそんなヒーローのありようが濃縮されたラストは、大変美しい着地でありました。
 ED映像は、怪獣と各種グリッドマンを1カットずつで総ざらいという嬉しい編集。

ずっと君といたい もっと君を知れば
今よりも強くなれる
COME ON IN DREAM WOW... ずっと

 総評としては以前に書いた、「悪役の魅力的な90年代だけど80年代的な作品」というものになりますが、 急展開ながらきっちり集大成としてまとめてみせたラスト2話は見応えがあり、後味の良い作品でした。 逆恨み同盟は実に魅力的な悪の組織でしたし、1話1話の完成度としては隙が目立つものの(もっともこれは、 同時期の比較対象となりうる東映特撮作品に天才・扇澤延男が居た、というのが大きいかも)、 アニメ的デフォルメと実写特撮からなる世界観が噛み合ってきた3クール目はアベレージも上昇し、トータルでは面白く楽しめた作品でした。
 グリッドーーー腹・筋! (※緑川光はそんなこと言わない)
 基本無言の戦闘にメリハリをつける都合上、グリッドマンがよく怪獣に痛めつけられる事もあり、 グリッドマン個人について最も印象的なのは、繰り返される悶絶シーンと、おもむろに腹筋で火球攻撃を跳ね返そうとするも失・敗な私。
 当初は「説明は後だ」やその肩書きに不審も覚えましたが、最後の手段として直人・武史と強制合体の末に全てを統合するグリッドマン人格となり、 崩壊の光の中で爽やかガッツポーズを決めるエンドでなくて良かったです!

(2019年9月4日)

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