■『電光超人グリッドマン』感想まとめ1■


“グリッドマン...
BABY DON DON BABY DON DON”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『電光超人グリッドマン』 感想の、まとめ1(1話〜10話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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〔まとめ2〕 ・ 〔まとめ3〕 ・ 〔まとめ4〕


◆第1話「新世紀ヒーロー誕生!」◆ (監督:曽我仁彦 脚本:平野靖士)
 極力クレジットを排す一方、今回の登場怪獣の紹介映像を除いてキャラクター類が一切出てこず、 ケーブルの中をくぐりぬけるような主観映像が延々と続くという、かなり大胆なOPでスタート。
 視点は最後に現実世界に飛び出し、映し出されるのは巨大な自作パソコン、その名をジャンク。 それを組み上げた主人公グループ――直人・ゆか・一平の3人組が健康的に描かれる一方、 目元にかかる垂れた前髪と顔立ちに不釣り合いな大きすぎるメガネ、話しかけた相手にまともに視線を合わせられず、 全身から根暗と対人コミュニケーション不全のオーラを放出するブレザーにネクタイの少年が、インパクト強く登場。
 「僕なんて居なくても、誰も気にしないんだ」
 まともに会話を成り立たせられず、ゆかに手紙(ラブレター?)を渡し損ねた少年――藤堂武史は、 複数のパソコンとモニターを並べた自室で、パソコン上の怪獣に「ご主人様」と呼ばせて自己肯定しながら、 手紙を「渡せなかった」を「受け取らなかった」にすり替えると、「あれは悪い女だ。何か拷問を加える必要があります」と怪獣に言わせ、 ハッキングを開始。
 「僕の手紙を受け取らなかった罰だ」
 ハッキングの描写はマンガ的ながら、ちっぽけな自己の精神を守る為に、一方的な逆恨みから薄暗い犯罪行為に手を染める流れのリアリティが、実に凶悪。
 また武史が決して愉快犯的ではなく、針の振れ方次第では自己の消失に走りそうな生命力の弱さが台詞で示されているが故に、 自己防衛の為に掴んだ歪んだナイフの切っ先が、他人を傷つける事をいとわない身勝手さとして発露している裏側に、 深刻な危うさが見え隠れしているのも恐ろしさを漂わせるところです。
 ゆかの両親が経営する病院のコンピューターをハッキングした武史は、病院の機能を麻痺させてほくそ笑むが、 頭上の黒雲から迸った青い光がパソコンに入り込み、突如としてモニターから放たれた電光に打たれて倒れると、 画面の中に黒マントの怪人が。
 「悪意と憎悪に満ちた貴様の心、それに貴様が作った醜悪なプログラム。気に入ったぞ」
 「な、な、なんだおまえ?」
 「儂の名は、魔王カーンデジファー。貴様と志を同じくする者」
 こ、恋の逆恨み?!
 「コンピューターワールドに、悪のエネルギーを撒き散らすのだ」
 カーンデジファー様(やたらと語呂が良い)は、コンピューターワールドの破壊を手助けしよう、 と告げると武史の作ったCGのモンスターを電脳空間の中における巨大怪獣として具現化し、 井上病院の電脳仮想空間でで大暴れする怪獣の姿に高笑いで大喜び……だ、大丈夫かこの人?!
 ところが、Cワールドの破壊は現実世界にまで影響を及ぼし、何故かビームの走る手術室。直人の弟・大地がこれに巻き込まれ、 ジャンクから病院のコンピューターにアクセスした3人は、電脳空間で暴れ回る怪獣の姿を目にする。
 「このままだと、大地はどうなるんだ。なんとかしないと」
 その時、電話線を伝って光り輝く何かがジャンクに入り込み、モニターから飛び出したブレスレットが直人の腕に装着される。そして、 一平が描いていた3Dモデル――ジャンクの守護者・グリッドマン――がスマートな着ぐるみの姿を取り、 カクカクとした動き(メモリ不足?)ながらも二枚目声で喋り出すのであった!
 「私はハイパーエージェント、グリッドマン。コンピューターワールドに、魔王カーンデジファーが逃げ込んだ。君たちの協力を要請する」
 「コンピューターワールド?」
 「なんのこった?」
 「君たちの声はこちらに聞こえない。キーボードを使ってくれ!」
 あ、なんか、面倒くさい人だった!
 「わかったわ。(キーボードを打つ)カーンデジファーって?」
 「説明は後だ」

 おい

 「今暴れている怪獣を止めなくてはならない。緊急出動だ!」
 正論は正論だけど困った人に、左手首に半強制装着されたブレスレットのボタンを押す様に言われる直人少年。
 「我々は合体しなければならない」
 「……合体?」
 「さあ、ボタンを押すのだ!」
 力強くガッツポーズで促してくるグリッドマン(君たちの声はこちらに聞こえない)。
 ……本当に、聞こえていないのか、凄く不安になってきました。
 「なんだかわかんないけど、それで大地が助かるなら」
 やや不安をあおるピアノのBGMをバックに立ち上がった直人がボタンを押すと、 赤い光に包まれた直人は水色のぴっちりスーツに着替えてモニターの中に吸い込まれてしまう。 そしてジャンク内部でグリッドマンと対面すると両者の間を光の線が繋ぎ、2人は合体。
 「戦闘コードを打ち込んでくれ! アクセスコードは、GRIDMAN!」
 いちいち爽やかにガッツポーズ決めるけど、面倒くさいぞこの人!
 少年少女が直接的にヒーローを支援できる、というところに面白さやワクワクがあると同時に、 自然とヒーローチームを成立させているといえますが、これが東映ヒーローならハイパーエージェントは間違いなく胡散臭い枠なので、 倫理観とかあれこれ心配です!
 ジャンクの中から勇躍飛び立ったグリッドマンは電話線を通って怪獣が暴れ回るコンピューターワールドに辿り着くが……小さかった。
 怪獣の鼻息に飛ばされそうになり、まったく太刀打ちできないグリッドマンの姿に魔王様が気付き、あわやぺしゃんこの寸前、 ゆかが送り込んだプログラムにより、グリッドマンは巨大化(ポーズと演出は完全に《ウルトラ》シリーズ)。 同じ大きさならこちらのものだと格好良く投げ飛ばすも早くもエネルギー切れを起こし、 グリッドマンと連動したジャンクも激しく火花を噴き上げる。
 頭のカラータイマーが激しく明滅し、一気に消滅の危機に陥るグリッドマンだったが、強烈なドロップキック、 角をへし折るチョップを繰り出すと、最後は必殺光線でなんとか怪獣を撃破。胸部から放つキラキラしたミストで破壊されたワールドを修復するとジャンクへと帰還、 分離した直人も無事に現実世界へと吐き出されるのであった。
 ナレーション「電光超人・グリッドマンと、魔王・カーンデジファーとの戦いは、始まったばかりだ。これは、明日、君たちの周りで、 起きるかもしれない、事件の、始まりなのだ」

◆第2話「アクセプターの秘密」◆ (監督:曽我仁彦 脚本:平野美枝)
 前回、EDに詰め込んでいたクレジットは、今回から一部OPに。
 「ふふふふふふ。今日もまた学校から、憎悪と悪意を抱えてきたか。今や貴様は儂の命令に従う奴隷だ。貴様のくだらん憎悪を、 存分に発揮させてやる」
 「学校」のところに好きな単語を当てはめると、大変汎用性が高くて危険。
 カーンデジファーの光線を受けた武史はぼんやりとした表情で魔王様を崇め讃えるようになり、 武史の人間性が引っ込んでしまうとちょっと面白くない気がするのですが、さてどうなるのか……まあ、年齢が年齢だけに(中学生?)、 あくまで魔王に操られているという体裁にしておかないと、物語的な因果応報の観念からまずい、という配慮はありそうですが (第1話時点で相当洒落になりませんでしたが)、善玉サイドと悪玉サイドの対立構造にそれぞれ少年少女を配しているのが面白みである一方、 気を遣う部分も増えそうではあり。
 「貴様のどす黒い憎悪が、怪獣を生み出すのだ。儂の望みを叶える為にな」
 「ふふふ、僕の怪獣……」
 なお「武史」と「直人」だと、私の中で前者の方が“主人公ぽい名前”のイメージの為(このネーミングは意図的な感はありますが)、 今後感想の中で直人の事をナチュラルに武史と書き前違える事があるかもしれませんが(実は既に何回かやって直している)、 そういう事情だと思っていただければ幸いです。あと「直人」と聞くと、どうしても某機動刑事を思い出すというのもあります!
 一方その頃、グリッドマンのHPを増やす為にジャンクのメモリを増強した直人達は、前回流されたグリッドマンの事情聴取を行い、 グリッドマン(一平がCGに付けた名前なので本名では無いわけですが)は、別の宇宙・ハイパーワールドから魔王カーンデジファーを追ってやってきた、と事情を語る。
 魔王カーンデジファーとは「あらゆる次元をワープして悪事を働く伝説の悪魔」であり、コンピューターワールドは仮想の電脳空間ではなく、 れっきとした多次元世界の一つであると判明。そしてCワールドは直人達の済む次元(便宜上、以下ヒューマンワールド) と密接に繋がっており、魔王はそれを利用する事でヒューマンワールドの征服を目論んでいるのであった。
 ヒューマンワールドでは実体を持たないエネルギーに過ぎないハイパーエージェントは、 弟を守りたいと願う直人の強い心に反応して依り代に選び、合体してグリッドマンとなる事でカーンデジファーの作り出す怪獣と戦えるのだった!
 「俺たちは選ばれたんだ。――アクセス・フラッシュ!」
 怪獣をヒューマンワールドに実体化させようとする魔王の陰謀により大学のコンピューターがハッキングされ、 世界を守る使命感を抱いた3人組はグリッドマンと共に戦う事を決意。直人と合体して緊急出動するグリッドマンだが、 大学のコンピューターの入り口でバリア(それは大学のサーバーのファイアウォールなのでは……)に阻まれ、 今回も今ひとつ格好良く決まらず。
 Cワールドにおけるバリア=現実世界におけるIDやパスワードの事に違いない、と閃いたサポート役のゆかと一平が、 バリア破壊プログラムという名の不正アクセスを繰り返し、薄々そんな事になりそうな気はしたのですが、 君たちのやっている事が武史のハッキングと一緒で、どんな顔で見ればいいのか。
 一方、怪獣は魔王の目論見通りに大学のコンピューターのプログラムを内部から改造し、 次元の壁を歪ませてヒューマンワールドへの扉を開く事に成功。第2話にして怪獣が現実の脅威になりそうになるが、 ようやくグリッドマンが突入に成功し、現実世界への淵でもつれあう両者、というのはなかなか面白い映像。
 またもジャンクが煙や火花を噴き上げるピンチに陥る中、根性出して怪獣を押し返したグリッドマンは連続攻撃で怪獣のトゲトゲを次々もぎ取ると、 弱らせたところに必殺光線グリッドビームで大勝利。
 前回につづき、特にメリハリのない逆転劇(『ウルトラセブン』とか、初期シリーズぽい)かつ、 打撃に強い設定の弾力怪獣の特色もこれといって活かされず、戦闘シーンの工夫は今後に期待したいです。
 また、合体すると直人の人格が飲み込まれる関係で、戦闘シーンが長いほど直人の存在が目立たなくなってしまい、 むしろサポート2人の活躍が目立つ事になる、というのはちょっと厄介な構造に見える部分。
 前回の反応を見ると、直人は合体中の記憶を失っているようですが、某バロム・1の悲劇の再来にならないか、 ハイパーエージェントの倫理観が大変不安です!(たぶん、「エージェント」が良くない)
 かくして直人達の活躍により魔王の陰謀は砕かれるが、現実世界に蜃気楼のように痕跡を残した巨人と怪獣の戦いを、 入院中の直人の弟・大地が病室の窓から見ていた、でつづく。
 長らく、名前は割と聞くけど全く未見で気になっていた『グリッドマン』、放映当時(1993年)の衝撃度は図りかねますが、 物語の根底にあるのは普遍的な“人間の悪意”であり、それを実体化するツールとしてのコンピューター、 という劇構造は、現代の方がより突き刺さる状況設定であるかもしれません。
 逆に、突き刺さりすぎてフィクションの寓意性が薄れてしまい、個々の要素が凶悪になりすぎている面もあるかもですが、 これからどう展開していくのか、楽しみに見ていこうと思います。

◆第3話「電話パニック危機一髪」◆ (監督:神澤信一 脚本:平野美枝)
 見所は、
 −−−−−
 オロカナ ニンゲン ドモヨ
 オレサマガ ニンゲン セカイヲ
 セイフクスル ヒマデ
 コンランニ クルシムガヨイ

     マオウ カーンデジファー
 −−−−−
 だいぶ頭の悪そうな署名入り犯行声明を、地元ケーブルテレビ局にFAXで大量送信するカーンデジファー様。
 悪の組織としての公式デビューが、FAXによる世界征服宣言というのは史上空前ではあるまいか。
 学校のプレートがハッキリ映り、年代の微妙な感じだった主人公達は、中学生と判明。 そして公衆電話でやいのやいのする女子を無言で見つめていた武史くんはしっかり、同じ空気もなるべく吸いたくないという忌避の反応を受けており、 こういうところ、いちいちリアルですね!
 「ラブコールなんかする奴は、叱られて当然だ」
 本日も逆恨みエネルギーをチャージする武史は後ろから走ってきたゆかの自転車に引っかけられ、割と明確に自転車でぶつかっておいて、 落とした鞄を拾おうと自転車を降りる素振りすら見せないヒロインも、結構アレな感じだった……!
 ネガティブな反応を受ける時以外、誰からも顧みられない空気のような少年は、ポケットに忍ばせていた手紙を取り出しながら、 ゆかの背を見送り、魔王様の光線を受けた後も病んだ人格面がそのままでホッとしました(第2話と第3話なので、 物語の連動にズレが生じている可能性もありますが)。
 「電話なんか、大嫌いだ!」
 毒づく武史は家に帰ると、「はいママ……わかりました、そうしますので」と母親からの電話にかしこまった敬語で接し、 何やら家庭に問題を抱えている様子。
 「どうせ……僕にかかる電話は、ママからの命令だけだ!」
 「ふふふふふふふふ、電話か、面白い」
 武史を煽ったカーンデジファー様は電話への憎しみから新たに火山怪獣を誕生させ、善と悪の両サイドに少年少女を配置する事で、 “ヒーローを直接手助けする楽しさ”と“私の考えた格好いい怪獣が現実になる面白さ”の双方を取り込んだのは、 子供心に目配りの利いた面白い構造。
 その頃、父親の携帯電話を勝手に持ち出して使いながら外を歩いていた一平妹は、 「怪獣とヒーローを見た」と言って地元ケーブルテレビ局のニュースに出演して、人気者気取りの大地と遭遇。
 「誰も僕の言う事信じないんだな」
 「信じるか信じないかは人を見て決める事にしてんの」
 卓見だ(笑)
 二人は友達とのかくれんぼ中に古いコンテナ車に閉じ込められてしまい、「セクハラ」という単語が登場。しかも、 一平妹が大地に対して「男らしさ」を要求するのに対して大地が反駁を試みる、という文脈で用いられているのが面白いのですが、 携帯電話を小道具に使うのも含めて、時代の新しい要素を積極的に物語に取り込んでいこうという意図でしょうか。
 なお、携帯電話のレンタルサービス開始が1987年で、92年7月にNTTドコモが誕生しており、 93年当時だと一般向けの普及が広がり始めたぐらいの時期だったのかと思われます(なので、 父が恐らく業務用に契約している携帯電話に娘が興味を示したという事なのかなと)。
 一平妹に高圧的に命じられた大地は、なんとかドアをこじ開けようと体当たりを重ねるも跳ね返され、衝撃の痛みで泣きじゃくるが、 一平妹は目も向けない。
 「はぁー……なっさけなーい。……そーうだ! これがあったのよー!」
 わざとらしく呟きながら携帯電話に手を伸ばす一平妹、本当に今思い出したのか、「おやおや〜? こんな所に黒い箱があるぞ?  もしかしてこれは、外に助けを求められる、電話ってやつかなー」と今気付いたふりで大地くんを嘲弄しているのか、 演技の拙さゆえに判別ができず、とんでもない鬼畜生に。
 携帯電話を用いて兄に助けを求める一平妹だったが、電話局のシステムに侵入した怪獣の影響で、電話が途中で不通になってしまう。 街が徐々に大混乱に陥っていく中、一平はとにかく自転車で走り回って妹と大地を探し回り、Gコールを受けた直人はジャンクの元へ。
 「グリッドマン出動だ!」
 「電話のやつどうなってるの?!」
 「話は後だ!」
 ……あれ、早くも、ハイパーエージェントと、混ざってきている?!(不穏)
 必死に妹と弟を探す友人と行き会っても実質スルーしており、第1話ではあんなに弟を心配していたのにな……!
 尊い犠牲を払いながらアクセスフラッシュしたグリッドマンは電話局のシステムに突入し、火山怪獣と戦闘開始。 戦闘中に電話回線の部分的復旧を頼まれるという無茶ぶりを受けながらもキラキラミストを放って修復を行い、 色々と不穏な香りのするハイパーエージェントが、悪い人ではない事を行動で示してくれたのはホッとしました(笑)
 グリッドマンの助力により携帯電話が再び通じ、妹たちの救出に向かう一平。怪獣の火山弾攻撃に苦戦するグリッドマンだが、 四つ足怪獣に対するお約束の馬乗りから反撃に転じると、火山弾を放つ背中の砲口を破壊し、 弱ったところにグリッドビームを放って消滅させるのであった。
 1−3話と、怪獣の部位破壊を行ってから必殺光線でフィニッシュ、という流れは共通しており、 とりあえずこれが戦闘におけるキーポイントいう意識でしょうか。
 グリッドマンは電話局のシステムを復旧し、収まっていく街の混乱。一平妹と大地は無事に救出され、 存在して当たり前だと思っていた社会的インフラがいざ使えなくなった時の恐ろしさを、直人達は身を以て知るのであった……。
 閉じ込められた妹弟は一平が車を発見して即解決ではなく、最終的に電話の復旧後に消防署に連絡して救助してもらうという形になるのですが、 最後に警官や救急隊員の姿が描かれる事で、今回のエピソード全体が災害などの緊急事態の寓話であった事が明確に示され、 ヒーローが常人の目に見えない世界で戦う一方、そこから発生する問題(のエッセンス)を現実に引き寄せる、 というのが今作の狙いの一つとなっていくのでありましょうか。
 そして、担架に横たわりながらも懲りずに友達に電話をかけ、大地くんは男じゃない、と語る一平妹、 武史を凌駕する邪悪。
 もはやオチのほのぼのギャグとか子供の無邪気さを遙かに越える領域になっており、カーンデジファー様好みの、 世界に対するねじくれた憎悪とは種類の違うものではありましょうが、こちらを、下僕に選んだ方が良かったのでは?!
 今回、武史の家庭の事情が匂わされるのに合わせてか、直人父はケーブルテレビ局の次長、一平父は愛妻家、 とそれぞれ家族の姿が織り込まれ、少年少女をメインに据えた物語としては手堅く周辺要素を掘り下げ。また、 恐らく今後コメディリリーフ的に日常に関わってくるのかと思われる警官のシーンが挿入され(かなり唐突でしたが)、 日常生活のディテールが広げられたのは、今後うまく転がってほしいです。
 次回――物凄くそのままなサブタイトル。

◆第4話「暴走自動車」◆ (監督:神澤信一 脚本:平野靖士)
 「こちらが、先週ハッカーによって、各地に送られてきたFAXです」
 直人父が勤めるケーブルテレビ局のニュースで公開されてしまう、カーンデジファー様のちょっと恥ずかしい犯行声明(笑)
 一応、「各地」に送られていてホッとしました!
 それに対する、コメンテーターの細野(ゲスト出演の黒部進さん、品が良くてバタくさい二枚目顔からの、 感じ悪いインテリ演技が物凄く腹立たしい(笑))による「馬鹿なハッカー」「個人の車のコンピューターには入れない」 という発言を耳にして、闘志に火が点いた武史&魔王様は、細野の所有する最新型のコンピューター制御システム搭載自動車をハッキングして目に物見せてやる、 と嫌がらせの敢行を決意。
 「そうだ! 我々を侮辱すれば、その報いがどんなものか教えてやれ。はははははははは!」
 楽しそうだな、君たち。
 塾をさぼって一平達とジャンクパーツを漁っていた直人は母親に見つかってお叱りを受け、 極楽とんぼな兄の姿に弟・大地が大人ぶって己の招来を憂えてみたり、直人父が細野との接待ゴルフでへこへこと頭を下げたり、 随所に妙に世知辛い要素が盛り込まれるのも、なんだか『超人バロム・1』を思い出してならないのですが、 小中学生ぐらいを主役に据えた場合、両親などを通して社会を風刺的に描いてみせる、というのはある種のセオリーだったりするのでしょうか。
 アニメ・特撮問わず、そういった作品の視聴経験があまり無いのでわかりかねるのですが、或いは、 今作近傍の作品でいうと《不思議コメディ》シリーズにおける浦沢先生の毒っぽさの影響があったりするのか。
 武史は、直人父を乗せて接待ゴルフに向かう細野の自動車をハッキングし、送り込まれた飛行怪獣による、 Cワールドの破壊シーンは迫力たっぷり。ここまでの怪獣絡みのシーンでは、一番心を引かれる格好良さでした。
 しばらく車の暴走シーンが描かれ、自宅謹慎中の武史の腕でけたたましく鳴り響くGコール。
 それを聞いた途端、塾をさぼった罰による外出禁止令を無視して外へと飛び出していく直人の姿は、 世界を守る使命感なのか、ゲッシュに基づくギアスの効果なのか、凄く、悩ましい。
 そして、大地を振り切り脱走を図った直人を追いかけた結果、 父親(の乗った車)が警察に追われているところを目撃してしまう母子(笑)
 第4話にして直人父の社会的生命が崖っぷちなのですが、第1話では井上病院で重大な医療事故が起きかけていましたし、 割といいところまで追い詰めているぞ武史!
 母と弟が愕然としている間に、その場を離れる事に成功した直人は、ジャンクに辿り着くとアクセス・フラッシュ。 暴走自動車のシステムに飛び込むグリッドマンだったが、怪獣に投げ技を放つも飛行で回避され、透明状態での攻撃に苦戦。 これを見たゆかは隠しファイルを見えるようにするプラグラムを送り込んでグリッドマンを支援し、どうして、 それについて書かれた本が普通に棚に置いてありますかね(笑)
 戦況を見守る武史がぷるぷるする中、怪獣の透明化を打ち破ったグリッドマンは連続バック転から宙返りで翻弄し、 両翼をもぎ取ってから必殺のグリッドビーム。身軽に飛び蹴りを多用するグリッドマンですが、 怪獣の飛行能力による投げ技無効が良いアクセントになり、今回は戦闘もなかなか面白かったです。
 一方、暴走自動車を止められない細野は遂に運転を放棄して後部座席に転がりこんでおり、 あ、これ……「運転していたのは私ではなく、彼だ。最新型の自動車をどうしても運転したいというから変わってやったらこんな事に……」 って全責任をなすりつけられて夕方のトップニュースになるやつだ!といよいよ社会的生命がバッドエンドを迎えそうになっていた直人父だが、 グリッドマンの勝利とシステム復旧により、暴走車が停止。
 偶然にも、知り合いの警察官(前回ちらっと登場)を轢き殺す寸前でブレーキが利いた事が功を奏し、 直人父はむしろ暴走自動車を停めたヒーローとして警察から感謝されて家長の威信を取り戻すのであった、でオチ。
 ……つまり今回の物語の教訓は、
 人生で大事なのはコネクション
 なのでありました。ちゃんちゃん。

◆第5話「男の意地の必殺剣!」◆ (監督:村石宏實 脚本:平野美枝)
 とぼとぼと街を歩いていた武史は、スーパーに商品を運び込もうとする台車に轢かれて笑い物にされた事で逆恨み…… というか今回は完全に、口では「危ない」「危ない」と言いながら台車を止めもせずに進め続けた人が悪い業務上過失傷害案件なので、 その後の対応を見ても、まあちょっとぐらい思い知らせても良いのではないか(おぃ)
 怒れる武史と煽るカーンデジファー様が生み出した裂刀怪獣が配送センターに送り込まれると、 腕についた刃の一閃でCワールドの建造物を派手に破壊し、佐川和夫さんの特撮によるカメラに向けて破片が迫り来る爆発が迫力満点。
 この影響で街の流通に多大な障害が発生し、食料品だけでなく病院の医薬品まで届かない事態に陥ってしまう。 それによって引き起こされるパニックの前振りとして、直人・ゆか・一平、それぞれの家庭の一幕が描かれるのですが、 そもそも病院経営とはいえ、流通の障害で医薬品を届けられない事を平謝りする電話の相手に向けて素で「なんとかしたまえなんとか」 と叱り飛ばす井上父とそれを軽く聞き流して食後の紅茶をたしなむゆか、という井上家のブルジョワ感。
 直人母も左ハンドルの真っ赤な外車(自動車に全く詳しくないので車種などはさっぱりわかりませんが、 デザイン的にはとても4人家族の日常用には見えないのですが……)に乗っていたりで、1993年という時代の差もありますが、 なんだかんだ趣味で余暇に巨大なジャンクPCとか作れてしまう3人組の家庭環境が窺える、妙なリアリティ(笑)
 インテリアショップを経営する一平の家は以前に「景気が悪い」という会話はありましたが、 敷地内に子供達の好きに使わせている地下倉庫(ジャンク置き場)とかありますし。……まあこの辺りは、 ジャンクを中心とした秘密基地を設定する為の都合であってあまり厳密には考えるべきでない部分でしょうが。
 流通の停止により大混乱のスーパーが食料品を買い求める主婦達でパニックに陥る中、黒焦げのホットケーキを大量生産する一平妹は 「大地を毒味役にして直人に一番美味しいものをあげる」とのたまい、冒頭の演出もですが、デフォルメが一線を越えて笑えない感じに。
 「ぼく毒味役?」
 「あんたはただの練習台」
 第3話の印象があまりにも悪かった一平妹ですが、その言行は、飾らない子供の素直さや無邪気さとやらで済まされる範囲を超えて、 おまえの血は何色だレベルの邪悪。
 「モテモテね、カナちゃんには」
 ゆかに小突かれ、てへ、と頭をかく直人、そこは照れるところなのか。今、目の前で君の大事な弟が、人間性を蹂躙され、 迷路に閉じ込められたハツカネズミのような扱いを受けているゾ。
 その女は多分、「直人くん、イカの塩辛入りのホットケーキは好きかなー(棒)。ほら大地、男なら食べてみなさいよ。……男なら、 女の子の手料理を、食べられないわけないわよねぇぇぇぇぇぇぇ、ちょっと優しくしてやったらつけあがりやがって何様のつもりよこのチビスケがァァァ」 (三角定規を眼球に突きつける)と荒木飛呂彦キャラ的に豹変するぞ。
 そんな一平妹と直人弟にジャンクの存在を誤魔化す一幕を挟み、アクセス・フラッシュ。 流通センターのシステムに飛び込むも怪獣の身に纏う鋭い刃物に苦しむグリッドマンだが、 お気に入りのホットドッグを食べられなかった逆恨みに燃える一平が、対抗する新装備として盾と剣をデザイン。
 「グリッドマン、スペシャルドッグを送るから頑張れ!」
 何を言っているのかわからん……と必殺グリッドビームを放つグリッドマンだが、弾かれてしまう大ピンチ。
 「名付けてバリアシールド! GO!」
 そこへゆかがプログラムした盾と剣のセットが送り込まれ、 シールドで刃物攻撃を防いだグリッドマンは中段蹴りを叩き込んでから連続斬り。怪獣の両腕を切り落とすが、 劣勢になった怪獣は一時撤退という新しいパターンで、流通センターのシステムは無事に修復されるのであった。
 一平は母ちゃんのホットドッグを食べて大満足し、怪獣ハッキングの引き起こした社会的事件だけではなく、 日常パートから発生した家庭の問題も解決して大団円、というのは良かったです。中学生である直人達にとって「世界/社会」 というのはまず「家庭」であって、そこが好ましい場所だからこそ世界を守ろうと戦える、というのが母親との間に何やら問題を抱え、 家庭において孤独である武史との大きな差として置かれているように思えます。そういう点では、 スルーされがちながらめげない姿が微笑ましい、愛妻家の一平父の存在は、象徴として地味に大きいといえるのかも。
 「グリッドマン強し、されど、母もまた強し」
 カナのホットケーキから逃げる直人をカメラが捉えつつ、なにやら巧い事を言ってオチをつける、ナレーションさんであった。
 切り口は色々とあるので良い悪いという話とは別に、90年代初頭の東映特撮が『特警ウインスペクター』『鳥人戦隊ジェットマン』 という二大エポックで特撮ヒーロージャンルにおけるドラマ性の質的変化を遂げたのと比べると、今作は凄く、 80年代的な作劇を感じます(笑) 現時点での印象はなんというか、「悪役の魅力的な80年代作品」。
 次回――コンピューターワールドに妖精現る。

◆第6話「恐怖のメロディ」◆ (監督:村石宏實 脚本:川崎ヒロユキ)
 見所は、ヘッドホンで完全シャットダウンできる殺人音楽(これはまあいい)
 からの、ただし普通の会話ができなくなる、というギャグ(まあわかる)
 からの、普通にかわされる作戦の打ち合わせ(ええ?!)という 3歩前の出来事をブレーンバスターするザル展開。
 ヒステリーの症状を見せて楽器店に怒鳴り込んだ武史は、「殺人音楽」とか物騒な事を言い出すと、 前回敗北したバギラを強化再生して楽器店の電子ピアノの中へと送り込む。ピアノ内部のCワールドを破壊し、 殺人音楽を発生させる為にシステムを組み替えようとするバギラだが、突然そこに別の怪獣が現れ、 バギラを消し飛ばすと破壊されたシステムを修復してしまう。
 それはCワールドに生息する電子生命体、すなわち野生の電子怪獣であり、計画を継続するべく一計を案じた武史は、 コンピュータに繋いだエレクトーンを自ら弾く事で、野生の怪獣を邪悪な怪獣へと改造する……シーンを見て 「生命改造実験は、命の芸術。命の芸術家にとって、命を吹き込む事など、たやすい事だ! はははははははっ!!」 (『超新星フラッシュマン』)を思い出した私は、ただのリー・ケフレン好き。
 武史の遺伝子エレクトーンにより改造された音楽怪獣は電子ピアノのシステムを改造。店内に響き渡る殺人音楽は、 たまたま来店していた直人達を巻き込み、更には商店街のスピーカーを経由して街中へと広がっていく……!
 これまでの武史の破壊活動は基本的に逆恨みが動機であり、結果的に死者に繋がる可能性は十分に想定されながら、 あくまで逆恨みの対照への嫌がらせ(「ゆかの実家の病院をシステムダウンさせる」「不快なコメンテーターの自動車を暴走させる」) が目的だったのですが、今回は「楽器店への嫌がらせ」を飛び越えて、そのものが人を殺傷する「殺人音楽」となっているのが、 かなり直接的。
 線引きが難しい所はあるものの、これまでとは“質”の違う活動になっているのですが(暴走自動車は近いですが、 危害の対照が明確に限定されていた)、話のバリエーションの都合でそこまでこだわっていないのか、 読み間違いが生じたのかはやや気になるところ。
 殺人音楽に苦しむ人々の姿を適宜交えつつ、Cワールドに乗り込んだグリッドマンは怪獣と戦いを繰り広げるが、そこに現れ、 もともと優しい怪獣を殺さないでほしい、と訴えかけてくる音の精霊。
 「カーンデジファー様……あれはいったい」
 武史、思わず素に戻って質問するが、カーンデジファー様は、最後まで沈黙(笑)
 予告ではメインゲストのように扱われていた音の精霊(仮)ですが、エピソード後半、バトルも佳境に入ってからいきなり登場し、 学生時代の直人父が直人母を口説く際に持ち出したロマンチックな与太話という伏線があったにしても、あまりにも唐突で、 ゲスト企画回かなにかだったのでしょうか……?
 音の精霊の浄化のメロディと武史の遺伝子エレクトーンがCワールドでぶつかりあい、それを見ていたゆか&一平は、 音楽には音楽で対抗する事を思いつく、というくだりのヘッドホンの描写が話の雑さに拍車を掛け、 主題歌のピアノアレンジを弾き始めるゆか(ブルジョワ)。
 そのメロディによって野生の怪獣は正気を取り戻し、修復されるピアノ世界。怪獣VS怪獣という前半戦から、 良い怪獣を倒さずに終わるという変化球で幕を閉じるのですが、最後にお礼として音の精霊の力でグリッドマンのバリアシールドが強化されるも、 当然使う相手が居ないのでポーズだけ取って終わり、なにやら複雑な事情があったに違いないと自分を納得させる他ありません。
 Cワールド在来の生命体の登場、が今後を見据えた世界観としての掘り下げなのか、完全にすっぽ抜けた大暴投、 なのかは判然としないのですが、どちらにせよ1エピソードとして単純に出来が悪くて残念。

◆第7話「電子レンジ爆発0秒前」◆ (監督:川崎郷太 脚本:静谷伊佐夫)
 何やらお疲れ気味な直人の様子に、アクセス・フラッシュの副作用を心配したゆか、一平と協力してケーキを作る事に。
 「女の買い物は長いよな……」
 愚痴をこぼしつつも買い物に付き合う一平は、ケーキのお裾分けに預かれると知ると俄然やる気を出し、 ゆかはゆかで私が作ったケーキを喜ばない男などこの世界に居る筈がない、という態度なのですが、一応、ゆか、モテるの……?
 率直にビジュアル的な説得力は弱いのですが、まあ頭は良さそうですし、お菓子作りやピアノをたしなんでいたりもするので、 クラスでは病院ご令嬢ポジションとして羨望を集めたりしているのか。
 そんな二人を棚の陰からストーキングする武史……ではなく、主人公の直人は尾行がバレて一平に追い払われ、一方、 どういうわけかパン売り場で悪態をついていた武史が一人になったゆかを発見。
 未だにいじましく持っていた手紙(ポケット常備)を慌てて取り出すも、勿論渡せる筈がなく…… しかしすれ違いざまに買い物籠の中身だけはチェックするところに、プロの姿勢を見ます。
 一平により強引に自宅まで連れ戻された直人は、一平が偶然手に取った大地の日記を二人で盗み読みして大笑いし、 グリッドマンに見限られそうな酷さ。
 日記の内容により、それとなく示されていた大地からカナへの好意が明確にされるのですが、 その結果としてカナの性悪女ぶりが加速している事を思うと、スタッフはその設定で本当に良かったのか、 もう少しじっくり考えた方が良かったのではないか。
 なお今回の描写により現時点の人間関係はこんな感じとなり、
 〔大地→ カナ → 直人 ← ゆか ← 武史/一平〕
 ……割とドロドロです。
 「そんな事をするから女の子にモテないんだぞ!」
 「さすが兄弟だ……直人の状況をピタリと言い当てた」
 前回、3人組の交渉役として口が巧くて粘り強い部分を見せた一平が今回は絶好調で、端々で非常に面白い。
 その頃、買い物を終えて帰宅したゆかは病院前で父とすれ違い、自分ではない誰かの為にケーキを作るという娘の言葉に慌てる姿で愛嬌を付けるのですが、
 「そういう年頃になったのかな……」
 とぼやきながら親指と小指を立てる仕草にどうも品が無く、いまいち好感度の上昇には繋がらないのでした。
 台所ではキャベツを丸ごと生でかじりながら医学書を読む、少々変わり者のゆか兄が初登場。台所から兄を叩き出したゆかは、 「東大さえ狙わなければ、どこの医学部でも入れるのに」と呟き、何やら医者の家庭の跡取り息子も大変そうですが、 あっちもこっちもノイローゼ気味のキャラクターが増えてきて、今作の先行きも少し心配になってきました!
 一方、ゆかと一平が自分に隠し事をしているのが気になって仕方がない直人は、 ジャンクを使ってゆかの日記を覗こうという カーンデジファー様も真っ青な犯罪行為に手を染め、最初は止めようとしていた一平も「ゆかのプライバシー」 という一言に大興奮。
 ところが、首尾良くゆかのPCにアクセスするも、パスワードを破れずにログイン失敗。その光景をゆかに目撃されたとは知らず、 鳴り響く電話を「ゆかにバレてたりしてな」と冗談交じりにニヤニヤ笑いながら取ると、轟く怒声。
 「いい加減にしなさいよ! 女の子のパソコンを覗いたりしていいと思ってるの?!  こんな事をする為にジャンクを作ったんじゃないでしょ?! 今度やったら絶交ですからね!」
 「……だから俺はあれほどやめろと言ったんだ」
 コミカルなBGMで直人は硬直し、あっさり手の平を返す一平、と今回、変な方向で面白いのですが、 グリッドマンが旅に出ないかどうかは不安になります。
 直人達のヒーローの資格が危うくなりかけている頃、
 「僕の手紙を受け取らないで、ケーキなんか作らせるものか」
 逆恨みに燃える武史は平常運行だった。
 「武史……新しい怪獣で今度は何をするつもりだ?」
 「井上ゆかの家の電子レンジを破壊します」
 「んん?」
 淡々とせせこましい事を宣言した武史、魔王様に「おまえそれ、ちゃんとテロなの?」と凄まれ、慌てて言い訳。
 「いえ、それは……カーンデジファー様の秘密を探る装置の事です」
 「なに?! それは放っておくわけにはいかん」
 電子レンジを知らなかったカーンデジファー様は激しく動揺すると、「秘密を探ろうとする奴は装置ごと消滅させてしまえ」 と過激な事を言い出し、今度は武史が動揺するも洗脳ビームを浴びせられて怪獣の制作を続行すると、 火炎怪獣フレムラーがゆかの家のキッチンへ送り込まれる事に。
 しばらくほのぼのクッキングシーンが描かれ、ゆか可愛げキャンペーンが展開されるが、 男らしくない謝罪の電話が怪獣侵入の影響で切断されてしまうと、 ゆかに叩き切られたと思い込んで逆恨みした直人は井上家のセキュリティに侵入し、 グリッドマンが次の生け贄もとい憑依先を探しに行きそうな展開。
 セキュリティシステムのサーモグラフィとはいえ、台所で調理中のゆかを見つめる直人の姿はもはや屋根裏の散歩者ばりの変態であり、 主人公の下衆っぷりが笑えない領域に突入。コミカルな日常描写を中心に3人組のキャラクターを掘り下げていく見せ方自体は面白かったですし、 これが電子レンジの異常に気付くきっかけとはなるのですが、さすがにやり過ぎた感。
 グリッドマンからも怪獣発見の連絡が入り、ゆかの危機を知った直人はアクセスフラッシュ。爆発まで残り時間は1分、 決定打を放てないグリッドマンは怪獣の炎にあぶられるが一平がバリアシールドを転送し、 受け止めた炎が怪獣の方へ戻っていく映像は格好良かったです。
 怪獣の尻尾を切り落としたグリッドマンが続けて無惨に頭を切り落とすと、怪獣は逃走。電子レンジ爆発寸前、 グリッドマンのキラキラミストで暴走は食い止められ、無事ケーキも完成するのであった。
 武史は電子レンジの真実を知ったカーンデジファー様にお仕置き光線を浴び、なんとなくアニメっぽいオチ。
 そしてゆかが綺麗にラッピングして持ってきたケーキを手にとって、今更「俺の為だったのか」と気付く直人であった、でつづく。
 初見の監督×脚本でしたが、BGMも活かしたコミカルな展開は面白く、 家族模様も含めつつ日常描写から3人組を広げるアプローチも良かったのですが、直人と一平が「武史っぽい」のを通り越して、 「武史と同じ事」(逆恨みによるハッキング)をしてしまうというのは、筆が滑り過ぎたといった感。
 第5話冒頭もそうですが、「80年代っぽい作劇」×「端々でアニメっぽい描写」の見える今作、 アニメなら成立しなくもないデフォルメが実写では生々しくなりすぎて、ところどころでギャグの範囲を超えてしまっている気がします。
 女性キャラの魅力を引き出す為に男衆の最低な一面を描くというのはままある手法であり、 ゆかに可愛げを付けようキャンペーンとしてはぼちぼち成果が出たものの、あまりにも、失ったものが大きかったような……!

◆第8話「兄弟の絆」◆ (監督:川崎郷太 脚本:神戸一彦)
 「うちなんかカナの方がつえぇから喧嘩になんねぇよ」
 「いい兄妹に恵まれて羨ましいよ」

 

 「そうかしら……」
 疑念を挟みつつキャベツ兄の姿を思い浮かべるゆかですが、会話の流れからはカナに対して思うところあるようにしか聞こえず、 女の戦いは始まっている!
 ……まあこの後、一平に頼まれるとご飯をよそうカナの姿が描かれており、カナは直人を除く全方位に性格が悪いのではなく、 格下とみなした相手に傲慢に振る舞う事がわかり…………あれ、フォローになって……ない?
 そんな直人達の会話を小耳に挟んだ武史は、再生したフレムラーの兄弟怪獣ブリザラーを作り出し、 Cワールドへ送り込まれた二体の怪獣は次々と各家庭のエアコンのシステムを破壊。ある家では高温、ある家では低温、 とそれぞれの特性に合わせてエアコンを暴走させ、被害に遭ったゆかと一平に呼ばれた直人は、アクセス・フラッシュ。
 ところが、直人が家を出た後に部屋のエアコンが暴走を始め、朝の兄弟喧嘩の意趣返しでベッドに縛り付けた弟を放置したままジャンク部屋に集合した結果、 凍死寸前に追い込まれる大地、という物凄く酷いエピソード。
 前回のは(最終的にやり過ぎになったものの)まだ面白がれる酷さでしたが、 怪獣というフィクションによるクッションを置いてはいるものの、軽い気持ちの子供の悪戯が重大な結果を招く事故に繋がる、 というのは現実的な可能性も含めて見せられて楽しいものでもなく(第3話のトラック閉じ込めは誰の悪意も介在していないので成立していた)、 脚本段階からこうだったのか、演出が行きすぎたのかはわかりかねますが、どこかで考え直さないといけない内容だったのでは、 と思います。
 特に、今作においてグリッドマンが対峙している悪(カーンデジファー&武史)がまさにこの、 重大な悲劇を引き起こしかねないドミノ倒しのトリガーたるちっぽけな悪意とそれを煽る無責任の寓意である事を考えると、 直人サイドの描写としては、もっと慎重に扱わなければならない部分であり、総合的にデリケートな領域を無神経に踏み荒らしてしまった感。
 ブリザラーの放つブリザードミサイルをバリアシールドで防ぐグリッドマンだったが、 増援として同じCワールドにフレームラーが送り込まれ、よくわからないまま音波怪獣の踏み台にされた裂刀怪獣と比べると、 相反する属性の怪獣によるW攻撃、という展開は再生強化怪獣に意味が出て良かったです。
 兄弟怪獣の挟み撃ちに苦戦するグリッドマンだが、バラード調のBGMが流れ出すと死にかけの弟の助けを求める声を聞き奮闘する直人/グリッドマン、 みたいないい話演出が発動。目が点になっている間に兄弟怪獣の仲間割れに持ち込み、 両者が争う姿にカーンデジファー様と武史が慌てる姿で、悪意は真の兄弟の絆を理解できず勝てないのだ、 といった雰囲気の流れになるのですが、冒頭の喧嘩の原因に始まって全面的に直人に非があるため、強引に演出で補強されても、 そう受け止めるのは無理。
 しばらく両者の消耗を待ちながらゲージを溜めたグリッドマンは、満を持してユニゾンブレードを振り上げると特にタメはなく切りかかり、 電光雷撃剣グリッドマンソード(突き)で怪獣を撃破、キラキラミストでCワールドを修復するのであった。
 ここの所、間に入ったカナの影響で冷え冷えとしていた翔兄弟の関係(まあ、年頃の男兄弟なんてこの方がリアルではあるのですが) を補強しようとした結果、現場に杭打ち機を持ち込んでしまい、リフォームどころか母屋の床に巨大な穴を開けるような事になってしまいましたが、 ラスト、直人がしっかりと大地に謝罪し、嘆く母親の姿も描かれたのはホッとしました。ただ、
 「直人と大地の、見えない兄弟の絆が、事件を解決した。これからも、二人の絆は、多くの困難を、乗り越えていく事だろう」
 それは無理がないですかナレーションさん!
 次回――忍者! 洗脳塾! と濃厚に漂う東映の香り(笑)

◆第9話「悪魔の洗脳作戦」◆ (監督:村石宏實 脚本:新藤義親)
 注目は、ゆかよりもむしろ正統派美少女ルックスなゲストキャラ。
 全国統一模試の成績が57位だった事に憤る武史は、塾のコンピューターに忍者怪獣を送り込んで講師達を洗脳し、 塾を滅茶苦茶にする事で他の生徒達を蹴落とそうと画策する!
 洗脳光線を浴びた塾講師が軍服姿になって悪の教育の音頭を取ると、同じく洗脳光線を浴びた生徒達の心も悪に染まり、 直人達の知人も豹変してしまう……のですが、まず武史とゆか(全国42位)と同じ塾(教室)に、 直人と一平が通っているのがだいぶ不自然。まあ地域で最も有名な塾に通わせているのかもしれませんが、どう考えても、 特進クラスに紛れ込んだお邪魔虫になっており、話の都合が丸出しになってしまっています。
 更に洗脳作戦が始まった直後から、直人達が3人揃って塾に行かなくなる為に知人の変化にしばらく気付かない、 というのが輪を掛けて不自然。その間、ゆかに教わって勉強に励むのですが、どうして塾に行くか行かないか、君たちの気分次第なのか。
 そして目撃する知人の悪事が、長ラン姿での万引きと小学生への恐喝行為で、定番のアイデアだからこそ、 “洗脳の方向性”をしっかりと定める(そこで面白くする)べきだと思うのですが、そこで示される悪のアイコンが「強権的な軍人」と 「古式ゆかしい不良」に分裂してしまうという演出も迷走。
 怪獣=忍者/講師=軍人/生徒=ヤンキーという物凄くちぐはぐな組み合わせが、全く面白さに繋がっていません。 どうせやるなら、昨日まで普通だった塾が、何故か忍者教室に!ぐらい突き抜けて欲しかったところ。
 塾がおかしくなっている事を知った直人達は、ジャンクからアクセス・フラッシュ。 Cワールドに飛び込んだグリッドマンは忍者怪獣と戦い分身の術に苦戦するが、 強化ソードの刃の部分を引っ込めてアックスモードにすると何故か分身の術を自動で見切り、トマホーク攻撃で撃破。 少年少女達の洗脳もキラキラミストで解け、ついでに、ゆかの猛特訓により直人と一平の成績も上昇するのであった!
 大変残念回。
 なお今回の忍者怪獣は人語を喋るという変化球だったのですが、これもまた話の都合という感じで、怪獣というより怪人ぽくなりつつ、 別にそれ以上面白くはならず……同一人物とは断定できませんが、『特警ウインスペクター』第39話の脚本に、 宮下隼一と連名で新藤義親の名前があり、《メタルヒーロー》シリーズ向けに書くも没になったプロットを焼き直した、 と言われたら信じるレベル。
 ちなみに画面上で確認できる武史の模試の結果は、
 国語:92点
 数学:100点
 理科:100点
 ?(社会?):95点
 ?(英語?):98点
 で、全国42位のゆかとはケアレスミスの1,2点差の世界で拮抗しているのかと思われますが、武史のゆかへの恋心はやはり、 学校の期末テストの結果を見て、(同点1位?! この学校に、僕と同じ頭脳の持ち主が居るというのか! ふっ……井上ゆか、 君をこの僕にふさわしい存在として認めよう)みたいなパターンだったのか。
 なお今回から予告の最後に「君もアクセス・フラッシュ!」と言うようになりました。

◆第10話「危険な贈り物」◆ (監督:村石宏實 脚本:平野靖士)
 冒頭から、空き缶を川にポイ捨てしてゆかに叱られる直人と一平。
 「信じらんない! 恥ずかしいと思わないの!?」
 君たち今、「僕等はパソコンをハッキングして女の子の日記を盗み読みしようとしました」という、 人間の底辺一歩手前の立場なの、忘れるなよ……。
 一方、公園の水飲み場で水道水のまずさに辟易した武史はミネラルウォーターを買い込み、その姿に首をかしげるカーンデジファー様。
 「水は人間の生命線というわけか」
 そもそも第1話で「逃げてきた」という扱いだった覚えはありますが、電子レンジも知らなかったし、この人、 ろくにリサーチもせずに「とりあえず征服。なぜなら俺様は魔王だから」ノリでFAX配ったな…………。
 直人&一平とカーンデジファー様、果たしてどちらがより底辺に近いのか、 というかもう武史を加えて男4人でスクラム組めば色々な事が解決するのではないかという気もしてきた今日この頃、 カーンデジファー様は武史との世間話から水道局を攻撃する事を思いつくと作戦内容は丸投げし、 武史は水道水の塩素消毒の仕組みに介入する計画を立案。
 かくして昆虫系の地底怪獣が水道局のCワールド(新バージョンの、透明感のある建築物が美しい)に送り込まれてシステムを改竄。 蛇口をひねると家庭の水道から濃塩酸が噴出するという、モンスター軍団もかくやの本格的な大規模テロが敢行される!
 「殺人音波」回の時に、武史の作戦がかつてなく直截的に「殺人」を目的としてしまっているが、 全体のバランスとして今後どうなっていくのかを気にしましたが、今回はどう控え目に見ても画面に映っていない所で相応の人的被害をもたらしていそうで、 完全に一線を越えた感。
 水道から直接水を飲もうとした一平が、あわや顔面大火傷寸前、というシチュエーションも描かれましたし。
 カーンデジファーの陰謀に違いない、と水道局のCワールドに乗り込んだグリッドマンだが地底からの不意打ちを受け、 脱出を図るも魔王様が事前に設置しておいたトラップに引っかかってしまう。 身動きできないグリッドマンが酸性のガスを浴びて大ピンチのその時、一平がミリタリー雑誌を参考に新たにデザインしたオプションメカ、 ツインドリラーとサンダージェットが発進し、グリッドマンの危機を救う!
 Cワールドに送り込まれたドリルとジェットを、外部からゆかと一平がコントローラーで操ってグリッドマンを助ける、 というのは今作らしい見せ方ではあるのですが、Cワールドのマシン→Hワールドの二人、を映像上で行き来しながら、 マシンを操ってこれから何をするかをいちいち宣言するゆかと一平の会話があまりにも説明的な為、 物語としては大変テンポが悪い事に。
 ここが一番気になりましたが、他にも今回、翔家における様々なやり取りが長すぎてダラダラしてしまい、全体的にテンポが悪し。 この5年後の作品となる『ウルトラマンガイア』第1−2話では特に感じなかったのですが、今のところ今作の村石監督回とは、 どうも相性が良くありません。
 ジェットとドリルは怪獣を引きつけるとグリッドマンをトラップから救い出し、反撃に出たグリッドマンは、 やたらエフェクトの強化されたグリッドビームで大勝利。
 こうして市内の水道は復旧し、今回の一件で水の大切さを知った直人達は、川のゴミ拾いを行い、 地球環境を守る事を心がけるようになり、人間の底辺ダービーから一歩後退するのであった。
 ナレーション「無意識に自然を汚してしまう、我々もまた、地球の敵となりうるのかもしれない。そう思う、直人達であった」
 と、随所に挟んだ環境ネタをオチに使って、つづく。

→〔その2へ続く〕

(2019年7月2日)

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