■『ウルトラマンガイア』感想まとめ7■


“この空と命があふれる大地
分け合いたいよ”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『ウルトラマンガイア』 感想の、まとめ7(37話〜42話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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◆第37話「悪夢の第四楽章」◆ (監督:原田昌樹 脚本:長谷川圭一 特技監督:原田昌樹)
 「破滅する、世界……」
 ガードのコンピュータにハッキング中の藤宮はコンクリート打ちっ放しの薄暗いアジトの中で低く呟き、 それを見つめる漆黒のドレス姿の稲森博士、という怖いカットでスタート。
 世界各地のガードは地底貫通ミサイルによる怪獣への先制攻撃を我先にと行っており、 未知なる脅威を口実にした各国の武装強化には歯止めが失われつつあった……と、第24−26話と繋げる形で、 人類の持つ攻撃性を怪獣と絡めながら活写。
 地底に眠る怪獣への積極的な攻撃、に対する市民の反応をレポートしていた田端チームだが、倫文は雑誌に特集されていた、 動機不明の集団犯罪(暴動事件)の急増を気に懸ける。
 「これも破滅招来体の影響ですかね?」
 「確かに街を破壊する怪獣は恐ろしい。でもな、本当に怖いのは、人の心が壊れてしまう、ていう事かもしれないな」
 人類と怪獣の戦い、のみならず、それが社会に与えていく影響から、その成員たる人々の心の問題まで、 天と地の二つの視点を交えながらマクロスケールからミクロスケールまでを丁寧に繋げていき、今作の強みを活かしながら、 破滅の脅威にさらされた世界のありよう、に厚みを持たせていくのがまず鮮やか。
 そんな中、KCB本社ビルの上空に黒雲をともなうワームホールが突如出現。それに重ねて描かれる根源破滅教団の行進、 というネタの使い方が凄く好きで、藤宮の帰還に端を発する第4クール目へのターニングポイントという事でか、 これまでの『ガイア』世界の積み重ねを怒濤の勢いで連動させていき、 長谷川×原田コンビが予告で上がりまくったハードルを見事に越えてくる、テンションの上がる出来。
 KCB内部では電波異常が発生し、空に広がる時空の歪みを見つめる藤宮。ワームホールの内部には邪悪な相貌が浮かび上がり、 停電による混乱に続いて一斉に電話が鳴り出したKCBでは、それを取った人達が次々と虚ろな表情で無言になっていく―― 日常に密着したものが破滅への脅威にすり替わる電話の恐怖再びで、強迫的な電話のベルが鳴り続ける中、 その危険性を感じ取って電話を取らない玲子さんと田端(に止められる倫文)だけが正気で取り残される事に、 というメザード編の蓄積が脅威の到来としてテンポ良く畳みかけてくる流れも素晴らしい。
 異変を察知しKCBに向かう藤宮だが、「地球の意思を見失った、裏切り者め」と破滅教団に行く手を阻まれ、取り囲まれてしまう。 同じ頃、メザードのパルスパターンを確認して現場に近づいていた我夢もまた、メザードの支配下に落ちてしまった瀬沼に銃を向けられ…… 何かと憎まれ役ポジションの瀬沼さんですが、とうとう、主人公に銃を向ける役に(笑)
 チーム田端はゾンビパニック再来から逃げ惑い、これだけだと以前の回そのままになってしまうところですが、 電波干渉で状況を把握できずに焦れるエリアルベースのブリッジ視点を挟み込む事で事態の規模を大きくすると共に緊迫感を高め、 今作の武器である複数視点の使い方と、それによる物語の広げ方も巧妙。
 カナダ回では実質ゲスト企画回めいていた事もあってか今ひとつの出来だった長谷川さんですが、やはりテクニックがあります。 今回は特に、怪獣と文明、地球と人間、メザードの作戦規模の大小、といった対比となる要素を複数絡めながら、 自然とそれらの物事がマクロとミクロで関係しあっているのが見えてくるようになる、という作りが巧い。
 最近すっかり体当たり要員の田端と倫文は体を張って玲子を逃がし(説得力はどうも微妙ですが、玲子さん、 局の売れっ子アナ設定ですしね……)局内の一室に逃げ込む玲子だが、
 「許せない……」
 「え?」
 「藤宮くんの目を曇らせるだなんて、酷い女」
 逃げ込んだ部屋のモニターに浮かぶ稲森博士(ひー)
 「…………まさか」
 「私が、彼の悩みを断ち切らなくちゃ」
 あっさりと電話に屈していた田端と倫文らにより玲子は捕まってしまい……一方、内なる筋肉との対話を怠っていたのか、 破滅教団に筋力で敗北したらしい藤宮は、瀟洒なバーのような一室で目を覚ます。流れる優美なピアノを奏でていたのはドレス姿の稲森博士で、 藤宮にしてみるとトゲ付きの鈍器で次々と後頭部を殴打される鬼のような展開。
 「何度……その姿を利用したら気が済む!」
 「私をホログラムだとでも思っているの?」
 「なに……?」
 「私……帰ってきたのよ? ……藤宮くん。ほら」
 立ち上がった稲森は藤宮の頬に手を伸ばし、その実体を感じながらも、横に立つ稲森には決して視線を向けず、 正面を見据えたまま目を見開く藤宮が好演。
 「また地球について一緒に考えましょ? 昔みたいに」
 脚本の吉田伸さんの謀略(らしい)により、藤宮に想いを寄せて何くれとなく手助けする年上の女、として登場した稲森博士ですが、 演出上は仄めかすに留めながらも、(主に女優さんの力かなと思いますが)匂わされてきた情念が存在していた事で場面の奥行きが増し、 吉田脚本で積み重ねてきた部分もしっかり活かした話運び。
 (なお個人的には、稲森博士は「振り向いてもらいたい」人であって、実際には藤宮が「振り向かない」からこそ成立していた関係、 だからこそ、どうにもならない渇望があれだけの暴走をさせてしまったのではないか、と解釈しています)
 藤宮が年上の女性に迫られている頃、我らが高宮我夢は年上の男性に銃で脅されていた。
 だから! 僕のマネージャーは! どこのパラレルワールドに居るんだガイアーーー!!
 瀬沼「たった数百年で、二百種以上。人類が絶滅させた動物たちの数だ!」
 稲森「人間はそのエゴで、他の生物を殺し続けている。それどころか互いに憎み合い、恐ろしい殺戮兵器で、 この地球自体すら破壊しかねない。まさにガン細胞そのものよ」
 瀬沼「もし地球上で絶滅してもいい種があるとすれば――それは人間だけだ!」
 稲森「せっかく地球が与えてくれた力。それを正しく使えず無くしてしまうだなんて。……もう一度取り戻すのよ。あなた自身の手で」
 ここで少し、説教モードが長広舌で入るのですが、二つのシーンを交互に見せて台詞を分ける事により、 淡々と語りが続いてしまうのを避ける一工夫。まあ、感化されてもおかしくなさそうな稲森博士と違い、 完全に操られている瀬沼さんの言い回しがどうしても浮き気味になった上に、操っていると思われるメザードが、 青春の主張みたいになってしまいましたが。
 巧くやれば、逆洗脳出来るのではないか、メザード。
 その頃、チーム・ライトニングは以前の対応策により波動クラゲをあぶり出し、破壊に成功。 だが既にKCB内部に本体を移していたサイコメザードの精神干渉波は増大を続けていく……。
 「コマンダー……これはいったい」
 「敵は、干渉電波を広範囲に拡散させるつもりだと思われます」
 メザードがKCBを占拠した目的、それは看板女子アナへの転職、ではなく、放送局の電波をジャックして、 より広範囲の精神汚染を実行する事にあった!
 「人間同士を戦わせ、自滅へと追い込む。それが敵の本当の狙いだ」
 繰り返されてきたメザードの実験は最終局面を迎えようとしている――人類全体に迫り来る危機を食い止めるべく、 こんな事もあろうかと鍛え続けてきた筋肉で反転して瀬沼の不意を突いた我夢は、消火器アタックで窮地を脱出。
 なにぶんハーキュリーズに鍛えられている上に、トレーニングへの意欲が高く、色々な意味で度胸はある我夢、割と逸材なのかも。
 一方、筋肉への信仰心が薄れつつある藤宮は、稲森の囁きを耳に立ち尽くしており、 「迫り来る破滅から手段を選ばず地球を救う」事に邁進してきた男がその芯を失ってしまい、 鍛える理由を無くしてしまった者の寂寥感が突き刺さります。
 「俺がもう一度……アグルの力を」
 「そう。きっと出来る筈よ」
 既に立証されているように、アグルの力=筋肉であり、内なる筋肉への信仰を取り戻させようとする稲森は、 二人の前に捕まえた玲子を連れてこさせる。
 「迷いを捨てて。そうじゃないときっとまた藤宮くんは忘れてしまうわ」
 藤宮に寄り添う稲森は、黒光りする拳銃を横から差し出す。
 「地球を救うという大切な使命を。……邪魔な存在は全て消すのよ」
 その様子を物陰から窺う我夢は稲森がクラゲの擬態だと気付くが、拳銃を受け取った藤宮はその銃口を玲子……ではなく、 稲森へと向ける。
 「おまえは、稲森博士じゃない! 消えろぉ!!」
 「あなたに私が撃てるかしら? 撃てば二度と私は、あなたの前に現れないのよ? それでもいいの?」
 「俺は……(俺はやはり、ベリーショートが好きなのか?)」
 「藤宮くんには私が必要な筈よ? あなたの理想、あなたの孤独、その全てを理解できるのは、私しか居ないんだもの。 (ベリーショート派の筈の)藤宮くんをこんなにも、堕落させて……」
 「その人が苦しんだのは人間だからじゃない?! 藤宮くんも私たちと同じ人間だから!」
 「――その女を撃ちなさい。そして ベリーショート派に戻るのよ もう一度戦うのよ。地球を救うため、 愚かな人間達をこの地上より消し去るのよ!」
 (※サイコメザードの精神汚染により一部ノイズが入っておりますが、気にしないで下さい)
 ベリーか、ボブか、迷える藤宮はプルプルしながら拳銃を玲子へと向け、それを受け入れるように目をつぶる玲子。 物陰から我夢が飛び出したその時、藤宮が撃ったのは――稲森博士。
 「なん、じゃくなやつ……いつも肝心な時に……」
 ぐさっ!
 藤宮のMPがごっそり削られた!
 場面も場面なので笑わせる意図は全くないと思うのですが、藤宮(アグル)の戦績が戦績だけに、妙に面白い台詞に(笑)
 「…………俺には、何も救えはしなかった。何一つ」
 稲森に擬態していた波動クラゲは自ら増殖を宣言し、それを追う我夢は、メザードの潜り込んだ電波の世界へと突入していく。
 「僕を導いてくれ、地球の光よ……ガイアーーー!!」
 ここで、ガイアに変身したらなんかケーブルに入り込めました、ではなく、 先に「出来るのかわからないが頼む」と地球にお願いしておく事で、電波世界に突入できた事の説得力が増しつつ、 変身そのものも劇的になり、今回の地味に好きな台詞。
 地球の為に人類は滅ぼすべきだと囁きかけるメザードに対し、地球はまだ人類を見捨ててはいない、という我夢の信念で反証する、 というアンサーとしても機能していて、今作におけるウルトラマンの意味づけに繋がっているのも、お見事。
 電波の世界をくぐり抜け、コンピュータワールドもとい、不気味な紫色の靄が立ちこめる次元の裂け目へと乗り込んだガイアは怪獣の姿を見せた女王クラゲと対峙するが、 女王クラゲは地底貫通ミサイルの藻屑となった地底怪獣達の怨念を集める事で、偽アグルを作り出す!
 以前に少し触れた、地底怪獣とウルトラマンは同質の存在(力の現れ方の違い)なのかもしれない、 という推測がはからずもメザードの手で現実化してしまったのですが、あくまで破滅招来体の介入という事で判断は保留するとしても、 久々のvsアグルが映像的に盛り上がるというだけでなく、人類に対する地球の裁き=アグルの力ではないか、 という初期藤宮の思い込んでいたアグルが、怨念の結集という形でここに現出するというのが、 「地球の光に導かれたガイア」のカウンターとして、よく出来ています。
 「今は生きる事だけを考えろ! 俺はもうこれ以上、誰も失いたくない」
 玲子の手を引いて逃げていた藤宮だがゾンビ軍団に囲まれ、色々と鬱憤のたまっている瀬沼さん(操られているだけです) の左ストレートが顔面に炸裂し、ガード地上部隊に銃を突きつけられる。
 「争え! 滅べ! これが地球の意思! 人間の運命だ!」
 ガイアは奇妙な空間で偽アグルと蹴りを打ち合うが、地球の意思を騙る女王クラゲの放電攻撃を背後から受け、挟み撃ちで大ピンチに。
 だいたい1話にまとめてしまうけど、これはさすがに前後編になるのか?! と思われたその時、 梶尾機が撃ち込んだ特殊弾がクラゲ超空間を破壊し、消滅する偽アグル。 ガイアは腹部の獣面からダラダラ涎を流して苦しむ映像が大変気持ち悪いクインメザードを大逆転で木っ葉微塵に吹き飛ばし、間一髪、 操られていた人々は精神汚染から解放されるのであった……。
 ガイアの危機をXIGが助ける、というのはこれまで何度もありましたし今作のテーマにも則っているのですが、 メザード編集大成ともいえる(最終クールにまた出てきそうな気は凄くしますが)激動の展開に、戦闘も盛り上がっていただけに、 前振りゼロの特殊弾から、駆け込み乗車のごとくあまりにざっくりクイーンを吹き飛ばしてしまったのは、残念だったところ。
 メザードが人類を研究してきた一方、それは人類がメザードを研究する機会を与えてもいた(だからさっくり通常クラゲは撃墜できた)、 という流れは納得できるので、ジオベースが切り札を生み出すにあたり樋口さんの登場カットでもあれば違ったのですが、 これはキャスティングの事情などもあって手が回りきらなかったか。
 最初から最後まで大変楽しめたエピソードだけに、ちょっとした瑕疵が、惜しいポイントとして目立ってしまいました。
 「藤宮くん……あなたは、ちゃんと救ってくれたわ」
 「俺のせいで……稲森京子は死んだ」
 「でも……」
 「…………その事実は、決して変わりはしない」
 ある意味で再び、稲森京子を殺す事になってしまった藤宮は失意を抱えたまま孤独に立ち去っていき……
 「いつまで過去に囚われてるつもり?!」
 その背に向けた玲子の叫びも、届かないのであった(……たぶん)。
 …………以前、あくまで玲子にほだされる事なく格好つけて背を向け立ち去ったのかとばかり思っていたら、 次の回で玲子に助けられて車に乗せられていた例があるので、次回、玲子宅に居候しておかゆとか作って貰っていない事を祈りたい。
 そこからEDに入り、廊下に鈴なりに倒れていたTV局の人々が次々と目を覚まして田端さんと電話のやり取りをコミカルに描き、 このまま原田監督お得意の手法でコメディタッチで終わるのかな、と思ったら……
 雑踏に消えようとしていた藤宮がすれ違った母娘の一人が、偶然にもかつて藤宮が衝動的にビルの崩壊から助けた少女であり、 藤宮に気付いて駆け寄ってきた少女からその時のお礼を言われる、というのが、物凄く良いシーンでした。
 これは参った。
 帰還早々、フェニックス(フェニックス……!)する筈が毎度ながらの詰めの甘さで失敗し、 殴られたり言い寄られたり殴られたり心身ともに散々な目に遭っていた藤宮に、言葉ではなく、これ以上無い事実として、 (この件自体が若干のマッチポンプではあるとはいえ)かつて救った者の笑顔を見せる―― 藤宮博也が“人間”として捨てきれなかったものを見せる――というのが、EDでの不意打ち効果も含め、素晴らしかったです。
 笑顔の少女に思わず微笑しながら手を振り返しそうになって慌てて引っ込めた藤宮は今度こそ歩み去って行き…… その横を通り過ぎるらくだ便……とは特に何もありませんでした!
 「いつまでも、過去を気にしてちゃ駄目よ」
 諭すような玲子の呟きで、つづく。
 大満足の一篇でしたが、もし私が玲子さんに思い入れがあれば、更にもっと面白かったかもなぁ……というのが、 つくづく惜しまれます(笑) 容姿も、性格も、台詞の説得力も、正直一つもピンと来ておらず、 未だにどうしても玲子さんというキャラクターの説得力を脳内補強できずに見ているのですが、逆に言うと、 玲子さんへの思い入れ補正を全く持っていないのにこれだけ面白いのが凄い、と考えた方がいいのか(笑)
 次回――迸る筋肉vs筋肉! そして、私は信じていました原田監督ーーー!!  予告の時点で情報量多すぎてお腹が破裂しそうですが、黒服の人は……もしかして風水師?  曖昧な状態が続いていた地底怪獣とウルトラマンの関係に触れつつ怪獣被害者問題まで盛り込んでその流れで梶尾さんの心のマグマが目覚めるの?!  なんかもう、予告からの妄想だけで楽しみな事が多すぎて少し落ち着いてハードル下げた方がいい気がしてきましたが、果たして、 梶尾さん大好き同盟(命名:もりみやさん)の、運命や如何に?!

◆第38話「大地裂く牙」◆ (監督:原田昌樹 脚本:古怒田健志 特技監督:原田昌樹)
 「環境が守られても、そこに住む人間が、安全でなくては、意味が無い」
 ガード環太平洋部隊の柊が、参謀が懸念を続ける地底貫通弾の使用を予告する為にエリアルベースを訪問。参謀の口から、 地底貫通弾の大量破壊兵器としての負の面がとうとうと捕捉され、今作劇中における“核兵器のメタファー”という認識で良さそう。
 この辺りの語り口の重厚さと、それに伴う説得力は役者さんの力が大きく、参謀を引っ張り出してきた甲斐があります。
 一方の柊を演じる大和武士さんは劇中の位置づけの割には演技が固く、プロレスラーゲスト再び? かと思って経歴を確認したら、 ボクサーでした。とはいっても、現役時代から映画などに出演し、1992年にはボクサーを引退しており、この当時は既に、 俳優活動が中心だった模様。
 その頃、我夢・梶尾・敦子は、療養中の敦子の姉・律子のお見舞いに地上の病院を訪れており、何くれとなく梶尾@おめかし、 にお節介を焼く我夢(笑)
 梶尾さん大好き同盟は、いつの間にやら梶尾と律子を側面支援で応援する方向にシフトしていたが、 ヒロイン力の低さに全太平洋地域が号泣中の敦子の胸中は複雑に曇り空。一方、(梶尾さん、頑張れ、梶尾さん) と心の単勝馬券を握りしめる我夢は、スタンドで前のめり気味。
 ちょっといい雰囲気の二人の様子を物陰から固唾を呑んで見つめ、真剣極まりない表情で
 「梶尾さん……」
 と呟く我夢、ちょっとおかしいぞ我夢! 大丈夫か我夢!  なんで一周回って母親モードなんだ我夢!?
 一緒に物陰に隠れていた敦子と物理的に急接近したにも関わらず、 1ミリもドキドキイベントに発展しない敦子さんの逆ヒロイン力に全地底怪獣が泣き、 全身全霊を込めて梶尾さんしか見ていない我夢が、梶尾さんの事を好きすぎて少々壊れ気味なのですが、 大爆笑のシーンでした。
 「美しい景色だ。こんなところに居るから、地上の人間の痛みがわからなくなる」
 エリアルベースでは窓の外の夕焼けを見つめながら柊が呟き、XIGとガード、同じ人類の防衛組織の中に生じる方針の対立に絡めて、 「天と地」という今作の背景に置かれたモチーフを改めて強調してくれたのは好み。
 「何をしたわけでもない……地底に眠っているだけの怪獣にミサイルを撃ち込む、そんな事が……」
 「許される筈がない」
 そしてミサイルの発射予定日当日、ツムラ湖周辺の警戒に当たる我夢の前に、元をただせば現状の遠因を生んだ藤宮が姿を現す。
 「地底に眠っていた怪獣たちを呼び起こし、結果的に地底貫通弾を使わせたのは俺だ」
 「しかしそれは……」
 「そうしていなければ! たくさんの人間が死んでいた。……俺は救われたと思っていた。だが今は違う。 地球に向けた刃は、いつか必ず人間自身に跳ね返る」
 XIG上層部の反対意見に耳を貸さず、なんとしてでもミサイルを発射しようとする柊は、 そもそもアリゾナで目覚めた怪獣によって全滅したガードアメリカ地上部隊の指揮官であった過去が語られ、 玲子さんの個人的な感情論では覆せない(勿論それでも、“味方で居る”人の存在は大きいわけですが) 藤宮の罪が容赦なく突きつけられるのですが、果たして藤宮に救いの光はもたらされるのか否か。
 「俺は俺のやり方でやる。おまえは自分に出来る事を考えろ」
 一つの罪滅ぼしとして、怪獣の為、地球の為、そして人間の為、藤宮は腕尽くでもミサイルの発射を阻止すると宣言し、悩める我夢は、 壬龍回以来となる風水師・黒田と湖畔でバッタリ遭遇。
 ミサイル攻撃のニュースを聞いてやってきたという黒田は羅盤を読んで湖周辺の地相についてとくとくと語り、 「よくわからないんで簡潔にお願いします」と普段と逆の立場になる我夢、の図は面白かったですが、 ガイアと目が合った事のある黒田の「どこかでお会いした事が?」ネタはあるにしても、 通りすがりのXIG隊員にいきなり地相を語り出す風水師の登場は、さすがに強引。
 更にその黒田の、凄い地脈のパワーで守られた怪獣には地底貫通ミサイルが通用しないかもしれない、 という説明を我夢からそのまま?聞いて、避難地域の拡大を指示するコマンダーも、あまりにも強引。
 コマンダーの地底貫通ミサイルに対する危惧は描かれていますし、そもそもコマンダーには、 オカルト寄りの人疑惑はあるのですが、それにしても無理が出てしまいました。
 黒田さんのぶっ飛び具合も相当なものなのですが、壬龍と交信したりもしているので、この人もまた疑似アルケミースターズ、 すなわち、ウクバール・チルドレンであったりするのか(さも事実のように設定を捏造しないように)。
 一方、スタン警棒で警備兵を突破した藤宮は、柊と対峙。
 「自分たちだけが生き残る為に、他のものを滅ぼす事は、人間の驕りだ!」
 「私は沢山の人達が、怪獣の犠牲になって、虚しく死んでいくのを見てきた。怪獣は滅ぼさなくてはいけない」
 俺の! 筋肉で! 止めてやる! と宣言通りに腕尽くで行く藤宮だが、柊の圧倒的筋肉の前に惨・敗。藤宮はやはり、 どこまで行っても藤宮なのであった!
 「既に沢山の人達が怪獣によって命を失っているんだ。その人達に対して、おまえはどう責任を取る!?  私は――これ以上の犠牲は出させない。……人類の、為に」
 遂にミサイルは発射されてしまい、黒田を自動操縦のEX機に避難させた我夢が地中を突き進むミサイルに対してどうする事も出来ないまま、 ミサイルは目標に命中。だが、黒田の推測通りに膨大なエネルギーに守護されていた怪獣は地底貫通弾で倒し切る事ができず、地上へと出現する。
 「どうして、こうなってしまったんだ……それでも僕に、出来る事があるっていうのか?」
 麒麟ベースに聖獣を色々と組み合わせたような四つ足の怪獣に対して変身するガイアだが、 ミサイルのダメージにより体中から体液を撒き散らす怪獣の姿に戸惑い、積極的な攻撃を仕掛ける事ができない。
 「ガイア……もういいわ。その怪獣は、もう……」
 そして弱った怪獣は、柊の陣取るミサイルの管制室へ、一歩一歩、体を引きずるように進んでいく。
 「奴は知っているのか? 自分の敵を」
 「人間はただおまえ達に、怯えるだけではない」
 怪獣と正面から向き合う柊は基地の迎撃システムを起動し、バラード調の前期EDインストが流れる中、 人間の兵器によって傷だらけの怪獣が蹂躙されていく姿を何もできずに見つめるしかないウルトラマン、 という爽快感皆無のクライマックス。
 「おまえには……聞こえないのか?! あの、大地の叫びが!」
 「…………奴は、怪獣だ」
 柊は最後まで攻撃を止める事なく、遂に怪獣は地面に崩れ落ちて死亡し、「怪獣は……」「怪獣は……」 と繰り返されるのがなんだか會川さんぽいエピソード(偏見です)で、脳内で爾朗センパイが 「おまえは大自然の使者なのか。太古の神なのか。人間の犠牲者か! それとも、俺たち自身が望んだものかっ」と叫びだし、 流れ弾で藤宮がジャガーさんに「いつまで坊やでいるつもりだ!!」と説教されてしまい、困りました (何を言っているかわからない方は會川昇渾身のヒーローアニメ『コンクリート・レボルティオ』を見よう!)。
 避難区域の病院で避難を手伝っていた律子は、飛び去るチーム・ライトニングと横たわる怪獣?を見つめ、 ガイアは怪獣の死体を地底へと還す。
 「怪獣は……滅ぼさなくてはならない。――人類の為に」
 拳を握りしめた柊は呟き、
 「僕は……何も出来ませんでした」
 「……チャンスはまだあります。きっと。大地に住む者達と、共に生きていける方法は、必ずある筈です。私たちは、まだ諦めてはいけない」
 地底の怪獣はあくまで、人間と同じ地球で生まれた命である、という方針が示されて、つづく。
 予告から、大変楽しみではあるが内容盛りすぎでは……という危惧のあった今回、 原田×古怒田なら上手く捌いてくれるのではと期待感も高まったのですが、概ね4クール目への布石といった内容で、 1エピソードとしては消化不良。
 特に今作の構造上、柊にしろ律子にしろ黒田にしろ、間違いなく再登場するだろう、という程の安心感が無いのが、 消化不良に拍車をかけてしまいます。
 徹底して「人間」の立場から怪獣に攻撃的姿勢を取る柊の存在はスパイスとして効いてきそうですし、 梶尾さんとの絡みも冒頭だけだった律子さん(そして我夢が一番面白くなってしまった)の“夫を怪獣に殺されている” という背景は取り上げられませんでしたし、黒田さんは黒田さんで田端さんとのスキャンダル疑惑が浮上し、 いずれも再登場の可能性を匂わせてはいるのですが……特に! 律子さんの! 再登場は是非!
 あと、我夢&藤宮のみならずXIG上層部も柊に否定的であり、構造が全体的にアンチ柊なのは、 それによって地底怪獣側に感情移入させる作りにしても偏りが露骨すぎて、柊寄りの視点の人物も配置した方が、 布石としてもエピソードとしても、むしろ引き締まったのではないか、という点は気になりました。
 次回――このまま柊編が続いたら、おお、と思ったところですが、予告の雰囲気からはどうやら、一休みの変化球?

◆第39話「哀しみの沼」◆ (監督:北浦嗣巳 脚本:川上英幸 特技監督:北浦嗣巳)
 注目は、地面を走る触手に片手打ちで銃弾を命中させる我夢。
 か、梶尾さんより上手い……?!
 そのすぐ後に、重火器を構えたライトニングぽっちゃりに
 「更に上がった射撃の腕、見せてやるぜ」
 という台詞があったので何かのフラグだと思ってワクワクしていたら、これといって回収されなかったのは残念。
 妖怪が住むと伝えられ、地元の人々が近寄らない沼の近くの小屋に潜伏する怪しい目出し帽の男達……の一人が、六角!  六角じゃないか?! つまり、スペースマフィアの生き残りなのか、この人達。
 (※役者さんが、多分、『特警ウインスペクター』でセミレギュラーだった六角刑事を演じていた人で、 後に『ブルースワット』でエイリアン人間体を演じており、特に名前が無いので感想中で六角エイリアン扱いしていたという、 極めて個人的なメタルヒーローネタで自分でも後で何を言っているのかわからなくなる可能性があるので注記)
 だが翌朝、沼のほとりでオルゴールに耳をすましていた老人を短絡的に銃で脅した二人は、 突如として沼から飛び出した触手により水の中に引きずり込まれてしまい、スペースマフィア、今度こそ壊・滅!(待て)
 スタンダードな演出でありますし、この時点で約10年前の作品ではあるのですが、 どうしても偏愛する『ゴジラvsビオランテ』を思い出してしまい、
 「見ろ我夢。これが、稲森博士だ」
 「……藤宮……君はまさか……博士とリリーの遺伝子にG細胞を融合させたというのか?!」
 という夢の展開が脳裏をよぎります。
 「近藤……いったいどうしたんだ、おまえは……」
 現金輸送車襲撃犯(引きずり込まれた男達)を追っていた警察と、 一ヶ月前に発射された地底貫通弾の影響を調査し続けていた我夢の前で再び沼の中から触手が出現し、 ガードによる本格的な調査がスタート。我夢は頑なに沼に人が近づく事を拒む老人――平野から、沼に向けて呟く「近藤」という名と、 沼に潜む怪物に隠された真実を教えられる。
 「……私と、近藤は、かつて、軍の秘密研究所に、居たんだ」
 戦時中、共同で細菌兵器を研究していた近藤と平野は、人間を生物兵器にする人工細菌の開発に成功。 だがそのあまりの恐ろしさに実用化に反対し続けた近藤は、逆に上層部による見せしめとして人体実験の材料にされてしまい… …異形の怪物に。近藤はその場で、友人であった平野を除き、上層部と職員を皆殺しにして秘密研究所を壊滅させると、 沼の中へと姿を消していた。
 「……怪物となった近藤は、どんな方法を使っても、死ぬ事が出来なかった」
 深い沼の中に隠れ続ける近藤の、唯一の心のよりどころは残された一人娘であり、 平野が手にしていたオルゴールは近藤と娘との思い出の品であったが、その少女もまた、空襲で死亡。近藤を救えず、 その娘を守りきる事もできなかった悔恨を胸に、平野は贖罪として、沼の底に閉じこもる近藤を見守り続けていたのだった……。
 “核兵器のメタファー”として持ち込まれた地底貫通弾が過去の“戦争の罪”と結びつけられ、 ひたすら救いの無い出来事が語られるのですが、水中に引きずり込まれた強盗二人に続き、 回想シーンとはいえ生身の人間が明確に殺害される描写が続くのは、今作ではかなり珍しい見せ方で、 エピソード全体を独特の雰囲気にしています(一方で、冒頭の強盗2人組や途中のライトニングなど、 全体のバランスを取る意図だったと思われるコミカルな描写が変な浮き方をしており、出来ればこういった緩めるシーンは、 現場とは別の場所(エリアルベースとか)で挟んだ方が良かったかなと)。
 平野老人は平野老人で、強盗二人の失踪を証拠隠滅する為に、奪われた現金その他証拠品をトランクに詰めて沼の底に沈めてしまうぶっ飛びぶりなのですが、 細菌兵器の研究を続けた末に友人が異形の怪物と化して大量殺戮の現場を目撃し、残された娘も空襲で失うという体験をしていたらそれは、 ぶっ壊れるな、と。
 長らく、地上の人間に危害を加えるような事は無かった近藤だが、沼の地下に発生した有害物質の影響を受け、凶暴・巨大化。 遂に巨大な怪獣と化して、地上に出現する。
 「退避、退避だ!」
 と叫びながら目の前の民間人を置いて逃走する梶尾は、『ガイア』としては致命的な雑さ。
 今作ここまで、こういった「リアル系防衛組織の落とし穴」を上手く回避していただけに、3クール目も終わりに、 高層ビルから顔面ダイブしてしまったのは、大変残念でした。
 「これが……これが地底貫通弾への、答えなのかーっ!!」
 毒々しいデザインから、触手を大きく振り回してのビル破壊が大迫力な怪獣に対してガイアは変身し、前回の参謀の台詞で示されたように、 地底貫通弾は現実の兵器のメタファーであり“血反吐を吐きながら続けるマラソン”の『ガイア』的象徴ではあるのですが、 詳細不明の汚染物質と詳細不明の怪物への影響は詳細不明だが地底貫通弾が原因だ! というロジックはあまりにも乱暴で、 度を超えて戯画的になってしまったというか、地底貫通弾を悪者にするという結論ありきの陰謀論めいてしまって、 それを包み込む“物語”として機能できなかった印象。
 地底貫通弾への問題意識そのものをもっと時間をかけてキャラクターと視聴者が共有していれば話は別ですが前回の今回ですし、 それを撃った柊が組織外部に設定された都合の良い悪役にもなりすぎており、これなら地底貫通弾は「XIGがやむをえず撃ってしまった」とした方が、 我夢(達)の抱える問題意識の強さに説得力を与えられた気がします。
 夕陽を背負って光速キックからの投げ技を決めるも沼怪獣の触手に絡め取られてしまうガイアだが、 怪獣は平野の呼びかけとオルゴールの音色に沈静化。
 「怪獣が……泣いてる……」
 その姿に敦子が呟きジョジーも涙ぐみ……今作、基本的には出来がいいのに、 “女性キャラの扱いが妙に雑”な部分が定期的に顔を出すのですが、玲子さん説得モードへの違和感にも繋がる話として、 とりあえず情緒的な台詞は女性キャラに言わせておけばいいだろう、的なやり口になっていて、 まるで「キャラクターの台詞」になっていないのが、残念。
 一度は動きを止めたかと思われた沼怪獣だが、汚染物質の影響はもはやその脳を蝕んでおり、平野さえ攻撃。 梶尾が今度は身を挺して老人を助けて帳尻を合わせ、ガイアはアグトルニック。久々のフルモーション地球の隙間光線……と見せて、 地球浄化光線を放ち、その光を浴びた怪獣は最後に近藤の心を取り戻すと、平野に感謝を伝えて消滅するのであった……。
 そしてこれまた今作の短所が顔を出してしまうのですが、ガイア、基本的にメンタルその他が我夢寄りというイメージなので、 初期シリーズのウルトラマンのような(?)超越者としてのざっくり解決、を見せた際の違和感が強く、 今回のようにラストでいきなり今までなかった手段で解決されると、どうもスッキリしません。
 我夢なりに色々と悩み、考えた末に、今回の光線が飛び出した、という事なのでしょうが、 超越者というよりは人間の思考寄りで描かれているガイアの場合(そこに生じる煩悶が作品の魅力なわけであり) は「飛び出すに至る経緯」にもう一手間掛ける必要があるように思え、飛び出した事にも、飛び出した後にも、 自身の行為に対して我夢のリアクションが無い、というのは、厳しく感じる部分です。
 そんなわけで、定番のアイデアを進行中の作品テーマと繋げてまとまりよく仕上げた、という点では、 飛躍は無いが破綻も無いといった出来ではあったのですが、
 〔防衛隊描写・テーマ性のウェイト・女性キャラの扱い・ガイアと我夢の関係性〕
 という今作の抱える(潜在的)問題点と明確な短所がまとめて悪い方向に噴出し、 一つ一つは小さな傷だがまとめて出たら箱が割れた、みたいなエピソードになってしまいました。
 (人が……人を許さない限り、争いは、なくならないんだ)
 平野老人の言葉を我夢が噛みしめるように呟き、つづく。
 次回――堤チーフ、起死回生のメイン回?!

◆第40話「ガイアに会いたい!」◆ (監督:北浦嗣巳 脚本:小中千昭 特技監督:北浦嗣巳)
 「チーフも、子供達へのブリーフィングは、苦手か?」
 むしろコマンダーは、なぜチーフに子供の相手を任せていますか。
 日本中から選ばれた子供XIG隊員がエリアルベースの見学に訪れ、KCBがそれをレポート。突然、 筋トレハッキング映像が大写しになったり、突然、マッチョ集団が筋トレを勧めてくるような惨事もなく和気藹々と順調に進行し、 子供達からの質問を受け付ける我夢。
 「どうしたらガイアに会えるの?」
 「……呼べば、来てくれるわけじゃないんだ。ウルトラマンは、僕たちを助けてくれるけど、その前に、 僕たちが精一杯頑張んなきゃいけないんだ」
 子供達への言葉という形で改めて我夢の“ウルトラマン”観がハッキリと言語化され、 我夢はあくまでガイアの力を「地球から託されたもの(預かっているもの)」と受け止めており、 ギリギリまで“人間”として戦って初めて、その力を用いる(頼る)事が許される、と考えている節が窺えます。
 それが、地球に対する人類の証明になるというか。
 メタ的には勿論、「何故すぐにウルトラマンに変身しないのか」というエクスキューズの要素はあるのですが、 それを物語全体のテーマ性と融合して積み重ねを丁寧に続け、そしてまた、「精一杯頑張る」という部分を怪獣との戦いのみならず、 筋トレもとい「力を預かった自らを鍛える」事で具体的に示してきたのが今作の上手いところで、 最終クール開幕戦にして、高山我夢/ウルトラマンガイア、というヒーローが一つの像を結んだ、といえます。
 この辺り、メタルヒーローや戦隊ヒーローが、力のオリジンは内的にせよ外的にせよ、 「ヒーロー」である事は「自分自身」であるのに対し、あくまで「超越者の依り代」である我夢には、“神と向き合う”事が必要であり、 それが遂に3クールの対話を通して言語化した、というのは《ウルトラ》シリーズの特性の出たアプローチでありますし、 我夢の成長として感慨深いものがあります。
 そしてそれがまた、古代生物や古の地龍やガイア自身に例えられてきた「人類は地球とどう向き合うのか」 という今作の通しテーマに繋がっているのが、綺麗な構造。
 何やら目配せを受けた少年・タロウがこっそり居残ろうとしたのを我夢が見咎め、EX機について
 「本当は、堤チーフの専用機なんだけど、僕が結構改造しちゃってるんだ」
 と衝撃発言が飛び出す一幕もありつつ、子供達は輸送機で無事に地上への途に付き、肩の力を抜く偉い人達。
 「千葉参謀、今度は随分と無理を通されましたね」
 「いや〜、必要だと思ったんだよ。空が怖いと思っている子供達、未来が来ないと感じてしまっている子供達に、いやいや、 そうじゃないんだ、未来に希望を持っていこうと。子供達自身の目で、見てもらいたかったんだよ。このエリアルベースや、そして、 ここで働いている人達の姿をね」
 今回の子供XIG空中要塞訪問は、世間の風向きをコントロールしようとする参謀のプロパガンダ企画、ではなく、 子供達への真心からの産物であった事が明かされ、「石の翼」回を踏まえている事で凄く沁みます。また、以前にも書きましたが、 破滅招来体という脅威が存在している世界のパラダイムシフトを折に付け描いてくれるのが、今作の良いところ。
 ほのぼのと笑顔を交わす上層部だがしかし、エリアルベースを離れた輸送機の搭乗人数がおかしい事にジョジーが気付き、我夢は結局、 先程の少年を取り逃がしたのか、と思ったら……田端ぁぁぁ!!
 基地内の盗撮にかまけていた駄目な大人は険しい表情の堤に見つかるが、物怖じせずにXIGの秘密主義に物申すと強大な戦力をくさし、 ここでTV屋としてXIGに対抗心を持つ田端を拾いつつ(今回のチーフへの突っかかり方を見ると、 何かエリートへのコンプレックスもあるのか?)、なかなかスポットを当てる機会の無かったチーフを絡めてくれたのはおいしい。
 「立場としてはそうでしょうね。――堤中佐。航空防衛隊随一の戦術家かぁ」
 ち、チーム・クロウ……ううっ、頭が……。
 「……俺には想像がつかねぇ。飛行機をまるでゲームの駒のように動かして、命に関わる命令を下すという……仕事がね」
 厭味を飛ばすも、ノーコメントを貫き通すチーフによりピースキャリーで送還される事になる田端だが、異常事はまだまだ続き、 輸送機の航跡を追う光のトンネルが出現。その誘導によりピカピカしたハサミ怪獣が宇宙から飛来するとジオベース付近に降り立ち、 その衝撃波に巻き込まれたピースキャリーから、密航していたタロウ少年を乗せたまま、EX機が発進してしまう!
 片やジオベースに迫る怪獣の脅威、片やEX機に乗ったまま空に飛び出してしまった少年の安否、 という二つの危機が並行して描かれるのですが、一度は我夢に見つかった筈の少年がEX機に潜り込んでいるのに、 我夢は我夢でなんの問題もない様子でブリッジに戻ってきている為、だいぶ意味不明な成り行きに。
 衝撃波の影響でEX機のオートパイロットシステムもダウンしており、これが<レスキューポリス>だったら、 セキュリティの作動で自爆5分前になるところですが、今作は『ウルトラマンガイア』で良かった!(?)
 コマンダーの目配せを受けつつブリッジを飛び出した我夢が、エリアルベースの通路をダッシュしながら変身するシーンは、 横の動きにスピード感を乗せる見せ方で北浦監督の好みっぽい演出。
 一方地上では、怪獣がガバッと開いた腹部から火球を繰り出す格好いいギミックでジオベースの防衛システムを粉砕し、 これまたスピード感のある特撮で迎撃の猛攻を仕掛けるチームライトニング。虎の子のミサイルを怪獣の腹部に放り込んだ梶尾機だが、 まさかのミサイル返しによりあわや二階級特進の危機に、降臨する梶尾さん大好き同盟親衛隊長・ウルトラマンガイア!
 ベースキャリーのチーフは自らフローターで機を離れると、EX機に接近。 ベースキャリーがリパルサーエンジンの不調でEX機に近づく事ができない為、内部の少年に操縦を指示し、 その無茶な手段と口調に毒づく田端を、柔らかくたしなめる神山。
 「チーフが何故、フローターで出て行ったと思いますか?」
 「それは、万が一の時の」
 「無論、それが第一です。しかしあの人は、子供に自分の顔を見せにいったんです」
 ベースキャリーの操縦席に居る時に、10文字以上喋るのは初めてな気がする神山さん、ゆっくり喋るとやたらいい声で、 なにやら謎の説得力があります(笑)
 「戦いの現場では無線が頼りです。でもその前に、我々を指揮する堤チーフは、必ず私たちと顔を合わせるんです。 命がけの仕事をする私たちにとって、指揮官を信頼する事は、何よりも大事な事です」
 ち、チーム・クロウ……ううっ、頭が……。
 「……部下は……ゲームの駒じゃない、か」
 「私がここで見ている。さあ、君の勇気を見せるんだ!」
 「僕の勇気」
 田端はベースキャリーの操縦席からチーフの勇姿にカメラを向け、 チームはフローターのコックピットからEX機のタロウ少年へとサムズアップを送る。 間近からのチーフの声援に応えてタロウは機体の制御を安定させ、堤チーフの知らない内に、 我夢が椅子の下に変なボタンを仕掛けたりしていなくて良かった!
 このボタンを押すと、ふっ、操縦しながら、ふぅっ、腹筋を、ふっ、鍛える事が、ふぅっ、出来るんです!
 地上ではハサミ怪獣に苦戦していたガイアが、アグトルニックから連続攻撃。 ローキックで転ばせた怪獣を振り回してから飛び上段回し蹴りを浴びせ、倒れた相手を背後から掴んで地面に繰り返し叩きつけると、 締めは得意のフルスイングで凶器は地球のコンクリートジャングル!
 迫り来る筋肉の猛威に恐れをなしたハサミ怪獣は宇宙へと逃亡を図り、再び出現した光のトンネルに巻き込まれてしまうEX機。 コックピットのキャノピーが吹き飛んだ際に、大事に抱えていたスケッチブックの中身が空へと飛び出してしまい、 それを拾おうとしたタロウ少年もまた空中へと投げ出されてしまうが、逃亡した怪獣を背後から光線技で抹殺したガイアが、 急ぎ舞い戻って手の平キャッチで救出に成功し、事なきを得るのであった。
 「今回の事はXIGの隊員にあるまじき勝手な行動が原因だ」
 「……ごめんなさい」
 「……しかし、XIGのユニフォームを着る者にとってふさわしい、勇気ある行動だった」
 タロウは無事に地上へと戻り、少年を仮初めながらXIG隊員として扱う堤が、定番ながらいい味。
 「ありがとうおじさん!」
 まあ大人達はこれから、始末書と大減俸が待っているので心は土砂降りのスコールですが!
 「でも、どうして、そんなにガイアに会いたかったの?」
 「見せたかったの……でも、僕……」
 そこへ散らばってしまったスケッチブックの中身――子供達の絵――を拾い集めた玲子さんらが姿を見せ、タロウ少年の無茶な行動は、 全国の少年少女の代表としてガイアに皆の絵とメッセージを伝えたかった為であった事が判明 (作品世界に無理の無い範囲で収まっていますが、そもそも公募企画が背後にあったのでしょうか)。
 そして我夢は、タロウ少年の描いた、固く握手を交わすガイアとアグルの姿を目にする。
 「アグルもまた、ガイアと一緒に破滅招来体と戦うんでしょ?」
 ああ成る程、これをやりたかったのか……。
 「アグル……」
 「本当はガイアとアグル、仲良しなんだよね!」
 「勿論さ。だって、二人ともウルトラマンなんだから」
 子供達からガイアへのメッセージ、を送るだけにしては、一度は声をかけた少年に結局潜伏を許す我夢・ 分別のありそうな年頃なのに子供達の計画に荷担する引率の少女・そもそも外部からの乗客が二人も少ないのに発進してしまう輸送機・ KCBはもはやXIG絡みの取材から完全締め出しでは・EX機を操縦してしまう少年、などなど、 無茶によるデメリットの方が大きすぎたのでは、と思っていたのですが、「ガイアとアグルへのメッセージ」であったならば、 これだけの無茶をした価値はあったと成る程納得。
 田端は撮影したテープを堤に渡し、おじさん同士の共感にまでは至らずも堤への視点を多少は良化。 最後はガイアが少年少女を手の上に乗せて飛翔し、歓声をあげる子供達の姿からEDパートに突入。 EDテーマをバックに今回ダイジェストと子供達の絵が交互に映し出される、というのは胸に響き、次回、 この流れから「アグル復活」は、お見事。
 上述したように随所に無茶は目立ったものの、これまでの積み重ねを丁寧に活かし、 高山我夢/ウルトラマンガイアというヒーローの現在地を描いたのは、第3クールまでと第4クールを繋ぎ、 終章開幕を告げるエピソードにふさわしい内容でした。
 以前コメント欄で教えていただいた実際のファンエピソードが下敷きになっているのかと思われますが、そこから、 ガイア(我夢)×アグル(藤宮)の関係性に希望の光を当てる、というのも気持ちのいい着地で、 1エピソードとしては粗が多かったですが、子供ゲストを上手く取り込み、年間の構成で見ると凄く良く出来た話、 とでもいいましょうか。
 一方、「ロック・ファイト」の惨劇からなんと30話、くしくも同じ小中脚本で汚名返上のチャンスを与えられた堤チーフですが、 「第10話のやらかし」と「今回の勇姿」が全く無関係の為、まあ今更あの話を掘り返しても仕方ないとしても (そもそもスタッフ側は問題を特に感じていないかもですし)……「それはそれ、これはこれ」になってしまい、 何となくスッキリせず(笑)
 勿論あの後、チーム・クロウへの対応自体は改善されているのでしょうが、 あのエピソードの割と大きな問題点はエリアルベース男性陣の好感度が数珠つなぎに揃って下がった事だったので、 今回も“男目線からのチーフ評”に終始してしまったのは、惜しまれるところです。
 ところで与太よりの余談ですが、タロウくんの居残りに荷担した引率少女の「タロウくんは代表なんです」 という言葉があまりにも熱に浮かされたような感じだった為、実は子供XIG隊員は怪獣被害者の会の遺児に取って代わられており、 タロウくんは皆を代表する闘士として
 「これは聖戦である! 驕り高ぶり天を意のままにしようとするXIGへの、裁きの鉄槌なのだ! 見よ! 地上の人々よ!  真に破滅を打ち砕く、救いの光をもたらす浄化の炎が花開く様を! 私の声を聞き、ウルトラマンよ、どうか世界に光を……!!(ぽちっ)」
 みたいな展開になるのだろうかと5%ぐらいドキドキしていたのですが、今回も敦子さんのヒロイン力の低さが、 量子観測的にエリアルベースを救った!
 そんなわけで次回――僕のヒロインが見つからないというのならっ! 僕がヒロインになればいいっ!
 禁断の叡知に目覚めてしまった我夢に、藤宮の手は届くのか?!

◆第41話「アグル復活」◆ (監督:石川整/村石宏實 脚本:吉田伸 特技監督:村石宏實)
 見所は、次元の彼方へキャプチャーされていく我夢の、売られていく子牛のような表情。
 巨大ワームホールの向こう側から、ロボット怪獣が登場! 奇妙な光線を浴びたガイアだが、それは破滅招来体の罠だった!  マーカーを刻み込まれた我夢はガイアへの変身前に囚われの身になってしまい、ワームホールの彼方へ連れ去られそうになるがその時藤宮は?!
 というエピソードなのですが、古式ゆかしい磔状態で、十字架を模した巨大ロボ(変形機構も含めて、 人類文明からの異質感が面白いデザイン)に取り込まれたまま浮上していく我夢の姿を見守るしかない面々の内、 当人と藤宮とコマンダー以外が全員、ところでどうしてアイツ、捕まった上にさらわれかけているの?!という状況設定が、 そこはかとない可笑しさ。
 勿論、その状況で皆が、高山我夢を心配している姿はしっかりと描かれるのですが、一方の我夢は我夢で、 ただ一人ワームホールの向こうへ連れ去られようとする絶望の表情、がなんだか、 一人きりで寂しくてプルプル震えているみたいに見えてしまい、映る度につい笑いがこぼれてしまって困りました。
 「……藤宮? 藤宮ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 浮上していく我夢に追いすがろうとするも、怪獣のミサイル攻撃に巻き込まれて倒れていた藤宮だが、その胸に、我夢、玲子、 稲森博士、アグルとして戦いながら、出会ってきた人々の姿が去来する。
 (彼らを救ったのは、君だ。アグル。君が居なければ、彼らは……戦う誇りを、取り戻すんだ。藤宮)
 光量子コンピューター・クリシスの予測が破滅招来体に汚染されていたという真実を知った時、何の為に戦うのか、 を失ってしまった藤宮に、我夢は戦う理由を取り戻すように呼びかける。

−−−
 「海は……生きている。……様々な命を生み出し、疲れた魂が戻っていく。そんな生命の営みを、俺は見守りたかった。 ……だが俺のした事は結局、アグルの脅威で人を混乱に陥れただけなんだ! ……結果、地底貫通弾だ。……今は償いもできない」
 −−−−−
 「――人類は地球の一部だ。皮肉にもアグルの力を失って初めてそう思った」
−−−

 脚本の吉田さんが、これまでの藤宮にまつわる諸々を拾って繋ぎ合わせていき、環境テロリストであった藤宮の再生を、 地球への愛に集約。
 「俺には守るものが……ある」
 目を開いた藤宮は、歯を食いしばりながら身を起こす。
 「地球よ……もう一度……もう一度……俺に力をくれぇぇぇぇ!!」
 戦う誇りを取り戻した藤宮が目にしたのは、海の中から近づく蒼い光――
 「アグルーー!! 俺はもう一度、戦うぞぉぉぉ!!」
 ガイアの大地に対して、アグルの出自が「海」であった事が明確になり、巨大な瀑布に藤宮が飲み込まれると、 海を割ってアグルが新生する、というのがインパクトのある復活シーン。
 アグルはワームホールへ向けて浮上していく十字架ロボに飛びつくと、そのまま地面にダイブして、我夢の拉致を阻止。
 一度は、勢い任せのアグルのパンチでぐしゃぁっとなりかける我夢だったが、君を信じる、 的に両目を閉じるという芸術点10のヒロインムーヴを発動すると、 それに応えたアグルはアグルセイバーを抜き放ってその一突きで十字架ロボの胴体を華麗にくり抜き……
 遂に、クールなようで割と力任せなやり口を克服。
 アグルによって救出され、地上に降ろされた我夢は瀬沼らの手で十字架カプセルから解放されるが、長期休養明けのアグルは、 強敵・十字架ロボの集中砲火を正面から浴びてしまい、猛火に包まれる……も、 取り戻した筋肉への信仰でそれに耐え抜いて逆に挑発を見せ……
 遂に、盛り上げてからのガックリ体質を克服。
 対ガイア用の十字架ロボは、突如しゃしゃり出てきた青い巨人に困惑を隠せず、 攻撃の手が緩んだ所にウルトラマリンビッグバンの直撃を受け、背中を向けたところで爆発! を格好良く決めるアグル……

 遂に、致命的な詰めの甘さを克服。

 (やっぱり君は、凄い奴だよ)
 エリアルベースに帰投する我夢は、海辺に立つ藤宮と笑顔をかわしながら互いの変身アイテムをハイタッチ代わりに掲げ、次回より、 新生アグルのご活躍に……本当に信頼を置いていいのか若干の疑念も漂うのですが、 色々な紆余曲折を経てアグルが真のヒーローとして再生した事により、諸々のウィークポイントが克服されたという事でいいのでしょうか?!
 変身前の絶叫といい、背中を向けて爆発といい、やや今作としては珍しい見せ方なのですが、非常に華々しいアグル復活劇となりました。
 なお、筋肉勝負で完敗したショックを引きずってか、髪の色が一部抜け落ち、 ボロボロのコート姿で海岸線を彷徨っていた藤宮を我夢が諭していた所に、今回もいい所でお邪魔虫に現れた瀬沼さんは、 我夢の言葉を聞き入れて「保護」を思い留まり、そろそろこのポジション(藤宮に対してお役所的警戒をする役回り) もお役御免になってきたのか、態度が大きく軟化。
 ここでの我夢の、
 「藤宮は、ずっと地球の事を考えてきたんです。矛盾だらけの問題を、真剣に考えているんです」
 というのは、たった一つの単純な正解はなく、世界は矛盾に満ちていて、でもその中で、 なるべく良い未来へ進む為にもがき考えていく大事さ、が表現されていて好きな台詞。
 同時に、藤宮はある意味で、カウンターとしての生け贄であったんだ、というメタなエクスキューズとしても、 物語に収まる台詞として納得出来る形になっているのが、上手かったです。
 こに来て初見の監督でしたが、村石監督と連名になっているのは、デビュー枠とかだったりしたのでしょうか。
 次回――東京ドイツ村?でダーク我夢と握手!

◆第42話「我夢VS我夢」◆ (監督:村石宏實 脚本:小中千昭 特技監督:村石宏實)
 OP、タイトルコール直後に、ガイアと並ぶ形でアグル復活。また藤宮もOPにソロで登場し、 梶尾さんに対抗した“なんか俺格好いいポーズ”とかではなくてホッとしました。
 そこはかとなく幻想的な映像で夜の街を走る我夢が追いかけるのは、漆黒のロングコートに身を包んだ男。 街の地下を巡る粒子加速器めいた施設(夢という暗示?)の内部で我夢が眼にした男の正体は――
 「僕は……君さ!」
 少し目つきが悪いが我夢に瓜二つの男であった!
 「頭脳と直観に秀でたというだけで、XIGの隊員になって地球を守る? 銃を持ち格闘技まで習得し、あげくガイアの力を――」
 「やめろぉぉぉぉ!!」
 「アルケミースターズがなぜ生まれたと思う?」
 突然切り替わった話題が、物語の核心に迫る急展開。
 「なぜ僕たちはネットワークで集まらなきゃいけなかった? 他の大人や子供たちが気味悪がったからじゃないか。 他とちょっと違うだけで、人間はすぐに異端を排除する。人間なんてその程度の生き物。僕らこそ生き残るにふさわしい存在」
 「違う!」
 「本当にそう思っているのかい? 我夢」
 「なんだって?」
 「僕は君さ、我夢。君の心だ」
 「ふざけるなぁぁぁ!!」
 殴りかかってくる我夢をかわしたダーク我夢は、異形の巨大な怪物へと変貌。 劇場版冒頭の劇中劇の宇宙人がこんなデザインだったように記憶していますが……やや非現実的な雰囲気の漂わせ方といい、 劇場版を意識した導入でしょうか。
 「これが……僕の心の姿だっていうのか? そんなこと……そんな事あるかっ!」
 哄笑する怪獣に立ち向かうガイアは久々のうにょんバスターで怪獣を消滅させるが、その笑い声は深夜のビル街に木霊し続ける……
 その頃、十字架ロボを送り込んできたワームホールが、 コッヴを送り込んできたものと同じ場所に繋がっていた事を解明したアルケミースターズは、その向こう側に潜む、 破滅招来体の所在地を突き止めようと世界中のアルケミースターズを動員して解析を開始していた。
 そんな同志達の力強い姿にもどこか上の空の我夢はコマンダーにお茶に招かれ、予想外の要素が拾われましたが、 久方ぶりのコマンダー自室シーンで、変わらず壁に掛けられた「無」の掛け軸が目を離せない存在感を放ちます。
 「どうして地球が自分に力を与えてくれたのか。どうして、アルケミースターズが生まれたのか。それを地球に聞いたところで、 答えてはくれまい?」
 「わかってます。でも……答が欲しい時だってあるんです」
 藤宮との問題が解決した直後に、我夢が自身の道に悩みを見せるというのはボタンの掛け違いが発生したのかと思ったのですが、 この後の展開は前回を踏まえた内容になっており、むしろ藤宮との問題が解決したからこそ、我夢には藤宮/アグルのカウンターではなく、 自分自身が立つ場所を明確にする必要が出てきた、という展開。
 ただ、「アルケミースターズ」という“異質”については序盤に少し触れただけで消えていた要素だったので、中盤にもう一押し、 欲しかったところではあります。
 冴えない様子を敦子に心配される我夢は、エリアルベース内部でダーク我夢や粒子加速器の映像を幻視した事から原因が通信機にあるのではと推測し、 前回マーカーを撃ち込まれた際に通信機にも細工がされていた事が判明。
 「でも、パルス符号とかじゃなく、あいつは人間の言葉で話しかけてきた」
 「だってこれ、人間が作ったものだもの」
 ジョジーがパーツを取り出す横で、我夢はおもむろに倒立してシンキングタイムに入り、過去ネタを拾っているのは意識的なものでしょうが、 それにしても妙なところを立て続けに拾ってきます(笑)
 筋肉に血液が漲ると、脳細胞もヒンズースクワットだぜ!  とランナーズハイ状態の我夢はクリシスのシステムが書き換えられていた事例からもそこに人間の介入がある事に気付き、 クリシス開発にも関わったアルケミースターズ創立メンバーのデータを照会。
 「ぼくら皆、地球と人類の為にって集まった筈じゃないか。だけど、そうとしか考えられない。そんな奴が居るだなんて……」
 「誰のこと?」
 「裏切り者が居るんだ。アルケミースターズの中に」
 物語の端緒、といえる「アルケミースターズ」という存在の中に、最初から獅子身中の虫が潜り込んでいた、 というのは盛り上がる展開で、条件に符号する存在として我夢が辿り着いたのは、既にアルケミースターズを脱退した、 ドイツ人のクラウス・エッカルト。
 …………藤宮の件といい、今回判明した新事実といい、わかってくるのは、ダニエルくんはきっと、 物凄く苦労しながら仕方なくまとめ役をやっている超いい奴。
 我夢は急遽ドイツへと飛び立ち、その機影を見つめる参謀とコマンダー。
 「我夢は最近、単独行動が多いな」
 「彼には彼にしか、出来ない事があるんです」
 「……そうじゃないんだ。……彼はまだまだ若い。若すぎるほどに。この地球を見舞う危機に対して、 あんな若者に託さなくてはならない。……辛いんだ」
 未来ある若者に年齢以上の重荷を背負わせている自らの不甲斐なさを嘆く参謀が、 「子供達が未来に夢を見られる世界を作る(守る)のが自分たちの責務」という強い気持ちを持っている事が既に描かれているので、 その場限りのそれらしい台詞になっていないのが非常に大きく、参謀――そして物語全体にとって、「石の翼」回がとても良く効いています。
 (余談ですがこの、中盤のキャラエピソードで描かれたテーマが、実は物語全体に関わるテーゼを象徴的に描いており、 後半になるにつれその存在が効いてくる、というのは後の『轟轟戦隊ボウケンジャー』シンデレラ回を思い出すところ)
 クラウスの行方を追ってドイツ・ルール地方を訪れた我夢は、幻影の中で見た城館の地下で不思議な文様を発見し、 そこでかつてカナダで一緒にバズーカを撃った仲であるキャサリン・ライアンと再会。
 我夢とは別の理由からクラウスを探していたキャサリンだが、家族の証言によると、クラウスは文字通りに、この世から姿を消していた――。
 二人は一旦、城館を離れて街をそぞろ歩きし、同じアルケミースターズであるキャサリンの言葉に、我夢は力を与えられる。
 「どういう理由で生まれたって、私たちは私たち。一人一人、違う人間だわ。だからみんな、同じ事考えたり、 同じ事する必要も義務もない」
 「そうだ、そうだよね」
 そんな我夢にキャサリンは手を伸ばし、「男女が二人で街を歩いているのだからこれはデートである」と宣言。 動揺しつつも我夢はその手を取り、父さん! 母さん! それから藤宮! 僕のマネージャーは、ドイツに居ました!!

 べきいっ

 「アッコ、どうかしたの?」
 「気にしないで……なんかわけわかんないけど、超げきムカ」
 我夢が浮かれていたその頃、エリアルベースでは敦子がボールペンをへし折り、 繰り返し我夢を心配する素振りを見せてコツコツ積み立てていたフラグをゲストキャラに全て持っていかれる敦子さんの逆ヒロイン力に史上空前規模のワームホールが開きそうな勢いですが、 普段ほとんど描かれない我夢×敦子が強調されていたのは、背後からガソリンかけて焼き捨てる前提であったというのは、 村石監督の悪ノリパターンが透けて見えるというか、あまり感じは良くありません。
 ……一方で正直、「超げきムカ」と呟いた際の敦子の表情が、今までで一番キャラが立っていたのが、大変悩ましいですが。
 地下室に刻まれた文様がルーン文字に似ている事に気付いた我夢は、キャサリンと共にクラウスが消えたという庭園に駆け戻り、 そこでダーク我夢と遭遇。
 「そう、僕はクラウス。でも、高山我夢でもある」
 クラウスはその肉体と情報を、破滅招来体の送り込んでいた精神寄生体へと捧げて一体化すると共に、 ガイアの依り代であった我夢の精神を揺さぶる為に接触を繰り返していたのだった。
 「僕がメンバーを抜けたのはね……僕はわかったからだ! 僕に力を与えてくれたのは、破滅ではなく、この地球と人類を、 より高く進化させる存在なんだ!」
 破滅招来体に取り込まれたクラウスの、古典的マッド研究者めいた台詞回しは如何にも小中さんの趣味嗜好を感じるというか、 禁断の宇宙的恐怖が耳から洩れそうな勢いで、クラウスは巨大化。
 「早く光を解放しろ、我夢。地球の力など、遙かなる星の叡知には、かなうものじゃない!」
 クラウスは、ダーク我夢が変貌した闇の怪物(考えてみると、黒いボディ中央にオレンジ系の発色部分、というのは、 ゼットンモチーフか?)をよりスマートな人型にした姿へと変貌し、キャサリンを逃がした我夢はガイアに変身しようとするが、 そこに 筋トレしながら 手を広げて俺格好いいポーズを決めた藤宮の幻影が姿を見せる。
 「我夢。あれはおまえ、それに俺のもう一人の姿だ。それでも戦うのか」
 「確かにあいつは、もう一人の僕。僕の心の奥に居る怪物だ。だから、僕が倒さなくちゃいけないんだ。――ガイアぁぁぁ!!」
 前回なされた、仮に破滅の予言、そして〔削除対象:人類〕を最初に目にしたのが我夢ならばどうしていたのか、 という問いかけを踏まえつつ、我夢自身の心の弱さ、人類の選ばれた一部だけが高みに残ればいい、 という潜在的願望にして誘惑の象徴としてクラウス魔人が置かれるのですが、我夢の精神性の掘り下げとしては、やや唐突になった印象。
 「おまえに倒せるか、我夢。……自分の心の奥に、巣くっていた怪物に」
 一度はその「怪物」に飲み込まれた藤宮が、遠くから忠告してくるだけで(「怪物」と向き合わない、 という選択肢もある事を示す役割ではあるのですが)それを乗り越える手助けをしない、 というのも不自然に劇的さを減じてしまっていますし――一人で乗り越えるべきもの、というには、 藤宮自身が我夢の助けを借りているわけで――、キャサリンに光を当てたい都合で、部分的に物語を歪めてしまったようにも感じます。
 これはキャサリンへの好感度でも印象の変わってくるところではありましょうが。
 「我夢! 立ってよ我夢! 我夢なんでしょ?!」
 どうもこれがやりたかったらしい、ぶぃんぶぃん唸る光剣バトルの後、分裂増殖したクラウス魔人の一斉ビーム攻撃を受けて倒れたガイアだが、 キャサリンの声援を受けると顔を上げ、アグトルニックから早回し地球の隙間ビームで分裂魔人を一掃。 しかし消滅したかと思われた魔人は再び合体し、両者は互いにダッシュで距離を詰めながら同時に渾身のストレートを放ち――……
 心の奥に潜んでいた怪物と、今の僕との違い……それは、筋肉だ!!
 ヒーローとしてガイアのテーマである「心身を鍛えて一歩一歩成長していく」事を象徴するのが「筋肉」なわけで、 まさにたゆまぬ筋トレが心と体の勝敗を分け、クラウス魔人は爆砕。恒例の怪獣爆破のアレンジなのですが、 互いにパンチを打ち合った状態のまま、ガイアの至近距離で4カットに分けて魔人が内側から木っ葉微塵に吹き飛んでいくのは、 強烈な映像。
 「あいつは……本当に僕の心の奥の怪物だった。僕の心の奥底に、あいつが言うような事を隠してるなんて思ってもみなかった。 思いたくもなかった。でも……あったんだ。だから、僕はあいつと戦った。僕……勝ったぜ。戦って……勝ったんだ。 僕は…………人と戦いたくなんかなかった。僕は、そんなに強くなんてない。でも今は……戦うしかないじゃないか!」
 内なる闇に打ち勝った我夢だが、キャサリンに思いの丈をぶつけると走り去り、 キャサリンは涙を流しながらそれを見送る事しか出来ないのであった……で、つづく。にしても、 心情的には「クラウスを殺した」という苦悩の勝利の後に誰と触れ合う事もできず孤独を抱えて去って行くシーンなのに、 走り抜けていくのが華やかに咲き誇る花壇の横、というのは選択ミスだったのでは感。
 参謀の言葉も伏線となり、思った以上に重い苦さを残したエンドとなりましたが、ここから更に我夢の内心を掘り下げていくのかどうか、 この後の拾い方を見てみないと何ともいえない、といったエピソード。上述しましたが、個人的にはやや仕込み不足を感じましたし、 そこにキャサリンを絡めたい、というのが空転した印象。
 そういう私は敦子姉×梶尾さんはツボに入って大興奮していた身なので、 キャサリンが量子的に不確定だった我夢のマネージャーポジションに急浮上というのを受け入れられるかどうか、 でかなり変わってくるところがあるかとは思いますが。……とはいえ、我夢×敦子を推奨しているわけでは特に無い身としても、 ただでさえ梶尾さんの件があるにも関わらず、キャサリンを持ち上げる為に敦子を踏みにじる というのはまがりなりにもレギュラーキャラへの仕打ちとして余計だったと思う部分。

→〔まとめ8へ続く〕

(2022年4月25日)

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