■『ウルトラマンガイア』感想まとめ6■


“間違いじゃない 君が信じてたこと
僕らはずっと 同じものを探してたのさ”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『ウルトラマンガイア』 感想の、まとめ6(31話〜36話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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〔まとめ1〕 ・ 〔まとめ2〕 ・ 〔まとめ3〕 ・  〔まとめ4〕
〔まとめ5〕 ・  〔まとめ7〕 ・ 〔まとめ8〕 ・ 〔まとめ9〕


◆第31話「呪いの眼」◆ (監督:北浦嗣巳 脚本:川上英幸 特技監督:北浦嗣巳)
 見所1は、
 「体が求めるんだよ甘いものを!」
 いよいよ、内なる筋肉の声と対話を始める我夢。
 見所2は、巨大な眼球が半ば崩れ落ち、全身に粘液を滴らせたガンQ二代目の、 気合いが入りすぎてとにかく気持ち悪い造形。
 500年以上前にコッヴの襲来を正確に予言していた呪術者・魔頭鬼十朗。その子孫である少年は、コッヴ襲来の時より、 指をかざすと念力で物を自在に動かす事が出来る、という超能力に目覚めていた。 だがその能力は自害した魔頭が残した呪術によるものであり、根源破滅の力さえ利用して甦り、世界を我が物にしようとする魔頭は、 呪術の完成の為に協力しろ、と悪夢の世界で少年への誘惑を繰り返す……。
 「俺が力を貸せば、願いは何でもかなうってさ」
 ふとした縁で少年の能力・魔頭との関係を知った我夢が、利発だが妙にさばさばした少年の屈折と向かい合う、 というのは面白いアプローチだったのですが、80年代なら潮健児が演じていそうな怪人・魔頭鬼十朗と、 その変じた姿であるガンQ2代目の存在が今作ここまでのラインとあまりにも違いすぎて、「主人公と少年の対話」という主題を、 どうしてこの題材でやってしまったのか、と終始物語に入りづらかったです。
 例えばウクバール回だと、〔永田−庄司−吉田−我夢〕と問題の中心と我夢の間に二枚のクッションを挟んだ上で、 吉田のモノローグから始めて変化球を宣言した上で「大人の童話」を展開しているのですが、 今回は〔魔頭−少年−我夢〕という形で少年を軸に両サイドに魔頭と我夢を配置するという構造になっており、 片方で「少年と向き合う主人公」を描いているのに、片方がトンデモ呪術者なので、あまりにもバランスが悪くて物語が千鳥足。
 対比、という点では、“悪夢からの誘惑”である魔頭に対して“現実からの対話”である我夢を両サイドに置いている、 という見方は可能ですが、では我夢が“現実”のシンボライズとなる地に足の付いたキャラクターかといえば、 「地球の意思と交信している天才@マネージャー募集中」なので割合オカルト寄りの為(そして、 劇中における“出来上がった大人”という位置づけでもない)、全体の構造がどうもしっくり噛み合いません。
 これならいっそ、妙に浮き浮きと古文書をめくるコマンダーにスポットを当てて、 〔魔頭−少年−(瀬沼)−コマンダー−我夢〕という構造でコマンダー回にしてしまった方が、バランス良く収まったかな、と。
 先祖の呪いで超能力を得てしまった少年に対し、我夢がアルケミースターズに生まれた自分を投影して感情移入している節も窺えるのですが、 母が病死し父は仕事で忙しいという少年のやや寂しい家庭環境と、高山家のそれがオーバーラップするわけでもないですし、 我夢自身の掘り下げとしても、中途半端。
 つい超能力を使ってズルをしてしまう事を気に病む少年に対し、それでも積極的に悪い事に使っているわけではない少年の意志を讃えた我夢が、 “ギリギリまで頑張って”超能力だって打ち破る事ができる――仕組まれた運命だって覆す事ができる―― 事をPK戦を通して証明してみせるのは悪くなかっただけに、我夢自身の掘り下げと合わせて、 正攻法で扱って欲しかった主題。
 「我が子孫よ、この国が欲しくはないのか?! 我らが国を作るのだぁ!」
 悪夢からの誘惑が、戦国乱世に生きた魔頭にとって意味ある野望の一方、現代に生きる中学生への誘惑としてはゴールポストの遙か外、 というのも、両者の認識のズレとしてはリアリティがあるものの、誘惑の内容が効果を発揮していない為に、 少年が魔頭の誘いになびきかけたのは結局、毎夜の如く呼びかけてくる悪夢の面倒くささに負けただけ、に見えてしまい、 少年の背景や内面の描写と繋がっていかなかったのも大きくマイナス。
 その為、少年が強い意志を持って魔頭の誘惑を撥ね付け、ガイア逆転のきっかけとなる
 「僕の人生は、僕が決める! 誰にも指図はされない!」
 という声も、単独で飛び出してきただけになっていて効果激減。
 例えば、現実の家庭や進路において少年の抱えている問題が劇中で描かれていて、 それが魔頭の誘惑と重なっていたりすればこの叫びの効果も増し、 そういった形で道中で散りばめられてきた要素と有機的に連動してこそ劇的なクライマックスになるわけなのですが、 パーツパーツは面白い要素があったにも関わらず、それらが別々の方向を向いたままで糸で繋がっていかなかったのが、大変残念。
 「卑劣なぁぁぁ!! ――許さん!」
 という怒りの叫びから我夢が変身する、というのは今作としては珍しいパターンですが、同じ北浦監督による第23話でも、 稲森博士の死を受けて激情と共に変身しており、こういったヒロイックな変身のさせ方は北浦監督の好みでしょうか。
 変身直後に、ダッシュモードで滑るように走りながらガンQに蹴りを入れる、という変化球も、 第23話の降臨着地をスピーディな前後からの2カットで撮ったシーンと通じるものを感じます。
 少年の助けもあってガイアは魔頭ガンQを地球の隙間ビームで爆殺。超能力の消滅した少年は幼なじみとの日常に戻っていき、 それを羨ましそうに見送る我夢。
 「デートねぇ……僕もそんな相手が欲しいな」
 「あっそぉ。なら相手してあげましょう特別に」
 そこに現れた敦子にたかられる、というオチも、前半戦だったら多少ニヤニヤできたのですが、よりによって、 敦子さんのヒロイン力がワームホールの彼方に砕け散った次の回だけにほのぼの大団円シーンになってくれず、助けて梶尾さん!
 次回――「未来が変えられた!」とか予告ナレーションがトンデモ言っていて、ここ数話のアベレージからは、だいぶ不安(笑)

◆第32話「いつか見た未来」◆ (監督:北浦嗣巳 脚本:武上純希 特技監督:北浦嗣巳)
 「とうとう来たか」
 「ええ。そのようですね」
 「いつでも死ぬ覚悟は出来ています」
 積乱雲状のエネルギー帯の調査に向かった我夢とチーム・ファルコンだが、現場を見たファルコンが突如、 ろくな調査もしないまま内部へと突入。慌てて追いかけた我夢のEX機が、 内部に生息していた巨大な飛行怪獣に襲われた事からファルコンはEX機を援護して全機撤収するが、その空間の内と外では、 奇妙な時間のズレが確認される……そしてそれこそが、地球防衛任務の中で、 チーム・ファルコンが抱え続けてきた凄絶な秘密の正体なのであった――。
 「どうしていつも、死に場所を捜すような戦い方をするんです?」
 「我夢さん……あなたは運命を信じますか?」
 「運命?」
 「ええ。私にはわかるんです。死ぬべき時が近づいているんだと」
 モシカシテ、フレテハイケナイワダイダッタノカ。
 「――馬鹿みたい」
 我夢が米田の真意を問い質している所に通りすがったクロウ03・慧が口を挟み、まあ、端から見ていると米田リーダ−、 圧倒的に危ない人ですからね!
 第26話でのやり取りを引き合いに出し、命を安売りするような戦い方はしない、と約束した筈だと詰め寄る慧だが、米田の意志は固い。
 「嘘じゃない。……しかし、運命ってのは自分ではどうにもならない力の事なんだ」
 「人間は、死ぬ事を前提に行動してはいけない。そんなの間違ってます!」
 僅かに米田が目を逸らした時、何故かそこを通りすがる黒猫。
 「子供の頃、可愛がっていた黒猫に似ている。俺を迎えに来たのかもな」
 空間を凍らせた米田と、部下の二人はその場を足早に立ち去り、取り残されたクロウ03は我夢に、 気になって調べていた米田リーダーの飛行記録を見せる。それによると米田と部下の二人は防衛隊時代、訓練飛行中に通信が一時途絶。 実際に行方不明になっていた時間と、機器に計測された時間が1時間以上も違うという、不思議な時間のズレを経験していたのだった……。
 「我夢……米田リーダーに力を貸してあげて」
 元々チーム・クロウの中では最も台詞が多く、我夢やガイアにも好意的な反応を見せる事が多かったクロウ03にスポットが当たり、 第26話の絡みが活かされるのですが、遡れば初登場の第10話において梶尾リーダーとの厭味の応酬において
 「未知のターゲットを相手にしてるんです。命張ってね」
 「――安い命ですね。あたしは犬死にはしたくないです。勝つ為に飛ぶ」
 という言葉があり、それが踏まえられてもいるのだろうか、というのが今作の巧い所。……それにしても、 改めてこの回の梶尾リーダーは最低です(笑)
 「林……塚守……遂にこの時が来たな」
 「自分たちが、未来を救う事になるのなら」
 「無駄死にじゃありません」
 果たして、チームファルコンの3人は、“その時間”に何を見たのか? 3人は再び出現したエネルギー帯に突入してしまい、 後を追って出撃した我夢は、エネルギー帯の内部で時間の歪みをくぐり抜け、大地に叩きつけられ崩壊したエリアルベースの姿を目にする。 またそこには、化石のような屍と化した飛行怪獣、そして無惨に破壊されたチーム・ファルコンの六角ファイター3機も朽ち果てるように転がっていた。
 奇妙な空間の中で我夢は続けて、エリアルベースが飛行怪獣の強襲を受けて紅蓮の炎に包まれる瞬間、 飛行怪獣が倒される代わりにファルコンの3人が殉職する光景、という交錯する不確定な未来を目にする。そしてそれこそが、 かつてチーム・ファルコンの3人が訓練飛行中に見た、未来の姿であった――。
 「もし、俺達が自分の運命から逃げ出せば、未来は変わってしまう。俺達が死ぬ事で、みんなが救われるんだ」
 チーム・ファルコン3人の殉職と引き換えに飛行怪獣が倒され、エリアルベースが墜落を免れ乗員が生き残る未来――チーム・ファルコンの3人は、 その日の為に飛び続けていた事が明かされ、第14話で割と唐突に差し込まれた米田リーダーの死にたがり体質の真相に、約20話越しに到達。
 正直、第14話時点では、米田の言動があまりに突飛で物語に馴染まず、背景の挿入として興味を引くというよりは完全に 「いきなり何を言っているんだこの人は」になって頓珍漢な地平に突入してしまっていましたが、 第26話でのトスを活かしながらの解決編としては、相応に納得できる形に。
 しようと思えば退役する余裕は十分にあるけれど、そしたらエリアルベースが全滅してしまうのでそれを選ぶ事はできない、 という状況で飛び続けていれば、それは自分に酔いたくもなるわけで、なんという鬼畜設定。
 合わせて、これまでの描写では、死にたがりの米田リーダー(今となっては、 飛行怪獣の来襲までは死なないと判っていたからこその危険な任務への志願だったと意味が逆転するのですが)に、 巻き込まれて危険な任務へ出撃する事を何故か受け入れる形になっていたメンバー2人も、米田と同じ未来を見ていた、という形になり、 行動の説得力が増しました。
 後は3人とも、
 どーせ死ぬんだから、給料全部LD−BOXに注ぎ込むぞ! とか
 どーせ死ぬんだから、給料全部週末のレースに突っ込むぞ! とか
 どーせ死ぬんだから、ビデオメッセージを残しておくぞ! とか
 していなかった事を祈ります。
 チーム・ファルコンの壊滅/エリアルベースの全滅、 どちらの未来も回避しようとする我夢は交錯する未来空間のブリッジで戦闘データが残っていないかを調べるが、その時、 またも響く黒猫の鳴き声。
 それを見た我夢はファルコンの3人に「シュレディンガーの猫」の講義を始め、前半には怪獣の時空歪曲能力に関する推論シーンもあり、 武上さんはこういった“理屈っぽさ”とその説明シーンを『ガイア』の特徴としてかなり意識的に組み込んでいるようですが (第14話はやり過ぎてテンポが悪くなりましたが)、最近やや、理屈っぽいアプローチが薄れて筋肉に偏り気味だった事もあり、 量子力学と言えば、という素材も含め丁度いいアクセントになりました。
 「つまり、未来は一つじゃない。だから皆さんも、死ぬことはないんです」
 そこに飛行怪獣が襲来し、我夢は怪獣もまた、自分が滅ぼされる未来を書き換える為にチーム・ファルコンを別の時間軸で倒そうとしているのだ、と指摘。
 「どうすればいい……何が未来を変えるんだ?!」
 「――意志です」
 「意志?」
 「ええ。死のうとするか、前向きに生きようとするか。どの未来を選ぶかは、人間自身の意志なんです」
 予告時点ではどんなトンデモエピソードが来るかと身構えていたのですが、米田の不安になる言動とその秘密が明かされた時に、 そこに至る道筋を丁寧に整えた上で“運命を乗り越えるものは、人間の意志である”事を主人公が力強く告げる、 というのは作品全体のテーマとも繋がって、大変良いまとめ方でした。
 フォーメーションを組んで飛行怪獣に立ち向かう4人だが、次元跳躍を駆使する怪獣にはレーザー攻撃が通用せず、苦戦。 不確定な未来における自機の残骸にヒントを得た米田は、エリアルベースを救う為、やむなく特攻を決意する。
 「駄目だ。米田リーダー! 死んじゃ駄目だー!!」
 「やはり、未来は変えられなかったか」
 「信じて下さい、米田リーダー」
 米田機の特攻寸前、我夢が変身して間に入るが、怪獣の次元跳躍はガイアの光線さえ回避し、後頭部に火球を浴びたガイアは墜落。
 早々と地上戦に移行してしまいましたが、ここまであまり居なかった本格的な飛行型怪獣とのバトルは、シルエットの違いが新鮮で、 画が秀逸。
 怪獣の次元跳躍に翻弄され危機に陥るガイアだが、チーム・ファルコンの援護攻撃が触角を破壊し、その隙にアグトルニック。 肉弾戦で猛攻を仕掛け、大腿四頭筋キックからの大円筋スローを決めると、トドメは新必殺技のマッスルブーメランで、 飛行怪獣を頭から木っ葉微塵に打ち砕くのであった。
 チーム・ファルコンと我夢はエリアルベースに無事帰還し、運命の14:00――虚空に陽炎のごとく浮かび上がったエネルギー帯と飛行怪獣の姿は、 エリアルベースの強襲目前に消滅し、ここに未来は書き換えられたのだった。
 「俺達は、未来を勝ち取ったのか」
 「ええ。決められた未来なんて、ある筈がない」
 今回良かったのは、チーム・ファルコンが目にして受け入れてきた未来に立ち向かおうとする姿が、 破滅の予言に抗おうとする人類の姿に重ねられ、単体エピソードのテーマが、そのまま『ガイア』全体のテーマと繋がっているところ。
 そして米田リーダーに対する我夢の言葉は、姿を消した藤宮へのメッセージにもなっていて、米田リーダーの伏線を回収しつつ、 今作全体の構造を補強する形になりました(そういう話の構造が、個人的に好み)。
 ただ、我夢→米田が、我夢→藤宮を投影させすぎた事で、後半に行くにつれてクロウ03の存在感が薄れてしまい、 折角ここまでの蓄積を踏まえてスポットを当てたのだから、もう少しクロウ03のパーソナルな部分を引き出しても良かったかな、 という点は勿体なかったところ。チーム・クロウの他のメンバーも、クロウ03の単独出撃を止めるだけの係、になってしまい、ここで、 他チームから見た米田リーダー(チーム・ファルコン)の姿が補強されれば、より良かったのですが。
 思わせぶりに姿を見せていた黒猫は、ジョジーの飼い猫だった?というオチで、つづく。
 次回――我夢のマネージャー、カナダで発見?!

◆第33話「伝説との闘い」◆ (監督:村石宏實 脚本:長谷川圭一 特技監督:村石宏實)
 見所は、
 我夢、はじめての手榴弾。
 バズーカ砲も出てくるし、MAY DAY MAY DAY,SOS!
 ガード:アメリカ支部が開発した自然循環補助システム・エントの視察の為、カナダへと飛んだ我夢とジョジーだが、 森で姿の見えない怪獣と遭遇。僕のバック転を見せてやる、と囮を買って出た我夢だが怪獣の浴びせかける突風を受けて崖下へ転落、 ガイアとアグルの力により辛くも一命を取り留めるが、黒のレザースーツに身を包んだ女性―― エントの開発者でありアルケミースターズの一員でもあるキャサリン・ライアンと出会い、森の魔物退治に巻き込まれる事に……。
 「やっぱり君はあの怪獣を憎んで」
 「科学は自然の中で人が生きる為に与えられた素晴らしい力よ。それを伝説なんかに、否定させやしない」
 アルケミースターズとしての知性を持って、科学という手段で人々の暮らしを向上させたい、と考えるゲストキャラを中心に、 “文明と自然の衝突”テーゼが真っ向から展開。
 エピソードとしては、巨大なライフルを操り、ジープを囮に怪獣の爆殺を試み、 それでも無理なら怪獣目がけてバズーカをぶっ放すキャサリンと、それに振り回される我夢を面白がれるかどうか、 がポイントなのですが、せっかく我夢&ジョジーという珍しい組み合わせをエリアルベースから離して行動させるのだから、 ゲストキャラよりもむしろ、地元(どこでも設定できる話なので)でジョジーが大暴れする話、を見たかったというのが正直。
 希少なシチュエーションがこれといってキャラや関係性の掘り下げに繋がらず、ジョジーが通訳係にしかならなかったのは、 大変残念でした。
 また、ゲストキャラの口を通して繰り返しテーゼが語られる一方、その心境の変化に我夢が及ぼす影響も少ない為、 エピソード内における主人公のウェイトが軽く、悪い意味でゲストに語らせるだけのエピソードになってしまったのも短所 (映像的にはそれを、派手なアクションでフォローしているのですが、基本が軍隊なので、ぶっ飛び感も弱め)。
 「……怒りや憎しみで戦うんじゃない! ……ただ……守りたいだけだ。……ガイアーーーーー!!」
 そしてこれまで幾度か、地球産の怪獣に対しては説得の模索をしてきた我夢が、言い訳をしつつも、 人間にも非があるというエピソードの中で怪獣を容赦なく地球の隙間ビームで爆殺しようとするのも腰が据わっていない感じとなり、 一部怪獣への我夢の対応のふらつきも、悪い形で出てしまいました。
 ――「人間もこの森と同じ。自然の一部なのよ」
 ――「私たちは、その素晴らしさを知る為に科学者になったんだ」
 怪獣の子供の姿に、亡き両親の言葉を思い出したキャサリンがガイアを止める、というのは軟着陸としては納得できる範囲ですが、 伏線ゼロの子供怪獣を出さないと着地させられなかった、というのも定番かつ難解なテーゼに対する、仕込みの甘さを感じます。
 「人と自然を生かす為、その両方をもっと理解する努力が必要ね」
 エントにプログラムの欠陥が見つかり、怪獣シャザックは森の守護者としてそれを教えてくれたのかもしれない……とキャサリンが考えを改め、 やはりここに、主人公が積極的に関与しないというのは、ゲストキャラ中心のエピソードとしては、 単純に不出来。我夢/ガイアが舞台装置にしかなっておらず、登場人物の心の動きにほとんど関われない、故に勿論、 我夢の側にもフィードバックが発生しえない、というのは面白みを欠いてしまいました。
 ……徹頭徹尾、アルケミースターズ(交感者)であるキャサリンと、超越存在としての怪獣シャザック(擬似的なガイア) との対話を通して、視聴者に向けて問題提起をするエピソードと見れば成立しているといえますが、だとすればそれは、 個人的な好みから外れた作りだったのが残念。
 「きっと答は見つかるさ。地球はまだ、僕たちを見放したわけじゃないんだから」
 というラストの我夢の台詞は、『ガイア』全体を貫く背骨と繋がって、良かったのですが。
 次回――「プロレスラー橋本真也も出るぞ!」とナレーションさんが告げ、筋肉です。

◆第34話「魂の激突!」◆ (監督:村石宏實 脚本:川上英幸(原案:笈田雅人) 特技監督:村石宏實)
 「しばらく、山にでもこもって、一から根性たたき直せ!」
 チーム・ハーキュリーズ桑原の従兄弟、マンモス大剛(桑原役の中村浩二さんによる二役)は、 仕事を辞め勘当を受け恋人に去られながらも、夢であったプロレスラーとしてトレーニングを続けていたが、 師事する破壊王・橋本真也(本人出演)から不甲斐ない戦いぶりに叱責を受け、夢と現実のギャップに苦しんでいた。
 一方、街では以前出現したウルフガスに酷似した狼男の怪物が出現し、またも襲われる「らくだ便」の清水。
 「ウクバールは、どっかにあるんだ。だって、俺の故郷なんだから」
 失意のマンモス大剛はウクバールを求めて街を彷徨うが、その前にウクバールの守護者ルクーが姿を見せ……じゃなかった、 律儀にリアル山ごもりし、丸太やサンドバッグと戦っていたマンモスも狼怪物に襲われ、狼怪物の背後に暗躍する謎の光球により、 小型の機械装置を取り付けられてしまう……。
 プロレスラーの格闘シーンから始まり、前回の雪辱とばかりむしろ意気揚々と狼怪物に挑んでブルース・リーのパロディみたいな仕草も見せる清水、 それを助けてこれも生身で狼怪物に躍りかかる桑原の生アクション、とウクバール回や魔頭回とはまた違った、 ある面ではこれまでで最もスタイルを変えた、左アンダースローによる変化球の連投でスタート。
 脚本原案としてクレジットでは通常〔企画〕に名を連ねる笈田雅人、脚本は今作における便利屋ポジション的なところのある川上英幸と、 プロレスラー・橋本真也本人出演によるある種の企画回と思われ、それに合わせて生アクション中心に揃えたという演出の意識はわかるのですが、 いきなり怪物に躍りかかる桑原が完全に東映ヒーローノリで、『ガイア』としては正直困惑します。
 ゲストの魅力を如何に引き出すのかが主眼で、シリーズとしての整合性は二の次のエピソードではあったのでしょうが、 基本的に巨大怪獣(人類に対する災厄としての破滅招来体)と戦っているXIGが、それこそウルフガスという前例はあるにしても、 人間大の狼男に対してさしたる驚きも逡巡もなく「倒すべき怪物」と認識して平然と受け入れてしまうという点への違和感は、 どうしてもぬぐえませんでした。
 完全に無力な一般市民を咄嗟に助けるといった流れならまだ説得力も生じたのですが、嬉々として雪辱戦を挑む清水、 というサービスが心理的誘導としては完全に悪い方向に転がってしまい、 あの怪物は何者なのか――ざくざく撃ち殺していい存在なのか――を検証するというワンクッションは欲しかったです。
 ……それはそれとして、祝・梶尾さん、人間大の標的に射撃を命中させる。
 伊達に後期OPで、腰をクイッと入れていなかった!(我夢のバック転と梶尾チームの登場シーンは、何度見ても笑ってしまいます)
 狼怪物を倒した後に現場に残される機械装置を我夢が解析し、それが取り付けた生物の身体能力をフルに発揮させると共に、 その性質を凶暴化させる事が判明。瀬沼の調査によると20代〜30代の体格の良い男性が次々と通り魔怪物の被害に遭っており、 謎の存在は人類を新たな実験材料に選んだのでは、という推論が導き出される。
 その頃、機械装置を取り付けられたマンモスは橋本に戦いを挑んでおり、 放射される電磁波をキャッチして現場へと駆けつける我夢と瀬沼。リングに上がろうとした我夢は止められ、 仕方がないのでリングの外から装置の効果を橋本に説明する事になり、本来なら、 主人公が壁を乗り越えて状況を変える事で劇的なダイナミズムが生まれる流れなのですが、 ロープ3本に阻まれてしまう事で躍動感が失われて間の抜けたテンポでシーンとシーンが分断されてしまい、 橋本真也(新日本プロレス)との絡みありきという事情はわかりますが、構成にもう一工夫出来なかったのか、 とは思ってしまうところ(演出の立場も辛い)。
 強化マンモスに防戦一方だった橋本は、それを聞くと怒濤の反撃でマンモスを押さえ込み、合図を受けてリングに飛び込んだ我夢、 素手で装置をねじって外す(笑)
 ロープを飛び越えてリングに上がる我夢の姿は格好良く、ああホント、役者さんは運動神経いいのだな……というのが裏打ちされますが、 我夢的にはそれでいいのだろうか、というのも若干。……いやここで、不器用にロープの間をくぐったら、大変間抜けではありますが。
 「肉体……そして精神。己の持つ全てのものを鍛え上げ、俺達レスラーは、リングに上がる。力と力、魂と魂をぶつけ合う。 自分自身を鍛え上げた者同士が、ぶつかり合うから、人の心を動かす事ができる。魂の、激突だ!」
 マンモスが狼怪物に襲われてた現場を調査していた瀬沼は、光球の本体である宇宙船を発見。一方、橋本とマンモスは狼怪物に襲われ、 屈せず戦う橋本の姿に勇気を奮い起こしたマンモスは、橋本の言う強さに少しずつ近づいていく。
 姿を露わにした宇宙船は生き残りのウルフファイヤーを巨大化し、我夢変身。
 心のマグマが目覚めたら 大地と共に立ち上がるぜ 愛する人を守りたい 単純にそれだけさ
 挿入歌でバトルになるのですが……駄目だ、これ、もう、梶尾さんのテーマにしか聞こえない(笑)
 宇宙船と狼の挟撃に追い込まれたガイアは、チーム・ファルコンの援護を受けるとアグルの俺格好いいソードもとい光の剣を抜き、 意外性に夜戦映えも加わって格好良かった今回の見せ場。
 光の剣の高速回転で狼の火炎放射を防いだガイアは改めてアグトルニックから地球の隙間ビームで爆殺し…… 今作が中盤からちょっと難しくなっている部分として、この狼怪物、 なんだか純然たる被害者な気がする上に以前のウルフガスの時は宇宙に帰していたのにな……という点がどうしても脳裏をよぎってしまうのですが、 前回今回と、ゲスト中心のあおりで、“ガイア/我夢の怪獣への対応”を掘り進める事が出来ずにおざなりにしてしまったのは、残念でした。
 謎のUFOも、明らかにこれまでとは違うアプローチの存在なのに特に言及なく撃墜して終了してしまい、 エピソードと怪獣ポジションの相性が悪いのを、そのまま押し切ろうとしてしまったのもマイナス。
 私、プロレスに対する思い入れが全くない人間なので、そこの有無でも印象はだいぶ変わってくるでしょうが (ゲストの橋本さん自身は割と違和感なく物語に溶け込んでおり、悪くなかったのですが)、前回に続き、もう少し、 『ガイア』全体との連動性に配慮が欲しい内容でした(そこが今作の強みなので)。
 かくして新生ストロング大剛の熱いファイトは四角いジャングルを沸かせ……るのかと思いきや練習試合でまたも敗北するが、 確かな成長を見せるそのファイトは、レスラー一同から讃えられるのであった。
 「魂をぶつけ続けろ。そうすれば、いつかは本物になれる。本物になれば、強さは後からついてくる!」
 「はい!」
 「魂の激突か……。桑原さん、僕たちもトレーニングルームに行きましょうか」
 「えぇ? これからか?」
 「自分自身を鍛えて、強くなる。ガイアだってそんな僕を望んでいる、きっと」
 桑原&ジョジーと観戦していた我夢はその戦いに刺激を受け、更なる筋肉の育成を誓うのであった!
 筋肉は光だ!
 ヒーロー的には、心身のバランスは勿論、それをコントロールする魂を磨き上げる事が重要だ、 と頭だけでも力だけでもないヒーロー像への邁進が、メッセージにもなりつつガイア的な理想像として頷けるのですが、 なにぶんこれまでの物語の流れが流れだけに、ラストの我夢の姿が、 脳細胞がダンベル運動だぜ!に見えて口元に乾いた笑いが浮かびます。
 我夢よ、ちょっと落ち着いて、ジョジーをランチに誘うぐらいしてからエリアルベースに戻っても、地球は怒らないと思う。
 前回、ベースからロケに連れ出しておいてあの扱いはあんまりだと思ったのか、序盤とラストで、私服ジョジーが登場。まあ、 誰でもいい上に、居ても居なくても話に影響しないポジションではあったのですが、前回本当にあんまりな扱いだったので、 蔑ろにする気はない、という意思表示としては良かったと思います。一方で、ここで特にチョイスされない敦子のヒロイン力の低さに、 全インドが泣いた。
 次回――潜伏期間中にまさかの敦子姉に真ヒロインの座を持っていかれかけて危機感募る玲子さんが久々の登場。 まだまだ続くバラエティエピソードのターンで、明後日に大暴投か、意外と面白いパターンか、 蓋を開けてみないとわからないといった感じの予告ですが……これ、東映ヒーローだったらほぼ確実に、 連戦連敗を重ねた悪の組織が方向性を見失って迷走しているタームなので、今後の展開がどうなるのか色々とドキドキします(笑)
 がんばれ根源的破滅招来体! いざとなったら、敵か味方か謎めいた仮面の男、マスク・ド・フジミヤ(趣味:ストーキングと筋トレ)を投入だ!

◆第35話「怪獣の身代金」◆ (監督:市野龍一 脚本:太田愛 特技監督:佐川和夫)
 か、梶尾さんが、敦子に、自分から話しかけた?!
 という驚愕の第35話。
 ナレーション「――その日、一機のGUARD輸送機が、南極の氷の下の湖で発見された、古代怪獣アルゴナの卵を載せて、 一路日本へと向かっていた」
 ところが輸送中、卵からしたたり落ちた酸性の液体が輸送機のハッチを溶かし、バランスを崩した輸送機は墜落してしまう。
 ナレーション「――その頃、全く無関係な古田鉄工所では、社長は昼寝、工員の幸男と武は元気に暇を潰していた」
 そこへ落下してきたアルゴナの卵がバスケットボールのゴールにすっぽりとはまり、 当初はダチョウの卵だと勘違いしていた社長&工員ズ&診断した街医者だが、ニュースでそれが怪獣の卵だと知ると、 傾き加減の工場を建て直す為、卵を利用してGUARDから身代金をいただこう、というとんでもない計画を閃いてしまう。
 近作にも参加している市野監督が今作初参戦で、これまでになくコミカルな演出。間の抜けた古田鉄工所の面々に加え、 レギュラーメンバーにもかなり崩しを入れてくるのですが、“ギャグでXIGとして問題のある行動を取ってしまう”という一線は踏み越えない事により、 たまにはこういうアプローチもありか、と許容できる範囲。
 戦闘シーンは特撮班の佐川監督というのもあったでしょうが、戦闘はコミカルにせずむしろ真剣勝負、 というのも全体のバランスとして良い判断だったと思います。
 フルタマン、じゃなかった、フルータ星人を名乗った鉄工所トリオ&藪医者はGUARD…… の連絡先を知らなかったのでKCBに脅迫状を送りつけ、事態に困惑するXIG上層部は、極地生物学の世界的権威・京極博士と共に、 我夢と志摩を担当者としてKCBへ送り込む。
 この辺り、ウクバール回に続いて太田脚本が、異星人が居てもおかしくはないが確認はされていない『ガイア』世界の隙間を巧く突いています。
 脅迫状と共に届けられた写真とテープから、アルゴナの卵が孵化しようとしている事が確認され、 更にそこへかかってきた脅迫電話の要求が「金の延べ棒」であった事から、 フルータ星人は精密機械の部品として貴金属を入手しようとしているのではないか、と勘違いが加速。 テープを分析した我夢は卵が特殊な高周波を出している事を突き止めてEX機で現場を目指すが、 鉄工所では暖めた卵が急速に巨大化していた。
 「どうしよう社長!」
 「逃げよう」
 「ちょちょちょっと待って! あの卵かえったらどうなるんです?」
 「怪獣が出てくるんだよ。 みんな逃げるに決まってるじゃないか」
 「……あ! 駄目だ!」
 「どうした先生」
 「煙草屋のおハル婆ちゃんが、昨日足くじいて、病院に、来てた」
 ぼんくらカルテットは一斉に足を止めて考え込み、目先の金銭の為に怪獣の卵を利用しようとする浅はかな欲望と、 身近な人間への思いやりがごく自然に同居しているという人間の矛盾が、プラスの愛嬌になるのが絶妙のタイミング。
 これが無いと、幾らコミカルに描いても4人組がどうしようもないクズ(厳密には、バカ、でありましょうが) でしか無くなってしまう為、エピソード全体のイメージも違ってくるポイントであり、今回の白眉。
 ぼんくらカルテットは卵をトラックに乗せると、とにかく人の居ない場所へと山奥まで運んでいき、 それを追いかけるKCBと志摩&京極(ここで根源破滅教団に道を塞がれるという小ネタがおいしい)。
 なんとか山奥に投棄される卵だが割と凶悪な風貌の怪獣が誕生してしまい、ギャグ調のエピソードながら、 あくまで怪獣を見るからに“脅威”として描いてくれたのも、作品世界における一定のラインを踏み外さないでくれて良かったです。 志摩さんがいざという時の陸戦要員として重火器で立ち向かう真っ当な見せ場が描かれ、そこに我夢機も駆けつけて怪獣を攻撃。
 「今のうちに早く。アルゴナは僕に任せて」
 「おまえじゃ頼りないな」
 「……梶尾さん!」
 ぴっぴろりろりーん♪
 だが調子に乗っていた梶尾機は怪獣にむんずと掴まれて絶体絶命の危機に陥り、ヒロイン(あれ?)の危機に変身するガイア、 派手にどすーん着地。
 ブラックキング系の二足怪獣が口から放つ熱線を地球の隙間シールドで防いだガイアは、シールドを前に押し出して熱線を受け止めつつ、 その上をジャンプで超えて飛び蹴りを浴びせる、という変則的なアクションを披露。 京極博士の「アルゴナを南極の氷の下で眠らせてほしい」という言葉を受け止めてアグトルニックすると挿入歌をバックに怪獣を千切っては投げ千切っては投げダメージを与え、 怒濤の超回転上段蹴りからマッスルコーティングで行動不能に陥らせ、南極へと運んでいくのであった。
 それを見送って歓声をあげるぼんくらカルテット……の前に銃を構えて仁王立ちする志摩。
 「ちょっと待てぇ! 今更人間のふりしても駄目だ! フルータ星人!」
 ギガストリーマーが火を吹きかけたその時、田端と倫文が志摩に4人の正体を説明し、 「何を考えとるんだおまえらぁぁぁ!!」という志摩の絶叫で、オチ。
 ラストは一応ギャグで濁しているのですが、卵を山奥に運んだ事で情状酌量の可能性を残すとはいえ、 現実に怪獣が脅威として存在するこの世界観においては、4人組の行動は弁解の余地なく実刑判決が下されそうな気がしてなりません。
 結末の後に漂うシビアな香りも含めて、ゲストキャラの立ち位置、ゲストの間の抜けた(彼らなりに筋の通った) 対応が事態を思わぬ方向へ発展させていく、という流れには、 90年代《メタルヒーロー》で筆を振るった天才・扇澤延男のテイストをファンとして想起せずにはいられないエピソードでしたが、 全盛期の扇澤さんだと多分、序盤からの仕込みをフルに活かして4人組にも相応に納得できる始末をつけた上でいい話にしてオとす、 までやりそうで怖い(一方、完全にコメディ要素が滑ったままどうしようもない感じで終わってしまう場合もあるのが扇澤脚本ですが)。
 ナレーション使用によるアクセントを始め、今作における変化球担当を自認して味付けの違うシナリオを投入しているのが窺える太田さんですが、 踏み外しすぎないコメディ回として、面白かったです。初参戦の市野監督も、巧くギリギリのラインを読んでくれました。
 唯一、これは納得できない……という部分があるとしたら、冒頭にも触れましたが、「牛の報せ」に関してツッコむ梶尾さんが、 自分から敦子に話しかけた事でしょうか(真顔)。
 ところで、梶尾さんのテーマもといバトル中の挿入歌「ガイアノチカラ」の合いの手、
 誰かの為に 自分の為に 命の限り 生きる時 こみあげてくる力 (そいや!)
 と聞こえてならないのは私だけでしょうか。
 多分(ガイア!)だとは思いつつ、いつ聞いても、(そいや!)。
 次回――おお、遂に! 予告を見る限り、残念ながら記憶を失ったり被り物を身につけたり風来坊に目覚めたりはしていないようですが、 藤宮博也・帰還!

◆第36話「再会の空」◆ (監督:市野龍一 脚本:吉田伸 特技監督:佐川和夫)
 おおよそ1クールぶりとなる吉田伸は、アグル誕生回と稲森博士死亡回も担当しており、藤宮×稲森担当なのでしょうか。
 10話ぶりに復活した藤宮は、ノルウェー領セイリア島の洞窟で謎めいた壁画を見つめる―― それはまるでDNA二重螺旋のごとき赤と青の光のうねりと、虚空から出現する巨大な破滅ヘッダーの描かれた、 ガイアとアグルの激突を予言したかのような内容であった。
 (稲森博士……俺は全てを失った。なのにまだ奴らは生き残っている。アグルの力は――戻ってはこない。 もう……地球は……俺に語りかけてはくれなかった。だが、人として、俺にもまだやれる事がある。そうだろう?)
 亡き稲森博士の墓に告げる藤宮の決意に回想シーンが重なり、アグル誕生の思い出かと思ったのですが…… 台詞の内容からするともしかして、もう一度プールに飛び込んだのか、藤宮(藤宮ならやりそう)。
 たとえアグルの力が無くとも、俺にはこの鍛え上げた筋肉がある! とテロ活動を再開した藤宮はガードに侵入してデータに手を加え…… KCBではいつのもの調子を取り戻しつつあった玲子が、深刻そうな表情の田端から、ガードの新兵器、 対空間レーザーシステムのデータを書き換えようとした不審者について教えられる。
 「玲子……おまえの知っている男に似ていたそうだ」
 「藤宮が?!」
 エリアルベースからは我夢が藤宮の捜索任務に志願し、逆にそれを見つめる藤宮の機体にアクセスしてきたのは……なんと稲森博士。
 「私は大いなる力で甦った。その力を挑発する、愚かな男」
 「あなたは、破滅招来体に……」
 破滅招来体に取り込まれた稲森は、かつての藤宮の鏡写しとして人類の地上からの排除を語って藤宮に迫り、 苦悩しながらも藤宮はプロテクトを起動して稲森ゴーストを排除する。
 「だが、俺は一つだけ感謝しています。博士の崇拝する力は、俺に大切な事を思い出させてくれた。俺は、 アグルである前に――ただの人間だったんです」
 破滅の未来を回避する手段として人類の排除を選択し、 それを成し遂げる為に精神的に人間である事を捨て地球と同化しようとしていた藤宮が復活するに際して、 「人間である自分」を前提とする、という部分を抑えてくれたのは大変良かったです。
 そしてあくまでも「(稲森)博士」という呼び方から垣間見える、非対称の距離感が切ない。
 藤宮へ対するたっぷりの未練と執着を漂わせながら、稲森ゴーストは粒が拡散するようにして消滅し…… 地上では我夢が瀬沼と接触していた。
 姿を消していた間の藤宮は、諸々の特許権などで築いた財産で世界各地に作っていた トレーニングジム 隠れ家を転々としていた事が明かされ、失意の爆死(生死不明)、 みたいに描かれた割には被り物も記憶喪失も正義のシンボルも無しにさらりと普通に生き延びていた藤宮ですが、 最後は金が物を言うんだよ我夢ぅ……!
 じゃなかった、我夢にアグルの力を託した後に爆発したので普通に生きていた事にするしかなく、つまり、 鍛え上げた筋肉は破滅の運命も乗り越えるんだよ我夢ぅ……!
 ハイエナのように後を追ってくるKCBの面々と敢えて合流した我夢は、玲子さんを連れていく……のかと思ったら 「僕が会ってきます」宣言して隠れ家へと乗り込んでいき、なんか酷いぞ我夢!  田端と倫文が瀬沼さんを食い止めている間に玲子はその後を追いかけ、二人は隠れ家の奥で筋トレしながら待機していた藤宮と、 再会を果たす。
 「我夢、フウッ! 俺の、はっ、せいで沢山の人が、ふっ、傷ついた。ふはっ、俺は心のどこかで、はっ、自分の力にマッスルボーイ!  溺れていた伸ばして縮めて。俺は、その償いを伸ばして縮めてしなければならないフウっ!」
 ……すみません、やり直します。
 田端と倫文が瀬沼さんを食い止めている間に玲子はその後を追いかけ、二人は隠れ家の奥で背を向けながら待機していた藤宮と、 再会を果たす。
 「我夢、俺のせいで沢山の人が傷ついた。俺は心のどこかで自分の力に溺れていた。俺は、その償いをしなければならない」
 「僕が君の立場だったら、同じ事をしたと思う」
 この隠れ家に、ホームジムが用意していなくて、本当に良かった……!
 「違うんだよ。思うのと、実際にしてしまう事は」
 「そんな事で誰も貴方を責めない!」
 「たとえ君達が許しても…………俺に構うな!」
 藤宮の持つ「罪の自覚」と、我夢と玲子が与えようとする「許し」の要素が持ち出され、 破滅存在の差し金だったとエクスキューズが与えられたとはいえ藤宮のやらかしはかなり規模が大きいので、 どう落とし前をつけてくるのかは、注目です。玲子さんの「誰も貴方を責めない!」は幾らなんでも藤宮に肩入れしすぎで、 しかしそれを言えるのが、玲子さんの立ち位置の意味ではありますが。
 「貴方が変わらなきゃ……出会った意味なんて、何もないもの」
 「出会いは偶然かもしれない。……でも、出会った事には、きっと意味があるって」
 「……出会った事に、意味が……」
 「そうでなきゃ、何も変えられないもの」
 第24話の言葉を拾い説得モードに入る玲子だが、そこへ瀬沼が追いついてきて藤宮の身柄を確保しようとし、 忠実に任務をこなす汚れ役、という瀬沼さんのポジションはお気に入り。
 だが藤宮は、こんな事もあろうかと装備していた腰マイトを見せつけ、3人を退かせる。
 「我夢、今度会った時は手加減をするな。でなければおまえが怪我をするぞ」
 「本気なのか? 君は僕たちとまだ戦うつもりなのか?」
 結局、ろくに情報を与えないまま我夢の前を去った藤宮は、フェニックス(フェニックス……!) と名付けた飛行メカから対空間レーザーシステムの制御システムを筋トレハッキングし、その照準が合わされたのは――エリアルベース!
 地上をピンポイントで狙撃できる衛星攻撃兵器とか、なんてもの作っているんだガード、というエリアルベース3度目の墜落危機に、 我夢はガイアに変身。宇宙空間でうにょんバスターを放って衛星兵器のレーザーを相殺しようとするが、それこそが藤宮の狙いであった。
 「再び、あの扉を開けるんだ!」
 藤宮がレーザーの出力を上げると、うにょんバスターとの衝突により光の柱が発生し、巨大ワームホールが再び開く。
 「さらばだ、我夢!」
 藤宮はその中に、フェニックス(フェニックス……!)で突入しようとするが、その寸前、 ワームホールから出現した怪獣に行く手を阻まれてしまい、やむなく怪獣を巻き込む形で自爆。 なんとか藤宮を救出したガイアは地上へと降り立つが、結果的に藤宮が呼び込んでしまった怪獣もまた、地上へと飛来する。
 岩盤返しから土遁の術、そして分身から爆発手裏剣、とガイアに猛攻を書ける怪獣は、 今作では珍しくエピソード内容と関係の浅い純然たる障害物なのですが、強引にこじつけるなら、ワームホールの御庭番、なので、 宇宙忍獣、という事なのでしょうか。
 更に大変珍しくナレーションさんまでガイアのピンチを煽り、己の筋力不足に歯がみする藤宮だが、地上から分身の本体に気付くと、 こんな事もあろうかと身につけていた腰マイトを投げつける事で、分身の排除に成功。
 怒りのガイアはアグトルニックすると、破壊王仕込みの強烈なソバットからネックブリーカー・ドロップ! 豪華な巴投げ!  大外刈り! そしてアックスボンバー! を次々と撃ち込んで忍者怪獣を繰り返し地面に叩きつけ、 今日も元気に凶器は地球だ!
 トドメは急降下腓骨筋キックで頭から吹き飛ばし、完全抹殺。
 「……エネルギー分析では、完璧に再現できた筈だった」
 藤宮はそろそろ、自分の詰めの甘さを自覚した方がいいのではないか。
 「どうして! 俺を助けた?!」
 「甘ったれるな藤宮! そんな償い方なんて、誰も求めていない! 君を心配してる人はちゃんと居るのに、 どうしてそれをわかってやらないんだ」
 自己犠牲による贖罪をキッパリと否定した我夢が他者の心情に寄り添うところまで見せて約3クール分の成長が窺えるのが良いところですが、 鏡像である藤宮との対比により我夢の積み重ねてきた「変化」が浮き彫りになる事で、 それが藤宮博也に「変化」を促す構造になっているのが、巧い。
 果たして藤宮は、「人間」として、“変わる”事が出来るのか――
 「もう僕たちの間に、戦う理由なんて何もないんだよ」
 傷つきながらも手を取り合う事なく去って行く藤宮の背を、我夢は見送るのであった……。
 満を持して藤宮が再登場するも暗躍するだけして再び去って行く……という藤宮の基本パターンの踏襲に留まり(意図的かもですが)、 今回単体で見ると、藤宮の罪の意識を丁寧に追いかけている一方で、大山鳴動すれどパターンに陥ってしまっているのが、 振りかぶりの大きさの割には、物足りなく感じてしまう内容。
 特に藤宮の抱える罪の意識を念押しする為とはいえ、化けて出た挙げ句に泡のように溶けて消え去るだけだった稲森博士の扱いがあんまりでは……と思っていたら、 次回、黒いドレスで続けて登場! 今回はあくまでジャブ扱いならば、アベレージ高めのメザード登場回(長谷川脚本?)、 KCBにスポット、怨霊と化していく稲森博士、女の戦い勃発?! アグル再び、と要素としては大変面白そうで、期待大。
 後は、ハムスターが復活すれば完璧。

→〔その7へ続く〕

(2022年4月10日)

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