ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『ウルトラマンガイア』 感想の、まとめ5(25話〜30話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。
- ◆第25話「明日なき対決」◆ (監督:村石宏實 脚本:右田昌万 特技監督:村石宏實)
- アリゾナ?の砂漠をさまよう我夢は、砂に埋もれた巨大なガイアの姿を目にする……ところで跳ね起き、立派な住所不定無職として、 友人の家に世話になっている事が判明。友人に教えられて天体望遠鏡を覗き込んだ我夢は、前回伏線のあった星空の異常に気付き、 一方エリアルベース上層部は、甦らせた怪獣を何故か自ら葬り去った青いウルトラマンの意図に困惑していた。
「いったい何を考えてるんだ?」
じょ、女子アナの事ですかね……。
そこへ「石の翼」回に登場した参謀の甥っ子から、「夜空の恒星の配列が滅茶苦茶になっている」と連絡が入り、 過去のゲストを天体観測を再開している事を含めて拾ってくれたのは嬉しかったのですが、 民間人からの直接電話が通じるエリアルベースの通信セキュリティはとことんザル。
その頃、玲子さん(24歳と判明)の拉致犯として全国ニュースに素顔でデビューした藤宮は、 その玲子と行動を共にしており…………えーつまり……前回EDパートで玲子さんの横を無言で格好つけて通り過ぎた直後、 疲労困憊でひっくり返って動けなくなったところを玲子さんに拾われたという可能性が高く、 大変、藤宮です。
休息を取ろうと入った街道沿いのうらぶれたバーでガラの悪い男達に絡まれた藤宮は、パンチ一発で一人をのした直後、 背後から他の男に不意打ちを受けて倒れた所をよってたかって袋だたきにされ、弱っているとはいえ、 大変、藤宮です。
「人間は汚い……! 人間は醜い……! 人間なんて……人間なんて……みんな地球から吐きだしてやる!」
路上に叩き出された藤宮は人間への憎しみゲージをぎゅおーんと高め、高度な思想犯である藤宮の行動理由をわかりやすく見せる為に、 露骨なチンピラに不条理に痛めつけられるという状況を持ち込んだのかと思われますが、マクロな視点で物を見(ようとし) ている藤宮の行動と、袋だたきにあったミクロな憤りとは、重ね合わせが少しズレた感。
主語を大きくして物事を捉える、というのは藤宮らしくはありますし、揺れ惑う自らにそうやって「人間はゴミだ」 と言い聞かせようとしている、とも取れはしますが。
「ダニエル……僕は夢を見たよ」
「夢を?」
「最高に効率的な筋トレで夏の海の視」
「でもあれは、夢なんかじゃない。僕は地球の未来を垣間見たんだ」
「……どんな未来だ?」
「変えなくてはいけない未来。このままでは地球は……その為にも、藤宮を放っておけないんだ」
ダニエルくんを通して天体の異常に関する推論をXIGに伝えた我夢は、 リザードのネットワークを藤宮直伝筋トレハッキングするとその情報を元に藤宮を追い、 我夢がXIGとしての使命感を失っていない事を確認したコマンダーは、敢えてそれを放置する。
――翌日、車の中で目覚めた藤宮は、アグルのエネルギーが回復している事を確認。
「人間は地球のばい菌だ……ばい菌は殺菌しなきゃ。地球は破滅する」
その物言いに、思わず吹き出す玲子。
「何がおかしい?!」
「まるで自分が地球になったように話すんだもん」
「当たり前だ。……俺はその為にウルトラマンの光を授かった」
改めて藤宮が、自らを地球意志の代弁者として位置づけようとしている事を確認。
「可哀想」
「……人間が?」
「あなただよ。地球から選ばれて、選ばれたが為に苦しんで、自由をなくしてる」
「……俺にウルトラマンになるなというのか?! 他の人間のように、身勝手に生きろと?!」
「自分を大切にしてって言ってるの。地球のことを思う前に、まず自分を大事にしてよ。自分を大事にできない人間に、 地球を守れるわけないよ」
そしてそんな藤宮に対して、玲子が“人間”である事を求めるのは、“ヒーロー性”と“人間性”の相克、 という普遍的テーゼへの今作なりのアプローチといえますが、ここで藤宮が特徴的なのは、 地球を救う為に人間を排除しようとするに際して、自分自身を「ガン細胞でもばい菌でもない特別な人間」と高みに置くのではなく、 もはや「人間の枠外の存在」と位置づけている事。
だから藤宮は、矛盾なく人間を排除しようとし、排除する為に自分を地球と同一視しようとしているのですが、逆にいえば、 そうしなくては人間を排除できない、というのが藤宮の抱える脆さと希望といえます。
そして同時に「排除すべき人間を選別する神」として力を振るうおこがましさを持つにはナイーブに過ぎて、 それらを恐らくは自覚しているが故に、“人間”に戻るわけにはいかない藤宮は、子供の頃の夢など「藤宮博也」 という人間の個人的な過去を聞きたがる玲子の問いを拒絶するが、そこに我夢が現れる。
「藤宮、大変な事が起きようとしている」
「もう遅い! 奴が来る前に、俺は全ての怪獣を覚醒させるつもりだった」
「君は知ってて!」
拳を握りしめる我夢。
「おまえが鈍すぎるんだ!」
「最低だぞ藤宮! ――怪獣だって、何も望んで出てきたわけじゃない!」
おお成る程。
前回、怪獣と心が通じ合う的な展開は個人的にあまりピンと来ない……と書きましたが、 人類に積極的に害を為そうとする怪獣はともかくとして、「怪獣」と呼ばれる(呼ぶしかない)存在としても、 人類(ウルトラマン)の都合で勝手に目覚めさせて勝手に葬り去る、というのは許される事ではない、というのは納得できる怒り。
「いずれは目覚める」
「君はウルトラマンの力の使い方を間違ってる!」
「俺が本当のウルトラマンだ!」
「違う! 本当のウルトラマンは!」
爆弾発言の直前、いいパンチを貰った我夢は砂浜に倒れ、我武者羅に体当たりを仕掛けると馬乗りになり、藤宮、 100%《ともえなげ》のチャンス!
だが藤宮は、《ともえなげ》を覚えていなかった!
マウントからのパンチが入る寸前、玲子が割って入り、振り上げた拳を止める我夢。
「この人弱ってるの」
藤宮はパンチ以上のダメージを受けた!
女子マネ……僕も……女子マネが……欲しいな……
我夢は朦朧としている!
玲子と藤宮の逃避行ドライブは続き、なんだか身も心もすっかり削られ果てた藤宮は、車窓を流れる海を見つめながら、目を細める。
「……海を探検したかった」
「え?」
「俺の夢さ」
「どうして海なの?」
「人間は海のほんの上っ面しかしらない。地球の7割は海だというのに、どの国も、自分とこの優秀さをひけらかそうと、 宇宙ばっかり行きたがる。誰も海の本当の姿を知ろうとしない。だから俺は…………あそこは俺達の生まれ故郷なんだ」
「素敵な夢ね」
とげとげしかった藤宮が、一度は拒否したパーソナルな事を語るに際して子供のような表情を浮かべるというのがメリハリとなり、 また、宇宙の対となるのが海、というのは、アーサー・C・クラーク的なSF感が盛り込まれて良かったです。
束の間流れる穏やかな時間だが、リザードカーの追跡を振り切ろうとした玲子がハンドル操作を誤って車が崖から転落し、 藤宮はそれを救うためにアグルに変身。
アグルの手に乗せられた玲子が、鳥の視点で大地を見る、という飛行シーンの映像に尺が採られ、これにより玲子が、 間接的にアグルの見る景色を目にし共有するというのは、今回の大変好きなシーン。
劇的な意味づけにおいては、地上の人であった玲子さんに天空の視点が与えられたともいえ、 同時にアグルとの心理的距離感も大きく接近する事になったわけですが、 すっかりキーキャラとなった玲子さんの物事の捉え方が今度どうなっていくのかは気になるところです (稲森博士の二番煎じにはしないでしょうし……)。
完全にやらかし案件となった瀬沼さんですが、もしかしたら尺の都合でカットされたのかもしれませんし、 完全に筋の脇道という点では無くて当然とはいえるのですが、藤宮が袋だたきにされたバーを訪れたワンカットの後に、 バーに入って粋がったチンピラを締め上げる情報収集シーンがあっても良かったかなーとは思うところ。
バーのチンピラが大変嫌な感じの連中なのが話の筋の必然というのはわかるのですが、 それはそれとして多少のお仕置きが劇中で描かれても良いかなとは思うところで、ここの大失態に加え、現状、 悪役ポジションに近い瀬沼さんにちょっとした見せ場があるとバランスも取れて嬉しかったなと。
瀬沼さん、自覚的に汚れ役をやっている人、というのが結構好きなので、今後の劇中で、いいとこあるといいなーと思う次第。
飛翔するアグルの姿を見た我夢は、砂浜での体育座り(様子を見ていたリザードからも完全放置) から復帰するとやや過剰反応気味に変身アイテムを構える。
「藤宮……おまえはウルトラマンじゃない!」
その脳裏に再び浮かぶ、量子の夢、可能性未来――一面が砂にまみれた大地に眠るガイア、そして、アグルの姿。
「僕が……僕が本当のウルトラマンだ!」
アグルに追いついたガイアは、ちょっとツラ貸せや、とハンドサインを送り、承諾したアグルは、玲子を地上へと降ろす。
「藤宮くん! 連れてってよ! ねぇ!」
拒否する玲子をやや強引に置き去りにするとアグルは軽く飛翔し、再び正面から向き合う2人のウルトラマン。
「どっちが本当のウルトラマンか、決着をつける時が来たようだな」
「望むところだ」
変身後は基本ジェスチャーでやり取りしていたので、それで通すのかなと思っていたら、 ここではウルトラマンの姿に藤宮と我夢の声を直接乗せる形で演出。この辺り、シリーズにおける紆余曲折と試行錯誤があるようですが、 少なくとも今作においては、変身前後のシンクロをあまり意図していないアクション演出なので、 直接声を乗せるとやや違和感というのが正直。まあこういうのは慣れの問題もありますが。
ここから激しいウルトラバトルに入り、空中スピンとプロレス的な返し技の応酬が多めなのが特徴的。 エリアルベースからはチーム・ライトニングとクロウ、そしてコマンダーを乗せたベースキャリーが発進し、延々と続く互角の死闘だが、 まるでその激突が最後の鍵であったかのように、天空で起きる異変の向こうから、地球にその時が迫っていた――。
EDにはみだしたウルトラバトルで、ぶつかりあう二つの必殺光線から、砂に埋もれた二体のウルトラマンの映像に変わり、つづく。
前回、怪獣相手に沈静うにょんバスターに切り替えたガイアが、中身人間相手に本気うにょんバスターを撃ち込んで、つづく!
次回――変な頭が出てきた。
- ◆第26話「決着の日」◆ (監督:村石宏實 脚本:小中千昭 特技監督:村石宏實)
- 今回からOP映像がマイナーチェンジされ、めっちゃバック転をアピールする我夢が凄く面白くて、繰り返し見てしまいました(笑)
各部隊が、チームシンボルないし機体をバックにスリーマンセルで並ぶのも格好良かったですが、 上層部及びブリッジクルーは冒頭で大写しになる結果、千葉参謀が凄く重要人物のように(笑)
……いやまあ、重要といえば重要なんですが。
そんなわけで、思わぬ見所&ほっこりポイントに本編の緊迫した状況を忘れかけてしまいましたが、 ガイアとアグルには決着の時が迫っていた!
「ワームホールは開かない……もし……もし何かを待っているのだとしたら。……そういう事だったのか、そうだったのか」
戦況を静観するコマンダーは、従来のワームホールとは比較にならない規模の巨大な穴が、 遙か彼方のどこかの宇宙と地球を繋げようとしているが、これまでと違って何故か開通に時間がかかっている、 というダニエルくんの情報から何かに気付くと、ファイター各機に即時退避を指示。
直後、うにょんバスターとウルトラリーゼントバスターがぶつかり合い、莫大な光の奔流が巻き起こる!
「これを待っていたのか……!」
ウルトラマンの力とウルトラマンの力が衝突する事で発生した膨大なエネルギーの渦の中、くるくる回りながら交感する我夢と藤宮。
「強くなったんだな、我夢」
「僕が強いんじゃない。やっとわかったんだ。僕は地球の力を借りているんだ。君だってそうなんだ」
「そうだ。地球は慈悲深い母などではない。こんな破壊的な力を俺に授けてくれた。俺がしようとしているのは、 地球が願っている事だ。それを我夢、おまえは!」
個人的にあまり、くるくる回る系&くるくる回す系(例えば《平成ライダー》だと石田監督がよくやる)の演出は好きではなく、 他に見せようがなかったのかと思ってしまうのですが、エネルギーの奔流は大気圏を飛び出して宇宙のツボを刺激し、 相討ちとなった我夢と藤宮は傷だらけで地面に転がる事に。
「ただの人間が踏み込める場所じゃないんだ、ここは!」
「人間だよ! 人間だからこんな事になっちゃったし……人間だからあんなに傷付いて!」
藤宮は堤に回収されてジオベースのメディカルセンターへと連行され、玲子は倫文と再会。 藤宮を乗せた救急車が走り去るのを見送る事しか出来ず、胸で泣く玲子に、ちょっと役得だなぁ……、というのが顔に出つつも、 心の隙間に潜り込もうとはせずに「仕事しましょ、仕事」と“いつも通り”でいようとする倫文は、ちょっといい奴ポイントを稼ぎました!
我夢を拾ったコマンダーは密かに手当てを施し、いい加減、ガイア=我夢という真実に気付いた(ていた?)事を仄めかし。 アグルとの激突を悔いる我夢に対し、巨大なエネルギーを得る為にウルトラマン同士の戦いを望んだ何者かの存在を示唆すると、 ガイアの件は自分一人の胸に納め、「傷が治ったら……戻ってこい」と言い残してエリアルベースへ。
ここまで、ちょっぴり怪しげだが器の大きそうな人演出を繰り返されてきたコマンダーですが、 背後で糸を引く巨大な存在にいち早く気がつく事で、ただの無口な人でないアピール。……まあ、一番印象に残ったのは、 外れた腕をはめるシーンなのですが!
なお私のコマンダーに対する評価が辛めなのは、個人的にあまり、 渡辺裕之さんは視線とか仕草に細かいニュアンスを込める芝居が得手ではないと思っている、というのはあります。
どうしても、コマンダーが思わせぶりな無言を貫く度に、本当は何も考えていないんですよね……? と思ってしまうというか(笑)
宇宙ではツボを刺激されたワームホールが急速に拡大し、光量子コンピューター・グリシスの暴走により、衛星の防御システムも使用不能という緊急事態に。
「何故だ? 何故こんなに一度に事が起きる?!」
「偶然ではないのかもしれませんね……」
「我々は――やれる事をやるまでです」
ファイターチーム勢揃いによる、緊迫のブリーフィングシーンが挟み込まれるのが大変『ガイア』らしく、 先行を申し出るファルコンの米田に対し、「ワームゾーンの中に突っ込むつもりなら……」と視線をぶつけるチーフ。
「……あいつならどう考えるか」
「……我夢、ですか」
「あの子なら、直感を信じるわ」
「うん、そうだね」
同レベルの頭脳を持つアルケミースターズの同輩からならともかく、敦子さんからも「直感ボーイ」扱いを受けるのはやや違和感がありますが (その直感に至るまでに常人の計り知れない分析と仮説の構築を我夢はしている筈なので)、梶尾の言葉をきっかけに、 ブリッジの雰囲気がやや変わったところで入るホルン風のBGMが格好いい。
「これまで戦ってきた相手は、いずれも常識を越えた存在だった。今降りてこようとするものがなんであれ、 我々が後に引くわけにはいかん」
コマンダーの号令一下、ファルコンが先行する形で作戦が決定し、各自が出撃準備に向かう中、米田を呼び止めるクロウ03。
「……自分にはわかりません。何故いつも、命と引き換えみたいなミッションばかり」
「そう命を安売りしているつもりはない」
「でも」
「……長く飛んでるとな。色々いらない事まで考えるんだ」
そもそも久々の登場な気がする米田さんですが、第14話における幾分死にたがり気味な姿勢が1クールぶりに拾われ、 ちょこちょこと台詞の多いクロウ03が絡む事で、人間関係に一つ広がりが出たのは、次へ期待したい布石。
一方、アルケミースターズのネットワークにアクセスし、グリシスが空から来るものと呼応している事に気付いた我夢は、 ワームホールの彼方、暗雲の中から遂に突き出した巨大な破滅招来頭部に立ち向かおうとするが、 そこに溢れる筋肉でジオベースを脱走してきた藤宮が姿を見せる。
「あいつは、僕たちのパワーを使ってここまでやって来たんだ」
どちらが“本当のウルトラマン”――地球の意思を正しく代行する存在――なのか、決着にこだわる藤宮に対し、 自分たちがまんまと利用された可能性を伝えた我夢は、暴走するグリシスの映像を藤宮へと見せる。
「ありえない……!」
「この光のパルスは、あいつとシンクロしてるんだ」
破滅を回避する方法として「人間」の削除を設定した時、既にシステムの一番奥深いところに、 破滅招来体の影響が存在していた……その残酷な可能性を、藤宮に告げる我夢。
「じゃあ…………じゃあ俺の得た結論は?!」
「根源的な、破滅をもたらすものの意思に書き換えられていたんだ」
あまりにあまりな真実に、轟く雷鳴の中、顔を歪めて藤宮は絶叫し、人格崩壊して幼児退行ぐらいしそうな勢いですが、 震えを抑えるように自ら体をさするのが良い演技。
上空ではファイターチームが巨大な破滅ヘッダーに攻撃を開始し、悲壮なBGMが絶望的な戦いの雰囲気を醸し出します。
「何のためにウルトラマンになったんだ? 地球の意思じゃなかったのか」
「わかんない。わかんないけど、行くしかないじゃないか。戦うしかないじゃないか! 大事なものを、守る為に!」
例えそこに根源的破滅招来体の思惑があったのだとしても……今ここに力があるのなら、 それで大事なものを守れるというのなら……変身しようとする我夢だが、藤宮はそれを止める。
「いくらウルトラマンの力を借りても、その力でどれだけ戦える」
破滅ヘッダーが口から吐き出す炎の雨が地表に降り注ぐ大迫力のカタストロフの中、藤宮は、自分の変身ブレスから青い光を放出する。
「アグルの力を一緒にしろ。少しはマシに戦える」
「藤宮……」
「信じていたものに、大事なものに裏切られた気持ちが、おまえにはわかるか?」
生気を失った表情で呟く藤宮の姿に我夢が言葉を失うのが、環境テロリズムに藤宮が懸けてきたもの、 それにより犠牲にしてきたものの大きさを、一端でも我夢が感じ取る表現になっていて(この後の展開にも繋がり)良かったです。
また、破滅の回避の為に地球から「人類」を排除する、という仮説に破滅招来体の意思が介入していたというのなら、 裏を返せば「人類」こそが破滅招来体にとって危惧すべき希望という可能性が垣間見え、それに踊らされてしまった藤宮の絶望の深さが、 我夢を沈黙させたともいえるでしょうか。
「……俺にはもう、守るものなんて何もない」
全てを捨てた藤宮は、我夢に背を向け、歩き出す。
「……光を取れ! 我夢」
この言い方が大変格好いい直後、炎に飲み込まれ、藤宮の姿は消える……。
「……大事なものなんて、幾らでもあるじゃないか!!」
破滅の未来を回避する為、地球という星を救う為……あまりに巨視的な物の見方にこだわりすぎ、 “人間”としての夢や幸せを見失ってしまった藤宮の消失に、伝えきれなかった言葉を我夢は絶叫し、 アグルの光を取り込むとエスプレンダーを掲げる。
「ガイアーーーーーーー!!」
巨大化するガイアいつものテーマに、女性コーラスが入るアレンジが大変格好良く、今作の壮大なBGMが、 要所をぐいぐいと盛り上げてきます。
飛翔したガイアは破滅ヘッダーに挑むもあえなく撃墜されるが、なんとかこらえると、降り注ぐ炎の雨を連続で前転回避して立ち上がる。
(アグルの力を貰ったんだ! このまま、終わるか!)
破滅に立ち向かう意志を胸に、もう一つの力を宿したガイアの体を新たな光が包み込み……地球の声は言いました。
(我夢……我夢……いいですか、我夢。帰ったらまずは、ホームジムを買うのです。あなたのパソコンに、 藤宮のIDとパスワードを送っておくので、この通販サイトで、ホームジムを買うのです。それから、プロテインを買うのです。今なら、 イチゴ味・バナナ味・コーヒー味、3食セットが大変お得です。なんと、5kg〜10kgまでのダンベルセットがついてきて、 今なら19,800円。19,800円の大奉仕価格です。それから……)
と、とにかく、全身に、ストレッチパワーが、溜まってきただろう!
アグルの力を取り込んだガイアは体の横に青いラインが入り、全体的にパンプアップした姿へと変貌し、完全に、
アグルの力=筋肉
で、私はこの状況を、どんな顔で見ればいいのでしょうか(笑)
空では梶尾の発案により、ファイター部隊が破滅ヘッダーの突き出すワームゾーンに直接ミサイルを叩き込み、 苦悶するヘッダーの口の中(びろびろと毛のようなものが蠢く舌が大変気持ち悪い)へ飛び込んだガイアグルは、 マッスルストレッチビームを発射。巨大な破滅ヘッダーは内部からのエネルギーに耐えかねて木っ葉微塵に弾け飛び、 つまり……筋肉は光だ!
(今作と『重甲ビーファイター』の妙な親和性については、何かでっちあげて与太話を書きたいぐらいの勢い)
かくして史上最大の破滅招来体の襲来は水際で防がれ、ここからEDパートに入ってガイアの横を次々とファイターチームが飛び去っていき、 それに敬礼を返すガイア、もう、実質的に正体バレているのでは(笑)
ガイアとアグルの激突・明かされる真相・ガイアグル誕生! と盛り込みつつ、 ブリーフィングシーンからファイターパイロットを勢揃いさせ、人類とウルトラマンの共闘によって破滅を退けるというのは、 今作のテーゼが貫かれて、良い決戦でした。
2クール目のラストを締める山場の敵が、巨大すぎて頭しか出てこない存在、というのは意表を突かれましたが、 最終クールの頃にはどんなアイデアが飛び出してくるのかも楽しみです。
エリアルベースでは災禍をくぐり抜けて機嫌の良い参謀が我夢の復帰を笑顔で承諾し、拾いに向かうチーフ。
「我夢、お許しが出たぞ」
それに笑顔で手を振りながら、我夢は、消えた男の事を思う……。
(生きてるよね、藤宮。いつか一緒に戦える日が来ると、僕は信じてる)
破滅招来体を撃破・ガイアがパワーアップ、我夢はXIG復帰、と朗らかに大団円風だけど、藤宮は……? と思ったら、 我夢がちゃんと拾ってくれて安心しました。
色々とやらかしてきた藤宮の行動については、全ては巨悪の差し金でした、というのは落としどころとしては頷ける一方、 ガイア(我夢)とアグル(藤宮)の思想的対立の決着としては、楽な解決法を選んでしまった感があり、少々残念。
藤宮の抱えていた問題意識は問題意識で、破滅招来体の目論みとは別に存在するものですし、 このままでは藤宮が道化で終わってしまうので、生死不明となった藤宮の再登場と、 作品として改めて「人類と環境」テーマに向き合ってくれるのは、期待したいです。
玲子さんが間接的に藤宮の抱えていた問題意識を継承し、玲子さんの視点で取り組んでいく、 というポジションチェンジをする可能性もありますが……稲森博士もあまりに浮かばれませんし、 我夢の台詞は再登場の布石であると思いたい。
お薦めは、記憶を失ってゴミ捨て場に転がっている所を拾われるだよ藤宮!
「藤宮……? 本当に、僕を覚えていないのか藤宮!」
「ふじみや……それが、俺の名前なのか? ううっ、頭が……」
「……そうだ藤宮! これを見るんだ。君がお薦めしてくれたホームジムさ!」
「ホーム……ジム……? ……こ、これは……何故だ、何故俺は、この機械の使い方がわかるんだ……?」
「筋肉さ、藤宮。筋肉は、全て覚えているんだ」
次回――やたら軽やかに動く敵が登場し、サブタイトルが長い。
- ◆第27話「新たなる戦い 〜ヴァージョンアップ・ファイト!〜」◆ (監督:児玉高志 脚本:古怒田健志 特技監督:佐川和夫)
- 今日も筋トレ 明日も筋トレ 筋トレすれば〜 一生しあわせ〜
(「今日もファミスタ」のメロディで)
前回からの大幅な映像チェンジに続き、OPからアグルが消滅。そして、バック転。よく見ると背景でワームホールが開いており、 つまり筋肉があればワームホールだって開けるじゃないか!
そして今回から、配信のOP〜本編の間のカットがマッスルマッスルに変更。サブタイトル背景も、走る筋肉に変更。 とアグルの穴を埋めるかのように筋肉が盛られていきますが、我夢と背中合わせの藤宮の姿は残されており、再登場に期待を持たせます。
冒頭、その藤宮が姿を消した前回のエピソードが振り返られ……実は前回も気になっていたのですが、 破滅ヘッダーを頭上に我夢と藤宮が対峙した工事現場のような所で、背景に「絶滅」と書かれた横断幕が見えるのは、 一体何を絶滅させるのか。美術スタッフのネタなのか。それともここは、例の宗教団体の施設だったりしたのでしょうか (※工事現場における「現場事故 絶滅」の横断幕は、どうやら珍しいものではない模様)。
世相に若干の不安を覚えつつも、藤宮からアグルの力を受け取った我夢はガイアの新たな姿で破滅ヘッダーを退け、 ひとまずの平穏が訪れた地球で、参謀とコマンダーは根源的破滅招来体に汚染されていたグリシス封印の報告を受けていた。
「しょせんコンピューターに、人類の運命を委ねる事など出来なかったんだよ」
どこかの佐原博士に聞かせてほしい……。
「人間の運命はね、人間が、自分で切り拓くんだ」
参謀とコマンダーが落ち込むダニエルくんを励ましていた頃、我夢は……筋トレしていた(笑)
「友達に言われたんです。戦うなら、体を鍛えなきゃ駄目だって」
「友達って……チーム・ハーキュリーズの?」
やはり、そういう認識なのか(笑)
女子の前で筋肉をアピールするには、まだまだちょっと照れくさいお年頃の我夢は、チーム・クロウの面々がやってくると、 そそくさとトレーニングを終え、なんだかもう、公式からの止まない筋肉供給に、 OP込みの開始3分ぐらいでお腹いっぱいになってきました。
自室に戻った我夢は、赤と青、二つの光の宿ったエスプレンダーを見つめながら、消えた“友達”に思いを馳せる。
(本当にピンチの時は、いつも助けてくれた……)
といいながら回想最初のシーンが、必殺攻撃の余韻に浸っていたら「ふぉ?!」したアグルが、 ガイアごとまとめて怪獣を爆殺しようとした戦いなのですが、美しい誤解が生じているのではないかと不安になります(笑) その後の、 反重力ウルトラマンの回は確かに助けてくれましたが。
「藤宮……これからは、ずっと一人なのか?」
改めてアグルの不在を感じる我夢は母からのEメールを受け取り、里心を覚えたのか休暇を取ると大学に顔を出すが……春休みだった(笑) 他に友達の居ない我夢は休暇を切り上げてエリアルベースに戻り、街を歩く私服の我夢、という珍しいシーン、速攻で終了。
パソコンを始めた両親側から、関係が悪いわけでもないが息子との距離感をもう少し縮めたいというアプローチが描かれたり (母親がワンカット登場するも、休暇で実家に戻るわけでもない我夢の姿に、「理解しあえる関係」は成立していない事が仄めかされています)、 一人では街に出て遊んでいく事も無かったり、天才に生まれたがゆえの孤独を抱える我夢にとっては、 「共通のベースで会話できる相手」は貴重な存在であり、我夢にとっての藤宮は「ウルトラマンとしてのライバル」であったと同時に 「真の友人になれたかもしれない男」であった事が、藤宮の喪失後に重みを増すという描き方が、 初期のキャラクター性の抑え直しも含めて渋い。
エリアルベースではライトニングの面々と気さくに挨拶をかわせるようになっている一幕が挟まれる我夢だが、 ブリッジで待ち受けていたのは、完全に機能を凍結された筈のグリシスが、 シャットアウトの前にガード・ヨーロッパ支部にその分身といえるデータを残していた、という緊急連絡だった。
ネットワークに残っていたグリシスの亡霊――グリシスゴーストの汚染によりガード・ヨーロッパ支部は機能を停止。 その魔手はエリアルベースにも伸び、再び墜落の危機に陥る天空要塞。
各自の専門性の強い職能集団のXIGですが、ゴーストのハッキングに対処すべく猛然と動き回る敦子・ジョジー・我夢の3人に対して、 え? どうしよう? 俺達ネットワークの事とかわからない……という顔で佇む中年3人が何ともいえない面白さ。
「このままでは……」
最悪の場合は自爆もやむなし、と乗員の退避と合わせて決断する参謀だが、そこにジョジーが変なジョイスティックを持ち込み、 それを手にした敦子は、圧倒的劣勢をひっくり返す名古屋撃ちでゴーストのウィルス駆除に成功。
「さすが元ゲーセン荒らし」
「え?」
突然の飛び道具が放たれましたが、そこはかとなく『BFカブト』ネタ(メインメンバーの一人が、 天才プログラマーにしてカリスマゲーマー)なのは、メタルヒーローシリーズとも関わりのある古怒田さんだけに、 穿った目で見てしまいます(笑) まあ、「ゲーム」と「プログラム」はフィクションとして親和性が高いので、定番ではありますが。
敦子の活躍によりコントロールを取り戻すエリアルベースだが、今度は地上の樋口から、ジオベースのラボが全機能を奪われた! という通信が飛び込み、今回は激闘を乗り越えたXIGの日常を描く箸休めエピソード?と思わせるスローペースの導入から一転、 危機また危機が畳みかける急展開の中で、前回に続いて、XIGメンバーが次々と登場。
ゴーストの本命は、ジオベースで保管されていた金属生命体の破片サンプルであり、 外部で活動する為の器としてそれに乗り移るプログラム……そして、ラボを飲み込んだ光の中に立ち上がったのは、なんと、 ウルトラマンガイア!
現場上空に到着したチーム・ライトニングとクロウは、怪獣の姿が見えずにガイアが立っている事に戸惑いを隠せず、 エリアルベースに居る本人は、その場の勢いで理屈をつけて、偽物であると断定。「(やけに明解に断言しているけど)偽物なのか?」 と重ねて問う参謀、(まあ、そこに我夢が居るから偽物の筈だよな……)と我夢を見つめるコマンダー、と状況は緊迫しているのですが、 ブリッジに漂う微妙な空気が面白い事に(笑)
視聴者は偽物だとわかっている+だからこそブリッジの空気が面白く感じられる、という二重の仕掛けになっているのに加え、 これまでに登場した金属生命体がどこか、ウルトラマンの姿を真似ようとしていた、という事から、 偽ウルトラマンガイアの登場が唐突になっていないのが巧妙。
命令を受けたファイターチームは偽ガイアに攻撃を仕掛けるが、躊躇いを隠せないその反応に、 状況を改善すべくコマンダーはそれとなく理由をつけて我夢を前線に送り込み、前回を受けた関係性の変化も手堅く活用して、 全体に目配りの利いた展開に古怒田さんの上手さが光ります。
「待っているのか……本物が現れるのを」
ファイターチームは次々と機銃を撃ち込むが偽ガイアはガードに徹し、遂にはライトニングのぽっちゃり担当こと大河原が命令を拒否。
「俺には撃てません! 俺には撃てません……俺は……ウルトラマンガイアに、何度も命を救われました。 彼は……ガイアは……ずっと一緒に戦ってきた、仲間なんです!」
「大河原さん……みんな……」
序盤、次々と送り込まれる筋肉の奔流にたじろいで、このエピソードはどこへ行くのだろう……と遠い目になりかけていたのですが、 これまでさしたる台詞も無かった大河原の“被撃墜王”という特徴を拾って、視聴者にはこれまでの積み重ねでわかっていた、 ガイアとXIGの繋がりを、言語化して劇中で我夢に伝える、という流れが実にお見事(ここで中盤の、 軽い挨拶も効果を発揮)。
「わかったよ藤宮。僕は、一人なんかじゃない」
藤宮は消えた――だが、高山我夢としてもウルトラマンガイアとしても、共に戦う仲間が居るという事を改めて我夢は感じ取り、 序盤に描かれてきた我夢の人間関係の問題も、我夢がその内側に抱えていた壁を自ら乗り越える事で完全に解決を見る、 という華麗な接続が会心の出来。
ガイアとアグルの対決がひとまずの決着を見、前半戦の集大成として大きな山を作った前回の直後に、 新章のスタートとしてこの出来を持ってこられては、ぐうの音も出ません。
見つめたエスプレンダーの中では赤と青の光が輝き、大河原機が操縦ミスで偽ガイアに正面衝突したその時、 意識下に抱えていた内面の孤独と喪失を乗り越え、我夢は変身。
「ガイアーーーーー!」
久々のどすーん着地にコーラス入りテーマ曲が重なるのが実に神々しくも格好良く、ガイアは大河原機を救出。 対峙する2人の巨人をかなり広いミニチュアセットの中で見せ、今日も豪華だ佐川特撮回。
「データが完全なら、両者の力は互角だ。本物は勝てるのかね?」
「――命あるものは、常に前に進みます。昨日までのデータなど」
珍しく、力強い調子で返すコマンダーも格好良く、全方位にぐいぐいと来ます。
「成長しているというのか、ウルトラマンガイアが」
上層部の見つめる中、二つのうにょんバスターがぶつかり合うが、本物は早速、鍛え上げた追い大胸筋で偽物を吹き飛ばし、 見てくれ藤宮! 僕の、筋肉!
ダメージを受けて地面に転がる偽ガイアは体表面が金属化し、「正体を現せ!」と大河原機が戦闘に立って射撃を浴びせる、 というのもただ撃墜されるばかりでないフォローが入って良かったです。
ファイター部隊の連続攻撃を受けて爆炎に包まれた偽ガイアは悪魔じみた三代目金属生命体へと変貌し、 ガイアとスピード感のある格闘戦に突入。ドロップキックや巴投げが乱れ飛ぶが、 肉弾戦では形勢不利と見たゴーストはブーメラン攻撃からクロー攻撃を放ってガイアを地面に縫い止め、初代・二代目に続いて、 金属生命体の攻撃ギミックは面白い。
立て続けのクロー攻撃を受け、大の字になって磔状態にされたガイアは絶体絶命の危機を迎える。
だが――
「全機ウルトラマンガイアを援護しろ。心おきなくやれ!」
ライトニングとクロウがフォーメーションを組み直してガイアを支援し、流れ出す初めての挿入歌。
そして……今のガイアには、翼の助けばかりでなく、大地を支える筋肉もある!
アグトルニーーーック!!
ファイター部隊の攻撃を受けたゴーストが怯んでいる間に、滾る上腕二頭筋で磔を脱したガイアは、すくっと立ち上がるとパンプアップ!
「ガイアが変わる!」
わざわざオペレーター席を離れてカメラにフレームインしてまで叫ぶ敦子、その台詞は誰にも譲りたくないのか(笑)
アグトルニックしたガイアはシックスバックを閃かせながら猛然とゴーストに躍りかかり、これでもかと投げ技を連発。 徹底的に痛めつけた後、赤と青、二つの光を混ぜ合わせた新必殺技・地球の隙間光線でゴーストを消滅させ、 大河原機とサムズアップを交わして飛び去るのであった……。
「これでグリシスに宿った破滅招来体は完全に消えたな」
「はい。しかしまた、新たな戦いが始まります」
「負けませんよー! 我々は!」
機嫌が良すぎる参謀はなんだか行きすぎて、普遍的なイメージ上の平泉成みたいな事になってしまいました(笑)
新ED曲に合わせて、帰投するファイター各機が描かれ、新生ガイアのバトルシーンがたっぷりダイジェストで流れて、つづく。
前回の今回でどう見せてくるかと思われましたが、巨大な災厄をくぐり抜けて一息、 というやや弛緩した雰囲気を全体に漂わせて各キャラの引き出しを広げつつ、 藤宮の喪失を我夢の抱える問題と繋げて物語の中に配置し直し、グリシスの後始末から思わぬ危機へと展開。 エピソードの主眼はガイア強化フォームの本格お披露目であったのでしょうが、ガイアがXIGと築いてきた絆を一つの形にまとめ、 新型ガイアの大暴れを“内面の一つの壁を乗り越えた我夢の脱皮”と繋げたのが、新章スタートとして素晴らしい出来でした。
人間型の怪獣との派手なバトルでアクション面も充実しつつ、多数のキャラを出しながらそれぞれの魅力もプラスし、 全体に行き届いた目配りという点でも、傑作回。
次回――プレシャス再び? そして、拠点を失った樋口さんの明日はどっちだ?!
- ◆第28話「熱波襲来」◆ (監督:児玉高志 脚本:川上英幸 特技監督:佐川和夫)
- OP冒頭、二つの光が重なり合って、黒ラインのガイアV2が誕生しているという事なのか、と遅ればせながらなるほど納得。
房総半島の一部地域――くしくも我夢の生まれ故郷の付近で、春だというのに異常な暑さが続き、調査に向かう我夢と樋口。 画面にエフェクトかけて表情も暑そうなのですが……今回通して映像的な問題点が、 熱射病で人が倒れるほどの真夏の気温という設定の筈なのに、我夢も樋口も厚ぼったい制服を着っぱなしの事。
XIG隊員のアイコンでもあるので映像的なわかりやすさとしては理解できますし、 アルケミースターズ謹製リバルサー冷却システムが内蔵されて今なら39,800円! とかなのかもしれませんが、 今回のエピソードで必要だったのは、“暑くても制服を着ていられる理由の解釈や防衛隊意識”ではなく、 XIGが現地調査に向かうレベルの異常気象という状況設定を“如何に視聴者に伝えるか”であったわけで、 今作にしては珍しいレベルで、絵空事を現出させる為の映像的なリアリティ補強を欠いてしまいました。
せめてサブキャラの服装で補えれば良かったのですが、ワイシャツ姿の我夢父はともかく、 異常高温を知った上で取材に向かった筈の田端さんが全く暑くなさそうな服装で、これまた噛み合わない事に (実際の撮影時期はまだ寒かったと思われるので、田端さん役の円谷さんの体調的問題で薄着させるわけにもいかなかったなどの事情もあったのかもですが)。
役場のケースワーカーとして、山奥に暮らす老人の元を訪れていた我夢父が帰路に熱射病で倒れた所を田端に助けられ、 偶然から田端が我夢の両親と出会っていた頃、我夢と樋口が調査していた異常高温の熱源・油田山の内部から、奇妙な巨大物体が出現。
その名を――炎山(エンザン)。
第7話に登場した地球洗濯プレシャス・テンカイを、登場回の脚本だった吉田さんではなく、川上さんが拾う形になったのですが、 謎だらけの超古代人(外来宇宙人?)の残した環境浄化システム? というアイデアが扱い辛かったのか、 周囲の気温を上昇させる炎山の存在理由や目的もこれといって広がらず(天界エピソードは、そこからのSF的飛翔が面白かったのですが)、 率直にパッとしない出来。
「これは……やはり篆書体の文字ですか?」
「ああ」
と答えるコマンダー、確かに「天界」の時よりは遙かに読みやすいのですが、それは本当に篆書体なのですか。 そこはそのまま拾ってしまって良かったのですか?!
炎山の表面にある謎のゲージが満タンになると、炎山は頭部に巨大なハサミを持ったアントラー似の怪獣形態にトランスフォーム。 ゴーレム風味のメカ甲虫、というデザインそのものは好みでしたが、『ガイア』の魅力は、そのゲージは何か? どうしてそれが溜まっていくのか? に理屈をつけていく部分にあると思うので、その辺りすっ飛ばして怪獣に変形した! という展開も冴えません。
住人の避難が進む中、我夢父は山奥の独居老人の存在に思い至り、車を出してそれに手を貸す田端。 熱波にやられて倒れていた老人を救出するが、帰路が倒木で塞がっており、必死にそれをどけて道を切り拓く中年コンビ。 なんとか老人を反対側に運ぶのに成功したのも束の間、今度は我夢父が倒れてしまう……というのも少々くどく感じてしまいました。
様々な異常現象と破滅招来体の関連を取材し続ける田端(久々登場)、小さな街で人々を助ける為に働く我夢父、 地球的視野とは関係なく視聴者からの励ましの便りを目にして現場復帰を決める玲子……言ってみれば今回は、 “地上の人々”の話であるのですが、例えばそれがサイコメザード回のように、 “天空の人々”の存在と絡み合ってこそ今作としての面白さが生まれてくるのに、その接続が無い為、 『ガイア』としての広がりが生まれてこないのも、もどかしい展開。
母から事情を聞き、山道に踏みいっていた我夢は、父らと合流直前にスキップしながら迫り来る炎山を目にして、ガイアに変身。
開幕のヨルダン代数飛翔蹴り! 光のエネルギーEは光子の持つエネルギーの倍数の値のみを取り得るキックの嵐から背負い投げ、 そして高さのあるバックドロップと、今日も溢れるマッスルが地球の力だ!
量子力学×筋トレの融合により優位に戦いを進めるガイアだが、ハサミで足下をすくわれてひっくり返された所に熱線を浴び、 一転して危機に陥ると劣勢を跳ね返すアグトルニック。
本当の筋肉を見せてやる! と炎山の突撃を片手で受け止めると、 頭部を鷲掴みにしたまま軽々と放り投げた炎山が地面を猛スピードで滑っていき、凄いぞ筋肉!
ジャンプ一番、回り込んで滑走を止めたガイアは、そのまま炎山を持ち上げ、簡単に投げ落とすのではなく、 大道芸のごとく巨体をクルクルと縦回転させて連続で振り回し、凄いぞ筋肉!
十分に脳を揺さぶった炎山を地面に叩きつけると、朦朧とする炎山を再び持ち上げ、 今度は皿回しの要領で激しい横回転を加えてから投げ飛ばし、凄すぎるぞ筋肉!
……思えば、投げ技=大地への叩きつけダメージとはすなわち、凶器は地球であり、これ以上なく、 ガイアグルにふさわしい攻撃手段といえるのかもしれません。
「僕は地球を守る! 出て行け!」
地球もとい筋肉の力を見せつけたガイアは怪獣に立ち退きを要求。恫喝に怯えた炎山はすごすごと引き下がる…… と見せかけて不意打ちを仕掛けてくるが、それを受け止めたガイアは隙間パワーで熱線を消滅させると、 全身是筋肉之槍により炎山を貫通して爆砕し、圧倒的だ筋肉!
平和の戻った房総で我夢は倒れた父を見舞い、それぞれの場所でそれぞれの出来る事をする(という形で親子が繋がっている)中で、 老人の亡き息子の存在を取り上げて「親より先に死んではいけない」と一言入るラストも今作の独自性が特に活きる余地がなく、 せっかく前回、休暇を取った割に帰省しない我夢の姿が描かれたのに(タイミング的に脚本上の連携は難しかったと思われるにしても)、 高山家の微妙な親子関係の掘り下げが特に無かったのは、大変残念でした。
前回が盛り上がりすぎたというのもありますが、色々やろうとした割には、 諸要素がとっちらかったままで連動も収束もなく終わってしまい、今作のアベレージからすると、物足りない内容。
川上脚本だと、ガイアvsアグルの決着へ向けて、前半戦の要素を色々拾って上手くまとめていった第20話は秀逸回だっただけに、 今回は歯車がズレっぱなしで惜しまれます(その前の狼男回はやはり色々ズレていたので、あまり期待値は高く取らない方が良いかもですが……)。
次回――僕らにはまだ筋肉が足りない。
- ◆第29話「遠い町・ウクバール」◆ (監督:原田昌樹 脚本:太田愛 特技監督:原田昌樹)
- 「ウクバールは、どっかにあるんだ。だって、俺の故郷なんだから」
(――あの、永田という名の男は、この世に生まれてからずっと、長い長い夢を見ていたのだろうか。 それとも……永田の言っていた事は、全て本当の事だったのだろうか。)
荒れ果てた廃屋に佇むチーム・ハーキュリーズの吉田は、三日前、幼なじみの友人・庄司と飲み歩いていた日の事を思い出す。
「実はよ……俺今日一日トラック乗ってたんだよ。……宇宙人と」
「…………宇宙人と?」
役者の卵である庄司が、新たに始めた宅配便のバイト先で出会った指導役・永田は、通称「ウクバール」と呼ばれ、 自分は宇宙のどこかにあるウクバールから来たと思い込んでいる、変わり者の中年男性。
「ウクバールという町ではね、いつも風が吹いてるんだ」
丸一日、宅配の仕事中にウクバールについての話を聞かされてうんざりした庄司はつい、 「ウクバールがあるのは永田の頭の中だけだ」と言い放ってしまい、それを反省。酒の愚痴混じりに、 いっそ永田が地球人である事が証明されれば、ウクバールは幻想に過ぎないとわからせる事が出来るのでは、 と“専門家”である吉田に相談を持ちかける。
「地球人の、証明ですか……地球人てことは……」
「そこ、さりげなくサボるな」
「はは……辛い……」
「物事の基本は、体力……!」
その背後にある庄司自身の屈折した感情を慮ってかどうか、吉田は幼なじみの悩みをチームメイト&筋友(きんとも)の我夢に語り、 ごく当たり前のように筋トレしながら頭を絞る4人、ひたすらてかてかする画面がもはや前回より異常高温。
「いやぁ俺、物心ついた時から、なんとなく地球人だったし……」
「俺も誰かから、おまえは地球人だーーーっって教わった事はないし」
30kgのバーベルを持ち上げるのに紛れて、そもそも、存在の証明とは何か? という命題――その点において、人は誰しも、 ウクバール人たりえる――がさらっと挟み込まれているのが好きなやり取り。
乳酸がいい感じに脳細胞に回ってきた我夢は永田の生家を探す事を思いつき、どういうデータにアクセスしているのかだいぶ不安になりますが、 筋トレがハッキングを加速させる事は、藤宮理論が証明済みです。
吉田は、現在は空き家としてそのままだという永田家に向かい、確かにそこで、子供が成長していたという痕跡を確認。 我夢から今の永田が住むアパートを中心に微かな磁場の歪みが観測されているという連絡を受けるとそちらへと足を伸ばし、 職場を無断欠勤した永田を心配してアパートへ向かう途中だった庄司と合流。
「ひょっとして……ウクバールはどこにも無いんじゃないか? ……25年近く、 探しても……探しても……ウクバールの町が見つからないのは……あの町が、俺の頭の中にしかない町だからじゃないのか?」
前夜、庄司の言葉にショックを受けてまんじりともせず自室で考えこんでいた永田だが、風も無いのに室内で風車が回ると共に鳴った電話を取ると、 その向こうから、風車の回る音が聞こえてくる。
「ウクバールだ。ウクバールの風の音だ」
永田はそれを聞いている内にいつしか眠りに落ちていたところを、吉田と庄司に発見されて、目を覚ます。
「夢を見た。ルクーが迎えに来てくれんだよ」
「「ルクー?」」
「俺、ウクバールに帰るんだ」
喜ぶ永田の姿に、怪訝な表情を見合わせるしかない吉田と庄司。
「ほら、ウクバールの風の音が聞こえる」
永田が差し出した受話器の繋がる電話は……どこにも電話線が繋がっていない。
「なんでわかんねぇんだよ……いいかおっちゃん! ルクーなんて居ない! ウクバールなんて町は、そんな町はどこにもねぇんだよ!」
出会ったばかりの永田を心配しつつも、ウクバールの存在を反射的に否定せずにはいられない庄司は、 “いい年(設定年齢は不明ですが、演じる寺島進さんは当時36歳)して芽の出ない役者の卵”であり、 見果てぬ夢を見続ける永田の姿に思わず己の未来を重ねてしまう事で、応援する事も突き放す事もできないのかとは想像できるのですが、 このエピソードの特徴は、そんな庄司の心境は、周辺情報から匂わされるだけで、全く掘り下げて語られない事。
ウクバールの実在も、永田の正体も、それと関わってしまった庄司の心情すらも、一定以上に語られない事で、 エピソード自体が丸ごと幻想と現実の境界線にたゆたう事となり――永田の生家が完全に存在しないのではなく、 記憶の残滓を残した廃屋となっている――というのも、それをより印象深くします。
つまり、信じられるのは自分の筋肉だけ。
……すみません、我慢できずに台無しな事を書きました。
ハイ。
戻ります。
庄司が永田の“目を覚まさせよう”と躍起になる横で、恐る恐る受話器を耳に当てた吉田は、その向こう側に確かに風の音を聞き、 それを庄司にも手渡す。庄司もまた風の音に目を見開いた時、風車を回す風が激しくなり……
「ルクー!」
アパートの窓硝子が砕け散ると、永田が幻視していた巨大な怪獣が、街に出現する。
「ルクー……!」
それを、自分を迎えに来たウクバールの守護者だと信じる永田は、避難する人々をかきわけながら怪獣の元に満面の笑みで走って行き、 敢えて戦闘シーンを盛り立てるアップテンポではないBGMの中、ファイター部隊は怪獣に攻撃を仕掛け、続けてガイアが登場。
ルクーに声を届かせようとする永田は鉄塔を登っていき、それがどこか不安定さを感じさせる斜めの映像で挟まれる、 というのが雰囲気が出て良いシーン。
街への進行を止めようとするも筋肉不足で振り払われたガイアが、背後から光線技を叩き込もうとしたその時、 ルクーが永田の存在に気付き、そして、永田を探していた吉田と庄司は、夕焼けに染まり始めた空に、 不思議な鐘の音が響き渡るのを耳にする。
(ウクバールでは、夕方んなると大きなサイレンが鳴るんだ。そしたら、みんなうちに帰るんだ)
「……まさか」
ガイアも思わず光線技を中断する中、空を見つめた永田は、そこに黄昏の雲間に浮かぶ、塔と風車の町を発見する。
「ウクバール……ウクバール!」
サイレンが鳴り止んだ時、ルクーは陽炎のように姿を消し……
(そしてあの日以来、永田は忽然と姿を消してしまった)
冒頭に戻り、永田の生家を訪れていた吉田は、壁にかかった約30年前のカレンダーの絵が、 永田の幻視していたウクバールそのものだと知る。
(永田は、幼い頃に見たカレンダーの中の町を、自分の故郷だと思い込んでいた、ただの風変わりな男だったのかもしれない。 でも……もしかしたら、ウクバールはどこかに本当にあって、永田はようやく、そこに戻ったのかもしれない)
「あの男には、ウクバールが必要だったのかなぁ」
「……え? ウクバール?」
「遠い町さ」
EDは、逆回しなどを使いながら歌に本編映像を合わせていき、狼男回と同様の手法から、 原田監督自ら演出を手がけているのかなと思われるのですが、前半戦のイメージから我夢と藤宮の関係を想起させる
「ふたり ひきさかれて」
のところで、遠い故郷ウクバールを求めて空を見上げ続ける永田のカットを連発するのやめてくださぁぁぁい!(笑)
しかし、
「君と見つけよう」
のところでカレンダーの絵がアップになるラストが非常に美しく収まり、もはや、 このエピソードそのものがEDの歌詞から構成されていたのではないかとさえ思えてきてしまい、藤宮の事を忘れそうになるという、 恐るべし、原田監督。
そう、藤宮は、ウクバールへ消えたんだ……(ちょっと待て)。
今作の基本となる、破滅招来体との戦い、という要素が完全に切り離された上に、初登場から3話目にしてアグトルニック不使用、 ゲストを除くと、XIG側の登場キャラも我夢とハーキュリーズに絞られる、という思い切った変化球。
刺さるか刺さらないかが人によって大きく別れそうなエピソードではあり、個人的にはツボに刺さってくる部分はあまり無かったのですが、 1年間の作品ならではといった感のある、こういう実験的な変化球の存在そのものは、好きな要素です(同時に、 《ウルトラ》的でもあり)。
ウクバールにしろルクーにしろ永田にしろ、徹底的に解釈は視聴者に委ねる姿勢も美しいですし、繰り返しになりますが、 5−6話時点ではやや“早すぎた”感のあった原田監督の演出も、アクセントとして上手くはまりました。
なお、ラストに出てくるカレンダーがどうして「1966年」なのか、というのが少し引っかかっていたのですが (今作の時代設定を一応1999年と仮定した場合、少年期の永田が目にしたカレンダーだとすると、33年前では遅すぎる)、これは
初代『ウルトラマン』の放映開始年
だと思うと、このエピソードの示すノスタルジーのガイドラインとして、一定の納得。
ウクバール人に帰宅を促すサイレンの音を、“夕方5時の鐘の音”と解釈するならば、そこにあるのは良くも悪くも、 “あの日の幻想”なのかもしれません。それを物語として肯定も否定もせず、美しさよりもむしろ寂しさをともなって描いたのが、 一風変わったエピソードでありました。
敢えて個人的に、今作の世界観に収める解釈をするならば、永田の幻想が真実かどうかはさておき、 ワームホールと永田の強い思念が接続する事で、ルクーとウクバールは量子的に観測された、と言うことは出来そうですが、そう思うと、 永田というのは実は“早すぎたアルケミースターズ”であったのかもしれません。
我夢がガイアと、藤宮がアグルと、未来がアネモスと交感したように、それよりもだいぶ以前に、ウクバールと繋がったのが、 永田であったのかな、と。
……もしかしたら永田と同年代の人々を調査すると、世界的にそういった体験者が複数居るのもかもしれず………………てあれ、 見た目からはなんともいえませんが、もし、永田とコマンダーが同年代であった場合、コマンダーもまた、 “篆書体を使う何か”と繋がっている可能性がある?!
我ながら、幻想的なエピソードの余韻をブルドーザーで破壊しに行っていますが、 ここから何かと思わせぶりなコマンダーの背景に繋がって、「30年前、地球には今とは別の形で破滅の危機が訪れかけていた。その時、 地球が生み出し、しかし結局は使われず仕舞いに終わった者……まあ言ってみれば、“アルケミースターズのなり損ない”なのさ、 俺は」とかなったら、個人的には大変ツボに来るのですが(笑)
「我夢、今こそお前に見せよう。20年前、ガード設立に深く関わり、そして封印された力。 俺達の誰もが制御する事ができなかった最強のウルトラマン――ガオウの力を!」
「こ、これは……これは、なんて美しく鍛えられた三角筋なんだ!」
「そうだ我夢。俺がおまえのXIG入隊を認め、それとなく筋トレの勧めを送り続けてきたのは、全てこの日の為だったのだ。 今のお前なら、ガオウの筋肉と一体化できる筈だ!」
「こ、コマンダー……!」
そろそろ止めます。
というわけで次回――本格的な宇宙怪獣襲来!
で、迷宮のリリア回で妙に推されていた敦子の姉が再登場。割といきなり挿入されていた「夫は既に亡くなっている」 辺りが拾われるのか?! 個人的には、梶尾さんとフラグが進行してくれてもOKです!!
- ◆第30話「悪魔のマユ」◆ (監督:原田昌樹 脚本:増田貴彦 特技監督:原田昌樹)
- エリアルベースの廊下で謎のイメトレに励んでいた我夢、梶尾リーダーに花束を渡し、全力で引かれる。
……ま、まあ我夢、梶尾さんのこと大好きだしな、と納得しかけた所、ブリッジ手前の廊下では、敦子が何やら恥ずかしそうにもじもじしていた。
「我夢のやつ……うまく渡してくれたかしら」
相変わらずサッカー部の女子マネ路線の敦子、モーションのかけ方が女子中学生レベルですが、こんなところで、 病弱で引っ込み思案で友達居なかった設定が拾われていると思えばいいのでしょうか。――だがその正体はゲーセン荒しの新宿アッコ。
世が世なら、メガレンジャーに選抜されていた逸材かもしれません。
通りすがりのコマンダーが不審な様子を気にして敦子の顔を覗き込もうとし、セクハラ事案で査問会議3秒前のその時、鳴り響く緊急警報。
「梶尾さん、これお願いします!」
我夢は距離を取りたそうな梶尾に花束を押しつけるとブリッジに走り、俯瞰で映したエリアルベースからカメラを大きく宇宙空間まで引いていくと、 月の向こう側から迫る未確認飛行物体、という今作これまで無かった絵作りで、相変わらず色々と仕掛けてきます。
「ゴキブリと毒蜘蛛が合わさったような……」
「決めた! 怪獣名はゴキグモン!」
「ちょっとぉ!」
「それで行こう」
「コマンダー」
ウルフガス並に雑なネーミングを適当に承認するコマンダーに顔をしかめて抗議する堤、 というのもこれまでになかったラインの演出ですが、この後の怪獣も、熱波回の炎山のようにコメディチックな動きを見せる場面があり、 後半戦に入って少し、作品全体として見せ方の試行錯誤も窺えるところです。
迎撃に出たチーム・ファルコンだが、怪獣の急加速に圧倒されてしまい、ファルコンを引き離した怪獣は東京に上陸。 口から粘糸を吐き出すとビルをまるごと一つ繭のようにしてしまい、その中に運悪く、敦子の姉・律子と、 同行していた少女が巻き込まれて閉じ込められてしまう。
「もしかしたら、あのビルに巣を」
生存者の救出に向かったチーム・シーガルと我夢は、怪獣に麻酔弾を撃ち込むと、ビルの中へと突入。 2階に取り残されていた作業員3人を救出し7階へ向かう神山リーダーだが、救出作業の途中で怪獣が目を覚まし、やむなく、 律子の言葉もあって少女だけを救出して一時撤収を余儀なくされる。
目を覚ました怪獣は巣を修復すると次々と卵を産み付けていき、巣の前に座り込んだり麻酔弾を受けてこてんと転がる動作がコミカルな一方、 粘液系の映像の方は結構グロテスク。
また、白い粘糸に体のほとんどを覆われている・ストレートロングでやや薄幸系美人という容姿・ 身動き取れない状態で表情だけで演技する必然性からの虚ろな視線、が合わさった結果、 律子さんが若干以上に白装束の幽霊めいて見えてちょっとホラー。
ジョジーが繭の成分を分析し、可燃性が高い事が判明するが、内部にはまだ、律子が取り残されている。 だがあと1時間で100以上の卵が一斉に孵化をし、その前には宇宙怪獣が立ちはだかっている……神山が律子に渡したナビに反応はなく、 律子の生死も確認できないまま刻一刻とタイムリミット迫る中、一人の命を尊重すべきか、 多数の命を守る為に非情な決断を下すべきかを迫られるXIG。
なんとか律子を救出しようと検討する我夢&シーガルは、現場近くでたまたま、律子が亡き夫に供えていたドライフラワーを発見。 それが、敦子が我夢を介して梶尾にプレゼントしようとした花束――姉が作ったと自白――と同じ作者のものだと気付いた我夢は、 律子救出の決意を強めるが、ドライフラワーを見て同じ作者のものだと気付く我夢にそうとう無理がある上、 救出の決意に関しては屋上屋を重ねた感があり、 このドライフラワーが怪獣を遠ざけて律子を救出する第二次突入作戦の鍵にでもなるのかと思ったら全くそんな事もないので、 布石も含めて敦子話と律子話を両立させようとした結果、挿話の構成をややこしくしすぎてしまった気がします。
遂にコマンダーは、ファイターにファイヤーボムを搭載・出撃を命じるが、要救助者の生存を信じ、行動しようとするシーガル。
「突入しましょう。俺達はレスキュー隊です。見殺しには出来ません!」
「レッツゴー!」
「僕も行きます!」
「やめろ! ……命令に従うんだ」
だが二次遭難の可能性を増やすわけにはいかない、と神山は苦渋の決断で部下を止め、出撃するチーム・ライトニング。
「北田、大河原は後方で待機! ファイヤーボムは――俺が撃つ!」
重荷を背負う覚悟を決めた梶尾は、ビルに向けて照準をセット。
「……こんな事させちゃいけないんだ。……ガイアーーー!」
超越ではあるが万能ではない、というのは今作におけるウルトラマン(ガイア)の力の位置づけですが、 我夢&シーガルがこれといって策の無いまま手をこまねいているばかりだったので、ここで我夢が変身してしまうのも、 どうも劇的にならず。
〔ドライフラワーから何か作戦を閃く → 実行するが何かトラブルで惜しくも失敗 → ガイア変身〕ならスッキリしたと思うのですが、 “人事を尽くす”シーンを上手く描けないまま、“天命が訪れて”しまい、《ウルトラ》シリーズにおいて、 うまく誤魔化さなくてはいけない部分を、誤魔化しきれずに剥き出しにしてしまった感(結果的にどうか、よりも、 その過程でどうするか、が《ウルトラ》シリーズの話作りのポイントだと思うので)。
ライトニング01の前に立ちはだかるかのように出現するガイアだが、いきなり怪獣の粘糸を浴びて繭に閉じ込められてしまい、 卵の孵化まで残り時間は3分。
「梶尾……」
「俺がやらなければ」
120%不審者だった、律子との出会いとその後の会話を思い出しながらもボムを撃ち込む梶尾だったが、発射されたミサイルは、 まさかの、怪獣が撃墜。
斜め上すぎる惨劇の回避に目が点になりましたが、この流れ弾による延焼をシーガルマシンが消火活動にあたり、 スペクタクルの焦点やチーム・シーガルの心情が、真横に3kmほどスライド。
消火特撮がノルマだったのか単に入れたかったのかはわかりませんが、敦子なのか律子なのかといい、 梶尾なのかシーガルなのかといい、盛り込んだ要素がエピソードのクライマックスで集約されるどころか、 むしろドンドンとっ散らかってしまう事に。
ビルの横に回り込んだ梶尾は律子の姿を視認し、ガイアはアグトルニックして内部から繭を粉砕。 挿入歌が流れ出してガイアは怪獣を迎え撃ち、その促しを受けた梶尾がビルの中へとダイビング突入する姿は格好良かったのですが、 本来のレスキュー要員が組織人としての判断を下さざるを得なかった後で梶尾がおいしい所をさらっていく、 というのは『ガイア』的にはどうも釈然としません。
繭を引き裂き、律子を抱き留める梶尾、というのは、個人的には大変ニヤニヤできる展開ではありましたが!
畜生! だから! 僕の! マネージャーは! いつ量子的に! 観測されるんだ!!と怪獣に連続キックを浴びせるガイアは、 コンボを締める脳天へのチョップを口のハサミで受け止められてしまうが、筋力で強引に振り切ると、頭部への打撃から拳のラッシュを叩き込み、 最後は地球の隙間ビームで爆殺。
律子を助け出した梶尾機の離脱後、待機していた北田機と大河原機がファイアーボムにより巣の焼却に成功し、 地球ゴキグモパニックは、なんとか回避されるのであった。
――一夜明け、病室。
「なぜナビで助けを呼ばなかったんですか?」
律子は人事不省に陥っていたのではなく、敢えてナビを使わなかったのだと梶尾が見抜いていた、というのは成る程という展開。
「…………私ひとりのために、大勢の人が犠牲になる。そう思ったら……。それに……あそこは主人が死んだ場所ですから。 なんだか……あの人に怒られるような気がして。……あの人、防衛隊のパイロットでした。あそこで怪獣と戦って、亡くなったんです」
死にたがり、とまでは言いませんが、どこか、死者に引かれている雰囲気を律子が窺わせ、リリア回で口にされた背景と上手く接続。
「…………自分は、あなたの居るビルを焼き払おうとしました。言い訳はしません。それが任務ですから」
「あの人がもし生きていたら……きっと、同じ事していたと思います」
自らを罰し、律しようとする梶尾の背に対し、半身を起こした律子は救いをもたらす言葉をかけ、 だが無言でそのまま病室を出て行く梶尾。視線を落とす律子のアップがしばらく映された後、 廊下で待っていた我夢と敦子に声をかける事なく歩み去る梶尾は、どこでいつの間にやら手に入れたのか(我夢に押しつけられたやつ?) 一輪のドライフラワーを見つめ……なんですかこれは?! ここ引っ張るの?! リリア回と脚本が違うので原田監督が責任持って続けてくれるんですか?!
と、私大興奮、でつづく。
……えー、まさかの本当に、梶尾と敦子姉のフラグが立ってしまいましたが、 このまま何事も無かったかのように流されてしまわない事を祈りたいと思います。 出撃前の梶尾に声をかけるが集中していたにしろ今回も無視される敦子と、救出〜病室でのくだり (そもそも梶尾さんがこんなに普通に会話を交わしている相手の存在が、我夢以外では初疑惑)、 出撃時に律子との出会いは思い出すが同僚でその肉親の気持ちについては全く思い浮かべない梶尾、 という対比が鮮明すぎてエグい事になっていますが、 敦子さんのヒロイン力の低さに全パラレルワールドが泣いた。
敦子の梶尾への憧憬が引き続き取り上げられた事自体は嬉しい一方、全体としては完全に律子話なので、 敦子の梶尾への感情が物語内でプラスに働く事はこれといってなく、敦子と律子が直接絡む事も無い為に両者の感情も宙ぶらりんで、 欲張って盛り込んだ要素が使い切れずにちぐはぐになっているのですが、上述したように、もう一つちぐはぐになっているのが、 シーガルと梶尾の扱い。
上層部の命令に従い、律子救出を断念した神山リーダーは、「梶尾に同僚まで焼かせない」事を選ぶ代わりに、 「要救助者を救えなかった」泥を被る事を選び、結果的に律子が救われた事で「梶尾が泥をかぶらなくて良かった」事を喜ぶのですが、 その前段階としてもう少し「梶尾が泥を被らないように」ギリギリまで粘る姿を劇的に見せて欲しかったです。つくづく、 我夢とシーガルが途中から現場付近で待機状態になってしまったのは残念な描写で、ドライフラワーの挿話が欲張りすぎたと思いますし、 加えてこれだと、救助を断念した神山リーダーの心がほんの部分的にしか救われません。
もっとも、神山リーダーは恐らく、そういった経験を何度も何度もしてきた人であり、その重荷を背負っていける人、 という事なのでしょうが、例えば、神山が救出作戦を閃くがそれは梶尾の操縦技術でなければ実行できない、とか、 神山が備えとして現場に残したあるアイテムが梶尾による救出の決め手になる、とかであれば、「梶尾が律子を救出しつつ、 神山もそこに関与できた」と思うのですが、そういう工夫で、もう少し、神山リーダーの気持ちも、救ってほしかったなと。
その辺り、ガイアになる以外に何も有効な手段を思いつけなかった我夢も、救助断念を割り切って飲み込んだ神山も、 一度はファイヤーボムを撃った梶尾も、撃たれる事を受け入れてしまえる律子も、 姉の救助に何も手を尽くせず梶尾に二度も無視された敦子も、全員が全員、救われない部分を残したエピソードだと見ると、 トータルで意図的であったのかもしれず、増田さんが参加していた東映<レスキューポリス>シリーズ的なやるせなさ、 として納得できる面も部分的にはありますが。
とはいえ1エピソードとしてはもう少し要素の連動が欲しく、出来としては残念な部類でしたが、 期待を遙かに超えた梶尾×律子が個人的に大変ストライク(今回の梶尾さんは、いつもより二割増しぐらいイケメンに見えた)なので、 とにかく各方面に責任を取っていただきたい所存です。
次回――まさかのガンQ、というかなんか、浮いている?!
……藤宮との決着が付いて更にシリアスになっていくのかとばかり思っていたのですが、どちらかといえば小休止、 前半戦から拾いたいネタなどを制作陣が拾っていく期間になっているのでしょうか、今。そこで物語のバリエーションを出せるのが、 強み、でありますが。
ところで3回目ぐらい?の登場になるサブオペレーターの女性は、声質と演技による緊張感の破壊ぶりがなかなかのものなのですが、 思えばリリア回以来の登場な気がするので、原田監督枠……? そして何故また、ショートボブなのか。
(2020年3月30日)
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