■『ウルトラマンガイア』感想まとめ4■


“こころのマグマが 目覚めたら
大地と共に 立ち上がるぜ”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『ウルトラマンガイア』 感想の、まとめ4(19話〜24話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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◆第19話「迷宮のリリア」◆ (監督:原田昌樹 脚本:長谷川圭一 特技監督:原田昌樹)
 「やっぱり、生きる世界が違うのね……」
 故人曰く、下りた梯子は登らなくてはならない。
 藤宮博也によるエリアルベースへのテロ攻撃において、梯子の往復で散々な目に遭った敦子は、 この筋肉上位世界で自分はやっていけるのか……2年任期のエリアルベース配属を更新するかどうかを改めて悩んでいた。
 折しもエリアルベース上空には金色の粒子が漂っており、敦子の迷いに付け込むかのようにブリッジへ伸ばされる魔手。 電子機器を通してサイコメザードの干渉を受けた敦子は、不意に少女時代の記憶に支配されると、夢のような不思議な世界の遊園地で、 非現実めいた黒衣の少女に話しかけられる……。
 悩める敦子の回想において、「お疲れ様です!」と挨拶しても無視される、 本当にあった深い溝は梶尾さんが単純に感じ悪いだけなのですが、梶尾さんは、基本的に女嫌い(苦手)設定なんでしょーか(笑)
 序盤は我夢の対人関係の問題点が描かれていた今作、我夢が落ち着いてみると梶尾さんの、 「俺は俺のフィールドで認めた奴以外は道ばたの石として扱う」スタイルが大変悪目立ちする事になってきているのですが、相対的に、 間に入って調整役のできる堤チーフが段々と人格者に見えてくる筋肉マジック!
 閉鎖空間の人間関係は重く、それを円滑にする為に求められた共通の理想――それが、それこそがマッスル。
 上層部では、敦子の筋力不足、もとい、更新手続き保留を憂慮中。
 「彼女は有能なオペレーターです。エリアルベースには必要な人材だと自分は考えますが」
 「私もそう思う、だが……我々が今直面している状況は、XIG結成当時の予想を遙かに上回ってしまった」
 「はい。確かに楽観的観測は許されません」
 「……こういう時期だからこそ、個人の意志は尊重すべきだ」
 敦子の客観的評価とXIGの置かれた現況を自然な会話の中に収め、前回エリアルベースが直接危機に陥る、 という流れとも綺麗に繋がり、良いやり取り。
 『ガイア』は平均して要所要所の大人の会話の配置が上手く、わざとらしい説明シーンになっている事が少ないのは長所の一つ (「説明され」シーンになってしまっている事は、ありますが)。
 「私……いつ自分の部屋に?」
 ぼんやりとしながら目を覚ました敦子の枕元ではメリーゴーラウンドを模したオルゴールが鳴り響き、 PCモニターに並ぶLiliaの文字。部屋に飾られた写真には、少女時代の敦子と、 ゴシックロリータ風ファッショに身を包んだ夢の中に出てきた少女が並んで座っており…… 再び夢うつつの世界に迷い込んだ敦子のオペレーションミスにより、ライトニングの2機が接触・墜落してしまう。
 敦子を襲うなんらかの異常としてメリーゴーラウンドを中心とした幻想的な遊園地の情景が繰り返し挿入され、 vs藤宮編が一つのピークを迎えた直後のインターミッションの面もあるとはいえ、非常に大胆なメリハリの付け方。原田監督は丁度、 本格的な藤宮編の直前となる狼男回もメルヘン風味の演出で異彩を放ちましたが、一風変わったトーンの交え方が、 『ガイア』全体の中で良いアクセントになってきました。この辺り、脚本サイドから原田監督への信頼感、というのも見えるところ。
 5−6話の時点では、作品の現在地と演出が噛み合っていない気がして引っかかりが強かったのですが、11−12話そして今回と、 物語の流れの中で存在感が良い方向に転がってきて、原田監督の演出がかなり気に入って参りました。
 敦子は地上で謹慎処分となり、金色の粒子をばらまいて消えたワームホールを追跡するXIGでは、 本編開始から9分経ってようやく喋った我夢が、ファイターに付着していた粒子の特性を分析。……今回このまま、 我夢が喋らずに通すのではないか、とドキドキしていました!(笑)
 メザード粒子には、電子機器の攪乱のみならず、大気中の電磁波と反応して特殊な電気エネルギーを放出、 人間の記憶に関わる神経組織を刺激して、ある種の幻覚作用を誘発する作用があり、 敦子の様子がおかしかった原因に気付いたジョジーと我夢は、敦子の部屋に残された、Liliaの文字を確認。 ワームホールの追跡を続行すると共に、連絡のつかない敦子を心配する。
 「アッコの保護は……あの人に頼んでみよう」
 「あの人って?!」
 画面切り替わると、地上をXIGカーで走る梶尾@部下2人が負傷療養中で余剰人員。むすっとした顔でハンドルを握る梶尾は、 空での出来事を思い返す。
 「問題は、彼女の精神状態です。今は一番信頼できるにんげ」
 「だからそれがなぜ俺なのかを聞いてるんだ!」
 我夢の素で朴訥な感じや、藤宮の突き放した一人語りなど、今作割と、役者さんの演技(力)にキャラを寄せていく傾向が見えますが、 梶尾さんは時々、突っ慳貪な物言いが絶妙にはまる時があって面白い(笑)
 「……僕は梶尾さんを尊敬してます。でも、嫌いなとこもある。それは、人との間に距離を取り過ぎる事です」
 我夢の上げて下げて下げる直球3連投に押し負けた梶尾@部下2人が負傷療養中で余剰人員はかくして地上に降りる事となり、
 「――おまえに言われたくないな」
 と、ハンドルを握りながら呟くのが素晴らしかったです(笑)
 ここまで、〔ガイア誕生 → 環境テロリスト登場 → 『ガイア』とはこういう作品です → vs藤宮〕という流れだった今作、 キャラクターとしての怪獣の魅力が溢れる一方、個々のXIGメンバーに関しては浅く広くという扱いだったのですが、 インターミッションをキャラ回に使って敦子をフィーチャーするばかりでなく、そこに梶尾さんの掘り下げも加えてくれたのは、 大変嬉しい展開。
 まずは敦子の自宅を訪れた梶尾だが、チャイムを鳴らしても不在で舌打ちしていた所に帰宅する敦子姉。
 「あのー……」
 「あー……すいません、いや、別にあの、え、はい、どうぞ」
 慌ててドアの前から退き、何故かそのまま住人の斜め後ろに立っているという、絵に描いたような不審者(笑)
 この人やはり、某海堂さんばりに女子への免疫が無いだけの気がしてきたのですが、制服着てきて良かったな!
 「え、自分は、あ、うん、僕は、えー……敦子さんと、XIGで、同僚の……」
 「もしかして……梶尾さん?」
 「え?」
 職場にクールで素敵な先輩が居る、と敦子が姉に話していた事が判明し、梶尾、若干動揺。
 いや待て梶尾、落ち着くんだ梶尾。
 米田さんの事かもしれないぞ!
 一方、エリアルベースでは我夢がクラゲの潜伏場所を絞る事に成功し、 推定地域の電波管制を行う事でワームホールをあぶり出す作戦がスタート。梶尾は敦子姉から、 少女時代の敦子が病気がちで友達が居なかった過去を聞かされ、「遊園地に行けば、リリアに会えるかもしれない」 という言葉をヒントに向かった遊園地で、何も無い空間を見つめながら楽しそうに笑う敦子を発見する、と二つの状況が同時進行。
 「私ね、これからリリアのおうちへ遊びに行くの」
 「リリアなんて居ないわ!」
 「何言ってるよお姉ちゃん。リリアなら、ここに居るじゃない」
 幻想の中で少女時代に精神退行した敦子は黄金の巨大リリアを召喚し、ワームホールから出現して今日も炎上墜落したクラゲは、 骨怪獣へとフォームチェンジ。基本デザインは前回登場時(携帯電話回)と同じながら、胴体に彫刻風の気持ち悪い顔が付き、 この分だと、痛快・サイコメザードぐらいまで盛られていくのでしょうか。
 チームファルコンの苦戦に我夢はガイアに変身し、遊園地のイルミネーションを手前に戦う夜戦が、映像も美しくて格好いい。
 「リリアだけが、私の事を理解してくれるわ」
 「違う! おまえと俺は同じ世界に住んでる! その世界を守る為、一緒に戦ってきたんじゃないのか! そうじゃないのか?!」
 梶尾はサイコバリアに弾かれながらも懸命に敦子へと手を伸ばし、姉の指摘により、 リリアとは少女時代になくしてしまった人形である事を思い出す敦子。梶尾さんが《説得》ロールで大変いい目を出したにも関わらす、 やたらと台詞の多いお姉さんが最後の一押しを横からかっさらってしまうのですが、梶尾と敦子にこれといった関係性の積み重ねが無いので、 ここで梶尾の言行だけで解放されてしまうのは、説得力に欠けるという判断だったでしょうか。 実際の出来上がりでだいぶ印象が変わりそうで、IFとしてはどちらが良かったか悩ましいところ。
 敦子が正気に戻って気絶すると黄金のリリアはかき消え、その影響か動きが止まったメザードの隙を突いて懐に飛び込んだガイアが、 会心の左上段蹴り、から遠心力を利用して右回し蹴りを胴体に叩き込む(潰れる顔の映像がえぐい)というのが、 非常にスピード感があって格好いい連続攻撃でした。
 ガイアは弱ったメザードをがに股ショットで焼却し、この発射時のエフェクトがまた格好良く、 映像の美しさも含めてアクション的にも大満足の見応え。
 かくしてガイアは空へ、敦子も無事に救出され、EDパートのエリアルベース。
 「梶尾さん、ありがとうございました」
 「空っていいよな」
 「え?」
 敦子に背を向けて窓の外を見つめたまま呟き、そういうの格好いいと思っているの梶尾ーーー?!
 掘り下げが進んだ途端に、藤宮に近づいたぞ梶尾リーダー(笑)
 我夢よりもむしろ、梶尾リーダーが藤宮と友達になれそうな気がしてきましたが、或いは我夢は、 こういうタイプの人になつきがちな傾向があるのかもしれない(光量子コンピューターの先行研究をしていた人、 という事なのでしょうが、初対面の時は藤宮に対して憧れの人めいたオーラを出していましたし)。
 「俺は飛行機乗りだから、いつも早く飛ぶ事ばかりを考えてきたんだ。……でもな、早く飛んでばかりだと、 近くにある大切なものが見えない事もある」
 「梶尾さん」
 「……これからもよろしくな」
 「……こちらこそ!」
 照れくさげに咳払いをしつつも二人は何だかいい雰囲気を醸しだし………………それを廊下から恨みがましい視線で見つめる、 負傷したライトニングメンバーの二人(笑)
 「はぁ〜……梶尾さん」
 梶尾×敦子は完全に、サッカー部の唯我独尊エースストライカー×女子マネージャー、の関係に落ち着くのですが、 前回ドキドキしていた科学部の天才転校生(高山我夢)の存在が、ちょっと可哀想(笑)
 「米田さんも結構、いい人だぞ」
 そして、怪我から帰ってきたら部室の雰囲気がピンクがかっていて、野球部(チームファルコン)への転部を検討する、 冴えないディフェンダーの二人であった。
 「……がんばろうな」
 本編から墜落シーンと米田さんのシーンが挿入され、とぼとぼ去って行くライトニング02と03、 というこれまた狼男回に続く遊び心たっぷりなED映像でオチ。
 ガイアvsアグルが物語の中心になっていく中で、一旦、我夢×藤宮の関係から離れ、 一息入れるエピソードをXIG内部の人間関係を掘り下げるキャラ回に利用。演出も含めた大胆なトーンの変化で全体の流れにもメリハリがつき、 大変いいタイミングでした。
 事務的な役割に終始しがちなオペレーターコンビへのスポットライトも、うまいこと前回からの綺麗な流れになりましたし、 我夢×敦子や我夢×梶尾だけでなく、敦子×梶尾という線を引く事で、立体的になったのも非常に良し。 予告から敦子フィーチャー回だとばかり思っていたので、梶尾の方まで掘り下げてくれたのは望外で、充実の内容でした。
 難を言えば、ただでさえ容姿やポジションが被り気味の敦子と玲子が、過去設定まで被り気味になってしまった事ですが、 ホントこの二人はどうしてこういうキャラ付けなのか……もしかして敦子は、玲子の反物質なのか?!
 そして、どんどん無敵キャラと化していくジョジー(頭の回転が速く・行動力があり・工学系に明るく・ 最新の研究もチェックしていて・発想の転換力を持ち・周囲に目配りと気配りが出来て・少なくともバイリンガル……という、 現時点で最前線部隊のエリート隊員を最も体現しているのがジョジーなのですが、裏を返せば敦子もこのぐらいのスペックの持ち主なのか)。
 敦子の心のひだをめくる幻想的な映像に尺を割きつつ怪獣バトルの方もおろそかにならず、脚本と演出のバランス、 濃密な内容、という二点においては、ここまでの『ガイア』でも上位に入る印象。またまたメザードなので基本情報の説明は省ける、 というテクニックは用いていますが、人間の心理的陥穽を突くといういやらしさを存分に振るった上でクライマックスの二局展開も盛り上げ、 特に戦闘シーンの映像美は大変秀逸でした。
 藤宮のエリアルベースへの直接攻撃、それぞれの技能を活かすXIG各員の奮戦、 ガイアvsアグルの直接対決による力の入った等身大バトル、 という盛り上がる要素満載できっちり盛り上げてきた前回とはガラリと雰囲気を変えながらも非常に見応えのある面白さで、 『ガイア』の懐の深さを感じた一本。
 次回――遂に藤宮とハーキュリーズが直接対決?!

◆第20話「滅亡の化石」◆ (監督:原田昌樹 脚本:川上英幸 特技監督:原田昌樹)
 チーム・ハーキュリーズの吉田リーダーは、恐竜やマンモスなど絶滅した古生物に関心があり、 今までに類例を見ない恐竜の卵の化石が発見された、というニュースに興味津々。
 ハーキュリーズの漲る筋肉に囲まれ、本日も弾薬積み込みの手伝いに駆り出される我夢@僕を支えてくれるマネージャーはどこ、 の図から同じニュースを見ながら筋トレに励んでいる藤宮のシーンに移行して、大爆笑。
 ニュースの内容に興味があるのか、玲子さんの出演番組をチェックしているだけなのか、凄く悩ましいのですがともかく、俺の!  大胸筋に! 地球のパワーが溜まってきただろう!
 「絶滅……?」
 発見された卵の化石には別の生物が寄生していた、という研究者の解説に反応する藤宮……日課の筋トレに合わせて、 玲子さんの出演番組をチェックしていただけだな藤宮!
 「何億もの時の間……地球に君臨してきた生物が絶滅する。たとえそれが、自然環境の異変によるものであっても、 不可解な事だと俺はいつも思うんだよ。それがいつか、人類にも訪れるんじゃないかとね」
 「吉田さん……」
 かつてアルケミースターズの古代生物学者・浅野未来が指摘したように、地球史上で繰り返される大規模絶滅とは、 地球の選択による必然なのか……? 藤宮の呟きから吉田の言葉に繋げ、 破滅招来体の脅威にさらされる人類の現状に思いを馳せかける我夢に炸裂する、突然のヘッドロック。
 「な、何するんですか?!」
 このボディランゲージの面倒くささ、個人的には近くに居たら絶対嫌なのですが、 劇中における我夢との好対照ぶり(その上で我夢を気遣っている大人の視線)は、凄く効果的で面白いので困ります(笑)
 「いやー、ガラでもねぇ台詞吐いたら、気持ち悪くなっちまってよ。お、その日のために、体を鍛えておこうか」
 そう、筋肉があれば世紀末だって乗り越えられる筈。
 「じゃあトレーニングルームに、行ってみようか!」
 「3人は脳味噌鍛えましょうよ!」
 我夢、勢いに任せて凄く酷い事言ったぞ(笑)
 しかし我夢が、こういうタイプの軽口を叩ける相手、という意味でも、ハーキュリーズは貴重な存在感。
 化石卵に興味を持った藤宮が、身分を偽装して研究所に潜入している頃、筋トレをくぐり抜けてまた一つ成長した我夢は、 食堂でラーメンを前に考え込んでいた。
 (今日こそ、バナナ味のプロティンバーに挑戦してみるべきだろうか……いや、しかし)
 じゃなくて、
 (ある環境を支配してきた生物が、一斉に淘汰される。それが地球の意思……? いや、それが破滅招来体の襲来によるものだとしても、 その要因となるものは……?)
 ――今の人類は、自然の頂点に立つには自己中心的すぎる。
 「頭だけで考えても、人は救えない」
 藤宮の言葉が去来したその時、梶尾に後頭部をはたかれた我夢は、怪獣はなぜ出現すると思うのか、を梶尾に問う。
 しばらく考えた梶尾は「わからん」という言葉の後に、怪獣も地球の生物ならば人類の都合で無碍に殺すのをどうかと思う事もあるが、 実際にその怪獣によって涙を流す人達が居るのであり、戦闘機パイロットとしてはその人達の事だけを考えるようにしている、 と軍人としての信念を述べ、感銘を受けてキラキラとした眼差しを送る我夢(笑)
 今回、絶滅した古代生物絡みという点も含めて、第8話「46億年の亡霊」(脚本:武上純希) を意識して繋げたのかと思われる節が幾つか見えるのですが、「人が滅びていい理由」と「人を救いたい意志」は別に存在していい筈だ、 という事が示唆されており、第8話における浅野未来に対する我夢の言葉、
 「人類に、彼らを消してしまう権利なんてない筈よ!」
 「だけど、破滅させられる理由もない!」
 という意志が、我夢のスタンスの軸として再確認されます。
 研究所へ潜り込んだ藤宮と、ジオベースからの報告を受けた我夢は共に、 「発掘された恐竜の卵に寄生している生物は仮死状態でまだ生きている」事を知り、 研究所を訪れた我夢は藤宮の残した暗号メッセージを受け取る。それを解読した我夢は、 駐車場で車のトランクに押し込められていた本物の助教授(藤宮が成りすました人物)を救出。 この助教授がやたらとコミカルに演出されるのですが、クレジットに右田昌万さんの名前があり、カメオ出演だったりしたのでしょうか。
 続けて、壁にウルトラマン関連の記事が所狭しと貼り付けられていてだいぶ気持ち悪い藤宮のトレーニングルームに辿り着く我夢だが、 そこでは既に卵から寄生生物の遺伝子を入手した藤宮が待ち受けていた。
 「こいつの遺伝子は、とても不可解なものだ。その環境により植物的にも動物的にも、その姿を変化させる要素がある。 云うなれば……絶対生物」
 そうかその名称は、君のセンスだったのか藤宮。
 「こいつの名前は、ゲシェンクと名付けた。ドイツ語で、贈り物。いい名前だろ?」
 研究所では、卵の化石から流れ出す、ゲル状のゲシェンク。
 「これは記念に取ってあるだけだ。俺が手を下さなくても、ゲシェンクは勝手に目覚め、勝手に行動する」
 藤宮の言葉に呼応するかのように、零れ出したゲシェンクは、二足歩行の巨大な怪獣の姿で、現代へ顕現。
 「人類の数をある程度調整したら、ゲシェンクは次に、破滅招来体を迎え撃つ。そして全てが片付き、存在理由が無くなった時、 再び長い眠りへと入る」
 強いなゲシェンク!
 破滅招来体を相手には、それに適したフォームにチェンジするという事なのでしょうが、そこまで信頼していいのかゲシェンク(笑)
 怪獣出現の報告を受けた我夢だが、藤宮に腹パンを受けて気を失い、 目を覚ますと…………トレーニングマシンに縛り付けられていた(ひぃ)
 これどう見ても、目を覚ますと不条理にデスゲームを仕掛けられていた系の状況なのですが、 おまえが一分間に何回マシンを動かせるかで、助かる街の数が変わるのさ我夢ぅ……!
 今、高山我夢の、筋トレの成果が試される!!
 「梶尾さん、吉田さん、堤チーフ……見て下さい、俺の筋肉!」
 ちなみに藤宮愛用のトレーニングマシンの名称がわからなくて色々と調べたのですが、どうやらバタフライマシン(ペクトラルフライ) と言う模様。マシンの色々な写真を見る感じでは、藤宮はホームジム(1台のマシンで20ぐらいのトレーニングが出来る! 的な家庭用マシン)を使用しているのかと思われ、藤宮のお陰で一つ賢くなりました。
 「ゲシェンクの復活も、破滅招来体の出現も、全て人類が呼び起こした事だ。結局人類は増えすぎたんだ。大いなる淘汰を、 人類自身が求めているんだよ」
 すっかり悪役路線の藤宮は、誇大妄想的な言葉と共に我夢の変身アイテムを奪い去ると、 それを机の上に置いてアジトを後にしようとする。
 「悪いな、我夢」
 ここで、立ち去る藤宮がホームジムに自動制御マシンを組み込んでいて、我夢が強制筋トレを行う事になったら個人的には大変面白かったのですが、 『ガイア』的には多分ダメだったので、藤宮に人の心が残っていて良かった。
 「僕は、誰も失いたくない。奪われたくもない。……藤宮! 君には居ないのか?! 失いたくない人が、誰も」
 我夢の叫びに、ハムスター・稲森博士・玲子さん、を順々に思い出した藤宮は足を止め、目が泳ぐ。
 「君は、地球の為を強調するが、一番簡単な方法を取ろうとしているだけだ。もっと悩んで、もっと苦しめば、 地球も人類も、全てを助ける方法がきっとある」
 藤宮にも藤宮の煩悶があった末に、自分を地球の意思の遂行者と割り切る事で、ある意味では諦めの境地に至っているわけですが、 我夢がそんな藤宮を全否定するのではなく、藤宮にも出来るなら別の方法を取りたい意志がある筈だ、 と信じている――正義とか良心というよりも、藤宮の中にまだきっと残っているであろう ギリギリまで踏ん張る「人間」である事そのものに呼びかけている――というのが、悩み続ける我夢の言葉としてもふさわしく、 大変良かったです。
 正義や正解に簡単に辿り着けないかもしれないが、迷い、足掻き、ギリギリまで藻掻きながらより良い答を見つけだそうとする事に 「人間」の意味があるのではないか、というのは好みのテーゼですし、玲子さんの「人の存在理由って誰が決めるのよ!」 (第13話/脚本:長谷川圭一)・「人間は死を待つためになんかあるんじゃない。今なにをしようか、 今どうしようかって精一杯生きていく。人間はその為にあるんじゃない」(第15話/脚本:右田昌万) といった藤宮への言葉とも接続して、川上さんがこれまでの要素を色々と拾い集める良い仕事。
 結局は無言のまま立ち去っていく藤宮の、ちょっと悲しげで寂しげな表情も素敵でした。
 一方、怪獣に立ち向かうチーム・ライトニングは、間の抜けた効果音とは裏腹に高い誘導性能と破壊力を兼ね備えたゲシェンクボールに追い詰められるが、 堤チーフが出撃させたハーキュリーズが、地上からこれを撃墜。
 「吉田リーダー、感謝」
 「そういう台詞は戦いに勝ってから言え」
 東京へ向けて進撃する怪獣を食い止める為、XIGは空と地の両面から迎撃を仕掛け、それを見つめる藤宮。
 「巨大な恐竜には寄生する事で滅ぼし、人類に対しては、巨大怪獣になって一掃か」
 そして我夢は、藤宮がわざとらしく机の上に置き捨てていったエスプレンダーを見つめながら、筋肉さえ、 筋肉さえあればこんな戒め引きちぎってしまえるのに、と歯がみしていた。
 「くそ! 守りたいんだ! 僕は、人類を、そして地球を、守りたいんだ! ……僕は守りたい! いや、守ってみせる!」
 その時、エスプレンダーが眩く紅い光を放ち、それに飲み込まれた我夢は、ガイアへと変身。 ……結果的には筋肉で引きちぎったような気もしますが、状況としては、プール飛び込みによるアグル復活と重ねた意図でしょうか。
 藤宮はゲシェンクに立ち向かうガイアに冷笑を浴びせ、尻尾攻撃で叩き伏せられるその姿に、呆れたような溜息を落とす。
 「無駄だ……我夢。我夢、人類は淘汰されるべきなんだ。これは避けられない事なんだ」
 ゲシェンクボールで吹き飛ぶ高層ビルを背景に嘯く姿が大変マッドな感じになってきた藤宮だが、 降り注ぐ瓦礫の下敷きになりそうだった少女を、咄嗟にダイビングで助けてしまう。
 自分の行為に愕然としなら、その手を見つめる藤宮。
 「俺は……」
 一方、カラータイマーを点滅させながらもガイアが必死に粘る内に、怪獣のボール攻撃を阻止すべく、 後方に回り込むハーキュリーズとライトニング。
 「おまえの敵はウルトラマンだけじゃないぜ!」「食らえー!」
 「オラオラどっち向いてんだぁ?!」「チーム・ハーキュリーズをなめんなよ!」
 「あの角を狙え!」「俺に任せろ!」
 両者の連携は遂にゲシェンクの角を破壊し、これを彩るのがOPインスト、というのが大変熱い展開。
 ウルトラマンだけでは無理なのかもしれない……だが、多くの人が手を繋ぐ事で、地球も人類も、 全てを助ける方法にきっと辿り着ける筈、という表現としても非常に良かったです。
 反撃のラッシュを叩き込んだガイアは一気に自分のペースに持ち込むと、首投げから必殺のうにょんバスターで大勝利。 怪獣はド派手に吹き飛び、エリアルベースではコマンダー(突然一人だけ着替えるが、誰も何も言及せず)が満足そうに頷くのであった。
 「心だ……心が……ガイアの光に、通じた。……藤宮。……君にも、心がある筈だ。心が……」
 精も根も尽き果てた我夢は気を失い、カプセルの中でゲシェンク遺伝子が消滅するのを見つめた藤宮は、 次のトレーニングルームへと向け、歩み去って行く……果たしてその胸に、我夢の言葉は届いたのか否か。 ホームジムの大量注文を追っていくと、藤宮のアジトに辿り着けるのではないか。赤と青の地球の意思は、 人類に何をもたらそうとしているのか、でつづく。
 いやぁ、良かった。
 殴り合いを経て再び面と向き合う我夢と藤宮の意志の衝突、そこで語られる我夢の言葉、藤宮の中に残る割り切れないものの示唆、 そしてガイアとXIGの連携に物語的意味をきっちり乗せたバトル、と大満足の一編でした。
 次回――そういえばこれまでなかった海中戦。

◆第21話「妖光の海」◆ (監督:根本実樹 脚本:大西信介 特技監督:佐川和夫)
 藤宮との衝突の激化、前回のゴムボール怪獣への苦戦……迫り来る破滅から地球と人類を救うには、筋肉だ!
 更なる筋トレに耐えうる体を作る為にまずはウェイトをつける所から、と食堂で大食い(3皿ほど平らげている) をしていた我夢は緊急呼び出しを受け、突然出現した酸素欠乏地帯の調査へと向かう事に。
 堤と共にベースキャリーで向かった山中では、半径1kmに渡って空気中の酸素が著しく減少しており、 ジェットが作動しない為にリパルサーリフトで移動していく、というのが細かい演出。
 エリアの中心には謎の巨大光球が存在しており、今もゆっくりと広がる無酸素地帯への脅威から、ベースキャリーは光球を攻撃し、 これを破壊。ベースキャリーの直接攻撃は、これが初でしょうか……?(序盤にやっていたかもですが)
 だがその直後、世界中のガードから次々と、球体と無酸素エリア発見の報告が飛び込み、なんとかその全ての破壊には成功するが、 大きな謎が残るのであった。
 我夢は海洋の専門家であるチーム・マーリンの今井と球体の破片について分析し、 エリアルベースでは形見の狭そうな数少ないインテリ枠の人と話している時の我夢は、本当に楽しそう(笑)  演技指導がハッキリ出ているのかなと思いますが、XIGの一員として前線に出ているし、梶尾さんも尊敬しているけど、 我夢の本分は研究者にある、というのが折々に描かれているのがキャラの軸を作っています。
 球体の発光が、夜光虫やウミホタルの放つ光と同質のものである事を突き止めた我夢と今井は、光球の正体は、 海中の無酸素生命体による環境攻撃ではないかと推定する。何らかの理由で力を得た無酸素生命体が、 再び自分たちの君臨していた世界を取り戻そうとしているのだ!
 我夢は、光球が海から飛び出す所を目撃してニュース種になっていた友人の証言を基に、弾道計算により球体の発射源を突き止め、 横谷リーダー・今井・巌からなるチーム・マーリンがそのポイントへと出撃する。
 そこは8年前、産業廃棄物の大々的な不法投棄が明るみになった際、海流の影響でいずれそれらの多くが集まる事になるだろう…… と推定されたポイントであり、それが無酸素生命体を活性化させたのではないか、と今回はかなりストーレトな環境問題テーマ。
 「勝手な事ばかりやってきたもんなぁ、俺等、ちゅうか人間はさ」
 「何かに滅ぼされたって、自業自得ってとこか。そうなっちゃった方が案外、地球の為かもな」
 「本気で言ってるのか?!」
 我夢は友人達との帰路、根源破滅を望む宗教団体を目撃し、根源的破滅招来体の出現による世界の変化が足下から織り込まれつつ、 軽い調子でそんな厭世的な態度を気取ってみたくなる時もある、というのを我夢の友人ズという一般市民視点から交えてくるのは今作らしい多層構成で良かったです。
 ポイントに突入したマーリンの潜水艇セイレーンは、巨大な無酸素バクテリアの集合体と思われる怪獣と遭遇し、 科学的な解説と、テーマをストレートに盛り込んだ台詞のやり取りが若干くどめの内容を、 今作これまでなかった海中戦という新機軸の映像により楽しませながら見せようとする、というのもらしい作劇。
 ともすると話が頭でっかちになりそうな所を映像のパワーでバランスを取るという力技で、これはこれで、ふんだんな予算により、 盛り込んだ理屈と天秤の釣り合いを取れるだけの映像を作り出せた、今作ならではの幸福で奇跡的な時間であったのかな、とも思われますが。
 「人間がみずから招いた災厄……という事か」
 発音的には「水」だと思うのですが、コマンダー、この局面で、「自ら」と掛けた?!
 奮戦するセイレーンだが怪獣の攻撃を受けて航行不能に陥り、外に飛び出した我夢の前には藤宮が姿を見せる。
 「行って勝て我夢。人の愚かさを隠す戦いに。後で面白いものを見せてやる」
 海底に向かったガイアはセイレーンを救助すると怪獣に向き直り、神秘的な超越者から荒ぶる闘神への切り替えがかなりダイナミックに描かれるのですが、 改めて今作は、それを彩る音楽が劇的で格好いい。
 ガイアは先制の不確定性原理踵落とし。そして行列力学チョップ。
 さっそく筋トレの成果が出てきたのか、或いは実は海属性だったのか、快調に戦いを進めるガイアは回り込んでのローキックから上手出し投げ、 そして調子に乗って体重を乗せた浴びせ蹴りを食らわせると連続キックの猛攻をしかけるが、筋トレは一日にしてならず。
 ガスによる反撃で後退した所に火球をぶつけられて落とし穴にはまり、ある意味、安心の展開。
 守ろうとする人間の作り出した産業廃棄物の蓄積にガイアが足を取られる、という皮肉のニュアンスがあるのでしょうが、 ガイア(我夢)なのでむしろ平常運行、に見えて困ります。
 最近、アグル(藤宮)に残念ポジションを奪われていたけど、僕だって後輩達には負けない!
 怪獣にのしかかられ、海底の堆積物の中に埋められてしまうガイアだが、なんとか脱出。藤宮の言葉を思い出して必殺光線を躊躇した隙に反撃を受けるも、 最後はうにょんバスターで大変派手に木っ葉微塵。
 無酸素海獣を応援していた発光生物たちの光も収まり、静けさを取り戻した海で夜景を見つめる我夢の前には、 約束通りに藤宮が姿を見せる。
 「残ったのは悪魔の光だ」
 冒頭、夜景の煌めきに対して「愚かな光だ」と呟いてたのが、ただの藤宮流闇のポエムではなくしっかり伏線として機能。 全編を通して「光」をキーワードにしていたのが綺麗に繋がり、海洋生物の発光と人類文明の光を対比する言葉が、鮮やかに決まりました。 またそれが、「ガイアの光/アグルの光」を思い起こさせる、というのも秀逸。
 「地球の資源を奪い、傷付けながら作られた愚かな光。おまえが守りたいのは本当にこんなものなのか!」
 「……それでも、それでも僕は、この光を守り続ける」
 藤宮は歩み去り、我夢は自らに言い聞かせる様に呟き、「環境問題」や「愚かな人類」というテーゼをど真ん中の直球で投げ込み、 上で触れたように、やや語り優先で重心が頭に寄りすぎた感はあったのですが、それでも簡単にひっくり返らない足腰の強さが 『ガイア』の武器だな、と改めて。
 個人的にはもう少し、語り控え目の作劇の方が好きですが、オチが鮮やかだったので得失点差プラス。
 あと学生時代、地学の授業か何かで、海底火山の噴火口などの中には今も、酸素が毒になるバクテリアが生存している、 というのを知って感動を覚えた記憶があったので、そこから生まれた怪獣というアイデアは面白かったです。
 残念だったのは、折角新登場したチーム・マーリンがさして活躍しなかった事ですが、次の出番(はあるのか?!)に、期待。
 次回――「その時千葉参謀は?!」の唐突さに笑ってしまったのですが、千葉さんの肩書きをずっと覚えられなかったので(その為、 直近『ルーブ』の印象から仮に「監督」と呼んでいました)、これでようやく覚える事が出来そうです。千葉さんは参謀。多分、 野球の好きな参謀。

◆第22話「石の翼」◆ (監督:根本実樹 脚本:太田愛 特技監督:佐川和夫)
−−−
 (――僕たちの街には、大昔、空から落ちてきたと言い伝えられている、不思議な石がある。
 僕たちは、その石を、“石の翼”と呼んで、遠い星から来た、宇宙船の翼だったんじゃないかと想像したり、石の翼を持つ船が、 宇宙を旅するところを考えながら、いつまでも、空を眺めていたりした。
 でも……もうそんな子供の時間は、終わってしまったんだと思う)
−−−
 その通称通りに翼のような形が印象的な石の立つ高台に、何かを埋める少年のモノローグから、という珍しいスタート。
 場面変わってエリアルベースが微細な電場障害を起こす雷雲の接近を観測していた頃、千葉参謀は東京で各国首脳会議に出席し、 ガードの活動への不満を膨らませる要人と個別に折衝を行っていた。夜の会議までの空き時間に、妹の家を訪れた参謀は、 甥っ子の弘希少年(冒頭の少年)に天体望遠鏡をプレゼントするが、少年はどこか浮かない様子。
 「でも……もういらないんだ」
 「……いらない? もう空を、見ないのか?」
 「おじさん……空を見ても、空にはもう恐ろしいものしか現れない」
 空への夢を失ってしまった少年は自室に閉じこもり(「こんな立派な物をいただいて何を言ってるの!」 的なお母さんとのやり取りが省略されたと思われます)、3年前、今日と同じく千葉が天体望遠鏡をプレゼントしれくれた日の事を思い出す。 参謀は甥っ子に宇宙へのロマンを語り、それを聞いた少年は、望遠鏡にボイジャー1号と名前を付けたのだった。
 (でも……僕はもう空を見ない。僕は、ボイジャー1号を、石の翼の所に埋めた)
 一方、急速に勢力を強めた謎の雷雲が首都圏に接近し、その内部にワームホール発生の兆しが確認される。 エリアルベースでは避難指示を出すと共にベースキャリーとチーム・ライトニングが出撃し、前後を問わず、 「観測をしない」「観測はしているのに事が起こるまで傍観している」という作品がままある中、 『ガイア』は平均的に「観測・警戒・対処」の手順をしっかり描いてくれるのが作品の出来を高めているところ。
 防衛隊の対応に唖然とするような事は滅多にありませんし、だからこそ、その予測を上回る破滅招来体の脅威が増し、 ギリギリのところでそれに立ち向かうウルトラマンの魅力も増す、という構造がしっかりと組み上がっています。
 拡大した雷雲の影響で強力な通信障害が首都圏を覆う中、ベースキャリーとライトニング3機の同時出撃シーンが描かれ、 メカ特撮もこまめにアレンジ。
 だが地上の避難が終わる前に、雷雲の奥に開いたワームホールから怪獣が地上に出現。 怪獣は二本の角から雷撃をばらまいて派手に街を蹂躙し、会議に向かっていた千葉参謀もまた、この災害に巻き込まれる事に。
 六角ファイターが怪獣を食い止めている間に市民を逃がすジオベースの避難誘導部隊だが、 通信障害による無線の不能で指揮系統に混乱を来し、避難が遅れてしまう。
 現場の隊員達が的確な行動を取れずに右往左往しているその時、ふらっと現れた千葉参謀が、 無言でボンネットの上に地図を広げるのが、凄く格好いい!
 まさか、千葉参謀を格好良く思う日が来るとは夢にも思いませんでした(笑)
 序盤、現場が警戒任務をしている頃に参謀はロビー活動を行っていた、と幹部としての仕事を見せた上で、 主人公へ向けてなんか良い事を言うのでも、わかりやすく命を賭けるのでも、突然の思わぬスキルを発揮するのでもなく、 混乱する隊員達をまとめ上げて的確な指示をてきぱきと出す、という極めて納得感のあるプロの仕事を行う、 という“格好良さ”の見せ方が、とても良かったです。
 地図と現場の状況を見ただけで適切な避難経路を導き出すと共に、それを自分の責任として迷わず指示を出す、 伊達に参謀ではない姿を見せつけ、今回、120%千葉参謀プッシュ回なのですが、 まんまと参謀への好感度が上がってしまいました(笑)
 こうなると手遅れにならない内に、コマンダープッシュ回もお願いしたいところです。
 電波障害により誘導ミサイルが効果を発揮しない事に気付いた我夢は、堤の制止を振り切ってEX機で出撃すると、 ハンドサインでマニュアル攻撃を伝達し、チーム・ライトニングは怪獣の歩みを遅滞させる事に成功。 その間に千葉参謀の指揮の下に地上の避難誘導が進められ、避難中に母親とはぐれていた弘希少年は、そんな伯父の姿を目撃。
 足を止め、怪獣の暴虐を見上げる少年は、参謀にかけられた言葉を思い出す……。
 「根源的破滅招来体は、確かに、存在する。……それが、私たちの現実だ。その事を受け入れる為に君は、 空を見るのをやめたのかもしれない。現実を受け入れ、大人になっていこうと考えて。だがな、弘希。君が空を見るのをやめた時、 君がなくしたものは、本当に失ったものはなんだ?」
 怪獣を睨み付けた少年は道を引き返していき、避難誘導を終えて撤収寸前、甥っ子の姿を目にした千葉はそれを追い、 二人が辿り着いたのは、少年がボイジャー1号(天体望遠鏡)を埋めた“石の翼”の丘。
 「ボイジャー1号が僕に見せてくれたのは、空だけじゃなかった! もっと大事なものがあったんだ!」
 それを掘り出そうとするも千葉と少年に怪獣の電撃が迫り、我夢が気付いた時には既に間に合わないその時、 “石の翼”から放たれた黄金の光が、怪獣の雷撃を相殺し、二人を守る。その代償として“石の翼”は細かい粒子となって消滅してしまうが、 次の雷撃はガイアが間に合ってガード。
 灰色の煙が渦巻く中でガイアと怪獣はぶつかり合い、本日は大柄な怪獣との取っ組み合いが続く為か、マッスル体型な感じ。
 大ジャンプによる電撃の回避からハイパーワールド仕込みの超伝導キックを叩き込んだガイアだが、 ヘッドロックを仕掛けた際に感電して電撃ダメージを受け、以前もそんな感じで鉄板焼きにされた記憶があるのですが、 我夢はもう少し藤宮を見習って、自分のTV報道を録画してチェックすべきなのでは。
 地面をのたうつガイアが、怪獣に繰り返し蹴り転がされているシーンで、何故か流れ出すOPインスト(笑)
 ピンチのピンチのピンチの連続すぎるガイアは、怒濤の放電攻撃を受けて炎に沈む……かと思われたが、 勝ち誇った怪獣が近づいてきたところに至近距離から死んだふりビームを浴びせて木っ葉微塵に吹き飛ばし、 唐突に腕クロス光線がちょっと強すぎ感はありましたが、とにかく派手な、佐川特撮回!というバトルでありました。
 「僕……僕が本当になくしかけてたもの、なんだかわかった!」
 「そうか!」
 「辰巳おじさん、もう一度、ボイジャーの話してくれないかな?」
 少年の求めに応じた参謀は、人類のメッセージを運び今も大宇宙を飛ぶボイジャーについて語り、 破滅招来体そのものも確かに恐ろしいが、その存在により人の心が蝕まれてしまう事もまた恐ろしく、 裏を返せば破滅に負けない人の心の強さこそ、人類の持つ真の力なのではないか、というのを少年の夢、 大宇宙へのロマンと巧く接続したエピソードでした。
 導入の段階ではてっきり、石の翼の下には巨大な怪獣の本体があってどっかーん、とばかり思っていたらむしろ逆でしたが、 今作の世界観においては、破滅招来体と匹敵する力を持ったものの欠片が地球に落ちていても違和感はあまり無いですし、それが、 夢を抱き続けようとする人の心に反応した時に少年を助けた、と思えば、ガイアやアグルの光に通じる部分も感じるところです。
 「――そしてあの晩、伯父さんは、ボイジャーの夢を継いでいくのは、君たちだと言った。僕は、この空を見つめ続けようと思う。 たとえ今は、根源的破滅招来体しか現れないとしても、この空に、二機のボイジャーを送り出したのは、人間が、未来を夢見る、 力なんだと思うから」
 で、つづく。
 次回――サブタイトルよりも、藤宮の凄い表情が衝撃的な予告ですが、果たして何が?!

◆第23話「我夢追放!」◆ (監督:北浦嗣巳 脚本:吉田伸 特技監督:北浦嗣巳)
 秘密施設の入り口付近に、ハムスターのお墓を作られてしまったジオベース職員の心境が知りたい。
 「高山くんは、なぜ地底から怪獣が次々と現れるのか、考えた事ある?」
 「え?」
 「今度の研究でずっとそれを考えてた。地球の生物達が、人類の自分勝手さに怒ってるんじゃないかって。きっと、 人間一人一人の意識が変わらない限り、その怒りは鎮められない」
 アグルの聖地からレスキューされた後、ジオベースに協力していた稲森博士は、藤宮が甲殻怪獣に取り付け、 我夢が回収した怪獣制御装置――パーセルを、怪獣の闘争本能を鎮めるプログラムを内蔵して改良。 その受け取りに向かっていた我夢と藤宮は、秩父山中に出現した怪獣に早速パーセルを打ち込み、怪獣の沈静化に成功する。
 怪獣の回収・分析をジオベースに任せて我夢と梶尾がエリアルベースに帰還した頃、「藤宮博也を探している」と稲森に接触した玲子は、 (つまりショートカットが好みなの……?)と考え込んでいた。
 「惹かれてるのね、彼に。……彼に会うことがあるなら伝えて。私の最後の研究成果を、よく見て欲しいって」
 謎めいた言葉を告げた稲森は怪獣の拘束作業の進む秩父山中に姿を見せると、 遠隔操作でパーセルにコマンドを打ち込んで沈静プログラムを上書きし、突如覚醒した怪獣は地面を掘って地中へと姿を消す……。
 「許してね……」
 思い詰めた表情の稲森は、パーセルに関係するデータを全て持ち去って行方をくらまし、一方エリアルベースでは、 ジオベースのデータ盗難事件などを調査していたリザードが、藤宮博也という存在に辿り着いていた。
 「出してくれ」
 モニターに大写しになる藤宮の筋トレ映像に女性陣どん引きだったどうしようかと思いましたが、 普通のプロフィール写真でホッとしました。
 「私は、この男が、青い巨人となんらかのコンタクトが取れる存在だと睨んでいる」
 「意外な事に、調査を進めていく内に、君の不審な動きが浮かんできた。君が密かに藤宮に会っていたという情報もある!」
 稲森・樋口同様に久々の登場となったリザード瀬沼が我夢を問い詰め、こ、効率的な筋トレの方法について語り合っていただけで、 やましい事はありません!
 「……本当なのか我夢?」
 「何故黙っていたんだね!」
 前回、各国要人との交渉では矢面に立ち、緊急時には現場で衰えの無い指揮を見せ、甥っ子に対しては宇宙ロマンを語る良い伯父さん、 という様々な面を見せた参謀が、今回は上に立つ人間としての厳しさを見せる、というのは良い緩急とバランスになりました。 前回が参謀エピソードでなかったら、久々に出てきた参謀が(視聴者的には)割と突然に我夢に敵意をぶつける、 という構図が目立ってしまうところだったので、良いタイミングに。
 藤宮が青いウルトラマンその人であり、人類の存在そのものに疑問を持つ環境テロの思想犯にして実行犯である事に触れられない我夢の口は自然と重くなり、 個人的には科学的見地の重要性を理解して欲しかったのであり決してウェイトトレーニングを軽んじるわけではないのですがやはりあの負荷と休息のバランスをシミュレートして適切な栄養補給が…… とハッキリしない弁明を口にした結果、コマンダーの命令により、XIGのライセンスを一時剥奪されてしまう。
 「おまえはXIGのメンバーとして、我々の信頼を失った。この艦から今すぐ降りろ」
 「これは既に決定事項だ!」
 かくして、世界的な天才にも関わらず立派な無職となった失意の我夢は街をさまようが、 エリアルベースでは我夢を心配する堤が梶尾を呼び寄せていた。
 「我夢を監視しろ」
 「それで藤宮の居場所を、ですか」
 「そんな事はリザードが勝手にやる。おまえの役目は……」
 「あいつが何かしでかしてからではなく、しでかす前に止める事、ですね」
 「……そうだ」
 いつもと違い、落ち着かない様子でうろうろ歩くチーフは、そういう名目でいいかと納得し、 その様子をニヤニヤと眺める梶尾さんが楽しそう。
 参謀・瀬沼・コマンダーのやり取りは、どう見ても我夢を藤宮を吊り上げる餌にする為の打ち合わせ通りなのですが、 堤は良くも悪くも人情家なのと(それが悪い方向に転がるとチーム・クロウの大惨事になるわけで)、腹芸が出来ないので、 事前に相談されていなかった模様。
 まあなんだかんだ軍隊なので、梶尾さんの動向も上層部に筒抜けではありましょうが、堤チーフはそれなりに節穴なので、 色々な納得感はあります(笑)
 (藤宮くん……あなたがしようとしていた事がようやくわかったわ。でも……ほんの少しだけ待ってほしいの。いつか人間だって、 自分の愚かさに気付く筈。人間の意識を変えるきっかけ、その可能性を、私に試させて)
 藤宮のトレーニングルームもといアジトを訪れた我夢は梶尾と合流。怪獣の反応へと向かう途中、 稲森がジオベースにおいて何度も地球環境改善プランを提出するも、今はそれどころではないと却下され、 パーセルの研究に配属されていたという経緯を知る。
 「稲森博士の目的はなんなんだ?」
 「多分、怪獣の怒りを見せつける事で、人間の意識は変わる。博士は、そう信じているんです」
 パーセルの信号をキャッチした我夢は、避難誘導を梶尾に任せると稲森の元へ急ぎ、稲森が怪獣に街を襲わせる事で、 人間の意識に痛烈なショックを与えようという、過激なテロ活動を実行しようとしている事を確認。
 「時間が無いの! 人間がゆるやかに、意識を変える時間なんて、もう残されていないわ。残酷な事実を、目の前に突きつけるしか、 方法はないの!」
 「それは違う! きっと人は変われる筈です! どうして人間の可能性から目を背けるんです?」
 玲子さんとの会話などを通して、稲森の行動の背景に横たわるものは示唆されているのですが、メビウスの環はテロの連鎖を呼び、 むしろ稲森博士の方がストレートに『逆シャア』するという、まさかの事態に発展。
 「…………巡り会ってしまったからよ。地球の運命を背負った人……青い巨人に」
 「……知っていたんですか? 藤宮が、青い巨人だって」
 稲森は無言をもってそれを肯定し、我夢はその真意に気付く。
 「まさか、博士は自分の手を汚せば、人間の意識が変われば藤宮が思い直すと?」
 「今の人類と同じように……彼も、簡単には、変われないのよ」
 「博士……」
 そこにチームクロウが飛来して怪獣に攻撃を始め、怪獣に駆け寄った稲森は新たなコマンドを打ち込むと、 怪獣が口から吐き出した火球が、我夢を直撃(笑)
 「……誰にも邪魔はさせない」
 笑うところではないのですが、主人公に怪獣の直接攻撃をぶちこむという、 藤宮へのメッセージとして一線を越えようとする稲森博士の意志の見せ方が、凄絶なインパクト。
 怪獣を街に直進させようとする稲森だが、怪獣はその生存(闘争?)本能ゆえか周囲を飛び交うクロウファイターにこだわり、 やがてその本能と稲森の命令が激しい齟齬を来すと、くしくも藤宮の失敗と同様の結果を招き、怪獣は自らパーセルを破壊してしまう。
 「そんな……!? 所詮、人には操れないというの?」
 怒れる怪獣の口から放たれた火球は、駆け寄る我夢(物凄く普通に無事でしたが、筋トレの成果です)の目の前で稲森を飲み込み、 倒れ伏す稲森。
 「……博士! 博士! ……博士ーーっ! …………ガイアーーー!!」
 迫り来る怪獣に向けて、我夢はエスプレンダーを構えて絶叫し、割と今作では珍しいタイプの感情を乗せたヒロイックな変身。
 ガイア降臨着地を、カメラを横に大きく早く動かしながらで前後の2カットに分けて撮ると、主観映像でパンチとキックを浴びせ、 次はぐっと引いた絵で大ジャンプ、とガイアの激情をこれまでと違う映像で表現する、というのは本編監督と特撮監督兼任ならでは、 といった感じの劇的な見せ方となりました。
 怪獣をジャイアントスイングで放り投げたガイアが稲森博士の方を振り返ると、そこには瀕死の稲森を抱き起こす藤宮の姿が。
 「なぜ……こんな事を……」
 「……もっと……見たかった。…………あなたの笑顔を」
 藤宮の腕の中で微かに笑った稲森は、藤宮に磁気ディスクを渡そうとするが力尽き、藤宮は天も裂けよと慟哭する。
 怒りのガイアは、立ち上がると岩を砕いて筋肉をアピールしてきた怪獣に向けて突撃。 迫り来る連続火球を拳骨で粉砕すると飛び蹴りを浴びせるが、そのまま格好良く仕留めきれずに反撃を受けるのが、なんというかガイア。
 マッハ頭突きで吹き飛ばされ、更に地熱発電にあぶられるガイアはカラータイマー点滅の危機に陥るが、 それを助けたのはチーム・クロウの援護射撃。怪獣の手が離れた隙に連続バック転で距離を取ったガイアはうにょんバスターを放ち、 それを交差するように回避したクロウファイターが、ガイアの横を飛び去ってから、どうと倒れた怪獣が大爆発、 とストーリー展開の重さを考慮してか、味付けに一工夫したフィニッシュ。
 合わせてチーム・クロウは、我夢を中心としたドラマにも、稲森博士の悲劇にも一切関わらず、 いつも通りのノリで戦闘のスパイスに徹するという作りなのですが、クロウリーダーが数年前に、 愛しのJPさんを挟んで環境テロリストとバチバチやり合っていた女優さんだと思うと、 その無視っぷりに思わずメタな面白さを感じてしまったり(笑)
 再び振り返ったガイアは地上の藤宮と束の間見つめ合い、苦しげに表情を歪めた藤宮は、稲森を地面に横たえて去って行く。 お姫様だっこで退場こそしませんでしたが、遺体を丁寧に整えていったところに、藤宮の捨てきれない人の情を見ます。
 「……藤宮はデータを持っていかなかったのか」
 「無駄だとわかったんです。怪獣を操る事で地球は救えないって。だから藤宮は」
 「博士は奴の為に死んだんだ! なのにまだおまえは奴を説得するつもりなのか?!」
 無言の我夢は、梶尾にすら背を向けて歩み去って行き、その胸には稲森の遺した言葉が反響する……
 ――「今の人類と同じように、彼も、簡単には、変われないのよ」
 果たして我夢が選ぶのは、稲森の願いを受け継ぎ藤宮を変える事なのか? それとも、ガイアとしてアグルと決着を付ける事なのか?  そして、止まれない理由に拍車がかかってしまった藤宮は、何を思うのか……激動の展開で、つづく!
 初登場回から幸薄そうな気配はありましたが、再登場した稲森博士が死亡。人知を越えた存在――ここでは怪獣――を制御しようとして、 その思い上がりのしっぺ返しを受ける、というのは定番のプロットですが、アグル誕生回で漂わせていた藤宮への好意から、 藤宮を止めようとする稲森の行動と繋げる事で、違う厚みを持たせた物語となりました。
 振り向いて貰える事もなく、共に歩む事も既に出来ない男の為に、自分の手を汚す事を選んだ稲森博士ですが、結果的には、 “藤宮がやろうとしている事の具体的な光景”を藤宮自身に突きつける事になり、もしかしたらそれもまた、 潜在的に博士にとって期するところであったのかもしれません。
 短いワンシーンながら、稲森博士と玲子さんの邂逅もお互いの感情を引き立てて効果的となり、次回――
 「見ろよ我夢。これが、稲森だ」
 「……藤宮……君はまさか……博士とリリー(※ハムスター)の遺伝子にG細胞を融合させたというのか?!」
 ……じゃなかった、世界各地で次々と怪獣を呼び覚ますアグル! そして我夢は、(畜生、世界のどこかに、 きっと僕だけのマネージャーが居る筈なんだ……畜生……!)とあらぬ方向に量子飛躍していたらどうしよう!
 というわけで、加速する藤宮と我夢の対決が大変楽しみです。

◆第24話「アグルの決意」◆ (監督:北浦嗣巳 脚本:長谷川圭一 特技監督:北浦嗣巳)
 リリーと稲森を失った藤宮は、ジオベースに生身で単独テロを決行すると、 これまでジオベースに収集されていた世界各地の異常現象――怪獣出現可能性地点――のデータを強奪。その情報を元に、 世界各地の地底怪獣が眠っているとおぼしき地点のツボを突いていく。
 「もし藤宮が、怪獣をコントロールする事を諦めたとしたら、考えられるのは、もっと最悪の事態です」
 前回ラストで梶尾とも訣別したかと思われた我夢は、結局梶尾の車に同乗しており、 チーフから首に鈴つけておけと言われているにしても、梶尾さんも大概、面倒見がいい。
 「もう、時間がない!」
 空に迫る異変を感じ取りながら、秩父に姿を見せた藤宮は、 遂にコマンダーが下したウルトラマン攻撃指令によりチーム・クロウの攻撃をその背に受けながらも、 渾身のウルトラ指圧で地球のツボを刺激。
 一方、藤宮を探す我夢と梶尾に、同じく藤宮を探す玲子が接触し、話を聞いてなんだかんだと同行を認める梶尾さんも大概、面倒見がいい。
 「念のため二人に言っておくが、奴が抵抗した場合、俺はためらわずに撃つ。くだらない邪魔だけはするな?」
 それはそれとして、当たるの?
 狼男回の際に射撃の特訓をしたという言及はありましたが、その後に射撃成功した際は的が大変大きかったですし、果たして、 人間大の標的に梶尾リーダーは命中させる事ができるのか。
 「藤宮があなたに近づいた事には、何か理由がある筈です」
 「たぶん…… ショートカットだから 偶然」
 「え?」
 「たまたま私がそこに居たから…………でも、人と人の出会いなんて……そんなもんじゃないんですか?」
 まあ実際、「玲子さんだった」のは偶然なのかもしれませんが、「TV局に侵入」の時点で、 だいぶ範囲の狭められた偶然ではあり、多分、最初に見かけたのが倫文だったらメッセージ残していないような!
 3人は山中で、地球一周指圧ラリーで消耗し、今にも倒れそうな藤宮を発見。
 「もうやめて! 人間同士が争っていったい何になるのよ?! 憎しみでしか解決できないなんて……悲しすぎるよ!」
 銃を構える梶尾と藤宮の間に玲子が割って入り……うーん……総じて今作、我夢と藤宮を除くと、 というか恐らくWウルトラマンである我夢と藤宮へのバランス調整として、 “女性(ゲスト)キャラが語りを担当する”機会が多めの構造なのですが、こと玲子さんに関しては、 その場その場で便利な語りキャラになってしまっている感が強く、語りの内容を納得させるキャラの積み重ねに不足を覚えます。
 当初はここまで重要なポジションになる予定ではなかったのかもしれませんが、藤宮との絡みで扱いが大きくなっているだけに尚更、 “玲子ならでは”という台詞に聞こえないのは、残念。
 「…………聞こえる……地球の……命の……叫びが」
 地面に倒れ伏した藤宮は、大地に耳を澄ませながら、気絶。時同じくして世界各地で地底怪獣が蠢動し、アリゾナでは戦車が出てきて、 甲殻怪獣とドンパチ。対応として梶尾はエリアルベースへ戻る事になり、我夢と玲子は、気絶した藤宮を病院へと運ぶ。
 「私、今は信じたいんです」
 「え?」
 「出会いは偶然かもしれない。……でも、出会った事には、きっと意味があるって」
 「……出会った事に、意味が……」
 「そうでなきゃ、何も変えられないもの」
 玲子に藤宮を任せた我夢は病院の屋上に出ると、エスプレンダーを構えて変身。
 「藤宮! 僕だってウルトラマンなんだ!」
 実写空撮に合成したと思われるアリゾナへと飛翔する赤い光球の映像が、画面を広く使って格好いい。そろそろ2クール目の締めとなり、 物語も一つの山場に向けて怒濤の展開になっていますが、映像もダイナミックな見せ方に工夫が凝らされて盛り上がりを高めます。
 アリゾナで甲殻怪獣と戦うチーム・クロウを助けたガイアは、怪獣に連続蹴りを浴びせるが……それに呼応して、跳ね起きる藤宮。
 「何故おまえは地球の意思に逆らおうとする!」
 目覚めて第一声がこれで、段々、一人宗教結社みたいになってきたぞ。
 「地球を滅びへと導くのは、人間の愚かさだ。それを知りながら邪魔する奴を、俺は倒さなければならない」
 「そんな愚かな人間を、どうして助けたりしたのよ?!」
 「…………――俺が救うのは、この地球だけだ」
 玲子の方を振り返らず、自分に言い聞かせるように声を振り絞る藤宮はアリゾナに向かおうとするが、その眠っていた病院に、 秩父山中で目覚めたばかりの怪獣が迫っていた。避難の混乱で転んだ老婆に手を貸す事もなく、我が道を行こうとする藤宮だが、 病室から聞こえてきた少年の悲鳴に、ふと足を止める。
 「ウルトラマーン!」
 そこでは、車椅子の少年が床に倒れており、その手には、握手をかわす赤い巨人と青い巨人を描いた絵が。
 「助けてよ! ウルトラマーン! 早く来て!」
 佇む藤宮を押しのけて玲子は少年を抱き起こし、藤宮を睨み付ける。
 「地球だけを救いたいんでしょ?! 愚かな人間は関係ないんでしょ?! 早く行きなさいよ!」
 玲子さんの台詞の説得力、に関して上で不満を述べましたが、玲子さんにはこういう台詞回しの方が断然似合っていて、 ここは良い形になりました。これはこれで、スタッフ的には“藤宮に対する距離感”というニュアンスなのかもしれませんが、 それならば、“XIGとの距離感”が醸成されていない状況で、蓄積の薄い大上段説教斬りを仕掛けてしまったのは、 やはりよろしくなかったと思います。
 緑の雨回で説教モードを起動させてはいるのですが、そもそもあの展開に違和感がありましたし、その後、 玲子のキャラクター性がそういった方向性で補強されているわけでもないので。
 アリゾナでは、そういえば初代も強かった甲殻怪獣にガイアが苦戦中。そして病院の屋上に立つ藤宮は、 変身アイテムの中で明滅する光を見つめる。
 「無駄だとわかっていて……それでも守るのか、人間を。……それが、ウルトラマンだというのか?!」
 人類文明の脅威となる“地底の怪獣”が、地球の命の叫びであるとするならば、“ウルトラマン”とは何なのか?
 藤宮の中では人類に対する期待と失望が常にせめぎあっており、それは前回、稲森博士がジオベースに環境再生プロジェクトを提案するも 「今そんな事に回す予算ねーから」と却下された末に過激なテロへ走った姿を通して間接的に描かれているのですが、果たしてその力は、 地球の希望なのか、それとも、失意なのか――。
 藤宮はアグルに変身すると病院へ迫る怪獣の突進を食い止め、変身した途端にカラータイマーが赤く点滅しているのが、藤宮の消耗と、 それでも怪獣を阻む事を選んだ意志の双方を示し、シリーズの約束事を描写の掘り下げに活用してくれる演出は、好物。
 アリゾナでは、起死回生のうにょんバスターを放とうとしていたガイアの脳裏をこれまでの抹殺メモリーがよぎった結果、 ガイアは沈静うにょんシュートで怪獣の戦意を喪失させる事を選び、秩父では梶尾の決断によるライトニングの支援を受けて立ち直ったアグルが、 怪獣の弱点にウルトラリーゼントバスターを叩き込んで木っ葉微塵に粉砕し、二人のウルトラマンの戦いは、対照的な結末を迎える。
 映像的にも、〔怪獣←アグル/ガイア→怪獣〕と、左右方向が逆に描かれ…… 少年と玲子を助ける形となったアグルは病院に向けた見返り美人ポーズで自分の存在をアピールせずにはいられず、 そういう所がテロリストとして割り切れないから心の隙間に忍び込まれるんですよ!
 ガイアは眠りにつく為に地底へ戻っていく怪獣を見送り、個人的に、怪獣と心が通じ合う、 というのは少々ピンと来ないというか若干のアレルギーがあるのですが、ここまでエピソードを分解してきて思い至ったのは、 “ウルトラマンと地底怪獣は根本のところで同質の存在なのかもしれない” (少なくとも「ウルトラマンとの出会い」の意味を考える我夢は、そう感じたのか?)という事で、壬龍との交感などもありましたが、 ここから『ガイア』としてどう転がしてくるのか、不安もありつつ楽しみにしたいと思います。
 藤宮は再び姿を消し、世界各地では高まる地球怪獣出現の脅威に対し、ガードヨーロッパが、地中貫通爆弾を使用。
 「それで奴らを封じ込められれば……いいんですが」
 重苦しい雰囲気で顔を見合わせるエリアルベース上層部の姿に、心音のSEが重ねられ……それは、地球の命の叫びなのか。
 EDパートでは、無言のまま目も合わせずに玲子の横を通り過ぎて歩み去る藤宮の姿が印象的に描かれ、果たして、 藤宮博也はどこへ行くのか? 星空の異変、そして「時間がない」という言葉の真の意味とは……?! で、つづく。
 そろそろ物語も折り返し地点となり、稲森博士の行動をきっかけに怒濤の連続ストーリーに突入していますが、少々メタな視点として、 間接的にはかなりの怪獣被害をもたらしているアグル/藤宮でさえ、子供のヒーローである事から逃れられないというのは、 大変興味深い点。
 逆に言えば、そこを踏み越えてしまうと、本当にヒーローでなくなってしまう、という一線であるのかもしれませんが。
 結果的に、藤宮の抱える葛藤が随所に織り込まれていたにしても、藤宮がヒロイン的存在と子供にほだされた…… という作劇になってしまってはいるのですが、この部分は、90年代特撮ヒーローと、00年代以降の特撮ヒーローの、 ドラマ性における大きな違いかもしれませんもしかして。
 この話題、色々と精査しないといけない上に掘り下げると間違いなくややこしい事になるので個人的なメモ程度のものに留めますが、 濃いドラマ展開を続けすぎた時に劇中に子供を出してヒーローに声援を送らせたりする事で“子供のヒーロー”である事を内外に取り戻す、 というのは割とよくある手法なのですが、近年、あまりそういった手法を見た覚えが無いのは、単純に必要に迫られていないのか、 それこそ“子供騙し”の手法として敬遠されるようになったのか、というよりも根本的にあまり、 子供ゲストと絡むエピソード自体が減少傾向だったりするのだろうか、みたいな事思い至りまして。
 これは主に00年代に《平成ライダー》が牽引していったドラマ性のシフトの印象が強いというのはありますし (この時期の《ウルトラ》シリーズは全く未見の為、知識なし。ただ少なくとも『オーブ』『ルーブ』 に子供ゲストとのドラマは無かったような……『ジード』は多分ペガが子供ポジションかつゼロの方に娘が居るのですが、 家族テーマになるとまた少し性質が変わるのですけれども、考えてみるとそもそも『マン』とか『セブン』はどうだったか、 という話になり、大変ややこしい)、別に劇中で直接少年少女と絡まなくても、 メタ的に“子供のヒーロー”が成立していれば何の問題も無いわけですが、一方でもしかして、内省の進んだ00年代的ヒーロー像は、 物語の中で“子供の前で格好つけられるヒーロー”から逃げている一面もあるのではないか?
 これを類型の回避と見るか重要なモチーフの欠落と見るかは、作品による所も含めて捉え方次第にもなり、 これ以上は過去作品を色々と精査していないと話を進められなくなるのでやりませんが(00年代の松竹系作品も未見ですし)、 そういえば『エグゼイド』は中心要素が“ゲーム”だったので、“ヒーローと子供”的な要素が割と入っていたりしたのでしょうか、 とか思ってみるものの、1クールで脱落したのでわからず。少なくとも、『ビルド』では子供ゲストとの絡みは記憶になく、勿論重ねて、 別に直接絡まなくても“子供のヒーロー”である事は描けて、それはアプローチの問題になるわけですが、 アプローチの仕方自体に考察の余地がありそうだなと(とりあえず、ここでは特撮ヒーロー物に限り、 キッズアニメ類に関しては別のカテゴリとします。)。
 この辺り、『クウガ』において“無自覚な正義に支えられたヒーローを解体し、 現代に立脚しうるヒーローの再構築”を目指した高寺Pは、むしろ意識的に“子供のヒーロー”としての語り直しも行っていて、 これは戦隊時代には特に『ギンガマン』で重視されていた部分にして後の『響鬼』にも繋がっていくわけですが、 そこへのアンチテーゼも含めて、別のアプローチを目指したのが初期《平成ライダー》において白倉Pを加速させた面もあったりしたのかもしれません。
 ちょっと『W』の最終回内容に触れますが……『ディケイド』での一区切り後、 《昭和ライダー》への視線が強い『W』最終回において、「ソロヒーローとなった」翔太郎が、 少年ゲストに対して男の“格好つけ”を見せてハードボイルドを示す、というのは、モチーフの連鎖という観点で見た時、 非常に興味深い部分。
 で、近年の戦隊だと『キュウレンジャー』の小太郎とスティンガーの関係は、これをダイレクトにやろうとしていたのだな、 というのが改めて腑に落ちるわけなのですが、最新『ルパパト』においては、 パトレンジャーは“子供の前で格好つけられるヒーロー”でありルパンレンジャーは“子供と絡まないヒーロー”というのを、 基本的な区分けとして意図的に仕掛けていたのかな、と今更ながら。
 宇都宮P関係でいうと、“格好つける相手である子供を自身の内側に持つ事で、常にヒーローである事が相対化される” というのが『トッキュウジャー』の発明であり凄みだったわけですが、脚本の小林靖子さんの初メイン戦隊が、 「ヒーローと少年」の関係が物語構造にがっちり組み込まれていた『ギンガマン』であり、このラインの接続も感じるところ。
 まあ、小林作品でも宇都宮作品でも、接続の薄い作品はあり(明解なのは『シンケンジャー』とか)、 ちょっと考えただけで反証も多数出てくるので、すべからく思いつきの暴投という可能性もありますが、 ちょっと考えてみたい視点の叩き台メモという事で、脱線でした。
 次回――“ウルトラマンである”事の意味を賭け、再び激突する赤と青。それは、「明日なき対決」なのか?!

→〔その5へ続く〕

(2022年3月15日)

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