■『ウルトラマンガイア』感想まとめ3■


“Lovin'Me 諦めたりしない
輝き見つけるために
Let's step by myself”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『ウルトラマンガイア』 感想の、まとめ3(13話〜18話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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〔まとめ1〕 ・ 〔まとめ2〕 ・ 〔まとめ4〕 ・  〔まとめ5〕
〔まとめ6〕 ・  〔まとめ7〕 ・ 〔まとめ8〕 ・ 〔まとめ9〕


◆第13話「マリオネットの夜」◆ (監督:根本実樹 脚本:長谷川圭一 特技監督:佐川和夫)
 超空間波動怪獣サイコメザード
 の字面が凄い。
 「電話だよ、タカシ……」
 夜のシャッター商店街を駆ける少年、フードを被り妖しい微笑と共に携帯電話を手にする少女、ゾンビのように虚ろな表情の人々の群れ……と、 ホラー映画を思わせるような不気味な雰囲気を強調し、前回に続いて変化球な導入。
 そして、空には巨大なクラゲの姿が浮かぶ……。
 局の上層部と衝突しながらも、根源的破滅招来体の真実に迫ろうとクラゲ怪獣の取材を振り返る田端は、 奇妙なノイズの中に外国と思われる暴動の風景が映り込んだビデオテープを受け取り……
 我夢の大学の友人は、失恋旅行で里帰り……
 田端・倫文といういつものスタッフと旅番組の取材に出た玲子は道ばたに佇む藤宮を目撃し……
 エリアルベースの我夢は、マイクロ波による微量の電波干渉を気に留め……
 それら全ての糸が寄り集まる場所は、山梨県・城岩町。
 路上で車のパンクを直す羽目になった倫文、先に町へと入った田端&玲子はそれぞれ、 手に手にゴルフクラブなどを握った虚ろな表情の人々に取り囲まれ、携帯電話の着信音が木霊する中で、 正攻法のゾンビパニックがサスペンスフルに展開。恐怖を引き立てる小道具として活用される携帯電話ですが、1998年というと、 だいぶ一般化してきた頃になるのでしょうか。
 「玲子は街を出ろ。俺は俺のやり方で戦ってやる!」
 自らも脳を何かになぞられるような感覚を覚えながらも田端はカメラを担いで町に残り、 外部と連絡を取ろうと走る玲子は精神汚染済みの警察官に銃を向けられるが、 それを救ったのは玲子のおっかけ疑惑もある筋トレの使徒・藤宮博也。
 「……あなたいつか砂漠の街で」
 「奴らは人に興味を持っている。砂漠化した街もここも、その実験場所として選ばれた」
 実は長らく、第4話で人々の心に接触したのは青いウルトラマンだとばかり思っていたのですが、実際は波動クラゲだった模様で、 複数形なのも含めて、ただの怪獣を超える存在感をジワジワ発揮。
 「奴らとか実験って……いったいなんの事?!」
 「君が知る必要はない。命がある内に逃げるんだな」
 「仲間がまだこの町に居るの! お願い助けて!」
 「無駄だよ。存在理由のない人間はいずれ消える」
 「……え?」
 愕然とした玲子の、恐怖の町から逃げ出したら出会ったのは通りすがりの変わり者(オブラートに包んだ表現)だった、 という表情が素晴らしい(笑)
 田端は、携帯電話の着信音が鳴り続ける町でゾンビ軍団から逃げ回りながらカメラを回し、玲子は、気絶した警官の拳銃を手に入れた!(え)
 「もう頼まない。自分で助けるわ!」
 「せっかく助けてやった命を」
 「何様か知らないけど、一つだけ言わせてくれる?! 人の存在理由って誰が決めるのよ!」
 今回は、久々登場の田端さんを中心に〔KCB編〕といえる内容なのですが、環境テロリストへ向けたこの一喝により、 玲子の個性がぐっと押し出されたのは良かったです。正直、容姿といいキャラクターの方向性といい、 どうしてこんなに敦子と被っているのか……というのがあったのですが、我夢を介さない所で藤宮と絡んだのも、 双方にとって使い道のある布石になりそう。
 ビルの屋上にバリケードを作って立てこもった田端は、ビデオテープの送り主であり、この町で唯一、 正気を保っているが故に屋上にずっと隠れていた少年タカシと接触。少年を励ます内に「天国」という言葉に閃きを得た田端は、 屋上に積まれていた電球を使って空に向けてSOSのシグナルを送り、それを町の上空までやってきていた我夢が発見する。
 「よーし……天からの助けだ」
 なんとなくですが、この台詞や、「天国」という単語からXIG/エリアルベースを連想する田端の心情には、 どこか皮肉な響きが感じられ、天空要塞という設定そのものの格好良さや、精鋭集団としての特別性を高める一方で、 エリアルベースは物理的以上に“俗界から切り離された”場所になっている面があるのかな、と思うところ。
 これはそこに属する我夢やコマンダーのキャラクター性も大きいのですが (特にコマンダーはベースの存在そのものと相互に影響を与えあっていて、その内、「アースフォースは本当にあったんだ!」 とか叫び出しそうでやや心配になってくるレベル)、それに対して、どうやら懲罰人事で報道からバラエティに回されたらしい田端の、 俗界の中でも特に俗な所からでも、地球に迫る破滅の真実に迫ってみせる、という地上を這う俗人の意地、みたいなものも感じます。
 地上では、拳銃片手に町に戻った玲子が倫文に首を絞められ、空には巨大なクラゲが登場。 我夢はEX機から謎のパルスを放ってクラゲの存在を収束するとミサイルを発射し、 炎上墜落したクラゲが新たなスケルトン怪獣になった事で、ガイアに変身。
 身軽に飛び回りながらガイアを苦しめるメザードは、洗脳した町民を足下に集める事でガイアに対する盾とすると、 手を出せないガイアに触手を突き刺して激しく放電。
 一方、追い詰められた玲子は、渾身の右ストレートで倫文をノックアウト(笑)
 ヒ、ヒロイン力は……?!
 「怪獣! あっち行けー!」
 更にまさかの銃撃を行い、明らかに、梶尾さんより射撃のセンスが上です。
 ニューナンブの弾丸が意外と痛かったらしいメザードは、視線を玲子に向けると触手から光弾を放ち、あわや玲子が消し炭寸前、 間に入って攻撃を防いだのは、青いウルトラマン!
 闇夜を切り裂く煌めきとして物凄く幻想的に登場したアグルが、背後からの強い照明により半ばシルエットになった顔のアップに、 コントラストも鮮やかな白輝の瞳で玲子を見下ろす構図が非常に格好良く、BGMもはまった名シーン。
 制作サイドとしても思うところがあったのかもですが、ようやく、アグル(考えてみると、配信の冒頭で我夢が口にしているので、 色々面倒な事もあって、もうこだわらない事にしました)が「ふぉ?!」のイメージを脱却してくれて、大変良かったです。
 筋肉の脅威を感じ取ったメザードがガイアを捨て置いてアグルへと襲いかかるが、軽やかにそれを交わしたアグルは、 飛翔したメザードの尻尾を掴んで振り回すと、トドメはウルトラリーゼントバスター。
 これ自体がサイコメザードの見せた幻覚ではないかという疑惑も浮かぶまさかのアグル完封勝利でしたが、 メザードが木っ葉微塵に吹き飛ぶに際して、ガイアが咄嗟にダイビングする事で足下に居た町民達を爆風から守り、 ガイアのヒーロー性を確保してくれたのは、素晴らしかったです。
 「……もう一人の巨人。奴も、俺たち人間の味方なのか?」
 「……絶対そうよ」
 KCBの2人は飛び去った青い巨人を見送り、我夢は何やら交信のあったらしい藤宮の言葉を噛みしめる。
 (せっかくの力を有効に使えない。それが我夢、おまえの弱さだ)
 サイコメザードの精神支配から解放された城岩町には救急隊などが到着し、それを見た我夢は笑顔で基地へと帰還。一方、 今回の騒動を撮影したテープを手柄に報道部に返り咲きだ! と盛り上がる田端だが、 命がけでカメラに収めた映像はノイズばかりで使い物にならず落胆。
 「……俺の努力……全て無駄だったのか?」
 「でもないと思うけど? ほら」
 玲子が指さした先ではタカシ少年が家族と無事に再会しており、笑顔で手を振る少年に手を振り返す田端。
 決して特別な力を持たない男が、その信念に基づく行動から1人の少年のヒーローになる (その少年にとっては、田端の存在はウルトラマンと等価である)というオチが大変素晴らしく、 かつて宇宙刑事であった円谷浩さんが演じている、というのもメタ的には沁みます。
 第4話以来となる長谷川脚本はKCBを中心としたゾンビパニックで、 無力な人々が次々と巨大な存在の毒牙にかかっていく姿が描かれる中、田端と玲子が「自分たちのやり方」で戦う姿を見せて抗い、 溜めに溜めたところでヒーローが降臨するというカタルシスも気持ち良く、雰囲気は変化球ながら、ヒーロードラマとしては直球、 というのが面白かったです。
 ……倫文は、強く、生きろ。

◆第14話「反宇宙からの挑戦」◆ (監督:根本実樹 脚本:武上純希 特技監督:佐川和夫)
 木星軌道に発生したワームホール内部から巨大な反物質の塊が出現し、地球に迫る……え? 反物質って何?
 というレクチャーから始まるのが、今作にしてもクドくて重く、どうにかもう少し、話の中に馴染ませられなかったのか、 と思ってしまいます。説明され役になる千葉監督と、わかったような顔しているけど多分わかっていないコマンダーが、 エピソード通して基地で突っ立っているだけ、というのも印象がよくありません。
 監督とコマンダーが突っ立っているだけなのはいつも通りなのですが、なればこそ、専門用語を説明される役としてだけ出すのではなく、 物語としてワンポイントを与えてほしかったところ。
 巨大反物質――アンチマターが地球に衝突すれば、対消滅で生じた莫大なエネルギーは太陽系をまるごと消滅させかねない…… 我夢は対アンチマターの為、反物質を物質に変換するシステムの開発を請け負いジオベースと連携、 アルケミースターズのネットワークに協力を求める事で、なんとかその完成にこぎ着ける。
 「彼らは天才集団ですが……地球を愛するという思いは我々と一緒です」
 「それで、奇跡が起こせたと」
 「それが、アルケミースターズです」
 まるで何者かの意志が介在しているかのように、大量発生した天才集団であるアルケミースターズに対し、 コマンダーが一種のミュータント的なものへの不審を抱えているのが「天才集団ですが」という逆接の言い回しから改めて窺えるのですが、 根本的に太陽系が駄目になるかどうかの瀬戸際なので、地球を愛しているから協力するというレベルの話ではなく、 どうも冒頭から歯車が幾つもズレっぱなし。
 「あの……わかってるんでしょうか。今度の任務は大変危険で、もし失敗したら、爆発の波動で……」
 「わかってます。説明を始めて下さい」
 我夢が作戦に選抜されたのがライトニングでなくファルコンである事に疑義を呈するというのも、越権×脱線+今頃序盤に逆戻り、 と余計な要素だったように思えますし、ファルコンを指名した堤チーフの優れた部隊運用能力が描かれて、 クロウ案件で断崖絶壁から地面に叩き落とされた株価の回復を狙っているのかと思いきや、 そこにも特別スポットは当たらず、あちこちつまみ食いして全て中途半端に食べ散らかした感じに。
 いよいよ迎撃作戦が始まり、迫り来るアンチマターに向けて放たれる物質変換光線だったが、 その表面を覆うバリアーによって阻まれてしまう。敢えなく作戦は失敗し、地表に降り立つアンチマターだが、 すぐに対消滅を起こす事なくバリアによるフィールドを地上に広げ、その内部の物質を次々と反物質化していく。 まるで知性を持つかのような行動を取るアンチマターの目的、それは……
 「宇宙創成の時、反物質より物質が僅かに多かった為、今の宇宙が出来たと言われれている。 そのため反物質は異次元に封印されてしまった」
 「……何が言いたいんだ?」
 「アンチマターは地球を反物質にしてシールドを消す」
 「そんな事したら、宇宙そのものが消えるぞ!」
 「もう一度サイコロを振り直せば、二分の一の確立で反物質の宇宙ができる」
 「……奴は、宇宙を創り直すつもりか。……そんな事!」
 現場に飛んだ我夢は藤宮の説明を受けてガイアに変身しようとするが、ウルトラマンがそのままバリア内部に飛び込んだら、 対消滅によって大爆発が起こる、と制止される。
 「どうしたら……」
 「アグルのパワーでガイアのバリオン数を反転させれば、反物質ウルトラマンになれる!」
 いきなりだな藤宮!!
 第5話での本格登場以来、名乗られていなかった青いウルトラマンの固有名詞が劇的さゼロで自己申告されて大変ガックリしたのですが、 これ、スタッフの方も丁度良く差し込む機会が無くて困ったりしていたのでしょうか…… 設定上は存在するけど必要も無いのに自ら名乗らない、というのはある種のリアリティではあるのですが、 「ガイア」の名前はそれなりに劇的に名付けただけに、「アグル」も一工夫欲しかったところで、残念。
 我夢と藤宮は並んで変身し、アグルによって反物質化したガイアはバリア内部にワープ。 サイケデリックな色彩の空間でペスターっぽいデザインのアンチマター中心部と戦い、 幻惑的な動きに苦戦しつつも光線技でその一部を吹き飛ばす。ところがこの欠片がバリアの外へ飛び出してしまい、 そのままでは物質と対消滅して爆発してしまう、という所でチームファルコンが飛来。物質化ビームを華麗に浴びせ、 危惧されたあわや見せ場無しは回避するが、物質化した時点で満足してしまい、 空中に舞ったそれなりの大きさの破片を無視して飛んでいってしまうので、大変間抜けな事に (追加装備の関係でミサイル積めなかったのかもですが……)。
 空中で待機していたアグルがこの破片をビームで消し去るのは、アグルの見せ場確保の狙いがあったのでしょうが、 地球そのものの消滅を望まないアグル/藤宮が対アンチマターに協力するまでは良いとして、 破片で市街地が壊れるぐらい気に留めそうにないのに、サービスでゴミ掃除をしてくれたのはだいぶ違和感。……それとも、 逃げ遅れた野良猫の姿でも目に止まったのか藤宮ぁ!!
 弱ったアンチマターはサナギのような状態になり、中空のアグルはバリアに開いた穴まで塞いでくれる万全のアフターフォロー。 二人のウルトラマンはバリアごとアンチマターを抱えて宇宙へと飛び出し、そのままワームホールへと送り返すと、 宇宙の穴もばっちり塞ぐのであった。そして……
 「さあ、ビームを!」
 事前に「俺が気まぐれ起こしたらどうするよ……?」と脅されていたガイアが、物質に戻してくれないアグルの態度にちょっと焦るのですが、 軽い嫌がらせレベルで気を持たせてからあっさりと元に戻し、我夢と藤宮が素直に共闘しているイメージを残したくなかったのかもですが、 物質に戻してくれとアピールするガイアの姿が大変間抜けになった方が、ダメージ大きかったかな、と。
 変身前に脅かされた我夢が、「それでもやる」と決断を見せるようなシーンも何故かスキップされてしまい (この時の心理をチームファルコンが伝えてきた覚悟に繋げる、とかやりようはあったと思うのですが)、 一連のやり取りを通じて特に二人の心情が掘り下げられる事もなく、今回はどうにも歯車が噛み合いません。
 「またここへ戻ってきてしまったな」
 「地球を守るために、これからも命を張り続けろって事ですよ」
 「僕たちはいつまでも米田さんについていきます」
 出撃前から「こんな花道を用意してくれてありがとう」みたいな事を言って死ぬ気満々だった米田さん、 これまではファイター組の中で年長者&人格者ポジションだったのですが、 一つ一つの任務に常に命がけで臨んでいるアピールを通り越して、 「生死の狭間で戦うファイターパイロットな格好いい俺」に泥酔している人になってしまい、 今エリアルベースに必要なのは、食堂にラーメンを導入するなど、隊員の精神を健全に保つ為の施策ではないのか。
 茶道だ! コマンダーの茶道教室だ!!
 XIG隊員のメンタルケア問題は喫緊の検討課題として、我夢と藤宮も地上へと帰還し、我夢は藤宮に手を差し伸べる。
 「君となら、きっと二人で、人類を守る事ができる」
 「――勘違いするな」
 じ、人類の為に腹筋してるんじゃないんだからね!
 「僕は信じてる。同じ地球の子なんだから」
 握手を拒否し、歩み去る藤宮の背中を見つめながら、我夢は呟くのであった……で、つづく。

◆第15話「雨がやんだら」◆ (監督:北浦嗣巳 脚本:右田昌万 特技監督:北浦嗣巳)
 その夜、速水市に不思議な雨が降り注いだ――緑の雨、人間を溶解する奇怪な生物、そして甦る死んだ動物…… 怪事件の取材に向かったKCBクルーは、現地で調査中のXIGを目撃。
 「まーた緑の雨まで根源的破滅招来体の仕業とか言い出すんじゃ」
 なんか、オカルトかぶれの胡散臭い組織扱いされている!
 XIGの鼻を明かしてやろうと意気込む玲子と倫文は、医療廃棄物の不法投棄現場と、地面に残された謎の粘液を発見。一方、 エリアルベースで緑の雨を分析していた我夢のPCに突如、筋トレしている自分のアップ映像で割り込んでくる 藤宮ぁぁぁ!!
 (何故か藤宮に向けて叫ぶのが癖になっているのですが、何がきっかけだったのか思い出せません)
 「根源的破滅招来体は、怪獣体だけとは限らない」
 自室備え付けの固定カメラの事情かと思ったら、自分にズームインする藤宮(笑)
 助けて藤宮。
 「絶好の宿主があの街に存在していたんだ」
 研究室で数字と睨めっこしているお前に、俺の激しい筋トレと! 崇高な筋肉の美を伝える! といつもより負荷を掛け、 荒い息づかいの合間にヒントを伝えてくる藤宮と、チーム・ハーキュリーズの圧倒的密度に比べたら、モニター越しの筋トレ映像など、 春の野に心地よく吹き渡るそよ風のようなものなんだよ藤宮、とそのアピールを平然と受け流す我夢の対比が、 寄せては返す波のような面白さ。
 今回はもう、ここだけで3エピソード分ぐらい笑えたので、満足といえば満足。
 遙か天空で乳酸と糖質が火花を散らしている頃、不法投棄のルートを追っていたKCBは、 世界初となるクローン心臓の移植術を控えた少女と、手術に使われるクローン臓器の研究者である矢淵博士と出会い、 少女の身の上に同情を寄せる玲子の、引っ込み思案だった少女時代を振り返る形でキャラを掘り下げ。
 だがそのクローン臓器――博士の知らないところで不法投棄されていたクローン細胞――こそが、藤宮の指摘した「絶好の宿主」であり、 緑の雨として宇宙から飛来した微生物が取り憑いて誕生した、モンスターの正体であった。
 その日の夜、増殖したモンスターに囲まれたKCBはXIGの地上部隊によって助けられ、我夢とKCBクルーが初顔会わせ。
 「さすがアルケミースターズで、XIGの高山我夢」
 「あなた達って……KCBだ! いやー、僕ってもう、そんなに有名なんですか?!」
 そのファーストインプレッションは、大変お気楽であった。
 ……気をつけて我夢! 業界の有名人かつ地上任務の多い君のマスコミへの対応如何で、 「怒りの告発! 増大し続ける防衛予算の使い道は、最新鋭の筋トレ設備?!」 「エリアルベースの食堂でタンタン麺を要求する呆れた実態!」「関係者F氏は語る。「プロティンの消費ペースが不自然」」とか、 有ること無いこと書かれて、ネガティブキャンペーンされてしまうから!
 我夢の分析により、モンスターの粘液を浴びて溶かされた人間は、ドロドロのゲル状態でも生きている事が判明。 我夢とKCBはお互いの持っている情報を擦り合わせて(というやり取りは尺の都合か存在しないのですが、 ここは両者の関係性強化という点でも、会話があった方が面白かったかなと)、矢淵博士の元でモンスターの正体に気付き、 博士は自らの研究が招いてしまった災厄に苦悶する。
 少女の事を心から思う博士は、悪質な処理業者の行為まで自らの責任として背負い込もうとする非常に善良な人物として描かれ、 人の命を救う事もあれば思わぬバイオハザードの原因ともなりうる、科学の発展の二面性を最終的に左右するのは扱う人間の倫理である、 という事を対称的に描写。
 堤率いる地上部隊は夜明けを待ってモンスターの巣に攻撃を仕掛けるが、その刺激によりマザーモンスターが巨大化。 チームライトニングの誰かが電信柱アタックで撃墜された事でガイアは変身し、地上ではKCBが中継に突撃するが、 地面に散らばる粘液人間を思いきり踏みつけていく田端と倫文に対し、そこに明確な人間の意志を見る玲子は座り込んでしまう。
 「これじゃリポートできないよー……!」
 田端たちは玲子を置いて先に行ってしまい、粘液人間の声に耳を塞ぐ玲子の背後に現れる、厚着をした藤宮。……藤宮、 理想は筋肉でガードなのでしょうが、実際の役者さんはスラリとした細身なので、さすがに寒さが限界に達した模様。
 「染みにされた方が幸せなのかもな。いずれ人間は滅ぶ。その時になってじたばた足掻くより、染みのままの方が潔いじゃないか」
 「じたばた足掻いたっていいじゃない! 綺麗じゃない! 破滅招来体だろうが、植木鉢が落ちてこようが、 人間死ぬ時はみんな死ぬんだから! でもね……人間は死を待つためになんかあるんじゃない。今なにをしようか、 今どうしようかって精一杯生きていく。人間はその為にあるんじゃない」
 ガイアvs怪獣の戦いを見上げながら闇のポエムを嘯く藤宮に対し、立ち上がった玲子が生の尊さを説くのですが、 あまりにも強引な説教モード。
 人類に対して虚無的な視点に立つ藤宮に向けて、「活力」の象徴として玲子がぶつかっていく、 というのは第13話の関係性を踏まえているのですが、第13話が「何様か知らないけど、一つだけ言わせてくれる?!  人の存在理由って誰が決めるのよ!」という啖呵に集約されていたのに対し、キャラクターと長広舌がどうもアンバランス。
 エピソードにおける「難病の少女」というタームと繋げる事で説得力を付加しようとしてはいるのですが、 その少女とのやり取り含めて、この台詞の為に玲子が急に「語る」キャラにされてしまっている、違和感が先に立ちます。
 また今回限りでも、取材対象に偉そうにリアクションの演技指導をして怒らせる・ 取材許可を取らずに立入禁止区域に入って怒られるなどが描かれており、マスコミの負の側面にも目を向ける意識はわかるのですが、 正体を知っている粘液人間を事も無げに踏み越えていく、という「他者の尊厳を踏みにじる行為」はやり過ぎで、 田端・倫文の人間性を必要以上に貶めてしまいました。
 それに続く玲子のヒステリックな反応も唐突になりましたし、そのヒステリーから説教モードに反転するというのも強引さを増してしまい、 総合的に無理の重なるシーンに。
 「あんた見かけ若いけど、頭ん中そうとう老けてるよ」
 「ふん、次の時代を見るのは、俺だけだ」
 直後のこのやり取りも玲子のキャラクターが安定せず、それこそ肉付けの進んだのが第13話ぐらいからなので仕方ない面はあるのですが、 こういう軽口の延長線上でぐさっと藤宮を一刺しする方が、まだそれらしかったかなと。
 病院では少女の手術が進められる一方、責任を感じていた矢淵博士がモンスターの唾液の分析から、粘液人間を元に戻す為の酵素を発見。 連絡を受けた玲子は我夢を探すも当然見つけられず、藤宮からのアドバイスによりそれをガイアへと伝えると、ガイアは怪獣を殴り倒し、 空から体内の酵素を振りまく事で、粘液状態にされた人々を元に戻すのであった。
 玲子が少女に語った「喋る」「伝わる」という要素がクライマックスに持ち込まれ、ガイアが玲子の言葉を受け止める (この双方向性がポイントであり、藤宮が持っていないものでもある)シーンは良かっただけに、 玲子×藤宮のくだりの強引さが惜しまれます。
 二足方向するぶよぶよしたスライム、というグロテスクだが滑稽な怪獣のデザインを活かす狙いがあってか、筋トレ通信に始まり、 一人称視点の盛り込み、怪獣に囲まれて逃げ惑うKCB、並んで一斉に振り返る堤と地上部隊、 など物語はシリアスなまま映像でおかしみを与える、という演出のトーンも効果を発揮してはいたのですが、それだけにますます、 玲子×藤宮のやり取りは浮いてしまう事に。
 この辺りは、脚本段階ではもっとシリアス一辺倒だったものを、産業廃棄物問題を絡めたヒューマンドキュメンタリー風味がくさくなりすぎるのを、 演出サイドが嫌がったのかなとも邪推しますが。
 少女の手術は無事に成功して大団円となり、次回――今こそ語ろう、藤宮博也が筋トレに目覚めた日の事を。

◆第16話「アグル誕生」◆ (監督:北浦嗣巳 脚本:吉田伸 特技監督:北浦嗣巳)
 藤宮の元カノはハムスター(今カノは筋肉)。
 第3話に登場したのと同型とおぼしき金属生命体が地球に飛来し、それを迎撃するアグル。
 (なぜ藤宮はここに。なぜあんなに必死なんだ?)
 藤宮が積極的に怪獣と戦うとかオカシイ! と疑問を抱いた我夢は、 金属生命体の降下予測地点に現在は封印されたアルケミースターズの施設がある事に気付く。 訪れたその地でかつて藤宮の研究チームに居た稲森京子博士と出会った我夢は、稲森から藤宮がそこで、 ある研究を続けていた事を教えられる……。
 4年前――アルケミースターズに所属していた藤宮は、ハムスターに話しかけたり同僚達と気さくに会話したり、 まだ筋肉との対話には目覚めていなかった。
 そんな爽やかだった頃の藤宮が中心になって開発した光量子コンピューター・クリシスが稼働した日、 暴走するクリシスの光の中で藤宮は青い光の巨人にアクセス。そして、破滅招来体の予言は成されたのであった。
 光量子コンピューターが予言した破滅の未来を回避する方法を探すアルケミースターズだが……ある日藤宮は、 一つの解答に辿り着いてしまう。
 「試しに……削除してみたんだ」
 「何を?! 何をだい?!」
 削除項目:人類
 「このままじゃ、地球も人類も、本当に滅びる」
 悩める藤宮は、モニター上に映し出されたAGULの文字を目にし、再び青い光の巨人とアクセス。 3年前にアルケミースターズを脱退すると、専用に譲り受けた施設で、かつての同輩・稲森京子博士をパートナーに、 地球内部の監視を続ける。
 「僕は……本当の気持ちが知りたいんだ」
 「え?」
 「本当の、地球の意志が」
 近い将来、地球に破滅が訪れるならば、地球内部に新たな自然治癒力が生じるのではないか…… 青い光の巨人・AGULの中に人類を滅ぼす意思を感じ取り、人類は地球自身の治癒力によって滅ぼされるべき存在なのでは?  と思い悩む藤宮の前に、遂に観測される地球の意思……?
 「アグル……俺に、おまえの力をくれ! アグルーーー!!」
 ・
 ・
 ・
 「彼は……その光の中に消えたわ。それ以来私は、一人で観測を続けているの」
 稲森博士と藤宮の回想を交差しながら、始まりの予言、我夢と藤宮の出会い(直後に藤宮は隠遁)、アグル誕生、 が一気に語られるのですが……人類滅亡の危機に直面した天才科学者が苦悩の末に神秘体験を経てオカルトに転向する というのが生臭すぎて、個人的にはどうにもノれず。
 似たような状況でガイアとなっている我夢の場合、ファンタジックな要素とヒーローの希望の力、 というスパイスによって緩和しているのですが(その上で、XIGにおける人間的成長により煮込まれている)、アグル誕生の秘密は、 あまりにもダイレクトな印象。
 また、このエピソード自体が、映画の途中に挟まる真相解明シーンのような雰囲気と作劇なのですが、 映画だったら2,3分でまとめるような回想を、エピソードの半分使う事で、詳細かつ劇的というよりも、間延してしまった感。
 「破滅を回避する為に地球自身が生み出した力が選んだ道が人類の排除ならば、俺がその代行者となる、 或いはその真意をギリギリまで確かめる」という藤宮の現在位置はわからないでもないのですが、どうせそれを出自から明かすなら、 藤宮自身に大魔王ムーヴで語らせた方が面白く、関係者から間接的に話を聞く、というのもあまり面白く感じませんでした。
 (アグルよ……地球の危機が運命なら、人類の危機が運命なら、地球の意志に沿っていく事が、人類に残された唯一の道なのか?  それを導くのがアグルの力。……アグル! 再びおまえの力を!)
 金属生命体との戦いで弱った体で、施設に辿り着いた藤宮は、粒子観測用のプールにどぶんと飛び込み、 我夢と稲森もモニター越しにそれを確認。
 (そうか……ここで藤宮は!)
 アグルとアクセスしてマッスルパワーを充填した藤宮は再びアグルに変身し、稲森博士とハムスターの無事を確認すると、 迫り来る金属怪獣と激突。金属怪獣は偽アグルへと変身して激しい打撃の応酬が繰り広げられるが、 大腿四頭筋スピンで偽アグルのチャージ攻撃をかわしたアグルは、連続攻撃からうにょんバスターでフィニッシュ。
 直撃した偽アグルが内側から木っ葉微塵となり、目つきの悪い偽物とはいえ、アグルの頭が派手に吹っ飛ぶ映像は、 笑わせに来ているとしか思えない衝撃シーン(笑)
 「君は、僕らのために」
 「俺はアグルの聖地を守っただけだ」
 「アグル? それが君の力? 僕と一緒に戦おう」
 我夢が、「アグル」を問い返しているのは、やはり先日、さらっと言い過ぎて印象に残らなかったのか(笑) 若干、 「アグル」の名称を出すタイミングに混乱があったのでは、というのも窺えます。
 「おまえは地球の意思に逆らっている」
 「人類を救うのが地球の意思だろ」
 「今の人類は、自然の頂点に立つには自己中心的すぎる」
 「ただ破滅招来体の犠牲になればいいっていうのか」
 「地球がそれを求めているなら」
 「君は人が死ぬ哀しみから目を逸らすのか」
 ガイアとアグル、同じ地球の力を得ながら、人類への対称的な視点を持つ我夢と藤宮の進む道は、果たしてこれから、 どのような形で交わるのか。我夢は堤と合流し、ハムスターを見つめた藤宮は、 救助された稲森博士と視線だけかわして去って行くのであった……。
 藤宮に対して稲森博士が向けているとおぼしき、手に入らないものへの憧憬、という同輩以上男女未満の感情を絡めつつ、 藤宮の過去が割と淡々と明かされる渋い構成なのですが、あまりに渋すぎた印象。そこはスタッフも思うところがあったのか、 冒頭とクライマックスを派手なバトルシーンでサンドイッチしているのですが、間に挟んだ肉が味付け不足な上に生焼けで、 飲み下しにくい内容になってしまいました。
 過去シーンで一つ注目は、“昔の藤宮は我夢に似ていた”という事。
 ガイア/我夢と、アグル/藤宮、という対比構造がより明確にされましたが、14−15−16と、 藤宮との対立構造の中でやや頭でっかちな展開が続いているのは気になるところで、 上手く2クール目の展開が軌道に乗ってきてほしいものです。

◆第17話「天の影 地の光」◆ (監督:村石宏實 脚本:古怒田健志 特技監督:村石宏實)
 またも木星圏から地球に迫る、気合いの入った造形の巨大な構造体からスタート。エリアルベースではそれは、 地球に近づくが軌道からは逸れていく小天体として観測されるが……一方、藤宮は美宝山の地下で眠っていた怪獣に特殊な弾丸を撃ち込み、 アグルの光を浴びせる事で覚醒を促す。
 エリアルベースにはジオベースの樋口が訪れ、貴重な理系仲間と認識しているのか、我夢の反応がやたらにこやか(笑)
 第1話においてコッヴが来襲した後、まるでそれに刺激されたかのように地球内部から次々と怪獣が出現しているという関連性に触れた樋口は、 地球全体で観測されている、破滅招来の予兆現象? を集めたデータを開陳。ジオベースでも限られた者しかアクセスできないトップシークレットであったが、 最近このデータに不正なアクセスが続き、特に美宝山に関する情報が軒並み閲覧されていた。
 つまり……筋トレハッキング。
 説明しよう、藤宮博也は、筋トレをしながらハッキングする事で、筋肉への負荷を3倍に引き上げる事ができるのだ!
 「藤宮……君なのか」
 先日、息を荒げた藤宮が不正アクセスにより自身のトレーニング映像をどアップで送りつけてきた事を思い出した我夢は美宝山へ飛び、 地上に出現した怪獣と、現場を去ろうとする藤宮を発見。
 「藤宮! 君は、あの怪獣の出現を予測していたのか?!」
 「予測? は、はは! ははは」
 「何がおかしいんだ?!」
 むしろ、藤宮が身につけた怪獣操作用のインカム的な装備が見た目ちょっと面白くなっているのですが、一切ツッコまない我夢、 さすが、「エスプレンダー!」を自作した子。
 「……我夢、一つだけ言っておく。俺に協力するつもりがないのなら、せめて邪魔だけはするな。もし、妨げになるようなら、 その時は、おまえをこの手で倒す」
 チームクロウが威嚇射撃で足止めを行い、ガメラ顔の地底怪獣を分析した我夢は、怪獣の体内には核融合反応があり、 怪獣はいわば小さな太陽を背負っているようなものだと気付く。下手に攻撃をすれば甚大な被害をもたらす事が確実な怪獣が街に迫る一方、 宇宙では謎の小天体が進路を変更して地球に迫っていた。
 「地球に、破滅をもたらすもの……」
 謎の小天体の正体が、造形物か怪獣かと判明した時のコマンダーの呟きが、深刻さを増して良い感じ。 色々スケール感大きめのガイアですが、今回のスケールの大きさは非常に好みです。
 「地上には怪獣、宇宙からも敵が。どうしたらいいんだ……」
 目前には歩く原子炉、天からは人類文明を崩壊に導きかねない巨大な質量……必死に対策を練る我夢は、 地底怪獣の背中に溜まったエネルギーを小天体に照射する事で、地球への直撃を回避できるのでは、と閃く。
 (藤宮……君は、最初からそのつもりで)
 藤宮が怪獣を覚醒させたのは小天体への対応策だった、と希望を持つ我夢だが、シミュレーションによって出た計算結果は……
 「藤宮……君は、どうしてこんな残酷な計算ができるんだ?!」
 藤宮が人類の大多数の事を気にするわけがない(なお、綺麗なお姉さんには甘い傾向あり)、というのは既に何度も示唆されてきた上で、 地球と人類を共に守ろうとする我夢と、地球存続の為なら人類の切除を躊躇わない藤宮の決定的な対比が凝縮されて、非常に好きな台詞。
 「僕は……僕は、目の前で人々が悲しむ姿を見てはいられない!」
 小天体がそのまま激突すれば、爆心地から半径100kmは壊滅した上、 大気圏上層まで舞い上がった粉塵などにより地球環境に決定的なダメージを与えかねない、かといって、 地底怪獣のエネルギーで破壊に成功しても、爆心地から半径20kmは反射熱によって消滅してしまう。
 天と地の二つの脅威に挟まれ、全てを守ろうとする我夢はガイアとして怪獣が街を踏みつぶそうとするのを止めようとするが、 小天体の破壊をこそ目的とする藤宮は、操縦装置を使ってガイアを素通りするように怪獣に指示。
 だが怪獣はその本能ゆえにかガイアを執拗に攻撃し、焦る藤宮はアグルへ変身。ガイアを押しのけ、踵落としで怪獣を気絶させると、 強引に怪獣の甲羅をこじあける事で、エネルギーを放射させようとし……つまり、最後に頼れるのは、 己の筋肉なんだよ我夢!
 「やめろ! ここでそのエネルギーを放つな!」
 幾ら筋肉を鍛えても、人は核融合の炎には耐えられないんだ藤宮ぁ!
 必死に制止するガイアをビームで吹き飛ばし、遂に筋力で甲羅をこじあけるアグル。放射された強力な核融合エネルギーは、 地表に迫る小天体と激突し……果たして東京の運命は?! で、つづく!
 これまで、規模の大きいエピソードも出来る限り1話でまとめてきた今作ですが、天と地の二つの脅威を繰り出し、 第1話以来となる続き展開。小天体が、造形的にもスケール的にもかなり好きなのですが、さすがに大きすぎて、 後編で怪獣になって暴れる、という事はなさそうか……?(笑)
 序盤に軽く触れたジョジーの誕生日エピソードが途中から完全消滅、やたら強力な地底怪獣の始末はどう付けるのか、 など引きエピソード特有の消化不良はあるものの、次から次へと迫り来るカタストロフを畳みかけてくる展開で、面白かったです。
 次回――赤と青、激突!

◆第18話「アグル対ガイア」◆ (監督:村石宏實 脚本:小中千昭 特技監督:村石宏實)
 前回までのあらすじ:元カノのハムスターを救ったウルトラマンアグルこと藤宮博也は、 筋肉と会話できる俺なら怪獣とも意思疎通が可能な筈、と地底に眠る怪獣と契約。 地球に迫り来る天体生物を破壊する為に怪獣の溜め込んだエネルギーを使おうとするが、 待遇に不満を訴えた怪獣がストライキを起こしてしまう。一方、天の影と地の光に挟まれたガイアは全てを守り抜く知恵も力も足りず、 最善の解決策を見いだせないまま目前の戦いに手一杯になっていた。地球の破滅を回避する為には、人類は切り捨てるべき存在なのか?!  ガイアを押しのけたアグルは、強引に怪獣のエネルギーを放出する事を選んで殻をこじ開け…… 見ろ我夢、これが、筋肉の力だぁぁぁぁぁ!!
 アグルの行動に咄嗟に上空に飛んだガイアは、都内広域にバリアーを広げる事により、 天体生物の爆破で生じた放射熱から街を守り抜くが、消耗しきって墜落。
 「自分の命を犠牲にしてまで、なぜ人間を守る? 我夢」
 倒れたガイアを見下ろしてアグルは去っていき、ガイアはエネルギーを放出して再び眠りに落ちた怪獣を地底へと戻し、 前後編で一挙2体出しだった怪獣が、共に冒頭で片付けられてしまう、という贅沢な展開。
 ハッタリ的にもデザイン的にもディグローブはかなり好みだったので、突撃→迎撃であっさり終わってしまったのは少し残念でしたが、 巨大すぎたので他に使い道がなかったか(とはいえ今作の敵はフォームチェンジが多いので、少しばかり期待していたのですが)。
 「優しいんだ……ガイアって」
 後始末を終えた我夢は基地に帰投し、オートパイロット機能に、ロボ犬的なアバターが登場。
 「藤宮が……あんな考えになるなんて……信じたくないよ。人間が、地球にとって不要なものだなんて……絶対に違う。でも、 じゃあどうして、アグルの力を、あいつは掴めたんだ」
 「私ニハ、答エラレナイ質問デス」
 「ううん、いいよ。誰にも聞けない事だもの。僕が、自分で答を探さなきゃいけないんだ」
 という台詞が、印象的。
 その夜、報道特番への出演を終えた玲子が、急に粉かけてきた倫文をかわして帰宅しようとすると……
 「ウルトラマンは、根源的破滅から地球を救済するのものだ」
 エレベーターホールで、壁に隠れながら語りかけてくる藤宮ぁぁぁぁぁぁ!!
 それは、格好いいつもりなの藤宮ぁぁぁぁぁ?!
 ……もしかすると藤宮、例の我夢への筋トレハッキング映像も「俺格好いい」アピールだったのかもしれず、 凄く基本的な所で変質者属性なのか藤宮よ。物語の盛り上がりとは別のところで、今回最高に面白かったシーン(笑)
 「ならどうしてウルトラマン同士が戦ったの?」
 「自分がすべき事をわかってるかどうかの差だ」
 「すべき事?」
 「地球を救う事と人間を救う事は、同じではないんだよ」
 玲子の後を追ってきた倫文が、警備員さん変質者です! と間に入って玲子をエレベーターに押し込み、 なんとなくそれっぽいポジションではあったものの、風水回で風水師に鼻の下を伸ばすなど、 特にこれまでは明確な描写の記憶にない倫文が今回やたら積極的に玲子さんに秋波を飛ばすのですが、 藤宮と玲子が近づいていく中でのアクセントという事になっていくのでしょうか。
 「今度TVに出る時、その事をちゃんと言うんだな」
 そして、語らいを変な奴に邪魔された、と結局顔を出す藤宮ぁぁぁぁぁ……!
 面白い、面白いよ藤宮……。
 藤宮の信念としては重要なことを言っているのですが、序盤についてしまった「女子アナが好き」「TVでアピールしたい」 というイメージも手伝い、心に雑念しか響いてこなくて困ります。
 一方、我夢は一人寂しく、藤宮が怪獣に取り付けたと思われる装置を自室で分析しており……え、何この、可哀想な対比構造、 と思ったら敦子から「部屋に行っていいか」と通信が入って、ホッとしました(笑)
 なんだかんだドギマギしちゃう我夢は、上着も羽織って髪も整え(部屋の中は、どうにも片付けようがなかった)、 緊張した面持ちで扉を開くが、敦子の背後にチーム・ハーキュリーズ!  という酷すぎる罠はさすがになかったものの、敦子に続いて顔を出すジョジー。
 前回、ちらりと触れてそのままだったジョジーの誕生日を祝おう、という名目で二人が乗り込んでくるのですが、なぜ、我夢の部屋で、 3人で1つのホールケーキを平らげようとするのか(笑)
 藤宮×玲子のシーンとの対比としては構造的に綺麗ですし、3人の関係性の掘り下げとしても悪くはないのですが、 何やら根本的な所で、オペレーターコンビと他メンバーとの間に横たわる深い溝を感じてしまいます(笑)
 (やだー、梶尾リーダーがまた、大臀筋と会話してるー)
 (どうして食堂のメニューに、ラーメンがなくてプロティンはあるの?)
 みたいな日常を送っていると、まだ我夢は、“こちら側の人間”という扱いなのではないか(笑)
 その頃、ジョジーから“ハンダ付けが甘い男”認定を受けた藤宮は、結局玲子と普通に立ち話をしておりなんだか凄く駄目な感じが漂いますが、 藤宮にとって「人類の扱いが雑」なのは“手段”であり、「地球を救う」という“目的”の為の代入可能なプロセスである、 という部分に藤宮自身が迷いを抱く余地がある、というのが誕生編からしっくりと来る流れ。
 「ウルトラマンには、人間の言葉が通じるって教えてくれたよね。……なんとなくわかった。ウルトラマンは人間なんだなって」
 「俺はそんな事まで言っていない」
 ほぼ自白であり、面白すぎるぞ藤宮……。
 「本当は言いたいんじゃない? 自分が青いウルトラマンなんだって」
 口ごもって背を向ける藤宮、正直、言いたそう(笑)
 「……違うか! だったらいいなーって思ってさ。だってそしたら私、独占スクープできるし」
 その気配を感じ取ってか、一歩引いた玲子は冗談めかして誤魔化すが、垂らされた釣り針に食いついてくる藤宮。
 「……あんたの言うとおりかもな」
 「え?」
 「俺は誰かに言いたかったのかもしれない」
 「……やめてよ」
 形としては、言葉のプロフェッショナル玲子さんが、劇場型犯罪者の自供を引き出したみたいな事になっていますが、 この後の藤宮の行動を考えると、藤宮としては何かの踏ん切りを付ける為のきっかけが必要であり、 玲子はそれを敏感に察したというようにも思えます。
 「しかし言ったところで、どうにもならない事だ」
 「やめてよ! どうして私にそんな事まで教えるのよ!」
 一方的に、自分という人間の記憶を押しつけて藤宮は去って行き、取り残された玲子はその背に叫ぶが、藤宮はもう振り向かない。
 そして一夜明け――遂に藤宮は、自分よりもTVに映る機会の多いエリアルベースに、直接テロ行為を仕掛ける。
 「こんなもので地球を守れるなど……愚か者の考えだ」
 ブリッジを占拠した藤宮は、エリアルベースのシステムに介入してリパルサーエンジンを停止させようとし、それを阻止する為、 等身大変身による壁のすり抜け能力で藤宮の前に立つガイア。外の通路ではXIGメンバーが状況打開の為に動き出し、 ウルトラマン対決のみならず、エリアルベース墜落の危機、という緊迫感が劇的な面白さを高めます。
 「こんなのものがあるから人間はつまらない希望をいだいて、現実を見つめない」
 「希望を持つのが、いけないというのか?」
 「地球がもたん時が来ているんだよ我夢!」
 「人間の筋肉はそんなもんだって乗り越えられる!」
 「ならば……今すぐ愚民ども全てに筋肉を授けてみろ!」
 「貴様ほど急ぎすぎもしなければ、人類に絶望もしちゃいない!」
 …………隕石落としからライバル対決と対話、という流れは、富野由悠季ファンとしてはどうしても『逆襲のシャア』 を思い出してしまう所なのですが、実際、意識はあったのかなかったのか(笑)
 両雄の直接対話には一定の必然性があるとして、そこから逆算した前振りとなるエピソードが小天体衝突の危機、 というのは一種のオマージュ?とは気になってしまう所です。
 「力には力しかないんだよ、我夢。――地球が隠していた、強大なる力。それを俺は託されたんだ。この地球からね」
 「嘘だ! 人間を犠牲にした力なんて、間違ってるぞ」
 「アグルこそこの地球を救う者なんだ。我夢、おまえもその一人だと思っていたが、あくまで敵となるのか!」
 両者の主張が平行線を辿る一方、エリアルベースが駄目になるかならないかの瀬戸際です、やってみる価値はありますよ、 とブリッジのシステムを通さずにメインコンピューターに直接アクセスすべく、 無駄に長くて危険な筋肉の鍛えられる梯子を下りていくオペレーターコンビ。ブリッジではガイアとアグルが肉弾戦に突入する中、 階下ではシーガルが突入ルートを模索するという複数構えの作戦が展開し、オペレーターコンビはなんとかメインコンピューターに到達。
 「あっこ、頑張ってね」
 「わかった――やる」
 ここでEDの吹奏楽アレンジBGMが流れ出して雰囲気を盛り上げ、ケーブルを抜き差ししてプログラム修正を行う敦子、 突入径路を発見するシーガル、とウルトラマンだけではなくXIGも戦う姿が非常にドラマチックに集約され、 ガイアvsアグルだけに寄りかからず、チームの戦いを手抜かり無く見せる、 『ガイア』らしさの色濃く出た素晴らしい展開でした。
 過去の人間関係を切り捨ててアグルの使徒として地球の救済を遂行しようとする藤宮と、 XIGに入って地球と人類をともに救おうとする我夢の対比としても、鮮やか。
 シーガルが天井に打ち込んだ壁破壊用の貫通弾が足下から直撃したアグルは腹を押さえ、全方位に面白すぎるぞ藤宮。
 コマンダーの指揮する陸戦部隊がブリッジへ突入寸前、ガイアの開けた空間ゲートからアグルは外へと逃走し、 それを追うガイアともども、コマンダーと監督に目撃される事に。
 「ウルトラマンが……なぜここに」
 そして空中でアグルを探すガイアは、一足早く巨大化していたアグルから、悪の宇宙人めいた笑い声とともに、 不意打ちの巨大パンチを食らう(笑)
 「フハハハハ」
 藤宮……おい……藤宮……。もう、ツッコむエネルギーが足りなくなってきたよ藤宮。
 (このまま僕は、落ちてしまうのか? アグルの力が、本当だとしたら……)
 一時的に変身の解けた我夢は、真っ直ぐに落下しながら目を開く。
 「僕はただ、思い込んでいただけなのか? ウルトラマンは、地球と人類、みんなを救う光だって。 …………違う! 絶対にアグルは間違ってるぞ! ガイアーーー!!」
 地上激突寸前、我夢は再びガイアに変身してなんとか墜落死を免れるが、そこに巨大アグルのビームが容赦なく迫り、 巨大なウルトラマンを見上げ、ビームから必死に逃げる小さいウルトラマン、というのは面白い絵。
 ガイアはエネルギー不足で巨大化できず、それを見たアグルは、敢えて同じ大きさになると、 どっちの筋肉が優れているか、決めようじゃないか? と人間大での殴り合いがスタート。
 一進一退の攻防が続き、ガイアのボルン−オッペンハイマー近似回し蹴りを喰らったアグルは、右手に纏うフォトンブレードを発動。 青白い刃が虚空を切り裂き、追い詰められるガイアだが、間一髪うにょんバスターでブレードを弾き飛ばし、光線の打ち合いは互角。 互いのカラータイマーが明滅する中、渾身の飛び蹴りがぶつかり合うも、全く互角のまま揃って変身解除する事に。
 「強くなったな……我夢。しかし……おまえは倒す! 俺の邪魔をする存在は、排除しなくっちゃな」
 捨て台詞を残して藤宮はよろけながら去って行き、なにしろ、生身同士の戦いの場合、 相手は殺傷力のある銃火器を持っている可能性が高いので、逃げの一手です!
 「藤宮…………どうして、地球は……アグルの力を」
 消耗の激しい我夢は、膝を付いたまま、掴んだ力の意味に惑い、果たして、二人のウルトラマンが居る意味は……
 「何故だ……どうしてなんだぁぁ!!」
 という絶叫で、つづく。
 1−2話以来となる前後編の後編、力の入ったガイアvsアグルの直接対決エピソードに、藤宮と玲子、XIG各員の奮闘も詰め込んで、 大変面白かったです。特に、サブタイトルからもガイアとアグルの激突という要素に終始するのかと思いきや、 ウルトラマン以外の要素も置き去りにしない構成の目配りが利いて、 組織としてのXIGの戦いや地上の一般市民たる玲子の存在も抑える充実の内容で、 両ウルトラマンのスタンスの違いをくっきりと彩ったのは、実にお見事。
 シーガルの活躍も嬉しかったですし、エリアルベースの筋肉重視構造に愚痴りつつも任務を果たすオペレーターズも、 良い存在感を出してくれました。
 我夢は改めて、地球の意思とは何か? ガイアの力とは何か? なぜ自分がガイアにアクセスする事が出来たのか?  と向き合う事になり、アグルとの対決を通して、我夢が自身の力を見つめ直していく、という展開は好み。またそれにより、 「地球か?」「人類か?」というテーゼに対して大上段から大仰な言葉を振りかざす事なく、 我夢個人が「自分で答を探さなきゃいけない」という、我夢自身から出てくる言葉を探す道のりが示されている (視聴者も一緒に考えていく事ができる)、という作りは上手い。
 それがまた、光の巨人という超越存在に、ちっぽけな人間が足下から近づいていくプロセスにも見えて、この先が楽しみです。
 一方、エリアルベースにテロを仕掛け、我夢を悪役スマイルで殴りつけ、大量殺人も辞さない実力行使に出た藤宮は、 思わせぶりでひねくれたライバルを通り越して完全に悪役の活動で一線を越えてきましたが、果たして次は、どんなテロ行為に出るのか、 こちらも楽しみ。
 「コマンダー! 大変です! エリアルベースのトレーニングルームの映像が地上に無差別送信されて、 全世界から「むさ苦しい」「むさ苦しい」「むさ苦しすぎる」という嵐のようなクレームが!」
 次回――「またまたあいつがやってくる」。
 もはや定番扱いになっている波動クラゲの暗躍により、ぎくっ!スケバン敦子!?

→〔まとめ4へ続く〕

(2022年3月4日)

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