■『仮面ライダーオーズ』感想まとめ8■


“タカ! クジャク! コンドル!”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『仮面ライダーオーズ』感想の、 まとめ8(第43話〜最終話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

戻る

〔まとめ1〕 ・ 〔まとめ2〕 ・  〔まとめ3〕 ・ 〔まとめ4〕
〔まとめ5〕 ・ 〔まとめ6〕 ・  〔まとめ7〕


◆第43話「ハゲタカと対立とアンクリターンズ」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:小林靖子)
 泉刑事の首を締め上げるアンクだが、その肉体から剥がれ落ちていくセルメダル。再び手だけの姿に戻ったアンクは、 泉刑事を気絶させてその肉体を奪い取る。
 「比奈…………心配するな。大丈夫だ。おまえは、おまえの出来る事を……」
 最後の気力を振り絞って比奈に言葉を残すどこまでも妹想いのお兄ちゃんでしたが……短い、短い復活でした(涙) 前回、 “泉信吾”としての活躍を見せる事で、視聴者に改めて人間・泉信吾の存在を印象づけ、その上で即座にアンクを憑依させる事により、 これまで圧倒的にアンクが優位であったアンク/泉信吾の関係(状態)が受け手にとってまた違って見えてくる、 という展開が見事かつ凶悪。
 第1話からの仕掛けであったが故に、どうしてもアンクとして認識する事になっていた泉刑事が、 「物語の道具」から「物語の被害者」へと完全に変化し、アンクの身勝手さというのも明確に浮かび上がってこの次の展開へと繋がっていきます。
 なお前回のコアメダル割りに関しては、紫のメダルの力であるとアンクが言及。こういった設定の説明が強引になりがちなのは、 最終盤まで今作の短所になってしまいました(^^;
 「はっ、コアが消えても、偽物が居ないだけでこうも違う。800年前と同じ、俺の力だ」
 お兄ちゃんボディを手に入れたアンクは背中から両翼を広げ、ここで見慣れた人間アンクの背中に、虹色に煌めく2枚の翼、 という人外の存在としての絵が非常に格好いい。
 捨て犬系美少年声で喋る自分の分身という物凄く目を逸らしたい存在が片付き(なお逆から見ると、 派手に髪を染めて俺様モードの青春のはしか真っ最中の自分であり、やはり消し去りたくて仕方なかった理由がしみじみわかります)、 メダルも増えてエンジン全開のアンクは、ホルダーのコアメダル全てを奪い取ろうと映司達に迫る。
 「アンク! こんな酷い事していいわけないだろ! 信吾さんから離れろよ。比奈ちゃんに返せ」
 「くどい!! いいからメダル寄越せ!」
 積み重ねてきた時間を踏みにじるアンクの行為に映司も一歩も引かず、その体から迸る紫色のオーラ。
 「信吾さん返せよ……でなきゃ、コアを全部砕く!」
 「映司ぃ! そんな事してみろ」
 紅と紫の波動がぶつかり合ってアンクは引き下がって姿を消すも、遂に面と向かっての激しい決裂に役者さんの熱演も合わさり、 迫力のあるシーンになりました。
 自我を取り戻すも結果として3枚のコアメダルを失う事になったアンクは、様子を窺う“緑の瞳”の廃品回収の男に気付くと、 セルメダルを投入して遂にヤミーを作成。
 誕生したヤミーを画面手前に置き、翼を広げてその頭上をはばたくアンク、というカットは、 人外の存在としてのアンクが極めて強調され、そこにイントロが被さってOPへ――という流れはいよいよ『オーズ』最終章の開幕として、 びしっと決まって格好良い入り。
 アンク姫の作り出したヤミーは、街でカップルの男を襲うと、ハゲタカヤミーに成長。今後の事を相談していた映司と後藤が駆けつけ、 アンクにタカメダルを持っていかれたので頭部に悩んだ映司、とりあえずラトラバに変身。 里中の支援を受けつつもハゲタカ突風に苦戦した二人は、ハゲタカに逃げられてしまうがヤミーを乗せて走り去るトラックを目撃する。
 (アンク……ちょっとは近付けたと思ってた……。もしずっとこのままだったら、 お兄ちゃんはもう……映司くんとアンクもきっと戦う事になって、そんなの絶対……)
 一方、ひとりマンションに帰った比奈は、悩む心の裡に兄の言葉を思い出す――このまま彼を、都合のいい神様にしちゃいけない。
 (私……また勝手な事ばかり思ってる。辛い事は、全部映司くんに任せる事になる)
 今、自分に出来る事は何か、を懸命に考える比奈。
 「ちゃんとしなくちゃ」
 その頃、アンクはドクターと接触。
 「おまえ、映司が持ってる紫のメダル、狙ってんだろ?」
 「ええ。より完全な力をつけなくてはなりませんから」
 「なんの為に?」
 「暴走したグリードが世界を喰らい尽くした後、そのグリードを排除するのは私の役目です」
 「ほぅ……念が入ってるなぁ。で、最後におまえが残るのはいいのか?」
 「存在そのものが無であれば、美しい終末は汚しません」
 「協力してやってもいい」
 「ほぉ……それは例えば」
 「俺をメダルの器にしないかって事だよ」
 ここまで、癖のあるグリード達にメダルの器になる事を求めつつも、手っ取り早く自らメダルの器になろうとしていなかったドクターの最終目的は、 美しい終末の世界で無として永遠の停滞を過ごす事、と判明。……まあこれはちょっと、ドクターが自ら器にならない理由の為の理由、 という感じはしますが(視聴者より先にアンクにツッコませているのも苦しい自覚がありそうというか)。
 鴻上会長に現状を報告した後藤は、コアメダルは破壊してはいけないと命じられ、 映司達の体の安全とメダルの保全のどちらを優先するかの板挟みに。最近色々と振り切れ加減だった後藤さんですが、世界が、 そう簡単に、後藤さんに優しくなる筈が無かった!
 今日も河原で魚を焼く映司は腕にも異変を感じ、映司の変貌が容赦なく刻み込まれていくのが、 破滅へのカウントダウンとして巧く機能。そこへ、お弁当を手にやってくる比奈。
 「映司くん、私……お兄ちゃんもアンクもなんて、都合のいい事思わない。勝手な事言わない。ちゃんと自分に出来る事をする」
 「……比奈ちゃん」
 「それって、今はきっと、何があっても、映司くんの側に居るって事。戦いは無理でも、ちょっとは役に立てると思う」
 「…………うん。て言っていいかわかんないけど、今はそういう気分かな」
 「じゃあ……うん」
 「……うん」
 比奈は自分に出来る事を見出し、そして、物語のスタート以来、初めて映司が、他者との繋がりにこだわる。
 コミュニケーションを蔑ろにするわけではないし、むしろ社交的ではあるけれど、しかし、 朝からの付き合いも1ヶ月の付き合いも半年の付き合いにも“大きな差がなかった”映司がここで、誰かとの繋がりに頼ろうとする、 というのは、映司がそれだけ追い詰められている事を示すと同時に、大きな転換点という気がします。
 また、勝手な事を願わない比奈の為に、映司が両取りをするという、「ヒーローの可能性」もここで浮上。
 泉刑事からのパスを受けて、比奈ちゃんが、大きな役割を果たしました。
 ……しかし、映司が対人関係において一定以上に近づけさせないタイプとか、 比奈ちゃんが重度のブラコンとか複合的な要因はあるのですが、映司と比奈ちゃんの関係って、 ここまでやっても1ミリもいい雰囲気が生じなくて凄い(笑)
 いやもしかしたら私だけかもしれませんが、比奈ちゃんから映司への視点には、凄くいい人だけど、 彼氏としては絶対ありえないというオーラを感じてなりません。
 <平成ライダー>シリーズは特に恋愛要素を嫌がるわけではないですし、小林靖子自身は割と持ち込む方という印象を考えると、 スタッフ間の強固な意思統一の元にそう演出されているとしか思えないのですが、ある意味ではそれも、 お兄ちゃん刑事の存在感を出す為の手法なのか……?
 ゲストエピソードを含めて、これだけモテない平成ライダー主人公って、剣崎以来ではないでしょうかもしかして。
 ……パンツか、パンツが悪いのか?!(多分そう)
 そんな映司の事情を聞いたら涙を流して一緒に飲み明かしてくれるかもしれない廃品回収の男を親とするハゲタカヤミーが、 再び出現して街を行く幸せそうなカップルの男を襲い、立ち向かうオーズ@シャゴタコとごバース。ハゲタカ突風に対して、 タコ足粘着とクレーン掴みで耐えた両者は、ロケットゴリラパンチとセル課金バーストの合体技でヤミーを撃破。
 だがそこにアンクが現れると、トラックの荷台にセルメダル(ハゲタカヤミーの残骸)を満載したまま逃走。
 「映司……おまえの説教は聞き飽きた」
 追いすがる映司に容赦ない火球攻撃を浴びせて撃退したアンクは、元ヤミーの親にしてトラックを運転する廃品回収の男―― “緑の瞳”の男の、首筋に張り付いたメダルに話しかける。なんと男は、たった1枚のコアメダルだけが残ったウヴァが、 執念の憑依洗脳で操っていたのだった!
 …………あれ?
 という事は、カップルの男を襲っていたのって、ウヴァの欲望???
 と思ってドキドキしたのですが、回想シーンで憑依される前の男が「俺以外の男なんていらない」と発言しており、 違ったようです(笑) ウヴァが憑依に際して声の届く相手を選んだという事は、何やらシンクロしやすい意識ではあったようですが、 この問題は深く掘り返さない方がみんな幸せになれそうな気がするので、いつか映司くんがモテる日が来る事を心から祈ろうと思います。
 「俺のお陰だ。きっちり恩返ししろよ、ウヴァ」
 アンクの集めたセルメダルと、1枚のコアメダルにより、しぶとくウヴァ復活。
 度重なるグリードの復活は、善とか悪とかではなく、根源的なエネルギーとしての欲望は決して消えないという事と、 それすらも消してしまう“無”の恐怖が作品の構造の中で巧く示す形に。
 そして揃ってドクター屋敷を訪れる、赤と緑。
 「どうした? 古い仲間を歓迎して貰えないのか?」
 二枚の翼を誇示するアンク、でつづく。

◆第44話「全員集合と完全復活と君の欲」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:小林靖子)
 見所は、「……何か欲しい物はないのか」と尋ねながら、財布の中身を確認する後藤さん。
 最近の後藤さんはいい感じに飛ばしてくれます。
 「俺はどうしても、完全で確かな存在が欲しい。その為なら、どんな危険だろうが、冒す価値はある」
 暴走の危険を承知で、完全な体の為にメダルの器にさえなる事をアンクは求め、その欲望の強さに、器となれる可能性を見るドクター。
 そのアンクは、
 「消えたくなければ俺と組め。狙いは一つ。オーズと、奴のコアメダルだ」
 コアメダルを砕く紫の力の脅威をあおり、グリード達の主導権を握ろうとしていた。
 久々に脳細胞がトップギアですが、絶好調すぎて、蝋燭の火が燃え尽きる一歩手前なのではないかとドキドキします。
 「……そうね。こうして5人居るなら、オーズの坊やからコアを取り上げるのも、そう難しい事じゃないわ」
 「へぇ〜、そんな簡単にアンクを信じるんだ」
 超嫌そうな顔のカザリ(笑)
 「信用なんてもの、セルメダルの1枚の価値もないわ。やるかやらないか。それだけよ」
 「決まりだな」
 5人のグリードは結託し、アンクとウヴァの背後から赤と緑の布が部屋に落ちてくる、というのは格好いい演出。
 (なんなの。僕がじっくり作ってきた場所を、どうしてアンクが)
 唇を歪ませるカザリですが、敗因はまあ、アンク・メズール・ガメルを次々取り込んで、船頭を多くしすぎた事でしょうか。 そういう点では、自らの器を読み誤った存在、とでもいえばいいのか。アンクいわく「慎重というより臆病者」という事ですが、 同じ、ずる賢く立ち回ろうとする両者を分けるのは、土壇場での思い切りと覚悟、という事か。
 カザリはアンクを力尽くで排除しようとするも、ウヴァがアンクの助っ人に入り(ちゃんと恩返しした!(笑))、 2対1の殴り合いでカザリからコアメダルを2枚奪い撮ったウヴァが皮の鎧から鋼の鎧に。 そこで場外からメズールのグリード水流が炸裂し、まとめて水をぶっかけられた野郎どもの喧嘩は、物理的に水入り。……て、 だいぶ以前にも同じシチュエーションがあったような(笑)
 引き下がったカザリは全員で手を組む事を承諾しつつ、裏でこっそりとガメルに揺さぶりをかける……と今日もこずるい。
 「……ねえガメル。メズールがいなくなったらどうする?」
 「……やだ! 絶対駄目だ!」
 その頃、鴻上会長は、映司・後藤・比奈の3人を財団の地下保管庫へご招待し、オーズコレクションルームにて、長台詞でまとめて解説。
 「見たまえ。水中から地上へ、そして空へ。強く欲する事が命をも進化させる。まさに、生きるエネルギー……!  そのエネルギーを純化したメダルは人をさらに進化させやがて――神の領域へ踏み込むだろう。
 もっとも……それだけの力を受け止める欲望の器となると、難しい。まずは大きな欲望の器を持てるかどうか。 しかしどんなに大きくても、既に一杯であれば、すぐに溢れる。800年前の王の暴走がそれだ。
 だが、火野映司くん!
 君は大きな器を持てる環境に育ち、更にそれを一度涸らした。空になった器は、どんな欲望も受け止める。それはまさに、 オーーーーーーーズの器だ!
 ……しかし、その器に紫のメダルが入り込んだのは計算外だった! それは全てを無にする、マイナスの暴走。 ドクター真木にも同様の事が起きている」
 「どうすればいいですか? どうすれば映司くんは?!」
 「難しくもあり……簡単でもある!!」
 前々回のエピソードを引く形でオーズと映司を繋げた会長は、映司がグリード化しない為の対策を告げる。
 「火野くん、欲を持つ事だ。君自身、君個人に対する、君の欲望だ。それが、紫のメダルの暴走を止める」
 会長の珍しく真っ当な助言を聞いた比奈と後藤は、映司を連れて遊びに繰り出してみるが、それそのものは楽しめても、 自分自身の欲望を掴む事が出来ない映司。
 「……あー……パンツは足りてるし……うーん……」
 ここに来て、パンツがあればだいたい大丈夫、という掴みのギャグめいていた映司の設定が、 重ーーーいボディブローとして足を止めます。
 映司は過去の恵まれた生活環境を思い出し、そういえば凄いお坊ちゃんに、上から目線で「欲しいものがあれば何でも買ってやる…… 前借りできる範囲で」みたいに接していたーーーと落ち込む比奈と後藤(笑) ……ところで、 鴻上会長は少しぐらい資金援助してくれたのでしょうか。
 「あ、いや、そうじゃなくて。そういうのより、比奈ちゃんが一緒に居てくれたり、後藤さんが心配してくれたのが、 めっちゃくちゃ嬉しかったなって。それが一番。…………ありがとう」
 そんな2人に対し、積み重なってきた個人と個人の関係の大事さに、向き合い始める映司。
 私の中では映司がここでやっと、周囲の人々と正対した、という印象です。そしてそれでもまだ、 どうして比奈が一緒に居てくれるのか、どうして後藤が心配してくれるのか、心の中に入りきっていない気がします。
 なんとか、最終回までに、映司にそこに気付いてほしいなぁ……。
 今作、映司とアンクはスタート時点から“2人で1人”という部分があったのですが、この最終章において、 お互いがお互いに目を逸らしたり見えなくなっているものと向き合う事を要求される、という形でシンクロ。 訣別した二人が争う事になりながら、実は同じ課題を突きつけられている、という構造が、仕掛けとして綺麗。
 翌日――映司達の前に立ちはだかる、欲望戦隊・グリードV!
 このネタに使いどころが来るとは……!
 「映司……もう用件を言う必要はないだろ。おまえの答もわかってるしな」
 「俺もだ」
 「上等だ」
 スマホレッドの先制火球で車が派手に吹っ飛び、猛然と襲い来るグリードV。
 「オーズ、貴様のメダル、根こそぎいただく」
 比奈を逃がして後藤と映司は変身し、黒&青vsオーズ、黄&緑vsバース、の変則タッグマッチが展開。 オーズはラトラータを発動してライオンフラッシュに弱い青黒は苦しむが、アンクの火球による不意打ちを受けて吹っ飛び、 散らばるコアメダル。だがアンクがメダルを奪おうとしたその時、隠れていた筈の比奈が飛び出してきて、その手にメダルを掴む!
 「死にたくなかったらメダル渡せ」
 「アンク……。……ほんとに……ほんとに」
 「俺はグリードなんだよ!! ……一番欲しいものを手に入れる」
 「欲しいものって」
 「お前達じゃない」
 「……わかった。……私は…………、私は…………お兄ちゃんと映司くんを助ける」
 比奈ちゃんをあっさり消し炭に出来ない時点で色々ダメダメなアンクですが、誕生日回で自分の“変化”を一度は認めてしまったが故に、 自分はグリードだ、と叫ぶ姿が痛切。
 そんなアンクに敢えて“何が”欲しいのかを聞く比奈も、わざわざ「お前達じゃない」と答えるアンクも、 人間とかグリードとかを越えて、アンクという個の存在を既に認めている(そしてそれをアンクも知っている)比奈とのやり取りだけに、 実に響くものとなりました。
 比奈に迫るアンクだが、映司が横から生身体当たりを決め、比奈ちゃん、ここ一番で見事なメダル投げを披露。
 「ったく……おまえをオーズにしたのは、損だったのか得だったのか」
 「さぁ……俺にとっては得だったけどね」
 いよいよ二人が激突しようという寸前、カザリにそそのかされたガメルが乱入して映司とアンクをまとめて吹き飛ばし、 こぼれたコアメダルをカザリが手にしてしまう。遂に自らの9枚のコアメダルを揃えたカザリは完全体と化し、 うねうね動く広がった髪から弾丸を速射してラスボス戦線に殴り込み。
 変身し損ねた映司に代わりカザリ完全体に特攻するごバースだが子供扱いで相手にならず、アーマー破壊描写。 このまま完全体の踏み台になって無惨にリタイアするかと思われたごバースはだがしかし、 決死のブレストキャノンでダメージを与える事に成功。
 「火野……今だ……変身しろ!」
 そこで生じた隙により、映司はプトティラを発動。カザリが背後から食らいつく満身創痍のごバースを振り払っている所にトリケラ角を突き刺し、 猛攻をものともせずに突撃を仕掛けると、恐竜アックス・真っ向両断!
 …………カザリ完全体、まさかの、登場3分でコアメダル真っ二つ(笑)
 てっきり、後藤さんをけちょんけちょんにして、次回に引くと思ったのに!
 戦いの流れからすると、ブレストキャノンに始まり、見下していた存在(人間)に足下をすくわれる、 というニュアンスが入っていたのかとは思うのですが、出来上がった映像は、 プトティラが不条理に強すぎるというものになってしまいました(^^;
 カザリと因縁があるのが基本グリード側ばかりで、映司や後藤とこれといった会話が成立しない、というのも輪を掛けましたが、 グリードの天敵であるオーズ×欲望の天敵である無、にしても、プトティラが少々強すぎ。
 それ故に、物語としては「映司がそのリスクを負う」という構造にはなっているのですが、 そもそも「グリードを倒す手段」としてプトティラになる事を選んだ、というわけではないので、 この点に関しては映司に不当なしわ寄せが行っている感は少々あります。
 トータルで見れば、ヤミーを倒して人々を守る事とグリードを倒す事は繋がっていますし、 物語として映司にこれだけの代償を負わせたからこそ、プトティラが規格外の強さに描かれている、という逆転現象とも言えるのですが。
 コズルイエローの戦線離脱によりグリードVは撤退し、中核のメダルを破壊されて瀕死のカザリは、 ドクターに体を貫かれて全てのコアメダルを奪われる。
 「カザリくん。結局暴走しない君に用はありません。――良き終わりを」
 ここで初めて、ドクターのグリード姿が登場し、プトティラをより生物的にした感じ……? オーズを通していないプトティラ、とでもいうか。
 「僕ももう少しで、手が届く……。全部、僕の……」
 人間の姿でくすんだ世界を彷徨い歩くカザリは路傍に倒れ込み、一塊のセルメダルと化すとそこから転がり出した最後のコアメダルが完全に砕け散り、 その存在が消滅……した所で、つづく。
 グリード勢では恐らく最も出番が多く、最初から最後までひたすら性格の悪いカザリでしたが、 その最期はグリードという存在の虚ろさと一抹の悲しみを漂わせる情感的なものに。
 正直カザリに思い入れは全く無いのですが、子守している内に好機を逸し、完全体になったと思ったら瞬殺されたのは、ちょっと哀れ。 時流は見えるけど時機を掴めないというか、心性が小物という扱いではあったのでしょうが、 若干ピエロめいた扱いで最期を迎える事になりました。ちなみに個人的には、見た目やセコい立ち回りから、 『仮面ライダーブレイド』のスペードキング(金色カブト)を思い出せるキャラでした。 実は役者さん同じだったらどうしようと思って調べたら、さすがにそんな事は無かった。

◆第45話「奇襲とプロトバースと愛の欲望」◆ (監督:諸田敏 脚本:小林靖子)
 カザリから奪い取った大量のコアメダルをアンクに渡すドクター。
 「死んだのか……」
 「ほぅ……随分人間になじんだようですね」
 「なに?」
 「メダルの塊であるグリードに、命などありません。死んだのではなく……ただ消えた。それだけです」
 「そうだったなぁ。……ただのメダル。物でしかない」
 映司や比奈がグリードであるアンクに「アンク」として向き合っているのに対し、 ドクターが「グリードはメダルの塊でしかない」と断言する姿が対比され、徹底的に映司を追い詰めていく一方で、 アンクの首も容赦なく絞められていきます(^^;
 全方位に酷いな!
 「ねえ、人間の体で味わう欲望ってどう? 食べて・見て・聞いたんでしょ? どうだった?」
 ドクターが去った後、アンクに問いかけるメズール。
 「はっ、おまえらグリードにはわからない味だ」
 「……おまえらグリードね。まるで自分が違うみたい」
 「ああ。俺は人間が気にくわないが、グリードはもっと気にくわない」
 「ふっ、人の体では大したものは味わえなかったようね。物足りないって顔してるわよアンク。どうしてかしら?」
 本当に、欲しい物は、なんなのか――
 メズールの言葉もアンクの奥底に突き刺さり、ガリゴリと削られていくアンクのMP。
 気分は後藤さんです!(待て)
 ところがそこへ、このまま守勢に回っていては不利になるばかりと賭けに出た、映司・後藤・里中がドクター屋敷を強襲。 窓から飛び込んできた映司は、数枚のコアメダルを鷲掴みにする。
 「おまえもグリードらしくなってきたな」
 「かもね」
 駄菓子爆弾攻撃や落とし穴などややコミカルに奇襲シーンが展開しつつ、クレーンとキャノンしか使えない試作型プロトバース (あちこちの赤いラインは封印シール?)に身を包んだ後藤はメズールと交戦。
 「アンク……もう一度聞いておくけど、信吾さんを比奈ちゃんに返す気はないんだよな」
 映司の問いかけに対し、アンクは刑事ボディに、コアメダルを投入。
 「こいつを使う意味、わかったろ。足りないコアメダル3枚分は、この体で補う。俺は、こいつごと、メダルの器になるんだよ。 グリードなんかより、もっと強い存在にな」
 人間と、グリードと、メダルの融合により、新たな存在になろうとするアンク。 更にドクターがグリード体を見せて強烈無比な範囲攻撃で敵味方問わず吹き飛ばし、 メダルホルダーを奪われてしまった映司達はやむなく撤退。奇襲作戦はあえなく失敗に終わるどころか、大損害となってしまう。
 「後藤くん、減給だ!」 (※本編にこんな台詞はありません)
 もう、後藤さんの、基本給が限界だ!!
 そんな後藤さんは、ここ数話でめっきり映司を気に掛けるポジションに収まっており、名実ともに伊達さんの後継者といった風情。 映司がメンタル的に「停止」している主人公なので(ここ数話、それが揺らいでいるわけですが)、 道中その分の苦難や重荷も飛んできましたが、見事に精神的な成長を遂げました。
 後藤さんは、自分より出来ない人間を見下ろしていた人なのですが、出来ない自分を認める事により、 出来る人とも出来ない人とも正面から向き合えるようになり、元々の正義感や良識と合わせて、気がつけばなかなか立派な人格者に。 たぶん泉刑事と友達になれそうな気がするので(スマホの話題とかで一晩中無益に盛り上がれそう)、 どう考えても警察社会での出世の道が閉ざされている泉刑事をヘッドハンティングして、 鴻上ファウンデーションで新コンビを組むのはどうでしょうか。
 後藤さん、追い詰められると特攻するスイッチが背中についているので、誰かそれを止める相棒が必要そうですし。 …………お兄ちゃんも若干、急に暴走しそうな気配があるのは不安ですが。
 ドクターは首尾良く手に入れた大量のコアメダルをアンクに渡すが、それをメズール達が見とがめ、 コアメダルを求めてこじれるグリード達。
 「まったく、グリードというのは……」
 「ハハっ、ハハハハっ……メダルメダルメダル……おまえら他に何かないのか」
 「何が悪い。おまえも同じだろうが!」
 「……ああ。そうだよ。最悪だ。お前等と居ると、嫌でも思い知る。これ持ってとっとと消えろ!」
 アンクは手持ちのコアメダルをばらまき、メズールとガメルは完全体に、ウヴァは残り1枚となり、それぞれ夜の街へと姿を消す。 ドクターはこれはこれで良しと静観を決め込み、最後に残ったアンクは地面に転がるメダルホルダーを拾……うのかと期待させておいて、 一顧だにせずまたいで通り過ぎていく、というのが訣別の象徴として切ない。
 基本の作品構造から、人外の相棒がほだされていく展開を予想させながら(最初から、実は映司も化け物だった、 というひねりは仕込まれていたわけですが)、この最終盤において、 アンクと映司達が決定的に訣別しているという描写を繰り返してそれを裏切っていくのは、茶番を否定して予断を許さず、 この最終盤を盛り上げます。
 「ガメル……ごめんなさい。もうおままごとは終わり。ドクターの坊やが言ってたでしょ。ごっこ遊びじゃなくて、本物を味わうの」
 「じゃあ俺も! 俺も行くメズール!」
 「駄目よ。もう駄目。貴方じゃ私は満たされない。さよなら……ガメル」
 メズールはギャップ狙いも含めて怪人体では実績のある声優を起用していますが、 向こうを張ったガメルの声の演技が凄く感情の乗せ方が上手くて、この両者の関係は実にいい雰囲気が出ました。
 ガメルを突き放して川へ飛び込んだメズールは、水の塊のような姿になって街に現れると、次々と人間の母子を体内に取り込み、 浄水施設の中で大量の卵を慈しむ。
 「感じるわ……これが愛おしいって事。愛情の快感。あぁ……全部わたしの物! うふ、うふふ……でも足りない……! もっと、 もっとぉ!」
 メズールの欲望とは母性を満たす事であったと判明し、内に母と子を閉じ込めた大量の卵がフジツボのようにびっしり並んでいるというのは、 実にサイコな映像。
 「オーズの坊や達。私の欲望の邪魔をしないで」
 気配を探って施設に辿り着いた映司と後藤はメズールに立ち向かうが、完全体となったメズールにはライオンフラッシュも通用せず、 華麗な足技の前に苦戦。オーズはいつ以来かわからない(そもそも長らくラトラータになれなかったので……) ライオンバイクを発動すると、斧を取り出してメズールを凍結させ、バイクで轢き殺せいやーーーでメズールのコアメダルを横一文字に粉砕。
 グリードのコアメダルを破壊できるのは「紫のメダルの力」と説明されていましたが、プトティラフォームではなく、 斧の特殊効果という事でいいのか(^^;
 前回のプトティラ(カザリ戦)があまりにあまりでしたし、今作の特性を活かしつつ、 ギミックも使い切ろうという姿勢は嫌いではないですが、対グリード戦の格付けと攻略手段は、どうも今作、終始曖昧です。
 エンタメとしてはコアメダルの奪い合いを中心にしていた以上は、 プトティラの戦力・各属性の相性・完全体を出す都合によるメダルの足し引き、 がこのクライマックスで綺麗に噛み合い切らなかったのは、少し残念。
 作品として自覚的な選択でしょうし、虻蜂取らずになるよりは良いといえますが。
 「そんな……まだ……全然、足りない! もっと、もっとぉ……!」
 致命傷を受け、倒れたメズールの元にやってくるガメル。
 「駄目なの……全然足りないの!」
 「なんで、なんで……」
 「グリード、だから……」
 「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 メズールは消滅し、ガメル完全体の絶叫による衝撃波でオーズとバースが吹き飛んだ所で、つづく。
 中盤で一時退場し、出番少なめながらもキャラの立っていたメズール、完全リタイア。どうやらグリードがこの勢いでざくざく始末され、 その欲望と最期で少しずつグリードの本質を見せていって、果たしてアンクは――?! という所に集約する構造になる模様。 そこに映司を連結して、どういう形で決着をつけるのか。色々容赦がなさ過ぎて先の読みにくい作品なので、その到達点が楽しみです。
 予告で、メズール人間体と多分ガメルがあげた花、というなかなか良いカットがありましたが、 果たしてガメルの欲望の行き着く先は――そして、あの男が帰ってくる!

◆第46話「映司グリードとWバースとアンクの欲望」◆ (監督:諸田敏 脚本:小林靖子)
 「メズールーーーーー!!」
 オーズとバースを吹き飛ばしたガメルはメズールの残骸から1枚のコアメダルを手に取って歩み出すが、 その背後でドクターが青いコアを回収する。
 「ガメルくん、そのコアも渡して下さい」
 「……やだ……」
 「君にはそれ以上コアは必要ありません」
 「これは、メズールだから。俺が元に戻す!」
 「このまま終わらせるべきですよ。君にとって、優しく美しい内に」
 「うるさい! お前嫌いだ!」
 ここで、ガメルの思慕とドクターの思慕を重ねてきたのは、ドクターと他のキャラとの関係性が薄い中に、 ワンアクセントつけて面白かった所。
 突撃したガメルはドクターグリードに吹っ飛ばされるが、ドクターも人形を吹っ飛ばされて狂奔し、 その間にガメルはメダルを手に去って行く。
 「俺は、メズールを、元に戻す!」
 「――いいでしょう。君の欲望に良き終わりが訪れん事を」
 二人が姿を消した後、水の中から復帰する後藤さんだが、映司は、海岸線まで流されていた。
 凄いな映司(笑)
 目を覚ます映司だが紫のメダルが激しく反応し、異形と化す左腕。
 「戻れ、戻れ、あぁっ!」
 ここで、前回メズールのコアを砕いたのは、プトティラとか斧とかではなく、無のグリードの力が映司自身のものになっている、と判明。
 波打ち際でじたばた藻掻く映司の姿をダイレクトに描き、人間でなくなる恐怖を伝えるのは、今作らしいストレートな表現。 そして勿論、人間で無くなるという事自体が恐ろしいのは確かなのですが、欲望を失っている映司が、 グリードになる事に恐怖を感じるというのは、自分の命の重ささえわからなくなっていた映司に失いたくない“今”が生まれているという事であり、 この恐怖自体が、映司の変化として非常に重要ゆえに、ストレートな表現をしているとも思えます。
 (違う……震えてる……。怖いんだ、俺。……グリードになるの)
 苦悶する映司は会長の助言を思い出して自分の欲望を思い描こうとし……メダルを投げるアンクの姿を思い出す事で、 症状の回復に成功。ひとまず落ち着く映司だが、ベルトを落とした事に気付いて慌てて海岸を探し回る事に。
 一方、ドクターが回収した青いコアメダルはプテラノ缶によってアンクの元へ運ばれ、メズールが倒れた事を知るアンク。
 「メズールの奴も――」
 ――メダルの塊であるグリードに、命などありません。死んだのではなく……ただ消えた。それだけです。
 脳裏に浮かぶ、ドクターの言葉。
 「……消えたか」
 ――人の体では大したものは味わえなかったようね。物足りないって顔してるわよアンク。
 立ち上がったアンクが、ここで、落ちたままの、ホルダーを見た!
 前回、強調しない程度に見せておいたメダルホルダーを、ここで再び持ってきてくれたのは実に良かったです。
 いったい何が、胸に去来したのか……クスクシエに忍び込み、アイスを盗み食いするアンク。
 (確かに、しばらく、これが物足りなかったなぁ)
 アンクは店内を見つめながら、しばらく、過去の精神ダメージを色々回想。
 ――食べて・見て・聞いたんでしょ? どうだった?
 「……わからない味だ」
 顔を上げるアンク。
 「……おまえらグリードには」
 そこに見えるのは、鏡に映る自分。
 今作における諸田監督の演出は、私の好みからすると少々遊びすぎな部分が目立っていたのですが、この最終盤、 さすがに締めてきました。前回のメズールの台詞がここで重ねて効いてくる、というシナリオの流れも見事。
 「だから……」
 鏡から目を逸らすアンクだが、そこで、クスクシエに比奈が入ってきて、一瞬、目が泳ぐ(笑)
 「食いに来た」
 席を立ったアンクは、比奈にアイスを見せる。
 「美味かった」
 「……あ、う、うん」
 「他にも、色々だ。だから……この体寄越せ」
 「え……?!」
 「寄越せ」
 「…………駄目。あげられない」
 比奈の否定は、人間だからでもあり兄だからでもあり本人の意識が無いからでもあるのですが、比奈ちゃんがもし、 アンクに自分の体をあげられる可能性があったら、どうするだろうなー、というのは、ここでちょっと考えてしまう所。
 知世子もやってきて、「どっちかは戻ってくるかもな」と謎めいた言葉を残して立ち去るアンク。
 自分を一瞬で殺せる人外の存在と対峙していた比奈が、アンクが去った後にどっと膝を付くというのは、 比奈のアンクに対する複雑な感情と、精神力を振り絞っていた様子が表現されて、秀逸。
 その頃、映司は、まだベルトを探していた。
 ――どうして自分を守ろうとしない。
 ――自分の事も、ちゃんと守ってね。
 (ごめん。それはもうちょっと後で。この力は要るから。この力だけが止められる)
 映司とアンク、二人の胸に、それぞれがかけられた言葉が去来する、という構成。
 街へ出現したガメルは、触れただけで人間をセルメダルの塊にしてしまうという出鱈目な能力を発揮し、 集めたセルメダルでメズール復活の儀式を行うが、効果を発揮しない。
 「メズール……戻って。……んー? なんでかなー。まだ、足りないのかなー」
 「馬鹿が。あれはただのコアメダルだ。メズールの意志は入っていない。……ふ、ふふふ、まあ、勝手にやってろ。 最後に生き残るのは、俺だ」
 それを見下ろすヤクザグリーンだが、微妙に、目的を、見失っていませんか(笑)
 「笑う」とか「勝つ」とかではなく、サバイバルになっているのですが、確かにそこは大事だけど、それでいいのか。
 里中から連絡を受けた後藤は、修理完了したバースベルトを受け取り、ガメルの元へ。勢いよくバイクで轢け……なかった!  必殺のバイクアタックすら、メダル化能力で防いでしまうガメル!
 バースはメダル銃でガメルに立ち向かい、足下にあった、ガメルが生み出したセルメダルの山で弾丸を補充する、 というアクションは格好良いのですが、それ、人間混ざってませんか……(^^;
 一方、ようやくベルトを発見した映司だが、一足遅れでアンクに拾われてしまう。ベルトを取り返そうとする映司は、 アンクが放った火球を、グリード化した左腕で弾き返し、至近距離で睨み合う二人。
 「おまえ、正気か?! そこまでグリードに」
 「体はともかく、正気だし、本気だよ。お陰でグリードの事ももっとわかったかな」
 「ほぅ……で?」
 「アンク、俺は……コアメダルを砕く。これ以上誰も、完全復活も暴走もしないように。信吾さんをメダルの器になんかさせない!」
 「思った通り、おまえの言いそうな事だ。だから俺も決めてきた。俺が必要な物の為に、邪魔なおまえを潰す!」
 お互いの引けぬものの為に、遂に直接激突する映司とアンク。両者を結ぶ存在ともいえるベルトが画面手前の砂浜に突き立てられたまま、 二人は拳と共に激しい感情をぶつけ合い、ここからは迫力の二人舞台。
 「おまえの欲しいものってなんだ! 人間か」
 あちこち そこかしこに ちらばる欲望
 みんなが 振り回され 無くしてく自由
 「もっと単純だ。世界を確かに味わえるもの。命だ!! ……グリードは生きてさえいない。ただの物だ。その癖、 欲望だけは人間以上と来てる。食っても見ても触っても、絶対満たされない欲望……!」
 多くを 手に出来たら 願いが叶うさ
 目的 そのためなら 手段は選ばない
 「それがどれほどの事かは……」
 「わかるよ。ていうかわかった。――それでもやる」
 「はっ、自分はグリードになってか」
 「ああ」
 なぜ巡り会ったのか……?
 「何がわかっただ映司! おまえは何もわかってない。グリードなのに、何も欲しくないって顔すんな。むかつくんだよ!」
 そうだろ? 誰も 自分だけ 満たされたい
 「おまえは欲しがりすぎなんだよ!! 命が欲しいなら、人の命を大切にしろ!」
 そうじゃない。 後悔しない 生き方が知りたい
 「知るか! おまえもなんか欲しがってみろ。そうすればわかる。おまえ……なんか欲しいと思った事あんのか! あんのか映司!!」
 相対する願い
 血を吐くような叫びとともにアンクは映司に馬乗りになり…………映司は、
 「俺は……俺は欲しかった。欲しかった筈なのに、諦めて蓋して、目の前の事だけを」
 だけど同じ場所で
 「どんなに遠くても届く俺の腕! 力! もっと! もっと!」
 同じ闇を 払いのけて 明日を切り拓く
 「……もう、かなってた。おまえから貰ってたんだ」
 Time judged all 運命 回り出したら
 Time judged all 止まんない 終わり来るまで
 「一度も言ってなかった。………………アンク…………ありがとう」
 二つの願い ぶつかりあって 奇跡の力ここに降臨

 映司のカウンター攻撃!

 アンクにクリティカルヒット!

 アンクは大ピンチだ!

 生きていると認められるとは、何か――
 欲望だけの化け物と、欲望を失った化け物が、今、その答えに辿り着く。
 この瞬間の、アンクの表情がとても素晴らしかったです。
 海岸の激突が盛り上がっている頃、孤軍奮闘するごバースの脳裏に浮かぶ走馬灯の回転速度も盛り上がっていた。 このまま人生のフィニッシュを迎えるよりは至近距離でのブレストキャノン1発に賭けるしかない、と覚悟を決める後藤、だがしかし。
 「後藤ちゃん! そんな捨て身の戦法、教えた覚えないけど?」
 援護射撃でごバースを救ったのは、手術を終えて帰還した伊達明!
 「伊達さん!」
 「伊達明――リターン」
 帰ってくるなり華麗なヒーロー登場を決めた伊達は、里中から受け取ったベルトで、プロトバースに変身。 二人のバースはテーマ曲をバックにガメルに立ち向かうも吹き飛ばされ、改めて、零距離射撃に賭ける事に。
 「……後藤ちゃん。さっきの戦法で行ってみようか」
 「教えた覚えないんじゃないんですか」
 「……邪魔してすいませんでした」
 伊達さんが出てくると、本当にノリが良くなるなぁ。向こうの修羅場の事を忘れそうになります。
 Wバースは突撃してきたガメルに対し、至近距離からWブレストキャノン。この砲撃にも耐えたかと思われたガメルだったが……しかし、 ドクターと交戦した時に既に中核のコアメダルにダメージを受けており、この衝撃によりそれが限界に達する。
 「メズールぅ……これ……あげる……」
 倒れ込んだガメル(人間体)はポケットから駄菓子を取り出すと、取り落とした青いコアメダルにそれを捧げ……
 ――「ありがとう」――
 幻のメズール(人間体)の微笑みに満足しながら、消滅。
 予告で花に見えたのは、飴?でした。造型と描写的には、一輪の花に見せる意図でありましょうが。
 自分自身の欲望しかない、というガメルは、メズールの為に戦い、メズールの事を想って消滅。
 存在としては、いっそ悪意すら無いのが最も恐ろしい、という怪物ではあるのですが、もはや一番あざといという、 大きなナリにつぶらな瞳路線を最後まで貫き、嫌いになれないキャラでした。
 メズール(幻)のラストカットは、物語としてグリードを綺麗に消滅させるわけにもいかないけれど、 若い女優さんの劇中ラストカットなので綺麗なシーンを作ってあげよう、というスタッフの愛か。
 それにしても、ウヴァ復活あたりから、『オーズ』は次回予告でいい所を見せすぎな気がします(^^; ……まあ、 予告の映像どころか、サブタイトルで内容バレまくりといえば、前半からずっとそうなんですが。
 その頃、殴り合い海岸に姿を見せたドクターは、紫のコアメダルを映司に投げ入れる。
 紫メダルの力が強くなった映司はアンクに殴りかかって赤いコアを1枚奪い取ると、ベルトを拾って“紫の瞳”のタトバに変身。
 「映司?」
 ドクターは更にもう1枚の紫メダルを投入し、遂に完全なるグリードへと姿を変える映司!
 第二のプトティラグリードは、基本ドクターグリードと近い路線ながら、顔の辺りに白骨の意匠が入っているなど、 これまた凶悪なデザイン。
 主人公の怪人化という事で、生物的な仮面ライダー寄りの造型(真とかアナザアギト的な路線)というアイデアもあったのではないかと思うのですが、 明確に、仮面ライダーから離した怪物の姿にしてくる辺りが容赦ない。
 正気を失った映司は戦意を剥き出しにし、対するアンクも力を解放して完全なるグリードの姿へと変貌――全力で激突する二人、 でつづき、いよいよ残すは後2話!

◆第47話「赤いヒビと満足と映司の器」◆ (監督:田崎竜太 脚本:小林靖子)
 激突する、映司グリードvsアンクグリード。何の為かを忘れて、 力だけを求めて暴走を続ける映司グリードはプトティラの姿になると斧を振るい、対して最大威力の火球を放とうとするアンクだが――
 ――ありがとう
 火球はプトティラから大きく外れ、それを背後で冷静に見つめるドクター真木。
 「なんで……なんでだ?!」
 ――おまえから貰ってたんだ
 「ああ……渡すんじゃなかった。こんなやつに……こんな……。映司……力が欲しいなら、こんな程度で暴走してんな!」
 アンクがカウンターで放ったバーンナックルで映司は気絶して人間の姿に戻り、飛び散るコアメダル。
 「このバカが」
 「アンクくん、やはり彼は消してしまいましょう」
 映司に近づくアンクは……
 「一年分の、アイス…………今日の分」
 どうやら記憶の混濁している映司に、この局面で、パンツに包んだ小銭を渡される羽目に(笑)
 一歩間違えると、前回のクリティカルヒットが無かった事になりそうな勢い。
 「では火野くん、良き終わりを」
 そしてアンクは、映司に対するドクターの攻撃を妨害する。
 「何のつもりですか?」
 「さあ……俺も何のつもりなんだか」
 アンクの放った炎で人形が燃え、思わず海へ投げ込んでしまったドクターは、それを拾いに慌ててダイブ。アンクはその場を立ち去り、 状況はよくわからないが映司を回収する里中。
 ドクター真木が世界と向き合っていない象徴である人形が逆に、ドクター真木の最後に残った人間性の象徴 (姉が居なくなった世界から目を背けている、という意識ゆえに)であり、どんなにグリード化が進んでも人形に対する態度が変わらないのが怖い、 という重要性はわかるのですが、どうも人形周りの演出はやりすぎ感があってあまり好みではありません(^^; ここまで来たので、 最後にどう使うかはちょっと楽しみではありますが。
 その頃クスクシエでは比奈ちゃんが、知世子にこれまでの経緯を説明していた。
 「不思議な事なんて、世界にはいっくらでもあるもの。メダルのお化け信じるぐらい、へでもないわよ。 信じられないのは……比奈ちゃんの方」
 「え?」
 「アンクちゃんか、お兄ちゃんか、どっちかに決めなきゃとか。映司くんとアンクちゃんと、どっちかが戻ってくるなんて、 そんなの認めちゃ駄目よ」
 認めるという事は“諦める”という事だ、と教える知世子。
 「でも……何もかも都合良くなんて、勝手なこと言っても、実際に戦ってる映司くんが辛いだけです」
 「うーん……正しいのかもしれないけど、でも、そんなのつまんない。もっと欲張っていいじゃない」
 優等生である比奈(泉兄妹)の、物わかりの良さに対し、知世子は敢えて、それを否定する。
 その理由は……つまらないから。
 今作は基本的に、フィクションの機能に懐疑的な作風といえるのですが、ここで、 思いっきり斜め上段からテンプル狙いでぶちこまれるヒーローフィクションの理屈。
 物語を面白く書き換えられなくて、何の為のヒーローか。
 現実をただ受け入れ、傷つく人を残して、それでいいのか。
 最後の最後まで、足掻いて、望み、現実を塗り替える――その願いの場所に、ヒーローは居る。
 「映司くんも、アンクちゃんも、お兄さんもーって、ちゃんと欲張れるのは、比奈ちゃんだけよ」
 「ちゃんと、欲張る……?」
 では、それを身勝手な願いにしない為に出来る事はなんなのか。
 ここで比奈ちゃんが、“願う為にちゃんと生きる”という役割を与えられたのは、綺麗に収まりました。
 「欲しいって思うのは悪くない。大切なのは、その気持ちをどうするか。もうすがってるだけじゃ駄目なんだと思う。 ……ちゃんとしなくちゃ」
 (第6話)
 それは、願いを捨てて諦める事ではない。願いの為に、出来る限りの努力をする事。それでも駄目な時、 手を伸ばしてくれるもの――今作におけるヒーローの居場所が、ここでやっと、定まったような気がします。
 一方、アンクの前には人形の服を乾かし終えたドクターが姿を現す。
 「アンクくん、君は人間に近付きすぎましたね。ある意味、君の欲望通りですか」
 「はっ、どこがだ。俺は相変わらず、メダルの塊だ」
 「君をメダルの器にするのは中止です」
 ドクターのグリード神拳により、無情にもアンクのメダルにはヒビが入り、奪われるコアメダル。
 「君は他のグリードよりはマシかと思っていたんですがね。買い被りだったようです」
 ドクターは歩み去り、セルメダルに埋もれながら木の根元に座り込むアンク。
 「全くだな……。しかも馬鹿馬鹿しいのは、さっきからずっと――」
 その口元には、しかし笑みが浮かぶ。
 「――満足してるって事だ」
 ここ数回のアンクは、凄く好み。
 里中に回収された映司は鴻上さんちの地下保管庫に運び込まれている事がわかり、 アンクが残していったメダルホルダーを手にクスクシエを出た比奈は、タカ缶を使って傷ついたアンクを発見。
 「……この体はなんともないから、安心しろ」
 比奈の表情を見て目が泳ぐアンク、思わずフォロー(笑)
 「アンクの事、聞いたんだけど」
 「……もうすぐ返す」
 その頃、伊達と後藤は里中に預けられたキーで保管庫に入り込み、そこで映司と会長を発見。
 「伊達さん、久しぶりなのに、すいません。俺思い出したんです。――俺の欲。力です。どんな場所にも、 どんな人にも絶対に届く俺の手、力。俺はそれが欲しい」
 「手に入るとも! 君の素晴らしく巨大な器に、欲望の結晶、その無限のセルメダルを呑み込みたまえ!」
 鴻上会長は、これまで貯め込んでいた膨大なセルメダルをご開帳。
 「欲望こそ命の源。欲望は生命の進化を起こす。君も全く新しい進化を果たす。真のオーズとして、800年前になしえなかった、 神に等しい力を手に入れる! ……しかしその為には、紫のメダルがどーにも邪魔だ。このままじゃ、真のオーズどころか、 真のグリードだよ」
 伊達は会長から、映司が紫のメダルを捨てるように説得を頼まれるが、それを拒否。
 「冗談じゃねぇ。真のオーズもグリードも願い下げだ!」
 「火野帰るぞ。おまえおかしくなってるんだ。こんなメダル飲み込んでみろ、どんな事になるか」
 後藤は映司を連れ出そうとするが、その手を振り払われる。
 「俺の器なら、飲み込めますよ」
 欲望に狂いだす映司だが、ドクターの気配に気付いて飛び出していき、対峙する2人。
 「今度こそ最後にしましょう。君のメダルを貰います」
 「貰うのは俺です。――変身」
 紫のコアメダルの力を抑制しながら借りていた筈が、他者から更なる力を奪い取ろうと、 明確に歯車のズレた映司は初手からプトティラに変身し、WバースもWぽきゅっとな。
 「伊達くんですか。人生の終わりを逃したようですね」
 「おかげさまでね。……あんたも随分変わっちまって」
 「おかげさまで」
 全方位砲撃型の伊達さんが、ここでドクターと会話があったのは良かった。
 「このメダルは渡さない。手に入れた、俺の力!」
 ドクターグリードは範囲攻撃で3ライダーを吹き飛ばし、紫のメダルを抜き取ろうとプトティラに重圧をかけるが、 それに抵抗するオーズは、再びグリードの姿に変じてしまう。
 「火野くん、完全な暴走も時間の問題ですね」
 「世界の終末を止めなきゃ……俺は、この力で」
 「馬鹿野郎!! その手見てみろ。そんな手で何掴むつもりだ。何を守る? どこに届く!」
 「なんでも独りでやろうとするな、火野!」
 「俺は欲しい……力が!!」
 気付いた筈の積み重ねを否定し、独りだけの力を求め、止まらなくなっていく映司。この様子にドクターは変身を解くと、 覗き見していたウヴァに緑のコアメダルをトスし、ヤクザグリーン、とうとう完全体に。
 「器に使えるグリードは、もう彼のみ」
 ドクターはそれは見下ろし、プトティラの斧さえ弾くウヴァ……あれ、強い?(笑)
 Wバースが子供扱い……は、まあ仕様です。
 「やっぱり要る。力が……力が欲しい」
 映司は一度変身を解くと鴻上ファウンデーションの地下保管庫へと向かい、欲望を解放した映司の姿に興味を持った会長は、 その求めるまままに膨大なセルメダルを大放出する……。
 「……ああ、壊れるだろうな」
 その頃、アンクは比奈に自分の消滅が近い事を告げていた。
 「それって……死んじゃう、て事?」
 「…………俺が死ぬと思うのか」
 「だって、今そう言ったじゃない!」
 比奈の言葉に、寂しそうな、なのに嬉しそうな、凄くいい笑顔を浮かべるアンク。今作ここまで屈指の、名シーンでした。
 「ただのメダルの塊が、死ぬ……か」
 「アンク、どこ行くの?!」
 「戻る」
 「え?」
 「俺がついてないと相当やばいだろ。あの使える馬鹿は」
 命を手に入れたアンクは、最後の炎で、歩きだす……使える馬鹿との、約束を果たす為に。 次回――欲望をその手に掴むのは誰なのか。いよいよ最終回。

◆最終話「明日のメダルとパンツと掴む腕」◆ (監督:田崎竜太 脚本:小林靖子)
 最後まで入る、「三つの出来事」。2話セットの後編で必ず前編を振り返り、次の冒頭ではそこまでの話を軽くまとめて、 というのを貫いたのは、キャラクターの入れ替わりなどが激しいのでわかりやすく、という意識が強かったのでしょうか。
 サブタイトルと合わせて、作品の特徴付けとしては面白かったです。
 完全体となったウヴァはWバースを変身解除まで追い詰めるというまさかの大活躍を見せるが、その時、 鴻上さんちから重苦しい振動と共に近づいてきたのは――膨大なセルメダルをその身に宿した火野映司!
 外観は映司そのままなのですが、足音が巨大生物のそれになっている、という演出が面白い。
 鴻上会長は映司に、800年前のグリード誕生時に引き抜かれた“10枚目のメダル”――王の最初の変身、 オリジナルのタトバコンボを託す。
 「後藤さん……伊達さん……離れてて下さい。――変身」
 結局最後まで、都合良く会長がメダルを持ち出す、というのも貫かれてしまいましたが (アンクがクスクシエに残したメダルホルダーに3枚隠しているものとばっかり)、変身したタトバは、 恐竜アックスとメダル剣の二刀流を振るい、ウヴァ、あっという間に雑魚扱い。
 ……まあ、ウヴァだから、最終回1話前に見せ場があっただけでも別々それぞれだからそう奇跡的。
 ウヴァは基本のライダーキックで吹き飛び、そろそろ面倒くさくなってきたドクターは、嫌がるウヴァにコアメダルを連続投入。
 「手段は美しいとはいえませんが、もたらす終末は、きっと美しい」
 それを止めようとするオーズだがドクターグリードに吹き飛ばされた所で、飛来するアンク。
 「君の属性はコウモリですか。またオーズにつくとは」
 ドクターの嫌味にアンクはニヤリと笑い、背景で逃げるウヴァ(笑)
 カザリも最後けっこう悲惨な扱いでしたが、それを棒高跳びで軽々と飛び越えてくる辺り、 ジェットコースター系悪の幹部キャラとしては高い資質を秘めていただけに、出番が飛び飛びだったのが惜しまれます。
 「俺は……俺は嫌だぁ!」
 「なんという見苦しさ」
 ドクターはウヴァを追っていき、割と取り残され気味になる4人。
 「アンク……どうして?」
 映司に近づいたアンクはぐっと右手を突き出し……約束を告げる。
 「――今日の分の、アイスよこせ」
 その夜……進行するグリード化と迫る消滅の時、という爆弾を抱えながら、比奈を交えてひととき戻ってくる、穏やかな時間。 映司とアンクは互いに隠し事を持ちながらも、アイスを手に、いつも通りに振る舞ってみせる。
 (お兄ちゃん……私、どうすればいい? 映司くんの事も、アンクの事も、お兄ちゃんの事も、出来る事が見つからない。 何も言えない……。私には、もう……。ただ……)
 主題歌バラードver.が流れ始め、穏やかで美しいけどそれ故に儚い時間、考えた末に、比奈は、映司とアンクの間に入って、 2人と2人の手を繋ぐ。
 (ただ……)
 「欲望ある限り、何かが変わり、生まれる。今日という日を明日にする事さえ、欲望だ。Happy Birthday!」
 夜が明けて、開店準備中の知世子は、店内に真木そっくりの服とカツラを身につけた人形を発見。
 最終的にドクターの人形は、終末に飲み込まれていく予定の世界で、姉の現し身(知世子)と自分の現し身(人形) を一緒に美しく終わらせる(添い遂げさせる)という、ドクターの“努力しなかった願い”を反映させる形に。
 廃車置き場で苦しんでいたウヴァはとうとうメダルの器として暴走してしまい、巨大な立方体の姿になると浮上。 周囲の物質をセルメダルに変換して崩壊させながら、それを吸収して生み出した大量のクズヤミーをばらまいていく。
 「良き終末を――」
 高層ビルも次々とメダルに変換されていく中、迫り来る自社ビルの崩壊を無視してケーキを作り続ける鴻上会長は、なかなかの貫禄。
 オーズとアンクはクズヤミーに立ち向かい、短いですが、ここで満を持しての共闘展開。2人は駆けつけたWバースに地上を任せると、 終末パズルを守るように天空に浮かぶドクターグリードへと飛翔する!
 (映司くん、アンク……!)
 比奈はそれを見つめて無言のエールを送り、フラッシュバックする前夜の光景で、 手を繋いだ3人がオーズのベルトの三つのメダルになぞらえられる光景が素敵。
 映司! 比奈! アンク! エ・ヒ・ア!!
 そう、無限を越えるOOOとは、そもそも最初から、命を繋ぐ力だった!
 プトティラとアンクは空中戦でドクターグリードを撃墜し、地上で激突。一方、クズヤミーの大群に苦戦するWバースの元には、 頼れる上司がやってくる。
 「里中ちゃん! こんな状況で、よく来たな」
 「ビジネスですから」
 「さっすが俺の上司だ!」
 突き抜けすぎて後藤さんが壊れ気味ですが、最後まで、里中さんは今作最強のヒーロー度を貫きました。
 「この終末の素晴らしさを見て、まだ邪魔するんですか」
 アンクはドクターに吹っ飛ばされてしまうが、オーズは接近戦で足下を氷結させ、互いの動きを封じると、恐竜アックスを振りかぶる。
 「今俺の中には、あなたを絶対に倒せるだけの力がある」
 それは、今日を明日に変える力――欲望のセルメダル。オーズは取り込んだ膨大なセルメダルを全て恐竜アックスに飲み込ませ、 ファイナル廃課金せいやーーーーー!! を放つがしかし、それすら耐えてみせるドクターグリード。 最後の手段として体内の紫のメダルを暴走させようとする映司だが、アンクはそれを止めると、最後のコアメダルを投げる。
 「映司! よせ! これ使え!」
 それは、アンクを構成していた、そして、アンク自身である、3枚の赤いコアメダル。メダルを受け取った映司はそこに入ったヒビと、 泉刑事の体から離れ、消え去るアンクを目にする。
 「わかってる……おまえが、やれって言うなら……おまえが、本当にやりたい事なんだよな。アンク……行くよ。 ――変身!」
 アンクの願いを受け止め、変身する映司。
 そして、響き渡るアンクの叫び。

『タカ! クジャク! コンドル!』

 ここでアンク声のコンボボイスという燃える演出に、〔基本のタトバ→最強のプトティラ→物語として最も納得のいくタジャドル〕と、 最終話のフォームチェンジは非常に綺麗に収まりました。
 欲望を失った映司と、欲望だけのアンクが出会い、欲望だけの怪物はその存在を認められる事で命の充足を手に入れる。そして今、 欲望だけの怪物になった映司の決して満たされない空虚の器に、アンクが手に入れた命が収まる――アンクはその為に、 命の炎を燃やす。
 『オーズ』が欠落を抱えたヒーロー未満の物語であるならば、今ここに、仮面ライダーオーズは命の重さを得たヒーローになったといえます。
 そしてその敵は――全ての命が生まれる事のない、美しい終末を求める無。
 タジャドルはドクターグリードに立ち向かい、オーズの攻撃に合わせて、ドクターを攻撃するスタンドアンク!
 「プリンセスアンク……と、私はこいつを名付けて呼んでいる。プリンセスアンクの特殊能力……それは地味な嫌がらせをする事。 君に地味な嫌がらせをさせてもらう。今夜もぐっすり眠れるようにね」 (※森川智之声で)
 ……ちょうど第4部アニメを見たタイミングだったので、変なネタに脱線してすみません。
 アンクの嫌がらせもとい攪乱を受けたドクターグリードは、プリンセスアンクとタジャドルが並んで放った爆熱グリードフィンガーの直撃を受け、 終末パズルへと逃走。それを追ったタジャドルはスピナーに紫のコアメダルを詰め込むと、アンクと共に合体せいやー光輪を放ち、 紫の力の直撃を受けたドクターグリードは、ブラックホール化。 虚無の塊となって自らの体とパズル内部のコアメダルを飲み込んでいくドクターグリードの最期と共に、終末パズルは自壊していき、 紫のコアメダル、オーズのベルトも次々と虚無の中に吸い込まれ、そして、アンクのコアメダルが、二つに割れる――。
 ここでスピナーを使い切ってくれたのは、紫のメダルの始末にも綺麗に繋がって良かったです。終末パズルのなし崩しの崩壊含め、 ラスボス戦そのものはちょっとぐちゃぐちゃの感はありましたが、映司とアンクの合体オーズという、しかるべき着地点が見られたので、 個人的には満足。
 ドクターと終末パズルは消滅し、世界の終末は防がれた。が、同時にオーズの翼を失い、地上めがけて落下していく映司。
 だがアンクの腕が映司の顔をはたき、首根っこを掴み、気絶していた映司を叩き起こす。 アンクが映司の首根っこを掴んで起こすというのは第1話との意図的な重ねでしょうが、この最終回ではまさにアンクが映司を、 此の世の側に引き戻す役目を担っています。
 「映司、目覚ませ! 死ぬぞ!」
 「アンク……? ……あぁ、いいよ。もう無理だ。おまえこそ……」
 「ふん、俺はいい。欲しかったもんは手に入った」
 「それって命だろ。死んだら……」
 「そうだ。お前達と居る間にただのメダルの塊が死ぬ所まで来た。こんな面白い、満足できる事があるか。おまえを選んだのは、 俺にとって得だった。間違いなくな」
 ここまで慎重に言葉にしていなかった事をここでまとめて台詞にしてしまってちょっと驚いたのですが、 これはアンクから映司への「ありがとう」だと思うと、シンプルな五文字は口にしないのが、むしろアンクらしいのか。
 そしてそう考えてみると、劇中でアンクに「ありがとう」を言われたのは、もしかして:後藤さんだけ。 (※第19話) まあ、ギャグ扱いではあったのですが(^^;
 「おい……どこ行くんだよ?!」
 「おまえが掴む腕は、もう俺じゃないって事だ」
 アンクの姿は遠ざかっていき、映司が伸ばした手の中に握りしめていたのは、半分になったタカのメダル――。
 「アンクーーーーーーー!!」
 地上では、比奈もまた、半分になったタカのメダルを拾う。
 「アンク…………ありがとう」
 そして、落下する映司に手を伸ばすフライトごばーす。
 「もうなんでも独りで背負い込むのはやめろ! 俺達が居る、俺達の手を掴め!」
 ここも最後にストレートに台詞にするのでが、この辺りはラストのわかりやすさ中心でしょうか。
 地上では、比奈、伊達、知世子、里中が映司の為に手を広げ、映司は今、“こんぐらい”の先に手を伸ばす方法に気付く。
 (俺が欲しかった力……どこまでも届く俺の腕。それって……)
 ごバースの手をしっかりと掴む映司。
 (こうすれば、手に入ったんだ)
OOO! OOO! OOO! OOO! Come On!
 映司は無事に着地し、歓喜の輪の中で、手の中の欠けたメダルを見つめる。
 (でも、おまえの手を掴んだのも、絶対間違いじゃなかった。絶対……)
 「アンク……」
 から主題歌が流れだし、後日談エンディング。
 映司は旅へ、比奈は学校へ、お兄ちゃんはそれを送り、次作のキャラが通りすがり、伊達は医者に復帰し、後藤は警察復帰……?  そして、どっこい生きていた会長と里中は今日もなんだか無敵であった。
 最終的に、物凄く困ったおじさんだった鴻上会長ですが、善も悪も欲望のメダルの裏表、 という今作の世界観においては、ラスボスになり損ねた上であまり反省しないでしれっと生き残っている、というのもらしい所でしょうか。 たぶん、5年後ぐらいに、また悪気なく世界の危機を引き起こしそうな気がしてなりませんが。
 後藤さんの警察復帰が割と謎なのですが…………上司とケーキに耐えきれなかったのか。
 一方、比奈を学校へ送っているシーンしか描かれない泉兄は、1年間の謎の休職の末に本当に警察に復帰できたのか、 疑問が膨らみます。もしかしたら鴻上ファウンデーションにスカウトされて、3代目バースになっているのかもしれない。
 最後はクスクシエに皆で集い、映司からのビデオレターを観賞。
 二つに割れたタカメダルを手にした映司は、明日のパンツを旗印に、今日も旅の空。
 「いつか、もう一度……」
 …………なんか、割れたメダルに、アンクの霊体ついてるーーー(笑)
 と、やる事やったという事でか、最後は割とあっけらかんとした陽性のエンド。
 映司のグリード化に関しては特に触れられないのですが、個人的には、グリードになりつつあった映司の中に、 アンクの命が収まる事で解決した、という解釈です。改造人間テーゼとしてのヒーローと怪人の異形としての同一化を厳しく描いていた今作ですが、 そこから“命の重さ”を得る事で、真のヒーローになる、というのが最終的な構造だと思うので。
 いわゆる《平成ライダー》第2期の立ち上がりにおいて、前作『W』が「あらためて『仮面ライダー』を定義付ける」 指向を持っていたのと比べると、今作は《平成ライダー》初期作品(『クウガ』〜『ブレイド』まで)のリビルドであると同時に、 それを通して「ヒーロー作品のリビルド」、すなわち、「ヒーロー作品とは何か」(ヒーローとは何か、ではなく) をやろうとしていたのかな、と個人的には感じています。
 普通のヒーロー物が、1から初めて10になるのを目指す物語だとしたら、 今作は−10から初めて1になるまでの物語だったのかな、と。
 だからこそ、最終話直前において、知世子さんの口からヒーローフィクションの理屈が炸裂する。
 何かを諦めないといけない世界を、ブレイクスルーするのがヒーローであるが故に。
 そういう点で今作はかなりアンチヒーロー的な構造であり、好みでいうともう一つ歯車の合ってこない部分を感じていたのですが、 自分の命の重さを見失っていて、条件反射で人を助け、実は他者と向き合っていない、 にも関わらず表向きは明るく底抜けのお人好しに見える火野映司という極めて屈折した主人公の在り方を徹底し、 1年がかりでヒーローになる話、としてはよくもやり切ったと思います。
 そして、そんなヒーローに対して、助けられる側が出来る事は、ちゃんと生きる事なんだ――ヒーローの魂に触れた君達に、 そう生きていって欲しい――という着地は綺麗。
 「都合のいい神様」に寄りかからずに、ちゃんと生きて、ちゃんと手を繋げれば、その手は無限を越えてどこまでも届くのだから――。
 ところで今作、映司とアンクを心配しながら見るのが一番面白いのかもしれない、なんて事にかなり最終盤になって気付いたのですが、 ラスト数話の、いちいち色々と突き刺さるアンクは好きです(笑) もう少し早く、そこに気付いていれば……!
 全体の構造がわかった上で、2周目見るとまた面白い作品なのかなーとも。
 以上、『仮面ライダーオーズ』感想、長々とお付き合い、ありがとうございました。

 そういえば:落下してきた映司を比奈ちゃんが「ふんにゃーーー!」と一人で受け止めなくて本当に良かった。

(2017年1月15日)
(2017年4月24日 改訂)
戻る