■『仮面ライダーオーズ』感想まとめ4■


“Shout Out もっと海のよう
でっかく構え Wakeup そのポテンシャル”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『仮面ライダーオーズ』感想の、 まとめ4(第19話〜第24話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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◆第19話「赤いメダルと刑事と裏切り」◆ (監督:石田秀範 脚本:小林靖子)
 OPにバース参加。そういえば、メズールもガメルも普通にOPに居るという事は、復活の目があるのかしら (さすがに16話でリタイアは勿体ないしなぁ……)。
 そして、「バース」と名付けたのは、鴻上会長と判明。「仮面ライダー」はどちらかわかりませんが、これもどちらかというと、 会長の趣味か。
 前回ドクターについて、顔を見ていると飯がまずくなる、みたいな事を言っていた気がする伊達は、 ドクターの研究室に寝袋を持ち込んだり、おでんの中に人形を突っ込んだり、好き放題。全方位を、爆破しまくります、伊達明。
 そんな大旋風が吹き荒れてからしばしのある朝、寝坊した映司が店に降りていくと、見覚えのあるパーマ頭が、床をモップがけしていた。
 「今日からここで、働く事になった」
 前回、クスクシエで光を見た後藤、一度死んだ気になってやり直す事にしたそうですが、クスクシエは何だか段々、 問題児の精神を鍛え直す修行の場のようになりつつあります。
 「アンクちゃんも、あ・り・が・と・う、覚えるといいんだけどなぁ」
 知世子の攻撃! アンクはMPに50ダメージを受けた!▼
 アンクは特技《あ・り・が・と・う》を覚えた!▼
 ごとう店員が通りがかった!▼
 「おい。いい格好だなぁ。今までよりよっぽど似合う。あー、そのアイスキャンディー、こっちにもよこせ。あ・り・が・と・う」
 アンクの攻撃! ごとうはMPに120ダメージを受けた!▼
 ごとうは力を溜めている!▼

 THE・底辺争い

 鴻上に呼ばれた映司は、ヨーロッパ旅行のお土産として赤いコアメダルを1枚渡されるが、 アンクがコアメダルを入手すると泉刑事の体を捨ててしまうのではないかと危惧して、受け取りを拒否。
 「やっぱり、無くなってるコアメダルって、鴻上さんが持ってるんですね」
 「その件について、今すべて説明する気はない」
 「じゃあその目的も、聞いても無駄ですかね?」
 「知らなくても、聞かなくても、戦えるのが君だろう」
 一つの目的(誰かに手を伸ばす)の為に、自分自身さえ蔑ろに出来る映司の危うさが前回再浮上した所で、 違う角度からもグサグサ来ます。
 なお、社会的立場が心配された泉刑事は、比奈の要請で休職扱いになっていると、ここで言及あり。
 そんな泉刑事がかつて逮捕した男が、コズルイエローにメダルを投入されて脱獄。男は復讐という欲望を満たす為、 自分を逮捕した泉刑事と、自分を裏切った相棒のチンピラ・ヤスを狙う。
 「許さねぇ! おまえら絶対に許さねぇ!」
 てーててってててれてれてれてっててれ てーててってててれてれてれてっててれ!
 朝日を背中にして 君が立ち上がる 瞳の合図一つ 強く頷けば
 「映司……ハイパー映司……」(待て)
 ……いやまあ、純然たる偶然だとは思いますが、石田監督も小林靖子も『ブルースワット』に関わっていたので、 何か脳裏をよぎらなかったか、気になります(笑)
 (※1994年のメタルヒーローシリーズ『ブルースワット』では、中盤以降、クライマックスで主人公が「許さねぇ!」と叫ぶと、 スーパーヒーロー・ゴールドプラチナムが降臨し、作品が色々と大変な事に)
 脱獄犯から生み出されたのは、半分メズール(海産物)属性の進化型、クラゲライオンヤミー。
 とここで、カザリの進化を表現する形で、ヤミーが強化。割とストレートな、どこか昔懐かしさも漂う合成タイプですが、 体の半分で強引に二つの生き物をくっつけたような姿と、ライオンヘッドの下に覗く人間に近い口元のデザインがグロテスクで印象的。
 クラゲライオンにダメージを与えると、飛び散ったセルメダルがメトロイドもとい電気クラゲに変化して周囲を飛び回り、 攻撃を与える度に更に分裂。属性防御が複雑化して、ラカマータフラッシュも跳ね返されるオーズのピンチに、 伊達さん今回も颯爽とヒーロー登場。
 ドリルによる、とにかく物理で殴るアタックでクラゲライオン相手でも優位に戦いを進めるバースだったが、そこにカザリが乱入し、 バースも苦戦。前回かなりの能力を示したバースですが、コアメダルを力とするグリード相手には分が悪いという扱いに。
 「僕はまた進化した。新しいヤミーも、面白いよね」
 オーズもバースも状況を打開できない中、アンクもダメージを受け、 更にヤミーに狙われていた筈のヤスがアンクのメダルホルダーを奪い取ってカザリに渡してしまう。なんとヤスはカザリに脅されて、 ホルダーを手にする機会をずっと窺っていたのだった。
 大ダメージを受けて変身の解けた映司は3枚のメダルを奪われ、遂に8枚の黄色コアを手に入れるカザリ。
 「あと1枚――僕は今日、完全に復活する……!」
 カザリはメダルホルダーを手にし、オーズ陣営に残ったコアメダルはタカ1枚、という番組史上最大のピンチで次回へ続く。

◆第20話「囮と資格と炎のコンボ」◆ (監督:石田秀範 脚本:小林靖子)
 完全復活を期してメダルホルダーを開くカザリだが、なんとその中身は全て、セルメダル。 カザリがコアメダルを狙っている事を警戒したアンクは、事前にメダルを入れ替えていたのだった。コアメダルは全て映司が隠した、 とブラフを仕掛けたアンクはそのまま映司を海へと放り投げ、カザリの注意が逸れた隙にクジャクメダルを強奪。 カザリはやむなくヤミーと共に映司の行方を追い、えらく久々に、頭脳戦に勝った気がするよ!
 だが映司を囮に使った事に怒り心頭の比奈がクジャクメダルを奪い取って逃走。アンクは鉄鎖で比奈を鉄橋の下に吊るし、 2人はメダルを巡って根比べに突入。そしてそそくさと逃げ出したヤスは、土手に打ち上げられた映司を発見。悪党にも善人にも、 どちらにもなりきれないヤスは映司を見捨てる事が出来ず、映司を拾って家で治療する……。
 変なチンピラだったヤスがここでひと味出すのですが、結局、最終的にもう一つ掘り下げられなかったのは残念。
 『オーズ』全体における、映司の物語とゲストの物語が繋がらない、 それこそ本筋がちょっとややこしくなると雑にゲストを放り投げ気味になる、というのは、前回の鴻上会長の「知らなくても、 聞かなくても、戦えるのが君だろう」が示唆するように、“繋がれるから助ける”のではなく、 “繋がっても繋がらなくても関係なく助ける”という映司のスタンスに合わせて意識的な造りではあるのでしょうが、 どうしても据わりが悪く感じてしまいます。
 その据わりの悪さ自体が、物語全体の仕掛けなのかとは思うのですが、 道中のもどかしさを越える程の納得を持って機能してくれるのかどうか。
 それにしても、事あるごとに湿布を貼られるヒーローだなぁ……。
 カザリに吹っ飛ばされた後、戦線に復帰したら誰も居なかった伊達は、食事に寄ったクスクシエで後藤店員を発見。 知世子に促された後藤から人生相談を受けた伊達は、バース銃を後藤に撃たせてみる。
 「こいつがバースのメイン武器。使い勝手はいいけど、反動は半端ない」
 それは、使い勝手がいい、のか?
 伊達が生身で軽々と扱ってみせたバース銃だが、後藤は一発撃った瞬間に反動で吹っ飛んでしまう。
 「はははははは、わかったろ? こいつ使うには、今までの鍛え方じゃ駄目なのよ。今のあんたじゃ、バースになりたくてもなれない」
 以前からその能力に疑問符のついていた後藤店員ですが、 バースになれなかったのはドクターに頭を下げられなかったプライドと正義感ゆえなんだと自己防衛していた所に、 そもそも実力が足りない、と容赦なく延髄斬りが炸裂。
 伊達さんの蹂躙が留まるところを知りませんが、これでようやく後藤店員の立ち位置が定まってきました。
 ――翌朝、
 「映司が生きてれば必ず来る」
 「あんな酷い事しておいて、一緒に戦ってくれると思うの?! きっと怪我だって」
 「来る。ヤミーを倒す為ならな」
 暴走を開始したクラゲライオンの咆吼を耳にしたアンクは仕方なく比奈を解放し、お姫様だっこではない所に筋力不足を感じます!  そこは頑張れアンク! ボディはお兄ちゃんとはいえ!
 「一つだけ、ヤミーを倒すって、一点でだけ、あいつの行動を信用できるんですよね。ホントそれだけだし。むっっかつきますけど」
 ヤスと相棒の悪口で盛り上がっていた映司も、負傷を押して立ち上がる。
 そして、
 「後藤ちゃん。俺が1億稼ぐまでに、これ使えるようになっといて。俺がいつでも辞められるように」
 バース銃を後藤に渡す伊達。
 なんだかんだ後藤の人生相談に付き合って手を貸す伊達さんは、親切ではなく、あくまで自分の都合なのだ、という形を取るのが、 ひたすら格好いい。
 またここは、前回に続いて映司と伊達の対比になっていると思われ、例えば映司は、後藤が死にそうになっていたら間違いなく助けるし、 そこで平然と命も賭けるだろうけど、あくまで“それだけ”で、そこから先には踏み込まない(比奈の事を気にしているのは、 「泉刑事を助ける」というミッションが継続中だからなわけです)。
 映司には、誰かかを決定的に助ける為の“何か”が欠けている――伊達さんの言い回しを借りるなばら、 火野映司は「自分で自分を助けていない」から、実は手を伸ばした先で何をすればいいかがわかっていないのではないか。 映司のどこか刹那的な人付き合いの本質が、じわじわと形になってきている気がします。
 クラゲライオンは口から火球を放って派手に暴れ、立ち向かうオーズだが、足の負傷で力を発揮できずにまたも苦戦。 バースがやってきてショベルアームで殴り続けたら中身が飛び出すが、バースもまた、動きの速くなったクラゲライオンに押され気味に。 クラゲライオンは更に大量のメトロイドを放ち、電気攻撃に追い詰められていく2人のライダーだったが、そこに比奈、 そして鴻上からメダルを預かった里中が駆けつける。
 バイクスーツ姿の里中は、驚くべき身体能力で次々とメトロイドを蹴散らしていき、若干の悪ノリ感漂う里中無双ですが、 鴻上の秘書だと思うとある程度の戦闘力には納得する部分もあります。
 比奈はメダルをアンクに渡し、里中もオーズに向けてメダルを射出し、遂に揃う3枚の赤いコアメダル。

『タカ! クジャク! コンドル!』
タージャードルーー

 真紅のコンボを発動したオーズは、クジャクファンネルでメトロイドをまとめて瞬殺すると、翼を広げて飛翔。 胸からバックラーを取り出してクラゲライオンの火球を防ぎ、ダイビングコンドルそいやーーーでヤミーを撃破。 圧倒的な力を見せつけるのであった。
 今回は完全にオーズの手柄なのに、クレーンアームでセルメダルをまとめてかっさらう伊達さんも、大概セコい(笑)
 そんなバースの行為に文句も言わず、アンクが3枚のコアメダルを吸収すると右肩から翼が飛び出すが、何故かそれ以上は実体化せず、 アンクの姿は右腕だけのままなのだった……。
 第2ライダーのインパクトに負けじとアンクのコンボフォームが登場! という事で、フォームばかりでなく、武装も追加。 男声コーラスから入る、映司&アンクデュエットのテーマ曲も、大物感を醸し出してなかなかの格好良さ。割と忘れがちな、 右腕だけで活動しているアンクのイレギュラーさとも関わるようで、伊達明大旋風から続けざまに弾丸が撃ち込まれてきました。
 それにしても、クジャク……そうか、アンク、その髪は、クジャクだったのか……。タカの目! クジャクの頭! コンドルの根性!  タージャードルーー。

◆第21話「バッタと親子と正義の味方」◆ (監督:田崎竜太 脚本:毛利亘宏)
 見所は、意外と子供に優しいが、《説得》スキルは持っていなかった後藤さん。
 そういえば《交渉》ロールに成功した例しがなかった!
 司法試験の合格を目指す正義感の強い男・神林(マスター知世子の後輩)がヤクザグリーンにメダルを投入され、 バッタのヤミーが誕生。バッタヤミーは神林の「悪い奴は、許さない」という欲望を満たす為に、ひったくり犯や強引なナンパ男、 騒音を撒き散らす若者などを、自動発動するスタンドのごとく、次々と痛めつけていく……。
 「俺は、力を手に入れたんだ。ははっ、いいぞ、やれ、もっとやっちまえ」
 世を正す正義を遂行しようとするのがバッタの怪人で、正義の暴力性を殊更に強調しつつ「とぅ!」とか言わせたり、 タチ悪いエピソード(笑)
 「人を助けたいって気持ちや、正義を守りたいって気持ち、それも欲望って言えないかな?」
 「ふんっ、そんなバカな事考える奴いるわけない」
 映司を見て固まるアンク、今回はワインレッドのジャケットが格好いい。
 「欲望ってわけじゃないけど、そういう人間もいるよ」
 「なるほど、正義感ってやつか」
 神林が正義を執行しようとする対象=バッタが暴力を振るう対象、を日常レベルで他者に迷惑を掛け、 懲らしめられるとむしろスッとする形で描いて神林に対する共感値を上げつつ、 しかし社会正義の為に暴力を振るう時点でそれは正義を逸脱している、というカタルシスそのものに批判を内包する、 というねじくれた構造(まあ最初のひったくり犯は、完全に犯罪なので別枠なのですが)。
 ここで意図的にその一線を踏み越えるとピカレスクロマンになるのですが、 神林はあくまで義憤による社会正義を行使しているつもりであるが故に、逸脱した正義が怪人化しているといえます。
 悪徳を悪徳で踏み潰す事に快感を覚える時に人の心は怪人となり、そんな怪人の心を律してヒーローとして存立しえるには、 強い“何か”が必要なのではないか――という形で、ヒーロー/怪人を、表裏一体の関係として描いているのは、 「欲望」の二面性を中心に置く今作らしいアプローチ。
 正義を行使する、という欲望と快楽に飲み込まれていく神林を止めるべく、映司はオーズに変身してタジャバ発動。 素早い動きのバッタに逃げられてしまうが、今日も高い所から伊達さんがヒーロー登場し、バースは夜間だと、 脳と目が光るのが栄えて格好いい。
 優位に戦いを進めるも背後からウヴァにヤクザキックを受け、2対1でバースが苦戦した所にオーズ参戦。 オーズはスピナーにコアメダルをはめこんでクジャクファイヤーを放とうとするが、そこへ飛び出してきた神林がバッタをかばう。
 「こいつはやらせない!」
 「どうして?!」
 「やっと、正義の力を手に入れたんだ。俺は、こいつの力を借りる」
 「力って……」
 「こいつの力を使って、この腐った世の中を、少しでも良くしたいんだ」
 「お父さんがんばれー。お父さんがんばれー!」
 そこへ神林の息子・隆が飛び出してきて、子供が怪人を応援する、という嫌がらせのような構図になった所で、つづく。
 スピナー、突然蓋を開いたら中にセルメダルが入っていて、ここにコアメダルはめたらなんか凄いんじゃないか、 という持って行き方はかなり適当で、玩具のギミックを強引にねじ込もうとした様子が窺えます(^^;  というかそこに最初から入っているセルメダルは、アンクのHPじゃないのか。

◆第22話「チョコと信念と正義の力」◆ (監督:田崎竜太 脚本:毛利亘宏)
 見所は、隆少年に笑顔で接するヤクザグリーン。たぶん、アンクとカザリよりは子供の扱いは上手だ!
 タジャバとバースが攻撃をためらう内にバッタとウヴァは逃走し、「俺達の邪魔をしないでくれ」と姿を消した神林親子は、 バッタ世直しを開始。

 「バッタヤミー・フォー・ジャスティス」

 「悪い奴は、許さない」「許さない」
 特訓中の後藤は、純粋に正義を信じる隆少年の言葉に、なぜ理想の正義を為していけないのかを悩む。
 今回の前後編で一つ面白かったのは、正義大好きっ子で信念肥大の傾向がある後藤さんと、無垢な少年の世界を見る目とを重ねて、 対比に持ってきた事。
 大人が割り切って仕方がないさと飲み込んでしまっている部分を、子供から真っ直ぐに問いかけさせる事で、 正義を為したいけど正義を為せない男・後藤が、“割り切りたくなくて足掻く男”として掘り下げられました。 後藤のプライドというのが、そういう後藤の潔癖さである、という形である程度前向きな要素に変化したのも良かったと思います。
 「後藤ちゃん、正義とか言ってて青臭いけど、けっこう気に入ってんだよね」
 伊達さんは、後藤にレンタルしたものとは別に新しいメダル銃をドクターから強奪し、中盤の会話シーンなど、すっかり後藤と師弟状態。
 そんな後藤は、正義を為すヤミーを倒すべきなのかを映司に問うが、映司は倒さなくてはと即答する。
 「いっぱい見てきた。誰かを守りたいって気持ちや、自分たちの正義を守りたいって気持ちがどんどんエスカレートする事がある。 正義の為なら、人間はどこまでも残酷になれるんだ」
 「正義の、為なら……」
 ここで「正義」のカテゴリが広がり、映司の過去の内戦体験なども含める形にしたのは、物語の流れを巧く拾い、映司ならでは、 という説得力が出ました。
 ところで今回、映司がけっこう長い台詞で重い事を言うのですが……言うのですが……その、服装が…………服装が……。
 元々、映司(&アンク)のファッションは既存のヒーローとは一線を画しており、 それを着こなしているのは地味に凄いポイントの一つだったのですが、しかし、今回の、映司の服が、どうしても、 だぶだぶに丈の余ったキングサイズのズボンにしか見えなくて……!
 折角格好いい事を言っているシーンでも、これからレンコンを堀りに行きそうにしか見えなくて……!
 ちょっと困りました。
 バッタ様の世直しじゃーと盛り上がる神林親子は悪徳代議士を襲撃するが、逃げ惑う無力な中年男の姿を見ている内に、 一方的に振るわれる暴力に動揺を覚える神林。
 「あれが、神林さんの考える正義ですか?! あれがやりたかった事なんですか!」
 先に映司の言葉で正義のカテゴリを広げておいた上で、日常の小さな不道徳を戒めていた行為が気がつけばテロに近づいていき、 正義が手に負えなくなっていくという流れが綺麗に見せられました。
 個人的な好みでいえば、ここでもっと狂気に振れて欲しい所なのですが(笑) 動揺する神林は、割と正気。 まあ、ここで神林を狂気に持っていくと収拾つけるの大変なので、親子の物語に収束していったのは正解だと思います。
 バッタを止めようとするオーズだが、乱入したウヴァが隆少年を人質に取り、コアメダルとの交換を要求。 3枚のメダルを渡すと見せかけてクジャク缶で回収しようとするコズル映司だったが、アンクの邪魔で失敗し、緑2枚を奪われてしまう。
 「おまえらの仲が悪いお陰で助かったよ」
 珍しく面白い事を言うウヴァにアンクはぐりぐり踏まれ、変身を解いた映司もバッタにやられて大ピンチの所で、 今回も格好良く駆けつける伊達さん。
 ……伊達さんの参戦後、映司のヒロイン力の上昇具合が、コイ! リュウ! ウナギ! という感じで、 留まる所を知らなくて危険。
 「ガキの命とコアメダルどっちが大事だと思ってんだ!?」
 「命!」
 「……コアメダルは俺にとっての命だ……わかってんのか?!」
 アンクが苦しそうな表情で珍しく本音を吐露するのですが、
 「…………あいつ、いったいどこ行った」
 映司は神林を安全な場所へ案内しており、完全スルーでちょっと酷い(^^;
 「誰が正しくて、誰が間違ってるって、とっても難しい事だと思います。自分が正しいと思うと、周りが見えなくなって。 正義の為なら何をしてもいいって思ったり。きっと、戦争もそうやって起こっていくんです」
 「戦争ですか……でも、悪い奴等を、放っておいていいわけじゃないですよ」
 「目の前で起こっている事に一生懸命になるしかないんです。……小さな幸せを守るために」
 「小さな、幸せ……?」
 「自分が出来る事以上の事は、出来ませんしね」
 前回ラストで、神林に「(バッタの)力を借りる」と言わせているのですが、自分の力以上の事をしようとすれば正義も歪んでいく、 だから、“正しい事は、自分の力でしなくてはいけない”と、歪みの根源を突く形に着地。これは同時に、 “正しい事をする為には、自分がどうあるべきか”という問いであり、正義とは何かといえばそれはまず、 自分(の力)を律する所から始まるのではないか、といえるのかと思います。
 「難しいですね」
 「でもやるしかないんです。自分に関わった人みんなを幸せにするために。――そうすれば、酷い奴もきっとわかってくれます」
 「……おい! 今一瞬、俺を見たろ?!」
 アンクと再合流した映司はバッタを追うが、その頃ウヴァが、逃げた後藤と隆を追い詰め、少年にメダルを投入。 「同じ欲望の力を使う」と言っているのですが、多分、横のパーマに入れると、凄いヤミーが生まれそうな……いや、今、 絶賛青春の苦悩中だからもやもやしたスライムみたいなのしか出来ないか……?
 「正義の味方になりたいんだろう? さあ、欲望を開放しろ」
 「隆! どうしていい事をしたいと思った?! 答えろ!」
 「僕は……僕はお父さんに帰ってきて欲しかったんだ!」
 「……くっ、そんな小さな欲望ではヤミーが生まれない」
 新システムが判明し、消滅するメダル投入口。
 隆は家族で一緒に居たいという小さな幸せの為に正しい事をしようとし、神林も息子を助ける事で、 本来自分が一番最初にやるべきだった正しい事――小さな幸せをその手に抱きしめる。
 オーズはタバドルを発動し、バースはドリルとクレーンを組み合わせた有線ドリルパンチでウヴァを攻撃すると、 アンクとの連携でコアメダルを強奪し、ウヴァは逃走。残ったバッタはタジャドルを発動したオーズが、 今度こそスピナーに赤いメダルを3枚入れ、火!火!火!そいやーーー! で撃破。飛行型のタジャドルに対して、 地上からの上昇キックで立ち向かうバッタは、謎の男らしさで無駄に格好良かったです(笑) これが、正義か。
 かくして神林親子を巻き込んだ混戦には終止符が打たれ、醜くセルメダルを奪い合う、バースとアンクであった。
 バッタが代議士を襲撃する所から始まって、長い戦闘状態の合間に複数の会話シーンが挟まれるというやや変則的な構成なのですが、 バッタが急に逃げ腰になったり話の都合による移動はあるものの、あちこち動きの多い展開をそれなりに違和感なく整理して見せる辺りは、 さすが田崎監督といった所。
 後日、神林一家がクスクシエを訪れ、
 「弁護士を目指そうと思います。みんなの小さな、幸せを守る為に」
 と宣言して大団円。妄想ブロガー回(脚本:米村正二)もでしたが、サブライター執筆のエピソードだと、 主人公の行動と発言が明確な形でゲストキャラに変化をもたらす、というオーソドックスな作劇でまとめられます。
 『オーズ』は敢えてそこで、主人公の存在がもたらす変化で綺麗にまとめない、という作劇が目立つのですが、 まあ完全にタブーになっているなら、プロデューサーオーダーでサブライター回でもそこはしっかり型を守るでしょうから、 サブライターにはそこまで要求しないけど、小林さんは意識的にやっている、という感じなのか。
 というわけでこの後、『特命戦隊ゴーバスターズ』『手裏剣戦隊ニンニンジャー』『仮面ライダーゴースト』など、 数々の東映ヒーロー作品に参加していく事になる毛利亘宏の特撮デビュー作。ど直球で「正義」をテーマにした意欲的な内容で、 その意欲がやや先行して頭でっかちに思える部分もありましたが、全体としてはかなり綺麗にまとまっていたと思います。
 その中で特徴的なのは、「正義とは何か?」を突きつけられて揺らぐのが後藤さんという点で、 ここで映司や伊達が「個人の信念」を持っているのに対し、後藤が「組織の人」であるという部分が強く浮き彫りになっています。
 以前に本人も述懐していた通り、後藤にはどこか、鴻上ファウンデーションという組織に所属している事自体に満足していた部分があり、 世界を救う正義の組織に所属しているから自分は世界を救う正義の人間だ、という思い込みがありました。それが、 パンツ一丁の不審者や人形と話す不審者やミルク缶背負った不審者に電動ドリルで足下をガリガリと削られていった所から、 「自分を信じる」所に行き着く――またそれは、自分の力で守れる幸せを増やす為に自分を鍛える事でもある――、 という後藤の成長エピソードとして組まれていたのは良かったです。
 小林靖子メインライター作品は、しばしば、サブライターにとって主人公が一番触りにくそう、という難点を持つことになるのですが、 そこで丁度巧く、後藤の存在がはまった感じ。
 次回――伊達さんの過去に女の影あり?

◆第23話「キレイと卵と眠る欲望」◆ (監督:諸田敏 脚本:小林靖子)
 今回の3つの見所!
 一つ、ドクター部屋にコタツを持ち込む伊達。
 二つ、クスクシエにどんどん馴染んでいく後藤店員。
 三つ、ネットカフェが似合いすぎるカザリ。
 住む所、大事。
 ガメルのコアメダルを2枚吸収し、更なる進化を遂げたカザリは、化粧品会社の研究員・佐倉優美にメダルを投入。 最初はヤミーの卵からの呼びかけに気付かない優美だったが、旧知の伊達と再会した事をきっかけに、眠っていた欲望が花開く……。
 「綺麗になる……私が……麗よりも」
 ヤミー誕生→事件発生の流れに大筋を絡めていくのではなく、大筋の諸々を幾つか消化した後にヤミーが誕生して事件が起こる、 という少々変則構成。
 まずは伊達が映司と語らい、映司にどこか見覚えがあるが結局それを思い出せずという以前の引きから、映司に感じる珍しさを、 単刀直入に告げる。
 「いろんな事から、一歩か二歩引いてる感じ? わけぇのに」
 「え? そうですか?」
 この返しが素なのが映司の凄く怖い所で、伊達という存在が、映司の危うい部分に続けて切り込んできます。
 「自分からも引いてる」
 後藤さんに対するのと同様、どっろどろの欲望まみれと言いつつなんだかんだ年長者として映司も気にする面倒見の良さで、 ますます株価を上げていく伊達さん。ところで、おでん屋のオヤジがゴリラ缶の存在を平然と受け入れているのですが、 先日映司がクジャク缶でチョコレートを冷やしていたし、鴻上ファウンデーション印と言えば、大抵のハイテクは納得される世界なのか。
 そしてヤクザとコズルイが喧嘩。
 「いつかは落とし前をつけようと思っていた」
 「残念だけど、進化を止めている君は僕には勝てない」
 カザリは取り込んだコアメダルによってメズールの水流やガメルの重力制御を用い、これまでカザリの自己申告だった「進化」とは何か、 というのが、「他のグリードのコアメダルを取り込む事」・「その能力を自分のものとする事」と具体的に描写。
 オーズ(タゴタ)とバースがやってきて、ウヴァはこっそり逃走。2対1の戦いになるも進化を続けるカザリには2人がかりでもあしらわれてしまい、 仕方なくタジャドル発動。いきなりおもむろに、手から火をだしてビックリ(笑)
 戦いにこだわらずカザリは引き下がり、コンボはまだまだ、進化カザリとそれなりに渡り合える、という位置づけ。 アンクが繰り返しコンボパターンの少なさを気にしており、乏しいメダルホルダーの中身の映像と合わせ、 前半順調に集まっていたコアメダルが何枚も奪われた事で戦いが苦しくなっているという描写が、 “メダルの枚数で物語に緩急をつける”という今作ならではの演出になっており、印象的になりました。
 前半オーズが日の出の勢いだったのも、この中盤の停滞&バースにいい所を奪われまくる展開との落差として、遡って上手く機能。 肉体の問題も含め、思うにままならないアンクの心情へのシンクロが、上手く誘導されています。
 その頃、美貌の女社長として会社の看板を務める妹・麗の影に隠れ続けていた優美は、伊達と再会した事で押し隠していた 「美しくなりたい」という欲望に目覚め、ヤミーの卵をその手にする。アンクと映司は卵から孵化した大量のエイに足止めを食い、 その間に欲望を拡大していく優美。伊達と共にようやく優美を見つけた映司が目にしたのは、美しく着飾った優美と、 魂を骨抜きにされてその足下に転がる人々だった。
 「初めて見た……あんな素敵な人。綺麗だなぁ……」
 そして、優美を見た瞬間、映司までもが魅了状態に陥って階段を転がってしまう! 年上趣味だったのか、映司!!(多分、 そういう事ではない)
 ここで映司がチャームにかかるシーンはCGを使って一気にコミカルに描写されており、趣味としては好きな演出ではないのですが、 ヤミーの能力という事もあって、敢えて浮かせた感じの方が良いという判断だったか。

◆第24話「思い出と恋と海のコンボ」◆ (監督:諸田敏 脚本:小林靖子)
 見所は、どこからともなくハリセンを取り出す後藤さん。
 正直、初めて後藤さんに感心しました(おぃ)
 「おまえは美しい……だがもっと欲しがれ。美しさはそれを認める者があってこそ。妹のように」
 チャーム無効の伊達を前にエイを放って姿を消した優美は新作化粧品の発表会場である水族館にヤミーの卵を運び込み、 弾けた卵の中から、サイの顔の意匠がボディ部分となり、背中にエイを背負っているというなんだか凄いデザインのエイサイヤミーが誕生。
 クラゲライオンに引き続き、進化カザリのヤミーは、キメラ的な異形感を増す為に敢えてあまり洒落ずにモチーフ動物を融合しているのでしょうが、 不自然なグロテスクさが引き立って印象的です。
 その頃、映司は口からハートを吹き出し、湯だった脳みそでくるくる回転しながらアンクの頭をはたき、 後藤にハリセンで襲いかかられ、アンクにバケツの水をぶっかけられそうになっていた…… と引き続きギャグ時空に旅立ったまま帰ってきません。
 もともとギャグ時空と親和性高めなので、このまま不思議の世界へ行って戻ってこないのではないか、と心配が募ります。
 一方、セルメダルの収支−523枚という散々な営業成績だった伊達は、 優美が新社長としてTVに登場したのを見ると、後藤店員を連れて水族館へと急ぐ。
 「知世子さん、ちょっとすいません。ディナータイムまでには戻りますから!」
 後藤店員、目の前の幸せの為に、大義を忘却しそう。
 なお伊達が部屋を出て行った後に、机の上に置かれたクスクシエの割引券を見てドクターが絶叫する、というシーンあり。 何らかの伏線なのかドクターのいつもの奇行か判然としませんが、割引券に自分の顔写真をアップで載せる知世子さん、 魂が太い。
 そして、ヤミーの親になる事で魂の太さを手に入れた優美は、妹を水族館のバックヤードに監禁していた。
 「綺麗になるって、気持ちいいのね。みんなが注目して、私の言いなりで……このままずっと」
 「やめとけ佐倉」
 そこへ現れる伊達。
 「伊達くん……」
 「目ぇ覚ませよ。こんなのおまえらしくない」
 「これが私よ。前より断然綺麗でしょ。どうしてあなたは平気なの? 他の人はみんな……」
 「そりゃ…………昔のおまえの方が好きだったからじゃない?」
 圧倒的な、大人の男の強さ!
 さすがにスルリと口には出さず、ちょっと間を置く照れがまた、それでもハッキリ言うという格好良さになっています。
 主に戦隊ダメンズ達に、見習わせたい!
 「今のお前は、俺にはひっとつもよく見えねぇし」
 伊達と優美はかつてアフリカで一緒に働いていた事があり、その時の優美の持っていた輝きを率直に告げる伊達。
 「今のおまえは、欲望って酒に酔っ払ってるだけだ」
 「伊達くん……私……」
 あっさりと《交渉》ロールに成功し、またも男を上げまくる伊達さん。映司がギャグの世界へ行ったまま帰ってこない一方で、 全く株価の下がる気配が無いのですが、1億円の為にラスボスになるのではないか、と不安になってきました。
 正気を取り戻す優美だが、そこにエイサイヤミーが出現。後藤の援護射撃を受けながら、伊達はバース変身。
 一方、映司をひきずっていくアンクと比奈の前にはカザリが現れ、それでも脳が燻製されたままの映司に炸裂するWツッコミ。 2人は主に比奈の一撃により気絶した映司を、二人羽織状態で強引に変身させる――
 「変身!」
 変身しないヒロイン立ち位置キャラが、この台詞を口にするのは、さすがに史上初でしょーか(笑)
 強制変身させられた映司は、仮面ライダーであった事を思い出してギャグ時空から帰還。 言われた通りにこの一連の成り行きを見守って肩をすくめるカザリなど、ここまで映司パートはひたすらコメディ。 カザリまでギャグ時空に巻き込んだのは少々やりすぎたかとは思うのですが、面白いか面白くなかったかと言われると、 正直割と面白かったです、ハイ。
 水族館ではバースが強化ドリルでエイサイに大ダメージを与えるが、巨大エイに姿を変えたヤミーが外へ飛び出した際に天井が崩れ落ち、 妹をかばった優美が負傷。変身を解いた伊達は割れた腹筋を披露すると、手早く優美を治療する。
 「俺、医者のチーム組んで、世界回ってたのよ」
 伊達明は、かつて“戦う医者”と呼ばれ、世界各地で医療活動に従事していたのだった。
 引っ張っていた伊達さんの過去が、“1億円の欲望”とは随分とギャップを感じるものだったと明かされ、 その理由がどんなものになるのか、興味を繋ぐ形に。この治療中に、姉に対する素直な気持ちを妹が告白して姉妹は仲直りし、 伊達さんメインだと色々丸く収まる展開。
 外では巨大エイがビームを放ちながら暴れ回り、アンクの《挑発》により、流れ弾がカザリに直撃。アンクの指示を受けたオーズは、 その隙を突いてカザリから1枚のコアメダルを奪い取り、カザリは撤退。そしてオーズは、奪ったコアメダルを使って青いコンボを発動する!

『シャチ! ウナギ! タコ!』
シャ、シャ、シャウタ! シャ、シャ、シャウタ!

 オーズシャウタは、スピード感あって格好良いCGでの水中戦から、タコ足ドリルよいやさーーーで巨大エイを撃破。 腕からうにょうにょが伸びる、はギルス(『仮面ライダーアギト』)がやっていた気がしますが、足に吸盤のついたヒーロー、 はさすがに、初、か……?
 タジャドルの直後に新コンボ発動、というのは、前作からの流れもあるのでしょうが、あくまでフォームチェンジの手数にこだわる、 という作品としての方向性が窺えます。シャウタ→タジャドルではなく、タジャドル→シャウタという順番にしたのも、 どれが最強ではなく個々の属性がある、という要素の強調になり、前半に見せなかったのはそういう段取りがあったのかしら。
 応急処置を受けた優美は無事に救急車で運ばれていき、優美の想いに気付きながらも、伊達は敢えてその言葉を遮る。 果たして伊達の抱える1億円の欲望の裏にはどんな理由があるのか――次回、鳥のヤミー、出現?!

→〔その5へ続く〕

(2016年10月2日)
(2017年4月24日 改訂)
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