■『仮面ライダーオーズ』感想まとめ3■


“限界を決めるな Got to keep...
Got to keep it real
自分である事に 誇りを持って Go ahead”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『仮面ライダーオーズ』感想の、 まとめ3(第13話〜第18話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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◆第13話「シャム猫とストレスと天才外科医」◆ (監督:石田秀範 脚本:小林靖子)
 今回の三つの見所。
 一つ、アンクがクスクシエに居候している最大の理由は、電気代。
 二つ、ライドベンダー隊にはまだ生き残りが居た。
 三つ、ゲストの病院長役が、タイタンおじさんこと浜田晃さん!
 さすがに『ストロンガー』から35年ほど経っているのと、ふくよかになった為にほぼ面影も残ってませんでしたが。
 ウェスタンフェアで盛り上がりまくるマスター知世子に、次のフェアで故郷を題材にする、と問われるアンク。
 「お国どこ?」
 「欲望の渦って言ったらどうする?」
 うん、ごめん……ちょっと痛い。
 「そうだったわね……アンクちゃんは悪い大人にずっと……」
 マスター知世子に弄ばれ、アンクちゃんがストレスを溜めていく一方、一皮剥けたバイクの人は格好良く射撃訓練をしていたが、 里中の休暇で、会長のお世話をする事に。
 ドクターと取引をして研究所に居候するコズルイエローは手術をさせてもらえずにストレスを溜める女医にメダルを投入し、 新たなヤミーが誕生。一方ヤクザグリーンは、クズヤミーを作り出してオーズ達を撹乱しつつ、何やら思案をしていた。
 「俺たちの状況が変わらないのは、俺たち自身が変わらないせいだと思わないか? アンクやカザリみたいに、 新しい人間の世界にもっと馴染むべきだ」
 「つまり――時代遅れのグリードに先は無い」
 強大な悪役が終盤に「変化しない」事を叩きつけられて「変わっていける」人間に敗北するというのは割とある気がするテーゼですが、 早くも劣勢のグリード達が、自ら変化していこうとする、というのはちょっとした変化球。
 女医ヤミーの天才的な手術が話題になり大混雑する病院に入り込む為、アンクを車椅子に乗せた映司と比奈は泉刑事の診察券を利用。 首尾良く女医ヤミーを見つけて屋外に誘い出す映司だが、アンク&比奈は同様の手段で怪我を偽装して病院に入り込んだ後藤と遭遇し、 しばし石田ギャグが展開。
 止めに入った比奈の攻撃でアンクハンドがぽきゅーんと外れ、シャムネコヤミーと戦うオーズと合流。 タトバからサゴーゾを発動したオーズはロケットゴリラパンチを炸裂させ、後一歩の所までヤミーを追い詰めるが、 女医の体に戻ったヤミーに逃げられてしまうのであった……。
 「何もかも、もううんざりなんだよ!」
 相棒の「せいやーーーっ(空振り)」と積み重なるストレスに耐えかねたアンクは飛んでいってしまい、泉刑事の命が大ピンチ、でつづく。
 いつもの事ながら石田監督の悪ふざけと合わないため全体的にノれず(^^;
 あともう一つ、今作の小林脚本は恐らく意図的に、メインゲスト(ヤミーの親)への共感要素を薄く描いているのだと思うのですが、 そこの呼吸が個人的にもう一つぴたっと来ません。その点では、11−12話の米村脚本回はその辺りをオーソドックスな形でゲスト (&後藤)に寄せる形で描いていたのが、掴みやすかったというのがあったり。
 恐らく今作が、善悪を「物事の二面性」ではなく、「もっと渾然一体としたもの」として描こうとしている影響かと思うのですが、 この辺りはおいおい。

◆第14話「プライドと手術と秘密」◆ (監督:石田秀範 脚本:小林靖子)
 ナレーション「一つ、溜まりまくるアンクと後藤のストレス」
 ええっ?! 前回後藤さん、真面目に射撃訓練していたのではなく、単なるストレス解消だったの?!
 アンクが外れて危篤状態になった泉刑事に対する比奈ちゃんの想いがクローズアップされるのですが、そもそも、 アンクのストレスの原因の3割は比奈ちゃんの折檻だし、前回アンクがすぽんと外れた直接の要因も比奈ちゃんだし、 そこを顧みずに兄を心配する比奈の姿をどうも素直に見られません(^^; 結局元の鞘に戻ったアンクに「こいつ死なせたくなかったら、 もうその馬鹿力、使うな!」という台詞があるのですが、実際、比奈ちゃんはその点をもう一度よく見つめ直した方がいいと思います (でも比奈ちゃんは美人度高いから大抵の事は許す)。
 なお家出中のアンクに「都合良く死にかけの人間が落ちてるわけもないか」という台詞があり、 生命力の弱った人間しか肉体の主導権を奪えない模様(明言したのは初のような)。
 女医さんとタイタン院長が親子関係であり、「天才外科医と持て囃されて技術だけの医者になってしまうのではなく、 命を預かる恐れを知って欲しかったから手術をやらせなかった」という着地は、前回からストレートに。それが悪いわけでは無いのですが、 院長先生はもともと人格者ぽいし、女医の変化に映司が関わる要素がほとんどなく、医者父娘のドラマと、 オーズとグリードのドタバタの接続が弱くて、あまり出来の良くないエピソード。
 その他今回のポイントは、
 一つ、メズール達がこっそりと大量のセルメダル集めに成功。
 二つ、オーズがカザリにトラとチーターのコアメダルを奪われる。
 三つ、「里中くんレベルになれば、食べろという限り食べ続ける」
 次回、クジャクのコアメダルを巡って状況錯綜? そして、ドクターの手にする怪しげなベルトや図面の正体や如何に?!

◆第15話「メダル強奪と輸送車と器」◆ (監督:諸田敏 脚本:小林靖子)
 ドクター真木からの注文により、鴻上ファウンデーション本社からセルメダル5000枚+コアメダル1枚セットを配達する事になるバイク便。 そのコアメダルが自分のものだと知ったアンクは映司に輸送車襲撃を持ちかけて断られるが、 カザリがその輸送車の中に比奈を閉じ込めていた事から、映司も輸送車を巡る争いに巻き込まれる事に。
 ドクターと結託しているカザリは輸送車の情報をグリード達に流し、オーズがウヴァとメズールと戦っている間に、 火事場泥棒を目論むアンク。だがそこにガメルが現れ、目を覚まして自力で脱出してきた比奈とごっつんこ。 混戦の中、映司とアンクは川に落ち、ウヴァとガメルは輸送車を奪い、それを追いかけた後藤と割としっかりしたカーアクション。 そしてカザリは、その行動をいぶかしむメズールを不意打ちし、大量のコアメダルを奪い取る……。
 ここまでの『オーズ』のごちゃついた状況を、凝縮したようなエピソード。
 フォーム見せの都合もあってか増える一方だったコアメダルを一旦減らし、それぞれの思惑が交錯する中でオーズにブレーキをかけつつ、 メダルという強化アイテムの特殊性を改めて強調。主人公と敵の力の源をリンクさせる改造人間テーゼの本歌取りに、 状況によって強化ギミックが減る、という要素を足したコアメダルのアイデアは面白いと思うのですが、 メダルのドロップ条件がけっこう適当なのが、惜しいと思う所。
 一応、“ダメージを受けると飛び出す可能性がある”“腹部を殴ると大量にドロップする可能性が高い”という条件は共通しているのですが、 物語上、あまり厳密でないのと、露骨な弱点部位の割にはグリードが無防備すぎる、というのはどうも気になります。 あまり厳密にすると物語が動かしにくくなるという意識があったのでしょうが、ゲーム的に見せようとしている割にはルールが大雑把という印象。
 雑さが面白さと直結しているなら良いのですが、そこを昇華しきれていない感があります。
 映司とアンクは、何を最も優先するかで再び揉め、「コアメダルの為なら、俺はおまえを消す」とまで言うアンクに対し、 映司は「アイスキャンディー1年分」で契約更新。比奈を助けるのが一番だが、その後必ずコアメダルを取り戻すと約束する。
 カザリ、ガメル、ガメルの生んだカメヤミーに囲まれ3対1で苦戦するオーズだったが、 カザリからチーターメダルを奪うとラトラータを発動し、カザリとガメルは逃走。 残るカメとの対決中にコンボの使いすぎで倒れてしまうオーズだが、後藤バズーカが炸裂。 後藤が横からかすめ取ったメダルでタトバになると、メダル剣でせいやーーーして窮地を脱するが、 カザリは思惑通りに多くのコアメダルを入手するのであった……。
 そして後藤さん、バイク便、大失敗。
 戦闘中、映司との契約を意外と律儀に守るアンクが比奈に気を遣い、
 「……ありがとう」
 「あん?」
 と2人の関係にちょっと変化が入ったのは良かった。
 カザリは集めたコアメダルをガメルに投入し、一つの器にメダルが集中する事で、果たして何が起きるのか……次回、新ライダー登場!

◆第16話「終末とグリードと新ライダー」◆ (監督:諸田敏 脚本:小林靖子)
 見所は、カザリに大量のコアメダルを奪われて弱り切ったメズール@美少女フォームがウヴァのけしかけたクズヤミーに追い詰められていた所を、 颯爽と助けるアンク。
 うろちょろしているクズヤミーがむかついて殴りかかったのでしょうが、なんだか凄くヒーローぽい活動を(笑)
 カザリとドクターに器として14枚のコアメダルを投入されたガメルは、メズールを探している内に徐々にその力が暴走し、最終的に、 遭遇したメズールと融合。
 「いい子ね。いらっしゃい。あなたが全部欲しいのよ。……おばかさん。グリードの癖に欲がないなんて。でも、だから、 あなただけは裏切らない。好きよ、ガメル」
 それを見ていたドクターが、大量のセルメダルと更に2枚のコアメダルをそれに食わせ、巨大クラゲマンモスが出現。 暴走して暴れ回るクラゲマンモスにはオーズの攻撃が全く通用しないが、その時、セルメダルを武装に使う謎の戦士が姿を見せる。
 ベルトにメダルを入れてダイヤル回すと
 ぽきゅ!
 という気の抜けた効果音と共に生み出される外部武装を身につけるメカ系の新ライダーは、 強烈なブレストキャノンでクラゲマンモスを弱らせ、飛び出したコアメダルを拾ったオーズは久方ぶりのガタキリバを発動して分身キックでこれを撃破。
 大量のコアメダルゲットだぜ! と思いきや、一斉に飛んでくる火事場泥棒達(笑)

 せ こ い……!(涙)

 強敵を倒したと思った次の瞬間に、一斉にドロップアイテムに群がる幹部クラス怪人達、というのは壮絶な絵でした。
 ウヴァとカザリが数枚のコアメダルを手に姿を消した後、大量のセルメダルを担いで映司達の前に姿を見せた謎の戦士の名は、 仮面ライダーバース。その正体は後藤さん……ではなく、ちょっと汗臭そうな雰囲気のワイルド髭だった!
 新ライダー、散々期待を持たせた末に、後藤さんに酷すぎる仕打ち(笑)
 まあ途中で、泉比奈拉致監禁でドクターを警察に連れて行こうとした後藤に対しドクターがベルトをちらつかせるというシーンがあり、 中身が後藤だとベルト欲しさに後藤がドクターに魂を売った事になってしまうので無難な展開ではあるのですが(これが『キバ』だったら多分、 魂を売った)。それにしても明らかに、バース要員は既に準備されていたようなので、やはり後藤さんに酷い仕打ち(笑)
 未だに、ヒエラルキーが、一つも上がりません!(底辺)
 そして、主人公より先に「仮面ライダー」を名乗るという荒技を放ってきたバースですが、 それもマニュアルの表紙に「仮面ライダー」と書いてしまうという、力技。……まあこの点は、 00年代に「仮面ライダー」という言霊を劇中で定義付けしてきた前作『W』が凄すぎたんですが。
 今作の世界では、ドクターの趣味という事で通すのか。
 ベルトがガシャポンなのも、ドクターの趣味なのか。
 鴻上「私が目指すのはあくまでも……欲望による世界の、再生だぁっ!」
 ドクター「成功です……。もっとコアメダルが集まれば更に……ようやく私の目指す世界の終末が――」
 クラゲマンモスを見た反応で、鴻上とドクターの方針の違いが明示。
 また鴻上が映司に対し、グリードとオーズとは何かについて、改めて解説。
 グリードはもともと、800年前の科学者達が様々な生き物の力をメダルに凝縮して作り出した人工の生命であり……
 「初めに造られたそれは、なんの意志も持たなかった。だが、それぞれ持っていた10枚のメダルから、一つずつ抜き取り、 9という欠けた数字にした途端、それを満たそうとする欲望が生まれた。その欲望が凄まじい進化を生み、意志を持たせた。 その生命体の名――それがグリーーード!」
 「グリードを止める為、彼らから抜き取ったコアメダルの力で戦い、封印した者。それがオーーーズ」
 と、設定を一度整理してきたのですが、ジョーカーである鴻上を便利に使ってしまった感は否めません。そろそろ、 鴻上会長の台詞回しのハッタリだけで誤魔化すのも限界を感じます。
 アンクは「俺はもっと完全で、強い体を手に入れる」事を望んでコアメダルにこだわり、
 「グリードって……ちょっと……なんだか……」
 映司は、人に造られ、欲望に囚われる存在であるグリード達の姿に、もどかしい思いを抱えるのであった……。
 主人公サイド・鴻上サイド・グリードサイド、のそれぞれが全て内部で方針の違いを抱えている、 という状況がさすがに重たすぎると感じたのか、映司とアンクをアイスキャンディー1年分である程度すり合わせ、 鴻上とドクターの目的の違いを明確にし、ガメルとメズールをまとめてどかーんして人員整理。
 新ライダー登場に合わせて露骨に一度状況をスッキリさせに来ましたが、ガメルとメズールは凄く割を食った感じ(^^;  バースの立ち位置次第でまたややこしくなる可能性はありますが、新展開への起爆剤として期待したいです。
 しかし、ぽきゅっ、に慣れる日は果たして来るだろうか……。

◆第17話「剣道少女とおでんと分離ヤミー」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:小林靖子)
 「ほら、俺、海外長かったから、漢字に弱くてさ」
 「おい、おまえなんなんだ」
 「俺? 俺は伊達明。で、これ」
 バースの正体である見た目ガテン系の男――その名は、伊達明。映司とアンクは、飄々としてつかみ所がなく、 自分のペースを貫く伊達に振り回される事に。
 「あの、すいません。お互いの為にも、ここは普通に説明してもらえますか」
 先日の比奈拉致事件で後藤さんに素直に質問する時もでしたが、映司の正攻法はときどき変に面白い。 回りくどい事をして話をややこしくしない、というのがある種のメタギャグの一面を持っているといえますが。
 その頃、ヤクザグリーンは女子トイレに侵入していた。
 進化するなら、現代の! ルールも! 覚えよう!
 剣道少女の強くなりたいという欲望から生まれたヤミーは剣道関係者を次々と襲ってカブトムシに成長。 タトバの打撃が通用しない重装甲に対してオーズはタゴバを発動し、おもむろに1回轢いてみる。
 轢いてからタゴバ発動ではなく、タゴバ発動してから轢く、というのが順序間違っている気がするのですが、これでめでたく、 映司もヒーローとしての階段を一歩上りました!
 この世界では、バイクで怪人を轢いてこそ一人前です。
 「もっと……強く、強くぅ……」
 「違う……私が心の底で思ってたのは、本当は……」
 ゴリラパンチで有利に戦いを進めるオーズだったが、なんと、カブトヤミーの中からもう一体のヤミーが出現。
 「壊す。全部滅茶苦茶に」
 アンクも初めて見る予想外の事態でカブトとクワガタに囲まれてピンチになるオーズだが、そこへ伊達明が、 主人公のお株を奪うヒーロー登場。
 「変身」
 伊達がセルメダルをベルトに投入してレバーを回すと、飛び出した複数のカプセルがアーマーを展開して、バース誕生。
 なるほど、デザインそのものがガシャポンカプセルをモチーフにしているのか。よくそれで、ここまで格好良いデザインに仕上げたなぁ……。 そう思って見ると、頭部が昔のSFぽさというか、脳が半分見えているサイボーグ怪物みたいになっていますが(笑)
 「さあ、お仕事開始だ」
 「セルメダルでだと……」
 バースはカプセルぽきゅっでドリルアームを装着し、ドリルによる攻撃でダメージを与えると共に、 そのままセルメダルを強奪するというバースアームの能力が判明。大雑把にメダル銃を乱射し、 オーズとのダブル攻撃でカブトムシを撃破するが、クワガタには逃げられてしまう。
 すかさず、メダルだメダルだーと、地べたに這いつくばってセルメダルをかき集めようとするアンクだが、 バースはクレーンアームを装着すると散らばったメダルを全て回収。
 オーズやグリードが主にコアメダルにこだわるのに対し、セルメダルを力とし、セルメダル回収に特化したライダーとして、 バースは特徴付け。メダルをエネルギー的に利用とする鴻上の方向性とも繋がっています。
 1億円を稼ぐ為に、全てのセルメダルをいただく、と豪語する伊達は映司とアンクに実質的な宣戦布告。それを物陰から、 後藤さんが見ていた。
 回想シーンで前回ドクター相手に格好良く啖呵を切った事が描かれた後藤、 それ以外の出番がランニングと覗き見だけという安定して悲惨な扱いですが、何よりリアクションを見る限り、 謎のおっさんがバースを装着して実際に活動している件について報告が上がっていないようで、とうとう、 連絡網からハブられているのか。これが、日本社会の陰湿なイジメの実態なのか!  着々と資料室送りの日が近づく後藤さんに、希望の光は?!
 あと、比奈が前回助けられたお礼として、映司にマフラー、アンクにはメダルホルダーをプレゼント。 どうやらアンクは気に入ったようで、比奈とアンクの関係変化が少しずつ描かれているのは、良い所。

◆第18話「破壊と理由とウナギムチ」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:小林靖子)
 オーズとバースの共闘を持ちかける映司だが、伊達はそれを拒否。
 「そ、馬鹿馬鹿しいよな。こんなもん取り合うのはさ。でも逆に言うと、なーんも無いのに戦っちゃてる方が、 俺的には不気味で危険だな」
 伊達をストーキングしていた後藤は、けんか腰に突っかかるかと思ったら馬鹿丁寧に挨拶をするという、予想外の展開(笑)  てっきり「俺の劇場版を帰せ!」とバースベルトを欲しがるのかと思ったのですが、社内の上下関係には忠実でした。 ……最近どちらかというと上司命令に逆らっていた気がするのですが、それでは底辺から抜け出せない事に気付いたのか。
 「なんだか知らないけど、まだ日本にも残ってたんだな。純粋な若者」
 そして無駄におっさんくさい伊達であった。
 降りしきる雨の中、プライドを捨ててケーキを食べ続ける人生なんて俺には無理だーーーーーと、 ストレスMAXな職場環境の悩みを青春ランニングにぶつける後藤は、どうやらそのまま一晩走り続けていたらしく、 空腹と疲労で行き倒れ寸前の状態でクスクシエに転がり込む。
 (あの世か……それもいい)
 エジプトフェアの準備中だった知世子と比奈の姿に光を見た後藤はそのまま 天に召され 気を失い、 どんどん駄目になっていきますが、駄目になってからの方が脚本も演出も描写が楽しそうです。
 その頃、ヤミーを追う映司とアンクは直球勝負で少女の元に向かっていたが、そこへ伊達も登場。
 「俺はこのお兄さん達みたいに、鈍感じゃないからさ」
 なんか色々、根こそぎ否定されたぞ!
 「フン、そういう事か。欲望の定番だな……」
 伊達の言葉に、アンクも少女の欲望の源を把握し、超うろたえる映司。
 「…………おい、わかったのか? …………なに?」
 「おまえ、マジか」
 映司の青春力は、グリード以下(多分、ガメルより低い)。……まあ、恋愛ごとに疎い自覚がある分、 仮面ライダーとしてはマシかもしれませんがもしかして。
 ここでしんみりしたいいシーン用の音楽が途切れてギャグに切り替わるテンポも面白く、伊達の参戦による会話の化学反応が、 早速面白い方に転がりました。
 そして映司、やっと気付く。
 「あーっ、そっか! 恋愛だ!」
 「デリカシーの無い奴は黙ってて。ね?」
 少女の欲望の根源――それは、強くある事で憧れの先生の側に居たい、より内奥では、 憧れの先生の結婚式を壊してしまいたいというものだった。
 「いいんじゃない? 壊したければ壊せば」
 「ちょっと伊達さん!」
 「ただし――直接自分の手で」
 そこへウヴァの放ったクズヤミーが足止めに出現し、すかさず少女を守りながら戦う事で、伊達のヒーローポイントを上積み。 これが有ると無いとではこの後の台詞の説得力が違うので、大事な所です。
 「梨恵ちゃん、俺もね、欲しいもんあるの。――1億円。もう、どっろどろの欲望まみれよ俺。でもね、一個決めてんだ。 そいつを果たすのに他人の手は借りない。ただし後、もう一つ。絶対に自分を泣かせる事をしない」
 「自分を……」
 「そ。他の誰でもなく自分。それだけ言っとこうと思って」
 いやこれは、伊達さん格好いいなぁ。
 セルメダルを入手するだけなら教会の手前で待ち構えていればいいものを、これを伝える為にわざわざ少女に会いに来る、 というのがまた実に格好いい。
 放映当時、ネット上の反応として「伊達さん」という人が人気があるようだ、というのは本編を知らなくとも伝わってくるレベルだったのですが、 これはまあ、人気出るわけです、納得。
 正直あざといレベルで、強い/普段は飄々としているが締める時は締める/なんだかんだ若者を導いたり助言を与えると、 男(の子)の好きな“格好いいおっさん”像が凝縮されているわけですが、小林靖子的に言うと、 メガシルバー/早川裕作(『電磁戦隊メガレンジャー』1997)の正当進化形といえるのか(『メガレン』の場合、 久保田のおっさんが居るので早川のメンタルはもう少し主人公達寄りでしたが)。
 早川が80年代ヒーローになりたいまま成長してしまった困った大人だったとすると、伊達さんは極端な話、 《平成ライダー》の世界にやってきた《昭和ライダー》といった感じ(70年代ヒーローは案外、 個人の復讐心などが原動力だったりする点も含めて)。
 伊達の言葉を聞き、竹刀を手に走り出す少女。
 「梨恵ちゃん!」
 「行かせてやれって! 自分を助けに行ったんだ」
 映司が誰かに手を伸ばすのは二度と後悔したくない映司のエゴで、映司はあくまで“助けてしまう”立場であり、 「人間は欲望を制御できる」と言いつつも、制御自体は本人任せで良くも悪くも片付いた問題に関しては無責任(勿論、 また欲望に負けたらまた手を伸ばすのが映司のヒーロー性)、というのが今作これまでの基本構造だったのですが、 ここで伊達がヤミーの親に“自分を助けさせる(自分と戦わせる)”事で、欲望との向き合い方を示す、 いう形でそれをあっさりと乗り越えてしまいました。
 『オーズ』を見ていてまとわりついていた微妙なもやもやの一部がスッキリしたのですが、これは微妙な路線修正なのか、 それともここまでの16話は、“自分と戦う男”伊達明の為の布石だったのか。
 なおクズヤミーは、全員、素手の蓄積ダメージで撃破しました(笑) レッ○・ファイト!
 「こんな事、自分を許せなくなるだけ、ずっと!」
 結婚式場へと走った少女は、クワガタの前に立って綺麗な面を一発決める事で自分の手で自分を救い、そこに駆けつける主人公、 じゃなかった、無精髭のおっさん。
 「危なかったな。ちゃんと自分を助けられた。後は任せときな、Baby」
 伊達さんは、こういう局面でちょっとキザな台詞を外す所まで、あざとい(笑)
 伊達はバースに変身し、遅れてやってくる映司。道場のシーンで、伊達に頭を下げた映司がヤミーの場所を聞くのではなく恋愛指南を頼む、 という映司の優先順位としては変なギャグがあったのですが、それは実は伊達の虚を突いてタコ缶を忍ばせる為のトリックであったと、 伊達さん大旋風に食われ気味だった主人公、ちょっぴり反撃。
 ヤクザグリーンが乱入してバトルは2vs2となり、バースはキャタピラレッグを発動。オーズは青いメダルを初使用し、 タカ! ウナギ! チーター! が初披露なのですが、サブタイトルにもなっているのにブレストキャノンの時間稼ぎ扱いで酷い(笑)  まあ、両手から電気鞭って、凄く、ヒーローぽくないですが!
 バースの多重チャージブレストキャノンが炸裂してクワガタは溶け、ヤクザは撤退。少女と映司達は、 無事に終わった結婚式のチャペルの響きを聞くのであった……。
 「伊達さん。やっぱり、協力して戦いませんか、俺たち」
 「無理」
 「……即答ですね」
 「あんたは自分を泣かすタイプだから」
 「え? ……そうですか?」
 「まあ俺の勘だけど。そんじゃ!」
 そして後藤さんの出番は、あの世に辿り着いて以降、無かった。
 ありがとう後藤さん、さようなら後藤さん、バイク便の勇姿を僕たちは忘れない!
 バース、というか伊達明大暴れ編でしたが、映司とアンクが結局のところ二人一組のセットとして描かれていたこれまでの物語から、 明確なカウンターとしての伊達が登場した事で、ようやく映司のキャラクターに陰影が出てきました。
 16話かけて作ってきた映司&アンクのカウンターである為、伊達のキャラクター強度が高いというのもありますが、これは非常に大きい。
 そう見ると、前半の後藤のキャラクター的弱さは、映司&アンクが成立する前にそれを邪魔するわけにはいかなかった、 というのが見えてくるわけですが、物語が次の段階に進んだので、後藤も次のステップに進める……のか?

→〔その4へ続く〕

(2016年10月2日)
(2017年4月24日 改訂)
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