■『仮面ライダーW』感想まとめ6■


“Move it down your finger 
 Finger on the Trigger”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『仮面ライダーW』 感想の、まとめ6(33〜38話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。そこはかとなくルナトリガー色。


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◆第33話「Yの悲劇/きのうを探す女」◆ (監督:石田秀範 脚本:中島かずき)
 後に『仮面ライダーフォーゼ』でメインライターを務める中島かずきが、ゲスト参戦。
 午後3時――
 「きのうを探して欲しいんです」
 翔太郎好みの美女・不破夕子(平田薫/『魔法戦隊マジレンジャー』山崎さん)が持ち込んだ奇妙な依頼の正体は、 「きのう」という名前の猫探しだった。鼻の下を伸ばす翔太郎は、普段なら嫌がる猫探しを、嬉々として引き受ける。
 「困った事があれば鳴海探偵事務所に行け。知り合いに言われたんです。来て正解でした」
 「無くした“きのう”を探すのは――探偵の仕事ですよ。どうぞ」
 舞い上がる翔太郎は、お気に入りの帽子を被っていそいそと出発。亜樹子を交えた3人は、 夕子が猫を見失ったという風都ホール周辺へと向かう。
 亜樹子が「色気づきやがってぇ!」と唸るのですが、凄く、いつも通りのような……。
 その頃、不審な連続交通事故を調べていた超常課の前で、事情聴取していた西山不動産の社長が何かに操られるかのような動きでいきなりビルの屋上からダイブをはかり、 照井がそれをギリギリで救助。
 男の腕には8の字のような奇妙な痣が浮かび上がっていた――。
 (……昨日?)
 という、久々にミステリアスな入り。
 そして前半、やや寄り道めいた台詞やカットが多くて尺を詰め切れていないように感じる微妙なテンポの悪さがあり、 初参加の脚本ゆえかと思っていたら、後半にそれが効いてくるという、トリッキーな構成。
 翌日に園咲冴子の講演が行われる予定の風都ホールの近くで、ポスターに描かれたふうとくんを目に留める夕子の姿に、 翔太郎は霧彦の事を思い出す。動くものを見つけた、と言う夕子と二手に分かれた翔太郎は、午後4時、 ビルの上に砂時計のようなデザインのドーパントを発見し屋上へ。飛び降りたドーパントを追って、 空中で格好良くダブルへと変身してその後を追う。
 「「さあ、おまえの罪を数えろ」」
 戦闘は無人のホールの中にもつれ込み、ダブルはジョーカーエクストリームで講演台を破壊、逃走。 砂時計に何かを打ち込まれた事に気付かないままドーパントを追うも見失ってしまった所で、猫を無事に発見した夕子と出会う。
 「翔太郎さんのお陰で――全部うまく行きました」
 満面の笑みを浮かべる夕子。
 「本当にありがとう。これで……明日が楽しみです」
 「え?」
 一方、園咲冴子の元に翌日の講演会での凶行を予告した脅迫状が届いていた。心配する若菜をせせら笑って冴子は脅迫状を一顧だにせず、 器用に左手だけウェザーになった井坂先生が脅迫状を燃やす。
 姉と居候の「むしろ脅迫されてこそ一人前!」というノリについていけず部屋を辞した若菜は、 琉兵衛が長く組織に関わってきた冴子ではなく、自分にエクストリームの光を見せた事について考え込む。
 「お父様は私にだけあの光景を見せた。……なぜ?」
 姫がここ数話の箸が転がっても大爆笑という危ういテンションから脱しているのですが、 これはガイアメモリへの適合が進んで安定化したという事なのか、それとも、エクストリームの光に何らかの浄化効果でもあったのか。
 翌日、冴子は若菜をともなって風都ホールでの講演へと向かい、探偵事務所には事件の協力を求めて照井が訪れ、 翔太郎は昨日の思い出に浸って機能停止していた。
 「ハナから左に期待はしていない。……借りたいのはフィリップの頭脳だけだ」
 奇妙な事件の被害者は、強引な地上げを行っていた西山不動産の社長と部下二名。部下二名は何者かに操られているような動作で交通事故に遭い、 社長は屋上からダイブを図り、それぞれ一命は取り留めたものの、現在は原因不明の昏睡状態に陥っていた。 そして3人に共通しているのは、体に奇妙な8の字の痣が浮かんでいた事。
 ――午後3時
 「さぁ、始めましょうか、左翔太郎くん」
 不破夕子はガイアメモリを手にすると、砂時計のドーパントへと姿を変える。その名を、イエスタデイ。そしてその能力は、 マーキングを行った任意の対象に、“昨日をリプレイさせる事”。
 エクストリームも大概でしたが、もはや、生物でも物質でも現象でもなく……えー……これは何と言えばいいのでしょうか(^^;  懐が広いなぁ、地球の記憶。
 イエスタデイが能力を発動した事により、戦闘中にマーキングを受けた翔太郎は、夕子が事務所を訪れた所から、 “昨日”のリプレイを開始。
 ドーパントの能力自体は前半の戦闘中にピンと来たのですが、照井が持ってきた被害者の写真が、 夕子が持ってきた猫の写真の代わりに使われたり、小技がとても丁寧で効果的。
 事情がさっぱり理解できない照井は、図らずも夕子の代役を務める羽目になり、翔太郎から次々と意味不明の寝言を聞かされる。
 「無くした“きのう”を探すのは――探偵の仕事ですよ。どうぞ」

 「おまえの頭を探してこい」

 「……よっしゃあ!」
 ここは素晴らしかった(笑)
 亜樹子は事務所を出て行ってしまった翔太郎を追い、慌てて検索したフィリップはドーパントの能力と、 西山不動産の社員達がその能力により事故に遭った後で昏睡状態となった事を突き止め、照井も慌てて翔太郎の後を追う。
 ただただ昨日をリプレイする翔太郎は、ドーパントを追いかけているつもりでビルから飛び降り、やむなくフィリップもダブルに変身。
 事情を知っているフィリップがダブルに変身しなければ済むのでは……と思ったのですが、 しっかり“変身せざるを得ない状況”を仕込んであって、これもお見事。
 「さあ、おまえの罪を数えろ」
 「え、昨日のつまみ食いがバレた?!」
 ドーパントを追っているつもりのダブルは、ダッシュしながら決め台詞――が追いかけてきていた亜樹子に炸裂する(笑)
 珍しく前半に決め台詞を入れていると思ったら、このギャグの為だったという、これも丁寧な小技。
 イエスタデイの能力により暴走する翔太郎はフィリップでも止める事が出来ず、棒を振り回しながら風都ホールに突入。 風都のヒーロー・仮面ライダーは物の見事に仮面の暴漢と化して、冴子の講演会に乱入。“昨日”の通り、 壇上の冴子めがけてジョーカーエクストリームを炸裂させそうになるが、間一髪、アクセルがそれを食い止め、 バイクモードで体当たりしてホールの外に弾き出すと、そこでフィリップがエクストリームにより強引にイエスタデイの刻印を上書きして正気を取り戻す事に成功する。
 だいぶ大変な事になっていたのですが、割とあっさり治ってしまいました。
 どちらかというと、明日の新聞が心配だ!
 「衝撃・仮面ライダー、風都ホールに乱入! やはりライダーは危険人物なのか?!」
 みたいな。
 昨日、猫を抱えた夕子と別れた埠頭でイエスタデイが姿を見せ、不破夕子の正体を現す。
 「彼女の本当の名前は、須藤雪絵。須藤霧彦の妹だ。僕らには園咲霧彦と言った方がわかりやすいがね」
 前半わざとらしく霧彦さんを回想していましたが、ここで、霧彦さんの肉親が登場。その目的は、園咲冴子への復讐なのか――?
 「復讐? 馬鹿馬鹿しい。確かに兄さんはミュージアムに始末された。でもそれは、彼が必要じゃなくなったから。 私は兄さんみたいなヘマはしないわ。――昨日は利用するためにある。この力で、私はミュージアムの幹部になるの」
 夕子――雪絵は再びイエスタデイへと姿を変え、連続で放った飛び道具の一撃でアクセルが倒れていたり、結構な強さ。 困惑する翔太郎だが、ドーパントを野放しにするわけにはいかない。プリズムディッカーを取り出すと、 飛び道具を弾きながらイエスタデイへと突進してプリズム剣を振り上げる。
 「ディッカー・チャージブレイク!」
 翔太郎的に物足りなかったのか、もはや息を合わせるのと関係なく、技名がつきました(笑) それでこそ、ハーフボイルドです。
 その斬撃が迫る中、雪絵はドーパントへの変身を解除する――。

◆第34話「Yの悲劇/あにいもうと」◆ (監督:石田秀範 脚本:中島かずき)
 変身を解いた雪絵を目にして、サイクロンジョーカーエクストリームは寸前でプリズム剣を止め、雪絵は笑いながら立ち去っていく。
 「どうした? なぜ攻撃を止めた」
 「生身の人間に攻撃はできない。翔太郎の一番の弱点を突いてきた。なかなか切れるよ、彼女」
 それが“弱点”呼ばわりなのもどうかと思いますが、まあ確かに、後ろで仁王立ちの赤いジャケットの人は、 生身の人間でも攻撃するしな。
 「昨日は利用する為にあるだと……?」
 竜巻り札X鳥夢が変身を解除し、改めて、エクストリームを発動するとフィリップの肉体も転送されてくる事がハッキリしました。 エックス鳥はフィリップが任意に呼べるようになってるのか?
 4人は一旦事務所に戻り、状況を整理。
 前回フィリップが「恋愛」について調べていたのですが、
翔太郎
 ・思い込みが激しいタイプ
 ・感情的になりやすい
 ・単純
 ・ハーフボイルド
 ・自己陶酔している
 ・ハーフボイルド
 ・美人に弱い
 ・お調子者
 ・ハーフボイルド
 不破夕子が翔太郎を好む
 確率2%
 とか書き並べてあるホワイトボードの前で(多分、背後には気付いていない)、フィリップの説明する不破夕子=須藤雪絵の裏を聞いて嘆息する翔太郎(笑)
 だが、男の 助平心 純情を弄ばれ散々に利用されたにも関わらず、翔太郎は雪絵に何か違和感を覚えていた。
 「俺の仕事は、まだ終わっちゃいねえ」
 その頃、雪絵は冴子と出会っていた。
 「会うのは初めてね、義理の妹なのに」
 「元・義理の妹だけど」
 ミュージアムへの協力を申し出る雪絵だが、デフォルトの選択肢設定が「→いいえ」になっている冴子さんに信用出来ないと攻撃を受け、 それを軽々と回避。
 「諦めないわよ。必ず私の力を認めさせる。――お義姉さん」
 「元・お義姉さんね」
 台詞のやり取りは洒落ていますが、タブーは最近(というかファングジョーカーと出会って以来)、戦闘ではさっぱりいい所が無いなぁ(^^;
 井坂先生の見立てにより、イエスタデイはガイアメモリの毒素を砂時計の刻印として排出する事で、攻撃と自己防衛を兼ねているという事が判明し、 井坂先生は雪絵のメモリの使い方に感心。一方で、タブーは更に完璧になれる、と冴子に申し出る。
 「やっぱりあんた、昨日にこだわってるんじゃないのか?」
 雪絵が西山不動産の関係者を襲撃する事で、霧彦と過ごした保育園を地上げから救った事を指摘する翔太郎だが、 雪絵はイエスタデイに変身して逃走すると、再び冴子と接触。ミュージアムに忠誠を誓うと告げて冴子に近づくと砂時計の刻印を打ち込む事に成功するが……翌日――。
 雪絵を探す翔太郎達は、前日イエスタデイを取り逃がした公園で、雪絵と再会。
 「私は許さない。絶対に許さない! 兄さんを殺したあなたをね!」
 霧彦のスカーフを突き付け、翔太郎を糾弾する雪絵……その首筋には、イエスタデイの刻印が刻まれていた。
 「さあ、永遠に昨日という監獄に囚われるがいい。園咲冴子!」
 雪絵は“昨日”を繰り返し、そこに冴子が居るつもりでイエスタデイに変身し、その背後にはウェザードーパントが現れる。 冴子に刻まれた筈のイエスタデイの刻印だが、強化されたタブーには通用せず、逆にそれを跳ね返されてしまったのだった。 雪絵が24時間をリプレイし終え、その毒素で意識を失うまで後僅か……怒りの翔太郎達は、ダブル変身。
 「「さあ、おまえの罪を数えろ」」
 「罪のない人生など、スパイスのきかない料理だよ」
 ウェザーに殴りかかるが反撃で蹴り飛ばされた所に課長が走ってきてアクセル変身。アクセルは猛然とウェザーに斬りかかるが、 相変わらずやたら格闘技の達者なウェザーにあしらわれる。
 前回は色々な意味で大活躍だった照井ですが、今回はウェザーにこてんぱんにされるだけ(^^;
 その間にダブルはエクストリームを発動し(飛んできた鳥が気絶したフィリップを吸い込んでから合体している事が判明)、 プリズムブレイクにより刻印を上書きし、イエスタデイのメモリブレイクに成功。
 「復讐などという小さなものにこだわっていると、彼女のようになるぞ?」
 「言うな!」
 「過去を振り向くのは嫌いでね。そろそろ、終わりにしよう」
 ウェザーの灼熱ハンドに追い詰められるアクセルだがエクストリームが助けに入り、エクストリームとウェザーが初対決。 Xサイクロンパンチと、Xジョーカーパンチが炸裂し、派手に転がるウェザー、というのは格好良く、改めてエクストリームの力見せ。
 エクストリームはマキシマムドライブを発動し、ベルトからハードボイルドな竜巻が吹き出すとそれに乗って放つ割れない飛び蹴り 「「ダブルエクストリーム!!」」を繰り出すが、ウェザーは蜃気楼で作り出した幻影で直撃を避けると逃走するのであった。
 エクストリームはてっきり剣と盾固定で戦うのかと思いましたが、格闘戦と蹴り技も入れてきました。 そして致し方ない面はあるとはいえ、ウェザーもそろそろ何とかしないと、全面売りに出されてしまう……。
 「兄さんの言う通りだった……やっぱり鳴海探偵事務所を訪れて、正解だった」
 「霧彦がそんな事を……」
 無事に意識を取り戻す雪絵だったが、その直後、イエスタデイメモリの副作用により記憶を失ってしまう……昨日を守る為に力を振るった女は、 昨日を失ってしまうのであった……と事件は幕を閉じる。
 前編はトリッキーな構成に小技も効いて面白かったのですが、後編は平凡な出来。
 特にラストは、どんな理由があってもガイアメモリの力で他者を傷つけた者は報いを受けなくてはならない、 というのが今作のルールなのですが、“そのルールを守る為に強引にシステムが発動した”ような形になってしまいました。 「昨日」というキーワードを重ねてモノローグで一見こじゃれた感じにまとめているのですが、 いわゆるデウス・エクス・マキナ的な作劇であり、メタな色合いが強く、あまり美しく着地できませんでした。
 単純に唐突にも過ぎますし、これなら“最初から昨日を失う前提でイエスタデイの能力を使っていた”ぐらいでも、 今作の世界観と因果応報のバランスなら、成立できたような。
 霧彦さんを補完しつつ、「復讐」というキーワードを終盤で照井へ引っ張った辺りは悪くなかっただけに、勿体ない。

◆第35話「Rの彼方に/やがて怪物という名の雨」◆ (監督:田崎竜太 脚本:長谷川圭一)
 風都野鳥園に佇み、亡き妹の事を思い出していた照井は、妹に雰囲気の似た少女・島本凪と出会う。
 「私に近づくと、死ぬわよ……」
 「どういう意味だ?」
 凪の腕に生体コネクタを見つけた照井は問いただそうとするが痴漢扱いを受け、混乱の中で凪に逃げられてしまう。……まあ、 身分を名乗る前に腕を鷲掴みにして迫っていたので、逃げる口実というより、リアル痴漢という気はします。
 ここで周囲を取り囲む群衆がえらく不自然(悲鳴の前から、これから囲むぞ、という感じで身構えているのが背景に映っていたり、 率直に真人間には見えにくい照井が凄んでいる所に誰も彼もが恐れ気もなく近づいたり)なので、 最初ドーパント能力かと疑ったのですがそういう事でもなく……シンプルに一般エキストラを上手く使えなかった感じか。
 説明に困る照井に炸裂する、スリッパの一撃。それは近所の子供から「鳥のお姉さんを元気にしてください」 と依頼を受けて野鳥園にやってきた翔太郎と亜樹子であった。
 いつも野鳥の解説をしてくれたお姉さんが最近元気が無いと、クラスで集めたお小遣いを渡され、「話はわかった。 でもこの金は受け取れねぇな。君たちの優しい心で充分だ」と小学生相手でも気取る翔太郎。子供相手にも商売は商売という亜樹子はその横で、 すっごく不満顔(笑) ……まあ、間違っていないといえば間違っていませんが、対比の為に凄く邪悪に見えます(笑)
 2人の探す“鳥のお姉さん”こそが、島本凪。照井を振り切って逃げ出した、腕に生体コネクタのある少女であった。3人は凪を見つけ出し、 ある雨の晩、野鳥園の職員だった父が怪物(ウェザードーパント)に殺され、無理矢理生体コネクタを施術されていた事を知る。 凪はそれ以来、雨と怪物に怯え、仲良くしていた子供達を遠ざけようとしていたのである。
 「よく話してくれた」
 いつも身につけていたネックレス(亡き妹からの昇進祝いであった)を、お守りとして、凪に渡す照井――しかしその時、 土砂降りの雨を縫って、ウェザードーパントが姿を見せる。
 恐らく高速度カメラを用いて、細かい水滴の中を歩いてくるウェザーの画が格好いい。
 照井と翔太郎は変身するが、ダブルは降り注ぐ雨を集中されて動きを封じられ、アクセルは低空に生み出した雲から連続の雷撃を浴びて沈む、 とさすがにエクストリームを脅威と判断したのか、体術による正面衝突ではなく、ウェザーがその能力をフル活用。
 ウェザーは凪の腕の生体コネクタの“成長具合”を確認すると、エクストリームとは戦わずに霧になって逃走。ウェザーの目的、 それはケツァルコアトルスメモリの過剰適合者である凪の生体コネクタを恐怖により成長させる事で、 ケツァルコアトルスの力を我が物にする事にあった。
 全ては10年前……一つの出会いから始まった。
 「私は10年前、ある誓いを立てました」
 「10年前……」
 「まあ貴方はお忘れでしょうが、その誓いを果たす日が、近づいています」
 井坂深紅郎はかつて、己の生まれた意味を求めて悩み、長じて医者となって人体を研究し尽くすも満たされず、 見事な酔っ払いになっていた時期があった。酒に溺れて社会の底辺を彷徨っていた井坂はある日、 夜の街の片隅で人々を闇に呑み込むテラードーパントの姿を目にする。
 たぶんメモリの能力検証とかだったとは思うのですが、高笑いしながら人溶かして、何をしているのですかお義父さん(笑)
 テラーの圧倒的な力と恐怖を目にした井坂はそれに魅せられてガイアメモリを求め、いつかテラーメモリを手に入れると誓う。 そして今、島本凪という過剰適合者を見つけた井坂は、琉兵衛が保管していたケツァルコアトルスメモリを盗み出すと凪を利用してその力を手に入れ、 ウェザーを最強の存在に進化させようとしていた。
 「冴子くん、覚悟は出来てますか? 共に恐怖の帝王を倒し、君が女王になる覚悟ですよ」
 井坂先生の脳名イメージによるパーフェクトウェザーが、背中に翼広げてばっさばっさ飛んでいるのですが、その最強パターンは、 駄目なパターンだと思うんですよ、井坂先生……。
 凪に「この役立たずのぼんくら刑事!」と罵倒を受け、フィリップからは井坂の目的を聞いた照井は、凪を守る力を求め、 シュラウドと接触。
 「俺は力が欲しい。もっと強い力が」

 「断る」

 『仮面ライダーアクセル』 −END−
 復讐の為に戦わない照井に力を貸す気はないというシュラウドの断言で一瞬話が終わりかけるが、 ネバーギブアップ課長はアクセルに変身するとシュラウドに剣を突き付け「俺の中の炎は、消えちゃいない」と宣言。 そのブレーキの壊れっぷりに満足したのか、シュラウドは照井を、何故かモトクロスのコースに連れて行くのだった……。
 その頃、再び凪と接触した翔太郎は、「照井は必ず君を守る」と、照井をフォロー。この辺り、翔太郎のいい所であり、また、 凪の年齢は今ひとつわかりませんが(女子高生ぐらい?)、翔太郎の守備範囲の下限は女子大生、 上限は40・50代子持ちまではいける事が改めて窺えます。
 そこへ現れた井坂が、凪に更なる恐怖を与える為にケツァルコアトルスメモリ(コピー)を側のインコに突き刺すと、 インコが巨大化。内側から檻を破壊して巨大怪鳥が飛び立つと、足で凪を引っかけて連れて行く、 といういきなりの怪獣映画な展開。
 変身したダブルは飛行メカに換装して怪鳥を追おうとするが、リボルキャリーの中にいつの間にか入り込んでいたアクセルマシンが 出番をアピール。断ると後ろから撃たれそうだったのでバイクにタンクを換装し、砲撃でダメージを与えると、 ルナハンドで凪を救助。
 エクストリーム登場後はどうなるかと思いましたが、この辺り、細々とフォームチェンジのギミックやその他ガジェットを入れてくれたのは嬉しい。
 凪を助けたダブルはエクストリームになると、プリズムシールドをアクセルタンクの砲撃で飛ばした上に乗って飛翔するという 必殺ライダー大砲から、プリズムチャージブレイクで、メモリブレイク。
 コピー怪鳥の撃破に成功するが、凪の元には、井坂が迫っていた――。

◆第36話「Rの彼方に/全てを振り切れ」◆ (監督:田崎竜太 脚本:長谷川圭一)
 「いったい何がおまえの心を支えている?!」
 凪の生体コネクタが成長していない事に苛立つ井坂ウェザーは、プリズム光線を受けて撤退。
 一方照井は、シュラウドから新たな力、トライアルメモリを受け取っていた。
 ぶちぶち言いつつ既に用意されていた新装備ですが、名前から人体実験の匂いがぷんぷんするけど、使っていいのか。
 それとも、これだけ名前から主張しているものを、使う方が悪いのか。
 (The・自己責任)
 ブレーキとか辞書に載っていない照井は、この怪しすぎる名称にも怯む事なくトライアルメモリを使用。 オートスポーツのスタートのイメージのようで、レッドシグナル→イエローシグナル→ブルーシグナルとランプが点灯していくとアクセルの表面塗装が変わり、 アーマーパージされてスリムになった青いアクセルが誕生する。
 「これが新しいアクセル――トライアル」
 ……マスクはモトクロスレーサーからなのでしょうが、正直、あまり格好良くは無い(^^;
 デザイン的には、Wがエクストリームで重装備(そして剣を所持)になり、アクセルがトライアルで軽装(剣を投棄)になり、 当初と逆になっているのが、面白いといえば面白いですが。そしてタイヤは残っている。
 なおトライアル発動の際、途中経過でちゃんと黄色いアクセルにもなるのですが、これはわざわざ黄色いアクセルのスーツを作ったのか、 それともCGで綺麗に塗ったのか。
 シュラウドはアクセルトライアルを見つめると、おもむろに、手元のスイッチをぽちっとな。
 モトクロスのコースに連れてこられたと思ったら、何故か降りかかる落石に立ち向かう事になるアクセルTだが、 シュラウドコーチは容赦なし。
 「トライアル最大の特徴は、その速さ。攻撃をかわし、敵の懐に飛び込みキックを叩き込みなさい。 1発で足りなければ、10発。まだ足りなければ100発。相手を、完全に粉砕するまで」

 くるしくったってー かなしくったってー コースの中では平気なの
 (だって、仮面ライダーだもん)
 あくせるー あくせるー なんばーーーわん

 アクセルT、その武器は、パワーを凌駕する圧倒的なスピード。……見た目まんま、装甲を限界まで削った特攻仕様でした。 ……これあれだ、ミニ四駆だったら車体が軽すぎてコーナリングの時に浮き上がって、コースアウトしてしまうやつだ。
 その頃園咲家では、琉兵衛が井坂の喉元に迫っていた。
 「思い出したよ。10年前の君を。あの貧相な男が、随分と立派になったものだ」
 冴子に代わり、カミソリで井坂のヒゲを剃る琉兵衛と、それに動じない井坂先生の舐めるような至近距離でのやり取りは秀逸。
 「君はとんだ欲しがり屋さんだねぇ。ウェザーのメモリを手にし、私の娘まで籠絡し、これ以上、何を望むのかね?」
 「私は満たされたいのです。究極の力で。――だから貴方を倒し、テラーのメモリを奪います」
 居候が堂々と宣戦布告し、琉兵衛はテラーに変身。冴子もタブーに変身するとテラーに攻撃を放ち、2人は遂に琉兵衛を裏切り、 手に手を取って駆け落ち。
 振り返れば霧彦さんが冴子さんに日本海へ逃避行を求めるもさっくり始末された事を思うと、どうもそれが重ねられているようで、 今作は死後もひたすら、霧彦さんにエグい(笑)
 霧彦さんにだって人権というものが…………既に無いので、どうぞ好きにして下さい。
 「馬鹿な娘だ……」
 姉の会社に向かった若菜は冴子を翻意させようと説得を試みるが、冴子が内に秘めた憎悪を目にする事になる。
 「あははははははは、貴女なんにもわかってないのね。お父様は私の事なんて、これっぽっちも愛していなかった。 お父様が本当に愛していたのは、若菜、貴女よ。だから私はお父様が憎かった。ずっと……ずっとずっとずっとずっと」
 「お姉様……」
 「さあ決めて。貴女は私の味方? ――それとも、敵?」
 逃げ出した若菜はタブーの攻撃を受け、どこかの誰かが死亡した場所に追い詰められるが、間一髪、スミロドンに救われる。
 すっかり忘れていたけど、超格好いいゾ、ミック。
 前回からミックが端々に写っていて、井坂と冴子の密談を出歯亀したりもしていたのですが、変身出来る、という事を忘れていました(笑)  今作のヒロイン度は現状姫が圧倒的にリード中なので、それを救った上にお姫様だっこまでしたスミロドンのヒーローゲージが急・上・昇!
 さすがにお姫様だっこのまま飛べなかったのか、なんか、姫をビルから投げ捨てたみたいになったけど(笑)
 一方、落石千本ノックによりアクセルTの特性を叩き込まれた照井は、トライアルのマキシマムドライブを発動させるべく、 トライアルメモリを装着したモトクロスバイクでコースを10秒以内に一周するという、謎の特訓を鬼コーチから受けていた。
 「憎しみが足りない! もっと復讐の炎を燃やすのよ」
 ……古人曰く、「意味が無いからこそ特訓なのだ!」
 「憎め……憎め憎め――憎め」
 マキシマムドライブの反動に耐えながら、10秒突破を目指してコースにチャレンジし続ける照井だが、遂に転倒。 意識を失ってしまい、照井を心配してついてきていた亜樹子が翔太郎へと連絡を取る。
 (私が……お守りをなくしちゃったからだ)
 探偵事務所に匿われていた凪は、ウェザーに襲われた際にペンダントを落としてしまった事に気付き、 翔太郎が電話中にこっそりと事務所から外に出てペンダントを見つけるが、井坂に捕まってしまう。
 その頃……

――お兄ちゃんはヒーローなんだよ。この街にとっても、あたしにとっても。

 ペンダントを渡された際の妹の言葉を思い出し、目覚める照井。
 ここで照井が「仮面ライダー」にこだわっていた理由が、妹を守れなかった悔恨から、妹との約束として「ヒーロー」 であろうとしていた事(そしてその「ヒーロー」が風都における「仮面ライダー」であった事)が判明。
 照井の妙に強いこだわりだったので、綺麗に繋がりました。
 ……にしても照井は、ウェザーへの復讐に囚われていなかったら、逆に、 街の細かい悪を自発的に刈り取って回るマッドヒーロー路線に入っていた可能性が高く(しかも、 法治を尊重するようなブレーキなど皆無)、ある意味、ウェザーにこだわっていて良かったのかもしれない(^^;
 恐怖と絶望による生体コネクタの完成の為、凪の心の支えとなっている照井を目の前で惨殺しようと目論む井坂は凪を人質に取って照井を呼び出し、 照井はこの街の仮面ライダーとして凪を守る為にウェザーとの決着を決意する。
 「俺は行かなきゃならない。次こそ10秒を切る」
 「復讐ではなく、その子を守る為に?」
 「そうだ」
 照井は遂に9秒9のタイムを叩き出し、トライアルメモリを使いこなす為の特訓に合格。
 「所長……左とフィリップにもよろしくと伝えてくれ」
 だが……照井を見送りきびすを返したシュラウドが放り捨てたストップウォッチのタイムは、10.70。
 「彼は憎しみの心を忘れた。もう興味はない」
 照井を非情に切り捨てシュラウドは姿を消し、亜樹子は慌てて翔太郎と連絡を取る……とはいえまあ、台詞から汲む限り、 照井は10秒を切っていない事に気付いていたっぽくはあるのですが。 シュラウドの非情さを見せるシーンながら照井とシュラウドが妙な阿吽の呼吸で繋がっているとしか思えず、 これは照井からシュラウドへの訣別でもあり、シュラウドから照井への餞別でもあるのか。
 照井を呼び出した峠では、画面を斜めに回す気持ち悪いカメラワークで井坂先生と冴子さんがいちゃいちゃしていた。
 「私にも、こんな感情があるとは……」
 愛用のこうもり傘で顔を隠してお洒落キスシーンをしようとした所で、響いてくるエキゾーストノート。
 「戻ったら……ドーパントの君ではなく、本当の君を見せて下さい」
 井坂先生、照井に対抗して、物凄いフラグを立てる(笑)
 そうこれは、フラグとフラグをぶつけ合う、絶望へのチキンレース……!
 そして囚われの凪の前で対峙する、宿命の2人。
 「すぐ助けてやる」
 「いいんですか? そんな約束をして。わずか1%も、勝つ望みが無いのに」
 「変…身!」
 画面を広く使った迫力のあるカットでアクセルはウェザーの雷撃を弾くと(アクセルのテーマBGMの、 「てれっててれってー てれっててれって てれっててれっててれてれー♪」という所が凄く好き……つ、伝わるか?(^^;)、 大事なブルワーカーもといアクセル剣を放り捨て、トライアルメモリをその手にする。
 「全て――振り切るぜ!」
 アクセルTは超高速移動からのパンチをウェザーに浴びせ、前回こてんぱんにされた雷撃の雲による攻撃も超高速のスウェーバックで回避。 そして駆けつけた亜樹子達の前で、マキシマムドライブを発動させる。
 「見せてやる。トライアルの力を!」
 カウントダウンを始めたトライアルメモリ(ストップウォッチ)を放り投げると、 超高速移動でウェザーの攻撃をかわしながらその懐に飛び込み、キック、キック、連続キック! そーれ、 フックだボディだボディだチンだ、えーい面倒だ、この辺でノックアウトだい♪
 「9.8秒。それがおまえの、絶望までのタイムだ」
 ウェザーが抵抗不能になる勢いの超高速キックの嵐を浴びせ、ストップウォッチをキャッチすると、理屈はさっぱりわかりませんが (格好良く受け止めないと駄目なのか?)マキシマムドライブが完成。画面に9.8のカウントが出て宿敵ウェザードーパントは大爆発し、 遂に因縁のWのメモリは砕け散る。
 「信じられん……私への憎しみが、こ、ここまでおまえを強くしたのか」
 「俺を強くしたのは……憎しみなんかじゃない」
 一応、インビジブル回で照井が憎しみ一辺倒を乗り越える描写はされているのですが、つい前々回、 エクストリームがウェザーをぶった切ったら「それは俺の獲物だぁぁぁ!!」と激怒していたので、この辺り、 照井の描き方はややぶれてしまっています(^^;
 憎しみよりも誰かを守る為のヒーローであろうとする事が照井竜を強くした、という流れは、やりたかった事はわかるのですが、 やりたかった事が今ひとつ綺麗に出来ていなかったのはちょと残念。
 まあ照井は脳内にブレーキが無いので、普段は「俺は憎しみを乗り越えた」つもりだけど、いざ本人を目の前にすると、 脳内アクセル踏みまくりになるだけで、本人には矛盾が無いのかもしれない。
 照井はケツァルコアトルスメモリを破壊し、凪を解放。お守りのペンダントを受け取る。
 「ありがとう……これ」
 「君を守れて良かった」
 天然ヒーロー台詞を何の恥じらいもなく口にした後、井坂に手錠をかけようとする照井だが、突然、井坂がもがき苦しみだし、 その全身に生体コネクタが浮かび上がる。
 「こ、これで終わったなんて思うな……おまえらの運命も仕組まれていたんだ。あの、シュラウドという女に……先に地獄で待ってるぞぅぁぁぁぁ!」
 井坂深紅郎、体中に浮き上がった生体コネクタに呑み込まれるようにして消滅。実に、暴食の井坂先生らしい最期となりました。
 そして思わぬ名前が井坂の口から告げられ、井坂の死にショックで膝をつく冴子の背後では、この戦いの様子を鬼コーチが見ていた。
 (竜……教える事はもう何もない)
 とは思っていない、たぶん。
 にしても、最初の夫は役立たずだったし、惚れた男を信じて家出した途端に、その男が敗死して無職かつ住所不定になるし、 冴子さんはもしかして、物凄く男運が悪いのか。
 「今回のヒーローは、俺じゃなく、あっち」
 島本凪は笑顔を取り戻し、喜ぶ小学生達に真のヒーローを伝える探偵さん。
 「俺に質問…………しないでくれるかな」
 さすがの照井も小学生には凄まず、でオチ。
 霧彦さんと入れ替わりで登場し、中盤戦を引っかき回してくれた井坂退場編でしたが、くしくも霧彦さん退場編同様に、 今ひとつの出来(霧彦さんの時よりは良かったけど)。
 最大の問題は、ビースト回において、びりびりサイクロンを用いたアクセルが、ウェザーを完全に撃退している事。
 エクストリームが発動した事でびりびりサイクロンは使えなくなっているのかもしれませんが、その辺りに言及が全くなく、 現状の応用編で何とかなる手段がある筈なのに、そのアプローチが行われない、というのはしっくり来ませんでした。
 同様に、既にエクストリームがウェザーの力を上回り気味なので、照井が一対一でウェザーと戦う他ない状況設定、 というのが必要だったのですが、そこへの組み立ても不足。
 合わせて、ここまで描いてきたパワーバランスと、物語の流れがやや噛み合いませんでした。
 その辺りのフォローも兼ねてか35話で特殊能力をフル活用したウェザーがダブルとアクセルを翻弄する姿が描かれており、 単純な力ではなく技の応用や相性が戦局を変えるというのは好きなのですが、それならばこそびりびりサイクロンという応用は 「もう使えない」ならもう使えないという事が描かれるべきであり、アクセルトライアルがウェザーに対して有効である点も、 もう少し違った形で描写されるべきではあったと思います。  山場の回だったけだに、もう一つ詰めが足りなかったのが勿体なかったところ……てやっぱり、霧彦さん退場回の似たような感想に(^^;
 ゲストヒロインはしっかり可愛かったし、ケツァルコアトルス(コピー)を前編で出す事で、 何か凄そうというのを見せつつエクストリームの活躍の場を作り、後編はアクセルトライアルの見せ場に集中した、 という構成は良かったのですが。
 劇中の仕様には色々疑問がありますが、Wエクストリームに続いてアクセルがしっかりパワーアップしてくれたというのは、 アクセル&照井好きとしては嬉しかった所。それだけに、物語の糸が、もう数歩、綺麗に繋がりきってほしかったです。
 井坂先生リタイア、冴子さん退職、運命の背後に浮かび上がるシュラウド――と主要登場人物達の位置づけが大きく動き、次回、 新たな来訪者とともに、物語は終盤戦へ。

◆第37話「来訪者X/約束の橋」◆ (監督:諸田敏 脚本:長谷川圭一)
 本編と関係ない凄くどうでもいい小ネタから入るのですが、アクセルのテーマソングである「LEAVE ALL BEHIND」 をどーいう意味だろうとWEB翻訳かけてみたら、
 「全て置いていきなさい」
 て、名護さん(※『仮面ライダーキバ』)の台詞みたいになった。
 ニュアンスとしては、「全て――振り切るぜ」という事なのでしょうが(^^;
 鳴海探偵事務所のHPを作ろうと亜樹子がドタバタしている所に、トレンチコート姿の依頼人がやってくる。 フィリップに見覚えがある様子の中年男はそれを誤魔化し、翔太郎に10年前に別れた家族の居場所探しを依頼する……。
 (この冴えない依頼人が、俺たちの運命を大きく揺さぶる事になろうとは、この時は、まるで気付かずにいた――)
 一方、冴子も井坂も居なくなった園咲家。
 「お父様……いつの間にかこの食卓も、お父様と私、二人っきりですわね」
 元々、特殊なスイーツ回を除けば最高でも4人ではあったのですが、序盤から園咲家を象徴するシーンとして食事シーンを頻繁に入れてきた事が効き、 家族の減った園咲家の空虚さがよく出ました。
 「我がミュージアムの計画も、いよいよ、最終段階に入った」
 だがもはや、園咲琉兵衛はそんな事に頓着しない――いや或いは最初から、琉兵衛はそんな事を気に掛けてはいなかったのかもしれない。
 「もうじき、我らの支援組織、財団Xからの使者が来る。覚悟を、決めておきなさい」
 琉兵衛は若菜に、冴子に代わってガイアメモリ流通組織を取り仕切るように命じ、更にここで新たに「財団X」という名前が登場。 ミュージアムの計画が最終段階に入ったという宣言と合わせ、物語が最終章へ入る事がわかりやすく告げられました。……にしても、 「財団X」とはまた、生活密着型である今作の世界観をある意味では危うくしかねない、直球で子供心をくすぐる名称で来ました(笑)
 ……いや、私の中の子供心がくすぐられるだけで、本当の子供心がくすぐられるのかはわかりませんが(^^;
 翔太郎が依頼人・山城の家族を探して街を回っている中、若菜から助けを求める電話がかかってきてフィリップは外へ。そして、 その山城を探す、ゴスロリファッションに身を包んでイナゴの佃煮を持ち歩くという、謎の女がウォッチャマンを強烈な足技で暴行。 通りすがりの照井の前で、ドーパントに変身する。
 モンガー
 と最初聞こえて何事かと思ったのですが、「ホッパー」でした。という事で満を持して、バッタ怪人が登場。 素直にやりたくなかったのか、玉虫色というか、青や茶色が混ざり合ったような配色が独特。変身前のゴスロリ足技使いに関しては、 印象的、というか、正直、あざとい(笑) まあ、井坂先生が強烈だったので、構成的な第3部の開始を飾るインパクトを重視したのでしょうが。
 照井もアクセルに変身するが、飛び回るホッパーの素早い動きに苦戦。トライアルを発動しようとするが先に蹴り倒されて、逃げられてしまう。
 「なんて無様な戦い方なの。貴方にはまだ、やるべき事があるのに」
 突然現れた鬼コーチ、駄目出し。
 まあ見ている側としても、前回の今回で変身し損ねるとは思わず、納得のご意見です(笑)
 「貴方たちの運命……それは戦う事。この街に恐怖をもたらす、本当の敵と」
 「本当の、敵?」
 「ガイアメモリ流通組織、ミュージアム」
 井坂の言葉を受け、シュラウドを問いただした照井は、遂に“組織”の名前を知る――。
 その頃、若菜を助けに向かっていたフィリップだが、それはフィリップを呼び出す為の嘘であった。
 「もしもし、名探偵さん」
 「もしもし、若菜さん」
 遂に対面し、電話越しに会話する2人。冴子と違って、若菜はフィリップの顔を見ても、 ミュージアムのマークする重要な存在である事はわからないと判明。
 園崎家の一員という運命に押し潰されつつある若菜から姉と会社について相談を受けたフィリップは、 封じていた疑いを正面から問いかける。
 「その仕事って……ガイアメモリの流通ですか」
 急所を突かれ黙り込んでしまう若菜に、再び電話をかけるフィリップ。
 「もしもし、本当の若菜さん、ですか?」
 「……もしもし、どうかしら」
 フィリップ、ちょっと翔太郎の病気に感染していないか。
 ひたすら甘酸っぱい2人は、それが“本当の自分”を見せられる道具であるかのように、電話でやり取り。
 「もしもし……私達、こうしてずっと一緒にいられたら素敵でしょうね」
 「……もしもし、僕も、そう思います」
 「……じゃあ……そうする?」
 勢い余って、全てを捨てて街を出ましょうか、と冗談めかして告げる若菜に、気取ったポーズで答えるフィリップ。
 「いいですよ。本当の若菜さんがそうしたいなら、本当の僕もついていきます」
 「ねえ、今の本気?」
 「え? どうかなぁ」
 フィリップ、絶対、翔太郎が感染している。
 引っ張った割には対面はあっさりでしたが、互いの距離感を電話で表現。ストーカー回の「本当の若菜」というのを再びキーにしつつ、 見ていて恥ずかしい感じのシーンになりました。……何だかこの後、不吉な予感しかしませんが!(おぃ)
 というかお互いほぼ告白しているのにその後誤魔化してしまうのは、フィリップへたれという事なのか。まあお互い、 色々と背負っているものがあるので素直に踏み出せず、“本当の自分”を名乗って電話をしながら、 実際には未だ“本当の自分”を隠しているというのが、対面しながらも電話で会話するという形で描かれているという二重構造であり、 甘いと同時に苦いシーンでもあります。
 そして、2人にとって本当の本当の自分は果たしてどこにあるのか――?
 調査を終えた翔太郎は山城に家族の居場所を伝えると、戻ってきたフィリップの前で、山城がフィリップを知っている筈だと問い詰める。
 山城の正体は、10年前に死んだ事になっている有名な脳科学者。そして当時、山城同様に7人の高名な科学者が世間から消えていた。 口をつぐむ山城の前に現れたは、シュラウドから風都の闇に潜む恐怖の根源の名を聞いた照井竜。
 10年間、強制的にある研究をさせれていた山城博士が家族に会いたい一心で逃げ出してきた組織の名は――
 「ミュージアム……すなわち、園咲琉兵衛」
 誘拐した科学者に研究をさせる! 明解な悪の秘密結社的存在を最初から置く、 というのは今作のコンセプトの一つでしょうから狙い澄ましたものでしょうが、ここでお義父さんが、 極めて古典的な悪の秘密活動をしていた事が判明。
 最終章でミュージアムの背景を描くにあたって、次々と如何にもなネタが放り込まれてきて、何だか作っている側がとても楽しそうです。
 フィリップは園咲琉兵衛とミュージアムについて調べようとするが星の図書館が不正な処理でフリーズしてしまい、 検索する事が出来ない。だがともかくも、ここで遂に、主要キャラ達がガイアメモリ流通の黒幕をハッキリ認識するのであった。
 (園咲家が、ミュージアムの中枢……若菜さん、やっぱり貴女は……)
 その頃、裏切り者としてマスカレード軍団に追われていた冴子は、すっかり落ちぶれた姿になっていた。 若菜に恨み言の電話をかけていた所をスミロドンに襲われた冴子はタブーメモリを失って海へ落ちるが、それを、 白い詰め襟の男が見つめていた……。
 琉兵衛が冴子に刺客を放っていた事を知り、動揺する若菜。ミュージアムのもう1人の処刑人であるイナゴの女は、 事務所を抜け出して家族の元へ向かおうとする山城博士を抹殺しようとホッパーへ変身した所を、バイクで轢かれる。
 やったよ翔太郎! 遂に、バイクで轢いたよ!!(ヒーローの証☆)
 若菜はフィリップに助けを求めて電話をするが、フィリップはダブルに変身して意識を失ってしまい、運命は残酷にすれ違う――。
 「「さあ、おまえの罪を数えろ」」
 高度な演算能力で相手の特性を見破るエクストリームはホッパーを追い詰めていくが、山城博士を人質に取られてしまう。 自分を怪人にしたのは山城だと語るホッパーは更に衝撃的な事実を告げる。
 「ほら、そいつの片割れの記憶も消したじゃない?」
 アクセルが駆けつけて山城博士は難を逃れるが、動揺するフィリップは山城へと詰め寄る。
 「僕の記憶を消した……何の記憶を?!」
 「そ、それは……家族の、記憶を……」
 「家族……」
 うらぶれた姿でミュージアムの被害者めいていた山城博士が、ホッパーに詰め寄られて目が泳ぎ、 どうやら倫理観吹っ飛び気味の人だったのでは……? と最後の最後で印象が変わった所で次回へ引く、というのがなかなか秀逸。

◆第38話「来訪者X/ミュージアムの名のもとに」◆ (監督:諸田敏 脚本:長谷川圭一)
 今度こそ剣を投げ捨ててトライアルを発動したアクセルは百烈キックの打ち合いの末ホッパーに逃げられ、山城博士を問い詰める3人。
 「園咲琉兵衛は、私の研究に必要な、施設と予算を、全て用意してくれた。科学者と、してはねぇ、そんな、魅力的な誘いを、 こ、断れる、わけがない」
 やっぱり駄目な人でした(笑)
 園崎家や鳴海探偵事務所、そしてゲストの山城博士と絡め、「フィリップの家族」という序盤に置かれたキーが再浮上。
 亜樹子は沈み込むフィリップを励まし、事務所の3人で“家族写真”を撮るが、そこへ若菜から電話がかかってくる。
 「この街から一緒に逃げて……」
 一方、財団Xからの使者・加頭(白い詰め襟の男)は琉兵衛に計画の促進を催促する裏で、海に落ちた冴子を拾って何かを企んでいた。
 「貴女は全てを失った。でもご心配なく。まだ逆転のチャンスは充分にあります。私の言う通りにすれば」
 事あるごとに何かを落とす動作で特徴づけられている加頭は、第3部の暗躍ポジションになるようですが、 台詞を読み慣れていないのか少々早口なのが、少し気になる所。顔は格好いい。
 連行した山城を取り調べる超常課だったが、そこへイナゴの女が乗り込んできて、刃野や真倉を蹴り飛ばす。……なんか最近、 刑事達は酷い目に遭ってばかりのような(笑)
 「今度こそいただきまーす」
 照井はアクセルに変身し、山城は逃走。ホッパーと戦うアクセルだったが一般市民を助けている内にホッパーを逃してしまい、 自宅の前までやってきた山城は、捨てた家族の姿を目にするも、ホッパーによって急所を貫かれる。
 相応に悪事に荷担している人なので家族と再会する事までは出来ないけど、一目見るまでは許す、 というのは残酷ですが今作らしいバランスの取り方。
 瀕死の山城は鳴海探偵事務所に連絡を取り、とりあえず若菜に呼ばれた駅に向かっていた翔太郎とフィリップは病院へと急遽Uターンし、 またしても若菜とすれ違ってしまう。
 「君の……君の……本……当の名前は――園咲……来人。園咲琉兵衛の、実の……息子」
 ミュージアムの名前に続き、ここでフィリップの素性が判明。ラジオ回からファング回辺りの伏線が素直な所に収まりました。 まあさすがに、ここで山城博士から誤情報という事は無いでしょうし。
 「僕は決めた。……若菜さんと、この街を出る」
 若菜と一緒に居ると互いに心が安らぐ理由を知ったフィリップは、男の決断として苦難の道を選ぶ。
 「彼女は苦しんでる。僕が支えてあげなくちゃ。だって――家族だから」
 ここまで、家族としては、翔太郎や亜樹子に冴えられてきたフィリップが、家族として若菜を支える決意をする、 という形で一つの大きな転換が描かれました。このキーワードの使い方は良かった。
 翔太郎と亜樹子に見送られ駅へと急ぐフィリップだが、一足遅く若菜はテラードーパントによって連れ去られてしまう。
 ここで翔太郎がフィリップをバイクで送って行かないのですが(行きは、事務所→駅→病院、とバイク移動だった)、 単純に駅と病院が近かったのかもしれないけど、翔太郎からすると因縁としても遵法精神からいっても本来若菜は見逃してはいけない相手の筈なので、 街を出て行くのを見なかった事にする、のがギリギリのハーフボイルドという事なのか。
 若菜を連れ去った琉兵衛は、風都の地下に広がるミュージアムの大工場を見せる。
 「おまえの双肩には、この星の運命がかかっているのだ」
 「この星の、運命?」
 「若菜。おまえこそが、ミュージアムそのものだ」
 駅の構内で若菜を探すフィリップに届く、若菜からの着信。
 「もしもし若菜さん?! 今、どこに」
 「後ろよ。来てくれたのね、来人」
 「若菜さん……え? 来人?」
 フィリップの前に現れたのは、喪服姿の若菜。
 「来人……貴方の命を貰うわ。ミュージアムの為に」
 いったい琉兵衛に何を教えられたのか、がらりと雰囲気の変わった若菜は衆人環視の中でクレイドールへと変身し、 フィリップに襲いかかる。約束の橋で、クレイドールとマスカレード軍団に囲まれたフィリップは翔太郎に連絡を取ってファングジョーカーへと変身。
 「あれが……若菜さんだ。あのドーパントが、僕の姉さんだ!」
 マスカレード軍団を蹴散らすが、クレイドールの攻撃は一撃でファングジョーカーを変身解除に追い込み、 クレイドールは「来人、貴方も自分の使命を思い出しなさい」と言い残して姿を消す……。
 なおイナゴの女は、トライアルが割とざっくり9.7秒でメモリブレイクし、逃走しようとした所をスミロドンに始末されて死亡。 アクセルTvsホッパーを真ん中に置いて、フィリップと若菜の交錯をクライマックスに持ってきて、 一応ファングジョーカーの戦闘を付ける、という少々変則的な構成。イナゴの女は濃いキャラ付け+実力者ポジションだった割には、 後編では刺身のツマ的に倒されてしまいました(^^;
 色々と明かされつつ、財団Xや若菜の豹変など新たな謎も生まれ、物語は最終章へ。 構成上のキーの狙い撃ちにはかなり成功している今作ですが、「家族の物語」という要素が、ここで繋がってきたのは良かった。 出来ればお義父さんは、複雑な事情や目的がある人ではなく、シンプルな悪であって欲しいのですが、さてさて。
 ミュージアムの名のもとに、無垢なるプリンセスから黒衣の女帝として覚醒した若菜。フィリップ=来人の使命とは何なのか。 財団Xからの使者は冴子を利用して何を狙うのか。落ちぶれた冴子の運命や如何に。今度の男も、やっぱり駄目なのか?!
 次回……激動、ではなく、一休み?(まあ今作は予告からは全くもって読めないのですが(^^;)

→〔その7へ続く〕

(2015年10月27日)
(2017年3月21日 改訂)
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