■『仮面ライダーW ビギンズナイト』感想■


“さぁおまえの罪を数え 魂に踏みとどまれ
愛する物を 守るために 立ち向かえばいい”


 ブログ「ものかきの繰り言」に書いた、 『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010』感想の加筆修正HTML版。 感想の主題は『仮面ライダーW』の「ビギンズナイト」ですが、3部構成の劇場版の都合上、 「ディケイド〔完結編〕」「MOVIE大戦2010」の内容にも触れていますので、ご注意下さい。また、 本編最終回視聴後に見た為、感想の中に一部、本編の先の内容を含みます。そこはかとなくファングジョーカー色。


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◆第1部『仮面ライダーディケイド〔完結編〕』◆ (監督:田崎竜太 脚本:米村正二)
 『ディケイド』本編は序盤でアレルギーを起こして脱落しているのでストーリーの方はさっぱりわかりませんが、始まって5分ぐらい、 意外と面白かったです。
 空を飛びながらディケイドを探すスカイライダーがちゅどーんとやられて、地上で慌てるスーパー1とカブト!
 ……なんだか昭和の頃にはこういう、トンデモ系競演映画ってあったような気がするぞ(イメージです)、みたいな変な楽しさというか、 ストーリーが全くわからない事でかえって映像と展開の刺激にのみ視点が集中し、続けてJが繰り出される辺りまでは、 結構面白がって見てしまいました。
 「電波人間、タックル!」
 で振り落とされましたが(笑)
 そういえば一頃、意匠をレザーっぽくすると今風リファインみたいな傾向があったような気がするなぁ……とか思いつつ、 どうあがいても立派な変態さん。……それをまあ、故意にやっている感じなのが、タチ悪い。
 タックルに始まり、ハチ女とかスーパー死神博士とか謎の緑色とか、部分部分がやたらにやっすい絵で全体の雰囲気をバラバラにしているのですが、 キラキラでバリバリなディケイド達に対し、安っぽくて古くさくて本人達は真面目だけどふざけているようにしか見えないスーパーショッカーという構図が、 ひどく露悪的で、映画全体のクオリティを上げる事よりも、そういう事を優先してしまうセンスというのが、どうも、 引っかかる所です(わざわざザンジオーとか混ぜたり)。
 ……本気で面白いと思ってやっていたら、それもそれで困るのですが。
 次々とライダーを消していくディケイドを止める為にクウガが無理心中を図るも、失敗。しかし、 夏海の変身したキバーラに刺されて士は死亡し、ライダー達の物語は再生する。その後なんやかや色々あって復活し、 遂に「自分の世界」を見つけた士は“ディケイドの物語”を始め、 スーパーショッカーが生み出したネオ生命体ドラスを倒す為に平成ライダーが勢揃いすると、 最強フォーム一斉攻撃によりこれを撃破するのであった。
 なんだかんだこの辺り、アクションの爽快感はそれなりにあります。あと、関俊彦パワーによって本物らしく見える電王、便利。
 それにしても、夏海は主人公をぶすっと刺し殺した上で割と動揺なく蘇生に奔走し、 決戦ではしれっとキバーラに変身して普通にスーパーショッカーに立ち向かっており、物凄い覚醒ぶり。……やはりあれか、 紅渡と一緒で、咬まれた時に興奮剤的な何かが注入されているのか。
 そして、ほんの少しずつしか見た事ないのに、いつ見ても怪盗は主人公の事をLOVEすぎて反応に困ります。

◆第2部『仮面ライダーW ビギンズナイト』◆ (監督:田崎竜太 脚本:三条陸)
 ドラスを倒したのも束の間、クライシス要塞から出撃してきたパオンメカにライダー達が吹き飛ばされた所でブラックアウトし、 ご丁寧に東映マークが再び出てきてから、『仮面ライダーW』パートがスタート。
 ムーディーな音楽でタイトルが入って雰囲気がガラリと変わり、事前情報無いと映画館の事故かと思う展開。……や、 さすがにこれを事前情報無しで見る人は少ないと思いますが。
 ――クリスマスの夜、探偵事務所であの白い帽子を被って気取る膝丈ズボンの翔太郎だが、 後ろから入ってきた男に帽子を取り上げられる。
 「いつも言ってるよな翔太郎。半熟のおまえに帽子はまだ早い」
 ここで帽子をひょいっと投げると、かなりの距離を飛んで帽子掛けに引っかかるという絵が非常に格好良く、 この一発で鳴海荘吉というキャラクターがぴたっと物語の中にはまりました。
 「いいだろ! 俺が真似したって」
 「よかねえさ。男の目元の冷たさと……優しさを隠すのがこいつの役目だ。おまえにはまだどっちも、ねえだろ。 俺が認めるまで被るな。やなら出て行け。わかったな」
 そしてTV本編で翔太郎の心の師として美しく描かれていたおやっさんは、割と酷い上司だった(笑)
 鳴海探偵事務所長・鳴海荘吉、かつて翔太郎と共にフィリップを救い出し、そして――翔太郎は、 亜樹子にスリッパではたかれて目を覚ます。鳴海荘吉が居なくなってから久しい事務所では、 情報屋達が揃ってクリスマスパーティの飾り付けの真っ最中。胸派と足派の派閥争い(あくまでチキンの話です) に巻き込まれる翔太郎だが、そこへ依頼人がやってくる。
 人気歌手の睦月安紗美が探してほしいと依頼してきたのは、姉の恵理香。 海難事故で死亡した筈の恵理香を5日前に目撃したという安紗美の話から事件を探る翔太郎達は、街のあちこちで死人還りの噂を聞き、 恵理香の墓で怪しげな神父と出会う。その帰り道、死んだ筈の恵理香を目にした翔太郎は彼女を追うが、その前に姿を見せるデスドーパント。
 デスドーパントは、フード姿にしゃれこうべというベースのパーツはオーソドックスながら、頭部にドクロが縦に4つ並んでいる、 というのがなかなか面白いデザイン。翔太郎はWに変身するが、姿を消したドーパントに変わり白いスーツの男――鳴海荘吉――が現れると、 なんと、ドライバーを用いてスカルのメモリで「変身」する!
 『響鬼』序盤なんかもそうでしたが、ある程度キャリアのある役者さんだと台詞読みは問題ないのに、 「とう!」とか気合いの声が妙におかしかったりするのが、毎度面白い所です。それでも、 オマージュとして「とう!」を入れたかったのでしょうが。
 「鳴海荘吉はもう死んだんだ!」
 動揺する翔太郎は一方的にスカルの攻撃を受け、亜樹子の前で隠していた“真実”を口にしてしまうフィリップ。
 「半熟には帽子は似合わねえって言ったよな、翔太郎。……おまえは進歩がねぇ。辞めちまいな、もう」
 気絶した翔太郎を残して荘吉は去って行き、その夜、翔太郎は探偵を辞める宣言をして、どこかへ姿を消す――。
 入れ違うようにやってきた刃野とマッキーが翔太郎に頼まれていたらしい調査書を置いて出番を確保。 刃野の「あいつはほら、ここしか、帰る所がねえんだからさ」という台詞は、割と謎の多い翔太郎の素性に関する貴重な台詞ですが、 この時点では翔太郎の背景を掘り下げる予定もあったのか。
 「――調査再開」
 「だが、鳴海荘吉の事は」
 「ストップ! 言わなくていいよフィリップくん。聞く時は、あの馬鹿の口から直接聞くから」
 所長、劇場版でもいい女ぶりを発揮。
 ここで園咲家のクリスマスパーティシーンが挿入され、久しぶりの霧彦さんの姿に感涙。琉兵衛と 『ディケイド』写真館のお爺さんが赤ちょうちんで一杯やっているのを霧彦さんが見た、という形で両作を繋げ、ああ、 死神博士だからデスドーパントなのか……という辺りは、作品の接点をやや強引に作りつつも、(真相も含めて)巧い仕掛け。
 そして翌日、ボートに乗ってとある無人島を訪れた翔太郎は、半壊した巨大なビルの瓦礫に、花を捧げていた。 そこへ帽子を弄びながら現れるフィリップ。
 ……て、本編1話冒頭で出てきた施設、島だったのか。
 「思い出したまえよ翔太郎。僕たちが初めて仮面ライダーになった、あの始まりの夜。ビギンズナイトにあった事を」
 「……そうだ。俺がちゃんと言われた通りにやっていたら、あの日……おやっさんは死んでなかった……」
 そこで2人はビギンズナイト――第1話でスキップされた“あの夜”の事を思い出す。
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 ある依頼を受けて運命の子救出の為に施設に入り込んだ荘吉と翔太郎だが、ミュージアムの構成員とタブードーパントに見つかり、 ここで翔太郎、初めてドーパントを目撃。
 「翔太郎。さっそく命令だ。これを持ってじっとしていろ。この場を一歩も動くなよ」
 1人進み出た荘吉は華麗に構成員を叩きのめすが、メモリを使ってマスカレードに変身した構成員達と、タブーに囲まれてしまう。
 「こそ泥にしてはやるわねぇ。好みのタイプの男よ。でも、残念ね」
 「撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだぜ――レディ」
 当然のように、おやっさんもフィリップ・マーロウ愛好家でした!
 「ガイアメモリを仕事に使わないのが俺のポリシーだったんだが……やむをえん」
 「ロストドライバー?! 何故おまえが」
 ――『スカル』――
 「変身――さあ、おまえの罪を、数えろ」
 荘吉はスカルに変身し、どんなに激しくアクションしても帽子が落ちないのが、弟子とは一線を画すハードボイル度の高さです。
 だがその戦闘のさ中、フィリップを見つけた翔太郎は功名心からその後を追い、 おやっさんから託されたアタッシュケースの中に入っていたダブルドライバーを目にしたフィリップと口論になってしまう。
 「これは凄い! 誰が考案したんだい?! このドライバーの使用者は僕と一体化できる。同時に2本のメモリが使え、 僕の知識全てを備えた究極の超人が生まれる。はは、ははははは」
 「何がおかしい?! この悪魔野郎! おまえ達の造ったメモリのせいで、この街がどんだけ泣いてるかわかってんのか?!」
 「拳銃を造っている工場の人間は、犯罪者か? ……違うだろう。使って悪事をする人間が、悪い。僕はただ、 より効果の強いメモリを見たいだけなんだ」
 万事に青臭い翔太郎ですが、「拳銃を造っている工場の人間は、犯罪者か?」という問いかけには言葉を返せずに詰まっており、 「道具」と「人の悪意」は別であり、それ故に「人の悪意を助長する存在」こそが悪の根源であり、 それに対して「街の(人々の)良心を信じる」からこそ「そんな心に支えられた理想のヒーロー」であろうとする仮面ライダーW、 という本編の構造がしっかり盛り込まれています。
 その上で、「人の良心を信じるからこそ、罪を数えて、法の裁きを受けさせる」という芯をしっかりと貫いたのが、 『W』の優れていた所。
 それにしてもフィリップは、TV本編だけだと囚われのお姫様っぽい感じでしたが、実際は施設内部で割と自由に遊んでいたっぽいぞ(笑)
 「黙れ!」
 当時、まだ《交渉》スキルに経験値ポイントを割り振っていなかった翔太郎は激昂のあまりフィリップを突き飛ばし、 フィリップは謎の装置でガイアタワーの中に転送されてしまう。この、ガイアタワーは、超謎。
 「馬鹿野郎。なんで言われた通りにしなかった。あの子を抑えていれば、今頃」
 マスカレードらを蹴散らしたおやっさんと合流し、ピンタ一発を受けた翔太郎は、成る程これがきっかけで《交渉》スキルに経験値を注ぐ事になるのか。
 そして物語は本編第1話冒頭に繋がり……
 (俺のせいだ。俺が約束を破ったせいでおやっさんは……――凶弾に倒れた)
 ガイアタワーの中からフィリップを救い出すも、マスカレード軍団の銃弾を背中に浴びてしまう荘吉。
 「……翔太郎…………この依頼、おまえが引き継いでくれ……」
 瀕死の荘吉は、翔太郎に帽子を被せる。
 「あの子を……あの子を頼んだぜ」
 「……よしてくれ……俺に帽子は早い。まだはえぇよ!!」
 「似合う男になれ」
 ニヤリと笑って、息絶える荘吉。
 「おやっっさぁぁぁん!!」
 フィリップと共にダブルドライバーを身につけた翔太郎は、サイクロンジョーカーへと変身。 暴風によってヘリコプターやマスカレード軍団を蹴散らすも施設奥に落下した所でファングドライバーに助けられ、 フィリップが変身して、ファングジョーカーのお披露目。凶悪無比なファングはタブーとマスカレードを圧倒し、 翔太郎の体を拾って施設を脱出する――。
 この後の本編での扱い(第15−16話)を考えると、ファングジョーカー状態で翔太郎をちゃんと拾っていったフィリップ、 超偉い(笑) そして冴子さんが「あいつはやばい」とすぐに逃げ出したのは、この時のトラウマがあった為だと納得。
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 「こうやって俺はおまえとダブルになった。あの日の罪を償いたい一心で、ここまで戦ってきた」
 「まだ……君の知らないビギンズナイトが一つだけある」
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 あの夜、荘吉がガイアタワーに触れたその時、フィリップは星の図書館で荘吉と接触していた(ロストドライバーの影響?)。
 「おまえは今まで一つでも自分で決めて何かをした事はあるか?」
 「…………」
 「じゃあ、今日が最初だ。自分自身の決断でこの暗闇の牢獄を出ろ。そして自由になってから――おまえの罪を数えろ」
 “ヒーローと社会性”という部分に強くこだわる『W』ですが、ここで、フィリップをそんな「社会」の外に居た者として描き、 人は「社会」の中に帰属して初めて、「罪を数えられる」としていたのは、お見事。また、 本編で繰り返し語られるおやっさんの言葉「男の仕事の8割は決断」というキーワードをここでフィリップにも繋げました。
 「……僕の、罪?」
 「おまえさん名前は?」
 「…………」
 「じゃあこう呼ぼう。……フィリップ」
 「フィリップ?」
 「フィリップ・マーロウ。俺の大好きな男の中の男の名前さ。奴は――自分の決断で全てを解決する」
 「決断……」
 故に鳴海荘吉は、少年に「名前」を与え、「社会」に接続させる――例え痛みや悲しみ伴うものだとしても、それこそが、命の証だから。
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 「君の罪は、勝手な決断をした事。僕の罪は、決断をせずに生きてきた事だ」
 「フィリップ……」
 「僕たちには一つになって二人の罪を償い続ける義務がある。だからダブルになったんだろ」
 「おまえ……俺にそれを思い出させる為にここへ」
 「君が居なければ、続けられない。あの日と同じ事を、今もう一度聞くよ、翔太郎。これからも、悪魔と相乗りする勇気、あるかな?」
 フィリップの差し出した帽子を手に取り、翔太郎、復活。
 刃野や情報屋が集めてくれた資料で検索の精度を上げる事で、恵理香の墓で出会った怪しい神父が月に一度、街の名士を集めた親睦会を開いている事が判明。 そして街では、亜樹子が依頼人とその怪しい神父が出会っているのを目撃。後をつけるが、2人まとめて捕まってしまう。 怪しい神父の目的は、死者と会わせる事を餌に、街の名士をさらう事。亜樹子も棺桶の中に放り込まれてしまうが、 そこに翔太郎とフィリップが駆けつける!
 なお、バタンと閉まった棺桶の箱は亜樹子が中から自力で開けており、亜樹子、たくましい。
 神父はドーパントに変身し、再び現れる鳴海荘吉。
 「今度は加減しねえぜ、翔太郎」
 依頼人をかばう翔太郎だが、迫り来るスカル。
 「翔太郎。おまえはここに居る資格がない」
 「おやっさん……! この子は、俺の依頼人だ」
 「それがどうした。また俺の言う事に背くのか。また俺を、殺す気か」
 「翔太郎くん! 聞いちゃ駄目」
 お父さんとの再会でも、自分を貫く所長のいい女力が、劇場版効果でいつもより3割増し。今回、 『W』パートで一番格好いいのは亜樹子だと思います(笑)
 「どけ、翔太郎」
 「うおぉ!!」
 そして、デスドーパントの思惑を超え、鳴海荘吉から受け継いだ信念を掴み続ける為にスカルを殴りつける翔太郎。
 ここで殴った翔太郎の拳に血が滲んでいるのは、ドーパントを生身の人間が殴ったらどうなるかを見せつつ、 “他者を拳で殴る事の痛み”が込められていて、『W』なりの『クウガ』オマージュを感じる良い演出。
 また、私刑によるカタルシスを良しとしない物語として、法治と私刑の狭間のギリギリの所で翔太郎が“形だけのパンチ” を放つ第12話のラストと巧く対比がはまり、拳を振るう事の意味を更に補強しました(撮影タイミング的に、 お互い意識していたのかは微妙ですが)。
 「――俺は依頼人の為に戦う。命がけで、あんたの教えを守る。それを邪魔するのがあんた自身なら……それとも戦う。……本物は、 俺の胸の中で生きているあんただけだ!」
 「馬鹿な……おまえはいったい」
 「俺は……いや……俺たちは、……鳴海荘吉の忘れ形見、2人で1人の探偵で、仮面ライダーだ!」
 翔太郎とフィリップはWに変身し、スカルと戦闘。ヒートパンチで殴った結果、スカルが神父の姿に変わり、 ドーパントの正体は死者を自在に操るデスではなく、他者になりかわるコピー能力を持つ「ダミー」であった事が判明する。
 捕まえた名士に成り代わってゴージャスライフを送りたかった……と『W』っぽい犯人の駄目な願望と目的が明かされ、 亜樹子のスリッパまで食らってお笑い怪人扱いされていますが、完全な能力コピー・死者にまで成り代われる (接触した人間の記憶を利用するのか?)・本人の演技力など、物凄く強力なドーパントのような。もしかして、霧彦さんより(以下略)。
 「「さあ、おまえの罪を、数えろ!」」
 幽霊の正体見たり駄目人間、とダミーをメモリブレイクしようとするWだが、そこに劇場版サービスで、タブー、ナスカ、 クレイドールが揃って参戦。するが、尺の都合でメタルブランディングで軽く追い払われ、 Wはトラックのタイヤをコピーして高速で逃亡するダミーを追う。
 「逃がさねえぞ! 地の果てまでも追ってやるぜ!」
 という所で、つづく。

◆第3部『MOVIE大戦2010』 (監督:田崎竜太)
 ブラックアウトから画面が左右に二分割された所に、またもご丁寧に二つの東映マークが出現し、画面の右側でディケイド、 左側でWがバイクで走り、お互いのシーンと台詞がシンクロ。

「お兄ちゃん、いい加減諦めたらどう?」
「いい加減、諦めろ〜」
−−−
「諦めるか!」
「諦めるか! 俺が、自分と向き合った者の事を、忘れない限り!」
「その思い出を汚すものを、俺は許さない!」
−−−
「なんなんだよおまえは?」
「なんなの、お兄ちゃん」
−−−
「覚えておけ! 俺は」
「俺たちは」「僕たちは」
「「2人で1人の」」 「通りすがりの!」
「「「仮面ライダーだ!!!」」」

 そして一つに交わる世界――。
 「来たな、仮面ライダーダブル」
 「おまえ、確か……ディケイド!」
 どうやら、知り合いだったらしい(※一つ前の映画にWがゲスト出演していたとの事)。
 ダミードーパントが何故かパオンメカを操り、そこにライダー軍団が再び勢揃いして、正真正銘クライマックスバトルがスタート。
 リボルキャリーが大活躍してWはパオンメカを奪い、ヒートパオンメカのファイナル象さんストライクにより、クライシス要塞は轟沈。 おじいちゃんは死神博士メモリでスーパー死神博士にされていた事が判明し、キバーラ夏海によって救出される。 残るダミードーパントはどうなるのかと思ったら、要塞を脱出した緑色と合体して凶悪化するのですが……ですが…… 最後の最後のボス敵としては、全く盛り上がらない造形(^^;
 正直、ドラスの方が格好良かった(笑)
 それはそれとして結構強いファイナル緑色だったが、でぃでぃでぃディケイドによってWが分割されて仮面ライダーサイクロンと仮面ライダージョーカー’が誕生し、 トリプルライダーキックで決着。
 爆発も、ダブルライダーのバイクジャンプやクライシス要塞轟沈の時の方が派手で、ここまで映像的には結構頑張っていた作品なのに、 よりによって最後の敵で息切れ(^^; 人間大の怪人があまり大爆発するのもおかしいと思ったのかもしれませんが、 映画的には爆発はどんどん派手になる方が良かったかと思います。というか最後に一番派手なのを残しておくべきだったというか。
 スーパーショッカーは壊滅し、それぞれの世界へ戻っていくライダー達。 士は第1部でそれとなく示されていた仮面ライダースカルのカードを翔太郎に渡して去って行き、全てのライダーが居なくなった後、 そこを、仮面ライダースカルが通りすがる。
 「誰だか知らんが、いい顔してるな、坊主。帽子がさまになるのは一人前の証拠だ。――俺は仮面ライダースカル。 またどこかの世界で会おう」
 「…………帽子……さまんなってるってよ」
 アーマー+顔出しの仮面ライダースカル――“別の世界の鳴海荘吉”もまた去って行き、 認められた喜びに目頭を押さえる翔太郎……から、スタッフロールが流れ出して小さい画面で後日談が展開する形で、エンディングへ突入。
 うーん……翔太郎と、結局主にダミーのなりすましだった荘吉にもう少しフォローを入れておくべきだと考えたのかもしれませんが、 本編最終盤でも意味を持つ事になった帽子をキーアイテムに、変則的な師弟対決を通して、 受け継がれる想いに関してはビギンズナイトでしっかり描ききっていたので、正直ここは、蛇足に感じました。
 …………だいたいこの後も、ハーフボイルドは本編において
 「ダブルも大したものだ。頭脳だけはな」「街の野良犬」「半人前でもいいじゃん」「もう、あの男とは別れなさい」 「薄っぺらい男の人生はいてえ」「もう、君には無理だ」
 などなど、延々と風呂場のタイル目地にこびりついたカビみたいな扱いを受け続けるわけで、 別の世界の鳴海壮吉さんの眼力には色々と疑問が(笑)
 まあ、『W』世界における「仮面ライダー」が、ダブルの活躍を受けて生まれた都市伝説の名称である――という形で劇中定義付けを行っている――ので、 「仮面ライダースカル」という言葉を、どこかに入れないといけない事情などがあった可能性もありますが (亜樹子に「お父さんが仮面ライダー?!」という台詞はあるけど、翔太郎はあくまで「スカル」としか呼んでいない)。
 ……それにしても、本編の翔太郎の扱い、ホント酷いな!
 エンディングではまずはディケイド組が「俺たちの旅はこれからもずっと続く」でまとめ、 真っ先に「僕らはずっと一緒さ」とか言い出す怪盗は早く告白すればいいと思います。
 W組は翔太郎がお約束の報告書を打ち、改めて事務所で行われるクリスマスパーティ。 外で降り出した雪を体に浴びて感じるフィリップに、帽子を被らせる翔太郎。
 「行こうぜ、相棒。仲間とチキンが待ってる」
 「言っておくが、僕は足の方が好きだ」

――俺たちはここで生きている。この街、風都で。これからもずっと、あの人の、想いを背負って。

 最後に、謎の男こと照井竜がちらっと出てきて、『W』本編へ繋がる形で、エンド。

 ……いやぁ、「ビギンズナイト」面白かった!
 合体映画の劇場企画という事で、期待半分、不安半分だったのですが、限られた時間にオールキャストを詰め込み、 随所に本編のテーマを盛り込みながら物語の重要なミッシングリンクを埋め、単独でしっかり『W』しており、お見事な出来でした。
 ……だけに、『W』だけ好きな人が後々までこのサンドイッチ構造を受け入れねばならず、 逆に『ディケイド』が好きな人はこの間に挟まったハードボイルドを飲み込まないといけないというのは、 お互いにとってあまり幸福ではないのではないか、とは思う所(^^; 「ビギンズナイト」は面白かったですが、 あくまで『W』として面白かったのであって、合体映画としての魅力は特にプラスには働いていませんし。というかそこを割り切って、 ほぼ独立した物語として描いたからこそ面白かったというか(^^;
 無料配信で視聴した身でなんですが、合体映画はまだ割り切るにしても、合体映画で重要なエピソードをやってしまうという企画には、 やはり何だかなぁとは思わざるを得ません。まあ、映画だから出来た、要素も中にはあったのかとは思いますが……。
 そんな難儀な企画でしたが、『ディケイド』『W』共にパイロット版を務め、平成ライダーの面倒くさい担当こと田崎監督が、 また面倒くさいお仕事で奮闘。第3部の入りは趣向を凝らして洒落ていましたし、ライダー映画としてはそれなりに金もかかった感じで、 映像的には、かなり頑張ったと思います。
 この後、戦隊シリーズでも『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011)でスーパー戦隊の勢揃いがありますが、 2010年前後の一つの過渡期における、試行錯誤と功罪を感じる所です。「ビギンズナイト」に関しては、 非常に満足の出来だったからこそ、出来ればやはりTV本編で描いてほしかったなぁ、とは思いますが(^^;  この映画でこういうキャスティングが出来る、という前提であったからこそ劇中で「おやっさん」 の存在を物凄く大きく描けたというのはあったでしょうし、結果的に『W』全体としては良い方向に転がりはしたのでしょうけれども。
 しかしあれですね、この映画を見る限り、鳴海荘吉はやはり、奥さん(亜樹子母)には逃げられたのでしょうか。……風都だけに、 悪女に引っかかった可能性もあるけど! むしろ、悪女に振り回されて喜びそうだけど!!
 それもきっと、ハードボイルド。

→〔その3へ続く〕

(2016年1月17日)
(2017年3月21日 改訂日)
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