■『仮面ライダーファイズ』感想まとめ2■


“悲しみを繰り返し 僕らはどこへ行くのだろう”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『仮面ライダーファイズ』 感想の、まとめ2(6話〜10話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。
 なお、サブタイトルが存在しない為、全て筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい。

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◆第6話「煽る煽る時煽れば」◆ (監督:石田秀範 脚本:井上敏樹)
 「こういうのって性格出るんだよね。父さんが言ってたけどさ。アイロンがけも出来ない人間は、ろくなヤツじゃないって」
 隙あらば、罵詈雑言に繋げてくる『555』スタイル。
 「泣きたければ泣けばいいし、怒りたければ怒ればいいじゃん」
 「人の気持ち勝手に決めんなよ!」
 「……怖いんだもんねー、自分を出すのが。臆病者なんだもんね」
 隙あらば、煽りに繋げてくる『555』スタイル。
 「人の事が言えんのか、お前だって」
 「なによ、はっきり言ってよ!」
 「おまえの父ちゃんの事だよ。おまえ会うのが怖いんだろ。本当の親じゃないとか言ってたけど、どっかで悲劇のヒロインぶってんだよ」
 隙あらば、煽りガードキャンセルからカウンターに繋げてくる『555』スタイル。
 す ご い よ!
 開始3分足らずでこの応酬で、トップフォームの井上敏樹の切れ味に、クラクラしてきます(笑)
 後半の、
 「俺が猫舌なの知っててすき焼きなんかにしやがって!」
 「別にいいでしょ。ふーふーして食べれば!」
 「ふーふーしている内に俺の分がなくなんだよ!」
 「なによみみっちいなぁもう。明日は湯豆腐にしてやるから。めっちゃ熱いやつ!」
 「勝手にしろ! 俺は冷や奴を食う。絶対にな」
 も素晴らしかったです(笑)
 そんな感じで巧がクリーニング指南から罵声のコンボを浴びている頃、 勇治と結花はとりあえず柄シャツの男・海堂直也を拾ってマンションへと帰っていた。
 「好きなんですか、人間の事?」
 「勿論だよ! 俺達だって同じ人間なわけだし」
 「でも、戸田さんはもう、私達は人間じゃないって」
 「そんな事あるもんか。人間だよ! 人間だよ!」
 勇治はスマートブレインに向かうと黒い服にモデルチェンジしたスマートレディを問いただすが、 社長の思惑についてははぐらかされてしまう。
 「はーい、オルフェノクっていうのは人間という種の進化形です。人間を襲うのに罪悪感を感じる事はないんですよ。なんたって、 人類の進化に貢献するって事ですからね」
 レディを押しのけて最上階へ乗り込み、強引に社長室の扉を開いた勇治が目にしたのは――真っ白な壁。
 「かわいー」
 勇治とレディは棒読みと演技の境界線上をゆらゆらと揺れていて量子力学的なのですが、このレディの台詞は良かった。
 一方、何とか真理父に会おうと再びスマートブレインを訪れた巧と真理は、社員のIDカードを盗んで内部に入り込もうと思いつき、 ぼんやり出てきた勇治を標的に定める(笑)
 「よーし、あいつにしよう。弱そうだ」
 「そうね」
 どうして君たちは、楽しそうなのか。
 「……おまえ、止めないのか」
 「なに? 止めてほしいの?」
 「いや、別にいいんだけどさ」
 巧達はマンションの駐車場まで勇治を尾行すると、ごく自然にドライバーを取り出す(おぃ)
 一連の流れが完全に犯罪者で、さすがにやり過ぎ。
 なお幕間では、近所のスーパーで店の広告を配っていた啓太郎が警備員に咎められて慌てて逃げ出し、 商品を満載したカートを故意に店内でひっくり返す、というかなり悪質な事をやっており、 これもさすがにギャグを通り越していて眉をひそめます(^^;
 “僕のクリーニング店を通して皆が幸せになる為に近所のスーパーがちょっとぐらい踏み台になるのは全世界の幸福に繋がるから問題ない” という啓太郎理論では筋が通っているのですが、石田×井上のブレーキ見失いがちの悪癖が余計な所まで広がってしまったような。
 車上荒らしを敢行するも管理人に咎められる巧と真理だが、人の好い勇治に許され、更に巧を無職のだらしのないお兄ちゃん扱いして、 真理が泣き落とし。
 「……余計なお世話かもしれませんけど、男として、きちんと自立した方がいいと思いますよ」
 「…………はい」
 (素敵。優しい人)
 そもそも養父から始まり、どうも男運の微妙な真理の中で、勇治のポイントがアップ。
 まあ勇治の場合、坊ちゃん育ちの鷹揚さに加え、現在の自分の生活に対するリアリティが欠けている面が大きく、 本当の優しさなのか疑念が湧くのですが、これも意図的な齟齬かと思われます。何より、 巧を諭す勇治自身が自立していないので、安きに流れる巧と、足下の定まらない勇治と、 それらを見誤る真理が、均等に殴られているという。
 マンションの一室では海堂が目を覚まし、
 「よくわからないがお嬢さん。また会いましょう。君は、薔薇より美しい」
 と思わぬ軽いノリを見せると慌てた様子で部屋を飛び出していき、それを追いかけた結花は街で啓太郎と衝突。 落とした携帯電話を啓太郎に渡される、と続くニアミス。海堂は就職面接でオルフェノクとしての超感覚を発揮するが、 それが原因で命を狙われる事になり、首を絞められて気を失った事でオルフェノクとして完全に覚醒。その力で襲撃犯を返り討ちに。
 一方、啓太郎の夜間配達に付き合っていた巧は、仕事熱心なその姿に、徐々に歩み寄りを見せていた。
 「いつか俺もシャツの一枚ぐらい洗えるようになるかな?」
 「…………たぶん絶対できるよ、たっくんなら」
 「たっくん言うな」
 巧は真理や啓太郎の主張の強さとはぶつかる一方で、二人の技術や仕事への姿勢に関しては素直に感嘆し、 どこか憧れめいた感情を見せるのは、キャラクターの愛嬌と肉付けとして上手く機能しています。
 そんな2人は啓太郎の高感度オルフェノクセンサーにより、海堂の変身したサソリオルフェノクが人間(襲撃犯)を襲う姿を目撃。 変身した巧は喧嘩3段でサソリを追い詰めるが、今度はそれを、海堂を追っていた勇治が目撃。
 「よせ! 俺の仲間を、傷つけるな!」
 無差別な人殺しは忌避しながらも、生来の人の好さと現在の居場所の無さゆえにオルフェノクへの仲間意識を持ち始めていた勇治は、 “誰かを守る為に”馬に変身するとフェンスを跳び越えて戦いに割って入り、 いよいよ間近で向き合うホースオルフェノクとファイズ――! で、つづく。

◆第7話「禁じられた音色」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹)
 ヘビを助けるべく勇治が変身した馬オルフェノクは剣を振るって戦いに飛び込み、 アバンから挿入歌を使ってスピード感のある格好いい戦闘。満を持しての初顔合わせという事で、かなり気合いが入っています。 そして2対1とはいえ、おもむろに銃を取り出して撃つファイズ、凄く、ヤクザの下っ端感(笑)
 馬は必殺円錐キックをまさかの剣ガードし、互いに吹き飛ぶと、見えない所で双方が変身解除。
 キックがかすって深傷を負った勇治は海堂に助けられるも途中で放棄され、なんとか自力でマンションに。巧は啓太郎に回収され、 「特訓とかしてみる?」と聞かれるも、「そんな恥ずかしい真似が出来るか」と力強く拒否(笑)
 遠慮しないで巧も、山に篭もって筋トレしたり崖の上からダイブを繰り返したり丸太の上で座禅を組んだりすれば、 今の自分から解脱して巧サンダーとか撃てるようになるかもしれないのに!
 昭和のみならず、『クウガ』でも五代くんは定期的に剣道だったりランニングだったりしていましたが、 「恥ずかしいから努力とかしない」という巧のスタンスが強調。
 旧作への皮肉ギャグっぽく入っていますが、啓太郎も真理も手に技術を持っている――努力の蓄積が存在している――事が示されており、 やりたい事のない巧と、目指しているものがある真理と啓太郎の根の部分が対比されており、格好いい/格好悪い、とは何だろう?  という問いが含まれているとも見えます。
 「俺はもう海堂直也じゃないんだ。人間を越えたんだ。……復讐だ。ふふははは、復讐してやる!」
 そして、海堂は不慮の事故でギタリスト生命を絶たれた元天才ギタリスト――夢を失った者であったと判明。
 真理は真理で、就職予定の美容院で無駄に嫌な感じの店長から厳しい指摘を受ける。
 「夢を持つのは楽しいけど、夢をかなえるのは楽じゃないわよ」
 翌日、動けない勇治に変わってスマートレディに会いに行った結花は、「知ってるわよ。あなた、人間を憎んでいる。その憎しみを、 木場勇治にも分けてあげて」と悪魔の囁きを受けて煽られる事に。
 一方、小太鼓叩いて中退した音楽大学に乗り込んだ海堂は、何らかの理由でかつての級友に復讐の牙を向けようとするが、 その目の前で学生の一人が砂と化し、レディから海堂の素性を教えられた結花、それを目撃。
 「違う! 俺じゃない。俺はまだ、何もしてない」
 「どういう、事ですか……?」
 「この学校にも居るんだよきっと。俺らとおんなじ……オルフェノクが」
 海堂の復讐劇とそれを止めるとか止めないとか……と思わせて、他にもオルフェノクが、という転がし方が実に面白い。
 その頃、家出して連絡の取れない息子を説得してほしいと馴染客のおばちゃんから頼まれた啓太郎は、巧を連れて息子が通う音楽大学へ。 そこでギタリストを目指す息子が、進路を巡って親と仲違いしている事を知る。
 「父さんも母さんも、俺の夢なんてどうでもいいと思ってるんだ。俺本気なのに」
 「……そうなんだ。夢か。なんかわかるっていうか」
 「全然わからんな。おまえ家帰れ」
 家に帰ると今度は真理が特訓中で、当たり散らす巧。
 「だいたいうざいんだよ。どいつもこいつも夢夢夢って! 夢持ってりゃそんなに偉いのかよ」
 「あ……たっくん要するに拗ねてんだ。自分に夢が無いから」
 ここですかさずツッコむのが、啓太郎、強い(笑)
 如何にも、いい人&ほだしキャラポジションで、その役割も勿論持っているのですが、 狂気と毒舌がパンチ力高めで立ち位置を確立してきました。
 「俺はおまえらの夢の被害者だ」
 「なに滅茶苦茶言ってんの。もっと大人になりなさいよ」
 「ほんと馬っ鹿みたい!」
 「最っ低」「最低」「「ね」」
 ふたりのいきはピッタリだ!(笑)
 一方、勇治は海堂の復讐を思いとどまらせようとしていた。
 「オルフェノクの力に溺れたら、俺達は本当のモンスターになってしまう!」
 「……ふひひひ。いいね、いいね、それ。俺はモンスターだ。俺はモンスターだーーー! ひゃひゃひゃひゃ!」
 勇治のスタンスも徐々にハッキリしてくるが、説得に耳を貸さない海堂は、翌日再び音楽大学に乗り込むと、廊下でスライディング。
 「変・身」
 海堂ならではの遊び心という感じですが、ここでオルフェノクサイドが「変身」を使用。あと成る程、 海堂オルフェノクは顔に牙の意匠が入っていて、口を開いたヘビのイメージ?なのか。
 ところが海堂は、聞こえてきたギターの音色に足を止めると、変身解除。
 「あの音は……」
 海堂が教室の扉を開けると、そこでギターを弾いていたのは、海堂に憧れて同じ大学へ入ったという、おばちゃんの息子。
 「俺とおんなじ指だ……俺だって……あんな事故にさえ、遭わなけりゃ」
 車に左手を轢かれてギタリストの道を絶たれた過去が回想され、素っ頓狂キャラだった海堂が、追いかけていた夢の輝きに再び触れ、 ギタリストの顔を取り戻す、という落差による人物の掘り下げが実に巧い。
 そんなおばちゃん息子を説得に今日も大学へ来ていた巧と啓太郎は、学生を襲うフクロウオルフェノクの姿を目撃し、変身。 海堂がおばちゃん息子にレッスンをつけるシーンが戦闘の間に挟まれ、音楽に対する純粋な気持ちを取り戻した海堂が、束の間、 別の世界に居る、というのが良い演出。だがそのギターのメロディはそのまま戦闘のBGMとなり、どこか不穏な気配を漂わせながら、 ファイズのナックルパンチをかわしてフクロウは姿を消してしまう。
 アバンタイトルの初顔合わせを挿入歌を使って盛り上げ、後半の戦闘は情感を優先して海堂のキャラクターを掘り下げていく、 というのが非常に巧くはまった構成。
 そして、美容院からの帰路、真理を見つめる不審な男の影があった……。

◆第8話「夢のかけら」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹)
 「おまえわかってんのか?! 鍋焼きうどんといえば、あつっ、猫舌の天敵なんだよ!  いっくらふーふーしても全然冷めないんだぞ!」
 巧はそのルックスで、「ふーふー」言うだけで面白くて、ズルい。
 真理に近づこうとした不審者オルフェノクはスマートレディに止められ、改めて、ベルトを狙うのが禁止されていると強調。 本社命令を無視しての独断だったようですが、イカの人も「戦闘態勢に入ったから俺は撃ちたいんだ!  俺にイカスミを撃たせてくれ!」みたいなノリでしたし、持った力は振るいたくなるのがサガ、という事か。
 レッスンを終えた海堂は廊下で結花とバッタリ遭遇し、勇治と結花に付きまとわれるのを面倒に思いながらも、 突き放しきれないのが端々に見えて、ぐっと良くなってきました。勝手気ままな自由人のようで、 他人に心配されるのが照れくさくて苦手なタイプ、みたいな。
 「あんたは? 人間が好きか?」
 「……それは…………わかりません。海堂さんは?」
 「俺は……嫌いだ」
 「嘘」
 環境の違いによる、人間への想いの違いが少しずつ掘り下げられていくオルフェノク組。
 「おまえ……夢を持った事あっか?」
 「いや……特にないけど」
 海堂はマンションで勇治と話し、説教キャラになりそうな流れになっていた勇治は、やはり基本はふわふわしている、 という事が改めてハッキリしたのは良かったです(笑) ここで簡単に勇治を説教キャラにシフトしてしまわないのが、今作の丁寧な所。
 「俺に言わせればな……夢ってのは、呪いと同じなんだよ。呪いを解くには、夢をかなえなけりゃならない。でも、 途中で挫折した人間はずっと呪われたままなんだよ。俺の苦しみは、おまえにはわからない」
 一方、美容院で課題をクリアできずに八つ当たり気味の苛立ちを巧にぶつけた真理は菊池家を飛び出していき、 なんだかんだと追いかける巧。
 「おまえ……なんでそんなに一生懸命なんだ?」
 「夢を持つとね……時々すっごく切なくて、時々すっごく熱くなるんだ。だからかな」
 「……よくわかんないけど、贅沢だよ、おまえ」
 「うん。ごめん。泣いてる暇があったらもっともっと頑張らなきゃね」
 「ああ、そうだな」
 この前に、おばちゃん息子の再説得シーンで、死んでもいいという程の夢への想いを語られた巧に
 「俺にはわかんねぇんだよ全然。まるで全っ然わかんない」
 という台詞があり、格好つけたポーズではなく、巧は本当に夢というものがわからない事が強調されており、 「心から切なくなったり熱くなったりできるものを持っている事はとても贅沢」という巧の本音が真に迫ります。
 ――「その内わかるようになるよ。たっくんにも夢が出来ればさ」――
 死んだ人間が怪物となって甦る物語である『555』において、「夢」というキーワードを通して、では「生きている」って何だろう?  という問いが示されるのもまた、人と人でなしの境界線上の物語、という感を強めます。
 翌日も海堂はおばちゃん息子にレッスンをつけ、その音色を耳にする教授。 教授の言葉に不審を抱いた結花はバイクに細工する教授を咎め、海堂を轢いたのもフクロウオルフェノクの正体も教授だと判明。
 一方、真理は美容院の店長から技術の向上を認められ、やたらきつい感じが強調されていた店長が、 ただの嫌な人でないのは良かった所です。
 海堂もそれとなく敬意を示す教授が犯人だった、という裏の悪意はミステリとしてはオーソドックスなのですが、そこに、 厳しいが努力の成果は認める店長、人間に対して危うい憎悪を抱く一方で海堂の為に泣ける結花、 横暴すれすれの振る舞いを見せる真理が見せる涙、なんだかんだそんな真理を放置しておけない巧、真摯な音楽家としての海堂、 他者の為に命を懸けられるのに自分の事はふわふわしている勇治……と、人には色々な顔がある、という描写が幾つも織り交ぜられる事で、 物語のギミックとキャラクターの奥行きの付け方の融合がお見事。「夢」を中心に物語を進めつつ、それだけに留まらない構造が、 さすがテクニカルです。
 意気揚々と帰路についていた真理を、背後から狙う不審者オルフェノクだったが、木立の影から巧がすっと現れてその前に立ちはだかる。
 ……あ、ストーキングではなく、昨夜の気配を気にしてちゃんとガードしていたのか!  大学を啓太郎に任せて真理を見守る巧が急に優しくて戸惑っていたのですが、成る程納得です。
 「何者だおまえ」
 不審者の問いかけに巧は無言でコートの前を開いてベルトを見せ、鍛え抜いたカウンター技を披露。斜めに構えるポーズも決まり、 真理に気付かれないように戦う姿勢といい、あれ?! たっくんなのに超絶格好いいぞ?!(おぃ)
 そして音楽大学では、勇治が教授を待ち受けていた。教室に戻ってきた教授に対し、椅子に座って背を向けているのが、 仕事人ぽい(笑)
 「話は全部聞いている。なぜ海堂直也の夢を潰したんだ」
 「ふん……私より才能のある人間は、最も重い罰を与えなければ。わかるかね? そういう人間は、 ただ手にかけるだけではつまらない。才能を潰して、惨めに生きてもらわなければ」
 海堂の指を潰した車の運転手が教授だと明確になり、眼鏡不審者は先への布石かと思っていたら、ここで巧と勇治が、 それぞれに戦うという二局展開。
 「あの……海堂さん、一つお願いしてもいいですか?」
 「なにを?」
 「ほんの少しでいいから、海堂さんのギター聞いてみたい」
 海堂は結花に渡されたギターを手に取り、その音色をバックに激突する、巧と不審者、勇治と教授。
 「おい知ってるか? 夢を持つとな、時々すっごい切なくなるが、時々すっごい熱くなる。……らしいぜ。俺には夢がない。でもな、 夢を守る事はできる」
 「知ってるかな? 夢っていうのは呪いと同じなんだ。途中で挫折した者はずっと呪われたまま。……らしい。あなたの、罪は重い」
 巧パートと勇治パートのシンクロが非常に痺れる構成なのですが、ここで両者がびしっと決めるかと思いきや微妙に決まりきらない、 というのがまた、今作らしい丁寧さ。キャラクターの積み重ねを汲みつつ、まだ心の底からわからないけどそれでも、 自分の心を突き動かす何かの為に変身する、という二人の姿がそれでも格好いい。
 同時に、夢を護る為に戦うのと夢を潰した者の罪を裁くのと、それぞれ、“他人の夢の為”ながら、 巧と勇治がちょっとずつズレているという案配も絶妙。
 しばらく二つの戦いが交互に描かれ、指の震えで演奏を止める海堂。
 「……ここまでだ」
 ここから少し空気が変わって、いきなり飛んできたバイクロボが、ファイズと眼鏡オルフェノク (牛っぽいけど牛は既に居たので何なのか)を、まとめて銃撃(笑)
 「あぶねぇな。俺に当たるとこだったぞ」
 ちゃんとツッコむファイズですが……そもそも味方だと認識されているのか、少々不安になります。
 ファイズはバイクロボを蹴り飛ばして強制的にバイク形態に戻すと、ハンドルレバーを抜き取って剣に。 バイクロボの飛行機能も新たな武器も凄くぞんざいですが、たっくんはフェリーの中でバイクの説明書も熟読したから!
 フクロウクローだと思っていたけどクロウクローかもしかしてオルフェノクは馬がずんばらりん。 牛のような眼鏡オルフェノクは疾風φの字斬りで、それぞれ焼却。
 「俺……ようやくギターを捨てる事が出来る。俺の代わりに、弾いてくれる奴が出来たから」
 おばちゃん息子に己の夢の続きを託した海堂は、ギターを窓外放擲し、砕け散ったギター、でエンド。
 ……演出なのはわかるのですが、海堂があまりにも雑に放り投げるので、 階下の通りで新たなオルフェノク誕生のきっかけにならいなかドキドキしました。何にしろ、 しっかり回収しておかないと足が付きそうで、多分、結花が拾いに行く。
 前回冒頭の初激突を経て、海堂と音楽大学を軸に両サイドの動きが交錯しつつ、 気がつくと巧パートと勇治パートがあれよあれよとシンクロ、二人がそれぞれの戦う理由を見出し始める、とテーマもびしっと決まり、 丁寧さと技巧の行き届いた名編でした。

◆第9話「社長、参上!」◆ (監督:長石多可男 脚本:井上敏樹)
 「君、ふーふーして差し上げろ」
 社長も、ふーふー派なのか!
 スマートブレインから連絡を受けた真理は、新社長・村上峡児と面会。村上社長から父が行方不明になっていると知らされる。
 これまで謎のベールに包まれていたスマートブレイン社長は、別人になっていた、と判明。ベルトを巡るスマートブレインの動きは、 どこまでが前社長で、どこからが村上の指示だったのか、社長という肩書きにより、上手く誤魔化されてしまう事に。
 パワフルな青年実業家めいた風貌の村上は、ファイズギアはオルフェノクと戦う為に開発したものであり、 より有効活用する為に返却してほしいと要求。 レディやイカの人の活動を見るとスマートブレインはオルフェノクと密接な関係にありそうで非常に怪しげですが、 そんな事を知るよしもない真理は、躊躇いながらもベルトを返却してしまう。
 ……まあ、裁判になったら負けそうですしね!
 帰路に立ち寄った喫茶店で、真理の両親が火事で死亡し、しばらく施設で暮らした後に養父に引き取られた事を知る巧だが、 そこで勇治とニアミス。
 「なんとなく気に食わねぇんだよ、あいつ」
 そそくさと店を出ようとする巧だが、会計時にお金が足りない事が発覚し、レジで真理と揉めている声を耳にした勇治、 不足の200円を支払ってくれる(笑)
 「前にも、会いましたよね。……まだこんな生活をしていたんですか」
 前回格好良かったのに電光石火で蹴り落とされた巧を踏み台にして、真理は返金の約束にかこつけて勇治の電話番号をゲット。
 ちなみにそのぼんやりした男は、お金は泉から無限に湧いて出てくるものと思っているから気をつけて!! (叔父が手を付けられなかった、自分名義の通帳ぐらいあったのかもしれませんが)
 そんな勇治は海堂に対して、
 「俺は……人間を守っていこうと思っている」
 と宣言。
 「オルフェノクは人間を襲って仲間を増やそうとしている。でも……俺は人間として人間を守りたい」
 「は?! いきなり正義の味方かよ、ふざけんな。俺はどっちかといえば、人間を襲う方に回りたいね」
 「ふ……君には無理だよ。理由もなく人を襲うなんて。君は、俺達の仲間だ」
 海堂に人の心を見る勇治だが、それに反発した海堂は今日も元気よくマンションを飛び出していき、 海堂を気に掛ける結花は菊池クリーニング店で啓太郎と再会。
 「長田さんか……いいな」
 この再会に気を良くした啓太郎は、近所で連続している空き巣の情報を聞いてハッスル中。
 「ねぇねぇ決まったよ次の人助け」
 ……いつの間に、そういう組織に。
 啓太郎はその内、世界の平和とみんなの幸せを守る為に店で集めた個人情報を有効活用という名の不正利用して「ねえたっくん、 3丁目の○○さんは明日から一週間ハワイ旅行だそうなんだけど、脱税で溜め込んだお金を家の金庫に隠してあるそうなんだ。 悪いお金は僕たちが手に入れそれを正義の為に使うべきだと思わないかな?」と裏口から侵入しようとした所を添野刑事に逮捕されて (以下略)
 なおベルトを返しに行く前の巧と真理、
 「だいたいあなた正義の味方なんだから、バイクに乗って颯爽と現れるのが普通でしょ。免停なんかなるもんじゃないって」
 「……俺、正義の味方なのか?」
 「違うの?」
 「……びみょーな気がする」
 と、相変わらずの作風です(笑)
 その夜、啓太郎の旗振りで町内パトロールをしていた3人は、問題の泥棒と遭遇するが、なんとその正体はオルフェノクであった!  ベルトがなく戦えない巧だが、そこに現れる、正体不明のファイズ。 どうやら“ファイズを助ける役目”を持つらしいバイクロボも参戦して戦闘となり、ナメクジは逃亡。 そしてベルトを外したファイズの正体は――海堂直也!
 一方、村上社長は社内の反対勢力により襲撃を受けていた。
 「わかっていますか? 私はね、眠っている所を起こされるのが、一番嫌いなんですよ」
 自ら暴漢の前に立った社長、浮く。
 「下の下、以下ですね」
 社長は巨大な火の玉を放って刺客達を瞬殺。以前に結花が人間の姿のまま超人的ジャンプ力を見せているように、 オルフェノクの能力はある程度人間の姿でも発揮できるようなので、変身こそしないもののやはり社長はオルフェノクなのか。そして、 新社長が不愉快だから闇討ちしてしまえ、というスマートブレインはどういう社風なのか!(笑)
 真理父の人格が、大変心配だ!!
 新キャラ登場から不穏な要素を散りばめつつ、前回あれだけ格好良く決めた巧が1秒たりとも変身しないという、ねじくれたというか、 人を食った作劇。……まあ、質流れに比べれば、返却は200倍マシですが!

◆第10話「早く真人間になりたい」◆ (監督:長石多可男 脚本:井上敏樹)
 「はーい、わかりましたか? 役に立たないオルフェノクは始末します。これが新しい社長の方針です。 あなたは再三の警告にも関わらず、今まで一度も人間を襲った事がありませんね。そういうオルフェノクには、 怖い怖いファイズさんがお仕置きに来る事になったんです。あ、でもあと一度だけチャンスをあげてもいいですよ。 ラストチャンスです」
 逃げたナメクジはレディに見つかって煽られ、なんだかんだマンションに帰ってきた海堂は、 落ちこぼれのオルフェノクの始末屋をやる事になった、と勇治と結花にファイズギアを見せる。
 ここで遠回しに勇治に警告しているのが海堂に残った人の好さであり、どうもそれを見透かしている感がある勇治は、 村上社長と個人面談。
 「私が社長になった今、君の生き方は許されない」
 「なぜあなたに許されなきゃいけないんですか?」
 君の生活費をスマートブレインが出しているからだ。
 「この会社の狙いはなんなんです?」
 「さぁね。ただ、これだけは言えます。人は泣きながら生まれてくる。これはどうしようもない事だ。だが、 死ぬ時に泣くか笑うかは本人次第だ」
 まだ手探り感の見える社長ですが、この台詞は非常に格好良かった。
 「僕は……」
 ためらいつつも、顔を上げてハッキリと社長の目を見て告げる勇治。
 「――人間です」
 最初の「僕は……人間ですから」の時はうつむき加減だった勇治がここでは決然と村上を見据えており、どこかぼんやりした勇治の、 しっかりした芯の部分が、スマートブレインとの対立によって表に出てくる事に。
 「ふぅー……下の下ですね」
 その頃、マンションの部屋で海堂はわざとらしく人間を悪し様に罵っていた。
 「海堂さん、なんだか無理してるみたい」
 「なんだって?」
 「海堂さん、本当は木場さんの事が好きなんじゃないんですか? 本当は、海堂さんも人間を信じたいんじゃないんですか?」
 「なにを馬鹿な。くだらない」
 「じゃあ、なんでここに居るんですか?」
 人類の敵として生きる事を自分に言い聞かせようとする姿を結花にさえ見透かされ、 勇治を否定しようとしながら離れられない核心を突かれて目を逸らした海堂は、走って逃亡(何度目だ)。
 それを追いかけた結花は途中でタチの悪いチンピラ達に絡まれるが、人気の無い場所に誘い出した上で……男達を虐殺する。 殺戮を終えた結花は笑顔を浮かべており、人の悪意に追い詰められてからの暴発ではなく、恐らくは既に何度か、 確信的に力を振るっていると見えるのが、凶悪。思えば前回、音楽大学の教授に対して非常に堂々と挑発していたのは、 オルフェノクの力を扱う事に自信がついていたからか。
 勇治も結花も既に殺人を犯しているとはいえ、その背景に重い事情が描かれた上で、 なんとなく“いい人”側のオルフェノクとして見せられていたのですが、ここで、一見薄幸のヒロインポジションの結花が抱える、 明確な憎悪を示す強烈な一撃。
 結花は人間を憎んでいるからこそ、海堂が人間を憎めないでいる事がわかり、その上で結花個人の人間に対する考え方とは別に、 海堂(と木場)個人を嫌いではない、という屈折した描写でキャラクターの奥行きも増しました。
 菊池家では、ファイズギアを失った上に自分とは違うファイズの姿を見せつけられた巧の奇行を、真理と啓太郎が遠巻きに見守っていた。
 「あ、またなんか見てるよ」
 「違うよ。今度は何も見てない。浸ってるんだよ……」
 動きにキレが無いのを心配しながらも、容赦ない(笑)
 「おまえら……優しくすんな!」
 同居人達の生暖かい視線にいたたまれなくなった巧は、ようやく免停解除で乗れるようになったバイクで風になりに行くが、 同じくバイクの海堂に煽られ、しばらく生身バイクアクション……というのは割と珍しいか(まあ、 フルフェイスのヘルメットになってしまうので、画的にもう一つ盛り上がらない、というのがあるのでしょうが)。
 「あれでファイズかよ。俺の方がまだマシだったぜ」
 海堂は途中で社長に呼ばれて去って行き、その後ろ姿を見つめてこぼす巧が、 ここでほぼ初めてパンツ以外のものへの執着を見せ、7−8話を経ての巧の変化も積み重ねられていきます。
 その頃、真理と啓太郎は結花の元へ商品を配達し、そこでバッタリ勇治と遭遇するという、 軽い修羅場を展開していた(勇治と結花は「親戚のようなもの」と説明)。
 「なんとか、真人間として立ち直ってもらいたいものです」
 巧について、素でこれ言う勇治が、たぶん人間として一番酷い(笑)
 2人は紅茶をご馳走になり、返信のないメル友より近くの美少女、と結花に鼻の下を伸ばす啓太郎は、住所その他も手に入れ、 ストーカー化しないか大変心配です。
 最近この辺りに空き巣が多発しているし、長田さんの私生活を24時間見守るのが僕のジャスティス!
 つまりこれは正義であり人助けでありみんなを幸せにする為の活動であり僕は犯罪者ではなくてバイクを盗んだ事なんてありません!  と容疑者の男は意味不明な供述を続けており……
 一方、真理は真理で勇治にぼうっとした視線を送っていたが、その勇治は海堂に呼び出しを受ける。
 「君に倒されるわけにはいかない。きっと君は立ち直れなくなるから」
 「ふざけろ! 俺はんなヤワじゃねぇ。――変身」
 海堂ファイズと馬オルフェノクが激突し、しばしの殴り合いの末、ファイズナックルを放とうとするも寸前で止めてしまうファイズ。
 「言っただろう……君には無理だって。頭を冷やしてよく考えた方がいい」
 勇治はそんな海堂ファイズを割と思い切り馬ブレードで吹っ飛ばすと去って行き、入れ違うようにそこにやってきたのは、 海堂を心配した結花と、結花の為に車を運転してきた啓太郎。
 海堂(オルフェノクにしてファイズ):結花がオルフェノクだと知っている・啓太郎については不明 (巧の関係者として情報は得ているか?)
 結花(オルフェノク):海堂がオルフェノクだと知っている・啓太郎がメル友だとは気付かずただの親切なクリーニング屋さんと認識
 啓太郎(狂人):海堂がファイズだと知っているがオルフェノクだとは知らない・結花をメル友だと気付いていないしオルフェノクだとも知らない
 という、実にややこしい関係が、遠慮なく展開します。
 「君は正義の味方じゃないのか! 酷いじゃないか」
 「正義? ……は? 馬鹿かおまえ」
 結花を突き飛ばした海堂に怒りを燃やす、無駄に行動力を備えた狂人であるところの啓太郎は、落ちていたベルトを拾得。
 「これは君には渡せない。たっくんの方がまだマシだ!」
 さりげなく酷い台詞と共にベルトを持って逃げる啓太郎だが、よりにもよって人殺しの壁を乗り越えた直後で昂奮状態のナメクジオルフェノクと遭遇してしまう。 だがその時、現れた巧が颯爽と、ヒーロー度の高まりを見せるバイク轢きでアタック。 人間関係とそれぞれの思惑がややこしく交錯する中で、第8話・第10話と、 それぞれ後編クライマックスでは巧がすっぱりとヒーローらしく決めてみせるという構成。
 「それはたっくんのもんだよ。やっぱファイズはたっくんじゃないと!」
 「……ああ。かもな」
 啓太郎からベルトを受け取り、“ファイズである事”に自分の居場所を見つけ始めた巧は、いい笑顔から「変身!」し、 必殺円錐キックでナメクジを焼却。
 紆余曲折の末に巧の元へ戻ってきたベルトだが、果たして次回、スマートブレイン法務部は動くのか、動かないのか――そして、 この戦いを見つめる、一つの影があるのだった……。
 新展開かつ社長登場に加え、連続怪死事件を気にかけるも上層部にかかる圧力を感じる添野刑事、 地下35mの謎の教室で生き延びていた作業員2人、友人から同窓会の写真をメールで受け取る真理、と先への布石も盛り沢山で、 近作とは別の形でぎゅうぎゅう詰めの内容。
 その為、前回今回と、あちこち場面転換が多すぎて一つ一つのシーンがぶつ切れ気味な印象になってしまい、 全体のテンポも悪くなってしまっていたのですが、錯綜に錯綜を重ねた上でそのピークにクライマックスバトルを被せ、 力技でカタルシスを生んでしまうのは、さすがの手腕(^^;
 地下35mには教室どころか丸々一つ学校があったと判明し、作業員2人が絶望的な状況で出口を探す中、 一体どうやって入り込んだのか、それとは別の懐中電灯が教室の壁を照らすと――壁に飾られた絵に記されていた名前は、 園田真理。
 顔はほとんど見えないのですが、クレジットによると作業員の若い方は、後の闇の皇帝ゼットこと大口兼悟さん。……さすがにもう、 ここから奇跡の救出で、再々登場は無いか?(^^;
 現状、ヒロイン度で圧倒的に結花に後れを取る横暴系ヒロイン真理の周辺も何やらきな臭くなってくる中、次回、上の上、そして――!

(2018年3月4日)

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