■『仮面ライダーファイズ』感想まとめ1■


“Standing by ...”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『仮面ライダーファイズ』 感想の、まとめ1(1話〜5話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。
 なお、サブタイトルが存在しない為、全て筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい。

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◆第1話「眠りから醒めた男」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹)
 謎の研究所が怪物に襲撃され、奪われる銀色のベルト――その2年前、家族と恋人に恵まれ、 幸せな生活をしていた青年・木場勇治が暴走トラックの事故に巻き込まれて昏睡状態となり、それから2年後、 心停止により死亡が確認される。……だが、確かに死んだ筈の勇治は、蘇生。同時に不思議な感覚を手に入れるが、 一度は死んだ筈の自分にとって、2年後の世界はどこにも居場所がない事を次々と突きつけられるのだった……。
 「千恵ー、今日、何の日か覚えてる?」
 昔の彼女の元を満面の笑顔で訪れ、自転車デート記念日を強行しようとする勇治、超怖い(笑) 立ち上がり難しいキャラクターなので、 掴みにくい部分もあったのかもしれませんが、役者さんのややおぼつかない喋りが、 現在から取り残されてしまった男の狂気をいや増します。
 しかしそんな彼女は、勇治の長い昏睡状態の間に勇治の従兄弟とくっついており、かつての恋人達の間に生まれた時間のズレの描写が、 容赦なくエグい。しかし、よりによって、親族ってどうなんですか?!
 超感覚により、昏睡状態の内に伯父一家が亡き両親の会社も家も全て売り払ってしまった事を知った勇治は、失意と混乱のまま、 従兄弟の車の前に立ちはだかる。
 「おまえは一度死んだ人間だ。生き返ったお前が悪いんだよ」
 「……俺が生き返ったから? 違う。違う! 俺のせいじゃない」
 「なんだよ? 俺が悪いってのか!」
 「……うん。きっとそうだよ」
 その頃、九州をバイクで旅する少女・園田真理はしつこいナンパライダーズにつきまとわれて辟易していたが、 その真理を追いかける黒いコートの青年・乾巧の姿があった。
 ナンパライダーズが次々と砂になって消滅してしまい、怯える真理に「バッグをよこせ」と迫る巧。 そして怪物へと変貌して「ベルトをよこせ」と襲いかかってくるナンパライダーズの一人。
 「返せ! 俺のバッグだ! 違う。俺んじゃない」
 巧が真理を追っていたのは誤解だと判明し、バッグから取り出した奇妙なベルトを身につけて怪物に立ち向かおうとする真理だが、 認証失敗。
 「おまえではベルトの力を引き出せないようだな」
 切羽詰まった真理は巧に強引にベルトを装着させると、「物は例しよ!」とそれを起動させ……
 東京では木場勇治が馬の怪物に――
 九州では乾巧が銀と黒の戦士に――
 それぞれ変身する!
 東京と九州で全く別個のストーリーを進めていき、それぞれが異形へと姿を変える所で二つの流れを集約、 「仮面ライダー」とそれに対する「怪人」をイーブンに見せるという、かなり変則的かつ挑戦的な構成。当時、 勇治パートの薄暗さもさる事ながら、この構成にかなり困惑した覚えがあるのですが、改めて見ても、異彩を放ちます。
 仮面ライダーと謎の怪物を明確に対比させる構造自体が、改造人間テーゼを真正面から強く押し出すと同時に、 ヒーローの描き方としてかなりひねくれたスタートをしているのですが、初変身にも関わらず、 ファイズのヒーロー度の低さはちょっとビックリ(^^;
 陶器造りの馬のような怪物に変貌した木場は、ケンタウロス形態で従兄弟の車を追いかけると、剣で心臓を焼却。
 九州ではファイズ(いつ名前が出るか心許ないので、もうこれで)の蹴りが炸裂すると、イカの怪物が蒼い炎に包まれて消滅。
 「これが……ベルトの、力……」
 で、つづく。

◆第2話「猫舌の男」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹)
 「猫舌の男って、頼りないんだって。知ってた?」
 得体の知れない怪物に襲われ、得体の知れない姿に変貌してそれを蹴り倒しても意に介した風もなく立ち去ろうとする、 感情表現の薄い巧につきまとう真理は、ベルトとバイクが東京に住む父から送られてきた事、 その父に会いに東京に向かっている途中という身の上を語る。
 前回、ナンパライダーズに付きまとわれて迷惑していたのに、今回は他人に同様の迷惑をかけて一切悪びれる事のない真理、根性太い。
 真理のバッグを、3日前に盗まれた自分のバッグと勘違いして追いかけていた巧だが、警察からの連絡が入って引き取りに向かい、 ここで真理と巧の名前が判明。
 怪物に狙われるベルトを守る為に巧を変身ボディガード扱いしようとする真理だが、巧はそれを拒否。 ならば責任を持って東京までベルトを運べ、と真理が滅茶苦茶言い出してバッグを押しつけ合っている内に、 またも盗まれる巧のバッグ(笑)
 ……と思ったらそれは、取り違えた真理のバッグ。
 すれ違い劇は井上敏樹の十八番ではありますが、キャラも展開も、何もかも酷い(笑)
 「あなたは、なぜ旅をしているの?」
 「…………夢がないんだよ。俺には。だからさ」
 自分探しツーリング真っ最中という巧に、美容師という自分の夢を語る真理。既に東京で就職先も決定済み……って、 ベルトとお父さんはついでか!!
 それはまとめて巧に押しつけようとするわけです。
 「そっかぁ。頑張れよ。じゃあな」
 いい笑顔を浮かべた勢いで立ち去ろうとするも退場判定に失敗し、放り投げたバッグを結局探すなど、 押されると冷たくなりきれない巧は、引き続き真理とバッグを追いかける羽目になり……ついに盗まれたベルトを発見。
 質屋で。
 5000円で。
 第1話同様、東京の重苦しい勇治パートと交互に展開するのですが、九州パートは、酷さのバーゲンセールです。
 真理は遊園地(三井グリーンランド)で出張理容室を開いてお金を稼ぎ、地元遊園地PRタイムを消化しつつ、真理のスキル見せ。 ようやく二人はベルトを買い戻すが、食堂で真理がトイレに立っている間に、巧、逃亡(笑)
 畳みかけるように酷い展開が続きますが、真理、明らかに危ない女なので、逃げ出したくなる気持ちはよくわかります。
 だが。
 乾巧はまたもバッグを取り違えていたのだった!!
 派手なパンツの詰まったバッグを背に巧を負う真理だったが、ベルトを狙うゾウのオルフェノクに襲われてしまう。 何かがおかしい事に気付いた巧も真理の元へ戻り、ゾウにバイクアタックを決めると、自らベルトを装着。
 「変身!」
 一方東京では、飛び降り自殺をはかるも死ねなかった勇治が、謎の女スマートレディにより高級マンションの一室に運び込まれていた。
 「オルフェノク……?」
 「オルフェノクというのは人間を越える存在の事です。あなたのようにね」
 ぐっさり心臓を焼却されてもしばらく生きていた彼氏が目の前で砂の塊となって死亡し、 精神的に追い詰められていく千恵はそんな勇治を頼るが、刑事に追われている内に、今度は勇治を犯人呼ばわり。 千恵(演じるはタイムピンク勝村美香)、やや自己主張がきつそうなものの、決して悪い人というわけではない描写なのが、 2年という時間の重さと悲劇に拍車をかけ、九州とは違う酷さが手を緩めません。
 思わず刑事から逃げてしまう勇治の逃走シーンに、かつての自転車デートを重ね、 泣きながら走る勇治が幸せだった頃の幻に手を伸ばすというのは、実に惨いシーン。
 そして、愛の幻は、指の先からすり抜けてしまう……。
 「千恵……君が言ってた通りだ。俺が眠っていた間に君は変わってしまった。でもね、実は俺も変わったんだよ」
 馬に変貌した勇治は千恵の心臓をぐっさり焼却。その姿を見つめて、スマートレディが満足げに微笑するのであった――。
 一方、ゾウと戦っていたファイズは、ゾウの巨大形態に吹き飛ばれるも、真理のフォローで必殺キックを発動。雑に扱いつつも、 一通り同封のマニュアルに目は通したらしい真理、性格に難はありますが、割と優秀(笑) あと、 収納ケースに「だいたいこんな感じで使うんだよ!」とシールを貼ったお父さん(?)、親切。
 真っ青な空を背景に滞空時間の長い一回転からの必殺キックは格好良く、ファイズはゾウオルフェノクを撃破。
 一応ファイズパートでヒーロー物としてのカタルシスを作ってはいるのですが、そもそもオルフェノクって……? という所から、 かなり重苦しいパイロット版。人と人でなしは、どこで分けられるのか、という問いが立ち上がりから強烈に突きつけられます。
 巧(真理)パートも勇治パートも謎だらけの中をテンポの良いクロールで力技でかきわけて進んでいる感ですが、 半ば成り行きとは言え真理を救う為に戦った巧と、憎悪にまかせて殺人を続けた勇治とが今回も重ね合わせて対比され、次回へ続く――。

◆第3話「幸せを配る男」◆ (監督:長石多可男 脚本:井上敏樹)
 見所は、真っ赤なトランクスを握りしめるヒロインと、それを顔面に投げつけられる主人公。
 ゾウオルフェノクを焼却した巧は改めてベルトを返してバッグを交換するが、真理の脅迫と泣き落としを受け、しぶしぶ同道する事に。
 真理の酷さが天井知らずですが、酷いけど面白く見えてしまうのは、私が井上敏樹に毒されすぎなのか(笑)
 わかりやすい所では『キバ』の名護さん辺りが典型的ですが、 落ち着いて考えなくても酷い性格のキャラクターが何故か面白くなってしまう、というのは井上脚本の魅力だなと改めて (人を選ぶ部分でもありますが)。
 自分探しツーリングの旅から東京へ帰る途中という巧は、ベルトにも怪人にも興味は無いと発言。
 「あ、君、好奇心が欠如してます? だから夢も持てないんだ〜」
 ホント酷いぞこの女。
 ところが食堂でのやり取りで真理の怪我が嘘だとわかり、さすがに怒った巧は店を飛び出していき、その荒い車線変更が遠因になって、 事故を起こしてしまうクリーニングの配送車。巧を追いかけていた真理はこれを見捨てていく事が出来ず、 配達員・菊池啓太郎を後ろに乗せて、集配を手伝う羽目に。
 株価ストップ安の真理がちょっと良い所を見せるのですが、この「捨て置けない」というのは、 今作における「人間としての一線」の一つではあるのかな、と。
 商品を配達に行った先で買い物を頼まれてそれを請け負うと、その代金まで自腹で払い、皆が幸せになるならそれで良いじゃない、 と平然とのたまって疑問を挟む真理をむしろちょっと変な人扱いする啓太郎は、底抜けのお人好し……を通り越して、 人生という名の旅の途中でネジを何本か取り落としてきた、割と危ない男。
 [結花さん……調子はどうですか。僕は今、とても感じの悪い女の子と一緒です]
 その啓太郎のメル友・長田結花は、いかなる事情か家庭で疎外された扱いを受けており、 朝の挨拶から一緒に暮らす家族に無視をされるという描写が凶悪で、きつい。前回の勇治同様に、 居場所を無くした存在という位置づけなのですが、家族からの無視と怒声に始まり、学校では金銭の恐喝をされ、 バスケ部では次々とボールをぶつけられるイジメを受け……と、正直やりすぎ感あって引きます(^^;
 そんな結花はメールのやり取りでは明るく振る舞っており、それを喜ぶ啓太郎。
 [結花さん……僕の夢、聞いてくれますか。笑っちゃうかもしれないけど、みんなに幸せになってほしいんです。世界中のみんなに]
 互いの顔も知らない二人が、メールという距離感ゆえに、片方は幻想の幸せを語り、片方は青臭く純粋な夢を語り、 繋がっているのに虚構と真実がすれ違っているという……えぐい、えぐいよ井上敏樹!!
 [結花さんは、幸せですか? 楽しいですか?]
 配達途中に立ち寄ったコインランドリーで、真理は巧の荷物とバッタリ遭遇。パンツを巡って男達が争い、 飛び出した巧を追いかける真理の前に、今回の「ベルト置いてけ」が登場。土壇場でそれを捨て置けず、 またも戻ってきた巧はベルトを巻いて変身し、ファイズとオルフェノクの、一連の諸々を目撃する啓太郎。
 ファイズvs牛オルフェノクと、雪の中を歩く結花の“ここではない楽園”を求めるモノローグが重ねられた後、 牛の攻撃を受けたファイズはベルトの携帯を外して銃モードに切り替えると、おもむろに射撃。
 1−2話でベルトやポインタに関して説明書の存在が強調されていたこだわりが嘘のように、超・雑(笑)
 脚本家はあまりギミックにこだわりの無いタイプなので、 演出でどのぐらい補うかについては田崎監督と長石監督の色の差が出た感じに見えますが、更にファイズは、 腰の装備を拳にはめるファイズナックルパンチを放って、牛を焼却。
 ファイズ変身直後の、手首をこきっと鳴らす仕草が喧嘩3段みたいな具合で好きなのですが、必殺武器もメリケンサックを思わせて、 どこかストリートファイト風味です。
 それにしても、付属武器をやたらスムーズに使うファイズ……もしかして巧、 昨夜なんだかんだ寝ずの番をしながら、夜中暇だったのでベルトの説明書を真面目に読んでいたのか。
 辻褄を考えるとそのタイミングしかないと思うのですが、なんか、いい奴だ、巧……(涙)
 戦闘の決着後、大きくカメラを引いていってカット切り替わると、雪の階段で足を滑らせて倒れた結花が、 灰色の瞳で蘇生する――という姿に繋がるのは、オルフェノクはただの人外の怪物ではない、という今作のキーポイントを強調していて、 面白い演出。
 一方、砂と化してそのまま消滅してしまった千恵の姿を目にした勇治は、スマートレディによりスマートブレイン本社へと連れて行かれ、 そこでスマートブレイン社長から<王の眠りは深い>という謎のメッセージを伝えられる。
 同じ頃、地下鉄工事の落盤事故により不思議な空間が発見され……その奥にあったのは、 小学校の教室?というホラー展開。地下35メートルの空洞に存在し放棄された教室、 壁にかかった1995年のカレンダー、これらはいったい何を意味するのか……次回、啓太郎、変身?!
 1−2話は、対となる巧パートと勇治パートを交互に描くという構成だったのですが、今回は、巧&真理パートに加え、 対という程でもない結花パート、その結花と繋がる啓太郎、加えて引き続き勇治も描かなければいけない、 と第3話にしては話が散らばりすぎて、まとめるのに苦労した雰囲気。正直、あまり面白くはない出来。
 ところで、助監督に
 鈴村展弘
 柴崎貴行
 山口恭平
 と名前が並んでいるのは、今見るとなかなか壮観で時代を感じます。

◆第4話「Standing by」◆ (監督:長石多可男 脚本:井上敏樹)
 「なんでそういう態度なの? お腹痛いの?」
 「……あの子の言う通りだね。君、友達いないでしょ」
 「汚いものが側にあると、くしゃみが出るんだ。汚い心のヤツとかさ」
 菊池啓太郎のみだれうちだ!
 巧はじっと力を溜めている!
 巧、客観的にはそこまで酷い事をしているわけではなく、むしろ付き合いの良い方なのですが、 ヒーローの流儀にそぐわない行動指針の為に周辺人物からぼっこぼっこに言われるの、まず間違いなく皮肉でやっていると思うので、酷い。
 牛オルフェノクを倒した巧はまたもベルトをぽいっとするが、今度は本当に怪我をする真理。
 「ホント最低だねあなた。嘘つきで身勝手で猫舌で、その上人を信用できないなんて。どうせ友達も居ないんでしょ」
 園田真理、心の鏡を持たない女。
 「なんでそこまで言われなきゃいけないんだ。だいたい嘘つきはおまえの方だろうが。……おまえ……まさか、わざと怪我したのか。 俺の同情引くために」
 まあ、巧も巧でかなり最低な発想です(笑)
 険悪な両者の間にわけもわからず挟まれた啓太郎は、骨が折れているかもしれないと真理を病院に連れて行き、 渋々それを手伝った巧は、啓太郎から質問責めに合う事に。
 「なんとかしなくちゃ、て思わないの?」
 啓太郎が持ち出す、“よくあるヒーローの動機”を、巧は無言で受け流し、「ベルト」や「変身」という象徴を、 かたくなに「ヒーロー」と結びつけようとしない今作の方向性が良く出ています。……勿論これは、 長い《仮面ライダー》の蓄積があった上でこそ出来る作劇であり、一歩間違えるとつまらないパロディに堕してしまうわけですが、 わかった上でそれらを解体し、大火傷覚悟でその先を探そうというのが、挑戦的。
 「なんで男同士がいちいち名前教えなきゃいけないんだよ。気持ち悪い」
 ベルトの力があれば人助けが出来るのでは、と盛り上がる啓太郎に対して冷たい態度を取りつつも、幸い骨折ではなかった真理には、 怪我が治るまで一緒に行動するという約束は守る、と告げる巧。しかしそんな巧の、猫舌をせせら笑う真理。
 ホント酷いよ!!
 「私にはわかるな。こいつ今までずっとこうやって生きてきたのよ。面倒が起こるとすぐ逃げ出して。あー、やだやだ」
 更に追い打ちで、巧を汚い心のヤツ扱いする啓太郎。
 「おまえ喧嘩売ってんのか」
 「いいよ別に。俺はこれから真理さんと一緒に人助けに命をかけるんだ」
 「え? 人助け? 私と?」
 「え? 違うの?」
 「私は、別にそこまでは。ただ本当の事が知りたいだけで」
 だが真理も、別に正義の志は持っていなかった(笑)
 翌朝――消える啓太郎とベルト。
 [結花さん、今日から僕の新しい人生が始まります。多くの人を助けるための人生です]
 巧も真理も折角の力を世のため人のため人を幸せにするために使えないロクデナシどもだと切り捨てた啓太郎は、 バイト先を辞めるとフェリーで東京へ戻る為に、宮崎港へとバイクを走らせる………………ベルトどころか、 バイク盗んでいるぞ(笑)
 登場間もなくから頭のネジが抜け落ちたまま消滅している感じの啓太郎ですが、何が怖いって、 「みんなを幸せにする」という目的の為に、「頼み事を引き受けで自腹を切る」のも「他人のベルトとバイクを盗む」 のも同じベクトルで手段が正当化されている事。
 これまた、悪を倒す為なら多少の違法行為は辞さない、という“正義のヒーロー”像を皮肉っているようにも見えますが、実際の所、 手にした力を用いて人を助けよう、というのは定型的なヒーローらしい姿であって、その啓太郎が現状劇中で最も狂気に近いサイドに居る、 というのも何ともややこしい仕掛けです。
 結花には、東京で会いたいとメールを送り浮かれる啓太郎だが、その前に、 スマートレディの指示で動いている事が判明した2人のオルフェノクが立ちはだかる。
 「へ、変身!」
 ベルトを起動しようとする啓太郎だったが……エラー。
 「馬鹿め、誰でも変身できるわけではない」
 そこに追いつく真理と巧だが、サボテンオルフェノクはベルトを奪い取ると一度人間の姿に戻って自らに巻き付け…… 変身してしまう。
 「はぁーーー、これがファイズか」
 強力なマジックアイテムを敵味方で奪い合う、というのはいっそスタンダードな物語形式といえますが、 その力によって怪人――それも安易に殺人を犯すいかにもな三下――がヒーローと全く同じ姿になってしまい、 ヒーローの唯一性も主人公の特別性も第4話にして無造作に破壊されてしまうというのは、「変身」というシステムを活かした、 衝撃的な展開。
 どこが初出かと思っていましたが、ヒーロー名を最初に名乗るのが怪人サイド、というのもなかなか凄い。
 サボテン555は同僚のカマキリっぽいのをあっさり焼却すると口封じの為に3人に迫り、慌てて逃げる3人だが、 巧の脳裏に昨夜の真理の寝言が木霊する。
 ――「逃げんなよ。卑怯者!」
 「……ぁんだよ! なんでこんな時にあいつの寝言思い出すんだよ!」
 背を向けるのではなく、立ち向かう事を選んだ巧は、ヒーローの証明、バイクアタックを仕掛けるが、 ヒーロー力の充填不足により空振り。続けて、一線越えたキチガイである所の啓太郎が後頭部を鉄パイプで殴りつけるが、 逆に鉄パイプの方がねじ曲がってしまう。
 絶体絶命のその時、真理の叫びに反応して……バイクが立った!  勝手に走った! 変形したぁ?!

 そして、殴った。

 3話ほど、何事もなく平然とまたがっていたバイクが、いきなり人型ロボットになるという、これもなかなか衝撃の展開。
 園田父は、娘に何を送りつけているのか。
 バイクロボの打撃でサボテン555からベルトが外れ、それを拾った巧はここまでで最高にヒロイックに変身すると、 サボテンオルフェノクを必殺円錐キックで焼却するのであった……。
 と、ぞんざいにベルトを扱い続けて約1ヶ月、オルフェノクの555への変身という衝撃の展開を盛り込むと共に、 なんだかんだで巧がヒーローとして立ち上がり始める端緒までが収められる事に。
 一方、オルフェノクとしての超感覚で車にはねられた道子を助ける結花だが、道子からは結花に突き飛ばされたと濡れ衣を着せられ、 長田家を追い出されてしまう。バスケ部での度重なるイジメに爆発した結花はオルフェノクとして覚醒し、巻き起こされる大量虐殺。 独り長石階段に座り込んでいた結花は、そこで勇治に拾われる。
 「君の…………仲間だ」
 そして、巧、真理、啓太郎の3人は、フェリーで東京へ。
 「おまえ……まだ俺の名前知りたいか? ――乾巧だ」
 ベルトを預かると宣言し、自分の道を選び始める巧だが…………このシーンの巧が、 これまで以上に訥々とした喋りで勇治ばりにたどたどしいのですが、フェリーの甲板上が寒かったのでしょうか?(^^;  風が吹きすさんでいて見るからに寒そうではあるのですが。そんなこんなで微妙にいいシーンになり損ねつつ、舞台は東京へ――。

◆第5話「スマートブレイン」◆ (監督:石田秀範 脚本:井上敏樹)
 東京に上陸する巧達だが真理の父親とは連絡が取れず、直接勤め先に乗り込む事に。その会社こそ、 日本一の大企業・スマートブレイン。そして、真理の父はなんとその社長であった。だがそこでも門前払いを受けてしまい、 突っかかる巧と、引き下がる真理。
 「言ってもいいけど……場が暗くなるかも」
 「暗いお父さんなの?」
 「おまえは黙ってメールでも打ってろ!」
 酷い連中の酷いやり取りが続くのですが、早くも3人の会話の間合いが出来上がっていて、お見事。性格に難のある男×男×女、 が事あるごとに罵り合うというのは次作『ブレイド』序盤と似ているのですが、もちろん状況設定が違うとはいえ、 『ブレイド』が情緒不安定かつ性格の悪さだけが前面に出ていたのに対し、 今作ではどこかユーモアがあって見ていてそこまで嫌な気持ちにならないのは、演出陣が重なっている事を考えると、 やはり井上敏樹の巧さなのかと思います。
 真理が娘は娘でも実の両親を失って引き取られた義理の娘だと明かした所で巧は強引に会話を打ち切り、 スマートブレイン社屋でそれと知らずにすれ違う啓太郎と結花、メール着信の演出がエグい。
 家出女子高生をナンパした勇治は、スマートレディにより戸田英一/イカオルフェノク(演じるは叶隼人隊長!)に引き合わされ、 オルフェノクについての説明を受ける。
 「いいか、これはな……戦いなんだよ。人間対オルフェノクのな」
 バイト社員を呼び出した戸田は、オルフェノクの正体を見せるとバイトの心臓をイカスミで焼却。 これまでの被害者同様に一度は目を開いて動き出すバイトだが、やはり砂になって消滅してしまう。
 「くじ引きでいえばこいつは外れだ」
 人間に対して絶対数の少ないオルフェノクだが、勇治や結花のように自ら死後に蘇生/覚醒したオリジナルとは別に、 人間を殺す事でオルフェノク化させる能力があると説明され、これまでの被害者がしばらく動いていた理由が明らかに。
 ……にしても、自分を殺した相手に「おめでとう! これで今日から君もオルフェノクだ!」とか言われても嬉しくない気がするのですが、 まあその為の懐柔要員がスマートレディという事なのでしょうか。或いは、蘇生前後の記憶が飛ぶ作用により、 その辺りはうまいこと誤魔化せるのか。
 ところでスマートブレインの、Aを中心に左右二段にアルファベット2文字ずつ配置されているという、社名ロゴが格好良くて好きです。 レディの衣装にロゴの意匠が組み込まれているのも素敵。
 その頃、巧は以前に勤めていた喫茶店を訪れ、「盗んだ金」を返そうとしていた。 同僚から押しつけられた濡れ衣を甘んじて受け入れていた過去と、そんな巧を信じる店主の姿により、 巧の誤解されやすくて不器用だけど、根っこまで曲がっているわけではない所を補強。また、自分探しで九州まで彷徨っていた理由も、 なんとなく納得できるように。
 一方、住まいのあての無かった真理は、クリーニング屋である啓太郎の実家に世話になる事に。 啓太郎の両親は世界中の洗濯物を真っ白にするという夢の為にアフリカに行っており、2人暮らしになるという現実に、乙女心、 ちょっぴり動揺。
 そこへ、スピード違反の罰金で免停を受け、金を借りたいとやってくる巧。
 お金絡みで芯のある所を見せたと思った直後に、加速をつけて飛び込み台から落下してきました(笑)
 「利子つけて返してやっから、ありがたく思え」
 「やだね。君は信用できないからね」
 「そんなこと言っていいの? 人助けが趣味なんでしょ」
 「……もういい! お前の金は借りん」
 「ったくもうガキなんだから!」
 知らず地雷を踏んでしまった啓太郎の言葉に巧が頑なになったり、 どうしようもない連中のどうしようもないやり取りの中に感情の機微が盛り込まれているのが本当に上手い(笑)
 通知が来るまでは俺は自由だ、とバイクで走り出そうとする巧とそれを止める啓太郎が押し問答になり、結局、 真理が啓太郎から借りた金を巧に貸す、という事で納得する巧。
 「……最初からそうすればいいんだよ」
 …………それならいいのか。
 ところが真理には真理の思惑があり、借金の弱みを握られた巧は、菊池クリーニングで住み込みのバイトをする羽目に。
 ……なんというか啓太郎、いっけん人畜無害そうな一方で、顔を合わせた事もないメル友(しかも確実に年下の学生) を願望込みとはいえ「彼女」呼ばわりするなどボーダーが緩くてかえって危ない気配がするので、巧を巻き込んだ真理の判断は、 たぶん正しい(笑)
 翌日、人類オルフェノク化運動への協力を要求する戸田に対し、「憎んでもいない相手を殺せない」と拒否する勇治だが、 戸田はその場でイカへ変身すると、喫茶店に居合わせた客に次々とイカスミを浴びせていく。勇治と結花は逃げ出すが、 くしくも店を畳む前の“最後のコーヒー”を飲みに来た巧の前で、イカスミ焼却されてしまうマスター。
 ベルトを菊池家に置いてきた巧は変身する事ができず真理と逃げ回り、今作におけるベルトはあくまで装備品で、 持ち歩いていなければ使えない、という事をもう一つ強調。じりじりとイカに追い詰められていく巧は、 逃げ込んだ公園で真理に胸の内を明かす。
 「俺、怖かったんだ……あの人と親しくなっていく自分がな。だから店を辞めた」
 「なに言ってんの?」
 「もう最後んなるかもしれないから、お前にも一応謝っとく。おまえの親父の話、聞いてやれなかった」
 「いいよそんなの」
 「俺、人と親しくなんのが怖いんだ。人に裏切られるのが怖いんじゃない。俺が人を裏切んのが怖いんだ」
 「なんでそんな風に思うの?」
 「…………自信ないんだ、自分に」
 『ファイズ』も既に10年以上前になるので、近作と話の作り方が違って当然といえば当然なのですが、 このじっくりした進め方は今改めて見ると既に一周回って新鮮な感があります。逆に近作になぞらえると、 ここまででファイズが3つぐらいのフォームを披露した上でそれらのアピールの為に3倍ほどの戦闘シーンが入ってくるわけで、 それは諸々雑になるなぁ、と(^^;
 今の形で続けていく内に、いずれまた変化が起きてくるとは思いますが、先鋭化という面ではかなり行く所まで行っている感があるので、 揺り戻しになるのか、新たな道が開くのか。まあこの時代はこの時代で、ポスト『クウガ』から一つ突き抜けてしまった時期とはいえますが。
 「巧!」
 「「遅い!!」」
 電話を受けた啓太郎が駆けつけ、啓太郎なりにかなり頑張ったのに巧と真理がシンクロするのは、テンポとしては好き(笑)
 「変身!」
 ファイズはイカを圧倒し、相手の蹴りを受け止めて投げ飛ばし、宙に浮いた所に追い打ちの蹴りを入れ、 吹き飛んでいる間に必殺キックの準備行動、という流れは格好良かったです。
 円錐キックの直撃を受けたイカはその場から短距離瞬間移動能力で姿を消すと、 喫茶店から逃げ出した勇治と結花の前に戸田の姿で現れる。
 「最後の授業だ。オルフェノクの死を、お前達に教える。完全な消滅。それが……俺達の……死だ」
 戸田は2人の前で蒼い炎を噴き上げて灰となり、色々と雑な性格でしたが、この最期は格好良かったです。
 その戸田がイカスミを浴びせた柄シャツの男がよろよろと現れ、新たなオルフェノクへの覚醒の兆しを見せるところで、つづく。

→〔その2へ続く〕

(2017年8月16日)

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