■『仮面ライダー電王』感想・総括■


“今日までの記憶が全て 幸せとわかる日が来るハズ
誇りを持って 高く高く Climax Jump!”

 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた 『仮面ライダー電王』感想の、総括&構成分析。

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☆総括☆

 いーじゃん! いーじゃん! スゲーじゃん?!

 一言に集約すると、これかな、と(笑)
 フルCGによる変な電車、貧弱で気弱な主人公、ぶっ飛んだOP……などなど、新しさへの期待感もあるけど、正直、 諸々の不安が先行気味というスタートから、一気に良太郎とモモタロスが噛み合い、世界観に引きずり込まれていき、 軽妙なやり取りの数々が面白くなれば、後はもう、楽しむだけ。
 この嬉しい驚きこそが、今作を象徴するインパクト。
 そんな序盤とにかく大きかったのは、3−4話に傑作回が入った事。
 若干ややこしい設定を、児童層にも出来るだけわかりやすく伝える事に注力せざるを得なかった1−2話の次に、 『電王』の面白さはこれだ! というエピソードが入った事で、作品世界にぐっと引き込まれるフックになりました。また、 この3−4話は良太郎とモモタロスの基点となるエピソードであり、それが後々にまで影響を与えているというのが、 作品全体の統一感を高める効果も持ちました。
 ある程度、とっかかりの難しい作品という事もあり、序盤で視聴者を掴む為に作り手の気合いも入ったエピソードだったと思いますが、 実に素晴らしかった。
 個人的にファンというのもありますが、この3−4話と、《劇場版:俺、誕生!》における長石多可男監督の存在は、 『電王』という作品にとって非常に大きかったと思います。

 イマジンとの絆、タイムトラベル要素、「電車」モチーフなど色々ある今作ですが、全体を象徴するキーワードはなんといっても

 

 かな、と。
 《平成ライダー》シリーズはその立脚点として、「現代にヒーローを成立させるにあたり、 その背景として無自覚ではない“正義”を再構築しよう」という一つのテーゼを抱えている為、良かれ悪しかれ「正義とは何か?」 「ヒーローとは何か?」という問題を捏ねくりまわしがちになります。
 時にそれがぴたっとはまり、時にそれが物語を小難しくしすぎ、時にそれが色々やりすぎに繋がったり……と色々あったわけですが、 その中で『電王』を貫いているのは、だな、と。
 もちろん今作も、良太郎と侑斗という二人の仮面ライダーを通じて、今作の中でのヒーローの再定義付けというのを物語の中で行っており、 その部分もテーマとしてしっかり組み込まれているのですが、最後の最後、実は本作の最初から最後まで、 誰よりも長く戦い続けてきた男の姿が浮かび上がる時、その戦う軸になっていたのは、愛であった――。
 「正義」が無頓着に伝家の宝刀として振るわれかねないように、「愛」もまたマジックワードであり便利用語なのですが、 ここで今作が上手かったのは、その「愛」の焦点を狭めて絞り込んだ事。
 近しい人(例えば良太郎)だったり、見知らぬ人々の未来の為だったり、という英雄的大義の要素も多少は含むのですが、 しかしそれらはあくまで付属品であって、桜井侑斗が戦うのは愛理とこれから生まれてくる子供の為であり、 それは「恋愛」であり、「家族愛」である。
 そして何より重要なのは、桜井侑斗にとって未来はおぼろげなものではなく、 そこに確かに「これから生まれる子供の未来」が存在している、と知っている、という事。
 だからこそ桜井侑斗は、「未来」を守る為に、あそこまでの覚悟を決められた。
 「愛」というマジックワードを薄っぺらいものにしない為に、それを「家族愛」に集約し、その上で、 「個人の理由」と「未来を守る意味」を繋げる、という入念な仕掛け。そしてそれが物語を貫く鍵となる――。
 今作の解き明かされた構造というのは、突き詰めれば、自分自身に加えて自分の義弟(予定)と過去の自分自身さえ囮に使って、 桜井侑斗がカイに無理ゲーを仕掛けた、とでも言うべきものであり、その“もう一つの戦い”は、 「家族を守る為」という桜井侑斗の個人的なヒロイズムに集約されます。
 その意味で今作は、最後に愛が正義を飛び越える、という、 《平成ライダー》の抱えるテーゼを別角度からひっくり返すような事をしながら、しかし同時に、 これ以上なく《平成ライダー》のテーゼを描いている。
 勿論、シリーズを重ねる事でシリーズの持つテーマ性の変遷、というのもあるわけですが、 その点で『電王』は非常に根っこの所を描いてるし、ヒーロー物である事を自覚的に大事にしていた、と思います。
 表向きのお笑い要素で攪乱し、「ヒーローらしくないヒーロー」と言われそうなものを描きながら、 一方で非常に地道に「ヒーロー性」というのものを物語の中で積み上げており、良太郎、侑斗、イマジン達、 そして桜井侑斗、が「ヒーローとして成立する」姿を描いている、というのが、実は今作の芯。
 そこを貫いた所こそが、今作を傑作たらしめた一つの理由であり、メタ的に言えばその「ヒーロー愛」に訴えかける部分が、 愛される作品になった理由の一つであり、見ていて気持ちのいい部分なのかな、と。
 で、なぜ今作がかたくなに「ヒーローを描く」事にブレていなかったかというと、実は物語の最初から最後まで、 誰も知らない「一人のヒーロー」が居たからだ、という桜井侑斗の存在は、これまたメタ的な部分も含めて、まさにお見事。
 だから『電王』は、愛の物語だったのだなぁ……と、思うわけです。
 …………て、あー、これ書いていてようやく気付きましたが、振り返れば劇場版の主題の一つが、「家族」だったのか!
 『電王』は家族愛の物語である、というのは、既にその時点で暗示されていたのか。
 そう見ると、野上家が姉弟二人きりの家族である、という意味もまた出てきますし、 これは本編では一切語られていないので勝手妄想の類になりますが、古い望遠鏡を大事にしている描写など、桜井侑斗もまた、 家族が健在というわけではないのかな、とも思わせます。
 とすると、「失わせない為の物語」であった『電王』にもう一本、「失ったものを新たに手に入れる為の物語」 という側面も浮かび上がって、桜井侑斗と野上愛理があそこまでした理由、というのもより強固になり、実によく出来ています。
 なればハナさんが、一度失った時間を取り戻すに際して、ある種の転生をする事になったのは、必然であったのかもしれない (とまで行くと強引(笑))。
 桜井侑斗もある種、転生の道を選んだ、とも言えますし。
 まあこの辺りの時の流れと輪廻の問題は、深く考えるとSF的に大変ややこしくなるので、深く考えない方向で(笑)
 作品も大筋の合理性以外の所は、「ノリがいい方が勝つんだよ」理論(理論?)で突破しましたが、 結局こういうのは全体のプラマイの問題なので、エンターテイメントして良かったと思います。
 時々誤解されますが、フィクションのエンターテイメントにおいて、エンタメ性というのは常に上位存在であり、 時に劇中の制約を上回ってでも、エンターテイメントしている方が正しい事がある、という事こそフィクションの力であります。
 勿論、エンタメ性を万能視するあまり、エンタメ性が劇中の物語法則を食い破り過ぎるようなことがあれば、 それは物語を白けさせてしまい、結果的にエンターテイメントとしての価値を損ない、例えばご都合主義などと批判される事になります。
 しかしご都合主義というのは必ずしも悪ではなく、世界のリアリティや物語の合理性よりも、 エンターテイメントとしての劇的さが勝るべき所がある……要するにその使い方のバランスの問題、なのですが、その点において今作は、 非常に筋道とエンタメ性のバランスが良い作品、でありました。
 丁寧な積み重ねと、劇的な突破。
 そしてそれが、見る側の“気持ち良さ”に繋がる。
 両者が上手く噛み合った、優れたバランス感覚であった、と思います。

 今作を語る上で外せないのが、成功の大きな要因となったイマジン。
 個性の強い、というかアクの強い彼等は、しかし思い出/過去を持たない存在であり、人間の記憶に依存して初めて自分を保てる存在であった。
 そんな彼等が良太郎との旅を通して自らの記憶/思い出/時間を手に入れ、それによって「自分」を確立する。
 「自分」を手に入れたからこそ、彼等は消滅を覚悟で良太郎と戦い続ける事を選び、その結果として、 誰に頼る事もなく今という時間に存在できるようになる。
 感想本文でも触れましたが、積み重ねてきた設定と物語が見事に組み合わさった、素晴らしい着地。
 特に、作品として“1年間の物語”であった事に意味を持たせたのは、非常にお見事。
 少々メタな要素も含みますが、お笑いも、シリアスも、バトルも、全てあって今を作っている、それが大事なんだ、 というメッセージ性を含めた所には好感が持てます。
 また、イマジン達が今に存在を確立する事を通して、現実(現在)肯定の物語として落としたのも、良かった点。
 途中で一度、「変わった時間のほうが良ければ?」というカイの問いかけがあり、歴史改変要素を含んだ時間ものとして、 現在肯定に着地するというのは定番ではありますが、一度イマジンワールド(仮)を見せた上で、改めてそこへしっかりと収めました。
 またそこに至る過程として、お互いが別離を飲み込んだ上で、「迷えない」「迷わない」と戦う道を選ぶからこそ、 大団円にも一層の味が出ました。
 選択と別離の物語としては大団円に過ぎた部分もあるかもしれませんが、そこは前回触れたように、エンタメの勝利、という事で。
 基本私、ハッピーエンド好きですし。
 後まあその上で、都合良くいつでも出てきそうではありますが、良太郎が最後、パスを返して下車する、 という事で物語としては一つの区切りをつけ、良いフィクションの要件としての、現実回帰、を満たしてもいます。
 若干の商業的要因を思わせる展開の余裕は含みつつも、フィクションの物語として、一つの区切りをつける、ここは大事なところ。 その一線をきちっと引いたのも、作品として良かったと思います。
 そしてイマジンといえば、忘れてはいけないのが、着ぐるみ芸。
 基本、表情のない着ぐるみ(モモタロスだけは、瞼閉じバージョンのヘッドが何回か使われましたが)に、感情を見せる、 スーツアクターと声優の名演。
 スーツアクターと声優の演技により、怪人に個性を出していく、というのは長い特撮ヒーローものの中で蓄積されてきた財産といってもいい要素ですが、 それを前面に押し出して、イマジンを人間同様のキャラクターとして扱う。
 これをある程度割り切って行った事が、非常に成功を収めました。
 もともと、戦隊でもライダーでも、変身後はマスクでの芝居となり、それを活かした演出というのもありましたし、 例えば『特捜ロボ ジャンパーソン』のように、主役が終始、着ぐるみである、という作品さえも存在します。 表情のないところに表情を見せ、物語を紡ぎ上げる。そういった演出の蓄積と、それで面白く見せられるという脚本の自信、 それらを重ね合わせて辿り着いた着ぐるみ芸の極致としても、 一つの記念碑的作品であったと思えます。
 また、後に『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011)が、変身後のヒーローに別のヒーローを“降ろす”という、 かなり複雑な事をやってのけるのですが、その一つの前段階として、伝統的な仮面劇の延長線上で、仮面の芝居とは別に、 人間(良太郎)を着ぐるみに見立ててイマジンを“降ろす”というのも、非常に面白いアプローチでありました。
 ここで、重ね重ね非常に僥倖であったのは、佐藤健という俳優を引き当てた事。
 憑依状態の演じも分けもさる事ながら、特筆すべきは、声の演技の巧さ。
 本職の一流声優達を向こうにして、内部の“野上良太郎の声”として渡り合ったのは、極めて見事だったと思います。
 かなり早い段階から、声音だけで(もちろん演出もありますが)、怒っている/怒っていない、を表現できていましたし、 台本を汲み取る力、表情抜きでの細かい台詞へのニュアンスの込め方の巧さは、今作の大きな武器となりました。
 特に、これは表情の演技も含めてですが、良太郎があまり“叫ぶ”キャラではないところで、わかりやすく叫ぶ事なく、 しかし台詞に確かに力を込めた演技をこなしたというのは、非常に素晴らしかったです。
 極端な話、“叫ぶ”のは誰にでも出来るし、それで盛り上げるのは簡単なのですが、敢えて叫ばないキャラクターと物語と演出を重視した、 というのは今作の一つ、挑戦であり成功でありました。
 佐藤健に関しては、個人的には演じ分けよりも(そちらも見事なんですが)、喋りの方をより評価していたり。

 キャラクターについて、ぼちぼち。
 実は、偏愛、という程のキャラは居ないのですが、お姉さん属性持ちなので、愛理さんは好きです。
 で、その流れで中盤以降は割とリュウタロスに共感(?)していたり(笑)
 あの絵は本当に気になっていたので、ミルクディッパーに届いて良かった。
 一つ物語と全く関係なく衝撃的だった事があるのですが……昔から『世界の車窓から』を愛好しておりまして、 そのナレーションでしか知らなかった石丸謙二郎という役者さんは、この声の通りの渋いナイスミドルなのだろうなぁ…… と思っていたわけです。わけなんですよ。で、今作で初めて、役者・石丸謙二郎を拝見して、 実は怪優系だったのか!と結構なショックを(笑)
 それこそ『世界の車窓から』繋がりを感じさせる石丸オーナーでしたが、訳知りのバランスブレイカーでしかし傍観者、という、 下手に扱うと物語を一気に白けさせてしまう難しいキャラクターを見事に怪演。ナオミさんともども、基本的に常世の人だと思うのですが、 その浮き世離れを設定ではなく演技で見せる、という素晴らしい存在感でした。
 『アギト』ヒロイン以来のレギュラー出演となった秋山莉奈演じるナオミは、つくづく、スタッフに愛されているなぁと(笑)
 押しすぎず、出しすぎず、きちっと賑やかす。そして時折の毒舌。
 いいサブキャラでした。
 イマジンズは、正直Mさんと被っている部分が多いし、使いにくいキャラだったと思われるキンタロスが、Mさん除く3人の中では、 最終盤で一番格好いい見せ場を貰った、というのは面白いバランスだったな、と。しかもキンタロスの見せ場の為に無理をするのではなく、 実にキンタロスらしい形での見せ場。
 「カイの阿呆が云うとったように、オレらには、思い出すような過去はない。そやけど、良太郎に拾われてからの事は、 全部思い出せる。俺は自分より、この時間を守りたいと思うとる!」
 は今作のテーマの根幹に関わる台詞であり、シーンとしても屈指の名シーン。
 他に第35話で、良太郎の持つ強さについて語るなど、はじめ肉体的な強さでMさんを蹴落としながら登場してきたキンタロスが、 後半になると、精神的な部分で他のイマジン達と違う角度で良太郎を評価している姿が描かれたのは、面白い所です。
 一方、脚本家も明らかに好きそうだし、性格的にもスキル的にも使いやすそうなウラタロスが、使いやすすぎて後半微妙に割を食った、 というのもちょっと面白い所(笑) 明らかにウラは本気で行動させると話がスムーズに進みすぎるので、出番制限を喰らっていたような。
 ど派手に登場し、株が大暴落し、劇場版を経て唯一無二のパートナーとなったモモさんは、全体振り返ると、 劇場版で持ち上げる前振りとしてTV版で丹念に落とされていたとしか思えないのが、何といっても凄い(笑)
 実際、劇場版以後の後半戦では、必要以上に落とされなくなりますし。
 むしろ、Kさん登場後の、容赦ない落としぶりが酷いのか。
 モモタロスに関しては、関俊彦のちんぴら演技の素晴らしさ、という所になんか集約されてしまう気がするのですが、 着ぐるみ芸を前面に押し出し、スーツアクターと声優の芝居に力を入れた今作の中でも、M良太郎時を含め、 高岩成二×関俊彦×佐藤健というのは、奇跡のトライアングルだったな、と。
 ゼロライナー組は最初の噛み合わない感じから、背景が明かされていくに従って徐々に作品世界に欠かせない存在になっていくのが、 完全に意図したわけではないのでしょうが、面白くはまりました。ほんとーーーに酷い設定だった……(笑)
 あとは、チャンプ、チャンプは散々ネタにしてきましたが、別に悪意はありません、いやホントに。かといって、特に書く事も、 思いつかないのですが(おぃ) 感想書きとしては、チャンプがチャンプに決まった時点で、凄く書きやすくなったので、 ネタ的に非常に有り難い存在でした、ありがとうチャンプ(待て)
 まあ、ああいう目鼻立ちのくっきりしたキャスティングに対し、単純に「お姫様」にしてしまわなかったのは、小林靖子らしい所だな、と。 ……結果的に、1人の修羅が誕生してしまいましたが。

 2話完結の前後編形式を基本とし、アベレージの高い今作ですが、特に好きなエピソードは以下。
第3話「アウトロー・モモタロー」−第4話「鬼は外!僕はマジ」
第7話「ジェラシー・ボンバー」−第8話「哀メロディ・愛メモリー」
第17話「あの人は今!も過去?」−第18話「時計仕掛けの婚約者(フィアンセ)」
第25話「クライマックスWジャンプ」−第26話「神の路線へのチケット」
劇場版『仮面ライダー電王 俺、誕生!』
第28話「ツキすぎ、ノリすぎ、変わりすぎ」
第29話「ラッキー・ホラー・ショー」
第32話「終電カード・ゼロ!」
第34話「時の間のピアニスト」
第35話「悲劇の復活カード・ゼロ」−第36話「憑かず、離れず、電車斬り!」
第42話「想い出アップデート」
第44話「決意のシングルアクション」
第47話「俺の最期にお前が泣いた」−第48話「ウラ腹な別れ…」−最終話「クライマックスは続くよどこまでも」
 3−4、7−8は、それぞれ良太郎とモモタロス、良太郎とウラタロス、の関係を収め、作品を軌道に乗せた序盤の名編。17−18は、 愛理の過去が明かされるとともに、良太郎とモモタロスが改めて対等な相棒に。
 25−26は、随所に劇場版の仕込みを交えつつ、通常の流れの1エピソードもこなした、という凄まじくアクロバットな大傑作回。 脚本家・小林靖子史上でも最高傑作候補といってもいいと思いますし、演出の舞原賢三監督も極めていい仕事。 00年代の東映ヒーロー史に輝く、超絶テクニカルエピソード。
 劇場版は、素晴らしくテンポのいい大傑作。
 28話は、感動の別離から抱腹の「クマ、クマぁー!!」へ、終盤まで続く今作のノリを決定づけたとも言える、CLIMAXフォーム登場編。 全体でも屈指のヒーロー的格好良さが前に出た回なのですが、お笑いのイメージが強いのはどうしてだ(笑)
 29話は夏の閑話休題怪談編。珍しい1話完結形式の中、ゼロライナー組は重要な展開が進んでいたり、良太郎の衝撃発言があったり、 テンポよくまとまっていて割と好き。
 32話は、ゼロノスカードの秘密が明かされ、各キャラクターが男を見せるゼロノス格好いい編。34話は、最後の仕掛けが強烈でした。
 35−36は、キンちゃんが良太郎の“強さ”を語るいい話から、遂にダブルライダー揃い踏みと盛り上げておいて、 衝撃のライナーフォームが登場する、という、ええ、これ以上のコメントは差し控えさせていただきます。
 42話は孤独を貫こうとする侑斗の真意が明かされ、良太郎と侑斗、2人の決意が真のダブルライダーとして炸裂する、名編。
 44話はイマジンズと良太郎が消滅を前に真の絆を結び直す、最終盤の傑作回。ラスト3話を別にすると、後半の最高傑作だと思います。 お互いを思いやるがゆえに一度は衝突した良太郎とモモタロスが、真の意味でのDouble-Actionに辿り着く、お見事。
 そしてラスト3話……と改めて振り返ると、盛り上げ所でほぼ外さない作品なので、盛り上げ所はだいたい好き、という身も蓋もない事に(笑)
 特に選りすぐるなら、3−4、25−26、44話、の3エピソード。
 25−26話は本当に凄かった。

 劇場版含め完成度の高さが際立つ作品ですが、個人的に何が好きかというと、
 物凄く丁寧にヒーロー物をやっていた事。
 本文から何度か書いていますが、表向き「アンチヒーロー」的な要素を散りばめながら、その実、 「ヒーロー」というものに非常に真っ正面から向き合っている。
 プロデューサーとかを考えると、ねじくれた末に気がついたら正面に回っていたのかもしれませんが(笑)
 アプローチは変則的ながらも、最初から最後まで実に筋の通った「ヒーロー物」であり、気持ちよく「ヒーロー」を描こうとしている。
 何よりそこが、今作の心に響いた所です。
 作品の内にも外にも愛のある、傑作でした。


★構成分析★

話数監督脚本決め技備考
田崎竜太小林靖子 俺の必殺技パート2〔赤いイマジン、良太郎に憑依
/良太郎、電王になる〕
田崎竜太小林靖子 俺の必殺技パート2/電車攻撃1
長石多可男小林靖子
長石多可男小林靖子 俺の必殺技パート2だぁっしゅ〔赤いイマジン、モモタロスと名付けられる〕
坂本太郎小林靖子 〔ウラタロス、良太郎に憑依〕
坂本太郎小林靖子 投げロッドキック/電車攻撃2〔ウラタロス、デンライナーの乗客に
/ロッド電王誕生〕
石田秀範小林靖子
石田秀範小林靖子 俺の必殺技パート3
長石多可男小林靖子 〔モモタロス株、大暴落〕
10長石多可男小林靖子 ダイナミックチョップ/電車攻撃3〔キンタロス、良太郎に憑依する
/アックス電王誕生〕
11坂本太郎米村正二
12坂本太郎米村正二 ダイナミックチョップ〔キンタロス株、大暴落〕
13金田治小林靖子 〔リュウタロス登場
/ガン電王誕生〕
14金田治小林靖子 ガン三点バースト/電車攻撃4〔リュウタロス、デンライナーの乗客に〕
15石田秀範米村正二
16石田秀範米村正二 俺の必殺技パート3と見せかけてストレートど真ん中
17坂本太郎小林靖子
18坂本太郎小林靖子 俺の必殺技パート5〔愛理の部分的な記憶喪失が判明
/桜井侑斗、登場〕
19舞原賢三小林靖子 〔ゼロライナー登場〕
20舞原賢三小林靖子 ヴェガボウガンショット〔ゼロノス登場〕
21石田秀範小林靖子
22石田秀範小林靖子 投げロッドキックヴェガボウガンショット
U電車攻撃/ゼロライナープロペラ微塵切り
23田崎竜太小林靖子 〔劇場版前振り編
/ジーク登場〕
24田崎竜太小林靖子 ダイナミックチョップ〔劇場版前振り編〕
25舞原賢三小林靖子 ヴェガソードアタック〔劇場版前振り編〕
26舞原賢三小林靖子 俺の必殺技パート5〔劇場版前振り編〕
27石田秀範小林靖子 〔劇場版前振り編〕
28石田秀範小林靖子 CLIMAXキック〔CLIMAXフォーム誕生〕
29田村直巳小林靖子 CLIMAXパンチ〔夏休み編〕
30田村直巳小林靖子 CLIMAXミサイル〔〃〕
31金田治小林靖子 ダイナミックチョップ
32金田治小林靖子 ヴェガボウガンショット俺の必殺技CLIMAXバージョン 〔ゼロノスカードの秘密が判明
/ゼロノスカード、0枚に〕
33長石多可男小林靖子 〔ハナ→コハナに〕
34長石多可男小林靖子 投げロッドキック/デンライナー&ゼロライナー総攻撃
35舞原賢三小林靖子 ゼロノスの攻撃〔ゼロノスカード、補充される〕
36舞原賢三小林靖子 電車斬り〔ライナーフォーム誕生〕
37田崎竜太小林靖子 〔カイ登場〕
38田崎竜太小林靖子 電車斬り(ガン)
39田村直巳小林靖子 大回転電仮面斬
40田村直巳小林靖子 スーパーデネブ砲CLIMAXキック〔ゼロノスゼロフォーム誕生〕
41石田秀範小林靖子
42石田秀範小林靖子 電車斬りスーパーデネブ砲
キングライナー合体攻撃
43柴崎貴行小林靖子
44柴崎貴行小林靖子 俺たちの必殺技CLIMAXバージョン
45舞原賢三小林靖子
46舞原賢三小林靖子 Wゼロノスキック電車斬り〔2007年1月10日の真相判明〕
47長石多可男小林靖子 〔キンタロス下車〕
48長石多可男小林靖子 〔ウラタロス下車
/全ての真相判明〕
49長石多可男小林靖子 俺の必殺技ファイナルバージョン〔カイとイマジン達消滅、時の運行守られる
/良太郎、下車〕

〔演出担当/石田秀範:10本 長石多可男:9本 舞原賢三:8本 田崎竜太:6本 坂本太郎:6本 田村直巳:4本  金田治:4本 柴崎貴行:2本〕
〔脚本担当/小林靖子:45本 米村正二:4本〕


 脚本は全体のおよそ9割を、小林靖子が担当。やや複雑な世界観のルール、序盤からの大胆かつ入念な仕込みと伏線、 とサブライターが入りにくい作品だった事もあり、非常に脚本家の色の出た作風となり、またそれがいい方向で完成度を上げました。
 一方で演出陣は出入りが激しく、8人が参加。年間通して関わったのは、最多演出の石田秀範ぐらい。また、2→23(田崎竜太)、 28→41(石田秀範)、34→47(長石多可男)など、担当回の間が大きく空いている場合も多く、結果的に若干、 演出陣の統一感を欠く事になりました。
 その中で、序盤は長石多可男と石田秀範が軌道に乗せ、中盤以降は舞原賢三と石田秀範が軸となり、 劇場版とラストを長石多可男が締める、という形に。長石多可男は別格、石田秀範は00年代のエースとして、 19話から参加し、難解な25−26話を担当して劇場版に繋げ、ライナーフォーム誕生編や、物語の真相に迫るクリスマス編など、 重要回を演出した舞原監督がいい仕事。

 そのつもりでメモしていたわけではないので若干怪しげな所もあり厳密ではないですが、決め技の炸裂回数は以下の通り。
 〔ソード:8 ロッド:3 アックス:4 ガン:1 ゼロノス:8 CLIMAX:6 ライナー:5〕
 散々ネタにしてきましたが、モモさん、一応、面目躍如(笑)
 思いの外、ガンが少なかったのはビックリ。これはリュウタロスの性格的に、戦闘はするけどあまりトドメにはこだわらない、 というのはありますが。後、とどめを刺した場合のみカウントしている為、技は使ったけど決着は付かず、という場合も当然あります。
 ゼロノスは登場時の強さ見せと、出番と見せ場確保の為にイマジンが増えて分業体制などもあった関係で、割と多め。
 CLIMAXとライナーフォームは、だいたい、後半を半分ずつ分け合っている感じです。今思うと、一話完結の夏休み編が入ったのは、 CLIMAXフォームの技を使い切る為だったのか(笑)
 ついでにパワーアップ展開を構成で追うと、主役のパワーアップが36話で終了している、というのは面白い所。 実質的な最強フォームに至っては28話で登場しており、最終クールでのパワーアップ展開が存在しません。一応、 新フォームとしては40話でゼロノスが赤茶色になりますが、パワーアップなのかどうかは謎。
 その上で、44話において、真のDouble-Actionに到達し、「俺たちの必殺技CLIMAXバージョン」が炸裂する、 というのが今作のお見事な所。
 電車戦の回数は7回。1クール目に各フォームの登場ごとに行った後は、大雑把に10話に1回程度。 巨大CG戦はそれほど好きでない上にテンポも悪くなりがちなので、あまりこだわらなかったのは、個人的には良かったです。
 もう一つ、全体の構成で大きな特徴なのは、黒幕的存在が最終クールの直前にようやく登場する、という所。 物語そのもの及び身内の謎で終盤まで引っ張り、黒幕的存在(カイ)も、ある意味ではミステリのギミックの一つである、 という大胆な構造になっています。その為カイは、対面する機会は結構あったものの、まともな戦闘は一度も行わないまま退場する、 とこれもなかなか珍しいボスキャラとなりました。

 以上、『仮面ライダー電王』感想、長々とお付き合い、ありがとうございました。

“さよならは終わりじゃなく 次の旅が始まる合図
運命を信じるなら いつかまた会う日まで
Climax Jump!”

(2014年2月20日)
(2017年5月28日 改訂)

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