■『キカイダー』感想まとめ2■


“ダークロボット 迎え撃て
人造人間キカイダー”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『キカイダー』 感想の、まとめ2(7話〜12話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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◆第7話「怪物ブルスコング大暴れ」◆ (監督:北村秀敏 脚本:伊上勝)
 キャンプ場を襲うダーク破壊部隊のブルスコング(か、可愛い……)により、 生徒たちをかばった女性教師が性能テストという名の辻斬りで惨殺され……後日、渋谷駅前でダークの脅威を訴える遺族の父子だが、 世間の風は冷たい。
 「ダーク……この言葉を私は聞いた事がある……」
 父子が去った後、路上に捨てられ踏みにじられたビラを拾った光明寺無職は、記憶のよすがを追い求めて父子の後を追い、 アイコン的表現として仕方ないのですが、なんだかんだ背広を着て現れるので、キャッシュカードの暗証番号ぐらいは覚えている疑惑が募ります。
 その頃、家に戻った遺族父は、いつの間にかリビングに置かれていた3つのトランクに首をひねると近づき……え、これ、 蓋を開けると妻のバラバラ死体が入っているやつでは。
 おそるおそるトランクを開いた遺族父は中身を見ると案の定悲鳴を上げ、そこに詰まっていたのはバラバラ…… はバラバラでもブルスコングのパーツ、と完全な猟奇殺人物の筋立てから、「バラバラ死体」のモチーフはそのままに、 ダークロボットの出現に繋げるのが、鮮やかな展開。
 「ダークの秘密を知った人間は死ぬ事になる」
 自分から名乗って自分で被害者を増やしていく、大変嫌なタイプの猟奇殺人ロボだったブル頭部が目を開くと喋りだし、 ラバーマスクがぐにぐに動いて……可愛い。
 冒頭からかなり残酷な殺人を行っている怪ロボットなのですが、寸胴体型と、 歯を剥き出しにした表情が逆にマンガ的なコミカルさを出している顔デザインが掛け合わされて生み出す絶妙な可愛さにより、 悪としての恐怖感はいまいち出ません(笑)
 基本、闇夜に現れ、家屋にもいつの間にか侵入している正調スリラー路線の筈なのですが…… 悪魔の笛の音が響くと宙を舞うパーツが一つに合体し、その造形物がまた、可愛い(笑)
 だが、KAWAIIだけがDARKじゃない! とブルは遺族父をくびり殺し、部屋に現れた謎のトランクは、 窓から入ってきたアンドロイドマンが回収する衝撃の処理で、 密室トリックなんて始めから存在したなかったのです。
 大変タイミング悪く、情報を求めて家屋に侵入してきた光明寺@記憶喪失は、 男を抱き起こしているところをその息子に見とがめられて殺人犯と誤解され、両手を真っ赤に染めながら弁解する描写がえぐい。
 「話を、話を聞いてくれ。私は殺していない……」
 「人殺し、人殺しー!」
 意図していたのかはわかりませんが、パイロット版で面白かった、連続殺人鬼・偽光明寺の要素が、 冤罪として本物の身に降りかかるのは面白い趣向となって、光明寺不審者、逮捕。
 「プロフェッサー、TVを、TVのニュースをご覧下さい」
 アシスタントロボ(可愛い)からの情報で光明寺逮捕を知ったギルにより、 警察署に送り込まれたブルスコングは首輪攻撃で3人の刑事を殺害すると光明寺の身柄を強奪するが、そこに響くギターの音色。
 「誰がやったんだ?!」
 「俺がやったんだ!」
 博士が殺人容疑で逮捕の流れから、開始9分にして登場したジローが、アンドロイドマン殺しを自白する のが妙に面白い流れに(笑)
 凄く高いところから飛び降りたジロー(今回、「光明寺の人造人間!」ではなく「ジロー」と呼ばれている)は、 生身ダブルチョップを浴びせると博士と共に逃走するが、その姿を遺族少年が目撃し……
 「あ! 父さんと母さんを殺した犯人が逃げる!」
 前回に続いて、後の井上敏樹が好んで用いる誤解とニアミスを重ねる話法が盛り込まれているのは、影響の有無を見るかはともかく、 面白いところです。
 「ダークに生まれし者よ……帰れよ……ダークに……ダークの元にぃ……」
 黒衣の袖を翻しながら笛を吹くギルの見せ方が大変格好良く、忠誠回路と良心回路の衝突に苦しむジローに迫る首輪ミサイルだが、 その爆発により笛の音が遮断された! とナレーションで説明が入り、スイッチオン!
 「ブルスコング、勝ちを焦ったのがおまえの命取りだな!」
 「なにを〜、最後に笑うのはこの俺様だ!」
 そのまま流すと、敵方の間抜けな行動がヒーローを助けた、で終わってしまうのですが、 そこでヒーローが敵の心理を指摘し挑発する事により行動の正当化が行われると共に、 即座に敵方が切り返す事で丁々発止の活劇的面白さが発生しているのは、極言すれば、怪人が喋れるのはこの瞬間の為にあった、 とさえいえる切れ味で、伊上脚本の冴える部分でありましょうか。
 恐らくその基盤は、更に一つ二つ前の時代のエンタメの文脈なのでしょうが、考えてみるとこの、悪玉に対する挑発的な言行は、 本邦ヒーローフィクションにおいては次第に“ヒーローとしてあまり好ましからざる言行”とみなされるようになったのか 、時代が進むにつれて減じていく要素ではあるかもしれません。
 余談にして雑語りですがその辺り、アメコミヒーローでは現在も生きている印象で、映画やゲームなどで、 本邦ヒーローとは別種の魅力を感じる要因の一つになっているかもな、と(そこで出てくるウィット混じりの表現などは、 本邦エンタメの苦手分野でありましょうか)。話がズレてきているかもしれませんが、洋ゲーやっていると、チンピラの語彙の豊富さや、 そのチンピラに対する侮蔑や挑発表現のバリエーションの多さ、は明確に違いとして感じる部分(笑)
 キカイダーとブルが激突している間に、朦朧としていた光明寺博士はその場を走り去り、記憶喪失なので仕方ない面はあるのですが、 映像上はどんどん、駄目な感じな人になっていきます。
 光明寺容疑者を追おうとした少年を、ブル首輪ミサイルからかばったキカイダーは損傷し、少年を連れてサイドマシンで逃走。 なんとか服部探偵事務所に辿り着くがダメージは大きく、右腕を直すにはダークのロボット工場を利用するしかない、 とギター背負って潜入アクションがスタート。
 半平の協力により後を追ってきたミツ子が修理を請け負って、博士の助手として培ってきたエンジニア技能を発揮するのですが、 作業前にジローの両手両足を念入りに拘束するのが、ダーク仕草です。
 …………ほ、ほら! 回路の調整中に誤作動を起こして、不意にダブルチョップとか飛び出したら人間の技術者はすぐに壊れてしまいますからね!
 ミツ子による修理は無事に完了するが、仕上げを前にブルスコングに踏み込まれてしまい、両手両足を封じられたジローは解体の危機。 だがその時、動力室に忍び込んだ半平の工作により高圧電流が流れて復活し、戦力としては突出したジローを、 人間の仲間達が助ける構図になっているのが手堅い。
 「工場もろとも、ぶっ飛ばせぃ!」
 良心回路を取り外しての再洗脳が無理と見るや切り替えの早いギルの指示により吹き飛ぶ工場だが、そこに響くギターの音色。
 「キカイダーめ! くたばらずに居たのか!」
 「そうともブルスコング! ダークの破壊部隊がある限り、私は戦うのだ!」
 高い所からホバー移動で大ジャンプしたキカイダーは、いつになくタメを効かせてポーズを取ると主題歌バトルに突入し、 今回は敵も味方も、トランポリンでよく飛びます。
 アンドロイドマンが直立3段タワーによる攻撃を見せるが、ひらりひらりとそれをかわすキカイダー。 ブルスコングの首輪攻撃を受けて振り回されるも拘束を脱すると必殺コンボを発動し、二段構えの大車輪投げからデンジエンドで、 谷底へと叩き落とされたブルスコングはあえなく大爆発するのであった。
 最後、カラカラと音を立てて無残に転がる歯車がロボットの亡骸として印象的で、台詞回しのキレやアクションの工夫に、 「ニュースで光明寺の行方を知るギル」「キカイダーの損傷箇所について部下と検討するギル」などの面白シーンも含めて、 全体的に見応えのある良エピソードでした。
 ……ダークに両親を殺害された少年は、ダークに負けずになんか前向きに生きていくよ! と70年代らしく投げ飛ばされましたが。
 そして光明寺容疑者は世間的には、警察官を3人殺して逃走中の凶悪殺人犯 にクラスチェンジした気がしますが、果たして、再会までに後幾つの罪状が積み上げられてしまうのか。
 なお、「ダーク!」「ダーク!」ってやっぱり言いづらいよね……という話になったのか、 今回からアンドロイドマンの奇声が「ギル!」「ギル!」に変更。同期『仮面ライダー』への意識でやってほしいとか言われたのかもですが、 相変わらず普通に話すので、この奇声そのものが、必要なのかどうかちょっと疑問ではありますが……。

◆第8話「カーマインスパイダーが無気味に笑う」◆ (監督:北村秀敏 脚本:長坂秀佳)
 縞模様を帽子に見立てているのが洒落たデザインのカーマインスパイダーは血を狙って子供を次々と襲撃し、 そこに現れたジローがスイッチオン! ダブルチョップで両手を切断されたスパイダーは逃走し、その光景を何故か、光明寺が見ていた。
 ダークでは全ての人間をダークの命令通りに従わせるXR4号を開発しようとしていたが、その完成には、性格的に無気力な子供の、 希少な型の血液が必要であり……
 「ええぃ! 専門的な説明はいらん!」
 芸術点10.00の駄目上司ムーヴを見せたプロフェッサー・ギルはこの後も、監視カメラ付きペンダントをジローに見破られて 「えぇ?!」という顔になり……長坂さんは割と、ナチュラルに悪役の格を落とす癖があったりするのでしょうか(笑)
 養護施設で暮らすケンイチ少年の血こそXR4号に求められていたものと判明し、 自らその身柄の確保に向かうもジローに見破られたダークのドクター、ジローに拳銃を突きつけても、あまり脅しにはならないような。
 悪いのは貧困だ! ダークを手伝って成り上がるのだ! と世間に憎しみをぶつけるドクターと、 スパイダー毒に苦しむケンイチ少年は幼い頃に生き別れた姉弟なのでは? と引き裂かれた肉親の悲劇(真相不明)がウェットなドラマとして挟み込まれ、 アンドロイドマンの襲撃を受けてキカイダーが一当たりしている間に、半平と少年は山へと逃げ込む。
 前回の、話のキレはいいが遺族少年は「強く生きろ」と投げっぱなし気味になる伊上脚本に対して、 養護施設で育った少年とダークに協力する女、二人のゲストに焦点を当ててドラマが展開するのが長坂脚本の味なのかとは思われますが、 少年が残したボーイスカウトの道しるべを頼りに一同揃って山を進むシーンなどはどうにも間が抜けてしまい、 この時期らしい(時に登場人物の心情を置き去りにしても)右に左に動き回る展開と、 そこに組み込もうとする人間ドラマの折り合いが上手く付かず、もたついている印象。
 究極的には、レギュラー縛りのミツ子・マサルを削ってしまえればまだスッキリしたのでしょうが、 それをしなかった上で養護施設の教員を加えた事で完全に人員オーバーになっているのは、苦しい作りになってしまいました。
 少年を発見するもギルの笛に苦しむジローは、敢えてスパイダーの吐く糸を顔面に浴びる捨て身の作戦で笛の音を遮断し、 顔面から大量のスパゲティナポリタンもとい蜘蛛の糸を垂らしながら、チェンジ・スイッチオン!
 ちょっと今時感のある、“敢えてやる”系の演出で、72年作品で見るとなんだか新鮮。……まあ、ここにあるという事は、 探せば類例は色々とあるのでしょうが。
 今回もアクロバット方向のバトルとなり(一部明らかに映像を使い回していますが……)、アンドロイドマンを蹴散らすキカイダー。
 対してネット攻撃を行うカーマインスパイダーだが、サイドカーで走り出したキカイダーにより自らの糸でグルグル巻きにされてしまうと、 トドメの必殺コンボを受け、デンジエンドの藻屑と消えるのであった。
 一方、解毒剤を打たれたケンイチ少年は助かるが、散々スパイダーウェブに締め上げられたドクターの命数は、既に尽きようとしていた……。
 「……教えて下さい……ケンイチくんは、本当にあたしの弟なんですか……?」
 「……わからない。でもねユカさん、困っている子供はみんな弟だ。そう思ってもいいんじゃないですか?」
 ジローの言葉に微笑を浮かべた女は事切れ、ダークに協力した罪を精算して終わるやるせない幕引きとなり、 元気を取り戻した少年らに見送られ、走り去っていくジロー。
 ナレーション「ダーク破壊部隊・カーマインスパイダーは、キカイダーに倒された。が、探し求める光明寺博士はどこか。 幸せを掴むのはいつの日か。ジローはゆく。果てしない戦いの道を」
 次回――ナレーションで「怪獣」と言われるレッドコンドル登場。
 「その嘴から発射される、恐るべき新兵器・コンドル光線」にワクワクが止まりません。

◆第9話「断末魔! 妖鳥レッドコンドル」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳)
 見所は、小学生に真っ正面から猟銃で撃たれるジロー(ダメージ0)と、サブタイトルで、 既に死んでいるレッドコンドル……!
 体にブロック状の模様が刻まれ、壁画というか塑像というか、かなり記号化されたデザインのレッドコンドル、 配色としてはシルバー:8のレッド:2ぐらいなのですが、遠目に見ると確かにコンドルっぽく見える……かもしれません。
 そんなレッドコンドルが、虫取り中の子供たちの前に降り立つと口から赤色のコンドル光線を吐き出して焼き払い、 それを皮切りに次々と襲撃を受ける村人たち。さすがに子供たちが消し飛ぶシーンこそスキップされましたが、 前回のスパイダー糸地獄に続き、小学生でも容赦無く惨殺していくダーク破壊部隊!
 レッドコンドルは、ある生物兵器の研究にベストな環境だから、と天神村の住人を皆殺しにするとアジトを構えるが、 そこに光明寺博士がフラフラと辿り着き、出目がいいのか悪いのか……。
 博士の目撃情報を頼りにミツ子とマサルもこの地を訪れるが、侵入者を容赦無く抹殺しようとするコンドルの襲撃を受けて逃亡中に、 響き渡るギターの音色。
 コンドル手裏剣(弱そう)を軽々と打ち破ったキカイダーに右腕をもがれたコンドルは滑って転びながら逃走し……リアルに着地失敗した気配。
 ジローもまた、光明寺博士の足跡を追って村に辿り着いたのだが、合流した3人を襲う投石どころか手榴弾!  ……厳密には何かはわからないのですが、明らかに爆発しているので(笑)
 逃げた少年を追ったジローは、70年代東映特撮名物といっても過言では無い猟銃を向けられ、 天神村はさながら戦国!
 待機していたミツ子たちは村人と出会い、冒頭コンドルに襲われる人々の中で存在が強調されていた、 やたらと目立つ赤い服を着ていた女性が再登場する事で、ミツ子たちの前に現れた村人たちが偽物である事を示すわかりやすいサインになっているのが、 味のある演出。
 「どうだ? 光明寺はうんと言ったか」
 「それが、記憶喪失症のふりをしているようで」
 「強情なやつめ」
 一方、コンドルに囚われた光明寺は記憶喪失を信用してもらえずに拷問を受けており……雇用契約は口約束でいいのかダーク。
 うんといえばOK扱いなのが、ファジーなのかオカルトなのか判断に困るところですが、 コンドルがミツ子とマサルを拷問の材料にしようとしたところ、席を離れている間に光明寺、縄抜けして逃亡(笑)
 先日はビルの外壁をよじ登り、今回は拘束をゆるめて脱出に成功し……時代背景からすると戦時中は軍属だった可能性もギリギリありそうですが、 特殊な工作関係の部隊にでも所属していたのか、或いは、光明寺流忍術16代目の子孫なのか。
 (……ビルの壁程度は易々と登り、この程度の拘束は手首の関節を外せば造作もなく抜けられる…… カラクリ人形も闇に紛れて一対一なら首をひねる事は容易い……うう……私は、いったい何者なのだ……うぐぐっ……そ、 そうだ……いの6号計画…………御屋形様の為に、あの書状を消すのが拙者の使命……くっ……頭が……拙者は、俺、わた、私、 はワワワワタシは何者なのだダダ……)
 光明寺が失われた血の記憶に目覚めつつある頃、猟銃小学生の《説得》に失敗したジローは偽村人に接触。
 ミツ子とマサルを騙って峠に誘い出されるもその様子をいぶかしむと、前を行く村人Aの後頭部におもむろにノコギリチョップ!  を叩き込むウルトラ警備隊仕草により「やっぱりアンドロイドか」と喝破し…… 撃って溶けたら異星人だ! 撃って死んだら臆病者だ!
 アンドロイドマンを蹴散らしたジローはミツ子とマサルの救出に急ぐが、空を舞うレッドコンドルの強襲を受けて背後に組み付かれ、 迫る零距離コンドル光線と響くギルの笛の音による、ダブルピンチ。
 一方、村の近くまでミツ子とマサルを送ってくるも、無償で協力して好感度を稼ぐより、 報酬の無い仕事はしないプロとしての矜持にこだわり、見ようによっては紳士的だった半平が、 毎度お馴染み車の故障で村を訪れるとダークのアジトに迷い込んでおり、ミツ子とマサル、 そして唯一の生存者だった猟銃少年を救い出す大活躍。
 次回作のコメディリリーフの扱いがあまりに酷かったので、半平は、こんなに活躍していいのか……! と妙な感動が(笑)
 この半平たちの脱出劇とジローの危機が交互に描かれ、ジローの苦悶シーンがやたら長いのは、 ハンサムな主人公を痛めつける事で一定の需要と供給を満たすという、拷問メソッドのバリエーションでありましょうか。
 「負けだ! 貴様の負けだぞぉぉっ!」」
 「笛の音を、笛の音を聞こえなくしなければ……!」
 初めて自発的に笛の音封じに言及したジローは、咄嗟にバイクをフルスロットル。
 ナレーション「ジローの土壇場の知恵が、ギルに勝った!」
 の挟み込まれるテンポが大変良かったですが、ジローはもう、防犯ブザーを持ち歩いた方がいいのではないか。
 不完全な良心回路という致命的な弱点の克服を自ら拒否する事により、毎度毎度、自分や(守ろうとしている筈の) 他者の命を危険に曝しているのは見ようによっては間が抜けているともいえるのですが、しかし、ジロー本人が感じているように、 良心回路を完全にしてしまえばその時恐らく、ジローは“別の存在になってしまう”のであり、ある意味では、 自己や他者の命よりも“自分が自分である事”を優先しているのが、 1972年にしてジローのヒーロー像の面白いところで、(多分漫画版の力もあるのでしょうが) 今作が後世の東映ヒーローに深い爪痕を刻み込んでいる要因の一つでありましょうか。
 そこには勿論、“別の存在となったジロー”は、正義の為に戦う存在であり続けるのか? という疑義も含まれるわけですが、 それはまた裏を返せば、人は“無謬の存在”を信じる事ができるのか? もし信じるならば、 もはやそれは“神”と呼ぶしかないのではないか? という問題を孕んでおり、ダークに生まれた「原罪」を抱えるジローが、 “神”ではなく“己自身”たらんとするその姿は、ある種、信仰の苦悩の物語めいてさえいるように感じます。
 そうしてみると、次作『01』主人公であるイチロー兄さんは、ああなるべくしてああなったのが改めて感じられて面白いところですが、 話は戻って、チェンジ! スイッチオン! 1・2・3!
 変身したキカイダーはコンドル光線をかわすとダブルチョップを叩き込み、大車輪投げ。捨て身のコンドルブーメラン(翼を飛ばす) も弾き飛ばすとデンジエンドを放ち、対人用の大技は派手だった一方、総合的な戦闘能力は低め設定だったらしきレッドコンドルは砕け散るのであった。
 光明寺中忍は姿を消し、半平の大殊勲により天神村アジトが木っ端微塵に吹き飛ぶと、ジローはそのまま走り去り、戦いの道はつづく!

◆第10話「サソリブラウン 人間爆発に狂う」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:押川国秋)
 「俺はダーク破壊部隊、世界最強のアンドロイド、サソリブラウンだ」
 だいぶシンプルな造形だった前回のレッドコンドルに比べ、巨大な両手と長い尻尾が重量級のサソリブラウン、 このボリューム感が“怪獣ぽさ”に繋がっていると言われると成る程ですが、尻尾から放つ殺人光熱エネルギーで登山客を消し炭にし、 高笑い。
 「見たか! これぞ世界征服の武器だ!」
 爆発音を感知したジローが、消し炭と化した人体を発見する一方、アジトへ戻ったサソリは、ギルからも賞賛を受ける。
 「ははははは……これぞまさに、地球最後の武器だ!」
 繰り返し激賞される殺人光熱エネルギー、だが…………ダークオリジナルの武器では無かった。
 今回のダークが妙に世界征服に前のめりなのは、当時の作品にままある文芸設定の共有不備かと思われますが、 サソリは光熱エネルギー装置の量産の為に、オリジナルの特許権を持つ中堀特殊光熱研究所を襲撃。
 「さあ君たち、早くこいつを追い出したまえ!」
 壁から飛び出したサソリを見た中堀所長は所員にその撃退を命じ、ダーク怪人をちょっと困った酔っ払い扱いする所長、 頭のネジが緩んでいるのか或いは、酷いパワハラボスなのか。
 だが既に所員はアンドロイドマンに入れ替えられており、サソリはサソリで、来る必要が無かったのでは(笑)
 中堀所長は娘の前で誘拐されるが、サイドマシーンにまたがったキカイダーがトラックを追うと、 『マッハGoGoGo』ばりの走行妨害ギミックでトラックのタイヤをパンクさせ……あ、崖から落ちた。
 崖下で粉々になったトラックを悠然と見下ろすキカイダー、所長を助けたかったのか、 単にダークの気配を抹殺したかったのかまるでわからないのですが、一応、下に降りて残骸を確認。
 「……中堀所長の姿はない」
 東映刑事ヒーローばりの雑な仕事だった事を自白し、サソリブラウンが所長を抱えて脱出してくれていて本当に良かった……!!
 ジローに頼まれて中堀娘のガードに向かった半平は、かぼちゃパンツの王子様ルックでフェンシングの剣を振り回し、 馬の回あたりから疑問だったのですが、何故、今作のコスプレ担当は、半平なのでしょうか。
 ……いやまあ、他にやる人が居ないとはいえ。
 この後、「ミツ子とマサルを出す」「光明寺とニアミスする」といった作品の約束事が悪い方向に働いて著しくテンポを損ねるのですが、 中堀娘をダークから守る為にナチュラルに洞窟に潜むミツ子とマサル、サバイバル能力と精神力の基本値が、 そんじょそこらのレギュラーヒロイン&少年とは、桁が違います。
 戦いの舞台はハクリュウ谷へと移り、ジープのボンネットにひらりと飛び乗ったり、 逆にジープのボンネットからバック宙で着地を決めたジローは、サソリブラウンと激突。
 ジローに告ぐ! ジローに次ぐ! ダークは君の家じゃないか! 怒らないから帰ってきなさい、田舎のお母さんも泣いているぞ!  的な説得の笛の音が響くが、雷鳴がそれをかき消し、スイッチオン。
 サソリブラウンは巨大な尻尾を振り回して、ここしばらく減少気味だったKAWAII成分を供給するも、 ダブルチョップからの必殺コンボを受けると、デンジエンドの直撃により大爆発
 中堀所長は無事に娘と再会を果たし、ジローはゆく、果てしない戦いの道を――。
 過去に別作品(『ジャッカー電撃隊』『キカイダー01』)で見たエピソードから期待感低めの押川脚本でしたが、 押川脚本にしてはそこまで酷くなかったというか、無理が出ているところは概ね、番組の都合の感じられる内容。……まあ、 破綻度合いが異次元に到達していないというだけで、これといって面白かったわけでもありませんが。
 次回――今作にしては、ちょっと格好いい系の怪人登場?

◆第11話「ゴールドウルフが地獄に吠える」◆ (監督:北村秀敏 脚本:長坂秀佳)
 田所家に毎晩かかってくる不審な電話……そして塀を越えて侵入をもくろむ怪しげな黒衣の男…… 明らかな不審者として警官に呼び止められた男の胸には、不可思議な装置が。
 「なんだ貴様、人間じゃないのか?!」
 思ったより皆、人型ロボットに順応してくるな『キカイダー』世界……!
 先日のサソリブラウンといい、コスプレの不審者レベルの扱いが続きますが、満月の光を浴びて男の胸の装置がぺかぺか輝くと、 その姿が見る見るうちに金色の狼へと変貌し、ゴシックホラー調の導入で、美女とドラキュラ、と見せて狼男でした、の一ひねり (まあ予告とサブタイトルで「ウルフ」とわかっているとはいえ)。
 「言え! ゴールドウルフ! 命令も無しに何故に、田所博士の家など行った!」
 警官二人を殴り殺してアジトに戻ったゴールドウルフはプロフェッサー・ギルから叱責を受け、 その体内には光明寺製の良心回路が内蔵されている事が判明。
 ゴールドウルフは、月光電池にエネルギーが蓄えられている間は忠実な破壊部隊の一員だが、 そうでない時はギルの命令に従わない可能性を持ったアンドロイドであり、プロフェッサー・ギルとは、KAWAIIのプロなのであり、 人造人間の事は、光明寺にお任せです!!
 ギルが光明寺の確保に拘る理由の一端が明確になりましたが、そんな危うい状態のアンドロイドを野放しにしていていいのかダーク。
 これは、高度に政治的でスリリングな裏切られフラグプレイなのか。
 戦闘員に「ギル!」「ギル!」と連呼させているのも、ギリギリの所を攻めるロマンと露出狂的な快感の生み出すマリアージュなのか。
 秘密結社総帥の椅子とは、かくも人を狂わせるものなのか。
 プロフェッサー・ギルの性癖に重大な疑惑が浮かび上がる中、父の行方を求め、 記憶喪失の世界的権威・田所博士の元を訪れようとしていたミツ子とマサルは、これがまさかのどんぴしゃり。
 スウェーデンの学会に出席している博士不在の田所家に寝泊まりしている極めて怪しげな中年男性と化していた光明寺とはまたもすれ違い、 助けに出てきたジローをギターで殴り返そうとする暴挙に出たアンドロイドマンにさらわれてしまう二人だが、 その前に現れたゴールドウルフ良心体は、二人に逃走ルートを示す。
 「どうしてあたし達を?」
 「……私は……光明寺博士が好きだった」
 ジローよりも更に不完全な良心回路(テストタイプ?)を内蔵したウルフの目的は、田所娘のストーカー……ではなく 、田所家に厄介になっている光明寺博士をより安全な場所に連れ出す事にあり、 いやに短いスカートでヒロイン感を出す田所娘とドラキュラ風紳士の配置そのものがミスディレクションであり、 田所娘は眼中に無かったという、ムーンサルト。
 娘よ、これが、父のヒロイン力だ!
 ……
 ・悪の秘密結社に追われている
 ・記憶喪失でなんだか弱々しい
 ・大切な指輪を探偵への依頼料代わりとする
 ・特殊な力(技術)を持つ
 ・土壇場では幸運と知勇を発揮する
 ・組織から裏切り者を生み出す
 ……なんなの?! 光明寺博士、なんなの?!
 もはや、光明寺博士(CV:島本須美)みたいな事になっているのですが。
 ちなみに、レギュラーのミツ子さんを始め、登場女性キャラのスカート丈がだいぶ短くて今見ると少し驚きますが、 世界的なミニスカートブームが起きたのが1960年代後半という事で、TVドラマという要素はあるだろうにせよ、 それなりに時代を反映したファッションの範疇に収まる模様(多分)。
 ウルフ良心体の真意を知り、一緒に逃げようと持ちかけるミツ子だが…… 夜の訪れと共に月光電池が作動を始めるとウルフは凶悪な殺人ロボと化し、予告の映像だと格好いい系にも見えたのですが、 真っ赤なギョロ目に丸い両手(鉄球ハンド)で、そこにあるのはやはり、可愛い、でした。
 キカイ腹時計センサーによりミツ子らの元に駆けつけたキカイダーがウルフと激突するが、ミツ子の制止に手を止めた隙を突かれ、 ウルフバズーカ(ロケット鉄球パンチ)の直撃を受けてしまう。
 ひとまず田所家に運び込まれたジローだがミツ子の技術と手持ちの部品では修理する事が出来ず、 責任を感じるミツ子はアンドロイドマンの部品を拝借する事を思いつくと、おしゃれワンピース姿で、 ハンドバッグを小脇に抱え、小学生の弟をともなって、ダークの勢力下に向かう ミツ子さーーーーーん!!
 今回ミツ子さんがハンドバッグを携帯しており、年頃の女性としてのリアリティは上がっている一方、 ダークの施設に近づく際のリアリティは下がっているのですが、やはり基地破壊と因縁深い光明寺の血を引く者として、 バッグの中には自爆用のダイナマイトが仕込まれているのでしょうか。
 「この光明寺ミツ子! ダークに囚われておめおめと死ぬつもりはない! 一匹でも多く道連れにしてくれるわぁっ!! (ちゅどーーーん!!)」
 メンタルとサバイバル能力の高さではそんじょそこらのサイドキックには負けないミツ子が、 ダーク仕込みのステルスアクションに突入していた頃、田所博士のスウェーデン土産と称される巨大な狼の石膏像が届いた田所家には、 光明寺博士が戻ってきていた。
 ダーク構成員に追いかけられたショックからか、記憶に混濁の様子が窺える博士は、ベッドに横たわるジローを発見すると、 憑かれたように修理を開始。
 「なぜだ? なぜ私の手が勝手に動く?! ……私にこんなロボットを直す力があるとは……」
 深層の記憶に導かれるまま、黙々と作業を続ける光明寺博士の背後では怪しすぎた狼像に無数の亀裂が走り、 不在の父を訪ねてきた謎の男性を泊めたばかりに、毎晩の不審電話と怪しい人影に悩まされ、巨大な石膏像を送りつけられ、 これから自宅で一騒動起こりそうな気配の上で、ゲストヒロインでさえない田所娘さんが被害者すぎます(笑)
 光明寺ハリケーンを使う間もなく石膏像の名から飛び出したウルフに捕まってしまう博士だったが、 ステルスミッションに失敗してアンドロイドマンに追われ、 半平に助けられて逃げてきたミツ子たちとウルフが鉢合わせしたところにギターの音色が響き、ミツ子視点だと、 洋ゲーばりの死体漁りで部品を回収して戻ってきたら何故かジローが復活しているのは、面白い錯綜。
 まあその為に、ミツ子たちの姿を見た途端、ウルフが光明寺を放り投げてしまったのは強引になりましたが (優先命令を一つしか遂行できないにしても、どう考えても光明寺確保の方が優先なので…………小まめに確認しよう命令プログラム!)。
 「やめるんだゴールドウルフ! おまえは他の破壊部隊とは違う筈だ!」
 「だ、黙れジロー!」
 共に良心回路を持った機械の体、ウルフの説得を試みるジローの前で月が雲に隠れると殺意を喪失したウルフは良心体となり…… 太陽電池が機能しないと著しく弱体化するイチロー兄さん(次作『01』主人公)の逆を行く設定なのですが、面と向かうと、 とても面倒くさい(笑)
 ダークの軛を逃れるかと思われたウルフだが、満を持して響き渡るギルの笛の音に、ウルフとジローは揃って苦悶。
 「ダークに生まれしものは、ダークに帰れぃ!」
 更に再び月が顔を出してしまい、またも殺人ロボットと化したウルフに殴られたジローは、その衝撃で聴覚が途切れる事に気付くと、 敢えて左右のフックを連続で受ける事で笛の音を克服し、Mパワーーー!(ちょっと違う)
 「チェンジ! スイッチオン! 1・2・3!」
 変身成功したキカイダーはサイドマシーンに乗り込むとアンドロイドマンの周りを激走し、 アンドロイドマンの動きを見るにフィルムもだいぶ早く回しているのでしょうが、 縦横無尽に走り回るサイドマシーンの動きがかなりの迫力。
 「ゴールドウルフ! 今ならおまえを助ける! ギルの命令なんかに従うな!」
 「ウルフビーム!」
 「よせ、ゴールドウルフ!」
 「ウルフバズーカ!」
 ウルフの猛攻を辛うじてかわしながら説得を続けるも、鉄球パンチの連打を浴びせられ、追い詰められていくキカイダーは、 やむなく反撃のチョップ。
 「やめるんだゴールドウルフ……ぐっ、大車輪投げ!」
 あ、スイッチ入った(笑)
 「デンジエンド!」
 これも哀しいロボットの定めなのか、一度走り出した必殺コンボプログラムは止まらず、地面に膝を突いたゴールドウルフに向けて、 キカイダーはノータイムでデンジエンドを打ち込み、悲運にもその瞬間、月にかかる群雲。
 「……月が……月がもう少し早く、隠れていてくれたら……あおぉぉぉぉーーーん!」
 ゴールドウルフは殺人ロボと良心を持った人間の姿を行き来しながら転落し、無情にも大破。
 地面に散らばる歯車を、敢えてキカイダーのまま見下ろす姿に、機械の胸に宿る悲しみが強く示され、その瞳からこぼれ落ちるのは、 オイルなのか涙なのか……ジローは征く、果てしなき戦いの道を……!
 いわゆる“良い怪人”のエピソードでしたが、その組み込まれた回路により悪に染まりきれない怪人の苦悩を描き、 後の『01』後半戦の萌芽も感じさせる一篇。
 無口さでいらぬトラブルを発生させたものの、渋く寡黙なゴールドウルフ良心体が、説得力のある好キャストでした。
 そして何より、ものの勢いで田所家が吹き飛ばされなくて良かった。

◆第12話「残酷 魔女 シルバーキャット」◆ (監督:北村秀敏 脚本:島津昇弌)
 見所は、足を痛めた上司(ダークロボ)を置いて、一目散に逃げていくアンドロイドマン。
 下っ端戦闘員にだって、生き残る権利はあるのです!!
 そんな忠誠回路のクオリティが微妙に怪しい組織の首領、それもまたギリギリのスリルを味わおうとしているのかもしれない男、 プロフェッサー・ギルは、ダークの資金稼ぎ……の為ではなく、人造人間の能力増大の為、 日本に持ち込まれたムンガの秘宝を狙って動き出していた。
 その命令により桜ヶ丘美術館に送り込まれたシルバーキャットは、美術館長の娘を襲って姿形を奪い取り、 無気味に嗤うキャット人間体(女性)の化け猫モチーフと思わせる見せ方により展開と演出は怪奇路線なのですが、 シルバーキャットそのものが、ダーク怪人の典型例として目と頭が大きく、加えて手が短め(エジプト風宝石飾りのイメージなのか、 肩部分が大きいデザイン)な為、どうしても漂う、可愛い。
 一方、ミツ子とマサルは光明寺博士の友人であった美術館長の元を訪れており、ギルの目的の補足説明にしても、 秘宝の王冠に飾られている宝石を震動体に利用する事で人造人間の力を数倍に増幅できる可能性があるので父が“実験”の為に欲しがっていた、 と聞かされる館長は、どう反応すればいいのか(笑)
 ま、まあ、光明寺くんが無事だといいよね(宝石はやらんけど!) ……と館長が震えている所に館長娘に化けたシルバーキャットが乗り込んでくると秘宝を奪い、 ついでにミツ子とマサルの身柄もさらっていくが、それを妨げるギターの音色。
 ジローはキャットと美術館の屋根の上でぶつかり合い、ギターは大事な、打撃武器!(余談ですが、 ゲーム『龍が如く7』の職業「ミュージシャン」がギターを打撃に使っており、東映だ……と思いました)
 から、ギターで殴り返されてクリティカルヒット!!
 こやつ、出来るぞ……! と、生身アクションが割と長々と続き、3番に突入するEDテーマ。
 キャットクロー@遠距離、をヒラリとかわしたジローはチェンジしようとするが、タイミングを見計らっていたギルの笛に苦しみもがき、 迫る美術館爆破のタイムリミット。
 番組史上最大の惨劇……は先日の一村全滅に及ばずとして、人類の文化遺産が危機にさらされたその時、 根性見せた警備員が鳴らした警報により笛の音が途切れ、ジローはスイッチオン! 
 反撃に転ずると秘宝の回収にも成功したキカイダーは、美術館の爆破を阻止すると、秘宝を美術館に返却……せずに、 何故かミツ子とマサルをともなって洞窟サバイバルを開始し、ミツ子とマサルの安全を先に確保しつつ、 ダークに狙われている秘宝を守りながら囮にもなる、といった意図なのかとは思われますが、 キャットクローを受けた館長が死んでいる可能性もあり、これはもう完全に、強盗の一味なのでは。
 ジローの足音から、膝の不具合に気付いたミツ子は修理をする内に父との作業を思い出し、 改めて良心回路を完全にする事をジローに持ちかける。
 「……いや、僕は今のままでいいんだ」
 「でも、ダークの笛に苦しむあなたを見るのは、とっても耐えられないわ」
 「いいんだ今のままで。人間なんかになりたくない」
 「だけど、あなたは人間でないのが、哀しいって、言ったじゃないの」
 「それは! ……そんな意味じゃ、無いんだ」
 今回が初参加の脚本家という事もあってか、ジローの内心は特に掘り下げられませんでしたが、ミツ子の心情としては自然な上で、 1クール目の終わりに「放置されている弱点」でもある“不完全な良心回路”の意味に改めて触れたのは、良いタイミングでした。
 触れるもの皆傷つける勢いで秘宝を手にジローが走り去った頃、毎度お馴染み故障で立ち往生していた半平の車にこっそり近づいた光明寺が、 奥義・車抜け!
 ……何が起きたのかよくわからなくて二回ほど確認したのですが、やはり何が起きているのかよくわからず、 半平の車に潜り込んだ光明寺が、入った姿は確認されるが出て行った姿は確認されない衝撃の袋小路人体消失トリックで、 物質を透過して地中に潜ったのか、はたまた車の床に擬態して一体化してしまったのか。
 現在、光明寺博士だと思われているこの人物は、もしかして作戦の為に光明寺そっくりに変身した後、 記憶回路に変調を来したダーク破壊部隊・レインボーナナフシとかではないのか。
 すなわち、光明寺×コピー×ロボット=コゴロー。
 とにもかくにも、光明寺流忍法の奥義か、はたまたアンドロイドの能力か、半平の車を利用して追っ手のマーキングを外した光明寺 (コゴロー)が姿を消した後、秘宝を狙うシルバーキャットがミツ子らに迫るが、そこに立ちはだかるキカイダー。
 画面手前(カメラ下側)に隠したトランポリンを使っての奥方向への宙返りや、 トランポリンジャンプから土壁を蹴っての三角飛びなどを見せると、そのまま宙を舞ってアンドロイドマンを薙ぎ払い、キャットと激突。
 シルバーキャットが口から吐き出す火球・キャットファイヤーを機械の拳ではたき落とすと、マウントからの連続パンチを浴びせ、 必殺コンボでデンジエンド!
 ムンガの秘宝を守り抜いたジローがサイドマシーンで走り去った後、 ミツ子とマサルは半平の車の中で光明寺の名前入り万年筆が落ちているのを見つけ、光明寺博士はどうやって車内から脱出したのか。 その正体はダーク破壊部隊の一員なのか。ミツ子とマサルの強盗殺人容疑は晴れたのか。様々な謎を抱えながらコゴローは征く、 果てしなき逃亡の道を――。
 個人的に初見の脚本家でしたが、『キカイダー』としては、水準レベルの出来。
 ただ、ゲストキャラやモブ市民がざっくり殺されたり、生き残った関係者について放り投げっぱなしで終わるのが日常茶飯事だとしても、 父親(館長)も顔見知り(ミツ子ら)も登場するのに、犠牲になった館長娘について(その場でわからないにしても) なんらリアクションが無いのはあんまりで、さすがに、置いていかないでジローーーとかやっている場合ではなかったのでは、 と配慮が欲しかった点。
 また、今回にしろ押川回にしろ、「光明寺博士とニアミスさせる」のが脚本上の厄介な約束事になっており、 処理の出来不出来が露骨になってしまうのは、悩ましい部分となっています。

→〔まとめ3へ続く〕

(2023年6月3日)
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