■『キカイダー01』感想まとめ7■
“おお レッド&ブルー おお レッド&ブルー”
ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『キカイダー01』
感想の、まとめ7(37話〜41話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。
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- ◆第37話「剣豪 霧の中から来たワルダー」◆ (監督:今村農夫也 脚本:長坂秀佳)
-
OP、早くもマイナーチェンジされた映像で新キャラが登場するタイミングが、
ザンネンダーがめっためたに殴り飛ばされているシーンの直後であり、忍び寄る格差社会の気配。
霧に包まれた森をアキラとヒロシを探して彷徨うミサオは不気味な低い笑い声を聞き、振り向くと立っている、黒いコートと帽子、
包帯で顔を覆った男の背中にサブタイトルが入るのが格好良く、謎の男が指し示したのは、
ジャングルジムにくくりつけられたヒロシとアキラ。包帯男が気合いの声をあげるとアキラとヒロシに次々と手槍が突き刺さり、
直後に夢オチが判明するが、現実でもアキラとヒロシは姿を消しており、二人を探すミサオは、
夢で見たジャングルジムの付近で血に汚れた包帯とヒロシの上着を発見……するが、二人は怪我した犬を助けていたのだった、
とあっさり再会。
「犬」と「不気味な悪意」要素がこの後の展開に繋がっていくものの、ヒロシとアキラが!
というのは完全にショックの為のショックで筋から分断されているのが残念ですが、今更、
アキラとヒロシにフィーチャーされてもそれはそれで反応に困るのが、今作の陥ってしまった難しい部分。
その中で、ミサオと二人の関係性強化や、気がつくと屋根のある所に寝泊まりしている姿が描かれているのは軟着陸の方向性を示唆しているようにも見えますが、
前回は廃ビルに忍び込んでいたし、今回も、空き家に勝手に潜り込んでいるのではないかとドキドキはします。
一方その頃、シャドウ基地。
「なんだと!? 俺に犬を?!」
周辺地域の犬を皆殺しにせよ、と完全無欠の雑用を命じられた窓際社員ダーは当然のごとく拒絶しようとしていたが、
社長命令を強調されプライドの崖っぷちに追い詰められていた。
「儂は超一流の殺し屋、人造人間ワルダーを雇った」
「ワルダー? なんだそれは」
「ワルダーはことのほか犬が嫌いでな」
待って。
次回予告で盛り立てた悪の新キャラの株価が、あっという間に上場廃止しそうな勢いで転がり落ちていき、大丈夫か『01』……!
「犬の気配があっては、このシャドウ基地へ来てもくれまい。ワルダーにゼロワンを殺してもらうという儂の計画もふいになる。
ハカイダー! 5時間以内にこの辺りの犬どもを、皆殺しにするんだ」
すっかり落ちぶれてしまったハカイダーを象徴する下っ端仕事かと油断していたら思わぬ無茶を要求され……さすがにちょっと、
可哀想になってきました。
「ビッグシャドウめぇ……! これがハカイダー様にやらせる事か!」
だがもはや、独立起業の意志もとうに失ってしまったハカイダーは自棄になって犬の抹殺に励み、
そこに悪のある所センサーによりダブルマシンで乗りつけたイチローが立ちはだかる。
とうとう素手のイチローにあっさり愛銃をはたき落とされ、思い切り飛び蹴りを食らって無様にひっくりかえるハカイダー!
頑張れハカイダー!
「ハカイダー、罪も無い動物をなぜ殺すんだ」
「ま、待ってくれゼロワン」
さすがに今回は、弁解させてほしい。
ハカイダー危うしのその時、笛の音が周囲に響き渡り、霧の中から歩み出たのは銀色ベースのボディに赤い三日月型の胸甲を身につけ、
頭の上に付いた半球系のドームの中でくるくる回るパトランプ! たれ目が印象的な、かなりイカれた風貌の新たな人造人間!!
「……ワルダー!」
「いかにも拙者ワルダーでござるが、拙者をご存知のご貴殿は」
ひゃら〜りひゃらり〜こ ひゃら〜りひゃらり〜こ と、横笛吹いて時代劇口調のワルダーは、
胸部分のデザインをハカイダーと共通させてライバルロボの流れを汲みつつ、
黒いマント状のひらひらを加える事で羽織のモチーフを取り込んでおり、頭上のドームはちょんまげなのでしょうが、
ちょんまげの中に明滅するランプは必要だったのでしょうか(笑)
ガンマンとサムライ、卑劣と高潔、ハカイダーの逆を行く設定なので、ハ
カイダー頭脳をひっくり返したイメージが入っているのかとは思われますが。
(……強い。こいつは或いは俺以上に)
「やれ! やれぃ! 今がチャンスだ、ワルダー!」
(……隙が無い。こいつの前ではチェンジできない)
ハカイダーはワルダーにゼロワン抹殺を命じ、無言で佇むだけのワルダーを、
横できゃんきゃん吠えるハカイダーとイチロー兄さんの心理描写で持ち上げていき、
あらゆる悪役が自動的に格を下げていく事で名高い『01』では考えられないような、見事な格上げムーヴが炸裂!
イチローと間近で睨み合ったワルダーは、まだシャドウ組織と契約を締結したわけではない、と気ままな流れ者を称して去って行き、
その背を見送るイチローとハカイダー。
ナレーション「――恐ろしい奴。ワルダーというこの人造人間は、今まで見たどのロボットよりも強い。極度の緊張のあまり、
イチローの体内はオーバーヒートを起こし、冷や汗にも見える体内のオイルが全身をぐっしょり濡らしていた。
……静かなる対決が終わった。そう思ったイチローの心に隙が生じた。これをハカイダーが見逃す筈はなかった!」
あまりの実力差に、とうとうイチロー兄さんから路傍の石ころ扱いを受けてしまうハカイダーだがこれ幸い、
奇襲のクライマックスカニばさみを浴びせ、まさか……まさかの! (太陽電池の弱点を突いてハカイダー四段攻撃を決めた)
第2話以来35話ぶりのクリティカルダメージ!!
これが最底辺まで墜ちた者だけが繰り出せる、クライマックスV字回復ジャンプだ!
(なお、第2話の時はゼロワンの戦闘力は10分の1にまで落ちており、今回はチェンジさえしていない世知辛い現実については、
「勝てば官軍」という言葉を掲げさせていただきたいと思います)
「ふふふふふふふ、これで死ぬのは、貴様のようだな!」
至近距離からイチローに銃を向け、苦節37話、大事な基地を次々と破壊され、兄弟機も次々と木っ葉微塵にされ、
シャドウ組織に拾われて雑巾がけの忍従の日々、殴られても、蹴られても、爆発しても、放置されても、
しぶとく生き延び立ち上がり続けてきた者こそが最後の勝利を掴むのだ、と有頂天のハカイダーだが、今度はハープの音、
更にギターの音が響き、身も凍るデストロイの予感に慌てて撤収。
ギターの音とハカイダーの台詞だけで、キカイダーの存在を示したのは、実に秀逸……と思ったら、霧の中から現れたのはなんと、
二つの楽器を起用に抱えた服部半平。
「ハンペン!」
「正義の味方・服部半平、アンコールにお答えして、前回に引き続き、堂々二度目の登場」
色々なんでこうなってるの感はありますが、これは素直に面白かったです。……この後、
ミサオとまるで初対面のような会話をかわしてもいるので、やはり色々なんでこうなってるの感は湧き上がりますが(笑)
シャドウ組織では、ビッグシャドウの盃を受けたワルダーがゼロワン抹殺の仕事を請け負うが、
さっそく最低な感じで因縁をつける駄目な先輩ダー。
「ハカイダー殿とやら、拙者も御貴殿も、いかに力んだとて、所詮はただの作られた機械。争うなどとは愚かなること」
だがワルダーはそれに泰然自若として取り合わず、その態度を惰弱と罵るハカイダーとの格差は開いていく一方。
「拙者あくまでも、雇われ殺し屋が生業にござれば、痩せ犬の遠吠えなどいちいち気に致しておれぬわ」
しつこく絡んでくるハカイダーを舌鋒鋭く切って捨てるワルダーだが、興が乗った社長命令により両者は対決する事に。
物陰からビジンダーが見つめる中、ハカイダーショットを軽々とかわしたワルダーは空中から仕込み槍を放ってハカイダーの動きを封じると穂先を突きつけ…………剣豪?
サブタイトルに偽りありですが、侍は侍でも、剣士というよりは、忍者要素を加えた武芸者、という方向性の模様。
アクションのバリエーションの広げやすさ及び、アクション班の持つ蓄積を活かしやすいというのがあったのかとも思いますが、
ここに来て少々、伊上勝テイストが取り込まれた、という感もあり。
惨めに敗れたハカイダーは腹いせに子犬を惨殺して今回は大変犬に厳しく、それを見咎めた怒りのマリと衝突する事に。
「ハカイダー、私はあなたを許せません。ワルダーに負けた腹いせに、あんな可愛い子犬を殺してしまうとは」
「ほざくな。犬を殺せというのは、ビッグシャドウの命令だ」
今度は上司に責任を転嫁し、ハカイダーの格下ムーヴがとにかくキレキレ。
本来なら、新たなライバルキャラを持ち上げる為に先代ライバルキャラを必要以上に貶めるのはあまり誉められた手法ではないのですが、
戦歴といい扱いといい既にこれ以上なく奈落の底を彷徨っていたハカイダーが、新ライバルと対比される卑劣極まりない踏み台として機能する事により新たな輝きを手に入れ、
突き抜けた底辺ぶりが面白くなってしまう驚愕の空中殺法(笑)
正直、ここまで来てハカイダーが次のステージに到達するとは、夢にも思いませんでした。
「言い訳は、聞きたくありません」
「俺とやるというのか……面白い。相手になるぜ!」
「やってみますか? あなたの指と、私の動きとどっちが早いか」
マリは満面の笑みで構えを取り、完全に格下扱いされてるーーー(笑)
ところがそこに、子犬の仇を討とうとするヒロシが乱入して事態は混迷。両者危うしのその時、
卑劣な手段を好まないワルダーがハカイダーを攻撃し、そのまま格好良く立ち去ろうとするが、
アキラが連れてきた犬を見てフリーズしてしまう。
そう、幼い日のワルダーは、野良犬に、男の子の大事な(以下略)。
「ははははは。そうか、思い出したぞワルダー。貴様が犬に弱いという事をな」
崖を無様に転がり落ちようが、時間稼ぎぐらいはできるだろうという期待感だろうが、後輩にあっさり格下認定されようが、
いつだってアップダウンが激しいのが真のライバルの証明と生き残りのコツ、と嵩に掛かったハカイダーはワルダーを銃撃するも、
ビジンダーが参戦すると犬を連れて逃走し、逃げ足の速さも真のライバルの証明と生き残りのコツ!
「ワルダー、あなたほどの人が、なぜ犬なんかに」
「犬は、畜生ながら物の善悪を見極める心というものを持ち合わせてござる。悪い奴には吠える、泥棒には噛みつく。拙者それが、
恐ろしゅうござる。拙者には、その犬ほどの心の持ち合わせもない。それが腹立たしく、たまらなく恐ろしいのでござらば」
『01』名物、極端な弱点設定からの残念な展開、かと思いきや、己を「所詮はただの作られた機械」と任じ、
心を持たないロボットゆえに、犬の中に心を見出す事に恐怖する、という形でキャラクターの掘り下げと接続され、ワルダーが予想外に、
『01』ここまでの問題点に対応してきます。
ワルダーはゼロワンとの果たし合いの約束の為にバイクで走り去り、ビジンダーが「心」というものについて悩む中、遂に両雄は激突。
「ワルダー! 隠しているな! おまえの体は銃弾を受けている」
「お気になさいますなゼロワン殿。これは拙者の未熟さゆえの負傷。存分に参られよ。下手な同情は命取りになり申す」
奇天烈なデザイン・弱点は犬、と最初はどうなる事かと思われたワルダーですが、その実力と態度、台詞回しでひたすら格好良く見せ、
熾烈を極める両者の戦いが続く中、ワルダーへの意趣返しの為、犬を連れたハカイダーが崖上に登場。
動きの鈍ったワルダーにゼロワンの攻撃が突き刺さるが、ブラストエンドの発動直前、
咄嗟に放たれたビジンダーレーザーが事象変換を妨害し、撃ち落とされたゼロワンは谷底へと落下。自分の行動に慌てたビジンダーは、
ゼロワンの行方を探し、打ちひしがれる。
「ああ……私ってなんて事を」
「――気にするなビジンダー」
だが完全なるヒーロー・イチロー兄さんは笑顔で復活。
「俺が君だったとしても、多分同じ事をした筈だ」
ビジンダーの行為を責めないイチローが、ワルダーを「殺したくない相手」と述べつつ、「シャドウに雇われている限り、
殺らなければならない」と力強く宣言するのが時代を感じさせますが、実際のところ、
劇中描写だけでも相当の人的被害を出している悪の組織なので、そこは一線が明確であるとはいえます。
ナレーション「シャドウに、新しく客分として雇われたワルダーは、良心の無いことを悲しむ、孤独な人造人間だった。だが同時に、
恐ろしい腕を持つ、殺し屋ロボットでもあった」
いったい誰が作ったんだ感はありますが(この先の展開に関わってくる事はあるのか?)、
ワルダーがビジンダーと積極的に絡む事により、“人造人間達の物語”の空気がぐっと加速。
ナレーション「ワルダーに向けられたゼロワンの必殺技を、思わず封じてしまったビジンダーは、
今、とても哀しく、辛く、惨めだった」
の所で、カメラが岩の上に立つハカイダーに向けられるのは、意図的なのでしょうか(笑)
ナレーション「泣けビジンダー。ゼロワンにすがって泣くがいい。そして明日になったら、あの太陽のような明るい笑顔を見せるのだ」
マリ/ビジンダーが絡むと私情が入る事でお馴染みナレーションさんもハカイダーに負けず劣らずキレキレの名調子で激動の新展開を彩り、特に
「極度の緊張のあまり、イチローの体内はオーバーヒートを起こし、冷や汗にも見える体内のオイルが全身をぐっしょり濡らしていた。」
は非常に面白かったです。これもワルダーの仕掛けアクション同様、忍者マンガ的なテイストが見えるところですが。
「ゼロワンめ……ビジンダーめ……! 俺は必ず貴様達を、殺す! どんな汚い手を使ってでも、殺す、殺してやる!」
とても哀しく辛く惨めな立場だが遠吠えタイムは渡さない、と憎しみの炎を燃やすキカイダーが改めて悪逆無道をゆく事を宣言し、
つづく。
キザでストイック、実力と美学を兼ね備えた正統派ライバルキャラが出現し、
犬を見てプルプル震える一幕はあったもののひとまずその座を保ち切る『01』らしからぬ新展開となりましたが、
面白いのは、ワルダーが主人公・イチローよりもむしろ、ビジンダーとハカイダーの対比に置かれている事。結局、
ゼロワン/イチローに対するネガとは、“完全無欠の悪”という少々以上に厄介な存在になるしかない、という事情もあるのでしょうが、
これにより各キャラクターの陰影と立体感が一気に高まる事に。
また、“不完全な良心回路を持つ”ビジンダーに続いて、“犬を見ると心理的葛藤から硬直してしまう”ワルダーの姿は、
“ギルの笛に動きを封じられる”キカイダー/ジローを彷彿とさせるところがあり、
「前作主人公」として一段上のヒーローとして扱わざるを得なかったジローの持っていた要素を解体・再構築してビジンダーとワルダーに振り分ける事により、
イチローがそれらと向かい合う構造が改めて成立した、とも思えます。
となれば、ワルダーの登場によりネガ・キカイダーとしてのハカイダーの存在感が上昇するのは当然の帰結とも見て取れますが、
その過程において新しい面白さに到達してしまったのは、たぶんミラクル(笑)
今回何が面白かったかというと、物語のテーマ性とも繋がった格好いいライバルキャラとしてのワルダーが登場した結果、
組織もライバルの座も崩壊し何もかも見失って最底辺を這いずり回っていたハカイダーに、
ヘドロの底に沈む汚物の中の汚物としての開き直った新たな役割と輝きが与えられた事であり、
何よりも“真っ当な悪のライバルキャラ”を必要としていたのはハカイダーだった! この闇の底の光明が、
腐海の奥でどんな果実を実らせるのかは、楽しみにしたいと思います。
気になるのは、途中からザダムの気配が消失してしまった事ですが、明らかに持て余されそうな状況で、
ジャイアントデビルの様な扱いを受けない事は祈りたい(笑)
次回――文通、そして三角関係。
- ◆第38話「必殺の仕掛 血闘三つ巴!」◆ (監督:松村昌治 脚本:曽田博久)
-
見所は、郵便局にブラストエンド。
ゼロワンのターン! 魔法カード《ブラストエンド》の効果により、郵便局は木っ葉微塵に大爆発する!
荒野をバイクで走るワルダーを、何やらハカイダーぽいカットとBGMで見下ろすイチロー兄さんの姿で始まり、
悪役めいた登場があまり似合うので、しばらくこのイチローはハカイダーの変装なのでは? と疑っていたのですが、
特にそんな事はありませんでした(監督が初参戦という事で、従来と違うニュアンスが出たのかもしれません)。
イチローのストーキングを受けているとは知らないワルダーは、湖に己を映して見つめるマリの元を訪れると手紙を取り出すが、
木陰から様子を窺っていたイチロー先生は、おいおい君、先週転校してきたばかりでうちのマリにちょっかいをかけようとはどういう了見なんだい?!
と思わず割って入ってしまう。
「ゼロワン殿ともあろう御方が、他人の秘密をのぞき見するとは。――許せぬ!」
怒られました。
「闘争回路が殺人指令を出したぞ。殺す、殺してやる」
ワルダーは背中の剣を抜くとイチローに切りかかり、「闘争回路」の所で頭部のパトランプがアップになる事から、
チョンマゲ部分がワルダーの頭脳回路という事の模様。
マリが間に入って刃傷沙汰を止めると、いずれ果たし合いに際しては書状をしたため正々堂々と尋常な勝負を挑むと言い残してワルダーは撤収。
渡された手紙に目を通したマリは、ロボットとしての己を惨めに思うワルダーに対し、
作られた機械でも希望を持つ事を知ったと矢文を返す。
「ロボットが希望を持つ……?」
果たして、役割を持って生み出された人造人間は、その軛を超えて「正しい心」を持つ事が出来るのか?
完全無欠・問答無用のヒーローであるゼロワンが、「正しい心」を持つ者(劇中における“正しさ”の象徴)
としてビジンダーの理想の存在になる事で、「なぜゼロワンはヒーローなのか?」という部分が補強されるのですが、
そこにはまたゼロワン自身もそう作られた存在であるという一つの虚しさが生じ(ある意味で、イチロー兄さんには、
「“ビジンダーやワルダーのような心”がない」ともいえます)、東映ヒーローとしてそれに一つの解を出していくのが、
後の『特捜ロボジャンパーソン』になるのかもしれません。
「……希望……夢……全ては虚しいのでござるよ。正しい心など及びもつかぬこと。やはり拙者、殺し屋にすぎぬ」
口では言いながらもワルダーは筆を取って返信をしたため……
ナレーション「ニヒルな人造人間ワルダーと、孤独な人造人間マリの間に、いつしか、手紙のやり取りが始まっていた」
心に弱みを抱えた人造人間同士が、敵味方を超えて文通を始める、という強烈な展開(笑)
一方その頃、シャドウ組織はとある街の郵便局を襲撃して職員達を皆殺しにすると、それに代わるシャドウ郵便局を設置する!
「これこそ私が作り上げたシャドウ郵便局だ。本物の手紙を破り捨て、偽の手紙を配達して、人間の信頼感をズタズタにし、
世界を大混乱に陥れるのだ」
……そうか……頑張れ……。
だが偽手紙作成部隊のシャドウマンに鮮烈な煽りの才能があったのか、ハカイダー(一人称が「私」だし、ギル脳と混線中?)
の計画は予想を超える成果を上げ、街は憎しみを募らせた人々で大混乱。
「なぜ人々が、急にこんなにいがみ合うんだ……」
困惑するイチローは、目が合った途端に逃げ出した怪しい郵便局員を追いかける内にシャドウ郵便局員軍団と戦闘になり、
シャドウマンが爆弾封書を投げつけてくる、といった作戦内容と合わせたギミックの一工夫は好み。
その頃シャドウ郵便局では、律儀にポストに投函していたらしいワルダーからビジンダー宛ての手紙が、
シャドウ組織の手に落ちてしまう。
「お……これは、恋文ですな」
「よこせ。……ふふふふふふ……あの馬鹿者めが! よぅし、このラブレターを逆用して、ゼロワンとビジンダーを戦わせるのだ!」
これまで、ポジション的に「そこまで最低でいいのか……?」という戸惑いがどうしてもつきまとっていたハカイダーですが、
「最低でいいのだ!」という開き直りを宣言した事により、最底辺路線の切れ味を、大変素直に受け入れやすくなりました(笑)
「シャドウよ! 手紙は、人の心を託す、尊いもの! その手紙を悪用する貴様達の悪事、許すわけにはいかん!」
ハカイダーがせっせと馬に蹴られる準備をしている一方、シャドウ郵便局を発見したミサオ達の窮地を救ったイチローは、
再びシャドウ郵便局員軍団と激突し、襲い来る自転車配達攻撃!
下手な怪人相手より遙かに苦戦するイチローだが、チェンジ・キカイダーゼロワンすると今度は炎の車輪が次々と宙を舞い、
怪人ポジション不在の穴埋めという意識もあってか、戦闘員相手の戦闘シーンで色々と工夫を入れてくれたのは面白く、割とこの辺りで、
妙な満足感が。
更にシャドウ郵便局からの砲撃が大地を揺るがすが、ミサオ達を守って砲撃の中を駆けるゼロワンは、新技ブラストアタックにより、
雑な遠隔攻撃で砲台を無力化。
「ええぃゼロワンめ! これで終わりではないぞ。今この瞬間から、貴様にとって最後の闘いが始まるのだ。ゼロワン!
貴様の死に場所は、俺が用意してやった」
必殺のブラストエンドでシャドウ郵便局を廃墟に変えるゼロワンだが、ワルダーからの果たし状が廃材に手裏剣で突き刺さり、
一方のワルダーにも、ハカイダーの用意した偽の果たし状が届けられる。
ビジンダーとワルダーの交流を前振りとして、郵便作戦(阻止)→謀略による決闘、に繋がる二段階クライマックスの変化球なのですが、
ワルダーからビジンダー宛ての手紙が文面も紹介されないままマリにあっさり偽手紙と見破られてしまい、
「よぅし、このラブレターを逆用して、ゼロワンとビジンダーを戦わせるのだ!」要素が全く活用されない
にも拘わらず、ゼロワンとワルダーの決闘に我が事なれりとハカイダーが喜ぶので、だいぶ意味不明な事に。
放っておいてもワルダーとゼロワンは殺し合う筈なので、ハカイダーとしてはビジンダーに送った偽手紙で状況を悪化させる予定だったと思われるのですが、
文通要素と謀略が、集約されるべきところでどこかへ消し飛んでしまいました。
ワルダーの猛攻に追い詰められたイチローは、鎖を断ち切るとチェンジゼロワン。一気のラッシュを浴びせるが、
反撃の仕込み銃を受けたところで、両者の戦いをビジンダーが止める。
「お待ち。この戦い、ハカイダーが仕込んだ罠よ」
物陰で頑張れワルダーしていたハカイダーは、ビジンダーキックを受けて無様にひっくり返ると取り押さえられ、華麗すぎる三下ムーヴ。
手紙を盗み読んだ事をワルダーになじられると、
「ははははははは、バレてはしかたがない。怒るなワルダー。ゼロワンはこの俺様が殺してやる。文句はあるまい!」
完璧に意味不明な供述と共にゼロワンに銃を向けるもビジンダーにはたきおとされ、格上3人に睨まれると煙玉ですごすご撤退し、
ワルダーというスパイスの登場により、3クール目も終わる頃合いになって、遂に芸風を完成させた感があります。
ハカイダーに乗せられる形での決闘は本意ではない、と刃を収めたワルダーは、ビジンダーへも文通の終了を宣言。
「拙者は、しょせん作られた機械。その中でも最低の殺し屋でござる。せめて、ビジンダー殿が持ち合わせる心ほどでも、
理解しようと思ったが無駄でござったわ。はははははは……御免」
切なく乾いた笑い声を残してワルダーは去って行き、その背を無言で見送るしかないビジンダーとゼロワン。
マリはワルダーからの手紙を湖畔で焚き火にくべ、イチローはいずれ来る決着の日に向けて闘志を研ぎ澄ます。
「ゼロワン……俺の執念を見くびるなよ。俺はおまえを殺す。今度こそ、もっと汚い手で殺してやる」
そして、もはや底辺にこそアイデンティティを抱き始めたザンネンダーは、雪辱の炎に身を焦がしながら遠吠えを欠かさないのであった!
次回――「ゼロワンのブラストエンドも跳ね返す、強敵・空飛ぶ円盤が現れた」。
クライマックスで布石が活用しきれなかったのが残念でしたが、文通・郵便局員攻撃・次回予告、の3点で、
割合と満足度の高いエピソードでした(笑)
- ◆第39話「強敵宇宙人は空飛ぶ円盤で来る」◆ (監督:松村昌治 脚本:長坂秀佳)
-
「悲しめ……! ほざけ! そして死ね!!」
ハカイダーの大活躍は、約16分後!!
工場地帯を謎の空飛ぶ円盤が襲撃し、人々を守る為に立ち向かうゼロワンのブラストパワーも通用しない。
ゼロワンはブラストエンドを発動するが、人類の物理法則を越えた宇宙パワーにブラストエンドの事情変換作用がかき消されてしまい、
逆に撃墜されてしまう、という衝撃の導入。
……まあ、予告時点から宇宙服にばっちりシャドウ印なので脅威のニューカマー現る、という事にはならないのですが、
形状といい攻撃の規模といいその戦力といい、未完成に終わったジャイアントデビルの図面の一部が発掘され、
それをベースに作られた円盤ロボとでもいった感じでしょうか。
「宇宙から来た空飛ぶ円盤と思わせ騒ぎを起こし、日本中の一流科学者が調査に乗り出したところを、全員を誘拐する」
どうやら初動でゼロワンを撃破した事に気付いていないシャドウ基地では、ザダム発案の「宇宙人ロボットの円盤作戦」が進められるが、
割と凝った造形で着陸したUFOと、そこから降り立った宇宙人ロボの姿を、塾帰りの小学生3人が目撃。
常に1位を取り続ける同級生・一彦に劣等感と不満を抱く3人は、小さな悪意と出来心から、
凶悪な殺人兵器を持つ宇宙人と一彦を鉢合わせさせる事を思いついてしまう。
「あいつが居なくなれば、少なくともこの3人の内、誰かがトップになれるんだ」
「別に僕たちが殺すわけじゃないもんな」
「そうさ、あいつは宇宙人に殺されるだけなんだ」
なにぶん73年作品なので、ゲスト少年が無惨に溶け死ぬぐらいありそうなのがドキドキする展開で、
級友達に森へと誘き出される一彦だが、宇宙人ロボは別の場所に移動していて空振り。
事の首尾を確認しようと恐る恐る後をつけていた3人組はワルダーと出会い、全身銀色だったが為に宇宙人と誤解されるワルダー(笑)
そして、少年達の使いっ走りをするワルダー(笑)
「怪しい者ではござらん。拙者ご貴殿の友人に伝言を頼まれて参った」
生真面目に伝言役を務めるワルダー、この時点ではどうなる事かと思われたのですが、これがこの後、思わぬ形で大きく跳ねる事に。
3人組が再び宇宙人を目撃した公園に向かった一彦は、今度こそ宇宙人ロボと出会って冷凍ガスを吹きかけられ、
氷漬けになった上で溶解ガスの犠牲になりかけるがビジンダーによって助けられ、
そんな事態が起こっているとは知らずにイチローに切りかかったワルダーは、
自らの行為が一人の少年を氷漬けにしてしまった事に大きなショックを受ける。
「お笑い下されビジンダー殿。拙者一度だけ、一度だけでも子供達の味方に、御貴殿やゼロワン殿のような、
子供達に好かれる幸せをこの身に、味わってみとうござった……」
子供達の伝言役に甘んじたのは、ワルダーの抱える痛切な願いゆえだった事が明らかになり、背けていた顔を向けるマリ。
「でもワルダー、あなたは悪い子供達の味方をしたのよ」
「ビジンダー殿、悪い子供と申されるが、拙者にはその悪い事というのがさっぱり……なにが悪で、どれが善であるのか、拙者には、
それがわからぬのでござる。善悪の区別さえわかれば……」
ヒーローの基本則といえる「子供の味方」を忠実に行った結果、悪意に荷担してしまう事もあるのではないか、
という正統派ヒーローでは描きにくい仮定を、“ヒーローに憧れる存在”としてのワルダーを通して行う、
かなり刺激的な展開。
「善良な子供」の為、「“正しい”ヒーロー」が、悪意を見抜く、悪意に荷担しない、或いは結果的に荷担を免れる、
というのは(良い意味で)「フィクションの機能」なのですが、その“善良さ”“正しさ”を果たして無批判に振り回してもいいのか、
というヒーロー物そのものへの問題提起になっている感もあり、ワルダーというキャラを手に入れて、
長坂さんの筆が一気に走ります。
「……ワルダー」
ワルダーは、命に代えても円盤を破壊して子供を救う、とマリに宣言して足早に去って行き、一方、
3人組の少年達は今更ながら自分たちの行為に脅えていた、という子供の嫉妬を基盤に起きつつ、非常に生々しい展開。
一彦の妹と出会った3人は、一彦が自分たちを切磋琢磨しあう友人だと言っていた事を知ると、
テストの順位より大切なものがある事に気付いて森へと走り、3人組の悪意の行方が投げっぱなしにされずに物語の中で良い方向に解消されているのも、
今回良かったところ。
途中ワルダーに行き合った3人組は、謝罪と共に一彦を助けてくれるように頼むと案内を買って出るが、
ワルダーに先行を促されると宇宙人ロボの手によって無惨に氷漬けにされてしまう。どういうわけか少年達を見捨てたワルダーは、
宇宙人ロボは切って捨てようとするが、そこに開始16分でようやく姿を見せるハカイダー。
「女子供には手出しせぬと言ったな。その貴様が、3人の子供をなぜ、あんな目に遭わせたんだ」
「余計な斟酌はご無用に願おう。子供とは言えこの3人、友を殺そうと謀るとは言語道断。よって拙者、天罰を下したるまでのこと」
「はははははは、それがバカだというのだワルダー。貴様はこの3人が、友達を殺そうとした時に、その手助けをした。その上、
子供達が改心し、今度は氷にされた友達を助けようとした時に、貴様は逆にこんな姿にした。ふふん、天罰が聞いて呆れるわ!」
まさかの、ハカイダーに、人の心を説かれた!!
「拙者は……拙者は悪を助け、善を見殺しにしたと申すか。…………拙者は……拙者は……」
心を持たず、善悪の判断がつかず、それ故、善が悪に、悪が善に「変わる」事も理解できない(自身も「変わる」ことが出来ない)為に、
ちぐはぐな行動を取ってしまうワルダーの悲しみと苦しみがこれでもかと描かれ、氷の彫像と化した少年達の前で、
がっくりと膝を付くワルダー。
「楽にしてやるぜ」
懇切丁寧な説明は勿論、ワルダーへの精神攻撃だったハカイダーは無防備なワルダーの背に鉛弾を続けて撃ち込み、
肉体的にも苦悶するワルダーの絶妙な撃たれぶりも含め、素晴らしい名シーン(笑)
ようやく現れた正統派ライバルにより、「悪い意味で残念なライバル」の座からさえ転がり落ちて存在意義の消滅が危ぶまれたハカイダーですが、
顎の下まで浸かっていた小物の海に思い切って飛び込む事で「下衆で卑劣などうしようもない小悪党」
ポジションを手に入れてここまで光り輝く事になるとは、夢にも思わなかったミラクル。
人生に大切なのは、適材適所。
下劣極まりないハカイダーの手にかかったかと思われたワルダーだが、怒りのチョンマゲが真紅の輝きを放つと立ち上がり、
猛攻を受けて一挙に絶体絶命に追い詰められたハカイダーが、容赦なく撃たれ、惨めに這いつくばる姿も素直に見られるようになって、
奇跡の芸風ハカイダー。
「ハカイダー殿、お主まだ懲りぬか」
一方、イチローとマリは円盤撃破へと向かい、それぞれチェンジすると割とざっくり宇宙人ロボを撃破。宇宙服に身を包み、
声をチェンジャーで変えているだけの人間を、偽装作戦としての「宇宙人」の「ロボ」なのだ、と言い切った力技は、いっそ評価したい(笑)
だが円盤にはまだ待機メンバーが居たらしく、空中から強烈な爆撃を受けたゼロワンとビジンダーは手も足も出ずに爆撃の嵐を受ける事に。
再び地上に着陸し、スペース砲撃を浴びせてくる円盤に近付くこともままならない両者だが、その時、
ウェスタン調の格好いいBGMと共にバイクに乗ったワルダーが現れ、もう完全にヒーローのノリ。
約束通りに命を賭けたワルダーのバイク特攻にも耐えた円盤に対し、ゼロワンとビジンダーは決死の合体技・ブラストレーザーを放ち、
兄さん、兄弟の絆はどこにいったんだよ兄さん!!
恐らく、良心回路の同調による合体システムにより円盤ロボは虚空に散り、少年達は無事に元の姿に。ゼロワンとビジンダーは、
無惨に胸甲が砕け散ったワルダーを助け起こすが、肩を貸そうとする二人を拒絶したワルダーは、何も言わず、
夕陽を背に受け荒野に去って行くのであった……。
そして、仲良く走っていく子供達を、笑顔で見送るイチロー。
ナレーション「ゆけイチロー、ゆけゼロワン。果てしなきシャドウとの戦いの道を」
ぴんぽんぱんぽーん
本日の負け犬コーナーは、担当者なます切りの為、お休みとさせていただきます。
ぴんぽんぱんぼーん
次回――またしれっと予告に出てるなミサオ(笑)
- ◆第40話「脱出!! 冷凍ビジンダー危機一髪」◆ (監督:松村昌治 脚本:曽田博久)
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後半戦に入り、すっかりサブライターに定着した曽田先生が6本目。
シャドウ地下要塞建設の為に地下で奴隷のような扱いを受ける出稼ぎ労働者達が、工具とダイナマイトを手に脱出の為に決起。
だがその企みは鎮圧部隊によって呆気なく水泡に帰し、生きて家族の元へ帰る為に敢えて膝を屈し命乞いをする男は、
仲間達から裏切り者と罵られる事に……といったくだりは、学生運動に参加していたという曽田先生の実体験がベースにあるのかも、
とも思わせる生々しさのある展開。
武人として、決死の特攻を繰り広げた犠牲者達に感情移入するワルダーは、
命乞いする男を切って捨てようとするがハカイダーに止められ、前回に続いて、
ハカイダーの方が“人の心の弱さ・移ろいやすさ”を知っている、というのは両者の面白い対比になっています。
前作未見の為、ハカイダー前世の人格や、ギル脳がそこにどの程度の影響を与えているのか、というのはわかりませんが、
ワルダーの“高潔さ”というのは「作られた人造人間」の設計に過ぎず、
卑劣外道でいぎたないハカイダーの方が“人間的”であるのは今作がこの終盤に辿り着いたなんとも皮肉な要素であり、
しかしそのハカイダーにしても、「大切な者の為に石にかじりついてでも生き続けようとする、
真の“人の心の強さ”」はわかりはしないのだ、というのは良く出来た構造。
その頃、出稼ぎに東京に出たまま連絡の途絶えた父を探すも、シャドウの工事現場を邪険に追い払われ、
凍えるような寒さの中で震える幼い兄妹を助けようとしたマリは、あまりの寒さにエネルギー転換装置が限界に達してしまい、
凍り付いた姿を通りすがりのミサオに発見される。
「ねえ、死んじゃったの?」
「それがわからないの。この人は死ぬような人じゃ……人間じゃないからわからない」
かなりストレートに『マッチ売りの少女』から『幸福の王子』へと繋がっているのですが、
思えば曽田さんの初参加回は『人魚姫』(……人魚姫?)だったので、他にも童話を下敷きにしているエピソードがあるのかもしれません
(そういえば石ノ森版『キカイダー』は『ピノキオ』を下敷きにしていると聞いた事があるような)。
「人間じゃないの? じゃあ、神様?」
「……そうね。……この人は、神様ね」
蛇行と迷走の激しい今作に、一貫したテーゼを見るのはなかなか難しい(危なっかしくもある)のですが、
そもそもイチロー/ゼロワンが「日本を取り巻く、悪の力が増大し、巨大な、悪のエネルギーとなって動き出した時」
に仁王像の中から誕生した神仏の化身であった(太陽の力で衆生を救うものでもある)事を考えると、
不完全な良心回路を胸に善悪の狭間で揺れ動くマリ/ビジンダーが、ここで「神様」に喩えられるのは、かなり印象的。
前回「悪い子供と申されるが、拙者にはその悪い事というのがさっぱり……なにが悪で、どれが善であるのか、拙者には、
それがわからぬのでござる」と嘆いていたワルダーですが、では逆に、常にそれを“正しく”判別できるものが存在するのか?
と問えば、もはやそれは人ならぬ存在――場合によっては、善悪そのものを規定する存在――しかなく、果たして、
そうなる事は、望ましい事なのか?(少なくとも、マリが願う道なのか?)
優劣とは別に、“人間を超越した者”としてのイチローの立ち位置が、ビジンダー&ワルダーとの対比を経て、
かなりハッキリと定まってきた感もあります。
このイチローの超越性は、「人造人間」という要素をクッションにする事で肯定的に扱われるのですが
(逆説的には「人造人間」だからこそ超越性に至れた、ともいえますが、この辺りは、
「ウルトラマン」的なものの等身大ヒーローへの落とし込みといえるのかもしれません)、ここに至って振り返ってみると、
第25話において月面に取り残されそうになったイチロー兄さんが、「さよなら、アキラくん。さよなら、ヒロシくん」
と清々しく別れを告げてしまう姿は、悩まず・悔やまず・振り返らない、
イチロー/ゼロワンというヒーローの人間性の欠落をこれ以上なく描く、一つの到達点だったのだな、と(笑)
そしてワルダーにしろビジンダーにしろ、そんなイチロー/ゼロワンを一つの理想と見ているのですが、果たして「人造人間」は、
人に近付くべきなのか? 神に近付くべきなのか? という問いがそのまま、
「“人間”から離れていく“ヒーロー”」に対する懐疑的姿勢になっているのが、ここに来て今作の興味深いところです(ただし、
表向きはヒーローの活劇物としての体裁を崩しておらず、これも大事な部分)。
青ざめた顔でピクリとも動かないマリを発見したワルダーはその身柄を回収していき、一足遅れでその場を訪れたイチローは、
ミサオらから事の次第を聞く事に。
「ビジンダー殿、御貴殿の体の秘密、調べさせていただく」
ワルダーは手術台に横たえたマリの分解調査を始めようとし……
「いいぞワルダー、ボタンを外せ。3番目のボタンを外した時、マリの体内の核爆弾が爆発するのだ」
あ、それ、この局面でまだ拾うんだ……というか、そこ、建設中の最新型シャドウ地下要塞の中なのでは?
特に状況説明はないのですが、今作の作風や、
さすらいのフリーランスであるワルダーが設備の整ったアジトを持っているとは考えにくい事なから地下要塞の中と捉えるのが自然で、
そこにマリを連れ込むワルダーもワルダーですが、視野の狭さと錯乱した言動には定評のあるハカイダーは、
気に入らない流れ者と裏切り者を一挙に(建設中の要塞ごと)始末できるチャンスとばかり大興奮。
「馬鹿者! マリが爆発する時は、ゼロワンの最期の時だ」
だが、ドキドキ核爆発ハニーフラッシュで無敵ゼロワンもイチコロよ作戦に、割とこだわりのあったビッグシャドウに叱られる。
「「二番目のボタンを外したぞ」」
「安全装置を入れろ!」
急遽、セーフティ追加(笑)
「……ワルダーめ、ハラハラさせおるわ」
思わず席を立ってプルプルするビッグシャドウですが、見ているこちらの方がハラハラします!
そしてこれは、いい加減、マリのドキドキ核爆弾タイムは終了の合図なのでしょうか(笑)
ワルダーがマリのエネルギー転換器の故障に気付いた頃、兄妹の父を探す為に工事現場に潜り込んだミサオは、
やたら存在感のある潮健児シャドウマンに捕まってしまうが、イチロー参上。
ハカイダーらに命乞いをして腰抜けの裏切り者呼ばわりされた兄妹の父は、実は密かに脱出用トンネルを掘り続けており、
その完成まで誰にも言わずにじっと耐えていた事を明かし、作業員達はトンネルから脱出。
シャドウ作業員達を蹴散らし、マリを探すイチローは、工事現場の奥でワルダーを発見し、やはり、
地下要塞の中だよハカイダー!
「しょせん人造人間など作られた機械。どこからどこまで、全部機械でござる」
「ワルダー! 貴様、マリさんの体を分解したのか!?」
「と、なれば、どうするゼロワン殿」
「許さん! 許さんぞワルダー!」
「ほう面白い。今日こそ決着をつけよう」
キザでストイックで高潔な武人だが、デリカシー機能のついていなかったワルダーの行為が、紳士イチロー兄さんの逆鱗に触れ、
初めて互いに本物の殺意をぶつけ合う両者は、元ライバルそっちのけで、やたら盛り上がる対決に突入。
仕込みチェーンを引きちぎったゼロワンの、ドライバーからの連続カットがワルダーを捉え、更にキックが直撃寸前、
ビジンダーが間に入ってワルダーを助け、ワルダーはマリを解体していたのではなく、修理していたという真相が明かされる。
ワルダーの弱体化は、エネルギー変換装置の一つをビジンダーの修理に使った為である事もわかり、拳を収めるゼロワン。
「ビジンダー殿、余計な事を」
「そうだったのか、知らなかった。ワルダー、なぜ本当の事を言わなかったのだ!」
「……ふは、拙者は殺し屋。悪の人造人間に本当の事などありはせんわい」
あくまで自らの“作られた目的”にこだわるワルダーは、助けたのではなく調べ上げただけだと抗弁し、
ビジンダーを押しのけて立ち上がる。
「ゼロワン殿、今度こそ必ず御貴殿をバラバラにしてしんぜる。拙者は殺しだけが生き甲斐のロボット。
必ず殺し屋の恐ろしさを見せてしんぜる」
もはや、己に言い聞かせるように繰り返すワルダーの去りゆく姿を、ゼロワンはただ見送る事しか出来ないのであった……。
「ゼロワン殿、御貴殿には必ず勝つ。拙者は今後、殺し屋に徹するのでござる」
ラストお約束のサイドカー疾走シーンが新撮されて、とうとうダミーアキラくんが消滅し、遠吠えタイムを奪い取るワルダー。
果たしてこれは、転落の始まりなのか、それとも――?! 次回、風雲急を告げそうな更なる強敵現る!
……あ、物凄く久しぶりにザダム@お日様に弱い体質、が外出して、念動力で地面に穴を開ける事で時間稼ぎをしました。
時間稼ぎをしました。時間稼ぎをしました。
- ◆第41話「天下無敵 空中戦艦爆破!!」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:曽田博久)
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「「この空中戦艦が、本当の力を発揮した時に、全人類は破滅し、世界征服が可能になります」」
「世界征服……人類が破滅する……おお、俺はその日を待っていたのだ。ザダム、説明しろ」
「「空中戦艦は、世界の気候を自由自在に操る事ができるのです」」
超高熱による日照りや、超巨大竜巻を発生させる機能を備えた、シャドウの空中戦艦が出撃! その戦力は空飛ぶ円盤の1万倍で、
今度こそゼロワン対策もバッチリだ!!
「ザダム、俺をあまり喜ばせる事ばかり言うな! 俺はもはや世界を征服した気持ちになったぞ」
「「はあ、ただ一つ問題があります」」
しかし、強力な反面、機構が複雑になりすぎた空中戦艦はシャドウマンの頭脳回路だと扱いきれないかも……と不安を洩らした直後、
機器のトラブルに対応できないシャドウマンの姿が描かれ、暴走状態になった空中戦艦から一体が派手に落下。
もはや、劇中でどういう扱いなのか(どう扱えばいいのか)よくわからないアキラとヒロシがそれを目撃し、そこにやってくるイチロー。
「あの雲は……ただの雲じゃないぞ」
以前から思っていたのですが、こういった「じゃないぞ」といったような台詞の言い回しや力の入れ方、声のかすれたトーンが、
イチロー兄さん(池田駿介)と後のストレッチマン(宇仁菅真)は物凄くそっくり。もしかしたら役者さんに血縁関係でもあるのだろうか、
と調べてみたらそんな事はないようなので、純粋に、演技として後者が前者を意識した結果でしょうか。或いは、
ヒーローぽい喋り方を工夫した末の偶然の一致なのかもしれませんが。
不安の的中したザダムは、空中円盤を操縦できる優秀なパイロット確保の為にシャドウロボ・サタン
(邪悪さと黒さの増したネズミ男みたいな風貌)を送り出すが、暴走状態の空中戦艦からは次々とシャドウマンが墜落し、
今度はマリが花売りの少女を救う。
更に続けて、ワルダーが落下してきたシャドウマンを空中でぶった切り、変な方向で面白くなってきました(笑)
「おお、遂に免許皆伝の極意を覚ったぞ。今の技、ワルダー燕返しの秘術と名付けよう」
善意も悪意もなく、ただ己の技を磨いていただけのワルダーであったが、その行為は結果的に一人の少女(花屋妹)を救う事に。
「あなたは殺し屋なんかじゃないわ。私には、神様みたいに見えるわ」
前回今回と同じ曽田脚本において、いたいけな少年少女から人造人間が「神様」になぞらえられ、
少女の「いい人」絨毯爆撃から逃げるように走り去ったワルダーは、たまたまイチローと遭遇して戦闘に突入。
「拙者ご貴殿のその正義面が憎いのだ!」
自分が何者であるのか、己の中に迷いを抱えるワルダーは、純粋に正義の為にのみ戦う事に迷いのないイチロー/ゼロワンに憎しみを向け、
ワルダーと戦う度に、限りなく神に近い“ヒーロー”としてのイチローの人間性の欠落が浮き彫りにされ、
“ヒーロー”とは何かが相対化されていくのが、ワルダー登場後の今作の面白いところ。
だが対決は、両者まとめて空中戦艦のハリケーンに飲み込まれた事で水入りとなり、イチローとワルダーは、
道ばたに倒れていたところを花屋姉らに発見される。
花屋に運び込まれて息を吹き返したイチローは、空中戦艦撃破の為にシャドウマンの電子頭脳を求めるが、
それを回収しようとサタンが出現し、ゼロワンとの決着を望むワルダーは、花屋妹をもぎ離して刃を閃かせる。
「拙者、傷つけばつくほど戦いたくなる。参れ!」
「あなたはそんな人だったの?!
「いかにも。拙者しょせん殺し屋でござるわ」
振り切るようにイチローに切りかかるワルダーだが、前回なます切りにされた恨みとばかり、
毎度恒例お邪魔虫ダーが背後からワルダーを撃ち、しかしその追撃を阻んだのはビジンダー。
「この世に花があるところ、私は花の中から躍り出て、悪に立ち向かうのよ!」
先生を見習い、決め台詞からヒーローの道へ踏み出してみるビジンダーであったが、乱戦の中で花屋妹がサタンにさらわれてしまい、
花屋姉はワルダーへと怒りをぶつける。
「妹はあなたを信じていたのに! あなたという人は犬にも劣る人よ!」
「……拙者は……拙者間違いなく犬にも劣る男でござろう……」
己の美学ゆえに、悪役になりきれない悪役であるワルダーですが、ここで、
自らの韜晦を面と向かって他者から叩きつけられるのは実に強烈で、空を見上げて横向きのワルダーの垂れ目が、
泣き顔に見えてくるのが絶妙なカット。
辛くも確保した電子頭脳から空中戦艦のスペックを把握したイチローが、ビジンダーと共に空中戦艦に立ち向かう決意を固める一方、
悔恨に打ちひしがれるワルダーは二人に背を向けて立ち尽くすだけであり、ヒーローと非ヒーローの境界線を残酷に引きつつ、
ワルダーの抱える葛藤への描写が実に丁寧。
「ワルダー、もし私が死んだら、私の良心回路を、あなたに譲るわ」
「……ビジンダー殿、拙者、言うべき言葉もござらん」
両者が去って行った後、カメラは背中を向けたままのワルダー――何も出来ずにいる者――へとズームインしていき、
「人間性を喪失していくヒーロー」への疑義を呈する一方で、「そこで踏み出せる者」としてのヒーローの描き出し方が、鮮やか。
5人のパイロットを揃え、地上に竜巻攻撃を仕掛ける空中戦艦へ向けて突撃を図るゼロワンとビジンダーだが、
猛烈な砂嵐に阻まれてマシンで近付く事ができず、「後はただ一つ」と「ブラストエンドと、ビジンダーレーザーを体に転換して、
ロケット噴射のエネルギーに」とはつまり、信じれば空も飛べる筈!
空中戦艦に乗り込まれたサタンは貴重な戦力を預かっている自覚が足りなかったようで、
「死なば諸共」と洗脳したパイロット達&花屋妹を空中に放擲すると、自身は脱出。花屋妹らはゼロワンネットによって安全に着地し、
ワルダーが放った渾身の燕返しにより、逃げようとしたサタンは空中で両断される。
「モモコ殿、そなたを救ったのはゼロワン殿とビジンダー殿でござる。拙者ではござらん」
空中戦艦は、決死の合体技ブラストレーザーで灰燼と化し、それぞれの次の戦いへと旅立つマリとイチロー。
ナレーション「マリ、傷を癒やす暇はない。シャドウと非情の戦いは、一段と激しくなるのだ。立てマリ、進めマリ、希望の光が、
おまえを励ましているのだ」
本日も私情による肩入れの激しいナレーションさんはマリに熱いエールを贈り……
ナレーション「――イチローゆけ。シャドウとの総力戦に体当たりするのだ。たとえ五体が無惨に散ろうとも、
それは人造人間の宿命だ。進めイチロー、シャドウを倒すのは、おまえだ」
あ、ナレーションさんが、マリを生き残らせる為に、イチローを生け贄にする気だ。
メタな空間から不穏な動向が盛り上がる中、今度こそシャドウ帝国を打ち立ててみせるとザダムの遠吠えタイムで、つづく。
→〔その8へ続く〕
(2023年1月12日)
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