■『仮面ライダー1号』感想■


“原点にして頂点。爆音あげて甦れ!”


 ブログ「ものかきの繰り言」に書いた、 映画『仮面ライダー1号』感想のHTML版。

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◆『仮面ライダー1号』◆ (監督:金田治 脚本:井上敏樹)
 見所は、チンピラの手に割り箸を突き刺す本郷猛。
 しかし、その本郷猛の肉体は、度重なる戦いにより傷つき、蝕まれていたのだった……。
 コラボ元というか作品世界のベースになっている『仮面ライダーゴースト』は最序盤で脱落しているので、 『ゴースト』要素がわからない部分は割り引くにしても(本筋を追う分にはそれでほぼ問題ないのが良いのか悪いのか)、 これはせいぜい、45分で良かったのでは。
 あまりにも長すぎる1時間半が、終始間を持て余しながら進行し、半分に圧縮してなんとか、 映画として見られるテンポになったのでは、というのが率直にして最大の印象。
 とにかく冒頭のカラオケ(いきなりの仙人女装)に始まり、幕間がことごとくつまらないのが大変辛い上に、 教育実習生タケル殿にはツッコまないにしても、学園シーンも一つ一つがいちいちダラダラと長くてテンポを疎外し、 ノヴァショッカーと日本政府の交渉シーンに至っては、もはや劇が成立していないレベルの壮絶な面白くなさ。
 もともと個人的に、劇場版の金田監督は鬼門、というのがあったのですが、今回もどんぴしゃり。 ニンジンがあってジャガイモがあって豚肉があるので肉じゃがを作ろう、となるのではなく、ここはニンジンのシーン!  ここはジャガイモのシーン! ここは豚肉のシーン! と生の素材が次々と放り込まれ、ノー下味! ノー加熱! ノー調理!  画面から素材の味しかしてこなくて胃が痺れてきます。
 更に悪い事に……これは薄々予想はしていましたが、もはやヒーロー概念と高度に同一化した藤岡弘、演じる本郷猛が藤岡弘、 で本郷猛は藤岡弘、であり、メインディッシュはビーフスステーキというか牛一頭がもーと鳴いてそこを歩いている、 という素材の輝かんばかりのライブ感が拍車を掛け、藤岡弘、が“その後の本郷猛”を演じているというよりも、 “その後の本郷猛”は藤岡弘、になりました、という虚実の混濁が脳をかき乱す一種トリップ感を生み出す不思議な劇空間が展開。
 脚本も脚本で、全盛期の井上敏樹が持っていた台詞の切れも構成の妙もどこにも見当たらず、平坦にして平凡。唯一、 今作のヒロインである立花麻由(亡き立花藤兵衛の孫娘)が、再開した本郷猛に平手打ちをして走り去る、 という展開は多少のスパイスになっていましたが、それもすぐに和解するので物語として広がりがなく、効果が薄め。
 和解した二人のデートシーンも多少はほのぼのしますが、 停電した観覧車からの飛び降りを強要する本郷の図にも尺を採りすぎてかえって全体の緩急が打ち消されてしまい、 芸も工夫もなくそのまま繰り出される飛び降りとキャッチも、何もかもが素材のままで、噛みすぎたガムのような味。
 全体的に、企画にも名を連ねる藤岡弘、の意向が随所に反映されているのではと思われるのですが、 “時代に取り残されたかつての英雄”を描こうとしているのか、“不変の輝きを持った永遠の英雄”を描こうとしているのかで腰が据わっていないように見えるのも、 非常に気になった点。
 途中、ノヴァ狼に完敗した不可思議研究所一行が、助力を求めて本郷の元を訪れるシーンは、 山小屋で薪を割る本郷が「隠居した達人」扱いになっていましたが、キャラの立ち位置というか別の作品のプロットと混線していないかみたいな事になっていましたし。
 また、ライダー1号の活躍シーンが、せいぜいライダーキックでシオマネ怪人を爆殺したところぐらいなので、 タケルが「本郷さん凄いぜ!」と頼りにするほどのインパクトが足りない為、現役ヒーローが必要以上に情けなくも見えてしまい (本編でもそういうキャラなのかもですが……)、キャラクターとしての印象づけ含めて、 タケルが助けを求めても納得できるだけのトンデモヒーロー、としてのライダー1号という描写がもっと必要であったように思えます。
 そこを藤岡弘、のターンで尺を使っている為に、ヒーロー映画としては意識の混濁が発生してしまっているわけですが、 “最後の時間をたった一人の為に使おうとする男”と“若者達を導こうとする男”のせめぎ合いがドラマになっているわけでもなく、 描写としてはキャラクターの分裂を引き起こし、それが「本郷猛」なのか「藤岡弘、」なのかという立ちくらみと共鳴して今作における 「本郷猛」像がいつまで経っても見えてこず、最序盤に「本郷猛という記号」を劇中で提示するべきではなかったのかな、 と(構成としてはその要素にあたるシーンが、どういうわけかタイのチンピラとの乱闘シーンなので、映画全体が舵取りを見失った感)。
 そこは意図的に混濁させているところなのかもしれませんが、もはやいっそ、 「自分を本郷猛だと思い込んでいる藤岡弘、」が主人公で、 クライマックスに「俺は……本郷猛ではなかった!」と気付いてゴーストに戦いを託すメタ構造の方が面白かったのではないかとさえ思う出来。
 劇中で描かれる旧ショッカーと新ショッカーの内部対立も、旧態依然とした悪の組織の存在を消えゆくノスタルジーとし、 意図的に造形の粗い旧作怪人や、そのままだともはやギャグにしかならない目出し帽の戦闘員を露悪的に見せつけるという手法そのものが好きではないのですが、 それに対してブラッシュアップされた造形のノヴァショッカーが「世界征服」を否定しつつ掲げる「経済支配」というのが既に “古い”のは皮肉なのか練り込みの不足なのかは判然とせず。
 悪役の魅力が不足した、茶番のような内部抗争が盛り上がりに欠けるので(そもそも映像的な対比が面白くない)、 そこに割って入るライダー達もさしてヒロイックにならず、1号とゴースト&スペクターが時代を超えて共に闘う「悪」とは何か (テーマ的には「命を蔑ろにするもの」だと思うのですが)が劇中でしっかりと描き出されない為にそれに立ち向かうヒーロー像も確固たるものとならず、 故に「ライダーはなぜ戦い続けているのか」という最大のテーゼも劇的にならない、玉突き事故。
 ノヴァ狼の自我を奪ったアレクサンダー大王のアイコンも、ただ“暴走して暴れているだけ”でキャラクターとして成立しておらず、 ノヴァショッカーの展開していた日本停電計画も物語から消滅してしまうので、倒すべき悪が物語の集約地点に存在していない――それが、 「1号」と「ゴースト」を繋ぐものなのですが――というのはあまりにも酷すぎます。
 「……おやっさん、一緒に行こうぜ」
 本郷猛が立花レーシング跡地に隠されていたネオサイクロンにまたがり、あんなに高かった孫娘のヒロイン力が、 全て真ヒロインに持っていかれるのは、別の意味で面白かったですが(笑)
 で、甦った本郷猛がネオサイクロンを駆って突入してくるシーンは、この映画でようやく格好いいシーンだったのですが、 ここまで1時間15分、あまりにも、あまりにも長すぎました。
 そしてその場面で、タケル、マコトと並んで、地獄大使が地面に転がっているという、 粗悪なパロディみたいな絵を見せられてまたげんなり。
 「共に戦うつもりか、地獄大使」
 「今だけはな」
 因縁の敵同士が善悪を超えて共に闘う、という構図も、仮面ライダーとショッカーという関係性の中に持ち込んで面白いものとは思えず、 せめても今作に芯を作るならば、若者達との共闘に的を絞った方が良かったのでは……(スペクターの、 一部戦闘シーン以外ほぼ出てこない終始余り物感も悲惨で)。
 「許さんぞノヴァショッカー。この世で一番大切な物、命を守る為に、俺は戦う!」
 「あれ? 本郷さん、それ古いって」
 「……俺は本郷猛。仮面ライダー1号だ」
 一応、“戦う理由”は『ゴースト』本編と繋げつつ、普遍にして不変だと持ってくるのですが、上述したように、 それに対する「悪」がしっかりと定義されていないので、物語としては跳ねてくれません。
 何も面白くないのにここまで生き残っているコンドル怪人がほどほど健闘しても特に嬉しくなく、 ゴースト&スペクターのライダーアイコンによる連続フォームチェンジは、ただ物真似を連発するだけなので特に響かず、 一番格好いいのが地獄大使の鞭アクション、ってどうしてそうなった。
 現在の藤岡弘、さんの体型を反映したフルプレートめいた1号ライダーは、解釈としては面白いとは思うものの、 “異形の怪人”性は失われていて、個人的にはピンと来ず。“風の力”のイメージなのか、 変身時などに入る緑のエフェクトは格好良かったですが。
 地獄大使の身を挺した大活躍もあり、3ライダーはついに、アレクサンダーノヴァ狼を撃破。
 結果的には散々利用した挙げ句、 力を失い老いさらばえた地獄大使の介錯を拒否して笑顔で走り去る本郷猛大変鬼畜なのですが、 その背中に決着を懇願しながら力尽きる地獄大使、をアップで延々と見せつけられる視聴者の気持ちにはなってほしい。
 ところどころに顔を出す、制作サイドは何か言いたい事があるらしいが、その抽出の結果として面白くなくなった映像を、 ノスタルジーへの批判めいた自己満足のメッセージ性にすり替えてしまう行為は、 撮影前に楽屋裏に捨ててくるべきものだと思うので、個人的には大変、不快でした。
 良かったところ1:ノヴァショッカーの女幹部を演じる長澤奈央さんの生身アクション。 ライダー相手でもレイピアを振り回して互角に戦う、というのがアクセントして格好良かったのですが、 暴走したノヴァ狼になます斬りにされて死亡、という無駄なグロ演出(作品カラーとも全く合っていないので、 本当に意味がわからない)による最期がマイナスで、大変残念。
 また、ゴーストもスペクターも普通に殴りかかってしまっているのですが、途中はともかく、 最後は「変身してから爆死」というのは一線として守った方が良かったのではないかなと。
 良かったところ2:この退屈な出来の映画の中で、ヒロインの麻由は頑張っていたと思います。…………最後の最後で、 祖父に全て持っていかれましたが!!
 まあ祖父は、七大ライダーを統合する真ヒロインなので、仕方ありません。
 そんなわけで、最初からあまり期待はしていなかった低いハードルの更にその下に潜って浮上してこない、残念な一作でありました。

(2020年8月14日)
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