■『海賊戦隊ゴーカイジャーvs宇宙刑事ギャバン THE MOVIE』感想<完全版>■


“あばよ涙 よろしく勇気だ”


 ある夜、突然、謎の宇宙円盤の攻撃を受けるゴーカイガレオン。その圧倒的な猛攻にガレオンは不時着。地上へ降りた海賊達の前に 現れたのは銀色のスーツの未知の敵――その名を、「宇宙刑事、ギャバン!」
 「ゴーカイジャー、海賊行為の罪で、逮捕する!」
 だがデカレンジャーによって、ゴーカイジャー達の容疑はザンギャックによる捏造だと証明されていた筈。それが今になって、 いったいなぜ……?
 出会う筈のなかった宇宙刑事と宇宙海賊が、今、相対する!


 一言に集約すると、

 素晴らしい映画

 これに尽きます。
 見たいものがほぼ全て入った、極上のエンターテイメント。
 TVシリーズの戦隊映画に、メタルヒーローから『宇宙刑事ギャバン』を加えるという正気とは思えない企画で、単純明快なお祭り アクション映画になるかと思いきや、圧倒的なインパクトで登場する伝説の宇宙刑事に海賊との因縁をしっかり作り、全体を“キャプテン・ マーヴェラスの物語”として成立させました。
 終盤のマーヴェラスとギャバンの絡みは、実にいい味をだしています。そしてそれを見守る仲間達。
 誰に見せたいか、何を見せたいか、がハッキリしており、特撮ヒーロー映画として、誇りを持って貫かれている。
 また、こういった作品はどうしても、両雄並び立たず、或いは、あちら立てればこちらも立たず、となりがちですが、両者の魅力を ふんだんに盛り込み、重ね、現役の子供達のヒーローであるゴーカイジャーも、かつての子供達のヒーローであるギャバンも、どちらも おとしめられる事なく、見せ場たっぷり。
 スーツ姿のギャバンだけではなく、御年57歳の大葉健二の生アクションも満載。
 一条寺烈(大葉健二)は、先輩として、年長者として、ヒーローとして、魅力全開で、全編とにかく素晴らしく格好良い。それに対する 若者達(ゴーカイジャー)という構図も効いています。
 勿論、TV本編のオールスターキャストにお楽しみも加え、お祭り映画としても申し分のない出来。
 構成もしっかりして飽きさせる事なくテンポ良く進み、見せ場の持ち込み方も巧み。
 “本気”のヒーロー映画。
 30年と35年分の愛が詰まった、まさしく快作。
 興味はあるけど悩んでいる……というヒーロー物ファンの方には、是非とも見ていただきたい傑作です。

 以下、本編の筋に沿った感想(完全ネタバレ)。
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 冒頭、ゴーカイガレオンを撃墜するドル(ギラン)の宇宙怪獣ぶりにまずは興奮。
 吠えるドルとか、ガレオンに投げかけられる投光器とか、完全に怪獣映画のカット(笑)
 そして地上に降りたゴーカイジャー達の前に姿を現す「宇宙刑事・ギャバン!」
 子供達がショックを受けるのではないか、という勢いで、変身した5人を次々としばき倒す謎の銀ピカ。
 ただのオールドファン向けのネタ(認知済みの存在)としてだけではなく、圧倒的な戦闘力を持つゴーカイジャーの 敵、としてしっかりと演出されています。
 「スパイラル・キック!」(かなり意識的に、こう聞こえる)、「レーザー・Z・ビーム!!」と、マニア大喜びの必殺技もしっかりと 放ち、挙げ句の果てに、ゴーカイジャーのファイナル・ウェーブを、「バリアー!」で完全防御。
 目が点。
 「うそ? 効かない?!」
 「マジか」

 まさかの、宇宙刑事無双・完全再現

 いやー、今回、あくまで主役はゴーカイジャーですし、烈も年食っているという設定ですし、話の都合で弱体化はしているのだろうなぁ ……と思って見に行ったのですが、全くそんな事はありませんでした。
 30年前と変わらない、傍若無人の虐殺ぶり、対する悪にトラウマを刻み込む圧倒的な戦闘力で、ゴーカイジャー5人の身柄を確保。
 なお、この後も含め、ギャバンの活躍シーンでは、定番挿入歌(『チェイス・ギャバン』『蒸着せよ!ギャバン』)がインストで流れる など、実にツボをついた演出。
 個人的には、ボーカル入りでも何の問題もありませんでしたが!
 ダイダガ ダイダガ ダイダガ ダイダガ ギャバン!
 ……本気で、子供が引きそうですが。
 ギャバンに逮捕された5人は宇宙警察総裁ウィーバルの元へ連れて行かれるが、これは総裁にすりかわり宇宙警察を乗っ取った ザンギャックの一員アシュラーダを引っかける為の、ギャバンの罠だった。銃殺刑の寸前にギャバンの仕掛けで5人の手錠は外れ、 処刑を免れる。
 この辺り、ゴーカイジャーの無理筋の逮捕命令を出したというウィーバル(佐野史郎)が悪役なのは見え見えとしてどういう展開に するのかなーと思っていたのですが、ギャバンが騙されていたのではなく、むしろ罠を張っていた、という展開は良かったです。30 年分の成長が見られた、という点においても(笑)
 ちなみにパンフレットのインタビューによると、脚本(荒川稔久)のプロット段階では、アシュラーダはオリジナルキャラではなく コム長官に化けている、という案もあったそうです(笑) 子供にわからないネタが増えすぎる……という事でボツにしたそうですが、 ボツにして正解だったとは思うものの、コム長官灰色説を唱える私としては、出てきたら盛り上がったな……(笑)
 正体を現したアシュラーダは、ギャバンの戦闘データを元に宇宙警察とザンギャックの技術を結集して造られた戦闘用サイボーグ・ ギャバンブートレグを呼び出す! 宇宙警察の部隊に変装していたザンギャック一般兵も正体を現し、戦闘開始。ここで一条寺烈の 生身アクションも炸裂。
 御年57歳にして、トランポリンも跳んだという大葉健二が超格好いい。
 ゴーカイジャーは何故か見ているだけだなぁ……と思ったら、ゴーカイセルラーをギャバンに回収されたままでした。
 あくまでこれは宇宙警察の戦い、と、ゴーカイセルラーを彼等に返却し、救出に来たゴーカイシルバー(夜食の買い出しに行って不在 だった)と共に5人に脱出を薦める烈。
 その姿は、まさにヒーロー!
 (構成的には、ゴーカイジャーの“敵”として登場したギャバンが、ここでゴーカイジャーとはまた違う“ヒーロー”である事が明確に 提示されている)
 多数の敵に立ち向かっていくその後ろ姿と、「よろしく勇気、だよ」という言葉に、マーヴェラスは幼き日の 記憶を刺激されるも、一旦脱出する。ゴーカイジャーをとり逃したアシュラーダだったが、ギャバンブートレグとの連動により、 なんと《魔空空間》を発生させると、ギャバンをその中に取り込んで姿を消す……。
 かつてギャバンによって壊滅した宇宙的犯罪結社マクー……アシュラーダはなんとその首領ドン・ホラーの血を引いており、魔空空間を 発生させる事が出来るのだった!
 さすがにこれは衝撃の展開(笑) 出来れば、サン・ドルバ(駄目息子)みたいに名前で匂わせてくれると嬉しかったですが、やり過ぎと 判断したか。
 ザンギャック上層部に、ゴーカイジャー抹殺と宇宙警察乗っ取りの失敗を叱責されたアシュラーダだが、捕らえた ギャバンを拷問していたぶり、ドン・ホラーの血をたぎらせる事で、魔空空間を拡大・活性化してみせましょうと作戦の腹案を 進言。
 …………あー……間違いなく、ドン・ホラーの血です。
 ホント駄目だ、この血統。
 本人は割と大物の風格があったのに、なぜ子々孫々はこんな駄目人間ばかりに育つのか。

 一方ガレオンに帰還後、思い悩む様子のマーヴェラスは、ジョーとアイムに促され、もしかしたらギャバンは自分の命の恩人 かもしれない、と幼年期に忍び込んだ宇宙船で自分を救ってくれた男の事を語る。そこへかかってくる、非通知の着信(相手の声を 聞いてから驚いているので、多分、そう)。
 電話の相手であったバスコの呼び出しに応えた6人は、そこでバスコから、ギャバンが魔空空間に存在する宇宙最悪の刑務所、 数万年の間、誰も脱獄した事が無いという魔空監獄に捕らえられたと教えられる。
 「なんたって出来てから2万6千年間、ひっとりも脱獄された事がないっつー、死の迷宮だからね〜。
 つまり、そこに行くって事は死にに行くってこと。だからマヴェちゃん、ぜぇったい行っちゃいけないよ〜」

 説明が多くなるこのシーンでは、バスコ×ゴーカイジャーとザンギャクサイドを交互に見せる事で、会話が冗長にならないように工夫。 また、ザンギャック上層部の顔出し出演も消化。
 バスコはこの後、ゴーカイジャーの面々が魔空監獄へ突入している隙にゴーカイガレオンに火事場泥棒に入ろうとする、と情報を流した 理由もしっかりと描かれます。
 しかしその前に姿を現すのが、36番目のスーパー戦隊、特命戦隊 ゴーバスターズ!
 と顔見せサービスも鮮やかに挿入。
 劇中最強クラスのキャラであるバスコと戦わせる事で、新戦隊が映える、という構成もお見事。
 本編ではお亡くなりになったバスコ&サリーですが、トリックスターの魅力を充分に発揮してくれました。割とバスコ好きだったので、 最後に劇場で、やりたい放題な所を見られて良かった。

 バスコが立ち去った後のゴーカイジャーの元を通りすがったのは、曙四郎/バトルケニアと、青梅大五郎/デンジブルー。
 一息シーンで大葉健二キャラ揃い踏み、という完全にサービスお遊びなのですが、一応、「バトルケニアとデンジブルーのレンジャー キーを使えば魔空空間への扉を開けるかもしれない」と、物語にも絡めます。意味はわかりませんが(笑) でも、そういう風に絡める、 というのは大事。
 入ったら二度と戻ってこられないかもしれない魔空空間……命の恩人かもしれない男を救う為、マーヴェラスはたった一人でその死地へ 向かおうとする。
 だが、
 「それでは、参りましょうか」
 「……ちょっと待て、これは俺一人のこだわりだ。おまえらを巻き込むつもりはねぇぞ」
 「なに言ってんだ。ギャバンは、おまえの原点かもしれないんだろ」
 「マーヴェラスさんの原点、て事は、俺達の、大いなる原点って事ですから」
 「ちゃんと確かめたいじゃん」
 「そっ。やりたい事をやる。それが海賊ってもんでしょ」
 「おまえら……」
 アイムに突然声をかけられて固まっているマーヴェラスの握るレンジャーキーをジョーが奪い取り、反対側から肩を叩いたハカセが バトルケニアのキーを受け取ると、上述の会話を経て二人で魔空空間への扉を開く、という所は、いいシーン。
 (ここでそれぞれキー担当者が青と緑というのは配役の偶然なのですが、それを演出に取り込んでいるのがいい)
 またここで、マーヴェラスとギャバンの関係に加え、マーヴェラスを通じて海賊戦隊とギャバンを繋げ、更に海賊戦隊のモットーと 決め台詞を出す事で、“海賊らしさ”も失わせない、という流れは脚本の冴えがお見事。
 映画の時間配分としては、ここまででちょうど、全体の3分の1。
 魔空空間、そして魔空監獄への侵入に成功したゴーカイジャーは、牢屋に捕まっていた、過去シリーズの悪役達と遭遇。
 ここは完全にサービスお遊びシーンですが、うるさすぎない程度に巧くまとまりました。
 アフレコほとんど声優さん任せのアドリブ前提で撮ったらしい(パンフレットより)ですが、銀河万丈・真殿光昭・梁田清之・ 津久井教生・石田彰・渡辺美佐・櫻井孝宏が同じ画面で喋るという、異常な豪華さ(笑) 本編他にも、小川真司・江原正士・ 井上喜久子・千葉繁・加藤英美里・平田広明・沢木郁也・田村ゆかり・関智一と、なんのアニメだみたいになっていますが。
 まあ、東映特撮は蓄積あったとはいえある時期から、スーツアクターの技術と声優の技術、合わせて着ぐるみ芸に関して、むしろどうだ 凄いだろう、と開き直る傾向になったのは、個人的には良い方向だと思っております。
 牢屋前での騒動で敵に見つかったりしつつ、ギャバンの囚われた最上階へ向けて強行突破を図るゴーカイジャー。対するアシュラーダは 監獄内に<魔空都市>を発生させて、これを迎え撃つ!
 「監獄の扉を開けると、そこはオープンカフェのある街でした」
 などというネタをやりつつ、ゴーカイチェンジしながら駆け抜けるゴーカイジャーという展開で、次々と襲い来る敵に、 ×××、がそれぞれ立ち向かって最上階を目指す。
 ところで脚本の指定なのか演出の指定なのか、台詞とか立つ時の位置とか全体的に、今回の劇場版では、マヴェちゃんとアイム姫の絡みが 多く見受けられます。中澤祥次郎監督の趣味なのか、荒川稔久の趣味なのか、二人の共通の願望なのか(笑) まあ、荒川さんは微妙に アイムをヒロイン立ち位置気味に脚本書いている節はあるので(公式にどうこうというわけでなく)、恐らく主に後者。
 辿り着いた最上階、囚われの烈を前にしての、ゴーカイレッドvsギャバンブートレグの戦いは、中盤の見せ場。狭い空間と鉄骨を 利用してのバトルはかなり熱いです。マヴェちゃん、《一騎打ち:○》持っているので、ブートレグ相手に善戦。最終的には変身が 解けるほどのダメージを受けるものの、跳弾を利用して烈を助ける事には成功、と巧い戦闘のバランスの取り方。
 解放された烈は飛び降り、それを抱きとめるマーヴェラス。
 「やっぱりそうだ」
 その瞬間、10年前、潜り込んだ貨物船がザンギャックの襲撃に巻き込まれた時、「あばよ涙、よろしく勇気だ」の言葉で自分の命を 救って抱きとめてくれたのは烈であったと、確信するマーヴェラス。そして烈も、どこか懐かしい思いを感じていた。
 まあ、マヴェちゃんが烈を抱きとめるという絵面は変なのですけど(笑)、こういうドラマ部分をきちっと随所で仕込んでいる のは、今作の良いところ。
 全編通してしっかりと、キャプテン・マーヴェラスの物語、になっています。
 終始しかめっ面が基本のマヴェちゃんが、ここでカメラにだけ見える位置で笑顔を見せる、というのも実にいい。
 烈の救出に成功し、魔空監獄の突破に成功した海賊戦隊。元の空間へ帰還した7人だったが、ゆっくりと話す間もなく、アシュラーダと ギャバンブートレグ、ザンギャックの兵士達がその前に姿を現す!
 「あんた、いけるか?」
 「ああ。この程度の傷、なんてことはない」

 不敵に笑うマーヴェラスと烈(大葉健二の格好良さ!)が拳を打ち合わせ、そこに『ギャバン』挿入歌「チェイス・ギャバン」インスト がBGMとして入るのが、滅茶苦茶格好いい。
 そして――

 「蒸着!」

 お約束の「蒸着プロセスをもう一度見てみよう」は、ギャバン&ゴーカイジャーの特別仕様。ギャバンに続きゴーカイジャーが変身し、 出会う筈のなかった宇宙刑事と宇宙海賊が、今ここに揃い踏み!

「「「「「「海賊戦隊、ゴーカイジャー!!」」」」」」
「宇宙刑事、ギャバン!!」
「派手に行くぜ!!!」

 そして真打ち登場、BGMは「宇宙刑事ギャバン」(串田アキラ)、もちろんボーカル付き!
 この、ギャバンとゴーカイジャーが揃い踏みして名乗りを挙げるシーンは、本当に痺れました。
 30年と35年分の愛。
 ここまで来たんだなぁ……こんな物を劇場で見られるのだなぁという感慨というか、多分、ちょっと古めのファンほど、ぐっと来る。
 ヒーローへの愛を持っている子供達と、ヒーローへの愛を捨てられないままの大人達への、「ヒーロー、捨てたもんじゃないだろ?」と いうメッセージが聞こえた気がします。勝手に聞いてしまいました(笑)
 『ゴーカイジャー』のTVシリーズ本編もそうですが、とにかくお祭り企画のネタ映画かと思わせておいて、全編が愛と本気に満ち 溢れている。
 例えばここも、ただ「揃い踏みして名乗れば盛り上がるんだろ?」と安易に演出しているわけではなく、ギャバンとマーヴェラスの物語 をここまで積み上げてきた上で、遂に再会→「なぜ俺をわざわざ助けに来た」「礼を言うためだ」→背を向けていた二人が過去の出会いを 語りながら徐々に顔を合わせ、お互い正面から向き合った所でお邪魔虫登場→宇宙刑事と宇宙海賊という立場ながら、 にやっと笑って拳を合わせる二人→そして変身!
 と手順を踏んで物語を積んで積んで最高潮で爆発させ、更に名乗りの後
 ゴーカイレッドの銃くるくるアクションで手元をアップ→「派手に行くぜ!」→ゆっくりと歩き出すゴーカイレッドとギャバン→ ここで入る主題歌「宇宙刑事ギャバン」!
 ギャバンの格好良さ、ゴーカイジャーの格好良さをもろとも汲んで、どちらも添え物にならない配慮をしながら、約束事をやってのける。
 当たり前のようで、気を抜くとすぐに失敗する仕事です。
 お見事。
 ヒーロー物への愛と誇りが詰まった素晴らしいシーン。
 だから痺れる。
 余談ですが、このシーンでギャバンのスーツアクターさんが、ゴーカイジャーの変身待ちで、「蒸着」後のポーズのまま固まっている のが地味に凄いです(笑) あのポーズは多分、結構辛い。

 クライマックスバトルは、ギャバンvsギャバンブートレグ! ゴーカイジャーvsアシュラーダ&ザンギャック兵!
 vsブートレグ戦は、ぶつかり合うレーザーブレードが最大の売りなのでしょうが、実はレーザーブレードは好きではあるものの思い 入れは無いので、むしろディメンション・ボンバーが使われた事に満足(笑) これでギャバンアクション、やる事はやり尽くし ました。
 たとえ能力をコピーしても、人間の心を持たないものに負けるわけはない、とギャバンはブートレグを一閃両断。
 ブートレグは、対ギャバンの可能性も想定していたなら、楯を持たせるべきでした。それが、敗因。
 ゴーカイジャーサイドは劇場版スペシャルという事で、それぞれが「派手に○○!」して雑魚兵を蹴散らし、「ドン・ホラー?  誰それ?」で落ち込んだアシュラーダを、オールピンク→オールホワイト→オールレッドのゴーカイチェンジから、ゴーカイガレオン バスターで撃破。
 選択されたのが桃・白・赤だったのは、制作当時に本編で使ってないネタ、という事だったのか……? オールピンクは多分、 荒川さんの陰謀。
 そういえば、スーパー戦隊マニアの鎧は、メタルヒーローはスルー……いや、知っていたら知っていたでパラレル具合が意味不明になる ので知らなくていいんですが(笑)
 ゴーカイジャーに撃破されたアシュラーダは、憎しみのオーラ力で巨大化。同時に、激しく活性化したドン・ホラーの血により、 《魔空空間》が単独で発動。地軸が逆回転する絵も入ってサービスたっぷり。
 巨大戦の画面自体は迫力たっぷりに造られていたものの、ロボ戦そのものはざっくり目。
 まあ、皆見たいの別にロボ戦じゃないよね? というスタッフのナイス判断。
 マッハルコンは呼んでもいないのにやってきて、風雷丸は出損ね。ドルギランの上にカンゼンゴーカイオーが乗る、というカンゼン ドルギランゴーカイオーは格好良かったです。ギャバンは勿論、ドルの頭の上に 仁王立ち。

 そしてやっぱり、宇宙刑事無双。

 ドルも大活躍で、とどめはギャバンとゴーカイレッドのダブル斬撃・ギャバンマーヴェラス ダイナミック!
 どこまでも滅茶苦茶。
 色々盛り込んでやってのけてくれたこの映画ですが、一番凄かったのは、とにかく宇宙刑事無双・完全再現という、 この点に尽きます。
 30年前も、ヤツはこうだった。
 アシュラーダを完全に撃破し、魔空空間も崩壊(この映画の設定だと、別次元として存在自体はしているけど、接続を断たれた状態と いうべきか)。戦いが終わり、命の恩人と向き合うマーヴェラス、成長したその姿に目を細める烈。
 「大きくなったなぁ……立派な男になった」
 「海賊だぜ?」
 「見た目じゃない。いい男だ。嬉しいよ」
 烈の言葉にニヤニヤしながらも背中を向け、
 「とっとと帰れよ。……大変なんだろ、宇宙警察」
 そんなマーヴェラスに微笑みつつ、背中を向けた両肩に手を乗せる烈、照れくさそうに笑いながらそれに手の平を重ねるマーヴェラス。
 えー……なんでしょうね、マヴェちゃんのこの萌えキャラぶりは。
 明らかに本編より悪化していますが、ここは完全に、父(ギャバン)と子(マーヴェラス)のシーン。
 就職2年目の息子を心配して上京してきた父(職人)と、それを嬉しく思いながら気恥ずかしい息子、の図、というか。
 そしてそんな二人を、少し離れた位置から生暖かく見守る5人。
 漂う、うちのキャプテンはしょうがねーなー感。
 全編通してジョーのオカン度もTV本編より悪化しています(笑)
 『ギャバン』43話「再会」(烈がマクーに囚われていた父ボイサーと再会するエピソード)の引き写しというイメージがあったのかも しれませんが、マーヴェラスとギャバンを、擬似的な父子、と置く事で、物語もしっかりと締まりました。
 ラストシーンでは、曙四郎と青梅大五郎が顔を見せ、一条寺烈と合わせて、3人変身揃い踏み、というおまけのサービス。このシーン と一緒に、エンディングテーマとスタッフロールが流れるのですが、お陰で、ED曲が全く記憶に残りません(笑) 劇場版用の、 松原剛志(ゴーカイジャー主題歌)&串田アキラ(ギャバン主題歌)のコラボ新曲なのに。
 サービスシーンの後は、地球を去っていくドルギランをゴーカイガレオンから見送る海賊戦隊の姿。それぞれが船内から見つめる中、 ひとりマストの見張り台に立つマーヴェラスが、劇中のキーワードとなった「よろしく勇気」の仕種を飛び去る円盤の光に向ける、で幕。
 お祭りサービスでそのままオチをつけずに、ラストのラストシーンも描いたのも、良かったです。
 大満足でした。
 …………あえて、あえて瑕疵を言うならば、赤いジープが出なかった事ぐらいかなー(笑)
 烈に上から運転席に乗って欲しかったです。
 まあ、烈が地上を車で移動しているシーンなど入れてプロットがややこしくなって作品全体のバランス崩れても困るので、こればっかり は仕方ないですが。車探すだけでも大変そうですし。
 まあ私は年寄りなので年寄り目線で見てしまいますが、見事に年寄りホイホイの逸品。
 休日に子供と一緒に見たお父さんが、こっそり会社帰りに一人でまた見に来そうな映画。
 一方でゴーカイジャーの活躍も申し分なく、また物語上でのゴーカイジャーに対するギャバンの意味、をしっかり持たせる事で単なる “コラボしただけ”の映画に堕する事なく見事に描きあげました。
 見終わった時に子供の胸に、ゴーカイジャーともども銀ぴかのおじさんの姿も格好良く焼き付いていればいいなぁ、というそんな映画。 そしてそれが、テーマにもなっている。
 “ヒーローのその後”を描かざるを得なくなった時、人はつい“ヒーローでなくなったヒーロー”を描いてしまいがちになるものですが、 『海賊戦隊ゴーカイジャー』という作品は“ヒーローはエターナルにヒーロー”というのを貫いていて、それは一種の夢想であり間違いなく 重荷であるのですが、一つのテーマとして昇華しきったのは、素晴らしい。
 少年のヒーローはヒーローであり続け、成長したかつての少年は、その姿に新しいヒーローとなる。
 そしてその魂は、更に継承され続ける。
 『海賊戦隊ゴーカイジャー』という作品の集大成といってもいい、劇場版となりました。
 またこのテーマ性は、TVシリーズ最終回で、地球を去ってゆくゴーカイジャーを見送る幼稚園児達に向けて、マーヴェラスが「よろしく 勇気」のポーズを残して去っていく事で、明確に表現されました。
 繰り返し書きますが、とにかく、素晴らしい映画。
 ヒーロー映画として完璧といっていい、必要な全てが詰まっている。
 そしてまた、作り手の愛と魂の伝わる、見終わって、気持ちのいい映画。
 1本の映画を見てここまで、良いものを見た! という体験も、そうそうありません。
 全ての特撮ヒーローファンに捧げたい、そんな、名作。
 誰もが目と耳を疑ったとんでもない企画を、“作品”としてここまで完成させたスタッフ及び出演者達に、万雷の拍手を。
 素晴らしい映画を、ありがとうございました。

(2012年2月16日/2012年11月14日 追補)

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