■『牙狼』感想まとめ4■


“雄々しき姿の 孤独な戦士よ
魂を込めた 怒りの刃 叩きつけて”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『牙狼』 感想の、まとめ4(19話〜25話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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〔まとめ1〕 ・ 〔まとめ2〕  ・ 〔まとめ3〕

◆第19話「黒炎」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:小林雄次/林壮太郎/梶研吾)
 前編ラストでピンチが強調された時は、後編の冒頭で大した事にならず解決するのはパターンですが、 ガロも頭上からの強襲をかわして反撃を叩き込み、二匹の狼の壮絶な戦いは続行。
 互いに衝撃波をぶつけ合った後、バルチャスを踏まえたイメージか、念を込められた両者の剣が空中で刃を合わせ、 その間に主は拳と拳で肉弾戦を演じるのが、工夫もあって格好いいバトル。
 「なぜだ?! なぜ静香を殺した?!」
 「なんの話だ!?」
 死闘の末にゼロの心臓を貫く隙を見出すも、寸前で踏みとどまったガロは剣を持ち替えて柄を叩き込み、 それを契機にゼロ渾身の反撃を受けて装着解除に追い込まれるが、トドメの一撃の寸前、ゼロもまた装着が解けた隙を突いて邪美が介入し、 倒れた鋼牙を回収。邪美はカオルの傷も術法で癒やすと、目を覚ましたカオルに、鋼牙がカオルの呪いを浄化しようとしていた事を語る。
 「なんで今まで話してくれなかったの?」
 「そういう男なんだよ」
 それで! 済ませていたのが! 良くなかったと思います!!
 ……まあ実際のところ、「おまえは余命○○日だ」は伝える側も伝えられる側も大変厄介な問題ではあるのですが、 指輪の頼みでゴンザが召喚され、冴島家の別荘に落ち着くカオルだが、その表情は冴えない。
 「大丈夫ですよ。鋼牙様が、きっと」
 「もうあいつは信用できない! あいつ、一度も本当の事を言ってくれなかった!」
 「……あなたは、今まで何を見てこられたのです」
 ここで、常に柔和だったゴンザがカオルの背後で表情を変えるのが、お見事。
 「……え?」
 「鋼牙様の、何を見てこられたのかと聞いているのです!」
 劇中初めてゴンザが声を荒げ、これまでとの落差も含めて大変格好いいのですが、ゴンザはゴンザで鋼牙への愛が強いので、 「察しろ」系昭和の男に育てすぎた件に関しては少し反省して、二人でカルチャースクールに通ったりするといいと思います!
 ……真面目な話としては、季節感を無視した白いロングコートにラバースーツで街中を練り歩く姿に象徴されるように、 鋼牙の纏う日常からの異質感こそが現代バトルファンタジーとしての今作の肝であり、この性格もその一貫であるのですが、 一方のカオルがこの数話は特に「普通の女性」である事が強調された上で、その「普通の女性」である部分に鋼牙は惹かれたという見せ方になっている為、 いや「普通の女性」にそれを「察しろ」、「黙って俺を信じてくれ」と求めるのは無理では感が出ていて、 物語がカオルに対して少々理不尽。
 その歪さに鋼牙の格好良さの一面があるのは確かなので、これがカオルの側も「ヤクザに恋する一般人」的な、 いわゆる“危険な魅力”に惹かれた成分が入っていればまた話は違うのですが、非日常における「命を助ける」 イベントが繰り返されているとはいえ、カオルから鋼牙への感情にあまりそういった成分は見えないので、 恋愛要素の流れと物語の構造がちょっと噛み合っていない印象。
 で、結局、周辺キャラが全てフォローするのは、ちょっとどうかと思うわけです(笑)
 カオルがそういう、ダメなところ含めてOK、なタイプならまた違いますが、あまりそうは見えないですし、 今作の構造上の難が出てしまいました。
 浄化の実のなる紅蓮の森に入る為、鋼牙は邪美に協力を求め、鋼牙の態度にその決意の強さを感じ取る邪美。
 「頼む……俺に力を貸してくれ」
 「…………しょうがないね。力になってるよ」
 鉄面王子の過去を知る女という基本的においしいポジションではありますが、はすっぱな物言いとは裏腹に鋼牙に対する気遣いを端々に感じさせ、 魔戒の戦士として認めてほしい気持ちとなんだかんだ人間的には甘やかし気味の部分を併せ持ち、 カオルに対して鋼牙を挟む女としての機能も果たし、邪美は非常にいいスパイス。
 ぶっきらぼうな物言いが、気心の知れた男友達ポジションのニュアンスを短時間で表現した上で、 その先の感情も漂わせる幼なじみ以上男女未満の距離感を佐藤康恵さんが好演でした。
 鋼牙と邪美はひとまず、ギルドから強奪した短剣セットを魔界へ返す為の儀式を始め、鋼牙は邪美に、 「あいつはいい魔戒法師に育った」という阿門の言葉を伝える。
 「……いい魔戒法師にはなれたけど、いい女にはなり損ねた。……鋼牙、私には見えないよ。護るべきものが。 でもあんたには見えてんだろ?」
 「ああ」
 「……羨ましいよ。……いいか、絶対に守りき」
 鋼牙の行く道を後押ししようとしたその時、三神官の送り込んだコダマの攻撃を背後から受けて邪美は無惨に消し飛び、 キャラとして味の出てきたところで衝撃の退場。
 「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
 鋼牙の振る剣を素手で受け止め、コダマは遂にその圧倒的な戦闘力を爆発させ、鎧召喚さえ許さない猛攻に鋼牙は襲われる。 喉に蹴りを入れて潰し、呪術の発動を防ぐ鋼牙だが、魔界に送ろうとした短剣を取り戻されて激しい争奪合戦となり、 鋼牙に飛び回し蹴りを決めた後に、乱れた髪をなでつけるコダマが格好いい(笑)
 番犬所で厭味を言われてきた零はこの戦いを目撃して短剣詰め合わせを拾い、魔戒騎士として正しいのはどちらなのか…… 判断に悩む零を鋼牙が突き動かす
 「俺たちは! 俺たちは魔戒騎士じゃないのかぁ!!」
 は、表情のアップも決まって会心の叫びでした。
 コダマの妨害をくぐり抜け、短剣セットを魔界へ繋がる穴へと投じる零だが、僅かに遅く、12体が融合した巨大ホラーが現世に出現。 二人の魔戒騎士の攻撃に小揺るぎもしない巨大ホラーに零も鋼牙も装着解除に追い込まれたその時、 三神官より手ずからハルバードを受け取った新たな魔戒騎士が現れると、巨大ホラーを軽々と調伏し、その呪力を喰らって飛び去っていく……。
 「ホラー喰いの魔戒騎士……」
 「あいつが……」
 果たしてその魔戒騎士こそが、1000体のホラーを食った時、最強の存在になるという伝説の暗黒魔戒騎士なのか?!  零はそのシルエットから真の仇の正体を知り、次回――掴み取れ! 永遠の愛を!
 指輪が、滅茶苦茶、煽った!
 満を持して登場した暗黒の騎士は、夜の森での戦闘だった為に配信画質ではディテールが掴みづらく、次回出てくる時は、 もう少し明るいシーンを期待(笑)

◆第20話「生命」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:小林雄次/林壮太郎/梶研吾)
 「俺はもう誰も死なせない!」
 いよいよタイムリミットの迫るカオルの症状が悪化し、紅蓮の森へと向かった鋼牙は、樹木と一体化したような不気味な番人と接触。 全編通して幻想的な異界行を、舞台装飾的な要素で彩って雰囲気作りに成功しており、美術センスで画面のクオリティを引き上げるのは、 雨宮監督の強みの出るところ。
 「命を投げ打ってでも、行く覚悟があるっていうのかい?」
 「俺の気持ちに揺らぎはない!」
 魔戒法師ではない鋼牙に特例として通行を認める代わりに、一番大事なものを差し出せと言われた鋼牙は左手を突き出し…… ザ、ザルバ?! ……ではなく、たぶん握りしめている騎士の剣の方だとは思うのですが、 映像的にはザルバに見えない事もない上にザルバも凄く大事だしな……とちょっと悩ましい(笑)
 なおザルバ、この後、森の移動中に鋼牙の独り言を回避しつつ適度に説明を入れられる役として大活躍を見せるので、 取られなくて良かったザルバ。
 鋼牙の覚悟が知りたかった、と試していた番人は何も奪いはせず、更に鋼牙が阿門そして邪美の形見となった法師の筆を持っていた事から、 剣に鎧の力を与えた上での持ち込みを許可し、生身で黄金騎士の剣を背負っていると、物凄いRPG感(笑)
 鋼牙は法師の筆に導かれながら森の中を進んでいき……
 「紅蓮の森では、決して走らない事。決して振り向かない事。その二つの教えだけは、必ず守る事」
 なので、木の上を飛んでいく事にしました!
 ……番人のこの助言、神話的要素として終盤の布石になるのかと思ったら全くそんな事はなく、雰囲気作りのフレーバーだけだったのは、 ちょっと残念。
 森に巣くうホラーや謎掛けを突破して突き進んでいく鋼牙だが、黄泉路へと彷徨うカオルの霊体を目撃し、 生命を諦めようとするカオルに思わず平手打ち(鋼牙の方がはたく側になるとは……)。
 「すまない。こうなる前におまえを救ってやれなくて」
 鋼牙、基本的に勇者属性なので、真実を知る前に解決できればそれが一番いい、というタイプなのはまあ、わかるのですが。大体、 傷口を広げるタイプでもあり。
 「鋼牙……」
 「カオル……おまえにはまだ時間がある。……俺はおまえの描く絵がもっと見たい。だから……生きる望みを捨てないでくれ」
 そして鋼牙の心情はオープンにしにくいカードなのでやむを得ない面もあったのですが、 ここで「おまえの描く絵」というエースを切るならば、もう少し端々での積み重ねは欲しかったところ。
 鋼牙は生きる意志を取り戻したカオルに、帰路の道しるべとしてザルバを預け、更に森の奥へ。
 「行け。俺は必ず戻る。信じて待ってろ」
 そして森を抜けた平野で出会ったのは、ホラーをビーム一撃で消し飛ばす、突然の、カラクリ防衛装置。
 一方、鋼牙を信じる心を取り戻したカオルには、存在を忘れられかけていた熊のぬいぐるみが凶悪な怪物となって襲いかかるが、 ザルバファイヤー! そして、カオル、遂に飛ぶ。
 魔戒騎士としての鋼牙、そして鋼牙とカオルの関係性にとっても大きな転機のエピソードなのですが、割とザルバ回なのがおいしい(笑)  この後の展開を考えると、鋼牙の元に筆と繋がりを残した阿門と邪美を含めて、 “鋼牙の周りに集まった人々”のエピソードともいえ――それ故にこそ、鋼牙が見出した道に説得力が増すのは鮮やかな作り。
 「私は、ホラーを狩るために作られた、ただそれだけの存在だ。人を救う為に作られたものではない」
 体内に浄化の実を宿した無機質なカラクリドラゴンとの交渉は物理に移行するが、機械独特の動きに鋼牙は苦戦。
 「何故そこまで戦う?」
 「……つまらない奴だ」
 「なぜ私がつまらない」
 「……まるで昔の誰かと同じだからだ! かつてそいつも貴様と同じように、感情を捨て戦ってきた。ホラー狩りを義務と感じて!」
 台詞の中身からカラクリドラゴンが鋼牙の鏡像なのは明らかでしたが、 それを視聴者への仄めかしに留めず鋼牙自身に認めさせる事により、鋼牙の「変化」が明確になったのは、上手いマッチアップ。
 「それはおまえの事か」
 「そうだ! しかし今の俺は貴様とは違う!」
 「私もおまえもホラーを狩るもの。どこが違うというのだ」
 「俺には護りたいものがある!」
 機械の騎士ではなく、命を持った魔戒騎士として吠える鋼牙に、カラクリドラゴンは敢えて鎧装着を承認すると、第二形態を発動。
 「おまえの強さの先にあるものが、知りたくなった」
 立方体のボディを回転させながら格納しているアームなどを伸ばすカラクリドラゴンは面白いデザインで、 CGによる人外の兵器vs黄金騎士+馬、は実に『牙狼』らしく、かつ見栄えのするバトル。
 今作の場合、「基本夜戦」「今回も異界という設定で画面にフィルターをかけている」など、 画面からCGが浮かない工夫を作品コンセプトとも非常に上手く結びつけているのですが、 《平成ライダー》が『龍騎』辺りから取り組んでいた巨大モンスター戦が00年代を通してもう一つ画面と馴染ませられない場面が目立つのに対して、 15年前のTVシリーズでこのクオリティを実現しているのは、本当に驚かされます。
 ガロとカラクリの激突と、カオル&ザルバの逃走劇が交互に描かれ、迫り来る伸縮自在のアーム攻撃を馬上で凌ぐガロ。
 「何故おまえは人を護る?」
 「護るに値する輝きを秘めた、無限の存在! それが人だ!」
 「それはおまえにとって大切なものなのか」
 「そうだ!」
 「それはおまえにとって必要なものなのか」
 「そうだ! 俺には――」
 一瞬、瞼を閉じた鋼牙の脳裏に浮かぶのは、キャンパスに向かうカオル@夏の麦わら帽子概念で、 話としては大変いい流れなのですが……なのですが……多少の、ええっ?! 感が湧き起こるのは抑えきる事が出来ず、 それならカオルには冷たい態度を取るけど絵は思わず大事に扱ってしまうような前振りがもうちょっとあっても良かったと思うんですよ王子!!(笑)
 とはいえ、身命を賭して邪悪と戦う英雄にとっての世界との繋がりの意味が描かれるのは好きなテーゼなので、 鋼牙がそこに辿り着いてくれたのは、感慨深いシーンでした。
 「必要なんだ!!」
 ガロは地形を利用してダメージを与えると浄化の実を確保するも落下ダメージで装着解除。だが、 カラクリ最終フォームの頭突きの餌食になろうしたその時、窮地を救ったのは敵対していた筈の鈴邑零(なお零は、 かつては持っていた世界との繋がりを失った事で敢えて閉ざしている人物なのが上手い対比になっていますが、 名を捨てて復讐に邁進するその心の行き先も、気になるところです)。
 「ったく、危なっかしくて見てらんねぇよ」
 仇である暗黒騎士を討つべく鋼牙の戦力を必要とする零は鋼牙を助け、「私は言った。おまえの持てる力の全てをぶつけろと。 その者がおまえに力を貸したのであれば、それもおまえの力の一部であろう」と鋼牙の勝利を認めたカラクリは消滅 (壊していいの……? と思ったら、自動復活機能付きとフォロー有り)。
 零は倒れた鋼牙に肩を貸す大サービス(まあ、誤解で殺そうとしたので、借りを返したといいましょうか)で共に人間界に帰還し、 実から精製された液体を飲んでカオルは目を覚まし……目覚めたカオルを笑顔で見つめる鋼牙たちの中にしれっと加わっているのがちょっと面白いぞ零!(笑)
 第1話から、物語の大きな縦軸であったカオルの返り血問題が(多分)解決、 それに合わせて周囲の人間関係を含めた鋼牙の「変化」が描かれてヒーローとしての在り方が宣言されたのが綺麗にはまり、 最終章を前の一山として、満足の面白さでした。
 ところが次回――思わぬ悪意が鋼牙を襲う?!

◆第21話「魔弾」◆ (監督:横山誠 脚本:小林雄次)
 「俺は……」
 「いいの。何も言わなくていい」
 そうやって! 甘やかすのが! 良くないと思います!
 「あの時、鋼牙に出会えたから……ありがとう」
 花束とか抱えて乙女度を上げるカオルの笑顔に挙動不審になる鋼牙は目を逸らし、 二人が向かった場所は……第1話でカオルから絵を買い取った際に口にしていた、鋼牙が育った街。
 「おまえにこの風景を見せたかった」
 カオルの絵と目の前の風景が重ねられ、正直忘れていたので、拾ってくれて良かったです(笑)
 「俺はあの時、魔戒騎士の掟を破ってでも、人を護ろうと決意した。その選択を、俺は一度たりとも後悔していない」
 ホラーの返り血を浴びたカオルを前にした時、ただ義務ではなく、魔戒騎士として“人を護る”とは何か、 と向き合う大きな転機になった事を鋼牙は語り、最終章を前にこれまでの要素を色々と整理。
 「私も同じ。……あの時、逃げなくて良かった」
 逃げたくても逃げられなかったんですけどね!!
 若干、美化された思い出が捏造されている空気の勢いで鋼牙はカオルの肩に手を回して抱き寄せ、しかし……
 (それは、嵐の前のひとときの平穏にすぎなかった。悪夢は、私たちにじりじりと、忍び寄っていたのだ――)
 冴島邸に謎の脅迫状が届けられ、凶報をもたらした謎の男は魔弾で人間を撃つ事によりホラーを憑依させていき、 お馴染みの口調で淡々と喋る森本レオ×人間を虫の様に扱うサイコ悪役、が今回もはまった好キャスティング。
 「罠だろうと、ホラーを狩るのが魔戒騎士の義務だ」
 呼び出しの場所に向かった鋼牙を待ち受けていたのは、謎の男と大量のホラーガンマン軍団で、 白いコートを翻して銃弾をはじくアクションが格好良く、白黒のコントラストが鮮烈な、成る程これをやりたかったのか、 という剣VS銃! の肉弾アクション。
 「貴様ぁ、何故こんなばかげた真似を」
 「なぜ? もちろん君を、狩る為だ。私は、この世界をホラーが住みやすい環境に変える為、魔戒騎士を駆除するのだ。 君たち魔戒騎士が、ホラーを狩るのと同じ理屈だ」
 迫り来る銃弾の雨に対して、鋼牙は鎧を召喚し、黄金騎士とガンマン軍団の接近戦での立ち回りから、ガンマンホラーと激突。
 「その、黄金の鎧こそ、魔戒騎士の矛盾を覆い隠すまやかしに過ぎない」
 「それは貴様の理屈だ!この黄金の鎧には、一点の曇りもない!」
 ホラーの正義を語るガンマンホラーの胴体を両断するガロだが、倒れたホラーの正体は操られた犠牲者に過ぎず、 緞帳の奥から姿を見せたのは、魔弾を操る謎の男。
 「待ちくたびれたよ」
 その正体は、ホラーではなく正真正銘の人間にして、かつて鋼牙が倒した氷炎ホラーの父親。
 「……おまえは何もわかっちゃいない」
 「……なに?」
 魔戒騎士のホラー狩りとは殺戮に過ぎず、残された人間の痛みや悲しみを思い知れ、 と憎悪を向ける男に防戦一方を余儀なくされる鋼牙だが、一瞬の隙を突いて拳銃と魔弾の回収に成功すると、背を向ける。
 「何故だ! なぜ! ……殺さん」
 「それは貴様が……人間だからだ」
 鋼牙はあくまで己の一線を守って魚ホラー回で見せた迷いを乗り越えた事が示され、ギルドに復讐をそそのかされ、 娘の魂といえる氷炎ホラーの短剣を自らに突き刺した男は復讐心のあまりホラーへと変貌するが、その肉体は憑依に耐えきれず、 藻掻き苦しむ事に。
 「ぐ……ぁ……苦しい……こんなに苦しいのか……き、君は……この苦しみから娘を、救ってくれたのか」
 陰影の強調された画面で、OPピアノバラードを背に立つ鋼牙の姿は非常に劇的になり、再び鎧召喚。
 ヒーローの行動に別の視点から切り込む……と言えば聞こえは良いですが、暗黒面をつつく事でこれまで物語が積み重ねてきた (視聴者に見せてきた)カタルシスにノイズを加えるのはあまり気持ちの良くない作り手側の自己満足に陥りかねないところから、 魔戒騎士のホラー調伏の意味を改めて描く事で綺麗な着地。
 また、魔弾の男の行為は許されるものでもないし、娘はホラー抜きでも連続殺人鬼であり、完全に歪んだ盲愛なのですが、 そういった人間の復讐に囚われて狂ってしまう部分を今回においては正論でぶった切らない事で、一抹の哀しさを漂わせたのは、 エピソードとしての“巧い嘘”の付き方で良かったです。
 カオルとの語らいを含めて、終章を前に、今作におけるヒーロー――魔戒騎士とはなにか――を鮮やかに描き、 渋い好篇でした。
 その頃、妙な胸騒ぎを感じて冴島邸に向かう零だが、そこではカオルの首筋に不気味な黒い紋様が浮かび上がっていた! で、つづく。

◆第22話「刻印」◆ (監督:横山誠 脚本:小林雄次)
 「なぜカオルの体がゲートに?!」
 カオルの首筋に現れた紋様……それは、因果の宿るオブジェが開く、魔界へのゲートであった。かつても、 究極のホラー・メシア召喚の為に人間の体がゲートにされた例が記されており、物語の基本ギミックが、 形を変えて最終章の仕掛けになるのは、引き込まれる展開。
 ホラー喰いの魔戒騎士はメシアと融合する事により究極の力を得るとされており、 暗黒騎士の目的がカオルをゲートにしたメシア召喚と目された事で、カオルの悪夢の中に登場する、顔に十字の傷がある男の候補として、 大河の元弟子・バラゴが再び浮上する。
 「闇に囚われし者よ……汝、力を欲しているな」
 己が力への自負と、ホラーへの強い復讐心のあまり、暗黒騎士キバの力に魅入られたバラゴは、己の肉体を鎧に食わせる事で、 ホラー喰いの暗黒騎士へと変貌。弟子を止めようとした大河はバラゴに返り討ちに遭ってしまうが、 最後に放ったガントレットによる攻撃が死の紋様をその顔に刻み、バラゴは死んだ筈だった……。
 だが、何故かバラゴは生きていた……と視聴者的には通りの良い説明をどうして迂回していたのかについては、 指輪の誤認と大河からの口止めであったと理由が付けられましたが、 回想の少年鋼牙視点でもバラゴを怪しんでおかしくないように見えたので、 物語としてこれといって“衝撃の真実”にならないものにしては、随分遠回りな見せ方になってしまった印象。
 正直、「赤酒」の回で鋼牙が父の仇をホラーと認識し、別件としてバラゴの話題が出てきた時は困惑しましたし (「(ホラーと化した)元弟子に惨殺された」というのが、大河の死に様が嘲笑されている理由だと思っていたので)。
 自分の身に起こっている状況に苦悩するカオルの元に届いたのは、かつて壁画を修復した幼稚園の倉庫で見つかった、父の絵本。 その最後のページはやはり白紙であったが、そこに十字傷の男の幻影を見たカオルは、鋼牙に一つの決意を告げる。
 「――斬って。私を」
 ここでカオルがぐいっと脱皮を見せ、鋼牙への思いを自覚したが故に強くなれた、という流れに。
 「この刻印さえ消えれば、メシアは食い止められるんでしょう? ……もういいの。これ以上、鋼牙に迷惑はかけられない。私のせいで」
 「カオル。…………わからないのか。俺にはおまえが必要なんだ」
 ……こいつ、この期に及んで、顔ごと目線を逸らしたぞ!!!(笑)
 この場に居たら鳩尾に蹴りの一発ぐらい入れてくれそうな邪美さんの退場が実に惜しまれます。
 「二度と馬鹿な事は口走るな」
 そんな二人の前に漆黒のローブに十字傷の男が姿を現すと、鋼牙と零を体術で圧倒。そしてそれをきっかけに、 カオルは幼い頃にその男と出会い、15年ほど昔に既に、ゲートの刻印を埋め込まれていた事を思い出す。
 「カオルは……今までずっと奴に監視されてきたんだろう。……いや、俺たちも」
 全ては、バラゴと東のギルドにより紡がれてきた長い長い因果の糸であったのか……?
 「カオル様、どうぞご安心下さい。鋼牙様は、決して、あなたを見捨てたりは致しませんよ」
 「だから辛いんです。私のせいで、鋼牙が傷ついていくのが……」
 ゴンザとカオルの間に、浄化を巡るやり取りを再現した上でカオルの言葉を変える事でその心情の変化を強調したのは鮮やかで、 絵本をめくっていたゴンザは、白紙のページに描かれた子供達の自由な絵に目を止める……。
 一方、零が鋼牙を仇とばかり思い込んでいたのは、仇敵と太刀筋がそっくりだったから…… と同じ大河の弟子で合った為の一致とこちらにも理由を付けるが、殴られたり刺されたり嫌がらせを受けたりした事を鋼牙は意外と根に持っていた (いや、流れとしてはカオルを傷付けた事の方を怒っているのでしょうが、押し倒しの一件を認識していたら、 ここに来て共闘が決裂するところでしたね……)。
 「おまえには責任を果たしてもらおう。俺と共に戦い、カオルを守る。それがおまえの義務だ! 口答えは許さない」
 「二人とも、素直じゃないんだから」
 「素直に協力し合おうと、どうして言えないんだ?」
 保護者から、ツッコまれた!
 互いの魔道具の呼吸が合ってくるのは期待に応えてくれる楽しいアクセントで、そこに姿を見せるカオルとゴンザ。
 「いつも、ここで修行を?」
 ……ここしばらくは、庭で誰かに何かをアピールしていましたけどね!
 「ここは魔戒騎士だけの聖域だ。……中に入れるのは――俺が心を許した者だけだ」
 いつもの拒絶? と思わせてからの巧い台詞でしたが、先に零が入っているので効果半減(笑) ……いやまあ、 零が入っているのは魔戒騎士だからなのかもですが。
 鋼牙は、カオルの前に黄金騎士の鎧を召喚してその性能をアピールすると、零と共に東のギルドへ乗り込む事を宣言。
 「だが心配は無用だ。俺たちはもう、一人じゃない」
 鋼牙にとってのカオルであり、カオルにとっての鋼牙であり、そして二人にとってそれ以上のものであり、 闇に生き闇を狩る宿命の騎士の辿り着いた場所として、素敵な言葉でした。
 「……大丈夫だって。こいつが簡単にくたばるわけねぇだろ。なんてったって俺と互角に渡り合った魔戒騎士だぜ」
 「零、一言余計だな」
 「鋼牙が一言足りないからよ」
 魔道具が息の合った夫婦漫才を見せ、黄金の騎士の輝きを背に皆が笑みを浮かべるのが決戦を前に極めて印象的なシーンになり……全員、 生き残れるといいですね……。
 「二人とも、気をつけてね。私、信じてるから」
 カオルさんが今最大のヒロイン力を投入し、決戦の場へと歩み出す、白と黒、二人の狼。
 果たして、因果の先に待ち受けるものは何か、闇に光はもたらされるのか――
 「物語には、無限の結末がある。未来は、自分の手で描くものだから。お父さんは、きっとそれが言いたかったんだ」
 白紙の意味が語られて、つづく。

◆第23話「心滅」◆ (監督:横山誠 脚本:小林雄次/雨宮慶太)
 「やっと思い出してくれたみたいだね。君にもしもの事がないかどうか、ずっと見守っていたんだよ」
 前回の登場時、ライティングが凄い事になっていた龍崎先生=バラゴと判明し、 京本政樹をキャスティングして人の好い心理学者という事はなさそうだが特別・友情出演枠でラスボスを演じられるほど出番があるのか…… とメタ推測とメタ推測がぶつかっていたのですが、魔戒コートを身に纏い、堂々ラスボス化。
 画廊の時も、遊園地の時も、造形家の時も、実はずっと物陰から見守っていました!
 バラゴは道寺家に伝わっていた顔変えの秘薬によって龍崎を演じていた事がわかり、 ホラー喰いの魔戒騎士がなぜ零の実家を襲ったかについても理由付け(この事件がそこまで昔のものではない事を考えると、 バラゴは本物の龍崎を殺害してすり替わった可能性もありそうでしょうか)。
 前回ラスト、あれだけ格好良く決めて東のギルドに乗り込むも空振りに終わった鋼牙と零は、 西のギルドから謀反人討伐を正式に命じられるが、その間にバラ崎先生によってカオルがさらわれてしまい、 もののついでにゴンザが殺されなくて本当に良かった……。
 「あん時の小僧が、今や黄金騎士か」
 「かつては貴様も、ガロの称号を追い求めていた筈だ」
 「はっ、そんなもの、闇の力の前には、儚いもんだ」
 「貴様!」
 「そこの無名の魔戒騎士。君も思い知るといい。最強の魔戒騎士が、誰なのか」
 ゴンザが貼り付けた探知の札により、カオルを取り戻すべく先回りした鋼牙と零はバラ崎先生と対峙し、 零に対するバラ崎先生の呼び方が妙に面白い(笑)
 バラ崎は首飾りを使って暗黒騎士の鎧を召喚し、漆黒の鎧にマントを翻し、大ぶりな剣を振るう姿は圧倒的に格好良く、 その剣技はゼロ、続けてガロを一蹴。
 「わかっただろう。闇の偉大さが」
 言動が若干以上に、同期の某ウルさんを彷彿とさせるのが不安ですが、生身となっても鋼牙と零を一蹴して力の差を見せつけたバラ崎は、 剣を放り捨てて二人を見逃す余裕さえ見せ、トドメは後のお楽しみと、新たな肉体を得て一人の黒衣の女となったた神官ガルムと共に、 その場を走り去る。
 完敗を喫した鋼牙と零だが、怒りと焦りに我を失う鋼牙は抜き身の段平片手に正面からカチコミを仕掛け、 その前に立ちはだかるのは用心棒のコダマ。
 「おまえの息子、強い子に育ったな」
 「いいえ。もっともっと強くなりますわ」
 戦いをモニターするバラ崎と神官は言葉をかわし……えええっ?!  鋼牙の母親、三神官なの?! これまでの厭味の数々は強く育ってほしいという母の愛だったの?!  最終回間近で衝撃すぎる真実?! と狼狽のあまり一時停止を押したのですが……その間に冷静になって考えると……コダマの方ですね(笑)
 体術と呪術を駆使するコダマのアクロバットな動き(壁走りが大変格好いい)に圧倒される鋼牙は、とうとう鎧を召喚。 その力で形勢を逆転するが、コダマもまた、呪術によってホラーじみた真紅の外装をその身にまとって戦闘力を強化し、 最終的に着ぐるみ怪人化するのは納得の落としどころ。
 両者互角のまま戦いは続き、零の制止を振り切って死闘の中で装着限界を超えた鋼牙は鎧に蝕まれ始め、上半身が大きくパンブアップ。 ここに来てかなり見映えのするデザインで、より獣じみた容貌の金狼ビーストと化すと、超人ハルク状態で大暴れ。
 「もしやあの男、闇に魂を捧げる気か」
 力には力――禁忌の手段を選んだ鋼牙を取り込み、荒ぶる黄金魔獣は闘争本能の趣くままにコダマの体を引きちぎり、 コダマは壮絶なリタイア。
 「鋼牙ぁ!」
 「ゼロ……ガロの鎧を解除してくれ……頼む」
 暗黒騎士を倒すべく、闇に身を委ねようとする鋼牙だが、指輪の頼みに応えた零が、 ベルトに抱きつく渾身のヒロインムーヴ! ……じゃなかった、
 「思い出せ、自分が何者なのか! おまえはガロだ! 暗黒騎士なんかじゃない!」
 ベルトのバックルにソウルメタルの剣を叩きつける事で強制変身解除に持ち込み、以前の「俺たちは!  俺たちは魔戒騎士じゃないのかぁ!!」との対比が、綺麗に収まりました(高層ビルの壁登りシチュエーションも、 初の直接対決を意識したのかも)。
 「……悔しかったから言いたかなかったけど……俺ずっと憧れてたんだよね。ガロの称号に。……無様にくたばったりしたら、 承知しねぇからな」
 ソウルメタルの刃身が写すのは、再び、魔戒騎士・冴島鋼牙。
 道を取り戻した両者は、暗黒騎士の待ち受ける建物の中へ……で、つづく。
 …………また、空振りしないと、いいな。

◆第24話「少女」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:小林雄次/梶研吾/雨宮慶太)
 OPの歌詞が2番のものになり……
−−−−−
 いつの日かおまえには わかってほしい
 戦いだけに生きた 俺の胸の裡を
 愛にはぐれ 愛を憎み 愛を求める
−−−−−
 鋼牙ーーーーーーーとなりました(笑)
 まあ、直後の「わずかな 安らぎさえ打ち捨てた 誓いだけど」で事情が語られ、 「立て 修羅のごとく」と来るのが映像ともぴたっとはまって滅茶苦茶格好いいのですけれども!
 ところでなんかフレーズに馴染みがあるな……と考えていて気付いたのですが、
−−−−−
 いつの日か君は 語ってほしい
 戦いだけに 生きた勇者のことを
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 「紫狼伝説」(『特捜ロボジャンパーソン』挿入歌)だ!
 ちなみにこちらは作詞は巨匠・山川啓介、歌は影山さんで、「牙狼 savior in the dark」の作詞にあたって影山さんがちらっとでも思い浮かべたりしたのか、 単なる偶然の一致なのかは、少し気になります(笑) 『ジャンパーソン』大好き人間なので、 影山さんがこの歌に思い入れがあったら嬉しいというだけの話なのですが、思えば「狼」繋がりでもあり……方向性は違いますが、 ロンリーヒーローの魂を歌った曲でもあり(「紫狼伝説」の方はバラードですが、こちらもまた名曲)。
 そんなわけで最終回間近に思わぬところから『ジャンパーソン』との繋がりが一方的に発見され、 佳境に入る劇中では鋼牙と零が神官ガルムの空中コンボを受けて宙を舞っていた。
 2話連続、3回目となる地面ダイブを堪能した零は鋼牙を先に行かせて神官の相手を買って出るが、 この世界の異能者は大概日々の筋トレを欠かしていないので、好き放題に足蹴にされる事に。
 一方、儀式の間に辿り着いた鋼牙は純白のミニスカドレスに着替えさせられたカオルを助けようとするが、 その前には黒衣のフードを身につけたバラ崎先生が立ちはだかる。
 「カオルを返してもらおう!」
 「返す? 馬鹿な。彼女はもともと僕のもんだ。冴島大河を貫いたこの手で……この顔に触れた時から、彼女は僕のものになった」
 二つの戦いが同時進行で描かれ、神官を追う零は静香の幻影に惑わされそうになるが……
 「違うだろ静香。俺の本当の名は……」
 が、幻影を打ち破るキーとなるのは、険しい零の表情も決まって格好良かったです。
 「でも、私を斬れるかしら? 銀牙」
 「その名は捨てたぁ!」
 姿形を借りて幻惑するばかりではなく「その名」を呼ぶ事で零の想いを大変いやらしく踏みにじる神官は、 ソフトバンクホークスばりに零を圧倒すると、魔性を宿した姿に変貌。必死に抗う零だが、遂にその胸を、神官ビームが貫通する!
 「じゃあね、銀牙」
 すっかりやられ役の零が2話で4度目の地面ダイブを決めていた頃、鋼牙の刃もバラ崎に届くに至らず、 目覚めたカオルは魔界の言葉を口にする。
 「数千年の刹那に、人間界にも諸悪が蔓延したな」
 子供扱いで鋼牙を叩き伏せたバラ崎は、メシアと意識を繋いだカオルをゲートとする降臨の儀式に取りかかろうとするが、 メシアカオルの矛先は突如としてバラ崎へ。
 「汝は、我が人間界に降臨するための、捨て駒に過ぎぬ。矮小な人間ごときと、同化するほど、愚かではない。我はホラーの始祖、メシア」
 「おまえを信じ、そして、おまえに全てを懸けてきた、この僕に……何故だ!?」
 「汝が喰らいし我が同胞は、覚醒の力となり、我が繁栄の、礎となりましょう」
 大口開けたメシアカオルは、宿したホラーごとバラゴを喰らいつくし、同胞を裏切り長年にわたって暗躍してきたバラゴ、 思わぬ形であっさり退場。
 仕込みに時間がかかるとはいえ、基本的に裏でこそこそ暗躍している系でしたし、闇に溺れ、道を誤った魔戒騎士の末路としては、 哀れな小者として消え去っていくのは割と納得度の高い結末でしたが、前回で暗黒騎士の出番が終わりになるのとしたら、ちょっと残念。
 メシアの支配からカオルを取り戻そうとする鋼牙の前には零を退けた黒衣の神官が立ちはだかり、 バラ崎どころか完全にホラー側の人間であったと判明。
 転落しすぎた零はなんとか身を起こすが、身を以てレーザーを防いだ首飾りが半壊しており、「今度はもっと、 美人に修復してもらうわ」と、おいしい要素を使い尽くしに来ます。
 鋼牙は愛のパワー苦手属性:女性を乗り越えると、神官に頭突きを叩き込み、 飛び蹴りから袈裟懸けの一撃!
 「汝ら、何ゆえに我が覚醒を阻む。そんなに、この女が、大切なのか!」
 零も合流するが、メシアカオルは凄まじい身体能力を発揮し、セクハラ王子にはピンヒールによる踏みつけが、 鉄面王子には顔面への回し蹴りがクリーンヒットし……ちょっと、本人の意識残ってませんかこれ。
 「やめるんだ、カオル!」
 懸命に呼びかける鋼牙の胴体をメシアカオルの振るう剣が横薙ぎに切り払い、痴話喧嘩がとうとう刃傷沙汰に発展。 鮮血の舞う強烈なインパクトの一撃に加え、その衝撃で吹き飛ばされた鋼牙の手を零が掴んで引っ張る事で、 壁を蹴りながら鋼牙が舞台上へと舞い戻るのは、大変格好いいアクションでした(この戦場の高低差が、 比喩としての「舞台を降りる/降りない」に掛かっているのもお見事で、ラスト3話の中でも一番好きなアクション)。
 「カオル! おまえの手は、剣を握る為にあるんじゃない!」
 カオル=画家、の部分をきちっと拾った鋼牙が、カオルを抱きしめるヒーロームーヴを決めると意識を失ったカオルは倒れ、 鋼牙はカオルの体を通って深魔界へと向かい、直接メシアを食い止めようとする。
 「おまえらもバラゴと同じ道を辿るがいい」
 零はしぶとく立ち上がったガルムを食い止めるべくその場に残り、鋼牙は魔界へと向かう道の途中で、カオルの意識と再会。 二人の周囲をカオルの描いた様々な絵が巡り、鋼牙はその中の一枚に目を止める。
 「……これは?」
 「私が……これから書きたかった絵!」
 鋼牙が幻影のキャンパスを手に取るとその身に光が宿り――それは、未来へと繋がる力。
 「この絵……俺が必ず描かせてやる」
 鋼牙とカオルの関係性において、言うほど“カオルの絵”に対する鋼牙のこだわりが見えないのはちょっとした不満点だったのですが、 鋼牙がそれを示すと共に、魔戒騎士として人を護る以上に、冴島鋼牙としてカオルのパーソナルな部分を護る宣言になっていて、 二人の関係の集大成としてこれは文句無しの格好良さでした!
 後ちゃんと、カオルの目を見て言いました!!
 カオルと固く約束を交わした鋼牙は魔界の深奥へと乗り込み、そこで、復活しつつあるメシアの姿を目にすると、鎧を装着し、 馬を召喚。モノクロームの世界に屹立する大地母神といった姿をメシアは顕現し、 ヒーロー達がやたらと女性に蹴られまくったこの2話を締めるのが、上半身裸のホラーの女神に挑むCG黄金騎士、 というのは実に『牙狼』らしいクライマックス。
 メシアはガロをあしらいながらカオルの肉体を探り当て、零は再び鎧を装着して神官ホラーと激突し、二人の狼の苦闘が佳境に入る中、 つづく。
 予告は指輪のアップで本編映像は一切見せず――「最後の因果、切り裂け、ガローーー!!」

◆第25話「英霊」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:梶研吾/小林雄次)
 メシアはとうとう魔界で立ち上がり、雄々しく挑むガロだが、バリアに阻まれ吐息で撃墜される絶望的な戦況。ゼロもまた、 神官ホラーの新体操攻撃に翻弄され、魔界ではメシアの足跡から次々と生み出されるホラーの前に、鎧の外れた鋼牙は危機に陥る。 その危機を感じ取ったカオルの前に姿を見せたのは……亡き父の幻像。
 「お父さん、あたしどうしたら!」
 「描けばいいんだ」
 「え?」
 「おまえは剣士じゃない。だから絵を描けばいいんだ。その絵が、誰かの力になる事もある」
 「お父さん……」
 「私が出会った黄金騎士、冴島大河の受け売りだけどね」
 絵描きとしてのカオル、それぞれの出来る事、にスポットが当たり、父娘の和解も補強。 “創作の力”は好きなテーマ性なので最後にそこに焦点を当ててくれた事は嬉しく、意思の世界で生まれたキャンパスに、 カオルは筆を走らせる――。
 魔界ではゲートたるカオルの肉体に向けて遂にメシアが飛翔し、 奮戦むなしく鋼牙が無数のホラーに押し潰されたその時――カオルが描き上げたのは、翼を広げた黄金の騎士!
 その力は魔界の鋼牙へと届き、今、黄金騎士は空を翔ける!
 一方、神官に追い詰められた零の元にへっぴり腰で駆け付けたのは、黄金の翼ではなくゴンザ!  ソウルメタルの剣を振るう事ままならないゴンザだが、そのパスがアシストとなり、クリティカルヒットした回転斬りにより、 遂に神官を撃破……まあここは、零の見せ場というよりゴンザの見せ場になって、この3話、ひたすら蹴られまくっていた零は、 ちょっと可哀想(笑)
 メシアと空中戦を繰り広げていた黄金騎士はとうとう、鎧抜きで鋼牙が翼を広げる凄い画を披露し、戦艦がMSの敵かぁ! と、 メシアの眉間にソウルメタルの刃を一閃!
 「なぜ、たかが人間ごときに」
 「我が名はガロ! 黄金騎士だ!」
 《おうぉー おおおおおー おおおーおー おーおーおーーー!》
 メシアは大爆発を遂げ、ここに最大最強のホラーを討ち果たす鋼牙。ところがその時、 爆発の中から暗黒騎士の手が伸びて鋼牙を闇に呑み込もうとするが、鋼牙が必死に伸ばした手をカオルが掴み、 ともすれば目を逸らしていた人の世と鋼牙の固い繋がりの象徴が映像に落とし込まれて、ラスト3話、 とにかくあらゆるものを目一杯に詰め込んできます(笑)
 鋼牙とカオルは無事の帰還を果たすが、メシアに喰われた筈の暗黒騎士が儀式の門の向こうから姿を現し、 てっきり前々回でお役御免だと思っていたので、これは嬉しいサプライズ。
 「我が名はキバ――暗黒騎士」
 「違う! おまえは騎士ではない!」
 「ああ! おまえはホラーも同然だ!
 「俺たちは、ホラーを狩る魔戒騎士だ!」
 鎧を召喚しようとする鋼牙と零だがキバの邪念に阻まれて失敗し、鋼牙は「俺を裂け目に投げ込め!」 というザルバの言葉に従い召喚円の中にザルバを放り込む。
 メシア召喚の儀式失敗の影響か、魔界へのルートとなっていた円環が巨大化してビルの上層を吹き飛ばすと、 鋼牙とキバは勢いのついた空飛ぶ円環を地面代わりにした空中戦へと突入し、最後の最後まで、 如何にCGによる造形物をアクションの中に目立つ形で取り込むのか、を工夫し続けた今作らしいバトル。
 追い詰められる鋼牙だが零の飛び道具による援護から懐に飛び込んでの一太刀を入れる事に成功し、 見せ場があって良かったよ零……!
 ビルの壁面に突き刺さった円環の上で戦う三者を、 ヘリ空撮のようなカメラの動きでロングの俯瞰で捉える――ニュース画面のような映像により、 “見たことのある映像の一部”として視聴者の錯覚を引き起こす――事で、本当にそこに刺さっていますよ、 というリアリティを引き上げるのは面白い見せ方(まあ、じっと見ていると、ちょっと人間が大きいですが(笑))。
 零はビルの中に投げ込まれ、円環は再び落下。空中での死闘が突き、キバの猛攻を受ける鋼牙に父を葬った凶手が迫るが、 その記憶が逆にキバの攻撃を先読みさせて鋼牙を救い、体勢を立て直す鋼牙。
 円環はとうとう地面に落下すると激しい縦回転で道路を転がり始め……あ、キバの方も転んだ(笑)
 長く激しい戦いの末、円環は埠頭の貨物船に突っ込んで大爆発。満身創痍の鋼牙がキバの斬撃を辛うじて弾くと、 その切っ先の軌道が虚空に円を描き出し、キバの邪念を打ち破って鎧を……天使が運んできた(笑)
 「ザルバ!」
 「待たせたな」
 ザルバの帰還と共に鋼牙は鎧を装着し、マントをはためかせた真なる黄金騎士がここに誕生!
 「鎧を纏ったところで同じだ。貴様一人に、何ができる」
 「俺は一人ではない!」
 カウンターパンチを決めたガロは抜刀から馬をイメージ召喚すると、それは無数の黄金騎士の軍団に。
 「かつてガロの称号を得た全ての英霊と、俺はともに戦ってきたのだ!」
 その気高き志と共に宿命の系譜を引き継いできた者と、力だけを求めてそれを放り捨てた者との違いが両者の間の決定的な差として描かれ、 金色の剣を振るうガロは闇を切り裂く怒りの刃を叩きつけ、遂に暗黒騎士を調伏。
 復活からなんと約8分、壮絶なラストバトルでありました。
 「少々、力を使いすぎたようだ。今まで楽しかったぜ、鋼牙……」
 だがその勝利の代償として、予告で自ら死亡フラグを立てていたザルバは、砂のように崩れ去り……鋼牙のみならず、 カオル・ゴンザ・零それぞれの悲痛な表情が、ザルバの存在の大きさを示して素晴らしかったです。
 そしていくばくかの時が流れ――
 「カオル、しばらくお別れだ。俺は北の管轄に行く事になった」
 「大丈夫。実は、私もね――」
 鋼牙は北へ、カオルはイタリアへ。それぞれの“先”へ進み続ける為、二人は一時、別々の道を歩み出す事に。そこへ、 首飾りも修復された零が、西のギルドからの報酬として携えてきたのは、新たに作り出された魔導輪。
 「おまえか。俺と契約したいという魔戒騎士は。なら、俺に名前をつけてくれ」
 「おまえの名は…………ザルバだ」
 しばしの逡巡の後、鋼牙は指輪に、忘れがたき相棒の名を付ける。
 「ザルバ?」
 「旧魔界語で、「友」という意味だ」
 「じゃ、俺もおまえのザルバだな」
 ちゃっかりアピールした零は、鋼牙に代わる東の担当になったという事で去って行き…………出てくるのかはわかりませんが、 次のシーズンで彼女が出来るといいですね!!
 「寂しくなんかないよ。……俺には、おまえがいるからな」
 零は首飾りに語りかけ、鋼牙はカオルに深々と一礼。
 「おまえには、本当に世話になった」
 鋼牙はゴンザの運転する車に乗り込んで走り去り……
 「最後まで愛想ないやつ。…………ありがとう」
 カオルはその背に呟き、それぞれの新しい道が始まる中、鋼牙が車内で手にしたのは、 カオルから餞別に送られた絵本『黒い炎と黄金の風』。その、ラストページに描かれていたものは…………
 涙をこらえる鋼牙の表情が絵本の影に沈み込み、その答は明かされないまま、名場面集をバックにスタッフロールへ。
 「これで、私と黄金騎士との物語は、終わったわけではない。彼が、護りし者として、戦い続ける限り」
 〔暗黒魔戒騎士編〕と銘打たれて「終」が刻まれ、北の地で雪原をゆく鋼牙の姿が描かれて、完。
 最後の最後で鋼牙を「泣かせる」というのが、「笑わせる」以上に鋼牙の物語として鮮烈になり、 そのラストシーンは胸の中に仕舞われる、というのも美しい着地となりました。……野暮な個人的解釈をするならば、 鋼牙が「泣いた」事から、カオル絡みというよりは、大河絡みでありましょうか。
 カオルの絵、が一番大きいポイントでしたが、コダマの正体、銀牙の名、カオル両親、魔道具と騎士の相棒関係、などなど、 足りていたものも足りていなかったものも、今作ここまでの要素を出来る限り拾い、出来る限り説明を付け、超巨大なラスボス戦から、 でもやっぱり暗黒騎士と決着を付けたいよね! とやれるだけの事をやり尽くすサービス満点の内容をテンポ良くまとめ上げ、 濃厚にして充実のラスト3話でありました。
 一挙3話配信だった事もあり、脳がちょっと咀嚼しきれていないところもあるままの感想となりましたが、個人的には、 「絵」の要素をきっちり拾ってくれたのが、大変嬉しかったです。
 深夜番組という事で売りの一つとして過激な表現を押し出す部分はありつつも、コアな精神が“ヒーロー物”であり、 表現そのものに振り回される事なく、そのコアを貫いてくれた構成が気持ちの良い作品でした。
 ひとまずここまで。『牙狼』感想、お付き合いありがとうございました!

(2021年10月5日)

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