■『牙狼』感想まとめ3■


“行け 疾風のごとく 宿命の剣士よ”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『牙狼』 感想の、まとめ3(13話〜18話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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〔まとめ1〕 ・ 〔まとめ2〕  ・ 〔まとめ4〕

◆第13話「約束」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:田口恵)
 魔導輪ザルバの語りによる総集編という事で、脚本は設定担当の田口恵さん。キャラクター中心にこれまでの物語を振り返りつつ、 部分部分で設定の補足が加わり、黄金騎士ガロは魔戒騎士の最高位の称号、と判明。 ……どうやら冴島家そのものが魔戒騎士のエリート家系のようで、鋼牙の魔戒騎士へのこだわりと育ちは、その事の影響もある模様。
 「例えるならこいつは、まるでダイヤモンドだ。何事にも傷つかない強い意思と体を持ち、その瞳と志には一点の曇りもない。 ……だが、残念ながらそのダイヤモンドは、暗闇に置いてあるんだ」
 ザルバの鋼牙評は実に格好良く、また如何にも、長い付き合いの指輪らしい視点でもあって秀逸。
 鋼牙の項でゴンザにも触れられる一方、カオルの項に入り込んできて、こいつは知らない、と言われる龍崎先生(笑)
 これまでの劇中ではカオルに割とざっくりした対応だった指輪ですが、内心では、鋼牙に人間味を与えてくれる存在かもしれない、 と期待を寄せている事が明かされ、実に、親心。
 エロ・グロ・バイオレンスを看板に並べている今作ですが、ただ刺激の刃を振り回すだけではなく、 折に触れキャラクターに愛嬌や奥行きを付け、しっかりと足腰を鍛えている作劇が実に手堅く、作品として好感の持てるところです。
 魔獣ホラー、番犬所、そして零に触れ(同族?の首飾りについてちょっとコメントが聞きたかったのですが、残念ながらそれは無し(笑))、 第9話で用いられた格好いい挿入歌に合わせて編集されたバトルシーンが流れ、これらのお喋りは実は戦闘の真っ最中でした、と、 どういうわけか空を飛ぶ列車車輌の上で複数のホラーをガロが調伏し、《おうぉー おおおおおー おおおーおー おーおーおーーー!》。
 短いながら今回オリジナルのシーンで、TVシリーズでもこんな映像が出来るぞ! とやってくれたのは嬉しいサービスでした。
 「……戦いの最中に何をブツブツ言っていたんだ」
 「ん? 別になにも」
 「俺は不器用じゃないし、冷徹でもないぞ」
 ……鋼牙はホント、脳内自分のキャラ設定が面白すぎますね……!
 「なんだ。しっかり、聞いていたんじゃないか」
 ザルバが画面のこちら側に向けてウィンクを飛ばし、闇の中に溶けてゆく鋼牙の白いコートの背中で、つづく。
 バトルシーンを中心に、今作の魅力を巧くまとめ&ザルバに愛嬌を付けた総集編でしたが、VS零回のお邪魔ホラーを覗くと、 ドクターホラーだけ未登場。役者さんの薬物問題があってか、今回の配信版ではカットされていて模様。
 次回――今夜は俺とお前でダブル馬。

◆第14話「悪夢」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:小林雄次/梶研吾)
 ゆけ 風のごとくー
 と、2クール目に入り主題歌変更。
 1クール目の映像に、新規カット(主にガロ)が組み合わされ、サビの「ゆけ 風のごとくー」のところで奥から馬が走ってくるのが大変格好いい。 そして、VFXのクレジットのところで、ガロがホラーの首を掲げて討ち取ったりーしているのは、 実に今作らしい(笑)
 爽やかな白シャツ時代の零――本名・銀牙の過去が描かれ、義父にして魔戒騎士の師匠・道寺と、 共に育った幼なじみ・静香を殺害したのは、ガロの称号を持つ家系に連なる、ホラー喰いの魔戒騎士?
 「ガロ……」
 「銀牙?」
 「その名は捨てる。俺は仇を討つ。全てを無くした。護るべき人も。呼んで欲しい名も。これからは――」
 零が抱える復讐心と、その名の由来が明らかにされるくだりは非常に格好良く、特に「呼んで欲しい名も」はグッときました。
 そして時は流れ……道化たセクハラ男の仮面を被り、鋼牙との仲直りを求めてねぐらを訪れたカオルを突き放した零の元に届く、 “黒の指令書”。時同じくして、それは鋼牙の元にも届けられ、番犬所に集った相容れぬ二人は、 500年に一度の災い――地脈に沿って生まれる巨大なゲートから、100体のホラーが現れる事を告げられる。
 「二人の力を、合わせるのです」
 「はぁ?」
 「断る!」
 大変いいリアクションをいただきました。
 「拒絶は許されません」
 だが上官命令は絶対だ、と二人は共闘の証(という名の人質)として指輪と首飾りを交換する事を命じられ、 魔戒騎士ギルドのやり口がえげつないけど面白い(笑)
 男同士で四六時中身につけているアクセサリーの交換という、 酷すぎる嫌がらせを受けながらも鋼牙と零は地脈へと向かい、そうとは知らない屋敷のカオルは、 キャンパスに、金と銀の狼が並び立つ姿を描く……。
 不本意ながらも並んで鎧を装着、馬にまたがった二人の魔戒騎士は、 ゲートをくぐって魔界へと突入する前に馬上でお互いに牽制を仕掛け、君ら、既に、人質交換の事を、忘れてないか(笑)
 そして劇中初、灰色の荒野が延々と広がる魔界へと突入するが、大地を埋め尽くす、 100体どころの騒ぎではないホラーの大軍を目にする事に。
 「はめられたな」
 「なに?」
 「間抜けにも、二人揃って罠にかかったんだ」
 2クール目の開幕としてもやりすぎではという勢いで馬上の騎士はホラーの大群へと突っ込んでいき、次々とこれを撃破。 ホラーを召喚している巨大な石柱のエレメントの存在に気付くと、馬上で青と緑の炎を纏い、 怯むことなくホラーの中に駆け込んでいくシーンは、随所にCGを駆使した今作らしさの溢れる格好良さ。
 二人の騎士は、すれ違いざまの一閃で巨大エレメントを崩壊させ、無数のホラーは消滅。そのまま同時に人間界へと帰還すると、 どっちが沢山ホラーを倒して先に人間界に戻ってこれるでショー! の賭けは無効となり、資本家許すまじ、と怒りの労使交渉へ突撃。
 「どういう事なんだおまえら?!」
 「ちゃんとした説明が聞きたいな!」
 人類は、共通の敵を前にすると心と心が通じ合えるのです!
 「地脈のズレが、大きすぎたのかもしれません」
 「でも、あなたがた二人のお陰で、ゲートは完全に封印されました」
 「心から感謝しています」
 番犬ガードマンがその力の一端を見せて零を軽々と押さえ込み、割と直情径行の男子二人は海千山千の三神官にあしらわれ、 謎を残しつつ、ガロとゼロ、一時の共闘は幕を下ろすのであった……。
 果たして、番犬所の真意は? ホラー喰いの魔戒騎士の正体は? そして零の殺意の行き着く先は? カオルの返り血問題に続き、 鋼牙と零の因縁の敵(話の流れからは同一人物かと思われますが……)が物語のもう一つの軸として形を取り、更に深い闇の中へと、 つづく。
 ED曲・映像も新しくなり、回想の静香に白いワンピース概念で対抗するカオルですが、 本編では夜の街に飛び出したのに鋼牙と出会えない割と酷い扱いで、全て、方向音痴が悪いのだ!

◆第15話「偶像」◆ (監督:金田龍 脚本:小林雄次/梶研吾)
 創作活動に行き詰まる造形家が狂気に近い焦燥の末にホラーに取り憑かれる、「悪魔に魂を売る芸術家」『牙狼』バージョン。
 ところがその造形家が、雑誌のインタビュー記事においてカオル父の名前をあげていた事からあれよあれよと運命の歯車は転がりだし…… わざわざ電話連絡してくれた出版社の人(10年以上前に置き忘れたぬいぐるみも保管してくれていたり、滅茶苦茶いい人) にはなんの責任も無いのですが、またも変態を呼び寄せてしまうカオル。
 そんな事は露知らず、造形家に取り憑いたホラーを追いかけていた鋼牙だが、なかなかの強敵。 回避行動をしながら空中で円を描いて着地と振り向きざまに鎧を纏う格好いいアクションを決めるも、 身軽に飛び回るインコホラーを仕留めきれずに逃がしてしまい……
 「なぜ境界を越えたのです」
 「あの街は西の管轄です」
 「あなたの戦うべき場所ではない」
 お・こ・ら・れ・た。
 「……その台詞、こいつにも言ってやれ」
 おおっと、冴島鋼牙選手、咄嗟に横を向いて涼邑零選手を巻き込みに行ったぁ!
 「ふっ。俺なら、確実に仕留めてた」
 だが、零選手、余裕のカウンターが脳天にヒィッッット!!
 「俺はホラーを狩るだけだ。西も東も関係ない」
 話・ず・ら・し・た(笑) (冴島鋼牙 2R TKO負け)
 そんな鍔迫り合いが起きていたとはこちらも勿論知るよしもなく、造形家の元を訪れようとするカオルは、零と遭遇。
 「俺が、君を守る」
 セクハラ黒王子枠の零ですが、その悲劇的な過去が描かれた事で、 色々やさぐれてはいるけど人を護ろうとする意思は本物であると了解できるようになり、2クール目早々に過去が描かれたのは、 視聴者と劇中人物の情報差も活きて、良いタイミングとなりました……まあカオル視点だと、白い方も黒い方も裏設定が多すぎるというか(笑)
 理想の作品を求める造形家は、粘土像に合わせてモデルの体がひしゃげる因果の逆転した力を得、 間接的な人体破壊と屍食の描写は今作ここまででもトップクラスにグロテスク。そんな凄惨な映像の合間に、海や空といった自然風景、 また廃工場などをオブジェ的に捉えた画が少々ファンタジックに差し挟まれるのは、 「指輪」回なども踏まえると金田監督のセンスが出ている感じでありましょうか。
 「鋼牙、カオルがホラーとニアミスだ」
 「……あの、馬鹿」
 一方、廊下に立たされていた鋼牙はカオルの身に迫る危機を知り、色々な意味で真心が篭もっていて良い呟きでした(笑)
 「鋼牙! 二度も掟を破って許されると思ってい」
 「一度も二度も同じだ!」
 鋼牙は管轄を越えてカオルの元へ急ぎ、父の話を聞く筈が狂気に陥った造形家に追われる事となったカオルは、 いつになく正統派のホラー映画ヒロインとして悲鳴をあげて逃走中。
 「才能のある人間には相応の天罰が下る。あの父親のように、君も死ぬんだな」
 「……芸術に……才能なんて関係ない」
 「才能を持たずに生まれた、人間の苦労が、君にわかるかぁ」
 「お父さんは、自分の信じる道を、極めたいって思ってた。ただ、それだけ」
 悪魔に魂を売った男を相手に、カオルの芸術家としての志、わだかまりのあった父への歩み寄りが改めて描かれたのは巧く繋がり、 絶体絶命のその時、造形家の手にしたナイフを弾き飛ばしたのは――破邪の短剣。
 キャットウォークの手すりに刃を滑らせて火花をあげるのが二刀の見せ方として大変格好良く、 ホラー造形家に斬り掛かろうとする零だが、咄嗟にカオルを持ち上げた造形家は足場の下へと投げ落とし、 さすがの零もどうにも出来ないその時、飛び込んできた鋼牙が――ダッシュお姫様抱っこ(5話ぶり3回目)。
 そして、今回は、丁寧に下ろしました!(初)
 「悪趣味極まりないな。女の子はもっと優しく抱いてあげないと」
 今回は零のターンとなり、鎧を装着すると二刀を接続した飛び道具でインコホラーを切り刻み、怒濤のラッシュで、ホラー伏滅。
 「美しい……完璧な造形……俺にこんな作品が、作れたら……」
 ゼロに羨望の指先を伸ばした造形家は消滅し、落下時に落としたスケッチブックを零から受け取るカオル。
 「そんじゃまた」
 「待って! …………ありがとう」
 「あのさ……俺、名前は零だけど、ゼロだけど……ちゃんとここに居るから」
 自らゼロで構わない……そう思った男の心にしかし、例え名前は「零」であろうとも、 誰かに己が存在を目にして欲しいというさざ波が立ち……そうでなければ、魔戒騎士は戦い続けられないのではないか、 そんな事も感じさせつつ、今回のEDは零バージョンで、つづく。

◆第16話「赤酒」◆ (監督:金田龍 脚本:小林雄次/雨宮慶太)
 「この風、郷愁をそそられる……」
 「ああ」
 「鋼牙、時は満ちた」
 鋼牙とザルバは、魔道具を作る職人、魔戒法師・阿門の元へ向かい、劇中初めて、鋼牙が礼儀正しい!!(笑)
 20年に一度、因果の巡りからホラーの出ない夜――鋼牙は旧知の法師より、 20年前に鋼牙の父・大河と法師が競うも決着の付かなかった魔戒ゲーム・バルチャスの勝負の続きを求められる。
 かくして二人は木札をぶつけ合っては互いの気力によりイメージバトルを繰り広げ……OP映像を流用している関係で、 法師が明らかに脳内に零を召喚しています(笑)
 「時に……ゴンザは、元気か」
 「相変わらずです」
 法師の問いに鋼牙の表情が緩むのが大変おいしく、ホラーとの戦闘無しで鋼牙とゲストがボードゲームを繰り広げる合間合間に、 終盤戦に向けた数々の布石、父・大河のエピソード、鋼牙の普段は見せない表情と本音、と様々な要素を詰め込み、 法師役の麿赤兒さんの演技力で間を繋ぐという、非常に大胆な内容。
 「おまえは、本気で人を愛した事があるのか? 大河は、おまえを愛するがゆえ、自ら犠牲となって死んだ。だからおまえは、 人を愛する事を無意識の内に拒んでいる。愛すれば、いずれ残酷な別れが訪れる事を知っているから」
 「違います」
 「いいや。だからおまえは未だにあの女に、真実を打ち明ける事も出来なければ、浄化の為に、命を賭ける事もしない」
 「違います!」
 思わず席を立った鋼牙は、法師に背を向けながら、絞り出すように言葉を紡ぐ。
 「最初は……ホラー狩りの餌にすぎませんでした。しかし、気付いたのです。あの子の存在が、俺の戦いの、糧になってると。 …………あの子は……俺の手で守ります! 100日目が訪れる前に、必ず。……それがたとえ、魔戒騎士の道に反するとしても。 あの子の命が、少しでも輝けるなら!」
 「――それが聞きたかった」
 前回ラストの零の言葉に滲む想いの流れで、人を護ろうとするならば否応なく人と関わる事になり、それはやがて、 人と向き合う事を求められる……魔戒騎士としてホラーを狩る一振りの剣であろうとした鋼牙が、 魔戒騎士であるからこそ“誰か”の存在に意味を感じる自分を認め、それを聞いた法師は、 カオルの浄化に必要な素材が近々手に入りそうな事と、巨大なホラー出現の予兆が高まっている事を告げる。
 「だがその時、あの女を守ってやれるのは、おまえだけだ」
 そしてもう一つ、ホラーに喰われて死んだと思われていた、大河の弟子バラゴの生存可能性が高まり、父を殺したのは、 バラゴを喰ったホラーだと思っていた鋼牙は困惑する。
 「己の友が敵になることもある。また、その逆もしかりだ。広い目で、物事を見ろ」
 「……俺にはわかりません。誰が敵で……誰が味方なのか。そして、この戦いに、終わりがあるのか」
 「言っただろ。魔戒騎士の戦いに、終わりは無い」
 バルチャスは法師優位に進むが、鋼牙の投了を止めた法師は勝負の結末を次の機会に預け、それはそのまま、 20年前の大河の言葉であると明かす。
 「勝負は20年後にお預けか」
 「……あの爺さん、20年後まで生きてると思うか」
 「簡単にはくたばらんだろ」
 鋼牙は法師の元を後にし、ゲームの決着を持ち越しつつ互いの「約束」とし、それを大河の存在と繋げたのは、気持ちの良い着地点。 また、鋼牙の中に受け継がれる血と想い、そして今も鋼牙を見守る大河のにこやかな姿を法師がイメージする事で、 昭和スポ根スパルタ親父の要素が強かった大河への好感度に上方修正がかかったのは良かったです(笑)
 「大河、おまえさんの息子は、立派に成長した。ただ……次に会う時は、こいつを飲み交わしたいな」
 サブタイトルに用いられ、濃厚なトマトジュースのようで印象的だった真っ赤な酒杯――どこか不吉な色彩が視聴者の心を乱すと共に、 鋼牙のトラウマを刺激し、法師はその克服を期待してみせる暗示的要素――にカメラが寄るのは、洒落たオチ。
 そして帰路についた鋼牙は、心配して迎えに来たらしいカオルと再会。
 「……おかえり」
 「……ただいま」
 無表情を、取り繕った!
 バトル無しを工夫で乗り越える系のエピソードでしたが、麿赤兒さんの強烈な存在感のみならず、 旧知の人物に対していつもと違う表情を見せる鋼牙、なんだかんだとその鋼牙の帰りを待って食事にも手を付けないカオル、 そのまま庭で眠り込んでしまったカオルにそっと毛布をかけるゴンザ、とキャラクターの魅力を加えるサービスシーンも行き届いており、 今作らしい気配りのある内容でした。
 今回のEDは鋼牙で、次回――再びエロス&バイオレンス方面?

◆第17話「水槽」◆ (監督:金田龍 脚本:小林雄次/梶研吾)
 前回は急遽3日で撮影したという金田監督が三連投で、モノクロームに近い画面をピアノのメロディで彩りつつ、 漠とした空間が不安を誘う映像で描かれるのは、自らの血を熱帯魚に与える男。
 「俺さ……嫌いなんだ……人間ってやつが……」
 水槽の中には巨大な魚が浮かび上がり……
 「最近、ホラー達の動きが活発になっています」
 「餌を有効に使うべきでは?」
 「あの女の事です」
 その頃主人公は、超にこやかに、厭味を言われていた。
 「どうやらあの女は」 「もはやおまえにとって、ホラー狩りの餌ではない」 「護るべき存在になってしまったようですね」
 「魔戒騎士は護りし者だ。違うか?」
 「おまえが護ろうとしているのは、人間ではない」 「あの女です」 「そうでしょう?」
 「くっ……」
 舌戦では、勝ち目がありません!
 鋼牙が追うのは魚に擬態する変化球のホラーで、熱帯魚だと思い込んで持ち帰った為にそれに取り憑かれ、 自分の血ばかりか次々と生け贄を捧げる孤独な男を笠原紳司さんが怪演。
 「ザルバ……」
 「ん?」
 「……あんな人間も、護るに値すると思うか?」
 ホラーの残り香から男をホラー本体と誤認した鋼牙は指輪に止められるが、男の行動に犯罪の臭いを感じ、 100体を越えるホラーを狩っている魔戒騎士としては、今回、鋼牙が直面する“魔戒騎士としての在り方――人間の捉え方――” はやや青臭すぎるようには思えますが、カオルとの触れ合いを通して、本当の意味で“人間”と向き合いつつある、とはいえましょうか。
 少し意地の悪い言い方をすると、鋼牙にとっての“魔戒騎士”とは、やはり“父親の継承”であって、 その志を真っ直ぐに受け継いではいるものの、その意味にまでは考えが及んでいなかった面があるのかもしれません。
 生け贄を捧げるごとにホラーの姿は魚から人間に近付いていき(男の目にはそう映り)、気配を捕まえきれない鋼牙は、 指輪の進言によりやむなくカオルを囮に使う事に。まんまと餌に食いつくホラーだが、後を追う鋼牙は流しのホラーに遭遇してしまう。
 「鋼牙……餌が効きすぎたようだな」
 ゆ……指輪! 先日の総集編ではもう少しカオル寄りだったのに指輪……!
 「魔戒騎士の使命は、ホラーを狩る事」
 「人間を救う事じゃない」
 「立場をわきまえる事ね」
 ギルドでは三神官が甲高い笑い声をあげて嫌がらせの黒幕の可能性が仄めかされ、情と正義と使命の狭間で藻掻く事になる鋼牙。 本日も変態を呼んでしまったカオルは男の家に誘い込まれ、思い切り顔面ダイブするわカッターで切りつけられるわで、散々な目に。
 なんとか駆け付けた鋼牙が水槽を砕くと、中から転がり出たのは、人間とは似ても似つかぬ醜い魚人で、 人間に見えているのは取り込まれた男だけ、というのは想定内でしたが、容赦なくグロテスクなデザインと見せ方は秀逸。 陸に上がってピチピチ跳ねるホラーをそれでもかばおうとして抱きしめる男だが、鋼牙は男を突き飛ばしてホラーを調伏。
 怒りの冷めやらぬまま男に剣を向けるもカオルに止められた鋼牙は、とりあえず一発殴って気絶させるが、 意外としぶとかった人魚ホラーが、鋼牙がカオルを撒き餌にした事を暴露して消滅し……そこで、 背中を向けて無言で歩み去ろうとするのが、とことんダメだぞ鋼牙。
 それから、絵描きの指なのだから、まずは問答無用で応急処置ぐらいしてほしいです王子。
 「護ってくれるって……護ってくれるって約束したじゃない」
 カオルに問い詰められた鋼牙は観念して真実を告げ、泣き崩れるカオルに求められるまま、 ザルバ印の探知リングを外してしまい……よし! そこだ! 平手打ちだ!
 と思いましたが、カオルは涙を浮かべて走り去るに留まり……ここまでの信頼関係の積み重ね、数々の救助イベント、 直前の出来事によるショック症状、など諸々を踏まえたのかとは思いますが、鋼牙に対するカオルの、 すがりつくような物言いは“受け身のヒロイン”になりすぎたというか、どうにも糖分過多。
 絵描きとして成り上がると口にしている一方で、冴島邸への居着き方などを見るに本質的には独立独歩の性格ではない、 というのがカオル像なのかもですが、全体的に“甘え”のニュアンスが強すぎて、個人的には、 (特撮ヒロインとしては)回転とスナップの利いた一撃を見舞ってくれた方が好みなのだな、と(笑)
 あと、ホラージャンルのヒロインとしてそういう役割だと受け止めるところなのかもですが、 今回は鋼牙に誘導された部分もあるとはいえ、総じてカオルのぼんやり具合が成人女性としてはお人好しを通り越えてしまっており、 絶対に、大金を、持たせてはいけない……!
 浄化への希望を前に、鋼牙とカオルの間に亀裂が生じる大きな転機だけに、 カオルの動きが如何にも物語の駒になってしまったのは残念な部分でした。

◆第18話「界符」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:小林雄次/林壮太郎/梶研吾)
 「諦めろ鋼牙。自分で蒔いた種だろう」
 カオルを失い、闇雲に剣を振るう鋼牙の元に届く、「阿門法師が殺された」の凶報。しかもその犯人は、阿門の弟子、邪美?!
 赤酒の回で名前と顔がチラリと出ていた邪美が本格登場し……副隊長! 副隊長じゃないですか!!  邪美を演じる佐藤康恵さんは、今作前年の『ウルトラマンネクサス』では、闇の凪こと般若の表情でお馴染み副隊長役でレギュラー出演しており、 今年前半に色々あった『ネクサス』のキャストと、こんなところで再会するとは思いもよらず(笑)
 容疑者・邪美は何故かギルドに潜り込むと、浄化の短剣の収められた箱を奪い、番犬所の番犬・コダマと激突。 体術と呪術の飛び交う激しい戦いの末に逃走に成功する邪美だが、今度は鋼牙に、その始末が命じられる。
 だが鋼牙は、指令書が無い事を理由にこれを突っぱねると、ギルド退会を宣言。ひとり法師の庵に向かうと、そこで邪美と再会を果たす。
 「へぇー、男前になったな、あの洟垂れ小僧が」
 「……相変わらず口が悪いな、おまえは」
 口を開いた邪美は、女海賊とか山賊のノリで、『ネクサス』の際は役柄とか演出とか脚本の問題で判断がつきにくかったですが、 改めて、演技は基本、一本調子。
 一方、度重なるショックの連続で、とうとうホラー恐怖症とでもいうべき恐慌状態に見舞われたカオルは龍崎先生に拾われており、 先生、凄い逆光。
 カオルはこれまでの出来事について先生に全てを話し、それを受け止めた先生は、鋼牙にはもう会わない方がいい、とアドバイス。
 「なんなら、ずっとここにいたっていいんだよ」
 「先生……」
 「大丈夫。何があっても、僕は君の味方だ」
 心が弱っているところを信頼する龍崎に暖かい言葉をかけられた、という状況ではあるのですが…… 積み重ねが積み重ねだけにカオルはどうも緩いというか、あのガツガツしていた前半の姿はどこに行ってしまったのか (好意的に解釈すれば、無理が重なっていたからこそ、冴島邸に本人が思っている以上の安らぎを見出していたのでしょうが…… ゴンザも居ますし)。
 先生サイドからすると、あくまでカウンセリングの一貫、とは取れますが、京本政樹が京本政樹だけに、 いよいよ雰囲気が怪しくなって参りました(笑)
 魔戒騎士ギルドは退会した鋼牙に変わって零を呼び出すと、邪美抹殺のミッションに成功すれば「ある御方」に計って恋人を生き返らせない事もない、 と囁き、更に恋人の仇は間違いなく鋼牙、と吹き込む完全な悪の組織ムーヴ。
 憤怒の形相でギルドを出た零は、龍崎の不在時に再び恐慌に襲われ、街をフラフラと彷徨っていたカオルを発見すると、愛する者の為、 心を鬼にする覚悟を決める……。
 一方、魔界に封印される筈の短剣がギルドに保管されていた事に疑義を抱く邪美は、 法師が死に際に「騎士」を示すバルチャスの駒を握りしめていた事を告げ、例え旧知の鋼牙でも、魔戒騎士は誰一人として信用しない、 と衝突。
 「覚えてるか? 一緒にバルチャスの腕を競った時のこと」
 「ああ! それがどうした」
 「……おまえ! あたしに気ぃ遣ってわざと負けてただろ!」
 ……ハイ、冴島鋼牙くん、貴方が優しさと思っているものが他人を傷付けた時、俺にはそういう生き方しか出来ない、 と開き直るのは人類悪ですからねー。ここ、次の補習に出るので、よーく覚えておいて下さい!
 他人事みたいな顔しているそこの指輪さんも、保護者責任で、後で職員室まで来るように。
 「気付いてないとでも思ったか? そういうさりげない優しさが……おまえの弱点なんだよ!」
 至近距離からの頭突きが二発叩き込まれた後、雷撃の術が鋼牙の土手っ腹に直撃し、 前回のカオルの分も邪美がケジメをつけてくれています!
 「なんならその女、あたしが殺ってやろうか?」
 とうとう抜刀した鋼牙に対して邪美は真紅の旗を振り回し、魔戒騎士と差別化を図る工夫をしつつ、香港とか中国映画系のアクション。 鋼牙を翻弄するかと思われた邪美だが、剣を抜いた鋼牙は歴戦の強者であり、雷撃を刀で弾いて間合いに入り込むと、ビンタを一発。 地面に倒れた邪美の武器を打ち払って戦闘力を奪う鋼牙だが、結果として物凄く押し倒しているところを、 カオル&零に目撃されてしまう。
 慌てて戦闘を中断した鋼牙&邪美に、零はカオルを人質として箱との交換を要求。
 「おまえ馬鹿か?」
 「は?」
 「その女もうすぐ死ぬんだろ? 人質になんか使えるかよ!」
 「ふふっ……そうだった。あと何日だっけ?」
 「ちょっと待って。なんの話……?」
 「ホラーの返り血を浴びた人間は、100日目に死ぬんだよ。地獄の苦しみを味わいながらね」
 大変愉しげに囁く零がここに来てまた非常に嫌らしく、己が人類悪の辿る顛末をまざまざと見せつけられる事になる鋼牙だが、 間隙を突いて箱を奪うと、カオルと交換する、と見せかけて共に取り返すファインプレー。
 「どうやら決着をつける時が来たようだな」
 「最初からそのつもりだけどね」
 鋼牙はカオルを邪美に任せ、零とお互いの剣を打ち合わせて同時に鎧を装着。金と銀の狼が激しくぶつかり合い、 実力伯仲の激闘の末に深傷を負ったガロに頭上から迫るゼロの刃の行方は?! で、つづく。
 新たなキャラクターの登場を引き金に物語が一気に動き出し、法師殺しの真犯人は? 何かと怪しげなギルドの真意は?  ホラー喰いの魔戒騎士は実在するのか? と、様々な謎を孕みながら、終章へ向けて急加速。 工夫を凝らした二つの肉弾アクションから満を持してのガロvsゼロ! とバトルも盛り上げ、次回――漆黒の騎士が牙を剥く!

→〔まとめ4へ続く〕

(2021年6月27日)

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