■『牙狼』感想まとめ2■


“悲しみは いつか消せるはず
僕があきらめず 愛を伝えてく”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『牙狼』 感想の、まとめ2(7話〜12話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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◆第7話「銀牙」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:梶研吾/雨宮慶太)
 鋼牙がホラーの返り血を浴びたカオルの浄化を考えている事が仄めかされる一方、 零はホラーを生み出すゲートになりそうな箇所に先回りしては陰の気を破壊して回る挑発行動を繰り返すと、 大量の糖分でエネルギーを補給し、可愛げをアピール。
 本日はメイド姿でバイト中のカオルを狩る為に刃を向ける零だが、そこに颯爽とヒーロー登場を決める鋼牙!  は素顔に格好良かったです。……ひたすら無言なのが困った人ですが。
 零は剣を収めて一時撤収し、改めてアジトに乗り込んできた鋼牙に対し、零の口から、 ホラーの返り血を浴びて100日経った者に訪れる、残酷な死の末路が語られる。
 「そいつを知っていながらなぜ楽にしてやらない。魔界騎士失格だぜ」
 「もう一度言う。貴様には関係の無い事だ」
 徹底して、説明しない主義を貫く鋼牙だが、「父子揃って碌なくたばり方できねぇぞ」の挑発を受けると殴り合いに発展し、 クールと呼んで欲しいお年頃ですが、基本的に沸点は低めです。
 「先に剣を抜くとはな。掟の一線を越える気か?」
 「魔界騎士の血は、この俺で途絶えていい!」
 刃をぶつける二人の獣だが、そこへホラーが出現し、立体駐車場での蹴落としバトルはかなりの迫力。 どつき合いながらホラーとも戦う二人は、飛行能力を持ったホラーに高空から突き落とされそうになった所で、鎧を装着。 鋼牙の黄金の騎士ガロに続き、零は銀色の騎士ゼロとなり、金狼と銀狼はクロス攻撃でホラーを成敗。
 鋼牙と零の直接対決という事で出番無しかと思われたホラーですが、しっかり出てきて倒される事で、 両者ともに本業そっちのけにならなかったのはヒーロー物として良かったです。
 「どうする? あと90秒遊べるぜ」
 砂時計は装着可能時間99.9秒を示す事が明確となり、両者は高層ビルを駆け下りながらの高速バトルを展開。 ビルの壁と窓に多大な被害を出しながら(ギルドが密かに弁済して、鋼牙のお給料から天引きされるのか……?) の激しいバトルは僅かに鋼牙優勢のまま両者装着限界でタイムアップ。
 傷だらけの鋼牙は屋敷に戻るとカオルの無事を確認して視聴者を悶えさせ、敗北の屈辱に吠える零、でつづく。
 ……鋼牙は段々、クレナイ・ガイさんとか左翔太郎さんと鼎談させたい感じになって参りました。
 「見えない所で輝いてる光もある。ヒーローなんてのはそんなもんなんだよ」
 「おまえ……形から入るタイプだろ? そういう奴はな、挫折したら細波海岸だ。俺も昔よくここに来た」
 果たして鋼牙は、この後で海岸に行ってしまう事があるのかないのか! 今後の展開を期待したいと思います。

◆第8話「指輪」◆ (監督:金田龍 脚本:梶研吾/小林雄次)
 冷蔵庫に人間の指を集める女という直球のサイコサスペンスで始まり、視聴者への説明とはいえ、ニュースで、 猟奇殺人事件における犯人特定に繋がる詳細を語るのはどうかと思いますが、龍崎先生は、TVにも呼ばれるサイコセラピストと判明。
 服も、ちゃんと、着てた!
 幸せだった男女の悲劇が断片的に描かれ、女の恋人役で、北岡先生に続いて吾郎ちゃんが出演。
 電車に飛び込んで自殺した恋人の指が目の前に転がってきた事が、女の精神を狂わせた、というのはかなり強烈な映像で、 ピアニストだった恋人の自暴自棄の末の死に囚われ、美しくしなやかなピアニストの指を集め続ける女は、 その妄執からホラーに憑依される……。
 好みからすると演出の間……というかゲスト女優さんのアップというかが長すぎますが、 いざ女優さんが口を開いたら物凄く喋り慣れていなかったので、顔で間を持たせていたのはそういう事情もあったのでしょうか……。
 「俺の苦手な女のホラーか」
 新たなホラーの出現にギルドから指令を受け取った鋼牙は、椅子にどかっと座りながら何故か自慢げで、 積極的に残念ポイントを稼ぐようになってきて、いい感じに暖まってきましたね!
 基本、使命感も精神力も強く感情を面に出さない鉄面皮ヒーローで崩しの少ない鋼牙に、 きちっと視聴者のツッコみどころを作って愛嬌を少しずつ付けていくのは、今作の手抜かりの無いところ。
 一方、本日もホラーほいほいの役目を果たすカオルだが、そこに現れたのは涼邑零。
 「お姉さん、クリームソーダ一つ」
 そして……
 「……おい、あの女」
 「……どうした?」
 「ホラーとご一緒だ」
 「……またか」
 もともと鋼牙さん、そういう名目で泳がせている事になっているんですけどね!
 カオルを挟み、対峙する零とバーテンホラーの緊張感が高まる現場に、鋼牙が到着。
 「王子様のお出ましか」
 鋼牙はMPを3ぐらい削られた!
 「……彼女、あんまり悲しませると気の毒だよ。短い命なんだからさ」
 カオルを狙うのは辞めた、と宣言した零は鋼牙にカオルを押しつけて姿を消し、鉄面王子様はバーテンホラーと激突。 短距離転移した両手を自在に操るリモコンハンドに翻弄される鋼牙だが、なんとか反撃の糸口を掴むと、 バーテンホラーの変貌した氷炎ホラーに対して、鎧を装着。
 「時を封じ込める貴様の因果、俺が解き放つ!」
 ピアノのメロディが響く中、バーニングライタークロスが炸裂し、リモコンハンドの表現に、鋼牙の台詞も決まって格好いいバトルでした。
 「ねえ、ひょっとして、あの日の事が甦ってるの?」
 その戦いを見つめるだけだった零に相棒の首飾り(CV:折笠愛)が問いかけ、相棒にベテラン声優を配置して、 お母さんというかお姉さんというかの関係性が零のキャラクターと非常にマッチ。ただただ突っかかってくるだけではなく、 鋼牙とカオルに対して一度間合いを取り直した零の過去が仄めかされて奥行きが生まれ、手抜かりの無いキャラクターの見せ方で、つづく。

◆第9話「試練」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:梶研吾/小林雄次/雨宮慶太)
 注目は、足を潰してダウン状態の鋼牙に当たり判定のある置き波動を重ねてダメージを与えてくる心の中の黄金騎士ガロさん。
 今作ここまでの登場キャラの中で、ドクターホラーの次ぐらいにえぐい。
 魔界騎士ギルドを報告で訪れた鋼牙は、突如として狼像の中に吸い込まれ、「父親の歩んだ道を辿ろうとしている」と告げながら、 その内なる魔界に姿を見せたのはなんと、黄金騎士ガロ。
 「私は、おまえの内なる影。そして、おまえの最も恐れる存在」
 金色ボディの至る所に何やら黒い文様の浮かぶガロは、数多くのホラー討伐ミッションを達成してきた鋼牙に、新たな力、 ゴウテン召喚の許可を与える。
 「その力が欲しくば、私を倒す事。それが、おまえに課せられた試練だ」
 「…………興味は無い」
 許可なのか試練なのかハッキリして欲しい、と刀を収めて強制クエストを拒否しようとする鋼牙だが、 父親の事を持ち出されると形相を険しくして剣で切りつけ、あの鎧姿で上段回し蹴りを決めるガロが格好いい。
 ぶつかりあう両者だが、タイミング悪くホラー出現の連絡で戦闘は水入り。
 「行ってこい」
 あ、話のわかる人だった(笑)
 「まずは、魔界騎士としての使命を果たすのだ。私は、いつでもここでおまえを待っている」
 ただし、ちょっと面倒くさい人だった(笑)
 いつでも待っている宣言を受けつつホラー退治に向かった鋼牙だったが、ざっと身の丈3倍はあろうかという巨大ホラー (正統派ゾンビ系デザインの目が怖い)の纏う装甲にあらゆる剣撃を弾かれ、初の装着解除から、ホラーの逃走を許してしまう。
 「逃げ出してきたのですか?」
 「尻尾を巻いて」
 「情けない」
 鋼牙さんが何かやらかす度に、私脳内で三神官が合唱を始めます!
 「牙狼剣が効かなかった……」
 己の未熟を痛感した鋼牙は、冴島家に代々伝わってきた剣を手に試練へ臨み、対ホラー用とは違う鉄剣の取り回しに戸惑いつつも、 内なるガロと激突。
 一方のカオルは、父親が描いた油絵修復の依頼を受け、絵を描く事に心血を注ぐあまりに家族を蔑ろにしていた父へのわだかまりが明らかとなり、 少女時代に病死した母など、カオルの過去も徐々に紐解かれていく事に。
 完全に絵が剥離してしまった右手の空白の再現に悩むカオルは両親の事を思い出し、 ガロに刃を届かせる事のできない鋼牙は苦闘の中でもがき、鋼牙とカオルが共に自らのルーツと向き合い、己の内面に挑む姿を重ねる構成。
 (見つけた筈だ……親父もきっと)
 「あいつはあいつなりに逃げずに頑張ってるんだね」
 辛い記憶から一度は修復作業を投げ出すカオルだが、ゴンザの言葉に鋼牙の戦いを知ると踏ん張る気持ちを新たにし、 “ヒーローが誰かに勇気を与える”構造の『牙狼』的再構成になっているのですが、 ヒーローと対象の間を離して間接的に描く事で他のヒーロー作品と差別化したドラマ性を意図した結果、 「ゴンザに言われると素直に呑み込む」のは、やや安易な形で劇的さを損ねてしまった印象。
 まあ、鋼牙が基本「口に出さないヒーロー」なので面と向かっても歯車が噛み合いませんし、 そんな鋼牙とカオルの間をつなぐゴンザの役割を示し、鋼牙の戦いを見ているカオルの心境の軟化を描くという意味で納得はできるのですが、 個人的にはもう少し、ダイレクトに繋げてくれた方が好みではあり。
 これは、カオル方面のドラマが今回配置された要素から定型文通りに進むので、もう一押し、 カオルの「個」ならではの展開を見たかった、というのもありますが。
 とはいえ、ガロと戦う鋼牙の斬撃と、父の絵と向き合うカオルの筆の動きを重ねて両者の同調――行為は違ってもそれは同じく、 自己との対話である――を描くのは、非バトル型ヒロインの存在感の見せ方として面白かったです。
 (この壁画は、お父さんがお母さんに残した、最後の、そして最高の、愛情表現だったんだ)
 欠けていた右手の真実に至ったカオルは、絵の事しか考えていないと思っていた父親の母――家族への愛情をそこに見出し、 無事に絵を完成……させた帰り道、どこかの魔戒騎士さんが取り逃がした眼球ホラーとエンカウント。
 「なんで綺麗に終われないのー?!」
 個人的には、絵の修復を依頼してきた園長先生がいつ変態の本性を露わにするのかドキドキしていたのに、 最初から最後まで極めて真っ当な人物だったのがガッカリです!
 一方、鉄剣の真実に気付いた鋼牙は、影を恐れず自らの心の内側に踏み込む事でガロに刃を届かせ、 一つの殻を破って新たな段階へと踏み出す事に成功する。
 「急げ。おまえの助けを待つ者がいる」
 内面に抱えた闇との相対をバトルを通して描く事で(変身前でも超人的な立ち回りの出来る鋼牙のヒーロー性を活かして、 対敵するガロの使い方が秀逸でした)戦士としての奥行きが増した鋼牙が、無言で外へと体を向けて走り出すのが格好良く…… 無愛想で言葉足らずで女子を平気で投げ捨てるけど、 ここぞの場面で鋼牙を“ヒーローとして格好良く見せる”事にてらいがないのが、 今作の気持ちの良いところ。
 ここを恥ずかしがられると、個人的には途端に好みから外れてしまうので。
 逃げ惑うカオルに迫る眼球攻撃を鋼牙がヒーロー登場で弾き飛ばし、満を持してのボーカル曲が流れ出すのが大変痺れます!
 「行け!」
 が、歌詞の「ゆけ かぜのごとく」に重なっているのも格好いい。  鋼牙は鎧を召喚して黄金の騎士となり――
 なにゆえ戦うのか それは剣に聞け
 ……ああ、鋼牙、素で言いそう……。
 ストイックなダークヒーローを意識した歌が流れる中、黄金騎士は切っ先で空間にキングの印を刻み…… 予告で見ていた気がするのにこの瞬間まで完全に忘却していたのですが、馬、出てきた。
 物陰で戦いを見守るカオルは、黄金の馬にまたがった黄金の剣士の組み合わせに絵本の挿絵を思い出し、なぜ馬???  と思ったのですが、むしろ、騎士だけに馬、という実に正統派でした。
 「相変わらず硬い奴だぜ」
 「承知!」
 そして鋼牙は、馬上でいつになくテンションが上がっていた(笑)
 この流れだとランスになるのもありかと思いましたが、馬上の黄金騎士の握るソウルメタルの剣は主のハイテンションに応えて分厚く巨大化し、 魂込めた怒りの刃を叩きつけて強敵ホラーを一刀両断。宿命の剣士は闇に光をもたらすのであった。
 「おまえ、今日はいい顔付きしてるな」
 戦いを終えた鋼牙は、カオルを見つめて顎をくいっと持ち上げ、その王子ムーヴは、天然?! 天然なのっ?!  お父さんもそうだったのーーー?!
 から、久方ぶりの気がする帰路エンドで、つづく。
 鋼牙が自らのルーツ、そして影の部分と向き合う事で新たな力を得るのは呑み込みやすく、そこにカオルの過去を絡めて両者を重ね、 強化要素の馬から忘れかけていた絵本を引っ張り出した構成は秀逸。
 一方、中盤までの話のテンポが遅く(今作全体にいえる話ですが、もうワンテンポ、ツーテンポ速い方が個人的には好み)、 構成は良いが勢いが弱い印象でしたが、クライマックスバトルの格好良さで不満点は帳消しして十分以上にプラスが出て、我ながら、 何が見たいのか(勿論、そこに辿り着く道程も重要なのですが)、がハッキリ感じられたエピソード(笑)
 内なるガロの「急げ。おまえの助けを待つ者がいる」以降は、非常にツボにはまる展開でした(挿入歌が、ものの見事に無限リピート中)。
 ところで、創作の世界にままある共時性の一種かと思われますが、 同期の『マジレンジャー』にも騎士モチーフのキャラとギミックとしての馬が登場し、特撮ヒーロー作品で同年に馬ギミックが重なる、 のはかなり珍しいでしょうか。ちなみに、これも企画タイミング的に無関係と思われますが、 2005年というと日本競馬の世界では歴史的名馬ディープインパクトが無敗三冠を達成した年であり、 不思議な馬の縁を感じるような感じすぎのような。
 次回――今回お休みだった零、再び。

◆第10話「人形」◆ (監督:金田龍 脚本:梶研吾/小林雄次)
 人のあけすけな本心を引き出し狂気に陥らせるホラー道化師により、一般市民が集団で殺し合いに至る冒頭がかなり強烈。
 人間に(なんらかの要因で)不和を引き起こす能力、そのものは特撮ヒーロー物の定番といえますが、 敢えて定番のアイデアを持ち込む事により、『牙狼』においてはここまで表現しますと打ち出してきたようにも見え、 その流れで、ホラーの能力に囚われたヒロインが
 「さっさと金よこしなさいよ、金ーーーっ!!」
 と叫びながら、バイト先のセクハラ上司(前回の反動か、一般人の変態を引き寄せてしまいました) に馬乗りになって首を締め上げるのは、なかなかボウケンしてきます。
 父の絵本について鋼牙に心当たりを聞くカオルだが答は得られず、鉄面王子が駄目ならと指輪にも聞いてみるが、揃って無言を貫かれる。
 「……どうやらあの子の父親は、おまえの父親に救われた事があるらしい」
 「……ああ」
 「運命とは、皮肉なものだな」
 一方、鋼牙への嫌がらせとして東のギルドに顔を出す零だが、先日の私闘の件は、どさくさ紛れに無かった事にはされていなかった。
 「罰として、二人にトイレ掃除一ヶ月を命じます」
 ……じゃなかった、
 「罰として、二人の命を一日ずつ剥奪します」
 なにやら不穏な罰が下され、おまえのせいで怒られたぞ、と緊張感を高める両者だが新たなホラー討伐の命が下される事に。
 2話に一回ぐらいコスプレ担当になりつつあるカオルは遊園地のバイトでピンクのドレスを身に纏い、 そこに現れた零はホラー道化師の能力を受けるがさすがに無効化。抜いた刃で道化師の人形を切り裂き、 真意はさておき形としてはカオルを守って二刀を構える形になっている姿が非常に格好良く、 魔戒騎士としての零の格好良さも見せてくれるのが手堅いところ。
 ホラー道化師の謎のガード能力にやや苦戦する零だが、なんとか蹴りを叩き込むと苦悶した道化師の頭部が膨れあがったピエロへと変貌し、 巨大なピエロホラーが出現。
 「俺の目的は黄金騎士の抹殺」とカオルに告げた零はピエロに弾き飛ばされ、真打ち登場の鉄面王子様、 カオルを助けてお姫様抱っこ再び……からの、いつの間にか投げ捨てた!
 「こいつの言う通り、人間は偽りだらけの醜い存在らしいな」
 「しかし、俺は躊躇わない! 護りし者として!」
 ゼロとガロが両サイドからピエロホラーを切り刻み、間を飛び交っていたカオルのぬいぐるみも、 無事にキャッチして《おうぉー おおおおおー おおおーおー おーおーおーーー!》。
 完全にわざとでしょうが、ピンクのドレスのカオルを挟んで、白と黒の王子様が睨み合う構図がニヤニヤさせてくれます(笑)
 後日、ぬいぐるみを相手に鋼牙にお礼を言う練習をするカオルだが……結局上手く言えず仕舞い? そんな二人を見つめる謎の道化師、 そして、出版される筈が結局はされなかったカオル父の絵本、その原稿はどこに消えたのか?  なぜカオルはその本を読んだ記憶があるのか?
 ホラーの能力を、出だしのショックシーンのみならず、護るべき人間の価値とは何か?  の問いに繋げて謎めいた魔戒騎士という存在の掘り下げに用いてきた流れは綺麗で、あちらこちらに不穏の種が撒き散らされながら、つづく。
 次回――楽○カードマン! ……Youtube配信を視聴中に川平慈英が出てくると、200%広告だと思ってしまうわけですが、普通に、 次回のゲストでした。

◆第11話「遊戯」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:林壮太郎/梶研吾)
 本日のお言葉。
 「態度だけは大きい癖に、意外と度胸ないのね」
 三神官の毒舌は、鉄面王子に対していいアクセントだなーと(笑)
 そんな王子に迫る、謎の影。
 「背後から、怪しげな思念が来るぞ」
 TV番組に出演して高額賞金をゲットだ! と鋼牙にペアを持ちかけるカオルだが、鋼牙は当然、それをすげなく拒否。
 「ちょっと、ホラー狩る意外に興味ないのー?」
 「無い」
 「……じゃあもういいよ! 零くんに頼むから」

−−−
賞金も欲しかったけど、
本当は……普通の男の子として、
ゲームを楽しむ鋼牙を見たかった。

まだ見たことのない
鋼牙の笑顔を、
私は見たかった。
−−−

 突然、モノローグの代わりに黒バックに白抜きで文字が出て、学生の自主制作映画みたいになって思わず笑ってしまったのですが、 人間にゲームを持ちかけて魂を奪う楽天ホラーの登場シーンが舞台セット風だったりと合わせて演出上のオマージュだったのか、 特に関係なくアフレコの際に何かトラブルもであったのか……。
 ギルドから新たな指令を受けた鋼牙だが、ホラーの元に向かう途上で、ばったり出会った零と激突。
 「目的はなんだ」
 「ガロの称号を持つ者は斬る。それだけだ」
 「なぜだ?」
 「気に入らないんだよ。恨みを晴らす事に必死で、自分が恨みを買われてる事にも気付かない、愚かな黄金騎士がな」
 「なんの話だ!」
 「おい、二人とも」
 今度こそトイレ掃除をさせられるぞ!
 ……じゃなかった、
 「三匹の小番犬に、また命を縮められたいの?」
 互いの保護者から仲裁されて、激突は水入り。
 「お互い、長生きは出来ないな」
 捨て台詞めかして零は去っていき、マントを翻して駆ける鋼牙は、楽天ホラーと接触。 敵に主導権を握られるままカオルの魂を賭けたゲームに挑む事になり、引っかけクイズに割と真面目に挑む鋼牙(笑)
 ゲーム空間は、背景やオブジェクトにイラストを多用して幻想的な雰囲気を出し、アニメジャンルでいうと新房昭之監督を思わせる演出。 オマージュ元などあったのかもしれませんし、こういった変化球を交える試みは面白かったですが、個人的にはあまり好きではない見せ方。
 楽天ホラーを撃破するも、マネキンカオルの群れから本物を見つけださなくてはいけなくなった鋼牙は精神を集中すると回収したCGを回想し、 メモリに登録されていて本当に良かった!
 哀しそうな表情のカオルを本物だと見抜く事に成功した鋼牙は、取り返した魂を定着させる方法として、 (騙されていないか念入りに指輪に確認しつつ)カオルを抱きしめながら呪文を唱え……眠り姫の目覚めは王子様の口づけなのが、 凄く『牙狼』です(笑)
 「なんか変な事しなかったでしょうね」
 「誰がおまえなんかに」
 「……やだ……頭痛い。なんか魂一度抜かれたような気分」
 「まったくだ」
 「……ふっ」
 「今笑った? 笑ったよね?」
 「笑ってない」
 指輪の勧めもあり、体力の戻らないカオルを座らせ、鋼牙は渋々と肩を貸し、つづく。

◆第12話「大河」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:梶研吾/雨宮慶太)
 おまえちょっとやかましい、と外された指輪には専用の台座がある事が判明し、こういった小道具へのこだわりは、 今作らしさを感じます。
 「たくましく、成長されたものです」
 「あのチビがな……」
 シャドー剣舞を重ねる鋼牙を見つめるゴンザと指輪の呟きから、幼年期の鋼牙の修業時代に話は移り、 何度か言及されてきた父・大河(演:渡辺裕之)が遂に劇中に登場。
 二人旅の途中で出会ったホラー退治の一幕を挟み、鋼牙を屋敷に残してゴンザに託した大河は、かつての友・バラゴとの戦いに臨み、 てっきり女絡みかと思っていたら、大河の死因はホラー化した(?)友人との戦いによるものでした。……まあ、バラゴが女ではない、 とはまだ言い切れませんが。
 大河の赤い血と、バラゴの粘液のような体液を滴らせる対比が人外の化生の表現として印象的で、 部分変身から格好良く鎧を装着する大河だが、壮絶な戦いの末に敗北。最後は飛び出してきた鋼牙をかばって腹を貫かれるも、 瀕死の状態からの反撃で深傷を負ったバラゴは姿を消し、1クール目のラストに、父親の最期と因縁の仇敵が明らかに。
 遺された父の剣はクレーンでさえ回収できず、魔導輪・ザルバと契約し、激しい修行を続けた末、 遂にそれを引き抜く事に成功する青年・鋼牙。
 ソウルメタルは手にする者の心に応え、隕鉄のように重くも羽毛のように軽くもなる――という大河の言葉から、 形見となった剣を手にする事で鋼牙が魔戒騎士として歩み出す資格を得た事が描かれるのは劇的なビジュアルとなり、綺麗な流れでした。
 華やかなクリスマスの灯火とは無縁で、“護りし者”として血の宿命に生きる鋼牙の来歴は、ヒーローフィクションとしては珍しくない背景なのですが、 今作の場合、ホラーと関わる人々の感情や、着の身着のままめいた姿で父に従う鋼牙の姿など、 見せ方が全体的に生々しい作風なので、閉鎖環境における厳しくも暖かい(と感じる)父との絆や、 それはそれとして旅の途中で保護されそうな生活感の描写から受ける印象が、 個人的にはヒロイックを通り越してグロテスクの領域に入ってしまったのは、引っかかった部分。
 その為、いまわの際の「今日からおまえがガロの称号を受け継ぐのだ」も、“呪い”のどぎつさが強烈だったのですが、 以前に鋼牙は零と剣を交えながら「魔戒騎士の血は、この俺で途絶えていい!」と発言しているので、 ここからその宿命に対して批判的なテーゼが入ってくるのか、気になるところです。
 逆にそこを肯定的に描くなら、もう少しオブラートに包まないと、露悪が過ぎたかなと。
 一方で、父親に代わり鋼牙に温もりを与えるゴンザの存在感が光り、うかうかしていると、 ヒロインの座を持っていかれるぞ、カオル!

→〔その3へ続く〕

(2021年6月8日)

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