■『超人バロム・1』感想総括■


“段々思い出したぞ……コプーは正義!”
“ドルゲは悪。そして俺達に戦えって”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた『超人バロム・1』 感想の、総括&構成分析です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、若干の改稿をしています。

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☆総括☆

 知っているか!? 超人バロム・1は、人質の扱いがとても雑だという!

 60年代後半〜70年代前半の作品を見ていくと他にも類例があるかもしれませんが、私がこれまで見た作品の中では、 トップクラスに人質の扱いが雑なヒーロー、それが超人バロム・1。
 東映ヒーローでは後年、『特捜ロボジャンパーソン』の主人公ジャンパーソンが、「強すぎて人質の意味が無い」 「むしろ人質に、人間愛の力を見せてみろ、と自助努力を迫る」というスタイルを見せますが、それとはまた違って、 純粋に人質の扱いが雑。
 一方で悪のドルゲ側は人質作戦こそバロム1に有効であると執拗にこだわり続ける為、 ドルゲが毎度無駄に人質を取るも、バロム1はほぼそれを無視する、というちぐはぐな状況が全編に展開してしまいました。
 序盤こそ、人質作戦により揺れる小学生主人公コンビのメンタル面に焦点が当たっていたのですが、
 「やるんだ猛!」
 「駄目だ。俺にはできない」
 「何を言うんだ。ケラゲルゲをやっつけておかないと、悪のドルゲは地球を荒らすぞ」
 「そんなこと言ったって……ルミちゃんを助けなければ……俺はやだぁ!」
 「ちぇっ、だらしがねぇ! 俺がケラゲルゲを倒す!」
 「だけど、ルミちゃんはどうするんだよ?!」
 「仕方がないだろ」
 −−−−−
 「ケラゲルゲはいつでも殺れる。それより早く、ルミちゃんを手当しないと」
 「ケラゲルゲを今やっつけておかないと、ドルゲバスはどんどん人間をさらってってしまうぞ」
 「今ルミちゃんに死なれればどうなんだよ! ガリ勉だけで、人の心がわからないんだ。馬鹿野郎!」
 第4話でピークに到達。
 そしてこの後、友情に入った亀裂は「自分たちの命には代えられない」という理由で取り戻されてしまい、人質を巡る心理的葛藤は、 自然消滅。
 また、第6話では2人の父親が人質となる事で人質対象との距離感もピークに達してしまい、 第2話でバロムワンの正体が小学生2人である事がバレた為にドルゲが容赦なく身内を狙ってくる路線が、 あっという間に手詰まりに。
 結果的にこの路線は無かった事にされるのですが(そして悪の最終作戦が序盤と同じ作戦に戻る、という特大の地雷になる)、 物語の硬直化を招いてしまい、今作の秘めたポテンシャルを閉じ込める大きな躓きになってしまいました。

 作品全体の路線の流れは大まかに4つに分けられ、
 ◆第1部(1−9話):
 〔猛と健太郎中心に展開・ドルゲが正義のエージェント抹殺の為に2人の身近な人間を狙う(第7話まで)〕
 ◆第2部(10−18話):
 〔バロム1の台詞が大幅に増加・ラストシーンがマッハロッドで走り去るバロム1の姿に・バロム1と松五郎のコンビ化進行・ バロム1中心に展開・猛と健太郎の個性と存在感が大幅減〕
 ◆第3部(19−28話):
 〔OPマイナーチェンジ・ホラー路線強化・人体魔人編(第21話より)〕
 ◆第4部(29−35話):
 〔話の中心が再び小学生コミュニティと猛&健太郎の家族に〕
 といった感じ。
 特に明確な変化は1部→2部で、実質的に、主人公が猛&健太郎から、バロム・1に交代。 アクションがやりにくい、キルマークをどうするか、など明白な問題を抱えた状況からヒーロー物としてはシンプルになったのですが、 あまりに急速に猛&健太郎の出番を削ってしまった事で、 猛と健太郎の二つの視点、という今作の大きな武器を手放す事になってしまいました。
 第2部では更に、第12話において悪のエージェントが人間以外でも素体となる大きな設定変更、 第16話では定番の“子供のヒーロー”強化演出、第17話ではバロム・1が初めてピンチとなり戦闘のドラマ性強化、 と細かな修正が加えられていき、今作を最も印象づける人体魔人ホラー編に突入。
 作風としては安定した第3部を経て、第4部では再び猛&健太郎とその周囲に物語の中心を合わせて今作の特色を取り戻そうとしたのですが、 結局、猛&健太郎人格とバロム統合人格の関係の曖昧さの為に、 変身しないとどうしようもないが変身すると2人の心情を掘り下げきれない、 というジレンマを乗り越えられぬまま終わってしまいました。
 バロム1のヒーロー性も、虚空から生じてしまうという難点に。
 また本来は、頭は良いが融通が利かず冷淡な面がある健太郎、気っ風が良くて人情に篤いが単細胞な猛、という考え方の違う2人が、 時に衝突し、時に協力する、という所に物語の面白さを広げる鉱脈があったと思うのですが、二桁話数以降は、2人はほぼ一緒に行動し、 ほぼ一致した意見しか口にしない為に作品の個性と魅力が大幅に減じてしまったのは、大変勿体なかったです…………要するに変身する度、 徐々に精神が融合して一体化しているのではないかコプーは正義!
 そしてあのラストシーンに辿り着いてしまうわけですが……風よ、雲よ、太陽よ、心あらば教えてくれ。いったい、正義とはなんだ!!

 良かった点を上げると、自ら電話帳をめくり怪人をスカウトするという初登場に始まり、シルエットと台詞で見せ(『黄金バット』の影響か?)、 断末魔に至るまできちっと仕事をしてくれたドルゲの存在感。シンプルながら影で不気味さを表現できる秀逸なデザインに、 この当時から既にラスボスだった飯塚ボイスもあり、印象的なボスキャラでした。……立案する作戦がワンパターンに陥り気味なのが、 残念でしたが(^^;
 70年代初頭の作品という事で割り引くにしても、第1話で提示された魅力がほとんど広がらずじまいだったのは、とにかく残念。 バディものの王道×小学生ゆえの不自由さ×小学生ゆえの冒険感、から打ち上がる花火がありそうだっただけに、 惜しさの募る作品になってしまいました。


★構成分析★
 〔評〕は、大雑把な各エピソードの5段階評価。高〔◎>○>−>△>×〕低。
 ただし、どこに基準を置くか、を考えるとややこしくなるので、相対的というよりは印象評価だと思ってください。 記憶と感想を読み返してのものなので、微妙にリアルタイムで見た時と、違っている所もあるかもしれません。

話数サブタイトル監督脚本備考
「悪魔の使い 深海魚人オコゼルゲ」 田口勝彦伊上勝〔バロム・1誕生〕
「呪いの怪人 フランケルゲ」 折田至伊上勝〔ミスター・ドルゲ登場〕
「恐怖の細菌魔人 イカゲルゲ」 折田至伊上勝
「吸血魔人 ケラゲルゲ」 田口勝彦伊上勝
「発狂魔人 ミイラルゲ」 田口勝彦伊上勝
「怪腕魔人 エビビルゲ」 折田至伊上勝
「変化魔人 アンゴルゲ」 折田至伊上勝
「毒液魔人 ナマコルゲ」 田口勝彦山崎久
「冷血魔人 クモゲルゲ」 田口勝彦滝沢真理
10「地震魔人 モグラルゲ」 折田至伊上勝
11「毒ガス魔人 ゲジゲルゲ」 折田至滝沢真理
12「魔人キノコルゲはうしろからくる!」 田口勝彦滝沢真理〔(※バロム・1声優交代)〕
13「魔人タコゲルゲが子供をねらう!」 田口勝彦島田真之×
14「魔人アリゲルゲと13のドルゲ魔人」 田口勝彦伊上勝〔必殺爆弾パンチ修得〕
15「魔人ミノゲルゲが君の町をねらう!!」 田口勝彦島田真之×
16「魔女ランゲルゲは鏡に呪う」 田口勝彦滝沢真理
17「魔人ウミウシゲが君をアントマンにする」 田口勝彦前川洋之
18「魔人アンモナイルゲがパパをおそう」 田口勝彦島田真之〔新型バロムクロス発動〕
19「魔人ヤゴゲルゲが子守歌で呪う」 小山幹夫伊上勝
20「魔人サソリルゲが地上を征服する!!」 小山幹夫島田真之×
21「魔人クチビルゲがバロム・1を食う!!」 田口勝彦滝沢真理×
22「魔人ヒャクメルゲが目をくりぬく」 田口勝彦伊上勝
23「魔人ノウゲルゲが脳波を吸う!!」 田口勝彦滝沢真理×
24「魔人ウデゲルゲは神社で呪う」 田口勝彦島田真之〔<悪魔シリーズ>コール開始〕
25「魔人ホネゲルゲの白骨が風にうめく!」 田口勝彦滝沢真理×
26「魔人ハネゲルゲが赤い月に鳴く」 折田至滝沢真理
27「魔人キバゲルゲが赤いバラに狂う!!」 田口勝彦島田真之
28「魔人クビゲルゲが窓からのぞく!!」 田口勝彦滝沢真理
29「魔人ウロコルゲがドルゲ菌をバラまく!!」 田口勝彦伊上勝
30「魔人ハサミルゲが待ちぶせて切る!!」 田口勝彦滝沢真理
31「魔人カミゲルゲは悪魔をつくる!!」 田口勝彦村山庄三×
32「魔人トゲゲルゲが死の山へまねく!!」 田口勝彦滝沢真理
33「魔人マユゲルゲは地獄の糸で焼き殺す!!」 田口勝彦滝沢真理×
34「大魔人ドルゲが地底から出る!!」 田口勝彦伊上勝
35「大魔人ドルゲがくだけ散るとき!!」 田口勝彦伊上勝〔ドルゲ死亡〕

(演出担当/田口勝彦:26本 折田至:7本 小山幹夫:2本)
(脚本担当/伊上勝:14本 滝沢真理:12本 島田真之:6本 山崎久:1本 前川洋之:1本 村山庄三:1本)


 演出陣は、開始当初は田口−折田の二人ローテだったのですが、12−18話の7連投を皮切りに、 2回休み−5連投−1回休み−8連投、という驚異のペースで田口監督が大車輪して、全体の7割以上を担当。
 いったいぜんたいどういう製作状況だったのか、田口監督名義で助監督が担当した回などもあったのだろうか、 と疑問が湧かずにはいられません(^^;
 脚本はメインライターの伊上勝が7話連続で執筆した後は滝沢真理を中心にした布陣となり、伊上・島田がその合間に入るような形に。 滝沢・島田のアベレージは高くなかったですが、その分、間隔を置いて入る伊上脚本の切れ味が(エピソードとしての出来不出来は別に)光る。 という思わぬ効果をもたらす事にはなりました。

 星取りは平均して低調ですが、第10話以降の路線修正と、様々な設定の調整が安定してきた17−19話が、 戦闘にメリハリがついた事もあって比較的面白かったところ。そのまま波に乗るのかというと、結局そうはならないのですが(^^;  第1話は、ヒーローものの出だしとして締まりの良い展開ですし、キャラの魅力など、今作の面白さはこうだ、 というものを過不足なく提示した好編なのですが、そこで示された魅力が広がらずじまいだったのは、つくづく残念です。
 第26話は、だいぶテイストの違う、本編屈指の異色作。アベレージが高いとはいいがたい滝沢真理が気を吐いてくれたのですが、 結局それも、この1本どまりになってしまいました。この第26話が15話ぶり参加の折田監督、 ホラー演出の面白かった第19話が初参戦の小山監督だった事を考えると、どんな事情があったのかわかりませんが、 やはり田口監督に負担をかけすぎた影響、というのは随所に出ていたのかなとは思う所です(^^;

(2017年10月25日)

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