■『ガールズ&パンツァー』感想<前編>■


“まあ、滅多に当たるものじゃないし”


 世評を聞く→バンダイチャンネルの無料分で第1話視聴→(2年ほどの間を置いて)地上波放映の劇場版視聴、 を経て、レンタルで一気見したアニメ『ガールズ&パンツァー』について、 ブログ「ものかきの繰り言」に書いた感想を、 一部加筆訂正などしてまとめたものです。一気見なので、全体的に駆け足気味。
 先に劇場版を視聴&インターネットをふわふわしていると自然と見聞きする範疇で、一部設定など――特に、 要するに「少年マンガの部活もの」構造らしい――は知った上での視聴となっています。

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◆第1話「戦車道、始めます!」
 冒頭、戦車主観(砲塔の下辺り?のカメラ位置)の映像から始まり、状況がよく飲み込めないまま、とりあえず、 学生服の女の子が戦車に乗り込む、という導入。正直、改めて見ても“わけのわからなさ”がやや過剰に思えるのですが、 最初に映る登場人物――女子高生? 最初に目に入る文字列――(戦車のボディに書かれた)「バレー部復活!」で、 これはとにかく学園物であるというサインを提示しており、そこは小気味よく計算された作り。
 迫り来る砲弾を前に時はしばらく遡り、少々鈍くさくて内気でひとりぼっちの転校生・西住みほは、 明るく物怖じしない性格だがモテ願望が空回り気味の同級生・武部沙織と、その友人で大人びた華道家元の娘・五十鈴華、 から学食に誘われ、はじめての友達が出来る事に。
 「へぇ、誕生日まで覚えててくれたんだー」
 「うん、名簿見て、クラスの全員、いつ友達になっても大丈夫なように」
 なんか怖いよこの娘……!
 ……この後明かされる諸々の設定から考えると、
 「ジョニー、確か今日は、おまえさんの結婚記念日だったな。早く帰って、かみさんに上手いものでも食わせてやりな (さっとポケットから数枚の紙幣を渡す)」
 「あ、ありがとうございます大佐……!」
 的な、西住流人心掌握術の無意識の応用でしょうか。
 沙織と華はボケとツッコミの関係かと思いきや、ぐさぐさツッコむ華(特に沙織のモテ妄想に厳しい)の方も、 ナチュラルに超大盛りのご飯を平らげていたり、みほの過去に血なまぐさい骨肉の争いを期待したりと似たり寄ったりのボケ具合を交え、 はじめての友達に浮かれるみほが、悪い先輩達にからまれて目からハイライトが消えるまで、コミカルかつテンポ良く展開。
 沙織と華は、みほの家庭の事情を知り……そしてぶち込まれる、乙女のたしなみ・戦車道 というトンデモ設定。
 個人的には、右下に書いてある「仙道」「忍道」が、凄く気になりますが。
 戦車道PVにより、とにかくそういう世界観だから! と鋼鉄の直球を投げつけた後、家元の家に生まれ、 幼い頃から戦車戦車で圧迫されていた生活からようやく抜け出したというみほの事情を聞いた筈なのに、 それぞれ戦車道に興味を持ってみほを誘う沙織と華が、けっこう酷い(笑)
 翌日、なにやら戦車道に重いトラウマを抱えるらしいみほが別科目を選択すると迷わずそれに合わせ、 会長が強引に戦車道を選ばせようとするのに対し、みほの手を握って励ましながら徹底反論するという篤い友情が描かれるのですが…… 漂う微妙にマッチポンプ感。
 いやまあここでは、みほは“家庭の事情”は話しても、“過去のトラウマ”は話していないので、 物語としてそれは切り分けられている為に、当初二人にその深刻さが伝わっていなかった、という事ではあるのでしょうが。
 後、二人が戦車道に興味なし→みほが強引に戦車道に勧誘される→じゃあ一緒にやります、だと、みほの自発性が出ないので、 みほが嫌なら戦車道はやらない→みほが強引に戦車道に勧誘される→暗に脅迫を受けてもみほを守ろうとする→ 二人は本当は戦車道に興味ある筈なのに……とみほが覚悟を決める、というプロセスが必要だったのでしょうし。
 結局ここでは、みほが友達の為に自らの意見を口にする、という形で一歩踏み出しているものの、 同時にどこかで自分を犠牲にしてしまっているのですが、みほの決断を劇的に描きつつ、みほの抱える、今後克服すべき課題、 が上手く盛り込まれています。
 そういう意味では、沙織と華がちょっぴり犠牲になった、とはいえますが(^^;
 ただ物語としては、自己肯定力の低い主人公がその“長所”を周囲に認められるのではなく、 むしろ“長所”から目を逸らそうとしているのに対して、友達が“そんなあなたを受け入れる”という構造になっているのは、 気持ちの良い点。また、第1話の時点でみほからも(無意識に)同じボールを返している所まで畳み込まれているのは、お見事。
 かくして、思惑ありげなちびっ子生徒会長の下、大洗女子学園に復活した戦車道。総勢20人あまりのメンバーが集い、 倉庫に放置されていたボロボロの戦車を目の当たりにする…………そして……学園と、その周囲の市街地は…… 海を行く巨大な船の上にあるのだった! と戦車道を成立させる為の方便としてのSF設定が明かされたところで、つづく。
 好き要素が特に無い事もあり、凄く面白い第1話というわけではありませんでしたが、戦車が出ます! 学園物です!  戦車道は乙女のたしなみなんです! これはSFだから! と、メカ×美少女の文脈をベースにしつつ、これがいかなる物語であり、 それをどう成立させるのか、というサインの提示が徹底されているところには好感が持てます。
 その上で、みほの決断を(問題を孕みつつも)劇的に描いてしっかりクライマックスとして機能させており、人間的な要素でいえば、 友情と前進の物語である、というのも暗示され……戦車道、始まります。

◆第2話「戦車、乗ります!」
 戦車道履修者たちは、学園のどこかにある筈の戦車を探し、崖の裂け目とか水底とか、 明らかに封印されたプレシャス状態の戦車を次々と発見。その過程でみほ達は、癖っ毛の戦車マニア・秋山優花里とお近づきになり、 4人パーティに。
 サービスシーンを中心に展開し、色々と先への布石を散りばめつつ、まずは美少女で胃袋を掴む、的な構成。
 私としてはあまり面白くなかったのですが、OPで既に暗示されている5人パーティが、沙織&華(既に関係の完成している二人) +みほ+優花里(一歩を踏み出したらみほが自ら声をかける)、という形で順々に出来上がっていくという流れはよく計算されています。
 豪快な教官が到着し、色々すっ飛ばして問答無用で実戦練習スタート、でつづく。

◆第3話「試合、やります!」
 歴女チームとバレー部チームの共同戦線に背後から追われる事になったみほチームは、 学年主席の秀才だが低血圧の遅刻魔・冷泉麻子を途中で拾い、吊り橋を渡り損ねて落ちかけている戦車に追い打ちで砲弾ぶちこんでくるテンション怖い。
 華が失神するというトラブルがあるも、一通りマニュアルを読んで操縦を理解した麻子が見事に戦車を操り、反撃開始。
 初めての砲撃に皆が衝撃を受けている中、一人冷静に次弾を用意しているみほが切れ味を見せ始め、話の流れとはいえ、 3台の戦車を全て一撃必中で撃破している優花里は、ゲームで鍛えた腕なのか。
 前後を挟まれながらも勝利を収めたみほ達は、麻子の加入により役割分担が完成し、とりあえず、内装のクッションを買いに行く事に。 他チームの戦車に至っては迷彩塗装そっちのけで魔改造され、アニメ的には視聴者に大変わかりやすくなりました。
 「38Tが、三突が、M3が、八九式がなんか別のものにーー!」
 「戦車をこんな風にしちゃうなんて、考えられないけど、なんか楽しいね。戦車で楽しいなんて思ったの、初めて」
 一応練習シーンを挟んで、強豪、聖グロリアーナ女学院と親善試合を戦う事になるが、その集合時間を聞き、麻子が離脱を宣言。
 「朝だぞ……人間が朝の6時に、起きれるか!」
 「いえ、6時集合ですから、起きるのは5時ぐらいじゃないと……」
 「人には出来る事と出来ない事がある。短い間だったが、世話になった」
 「このままじゃ進級できないよ! 私たちの事、先輩って呼ぶようになっちゃうから! 私のこと沙織先輩って言ってみ!」
 「サ・オ・リせん……」
 限界ギリギリまで抵抗する麻子であったが、幼なじみの沙織に祖母の名前を出されると白旗を揚げ、翌朝、 麻子の家にそれぞれ出向く一行。
 軍楽喇叭が鳴り響き、戦車の空砲で叩き起こし、市街地を通学に使われる戦車……に、声援を送る街の人達、というのが、 “今作の世界観”としてカッチリ映像に収まり、事前のやり取り含めてここは非常に面白かったです。
 戦車道一行は大洗の地に降り立ち、20年ぶりの地元チームの試合に歓声を送る人々……で、次回、はじめての対外試合、スタート。

◆第4話「隊長、がんばります!」
 事前の作戦会議の席上、なにかと主導権を握りたがる生徒会広報の代わりに隊長に使命されたみほの指揮下で試合が始まり、 第1話冒頭と接続。第1話時点では意味のわからなかった要素が腑に落ちるようになり、前回後半における世界のリアクションと合わせて、 ここで一気に色々と噛み合ってくる造り。
 砲弾も無事に外れました。
 「そんなに身を乗り出して当たったらどうすんの?!」
 「まあ、滅多に当たるものじゃないし。こうしていた方が、状況がわかりやすいから」
 戦車道は、人の心の中の変なスイッチを入れるなぁ。
 一方の聖グロリアーナ女学院隊長・ダージリンは走行する戦車の中で優雅に紅茶をたしなみながら冷静に指揮を執っており、
 「どんな走りをしようとも、我が校の戦車は、一滴たりとも紅茶をこぼしたりしないわ」
 戦車道は、人の心の中の変なスイッチを入れるなぁ。
 戦力差をカバーする為に囮作戦を敢行する大洗だが、慣れない戦車戦に慌てたメンバーは砲撃のタイミングを外し、 紅茶帝国には実力で待ち伏せを突破され、逆に包囲を受けると1年生チームは戦車を放棄して敵前逃亡。
 繰り返し丁寧に描かれる形でチームメンバーの励ましを受けたみほは、窮地を脱する為に市街地へと逃亡し、 地の利を活かした待ち伏せ戦法に転換。市街戦になると、街中を走り回る戦車の図に特撮怪獣映画テイストが入って、 個人的には凄く楽しいです(笑)
 隠密奇襲と機動力を活かした接近戦の末、最終的にはエース機同士の一騎打ちとなるが、ダージリン機が紙一重の差で勝利。 牙を隠した気弱な転校生を擁する弱小校が、初めての対外試合でいきなりの強敵と激突、奇策で善戦するも敗北、 という実に王道を行く展開。
 この結末を見つめる脱走兵たち(1年生チーム)で綺麗にAパートが終わり、あんこう踊り罰ゲームを挟んで、 戦車道をやっている事を家族と話していなかった華が母親と揉める事になるのですが、この挿話はやや強引な印象。
 「わたくし、生けても、生けても、何かが、足りないような気がするのです」
 「そんな事ないわ。あなたの花は、可憐で清楚。五十鈴流そのものよ」
 「でも……わたくしは……もっと、力強い花を生けたいんです!」
 結局、華は母親と訣別し、その姿に何かを思うみほ。船に戻ると1年生チームが揃って謝りに来て、敗北しかし善戦が、 全体の転機としてしっかり機能してから、聖グロのダージリンからは贈り物とメッセージが届けられる。
 ――「今日はありがとう。貴女のお姉様との試合より、面白かったわ。また公式戦で戦いましょう」
 好敵手と認めた相手を友と呼んで紅茶を贈り、どこまでも王道をいくダージリンさんであった。
 そして早くも全国大会抽選会……みほが引き当てた一回戦の対戦相手は、名前からして金と物量にものを言わせそうな優勝候補の一角、 サンダース大付属高校。
 「初戦から強豪ですね」
 「どんな事があっても、負けられない。負けたら我々は……」
 深刻そうな生徒会広報の呟きを覆い尽くす、シャーマン大戦車部隊の姿が描かれ、つづく。
 ……それにしてもダージリンさんは、トーナメント表の段階で、
 〔最初の強敵としてぶつかる金髪エリート → 好勝負を讃えライバルと書いてfriendと読む → 再戦を約束するもラスボスに準決勝で敗退〕
 までのルートが敷き詰められていて、なんという高度な技術点。

◆第5話「強豪・シャーマン軍団です!」
 「この音を聞くと、もはやちょっと快感な自分が怖い」
 戦車道は、人の心の中の変なスイッチを入れるなぁ。
 世界観の補強として面白い設定の戦車喫茶でお茶しながら、砲撃の音に酔い痴れていたみほ達は、 大会9連覇の経歴を持つ黒森峰女学院を率いるみほの姉まほ、その厭味な副官エリカと接近遭遇。
 「副隊長? ……ああ、元、でしたね」
 戦車道エリート校の高圧的な物言いに沙織達は反発、同時にみほへさりげなく気を遣う姿が繰り返し細かく描かれ、 ボスキャラとの因縁を友人ズに拡大する形で構築。
 にしても、みほとの対比も意識したのでしょうが、お姉さん、声も喋りも、女子高生とは思えない渋さ。
 とにもかくにもまずは一回戦……戦車の保有台数全国一のリッチ高校サンダースに勝つ為の作戦を思案するみほの為に、 優花里はサンダースへの潜入捜査を敢行する。そんな事は知らないみほ達は、学校を休んだ優花里を心配して秋山家を訪れ、 前回の五十鈴家の事情に続いて秋山家の両親が登場。
 こちらは偏った戦車趣味の娘に初めて出来た、家まで遊びに来てくれる友達に感涙、という形で、様々な家族の形、 様々な戦車(道)への捉え方を描いて、着実に外周の石垣を積み上げていきます。
 優花里(一年時にはきっと「忍道」を履修)のサンダース潜入作戦の顛末、大洗女子の練習風景を挟み、いよいよ一回戦開始。
 スパイ行為を気にも留めず、大らかでフレンドリーなサンダース隊長のケイだが、一方でちょっぴり神経質そうなサンダース副官アリサは、 ルールの隙間を突いて独断で通信傍受装置を使用。先手先手を打たれて苦境に追い込まれる大洗女子だが、 敵のあまりの読みの鋭さに通信傍受に気付いたみほが一計を案じ、無線をブラフに用いる事で逆にサンダースを罠にはめる事に成功する……で、つづく。

◆第6話「一回戦、白熱してます!」
 大洗女子は無線による指示をサンダースへの意図的な誘導に用い、みほの本当の作戦指令を沙織が携帯電話で手早く各車に連絡…… 第3話の、「メール打つの早いし」がまさかの伏線だったとは。
 敵の主力を引きはがした上でフラッグ車を捜索する大洗女子は、偵察に出ていたバレー部がばったり遭遇。 敵フラッグ車の攻撃を受けて逃走しながら、背後に向けて発煙筒をスパイク、はそれでいいのか感が面白かったです。
 バレー部←敵シャーマン、の追いかけっこに大洗主力が加わって、後方から追い詰められる事になったフラッグ車は主力に助けを求め、 アリサの通信傍受を知ったサンダースキャプテンは、敢えて大洗と同じ台数に戦車を絞り、フラッグ車の救援へと向かう。
 「このタフなシャーマンが、やられるわけないわ! なにせ、5万両も作られた、大ベストセラーよ! 丈夫で壊れにくいし、 おまけに居住性も高い! 馬鹿でも乗れるぐらい操縦が簡単で、馬鹿でも扱えるマニュアル付きよ!!」
 「お言葉ですが自慢になってませーん!」
 「うるさいわよ!!」
 前回、ちょっと嫌な感じのキャラとして描かれたアリサが後編できっちり崩され、 追い詰められた焦燥の中でわめき散らすの図は大変面白かったです。
 「なんであんなしょぼくれた戦車に追い回されるわけ?!」
 「なによその戦車、小さすぎてマトにもならないじゃない! 当たればいちころなのに!」
 「どうせすぐ廃校になるくせに! さっさと潰れちゃえばいいのよ!」
 どさくさ紛れに重要な情報を口に出しつつ、遂には戦車のハッチから身を乗り出すアリサ。
 「何か、わめきながら逃げてます……」
 戦車道は、人の心の中の変なスイッチを入れるなぁ。
 平野綾というと、アイドル的にバリバリやっていた頃しか知らなかったのですが、こんな引き出しがあったとは。
 「なんでタカシはあの子が好きなの……?! どうして私の気持ちに、気付かないのよぉーー!」
 いよいよアリサの眼前を現実逃避の走馬灯が駆け巡り始めたその時、ファイアフライ(なんか凄い戦車らしい) を含むサンダース本体が大洗女子の後方に出現。
 「来たぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 追いかけっこは、アリサ←大洗女子←サンダース主力、というサンドイッチの構図になり、サンダース凄腕の砲手により、 バレー部と1年生チームがリタイア。
 「ほーら見なさい! あんた達なんか蟻よ蟻! あっけなく象に踏み潰されるね!!」
 ほぼ、今回の主役。
 敵の作戦を逆手に取り、一度は優位に立つも逆に背後からの砲撃に士気が落ち込む大洗女子だったが、 土壇場でみほが隊長として皆を激励し、戦意を取り戻す。
 「華! 撃って撃って撃ちまくって! 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって! 恋愛だって、そうだもん!」
 「いいえ、一発でいい筈です」
 五十鈴さんはどんな時でも、武部さんの恋愛ネタにクール。
 華の発案により、あんこうチームは死中に活を求める一撃必殺を狙い、丘の上へ。 逃げるアリサ車を狙うあんこうチームを狙うファイアフライ、という構図になり、両者同時に放たれた一撃はともに命中。 あんこうチーム行動不能も、敵フラッグ車の撃破により大洗女子公式戦初勝利! のクライマックスは、 激しい追撃戦から息詰まる両砲手の腕比べへ、動から静への転換もうまくはまって、面白い着地でした。
 前回の優花里のサンダース潜入作戦に始まり、沙織のメール早打ち、みほの戦車道ガッツ、華の一撃必中、麻子は戦闘中は常に活躍、 とあんこうチームそれぞれも、きっちりと見せ場。
 「That's 戦車道! これは戦争じゃない。道を外れたら、戦車が泣くでしょ?」
 追撃する戦車の数を合わせた理由として通信傍受を謝罪したケイは大洗女子の勝利を称え、ここで、 部下の独断であったとは口にせず責任を自分で引き受けるのが格好いい所。どこまでも朗らかに大洗女子の勝利を祝う一方で、 チームメイトの前では一瞬肩を落として息をつき、敗者の悔しさもしっかり描いているのが手堅い。
 色々物凄くざっくばらんすぎな感はありますが、姉御肌のいい女ポジションで、ケイさんは良いキャラでした。 少々陰湿なアリサと互いに引き立て合うキャラクター性、という構図もこれまた手堅い。
 大洗へと帰還しようとするみほ達だったが、麻子の祖母が倒れたという連絡が入り、病院への移動手段に困っていたところ、 それを耳にしたまほが、ヘリを貸してくれる事に。如何にもボスキャラのまほは無表情で無口だが人間的に悪人というわけではなく、 どうも妹の事も内心気遣っているらしいと暗示され、みほに否定的かつ攻撃的なエリカもまほに言われてなんだかんだヘリを操縦してくれて、 麻子と沙織がそれに乗り込んで飛び立っていく……でつづく。

◆第7話「次はアンツィオです!」
 五十鈴さん、凄い私服。
 そしてその凄い私服のまま、平然と麻子を背負って移動。
 なお翌日、同様に麻子を背負った武部さんは途中でへろへろになっており、これが華道家元の底力なのか。
 台詞では度々触れられていた、麻子の泣き所である祖母が登場し、言葉はきついが孫の事を思いやっている祖母と、 そんな祖母を大好きな麻子の姿が描かれるのですが、「卒業して、早く側に居てあげてみたい」という、 その側に居られない原因が「学校が船の上だから」という事に色々と考えさせられます(笑)
 病院からの帰路、海を見つめるみほは実家の事を思い出し、西住流家元である母(CV:冬馬由美なので間違いなく強い) が回想で初登場。
 「貴女も、西住流の名を継ぐ者なのよ。西住流は何があっても前へ進む流派。強き事、勝つ事をたっとぶのが伝統」
 「で、でも、お母さん」
 「犠牲なくして、大きな勝利を得る事はできないのです」
 それぞれの家族の形、それぞれの戦車との関わり方……家を離れ、その世界を徐々に広げながらも、 「西住みほ」としてどうあるべきなのかを思い悩むみほ。
 ここで“家に縛られていた”みほの過去が描かれ、第4話で少々強引だった五十鈴家の挿話が、重要な伏線として機能。 「五十鈴流そのもの」と称される華が「自分の華を生けたい」という姿にみほが励まされた理由が繋がると共に、 五十鈴→秋山→冷泉→西住、とメインキャラクターの家庭背景が順番に描かれてきた意味が浮かび上がります。
 「2回戦、この戦車で勝てるのかな……」
 ある日の昼休み、誰が言い出したわけでもなく自然と戦車の元へ集ったあんこうチームは、5人でランチタイム。 1回戦の勝利の話題で盛り上がる中、ぼそっと呟くみほ。
 「勝たないと意味がないんだよね」
 「……そうですか?」
 に対して、疑問を呈する優花里。
 「え?」
 「楽しかったじゃないですか」
 「……あ」
 「サンダース付属との試合も、聖グロリアーナとの試合も、それから練習も、戦車の整備も、 練習帰りの寄り道もみーんな」
 勝利とか敗北とかとは関係なしに「試合が楽しかった」、というだけではなく、勝利や敗北どころか、試合以外の事さえも、 戦車道に関わって得た体験全てが楽しかった、と置いてきたのが、とてもいい台詞。
 結果だけが全てなのではなく、そこに至った過程にも意味があり、その「道のり」こそが大切なのだ、と示し、 「戦車道」という言葉がその象徴として鮮やかに機能。
 「そういえば……私も楽しいって思った。前はずっと、勝たなきゃ……て思ってばっかりだったのに。 ……だから負けた時に戦車から逃げたくなって」
 結果が出なければその過程の意味は失われてしまう……そう思い込んでいたからこそ逃げ出したみほは、 転校のきっかけとなった出来事を思い返す。
 戦車道大会の試合中、崖から転落して川へ滑り落ちた僚機の乗員を救う為、自分の戦車を放棄して川へ飛び込んだみほだが、その為に、 みほが乗り込んでいたフラッグ車が撃破され、黒森峰は敗北。大会10連覇を逃す原因となった事、戦車道への息苦しさ、 それらを抱え込んだみほは、戦車道の存在しない大洗女子学園を選んで転校してきたのだった……悪い先輩達に目を付けられるまで。
 「私は、西住殿の判断は間違ってなかったと思います」
 戦車マニアとしてこの試合を見ており、以前から事情を知っている風だった優花里は一貫してみほを擁護するのですが、 戦車道大会のレギュレーションは不明なもののさすがに試合中に「溺死」はまずかろうという気がするにも関わらず、 周辺関係者の反応がみほの行動に否定的な所を見るに、黒森峰では戦車兵の命は羽毛より軽いのか、或いは特殊カーボン的な何かだったり、 仙道的な何かにより、乗組員の安全はある程度以上に確保されているという事なのでしょうか。
 まあ、西住さんは西住さんで、水圧をものともせずに沈みゆく戦車の外部ハッチを開いて乗組員を救出した模様なので、つまり、 乙女のたしなみ、波紋エネルギーです!
 昔の偉い人は言いました。
 「波紋エネルギーこそ「仙道」パワー!!」
 すなわち、
 「ふるえるぞハート! もえつきるほどヒート!! くろがね色の波紋疾走!!」

 メメタア

 ……まさか、こんな長い仕込みの伏線だったとは、仙道…………。
 (※『ジョジョ』ネタになるとすぐに興奮する駄目な大人の典型例)
 砲弾が滅多に当たらないのも、紅茶が一滴もこぼれないのも、この後ロシアの極寒に耐えるのも、全て、波紋エネルギーです。
 「戦車道の道は、一つじゃないですよね」
 「そうそう、私たちが歩いた道が、戦車道になるんだよ!」
 広がった世界で得た友人達……みほはそのお陰で一つの殻を破り、勢いに乗ると怖いアンツィオ高校との対戦を次に控え、 練習に励む大洗女子。
 練習後、みほが次々と質問攻めに遭う姿に優花里たちが助力を申し出、優花里が歴女、華が生徒会、麻子がバレー部、 沙織が一年生とそれぞれ絡み、主要キャラ5人の関係で世界を閉じてしまうのではなく、 そこから上下左右に人間関係が広がる姿が描かれるというのが、とても良かったです。
 古い書類の整理中、他にも戦車があった形跡が見つかり、再び始まる戦車捜索。これを各チーム+上で絡んだあんこうメンバー分割、 で描き、戦車道を通して、みほだけではなく、他のメンバー(特に優花里はみほと近いタイプなので)の世界も広がっていく、 という点に尺を割いてくれたのは、作品に対する好感度が非常にアップ。
 「思えば、なんで船なんでしょう?」
 「大きく世界に羽ばたく人材を育てる為と、生徒の自主独立心を養う為に、学園艦が造られた……らしいよ」
 「無策な教育政策の反動なんですかね?」
 世界設定の補強を交えつつ、部活棟で物干し竿になっていた砲塔と沼に沈んでいた戦車1両が見つかるが、 沙織と1年生チームが船内下層で遭難してしまい、改めて捜索に向かったあんこうチームがこれを無事発見。
 「武部殿……モテモテです」
 「ホントね」
 「希望していたモテ方と違うようだが」
 戦車道をやると、ダイエットに効く! 血行促進にもなる! そしてモテる!! (※個人の感想です)
 遭難地点ではもう1両の戦車が発見され、即時の戦力増強はならずも、この先へ向けた希望の光を見出す大洗女子。 一回戦突破の勢いも手伝ってそれぞれの戦意も向上し、一体感の増した大洗女子は二回戦突破へ向けて拳を振り上げる。
 「み、みなさん! 次も、頑張りましょう!!」
 「「「おー!!」」」
 そして、アンツィオ戦は5秒で終わるのであった。
 話数的には折り返し地点、物語の、と同時にキャラクターにとっての大きなターニングポイントが描かれ、良い回でした。 ここまでで一番好きなエピソード。これを描く為なら、アンツィオは5秒で負けて仕方がない(笑)
 次回――赤い奴らがやってくる!!

→〔<後編>へ続く〕

(2018年3月10日)

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