■『GO!プリンセスプリキュア』感想まとめ5−2■


“大いなる海は鏡で みなみ風も心も映すよ
この胸の 答え知りたい”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた, 《プリキュア》シリーズ初体験者の『GO!プリンセスプリキュア』感想の、まとめ5−2(44話〜47話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、 若干の改稿をしています。

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<第5部・私の花のプリンセス(2)>
◆第44話「湧き上がる想い!みなみの本当のキモチ!」◆
(脚本:成田良美 演出:暮田公平 作画監督:稲上晃)
 「そっちに何があるの?」
 アバンタイトル、イルカをはじめ海の生き物に導かれるように海中の光を目指すみなみだが、汽笛の音に振り返り、 その先に進めなくなってしまう。
 「あの船は……お父様?」
 光を目指すみなみの頭上に、海藤家の海上母艦が重く大きな暗い影を落とす……というきついシーンからスタート。
 ノーブル学園は、クリスマスの飾り付け中。春からのパリ生活に向けて語学の本を探しに図書館へ向かったきららはみなみの姿を見かけるが、 みなみは手に取っていた本を誤魔化すように片付けてしまう……その本のタイトルは、「うみのおいしゃさん」(著・北風あすか)。
 今回、たぶん初めてノーブル学園の校舎がサイド遠景で描かれるのですが、なんか、山上の秘密要塞みたいな外見。 敷地が島になっているのは以前から示されていますが、なんだろうこの、改めて溢れる悪の秘密結社感(笑)
 そんな秘密要塞の窓から海を見つめるみなみと、バッタリ出会うはるか。
 「あ、み、みなみさん!」
 「なあに?」
 「あの! どうかしました?」
 「どうして?」
 「あ、いえ、なんとなく……」
 「なんでもないわ。じゃあ」
 廊下で話すはるかとみなみが、引いたカメラの左右の端に位置しているというのは、印象的な所。
 今作割とロングの横カットを用いつつ、そこでキャラクターの距離感を織り込むというのが通してけっこう一貫しているので、 この辺りは監督のセンスなのかなー。OPのはるかとカナタの構図から繋がっているともいえますし。
 また、同じ廊下の横からのカットで、前回トワがきららの手を取ったのに対し、今回はるかがみなみの方へ踏み込んでいけないというのは、 意識的な重ねでしょうか。
 どうしても主人公を中心として人間関係を展開するのが基本になりますが、今作ここに来て、 メイン4人の関係性の描写が群像劇的になっているのは、面白い所。
 はるかと別れたみなみは座間先生に呼び止められ、進路調査書をまだ提出していないという指摘を受ける。
 「先生は、どうして先生になったのですか?」
 海と家の狭間で揺れるみなみは思わず問いかけ、座間先生が様々な夢を経て、教師となった事を知る。
  「自分のやりたい事に何度も悩み、教師という夢に辿り着いたざます。悩む事は悪い事じゃないざます。 あなたもとことん考えるざますよ」
 ここで三角メガネの奥に瞳が覗き、綺麗な顔になる座間先生。
 序盤にネタっぽく使われた座間先生まで、まさかの補完(笑) この終盤に来て妙に余裕たっぷりに次々と脇役を拾っていくのですが、 出したキャラクターに責任を取る姿勢は素晴らしいと思います。
 また、トワとクロロ・ゆいと望月先生・きららと学園の生徒達・みなみと座間先生、とそれぞれニュアンスは少しずつ違いますが、 一連の展開の中で「支える」とういうほど積極的ではないかもしれないけど、 見回せば「見守ってくれる」人たちがこんなにも居るという事を描いており、 作品とキャラクターの世界を同時に広げているのがお見事。
 「みなさん、宝物を見つけましたね。人は自分でも気付かない内に、少しずつ変わっていくものです。みなさん、鏡に映る自分は、 どうでしたか」
 第19話の寮で宝探し回で少し触れられましたが、それに“気付く”という事が成長である、というのも今作のテーマの一つのようです。
 生徒会室で仕事中(淡々とハンコ押しているので、一条らんこの像作るの?! と思って一時停止して確認したら、 却下判が先に押してあって安心しました(笑))、緊急事態だときららに連れ出されるみなみだが、 海岸に用意されていたのは即席ティーセットで、みなみは柳眉を逆立てる。
 「緊急事態というのは嘘なのね。どういうつもり?」
 「嘘じゃないよ。みなみんが悩んでるなんて、緊急事態でしょ」
 「あ……」
 「ハイ。借りてきたよ」
 あすかの本を差し出すきららだが、目を逸らすみなみ。
 「必要な本は、自分で借りるわ」
 この言葉は凄くみなみ様らしくて、細かく巧い。
 「読みたいくせに〜。隠さないで堂々と読めばいいじゃん」
 「あなたには関係のない事よ!」
 「何それ、意地っ張り!」
 「それはあなたもでしょ!」
 角突き合わせる二人だが、先にきららが肩を落とす。
 「……はぁ〜、もう、うまく出来ないなぁ……」
 「?」
 「あたしはさ、みんなに応援してもらって、いっぱい力を貰ったの。だから、あたしも友達が悩んでいる時には、 力になりたいなって思うわけ。……でも、こういうのはあんま慣れてないからさ。どうしていいのか、よくわかんないや。ごめんね、 みなみん」
 「きらら……」
 「でもま、折角来たんだし、お茶くらい、さ」
 珍しい組み合わせだなぁと思ったら、「頼る」とか、「相談に乗る」とか、

 互いの苦手分野でした!

 基本ハイスペックな二人が、ここではるか抜きで向き合って、序盤の友達いない力を発揮するというのは非常に面白かったです(笑)  きららは少し友達増えたけど、みなみ様は微妙ですしね!
 「最近、よく夢を見るの」
 浜辺の小舟に腰掛け、お茶を手に落ち着いたみなみは、きららに海の夢について話す。ここで、 光へ向かうのを止めるのが家族の船である事については濁して、水平線を行く船の汽笛が響いてくる事でそれを示す、 というのはキャラクターが一線を守りつつ情感が出て良い演出でした。
 「行きたいの?」
 「どうなのかしら? よく……わからないわ」
 正直今回、全体的に作画はそれほど良くないのですが、ここで二人の髪や服が海風に揺れるというのが非常にこだわって描かれており、 心象描写に丁寧に動画が割かれています。
 音楽の入れ方・会話の間合い・風景カットの織り交ぜ方など全体通して情緒的な演出は、暮田公平。 以前に第25話の夏休みお泊まり回で、夏の日の明るさと黄昏と夜の移り変わりを、 同じくトワの心象と季節の情緒を巧く織り交ぜて描いており、夏と冬、意図的な起用でしょうか (共に成田良美脚本でみなみメイン回でもあり)。
 またこの後、みなみが口にした「なんでもない」について、はるかから聞いたトワがその日の事を思い出し、 エピソードそのものが拾われています。
 その頃、ホープキングダムではシャットが自分の立場を見つめていた。
 「ていうか、そろそろ手柄を立てないと私がまずい! 私よ、立ち上がるのみ!」
 なぜ三銃士は、追い詰めると面白くなるのか(笑)
 「明日の我が身の為に、今日こそ奴等を倒すのみ」
 リストラの危機に怯えるシャットは自ら出撃してノーブル学園にやってくるが、座間先生に見つかって不審者扱いを受ける羽目に。
 「うるさい! 痛い目に遭いたくなければ引っ込んでろ!」
 「まあ……! なんという言葉遣い。美しくないざます。とにかく話を聞きましょう。進路指導室へ来るざます」
 「黙れ! 私の進路は私が決めるのみ!」
 やり取りはギャグなのですが、エピソードテーマと絡んで割と深い台詞(笑)
 「なんか、御免ね。うまく、相談に乗れなくて」
 「いいえ、ありがとう」
 「ちゃんと答が出せるといいね」
 「……え?」
 「そういう悩みでしょ」
 「…………そうね」
 学園への帰路、座間先生の「生徒達の夢を応援する」という夢から生まれたティーチャーゼツボーグと遭遇するみなみときらら。 色々な夢に悩んできた座間先生の在り方が、今は教師としての夢を持っているという形で肯定されており、 浮ついた夢もあったかもしれない、躓いて倒れた事もあったかもしれない、でも今はそれを受け入れて前に進んで笑っている、 という今作の背骨のテーマとも綺麗に連結しました。
 「プリンセスプリキュア、おまえ達の進路は! 地獄のみ!」
 「人の進路を、勝手に決めないでよ!」
 マーメイドとトゥインクルは変身し、フローラとスカーレットも遅れて駆けつけるが、夢への迷いから力の出ないマーメイドは、 ゼツボーグに有効な打撃を与える事が出来ず、逆に一方的な攻撃を受けてしまう。
 夢の力がプリキュアの打撃力に繋がるという描写は、実は初でしょうか。もしかしたら初期に台詞で説明あったかもしれませんが、 最終盤に来て、フローラの溢れる破壊力の秘密が解き明かされた気分です(笑)
 また前回、モデル休業を決めたきらら/トゥインクルはその戦闘力を維持していた事から、 きららがあくまで夢を捨てたのでも諦めたのでもなく、 優先順位をつけてきっぱりと取捨選択していたのに対し、 みなみ様は夢そのものに揺れている、という違いもくっきり。
 海風にプリキュアの髪も揺れる中、ティーチャーゼツボーグはマーメイドを集中攻撃するが、それを防ぐトゥインクル。 助けられたマーメイドは座り込んでうなだれ謝罪する。
 「ごめんなさい。きっと私が、自分の夢に迷いを持ってしまったから、プリキュアの夢の力が弱まってしまったんだわ」
 ここで、成る程、としっくり収まったのですが、みなみ様は恐らく、 プリキュア抜きにしても「夢を迷う」事自体を“罪”だと考えている。
 ノブレスオブリージュで、力ある者の当然の責任として出来る事を出来る限り行い、 何事にも自発的な義務感を抱いて向き合うが故に、みなみ様はそれを“捨てる”事が出来ない。
 「第一、私は生徒会長が大変なんて思った事もないのよ。私のお父様とお兄様は、私よりずっと凄くて、 会社でたくさん立派な仕事をしているわ。私はいつか、2人のような大人になりたい。その為には、 このぐらいの仕事はこなせないと駄目なの」
 「それが、みなみさんの夢ですか?」
 「夢……? …………そうね」
 父と兄に憧れているのも、家の為に働きたいというのも、どちらも本当の想いだけれども、 それがあまりにそうあって当然の事だったのに対し、初めて、義務も責任も超えて、生じた自分の望み――。
 だがみなみは、それが罪の果実であるが故に、自分の心に実ってしまった想いから懸命に目をそらそうとする。
 けれど。
 「誰だってあるよ。迷ったり、悩んだりする事ぐらい。マーメイドだけじゃないよ」
 ここで、ぴたっと止む風。
 「トゥインクル……」
 見つめ合う二人の姿に、ゼツボーグをリリーで吹き飛ばし、ちょっと待ったぁ!(古い) と割って入るぷんすかフローラ。
 ……本当にこの娘は、みなみ様が好きだなぁ(笑)
 「新しい夢が、抑えきれないんですね。……だったら、それでいいじゃないですか。夢は、変わってもいいと思います」
 「マーメイド、わたくしも、聞きたいですわ。あなたの新しい夢を」
 「あたしが思うにさ、大事なのは、どうしたらいいかじゃなくて、マーメイドが、どうしたいかじゃない?」
 みなみ様の本質を突くトゥインクル。
 「私が、どうしたいか……」
 座り込んでいたマーメイドの瞳に海のきらめきが宿り、立ち上がったマーメイドは迫り来るゼツボーグを海へと蹴り飛ばす!
 「本当はもう気付いていた。自分の心の奥底から湧き上がる望みに。なのに気付かないふりをしていた。幼い頃からの夢も、 とても大切だったから……。でも! もう迷わない! 私は、自分の信じる道を進む!」
 見返り美人からの光る海というマーメイドにしては派手な演出で、サンゴキーが単独発動。
 「プリキュア・コーラルメイルシュトローム!」
 サンゴ……というかむしろイルカを投げた!  マーメイドの召喚魚雷アタックで弱った所にプリキュアボンバーでゼツボーグはブルーミングされ、シャットは撤退。
 みなみは目を背けようとしていた自分の中の望みと向き合い、その果実を手に取る事を選ぶ。
 「会社の中で力を尽くすのも立派な仕事だけど、でも、そういう中にいると、いろんな事に縛られて、 自分の夢を見失ってしまう事があるから」
 「私は、海を知りたい。何にも囚われず、自分の目で見て、自分の心と体で、感じたい。だから、 いつでも大海原へ飛び込めるように――自由でありたいの」
 いわば楽園の蛇ともいえる役割を果たしたあすかですが、ただ夢の指標になるだけではなく、あれだけ自由な人だったのは、 「家」という楽園の規範を守る事で自分の世界を閉じているみなみ様に対して、楽園に実った果実を手に取る「自由」(勿論それは、 新たな責任を伴うものですが)を気付かせる、という立ち位置だったからか。
 そしてその自由の象徴が、大海原である……と、第16話の大事故とその後しばらくの成り行きを見ると計算通りだったとは考えにくいのですが、 なんか、綺麗に繋がった!(笑)
 また、皆が支える、という構図を徹底する形でマーメイドが立ち上がりつつ、 フローラやトゥインクルの持つ強固な夢が善であり正義とされてきた今作において、 たとえ夢破れても夢の為に歩んできた道のりそれ自体に価値がある、という第39話で持ち込まれたテーゼに重ね、 夢に悩むのも夢が変わるのも、決して悪い事ではない、と作品全体のバランス取り。
 今作、背骨のテーマの説得力が薄まる危険性を孕みながらも(それを承知の上で)、第39話以降、 テーマの裏側の“救済”に物凄く気を遣っているのは作品思想的に興味深い所です。大概そこは目をつぶる所で、 今作も割とギリギリの境界線を走っていると思うのですが、このまま走り切ってくれれば非常に面白い。
 こうして、みなみは仲間達に「海の生き物を診る獣医になりたい」と新しい夢を語って笑顔を見せるが、 向き合わなくてはならないもう一つの問題があるのだった……でつづく。

◆第45話「伝えたい想い!みなみの夢よ大海原へ!」◆
(脚本:成田良美 演出:芝田浩樹 作画監督:赤田信人)
 「波は……どこから来るの? イルカさんはどうしてあんなにジャンプ出来るの? 海はどうして青いの?」
 幼い日、家族でやってきた海に目を輝かせるみなみ。
 「ほぅ、好奇心が生まれたか。海からは、様々なものが生まれる。綺麗だな、という感動が生まれたり。怖い、 という恐れが生まれたり。みなみの心には、知りたいという気持ちが、生まれたんだな。本当に知りたいんなら、 考えてるだけじゃ駄目だ。実際に、海に飛び込んでみるんだな。自分で、答を探す為に」
 前回、みなみの夢の中で“海への好奇心を押しとどめる影”として描かれた「家族」の存在が、 今回は“海への好奇心を後押しした存在”として描かれており、非常に対比の計算されたアバンタイトルでスタート。
 「思えばあれが、私の夢の始まりでした……」
 これはまた、家族の存在に、自分が感じる「義務感と責任感」を繋げてしまっていたみなみ様に、 見えなくなっていたものが見えるようになった、という意味も含まれているものと思われます。
 「そっか。海の生き物を通して、海を知りたいっていう夢。私と出会う前から、ずっとみなみちゃんの中にあったんだね」
 あすか、それとなく、そそのかしたのを否定(笑)
 「あすかさんのお陰で、それに気付く事が、出来ました」
 回想から繋がったシーンで突然、前回アメリカに居た筈のあすかがみなみと話しており、みなみ様がアメリカへ渡った少し先の時制?  と困惑しましたが、この後の展開を見るとそういう事でもないようで、さすがに説明抜きで都合のいいシーンを作りすぎた感あり (劇中時間では前回から2週間ぐらい経過しているのかもしれないにしても)。
 もっとも、あすかさんは〔種族:自由の戦士〕なので、メールで相談を受けた途端に、 「あー、丁度いいから3日後に日本の○○水族館で会おう!」ぐらいの勢いで太平洋の一つや二つ渡りそうではありますが。
 ただまあ、この後のはるか達との会話の中でもいいから、少しフォローは欲しかった所です(^^;
 その頃、ホープキングダムではシャットがばっちりメイクで自分を鼓舞していた。
 「ディスピア様、美しさのポイントはやはり、アイメイクです! 是非、ディスピア様の」
 「失敗だ。シャット、おまえは失敗作だ」
 ハイ、そうですね。
 正直ディスピア様、気付くのが遅すぎたとは思います(笑)
 「美しさなど、我々に必要ない。愚かな。何故こうなってしまったのか……」
 この辺りの台詞を鑑みるに、ロックのパーカー含め、三銃士は何らかの形でディスピアに作り出され、その上で、 自我を発達させた存在と考えて良いようです。ここでこれを強調してきたのは、シャットやクローズの畳み方と関わってくるのか。
 シャットが最後のチャンスを願い出てディスピアから魔獣のコアを拝領している頃、ノーブル学園女子寮ではクリスマスパーティが始まろうとしていた。
 「新しい夢の事、まだ両親に話してなくて」
 母親から届いたクリスマスカードに眉を曇らせるみなみ。
 「申し訳なくて。ここに入学させてもらったり、習い事をさせてもらったりして感謝しているのに。期待に、応えられない……」
 自分よりも家族を軸にしてきたがゆえに、家族に対して義務があると考えているみなみが、 「自分の夢」を選択してしまう事に罪悪感を覚える、というのはらしい所で、簡単にすっきりさせずに、 生き方の転換という重い部分に物語として向き合ってきました。
 「大丈夫よ。新たな夢を目指そうと決めた時から、覚悟していた事だから」
 それにしても、みなみ様は、考え方が重い(^^;
 この辺り少々トワの背景と重なっている部分はあって、トワの場合は異世界の価値観も含めて単純に同じ視点で比べる事は出来ないのですが、 みなみ様のテーマ性が途中で転倒事故を起こさなければ、トワの抱えている王族の責務とテーマが交差するような事もあったのか (まだ残り話数で仕掛けてくる可能性もありますけど)。
 女子寮クリスマスパーティが始まり、ここに来ての学園イベント連発は、物凄く露骨に学園要素の帳尻合わせなのですが、 今作における学園要素にはこんな意味があったんですよ、というのがしっかり盛り込まれており、騙されてもいいかなぐらいの説得力はあります(笑)
 チアガールズ、らんこ、ゆいが次々と隠し芸を披露し、はるか・みなみ・きらら・トワは、 スペシャルユニットを組んで4人ボーカルのクリスマスソングを披露。……ここで「プリンセスの条件」を歌いだしたら滅茶苦茶面白かったのですが(笑)
 このスペシャルユニット、堂々と参加しているはるかの違和感が正直凄まじいのですが、クロス少年回の時、 「色々な意味で学内の有名人」という点についてゆいちゃんが苦笑いして否定しなかったので、もはやはるかの学園内ヒエラルキーは、 心が強すぎて、誰も手出しできないスピードの向こう側なのか。
 そんな中、お母様からのクリスマスの電話を受け、涙をこぼすみなみ。
 「みなみさん……どうしたんですか?」
 「なんでもないわ」
 「……なんでもないって顔じゃないよ」
 「……お母様が、優しくて」
 家族の期待に応えられない罪悪感と、家族という軸から離れる恐怖、という要素はみなみ様ならではなので、 ここで重ねて強調されたのは良かったです。監督の差配もあるでしょうが、前回に引き続き、脚本を汲んで間を重視した演出(今回は、 あすか登場回を担当した芝田浩樹)が、前後編の雰囲気を繋げてくれたのも秀逸。
 「こうなったら、今すぐ伝えにいきましょう!」
 前回、押して駄目なら引いてみたらきららに持って行かれたので、今回は、はるか押せ押せ。
 「悩むのは、その後にしましょう」
 「……はるか……」
 ここは第22話、
 「やめて。……聞きたくないわ。それを聞くと思い出す。お兄様……ホープキングダム……わたくしの……罪」
 「そんな事言わないで。まずはここから出ようよ」
 を思い出しますが、両方とも、罪を感じている相手をはるかがとりあえずそこから引っ張り出そうとする、という点が共通しており、 意図的な重ねでしょうか。
 動いてみて、もし転んだら、「笑おう」と言って立ち上がるのが、それを支えて時に一緒に傷ついて、 それでも笑うのがフローライズムです。
 「お兄さん、なんて?」
 「すぐ来てくれるって」
 クリスマスだというのに、電話1本で駆けつけてしまうわたるお兄様は妹を好きすぎます(笑)
 みなみ様も、どうするのかと思ったら、何の躊躇もなくお兄様呼び出すし。
 外出の準備の為に部屋へ向かうみなみだが、タイミング悪くそこに、魔獣のコアに海の城の力を集めて亀ゼツボーグを生み出したシャットが出現して戦いに。
 トゥインクルの時に龍が出てきたのでそうなのかなーと思ったら今回亀だったので、 ディスピア様の分身ゼツボーグは四聖獣がモチーフと見て良さそうです。スカーレットの時はとりあえず犬と書きましたが、 虎モチーフだったようで。虎が青だったり龍が黄色だったりと色はズレているので、こうなると最後の1体は黒い鳥とかになりそうでしょうか……って、 ああ成る程、そこでクローズが来るという展開になるのか……な?
 むしろクローズから逆算したのか。
 亀の攻撃を受けて単独でホープキングダムに強制転移させられてピンチに陥るマーメイドだが、 カナタから連絡を受けたスカーレット達がロイヤルマジェスティの力で助けに駆けつける。しかしさすがに魔獣ゼツボーグは強く、 回転攻撃で4人を吹き飛ばすと、その体が触れた神殿の周囲には絶望の汚染がますます広がっていく。
 「海が、更に……」
 「絶望だ! お前達もこの海も、絶望に飲まれて、終わるのだ!」
 なんだか久々にギャグ抜きで悪役らしい事をしている気がするシャットの指示により放たれたトドメの水流攻撃を、 アイスの盾で受け止めるマーメイド。
 「終わらない……! 海からは、感動や好奇心や、そして夢が生まれる!」
 「何が生まれても意味は無い! 生まれた夢は破れるのみ! お前達がいくらあがこうと、最後は絶望に、終わるのみ!」
 「時に、絶望や困難に、飲まれる事もあるでしょう。でも、それでも――!」
 マーメイドが気合いを振り絞ると、アイスの氷が水流の勢いを上回り、逆に凍結させていく!  ……トゥインクル回の逆転劇はさすがに勢い任せに過ぎたと思っていたのかどうか、今作にしては割と納得度が高い逆転ギミック(笑)
 「なに?!」
 「絶え間なく生まれ続ける。困難だとわかっていても、かなえたい夢が生まれる! 海も、私たちの心も、 決して絶望で満ちたりはしないわ!」
 今作における“強さ”とは、“絶望しない強さ”ではなく“何度絶望しても立ち上がれる強さ”であり、飲まれない、ではなく、 飲まれる事もある、という所にスタンスが良く出ています。
 ポジティブシンキング系の主人公を置くと、後者を描こうとしているようなのに割と無意識に前者をやってしまったりしますが、 今作は、はるかが最初に傷ついて転んだ所から始まっている事もあり(そういう点では、藍原少年は今作における超重要人物なのですが、 果たして最後の最後で拾われる事はあるのか)、しっかりとそれを形にしました。そしてそれを、 この終盤に派手に転倒した上で新しい夢を掴むという選択したマーメイドに言わせる事で補強。
 ……ところでここ最近、プリンセスプリキュアの姿に何かを思い出すなぁ、とずっと考えていたのですが、今回ようやくわかりました。 『宇宙刑事シャリバン』のエンディングテーマ(「強さは愛だ」)だ!(笑)

強いやつほど 笑顔はやさしい だって強さは 愛だもの
おまえとおなじさ 握ったこぶしは 誰かの幸せ 守るため
倒れたら 立ち上がり 前よりも 強くなれ
苦しみを 苦しみを 超えようぜ Oh,Yes おれたち男さ 男さ

 何という、溢れる山川啓介イズム!
 もはや、『プリンセスプリキュア』の出現を予見した歌のように思えてきます(待て)。
 亀ゼツボーグを押し返したマーメイドは、サンゴキーをセット。基本はバンクになる必殺技ですが、海中モードと地上モードという事か、 前回と違う演出でイルカ魚雷が次々と炸裂。
 「私は海のプリンセス、キュアマーメイド。海と夢を汚す者は――私が、成敗します!」
 激流に何とか耐えきり、一発逆転のプレス攻撃を仕掛けてきた亀だったが、 マーメイドまさかのギャラクティカマグナム(蹴り)。
 自由――それはすなわち、自ら立つ理由。
 これが、自ら楽園の外に出る事を決め、心の底から湧き上がる夢を選んだ、真マーメイドの力だ!!
 ……物凄い覚醒ぶりで、ちょっとビックリしました(笑)
 吹っ飛んだ亀は本体を現し、今回雑な感じのカナタ様の「今だ!」の合図でプリキュアボンバー。亀ゼツボーグはブルーミングされ、 シャットは逃走。大いなる海の力でマーメイド城が目覚めた事により、ホープキングダムは水質が劇的改善し、 空には青い虹がかかるのだった。
 戦い終わって学園に戻り、迎えに来たわたるの車で両親の元へと向かうみなみ。カナタ様の扱いがひどくぞんざいだなぁと思っていたら、 ここから、わたるお兄様のスーパーイケメンタイムが発動。
 「どうやら、吹っ切れたみたいだな」
 「え?」
 「何かあったんだろ。あの時」
 お兄様は見ていた。
 「気付いていたの?」
 「おいおい。僕はこれでも、君の兄貴なんだぜ。あんまり悩んでいるようなら、相談にでも、と思ったけど、その必要は無かったようだな」
 「ええ」
 「……頑張れよ」
 「はい」
 妹を心配して車で飛んできたり、妹の悩みにしっかり気付いたり、そんな妹を支えてくれる友達の存在を理解したり、 お兄様格好良すぎです。
 そういえばカナタ様にも妹(トワ)が居るわけですが、もしかしたら海藤父にも、以前出てきたイケメン執事にも妹が居て、 この世界では、が最強のクラスなのではないか。
 藍原少年は、妹を手に入れる所から始めるべき!(待て)
 カット変わって、雪降る街角に立つみなみ両親の、他愛の無い会話から入るのは良かった所。 どうやらわたると待ち合わせしていた様子の両親は、みなみの姿を目にして驚くが、兄の無言の声援を受けて、 みなみは両親に向けて一歩を踏み出す。
 「あの……どうしてもお話したい事があって参りました」
 震える手でコートを掴みながら、みなみは両親に頭を下げ、自分の想いを告げる。
 「ごめんなさい! 私は、海藤家のお仕事は出来ません。お父様達の期待に、応えられません。他にやりたい事が、夢が、出来ました!」
 そして……
 「…………おめでとう。大海原に飛び込む時が、来たようだな。ブラボー!」
 「それを言いにわざわざ? ありがとう」
 「え? あの……いいんですか?」
 むしろ喜んでそれを受け入れる両親に、呆然とするみなみ。
 「当たり前じゃないか」
 「でも、海藤家で働くと! 今までずっと、そのつもりで……なのに今更、こんな我が儘」
 「我が儘なものか。いやむしろ、みなみの我が儘なんて、お父さん、ちょっと嬉しい」
 お父様はアバンタイトルに始まってこのラストまで、今回だけでやたらお茶目なキャラが立ちました(笑)
 「あなたは昔から、優しい子だったわ。優しすぎて、いつも自分より、私たちの事ばかり。そんなあなたが、 自分のやりたい事を見つけた。嬉しいわ」
 「お母様……」
 「海から、様々なものが生まれるように、おまえからは、夢が生まれたのだろう。みなみ、自分の信じる道を行きなさい。 おまえの喜びが、私たちの喜びなのだから」
 「……お父様……」
 一枚どころか数枚上手だった両親は、出来過ぎだった娘が年相応に悩んだ末に、自分の答を見つけだした事を祝福。父母の言葉には、 みなみの海藤家で働きたいという夢を親として嬉しく思いながらも、同時に、それを当たり前の事と思いすぎているのではないかという危惧があった事が伺え、 途中に大断線事故などありましたが、亜空間ゲートをくぐり脱けるなどした荒技の末、なんとか第9話からの線を繋ぎ直す事に成功しました。
 ブラボー。
 そして自分が当然の責任だと思っていたが故に、それを手放した時に家族を失望させてしまうのでないか、 という恐れと罪の意識を抱いていたみなみが、そこから離れた時に本当の家族の真心に触れる、という、これもまた、 みなみの気付きであり、夢に縛られて自分自身を狭めてしまう事もあるという一種の夢の麻薬性を描いて、 夢絶対主義とのバランス取りが図られています。
 また、今作ここまで主に、“夢を見る側”に向けて描かれてきましたが、お父様の「おまえの喜びが、私たちの喜びなのだから」 というのは、親が子供の夢を縛る鎖であってはいけない、そうならないで欲しい、 という“夢を支える(見守る)側”へのメッセージとなっており、美しく着地。
 「皆さん、続きは食事でもしながらでどうです。近くに、いいレストランを取りましたよ」
 会話が落ち着いた所で、お兄様、さらりと仕事の出来る男スキルを発動し、出てくる度にイケメングレードが上がっていきます。 ……嗚呼、半年後(仮)に勃発するお兄様の嫁取りエピソードとか凄く見たい!(笑)
 「さあみなみ、おまえの新しい夢を、聞かせておくれ」
 「はい!」
 笑顔を浮かべたみなみは、改めて、家族の一員、海藤みなみとなり、団欒の時を過ごすのであった……。
 ところで、わたるお兄様(グループ会社10経営)とみなみ様は少なく見積もっても10ぐらい年が離れているように思えますが、 今回のお母様の少々過保護な感じを見ても、みなみ様は割と遅くに出来た子供なのかもしれません。そう考えるとお父様は、 むしろこれから親バカモードかも(笑)
 多分、あすかさん抜きでも、海洋研究所とか作っちゃう。
 というわけで、「実は夢がわからない」という初期に提示されたみなみ様のテーマ、 コースアウトした所にコースを作ってトンネルを脱けてジャンプ台で元のコースに戻ってくる、というウルトラCで、 立て直してみせました。
 ここまで立て直しただけでも凄いのですが、第16話の大惨事の後、第36話でムーンサルトを決めるまでの約20話、 ボタンが掛け違ったままの状態だったのはつくづく勿体なかったなぁ……。今回の着地を見ても、 この20話の間に「家」と「夢」に関するみなみの惑いが蓄積されていって、その積み重ねが最終盤に集約されるという形になっていれば、 “この先”へ行けたのではないか、というのは思ってしまうところ。
 とはいえ、筋だけ取り出すとありがちな展開ともいえるのですが、 丁寧な積み重ねを丁寧に拾っていく事でそのキャラクターの物語としてしっかり成立させ、 丁寧な話作りと丁寧な描写で高いレベルでまとめ上げてみせるという実に『プリンセスプリキュア』らしい集約で、 良いエピソードでした。
 今作、“出会い”があるから“気付き”がある、というのも一つのテーマのようですが、その“気付くという事”から、 「自由」の先の「自立」というテーゼに引っ張って、みなみ様の問題と絡めてエピソード全体に散りばめていった造りもお見事。
 《プリキュア》シリーズの主力脚本家、という立ち位置の特別さもあってか、 今作としては珍しい同じ脚本家(成田良美)が2話連続の執筆でしたが、第16話の責任をしっかり取った形になりました。勿論、 シリーズ構成をしっかり置いている作品で、監督の存在もあるわけなので成田良美だけの責任ではないと思うのですが、 ここまでまとめ直したのは、素直に感嘆。
 その成田良美初参加の14話辺りから押し出され、第39話から改めて連続している(ゆいちゃん除く)、 それぞれの「家族」−「個人」−「夢」の関係性も大きな集約を見て、このエピソードで最も伝えたい事が描かれたのなかな、 と思われます。
 ところでちょっと気になるのは、きららが今年度の終わりを目処にパリへ旅立つのが明示されたのに対し、 特にみなみにそういった類の示唆がない事。必ずしも旅立ちエンドである必要性は無いのですが、 きららはパリへトワはホープキングダムへ(或いはきららだけパリへ)、だとどうも締まりが悪いような(^^;  みなみ様が3年生だったらストレートに卒業に繋がりましたけど、2年生なのでまだ1年ありますし。 逆にあと1年なのに転校するとなるとかなり強い動機付けが必要になって難しい所はあるのですが(どうしてもきららと被りますし)、 この先、あすかさんから何かアプローチがあるのか。
 いっそ、きらら・トワ・はるかが学園から旅立ち、みなみが残る、というのもそれはそれで面白いかもしれませんが。 旅立ちが似合うという意味では、はるかの方が旅立ちは似合うしなぁ(笑)
 ……まあ、そこまでやるなら、みなみ様も旅だって観測者のゆいちゃんが残る形になるでしょうけど。
 今回、正直あすかは無理矢理出番を作っていた感じもあったので、もしかしたら再登場あるか……?
 次回……次回……えー、予告から、何が起きるのかさっぱりわからないのですが(笑)  この最終盤でまさかのフォーカスをされたシャットに微笑む光はあるのか?!

◆第46話「美しい…!?さすらうシャットと雪の城!」◆
(脚本:香村純子 演出:村上貴之 作画監督:中谷友紀子)
 年の瀬もさし迫り、学園寮の大掃除からスタート。それぞれが冬休みの予定を語り合い、海藤家は一家で野生のペンギンを見に……って、 既にお父様の親バカモードが発動している?!
 学園に雪が降り積もり、はしゃぐはるか達は、雪が珍しいトワを連れて、校庭で雪遊び。と、久々にトワ様可愛げキャンペーン。
 はるか:巨大な雪だるま、みなみ:中ぐらいの雪うさぎ、きらら:パフの雪像、ゆい:ロマの雪像、というのは、それとなく、 それぞれの造形センスを示しているのでしょうか(笑)
 そんな時、はるかの顔に直撃する雪玉。
 「わりぃ春野! 手が滑ったぁ!」
 藍原くんよ、ホント君は、最低だな!(笑)
 明らかに男子グループと逆方向へ故意に投げているのですが、 はるかにちょっかい出すのを入り口にノーブル学園三大綺麗所とお近づきになろうという魂胆があるようでもなく (そこはさっぱりしていて良い所なのですが)、かといって女子の顔面に雪玉ぶつけるのが許されるのは小学生までだと思いますよ!
 その後、トワが思いついた雪の城――ホープキングダム城――の作成に協力を申し出てポイントを稼ぐのですが、 あれよあれよという間に参加者が増えすぎてしまった為に頭割りのポイント配分が激減し、結局、収支は見事にマイナス(笑)
 後半の登場だったからか、ここ最近の学園描写でけっこう顔を出す演劇部のメガネくん(割と好男子) の方がよほどトータルでポイントを稼いでいる緊急事態でMAY DAY,MAY DAY。
 ゆいちゃんが絵画スキルを発揮してお城の完成イメージ図を描き、みなみ様による動員指令や男子寮の口伝えで次々と生徒達が集まり、 思わぬ規模になる城造り。学園要素もまとめに入ってきているようですが、ここで総出で何かを作る、 というのは象徴的で良かったです。また、食堂のおばちゃんも炊き出しに来たり、白銀さんの助言があったりと大人達の姿を忘れないのも、 今作らしく抜かりのない所。
 更に、そんな光景を映研(みなみ様の宿敵)がカメラに収めていくというのがとても良く、 旅立ちを予感させる今作のエンディングへ向け、そのステップとなる青春の1ページという要素をしっかりと仕込んできました。
 その頃、
 「私は全てを失った……ディスダークには……もう……帰れぬ」
 前回の敗北でホープキングダムから逃げ出したシャットは、やつれた顔で商店街を彷徨い、 近づいたらいけません的な視線を道行く人々から浴びていた。
 (私を見るな……そんな目で見るな……)
 身も心もすっかり敗残者となり、挙げ句の果てに帽子から落ちた黒バラ一輪を、鳩に持ち去られてしまうシャット。
 「今の私は、あんな、鳥以下だというのか……。この、私が……」
 ……落ちぶれて人間社会を彷徨ったり、鳩に襲われたり、某裏次元伯爵様を思い出さずにはいられません(笑)
 そうこうする内、ノーブル学園では、ちょっとやりすぎなぐらい立派な雪のホープキングダム城が完成。
 「わたくし一人では、こうは行きませんでしたわ。沢山のお友達のお陰です」
 てれてれってってってー♪
 トワ様はLVが上がった!
 トワ様は

 国民=労働力、という帝王学の基礎を学んだ!

 城が完成した事で満足したのか、寮に引き上げる生徒達だが、手袋を忘れた事に気付いて一人引き返すトワ。 ここでロマに対して「大丈夫。自分の事は自分でやりますわ」と取りに戻る姿で、トワの日常生活での成長も織り込まれています。
 そんなトワの姿に「すっかりノーブル学園の生徒ね」と皆で微笑み合うのですが、そういえば、 ノーブル学園は“生徒の自主性を重んじる校風”という設定で、第2話の草むしりイベントの時にはそれほど効いていませんでしたが、 「自立」というテーマ性も念入りに仕込んであったのだなぁ……今作のこの、あらゆる仕込みを拾いに行かんという勢いは本当に凄い。
 ところが手袋を回収した城の前で、トワは彷徨うシャットと出会ってしまう。
 「シャット! ここで何を?!」
 「何を……? さあ……なんだろうな……」
 立場も帰る場所も失い、自失状態のシャットだったが、雪城の輝きに気付いてしまう。
 「これは、ホープキングダム城。くっ……こんなものまでが私をあざ笑うかぁ!」
 被害妄想からの逆恨みスイッチが入ったシャットの衝撃波で城の一部が崩れてしまい、トワはスカーレットに変身。
 「そうだ……砕いてやる。貴様も、世界も、私を貶めるものは、全てぇ!!」
 絶望の気配に気付いて全員が合流し、変身バンクから変身シーンの音楽のままシャットに一蹴り入れてスカーレットと合流し、 4人で名乗りを決めるという、変則パターン。
 「強く、優しく、美しく……。美しくだとぉ!? 貴様らの何が美しいものか。美しいのは、この、私のみだぁっ!!」
 シャットの攻撃から城を守って戦場は森に移るが、失意の中で怒り狂うシャットは凶暴化し、猫のようなモードを発動する。
 「壊れればいい、こんな世界! 私を認めないものは全て、消えて無くなれっ」
 「シャット、いったい何が、あなたをそこまで!」
 「黙れ……貴様がそれを言うかぁ!」
 珍しく、シャット正論(笑)
 「トワイライト……思えば貴様との出会いが、私の運命を狂わせた! 貴様がいなければ、私はここまで落ちぶれる事はなかった。 そうだ、貴様さえ居なければ私は! 再び美しく、返り咲ける!! はははっ、これが私だ! 美しい私の、美しい力だぁ!」
 「……美しい? 冗談」
 「自分の顔を見てごらんなさい」
 猛威を振るうシャットの攻撃を何とか食い止めたプリキュアは、マーメイドが氷の鏡を作り出し、シャットにその表情を見せつける。
 「?! 醜い、これが、私……?」
 「だって、あんたのしてる事、八つ当たりじゃん」
 「全て人のせいにしているだけ」
 「それは多分、美しくなんてないよ」
 ここでプリキュアが、未だかつて無い突然の説教モードに入って少し違和感を覚えたのですが、その辺りはまとめて後述。
 「う、うるさい! うるさい黙れぇ! ロックに見下され、クローズに見下され、ディスピア様にも見捨てられ、 残されたのは自分のみ。信じられるのはもう、この私のみだぁ!!」
 シャットは溜まりに溜まったストレスの力で、山猫の魔獣に巨大化。三銃士はそれぞれ、 カラス・カエル・山猫が本性のような描写となりましたが、これは“魔女の使い魔”がモチーフとの事。
 「シャット……」
 正気を喪い、ただただ暴れ回る巨大な山猫の姿に、表情を歪めるスカーレット。
 「――助けよう」
 その時、決断するフローラの表情が描かれないのは今作だけに狙った演出だと思いたいのですが、さてどうか。
 それはそれとして、これまでの活動内容から、フローラの「助ける」って何を指しているのか不安だったのですが、 スカーレットイリュージョンで動きを封じた所を最強必殺技で殴りに行った!
 説教が効かなかったので、歯ぁ食いしばれ的な(^^;
 プリキュアボンバー(手加減?)を受け、元の姿に戻ったシャットに手を伸ばすスカーレット。
 「なんのつもりだ、トワイライト」
 「……トワイライトも、孤独で、人の事なんて考えない人間でしたわ。気高く、尊く、麗しく、ただそれだけで良いと。でも、 今のわたくしは違います」
 シャットの姿にかつての自分を重ね、シャットの中のトワイライトの幻影を、成仏させにかかるスカーレット。
 「暖かくて、大切なものを、沢山いただきましたから」
 「暖かくて、大切なもの……」
 「それを守る為に、強く、優しくある姿、それが美しさだと、今は、そう思っています。変わりましょう、シャット。 わたくしと一緒に」
 グランプリンセスの要件である「強く・優しく・美しく」とは何か、に自分なりの答を出し、 復讐を乗り越えてシャットに手を差し伸べるスカーレット……だが、シャットはその手を打ち払うと、帽子(今回、 シャットの心の象徴となっている)を拾っていずこともなく去って行くのだった……。
 最終章を前にここで、スカーレットを通して「強く・優しく・美しく」に踏み込むのですが、今回の、 いきなりの説教モード→フローラの「助けよう」→スカーレットの語る「強く・優しく・美しく」とは、を繋げると…… クローズとロックを滅殺したのは弱くて余裕が無かったからで、それぞれが壁を乗り越えて「強く」なった今だからこそ、 シャットに「優しく」する事が出来るようになった、という理屈が誕生。
 つまり、
 強くなければ優しくなれない、けれど強いだけで優しくないなら、美しくない。
 だから、
 強く・優しく・美しく
 というグランプリンセスの思想が浮かび上がってきます。
 今作割と根っこの世界観がシビアなので、この「強くなければ誰も救えない」という理屈に納得は出来るのですが、 そもそもフローラ達が説得コマンドを使用した事が無かったので、弱い内は試そうともしなかった、というのは結構ギリギリ(^^;
 勿論、クローズをデリートした事へのフローラの悔恨、ロックを殴ったらクロロになった (今回シャットも殴ると妖精になると考えていた可能性あり)、なんだかんだ同僚だったのでシャットに人格を見てしまうスカーレット、 といった諸々が積み重なっていって、プリンセスプリキュアが「助けよう」に辿り着いた―― そしてそれがグランプリンセスの精神ではないか――という意図かと思われるのですが、 フローラかスカーレットどちらかの心情に絞って描けば綺麗にわかりやすかった所を、二つ一緒にやろうとして、 やや焦点がぼやけてしまった感じ。
 その為、物語全体の要素は繋がっていて納得もいくのですが、1エピソードの展開としては突然の説教モードが浮いてしまい、 それが発動する前振りを何かもう一つ入れておいて欲しかったなぁと思う所です。
 3人を手で制したスカーレットが、単独でシャットの攻撃を受け止めるのでスカーレットの反撃が始まるのかと思ったら、 何故か他の3人が説教を行うなどややちぐはぐな場面もあり、もしかしたら本来はトワ話(トワイライトの精算) としてまとめる筈だったのが、「――助けよう」の際の表情が描かれなかった事も含め、後からフローラの要素がねじ込まれたのでは、 という気がしないでもありません。
 香村純子の持ち味はエピソードの山場に向けて綺麗に線の通った脚本だと思うのですが、その香村脚本にしては混線が多くて、 コンテ段階の追加要素が多めで焦点がブレたのではないか、と思ってしまう所。フローラの表情が描かれなかった部分は、 最終章に巧く繋がってくれるのを期待したいと思います。
 シャットが立ち去り、壊れてしまった城へと戻る4人だが、そこでは既に、ゆいちゃんが労働力を集めて、補修の真っ最中であった。
 「みんなが私たちの夢を守ってくれているんだもん。このお城ぐらい自分たちで守りたいじゃない?」
 みなみ様メインだと扱いが雑になりがちなゆいちゃん(多分、みなみ様と絡めにくい。というか、 みなみ様は普段から何気ない言葉でゆいちゃんの心を抉っていそう)、今回は要所を締める好サポート。
 「とても、とても美しいですわ……」
 夕陽に栄える城の姿に、トワは眩しく目を細めるのであった――。
 「強く、優しく、美しく、か……」
 少し険の取れた顔でその光景を見つめるシャットに、そっと差し出される肉球デザインのマフラー。
 「風邪を引いたら、美しくないわよ」
 シャットはそれを受け取りつつ、やはりその場を立ち去るのであった……て、ミス・シャムールとのフラグが順調に進行した……!(笑)
 ここからそれぞれの冬休みがワンカットずつ描かれ、きらら父、画面内に初登場。「みんな、良いお年を!」とメタ気味に挨拶するはるかは、 手書きで何枚年賀状出すつもりなのか……。
 「学び、気付き、自立する」というテーマは三銃士の方にも与えられそうですが、冬の街を一人さすらうシャットは、 果たして流浪の果てに何を見いだすのか。まさかこんな愛されキャラになるとはなぁ……(笑)
 今回までが2015年放映分で、お正月休みを挟んで次回から最終章突入という事になりそうですが、 第39話であれだけやって、ここから花の城の解放をどうやって盛り上げるのか、またも期待と不安が半々です(^^;  グランプリンセスとは何か、という部分にもしっかり触れてきたので、この勢いで最後まで突っ走りきってほしい。
 次回――「ええっ!? 私、花のプリンセスになっちゃった! 素敵すぎるぅ……!」
 ……こ、これは確かに、最も有効な攻撃かもしれない……。
 そして、そんなはるかのテンションを、「怪しい……」でぶったぎるトワ様素敵(笑)

◆第47話「花のように…!つよくやさしく美しく!」◆
(脚本:伊藤睦美 演出:畑野森生 作画監督:上野ケン)
 冬休みが終わって寮に戻ってきた皆に、レッスン修了後も地道に練習を重ねていた紅茶を振る舞い、喜ばれるはるか。 外では雪がちらつきだし、花壇の様子を見に行ったはるかは、小さな花がそこに咲いているのを見つける。
 「こんな寒い時に芽を出したロマ?」
 「うん。スノードロップっていうんだ。花言葉は……希望」
 その頃、ホープキングダムではディスピアが何やら方針を変更し、最後に残った花の城に異変が発生。 カナタからの連絡で城へと転移した4人と不思議生物たちだが、そこで、『花のプリンセス』に描かれた鳥と良く似た小鳥に招かれたはるかは、 城の中に入ってそのまま閉じ込められてしまう。
 はるかの眼前には美しい花の溢れる庭園が広がり、その背後で流れ落ちる水のヴェールで作られた扉が閉まると、 バラのツタがその真ん中に垂れ落ちて世界を閉じてしまう。画面が庭園側からのカメラに切り替わると、 いつの間にか髪が伸びてドレスに身を包んだ姿に変わっているはるか。そして噴水のヴェールの向こうから金髪の王子様が現れる…… というのは世界の切り替わりを印象的に見せていて、面白い演出。
 王子「花のプリンセス。ようこそ我が城に」
 「私が、花のプリンセス?」
 小鳥「そうですとも。ようやく辿り着いたのですよ。王子様の元へ」
 そこは、絵本が辿り着けなかった結末、の世界なのか……?
 戸惑っていたのは一瞬で、豪奢なお城の舞踏会に、すっかり飲み込まれてしまうはるか(笑)
 美味しい食事に素敵なパレードに天蓋付きのベッドを堪能して、翌朝。レッスンの成果を活かそうと自分で紅茶を淹れようとしたところ、 はるかは王子様に制止されてしまう。
 「レッスン? ……プリンセスにはそんなもの、必要ありません」
 「レッスンが、必要ない?」
 違和感を覚えながらも空を見上げたはるかは、自分が何をしてどこから来たのかを忘れていく……。
 「あれ……? 私、レッスンなんて……いつやったんだっけ?」
 「さあ、召し上がれ。あなたはただ笑顔で居てくれれば、それでいいのです」
 そして、クッキーで懐柔される(笑)
 城外では、ディスピア様の影が取り残されたメンバーの前に出現。
 「キュアフローラはこの城で夢を叶えた。おまえ達の事など忘れ、自ら望んだ幸せの中に堕ちたのだ。 もうその夢からは出てこまい。永遠にな」
 理想の幻影に捕らえられる、という罠自体はよくありますが、それが今作のテーマと繋がり、 夢を原動力とするプリキュアの夢がもし叶ってしまったら? という思わぬ落とし穴として土壇場でうまくはまりました。 特にはるかの夢がもともと非現実的であった為に、この幻影の重さが効いています。
 ディスピアは最後の魔獣ゼツボーグ(鳥ではなくて、蝶?でした)を生み出し、みなみ達はプリキュアに変身するが、カナタも含めて、 その伸ばした茨のツタに拘束されてしまう。
  一方、夢の世界に囚われたはるかは、広大な花畑と花でいっぱいの渓谷に案内されてプリンセス生活を堪能していた。 記念に自分も種を蒔きたいと申し出て受け取るが、何かに引っ張られるようにして勝手に地面に落ちた種が、 その瞬間に花を咲かせた事にはるかは言いしれぬ疑念を抱く。
 「どうして、すぐに花が咲くの……?」
 王子「なぜそんな事を。花が咲いたのだから、それでいいでしょう。種はすぐに花を咲かせ、永遠に枯れない。ここは、 幸せ溢れる国なのだから」
 「幸せ溢れる……?」
 小鳥「そうですとも。美しい城に、素敵なパーティ。おいしいお茶に、枯れる事のない花畑。これ以上何を望むのです?  全てあなたの望んだ、夢の世界なのですよ」
 「私が、望んだ……?」
 不安な面持ちに変わったはるかは、一面の花畑をぐるりと見つめると、今咲いたばかりの花に手を伸ばす。
 「花は…………花は……花は……こんな風に咲いた?」
 その時、瞼の裏にちらつく、スノードロップ。
 「違う。これは、花なんかじゃない。綺麗に咲くから美しいんじゃない。花が美しいのは、土に根を張り、太陽の光へ手を伸ばし、 寒さに耐え、葉を広げ、そうやって、いつか美しく花を咲かせようと、頑張るから。自分の力で、精一杯、努力して。……?!  ……自分の、力で」
 元々はるかの理想の出発が絵本の世界ですし、なにぶん幸せ溢れる国なので、こういうファンタジー世界だったら全否定すぎますが、 はるかの言葉にネガ化して崩れていく世界。
 小鳥「何が不満なのです。あなたの夢は、プリンセスになる事でしょう?」
 「私の夢……」
 小鳥「プリンセスになって幸せに暮らす。それがあなたの夢! 夢が叶ったのですよ?」
 「違う! 私の夢は、こんなプリンセスじゃない! なんの努力もしないで叶う夢なんて、夢じゃない!」
 その叫びと共にはるかの体が光をまとうと王子や周囲の風景が完全に崩れ去り、暗闇の中にはるかと小鳥だけが残され、 小鳥はクローズへと姿を変える。……クローズ、結構、プライドを切り売りするのが得意。
 「ディスピア様の作戦は失敗か。だがこんな予感はしていた」
 「クローズ!」
 「おまえの夢は、俺が潰してやる!」
 はるかは変身し、城外に飛び出して拳をぶつけあうフローラとクローズR。
 「あのまま幸せに暮らしていれば良かったのにっ」
 「あんな世界、ちっとも幸せじゃない! やれる事は自分でやりたい。その為にレッスンだってやってきた! それがきっと、 私の夢に、本当のプリンセスに繋がっているから!」
 「くだらねぇっ!」
 クローズは頑なに夢を否定し、のしかかるようにフローラを押し潰そうとする。
 「おまえの夢ってなんだ? 本当のプリンセスってなんだ? キーが全部揃ってるのに、未だにグランプリンセスにもなれてねえ!  どうすればなれる、いつなれる?!」
 「え?!」
 畳みかけるクローズの言葉に息を呑み、揺れるフローラの瞳がアップに。
 「そうだ。おまえの夢なんて本当はどこにも無い。終わりのない夢を、おまえは追い続けてるんだ!!」
 ここに来て、ディスピア様とクローズRが実にいい所を突いてきます。クローズRには自覚が無いものの、 物語としては前半のはるかのふわふわ具合も巧く拾っており、プリンセスとは何か、ドレスアップキーが揃えば万事解決するのでは無かったのか、 と視聴者の疑問も全て代弁(笑)
 (終わりが、無い……?)
 瞳の揺れが大きくなり、目を大きく見開いたフローラは木の根に叩きつけられ、クローズはそこに追い打ちのエネルギー波を放つ。
 空中での打撃戦もそうでしたが、今回は少し、戦闘の絵が『ドラゴンボール』になりすぎた感じ(^^; 今作、 普段はゼツボーグのギミックやバンク必殺技を織り込む事で、肉弾戦の『ドラゴンボール』化をなるべく避けているのですが。
 フローラに直撃する絶望のエネルギー波。だが衝撃が収まると、傷ついたと思われた心と体で、 フローラはそれを真っ正面から受け止め――
 「終わりがない…………そう、私の夢に、終わりなんて無いんだ」
 むしろ微笑む。

 え、あ、あれ?!

 クローズと一緒になって愕然としてしまいました(笑)
 いや、知ってた、知ってたんですけど、まさかそこを肯定してくるとは、さすがに予想を上回られました(^^;
 エネルギー波を完全に消し飛ばし、ゆっくりとクローズへ向けて歩き出すキュアフローラ。

 「私の夢は、大地に咲く、花のように、強く、優しく、美しくある事。たとえどんな苦しみや悲しみの中にあっても、 ずっとずっといつまでも、強く優しく美しくあり続ける存在。それが、私がなりたいプリンセス!」

 キュアフローラはホント、夢の永久機関だなぁ……(笑)
 これをずっと、微笑みながら言い続けるのがとにかく凄い。
 そして先ほど、(終わりが、無い……?)の所で瞳孔開いていたのは、現実を突きつけられて呆然としたのではなく、(いい!  クローズ、そ・れ・だ!)という閃きが降りた瞬間だったのか……(笑)
 与えられた夢の結末を突き破り、誰かに用意された正解ではなく、自分で見いだした答をつかみ取ったフローラはクローズRを退け、 サクラキー単独必殺技の桜吹雪は、割とぞんざい。皆を解放し、弱った蝶ゼツボーグをプリキュアボンバーでブルーミングすると、 クローズらは撤退する。輝ける花の力で城が解放され、ホープキングダムの大地が光を取り戻すと、空に桃色の虹がかかり、 虹の根元にあったディスピア様の根城は消滅。
 黄金の輝きの舞う中で街もその姿を取り戻し、それを見つめるプリキュア達……て、なんか最終回みたいに!(笑)
 ところで星・海・花の城で、ホープキングダムの空・海・大地が元に戻ったのに比べると、 炎の城の浄化範囲がやたら狭かったような気がするのですが、虹は出ましたし、 パヒュームともども将来の災いに備えて作ったというのなら、有事の際に機能するセーフティー回路みたいな役割だったのでしょうか。
 「強く優しく美しくあり続ける、ね」
 「何事も、自分の力で、成し遂げていく。それが、プリンセスへの道」
 「あたし達がやってきたレッスンも、その為だったのかも!」
 ……まあ、はるか以外はあまりレッスン関係ありませんでしたけれども(^^;
 「えーくせれんと! もう教える事は何もないわ。ユー達、とっても素敵なプリンセスになったわね」
 学び、気付き、確かな何かを掴んだ4人を祝福するミス・シャムール。
 えー、あまり1時間前の作品(※『手裏剣戦隊ニンニンジャー』)と引き比べたくはないのですが……レッスンを「守」り、 その先で与えられたプリンセスの役柄を「破」り、憧れから「離」れて自分で立ち上がる―― これが本当の「守破離」ですよ!
 「後は、あの絶望の扉を開ければ、この国の民も解放される。あの扉を開けられるのは、グランプリンセスだけ」
 「グランプリンセス……」
 シャムール(大丈夫。きっともうすぐ……)
 フローラの啖呵の所でちょっとびっくりした表情をしていたり、ここに来てミス・シャムールが少々思わせぶりですが、 存在が割と適当なので深く考えてこなかったけど、先代の頃からいる超大物妖精とかだったりするのでしょうか。
 宙に浮かんだ扉を見つめるプリキュア達だが、その時、響き渡るディスピアの声。
 「見事だプリキュア。いいだろう。ホープキングダムはお前達に返そう。だが絶望は、止められない」
 ディスピア様はなんと、侵略の矛先を変えてノーブル学園の上に浮かんでいた! で続く。
 今回、集大成へ至るエピソードという事で、少々やりすぎなのではないかというぐらい、 これまでの積み重ねとそこから生じた理屈がギチギチに詰め込まれておりますが、その中で最も重要だと思うポイントは、 はるかの「なんの努力もしないで叶う夢なんて、夢じゃない!」という叫び。ここではるかは与えられた理想の世界を拒絶し、 大切なのは「夢が叶う」事ではなく、「夢を叶える」事だ、という考えに辿り着きます。
 いつか美しく花を咲かせようと、自分の力で努力するからこそ、花は美しい。
 つまり夢とは、努力を促し、自分を成長させるものだからこそ、「夢」と呼ぶ。
 今作、前半から少々引っかかりを覚えるキーワードに「夢は努力すれば絶対かなう」というものがあり、 これが一種の結果主義(夢がかなわないのは努力が足りないから)と、努力万能主義(なぜなら努力すれば夢は絶対かなうのだから) に繋がる要素を孕んでいたのですが、ここでそのロジックが反転。
 何故「夢は努力すれば絶対かなう」のか?
 それは、努力が万能だからではない。
 夢がある限り、人は努力(成長)し続けられるから。
 だから人は、いつか夢に辿り着く。
 或いは例えそれが終わりの無い夢だとしても、夢がある限り、人は歩き続けられる。
 そしてその道のりの途中で、きっと数多の幸いに出会う。
 ――「ありがとう。あなたが夢見てくれたから……私今、こんなにも幸せだよ」――
 だから夢は、叶ったらまた作ればいいし(ステラ)、新しいものに変わってもいい(みなみ)。何故ならそれは、 旅路を照らす光であり、決して終着駅ではないのだから。
 ここで、『花のプリンセス』が旅のゴールに辿り着かない物語である事の意味も収まり、夢とは、 人が良く生きてく為の道しるべではないか、というテーマが見えてきます。
 またここで非常に上手いのは、マジックワードでもあり今作において最初から肯定されるテーマとして存在していた「夢」について、 しかし安易に前提条件として処理してしまうのではなく、夢はどうして大切なのか・今作はどうしてそれを肯定しているのか という意味をこのクライマックスでしっかりと描きあげた所。
 マジックワードを杜撰に扱わない事へのこだわりというのは児童向け番組としての真摯さというのがあるのでしょうが、 同時にその親世代へ向けて「今作が夢を見る事の大切さをテーマとしている理由」を物語として正面から伝えようとしているように思え、 実に頭の下がる思いです。
 ここに来て第14話、はるかの家族エピソードの存在も効いてきました。
 さて、テーマの部分はともかく、今作長らく「プリンセス」に関する“名”と“実”の問題というのを抱えておりまして、 第39話において“実”の部分はほぼ出来上がっていたのですが、なまじはるかの「プリンセスになりたい」というのが、 9割方ファンタジーだけど現実において可能性が皆無ではない、という内容だった為に、 プリンセスという“名”をどこに着地させるのか――単純に言うと幾らファンタジーにしても結婚も血統も抜きでプリンセスを名乗る事に説得力を持たせられるのか、 という課題がありました。
 現実的には、はるかの夢を多少拡大解釈して「プリンセスのような理想の人になりたい」と持ってくるのが落としどころと思われたのですが、 そこで肝心のはるかの理想のプリンセス像がキメラ化して迷走。更にグランプリンセスの要件に合わせて理想のプリンセス像を解釈してしまって混沌。
 このままなし崩しに落着させてしまうのかと思われた終盤、第39話で、幼い日に抱いた『花のプリンセス』への憧れと、 現在のはるかが抱え持っている解釈を一旦切断 (その上で過去から現在までとこれまでの物語を否定せずに繋げてみせたのが実に素晴らしかった所)。
 そして今回、前半のはるかなら恐らく抜け出せなくなったであろう罠を乗り越える事で、第17話までのはるかが望んでいた、 たった一つの正しい結末でも、第38話までのはるかが目指していた用意された理想のプリンセスでもなく、 自ら見つけだした私のプリンセスに到達し、「プリンセスのような理想の人」ではなく、「この理想をプリンセスと呼ぶ」と逆転。
 それは、「私の夢に、終わりなんて無いんだ」と自ら認めるように、果てしない夢想かもしれない。
 けれどもはやそんな事は関係なく、はるかは理想の姿――たとえどんな苦しみや悲しみの中にあっても、ずっとずっといつまでも、 強く優しく美しくあり続ける存在――を目指し続け、それがはるかにとってのプリンセスである。
 さすがに完全に計算通りとも思えないのですが、これを47話かけてやる事で、 はるかが名付ける事自体に説得力を持たせるという物凄い大技で定義丸ごと根こそぎ押し流しました。
 ……あ、結局、一周して革命家路線だ(笑)
 美しく言えば、はるか自身が、はるかという花に名を与えたとでもいいましょうか(笑)
 『花のプリンセス』にしろグランプリンセスにしろ、どちらにせよはるかは、強固な夢を持っているようでありながら、 入れ物に惑わされてその中身を用意されていた物に合わせてしまう傾向があり、実は自分の理想の中身があやふや、という部分がありました。
 それが第39話において一旦分解された事で、改めて自分がプリンセスになりたい理由、ありたい姿を見つめ直す事で“実”を手に入れ、 そして今回それに、自ら“名”を与える。
 「想いの数だけ物語はある。そういう本でいいと思ったの。あなたの中にも、プリンセスにはこうなってほしいという、 未来があるのでしょ?」
 望月先生の言葉を借りるなら、こうなってほしいから、こうありたい、へのより主体的な転換といえ、 ほんの些細な憧れから始まったはるかの「プリンセス」が、今、花咲く。
 そしてそれは、みなみが“家の為の自分”から一歩外に踏み出したように、はるかにとって『花のプリンセス』からの自立なのでしょう。
 ……なんというかこう、彫刻みたいな作品。
 最初は素材がどーんとあって何を彫っているのかさっぱりわからないのだけど、彫り進めていく内に、線や形に段々と意味が見えてきて、 なんだか彫り間違えたのではないかという所まで、造形の一部として回収(笑) そして今、何を彫っていたのか、 その全貌に辿り着こうとしている、そんな気がします。
 まあ、あくまで私解釈なので、実は全然違う所見ている可能性もありますが!(笑)
 残った要素では、今回完全に『花のプリンセス』の小鳥になぞらえられたクローズに対し、 はるか/フローラは如何なる答を見せられるのか。
 果たしてディスピア様が、最後の最後で「私の夢は世界征服! その為に血の滲むような努力をしてきた! だから私を応援しろ!」 という禁断の魔球を投げてくる事はあるのか、仮にそのボールが投げ込まれた場合、打ち返す為のロジックは仕込まれているのか。 ……まあささすがにディスピア様は、夢(希望)の対になる存在だから夢など抱けないという扱いになりそうな気もしますが、 その辺りも含め、どういう着地に持っていくのか、最終決戦も楽しみです。
 次回――ロックのパーカーが拾われた!! どう決着を付けるかはわかりませんが、そう来なくては! という拾い方で、 ホント終盤に入ってからの今作の徹底ぶりは、物凄い。

→〔<第5部>(3)へ続く〕

(2016年8月15日)
(2017年4月8日 改訂)
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