■『GO!プリンセスプリキュア』感想まとめ4−2■


“……レッツゴー、プリンセス”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた, 《プリキュア》シリーズ初体験者の『GO!プリンセスプリキュア』感想の、まとめ4−2(36話〜39話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、 若干の改稿をしています。

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<第4部・絶望のプリンセス(2)>
◆第36話「波立つ心…!みなみの守りたいもの!」◆
(脚本:成田良美 演出:芝田浩樹 作画監督:爲我井克美)
 久々登場のわたるお兄様の操縦するクルーザーで、海藤家の巨大母艦へ向かうプリキュアご一行。道中さりげなく、 みなみ様の貴重な友達のイルカがゆいちゃん(前回、呼ばれなかった)に説明されているのが、 涙を誘います。
 「みなみさんのご両親に会えるなんて、嬉しいです!」
 と頬を赤らめるはるかは、みなみ様のご両親に、いったい何をご挨拶するつもりなのか(待て)
 そして、クルーザーには何故かカナタ様が同乗しており、今ここに、イケメンお兄様頂上決戦が勃発する!
 さんざん引っ張られたみなみ両親は割とさらっと登場し、妹との熱々ぶりを見せつける、わたるお兄様。
 「可愛い妹の為なら、いつでも駆けつけますよ」
 わたるお兄様はイケメンポイントを1獲得した!
 一方、みなみ両親からの挨拶に、完璧に一礼してみせるカナタ様。
 「この度はお招きいただき、ありがとうございます」
 カナタ様はイケメンポイントを1獲得した!
 序盤から激しいラリーの応酬!!
 はるか「こんな素敵な家族、初めて見たよ」
 きらら「凄いセレブオーラ……」
 母はトップモデル、父は国際的超有名俳優のハイブリッド娘が、何か申しております。 和菓子屋の本格派ド庶民は挨拶を噛むという自爆覚悟の滑り芸で、お母様から「ほほほ、 これだから労働者階級の娘は何をするわからなくて面白いわね」的な好感度を得る事に成功。やはり、革命するしかないのか!
 「あなたが海藤グループに入る事を望んでくれる。こんな嬉しい事はないわ」
 そんなお母様とみなみ様のやりとりで、はるか達がやってきた豪華客船は、どうやらみなみ様の本格的な経営参画前のご挨拶、 という事が判明。空き時間に豪華客船を楽しんでいた一行は、北風あすかという獣医と知り合い、彼女が仕事をしている水族館に誘われる。
 「僕が、君のお父様達に伝えておこう。行っておいで」
 カナタ様はイケメンポイントを1獲得した!
 パーティーの準備を考えて渋るみなみを「みなみ様と一緒じゃなきゃイ・ヤ」みたいな感じで強引に誘ったのに、 みなみ様そっちのけで水族館そのものに夢中な籠絡系主人公はるかと他の3人だが、みなみは魚介類よりも、 その生き物たちを細かく観察する、あすかの仕事ぶりに興味を引かれる。
 「とても、やりがいのある仕事ですね」
 「興味ある?」
 「え?」
 「みなみちゃんも、どう?」
 あすかが、メインキャラ内では年上ポジションのお姉様キャラであるみなみ様に「ちゃん」付けで接し、 身内以外でみなみ様を子供扱いする初めてのキャラ、というのはこの後に効果的に繋がってくる部分。
 舞台は変わって、みなみ様の財界お披露目パーティー。
 しれっと白いタキシードを着こなすカナタ様はイケメンポイントを1獲得した!
 ばっちり黒いタキシードで決めるわたるお兄様はイケメンポイントを1獲得した!
 みなみは会場であすかと再会し、あすかが実は、海藤グループがスカウトをかけるほど高名な世界的海洋学者であった事を知る。 研究への援助には心を揺らされる、と冗談めかしながらも、海藤グループからの誘いをきっぱりと断るあすか。
 「自分の心に、忠実でありたいので」
 「自分の、心……?」
 「会社の中で力を尽くすのも立派な仕事だけど、でも、そういう中にいると、いろんな事に縛られて、 自分の夢を見失ってしまう事があるから」
 「夢……」
 「私は、海を知りたい。何にも囚われず、自分の目で見て、自分の心と体で、感じたい。だから、 いつでも大海原へ飛び込めるように――自由でありたいの」
 お父様も認める能力を持った者(高貴なる者)が、その責務の果たし方に対し自分とは違う価値観を持っている事を知り、 衝撃を受けるみなみ様。
 これまで、「家」というものを軸に物事を捉えていたみなみ様が、 「海」を通じて知り合ったフリーダムな人に別の物の見方をぶつけられる事で、遂にその立ち位置を揺らされる、 というのは面白いですが、あすかさんはあすかさんで、恐らく一種の無敵超人であり、影響を受けたら駄目な人、 の予感がひしひしと(笑)
 まあ、みなみ様もみなみ様で天然ハイスペックなノブレスオブリージュの人なので、お互い同じ波長を感じているのかもしれませんが。
 その後、パーティーを辞したあすかからストップとフリーズによってイワトビペンギンゼツボーグが生み出されてしまい、 立ち向かうプリキュア。
 「先に逃げなさい。私には、この船を守る、義務がある」
 お父様はイケメンポイントを1獲得した!
 「貴様、何者だ!」
 お父様はイケメンポイントを1獲得した!
 巨大なペンギンの化け物に正面から問いかけるお父様が格好良すぎます(笑)  プリンセスプリキュアの存在に真っ向から疑問を呈すのもかなり珍しく、さすが、世界に冠たる大実業家は精神力が常人とは桁違い。
 ペンギン魚雷からお父様を守ったマーメイドは、海に投げ飛ばされたゼツボーグに追いすがり、主戦力であるフローラ、 防御力の高いトゥインクル、派手に爆破するスカーレット、と比べると、若干戦闘における活躍度の低いイメージがある中、 得意フィールドの海中で、魚雷より早く動く! というのは格好良かったです。
 「この船には、みんなの幸せを願う、お父様とお母様の夢が詰まっている! 決して壊させはしないわ!」
 基本的には、“誰かの夢を守る為に戦う”プリンセスプリキュアのテーゼなのですが、今回のエピソードの内容を考えると、 みなみ様が海藤グループに入る事を喜んでいる母親の夢を守るという行為には、 誰かの夢を守る事が、自分の夢を狭めるならば?という問いかけを含んでいるようで、結構きついボール。
 マーメイドは海属性を最大限に活かして実質1人でペンギンゼツボーグのHPバーを赤くし、最後はプリキュアコバック。 あすかを絶望の檻から解放する。
 「無事で良かった……」
 あすかを抱きしめるマーメイドの視線が海へ向けられ、夕焼けを照り返すキラキラした海面と「私は、 海を知りたい」と言うあすかのキラキラした瞳が重ねられつつも、それはどこか不安定さを思わせる黄昏の風の中で描かれ、 心ここにあらず、というマーメイドの表情からカメラを海の方に流してブラックアウト、という演出は、 マーメイドに生じる揺らぎを描きつつ、しかし、それを単純に全肯定するわけでもないというバランスで良かったです。
 そして事態が一段落し、沈みきった夕陽の朱がわずかに海面に残る海を背景に、甲板で言葉をかわす、みなみとあすか。
 「またお会いできて嬉しかったです」
 「あたしも。実は、あなたにもう一度会いたかったから、パーティに来たんだ」
 「え?」
 「海や、海の生き物たちに惹かれてしまう。知りたいと思う。なんていうか、ちょっと、似てる気がして……あたしと。だから、もし、 その気があるなら、いつか、あたしと一緒に…………」
 強張って握られる、みなみの拳に気付くあすか。
 「……なーんて、ちょっと思ったんだけど。海藤グループで、家族と一緒に働く。それが、あなたの夢なんだよね」
 わずかに、虚を突かれたような表情になるみなみ。
 「……はい」
 「素敵。立派な夢だ。そのドレスも、よく似合ってる」
 「ありがとうございます」
 「じゃ、行くね」
 「はい。ご機嫌よう、あすかさん」
 「ふふっ」
 2人が背中合わせで反対方向に歩き出す姿がロングのカットで強調され、しかし、しばらく歩いて、 みなみはあすかの背を振り返って見つめる――……。
 ところで終わり、盛大に事故った第16話以降、今作にとって鬼門になっていたみなみ様の家族と夢テーマを再浮上させつつ、 大きく修正。
 「第一、私は生徒会長が大変なんて思った事もないのよ。私のお父様とお兄様は、私よりずっと凄くて、 会社でたくさん立派な仕事をしているわ。私はいつか、2人のような大人になりたい。その為には、 このぐらいの仕事はこなせないと駄目なの」
 「それが、みなみさんの夢ですか?」
 「夢……? …………そうね」
 (第6話)
 元来みなみ様は、身近な存在(父と兄)への憧れと、大会社の経営者ファミリーという生まれ育った環境から、 基準が自己よりも「家」にあり、更に“仕事をする”と“多くの人の役に立つ”が等号で結ばれているのを目にして育った事で、 能力ある者の責務として他者の役に立つ、というのが“当たり前の事”として処理されている為、 面と向かって「それが『夢』なのか?」と聞かれると返答に間があるという、初期3人の中では、 「自分の目標を本当に『夢』と呼んでいいのかわからない」というテーマ性を有したキャラクターでした。
 ところが第16話で、みなみの思想の前提であり基準となっている「家」との関係を掘り下げず、今、 当然の義務だと思っているものは「夢」なのか? という重要な部分を見つめないまま、父と兄への憧れ→お兄様大好き→家族への愛、 と安易に昇華してしまい、更に一切積み重ねの無かった、動物と自然が大好き→海への愛、という要素を付け加えて、
 みなみの夢=家族への愛+海への愛(そして海は海藤家と関係が深い)
 で、本来どれもこれも別々の話の気がするけど愛だからOK、という形で強引にまとめてしまい、 みなみに関するそれまでの積み重ねを無視し、全く積み重ねていなかった新要素を足して今作の最重要キーワードである「夢」 に繋げてしまうという大事故が発生。
 その為、他のプリンセスに比べて、本人−夢−家族の関係性が非常に雑な扱いのまま、 なし崩し的に「夢」を抱えて進行してしまっていたのですが、今回、家族への愛と、海への愛を、一度分解する事で、 みなみの夢を問い直す、という凄まじい力技を発動。
 第16話をまとめる為に持ち出してしまった海と生き物への愛を今更なかった事にするわけにもいかないので、今回、 「海」に関係の深いキャラクターを出す事で、みなみと「海」の関係を深めて劇中における地位を逆に補強して引き上げ、 第16話ではお兄様を触媒に家族への愛と海への愛を一緒くたにして夢だと思い込んでしまった(思い込ませてしまった)けど、 それは本当に一緒のものなのか? と問う事で、融合していたものを分解して今度は対比に使い、計算式の解答であった、 みなみの夢そのものを解体してしまう、という、ウルトラC。
 「海藤グループで、家族と一緒に働く。それが、あなたの夢なんだよね」
 と言われたみなみの返答に間が空くのは、明らかに、第6話を意識してやり直していると思われますし。
 面白いのは、大事故だった第16話の脚本が成田良美で、今回もその成田良美という事で、ある意味、 自分の不始末の責任を自分でつけているといえます(^^;
 基本的には力技もいいところなのですが、このまま、海藤グループの為に働きます、というのがみなみ様の「夢」として一件落着、 というのは納得しがたい所があったので、ギリギリ修正を入れてきてくれたのは良かったです。
 逆に、あっさりと自分の本当にやりたい夢を見つけました! とみなみ様が転向する展開にならなかったもバランスを守った所。
 ラストシーンで、「ご機嫌よう、あすかさん」の時点では既に表面装甲を取り戻しているみなみに対してあすかが微笑み、 遠ざかる2人の姿がロングのカットで強調されたのが非常に良かったので、このままお互い振り返らない、 というのも一つの美しさで良いかと思ったのですが、最後の最後でみなみ様が振り返ったので、この要素はもう一回扱いそうでしょうか。 定例ラストカットのドレスアップキーが斜めに一つだけ、というのも暗示的ですし (あすかも今作あまりないメジャー声優のゲスト起用ですし)。
 ただ個人的には、第16話の流れのまま「家族と海への愛がみなみ様の夢」という事にはしてほしくない、という部分が回避され、 みなみ様にとっての夢とは何か、という部分に揺らぎを突きつけてくれたので、このまま投げ飛ばす形で終わってもそれはそれで有りか、 と思います。
 逆に、もう一度この要素を扱って、みなみが「自分の夢」を見いだすという展開を描くとすると、新たな事故を引き起こす、 という可能性も結構あると思いますし(^^;
 もう一つ言うと、今作の主題からいってそういう展開にはならないと思いますが、必ずしも「夢」を絶対化しないで、 自分の揺らぎを認めた上でなお、夢より責務を取るみなみ様、というのはそれはそれで格好良いと思うのです。 だから、最後にお互い振り返らないまま道は分かれて終わる、というのも美しかったかな、とは思ってみたり。
 まあ、「そのドレスも、よく似合ってる」のドレスが、みなみ母が今回のパーティの為にあつらえさせた物=親から与えられた物を暗示している以上、 物語の針はそこからの脱皮に振れそうですし、今作の作風を考えれば、子の道を縛る親、という絵図はなさそうですが、 上手い着地に期待したい所です。
 ……と見せかけて、そこからむしろ、「私はこのドレスにふさわしい女になる」という展開もこうなると少し期待していますが(笑)  本来あった筈の惑いが突然無かった事にされてしまったのが引っかかっていたのであって、 海藤グループの一員として働く事自体が「夢」でも全く悪くはなく、みなみ様が自分の「夢」とは何かをしっかり掴んでくれれば、 その答はどれでもいいわけで。
 色々と上手く仕込まれたエピソードでしたが、せっかくカナタ様をやや強引に同行させたのだから、 みなみとわたる――海藤家の家族――の姿に複雑な思いを抱くトワ、といったような描写は欲しかった所。実際、 カナタはわたると対比する意図もあったと思うのですが、それが特に活かされなかったのは残念だった部分。
 なお、イケメンお兄様頂上決戦は、
 カナタ様:3ポイント
 わたるお兄様:2ポイント
 お父様:2ポイント
 で、終盤のお父様の猛追を振り切り、カナタ様が見事に王子パワーを見せつけました。いずれ、ホープキングダム国王も交えて、 異世界交流イケメンチャンピオンシップの開催が待たれます。

◆第37話「はるかが主役!?ハチャメチャロマンな演劇会!」◆
(脚本:田中仁 演出:大塚隆史 作画監督:赤田信人)
 学校行事の演劇発表会で、はるかはクラスの演目『ロミオとジュリエット』のジュリエットを演じる事になる。 演出志望の演劇部女子の熱血指導や、割と好青年な演劇男子と共に練習を重ね、カナタとの台詞合わせでジュリエットの気持ちを掴んでいくはるか。 だが発表会の当日、ストップとフリーズによって演劇女子と男子からゼツボーグが生み出されてしまう。
 演出家ゼツボーグが時限爆弾のスイッチを入れると、某特命戦隊ばりのリアルタイマーが表示され、 分身攻撃をしてくるフェンシングゼツボーグをかいくぐって70秒で決着を! という、変わり種のバトル。 フローラがど根性バリアを展開している間にマーメイドが時限爆弾を止めて、 プリキュアコバックで2体のゼツボーグをまとめてどりーみんするプリキュアだったが、 ストップ&フリーズから逃げようとした際に転倒した演劇男子が、足を捻挫してしまっていた……!
 と、Bパートすぐに戦闘を片付け、ドラマの焦点をその後に持ってくるという変則展開。
 一時は、はるかとの台詞合わせでロミオの台詞を覚えているカナタ様が代役を買って出て解決しそうになるが、 悩んだ末にそれを止めるはるか。
 「私は……劇が、上手く行かなくても、ちゃんと、自分たちでやらなきゃいけないような、気がする。うまく言えないんだけど、 無茶かもしれないけど、でも…………失敗してもいいから、私は、自分たちのクラスの舞台を作りたい!」
 ここでプリンスイケメンパワーで全てを解決するのではなく、中学1年生というこの時、成功よりも尊いものがあるのではないか、 と持ってきたのはとても良かったです。……まあ、はるかが土壇場でプリンセス根性を見せて、劇そのものは成功するのですが。
 はるかがさすがにちょっと万能に過ぎるので、いっそ、色々トラブルも起きたけど、みんな満足して笑顔で幕が下りました、 みたいな感じでも良かったのでは、とは思ってみたり。まあ、ゼツボーグ戦でのフローラの超パワーと、 舞台の最中にスイッチの入ったはるかの演出がややこれまでと違った印象の付け方をされていたので、 合わせて何らかの伏線なのかもしれません。
 ラストは、舞台の終わったはるかとカナタがロミオとジュリエットのやり取りをして、イケメンパワーで締め。
 「仰せの通りにいたします。あなたが望むなら、僕は自分の名を捨てましょう」
 て、記憶喪失の王子に怖い事言わせるなぁ……(^^;
 ゲストの演劇部の眼鏡男子が結構ジェントルアピールをしてきたのですが、さらっとロミオを演じるカナタ様が、 全力で上書きしてしまいました!
 で、あれ? この顔だっけ? と思ったらEDのクレジットに名前があったので、テニスボーイも今回のエピソードに登場していたのですが、 はるかがジュリエットに選ばれて(というか脚本担当のゆいちゃんが勝手に決めた)も混ぜっ返すわけでなく、 はるかとずっと台詞の練習をしていたというカナタ様に対して何かリアクションを見せるわけでもなく、 物凄いモブ力……!
 いや正直、今更、藍原少年とかどうでも良いのですが、顔までほぼモブ化しており、残酷すぎる戦力差に刻の涙を見た。
 次回、三白眼の謎の少年登場。謎って言ったら謎である。

◆第38話「怪しいワナ…!ひとりぼっちのプリンセス!」◆
(脚本:香村純子 絵コンテ:三塚雅人 演出:岩井隆央 作画監督:上野ケン)
 「初めてだ。私の夢、からかわなかった男の子……カナタ以外だと、初めてかも」
 初対面の同級生・クロスに、プリンセスになるという夢を応援されて喜ぶはるか。クロス少年は度々はるか達の前に現れては、 夢を応援するぜ、とみなみやゆいにもエールを送るが、それは全て、はるかを孤立させる為の罠であった。休日、 パフとアロマを連れて買い物に出たはるかが一人になった所で、クロス=クローズが、その正体を現す!
 視聴時、前回の後にこの第38話を見るまでに少し間が空いてしまい、作品世界への没入度が薄くなっていた影響もあったかもしれませんが、 引っかかりが3点。
 まずここまで、毎回ゼツボーグは倒されても絶望の種は育っており、ディスダーク側の作戦は順調に進行中……という描写が続いていたので、 ここでクローズが自ら中学生になりきって、潜入工作と個別撃破を行おうとする理由付けが弱い。
 先にディスピア様から「絶望の森の浸食を早めるように」などのオーダーがあって、 クローズがその為にフローラに目をつける……といったような流れがあれば良かったのですが、そういった前振りが足りません。
 現状もはや格下認定のシャット(今回アバンタイトルで前座担当)ならまだ納得いきますが、 一応格上の存在として復活したクローズRの作戦としては、せこすぎますし、プライドを切り売りしすぎです。
 「夢はおまえ達をバラバラにする……夢はおまえを追い詰める!」
 合わせて、夢を追いかけたからこそ取り残されて孤立する羽目になった、と暗示をかけて追い込むのですが、 戦闘能力に関しては元からクローズRの方が強い筈なので、クローズがここでフローラに精神的揺さぶりをかける理由がしっくり繋がらないまま話が進行する事に。
 「確かに私、寂しいと思った……だけど!」
 暗示を振り払い、反撃に転じるフローラ。
 「だけど! 一緒にいなくても、私は、みんなに支えてもらってる! みんな自分の夢に向かって頑張ってる! そう思うと、 自分も頑張ろうって、思えるから! 離れていても、私の夢を支えてくれる人がいる。それだけで、心強いから! だから!  寂しくたって私は、夢を諦めずにいられる!」
 ここが引っかかり2点目。
 今回のクライマックスの構造は大まかにわけると
 A:クローズがフローラに戦闘と暗示を仕掛ける〔暗示〕
 B:フローラが暗示を打ち破って反撃に転じる〔抵抗〕
 C:カナタがフローラ(はるか)の心の支えを砕いてしまう〔追撃と敗北〕
 という流れなのですが、ここで、AとBは繋がっており、AとCも繋がっているのですが、BとCが綺麗に繋がっていません。
 Aに対してBするが結局Cしてしまう、という形でCが強調されているといえばいえるのですが、着地点がCである事を考えると、 AとCを直接繋げてしまう方が遙かにスムーズであり、Bがノイズになってしまっています。
 また、今作における香村脚本はクライマックスの台詞に集約する構造にこだわっており、はまる時は非常にはまる一方で、 その台詞で話をまとめすぎる、という悪い面を持っているのですが、Bにおいて完全に逆転する台詞を言わせてしまったにも関わらず、 “暗示と関係なく元々の実力差で”クローズRが勝ってしまう為、そもそもAが必要だったのかという話になってしまい、 Aが無意味ならCにも繋がらない(そしてC単体で効果を発揮するならやはりAがいらない)、と構造がちぐはぐ。
 この辺り、プリキュアの敗北を描くに際しての内部事情など絡んでいるのかもしれませんが、 Bがある事で前後がすっきり繋がらなくなってしまっています。
 で、この違和感に対して一つ思ったのは、Bで描かれているテーマは、今作の行き着く先としての“夢の為の別離”であり、 この戦闘そのものが、最終決戦の1年後ぐらいに絶望をかき集めたクローズが甦って復讐戦を挑んでくる最終回、みたいな構図だなぁと。
 どだい、暗示の為にこじつけているクローズはともかく、 フローラの反論がちょっと用事でお出かけという状況に対して大げさにすぎるのですが、これ、あれから1年……みなみは卒業し、 トワはホープキングダムへ戻り、きららはモデルの仕事でヨーロッパ、ゆいは絵の勉強で留学中、といったような状況設定だとピタリだな、と。
 本当はそういった最終回を構想していたのが難しいという事になって、 最後に持ってこれなくなった“夢の為の別離”というテーマを前倒ししてここにねじ込んだのではないか、とそんな邪推をしてしまいます(^^;
 猛然とラッシュを仕掛けるもクローズにはじき返されてしまうフローラだが、そこへパフとアロマをペットショップから救出したカナタが駆けつける。
 「どうして、こんなに傷ついてまで、君は……」
 「カナタが、支えてくれたから。プリンセスになる。強く、優しく、美しい……みんなの夢を守る、プリンセスに。それが、私の夢でしょう」
 だが、
 「はるか、もういい……もう、頑張らなくていい。これ以上、君が傷つく必要はない」
 はるかが自分のせいで夢に縛られ、それに傷ついているのではないかと考えるカナタ。
 「夢なんて、そんなもの、もういらない……」
 「やめて!」
 「はるか、君は……プリンセスになんてなるな! ……なるんじゃない」
 自分の夢を応援してくれた男の子、夢の大切さを教えてくれた人、そのカナタからの夢を否定する言葉に、はるかの心は暗く凍り付く――。
 3つ目の引っかかりがここで、カナタ様がはるかを止めてしまうのは記憶が無いカナタに「夢がない」からその大切さがわからない故に、 という流れなのですが、カナタの「夢がない」がほぼ今回初めて出てきた要素なので、はるかの3クール分を砕く打撃としては、 もう数話、蓄積が必要だったように思います。
 前回なども、もう一つ、はるかのこだわる部分を理解できていない、という様子は描かれたのですが、その辺りのカナタ様のズレ、 というのは、はるか以外のキャラクターとも絡めてもう少しハッキリ描いていた方が良かったかな、と。
 その積み重ねが足りないので、カナタ様のロジックがやや唐突になった印象。そして上述したように、 暗示を一度打ち破ったパートが入ってしまった事で、暗示→追撃、という構造がうまく繋がらず、 総合的な打撃の説得力が薄れてしまいました。
 というわけで、大きな山場としてはかなり不満を覚える形で続いてしまったのですが、この後編が、凄かったです。次回、 プリンセスプリキュアと人間界に迫る最大の危機。果たしてはるかは、夢を取り戻す事が出来るのか?!

◆第39話「夢の花ひらく時!舞え、復活のプリンセス!」◆
(脚本:田中仁 絵コンテ:田中裕太 演出:鎌谷悠 作画監督:大田和寛)
 「やっぱり僕にはわからないよ。夢は、ああまでして、守らなきゃならないものなのか」
 「カナタ……私、プリンセスになっちゃ、いけないの……?」
 はるかの絶望を養分にし、爆発的に成長した絶望の種子から伸びた茨が、夢ヶ浜を絶望の森へと変えていく!  人々は次々と絶望の檻に囚われ、大量の量産型ゼツボーグが出現する……と、《平成ライダー》の劇場版みたいな展開(笑)
 劇中で明確に言及されませんが、恐らく、ホープキングダムはこれと同様の形でディスダークに制圧されたという感じでしょうか。
 前回が言葉足らずと思ったのか、この状況に対してディスピア様から一言あり。 はるかの件を除くとサプライズ展開というわけではないので、やはりこの作戦計画そのものは前回の頭に持ってきた方が良かったような。
 死んだ魚のような目になってしまったはるかを残し、ゼツボーグの群れと戦うマーメイド達は、 「夢が無い」故に絶望の茨に囚われなかったカナタと遭遇。
 ここで、前回、記憶にない自分の発言に責任を感じてとはいえ、はるかには傷つかなくていいと告げたカナタ様が、 マーメイド達の戦いに言及しないのは少し苦しい所。まあ、現状カナタ様は戦闘力が無いですし、 世界を諦めろと言うわけにもいかないのですが、前回「夢の為に傷つく」のと「プリキュアの戦いで傷つく」のを掛けてしまった (はるかだけはそこが掛かっているとはいえ)のは今作の約束事に対して失敗だったかな、とは思う点。 カナタ様の王子力の高さを考えると不満の出る描写です。
 姿を現したクローズRの言葉ではるかの状態を知ったカナタは、はるかの元へと走り、一方、 遅れて異変に気付いたはるかも市街地へやってきていたが、パヒュームが反応せず変身できないでいた。
 「プリンセスになっちゃいけないから? 私、もう、プリンセスになれないの……?」
 茨につまづいた拍子に転がる、髪飾り。
 (……あれ? 私、なんで……プリンセスに、なりたいんだっけ……)
 絶望の中、はるかの意識は過去を彷徨い、幼い頃を思い出す……。
 「私、プリンセスになりたい……」
 「プリンセス?」
 「うん、花の、プリンセスに……」
 「へえ、どうして?」
 「キラキラ、可愛いから」
 (……それだけ?)
 迷いを得たり壁にぶつかったりしたキャラクターがシンプルな原点に戻って立ち直る、 というのは古今枚挙にいとまが無い手法でありますが、今作においてこれは、もう少し大きな意味を持ちます。
 それは、はるかの夢である「プリンセス」の定義が、長らく非常に曖昧模糊で不明瞭であった事。
 第18話において、夢の原点である『花のプリンセス』を取り上げ、トワイライトとの戦いを通して、
 「それは、わたしの理想! 魔女を恐れぬ、強さ! 相手を思いやる、優しさ! そして、世界に花咲かせる心の美しさ!  小さい頃からずっと憧れてきた、花のプリンセス。それが私の目指す、プリンセス!」
 と言わせる事で一応の定義づけを見せたのですが、その一方で、 『花のプリンセス』をグランプリンセスのキーワードに合わせてはるかが解釈してしまったのではないか、 という疑念の湧く展開となってしまいました。
 (そうか……強く、優しく、美しく……。同じなんだ。花のプリンセスも、グランプリンセスも。私の夢が、グランプリンセスに繋がるんだ)
 その後、この「プリンセス」の定義づけについては深く踏み込まずにきたのですが、今回、 過去のはるかの言葉に当のはるか自身が驚く事で、はるかの「夢のプリンセス」が、理想を厚塗りしすぎてキメラ化し、 はるかがグランプリンセスという目標に都合良く絵本を解釈してしまっていた、という事を物語が認める形に。
 ここで原点回帰を通り越して、主人公の夢を再定義付けする、というちゃぶ台返し寸前の大技で、 先日のみなみ様と同様に修正作業なのだと思われますが、所々ふわふわしたままの設定などはあるものの、みなみ様に続いてここを手直ししてきた、 というのは今作のスタッフを信用できると思ったところ。
 前回、第18話の戦闘の舞台となった夢ケ浜えほん美術館が再登場していたり、カナタに止められる直前のはるかに「カナタが、 支えてくれたから。プリンセスになる。強く、優しく、美しい……みんなの夢を守る、プリンセスに。それが、私の夢でしょう」という台詞があるのは、 第18話を解体した上で再構築するという意識の現れだと見るのは、穿ち過ぎでもないとは思います。
 そして、はるかは過去を思い出す。花の髪飾りを作ってもらった事、ノーブル学園の受験を応援してもらった事、 入学してからの様々な出来事……自分が夢を目指して、積み重ねてきたもの。
 (そうか……私の、夢は……)
 「思い出した?」
 (そう、ずっと……ずーっと…………いつだって……!)
 そこへやってきたカナタが髪飾りを拾い、自分の言葉がはるかを傷つけてしまった事を謝罪。はるかはカナタに、自分の思いを告げる。
 「カナタ、私ね、夢があったから、ここまで来られた。みんなとも出会えた。夢をなくすなんて、諦めるなんて出来ない。たとえ、 カナタにやめろって言われても、私は、プリンセスを目指すよ」
 「やっと……僕にもわかった。夢は、君の、全部なんだね」
 カナタの言葉に、花咲くような笑顔を浮かべるはるか。
 「それなら、君が笑顔でいられるように、僕は――」
 そんないい所で、空から吹っ飛んでくるプリキュア3人(笑)
 気を取り直して立ち上がったはるかは、前回購入した演劇のお礼のプレゼントをカナタに渡し、クローズを見上げる。
 「何故ここに居る。おまえに今更なにが出来る」
 「みんなの……そして私の、夢を守る!」
 ほんの些細な憧れから始まった夢だけど、その夢を追いかけてきた事で、沢山の出会いがあり、色々なものが手に入った。 夢は確かに大切だけど、夢だけが大切なのではない。夢の為に歩いてきた、道そのものが、大切だから――
 閉じたまぶたの下に浮かぶ、幼い日の自分。
 「ありがとう。あなたが夢見てくれたから……私今、こんなにも幸せだよ」
 だから春野はるかは、夢見る事そのものを守る。
 児童向け作品という事もあり、長らく今作、メインテーマとしている「夢」について前向きすぎるあまりに、 夢を持っている事こそが人間の意味であり、そして「努力すれば夢は絶対かなう」というモットーから、夢はかなうもの、 かなえる事に最上の価値があるという、ある種の結果主義になっていたのですが、ここで、夢そのものだけではなく、 夢の為に歩んできた道のりの価値を肯定するという、大転換。
 そして、夢そのものも大事だけど、その過程で手に入るものも幸いに繋がるとする事で、 今作が恐らくタブーとして踏み込めないで来た夢のネガティブ面――ある者が夢をかなえる陰で夢破れる者が生まれる事もある――という部分に対し、 仮に夢破れる事があっても、その道程で手に入ったものがあれば夢を追いかけてきた事は無意味では無い、と置きました。
 しかしそれでも、夢破れ、その事で道に躓いて倒れた者は、どうすればいいのか。
 既に今作は、その答を描いています。
 「笑おう」
 決して、無意味だった時間などないのだから――笑おう。
 あなたが、幸いになりますように。
 幼き日の面影は笑顔を残して消え、今、その夢にともなう責任と覚悟を認め、春野はるかは、“その名”を自らに刻み込む。

「……レッツゴー、プリンセス」

 初見時ここで得体の知れない感動があって、何にそんなに心を動かされたのかわからないままクライマックスに引きずり込まれるという、 個人的にはかなり珍しい体験をしたのですが、少し落ち着いて整理した上で、再見して何となく掴めた事は、たぶん私は、 ヒーローが仮面をかぶった瞬間を目撃したのだな、と。
 自ら仮面をかぶる事で、ヒーローが世界に対して「役割」を持って対峙した瞬間――ここまで38話、 「プリンセス」という言葉に踊っていたはるかが、詰め込んだ理想でも、都合の良い解釈でもなく、夢見る事の何が大切なのかを見つけ、 その幸いを守りたいと願う事で、遂に「私のプリンセス」に辿り着く。
 だから、はるかは自らに告げる。
 行こう、プリンセス。
 とにかく今回、この一言が凄かったです。この感想は再見の上で分解して理屈をつけていますが、初見の際は本当に、 これが出てきた瞬間に、力尽くで物語にねじ伏せられました。今回はそれが悔しかったので、懸命に分解しているともいう(笑)
 で、分解してみたら、ヒーローの再定義付けと同時に、 作品として手が届かなくても仕方なかった部分に手を伸ばした上でテーマの深化を行っているという強烈なウルトラCを決めていて、 参りました。
 瞳を閉じたままのはるかのアップで呟きの後、僅かに無音の間(ほんの2秒ぐらいなのですが、ここが前後を切り替える、 素晴らしい間)があり、決然と瞳を開いた所で流れ出す、挿入歌!
 イントロの中パヒュームを起動して光と花びらの中でドレスを身にまとい、一旦カメラ引いた所から、髪飾りを身につけながらの名乗り、 そして金色の髪を翻し、今、春野はるかは、プリンセスプリキュアとなる!
 「咲き誇る、花のプリンセス――キュアフローラ」
 えー……いや、なんだろう、さすがに『プリキュア』でこういう感想を抱く事になるとは思っていなかったのですが、 ヒーローの変身シーンとして完璧。
 私がなんでもかんでもすぐにヒーロー物に変換してしまうにしても、このキュアフローラの変身は、意味づけ、ダイナミックな演出、 悪を見据える姿、とヒーロー物の歴史的に完璧なものの一つだと思います。正直言うと、 「……レッツゴー、プリンセス」〜ここだけで10回ぐらい見ました(笑)
 ここから、プリンセス4人の歌う挿入歌「プリンセスの条件」をバックに、ゼツボーグ軍団とのクライマックスバトルスタート。
 出だしの「絶望という……」の歌詞の所で、絶望的な顔しているクローズが最高です(笑)
 フローラは迫り来る量産型ゼツボーグ軍団を範囲攻撃で吹き飛ばし、その姿にはるかとの出会いがフラッシュバックするカナタ様…… て結局、戦闘に記憶を刺激された?!
 敵の拘束攻撃を受けるフローラだが、そこへ飛び込んでくるトゥインクルとマーメイド。
 「ごめん……」
 「貴女を一人にしてまったばかりに、こんな……」
 「でも、それってみなみさんも、きららちゃんも、私を信じてくれてたからですよね。私、ちゃんとわかってます」
 満面の笑みを浮かべるフローラに、どうしてみなみ様は頬を染めますか(笑)
 「ゆいちゃん! パフ! アロマ! 心配かけて、ごめんね!」
 二回転プリキュア電光キックを炸裂させるフローラの姿にゆいちゃんも乙女ポーズで赤くなってうるうるしており、 あまりにフローラのヒーロー度が高くて、周辺の好感度ゲージが青天井で次々と振り切れていきます!
 そこ行くと、きららさんは男前属性なので親友ポジションなのだなぁとか改めて。
 「私を、忘れるなぁっ!」
 多分みんな忘れていたシャットがが奇襲を仕掛けてくるも、それを食い止めるスカーレット。
 「もう大丈夫ですわね」
 「うん」
 「まったくあなたは……! 落ち込んでたと思ったら、一人で立ち直るなんて!」
 ここの涙声はさすがに沢城さん巧いなぁ、とか思っている内にスカーレットの攻撃で、シャット、吹っ飛ぶ。
 「一人じゃないよ、トワちゃん。みんなが居てくれたから、立ち上がれる、私が居るの!」
 「キュア・フローラぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 何度叩き潰そうとしても這い上がってくるキュアフローラに、怒りのクローズ、凄い顔で跳び蹴り。
 「夢を取り戻したってのか?! だが夢はまたおまえを追い詰めるぞ!!」
 「それでもいい!!」
 「?!」
 格闘戦からプリキュア花隠れで隙を突いた所にプリキュア打ち上げキックが炸裂し、 スカーレットダイナマイトからのプリキュアエアリアルコンボがクローズを捉えるが、 ストップとフリーズが次元ビームでフィニッシュを妨害し、クローズはその間に拘束を脱出。反撃の拳をキックで防いだフローラは、 マーメイドとトゥインクルから受け取ったステッキを構える。
 「自分で決めた夢だもん! 痛いのも苦しいのも、全部受け止めて! 私はプリンセスになる!!」
 二刀流によるプリキュアダブルフローラルタイフーンが直撃するも、それに耐えるクローズ。
 「そんなもの……――なれやしねぇぇぇっっっ!!」
 極太ビームが4人に迫ったその時、スーパーイケメンシールド、発動。
 「――なれるさ。君なら、プリンセスに」
 ここまでこれだけフローラ大活躍で盛り上げておいて、その盛り上がりを消さない形で復活のカナタ様まで滅茶苦茶格好いいのは、 素晴らしい。この手の美男子ポジションがシリーズ的に例年どういう扱いが多いのかは知りませんが、今作、 カナタ様をちゃんと愛しているのはとても良い所だと思います。
 「はるか、君が笑顔でいられるように。僕は、君の夢を守りたい」
 新しい夢を手に入れた事で、記憶と魂を取り戻すカナタ様が王子コスチュームに戻ると、それに応えるかのように、 はるかが渡したプレゼントが新たなドレスアップキーに姿を変える……まあもう、ドレスアップキーについては深く考えない方向で(笑)
 ここまでやってくれれば、ギミックの扱いが多少おざなりぐらい、流せる事象の範疇です。まあ、 ディスピア様から出てきたスカーレットのキーぐらいは説明つけてほしくはありますが(^^;
 王子キーの効果により、モードエレガントロイヤルが発動し、プリキュアコバックが、プリキュアボンバーにバージョンアップ。 発動時にお城のハンドルを回すのは相変わらず凄く間抜けですが、天空からプリキュアフィーバーすると、城がどーーーんと立って、 花畑がばーーーんと広がる所は、キチガイじみていて良かったと思います。
 そして、ストップ・フリーズと一緒に無残に磔にされたクローズが凄く笑えますが、勢いで抹殺されずにギリギリ退却してくれて良かった(^^;
 プリキュアボンバーの事象変換効果により、舞い散る花びらの中、元の姿を取り戻す街。そしてカナタの記憶が戻った事により、 今度こそトワは兄との再会を果たす。
 「お祝いも兼ねて、またプレゼント買い直さなきゃ」
 「いや、いいんだ。はるか、君がやっと、笑ってくれたから」
 カナタ様のイケメン王子力が高すぎて、もう、警察に通報したい(待て)
 はるかは思春期ダウンロード中だしカナタ様は天然ぽいのですが、思いの外、二人の関係が接近。カナタ様が、 ある意味ではるかを中心に世界を組み立て直した、というのが今後に影響してくるのかは、少し気になる所です。作風的に、 ここから恋愛要素までは持ち込まなさそうですが。……後はるかは、この中から結婚するなら誰を選ぶか聞かれたら、みなみと即答しそう(おぃ)
 前編で引っかかりが多くて最初はもやもやを引きずったまま見ていたのですが、重ねて「……レッツゴー、 プリンセス」以降のクライマックスは怒濤の勢いに力尽くで引きずり込まれてしまい、圧倒されました。 物語の中身もかなり濃い事をやっていて、メインライター脚本に、監督のコンテ、演出に鎌谷悠、という布陣で、お見事の一言。
 クライマックス、挿入歌をバックに約3分間の戦闘は山場の回という事で作画も良いのですが、打撃と飛び道具、個人攻撃と範囲攻撃、 引いたカメラと近いカメラ、など様々織り交ぜ、ローズによる防御からの投げ、ストップとフリーズの不意打ち、 フローラのキックで攻撃を止めてからのダブルステッキビームなど、めまぐるしい展開の中に細かいアイデアも幾つも入れ、 横に広げたり立体的に見せたりと空間の使い方も巧く、単体の戦闘としての出来もお見事。
 忘れそうになっていたシャットもねじ込んでくるなと、キャラクターの使い切りもしっかりしています。
 負けたとはいえ、このテンションの戦闘で追い詰められながらも反撃に転じ、 カナタ様参戦からのプリキュアボンバー発動でも逃げ延びたクローズRが、戦闘面で負けて強しを見せたのも良かった所。
 そのクローズですが、繰り返しフローラと対比され、憎悪の炎を燃やす姿を見ると、“立ち上がれなかった者”の象徴なのではないか、 という気がしてきました。前回今回の構造の中で、クローズがフローラに夢を諦めさせようと躍起になる姿は、 台詞にもどこかディスダークとしての目的意識を超えた怨念が織り込まれており、 夢に追い詰められて傷つき挫折した者の絶望がそこにあったような気がします。
 とすると、クローズを笑わせるのが今作の一つの着地点になるのかな、と思う所ですが、さて。 ……今回これだけやってくれたスタッフなので、前半あっさり始末したクローズを復活させてきた事の物語的意味をどこに持ってくるのか、 期待したいです。
 次回、話の都合で後回しになっている間にはるかに海に蹴り飛ばされそうになったトワの救済の話になりそうですが、 いよいよ謎に包まれていた国王夫婦も登場しそうで、最終クールの出だしもどう進めていくのか楽しみです。


◎第4部まとめ
 クローズの復活とディスダークの新たな策謀、カナタとの再会を経て、絶望を乗り越えて立ち上がったヒーローが世界に自らの存在を高らかに告げる、 第31〜第39話。
 とにかく、第39話が圧巻の出来。
 今作の大きな問題点となっていた、はるかの抱くプリンセス像がふわふわしている事、を逆手に取り、主人公の夢を再定義付け。 同時に、夢至上主義+結果主義になりかねない危うさを抱えていた今作に、その道のりを肯定するという価値観を持ち込み、 ここまでの物語をしっかり踏まえた上で、テーマそのものの大転換と、その裏側へ触れる深化をはかるというウルトラC。
 第23話で掲げられた「笑おう」イズムがここに繋がり、夢見る事の意味が掲げられる――
 「ありがとう。あなたが夢見てくれたから……私今、こんなにも幸せだよ」
 お見事でした。
 また第36話では、これも長らく今作の問題となっていた、みなみ様問題の立て直しにも成功。この第3クール後半戦において、 ラスト1クールの為の布石が整います。
 今作、最終的に、“1年間の長編”である事と向き合い、その構成を存分に活かした作劇に収束していくのですが、 ターニングポイントであった第20−23話の要素がここで芽を出して葉を茂らせていく同時に、 やや揺らぎのあった部分に手を入れて直す作業が行われ、それに成功したというのは1年物の強みがよく出た辺りだと思います。
 その修正と組み立てが出来たスタッフ、というのが素晴らしい。
 物語はいよいよ、満開の花開く誠実にして怒濤の最終章へ――そして春野はるかは、その花に、名を付ける。

→〔<第5部>(1)へ続く〕

(2016年7月18日)
(2017年4月8日 改訂)
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