■『GO!プリンセスプリキュア』感想まとめ4−1■


“輝く魂は プリンセスの条件
熱く まっすぐ 華麗に 夢の 扉を開いていく”


 ブログ「ものかきの繰り言」の方に連載していた, 《プリキュア》シリーズ初体験者の『GO!プリンセスプリキュア』感想の、まとめ4−1(31話〜35話)です。文体の統一や、誤字脱字の修正など、 若干の改稿をしています。

戻る

〔1−1〕 ・ 〔1−2〕 ・  〔2−1〕 ・  〔2−2〕 ・ 〔3−1〕
〔3−2〕 ・ 〔4−2〕 ・  〔5−1〕 ・ 〔5−2〕 ・ 〔5−3〕




<第4部・絶望のプリンセス(1)>
◆第31話「新学期!新たな夢と新たなる脅威!」◆
(脚本:成田良美 演出:鎌谷悠 作画監督:稲上晃)
 ロックの正体が、ちょっと媚びた感じの犬っぽい妖精だった事が判明。パーカーの消滅により元の姿に戻ったロック犬だが、 眠りについたまま目を覚まさず、ミス・シャムールが鏡の世界(?)で面倒を見る事に。と、 ロックの後始末を回想混じりでショートカット気味に済ませたのは、テンポを疎外せずに良かったと思います。
 新学期が始まり、久々に花壇の手入れに向かったはるかは、そこで花好きのクラスメイト、はなえと出会う。
 はるかはこれまで、みなみ、きらら、トワ、とはるかよりヒエラルキー上位の存在へガンガン突っ込んでいって籠絡する、 というのが基本パターンだったのですが(ゆいも第1話では、自分の夢をしっかり言える存在として対比されていた)、 はるかよりも背が低く、ちょっと気弱な感じの女の子に上からぐいぐい迫る、という新パターン。
 ……ちょっと鬱陶しいかもしれない(笑)
 はるかの成長、精神的強さの向上を表現する為に、 新学期という行事的区切りに合わせて従来と逆転した人間関係を盛り込んでいるのは凄くわかるのですが、はるかの善良な猪突猛進は、 一歩間違えると非常に押しつけがましいので、今後もこのパターンを用いる事があるなら、バランスに注意が必要かもしれません。
 第3話にもその危険性の芽はありましたが、はるかの“夢を守りたい”は油断すると“前向きな夢を持つべき”にすり替わって、 教室の片隅で一人でダラダラする自由を奪いかねない節があるとは、改めて思う所です。
 ……まあこの辺りは女児向け作品においてはポジティブが正義と前向きに受け入れるべきであって、 私の苦手が先に立っているという所はありますが(^^;
 なんというか、多分この世界の善良な人々は、皆ドーナツが好きなのだろうなーという想像に覚える圧迫感が、 チラリと表に出てきてしまったというか。
 ミス・シャムールのレッスンでフラワーアレンジメントが上手く出来ないはるかは、はなえにアドバイスを貰おうと花を取りに戻るが、 その途中、夕陽に舞う鳥の大群を目にし(ヒッチコック)、巨大な黒い鴉に襲われる!
 トワに助けられたはるかが目にしたのは、鴉が姿を変えた人型……
 「地獄の底から舞い戻ってきたぜ――プリンセスプリキュア。おまえらを、倒す為にな」
 序盤でさくっと消されながら、何故かOPにずっと居たクローズ、奇跡の復活!
 「キュアフローラ、おまえの夢、俺が絶望に染めてやるぜ」
 クローズ・リバイブは次々と繰り出されるプリキュアの攻撃を軽々と弾き、新生クローズとしての強さをアピール。
 「おまえがキュアスカーレットか。どれほど熱い炎かと思ったが、ぬるいぜ」
 スカーレットの高速横回転バーニングキックすら防いだクローズが地上に絶望の種を撒くと、そこから植物が伸び、 先にOPに顔出ししていた、ヘルメットの2体、その名もフリーズとストップが誕生。
 「熱い夢ほど強いゼツボーグになるが……」
 「生まれたての夢もまたいいもの」
 新顔の二人は、女性声優をあてての中性的な演技とあいまって、この台詞一発で、嫌な感じが良く出ました。フリーズとストップは、 フラワー・コーディネーターという、生まれたてのはなえの夢を停止させ、二つの鍵を付けた新たなゼツボーグを生み出す。
 「「夢は止まった」」
 ダブルゼツボーグはこれまでと違い、強化がビジュアル的にわかりやすいのが秀逸。……その第1弾のデザイン(エプロンつけた花)が、 どうしてそうなったのかちょっと疑問ですが!
 強力ダブルゼツボーグは花ファンネルを連射し、苦戦するプリキュア。中でもフローラは、 大好きな花が破壊の為に使われる事に怒りを燃やす。
 「花を……こんな事に使うなんて」
 「花は咲いたら必ず枯れる。そういうもんだろ」
 「それでも……花は、また咲くよ!」
 このやり取りの直後に、ローズトレビアン(花)で攻撃するフローラさんは、 ほんとマッド系ヒーロー(笑) ゼツボーグがひるんだ所で4人はプリキュア・コバックを炸裂させ、ダブルゼツボーグを撃破。
 「夢……止まらなかったな」
 「止められなかったな。だが」
 「「絶望した」」
 「花は何度でも咲く。絶望も同じだ。絶望は絶望を育てて――大きくなる」
 クローズRは不敵な笑みを浮かべると、フリーズ&ストップを連れて退却。悪役がヒーローに投げ返された台詞を更に投げ返す事で、 ただの暴力単細胞から一皮剥けた様子も強調されました。
 「絶望は消えやしない。音もなく気配もなく、夢見る者達に忍び寄り、そして、突然――現れる」
 クローズRがホープキングダムで本当に宿無しで黄昏れていたシャットの前に現れると、絶望の森が大展開。 更にロックが集めた絶望エネルギーを解放する事で、ディスピアが湯治から帰還する。
 「お帰りなさいませ、ディスピア様」
 「クローズ、大義であった」
 「絶望の種、仰せの通りに撒いて参りました。これからゆっくり根を張り、大きく育っていくでしょう。奴等の世界に」
 はるか達の世界にばらまかれ、大地に潜っていった絶望の種……果たしてそれは何をもたらすものなのか。甦ったクローズ、 新たな幹部、そして海辺に立つ謎の人影――プリキュア達の戦いは、新たな局面を迎える!
 ここ2話ほど不満のある出来でしたが、新学期スタートという学園物の要素に合わせて空気を切り替えつつ、 級友が夢を奪われるというオーソドックスな構造で構成。その上で、復活したクローズと新たな幹部のインパクトを出す事に成功し、 今後の展開に向けて複数の布石も置いてみせる、という新展開の一発目としてはかなり理想的な出来。
 特に前回、悪役の魅力不足について触れましたが、今回は台詞回しとそれを印象づける演出が相まって、 クローズRはしっかりと脅威に見え、新顔2人も嫌らしい感じが印象的になりと、悪玉サイドの描き方が非常に良かったです。また、 単体では唐突だったロックの裏切りが、今回見せたクローズの忠義と対照的になり、帰ってきたクローズの立ち位置もしっかりする、 と結果として効果的に機能。
 ……シャットはすっかり、リアクション芸人の道を歩んでいますが、それもまた良し。
 ホープキングダムに召喚される回で意識して以来、鎌谷悠さんの演出回を楽しみにしていたのですが、 情報の見せ方がしっかり考えられていて、良い演出。
 今回だと例えば、少し引いたカメラで作画の省エネをしつつ、上座(画面右手)のはるかが、 自分より背の低いはなえに向けて上からぐいぐい迫る事で優劣の関係を示し、それをそのまま、 ラストのクローズとシャットの位置取りと画面構成に持ってくる所など、巧み。まあ、作品全体としてはあまり、 上座−下座の位置と力の関係(トミノ理論)にはこだわっていないようですし、鎌谷さんの手による部分かはわかりませんが、 ホープキングダム回でも引いたカメラと作画の省エネを上手く演出に取り込んでいたので、多分、演出のセンス。
 新展開の最初に悪玉3人を印象的に描けたのはかなり大きかったので、今後もストーリー展開とはまた別に、参加回を楽しみにしたい。
 伏線関係、最後の海岸の人影は、シルエットだったので一瞬、全裸のイケメンかと思ったのですが、 よく見ると袖の辺りのだぶつきがあるので、服は着ている模様。後ろ髪の跳ね具合が如何にもですが、カナタ王子だとすると、 これは記憶喪失パターンか……?
 次回、多分その人影ではない、駄目そうなイケメンが登場し、みなみ様、かつてなく不愉快そうな表情。そろそろみなみ様に、 当たりの回が来てほしいなぁ(夏の花火回は悪くなかったですが、トワ分も多かったので)。

◆第32話「みなみの許嫁!?帰ってきたスーパーセレブ!」◆
(脚本:高橋ナツコ 絵コンテ:藤本義考/田中裕太 演出:村上貴之 作画監督:五十内裕輔)
 ロックの悪役リタイアとクローズの復活でOPがマイナーチェンジ。戦闘イメージのマッチアップが、 マーメイドvsストップかフリーズ、トゥインクルvsストップかフリーズに変わり、なんとスカーレットの背後で、 シャットが! 謎の! 格好いいポーズ!
 ……マーメイドとトゥインクルは如何にも数合わせなのに、シャットだけ妙にスカーレットと因縁が強くなってきてしまい、 無駄に面白い(笑)
 ノーブル学園に在籍するが海外留学中だった、みなみの幼馴染み・伊集院キミマロが一時帰国。 幼い頃からみなみに熱烈なアプローチを繰り返し、浮き世離れしたセンスで騒ぎを起こすキミマロは、久々に会ったみなみが、 見慣れない庶民との接触で悪い方向に変わってしまったと思いこむ。
 「取り巻き達の影響なのか……特にあの、はるかとかいう」
 あまり、間違ってはいない。
 暴走するキミマロは、はるかに「みなみにふさわしくない」と宣告するが、それを聞いたみなみはキミマロを叱りつける。 キミマロの言葉にショックを受けたフローラは動揺からチームワークを乱し、「みなみの側に居られるようにもっと頑張る」と口にするが、 マーメイドは「私にふさわしいとかふさわしくないとか、そんな事、誰が決めるのかしら」「はるかははるかのままでいい。 私が……あなたと居たいのよ」と告げ、めでたくカップルが成立するのであった ……あれ?
 スカーレットの「2人はいつも一緒でしょう? それに、何の問題があるのです?」・(キミマロへの)「許嫁なんでしょう?」は、 トワの天然ボケ扱いでさらっと流されていますが、ホープキングダムの場合、異性の配偶者が居た上で同性の恋人が居ても特に珍しくない、 という可能性も否定できません。
 話の内容は、お嬢様と庶民の友情に、エリート階級が突っかかってくるけど「ふさわしくない、とか他人に言われる事ではない」 「変わった今の自分が好きなんだ」とやりこめて丸く収まる、というテンプレートもテンプレートで特筆する所は無いのですが、 キミマロが予告からもっと徹底した駄目人間かと思ったら、意外と話せばわかる男で、悪印象を強める構成で無かったのは良かった所。 ……覗きまがいの事もしているので、駄目人間は駄目人間ですが。
 まあ今作の場合、サブキャラに悪印象が残るような造りには基本的にしていないのですが、結果として、 少しひねくれた所のある藍原少年が一番性格悪そうに見えるのはどうなのか(笑)
 疑問といえば、みなみ様大好きで、同じ学校だひゃっほーいだったキミマロが留学している事ですが、 家の事情を優先していたら割と立派な男だし、別れ際の「いつの日か、君にふさわしい紳士となって」を考えるとみなみ様の事なので、 「私にふさわしい男になれるなら先の事を考えないでもない」と、それとなく煽った疑惑。
 みなみ様は、「ふさわしくない、というレッテル貼り」に怒っているのではなく、「ふさわしいかふさわしくないかは、 私が決める」の人だから!
 婚約者?!ネタという事で、みなみの「家」の話が出てくるかと思われましたが、キミマロの自称だったという事で、 特に家庭関係には触れずに終了。みなみ様の家族ネタは既に諦めているのか、まだ登場していない父で一発逆転があるのか。 少なくとも序盤では重要なタームとして匂わされていたので、何とか拾い直して欲しい部分です。

◆第33話「教えてシャムール♪願い叶える幸せレッスン!」◆
(脚本:成田良美 演出:佐々木憲世 作画監督:フランシス・カネダ/アリス・ナリオ)
 都合良くロックだった頃の記憶を忘れていた元ロックの妖精・クロロが目を覚まし、 社会復帰トレーニングの為ににクロロを街に連れ出したミス・シャムールを心配してはるか達が追いかけるが、 むしろシャムールは我が物顔で人間社会を満喫しつつ、動物社会でもちょっとした顔役になっていたという、ミス・シャムール回。
 クロロがロック時代の悪行を気にして自分の殻に閉じこもっているのかと思ったら、ただのうじうじした性格&ホームシックだった、 というのがちょっと面倒くさい(^^;
 まあ記憶が残っていると残っているで、罪と贖罪のバランスなどが面倒くさくなる(ただでさえトワの件があるのに)という判断ではあったのでしょうが。
 そんなクロロとはるか達は、猫の世界の喧嘩を仲裁するシャムールに巻き込まれ、最終的にドーナッツで餌付け。だがそこに、 クローズにどやされたシャットが姿を現し、3匹の猫からおさかなゼツボーグを誕生させる。
 シャムールを見るなり、
 (む。妖精のくせになんという見事な毛並み……生意気な)
 とか、アイメイクは自分で毎度していた(ああいう顔の生き物ではなかった)事が判明したり、 職場を一時放棄して川流れの旅に出て以降のシャットは、フルスロットルで面白すぎます(笑)
 乙女達が海産物に苦戦している頃、シャムールは襲い来るシャットの攻撃を華麗に回避し、ティーチャーの力を見せつける。
 「貴様、ただの妖精ではないな、何者だ!」
 「ロイヤルティーチャー。ミス・シャムールよー。ほぃっ」
 「いたっ」
 「身だしなみの乱れは心の乱れ。今あなたの心はとても乱れている!」
 「こ、これは、クローズ達に邪魔され」
 「言い訳はノー! 誰に邪魔されても、信念があれば、やり通せるものよ。それが出来ないほどに、今あなたは自信をなくしている。 イエース?」
 「うっ……」
 「なにか悩みがあるのじゃなくて?」
 「うっ……うう……ううう、最近、やな事ばかりのみ……」
 突如発生する、シャムール×シャットという衝撃的なカップリング。というか、心の隙間に忍び込まれて、 マインドコントロールを受けそうになっている。
 「敵にレッスンしてどうするロマー!」
 「笑顔を守るのが、プリンセスプリキュアの使命。元気のない人を励ますのも、プリンセスのたしなみよん。たとえ戦う相手であっても、 それがエレガントというものよ。違うかしらー?」
 魚介類に苦戦中のプリンセス達は、この言葉に気合いを入れ直して反撃開始。
 「確かに。人がへこんで弱っている所を突くのは、美しくないかもね!」
 「そして、ピンチは自分を高めるチャンスでもあるわ」
 「いついかなる時でも、強く優しく美しく!」
 「そして、正々堂々と! それが、プリンセスだと思いまーす!!」
 つまりプリンセスたるもの、不利を呑み込み! 敵の真正面から! 拳で打ち砕け!!
 それこそがプリンセスプリキュア、それこそがグランプリンセス、それこそがエターナルチャンピオン!
 また一つ、打撃系プリンセスとしての極みに近づいた4人は、プリキュアコバックでゼツボーグを粉砕。 シャムールに教わったカラフルメイクによって新しい自分を発見したシャットは、そんな事は意にも介さず上機嫌で帰宅するのであった……。
 ロック妖精の件を拾って一段落つけつつ、鏡の世界に囚われているのだろうか、など割と謎の多かったミス・シャムール (結構自由に出歩いていた)にスポットを当てたエピソードですが、全体的に作画がぞんざい(^^; 動く動かないとは別に、 細かい表情のニュアンスなどを大事に演出している作品なので、その辺りが適当だと、大きく面白さが減じてしまいます。
 そんなわけで前半非常にきつかったのですが、その状況を、後半ほぼ一人でひっくり返したシャットの、 キャラクターとしての化けっぷりが凄まじい(笑)
 そして、我々の戦いはパワープレイなのではない、信念の在り方なのだと持っていった力業は、 妙な説得力を生んでしまいました。プリンセスの高貴なる勝利とは、 がっぷり四つに組み合った相手を二度と反抗する気が起きないほど圧倒的な力で制圧する事にあるのです、ユアハイネス!
 クロロはシャムールの教えを聞き、周囲の女子率の多さに慣れてきて何となく元気になりましたが、個人的には凄く、 どうでもいいなぁ(^^; 妖精は既に過積載気味なので、レギュラーにしても困る気がしますが、どんなポジションに収めてくるのやら。
 そして今回気になったのは、シャットの目の周りが化粧という事は、クローズの目の周りも化粧なのか。 シャットに文句言って叩き出した割に、自分も自室でメイクとかしているのか。プリンセスレッスンの化粧ネタが、 ディスピア一味に飛び火したのは面白かったです。
 ――次回、そんな化粧、まさかの伏線。

◆第34話「ピンチすぎる〜!はるかのプリンセスコンテスト!」◆
(脚本:伊藤睦美 絵コンテ:入好さとる 演出:岩井隆央 作画監督:青山充)
 前回ラストに、猫たちが拾ったという王家の紋章入りボタンを貰い、カナタがこの世界に居る?! と色めき立つはるか達。 シャムールの助言による星占いに乗っかり、はるかがチョコレートプリンセスコンテストに参加する事に。
 コンテスト用のモデル歩きの指導など、本業のきららがはるかのバックアップをする事になり、 久々のお仕事で出来る女ぶりを見せるきららさん。
 「ステラも言ってたけど、あんた友達が出来てから、なんだか、可愛くなったわね」
 事務所公認友達居なかったのか!
 事務所の社長が久々に登場&以前登場した赤毛の編集者が撮影を仕切っていたりと、きらら周りのサブキャラを少し補強。 所長はゼツボーグの素体になりそうでなかなかなりませんが、強そうだからか。
 ところがコンテスト当日、撮影の仕事が押してしまい、会場に遅刻しそうになるきらら。 更にストップとフリーズがメイクゼツボーグを生み出し、やむなくきららはトゥインクルに変身する。
 どちらにせよ目前にゼツボーグが出てきたらきららは戦う事になるので、「撮影が押した」というのが、 間を埋めてサスペンスを盛り上げる要素の為の要素にしかならなかったのは残念(^^;
 一方、コンテストに臨むはるかは、用意されたドレスの丈が合わず、待てど暮らせどきららが来ない為にメイクも出来ず、 とピンチに陥っていた。きららに何かトラブルがあったのかもしれない……意を決したはるかは、 きららの言葉を胸にその場にあるものでドレスを調節するとステージに立ち、ゆいが掲げた仲間達のメッセージを目に、 胸を張ってメイクの代わりにとびきりの笑顔を浮かべるのであった。
 上述した話の流れなど幾つか雑な所がある今回ですが、はるかが困っているドレスが、作画上は何の問題も無いように見える、 というのが大ダメージ。最終的に裾を大胆に短くしているので、大きすぎたのかと思われるのですが、 映像的な説得力が無い為に肝心の所がとんちんかんな事になってしまいました。
 客席にみなみ達の姿が無かった事から戦いの気配を感じ、戦場に駆けつけたはるかは、 気ばかり逸ってゼツボーグの攻撃を受けるトゥインクルの危機を救う。
 「ごめんね……。任せて、って言ったのに」
 「トゥインクル、私、ステージに立てたよ。色々トラブルもあったけど、私、ちゃんと最後までやりきったよ」
 「……そっか!」
 これといって面白くないエピソードでしたが、ここで「笑おう」を実践してはるかが目前の壁を乗り越える姿が描かれたのは良かった所。 またそこに、きらら、みなみ、トワ、ゆいの応援がある、と今作の構造の要点を上手く凝縮しました。
 4人揃ったプリンセスプリキュアはメイクゼツボーグをどりーみん。コンテスト会場に戻ったはるかは特別賞を受け、 チョコレートの王子様から表彰されるのであった。占いに出た王子様とは着ぐるみの事だったのか?  骨折り損になるかと思われたコンテスト騒動だが、はるかは会場の外で、カナタに似た人影を目にする――……次回、復活のイケメン。
 クローズ復活後の新展開で、軽めのエピソードが3連続。ゼツボーグによって生じた絶望のエネルギーが、 街に播かれた絶望の種子を成長させるという伏線あり。クロロは特に出てこなかったので、 毎度無理に出さずに準レギュラー扱いになるようで、バランスとしては良いと思います。

◆第35話「やっと会えた…!カナタと失われた記憶!」◆
(脚本:香村純子 演出:暮田公平 作画監督:河野宏之)
 見所は、復活カナタ様の、半裸バイオリン。
 似顔絵を手にカナタを探し回っていたはるか達(なんだか制服姿も久しぶりのような、そうでもないような)だが、 なかなか収穫を得られずに行き詰まりかけていた所、以前に登場したみなみ様のコネクション――バイオリン職人の老人と遭遇。 そもそも似顔絵の衣装(王子カチューシャと謎のびらびら)が悪いのでは……と思っていたら、これがまさかのどんぴしゃり。
 急いで老人の家に向かうはるかとトワだったが……
 「君たちは誰。僕の事を知っているの?」
 「彼は……記憶を失っているようなんだ」
 海辺で倒れていた王子コスチュームの青年を拾い(恐らく、演劇関係の人だと思った)、怪我の手当をした老人だが、青年=カナタは、 自分に関する記憶を失っていたのである。
 「僕が……王子?」
 突然現れた自称妹の次は、喋る動物達に囲まれ、なんだか人生の大ピンチ。
 「ごめんちょっと……そんな話、すぐには信じられなくて」
 頭痛をこらえる表情になったカナタの前で、はるかはプリキュアに変身してみせるが、ショック療法も効果なし。 トワが奏でる思い出のバイオリンの音色も記憶の扉を開くには至らず、はるか達は最後の手段、カナタが唯一、 この世界で覚えているかもしれない場所……はるかとカナタが初めて出会った場所へとカナタを連れて行く。
 そこは、幼稚園時代のはるかが、プリンセスになりたいという夢を馬鹿にされて、一人で泣いていた花畑……と、 回想シーンでこっそり、カナタ様の踏み台にされる藍原少年であった。
 「本当に……すまない」
 だがカナタは、はるかとの出会いも思い出す事が出来ず、仕方がないのでとりあえず近所の子供達と遊んでいき、 記憶を失っても王子様力を発揮する天然イケメン王子カナタ様。
 前回・前々回で省エネした分の作画リソースを用いてか、カナタ様がやたら綺麗に描かれているのは、今回とても良かった所。 物凄くヒロイン臭が漂ってきましたが、普段から女子率の高い映像の中で、 びしっと二枚目が立つ事で画面が締まりました。
 そして普段と違う、カナタ様という軸を中心に展開している為か、メインキャラクターそれぞれがいつもより互いに離れた位置関係で描かれていたのは、 演出として興味深かった所。
 恐らく、カナタ様への意識の差を盛り込んだ距離感なのかと思われるのですが、結局のところ、 みなみ様ときららさんはカナタ個人に対する強い動機付けはなくてあくまで善意であり、 一方でカナタ個人に対して強い動機付けを持つはるかとトワの間にも、微妙な距離があるというのは、面白い。
 子供達と遊ぶカナタの姿をまぶしそうに見つめるはるかに対し、涙をこぼすトワ。
 「やっとお兄様に、ごめんなさいとありがとうを言えると思ったのに」
 はるかはそんなトワを気遣いながらも、記憶を取り戻させようとする事がカナタに辛い思いをさせているのではないかと考えるが、 その時、花畑にストップとフリーズが姿を見せ、子供達の一人の「プリンセスになりたい」という夢から、お姫様ゼツボーグを誕生させる。
 夢ヶ浜を中心に撒かれていたような描写だった絶望の種が、はるかの実家近くで誕生した絶望でも生長しているのは、 随分遠くても育つ……というよりは、敵の行動指針と合わせて、ご都合に見えてしまって勿体ない(^^;  実際には日本各地に撒かれているのかもしれませんが、仕方ない部分とはいえ、もう一工夫欲しかった所です。
 「指輪でパンチなんて」
 「品がないわ」
 お姫様ゼツボーグのチャンプナックルを回避し、一斉に跳び蹴りを決めるプリンセスの皆さん。
 「あれが、プリンセスプリキュアですロマ」
 そう、それは、花まとう修羅! ……というかアロマは、どうしてそのタイミングで強調するのか。お陰で、 カナタ様がちょっと引いているように見えます(笑)
 「プリキュア……」
 (な、なんかリリカルな魔法とかで戦うんじゃないんだ……!)
 メ○オテール!
 魔女っ子とは種属の違う打撃系プリンセス達の血湧き肉躍り骨軋む戦いを見つめるカナタだが、マーメイド、トゥインクル、 スカーレットが蠢く金髪縦ロールに捕まって投げ飛ばされてしまう。フローラは次々と襲い来る縦ロールの攻撃を捌きながら、 カナタへの想いを胸に猛然と拳を振り上げて走り出す。
 「カナタ! 私もここで守ってもらった。カナタに夢を支えてもらった! カナタ……あなたがいたから、 私はプリンセスを目指せる。あの子の夢も守れる! ありがとう、カナタ。あなたが居てくれて良かった」
 一度傷ついて、その傷を乗り越えて生まれたヒーローだからこそ、誰かに傷ついてほしくなくて戦う、 というキュアフローラの信念の形を、ヒーロー叫びに集約してクライマックスでまとめ上げるのは、如何にも香村さんのセンス。
 その叫びの勢いでまとめすぎてしまう為、「カナタの記憶が戻らないのは悲しいけど、今の私があるのは過去のカナタのお陰だから、 過去のカナタの存在にも価値があったよ!」ぐらいまではるかが振り切れすぎて見えるのは、良し悪しありますが。
 勿論、失われた過去も現在に繋がっている、という意味でカナタの今を認める為の過去肯定ではあるのですが、 現在の問題は「笑おう」で乗り越えていくのがフローライズムなので、合わせて考えると、最悪の場合「昔は昔、今は今、 笑おうよ」で片付けてしまいそうで、ちょっと怖い。
 縦ロールドリルアタックという3段階目の攻撃を繰り出すお姫様ゼツボーグだが、マーメイド達が復帰して、防御から反撃。 4人揃ったプリキュアはコバックを炸裂させ、お姫様ゼツボーグはどりーみん。はるかとトワは、目覚めた少女に、 自分たちも同じ夢を持っている事を告げて励ます。
 「実は私たちの夢も、プリンセスになる事なんだよ」
 「ホント?」
 「一緒に頑張ろ」
 「うん。じゃあ私たち、今日から ライバル お友達だね」
 一瞬、ドッキリしましたが、少女からのドライな発言はありませんでした(笑)
 ゼツボーグを退けたプリキュア達の戦いを目の当たりにしたカナタだが、それでも記憶は戻らずじまい。しかしそんなカナタに、 はるかは驚愕の一言をかける。
 「いいよ……今は、思い出さなくても」
 「「「「え?」」」」
 「で、でも……」
 「はるか! なにを言い出すの」
 「ごめんね。トワちゃんには、辛い思いさせちゃうかもしれないけど。でも、なにも覚えてなくても……カナタは、カナタだもん。 まずは、今の私たちを見て貰おう。少しずつ仲良くなって……そしたら、いつか、きっと……。多分、ね」
 無理に記憶にこだわってカナタを苦しめるのではなく、今のカナタとの関係を大切にしよう、と決断するはるか。
 一見明快なヒーローの「前向きさ」に見えるのですが、ここまでの物語を見ている限り、はるか/フローラの「笑おう」イズムは、 絶望を良しとしない底抜けの前向きさ、というよりも、絶望の存在を認めた上でそれをより強い力で打ち砕く主義に見えるので、 記憶を失ったカナタ、という存在を認めた上で、そんなカナタと新しい関係を構築して前より幸せになれればいいじゃないと聞こえて怖い。
 ……本当に前向きだったら、最後に「多分」てつけませんし(^^;
 つまり、はるか/キュアフローラというのは、「どんな絶望にもくじけずにそれを打ち消す」のではなく、 「どんな絶望も上書きするヒーロー」であり、はるかに絶望は上書きすることが出来る、 と教えてくれたのがカナタなのであろうな、と。
 以前に藍原少年が怪我で現実逃避した時のフローラの叱咤が「てめーは、ぬるいんだよ」(意訳)だったのも、今更ながら深く納得です。
 この世には確かに絶望がある――だがそれは、上書きする事が出来る。
 そしてそのエネルギーこそが夢である……という所まではまだ語られていませんが、今作の芯の構造が見えてきたような気はします (気のせいかもしれませんが)。とすると、物語としては未来志向が強いのに対し、過去の幸いにこだわる傾向のあるトワが、 如何にして本当の意味で未来へ向けた夢を手に入れるのか、というのは一つ今後の鍵になりそうな所でしょうか。……いや、 さすがにカナタ様はいずれ記憶を取り戻すとは思いますが、その辺りの持って行き方は楽しみです。
 「せめて! せめてお兄様と呼び続けてもいいですか?!」
 「……ああ。いいよ、トワ」
 そんなはるかに一瞬置き去りにされかけた肉親としてのトワの感情の置き所はカナタ様がイケメン力で受け止め、
 「じゃあ、改めて……私たち、今日からお友達ね」
 「ありがとう、はるか」
 もう一度、最初から始めるはるかとカナタは握手をかわす。
 その光景を、二人が向き合う初期OPの絵と重ね、綺麗にまとめたのですが……はるかは段々、「絶望を知らない」のではなく、 「絶望……? そんなものは、あの地獄の底で、腐るほど見てきたぜ」みたいな人になってきました(笑)
 というわけで記憶を失っても安定のイケメン力を見せたカナタ様の為に作画も頑張った再会編でしたが、 荒ぶるフローラの姿を見てカナタ様の王家の血に潜むバーサーカー魂が目覚めて記憶を取り戻すとかいう展開でなくてホッとしました(笑)  いや、てっとり早いといえばこれ以上なくてっとり早いのですが、さすがにそこまで打撃で片付けるのはどうかと思うので。
 今回、OPが秋の劇場版宣伝バージョンになり、3種類の違う画風の映像が入り交じってカオスな事に(^^;
 謎のロープアクションを披露しているマーメイドは、例の夏休みの体験以来、 真夜中にテンション上がる悪い病気にでもかかってしまったのでしょうか。――次回、そんなみなみ様の家族勢揃いで、 はたしてみなみ様の家族ネタはどこに着地するのか。

→〔<第4部>(2)へ続く〕

(2016年7月18日)
(2017年4月8日 改訂)
戻る